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LC/MS/MS によるα‐ソラニンおよびα‐チャコニンの 高感度分析
長崎県衛生公害研究所報 52,(2006) 資料 LC/MS/MS によるα‐ソラニンおよびα‐チャコニンの 高感度分析法の検討 西川 徹、川口 喜之、村上 正文 Study of High Sensitivity Analysis for α-Soranine and α-Chaconine Using Liquid Chromatograghy / Tandem Mass Spectrometry . Toru NISHIKAWA, Yoshiyuki KAWAGUCHI, Masafumi MURAKAMI Key words: α-soranine, α-chaconine , liquid chromatograghy/tandem mass spectrometry (LC/MS/MS) キーワード: α-ソラニン、α-チャコニン、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析 は じ め に かじめ、メタノール 5ml、蒸留水 10ml でコンディショニ 長崎県においてバレイショは主要な農産物の1つ ングを行い、使用した。 であるが、バレイショは下痢・嘔吐・発熱・痙攣などの メタノールやアセトニトリル、蒸留水は関東化学㈱ 食中毒起因物質であるα-ソラニン及びα-チャコニ の高速液体クロマトグラフ用を使用し、その他の試薬 ンなどに代表されるグリコアルカロイドを含んでおり、 は特級品を用いた。 他県において集団食中毒事例も報告されている 1~3) こうした事例を踏まえ、健康危機管理の観点からバレ 。 馬鈴薯は長崎県産のものを選び、皮を取り除いた 部分を分析に用いた。 イショ中グリコアルカロイドに対する高感度分析法を 検討することは重要である。 グリコアルカロイドの分析法は GC 法や HPLC 法に 2 分析条件 (1) 高速液体クロマトグラフ よる方法が汎用されているが、GC 法は誘導体化の前 HPLC:島津製作所製 LC-10AVP システム 処理が必要で操作が煩雑であり、また HPLC は現在 分析カラム:東ソー(株)社製 TSK-gel Super ODS 最も普及している方法であるが、グリコアルカロイドの (2.0mm i.d.×100mm、粒子径 2μm) 検出には 210nm の波長を使用するため他の成分によ カラム温度:室温 り定量が困難となる問題がある。 移動相は A 液に 0.02%ギ酸溶液、B 液にアセトニト そこでバレイショ中に含まれるグリコアルカロイドは 95%がα-ソラニン及びα-チャコニンであることから、 リルを用い、流速を 0.2 ml / min でグラジエント分析を 行なった。試料注入量は 1μl とした。 この 2 成分について、液体クロマトグラフ-タンデム質 量分析計(LC/MS/MS)を用いた分析法を検討した ので報告する。 調 査 方 グラジエント条件 Time(min) 法 1 試料及び試薬 α-ソラニン及びα-チャコニン標準品は Sigma 社 製を使用した。各標準溶液は標準品 10mg を正確に 精秤し、メタノールで溶解させて 100ml とした。この標 準原液を適宜移動相で希釈して検量線作成に使用 した。 Sep-Pak Plus C18 (360mg,Waters 社製)はあら A液 B液 0 80 20 10 70 30 12 70 30 12.1 80 20 18 80 20 (2) 質量分析装置 Applide Biosystems 社製 API2000 長崎県衛生公害研究所報 52,(2006) 資料 イオン化法:ESIポジティブモード 5.0×105 (cps) イオンスプレー電圧:4.5kV 7.55 イオンソース温度:500℃ α- Soranine α- Chaconine α-ソラニン及びα-チャコニンの質量分析条件に ついて、イオン化条件はインフュージョンポンプを用 いて設定し、イオン源条件については 30%アセトニトリ ル溶液による FIA より設定した(Table.1)。 8.49 Table1. ESI-MS/MS parameters soranine Declustering 1 3 4 5 6 7 8 9 10 Time(min) chaconine 151 146 Collision energy 111 111 Monitor ion Q1 868.7 852.7 Monitor ion Q3 98.2 98.2 Potential 2 Fig.1 Chromatogram of α-Soranine and α-Chaconine (1μg/ml) by LC/MS/MS. ところ、ポジティブモードで高感度分析が可能であり、 本法における定量下限値はα-ソラニンで 0.2pg、αチャコニンで 0.1 pg であった。 2 質量分析計によるスペクトル測定 α‐ソラニン及びα‐チャコニンの 20μg/ml 溶液を 3 分析方法 衛生試験法注解(2005)に準じた。皮をむいたバレ 用いてプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンを測 イショ 5g を 50ml 遠沈管に入れ、メタノール 30ml を加 定したときのスペクトルを Fig.2 に示す。それぞれのプ えてホモジナイズを行い、3,000rpm で 5 分間遠心分 レカーサーイオンとしては、α-ソラニン及びα-チャコ 離した。遠心後、上清をメタノールで 50ml に定容し ニン[M]にプロトン[H+]が付加した[M+H+]型(α‐ソラニ た。 