...

ラオス事務所 2014-2016 事業計画書

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
1. 事業名
➤少数民族の子どもたちのための、コミュニティ参加を通じた初等教育施設改善事業
➤少数民族の子どもたちのための、就学前・初等教育における指導能力改善事業
2.ラオス国の教育の概況
現在、ラオス国としては、2020 年までの後発開発途上国からの脱却を目標に向け、貧困の根
本的解決の一つの手段として、教育の普及・改善の行動計画を優先課題として取り組んできて
います。また、教育スポーツ省としては、ミレニアム開発目標と同様に、2015 年までに「万人
のための教育」を達成するための教育政策と、それに基づく教育計画の策定を進めてきていま
す。これらの成果の一つとして、2005-2006 年に 84%だった純就学率の全国平均値は、2010-2011
年には 94.1%までに達しています①。また、都市部と地方農村部の教育格差是正に対しては「教
育のためのグローバル・パートナーシップ(旧:ファーストトラックイニシアティブ(FTI)以
下 GPE」の資金による事業を、ラオス国内 143 郡のうち 60 郡で実施しています。しかしながら、
教室数・教員数の絶対的不足、教員の質・能力の低さや、教科書・教材・教具不足など依然と
して多くの課題があり、地方・農村部においてはより深刻な状況にあります。
3.SVA ラオス事務所の事業対象地の地図
3-1.ラオス国の地図
3-2.ルアンパバーン県の地図
ルアンパバーン
県
ヴィエンカム郡
①
ラオス教育スポーツ省 2010‐2011
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
1 / 7
4.事業対象地域の教育状況
事業の対象地域であるラオス北部のルアンパバーン県ヴィエンカム郡は、ラオスの 143 郡の
中で 13 番目に貧しい地域です②。郡内人口の約 85%以上が公用語を母語としないカム族とモン
族になり、約 15%以下の人口のみが公用語のラオス語を母語としています。このカム族とモン
族の少数民族においては、子どもたちばかりでなく、成人も公用語のラオス語の読み書きが十
分にできていない状況にあります。
次にヴィエンカム郡の教育状況を把握するために、以下の表にラオスの全国平均値と、ヴィ
エンカム郡の教育指標③をまとめました。
【図 1】ヴィエンカム郡の就学前学級・小学校の児童数と教員数
児童数
女児
就学前学級
男児
教員数
合計
女性
男性
合計
391
421
812
42
0
42
小学校
3,045
3,294
6,339
20
134
154
合 計
3,436
3,715
7,151
62
134
196
【図 2】ヴィエンカム郡の就学に関する教育指標値
123.3
粗就学率
140.9
94.9
97.3
純就学率
68.5
59.6
1年生の進級率
■ ラオス全国
■ ヴィエンカム郡
20.9
29.5
1年生の留年率
5年生までの残存率
単位:%
64
74
➤就学について
1 年生の留年率が高く、進級率が低い理由は、子どもたちの多くが少数民族出身であることが
要因と考えられます。ヴィエンカム郡の少数民族の多くの家庭にはテレビもラジオもないこと
から、子どもたちばかりでなく、保護者もラオス語を話す機会がほとんどありません。このこ
とにより、少数民族の子どもたちは、小学校に入学して、教科書を開いて、初めて自分の国の
公用語であるラオス語を見聞きします。このような子どもたちに適した授業を行うための知識
と技術が教員にはなく、また、小学校に授業の補助教材も十分にないため、子どもたちが授業
を理解することがとても難しい状況にあります。
③
ラオス統計局 2005
③
ラオス教育スポーツ省 2010‐2011
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
2 / 7
上記の【図 2】に示した 5 年生までの残存率の低さは、家庭の経済的理由と、教育の効率性の
低さが要因として挙げられます。教育の効率性の低さは、純就学率と粗就学率の差から読み取
れます。ヴィエンカム郡の純就学率が 100%に近い 97.3%であることから、多くの児童が学校に
通っていることが分かりますが、一方で、粗就学率と純就学率との差が 43%と大きいことは、
