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爆発実験の定量化

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爆発実験の定量化
高 校 化 学
爆発実験の定量化
大阪府立四条畷高等学校
目 的
爆発実験を行うと、生徒は手に汗を握り、爆発する
とそのすさまじさに驚き、おもしろいと感じる。しか
し、高校化学の爆発実験には、定性実験が多く、定量
実験が見あたらない。また、扱う気体や液体の種類も
限られている。そこで、ペットボトルに可燃性の気体
または液体を入れ、空気と混合しニクロム線で点火す
ると、轟音を発しペットボトルが飛ぶ装置を考案した。
この装置を用いると、可燃性であれば、気体はもちろ
ん比較的蒸気圧の高い液体もすべて爆発可能である。
そのためには、化学反応式、アボガドロの法則、空気
の組成、モル分率(ドルトンの分圧の法則)、気体の
状態方程式、温度による飽和蒸気圧の変化など高校化
学の気体の理論を駆使し、体積や質量などを測りとる
必要がある。したがって、この装置を用いた爆発実験
は、気体の理論の学習に有効である(図 1、写真 1)
。
スタンド
石 津 丹 勇*
たこ糸
(取り外してもよい)
太い針金
ゴム栓
可燃性気体
水
ニクロム線
ペットボトル
電源装置
注射器
C型
クランプ
かくはん子
図 1 気体の捕集と液体の秤量と爆発装置
概 要
ø.可燃性気体の爆発
ブタンなどの気体の完全燃焼の化学反応式から、ペ
ットボトル内の空気と過不足なく反応する量を計算す
る。その量を水上置換(写真 2)または大型注射器に
よりペットボトルに捕集し、空気と混合後、点火する
と爆発する。
¿.可燃性液体の飽和蒸気の爆発
液体をペットボトル内に 1 ∼ 2mÎ入れ、かくはん子
を用いて飽和させた場合、多くの物質は、室温におけ
る飽和蒸気の密度が高すぎるか低すぎるために爆発し
ない。化学反応式から、過不足なく反応する場合の蒸
気圧を計算する。また、温度による蒸気圧変化(蒸気
圧曲線)を調べる。湯、氷水、冷凍庫を用いて加熱ま
たは冷却し、計算した蒸気圧に近づけた後、点火する
と爆発する。爆発の可否の実験結果を表 1 に示す。
写真 1
爆発実験装置
写真 2 水上置換によるブタンの捕集
(注)石津丹勇教諭は平成 15 年 4 月 1 日付で大阪府立野崎高等学校に転任された。
*
いしづ たんゆう 大阪府立野崎高等学校 教諭 〒 574-0014 大阪府大東市寺川 1-2-1 @(072)874-0911
E-mail [email protected]
1
表 1 酸素と過不足なく反応する液体の質量とそれぞれの爆発の可否とその蒸気圧
気圧 1.0atm
気温 30 ℃
飽和蒸気の爆発の可否と蒸気圧/mmHg
液体の種類
過 不 足 な く 過不足のない量
室温
氷水で冷却
冷凍庫で冷却
反 応 す る 質 の爆発の可否と 湯で加熱
量*1/g
蒸気圧*2/mmHg (57 ∼ 60 ℃) (30 ℃)
57 ℃の値
30 ℃の値
0 ℃の値
− 18 ℃の値
メタノール
0.080
○*3
89.4
×
561.1
○
163.8
△
30.1
×
8.7
エタノール
0.061
○
47.5
×
306.6
○
78.6
×
11.9
×
3.0
1-プロパノール
0.054
○
32.3
×
131.4
○
28.4
×
3.1
×
0.6
1-ブタノール
0.051
×
24.5
○
50.8
×
9.3
×
0.8
×
0.1
ジエチルエーテル
0.051
○
24.5
1586.3
×
644.5
△
185.1
○
74.0
ヘキサン
0.038
○
15.7
517.7
×
187.1
×
45.3
○
15.9
アセトン
0.059
○
36.2
783.0
×
285.2
△
70.9
○
25.6
酢酸
0.116
×
69.1
○
79.1
×
20.5
×
3.1
×
0.8
酢酸エチル
