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フランスにおける団結権論の課題ご 規制緩和政策と労働組合の代表権能

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フランスにおける団結権論の課題ご 規制緩和政策と労働組合の代表権能
フ ラ ンス にお け る団結権論 の課題 :
規制緩和政策 と労働組合 の代表権能
大 和
国
敢
太
< 目 次>
は じめ に
( 1 ) エ ー ル ・フラ ンス民営化 問題
①民営化政策の概要
②企業形態の変更と罷業権行使規制問題
(2)労働審判所選挙問題
選挙結果
①1997年
②FN労働組合借称問題
③CFNT名 簿問題
は じ め に
労働 政策分野 での規制緩和政策 の具体化 は,労 働者 の回結 自治 を形骸化 し,
労働組合 の代表権能 を弱体化す る ことをその主たる目的 (少な くともその副次
的 な効果)と してい ることは,日 本 におい ては枚挙 にい とまがないが ,本 稿 で
は,フ ラ ンス における最近 の労働政策 の展 開の 中で具体化 して きてい る,規 制
緩和問題 にも関連 した 「
労働組合 の代表権能の動揺 と復権」 の動向 を分析す る。
具体的 には,欧 州共同市場 の 自由化政策 によって促 されたエ ール ・フラ ンス 国
営航空 の民営化 に伴 う施策が労働者 や労働組合 の地位や権利 に影響 を及 ぼ した
問題 と,伝 統的な労働組合代表制度 を空洞化 させかねない 「
労働組合 の危機」
を背景 として展 開 されて きた労働組合政策 (労働組合 の制度化政策 と労働組合
の市民的結社化 政策)の 「間隙」 ともい うべ き労働審判所選挙制度 にお け る労
`
働組合 の地位 をめ くる問題 を取 りあげ る。 まず ,こ うした政策的動向の背景 に
122
中 革太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
つい て ,規 制緩和路線 と労使 自治復権論 の 関連 を中心 にふれてお くこ ととす る。
最近 の 一 連 の 労働 政 策 の展 開 にお い て は ,そ の 主 た る方 向 は ,労 使 の合意 に
よって ,よ り柔軟 で 分節 (分権 )的 な仕 組 み の労働 条件決定方法 を導 入す る こ
と (弾力化 )で あ り,そ の ため に,伝 統 的 な労働 法制度 ,そ の根 幹 をなす労働
法典 に よる労働 法準則 の法 定化 主 義 と労働 組合代 表制度 (組合複 数 主 義 の もと
での 「
制度 化 され た労働 組合」 の代 表権 能制度 )
代 表 的 な」 労働 組合 に よる 「
1)
の変更 を余儀 な くされ てい る。そ こでの政策的基調 は, 労 使 自治復権論 ( 労使
合意 による契約的政策 の重視) と それを促進するための法制度 の整備 であ って,
その限 りで, 伝 統的労働法制度 による規制体系 を緩和 ( 弾力化) す る側面 は存
在 した。その意味 で, 規 制緩和 による労働政策 の推進 と分析 される ことは可能
で あ る。 しか し, そ れを規制緩和政策 と位置づ け ることについ ては, 有 力 な学
カ
説 か らは,規 制緩和 と労働法規範 の柔軟化 との混同 について批判 され,あ るい
3)
は労働法典 による労働条件規制必要論 と労使 自治復権論 の両立が指摘 されるな
ど,市 場万能論 に基 づ く規制緩和理論 が通説的な優位 に立 っているわけではな
い。労使 自治復権論 とい う形 での新 たな労使協調 主義 の導 入 に役 立 つ 限 りで,
その 目的に限定 された 「
労働法典」 にお け る制限的規定 の解除 にす ぎないので
あ って,そ こでは,立 法的規制 の有用性 と必要性 は前提的 に受 け入 れ られてお
り,市 場万能論 が優勢 ではない。
この ような労働政策 の枠組 みの 中で,労 働組合 の伝統的 な代表制度 は,そ の
空洞化乃至 は少 な くともそ の変容 に繁 が りかねない重大 な改 革 を加 え られて き
1)「 労働 (組合)運 動 の危機」 の 要因 か らも,伝 統 的な労働 (組合)法 制度変容 へ の影響
が避 け難 くな っていることについ ては,大 和 国 『フランス労働法 の研究』 (文理 閣、1995.9)
245頁以下 参照 された い。
2)」ean―
rёglementer les relations de travail ?,Recueil Da1loz
Claude Javillier,Faut il dё
Sirey,1995,Chronique,p。344.
3)労 働法典 による過度 の規制 に対す る批判 (「
労働法典清掃論 (tonettage du code du trav―
all)」
)は ,労 使 自治復 権論 と結 びつ く傾 向 が 強 いが ,他 面 で は,労 働 条件 決定 を市場原
理 に委ね るべ きではない とい う立場 か らも,労 使 自治復権論 は主 張 されてお り,こ の両者
は矛盾す る ものではない。V.,Marie B6atrice Baudet,Le niveau de protection juridiq
n'aurait pas de corr61ation avec l「
6tat de liemplol, Le droit du travail en question,
Le Wionde du 26 juin 1996,Dossier,p.II.
フランスにおける団結権論の課題 :規制緩和政策 と労働組合の代表権能
123
た。 そ の新 た な一 階梯 を画 した の は , 企 業 内労働 組合代 表不 在 の企 業 にお け る
交 渉 に関す る1 9 9 5 年1 0 月3 1 日全 国協 約 とこの協 約 を立 法化 した1 9 9 6 年1 1 月1 2 日
4)
法 で あ った。同法 の規定 によれば, 一 定 の要件 の もとで, 代 表的労働組合 は,
交渉 ・協約締結権限 を個別 の労働者 に委任す る ことがで きるが , 他 方 , 従 業員
か ら選出 された労働者代表 が交渉 ・協約締結 を行 う可能性 も認め られてい る。
これ以 降, こ の労働組合権行使 の委託 ( m a n d a t e m e n t s y n d i c a l )よる
に 労使
5)
交渉 の手法 が多用 されて きてい る。そ して,1997年 6月 に再登場 した社会党政
週35時間労働制」 を立法化 した 「
労働時間短縮 に関す
権 の政策的 目玉 で ある 「
・
る促 進 誘導法」 (1998年6月 13日法 ,通 称 オブ リ法)で は,1996年 法 の要件
を緩和 し,従 業員数 の要件 を課 さず に労lSJ組
合代表 (あるい は代役 をす る従業
4)1995年10月31日全 国協約 お よび1996年11月12日法 につい ては,以 下参照 されたい。奥 田
組合代表 が い な い企業 にお け る協約交渉 を可 能 とす る法規定 の合意性」 (労働法律
香子 「
旬報 第 1418号,1997.10)20頁 。大和 田 「フラ ンス における労働 運動 の 高揚 と団結権論 の
新展 開 :1995年大闘争 と労働組合 の代表権能 の位相」 (彦根論叢第309号,1997.10)125頁。
なお ,労 働者代表制度 をめ ぐる全般 的問題 につい ては,フ ラ ンス労働法社会保障学会,モ
ンペ リエ弁護士会 お よび弁護士労働組合 の共催 によるシ ンポジウム (1998年3月 )の 報告
ア
V`
が言
.,La reprOsentation des travailleursi bilans,interrogations et perspectives,
O `
羊tン
Liaisons sociales,Documents,N°
58/98 du 19 juin 1998.
