Comments
Description
Transcript
- HERMES-IR
Title Author(s) Citation Issue Date Type フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について (1) 大藤(原岡), 紀子 一橋研究, 18(2): 71-96 1993-07-31 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/5876 Right Hitotsubashi University Repository 7 1 フラ ンスにおける批准前 の条約 の合憲性審査 に ついて(1) 大藤 ( 原岡)紀子 は じめに ・今 日,国際社会で扱われ る問題 は複雑化 し,具体的に個人 の生活 に深 く関わ る・ ものにな っているo また,その目的の実現にあたって,国家間 の協力,相互 依存関係が緊密 にな り,国内社会 と匡l 際社会 との調整の問題が益 々重要 な課題 となってきている。 このような状況の下で,法的にまず問題 となるの は,や は り国内憲法 と条約 との関係であろうO条約 は,ともすれば憲法の国民主権原理 にさえ も抵触す るような内容を規定す る。 また,憲法に明確 に反す る領域 ,患 法の空自の領域 にも容赦 な く踏み込んでい く。そうした時,国家 はいずれ も憲 法政治的な選択を迫 られ ることであろう。 それが避 けられない選択であるとす るな らば,一体一国のいかなる機関がいかなる手続によって,どのよ うな方法 でどの様 な選択の手段を提示す るのかo またその選択が主権者の意思 に合致す るためにはどうすれば良 いのかを再検討す ることが,この_ よ うな問題の解決 に 重要な一歩 となるのではなかろうか。 ところですでに四半世紀 あるいは半世紀 前 よ り,憲法 と各種法令 との間に矛盾が生 じないために,多 くの国で合憲性審 査が憲法上設 け られている。 この審査手続が,今 日の社会 にあって, .どの様 に 棟能 し,いかなる意味を持っ ものであるか。・ 本稿 は,その研究 の一端 となるこ とを目的 とす る。 現代 フランス憲法においては,日本のような付随的合憲性審査が設 け られ る のではな く,条約 について, その形式的な効力発生以前,批准以前 の合憲性審 1 )すなわち 「 国際条約および協定」 に関す・ る憲法 査が明文で認 め られている。( 4 条 は,「 共和国大統領i首相,いずれかの議院の議長 により請求 さ 第Ⅵ編の第5 れた意法院が,国際規約が憲法に反す る条項を含む と宣言 した場合 ,それを批 7 2 一橋研究 第1 8巻第 2号 准 し,または承認す る権限は,憲法の改正の後 にのみこれを行使す ることがで きる」 と規定するo この条文 は,間接的に意法院 という特殊な機関に串る批准 あるいは承認前め条約の合憲性審査権を定め,その審査請求権を共和国大統領, 首相,両議院の議長のいずれかの四名 に認めるものである。 また,同時 に憲法 憲法に反す る条項を含む」 と判定 した場合 の意法改正 の可能性 を も定 院が,「 めている。但 し,この意法改正 は,義萌 ではな く,意法改正案 を提 出す るか否 2 ) か という大統領 も' しく比議会議員の政治的選択 に委ね られている。( 1 9 9 2 年 4月 9日,意法院は,この憲法第5 4 条に基づ き,マース トリヒ ト条約 に関 して裁決を下 している。 この裁決 は,批准前の条約 の合憲性審査 の内容 に関連 して,初 めて条約 が 「 憲法 に反す る条項を含む」 と判示 した例であると同時 に,その意 味でそれ ま での裁決で拡大 されつつあった国民主権の 「 制限」 に一定の限界を施す、 ものと なった。 そ してこの裁決 に従 って行われた憲法改正,̀ぉよびそれ らに関連 して下 され た意法院の裁決 は,この憲法院の批准前の条約の合憲性審査権の手続 ,そ由権 限の範囲にも影響を与えることとなる。 以下,今回は,フラン_ スにおける批准前の条約の合憲性審査の手続 に関 して (Ⅰ),・ および審査の内容 として,国民主権原理 との関係 にお いて,幾 つかの裁 決の事例をあげることにより(Ⅱ),フランスの批准前の合意性審査の概要 を紹 介す ることに重点を置 く。 ∫.批 准 前 め条 約の 合 憲性 審 査 の手 続 A.第54条 に基づ く手続 4 条に基づ く批准前の条約の合憲性審査 は,1 9 9 2 年 6月の憲法改正以前 に 第5 は, ■マ十ス トリヒト条約 に関する1 9 9 2年 4月 9日の裁決 ( 9 2 3 0 8 DC) を含 め 9 7 0 年に,首相の請求 によ り, て,過去 に四つ しか例がないO初めての裁決 は,1 ヨーロッパ共同体議会の財政権限を拡大する条約,およびその固有の財政資源 を強化す る共同体の閣僚理事会の決定 について行われた ものである0 第二の裁 決 は,1 9 7 6 年の ヨーロッパ議会の普通直接選挙 に関す る共同休理事会の決定 に ついてである。第三の裁決 は,1 9 8 5 年の死刑を廃止するヨーロ_ ツノ ヾ 人権条約 の 附属議定書 に関するもの,そ して第四は, L 1 9 9 2 年の,ヨー ロ ; iパ統 合 に関す る フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 7 3 いわゆるマース トリヒ ト条約 に関連す るものである。後の三つの裁決 は,いず れ も共和国大統領の請求 に基づ くものであるC これ ら四うの うち,憲法 に反す 9 9 2 年の裁決 が初 めてであ ったO ところで, る条項を含むと判断 されたのは,1 4 条 に基づ く憲法院への審査請求 この裁決の後 に行われた憲法改正 により,第5 9 7 4 権が,従来の共和国大統領,首相,いずれかの議院 の議長 の四名 の他 に,1 年 に改正 された第6 1 条 2項の場合 と同 じく,新たに6 0 名の国民議会議員 も・ しく 9 9 2 年 9月 2日,早速6 0 名の元老院議員 の は元老院議員 に認め られた。 そ して1 4 条 に基づ くマース トリヒト条約 に対+ る第二 の裁決 ( 9 2 「 31 2 請求 によ り,第5 3 ) DC)が下 されているo( 第5 4 条 は,従来,四名に意法院への審査請求権を認めていた。共和国大統領, ・ 首相,両議院の議長である。理論的に. は,これ ら四名への請求権 の容認 は,執 行権 と立法権の代表者たる人物 に対す るものであ って,両権力の抑制均衡が計 られた ものと考え られる。 しか し,実際には,すでに述べたよ うに,憲法改正 以降の例を除けば,同条 に基づ く審査請求は,首相 による一例の他 はすべて共 和E E E 大統領 による請求 となってお. り, . 執行権 により独 占されているのがその実 態である。 4 条の請求権者 は,憲法制定過程 において,何の議論 もため らい もな この第5 1 条 2項の請求権者がそのまま取 り入れ られたものである。・ 第6 1 条 2項 く,第6 紘,通常 の法律の合憲性審査に関す る規定であるo しか し法律_ の制定 に関 して は,その発案権の多 くが執行府 により行われている問題を別 とす仰 ぎ,主役 は, 4 条の規定 は,条約 に関す る規定なのであって, 立法府である。 これに対 し,第5 その合憲性審査の請求権までが,条約の交渉,締結権を有する執行府 に握 られ てお り,実質上独占されているのは,外交政策分野 において.議会 による民主 的統制が必要であると見なす立場か らは,あまりに権力_ の偏 りがある。 1 9 7 4 年.法律の合憲性審査に関する第6 1 条第 2項 について憲法改正が行われ, それぞれの議院6 0 名の議員に審査請求権が拡大 された。 これに対 して,第 5 4条 1 )そ については,改正 されないまま残 されたことに,批判が向 け られていた。( ・ 1 9 9 2 年のマース トリヒ ト条約批准に先立つ憲法改正 によ り,第 5 4条 して漸 く, 1 条 2項同様,両議院の6 0 名の議員に請求権が認 め ら■ れ る■ こと について も,第6 となったのであるO このマース トリヒト条約批准 に伴 う憲法改正 は,政府実々 は,そ_ の条約批准 にあ くまで必要な範囲内でのみ考え られ,コンセイユ ・デ タ 7 4 一橋研究 第1 8 巻第 2号 で幾っかの修正を受けた後,憲法改正案 は議会に回されたO第5 4 条 に関係 す る 改正 は,その議会で,第7 4 条に関するものと共に付け加え られ,採択 されたもの 5 ) である.( (一 il )第5 4 条の請求権者 に纏わる憲法改正 ・ 1 9 9 2 年 4月 9月 ,憲法院がマース トリヒト条約 に関する裁決で,同条約 が憲 法に反する条項を含むと判断 した後,政府 は,早速具休的な改正作業に着手 し, 4月1 4別 こは,憲法第3 9 条 に基づいて,コンセイエ ・デタに改正案 を提 出 して , 2日 「ヨーロッパ統合 の編 を憲法 に加 え る」 共和 いるOそ してそれは,4月2 国大統領の意法改正案 として議会 に送 られている。 日,マ「ス トリヒト条約の署名国の一つであるデンマークで, ところで 6月 5. 国民投票の結果,その批准が否決 されるという事件が起 こった。 この事件 に基 mo t i o nd' i r r e c e v a b i l i t 占 ) 、がRP Rの づ き,元老院の第二読会で不受理 の動議 ( a u lMa s s o n氏によ. り提出されている。 