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フランクリン、 トム・ソーヤー、

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フランクリン、 トム・ソーヤー、
フ ラ ン ク リ ン 、 トム ・ソ ー ヤ ー 、
ハ ン ク ・モ ー ガ ン
浅 山 龍一
序
私 は先 の 論 文1)に お い て、 フ ラ ンク リ ン 『自伝 』と トウ ェ イ ンの 『トム ・ソ ー ヤ ー
の 冒 険 』を テキ ス トと しなが ら、そ れ らの主 人公 で あ る フラ ンク リ ンと トム ・ソー ヤ ー
(=少 年 時 代 の トウ ェイ ン)の 類 似 点 を、(1)家 庭 環 境 、宗 教 観 、 合 理 主 義 思 考 、(2)
創 造 性 、 友 情 、 ヒ ロ イズ ム志 向、 の観 点 か ら分 析 した 。 そ の 結 果 、2人 の 主 人 公 が
生 い 立 ち、性 格 の み な らず 、発 想 、 事 件 へ の 関 わ り方 等 に お い て、 似 て い る点 が 多
い こ とを示 す こ とが で きた。 傍 証 と して 、 『マ ー ク ・トウ ェイ ン自伝 』や トウ ェイ ンに
よる兄 オ リオ ンにつ い て の 「伝 記 」的 小 編 を紹 介 した が 、 と くに兄 オ リオ ンに つ い て
の 小 編 は、 オ リオ ンが 熱 心 な フ ラ ンク リン信 奉 者 で あ り、 トウ ェイ ンは 兄 の 印 刷 所
で働 きなが ら、兄 の 生 活 を観 察 し続 け る ことに よ り、 フラ ンク リンを よ り身近 に感 じ
て い った(=影
響 を受 け て い った)と い うこ とを教 え て くれ た 。 そ の他 、 トウ ェイ ン
自身が よ くフ ラ ンク リン 『自伝 』を読 ん で い た とい うこ と(「 自伝 とい え ば、 私 は フ ラ
ン ク リ ンと 〔イ タ リァの 〕チ ェ リー こ しか 思 いつ か な い」Gribben,242)も
示 して お
い た し、 トウ ェ イ ンが い か に フ ラ ンク リ ンを 意 識 して い た か を示 す 短 編 も(約20あ
る うち の)4編 ほ ど紹 介 して お い た 。一一 以 上 の ことを総 合 し、フ ラ ンク リ ンか ら トウ ェ
イ ンへ の影 響 は、 とくに 『トム ・ソ ー ヤ ー 』発 表 まで の 時 期 に お い て 、 明 らか で あ る
こ とが 示 され た と思 う。
今 回 は、2人 の 思 想 につ い て 、 そ の 類 似 点 と相 違 点 を さ らに は っ き りと浮 か び上
が らせ て み た い 。 フ ラ ン クリ ン哲 学 な る も の の何 を トウ ェイ ンが 受 け 継 ぎ、 ど う変
一63一
化 させ て 「トム ・ソ ーヤ ー」を生 み 出 した の か 、 を見 て み たい 。 そ して 、 そ れ が どの
よ うに 「ハ ンク ・モ ー ガ ン」(ト ウ ェ イ ン著 『ア ー サ ー 王 宮 廷 の ヤ ンキ ー』の 主 人 公)
に受 け継 が れ た か を追 っ てみ た い。
<そ
の1>フ
ラ ン ク リ ン 哲 学 か ら トウ ェ イ ン ヘ
フ ラ ン ク リ ン 哲 学 に つ い て は 、Schneiderが
(Schneider,1X-XIV)。
「
ロ ッパ で も
よ く ま と め て い る の で 取 り上 げ て み る
一 一彼 に よ る と 、 ま ず 、 フ ラ ン ク リ ン は 「18世 紀 後 半 に 、 ヨ ー
っ と も 話 題 に な っ た 人 物 」(JohnAdams)で
emancipatedoutlookが
統 一・さ れ た 人 物 」(Goethe)で
noblebarbarian)で
Republican)で
あ り 、 「完 全 な 共 和 主 義 者(=産
あ っ た と い う 。18世
紀 を19世
あ り、 「deepinsightと
あ り、 「野 性 味 溢 れ る 紳 士 」([a]
業 資 本 主 義 者)」(acomplete
紀 に 変 え 、 政 治 家 で な く文 筆 家 を 話 題
に す る と 、 ま さ に マ ー ク ・トウ ェ イ ン の こ と に な ら な い だ ろ う か 。 トウ ェ イ ン 自 身 、 兄
オ リ オ ン と 同 じ で 、(当 時 、 リ ン カ ー ン を 支 持 す る)共 和 主 義 者 で あ っ た 。Schneider
は さ ら に 、 フ ラ ン ク リ ン は 「電 気 に お け る ニ ュ ー ト ン 」(theNewtonofelectricity)
と も い う べ き 科 学 者 で あ り、 「ア メ リ カ 最 初 の 文 明 人 」(thefirstcivilizedAmerican)
で あ り 、 「ア メ リ カ 独 立 戦 争 の 精 神 的 指 導 者 」(theschoolmasteroftheAmerican
Revolution)で
capitalism)で
あ り、 「中 産 階 級 資 本 主 義 の 精 神 的 支 柱 」(thesaintofbourgeois
あ り、 「近 代 を 開 い た 人 」(theapostleofmoderntimes)つ
ま り、
こ れ ら を 組 み 合 わ せ た 人 で あ り、 ど の ひ と つ に つ い て も 誠 心 誠 意 務 め 、 個 人 的 利 害
を 持 た な い 人 で あ っ た 。 そ し て 、 ア メ リ カ 独 立 戦 争 を 単 な る 暴 動 で な く、 「世 界 的 な
道 徳 と 知 性 の 革 命 」 で あ る と 、 世 界(と
く に フ ラ ン ス)に
認 め させ 、 後 継 者 の ジ ェ
フ ァ ー ソ ン と と も に 、後 の フ ラ ン ス 革 命 を 計 画 す る 者 た ち に 希 望 を 与 え た 人 物 で あ っ
た と 言 う 。 そ う 言 え ば 、 ト ウ ェ イ ン も 「産 業 革 命 」 の 申 し 子 で あ り、 「科 学 」(と く に
電 話 や 印 刷 機)に
興 味 を 持 ち 、 「文 明 」 を 推 し 進 め る 新 聞 記 者 ・作 家 で あ り、 「中 産
階 級 資 本 主 義 」 を 支 え る(?)投
機 師 で あ り、 ペ ン で 人 々 の 心 の 「開 放 」「近 代 化 」 を
企 て る人 で あ った。
Schneiderは
啓(revelation)な
、 フ ラ ン ク リ ン の 哲 学 は 、 彼 自 身 が 『自 伝 』 の 中 で 、 「実 の と こ ろ 、 天
ど ど う で も よ か っ た 。 し か し、 あ る種 の 行 為 は 、 天 啓 に よ っ て 禁
一64一
じ ら れ て い る か ら 悪 い の で は な く、 あ る い は 天 啓 に よ っ て 薦 め ら れ て い る か ら 善 い
の で も な い 。 む し ろ 、 状 況 を よ く考 慮 し て 、 本 質 的 に 、 私 た ち に と っ て 悪 い こ と だ
か ら 禁 じ ら れ て い る の で あ り、 有 益 な(benefitia1)こ
と だ か ら薦 め られ て い る の だ 、
と 考 え た 」 と 言 う よ う に 、 「現 実 的 、 功 利 的 土 台 の 上 に 展 開 さ れ た 、 開 拓 地 的 ピ ュ ー