5)「 労働 組合権行使 の委託」 の要件 につ い て,コ ンセ イユ ・デ タ判決 (1998年4月 1日 )
が歯止 め を掛 け よ う と した。 コンセ イユ ・デ タは,「労働組合権行使 の委託」 に関す る労
働省 (労働 関係局長)指 針 (1997年1月30日, Liaisons sociales,Lё
gislation sociale,N中
つい て ,CGTお よびFOか ら 「
761l du 17免vrier 1997.)に
法律 の逸脱 を許す ものJと し
て提訴 されて い た越権訴訟 にお い て,指 針 の一 部 の項 目を無効 とした。特 に問題 となって
い たのは,1996年 11月12日法 第 6条 が ,「分野 の協定Jに よって 「
授 権Jさ れ なければな
らない条件 の もとで ,「労働組合権行使 の委託」利用 の試行的態様 を定 めていた点 で ある。
委託」 を認 めた判
労働省指針 は,一 般的 に代表的労働組合 による労働者 へ の労使交渉 の 「
7233 du 23 mars 1995.)を
uris.Actua.N°
BI用 して ,
例 (Cass,soc.,25 janvier 1995,」
「
分野 の協定」 の存在 を要件 としない解釈 を示 したか らである。 しか し,コ ンセ イユ ・デ
タは,「立 法者 は ,集 団協定 が労働組合代表不在 の企 業内 で交渉 され締結 され うる事項 と
条件 を限定 的 に定義 しようと したJと 判 断 し,「特 に,企 業協定 を交渉す ることを明示 的
に委任 された賃労働者 の権限 は,分 野 の協定 で予 め定 め られて い なければな らない」 と判
示 した。 したが って ,「労働 大 臣 は,分 野 の協定 が不存在 の場 合 で も,委 任 された賃労働
者 は,特 定 の集回協定 の交渉 のため に介在す ることがで きる と述べ て い るが ,立 法規定 の
意義 と効力 (労働大 臣 はその解釈 を強行 的 な意味 で定 め よ う とした)を 無視 してい る」 の
で あ る と して,当 該 の条項 は,無 効 とされたので ある (Liaisons sociales,N°
12642 du 8
avril 1998,p.1.)。
この 「
分野 の協定J 要 件論 は, 「週3 5 時間労働制J 法 案審議 で も問題 になったが , 本 文
で述 べ た よ うに, 同 法 は広範 な適用 範囲 を認 めた。
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中 革太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号
)
員代表) 不 在 のすべ ての企 業 にお いて, 代 表的労働組合 によって明示的 に委任
された賃労働者 に対 して, 協 定 を締結す る権限 を認 めてい るので ある。
この よ うに, 労 働組合代表制度 に関 わる立法 ・判例 の動向 は, 伝 統的制度 の
代表的労働組合」制度 の維持) , 労 使交渉 ・協約制度 の一層 の柔軟 な
枠 内で ( 「
運用 ( 弾力化) を 目指 してお り, そ の意味 で, 規 制緩和政策 との関連 を問 い直
す ことになるが , そ の背景 には, 労 働運動 の動 向 に も関連 した, 労 働組合 の代
表権能 の動揺 と復権 とい う傾向 を見逃す ことはで きない。そのような視点 か ら,
伝統的 な労働組合法制度 の変容 に重 要 な影響 を与 えてい る事例 として, エ ール
6)
・フラ ンス民営化 問題 と労働 審判所 選挙 問題 を取 りあ げ て い くこ とにす る。
( 1 ) エー ル ・フラ ンス民営 化 問題
① 民営化政策の概要
フランスにおける定期航空旅客路線は,従 来,国 際路線 については,国 営会
社 であるエール ・フランスが担当す るとともに,国 内路線 については,「公共
7)
企業」 エ ール ・ア ンテールが独 占的 に開設す ることが認 め られてい た。そのた
め , エ ー ル ・ア ンテー ルの独 占的公共輸送業務 は, 「公役務」 とみな され, そ
の労使 関係 にお いて も, 基 本的 には 「
公役務」 の準則 が適用 されてい た。
1 9 8 0 年代 以 降進 め られて きたエ ール ・フラ ンス国営航空 の民営化移行政策 は,
8)
1 9 9 3 年に, 確 定的 な民営化方針が決定 され, そ の具体化 の一環 として, 1 9 9 7 年
4 月 1 日 , 国 内航空会社 で あるエ ール ・フランス ・ヨー ロ ップが, エ ール ・フ
ラ ンス に吸収合併 された。 このエ ール ・フラ ンス ・ヨァロ ップは, エ ール ・フ
ラ ンス との合併手続 きのために, エ ール ・ア ンテールが改名 した ものだが, エ ー
ル ・ア ンテールが有 してい た国内航 空路線 の独 占的開設権 は失 っていた。それ
は, 1 9 9 2 年 7 月 2 3 日の欧州規貝J が, 公 共空間領域 の経営 にお け る独 占 を排除 し
6)時 事 的問題 の事実経過 につい ては,新 聞 ・機 関紙誌等 の記事 に よったが ,個 々の 出所 の
明示 は省略 した。
7)「 公共企業」 の定義 お よびその労働 関係 の解説 につい ては,以 下参照。Yves Saintギ
ours,
MIanuel de droit du travail dans le secteur public,2e
d.,1986,LGD」
ё
,p. 393 et suiv.