条約の1 2の加盟国 の うち一 国 議員,P で も批准が成立 しない場合には,条約 は無効になると考 え られたか らで あ る。 Rの議員,および共産党議員 によ り支持 された とい うが, ・ この動議 は.主 にRP 9 6 対1 2 0で否決 された。共産党 グループより提出された部下 の動議 も2 0 0 結局1 対77( 棄権9 6 )で否決 されているO( 6 ) デ ンマークの批准否決で中断された議論が再開 された後,_ 6月1 1日,第 5 4 条 1 条 2項 に対 してなされた に関連す る修正案が突然提出された。それは憲法第6 1 9 7 4 年の改正同様,6 0 名の国民議会議員および6 0 名の元老院議員に,共和国大 統領,首相,両議院議長 と並んで,条約の合憲性審査について憲法院への請求 権を認め る修正案であ る。 4 条 にい う国際規 また実 はこの修正案 に続いて第二の修正案が提 出され,第5 約 に,共同体機関の行為を含めることが提案 されたoそれは共同体機関o' 行為 を意法院の合憲性審査 に服 させることを目的 とした ものであったが,条約 に明 示的な規定がある場合を除いて,それ らの行為 は,加盟国の承認 を必要 と しな いのが原則であるため,この第二の修正案 は無効 となった。 このような修正案 は∴共同体機関の行為の最終的な裁判機関として ヨーロッパ共同体裁判所 しか 認めない共同体の条約の原則にも相反するものである。 4 条に関す る改正 は,初 めの修正案 のみが, 元老院第二読会で突然現れた第5 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 7 5 国民議会第二読会で採択 されることとな り,3 8 8 対4 3( 1 2 5 名のRPR議員が棄権) で可決 されたのである。 続 いて,憲法第8 9 条第 3項の規定 に基づいて,6月2 3日,共和 国大統領 の召 占 S )が開かれたDそこで も法案 は,5 9 2の 集 によりヴェルサイユで国会 ( Congr /5の多数 ( 3 9 9 )を十分 に獲得 し ( 賛成 5 9 2,反対 7 3, 賛成票を得て,有効票の3 4 ),可決 された。 棄権 1 5日に公布 され, 「憲法 に 『ヨーロッパ共同体およびヨーロッパ統合 法案 は2 9 9 2 年 6月2 5日の憲法的法律第9 2 5 5 4 」となっ について』 と題す る一編を加える1 4 条に関する規定 は次のようである。 た。第5 4 条 一共和国大統領, 首相,いずれかの議院の議長 , または6 0名 の国民議会 『 第5 議員 もしくは元老院議員の請求 により.患法院が国際規約が憲法に反す る条項 を含む と宣言 した場合,当該国際規約を批准 し,または承認す る権限 は,憲法 』 」 の改正の後 にのみ これを行使することがで きるo この改正 により,初めて第5 4 条 に基づ く意法院に対する請求権 は.第 6 1 条と 同一の主休 に帰属 され ることとなった。議員による請求が認 め られた ことで, 4 条の審査そのものの性質が変わることが予想される。すなわち共同体機関 第5 に固有の財政権を認めた り,ヨーロッパ議会構成員の普通選挙を認 めた り,死 刑制度を廃止 し,共同体市民 に地方選挙の投票権を認め,ヨーロッパ内の金融 制度の統一化を規定することは,元来であれば,直ちに世論長分断す るような 論争を呼び起 こす性質の ものであろう。執行府による意法院への請求 は,そ う した状況を避 け,問題の国際規約を成立 させるために, ・ 少 な くとも法律上 の批 判だけは確実 にかわ し,反対派の浮上を押 さえる目的を持 っていたと思われるo そ して,議会での議論が始 まる以前に憲法 との整合性 という法律上の論争 に決 着をつけ,国際規約の批准にで きるだけ早 く漕 ぎ着 ける手段 として用い られて いたと考え られるのである。( 7 )しか し今回の改正で議員による審査請求 が認 め られた ことで,反対派議員が憲法院に請求する道が開かれたことにな り,それ 4 条を通 じて国際規約の合憲性がよ が十分に機能する限 りにおいて,今後 は第5 り実質的に問題 にされることとなろうo ( i i )請求の時期 請求権者が拡大 された第5 4 条の手続 に基づいて,一体それ らの者が何時 その 7 6 一橋研究 第1 8巻第 2号 請求を行い得 るのか, .という請求の時期が次の問題 となる。 請求は,これまでの実例では,署名後,批准,承認法案可決以前 に行われて いるO 請求を行い得 る最 も早い時期 は, 'その条約が締結,署名された時で あるO .す 4 条は 「 国際規約 ( e 克a g e me nti n t e r n a t i o n a l ) 」 について規定 し なわも,第5 e n ga g e me nt )があること,従 って,当 ているが,この文言 は,すでに約束事 ( 事国同士,交渉の結果の取 り極めがあることを想定 していると考え られる. 請求を行い得 る最 も遅 い時期にう' いては,議会で批准または承認を認 め る法 4 条が,意法院が 「 憲法に反する条項 を 案が採択 される以前である。 これは第5 含む」 という判断を下 した場合,議会における批准.承認行為以前 に,憲法 が 改正 される必要を述べていることの当然の論理的帰結である。議会において条 約,協定の批准,承認法が可決された後のことは,後 に述 べ る憲法第6 1 条 2項 の領域 となる。 9 7 6 年のケースと1 9 8 5 年のケースにおいては, 共和国大統領 により請求 された1 政府法案が議会の審議 にかけられることが示唆された後,しか しそれが議会 に 9 7 6 年の場合には,1 2 月 3日に憲法院 提出される以前 に憲法院に請求 された。1 1 2 月の2 9,3 0Ⅰ ]に裁決が出されている。国際規約 ( 1 9 7 6 が公式に審査請求 され, 年. 9月2 0日) の承認 を与える政府法案が実際に議会に提出 された の は,翌年 9 8 5 年の場合には,憲法院は∴4月2 4日に請求 の 5月末 にな ってか らである。1 され,5月2 2日に裁決を下 している。 そして3 0日に政府 は国際規約の批准 を与 える法案を議会 に提出 しているが,それが国民議会 によ って採択 されたのは, 1 2 月に入 ってか らのことである。 この国際規約が署名 されたのは,1 9 8 3年 4月 2 8日であるか ら∴署名の後,2年を経て憲法院に審査請求 され,更 に議会 に批 准法案が提出されてか ら批准が成立す るまで 7ケ月程を要 した こ と に な る。 1 99 2 年 のマース トリヒ ト条約 ( 同年 2月 7日署名)特関 して も, 共和国大統領 に′ より,3月1 1日■ に憲法院に審査請求 され,裁決 が下 った由は 4月 9E l であ り, 3E I である。 批准が国会で可決 されたのは 6月2 すでに議会において批准.承認を認める法案の審議が始まっている場合 はど うであろうか。実例 として上 げられるのが,首相により請求された1 9 7 0年裁決 の場合である。 憲法院に正式に審査請求 された 6月1 1日,すでに法案 は,議会 1 9 7 0 年 5月1 3日) されてか ら一 ケ月程経ち,また,外務委員会 におけ に提出 ( フランスにおける批准前の条約の合意性審査について( 1 ) 7 7 る実質的な審議 も始 まり,同日法務委員会にも意見が求め られていた。国民議 2 9 各の規定により,条約の批准に関する法案 の審議 中に憲法鹿 に審 会規則第 1 査請求が行われた場合 には,直ちに審議 は中断 されなければな らないO そ して その立法手続 は,憲法院が条約が憲法に反す る条項を含 まないと判断 した後 に ,1 9 7 0 年のケースでは, ・請求後 8E l のみの審査期間 のみ再開される。 憲法院は■ 3日,緊急宣 を経て裁決を下 している。続いて議会での審議の再開の際 ,6月2 言 ( d ら c l a r a t i o nd ' u r ge n c e )( 8 )が出されたため,それぞれの議院の審議 は,一 9日の元老院における可決で早 くも最終 的 に つの読会に限 られ,法案 は 6月2 , 成立 し 7月 8日に公布 され , , 9日に官報 に掲載 されている。 意法院への請求 0H足 らずの問の駆 け足の批准成立である。 この1 9 7 0 年のケースな の後,実 に2 どは,特 に,憲法院への合憲性審査請求が,批准成立を早期 に達成す るた̀めの 執行府の政策的手段 として用 いられている疑いが濃い。 2 9 条の規定 は,国民投票の手続 の場合 に も援用 され る この国民議会規則第1 2 9 条 は,一般的な原則を定めた規定 であるとい う立場 か ら のであろうかO第 1 紘,立法手続の場合 にも,国民投票め場合 にも,区別な く適用 され るべ きだ と されるO また, 法の一般原則の下 におい七,裁判 による救済 は,法 に明記 され 七いる限 りにおいて他の手続を停止 させる効力を有す るという立場か らは,読 会規則の規定がある立法手続の場合には,審議 は中断されるが,国民投票 の場 合には,明示的な規定がないため,投票の手続の中断はできないとされる。Lu c h a i r e氏 によれば,いずれにして も合理的な期間内に請求が行われ る必要 があ るという。