Comments
Description
Transcript
NOVEL 「継承」
C HAPTER 72 継承 ヒロ・ナカムラの姉キミコ。亡き父の残したヤマガトを引き継いだものの、 新しい職務は想像していたものと違っていた。 彼女は父、 そして父が尊敬してやまない過去の英雄たちに想いを馳せる…。 生け花とは、 単に花を生ける行為を 意味するだけじゃない。 生け花とは、 魂を表現するもの。 自然の驚異的な美と霊的な 本質を伝えるための手段。 その形を通して、 見る人の心に直接語りかけることができる。 でも父にとっては どうでもいい ことだった。 父はこの世にある美には 関心がなかった。 父は過去の世界に生きていたから… 遠い昔の、戦場での武将たち。 彼らの栄光と勝利… …日本で最も偉大な英雄、 タケゾウ・ケンセイ率いる軍は、 鳥取の鬼を打ち倒したのです。 あの激戦の後、 2人の侍が鬼の刀をめぐって 争い始めます。 どちらも、敵軍の武士を37人 殺したと言いはり、 その武勇に対するほうびとして 刀をもらおうとしたのです。 ケンセイは身勝手な主張をする 武士の間に割って入りました。 「おぬしらは見た目だけの侍か。 まるで子供のけんかではないか。」 「くだらない言い争いで、 己の誇りと名誉を汚すでない。 確かに、おぬしらは今回の戦で 敵を相手に勇敢に戦った。 だが、誰よりも多くの敵を討ち取ったのは私だ。 ならば、この刀は私が持つのが当然だ。」 「それに、 100人を倒す武士よりも 1人の敵を倒した少年の方が 賞賛されるべきではないか。」 「共に戦ったからこその 勝利だ。 これは我々日本国の 勝利なのだ。」 ケンセイは素手で刀を半分に折り、 それぞれの武士に刀を渡しました。 わかるか、ヒロ? 偉大なタケゾウ・ケンセイは、 自分自身にも周囲に対しても、 決して失敗に甘んずることなく 日々邁進し続けたんだ。 …自尊心がいかに名誉を傷つけるか。 この教訓を生涯忘れることのないように。 すごいだろ? これほどの 傑作だ… 偉大なタケゾウ・ケンセイなんかより、 ヤマガトが今直面している難題への答えが 描いてあるほうが、どれほど助かるか。 キミコ。過去を思い出し、敬意を払えば、 未来に活用できる素養を身につけることができる。 すべての生命は不滅なのだよ。 父の死は とても悲しかった。 でも、あの世で尊敬する英雄の 隣に立つことができる父は、 とても幸せなのではないかとも思った。 キミコさん、こんなときに心苦しいんだが、 ビジネスの世界は待ってくれない。 たとえ、君の偉大なお父上のためでもね。 キムさん、父のことはよく分っています。 父の業績に対するあなたの献身的な働きには、 父もきっと感謝しているはずです。 仕事が山積みなのは分かっています。 覚悟はできています。 キミコさん、 責任者がいなくて 困っているのは、 お父上が残したプロジェクト… …ヤマガト・フェローシップ なんです。 ヤマガト工業における父の地位を私が受け継ぐ。 父はそう考えていたはずよ。 なのに、父の趣味のお守りなの? でも、会社の人間が 私をここに送り込んだ理由は まさしくそれよ。 …注意をそらしておいて その間に私の正当な地位を 奪い取る画策をする… ナカムラ会長にお越しいただけて、 うれしく思います。 こちらこそ光栄です。 急な話だったのに 歓迎してくださって、ありがとう。 ダイ、開館時間は何時からなの? あの…もう 開館して います。 そう。 ケンセイ、もう父からの賞賛も聞けないし、 もう誰もあなたに興味を持たないみたいね。 引退する時期なのかもしれないわよ。 弊社の継続的なサービスに対するお礼として、 ショウライがこの新しいPDAを送ってきました。 ショウライのアカウントの責任者は私ですから、 私がいただくのが当然かと。 自分の正当な地位を黙って奪われるつもりはないわ。 …父のためにも、会社のためにも、強くならなくては。 確かに彼は責任者ですが、 その贈り物は、 最近の私の努力に対するお礼として送られてきたはずです。 ナカムラ社長、礼を受け取るのは私のはずです。 子供のときからずっと嫌いだったその姿を見ていたら、 父が言わんとしてきたことがようやく分かった。 そうですね、 2人ともショウライのために 良く働いてくれました。 でも、お互いの協力はもちろん 会計士、管理担当、あなた方の上司、 たくさんの支えがあったはずです。 「過去」が 道を示してくれる。 あなた方の心の狭さには、 がっかりです。 恥を知りなさい。 あなた方は社員の1人です。 個人の損得は関係ありません。 ヤマガトあってこそです! そのとおりよ、 ダイ… 一大プロジェクトよ。 ヤマガト・フェローシップ・オンラインを拡大して、 英雄たちのパワーと重要性のメッセージを 世界中に発信するの。 フェローシップに人を集めることができないのであれば、 こちらからフェローシップを届けるのよ。 確かに、 大変かもしれないけれど、 父は決して失敗に 甘んずる人ではなかったわ。 私も同じよ。