教育の効率性が低いこと表しています。
➤ 教室数、教員の不足について
ラオスの小学校における公式学年は 1 年生 ~ 5 学年までとなっていますが、ヴィエンカム郡
には、1 年生から 5 学年までを 1 つの学校において就学することができない「不完全校」の数
が全国平均を上回っています。その他にも教室数・教員数の不足が原因となっている課題があ
ります。教室と教員に関するデータ④は以下の【図 3】の通りです。
【図 3】ヴィエンカム郡と教室の状況を表す数値
教員1人あたりの児童数
不完全校の割合
複式学級が運営されている
学校の割合
26人
35人
27 %
■全国
■ヴィエンカム郡
35 %
33 %
81 %
不完全校では、その学校に教室がない学年に達すると、子どもたちは長い通学時間を強いら
れ完全校まで通うことになります。通学に長い時間を要すれば、家の手伝いができなくなり、
また保護者が長い道のりの通学の安全を心配すること等の理由から、学校に通い続けることを
断念せざるをえない子どもが多くいます。また遠方の家から長い時間をかけて登校してきたに
もかかわらず、ヴィエンカム郡に多くみられる複式学級(複数の学年が 1 つの教室と 1 人の教
員による授業が行われる学級)を担任している教員を終日ただ待ち続け、何も学ぶことなく終
わってしまうこともあります。現在の授業運営では、複数の学年の授業が阻害され、子どもた
ちは授業の内容が分からず、だんだん勉強のやる気を失い、学校へ来なくなる懸念が持たれて
います。
➤ 教員の質の不足について
ヴィエンカム郡の小学校 67 校には 196 人の教員がおり、大半の教員は教員養成学校を卒業し
た有資格教員か、もしくは同資格に相当する教員研修コースを修了しています。また、多くの
教員が、児童と同じ少数民族のカム族もしくはモン族出身であることから、児童とのコミュニ
ケーションの問題は多くないように見えますが、しかしながら、【図 1】で示された通り、同郡
では低学年の留年率の高さ、進級率の低さ、そして純就学率と粗就学率の差が大きいことから、
④
教育スポーツ省 2011-2012
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
3 / 7
教育の効率性が低いことが分かり、この要因に教員の質の低さがあると考えられます。
上記【図 3】の通り、ヴィエンカム郡には多くの複式学級がありますが、大半の教員が複式学
級での指導方法の知識と技術を習得していません。また、公用語であるラオス語以外の各少数
民族の言語で育ち、小学校に入学して初めてラオス語を見聞きする少数民族の児童が多く在籍
しているため、大半の教員は少数民族の子どもたちに適した授業を行えておらず、公用語のラ
オス語で育ってきた子どもたちと同じ内容の授業と進級試験を行い、同じ基準で成績を評価し
てきてしまっています。
5.対象地の課題に対するニーズ
先に記載した課題を分析して、当会では以下のニーズがあると考えます。
➤第 1:学習施設の改善
複式学級に適した校舎(必要ニーズに応じてトイレや給水施設も含む)が必要とされていま
す。多くの教員は、風が吹けばしなる劣化した校舎で、数回の使用で白濁してしまう粗末な黒
板が 1 枚しかなく、子どもたちがすし詰め状態で、採光が不十分な狭い教室で授業をおこなっ
ています。更には、
【図 3】でも示した通り、ヴィエンカム郡内の小学校では、全国平均値を大
幅に上回る数の複式学級が運営されています。劣化した校舎に加え、複式学級運営という更な
る困難を負っている教員も多くいます。子どもたちが授業に集中できないだけでなく、安全も
脅かされ、また教具も教科書や教材を学校内で適切に保管できる状態にあります。この状況を
改善するために、複式学級でも授業運営が行いやすく、安全で学習に適した教室が完備されて
いる校舎が必要とされています。
➤第 2:指導補助教材の配布
指導教材とラオス語の読書教材の補助教材が必要とされています。少数民族の子どもたちに
とって分かりやすく、効率的にラオス語を教えるためには、教材が大きな役割を果たします。
ヴィエンカム郡の小学校には、郡教育事務所から少数の教科書が配布されているだけです。
当会の調査では 1 冊の教科書を、平均 4 人の児童が共有していることが分かりました。家庭で
は、テレビやラジオがほとんどないことからも、子どもたちが家で公用語のラオス語を聞き、