、 もし憲法院が国民投票の結果が宣言 される以前に裁決を下す ことが jt きないのであるな らば,適正 に行われた人民 による決定 ( l ev e r d i c tp o p u - 1 a i r 占 ) は,覆 されることを得ないのであるか ら,憲法院は, . ' 自 ら裁決 を下す権 限が失われた ことを表明すべ きであるとす る。■しか しその場合で も,国民投票 が否決の結果を出 した時には,意法院は憲法第6 0 郵 こ基づき,投票 の適正 を審 査する際に,最後の瞬間における意法院への請求が適正 でなか った とすれば. 国民投票の適正を害す るもの■ で あると宣言で きるものと考え られている。 これ に対 して,合理的な期間内に憲法院に対 し請求が行われ,合理 的期間内に,国 民投票にかけ られている条約が,憲法 に反する条項を含むという裁決が下 され た場合 には,共和国大統領は,直ちに投票手続を中止する法的義務 を負 うのせ ある。 (9) 7 8 一橋研究 第1 8 巻第 2号 以上のような長 い請求期間の設定 は,読会議員に請求権が認められていなかっ た時期に,請求権者,ななわち執行府である共和国大統領および首相 に,様 々 な状況に応 じて.条約,協定の批准あるいは承認I tいうそP目的 に適 うよ うに 技巧を凝 らす機会を与えるものであるという点が指摘 され,批判 されていた。( 1 0 ) 議員 E _ こ請求権が認め られたことで,このような執行府 に有利な運用に も歯止 め がかかることか期待 されるO ( i i i )憲法第1 1 条 との関係における義務的請求 , 1 条は 「 共和国大統領 は,・・・憲法 に反す ることな く機 関の機能 憲法第1 に影響 を与えるような条約の批准を承認す る ・・・すべての政府提出法案を国 民投票 にかけることがで きる」 と規定 している。 この規定 は,憲法に反す る条 項を含んでいると考え られる条約 については,国民投票にかけることを禁止 す るものであると解す ことがで きる。 そ うした立場か らは,第1 1 条 に従 って,国民投票 にかけるためには,事前 に 4 条の手続 により,問題の条約が違憲の条項を含んでいなI、 かどうか,■ あら 第5 か じめ憲法院の審査 に服 していなければな らない,ということになるO このような解釈を取 らないものにとっては,共和国大統領 は,第 5 4条 の手続 によ らず,国民投票 によ って,条約 の批准の可決を決定す ると同時 に,国民投 票は,仮 に条約が遵憲の疑 いのある条項を含んでいた場合には,間接 的 に憲法 改正の意義を持つ こと_ になる。 憲法制定過程 における議論 は,第一の解釈に与 していたよ. うである。 コ ンセ , , Janot 氏は 「 仮に大統領 が,憲法 に反す る規 イユ Tデタにおける政碍委員R・ 定を含む条約 に直面 した時, ・_ ・憲法は,明 らか に第 4 9 条 [ 現行憲法第 5 4条] 1 1 ! の手続を踏む義務を大統領 に課す ものである」 と述べているD( 1 9 9 2 年 のマース ト1 )ヒト条約の際には,批准が,議会の審議によるか ( 憲法 9 条の手続),国民投票 によ冬か ( 憲法第1 1 条の手続).が明確 には定 め られ 第8 ないまま,憲法院に大統領 により審査請求 されている。大 統領 は,当初 は議会 , 9 8 8 年 3月 7日の時点 で は 「人民 によ り確立 さ の手続 I _ こよるとしていたが,1 9 条 と共 に憲法改正の手段 の一つであ ると考 れ, _ 承認 さt T , た慣行 は_ ,, 今後,夢8 1 条 は,慎重 に,そq) 起草 において, '条文 の数が少 な く, え られ るoただ し第 1 単純なものについて用い られるのでなければな らないO さもな くば,フラ ンス フランスにおける批准前の条約 の合憲性審査につ いて( 1 ) 7 9 人民 の考 えは,大掛か りな議会の審議 によ. り明 らか にされ ろことが望 ま しいで あろ う」 と述べてい るb 明確 に国民投票 による批准 の方式 を取 ることが定 め ら れたの_ は,デ イ_ マーク人民 によろ批准拒否 の事件があ った 6月 5日以 降 ,す な わち意法院の審査がすでにかな り以前 に終わ っていた段階 においてであ った。 ( i v) 裁決 までの審査期間 憲法第6 1 条第 3項 には,組織法.通常 の法律 の合憲性審査 の裁決 は, 1ケ月 の期間内 に下 されなければな らず,また,政府の要請 によ り,緊急 を要 す る場 合 には,この期限 は,8日とな る旨規定 されている。 条約 の合憲性審査 に関 し 4 条 には,同様 の規定 はない。 て はど うであろ うか。第 5 1 9 5 8 年1 1月 7日の憲法院 に関す る組織法 には, 「 合 憲性審 査 の宣亭」 と題 す , 1 条第 3項 に定 る章 か設 け られてお り.その第19条 は 「判断 は, ・・・憲法第6 め られた期間内に行 われ る」 と定 めているが,これ は,あ くまで も組織 法 ,逮 常 の法律 の合憲性審査 に関する ものであ って,条約 に適用 されなければな らな 8 条 は,憲法第 5 4条 に い もので はないと解 す ることがで き. る。 しか し同章 の第1 9 条 の規定 も法律の合意性審査 の場合 に限 られず ,秦 も言及 しているため,第 1 約 の合憲性審査 に も適用 され るとい う解釈 も成 り立つのである。 で は,政策論 的にはどうか。■ そ もそ も,組織法,通常 の法律 の合憲性審 査 に, この様 な裁決 の期限が設 け られたのは,すでに成立 した法律 の公布 ,また は議 会規則 の適用 をあま り長引かせ ることがあ ってほな らないとい う配慮があ った か らである。第 5 4 条 に基 づ く条約の場合 には,問題 とされているのは未だ批瓶 承認 されていない,条約案 につ いてであ り,ノ そ うした配慮が行われ な. けれ ばな らない理 由はない。 実際,ある条約案 の合憲性審査の際 に,関連す る共 同体条約 の解 釈 が問題 に な った際,その旨の規定 がある場合 に,ヨーロ ッパ共 同体裁判 所 ( C J CE)に 対 して先決問題 と して,その条約 の解釈 に関す る判断を求 めるために移送 され なければな らないはずであるが, 1ケ月 (ない し 8日) の期間にそのよ うな手 続 を踏 む ことは,極 めて困難 であろ う。 `このよう に,条文 の上で も,政策論 的 に も. ,また実 際上 の問題 か ら して も, 必 ず しも十分 な根拠 を有す るもので はないに も拘 らず,憲法院 は,条約 の合憲 1 条 性審査 について,第 6 3項 の規定 を援用 し,審査期間が,法律 の場合 と同様 , 8 0 一橋研究 第1 8 巻第 2号 1ケ月ない■ し,緊急の場合には・ ,8日であると見な しているようである。 ・まず,ヨーロッパ共同体固有の財源に関 して,第5 4 条に基づいて初めて請求 された,1 9 7 0 年の審査 において,憲法院 は, _ 首 相の緊急を要す る旨の要請 に基 づ き,8日の内に裁決を下 している。 ヨーロッパ議会の普通直接選挙に関する次の1 9 7 6 年の事例 においては,患法 院の長である革o g e rFr e y 氏の要請に基づき,大統領 は■ ∴第 5 4 条 に基づ く憲法 院への公式な請求を遅 らせているが,その要請の理由は,この事件 に関連 して 生 じる数多 くの複雑な問題を, 1ケ月の短 い期間で処理す ることは,困難であ るというものであ. り,審査期間が制限され ることについて,公式 に認 める結果 となって しまった.( 1 2 )この時,将来憲法院に審査請求する意思があ ることを大 統領がFr e y 氏に表明 したのが,1 9 7 6 年1 1月 5日であ り,正式な請求が1 2 月 3日, 裁決が下されたのは,2 9-3 0日である。 従 って,実質上 は, 2ケ月弱の期間が あったわけであるが,形式的には,2 8日で裁決が下されたことになる。 第 3番目の死刑廃止に関する1 9 8 5 年の裁決では,2 9Elの審査期間であ った0 、1 9 9 2 年のマース トリヒ ト条約を巡る裁決の際 も,1 9 7 6 年の事例の場合 と状況 が似ている。 すなわち,正式の請求は, ・3月1 1日,裁決 は, 4月 9日であるか ら,ぎりぎり 1ケ月が経過する 2日前にあたる。 しか し,実際上 は,マ「ス ト リヒト条約の署名が行われたのは, 2月 7日であったが,この署名以前 の段階 において,すでに大統領は,条約の批准には,憲法の改正 が必要 であ る旨表明 していたDすなわち,1 9 9 2 年 1月1 0日.パ リ,シャイ ヨー宮 で行われた 「ヨー ・ ロッパに向けての国際的な集い ( Re n c o n t r e si n t e r n a t i o n a l e sp o u rrEurope)」 において,大統領は, 「 条約の批准は,調整の後 に提案する心積 もりである。す なわも,二点に関 して.憲法改正が必要であると考える。第- に,フランスの 外国人,ただ し共同体の外国人の地方および ヨーロッパ選挙の際の投票権 に関 して。r 第二に,主権の委譲 に関 してである」 と述べている。 この事実を加味す ると,意法院が裁決を下すま・ で,問題 に取 り組む期間は,3ケ月あ. った ことに なる.( 1 3 ) 1 9 7 6 年および1 9 9 2 年の事例は,通常の場合 は 1 ・ ヶ月,緊急の場合 は 8日とい う期限 は,第5 4 条 に基づ く条約の合憲性審査には,現実的ではないことを表 し ている。