リ タ ン 道 徳 主 義 」(thefrontiermoralityofthePuritansonasecular,utilitarian
footing)で
あ る と ま と め る 。 筆 者 と し て は 、 「自 伝 』を 読 む と わ か る よ う に 、 こ の 「道
徳 主 義 」 が 、 フ ラ ン ク リ ンが 若 き 日 に 到 達 し た 理 神 論(=deism。
天 啓 や 奇 跡 を認 め
ず 、 神 の 創 っ た 世 界 の 事 象 は す べ て 理 性 的 法 則 に 則 っ て い る 、 と い う 考 え 方)に
き足 らず 一
飽
フ ラ ン ク リ ン は 、 自 分 が 知 ら な い うち に 多 くの 人 に 迷 惑 を か け て い る こ
と に 気 づ き、 あ る 種 の 道 徳 の 必 要 性 を 感 じた よ うで あ る 一
、 自分 の 合 理 主 義 に 修
正 を 加 え て 出 来 上 が っ た 哲 学 で あ る と い う こ と を 付 け 加 え て お き た い 。2)
つ ま り、 「功 利 的 倫 理 」(utilitarianethics)を
利 的 に な り(makingbenevolencepractical)、
成 功 す る と い うわ け で あ る 。 一
基 盤 に 置 い て 行 動 す れ ば 、 善 意 も実
人 に 喜 ば れ 、 ビ ジ ネス も政 治 活 動 も
な る ほ ど 、 人 は 自分 に 利 益 が あ る とわ か る と、 どん
な 負 担 も喜 ん で 受 け 容 れ る もの で あ る。 提 案 者 は 感 謝 さ え さ れ る 。 一
そ して 、 この
考 え 方 は トム ・ソ ー ヤ ー が 「ペ ン キ 塗 り仕 事 」 の と き に 発 見 し た 「人 間 行 動 に つ い て
の0大
法 則 」 と よ く似 て い る 。
Schneiderは
mankind)に
さ ら に 、 す べ て が 人 類 の 共 通 の 利 益(thecommonbenefitof
な る 「実 利 的 人 道 主 義 」(practicalhumanitarianism)が
テ ー マ で あ っ た と 言 う 。 トウ ェ イ ン の テ ー マ も 、practicalな
フ ラ ン ク リ ンの
トム ・ソ ー ヤ ー た ち の 行
動 を 通 し て 、 人 間 の 偽 善 を は が し 、 本 当 の 人 間 ら し い 生 き 方 を 問 う も の で あ り、 「実
利 的 人 道 主 義 」 と言 え な い だ ろ う か 。 ま た 、 フ ラ ン ク リ ン は 様 々 な 現 実 的 な 政 策 に
お い て"amasterpublicplanner"で
あ っ た とSchneiderは
言 う 。Plannerと
私 た ち は 「計 画 好 き 」 で 「作 戦 好 き 」 の トム ・ソ ー ヤ ー を 思 い 浮 か べ る
聞 く と、
その失 敗
と成 功 が 、 い つ も 読 者 の 笑 い を 誘 う の で あ っ た 。
さ て 、 フ ラ ン ク リ ン 哲 学 の 集 大 成 が 「13の 徳 目 」 と 言 っ て よ い で あ ろ う 。 『自 伝 』3)
の 中 に 、 合 理 的 で 有 益 な(=実
利 的)人
生 を 送 る た め に 守 る べ き13の
と と も に 列 挙 さ れ て お り、 「(これ を 守 る 者 は)必
一65一
徳 目が 、 理 由
ず や 人 類 に 偉 大 な 変 化 を 与 え、 大
事 業 を成 就 す る こ とが で きる と思 う」(95)と 本 人 が 言 っ て い る。 主 な もの を見 る と
「節 制一
頭 が 鈍 くな る まで 食 う なか れ 。 酔 う まで飲 む な か れ 」「沈 黙 一
自他 に益 な
き こ とを語 る な か れ 。 駄 弁 を弄 す る なか れ 」「規 律 一 物 は す べ て所 を定 め て置 くべ
し。 仕 事 はす べ て時 間 を定 め て な す べ し」「節 約 一
す なか れ 。 す な わ ち、 浪 費 す る なか れ」「清 潔 一
自他 に 益 な きこ とに 金 銭 を費 や
身体 、 衣 服 、住 居 に不 潔 を黙 認 す
べ か らず 」 とい っ た調 子 で あ る。 これ らの徳 目 を1年 間 で 身 に つ け る(13項
目に13
週 間必 要 。4回 りす れ ば 身 につ くとい う)た め のチ ェ ック表 と、 そ の た め の1日24時
間 の行 動 計 画 表 の サ ンプ ル まで 掲 載 され て い る(80-87)。
とて もpracticalな 配 慮 で
あ る。信 仰 面 を抜 いた 、ピ ュー リタ ン的細 や か さが よ く出 て い る。また、この計 画性 、
計 画 好 きは、 後 の トム ・ソー ヤ ー を彷 彿 と させ る。 トム は各 種 い たず ら計 画 の他 に、
仲 間同 士 の 団結 の た め に 「宣 誓 書 」(こ れ も 「計 画 」書 の一 種?)も
これ らの徳 目を含 ん だ 『自伝 』は フラ ンク リ ン(1706-90)の
作 成 した。
没 後 、1817年
に出版
され た が 、 これ らとよ く似 た項 目を実 践 す る青 年 リチ ャー ドの話 が 「暦 」の 形 で(『貧
しい リチ ャー一ドの暦 』)、生 前 、1758年
の 道 」(`TheWaytoWealth')4)と
に 出版 され て い る。 この 暦 の前 書 きが 「富 へ
い う小 編 で 、"裕 福 に な る方 法"を エ ッセ ー 風 に
ま とめ て あ り、 大 変 、 人 気 を呼 ん だ よ うで あ る。 怠 慢 と虚 栄 と愚 か さの た め に、 人
は 人 生 に つ まず き、 勤 勉 な人 の何 倍 も無 駄 な 日々 を送 って い る。 勤 勉 に 誠 実 に賢 明
に(=実
利 的 に)生 きよ、 そ うす れ ば誰 し も必 ず 成 功 し、 裕 福 に な る。 そ のた め の ポ
イ ン トを示 そ う、 とい うの が この作 品 の 主 旨で あ る。
話 をエ ッセ ー風 に進 め なが ら、 中 に は た くさん の(古 今 の、 あ るい は フ ラ ンク リ ン
自身 が 作 っ た)格
言 が 散 りば め られ て い る。 「神 は 自 ら助 くる 者 を助 く」(本 来 は、
"Godhelpthemthathelpthemselves
."〔神 よ、 自 ら助 くる者 を助 け 給 え〕とい う格
言 だ った が 、 フ ラ ン ク リ ンがhe1Pをhelpsと
断 定 的 に 変 え た よ うで あ る。 亀 井,77)
と自助 努 力 を薦 め、「もの ぐさは錆 び と同 じで 、労 働 よ りも消 耗 を早 め る。一・
方 、使 っ
て い る鍵 はい つ も光 って い る」「眠 って い る狐 は、 鶏 を0羽
もつ か ま え られ ぬ 」「寝 た
い な ら、 墓 場 に入 って か らで も少 し も遅 くは ない 」「時 間 の 浪 費 こ そ 一 番 の贅 沢 」 と
言 い な が ら勤 勉 を促 して い る。 有 名 な 「早 寝 早 起 き、 人 を健 康 、 裕 福 、 賢 明 にす 」
が 出 て くる。 理 想 を言 うば か りで 現 実 を伴 わ ぬ 者 に は 「勤 勉 な 者 は願 をか け る に お
一66一