0.072
○
29.2
×
376.2
×
122.5
○
25.3
×
7.8
ベンゼン
0.043
○
19.7
×
351.7
×
119.3
○
26.3
○
8.6
トルエン
0.043
○
16.5
×
123.2
○
36.7
○
6.7
×
1.9
×
* 1 ペットボトルの容積 530 mÎ当たりの質量
* 2 過不足なく反応する量の蒸気圧は、すべて蒸発した場合の計算値
* 3 はっきり爆発した場合○、爆発が不安定またはおだやかに反応した場合△、爆発しなかった場合×とした。
¡.空気と過不足なく反応する可燃性液体の爆発
室温において、ペットボトル内で空気と過不足なく
反応する液体の質量を、気体の状態方程式から求める。
0.001g の精度の電子天秤を用いて、小型注射器に入れ
た液体をその質量分だけペットボトルに入れ、かくは
ん後点火する(写真 3、4)。表 1 の液体は、この方法
でほとんど爆発するが、蒸気圧の低いブタノールと酢
酸は、室温では、少量しか蒸発しないため爆発しない。
ただし、温度を高くし、完全に蒸発させると爆発する。
写真 4
ペットボトルへの液体の注入
¬.爆発限界の測定
気体の場合体積、液体の場合質量を変えて測りとり、
ニクロム線を赤熱させる。爆発しなければ、ニクロム
線が焼き切れるので、その限界が測定できる。液体の
爆発限界の測定結果を表 2 に示す。
写真 3 注射器による液体の質量の測定
2
表2 液体の爆発限界
気圧 1.0atm
爆発の下限
液体の種類
気温 30 ℃ 爆発の上限
質量/g
蒸気圧
/mmHg
体積%
文献値
体積%
質量/g
蒸気圧
/mmHg
体積%
文献値
体積%
ジエチルエーテル
0.027
13.0
1.7
1.9
0.440
211.8
27.9
48.0
ヘキサン
0.022
9.1
1.2
1.2
0.100
41.4
5.4
7.5
アセトン
0.036
22.1
2.9
2.6
0.129
79.2
10.4
12.8
酢酸エチル
0.045
18.2
2.4
2.5
0.169
68.4
9.0
9.0
はっきり爆発が認められる範囲を示す。おだやかな反応は,範囲外とした。
教材・教具の製作方法
学習指導方法
ø.準備する実験器具等
ø.気体(ブタン)を爆発させる場合の指導例
(爆発は、演示実験で行い生徒に見せた。
)
500mÎペットボトル、スタンド、ゴム栓に針金を 2
本突き通した点火装置、ニクロム線、C 型クランプ、
点火装置固定用クランプ、電源装置(ブレーカー付き)
、
2m コード、デジタル天秤、注射器、氷、湯、温度計、
水槽、冷凍庫
1.化学反応式を完成し、ブタンと酸素の分子数の比
を求める。ブタンの係数は 1 とする。
C4H10 +
¿.実験装置の製作方法
1.ゴム栓に太い針金 2 本(たとえば、ハンガーに使わ
れている針金)を突き通し、その端にニクロム線を接
続し点火装置とする。約 2m のコードを用いて点火装
置と電源装置をつなぐ。スタンドを C 型クランプで
固定し、クランプに点火装置を取り付ける。500mÎ
ペットボトルとスタンドを 2 ∼ 3m のたこ糸でつな
ぐ(たこ糸をつながなければ、約 7 ∼ 10m 飛ぶ)。
2.液体の爆発の際には、液体を一気に蒸発させるた
めにかくはん子を入れペットボトルを振る。不要な
ペットボトルを 1.7 × 4cm に切り、対角線で直角に
折り曲げかくはん子とする(図 1、写真 3、4)。
3.冷凍庫で冷却する実験では、冷凍庫から出すと急
激に温度が上昇するため、ペットボトルを保温する
袋をつくる。たとえば、荷造り用クッションをペッ
トボトルが入る形にし、テープでとめる(写真 5)。
13
O2 ìî 4CO2+5H2O
2
2.捕集するブタンの体積を VmÎとし、必要な酸素
の体積を求める。アボガドロの法則が成り立つから、
分子数の比は、体積比となる。
酸素の体積=
13
VmÎ
2
3.必要な酸素を含む空気の体積を、空気中の窒素と
酸素の分子数の比(体積比)4 : 1 より求める。
