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打撃成績と視機能から見るバッティングにおける一側優位性
打撃成績と視機能から見るバッティングにおける一側優位性に関する研究 保健体育専修 2514027 高橋 慧 1.研究目的 野球のバッティングにおいて「左打ちが有利」といわれることがしばしばあるのだが、 果たしてそれが本当なのかというところに疑問を投げかけ、左打ちが有利であると仮定し たうえで検証していくことが大きな目的である。手や足や目にそれぞれ「利き」があるよ うに、バッティングにおいても右打ちと左打ちのどちらか一側が優位に働くような「利き」 や「一側優位性」は見られるのか。打撃成績の分析と、利き腕や利き目との関連を検証す ることで、バッティングにおける一側優位性の有無を明らかにしていく。また、選手の視 機能を把握するためにスポーツビジョンの測定を行い、その結果が打撃成績にどのような 影響をもたらすのかといった角度からも、一側優位性の有無を見ていくことで、指導者と しての新たな知見を広げていく。 2.研究方法 2015 年度北東北大学野球 2 部リーグ戦(春季、秋季)それぞれの全試合の公式記録をも とに打撃成績の分析を行い、打率、出塁率、長打率、OPS などの各指標から、一側優位性の 有無を検証した。対象となるのは春季が、秋田大学、盛岡大学、八戸工業大学、弘前大学、 青森公立大学、岩手医科大学の計 6 校 104 名。秋季が、秋田大学、盛岡大学、八戸工業大 学、弘前大学、青森公立大学、秋田県立大学の計 6 校 100 名である。規定打席到達者で、 打率などの指標がリーグ平均を上回ることを好成績の基準として、好成績を収めた選手が 右打ちか左打ちかを見ていく。 視機能を把握することについては、秋田県スポーツ科学センターの協力を得てスポーツ ビジョンの測定を行った。 測定したのは秋田大学の選手 16 名で、 測定項目は静止視力 (SVA) 、 動体視力(KVA) 、動体視力(DVA)、コントラスト感度(CS)、眼球運動(OMS)、深視力(DP)、 瞬間視力(VTR)、眼と手の協応動作(E/H)の 8 項目である。これらの測定値の評価と打撃 成績を照らし合わせて関係性を明らかにすることで、一側優位性の有無を見ていく。 利き腕はボールを投げる方とし、北東北大学野球 2 部春季リーグ戦、秋季リーグ戦にお ける北東北大学野球連盟発行のパンフレットと公式記録をもとに判定した。ボールを投げ る方の腕を利き腕としたのは、自身の先行研究で 51 名中 51 名全員が利き腕とボールを投 げる腕が一致していたことによる。利き目はホールテストによって判定した。 3.結果と考察 (1)春季リーグ戦の打撃成績の分析から 春季リーグ戦における規定打席到達者のうち、右打ちが 31 人、左打ちが 14 人となって おり、平均値で比較したとき、打率以外の項目で左打ちの選手の方が若干上回る結果とな った。しかし、統計的に有意な差があるわけではない。一人あたりの安打数は右打ちの選 手の方が多く、三振数は左打ちの選手の方が多いなど、左打ちが有利であるとするには根 拠が不十分であるといえる。また、右打ちの選手でも打率が 4 割を超えたり首位打者を獲 得したりと、好打者がいることは事実であり、春季リーグ戦の打撃成績からだけでは左打 ちに一側優位性が見られると短絡的に結びつけることが難しいと考えられる。 左打ちの選手の方が打撃成績は優れている傾向にあるが、左打ちだから打撃成績が良い というわけではなく、必ずしも左打ちが有利であるとは言い切れないだろう。 (2)秋季リーグ戦の打撃成績の分析から 秋季リーグ戦においては、規定打席到達者のうち右打ちが 27 人、左打ちが 10 人となっ ており、各項目の平均値を見ると全項目で左打ちの選手の方が相対的に好成績を収める結 果となった。一人あたりの安打数を見ると左打ちの選手の方が多くなったのだが、打撃成 績の各指標で統計的に有意な差があるわけではなく、これだけでは左打ちに一側優位性が 見られるとは言い難い結果となっている。春季と同様に、左打ちの選手の方が打撃成績は 優れている傾向にあるが、左打ちだから打撃成績が良いというわけではなく、必ずしも左 打ちが有利であるとは言い切れないだろう。 (3)スポーツビジョンのテスト結果から スポーツビジョンの測定をした結果、総合評価 A が 7 名、B が 6 名、C が 3 名となった。 測定した 8 つの項目のうち、静止力(SVA) 、動体視力(KVA) 、コントラスト感度(CS)、眼 と手の協応動作(E/H)の 4 つの項目で測定結果に大きな開きがあり、バッティングにおい て関連性が強いと考えられる。動体視力(KVA)とコントラスト感度(CS)は静止視力(SVA) と比例関係にあり、矯正するなどして静止視力(SVA)を高めることが視機能を鍛えるため の第一歩となり、打撃能力の向上へと繋がるものといってもよいだろう。 