8 ) エ ー ル ・フラ ンス民営化問題 に関 して, 1 9 9 3 年 の大争議 を含 めた経過 につい ては, 以 下
文献紹介」
9 9 4同書
.お の 「
参照。 P a s c a l P e r r i , S a u v e r A i r F r a n c e , L ' H a r m a t t a n , 1よび
エ ール ・フランス を故 お う」 トラ ンス ポ ー ト2 1 , 第 1 0 号6 更 , 1 9 9 8 。
3)。
( 大和 田 「
フランスにおける団結権論の課題 : 規制緩和政策 と労働組合の代表権能
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て ,全 面 的 な 自由 を承認 し,加 盟政府 に対 して例外 的 な少 数路線 にお け る独 占
のみ を認 め たか らであ る。 フラ ンス 政府 も,こ の規則 に したが つて ,そ れ まで
国内航 空路線 を独 占的 に 開設 して い た エ
ー ル ・ア ンテ ー ル 以 外 の 国内外 の航 空
会社 に も,1993年 以 降漸次 的 に路線 開設 を認 め たので あ った。
他 方 ,エ ー ル ・フラ ンス民営化 政 策 の 具体化 は,1993年 大争議 の結果就任 し
9)
たブラ ン社長 の主導 によって進 め られて きた。 しか し,1997年 6月 の国民議会
選挙公約」 を掲 げ た
選挙 で社 会党 が 大勝 した結果,「民営化」 に消極 的 な 「
民営化」反対 の方針 を明確 に していた共産
「
左翼」政権 が再登場 し, さらに 「
党 か らゲ ソ運輸大 臣が任命 された ことによって,も はやブラ ン路線 とは両立す
る ことは困難 な状況 に立 ち至 ったと そのため,ブ ラ ン社長 の辞任 ・ス ピネ ッタ
(エール ・ア ンテール元社長)新 社長就任 とい う当面 の収拾策が講 じられた。
1 1 )
その後,株 式 の公 開方法 の変更 とい う手直 しによって部分的修 正 を図 りつつ ,
「
民営化」 が進め られてい るが ,1998年 6月 の ワール ドカ ップの直前 まで続 い
たパ イロ ッ トの争議 に見 られるように,企 業形態 の変更 が労働条件 の重要な変
更 に直結 して い るだ けに,「民営化」 が資本 関係 の変更 に とどまらない,労 働
者 の権利 ・処遇 (労働条件)と 切 り離せ ない問題 であることが 自明の もの となっ
て きてい るが ,こ の間の経緯 にお い ては,そ の 「
民営化」 の内容 が多義的 な こ
9)ブ ラ ン社長 は,エ ー ル ・フランスの民営化政策 を推進す るために,エ ー ル ・フランスの
労働 者持株 制度 (SAPO)を 廃 止 し,株 式会社 (SA)と して株式公 開 (上場 )を 企 図 し
た。 同時 に,合 理化 の徹底化 のために,労 働 条件 の切 り下げ を実行 しようとし,そ のため
に,従 来 か らの 団体交渉 ル ー ルの無視 な どの姿勢 を示 したが ,そ の過程 では,従 業員 の法
一
的地位 の変更 を回実 とした事例 が示す よ うに,民 営化政策 の遂行 と団結権 の侵害 は表裏
った
で
あ
。
体
10)ゲ ソ運輸大 臣 は ,「私 に与 え られた使命 は,エ ー ル ・フランス とい う公企業 を発 展 させ
るこ と,そ の影響力 を国際的 に広 げ ることである。そ れは,民 営化 で もな く,現 状維持 で
もない。
」 と述べ ,民 営化方針 の再検討 を表明 した。労働組合側 も民営化方針 に反対 であつ
たが ,一 部 か らは,ブ ラ ン提案 (資本 を三分 割 し,国 家 ・労働者 ・市場 に配分す る形 での
新 「
民営化」案)を 積極 的 に評価 し,「国 家お よび労働者 が 多数派 になる」 企 業形態 は,
民営化 で はな い とす る見解 が 現 れて きた。 この よ うな事情が物語 る よ うに,「民営化」 の
後見的」役割 は
概念 ・定義 自体 が曖 味 で共通認識 が なか ったが ,ど の立場 か らも国家 の 「
ール ・フラン
不可欠 の もの と して受 け入れ られて い た。そ の点 で ,欧 州司法裁判所 が ,エ
スヘ の公 的資金援助 を 「
共通市場」 と両立 しない と判断 し (1998年6月 25日),フ ラ ンス
側 の認識 との乖離 を実証す ることになった。
126
中 革太 一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
ともあって,特 に,「左翼」政権の登場以降は,「民営化」自体の是非論 よりも,
1 2 )
そ の手続 きの 内容 の適否 をめ ぐる議論 に焦点 が移 って きてい る。今後 , フ ラ ン
ス 的な国家主導的経済運営 へ の志 向の強 い土壌 の もとで の, 「民営化」概念 の
分析 を前提 とした, 「民営化」 と労働者 の回結権 との 関係 の検討 が深 め られな
ければな らないで あ ろ う。 ここでは, エ ール ・フランス ・ヨー ロ ップの設立 ・
合併 , そ れ を前提 としたエ ー ル ・フランスの民営化 をめ ぐる過程 での, 団 結権
との関 わ りの問題 , 具 体的 には, 罷 業権規制 の問題 を概観す る。
② 企 業形態 の変更 と罷業権行使規制問題
エ ール ・フランス ・ヨー ロ ップ ( 旧エ ール ・ア ンテール) の 従業員 の地位 の
性格 は, 「民営化」過程 にお い て, 二 度 の変動 にみ まわれる ことになった。 ま
ず , エ ール ・ア ンテール による国内路線 の独 占的開設 の権益 の廃止 は, 同 社 の
公役務」 としての意義 を失 わせ ることにもなった。 この時点 で, 公 役務 にお
「
ける罷業権規制 に関す る1 9 6 3 年7 月 3 1 日法 の適用問題が争 われることになった。
その後, 1 9 9 7 年 4 月 のエ ール ・フランス ・ヨー ロ ップのエ ール ・フランスヘ の
吸収合併 の際 には, 基 本的 にはす身分規定 による労働条件規整 に統一 される こ
11)1998年 2月 ,政 府 か ら提案 された 「
部分的民営化」案 は,国 家 による資本 の所有比率 を
53%に 引 き下 げる とともに,最 大23%が 従業員 によって保有 される とす る。特 にパ イロ ッ
トお よび管理職員 につい ては,10%の 株式譲渡 と引 き替 えに賃 金の15%削 減 (賃金 ―株式
交換 )が 予定 された。 この よ うな強制的な株式取得 ・賃金削減案が,労 働者所有株式 の再
売却 の条件 の不 明確 さとも相 侯 つて,そ の後 の 長期争議 の原 因 となった。政府 は,「経済
的お よび財政 的分野 の諸条項 に関す る法律 (DDOEF)J(1998年
7月 2日 法)に お い て,
エ ー ル ・フランスの資本 の12%の 範囲内で,従 業員 に対 して株式 を無償 で交付す ることを,
企 業当局 と関連従業員 の代表的 な労働組合組織 との 間で締結 され る労働協約 の枠内 で交渉
され る賃金減額 と引 き替 えに行 うことを認 め る条項 (第 5条 )を 設 けたが ,協 約締結資格
も絡 んで ,今 後 に紛 争 の 火種 を残 した。
12)「 民営化」移行方針手続 きに問題 関心 が移 った例 と して,フ ラ ンス ・テ レコムの民営化
問題 (資本 の三 分 の一 の市場放 出)で は,当 初 ,従 業員 の全員投票が計画 されたが ,国 民
