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アメリカ社会の 「今」を生きた 米語で読み解く

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アメリカ社会の 「今」を生きた 米語で読み解く
2017年(平成29年)1月1日(日)
週刊NY生活 SHUKAN NEW YORK SEIKATSU
米語 連載4年100回から厳選のフレーズ
Watch
連載4年、コラム「米語Watch」が100回を超えた。生きた米語を通してア
アメリカ社会の
「今」を生きた
米語で読み解く
旦 英夫
メリカ社会の「今」を提供するこのコラムは、読者からも好評を得ている。 年頭に
あたり、著者の旦 英夫さんにこれまでこのコラムで紹介した米語リストに再度ス
ポットを当て、
「米語Watch」が映すアメリカの政治、文化の変化を記してもらった。
◇
昨年のアメリカは、大統領選挙の異常な展開に翻弄されたと言って、過言ではあ
りません。トランプ、クリントン両氏の激しい戦いにおいて、事実とは異なる情
報・主張がネットだけではなく主要メディアにおいても飛び交い、市民は真実の価
値さえ見失いそうになりました。オックスフォード辞典が「今年の言葉」に [101]:
Post-truth (事実が重視されない)という形容詞が選んだことを、多くの人が苦い
思いで納得したのです。
選挙戦終盤、自分の敗北を覚悟したように、メディアの陰謀と不正投票が選挙を
[99] Rig(不正操作する)していると主張したトランプ氏。 予想外の結果に国内
外がどよめく中、ロシアがハッキングでトランプ氏勝利を操作したとCIAが公表し
たこと以上の皮肉な展開はないでしょう。 ロシア・コネクションが新政権の正統
性に影を落とす中、Rigという言葉がこれからもアメリカ政治を揺るがし続ける気
配です。 トランプ氏の下、アメリカが内向きになることは、正に [37] G-Zero World( 指
導性を発揮できる強大国なき、新しい世界秩序)の到来を確実なものとします。新
政権が世界の重要な課題に誠実に取り組み、[62] Flip-flop( 発言をコロコロ変える)
することなく、同盟国を[31] Throw Under the Bus(信頼していた仲間を裏切り見
捨てる)しないことを日本政府は祈るしかありません。アメリカ沿岸部での [102]
Sunny-day Flooding (温暖化に起因する洪水)は、パリ協定からの脱退をほのめか
すトランプ氏に対して、気候変動対策を[12] Kick the Can down the Road ( 難し
い問題に対処せず、先送り)すべきでは無いことを如実に証明しています。 アメリカ社会の光と影、経済格差 を象徴するキーワードは今後も紙面を賑わすで
しょう。[95] Payday Loan (サラ金)という言葉は、小口金融がいかに低所得者
層にとって過酷なものになりうるか、その恐ろしい実体を暴露しました。[91]
Gentrification ( 貧困地区の再開発)をめぐる一連のニュースは、アメリカの繁栄
の裏に、地域開発に取り残される貧困層の苦しみが忘れられることを示しています。
[58] One Percenter (富裕層)を代表するトランプ氏が、雇用や経済の現状に不満
[総 合] (30)
を抱く層に訴えて選挙に勝ったという矛盾の前に、どのような政策が展開するのか、
予想することは難しい。超富裕層や国際的大企業が[87] Tax Haven (税金回避地)
に富を隠し、税金を回避していた実態がパナマ文書によってクローズアップされた
今、一般国民は富を独占する富裕層とその仕組みにますます厳しい目を向けること
になるでしょう。
[93] Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)に象徴されるアメリカの人種問題
は、黒人初の大統領バラク・オバマ氏が二期8年をかけて人種間の融和を図ったも
拘らず事態は好転しませんでした。この一年、黒人男性が白人警官に理不尽に撃た
れ死亡する事件が続き、警察と少数派の相互不信は新たな局面に入ったように思い
ます。保守派白人層の強い支持を得て当選したトランプ氏のもと、事態が改善され
ると考える人は少ないでしょう。アメリカ社会の根幹に横たわる人種問題と移民問
題、その解決のために全ての関係者が[6] Reach Across the Aisle(党派を超えて相
手方に歩み寄り、妥協を図る)ことができるのか, 良識ある政治が行なわれること
を祈りましょう。
日本でもアメリカでも詐欺的行為のひろがりは大きな社会問題です。[98] Catfish
(SNS上、別人になりすまし相手を誘惑する)は、SNS 等を使ってパートナーを見
つけようという若い人々の間で、悲喜劇を生み出しています。一方、高齢者を欺い
て金を詐取する[47] Grandparent Scam ( オレオレ詐欺)も減る気配は無いようで
す。加えて、今アメリカで大きな問題となっているのがIRS (税務当局)の職員だと
偽る[50] Impostor Scam (成りすまし詐欺)。電話で税金不払いだと脅かして、不法
に金をせしめるのです。最新のAARP (全米退職者協会)のレポートによると、こ
こ数年何千もの人たちがこの詐欺にひっかかり、被害額の合計は少なくとも3億ド
ルに達するそうです。
Facebook などのSNS を通して、人々がお互いにいつでも繋がることは便利なこ
とですが、一方で負の部分があることも意識されて来ました。 昨年来、ポケモン
GO が大流行していますが、その影に、繋がりすぎによる [94] FOMO ( 自分だ
け取り残される恐れ)があると話題になりました。仲間はずれになることに恐怖を
感じ、[83] Text Neck(スマホ首)という言葉が出来るほどスマホにしがみついて
いる人がいます。夫婦での食事中も、スマホから離れられない夫(又は妻、もしか
したら両方)のせいで、多くの夫婦の関係が悪化しているとの冗談ともつかぬ記事
も見ました。
政治・社会の行方に不安を感じる時こそ、家族や友人たちとの本当の会話・ふれ
あいが最も大切という専門家の言葉が心に響きます。 新年に取り上げる米語は、
ハッピーなものが多いことを心から念じます。
(旦 英夫/ニューヨーク州弁護士)
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