空気の体積=
13 × 5
VmÎ
2
4.ブタンと空気の合計体積と、ペットボトルの容積
536mÎが等しいことから、捕集するブタンの体積
VmÎを求める。
V+
13 × 5
V = 536
2
V = 16mÎ
Ⅱ.液体(アセトン)の蒸気を爆発させる場合の指導例
(最近考案したので、まだ生徒には見せていない。)
1.化学反応式の完成
CH3COCH3+4O2 ìî 3CO2+3H2O
2.過不足なく反応する場合のアセトンの蒸気圧
大気圧× モル分率 = 蒸気の分圧
1
760 ×
= 36 mmHg
1+4×5
アセトンの飽和蒸気圧 =170 mmHg(18 ℃)は約 5 倍
写真 5
ペットボトルの保温材
3
3.蒸気の量を減らせば爆発するはずである。
方法1)冷却し、空気と過不足なく反応する蒸気圧の
36mmHg に近づける。
アセトンの飽和蒸気圧の温度変化のデータを示す。
飽和蒸気圧が36mmHgになる温度は、
−12℃∼−13℃。
冷凍庫で冷却すると(− 18 ℃)爆発する。冷却する
と爆発する現象には意外性がある。
方法2)過不足なく反応する場合のアセトンの質量を
気体の状態方程式より求める(18 ℃、1atm)。
W
1
×0.536=
×0.082×
(273+18)
1+4×5
58
W = 0.062 g
注射器を用いて、質量差が 0.062g になるようにペッ
トボトルに注入し、かくはん後点火すると爆発する。
実践効果
1.反応の量関係の分野で、都市ガスのメタンと携帯
用コンロのブタンを取り上げた。空気と過不足なく
反応させる気体の体積計算は、高校 1 年生にとって
簡単ではない。しかし、十分時間をとり、ヒントを
順に示すと、ほとんどの生徒がその体積を求めるこ
とができた。問題集の問題を解くよりはるかに積極
的な姿勢が見られた。
2.無機化合物の分野で硫化水素とアンモニア、有機
化合物の分野でアセチレンを爆発させた。特にアセ
チレンの爆発では、そのすさまじさと、過不足ない
量では、すすが発生しないことを確認した。
3.数年前、課題研究で 3 年生が、メタンとブタンの
爆発限界を求めた。その結果を表 3 に示す。
表3 気体の爆発限界
爆発の下限
爆発の上限
生徒 石津 文献値 生徒 石津 文献値
携帯用コンロ
(ブタン)
8mÎ 10mÎ
都市ガス
(メタン)
27mÎ 26mÎ
4
1.5 % 1.9 %
5.1 % 4.9 %
38mÎ 39mÎ
1.9 % 7.2 % 7.4 %
8.5 %
71mÎ 74mÎ
5.3 % 13 % 14 %
14 %
その他補遺事項
実験において安全は最優先事項である。ペットボト
ルを破裂させないために次の点に注意する。
1.耐圧性(炭酸用)の新しいペットボトルを用いる。
2.ゴム栓に取り付ける際に、強い力で取り付けない。
ただし、あまり弱い力で取り付けると、爆発音が小
さく、飛ぶ距離も短くなる。
3.ボトルが飛んで行く方向と装置から 2m以上離れる。
4.予備実験を十分行い、取り付ける力かげんを確認
する。実験規模はむやみに大きくしない。
5.特に爆ごうを起こすことが知られている爆発力の
強いアセチレンと水素には注意を要する。放電でな
くニクロム線の点火にこだわるのは、焼き切れてし
まうニクロム線の方が点火の可否が明瞭であること
と、爆発の際に赤熱状態が見えた方が、より緊迫感
があり、スリルのある実験になるからである。
なお、ニクロム線(300W 用)はホームセンター
等で購入できる。
参考文献
1)西口 毅:化学と教育,49,290(2001)
.
2)石津丹勇:化学と教育,48,336(2000)
.
3)石津丹勇:化学と教育,51,261(2003)
.
4)日本化学会編、改訂 4 版化学便覧基礎編¿,丸善,
126-135(1993)
.
5)日本化学会編、化学便覧応用編,丸善,1401-1404
(1965).
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