話す機会は稀です。小学校でも少数民族出身の教員が多いため、子どもたちとのコミュニケー
ションのために、やむなく少数民族の言語を使っています。います。このように、公用語のラ
オス語を聞き、話す機会が非常に少ない状況では、子どもたちが言語への興味を持つきっかけ
となる絵本のような読書教材が必要とされています。
➤第 3:ヴィエンカム郡の教育状況に応じた授業運営能力の向上
当会の調査では、ヴィエンカム郡の大半の教員が教員資格を持っていることが分かりました。
しかしながら、ヴィエンカム郡の課題となっている複式学級での授業運営や、少数民族の子ど
もたちのための分かりやすいラオス語の授業に必要な特別な知識や技術は習得されていません。
このよう教員を補佐し、授業内容を監督し適切で十分な指導ができる教育行政官もいません。
このままでは、子どもたちは小学校に通い続けるだけで、初等教育で習得すべき十分な知識を
身に着けることができないとう懸念が挙げられています。この状況を改善するために、教員が
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
4 / 7
ヴィエンカム郡の抱える状況に応じた授業運営能力を向上するための知識と技術の習得が必要
とされています。
➤第 4:コミュニティの学校運営への参画
政府の予算不足や、教員の労働条件の低さを補うため、村の住民によるサポートが必要です。
この必要性に対して、現在のラオスでは、各村で教育の改善を目指した「村教育開発委員会」
という名の組織作りがされています。村教育開発委員会の働きかけの対象は、小学校運営への
関わりだけでなく、保護者にも向けられています。県の教育行政官は、ルアンパバーン県内に
住む少数民族の保護者は、公用語のラオス語の識字能力は、初等教育修了に相当するレベルに
達していると公言していますが、なかには、ラオス語を適切に理解できず、話せない保護者も
います。コミュニティによる学校運営への参画は、保護者の教育への理解が促進され、その結
果、子どもがラオス語で勉強する機会を増やすことにもつながると考えます。
ラオス国内に、公式入学年齢を過ぎた子どもの就学に関しては、「万民のための教育」の目
標と国連ミレニアム開発目標のゴールの達成を目指す教育スポーツ省からの指導により、郡の
教育行政官と村教育開発委員会が、2010 年から保護者に働きかけた結果、多くの子どもたちが
就学するようになってきているという事例があります。
➤第 5:諸外国からの支援の差
ラオス教育スポーツ省は、2010 年から開始した GPE 基金を活用した事業が進められており、
現在もフェーズ 2 として継続しています。この事業は、貧困状況や教育指標を元に全国 143 郡
の中から選ばれた 60 郡で実施されていますが、13 番目に貧しい郡となっているヴィエンカム郡
は、事業対象から外れています。このことは、GPE 基金による事業が修了する頃には、対象地域
とヴィエンカム郡のような教育指標が低いにも関わらず対象外となっている地域との格差が広
がるという深刻な状況に陥ることが懸念されています。この格差の是正も必要とされています。
6.ニーズに対して当会が事業を実施する妥当性
➤日本国の政府開発援助との合致
長年に渡りラオスに対する最大の援助国である日本政府は、ラオスに対する援助政策の中で、
ラオス政府が 2020 年までの後発開発途上国から脱却し、国連ミレニアム開発目標を達成すると
いうラオスの国家目標を支援することを表明しています。
2013 年度政府開発援助白書にある 4 つの重点課題の一つに挙げられている貧困削減における
教育分野では、外務省による「日本の教育協力政策 2011-2015」があり、この冒頭には「すべて
の人に基礎教育の機会を提供することは、人間の安全保障を推進するうえで最も重要な支援で
あり」と書かれており、計画の内容は、学校とコミュニティが協働して教育の質の改善、学校
運営の改善、貧困層・女子や障害児など就学が困難な子どもたちへの配慮、学習環境の改善と
なっています。このことから、当会が提案している、基礎教育の改善事業は日本政府開発援助
政策とも合致していると考えます。
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
5 / 7
➤対象地における他団体の動き
ヴィエンカム郡内では、セーブ・ザ・チルドレン・ノルウェーが就学前学級の校舎建設、就