よばず 」「希 望 に生 きる者 は空 腹 に死 す 」「勤 勉 は幸 運 の 母 」「勤 勉 な者 に は、 神 、 何
物 も惜 しみ 給 わず 」「点 滴 、石 を うが つ 」「塵 もつ もれ ば 山 とな る」と教 え る。 金 の使
い方 につ い て 「美 食 家 の末 は乞 食 」「安 い もの に は、 へ た に手 を出 す な」「得 な買 物 を
して、 身 上 を潰 した者 が 多 い」「金 を 出 して 後 悔 を買 う愚 か 者 」「朝 飯 の 驕 り、 昼 飯
の貧 乏 、 夕 飯 の零 落 」「蝶 とは、 たか だ か 、着 飾 った毛 虫」と言 い、 借 金 につ い て 「借
金 は嘘 の 始 ま り」「明 口、 借 金 を背 負 って起 きる よ り、 今 夜 の 食 事 を抜 きに して床 に
つ け」と警 告 す る。
実 にpracticalな 格 言(名 言)が ず ら りと並 ぶ 。 これ らを読 ん
で い る と、 ポ ー リー お ば さん(モ デ ル は トウ ェ イ ンの お母 さん らしい)が
トム た ち を
説 教 す る と きな ど に織 り交 ぜ る 「まぬ け な年 寄 りにつ け る薬 は な い 」「年 老 い た 犬
に 新 た な 芸 は教 え ら れ ぬ 」 と い っ た 格 言 を 思 い 起 こ す(前
nofoollikeanoldfool."だ
者 は も と は"Thereis
が 、 彼 女 は ℃ldfoolsisthebiggestfoolsthereis."[sic]
と変 えて い る。 独 創 性 が あ り、 変 化 を楽 しん で い る感 じで あ る。 フ ラ ンク リ ンに似
て い る)。 また 、 『うす の ろ ウ ィル ソ ン』(1894年)の
各 章 の 冒頭 の(ト ウ ェイ ン作 の)
格 言 を 思 い 出 す 。 「訓 練 が す べ て で あ る。 桃 は も と は苦 い ア ー モ ン ドで あ った し、
カ リ フ ラ ワ ー(cauliflower)も
(cabbage)で
大 学 教 育(collegeeducation)を
受 けた キ ャベ ツ
あ る」(Ch.5)「 友 情 とい う神 聖 な感 晴 はす ば ら しい …一 生 涯 続 くもの で
あ る。 も し、 金 を貸 して くれ と言 われ な け れ ば 」(Ch.8)等
々。 トウ ェイ ン 自身、 格
言 を作 るの が 好 きだ った よ うで あ る。 と くに 、 上 記 の フ ラ ンク リ ンの 「蝶 とは、 … 」
の よ うな もの は、 シニ カル な傾 向 に あ る トウ ェ イ ンは随 分 気 に 入 っ た の で は な い だ
ろ うか 。
13徳 目 も含 め た フ ラ ンク リ ンの格 言 と、 た ぶ ん彼 か ら影 響 を受 け た で あ ろ う、 ト
ウ ェイ ンの 格 言 に共 通 して い る点 は、 どち らも実 利 性 と道 徳 亡・
が 感 じ られ る もの の、
宗 教 心(神 へ の祈 りの大 事 さな ど)が 全 く感 じ られ な い こ とか も しれ ない 。
<そ
の2>フ
ラ ン ク リ ン 哲 学 と トウ ェ イ ン 哲 学
ト ウ ェ イ ン の 育 っ た 町 ハ ン ニ バ ル は 、Brashearに
よ る と、 フ ラ ン ク リ ン の 話 題 に
溢 れ た 町 で あ っ た よ うで あ る 。 当 時 の ハ ン ニ バ ル は 今 日 の ミズ ー リ ー 州 の ど の 町 と
比 べ て も 、 は る か に 文 学 的 香 りの す る 町(amoredistinctlyliterarytown)で
一67一
、 日刊
と週 刊 を織 り交 ぜ て5種 の新 聞 が 発 行 され、 町 の ニ ュー ス や 宣 伝 広 告 が 賑 や か に掲
載 され て い た らしい 。 ギ リシ ャ神 話 の 話 が 載 せ られ 、 ギ リシ ャ ・ロ ーマ の 古 典 作 家
へ の 言 及 が あ り、新 しい英 米 の 作 家 た ち(サ ッカ レー 、デ ィケ ンズ 、ホー ソ ン、ス トー 、
バ イロ ン、 …)に つ い て の評 論 や 、 サ ミュエ ル ・ジ ョン ソ ンを始 め とす る18世 紀 作
家 や ポ ー プの ような詩 人 が よ く掲 載 され、 と きに は ニ ュ ー トンの よ うな科 学 者 の こ と
が 載 せ られ た 。 アメ リカ人 と して は、 誰 よ りも、 フ ラ ンク リ ン(「フィラデ ル フ ィア の
賢 人 」)の 逸 話 が よ く掲 載 され て い た 、 との こ と(143)。
と くに、1840年
代 は、 中 西
部 の 多 くの 新 聞 に フ ラ ンク リ ンの こ とが 引用 され て い た ら しい(163)。40年
代 とい
え ば、 トウ ェイ ンが 小 学 生 で あ っ た 頃 に 当 た り、 柔 軟 で 好 奇 心 の 塊 の よ うな少 年 の
心 に、 こ の 天 才 の行 動 ともの の 考 え方 は新 鮮 で 、衝 撃 的 で あ っ た ろ う。 尊 敬 も した
で あ ろ う。 筆 者 は、 先 の論 文 の 中 で 、 トウ ェ イ ンが 「少 年 フ ラ ンク リ ン」を茶 化 した
短 編 につ い て、 主 人 公 の 生 意 気 な 少 年 フ ラ ンク リ ンが トム ・ソ ー ヤ ー そ っ く りに描
か れ て い る と感 想 を述 べ た が 、 改 め て 、 さ もあ らん と思 うの で あ る。 合 理 的 ・科 学
的 天 才 フ ラ ンク リ ンは、や は り合 理 的 ・科 学 好 きで 、い た ず らの天 才 で あ る トム ・ソー
ヤ ー(=少
の
年 時 代 の トウ ェイ ン)の か っ こ うの モ デ ル だ った の で は な い だ ろ うか 。
ともか く、 トウ ェ イ ンは フ ラ ンク リ ンの 話 題 に囲 まれ て 成 長 した。 と くに、 貧 しい
家 庭 に あ って は、 フラ ンク リンは 「立 身 出世 」の ヒー ロー で あ り、 人 々 の憧 れ の 的 で
あ った 。 トウ ェイ ンの家 で も、 うだ つ の上 が らぬ 父 親 め も とで 、 フ ラ ンク リンの話 は
魅 力 的 で あ った ろ う し、 中 で も兄 オ リオ ンは フ ラ ンク リンの真 似 を して裕 福 に な ろ
うと した 。 トウ ェイ ンは この 兄 を観 察 しなが ら成 長 した の で あ る(オ リオ ンにつ い て 、
詳 し くは前 掲 論 文 参 照)。
フラ ンク リン と トウェ イ ンの思 想 の共 通 点 を指 摘 す るの は、Cummings(46-7)で
あ る。 彼 は感 ず る ま まに6点 ほ どあ げ て い る の だ が 、 筆 者 は そ の そ れ ぞ れ に つ い て
考 察 して み る。
Cummingsは
、 まず 、(1)2人
ともオー ソ ドックス な キ リス ト教 の 中 で 育 った 、 と
指 摘 す る。 筆 者 も前 掲 論 文 の 「宗 教 観 」の 中 で述 べ た よ うに、2人
(長 老 教 会 派)と
ともPresbyterian
い う、 聖 書 を厳 格 に守 ろ う とす る真 面 目な 宗 派 の 中 で 育 っ てい る。
フ ラ ンク リ ンの 祖 父 は、 宗 教 裁 判所 の 目 を逃 れ る よ うに しな が ら、 聖 書 を読 ん で い
一68一
た ら し い し、 母 方 の 祖 父 は 、 信 仰 の 自 由 の た め に 、 迫 害 を 受 け て い た 浸 礼 派 や ク