秋田大学の選手において、ボールを投げる方とした利き腕と打席の関係を右投げ左打ち などのクロスドミナントと右投げ右打ちなどのアンクロスドミナントに分けて、それぞれ の打撃成績とスポーツビジョンの総合評価を照らし合わせたところ、クロスドミナントと アンクロスドミナントの両方において、評価が良いほど打撃成績も良く、評価が悪いほど 打撃成績も悪いということが明らかとなった。 利き目と打席に関しても同様に検証したところ、右打ち左目利きなどのクロスドミナン トと右打ち右目利きなどのアンクロスドミナントの両方で、評価が良いほど打撃成績も良 く、評価が悪いほど打撃成績も悪いという結果となった。 また、右打ちの選手よりも左打ちの選手の方が打撃成績は優れており、統計的に有意と いえる結果となった。その中で、利き腕と打席の関係をクロスドミナントとアンクロスド ミナントに分けて考えると、クロスドミナントの選手の打撃成績の方が相対的に優れてい た。秋田大学ではクロスドミナントの選手全員が右投げ左打ちであったことから、左打ち の中でも、右投げ左打ちに一側優位性があると考えられる。これについては、利き腕の方 が非利き腕に比べると筋力が強いという報告が関連している。右投げ左打ちの選手は利き 腕が引き手となることで、ボールを捉えるまでのスイングをより筋力の強い利き腕でリー ドすることができるため、確実性の高いバッティングをすることができると考えられるの である。実際にリーグ全体の打撃成績では、春季から通じて、打率や出塁率に関しては左 打者が優れている傾向にあり、左打者のうち、春季は 14 名中 12 名、秋季は 10 名中 9 名が 右投げ左打ちとなっている。 しかし同時に、右打者にも一側優位性があるとも考えられる。右投げ右打ちの選手は筋 力の強い利き腕が押し手となることで、バットでボールを捉えてからの押す力が強くなり、 より力強い打球を打つことができると考えられるからである。実際に長打に関しては右打 者の方が優れている傾向が見て取れるのだが、右打ちだから長打に関して優れているとい うわけではなく、正確には、右投げ右打ちまたは左投げ左打ちのアンクロスドミナントの 選手が長打に関して優れているとうことになる。春季は右打者のうち 31 名中 31 名全員が 右投げ右打ち、秋季は右打者のうち 27 名中 27 名全員が右投げ右打ちとなっており、本研 究においては右投げ右打ちが多かったため、右打者が長打に関して優れているという結果 になっている。 また、利き目と打席の関係においても同様に分けて考えると、クロスドミナントの選手 の方が相対的に打撃成績は優れていた。そのクロスドミナントの選手をさらに右打ちと左 打ちで分けたとき、左打ちの選手の打撃成績の方が統計的に有意な傾向にあるという結果 となった。また、左打ちの選手のみをクロスドミナントとアンクロスドミナントに分けて 考えたとき、クロスドミナントの選手の方が相対的に優れている結果となった。こうした ことから、左打ち右目利きの選手に一側優位性があると考えられる。これについては、約 70%の人が右目利きに偏るという報告が関連している。打撃成績を分析してみて、春季か ら通じて、一人あたりの四死球の数が左打ちの選手の方が多いということが明らかとなっ ている。左打ちの選手に右目利きが多いとすると、利き目がピッチャー寄りにあることで 鼻柱に邪魔されることなく、より広い視野を保ちながらボールをよく見ることが可能であ るため、四死球が多く選ぶことができるのだと考えられるのである。 こういったことから、利き腕と打撃成績の関係、利き目と打撃成績の関係ともに左打ち に一側優位性が見られることに加えて、スポーツビジョンの総合評価が良いほど打撃成績 もよくなるということが明らかとなり、それは利き腕、利き目、視機能のそれぞれが特徴 を持って打撃成績に大きな影響をもたらすためであるといえる。 4.結論 本研究により、左打ちのなかでも、右投げ左打ちや左打ち右目利きといったクロスドミ ナントの選手に一側優位性があるということが明らかとなった。単に左打ちだから有利と いうわけではなく、右投げ左打ちや左打ち右目利きであることに大きなメリットとなる特 徴があるからこそ、初めて左打ちが有利であるといえるのだろう。しかし、右打ちが不利 であるというわけではなく、右打ちも左打ちも互いに一長一短である。つまり非利き腕側 を鍛えることで、 「短」の部分を補うことが打撃指導において大切になってくるといえるだ ろう。また、スポーツビジョンなどの視機能が打撃成績に大きな影響を持っているとうこ とも明らかとなった。素振りなどの「打つ」ためだけの練習だけでなく、視機能を測定し て、鍛えていくこともバッティングにとって非常に重要な要素であるといえるのではない だろうか。 【注】 1. 「スポーツと眼」 石垣尚男 大修館書店,1992 2. 「アスリート総合診断体力測定データ集 2006~2011」 秋田県スポーツ科学センタ ー,2012 3. 「利きの発達と左右差」 石津希代子 日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.12,p157-161,2011 4. 「小学校高学年の男子児童における筋力発揮調整能の左右差について-利き手・非利 き手の差に関する検討-」 No.5,p123-130,2012 真家英俊、益井洋子 東京未来大学研究紀要