・ . また.他の事例において も, ・取 り扱われている条約の法的問題の重要 性を考えて も,すでに議会において採択 され, . 少 なくとも建て前 では十分 な論 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 81 議が行われて いることが予想 され る法律 の場合 に比べ,痘す ぎるという批判 も 尤■ もであるよ うに思 われ る。 B.第61 条 2項 に基づ く手続 フランスにおける条約 の批准前 の合憲性審査 は,憲法上明文 の規定 のあ る第 5 4 条 の手続 と並んで,実 は もう一つの手続 によって も行われているo それが憲 法第 6 1 条第 2 項 の手続 であるo 夷6 1 条 2項 は,「[合憲性審査 とい う] 同様 の 目的で,法律 は,その公布前 0 名 の国民議会議 員 に, 共和国大統領,首札 国民議会議長 ,元要院議長 または6 もしくは6 0 名 の元妻院議且 によって.憲法院 に付託す ることがで きる」■ と規定 しているよ うに.従来 は,通常 の法律 の合憲性 につ いて定 めた もので あ った。 条約 の批准,あるいは協定 の承認に関する法律」 しか し.この規定 に基づ いて ,「 の合憲性審査 とい う形式 を通 じて,実質 的には,その内容 である条 約 あ るい は 協定 の合憲性審査 も行 われ るよ うにな ったのである。 その主 な動機 は,同項 の 手続 において■ ,議員 による審査請求権が認 め られた ことであ った。 実際に.第6 1 条 2項 に基 づいて.条約 の批准 または承認 を与え る汝 律 の審査 9 7 8 年 が行 われた例 は,1 4月2 9日の裁決 ( 7 8 1 9 3 DC ) ,1 9 8 0 年7 月1 7日の裁決 ( 8 0 年 1月1 7日の裁決 ( 8 8 2 4 7 DC) ,1 9 9 1 年 7月2 5日ゐ裁決 ( 9 1 2 9 4 1 1 6 DC) ,1 9 8 9 DC) ,そ して1 9 9 2 年 9月2 3日の裁決 ■ ( 9 2 1 3 1 3 DC) であるO( 1 4 ) (・ i)議員 による合憲性審査請求権 1 9 7 4 年1 0 月2 4日,憲法改正が行 われ,意法第6 1 条 に関連 して ,「 6 0 名 の国民議 会議員 もしくは6 0 名 の元老院議員」 による請求権が新 たに認 め■ られた。. 妊娠 中 9 7 5 年 1月1 5日裁決 ( 7 4 1 5 4 DC)( 1 5 )は初 めてその議員 の請求 に基 絶法 に関す る1 づ いて行 われた事例 であ るO この議員 の請求 は,ど甲ような形式 の下 で行 わ れ るのか。・ 組織的政令第1 8条 は,「議員 の請求 に よ り,法律 が憲法 院 に付託 され 0 名の国民議会議 員 か , = 6 0 名 の元老 院 る時,憲法院 は,全体 と して少 な くとも6 議 員 の署名 を含 む一つ または複数 の書面 によ り請求 され る」 と規 定 して い る。 また,その請求 の時期 につ いては,一 組織法 に規定 はないが,公 布 が行 われ る以 0 名の署名 を集 め るこ 前 と考 え られている。特 に議会 の少数派 による請求 は,6 0条が ,「 共和国大統領 は/最終 的 とが,時廟を要す る行為であるので,憲法第 1 8 2 一橋研究 第 1 8巻第 2号 に採択 された法律の政府への移送の後 ,1 5日以内に法律を公布する」 と してい る他,請求の時期には特に制限が設け られていない。実際 には,財政法 に関す 4時間以内に行われ,妊娠中絶法 に関する請求 は,それよ り早 く行 る請求 は,2 われているo ( i i )同条に基づ く条約の合憲性審査 1 条 2項 の規定に基づいて,国際規約の批准または承認を認め る法律 憲法第6 の合憲性 甲審査帯求ができろか否か,国際法学者の学説 は,明確 にこ れを否定 していた。( 1 6 )その滞 拠は,次のような ものである。 議会 によ月採択 され,共和E g大統領 に条約 の批准権 を与 え る法律 ・ 第- に,「 は,名ばか りの ものであって, ・・・批准法 と不適切 にも呼ばれて いるところ , 法律」 の華甲 ま.法律の形式 における単なる承認行為 にす ぎない」 . ここ、 では 「 とい う名前を有するこ孝を別 とすれば,批私 承認を与える法律 は,通常 や法 律 と時,内容の上で も,手続的にも異なる性質の ものであるOその内容 につ い ては,通常の法律 と異な り,いかなる新たな法的規範 も規定 しないO また手続 的にも,条約や発案権 は.政府に限 られてい る し,議会 はその審議 において, いかなる修正 も行 うことができないd 第二 に,通常の法律の合憲性審査 と,条約の合憲性等査 とは,憲法上明確 に 区別 されているのであって,条約の合憲性審査は,第5 4 条の手続 に限 られ,第6 1 条 2項の手続 と混同されてはな らない。 , 1 条 2項 の手続 は 「真の」法律,すなわち実質的意味の この立場か らは,第6 埠律のみを対動 け るのであって,批准,承認季与える形式的な法律 を通 して め,条約の合憲性審査 は行い得なト . 、ことになるo ( i i i )1 9 7 6 年1 2 月2 9 3 0日の裁決による容認 4 条に基づして て下 された,ヨー 上記の解釈を,憲法院 は取 らないことが,第5 争1 9 7 6 年1 2 月2 9 3 0日の裁決 ( 7 6 7 1 DG)( 1 7 )に ロッパ議章の電通直接選挙 に開す′ より明 らかとな ったOそれは,第 4番 目の裁決琴由において,新 しい条約 につ 1 条の準用があ り得 ると見なす,以下 の よ う+ i : 文言 か き,第Ⅵ晦 と並んで,第6 ら類推できるものであるO 4条を含む条約および国際協 「すべての [ 革会の権限の]移転 は,第Ⅵ編 [ 第5 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 8 3 定 に関す る編 ]における条文および憲法第6 1 条の適用が予想 されるところの条 約の新 たな改変の結果 としてのみ認め られ る。 」 付随的な形でのこのような第6 1 条 2項 に関する拡大解釈の背景 には,憲法院 の合 目的配慮があったと言われている。すなわち,すでに述べたよ うに,憲法 第6 1 条 2項 に関 しては,すでに権限を有す る共和国大統領,首相 ,いずれかの 議院め議長 に加 えて,1 9 7 4 年1 0 月2 9日の憲法改正で.6 0 名の国民議会議員 ない し6 0 名の元老院議員 に法律の合憲性審査の意法院への請求権が認め. られている。 ところが,この1 9 7 4 年改正の際には,第5 4 条の請求権者 は問題 にされず,改正 の対象 とはな らなか った。それは,すでに見た,憲法制定過程 にお_ いて,第 5 4 条 に関 して,請 求権者を定める際,何等詳 しい議論 もされ ることな く,第 6 1 条 2項 と同一の人物が持 ち出されている事実か らは,_ 不可解であるO 憲法制定過 程で,コンセイエ ・デタの憲法委員会草案が,「 ・ [ 現行憲法第 6 1 条 に相 当す る] 第5 8 条 に列挙 された権力の一つにより審査請求 された意法院」 としていた文言 がJ「この権力機関の リス トは非常 に短 い」 という理由のみで.「 共和国大統領, 首相.またはいずれかの議院の議長 によ り審査請求 された憲法院」 とい う列挙 方式 に入れ替わった ことで,不当にも,1 9 7 4 年の改正の際,第 5 4 条 につ いて も 8 ' ・ ■ このよう隼 改正を行 うことがす っか り忘れ られて しまったと言われている。`1 1 9 7 6 年裁決の裁決理由における第6 1 条の手続への突然の言及 は・ ∴1 9 7 4 年憲法改 正 における請求権者 に関す る不当な脱落点を補 う意味を持 っていたので ある。 この1 9 7 6 年裁決 ( 7 6 7 1 DC)以来,これまでのところ,第 6 1 条 2項 に基づ い て行われた条約の批准 または承認を認める法律の合憲性審査 は, . 五 つであ る。 ( FMI )の地位の修正 に関す る1 9 7 8 年 4月2 9日の裁決 ( 7 8 1 9 3 D の条約 に関す る1 9 8 0 年 7月1 7日の裁決 C)(19),仏独間の法的相互扶助について_ ( 8 0 1 1 1 6 DC)価) 職業復帰および障害者の雇用 に関す る国際労働機 関条約第 1 5 9 条 についての1 9 8 9 年 1月1 7日の裁決 ( 8 8 2 4 7 DC)( 2 1 ) .1 9 8 5 年 6月1 4日の シェ ン ゲ ン協定の適用 に関す る1 9 9 1 年 7月2 5日の裁決 ( 9 1 2 9 4 DC) .およびマ-ス トリヒト条約 に関す る1 9 9 2 年 9月2 3日の裁決である。 国際通貨基金 ( 2 2 ) また これ らの合憲性審査 は,議員 による請求 に独 占されているO この ことは 第5 4 条 による手続が,これまで執行府側が条約に対す る異論を排除す る目的で 用い られていたのに対抗 して,第6 1 条 2項 による手続が,執行府 の条約締結権■ に対す る議会側の牽制手段 としてある程度機能 していたことが伺われる。 しか 8 4 一橋研究 第1 8 巻第 2号 し,これ ら五つの裁決 は.