ウ ェ ー カ ー 教 徒 そ の 他 の 宗 派 の 人 々 を 弁 護 す る ほ ど で あ っ た(『 自 伝 』7-13)。
トウ ェ
イ ン の 母 も 世 の 中 の あ り と あ ら ゆ る も の に と て も優 し か っ た と い う 。 人 間 と い わ ず 、
動 物 と い わ ず 、ひ ど い 扱 い を 受 け て い る の を 目 撃 す る と 、さ っ と そ こ に 立 ち は だ か り 、
日 頃 の 控 え め さ は 消 え て 雄 弁 に な り、 相 手 を 辱 し め る ま で 説 教 し た(『 マ ー ク ・ト ウ ェ
イ ン 自 伝 』Ch.7)。
トウ ェ イ ン の 母 親 は ポ ー リ ー お ば さ ん の モ デ ル だ か ら 、 『トム ・ソ ー
ヤ ー 』 中 の ポ ー リ ー お ば さ ん を 見 れ ば 、 そ の 聖 書 好 き ・説 教 好 き の 様 子 、 信 仰 心 の
深 さ は わ か る 。そ し て 、 フ ラ ン ク リ ン も トウ ェ イ ン も 聖 書 を た た き 込 ま れ た お か げ で 、
フ ラ ン ク リ ン は 若 い 頃 、 奇 跡 や 天 啓 を 恐 れ た し(『 自 伝 』104-7)、
少 年 時 代 の トウ ェ
イ ン で あ る ト ム ・ソ ー ヤ ー は 、 悪 人 イ ン ジ ャ ン ・ジ ョー の 上 に 雷 が 落 ち る(=奇
の を 楽 し み に し て い た(『 トム ・ソ ー ヤ ー 』Ch.11)。
で あ る)も
ダ グ ラ ス お ば さ ん の 聖 書 の 話(と
し て い る(『 ハ ッ ク ・フ ィ ン 』Ch.1)。
ハ ッ ク(彼
跡)
も トウ ェ イ ン の 分 身
く に 、 モ ー ゼ の こ と)を
聴 い て び くび く
こ の 宗 教 的 環 境 の 中 で 育 っ た こ と が 、2人(フ
ラ ン ク リ ン と トウ ェ イ ン)を 道 徳 主 義 的 に し た と 言 っ て も よ い か も し れ な い 。
次 に 、(2)2人
と も、 若 い 頃 に 理 神 論 に 夢 中 に な っ た 点 で あ る。 フ ラ ン ク リ ンが 理
神 論 者 に な っ た こ と は 、 す で に 述 べ た 。 「天 啓 な ど ど う で も よ か っ た 」(『自 伝 』57)
の で あ る 。 ト ウ ェ イ ン も 兄 オ リ オ ン が 、 天 啓 や 奇 跡(ジ
ョ ナ サ ン ・エ ドワ ー ズ 的 世 界)
に 夢 中 に な っ た か と 思 う と 、 あ る 日 、 無 神 教 に 変 わ っ た 様 子 を 短("Autobiography
ofaDamnedFool")に
同 情 的 に 描 く し 、 トウ ェ イ ン 自 身 も 、 トム に 事 寄 せ て 、イ ン ジ ャ
ン ・ジ ョー の 上 に 雷 を 落 と さ な い 神 へ の 不 信 感 を 示 し(『 トム ・ソ ー ヤ ー 』Ch.11)、 ハ ッ
ク に 事 寄 せ て 、(恐 ろ し い 力 を 持 っ た?)モ
ー ゼ が と っ くに 死 ん で し ま っ た と ダ グ ラ
ス お ば さ ん か ら 聞 き、 ほ っ と す る 様 子(『 ハ ッ ク ・フ ィ ン 』Ch.1)を
描 く。 ダ ー ウ ィ ン
の 進 化 論 へ の 関 心 を 示 し て い る 作 品 も あ る し 、"3000YearsamongtheMicrobes"
と い う 作 品 で は 、 す べ て の 生 物 が 死 後 、 分 解 し 、 分 子 ・原 子 と な っ て 自 然 界 に 溶 け
込 み 、 そ の 後 寄 り集 ま っ て 、 ま た 別 の 生 物 の 体 を 構 成 す る 、 と い っ た 話 を 展 開 す る 。
人 間 も 自 然 も 含 め た 全 て を 、科 学 的 に と ら え よ う と し て い る 。な お 、科 学 好 き の ト ウ ェ
イ ン で あ り、 彼 の 分 身 トム ・ソ ー ヤ ー で あ る が 、 ア メ リ カ 人 ト ウ ェ イ ン(1835-1910)
に と っ て 、 当 時 、 尊 敬 す べ き 、 ま た 身 近 に 感 じ る 「科 学 者 」 と い え ば 、 何 と い っ て も
一69一
「フラ ンク リ ン」で あ った こ とは 間 違 い な い で あ ろ う。 ダ ー ウ ィ ン(1809-82)は
リス人 で あ る し、 エ ジ ソ ン(1847-1931)は
イギ
後 輩 な の で あ る。 や は り、 フ ラ ンク リン
か ら トウ ェイ ンへ の 影 響 は否 め な い。
(3)2人
とも、 実 用 主 義 哲 学(practicalphilosophy)を
持 っ た点 。 フ ラ ンク リンに
つ い て は、 す で に述 べ た 通 りで あ る。 トウ ェ イ ン も、 トム の い た ず らを通 して 、 大
人 の虚 栄 の 仮 面 を は ぎ と り、彼 らの 滑 稽 な現 実 を見 せ る、とい うパ ター ンの話 を次 々
に紹 介 す る。 「ユ ー モ ア」自体 、 人 間 の慢 心 した 世 界 を崩 し、現 実 の姿 を描 く実 用 主
義 哲 学 的 芸 術 で あ る。
(4)2人
とも、 これ とい った 学 校 教 育 が な く、 印 刷 の仕 事 をす る 中 で独 学 した点 。
筆 者 も、 これ は不 思 議 な 一
一致 で あ る と思 う。 フ ラ ンク リ ンは10歳
で 、 トウ ェイ ンは
12歳 で 学 校 をや め て い る。 どち ら も12歳 で 、 そ れ ぞ れ 兄 の も とで 印 刷 仕 事 の 見 習
い を始 め て い る。 どち らも、兄 に た た き上 げ られ て い る(フ ラ ン ク リンは 文 字 通 り、
殴 られ な が ら。 トウ ェイ ンは給 料 無 し とい う形 で)。 どち らも、 自分 が 印 刷 して い る
新 聞 の紙 面 に 自分 の 原 稿 をそ っ と載 せ て 、 好 評 を博 す る。 また、 トウ ェイ ンは この
兄 オ リオ ンを通 して、 フ ラ ンク リンを よ り身 近 に感 じ始 め た とい え る。 兄 は フ ラ ンク
リ ン を信 奉 し、 自分 の 事 務 所 にTheBenjaminFranklinAndJobOfficeと
ほ どで あ っ た(Letters1,58)。
そ して 、 自分 の 学 校 教 育 に つ い て 、 トウ ェ イ ンは後
に 「私 とエ ジ ソ ンや フ ラ ンク リ ンの共 通 点 は…(貧
ろ」(Gribben,243)と
(5)2人
名づける
し くて)大 学 に 行 って い な い とこ
言 って 、誇 りに して い る。
と も道 徳 意 識 が 強 か った 点 。 フ ラ ンク リ ンは、 「(経験 的 に)理 神 論 だ け で
は だ め だ 」 と い う こ と で 、 「13袖 目 」 の 作 成 に 行 き着 い た し(『 自 伝 』80-95)、
トウ ェ
イ ン も作 品 を見 て み る と、 トム が ハ ック とと もに殺 人 現 場 を 目撃 して村 に逃 げ帰 り、
お び え て い る所 に犬 が 来 て 吠 えつ か れ 、 「こ れ は罰 だ!学
校 を怠 け た り、 して は い
け ない と言 わ れ た こ とを何 で もか ん で もや った か らだ 」と泣 き声 に な る場 面(『 トム ・