議 会選挙 で社会党が提起 した こ ともあ って ,「労働組合組織 の介在 による」従業員 との協
議 へ と軌道修正 が 図 られた。 なお、フラ ンス ・テ レコムお よびPTTで は、SUD―閲附 の訴 え
に よ り,コ ンセ イユ ・デ タは,1997年 6月 17日 の判決 に よ り,1990年 7月 2日 のキ レス法
に基 づ く一 連 の措置 を無 効 と し,労 働組合組織 の代表性準則 は,違 法 で ある と判断 した。
今後 の 「
民営化」 の実施過程 で ,労 働組合 の代表制度お よび代表権能 に関す る全 般 的な見
直 しが予測 される。
フランスにおける団結権論の課題 : 規制緩和政策と労働組合の代表権能
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とにな ったが , 同 時 に, 再 び , 1 9 6 3 年 法 の適用対 象 とされ る こ とに な ったの で
あ る。
最初 に この問題が争 われたのは, 1 9 9 6 年 9 月 の運航乗務員 の罷業 の際 であ っ
た。会社側 は, こ の罷業 の実施過程 にお いて, 1 9 6 3 年法 に基づ く5 日 前 の予告
が行 われ なか ったことを理 由に, 違 法罷業 である として, 労 働組合 に対 して,
損害賠償請求訴訟 を起 こ した ( 1 0 M F : 約 2 億 3 千 万円) 。 これに対 して, 労 働
組合側 は, エ ール ・ア ンテールの国内路線開設における独占的権益 の喪失 によっ
て, 同 社 は公役務準則 の拘束 か ら解放 され, したが って, 法 的予告義務 を免除
される と反論 した。結局 , パ リ大 審裁判所 は, 1 9 9 7 年 2 月 4 日 の判決 によって,
1 9 9 2 年の欧州規則 の適用 によ り, 「明示 的 に, 航 空輸送 にお け る公役務 の概念
は放棄 された」 ので あ り, 旧 エ ール ・ア ンテールの 「
運営 の基準 は, もはや,
公役務 の基準 に合致 して い ない。
」 として, 会 社側 の請求 を却下 した。 この時
ー
・
ー
・
点 で, エ ル フランス ヨ ロ ップの労働者 は, 1 9 6 3 年法 によ り公役務分野
に課 されてい る罷業予告義務 を免除 される こ とが明確 に確認 されたのであ った。
ところが, そ の後 4 月 1 日 に, エ ール ・フランス ・ヨー ロ ップが国営会社エ ー
ル ・フランス に吸収合併 ( 法形式 上 は, 持 株会社 によるグルー プ会社化) さ れ
ると, エ ール ・フランス当局 は, エ ー ル ・フラ ンスの規則が , 4 月 1 日 以 降 に
は, エ ー ル ・フランス ・ヨー ロ ップの従業員 に も適用 されるのであるか ら, 5
日前 の罷業予告制が課 される こ とになる と警告 した。 これに対 して, 労 働組合
側 は, 法 定予告義務 は もはや負 ってお らず , 「数時間前 の予告」 で罷業 を行 う
権利 を有 , て い る と反論 した。 3 月 2 8 日か ら罷業が開始 されたが, 会 社側 は,
( 4 月 1 日 以 降 は必要 となっている) 予 告義務 を践 んでい ない 「
違法罷業」 と
して, 仮 処分 申請 を した。 ク レテイユ 大審裁判所 は, 4 月 6 日 , 「仮 処分 の必
要性 は ない。
」 として, 申 請 を却下 したので あ った。
結果的 に仮処分 申請 を認容 しなかったこの決定 の評価 につい て, エ ール ・フ
ラ ンス当局 は, 「罷業 が 中断 されたため に, 仮 処分 の必要性がな くなった」 が ,
エ ール ・フランス ・ヨー ロ ップの従業員 に も, 1 9 6 3 年法 が適用 されることは認
め られた とした。他方 , 労 働組合側 は, こ の決定が, 罷 業予告義務 を課す とい
128
中 革太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号
)
う当局 の請求 を却下 した ものであ る と意義づ け,労 働者 は, 5日 間の予告 を要
す る ことな く,罷 業 を行使す る権利 を保持 してい ることを確認 で きた と主張 し
た。 この問題 は,エ ール ・フランスの 「
民営化」方針 の決着 が未確定 であった
こともあ って,こ れ以上 の展 開 をみなかった。 フラ ンス労働運動 の政治主義的
・法律無視体質が純粋 な法的問題 として処理す ることを困難 に してい る側面 も
あ ろ う。
以上 ,エ ール ・ア ンテールの企 業形態 の変更 に伴 う,公 役務 における罷業権
行使 に関す る1963年法 の適用 問題 の推移 を概観 した。 ここでは,「民営化」問
題 に藉 口 した労働者 の基本的権利 の制約 の一典型 を見出す ことがで きる。労働
者 の代表制度 の変更 も含 めた,「民営化」 にお け る,労 働者 の権利 ・地位 の扱
い について,今 後個別的 な事例 の分析 も併 せて,理 論的 な検討が必 要であ ろ う。
(2)労働審判所選挙 問題
① 1997年選挙結果
1997年12月10日,労 働審判所 の選挙 が実施 された。今回の選挙 は,1992年 以
来 5年 ぶ りの定例 の改選 であったが,こ の 間 に,フ ラ ンス労働運動 は,エ ール
・フランス争議 と1995年末大争議 とい う歴史 に名 をとどめるべ き二 つ の大事件
を経験 してい た。 この時期 にお け る総体 的な基調 は,「労働 (組合)運 動 の危
機 にお ける労働組合 の代表権能 の動揺 と再生」 として描かれていたのであって,
こ うした経済的 ・社会的 ・政治的 ・国際的 な 「
複合的 な危機」 の 中での,こ の
選挙 の実施 とそ の結果 には,従 来 にも増 して,大 きな関心が払 われてい た。 こ
こでは,労 働組合 の代表権能 をめ ぐる新 たな動 向の視点 か ら,候 補者推薦名簿
提 出資格問題 を取 り上げるが ,ま ず ,今 回の選挙結果 について概観 してお くこ
ととす る。
今 回の選挙 に関 わって最 も衝撃的 な結果 は,投 票率 の大幅 な後退 で あ り,棄
権率 の増大 で あ った。選挙 区別 の選挙人登録数お よび投票率 は,別 表(1)のとお
の400/0が
りで あ るが ,労 働者選挙 区の投票率 は,1987年 の460/0,1992年
,今 回
は,34%に まで低下 し,約 三分 の二の投票有資格者 が棄権 したか らである。 こ
フランスにおける団結権論の課題 :規制緩和政策と労働組合の代表権能
129
のような棄権率の増大 は,一 概 に労働運動の危機 と結 び付けることはできない
が,労 働審判所の存立根拠 自体 をゆるがせにす るものであることは否定 しがた
く,後 述する労働審判所選挙の改革問題の底流 となっていることは明 らかである。
ある。使用者側 は,CNPF・
立候補者数および選挙結果の概況 は,別 表(2)で
別表(1)選 挙 人登録 数 ・投 票率
使用者選挙 区
登録選挙人数 投 票率(% 登録選挙人数 投 票率(%)
138,353
19.26
4,193,055
47。66
265,824
14.81
4,465,452
27.60
62,839
30.01
553,244
31.78
359,262
25.27
3,704,831
28.34
93,243
18.42
1,742,189
33.62
919,521
20。97
14,568,771
34.40
ttbre 1997.