いずれ も合意の裁決であることを見 ると,し その機能 は,必ず しも十分であるとは言い難い。 ( i v) 憲法院の判例 に見 る 「 法律」の形式的概念 憲法院が,上述 のように条約の合憲性審査を第5 4 条 の手続に限 る説を取 らず, 1 9 7 6 年1 2 月2 9 3 0日の裁決により,条約の合憲性審査について, ・第6 1 条の手続を 認めたのは,法律の概念に. ついて,様々な裁決を通 して,形式 的な基準を採用 していたためであることが指摘できる。 例えば,憲法院 は,1 9 6 2 年1 1 月 6日裁決 ( 6 2 2 0 DC)( Z } )において , 「国民投票 により人民 により採択 された法律は,国民主権の直接 の表明であ り」 ,「憲法が 第6 1 条たおいて対象 とする法律 は.議会により採択された法律に限 る」とする。 また,1 9 6 0 年 8月1 1E 7 裁決 ( 6 0 8 DC)( 細においては,第6 1 条 2項の手続により, 通常の法律 とは,性質の異なる財政法に関 して合憲性審査を行い得 ることを黙 示的に認めているO更に, 一 1 9 7 6 年1 2 月2 9 1 3 0日裁決 ( 7 6 1 7 1 DC)の直後 ,1 9 7 7 年 1月1 2日裁決 ( 7 6 7 2 DC)( 2 5 ) においてこ憲法第3 8 条 に基づ く委任法の合憲性 を, それが議会により採択されたという事実のみを根拠 に,第6 1 条 2項の手続 によ り審査 している。 この様に,第6 1 粂2項 によ り, ・ 合憲性審査 を行 い得 るの は, 「議会により採択 された法律に限」 られているが,そ の要件 さえ満 た していれ ば,いかなる名称,対象,法的性質を有す るものであ って も問題 ではない と考 え られているようであるO ・ その後 ,1 9 7 8 年 4月2 9日の裁決 ( 7 8 9 3 DC)で,国際通貨基金 ( FMt ) に対 するラランスの分担金を増額すること・ を承認する法律 について,合憲性審査 を 行 うことを初めて認めている。 ただ しこの時は.・ 形式的 には.「国際規約 の承 認 に関する法律」ではなかった。条約,国際協定に批准,承認 を与 える法律 に 関 して,名実共 に初めて合憲性審査が行われたのは ,1 9 8 0 年 7・ 月1 7日の裁決 ( 8 0 1 1 6 DC)であり,それ もやはり議員の請求 によるものであっ̀た。 (Ⅴ)審査の対象 1 9 7 6 年裁決 ( 7 6 7 1 DC)においては,第61 条 2項による条約の合憲性審査が 認められたと理解できるものの,その審査の対象が,文字通 り,「 国際規約の批 樵,承認を認める法律」そのものの合憲性審査に限 られ るのか,または同時 に フランスにおけ阜批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 8 5 問題の条約の内容の合憲性審査を も行 い得 るのかは定かではなか った。 刑法についての法的相互扶助を定めた仏独間の条約に関す る1 9 8 0 年 7月1 7日 の裁決 ( 8 0 1 1 6 DC)は,その意味で,重要 な意味を持つ。 この事件に関 して請 求を行 ったのは,共産党の国民議会議員であったが,議会で数 E ]前 に採択 され た,この条約の批准を認める法律 に関 して革求を行 ったのではな く,条約 自体 の条文が憲法 に違反す ることを憲法院に対 して申 し立てたのである。_請求の文 面 は,次の通 りであ_ る。 1 条の規定に従い.我々は,憲法院に対 して,法的相互扶助 に関す る 「 憲法第6 仏独条約を付託する光栄 にあずか るものであるC」 もし形式 にこだわるのであれば,このような条約その ものの合憲性を問題 に す るような請求 は,憲法第5 4 条の手続によって しか行 い得ないので,請求 を却 しか し,患法院は,こうした文理解釈 古 事従 っ. た 下 して も良か ったはずであるO , 形式的な措置を選ばず,請求に用い られた用語の上で,不正確な点 はあ るが 羊 こでは,実際 は,議会が採択 しキところの,協定を承認す る法律 に対す る合憲 性が問題にされているもq )として扱 い,請求を受理 しているのであるD l l.条約の合憲性 に関する裁決例 A.E g l 民主権原理 との関係 におし _ 、 て合意 と判定 した裁決 ここでは,特 に国民主権 と甲関係が寂 り扱われ,しか しそれi F反 しない と判 断 された第5 4 条 に基づ く最初の三つ甲裁決および第6 1 条 2項に基づ く1 9 9 1 年の 裁決の内容を概観 したいo (i)1 9 7 0 年. 6月1 9日の裁決 _ ( 7 _ 0 3 9 DC)価 ) 1 9 5 7 年の ヨーロッパ経済共同体条約,通称 ローマ条約 は,一定 の期 間 に共 同 体の支出を,初めは加盟国の給付金に頑 る方式か ら,共同体独 自の財源 によ り 賄 う方式 に転換 していくことを規定 していた。 1 9 7 0 年 4月2 1日,この転換を実現す る月 的で,加盟国代表の今月 の-致 によ 9 7 5 年 までの転換期 に,加盟国の自発的給付金制度 か ら,各加 り,理事会 は,1 盟国において徴収 された農業税,関税 ,TVAの「部を中心 とする固有の財源に, 暫時的古 事変えてい; くことを目的 とす =。 l る決議を採択 しf そ して翌 1 9 7 0 年 4月2 2El,各加盟国は,議会の権限を拡大す るために,一 共同 8 6 一橋研究 \第1 8 巻第 2号 体内部の財政手続を修正する条約 に署名 している。 それは,議会の固有 の財源 を確保 しょうというものせあったが,共同体の財政は, :条約 は臨時経費 につ い てのみ,発案権を承認 している。必要経費,すなわち共同体政策の執行 の結果 として必要 とされる経費については,理事会が最終的な権限を有 しているC 1日の決議および 4月2 2日d)条約 は,「国際規約」の性質 を有 し, これ ら4月2 4条 に規定する法律で定める事項に関係 し,後者 は 「 国際機関 た関係 前者 は第3 する」ため,政府の法案 は,承認,批准を承認する法律を求 めて,議会 に提 出 された。 当時の法律委員会 ( Co mmi s s i o nd e sl o i s )委員長 は,J e a nFo y e r 氏であ っ たが;委員会 は,二つの国際規約が,憲法に反するもので あ り,憲畠 を改正 し た後 にあみ承認 または批准 されると判断 した. 4 条および国民主権 の 一憲法 に反するとされた理 由は,二つの規約が,裏法第3 原垣 た反 して,フランス議会の財政に関す る権限を削減す るとい う点であるo すなわち,加盟国の自発的な給付金制度か ら固有の財源を確保する制度 に変 わ れば.共同体 の機関により税の配分や税範が決め られることにな り,ラランス 4 条で規定 されている 「 税の配分および税率」 について,および 議会 は憲法第3 「 税の取 り立て方式」を定める権限を失 って しまう。 ところで,Fo y e r 氏 によれ 4条 は,フランス領土 における税金のすべ七に関す 畠議会 の排他 的 ば.憲法第3 7 8 9 年人権宣言第1 4 条が 「 市民 は,直接 に, 権限を定めるものであ り,それは,1 またはその代表者 により, :公の税の必要について確由 し,自由に承認 し,そゐ 使途を監視 し,その割 り当て,配分,取 り立て,期限 につ いて定 め る権利 を有 する」 と規定することの帰結であるというO従 って,税金 について定め る権 限 が,部分的であって も議会以外の機関に委譲されることは憲法に反するとい う のである。 ■ ■ 法律委員会議長が以上のよ′ うな理由i e条約が達意 豆あ■ 畠と申 し立 てた翌 日, 4条 に基 づ 政軌 ま,首相の名 において,問題の国際痩約の合憲性 につい七 第 5 き, I .憲法院の判断を求めている O-これが第5 4 条による憲法院の初め七の審査請 求である。 憲痩院 は, IFo y e r 氏の議論を採用せず,結論 か ら言 えば 1 41 月21E ]の決議 お . よび 4月2 2【 ]の規約 は,憲法 に反 しないと判断 した。そゐ理由は,次のよ うな ものであらた。 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査 について( 1 ) 8 7 共同体の固有の財源に関す る 4月2 1日の決議 については,憲法院は, ' ・ヨーロッ パ共同体を創設す る1 9 5 7 年の条約 によりすでに規定 されてい る原則 を 「 適用 」 す るもので しかないとす る。そ して,この1 9 7 5 年の条約 は,憲法院 に言 わせ る と,すでに効力を有す るものであるので,「憲法第 5 5 条 の適用 の領域 に属 す る ものである」。従 って,その合憲性 についてはもはや審査す ることを得ず,1 9 5 7 年の ローマ条約の執行 に必要な規定 は,それ自体 もはや違憲性を問われ ること はないという。 ヨーロッパ議会の財政的権限に関す る 4月2 2日の条約 については,意法院は, 共同休の機関同士 の権限の配分を僅かに行 うもので しかな く,共同体 と加盟国 との間における権限配分 とは無関係であ り,従 っそ,国民主権の原理 に反す る 性質 の条約ではないとす る。 ( i i )1 9 7 6 年1 2 月2 9 3 0日の裁決 ( 7 6 7 1 DC)(27) 第5 4 条 に基づ く第二の裁決 も,ヨーロッパ共同体法 に関す るものであ ったQ ヨーロッパ議会 は∴当初 は国内の議会 により,その議会の構成員か ら選 ばれた 議員 により構成 されていたが,例えばローマ条約 ( CEE条約)第 1 3 8 条 は,期 限が定め られ ることのないまま,すべての加盟国に統一 され_ た手続 に従 い,普 通直接選挙 によりヨーロッパ議会の構成員の選挙を行 うために,案を作成す る 旨奨励 していた。 この案 に基づいて,理事会が,全員一致でその. よ うな選挙 を 保障する固有の規程を採択 し,その規程が各憲法に従 って,加盟国で承認 され るべ く,勧告することが決 まっていた01 9 7 5 年 1月1 4E ],議会 は条約案 を採択 し,ロ-マ条約締結後 .1 9 年を経 た,1 9 7 6 年 9月2 0Elに,理事会 で全員一致 の 決議が採択 され,附属規程 と共 に,1 9 7 6 年1 0 月 8日の共同体官報 に掲載 されて いる。その附属規程 には,選挙が普通直接選挙を原則 とす ること,国毎 の ヨー ロッパ議会議員の数の決定,委任の期間等が定め られている。 ただ し,合意 が 得 られることが難 しか らたため,選挙手続 については,各国の定 め によること とされた。 ところで この決議の採択をきっかけに,フランスで反対意見が巻 き起 っ. た。 まず,ヨーロッパ議会の普通直接選挙 は,憲法第 3条 に反す るとい う意見が あった。第 3条第 1項 は,・ 国民主権が人民の代表者 により行使 されるとあるが, その代表者 に,憲法がその旨規定 していない 「ヨーロッノ ヾ議会議員」を含む こ 8 8 一橋研究 第1 8 巻第 2号 とはできない。 また,同条第 3項が, 「 憲法に規定 された条件 において,選挙 は直接または間接に行われる。それは常に普通,平等,秘密 とする」 としてい ることか ら,直接であって も,間接であって も,普通選挙 は明示的 に憲法 に規 定 されている限 りにおいて行い得 る ものである。 国民議会議員,元老院議員 ( 2 4条),共和国大統領 (6条)のいずれも憲法で規定 されているのに対 し,ヨ「 ロッパ議会議員については,規定がないi =め,それを国際規約で定めることは, 憲法第 3条 3項に反するtl いう0 第二 に,ローマ条約第 1 3 8条には,「 すべての加盟国に共通の手続」によりヨー ロッパ議会が構成 されるべきことと定め られているにも拘 らず,今回定 め られ た選挙 は,各国毎 に行われ,結果の公表 は,統一 された 日に行われ るが∴選挙 その ものは,ばらばらの日に行われるなど,条約第 1 3 8条 に反す るものである とする0 第三に,決議により,普通選挙で選ばれたヨーロッパ議会が,共同休 に固有 な財政源 としての,フランス人に対する税金を定めるようになると,憲法第 3 4 条に定める国内の議会に固有の権限を も侵す ことになりかねないo これ らの主張に対 しては,次の反論が可能であるO第- の点 については,意 法制定時に, . 憲法第 3条について,もともI tは,「 憲法に規定 されている場合」 という表現が,「 憲法 に規定 された条件 において」 と修正 されたことが指摘 さ れ得 る。それにより,第 3条の少 し緩やかな解釈 も可能になるはずである。 ま た,ヨーロッパ議会議員の普通選挙は,憲法が規定 していない問層 であ って, それをもって憲法に 「 反す る」 ものではないと考えることがで きる。 また,普 通選挙 は,憲法上,地方選挙については全 く言及 されていないに も拘 らず,也 方選挙の普通直接制には異論がない。 その論拠は,普通直接選挙そゐものに対する問題 というよりも,む しろ,丁 度普通選挙で選ばれたヨーロッパ議会が,各国家の主権を脅かすような付属的 な権力を行使することに繋がるのではないかという危供に基づいている。反対 派 と賛成派の論争 は,新聞紙面を中J 山 こ繰 り広げられ,政治的緊張が高まったo 共和国大統領の. 憲法院への請求は,法的問題に決着をつけることで,そのよ う な緊張をほぐす ことを目的としていたと言われている。 これが,大統領による, 憲法第5 4 条 に基づ く初めての憲法院への請求である。 裁決は,1 2 月の2 9日と3 0日の二 日にまたが ?て行われ,憲法に違反 しない と フランスにおける批准前の条約の合意性審査 について( 1 ) 89 判断 している。 裁決の骨子 は,次のような も甲である。第- に,ヨーロッパ議会議員 の任命 方法を変えること昼,それ白帆 .共同体 と各加盟国 との間q ) 権限配分 を変 え る ような性質の もので も,共同体機関内部で,特 に議会 と理事会 との間の権限 の 配分を移す もので もない。決議 には,権限を内容 とす るような規定 はないので あって,従 って,直接国家の国民主権 を侵害す るよ うな結果 には帰結 しない, とする。 判断に必要な結論 は,以上であったが,意法院は,更 に傍論 で,将来 ,ヨー ロッパ統合を推進するにあたって,政府が,憲法の改正な しに,どこまで規定 し得 るのか,という防波線を意法院 として第二の裁決理由で提示 しているのが 注 目される。具体的な判断 とは無関係の箇所であるが,この裁決の尤 も重要 な 部分であると言われている。 主権の制限」 と 「 主権 の委譲」 とを区別 すべ きであ 憲法院は,基本的に,「 るとす る。すl j : わち,「 主権の制限」 にB g . しては,「 1 9 4 6 年憲法前文」 が明示的 に認めているのに対 し,「 主権の委譲」 に関 しては,「いかなる憲法的性質 を有 す る規定 も,それを認めていない」.とする。 この 「 主権の制限」 と 「 主権の委譲」 という区別 は,一見明快に見え るか も 知れないが,一休どこまでが制限で,どこか らか委譲なのか,とい うその境界 線を設定するのは容易ではな く,マース トリヒ ト条約の合憲性が,問題 にな っ た時,学会で盛んに批判 されていた点である0 4 条の審査の範囲に関 して も,1 9 7 6 年裁決 は,新たな問題を提起 している。 第5 4 条 は,「国際規約」の合憲性審査権 を憲法院 に与 え る ものであ すなわち,第5 9 7 0 年の裁決 は,通常の 「 国際規約」 の概念で理解 さ るが,今回の裁決および1 れるところの,条約や協定ではな く,国際機関の 「 決議」を問題 にす る もので あった. 与れ ら二つの裁決では,共同体理事会におけ_ る全員一致の決議 の合憲 性が問われている。 そこか ら,二つの法的問題が生ずる。 第-に,この二つの裁決 古 手より,憲法院は,共 同体 ,ひいて は,他 の国際機 関の決議のすべてが,自己の審査の対畢 となると考えていると解 して良 いやか どうか,ということである。_ 学説の中には,そ_ れ ら決議が,条約 や協定同様拘 束力を有す ることか ら,肯定的に解釈するものがいるO しか し.断定す る甲 ま. より明確 にその旨述べている新たな裁決が必要 となろう占 9 0 ⊥楕研究 第1 8 巻第 2 号 第二に,第5 4 条の規定が,すでに述べたように, '問題の国際規約が憲法 に反 する規定を含んでいる場合に,その批准や承認行為が∴憲法の改正を条件 とす 3 条に る,-という内容のものであるため,議会の批准,承認行為を経 ない,第 5 列挙する事項以外を規定する国際規約に・ つ いては,意法院の審査 に服 させ るこ とができないのかどうかが問題 となる。 この点 については,その様 に解す るの が,意法制定者の意思,条文の文言の素直な解釈か ら言 って,論理的であ ると 4 条の合憲性寧査 は,第5 3 条 1項の列挙事項 に限 られない す る説に対 して,第5 , とす る説が対立 している。1 9 7 0 年裁決 は 「 法律事項」 を定 めていることを審 査権の根拠 としていることか ら,初めの説に与 しているよ うで ある。 しか し, 9 7 6 年裁決が,その形式如何によらず,政府の意思 によりB i I 際規約 を議 今回の1 会 にかけることがで きる旨,政府 によって表明されているため,( 2 8 )憲法院 の第 5 4 条の審査権 は,この立場か らは,政府の意思に依存する=l とにな り,第 5 5姦 4 条に基づ く,ヨーロッパ人権条約 第 1項の枠内に限 られない。後 に述べる第5 3 条 1項 に明示的に列挙 している事項 で 附属議定書に関する第三の裁決 は,第5 はなか ったため,その意味で,後者の説を確認することとなったQ しか し,い ずれの場合にせよ,政府 により,議会の批准または承認を求める手続 にか け ら 4 条の審査権 は,議会 の批准,承 れることが条件 となる.第三の説 として,第5 認手続 とも無関係であ り,その手続の有無により制限されない,とす る ものが ある。 