ソー ヤ ー 』Ch.10)や
、 ベ ッキ ー や お ば さん に 冷 た くされ た(原 因 は トム 自身 に あ る
の だ が)仕 返 しに 「おれ は罪 深 い 人 生 を送 って や ろ う。… だ が、人 々 を恨 み は しない 」
な ど と考 え て い る。 そ の 矢 先 、 や は り母 に叱 られ 、 同 じ よう な憂 馨 な気 分 で い る友
ジ ョー ・ハ ー バ ー と出 会 い、 意 気 投 合 。 ふ た りは 「お 互 い に 、兄 弟 と して 助 け合 い 、
一70一
死 が ふ た りを 苦 しみ か ら開 放 す る ま で は、 絶 対 に離 れ な い 」こ と を誓 い 合 う場 面
(Ch.13)や
、 家 出 の 後 、(心 配 で)お
ば さ ん の様 子 を見 に 帰 って 来 る場 面(Ch.15)
等 が あ る。5)「これ は罰 だ」「恨 まな い」「死 ぬ まで兄 弟 と して助 け合 う」、 そ して 、 お
ば さんへ の 思 い や り等 、 す べ て トムの 強 い道 徳 意 識 を感 じさせ る。
(6)2人
と も、 将 来 へ の個 人 的 目標(personalenterprise)を
持 ち、 そ の た め の 長
い 下 積 み の苦 労 に耐 えた 点 。 確 か に、 フ ラ ンク リンは フ ィラデ ル フ ィアで::..の
印
刷 屋 を 目指 して い た し、 トウ ェイ ンは 川(川 は鉄 道 が現 れ る まで、 ア メ リカの 最 も重
要 な交 通 網 で あ った)の 王 た るパ イ ロ ッ ト(水 先 案 内)を 目指 して い た。 そ の た め に、
フ ラ ンク リ ンは猛 勉 強 し、 トウェ イ ンは猛 訓 練 を受 けて い る。 筆 者 は、 こ の苦 労 が 、
2人 の忍 耐 力 と勤 勉 さ を生 ん だ の で あ ろ う し、2人 の 研 究 心 、 企 画 力 を生 ん だ の で あ
ろ うと思 う。 そ して、 そ の よ うな トウ ェイ ンか ら、何 度 失 敗 して も懲 りな い 、不 屈 の
u計 画 魔"ト ム ・ソー ヤ ー が 生 まれ て くるわ け で あ ろ う
。
以 上 の よ うに 考 察 して み る と、Cummingsの
の共通 点
指 摘 は、130歳
違 う2人 の ア メ リカ人
どち らも実 利 的道 徳 主 義 者 、 実 利 的 人 道 主 義 者
を うま く言 い 当 て て
い る と思 われ る。
ま とめ て み る と、 人 々 を怠 慢 、 虚 栄 、愚 か さか ら目を覚 ま させ 、健 康 に、 賢 明 に、
裕 福 にす る た め の実 際 的(=実
利 的)方 法 を、 経 験 の 上 か ら教 え た の が フ ラ ン ク リ
ンで あ った な ら、 子 供 た ち を(ひ い て は人 間 を)大 人 世 界 の 因 習 、 束 縛 か ら解 放 し、
伸 び伸 び と楽 し く生 き させ る実 利 的 方 法 を、 トム ・ソー ヤ ー一を代 表 とす る少 年 た ち
を通 して 教 えた の が トウ ェイ ンで あ った。 そ の豊 か なイマ ジ ネー シ ョン(突 飛 な いた
ず らと巧 妙 で 緻 密 な作 戦 計 画)は 大 人 の 虚 栄 の 世 界 を撹 乱 し、 彼 らの実 像 を浮 か び
上 が らせ る。 大 人 た ち の あ わ てふ た め い た 様 子 が 滑 稽 に描 か れ る。 若 干 、 い た ず ら
が 過 ぎた と きに 「良心 」(一道 徳 心)の 責 め に あ っ て反 省 し
フラ ンク リ ンが 自分 の
合 理 主 義 を修 正 して 「13徳 目」を作 成 した の とよ く似 てい る
、あわてて善い行 い
を し よう と努 力 す る トムた ち の様 子 も滑 稽 に描 か れ て い る。
トム ・ソー ヤ ー一が 大 人 の偽 善 をあ ば き、 周 りの 者 た ち(お よび 読 者)の 好 感 を得 る
一一これ は有 益 な い たず らで あ る 。 また 、 トムが 悪 い(一 あ ま り道 徳 的 で な い)い た
ず ら を して 失 敗 し、 反 省 す る場 面 に も、 周 りの 者 た ち(お
一71一
よび 読 者)が
好 感 の笑 い
を送 る
これ も、 結 果 的 に は有 益 な い たず らで あ っ た こ とに な る。 どち ら も、事 の
顛 末 が 道 徳 的 で あ る こ とが"有 益 さ"を 生 ん で い る の で あ る。 私 た ち は、 道 徳 の枠
内で の ヒ ロイ ズム(い たず ら)を 、 よい もの として 受 け容 れ る傾 向が あ る よ うで あ る。
そ こ に は、 実 利 的 人 道 主 義 者 の フ ラ ン ク リ ンが 導 き出 す 世 界 と よ く似 た、 さ わや か
な世 界 が 展 開 され て い る。
なお 、 『トム ・ソー ヤ ー』の8年 後 に 出版 され た 『ハ ック ・フィ ン』の 中 の トム ・ソー
ヤ ー は少 し様 子 が 違 って い る。 ヒ ロイ ズ ム が 高 じて 、 自分 が 偽 善 者 に な っ て し まっ
て お り(8年 で 、 一歩 大 人 に近 づ い た?)、
真 摯 な 目で 直 視 して い る親 友 ハ ックを戸
惑 わせ て し まう。 ハ ックのせ っか くの 冒 険(人 生 勉 強 の 冒 険)の リー ダ ー シ ップ を奪
い 、 自分 の シナ リオ(計 画)通
りの 世 界 にハ ックた ち を巻 き込 も うとす る。 トム だ け
が楽 しん で い て 、周 りは(読 者 も含 め て)皆 、不 快 感 、 い や憤 りさえ 感 じる ので あ る。
彼 が あ ば く偽 善 に 読 者 は笑 うが 、 彼 の あ ば か れ る偽 善 に も読 者 は笑 っ て しま う。 後
者 の場 合 、 トム に 感 情 移 入 して い た読 者 は 自分 の こ とを笑 うこ とに な り、 後 ろ め た
い 笑 い とな る。 シ ニ カル な ブ ラ ック ・ユ ー モ ァ の世 界 に入 って い る の だ 。 道 徳 を大
事 に した フ ラ ンク リ ン世 界 に はあ ま りな か っ た もの で あ る。
<そ
の3>ハ
ン ク ・モ ー ガ ン の 世 界
『ア ー サ ー 王 宮 廷 の ヤ ン キ.___』(以 下 、 『ヤ ン キ ー 』)(1889年)の
ク ・モ ー ガ ン(皆
に ボ ス と 呼 ば れ 、 親 し ま れ る)の
Sawyerfantasyで
あ る 」(Ensor,395)と
主 人 公 で あ るハ ン
物 語 を 読 ん で 「こ れ はTom
言 っ た の はCoxで
あ る。確 か に、 活 発 で抜
け 目 が な く、「計 画 」好 き で 、 ヒ ロ イ ズ ム 志 向 の 強 い ハ ン ク は 、大 人 に な っ た トム ・ソ ー
ヤ ー と い う 感 じ が す る 。 そ し て 、 『ハ ッ ク ・フ ィ ン 』 に 登 場 し た 見 栄 っ 張 りの
に近 づ い た一
大 人
トム ・ソ ー ヤ ー の 延 長 線 上 に い る 。 し か し 、 こ こ で は 、 ハ ン ク に 見 ら
れ る フ ラ ン ク リ ン 色(≒
前 期 ト ム ・ソ ー ヤ.___色)を
追 っ て み た い 。 テ キ ス トに はA
NortonCriticalEditionのAConnecticutYankeeinKingArthur'sCourtを