d u 2 3 c de も
資料出所 L i a i s o n s s o c i a lgeiss,lLaё
t i o n s o c i a7l7e7,7N °
業業業 他 門体
F弓
の嚇
工商 農 そ管 全
吉B
別表( 2 ) 選 挙 結 果
労働 者 選挙 区
CGT
立候補者数
Ⅲ
当選者数 l)
/ o)
得票率(°
得票率(前回)
CFDT
F0
CFTC
CECCC UNSA
CSL
Dix
CFNT
その他
1 3 , 6 1732, 6 14 31 , 7 l0 L3 0 10 02 , 5 71 6, 9 25 2, 9 8 48 1 9 1 , 7 23 6, 5 5 1
18
80
7
69
26
423
254
2,574 2,188 1,548
Ⅲ
2.26 2 )
33111 25,34 20.55 7.52 5.92 0,72 4.22 0 . 3 1
中
2.59 3 )
4,37
33.43 23.71 20.40 8.59 6 . 9 1
ネ1 ) 選
挙直後 の議席数 で あ り, C F N T 関 係 の選挙無効結果 を含 まない。
* 2 ) C F N T の 得票 を含 む。
Ⅲ
3 ) D i x お よびU N S A 結 成前 の諸組織 の得票 を含 む。
使用者選挙区
Enlreprise Plus
SNPMI
CID―UNATI
0.75
そ の他
CFNT
一
5,90
32
FNEML
87.98
1 9 1
〇
1 1 , 6 1 5 1 , 6 9 2
423
6,535
4
2
立候補者数
当選者数
/ o)
得票率(°
9
_章 4)
1 , 5 0 6
179
5.35
ネ
4 ) 候 補者名簿 が無効 とされる。
釧糊
cembre
1997,p.2 et 12556 du 5 dも
CttB諸 i疑 弓
鑑 ,都耕 品23 d6cembre 1997.
紛 晋2,灘 品平
130
中 昌太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
C G P M E ・ F N S E A ・ U P A ・ U N P A L が , 統 一名簿 ( E n t r e p r i s e P l u s 作成
) を し,
「
候補者名簿 か ら, 政 治的関係者特 にF N を 排 除す るよ うに努 めた」 ことが ,
今 回の特徴 的な出来事 で あ る。 この よ うな使用者団体 の結束 ( それに伴 う候補
まで落 ち込 んだ使用者選挙区の投票率 を
者 の大量擁 立 ) は , 1 9 9 2 年 には2 5 0 / 0 に
向上 させ ることを大義名分 とし, さらに, 企 業運営 に影響 を及 ぼ してい る とす
る 「
判例 の偏 向 をただす」 ことを真 の狙 い としてい た。そ の結果, F N の 偽装
策動 を許す よ うな余地 を残 さなか ったため に, 労 働者側 で
争点 となった名簿提 出資格 の問題 も浮上す ることな く, 唯 一 , 同 じ くF N の 偽
組織 ( F N E M L ) の
装組織 で あ るC F N T の , 使 用者選挙 区お よび労働者選挙区 の両方へ の推薦 とい
う事態 だけが問題 となったが , こ れについ ては, 労 働者選挙区の名簿提 出資格
に関連す ることで あ り, 後 述す る。
労働者選挙 区 では, 7 4 , 9 8 1 名の候補者が , 7 , 5 9 7 名簿 によ り, 推 薦 されたが ,
近年 の労働組合運動 の再編問題 の余波 を こ うむ って, U N S A や D i x ( S U D ) と
いった, こ の数年来 に新 たに登場 し, 結 成 された労働組合組織 が候補者名簿 を
提 出 してい る ことが , 今 回の特筆 されるべ き現 象 である。 これ らの新 しい労働
組合組織 の参入 自体 は, 労 働 運動全般 の動向の 中では, 既 成労働組合組織 の存
在 と矛盾 を来す ものでは なか ったが , こ と労働審判所選挙 にお いては, C F N T
とい う 「
鬼 っ子」組織 の問題 とも絡 んで, 微 妙 な位 置づ けを与 えられるので あ
る。その意味 では, 今 回の労働審判所選挙 にお いて, 最 も重要 な問題性 は, こ
のCFNT問 題 にある といって よい。
② FN労働組合僣称問題
CFNT(Coordination francaise nationale des travallleurs)に
よる労働 審
判所 選挙 候 補 者推 薦 名簿提 出問題 を, F N に よる 「
労働 組合」 僣 称 問題 と結 び
つ け る主 張 は , C G T な ど一 部 の 労働 組 合 組織 か ら もな され て い る。 そ の よ う
な立 場 は , 既 成 の労働 組合法制度 の伝 統 的立場 か らの発想 と容 易 に結 び つ きや
す い。 そ こで は , フ ラ ンス にお け る労働 組合法 制度 , 労 働 法典 にお け る代 表 的
労働 組 合 に よる 「
労働 組合 の 自由」 の 法認制度 を前提 とす るか らであ る。 この
フランスにおける国結権論の課題 :規制緩和政策と労働組合の代表権能
131
F N に よる 「
労働組合」僣称問題 は, 実 務 的 には, 1 9 9 8 年 4 月 1 0 日破棄院判決
一
で 応 の決着 が付 け られたが , 特 にその理 由付 け をめ ぐって, 今 後 に大 きな問
ついて, 簡 単 にふれてお くこととす る。
題 を残 した。 この1 9 9 8 年4 月 1 0 日判決│ こ
この破棄院判決 は, 社 会部 ・民事第 1 部 ・同 2 部 の連合部 によるもので, 二
つ の判決 がある。 いず れ も, F N に よる労働組合設立 の試 み を否認 した ものだ
が , 訴 えの 内容お よび判 旨は異 な っている。 まず , 第 一 の判決 は, F N に よる
警察官 の労働組合 ( F N ―P o l i c e ) 設立 に関 わる もので ある。 このF N ―P o l i c e に
つい て, パ リ控訴院 は, 「その設 立 時 か ら, 政 党 の一機構 にす ぎず , 人 種 , 肌
色 , 先 祖 , 国 家的 ・民族的出身 に基づ く差別 を提唱 し, 専 ら, 政 党 の利益 や 目
的 に奉仕す る もので あ る」 と認定 し, F N ― P o l i c e を
違法 で あ る と判断 した。破
棄院 は, こ の上 告審 で ある本判決 にお い て, 「職業組合 は, 違 法 な理由に基 づ
いてあるい は違法 な目的か ら設立 される ことはで きない」 のであ り, 「 したが っ
て, 主 として政治的な目標 を追求 した り, 労 働法典第 L 1 2 2 4 5 条 の規定や憲法 ,
憲法的価値 の条文お よびフランスが批 准 してい る国際条約 に含 まれてい る非差
別原則 に反 して行動す ることはで きない。
上告 を棄却
」 と指摘 し, F N ―P o l i c e の
したので あ る。そ の結果, F N 一P o l i c e は
, 労 働組合 としての地位 や権利 を主 張
で きない ことが確定 したのである。
次 に, 第 二の判決 は, F N に よる監護院職員 の労働組合 ( F N P も
nitentiaire)
に関 わる争訴 である。C G T ・ C F D T お よび監護院事務局長 が , こ の団体 の 「
労
働組合」 としての資格 を禁止す る確認訴訟 を行 った ところ, モ ンペ リエ控訴院
は, 検 事 だ けが , 「公 的 自由の行使」 に属す る事項 にお け るその よ うな権限 を
行使 で きるとし, 訴 訟当事者適格性 を理 由に, そ の訴 えを受理 で きない とした。
しか し, 破 棄院 は, 労 働組合 お よび使用者 の訴 えの利益 は否認 されえない とし
て, 本 件 を差 し戻 したのであった。
13)V.,Pierre Bance,Auiourd'huile syndicat police,demain
FN一
qui?,Le Monde du 25
avril 1998,p.15.