しか し,これ も仮 に認め られるには,明白な患法院のその旨の判断が必 要であると解 されるO ( i i i )1 9 8 5 年 5月2 2日裁決 ( 8 5 1 8 8 DC)(2') 前二つの裁決が ヨーロッパ共同休に関するものであったのに対 し,1 9 8 5 年の 裁決は,占一口ッパ人権条約第 6附属議定書の合憲性を問 うものである0 1 9 8 3 年 4月2 8EI ,フランスは,ヨ、 一口ッバ人権条約第 6附属議定書 に署名 し , 死刑 は廃止されるo何人 も,死刑を宣告されまたは執行 たが,その第 1条 は 「 , されない」・と定め,第 2条 は 「国は,戦時または急迫 した戦争の脅威があると きになされる行為については法律で死刑の規定を設けることができる」 とし七 いるO議定書署名に当たって,この死刑廃止の規定が憲法に反 しないか ど うか が問題 になったO 9 8 2 年以来,フランスでは廃止 されているのであるが, そもそも死刑制度は∴1 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査について( 1 ) 9 1 この人権条約が批准 され;発効 していると,国内の公権力が,将来,自由にそ 4 条および第 1 6 条 に反す ることにな れを復活す ることができな くな り,憲法第3 るというD , 憲法第3 4 条は 「 罪,軽罪,およびそれに適用 される刑罰」を定める権限を立 法府 に与えているが,議定書が批准 され,効力を有す るようにな ると,その効 力 は法律 に優 るため,立法府 は,死刑を定める■ ことがで きず,その意 味で,第 3 4灸の権限を行使す ることがで きな くなるO また,第1 6条 は■ ,大統領が,戦時および急迫 した戦争の脅威が あるとき以外 , 状況 に応 じた必要 な措置」 を取 ることを 許 してい るが, の事態 において も 「 その時議定書が効力を有す ると, ・ 死刑を再 び設置することがで きな くなる。 す 6 条が予想 していなか った大統領の権限 に対す る制 なわも,第 6議定書 は,第 1 限を新たに設 けることとなる。 意法院 は,しか し,第 6議定書が,憲法 に反するもので はない と して,次 の よう に主張す るB , 5 条 に規定 された条件 の下 において廃棄_ し 第- に 「この協定 は,条約の第6 得 る」 としている。 この第6 5条は,国家が,発効の日か ら 5年 の後 に, 6ケ月 の予告期間を条件 として,条約を廃棄できると定 め る規定 である。 憲法院が, 5条に言及 したのは,暗黙 に,条約を批准すれば,フランスは将来死刑 を復 第6 活で きないとい う主張に対 し,条約を廃棄すれば可能であると答えたか ったた めであると思われる。 しか し,第 3 4 条 との関係 において,この解答 で は不十分 であ る。 何故 な ら, 第3 4条 は, ・ 議会の権限について規定す るが,条約廃棄の手続 は. ,議会 の権限 と は無関係のところで行われ,発案権 は執行府 に属するか、 らであるO従 T iて, '条 4条 に規定する議会の権限が委譲 されるの は避 け 約を廃棄で きるとして も.第3 られない。 しか し,この第3 4条 と議会の権限については,_ 死刑制度のみな らず, t r ai t 昌Sヨーロッパ人権条約中の全ての規定,ひいては1すべての 「 立法条約 ( 1 oi s ) 」が,それに反することになるo 従 って,条約 と第3 4条 との関係で は,第 34条が,後 に述べ る第55 条 により幾 らかの制限を被 ると考え られているD (甲) , 第二 に,裁決 は 「この国際規約 は,国家の共和国体制の維持,国民の生活 の 継続,そ して市民の権利および自由の保障 と両立 しないものではない」とするO 6条か らの批判に対 して返答 しているようで あるO すな ここでは,暗黙 に.第1 9 2 一橋研究 第1 8 巻第 2号 わち,憲法院は,第1 6 条 にいう事態において も,共和 国大統領 は,戦 時お よび 急迫 した戦争の脅威がある時以外 に,死刑を復活 させるのは,その時の必要 お よび国民の生活の継続の義務を考えてのことでなければな らない。 す なわも, 6 条が想定す る多少 の混乱が生 じた場合 意法院 は,暗黙に,平和時, .および第1 にも,国家の重要な利益の保障を目的 とす るにして も,死刑 の復活が,第1 6条 にいう,「その状況 に必要な措置」であるとは考えに く、 い と述 べて いるのであ I る。第1 6条 は,共和国大統領を して 「 必要な措置」 のみ を取 る権限を与 えて , いるのであるか ら,第 6議定書 は,その意味で,大統領の権限 の範 囲を修正す るものではないと考え られる。 ところで,この裁決では, 「 国民主権の行使 に重要 な要件」 と両立 しない条 約のみを達意であると見な している。 その 「 重要な要件」 とは,それな くして 紘,国家が∴ 「 共和国体制を維持 し,国民の生活の継続,市民の権利および自由 の保障」 さえ も行い得ないような ものをいうと解 されているようである。 この ような考え方 には,条約の国民主権原理 との両立に関 して,最小限 の基準 を想 定 していると解 されるのである。 ( i v)1 9 9 1 年 7月2 5El 裁決 ( 9 1 2 9 4 DC)一第6 1 条 2項に基づ く裁決 (31 ) 1 9 9 1 年 7月2 5B,意法院 は,共同体諸国の境界線でのコン トロールを暫時的 にな くす シェンゲ ン協定の適用に関す る条約の承認を与える法律 について,罪 6 1 条 2項 に基づ く議員の請求 により,合憲性審査 を行 ったO請求 は,条約 は, 国民主権の行使の基本的な条件を侵害 し,主権の委譲,もしくは放棄 を もた ら 9 4 6 年憲法前文で保障されているl =命権を も害するともいうO す というo また,1 , 憲法院は,この請求 に基づいて,審査を行い,問題の条約 は 「 主権の委譲」 に あた らないとして.請求を棄却 している。 第- に,国境を越えた犯罪人の捜査 は主権の委譲 ! こあた らないとされている。 その理由は,その捜査 は一般的で も窓意的l j :もので もな く,国境 を越 えた捜査 員 は,国際規約 により,訊問権 は無 く.公共でない場所に入 る権 限 も有 しない か らである。 第二 に,犯罪人の引 き渡 しは,その ことをもって,その犯罪人 か らE g内の権 利を享受する権利を剥奪する意味を持たないため,やはり主権 の委譲 にあた ら ない。 フランスにおける批准前 の条約 の合憲性審査 について( 1 ) 9 3 ・ 第三 に,シェンゲ ン協定 は,署名国間の情報の自由化を定めている。 それは, プライバ シ一 一の侵害 に繋が る規定ではないか,ということが問題 にされたo こ れに対 して,憲法院は,l 自由化 される情報の性質力亨 限 られてい ること,お よび 「 個人の自由の尊重」 に十分な保障を伴 っていることを理 由 隼,や は り主権 の 委譲 にはあた らないとす るo同様 に,亡命希望者の名簿の交換 も憲法に反す る ものではないと反論 している/ o 更 に,国境を越えた自由な移動 も,主権の委譲 には繋が らないとす る。 また,国境を越えた自由な人 の移動 は,共和国の権限の限界を唆味 な もの と し,結果 として,国民主権ゐ行使の基本的な条件を侵害す るものであるとす る 主張 に対 して も人 に対す る占ントロールが排除されるという事実のみをもって, 国境が法的に失われたという. ことにはな らないと判断 しているのである。 この様 に,1 9 91 年の この裁決で,意法院 は,その他の細か い論点 に も逐一反 論することにより,結論 として,条約が 「 主権の委譲」あるいは 「匡L 民主権 の , 行使の基本的な条件の侵害」,あるいはまた 「 主権の放棄」を伴 うもので はな いと判断 しているのである。 ( 次回に続 く) 註 (1) ヨー ロッパ諸国の中で,条約 ゐ付髄的合憲性審査を否定 し,効 力発 生以 前 に患法 との整合性を問題 にす るE gと して,他 に例 え ば ベル ギ ー,オ ラ ンダ, ルクセ ンプル グが ある。 .これ らの国で広 議会によ bL 象正 を必 要 とす る具体 的な憲法上 の条項 が確定 された場合 .議会の解乱 選 挙 が行 わ れ た後 に意 法 3 1 条 ,オ ランダ憲法第 2 1 改正手続 に入 るもの 阜されている ( ベルギー恵法第1 1 条,ル クセ ンプル グ恵法第 1 1 4 粂)。但 し,ヨーロ ッパ共 同体 韓 に関 して は, 簡略化 された特別 な手続 が設 け られている ( 1 9 5 3 年 オランダ憲法第6 3 条,1 9 5 6 年 の恵法改正 によ り付加 さ叫たル クセ ンプルグ憲法第4 9 乙 ( hi s )秦 ,第3 7 粂 項)。 Mi c he lWae l br oe c k,Tr ai t 昌i nt e T L T l at i onauxe lj uT l i di c t t ons 第2 ysduMar c h;c oT nT nun,Pa done ,Par i s ,1 9 6 9.pp. i nL e T ・ ne Sda msl e spa 2 8 5 ・ 2 8 6 参照。 (2)憲法改正が義務で はないとい う点か ら,憲法 と国際法 との関係 で は.憲 法 優位説 に与する̀説が多数であるo Ro ■ nnyAbr aham, Dr ol ll nl e r ' wl i onal , dr / oi lc om' nunau主 ai r ee ldr ol l/ r anc ai s ,Hac he t t e,Col l e c t i on PES, Par i s ,1 9 8 9,p. 3 6 参照。 (3) この裁決 を含 むマース、 トリヒ ト条約関連 の裁決 について は・次 回 で述 べ る こととす る。 