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トランプに怯えるメキシコ、テキーラショック再来を

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トランプに怯えるメキシコ、テキーラショック再来を
リサーチ TODAY
2016 年 12 月 19 日
トランプに怯えるメキシコ、テキーラショック再来を防げるか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
トランプ次期米大統領が主張するNAFTA見直し等の通商政策は、NAFTA域内貿易で黒字を稼ぐ構造
のメキシコに大きな打撃となり、輸出立国であるメキシコの優位性を揺るがしうるものである。また、不法移民
対策の強化は、移民送金に依存する低所得者層を中心にメキシコの個人消費に打撃を与え、非正規雇用
の増加等を通じ雇用市場を不安定化させる要因となる。みずほ総合研究所は、トランプ・ショックがメキシコ
に与える影響に関するリポートを発表している1。強硬な政策が実現すれば、経常収支の悪化、資本流入の
不安定化によりペソ安が加速され、緊縮的な金融・財政政策の発動がメキシコ経済を下押しする悪循環か
ら抜け出しにくくなるリスクがあることに留意が必要だ。下記の図表はメキシコのペソ/ドルレートと政策金利
の推移を示す。トランプ・ショックによってペソ安が続いており、米大統領選後、ペソ/ドルレートは一時史上
最安値となる21ペソ台に下落した。また、ペソ安防衛の観点から、政策金利が12月15日には5.25%から
5.75%へと引き上げられ、2015年12月から2.75%ポイントの引き上げとなっている。さらに、財政面でも今年
は2度の緊縮策が発表され、金融・財政両面からの緊縮策が強化されている。その結果、ペソ安に加えて
長期金利の大幅上昇と、株式市場(ボルサ指数)の大幅な低下というトリプル安に見舞われている。
■図表:メキシコのペソ/ドルレート・政策金利推移
(ペソ/ドル)
(%)
6.0
22
21
ペソ/ドル
政策金利(右目盛)
20
5.5
5.0
19
18
4.5
17
4.0
16
3.5
15
3.0
14
2.5
13
12
2015
2016
2.0
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表はNAFTA3カ国の貿易関係を示すものである。図表からメキシコにとって米国を中心と
したNAFTAへの貿易依存度がいかに高いかがわかる。一方、米国はNAFTAへの依存度は相対的に低く、
域内貿易収支は赤字であることで、トランプ氏がメリットを実感できないと考えられる。
1
リサーチTODAY
2016 年 12 月 19 日
■図表:NAFTA3カ国の貿易関係
項目
国
メキシコ
米国
対米国
対カナダ 対メキシコ
NAFTA
その他
輸出
構成比%
81.2
2.8
-
83.9
16.1
輸入
構成比%
47.3
2.5
-
49.8
50.2
貿易収支
億ドル
1,221
6
-
1,227
▲ 1,373
輸出
構成比%
-
18.6
15.7
34.4
65.6
輸入
構成比%
-
13.1
13.1
26.2
73.8
貿易収支
億ドル
▲ 152
▲ 584
▲ 735
▲ 6,721
輸出
構成比%
76.7
-
1.3
78.0
22.0
輸入
構成比%
53.1
-
5.8
58.9
41.1
貿易収支
億ドル
901
-
▲ 192
709
▲ 824
(倍) 【輸出入金額の変化】
(1993年→2015年)
8
7.2
7
NAFTA域内輸出
6
NAFTA域内輸入
5
4.2
3.6
4
3.9
2.8 2.7
3
2
1
カナダ
0
メキシコ
米国
カナダ
(注)表中の数値は 2015 年。
(資料)メキシコ中央銀行、米商務省、IMF よりみずほ総合研究所作成
下記の図表はメキシコの経常収支の推移を示すが、このうち貿易収支を示す財の収支は、NAFTA内が
黒字であるが域外が大幅赤字で、全体では貿易赤字を続けている。従って、NAFTA見直しで域内黒字が
減少し、移民送金停止等の不法移民対策の強化で移転収支黒字が減少すれば、経常収支の赤字がさら
に拡大する不安がある。筆者が今月、ワシントンを訪問しヒアリングした感触では、米国企業が自動車のビ
ッグ3を含めメキシコで大規模な生産を行い、それがサプライチェーンに組み込まれているなかでは、トラン
プ氏は現実的には強硬政策はとりにくいとの見方が多かった。ただし、米国のさじ加減でメキシコの動向が
左右される状況は変わらない。しかも、ドル高の中、ペソ安からくる資本流出には注視が必要だろう。
■図表:メキシコの経常収支推移
(億ドル)
400
財収支
サービス収支
300
移転収支
経常収支
所得収支
200
100
0
-100
-200
-300
-400
-500
-600
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014 (年)
(資料)メキシコ中央銀行よりみずほ総合研究所作成
1
西川珠子 「トランプ・ショックとメキシコ」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 11 月 21 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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