1 4 ) 労働 法典第L 1 2 2 4 5 条によれば, 「出身 , 性 別, 品 行 , 家 庭状況 , 民 族 , 国 籍, 人 種, 政
治的意見 , 労 働組合活動 あ るい は共済活動 , 宗 教的信念」 を理 由 と して, 募 集手続 きの対
象 か ら外 し, 制 裁 あ る い は解雇す ることはで きない。 また, 「罷業権 の行使」 を理 由 と し
て, 制 裁あ るい は解雇す るこ とはで きない。
132
中 昌太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
これ ら二 判 決 は , F N に よる労働 組合 設 立 の試 み を頓挫 させ る こ とになるが ,
第
一 判 決 に よる 「
非差別原則」 の 適用 につ い て は, 直 ちに異論 が 表 明 され るな
ど, 判 例 理論 と して は , 説 得 力 に欠 け る ところが あ る。 そ の 最大 の原 因 は , こ
の 問題 に伏在 す る 「
労働 組合権 と結社 の 自由」 とい う原理 的課題 が 明権 な位 置
づ け を与 え られて い な い こ とに あ る。 こ う した理 論 上 の 問題 の背景 には , フ ラ
ンス 労働 組合運動 の 政治主義 的体 質 が あ る ともい え よ う。労働 組合 の 「
特 定性
の原則」 力S 名目的な もの となって きてお り, 労 働組合 ( 労T S J 組
合権) と 政党
( 結社 の 自由) と の 間の分水嶺 の不分明 さとい う事情 がある。 いず れにせ よ,
この破棄院判決 が , 労 働審判所選挙候補者推薦資格問題 の今後 の展開 に何 らか
の影響 を与 える ことは大 い に推測 されるところであ ろ う。
F N に よる労働組合借称 問題 と絡 み合 い なが ら, 労 働審判所選挙候補者推薦
1 5 )
資格問題 が登場す る経緯 につい ては, す でに別稿 でふれた。 ここでは, そ の後
の経過 と, 労 働審判所選挙 の実施 を挟 んだ, C F N T 問 題 の帰趣 を見 てお く。
③ CFNT名 簿問題
「
代表的」労働組合中央組織 による首相へ の共同書簡の提出により,FNの
労働審判所候補者推薦資格が政治問題化 したが,労 働省側 は,当 初,立 法的規
制 は困難であるとの姿勢 を崩さなかった。今回の選挙 においては,行 政側の対
応 としては,FN(CFNT)に
よる候補者推薦 を放置せ ざるをえない とい う方
針 で あ つた。 しか し,FN系 のFNEML(Fも dもration nationale Entreprise
Moderne et Libertも
s)力S,労 働者選挙区 と使用者選挙区の両選挙区に候補者
を推薦す る動向が報 じられるようになって くると, 8月 になり,労 働大臣は,
「
裁判官 と同時 に当事者であることはで きない。それは,労 働審判所の原則で
」 と指摘 して,デ クレにより,同
ある労使合同の理念を否定す るものである。
一組織 が労働者選挙 区お よび使用者選挙 区の両選挙 区で候補者 を推薦す る こと
を禁止す る との見解 を示 し, デ クレ制定 のために コンセ イユ ・デ タとの協議 を
行 ってい ることを明 らか に した。行政的措置 で あ るデク レで対応す る とい うこ
15)大 和 国前掲論文129頁。
フランスにおける団結権論の課題 : 規制緩和政策と労働組合の代表権能
133
とで,法 案 による立法的措置 を講ず る ことは,時 間的余裕 がない ことを理由 と
してい たが ,法 案化す ることは,労 働法典 の改訂 に直結 し,候 補者推薦資格問
題 の対応 に も立 ち入 らざるをえな くな る ことを回避 しよう としたので あ った。
そ して,こ の段 階 に至 る と,以 前 の立法的規制 を拒否す る立場 か ら転 じて,候
労働組合 の概念」 を結 び付 け る方向での検討 を示唆す るよう
補者推薦資格 と 「
になって きた。 こ う して,労 働者選挙区 と使用者選挙区の両方へ の候補者推薦
問題 に対す る,政 労使 か らの一 致 した拒絶反応 を前 に,FNEMLは ,「二 つ の
選挙区 に候補者 を推薦す ることの危険性」,す なわち労働者選挙区へ のFNの 候
補者推薦問題 へ の影響 を考慮す るとして,労 働者選挙 区へ の候補者推薦 を取 り
やめる ことにな った。争点 は,再 び,FNに よる候補者推薦問題 に立 ち戻 つた
のであ った。
1 7 )
立候補名簿 の状況 は,前 掲別翼 2)のとお りであ るが,FNの 別働隊であるCFNT
名簿 による大量 立候補 は,予 想 されてい たこととはい え,既 存 の労働組合組織
か らの反駿 ・批判 はことのほか強 かつた。FOは ,「労働審判所制度 の独 立性,
政治 と司法 の 間の権力 の分立 とい う共和制原則 を脅 かそ う とす る名簿 の社会的
」 と非難 し,CFNTの 立候補 は,「それ
諮問機関へ の進 出 は,特 に重 要 であ る。
が選挙結果 に影響 を及 ぼすか らだけではな く,選 挙 を政治主義化 して しま うか
ら,極 めて危険 で あ る。」 と批判 した。CGTは ,CFNTの
名称 で提 出 されたす
べ ての名簿 の無効 を要求す るために,裁 判 に訴 える ことを明 らかにした。CFE―
CGCは ,CFNT名
簿提 出 を 「(FNの )政 治的失地 回復 の試 み」 と指摘 し,「労
16)11月に行 われた商 工 会議所 (CCIP)選 挙 にお い て,FNEMLが 候補者名簿 を提 出 した こ
とに対 して ,多 数派 の候補者名簿 (UPI)は ,「経済界 に とって ,デ マ ゴギ ー 的 ,非 現実
的 ,危 険 な性 格」 と非難 を浴 びせ ,「一 切 の 政治家 の介入」 を拒否す る と して,FNEML
へ の批 判 を強め た。労働 組合側 では ,CIttC運 盟 中央 は,労 働組合事務所 で ,FN指 導部
と会談 した との理 由か ら,モ ンペ リエ等 の地域連合組織 の議長や書記長 の職務 一 時停止処
分 を行 うな ど,警 戒心 を強 め つつ あ った。
17)アナ クロ ・サ ンデ イカ リス ト系 のCNTは ,労 働審判所選挙 のボイ コ ッ トを主張 し,こ の
選挙見本市」 であ り,(労 働組合組織 の )「大競争合戦」 と評 し,「使 用者 は,