用 い る 。6)
ま ず は 自 己 紹 介 で あ る 。 「私 は ア メ リ カ 人 。 生 ま れ も 育 ち も コ ネ チ カ ッ ト州 の ハ ー
ト フ ォ ー ド。 … ヤ ン キ ー の 中 の ヤ ン キ ー で 、 実 利 的 な(practical)人
間で す 。 …父 は
鍛 冶 屋 、 お じ は 蹄 鉄 工 、 私 は だ い た い 両 方 の 仕 事 が で き ま した 。 そ の 後 、 大 き な 軍
72
需 工 場 に行 って 、 そ こで や って い るあ らゆ る仕 事 を身 につ け ま した。 つ ま り、 何 で
も作 れ る よ うに な りま した 。 鉄 砲 も、 連 発 銃 も、大 砲 も、 ボ イ ラー も、 エ ンジ ン も、
そ れ か ら労 働 を 節 約 で きる あ りとあ らゆ る機 械 類 もね 。 い や 、 人 間 が 必 要 とす る、
こ の 世 の どん な もの で も作 る こ とが で きま した 。作 り方 が まだ わ か らな い もの につ
い て は、 私 が 作 り方 を考 案 しま した」(は し書 き)。 ハ ー トフ ォー ドとい え ば 、 フ ラ ン
ク リンの生 まれ 活 躍 した(マ サ チ ュー セ ッツ州)ボ ス トンや(ペ
ンシルバ ニ ァ州)フ ィ
ラ デ ル フ ィアか らそ れ ほ ど離 れ て い な い 町 で あ る。 そ して、 生 まれ の 貧 し さと器 用
さ と利 発 そ うな ところ は 、 ま さに フ ラ ンク リンの 感 が 漂 っ て い る。 「節 約 」は フ ラ ン
クリ ンが 主 張 す る13徳 の うち の1つ で あ った 。
このハ ンクが 工 場 で け ん か を して(ト ム ・ソー ヤ ー の いた ず ら癖 とけ ん か癖 が 引 き
継 が れ て い る?フ ラ ンク リン も小 さい 頃 は い たず ら少 年 で あ っ た)、 頭 部 を した た か
殴 られ、気 が つ い た ら、1300年 前 の アー サ ー王 の 時代 にい た 、とい う設 定 で あ る。「騎
士 」な る もの が 目の 前 に いて 、 追 い か け られ 、捕 虜 に な る。 連 れ て 来 られ た 所 に は、
変 な格 好 の が い っ ぱ い い るの で 「精 神 病 院」か と思 った が 、 あ る若 者 が 「こ こは アー
サ ー 王 の 宮 廷 で す 」 と 言 う 。 び っ く りす る が 、 ど ち ら が 正 し い か 、 科 学 的 に 調 べ て
み る こ と に す る 。 少 年 が 言 う よ う に 、 紀 元528年6月19日
な ら、 確 か 、21日
に皆既
日 食 が あ る は ず 。 「現 状 に 注 意 し て い て 、 そ れ を 最 大 限 に 利 用 す る(makethemost
outofthemthatcouldbemade)」
atatime)。
こ と に す る 。 そ し て 、 「1度 に1つ
ず つ(Onething
こ れ が 、私 の モ ッ トー 」。(科 学 性 、功 利 性 は フ ラ ン ク リ ン が 主 張 す る 美 徳 。
こ の モ ッ トー も フ ラ ン ク リ ン の 格 言 「今 日 で き る こ と を 明 日 に 回 す な 」「塵 も つ も れ ば
山 と な る 」 に 近 い 。)こ こ が 気 違 い 病 院 な ら 、 そ こ の ボ ス に 、 こ こ が6世
紀 の イギ リ
ス な ら 、 こ の 国 の ボ ス に な っ て や る と 、 前 向 き で あ る 。(ボ ス 〔一 上 司 〕 と い う の は
ビ ジ ネス 世 界
フ ラ ン ク リ ン 的 世 界 一一 の 用 語 で あ り、 ま た 、 前 向 き 、 つ ま り、 決
断 力 と実 行 力 を 持 つ こ と は 、 フ ラ ン ク リ ン が い う 美 徳 。)「い っ た ん 決 意 し て 、 や る こ
と が 手 近 に あ る な ら 、 私 は 時 間 を 無 駄 に す る 人 間 で は な い(1'mnotamantowaste
timeaftermymind'smadeupandthere'sworkonhand)」
(Ch.2)(フ
と、 行 動 を 開 始 す る
ラ ン ク リ ン の"Timeismoney."を
ハ ン ク の 処 刑 が21日
思 い 起 こ さ せ る セ リ フ で あ る)。
に 決 ま り、土 牢 に 入 れ ら れ て い る 問 に 、彼 は 考 え に 考 え る 。「お
一73一
れ の 方 が 、 知 恵 が 正300年 進 ん で い る ん だ 。 負 け る わ け が な い」(合 理 的 に して前 向
きの と らえ 方 は フ ラ ンク リ ン と トム ・ソー ヤ ー を 引 き継 い で い る)。 そ して 、a計"
を案 じる。 皆 既 日食 を利 用 す る の で あ る。 少 年 を呼 ん で 言 う。 「帰 りて 王 に伝 え よ。
21日 の 正 午 に、 私 は全 世 界 を覆 い尽 くし、 真 夜 中 の まっ暗 闇 に して 見 せ よ う。 太 陽
をか き消 して くれ ん。 … 地 上 の 果 実 は光 と熱 を失 って腐 り果 て 、 この 世 の す べ て の
民 族 は、 ひ と り残 らず 飢 え て 死 ぬ で あ ろ う!」 これ を、 劇 的 に 、 だ ん だ ん調 子 を高
め て 、 最 高 潮 に もっ て い く。 少 年 は圧 倒 され 、 気 絶 す る。 ハ ンク は 「私 は全 国 民 の
驚 きと尊 敬 の 的 に な りた か った 」と吐 露 す る(Ch5-6)。(こ
の芝 居 が か った 演 技 は、
トム ・ソー ヤ ー 的 な もの で あ るが 、 フ ラ ンク リ ン も 「ふ りを す る」こ との効 果 を知 っ
てお り、『自伝 』の 中 に 書 い て い る。7)ま た 、「人 間 の 自尊 心 は ど うしよ う もな い もの」
「私 は有 名 に な った こ とは嬉 しか った 」とも述 べ て い る。)
処 刑 の 日程 が1日 早 め られ た!(ハ
ンクの計 画 の 失 敗 。 計 画 の 失 敗 は、 トム ・ソー
ヤ ー 的。 トム はい つ も、 急 い で 、新 た な計 画 を考 え 出す ので あ った 。)
ところが 、 例 の少 年 ク ラ レ ンス が もと も と日付 を1日 間違 え て い た ら し く、 日食 は
処 刑 の 日に始 まる。(読 者 をハ ラハ ラ させ るの は トム ・ソー ヤ ー 的 な と ころ。)ハ ンク
は これ まで に な い ほ ど、 もっ た い ぶ った 演 技 を始 め る。 片 手 を ぐい と伸 ば し、 太 陽
を指 差 し…。4千 人 の観 衆 に戦 傑 が 走 る。恐 れ お の の い た 国 王 が 許 しを請 う。(ト ム ・
ソ ー ヤ ー 的 演 技 とそ の 効 果 。)ハ ンクは 、 太 陽 を消 し去 らない 代 わ りに、 自分 を 「終
身 の大 臣兼 行 政 官(=首
相)」 にす る こ とを要 求 す る。(ナ ンバ ー2で あ る。 絶 頂 期 の
フラ ンク リ ン と同 じ立 場 。)「私 の給 与 は現 在 の歳 入 額 を上 回 る、 私 が 国 家 の た め に
生 み 出す で あ ろ う実 収 益 の1%と
す る。私 が た とえ、この報 酬 で 生 活 が で きな くて も、