ン m/z;868.7, α‐チャコニン m/z;852.7)や、これから この 1ml を蒸留水で 5ml とし、あらかじめメタノール ガラクトースやラムノースが脱離したイオン(m/z;706.6)、 5ml 及 び 蒸 留 水 10ml で コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ し た ソラニジンにグルコースのみが結合したイオン Sep-Pak Plus C18(360mg)へ負荷し、10%メタノール (m/z;560.4)、ソラニジンにプロトン[H+]が付加したイ 5ml で洗浄後、メタノール 15ml で溶出した。溶出液を オン(m/z;398.4)が確認された。一方プロダクトイオン 減圧留去し、10%メタノールに溶解したものを 0.2μm では、ソラニジン骨格の窒素を含んだフラグメントイオ フィルターでろ過し試験溶液とした。 ン(m/z;98.2)が確認された。これらの特徴的なスペク トルはα‐ソラニン及びα‐チャコニンを定性する際の 結 果 と 考 察 モニターイオンとして有効な情報である。 1 分析条件の検討 α-ソラニン及びα-チャコニンはステロイド系アルカ 3 前処理法の検討 ロイドであるソラニジンにグルコースやガラクトース、ラ 精製法については衛生試験法注解(2005)に準じて ムノースが結合している配糖体である。その極性から 行なったところ、α‐ソラニン及びα‐チャコニンの回 HPLC 分析においてはアミノプロピル化学結合型シリ 収率はほぼ 100%と良好であった。ただし、バレイショ カゲルカラムが汎用されているが、本研究ではセミミク サンプル中のきょう雑物の影響により、40%メタノール ロ系 ODS カラムによる分離を試みた。TSK-gel Super 溶液ではα‐ソラニン及びα‐チャコニンが一部溶出 ODS や Mightsil-RP18GP、Capcell-Pak MGⅡなどの する恐れを考慮し、洗浄は 10%メタノールで行なった。 カラムを検討した結果、TSK-gel Super ODS が最も ま た 、 Sep-Pak 良好なピーク形状を示した。移動相は 0.02%ギ酸溶液 HLB(60mg)を用いた精製についても検討したところ、 及びアセトニトリルを用いたグラジエント分析により、 Oasis HLB(60mg)においても良好に保持されたため、 良好なクロマトグラムが得られた(Fig.1)。 Oasis HLB(60mg)も精製に効果的であることがわかっ イオン化には ESI による MRM 法の条件を検討した Plus C18(360mg) 以 外 に も Oasis た。本精製法により、クロマトグラム上に妨害ピークは 長崎県衛生公害研究所報 52,(2006) 資料 868.7 7 868.6 7 (B) (A) 7 7 7 7 7 7 7 7 98.2 7 7 398.4 398.4 706.6 7 560.4 6 722.6 121.1 100 159.4 150 201.2 200 225.0 250 380.5 430.0 446.0 330.8 300 350 400 450 71.2 81.2 503.0 500 m/z, amu 600 650 700 750 800 850 900 852.7 7 126.2 157.2 872.6 852.7 550 50 100 150 206.4 253.2260.4 312.6338.4 366.4 200 250 300 380.4 350 706.4 722.4 560.4 466.2 400 450 500 m/z, amu 550 600 650 700 750 800 850 852.6 6 7 6 (C) 7 (D) 6 7 6 7 6 7 6 7 6 7 5 7 5 7 5 7 98.2 5 7 5 7 5 7 5 7 398.4 5 7 560.4 6 398.4 143.1 100 150 380.5 235.4 261.2 200 250 300 350 440.9 400 450 126.2150.4 183.4206.4 253.4260.4 856.6 495.0 500 m/z, amu 706.6 5 56.4 81.2 706.6 550 600 650 700 750 800 850 90 50 100 150 200 250 338.2 300 366.4 350 380.4 560.6 426.4 400 450 m/z, amu 500 550 600 650 690.6 700 750 800 850 Fig.2 Mass spectra of α-Soranine and α-Chaconine (20μg/ml) by LC/MS/MS. (A) The precursor ion of α-soranine; (B) The product ion of α- soranine; (C) The precursor ion of α- chaconine; (D) The product ion of α-chaconine みられず、質量分析で問題となるイオンサプレッションな どのマトリックス効果もみられなかった。 4 バレイショ中のα‐ソラニン及びα‐チャコニン含量 皮をむいたバレイショ中のα‐ソラニン及びα‐チャコ ニン含量を本法により定量したところ、α‐ソラニンが約 10mg/kg 、α‐チャコニンが約 23mg/kg であった ま と め LC/MS/MS を用いた分析によりα-ソラニン及びα-チ ャコニンについて pg レベルでの検出が可能であった。ま たスキャン測定においても特徴的なフラグメントイオンを 生成することから、α-ソラニン及びα-チャコニンの定量 および定性において LC/MS/MS による測定は有用であ ることが分かった。 参 考 文 献 1) 岩崎久夫:バレイショによるソラニン中毒.食品衛生 学雑誌,25,466~467, (1984) 2) 松井久仁子,他:未熟なバレイショによる小学生のグ リコアルカロイド中毒とその発症量および予防対策に ついて, 食品衛生研究,54,99~107, (2001) 3) 下井俊子,他:各種ジャガイモ中のグリコアルカロイド 含有量調査, 食品衛生学雑誌, 48, 77~82, (2007)