選挙運動 を 「
自分 たちの理念 を,労 働 運動 の 中 に注入 し,労 働審判所 は,労 使協調 の場 と化 した。」 と
15。
は,フ ラ ンス労働運動 の政治主義的土壌 の 中では,
.,p。
批判 した。Pierre Bance,op.c比
既成 の労働組合組織 は,FN問 題 に有効 に対処 で きない として ,CNTを 評価す る。
134
中 掌太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号
)
働 の公正 とい う当然 の明確 な理念 を全 く配慮 しない政治的代理人の推薦 によっ
て脅 か されてい るのは, 労 働審判所 の運営 自体 で ある。
」 と危機感 を募 らせ た。
C闘『
C は , 「C F N T の 名 の もとに, F N は , 労 働審判所 の社会民主主義的運営 を
変質 させ る。
」 と述べ , C F D T も , 「労働組合 的お よび社会的領域 に属す る事項
へ の政治勢 力 の進入 は望 ま しくない。F N 名 簿 の多 さを考慮 す る と, そ れ を禁
止す るこ とが 緊要 な課題 となってい る。」 とC F N T 名 簿 によるF N の 立候補 をや
り玉 にあげた。
こ う した労働組合組織 の反応 に同調 して, 労 働大 臣 も, 「労働審判所制度 の
正統性 と信頼性 を十分 に保障す るための」法案 を, 労 働審判所選挙後 に提 出す
る意向 を明 らかに した。労働 大 臣 は, 「( C F N T の ) 名 称 は明 白 に政 党 ( F N )
を想 い起 こさせ る もので, そ の言動 や活動 か らは, そ の名簿 の候補者 の選出は,
労働審判所制度 の正常 な運営 に重大 な危険 をもた らしかねない」 と判断 し, F N
の大量立候補 につい て, 印 卜
除 の論理 は, 労 働審判所 には相容 れない。労働審
判所 に参加す る人はすべ て, 出 身 ・国籍あ るい は宗教 を問 われることな く, 公
平 な判断 の権利 を有す る。」 と明確 に述べ たので あ った。そ のために, 個 別的
な労働紛争 を解決す る とい う責務 を負 う労働審判所制度 を 「
堕落 させ変質 させ
ることを 目的 とす るあ らゆる試 み を防止す る」 ことを目的 とす る法案 を準備す
る とい う態度 を明確 に したので あ った。 また, 選 挙 の後 には, 棄 権率 の増大 が
明 らかになる と, 労 働審判所制度 の存 立基盤 自体 の崩壊 の危機感 にも煽 られな
1 8 )
が ら, 選 挙制度 の改革 に取 り組 まざるをえな くなった。
これ らの 「
代表的」労働組合組織 や労働大臣の側 か らのF N 排 撃 の言明 に対
して, 初 めて候補者名簿 を提 出 したU N S A は , 「F N 名 簿 を制限 しようとす る こ
とは, 間 接 的に, 小 さい組織 の名簿 が影響 を受 けることになる。解決策 は, 労
働組合 中央組織 による立候補 の独 占 によっては成功 しない。
」 と既成 の労働組
合代表制度 へ の異議 を申 し立 てた。 また, C S L も , 候 補者数 を前回 よ り5 0 % 近
1 8 ) 推薦名簿提 出資格 も含めた選挙制度改革 の輪郭 は, 未 だ明 らか になって い ないが , C G T
か らは, 恒 常 的 な選 挙名簿 の作成 ( 登録 のための事実提供 に関す る使用者 の義務) , 使 用
者側 か らは, 選 挙 に代 えた指名方式 の導入な どの案 が登場 して い る。
フランスにお ける団結権論 の課題 :規 制緩和政策 と労働組合 の代表権能
く増や し, 労 働 審判所 にお け る地歩 の拡大 を図 つていたが , 「 フラ ンスの労働
組合法制 の改革 を期待す る。そ れは, 政 府 の恣意的な決定 に基 づいて代表性 が
認 め られてい る官制労働組合 が, 就 業人口の 5 % 以 下 を結集 してい るにす ぎず,
その予算 の8 0 0 / 0 が
国家 か らの援助 に支 え られてい る現状 を変 えるためである。
」
と, F N 問 題 を契機 に, 「代表的」労働組合制度 の強化が図 られる ことへ の警戒
心 を隠 さなか った。 ここには, 労 働組合 の制度化政策 ( 労働組合 の複数主義原
則 の もとで の, 「代表 的」労働組合へ の特権 の集 中) が , こ れ まで, 労 働組合
政策 ( 労働組合 の権利 の拡張) と して遂行 されて きた ことか ら更 に踏み出 して,
労使合同機構 で あ り, そ の裁判的機能 か ら 「中立性」 を要請 される労働審判所
の構成 ・運営 にまで及 ぶ こ とに対 して, そ の労働組合制度化政策 の対象外 の労
働組合組織 か らの危機感 が現 れてい る。今後 の候補者 の推薦資格 の立法化 の 中
で, こ うした 「
少数派」労働組合組織 の立場 をどの よ うに配慮す るかが , 重 要
な論″
点になろ う。
C F N T 名 簿 ( 労働者選挙 区2 0 6 : 使 用者選挙 区 1 ) に 対 しては, 前 述 の よ う
1 9 )
に, C G T は じめF O ・ C F D T が , 無 効確認 を求めて, 提 訴 した。 さらに, ドウ
ブ県知事 からも, C F N T 名 簿の無効確認訴訟がなされた。 この大量の訴訟の審
理 は, C F N T 名 簿の 「
非正規性」, 「判事 の職務 と民族的選別 とい う主張 とは両
立できない」, 「労働者選挙区 ・使用者選挙区に名簿が跨 れば, 労 使対等主義 を
侵害す る」 といった論点 を軸 に, 展 開 したが, 選 挙前 に, 第 一審では, 5 7 名簿
2 0 )
が無効 とされた。 こうして, 第 一審判決 は, C F N T 名 簿 を有効 とす るものと,
19)CFDTは ,実 際 には,「時 間的制約」 と 「
立法上の暖 昧 さ」 を理 由に,CFNT名 簿 に関す
る提訴 を重 視 しなか ったが ,破 棄 院判決 に関 しては,「誰 で も名簿提 出 の48時間前 に,労
働組合 と名乗 り出る ことがで きる。
」 として批判 した。 ノタ書記長 は,「 フランス法 は,自
由主義 的 で あ る。 どの よ うな人 で あれ立候補す ることを認 めて い る。 この よ うな自由主義