学前教員研修、校長や村教育開発委員会への研修や教材を供与しています。ヨーロッパユニオ
ン(EU)は、2008 年にヴィエンカム郡内の 20 村を対象とした学校建設を中心にした教育支援を
行いました。ワールド・ビジョンは衛生・給水の支援を行っている。読書推進活動としては、
ラオス国内で絵本出版を実施している「ビッグ・ブラザー・マウス」が、ヴィエンカム郡にて
図書の配布活動を行っている。これらのヴィエンカム郡での活動実績のある団体、特に類似し
た活動実績のあるセーブ・ザ・チルドレン・ノルゥエーとは、お互いの活動を補完し合う活動
実施に関わる情報交換や協議を行っています。
➤SVA 海外事業運営の方針
SVA 海外事業運営方針の対象分野に、学校建設活動を含む初等教育支援が位置づけられていま
す。さらに、2010 年に作成した SVA ラオス事務所のミッションは社会的弱者を対象とした教育
の質的向上による基礎教育の改善を掲げており、このミッションは、ラオス内の貧困郡であり
少数民族の人口割合が高いヴィエンカム郡の教育ニーズに合致しています。
7.対象地域の受益者数
・就学前学級・小学校教員:
196 人、 ・就学前学級・小学校児童:7,151 人
8.事業実施期間:
2014 年~2016 年(3 ヵ年)
9.事業を引き継ぐ相手と持続可能性
事業終了後、建設した小学校校舎(建物)は対象村の住民に譲渡します。この小学校で必要と
される教員の配属、教科書の配布、学校運営に必要とされる補助金に関しては、ヴィエンカム
郡教育事務所、ルアンパバーン県教育局がラオス国政府の教育政策に従い、適切な学習環境を
維持する役割を担う。
村長または副村長、村議会の代表者、校長、教員、女性同盟長、青年同盟長、保護者会また
は保護者の代表者によって構成される村教育開発委員会は、年間の学校運営計画への参加や教
材の寄付、必要に応じて非常勤教員の雇用といったことなどに責任を持つ。
小学校の関係者が上記した役割を果たし、教育の持続可能性の確保に努める。
10.事業の上位目標、事業目標、成果、指標、活動
別紙、プロジェクトマトリックスデザイン(PDM)をご参照ください。
11.モニタリング・報告の方法
年間計画に沿って事業の進捗の確認することを目的とした、計画されたモニタリングの実施
と、SVA の海外事業運営方針で定められている上半期報告書、完了報告書の作成する。
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
6 / 7
12.実施体制
➤相手国実施機関
・ヴィエンカム郡教育事務所
・各村の村長、村教育開発委員会
・ルアンパバーン県教育局
・教育スポーツ省(就学前・初等教育局、教員教育局、国立教育研究所)
・各村の村教育開発委員会
・情報文化観光省出版委員会
➤SVA ラオス事務所側
・所長(日本人)1 人、
・プロジェクトマネージャー(ラオス人)1人、
・コーディネーター(日本人)1 人
・アシスタント・コーディネーター(ラオス人)1人、
・プロジェクト・スタッフ(ラオス人)3 人、
・経理総務スタッフ(ラオス人)4 人
・運転手(ラオス人)2 人
13.評価の計画
評価は学期が終わった時点で実施する予定である。評価報告書フォーム H には、就学率、進
学率、留年率、退学率といった全てのデータを明記しなければならない。評価時に収集された
県レベル、郡レベル、そして、それぞれの学年毎のデータはベースライン調査のデータと比較
できるようにする。
➤評価チーム :SVA ラオス事務所、SVA 東京事務所
➤評価スケジュール
2016 年 1 月 評価の計画立案
2016 年 2 月 1)データ・情報収集、2)評価のための質問紙の作成(ラオス語と英語)
3)データ・情報を英語に翻訳、4)事業地で評価を実施、5)データ入力
2016 年 3 月 1)データ分析・まとめ、2. 分析結果共有のための会議
2016 年 4 月 1)評価報告書/フォーム H の作成、東京へ提出
➤評価実施の手法 1)書類確認:県教育局郡教育事務所、学校、教員からの書類を確認
2)学校視察:授業、学習状況を観察
3)聞き取り:県教育局から 1 名、郡教育事務所から 1 名、
村教育開発委員会から 2 名、校長、教員 3 名、児童 3-5 名
以上
SVA ラオス事務所 2014-2016 事業計画書
7 / 7
Fly UP