昇 給 を要 求 す る こ とは しない 。」人 々 の 大 きな拍 手 喝 采 。 王 は す ぐに 認 め る(Ch.6)。
(質 素 倹 約 の 精 神 が 滲 み 出 て お り、 「自分 の 利 害 を考 え なか っ た」政 治 家 ・改 革 者 フ
ラ ン ク リンそ の もの の感 じで あ る。 トウ ェ イ ンはや は り、 フ ラ ン ク リンをモ デ ル に し
て 、 この作 品 を書 い て い る の で は ない だ ろ うか 。)
ボ ス(も はや 、 ハ ン クの 愛 称 とな っ て い る)の 国 内 改 革 が 始 ま る。 「ロ ビ ンソ ン ・
クル ー ソ ー の よ うに、 い ろ い ろ な もの を発 明 し、 工 夫 し、創 りだ し、 改 造 しな け れ
ば な らな い の だ。 頭 と手 を働 か せ 、 忙 し く動 か ね ば な らず 、 だ が 、 そ れ は私 の得 意
一74一
とす る とこ ろで あ っ た」。(工 夫 と努 力 に よ り、 印刷 機 械 の発 明 や 改 良 を次 々 に行 っ
た フ ラ ンク リ ンを彷 彿 とさせ る場 面 で あ る。)途 中 、 自分 の 仕 事 を邪 魔 をさせ な い た
め に、 ラ イバ ル の魔 術 師 の 住 む 石 の塔 を 吹 き飛 ば す 方 法 を考 案 す る。(計 画 好 き。)
強力 な爆 薬 を作 って 塔 に仕 掛 け 、併 せ て、人 を使 って避 雷針 と導 火 線 を作 らせ 、セ ッ
トす る。後 は、雷 雨 を待 つ ばか り。(科 学 。そ して、「雷=電
気 」の 発 見 で 有 名 に な り、
「避 雷 針 」を発 明 した の は フラ ンク リンで あ った。)ま た して も、 観 衆 を大 勢 集 め、 大
成 功!(Ch.7)(い
つ も 「効 果 」を考 え て い る の は トム ・ソー ヤ ー譲 り?フ
ラ ンク リ
ンに もあ っ たが 。)
「絶 大 な る権 力 が 与 え られ て い る こ とは、 す ば らしい こ とだ」「見 よ、 ひ と りの 人 間
の 前 に さ ま ざ まな機 会 が 待 ち受 け て くれ て い る。 知 識 を持 ち、 頭 脳 を持 ち 、進 取 の
精 神 あふ れ る人 間 の前 にだ 。 … 大 事 業 が 待 って い る」(Ch.8)(フ
ラ ンク リ ンも国会 議
員 に な った ときに 「立 場 が 与 え られ れ ば、 善 な る力 を 出 す こ とが で き る」 と喜 ん だ 。
悪 意 の な い ボ ス も同 じ気 持 ち で あ った ろ う。)そ して 、 政 治 家 に な った ボ ス は騎 士 た
ち を敵 に回 さな い工 夫 をす る。(「敵 を作 らな い ように した 」とい う フ ラ ンク リンそ の
もの で あ る。)
さて 、 ボス の 改 革 で あ るが 、 まず 、 特 許 局 を作 る。(発 明 、 改 良 に 「特 許 」は付 き
物 で あ ろ う。 た だ 、 フラ ンク リ ンは 自分 の創 った オ ー プ ン ・ス トー ブ の 特 許 は 要 請 し
な か っ た。 人 の役 に 立 て ば そ れ で よい 、 とい う発 想 か ら。)公 衆 道 徳 省 兼 農 林 省 を設
置 し(道 徳 は フ ラ ンク リンが 大 事 と考 え、 トムが い つ も気 に して い た こ と)、 学 校 制
度 を創 り(フ ラ ンク リン も早 い うちか ら、 大 学 の 創 設 を考 え て い た)、 新 聞 を発 行 し
た(「 死 ん だ 国 民 を生 き返 らせ る」。 フ ラ ンク リ ンも何 に つ け、 公 共 の 仕 事 をす る た
め に は、薪 聞 や パ ンフ レ ッ トで 前 も って 情 報 を流 し、 人 々 に心 の 準 備 を させ る こ と
が 大 事 と考 えた)。 新 聞 の た め に広 告 を集 め(フ ラ ンク リ ンは寄 付 集 め の名 人 で あ っ
た。 広 告 を集 め る の と同 じこ とで あ る)、 教 員 工 場 を創 り(教 員 養 成 所 で あ る。 フ ラ
ンク リン も人 材 を育 て る た め に ジ ャ ン トー とい うク ラブ を創 っ た)、 多 くの 日曜 学 校
を作 っ た(プ ロテ ス タ ン トの あ らゆ る宗 派 を教 え る学 校 で あ る。 宗 派 は 国 民 に選 ば
せ る。 フ ラ ンク リ ンが す べ て の キ リス ト教 の 宗 派 と等 距 離 を保 とう と した の と似 て
い る)。電 信 電 話 事 業 を計 画 し(電 柱 を使 わず 、地 下 に 電 線 を走 らせ る。「そ の電 線 は 、
一一75-一
私 が 発 明 した 完 壁 な絶 縁 体 で 保 護 され て い る」。 そ し て、 電 気 の 研 究 に大 きな 貢 献
を した の が フラ ンク リ ンで あ った)、 税 制 改 革 に着 手 した(「 国民 に、以 前 よ りず っ と
均 等 な納 税 負 担 を。 …全 国 民 が 心 か ら賞 賛 して くれ た 」。 フラ ンク リン も公 正 な税 制
に取 り組 み、 成 果 を上 げ た)(Ch.9-10)。
改 革 の 途 中で 、 ボ ス の欲 しい ものが 手 に入
らな い。 彼 は 「手 に入 れ る こ とが で きな い もの は、 か え って や た ら欲 し くな る もの 」
とつ ぶ や く(Ch.12)。
これ は、 トムが 「ペ ンキ塗 り仕 事 」の とき に発 見 した 「法 則 」
と同 じで あ り、 フラ ンク リ ンが 唱 え る 「現 実 主 義 」「功 利 主 義」 と軌 を一 に して い る。
そ して 、 ボ スが フラ ンク リ ン と見 まが う よ うな発 言 をす る場 面 が あ る。 旅 に 出 た
ボ スが 、 人 々 の 生 活 の 実 態 を見 た と きで あ る。 目の前 に人 口 の99%を
占 め る、 虐 げ
られ た 下 層 民 の 一 群 が い る。 ボ ス は彼 らに長 々 と 「自 由 と平 等 」そ して 「選 挙 」の 意
義 を説 く。(「自由 、平 等 、 幸 福 の追 求 の権 利 」は フ ラ ンク リ ンが ジェ フ ァー ソ ンとと
もに起 草 した 『独 立 宣 言 文 』の 要 で あ り、人 間 生 活 に とっ て重 要 な道 徳 的 価 値 で あ る。
フ ラ ンク リ ンは この価 値 の た め に 生 涯 を捧 げ た の で あ る し、 トウ ェイ ンの作 品 もこ
れ らの 価 値 の宣 揚 の た め に あ った とい え る。)皆 、 呆 然 と して い て 、 ひ と りの男 だ け
が 反 応 を示 した。 ボ ス は考 え る。 コネ チ カ ッ ト州 の 憲 法 に あ る よ うに 「あ らゆ る政 治
上 の権 力 は、 本 来 、 州 民 の 中 に備 わ って い る もの で あ り、 あ らゆ る 自由 な政 体 は 州
民 の許 可 の上 に打 ち 立 て られ 、 州 民 の 利 益 の た め に制 定 され る もの で あ る。 か つ ま
た 、 州 民 は、 否 定 され 、 破 棄 され る こ との な い権 利 を常 に保 持 し、州 民 が 適 当 と考
え る方 法 で 自 らの 政 治 形 態 を変 え る こ とが で きる」と持 って い きた い ところ だが 、 多