9 4 一橋研究 第1 8 巻第 2号 (4)Pat r i c kGa; a,LeCo ns e 王 ic ons i i t z L t i oT me le tli n s e T ・ t i onde s_ e nga ge me ' L t Si nt e r nat i onauxdamsto r dr ej z L 戸di quei nt e r ne ,Co T ur i b u盲I udede saT ・ t t c l e s5 3e t5 4del aCons I L ' t L L t i on.Ec onom ic a, t i o n Col l e c t i onDr oi tpubl i cpos i t i f ,Par i s,1 9 9 1 ,p.1 0 1 参照. (5)最終的に国会 ( Congr 昌 S )で採択 された憲法的法律 は,次の よ うであ る。 al ' .「 憲法 に 『ヨーロッパ共同体およびヨ∵。. ッパ統合について』 と題 す る一編 9 9 2 年 6月2 5日の憲法的法律第9 2 5 5 4 」 を加える1 「 国会 は,次の法律を採択 したO 共和国大統領 は,次の内容の法律を公布 した0 9 5 8 年1 0 月 4日の憲法第 2粂第 1項の後に,次のよ うに規定 された 第 1粂 -1 条項を挿入す る。 『 共和国の言語 はフランス語であるo j 第 2条 一憲法第5 4 条は,次のように規声 される。 4 条 一共和国大統領,首相,いずれかの議院の議長 ,また は6 0名 の国民 『 第5 議会議員 もし■ く一 紘元老院議員の請求 により,憲法院が国際規約が憲法 に反 す る条項を含むと宣言 した場合,当該国際規約を批准 し,辛た は承認す る 権限は,憲法の改正q ) 後 にのみこれを行使す ることがで き. る。』 第 3条 -憲法第7 4 条の最後の行 は,次のように規声 された二 つ甲条項 に置 き 換え られる。 F 海外領土の地位は,組織法 により規定 され,その組披法 は,_ とりわ け関係 領土の議会の諮問の後,同様の形式 により修正 された,その固有 の機 関 の 権限を定 める。 』 『その個別の機関についてのその他の形式 は,関係領土 の議 会 の諮 問の後 , 法律 によって定義 され,修正 される。 」 第 4条-憲法第1 4 編および第1 5 編 は,それぞれ第1 5 編およびL #1 6 東 となる0 第 5条 」憲法 に,次の様 に規定 された新 しい第1 4 編が挿入 されるo 4 編 『ヨ⊥ロ: ソバ共同体およびヨーロッパ統合 について』 r 第1 第8 8 ・ 1 条 一共和国 は,それを設立 した条約により,その一定 の権 限を共 同 で行使す るととを,自らの意思で選択 した国家 により構成 された ヨーロ ッ パ共同体および占-ロッパ統合に参加する。 第8 8 1 2 条 -■ 相互性を条件 として,また,1 9 9 2 年 2月 7日に署 名 された ヨー ロッパ統合に関する条約 に規定 された方式 に従い. ,フランスは, ヨー ロ ッ パの経済華びに金融の統合,およびヨーロッパ共同体の構■ 成 国 の国境 の 自 由化 に関す る規則 に必要な権限の委譲 に同意する0 8 条31相互性を条件 として,亭た,1 9 9 2 年 2月 7E ]に署名 され た ヨー 第8 ロッパ統合に関す る条約に規定 された方式に従 し 「 ,市巾村選挙 における投 l 票権および被選挙権をフラl _ ンスに居座す る統合体の市民にd )み認 め ること がで きio これ らの市民 は,市町村長 もしくは助役ゐ時務 に寵 任す ること も,元老院議員選挙団員の任命,元老院議員選挙に参加す 畠こ■ とも得ない。 同様の文言で両議会で採択 された組織法が,本条文の適用の条件を定める。 フランスにおける批准前の条約の合憲性審査 について( 1 ) 9 5 第8 8 1 4 条一政掛 ま,共同休の理事会への移送後直 ちに.法律 の性質 を有す る規定を含む共同体の法案を国民議会および元老院に提出する。 会期中,または会期外において,各議会の規則により定め られた方式に従っ て,この条文の枠内において決議を採択することができる。 」 (6) この改正の詳細 については,Fr ant oi sLuc hai r e," I Iuni one ur op占e nne e tl aCons t i t ut i on.2 epar t i e,Lar 昌 v i s i onc ons t i t ut i onne l l e TJRDP, 1 9 9 2 .p.9 3 3e t .ら.参照D (7)Gai a,o p.c L t リ P. ・ 1 0 3. 1 条 3項 は,組織法および通常の法律の合意性審査 の審査期間 につ (8)患法第6 , 前二項に規定 された場合において,憲法院 は,- ヶ月以内に裁決 を下 さ き 「 なければな らない。 ただ し,政府の要請 により,緊急 を要 す る場合 は. この 審査期間 は八 日となる」 と規定す る。 (9)Luc hai r e,op.° i t . ,p.9 6 8. p.c i L.p.1 0 8. ( 1 0 )Ga; a,o ( l l )Co mi t ;nat i onalc har s;del apubl i c at i onde st r av auxpr ' 申ar at oi r e s と t T ne nt SPOL L YS e T L u i r de si ns t i t ut i onsdel aVeR昌 publ i que,Doc hi s t oi r edet昌 I aboT ・ at i ondelaCons l i l ut L ondu40c t obT l e1 9 5 8 ,v ol . Ⅲ, LaDoc ume nt at i onFr ancal S e ,1 9 8 7,pp.3 1 6 7.一 ( 1 2 )Roge rPr e y,i nLeMonde.2 1 2 1 9 7 6. ( 1 3 )Fr anc oi sLuc hai r e," L'uni one ur op昌 e nnee tl aCons t i t ut i on,1 r e par t i e ,J J ad昌c i s i onduCons e i lc ons t i t ut i onne l ",RDP,1 9 9 2,p.5 8 9 . ( 1 4 )D昌 c i s i on9 2 3 1 3 DC,2 3 1 9 1 9 9 2.マース トリヒト条約に対する請求である 9 9 2 年 9月2 0日,国民投票 によ り批 准 されてい るので,意法 が,同条約 は,1 at 院は,次のように宣言 して請求を却下 している。 「 憲法によ り確立 された権 力の均衡に鑑みて」,憲法院が審査 し得 る法律 とは,議会により採択 され た法 , 患法第6 0 条に基づ き,患法院が審査 した国民投票 に従い,フラ 律であって 「 ンス人民によって採択 された.国民主権の直接の表明であるところの法律で は全 くない」 。 ( 1 5 )D昌 c i s i on7 4 5 4 DC,1 5 1 1 1 9 7 5,Re c.p.1 9. ( 1 6 )Char l e sRous s e au.u LaCons t i t ut i onde1 9 5 8e tl e 島t r ai t 昌si nt e r nat i onaux",i n HomT na ged' unege ne T ・ at l ondeJuT ・ l s t e sauPr 昌 s i ,Par i s,P昌 done ,1 9 6 0 ,pp.4 6 3 4 7 2;Gai a,o p.c i t . . de nlBas de u ant p.1 4 2 . ( 1 7 )D; c i s i on7 6 1 7 1 DC,2 9 /3 0 1 1 2 1 9 7 6,Re c .p.1 5. p.C は,p.1 0 2 . ( 1 8 )Gai a,o ( 1 9 )D昌 c i s i on7 8 9 3 DC,2 9 1 4 1 9 7 8,Re c.p.2 3 . ( 2 0 )D昌 c i s i on8 0 1 1 6 DC, ■ 1 7 7 1 1 9 8 0,Re c.p.3 6. ( 2 1 )D昌 c i s i on8 8 2 4 7 DC,1 7 1 1 1 9 8 9,Re c.p.1 5. 1. ( 2 2 )D; c i s i on9 1 2 9 4 DC.2 5 1 7 1 1 9 9 1 ,Re c .p.9 9 6 一橋研究 第1 8 巻第 2号 ( 2 3 )D; c i s i on6 2 2 0 DC,6 l l 1 9 6 2 ,Re c .p.2 7. ( 2 4 )D昌 c i s i on6 0 1 8 DC,l l 8 1 9 6 0,Re c.p.2 5 . ( 2 5 )D昌 c i s i on7 6 7 2 DC,1 2 1 1 9 7 7 .obs .RDPp.4 7 0. 5. ( 2 6 )D昌 c i s i on・ 7 0 丁 3 9 DC,1 9 6 1 9 7 0, . I _ Re c .p.1 ( 2 7 )D毒 c i s i on7 6 1 7 1 DC,2 9 /3 0 1 2 1 1 9 7 6 ,Re c.p.1 5 . ( 2 8 )J.0.D' e bat s ,A.N. ,7 4 1 9 7 6.P.1 4 1 5.De br長氏 の質問 に対 す る政 府の答え。 ( 2 9 )D; ' c i s i o n8 5 1 1 8 8 I ) C,2 2 5 1 9 8 5 .Ee c .p.1 5 . p.c L L l . ,p. . 6 2 . ( 3 0 )Abr ahal m.o J ( 3 1 )Di c i s i on2 5 1 7 1 9 9 1,Ee c .p.9 1 .