的 な考 え方 を検討すべ き時期 になって きた。ある政党が労働組合 になる ことはで きない。
労働組合 は,ま ず ,独 立 して い る必要があるか らだ。 さらに,労 働者 が労働審判所 で権利
を擁護す るため には,代 表 される ことを認 めな けれ ばな らない。
」 と述べ た よ うに,「組合
の 自由」 の 自由主義的法理念 と 「
代表的 な労働組合」概念 を基 軸 とす る労働組合制度化 と
の 間の乖離 と矛盾 を直裁 的 に問題視 して い た。
20)判 決理 由の詳細 は不明で あるが ,名 簿 についての形式的理由や不正確 な情報 を含 むといっ
た理 由 によ り無効 とした判決 もあるが ,21判 決 は,実 体的理 由に よる もの とされる。
136
中 革太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号
)
無効 とす る もの とに分 かれたが ,そ の 中で,有 効 と判断 された名簿 に関 して,
上告 に及 んだ 5つ の原審判決 につい て,破 棄院 は,選 挙 日 (12月10日)直 前 の
2日 ,い ず れ も 「
受理適格性 を欠 く」 として上告棄却 の判決 を くだ したのであ
る。その理由 とす るところは,選 挙名簿 に関す る争 いは,選 挙 の事前 ではな く,
事後 に判断 されなけれ ばな らない とい う一般論 に基づ くものであ った。検事総
長 によれば,労 働法典 は明確 な規定 を定 めてい ないが ,破 棄院 は,選 挙 の合法
性 につい ては,事 後的 に審査す るべ きであ り,事 前 に立候補 の合法性 を対象 と
する ことはで きない。事前 の選挙 の審査 は,イ デオロギ ー的な性格 の もの とな
るか らであ り,事 後的な審査が, 自由を よ り保護する ことがで きるか らである。
つ ま り,あ る候補者が選挙 の 目的に合致 した綱領 を持 ってい るか どうかを判 断
す るのは,裁 判官 ではな く,選 挙人 の権限 だか らであると
CGTは ,こ の破棄院判決 を,「寛解 主義」 と評 したが ,問 題 は,第 一審 で,
CFNT名 簿 を無効 と判断 し,そ の撤 回を命 じた判決 の扱 いで あ ったが ,労 働大
臣は,上 記 の上告棄却判決 は,名 簿 の無効 を宣告 した判決 を取 り消す ものでは
あ りえない として,実 際 の選挙 では,第 一審 で無効 とされたCFNTの 57名簿 は,
除外 された。
選挙後 ,改 めて,CFNT名 簿 に関 して,裁 判 で争 われることになった。 まず ,
CFNTの 名簿 か らは18名の候補者が当選 とされたが ,第 一審 は,う ち16名の 当
選無効 の半u決を くだ した。 そ の判 旨は,CFNTと FNと の 同一性 を認 め,労 働
審判所選挙 に政党 が参加あ るい は関与 で きるとい う考 え方 を退 けて,候 補者名
簿 にお け る 「
不正規性 」 を理 由 とす る もので あ ったと また,CFNTの 当選人が
出なか った選挙 区で も,「FNと CFNTの 間 には,同 一性があ り,そ の名簿 によ
り主張 されてい る民族的選別 は,労 働審判所裁判官が遵守 しなければな らない
原則 と根本的 に矛盾す る」 か ら,そ の構成員 には,「被選挙権」 がない として,
21)Roland Kessous,Ё
lectiOns prudihomales:1'ombre du Front natiOnal,Droit
so
1,
janvier 1998,p.54.
2 2 ) 破 葉 院 も、1 9 9 8 年6 月 2 5 日、C F N T 名 簿 の 「
不正規性」 を確認 した ( 判旨は不明) 。
2 3 ) C F N T の 側 か らは 、選挙前 に くだ された名簿無効判決 を不服 と して、選挙無効 の訴 えを
起 こ し、 同時 に、C G T に 対 して 、P C と の結 びつ きを理 由 と して 、召還 を要求 した ( 結末
は不明) 。
フ ラ ンス にお け る団結 権 論 の 課題 : 規 制 緩 和 政 策 と労働 組 合 の代 表権 能
137
2 3 )
C F N T の 得票結果 を無効 とした。
以上 , C F N T 問 題 の経過 を追跡 して きた。繰 り返 し述べ て きた ことであるが,
ここには, 「代表的労働組合」概念 を核 とす るフラ ンスの労働組合法制 とそれ
を前提 に展 開 されて きた労働組合 の制度化政策 の限界 と矛盾 が , 労 働組合複数
主義 と組合 の 自由 を基本理念 とす る伝統的憲法秩序 との相克 と相倹 って, 顕 在
化 して きてい るのである。そ して, こ の よ うな動向 を通 じて, 労 働組合 の代表
権能 の動揺 と再生 の諸相 を明 らかに しなが ら, 今 日的課題 に応 える団結権論 の
方向 を探 っていかねばならないので あ る。
L7actualit6 du droit syndical en France :
La dlrlglementation et le droit syndical
Nous traitons les problё mes du droit syndical a l'も preuve de l'orientation
politique vers la dもrもglementation.
Introduction
(1) La privatisation d'Air France et le droit syndical
rも
① La politique de la dё
glementation et la privatisation d'Air France
tablissけ
ve pour les salariも
s dans llも
② Rもglementation du droit de grё
ment privatisも
(2) Les も lections prudihomales de dも cembre 1997
lections
① Rもsultats desも
② Le statut juridique du syndicat
parfondも
FN
③ La candidature de CFNT et ses effets socials,politiques et j
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