くの 者 に しっ か りした 教 育 を して か らで な い と革 命 は 失 敗 す る、 フ ラ ンス 革 命 は
1000年
後 の こ となの だ 、 と(Ch.10-13)。
一
ボ ス が 思 い つ い た コネチ カ ッ ト州 の憲
法 の 「州 民 」の 部 分 を 「国民 」に代 え れ ば 、 フ ラ ンク リ ンが 手 を染 め た 『
独 立宣言文 』
そ して 『ア メ リカ憲 法 』の重 要 部 分 とそ っ くりに な る。 フ ラ ンス 革 命 に希 望 の 光 を与
え た の も フラ ンク リンで あ る こ とはす で に述 べ た 通 りで あ る。 なお 、 フ ラ ンク リンの
自 由 と平 等 、 そ して 独 立 へ の 意 識 は、 彼 が ペ ンシル バ ニ ア 州(当 時 は まだ イ ギ リス
の植 民 地)の 州 会 議 員 で あ った 頃 にす で に見 られ る。 『自伝 』を見 る と、 彼 が 州 会 を
代 表 し、 さ ま ざ ま な 問題 につ い て イギ リス と対 等 の 関 係 を求 め るべ く、 イギ リス 本
国 に 向 か って い る。 枢 密 院 議 長 と話 し合 った と き、 イギ リス 議 会 が 「植 民 地 は 国 王
一76一
の意 の ま まで あ る」 とい う考 え を持 っ て い る こ とが わ か り、 強 く抗 議 。 「わ れ わ れ の
法 律 は、 わ れ わ れ の 州 会 で作 る もの で あ る。 … 国 王 の 同 意 を得 な い で 、 州 会 が 永 久
的 な 法 律 を作 る こ とが で きな い の と同 じ よ うに、 国 王 も州 会 の 同意 を得 な い で 、 植
民 地 の法 律 を作 る こ とはで きな い」(164-5)と
相 手 を論 破 して い る。 こ こ に、 『独 立
宣 言 文 』の も ととな る発 想 が 見 られ る。 トウ ェイ ンは 『自伝 』の こ の部 分 を意 識 しな
が ら、 ボ ス と下 層 民 の 出 会 い の 話 を書 い た の で は ない だ ろ うか 。
要約
トウェ イ ンは フ ラ ンク リン とよ く似 た家 庭 環 境 、宗 教 環 境 の 中 で 、 フ ラ ンク リンの
『自伝 』や 彼 に つ い て の読 み 物 に 囲 まれ 、 さ らに、 フ ラ ンク リ ンを信 奉 す る 兄 の もと
で 、 フ ラ ンク リ ン と同 じ印 刷 屋 の仕 事 を しな が ら育 った 。 科 学 好 きで 合 理 主 義 の ト
ウ ェ イ ンが 、 ア メ リカ を代 表 す る科 学 者 ・合 理 主 義 者 の フ ラ ンク リ ンを意 識 しな が
ら、 トム ・ソー ヤ ー を生 み、 ハ ンク ・モ ー ガ ンを生 ん だ の は 自然 の成 り行 きか も しれ
な い。 フラ ンク リ ン+(少
し過 度 の)ヒ ロ イズ ム=ト
ム ・ソ ー ヤ ー で あ り、 トムが さ
らに 成 長 して ハ ンク ・モ ー ガ ンに な った ようで あ る。 そ して 、 フ ラ ンク リン哲 学 の特
徴 で あ る実 利 的 人 道 主 義(=実
利 的 道 徳 主義)は
トウ ェイ ン作 品 中 の トム や ハ ンクが
示 す 道徳 的 ヒ ロイズ ム(と で も呼 ぶ べ きもの)と な って現 れ て い るの で あ る。
なお 、 ア ー サ ー 王 の 時 代(6世
紀)に19世
紀 の 科 学 文 明 を持 ち 込 ん で 改 革 しよ う
とす る大 発 想 を もつ の が ボ ス の ハ ンクで あ るが、 そ れ は18世 紀 前 半 の まだ ピ ュー リ
タニ ズ ムが 支 配 す る宗 教 国 ア メ リカ に、 ヨー ロ ッパ の 啓 蒙 主 義 ・合 理 主 義 を持 ち 込
み 、 独 立 まで 導 い た フ ラ ンク リ ンの 行 った 仕 事 と よ く似 て い る。 そ して、 ア ー サ ー
王 とそ の 国 の 人 々 が 示 した戸 惑 い と混 乱 は、 ま さ に ア メ リカが 独 立 戦 争 時 、 さ らに
は南 北 戦 争 時 に示 した 、 「自由 ・合 理 主 義vs.保
守 主 義 」の 混 乱 に似 て い る の か も し
れ な い 。 そ して 、 『ヤ ンキ ー』の 中 に登 場 す る 「下 層 民 」は 「黒 人 奴 隷 」 と重 な る 気
が す る。
また、 トウ ェ イ ンは 『トム ・ソー ヤ ー』『ヤ ンキ ー』お よび先 の 論 文 にお い て 紹 介 し
た4つ の 短 編 以 外 に も、 さ らに フ ラ ンク リ ンを 意 識 した 作 品(短 編)を 書 い て い る。
これ らにつ い て は、 稿 を改 めて 述 べ るこ とに したい 。
一77一
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Mass.,1980)
Neider,Charles:TheAutobiographyofMarkTwain(Harper&Row,Publishers,NewYork,
Hagerstown,SanFrancisco,London,1950)
Schneider,H.W.{ed):BenjaminFranklin:TheAutobiographyandSelectionsfromHisOther
Writings(TheLiberalArtsPress,NewYork,1952)
亀 井 俊 介
『ア メ リ カ 文 学 史 講 義1』(南
雲 堂,1997年)
)
1
注
拙 論 「BenjaminFranklinか
)
2 )
3
響一
らMarkTwainへ
『トム ・ソ ー ヤ ー の 冒 険 』そ の 他 に 見 ら れ る 影
」(創 価 大 学 英 文 学 会 『英 語 英 文 学 研 究 』第52号)参
照。
この 点 につ い て は 、前 掲 拙 論 に詳 述 した。
SchneidersBen/aminFranklin:TheAutobiographyandSelectionsfromHisOtherWritings
を テ キ ス トに 用 い た 。以 下 、引 用 部 分 の 日本 語 訳 は 松 本 慎 一 ・西 川 正 身 訳 「フ ラ ン ク リ ン 自 伝 』(岩
)
4
波 文 庫 、1957年
Schneider編
刊)を 参 考 に し た 。
、Ben/aminFranklin:TheAutobiographyandSelectionsfromHisOtherWriting、S
に 出 て い る(pp.202-10)。
)
5
(岩 波 文 庫 、1957年
刊)を
以 下 、引 用 部 分 の 日本 語 訳 は 松 本 慎 一 ・西 川 正 身 訳 「フ ラ ン ク リ ン 自伝 』
参 考 に した。
引 用 部 分 の 日本 語 訳 は 大 久 保 康 雄 訳 『トム ・ソ ー ヤ ー の 冒 険 』(新 潮 文 庫 、1980年
刊)を
参考 に
)
6
した。
以 下 、 『ヤ ン キ ー 』の 引 用 部 分 の 日本 語 訳 は 大 久 保 博 訳 『ア ー サ ー 王 宮 廷 の ヤ ンキ ー 』(角 川 文 庫 、
)
7
1980年
刊)を
参 考 に した 。
以 下 、 こ の 章 に 出 る フ ラ ン ク リ ン の 言 説 ・行 動 は 前 掲 拙 論 の 中 で も 紹 介 し た の で 、 引 用 ペ ー一ジ
に つ い て は 同論 文 参 照 。
一78一
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