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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
Title Author(s) Citation Issue Date URL 経済的差別と教育の機会均等―判例にみるアメリカの教 育(2)― 白石, 裕 京都大学医療技術短期大学部紀要 (1984), 4: 69-79 1984 http://hdl.handle.net/2433/49291 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 経 済 的 差 別 と教 育 の 機 会 均 等 - 判 例 にみ るア メ リカの教 育 ( 2)- 白 石 袷 We al t hDi s c r i mi na t i o nandEqualOppo r t unl t yOfEduc a t i on -Ame r i c a nEduc a t i oni nLe galCas e s( 2 ) Yut akaSHI RAI S HI ABSTRACT: Thi spape rgl Ve Sabr i e fc o ns i de r a t i on t ot heCa l i f or ni a or eoft he Supr e meCour t ' sde c i s i o nr e gar di ngSe r r anov.Pr i e s t ,1 971. Thec de c i s i o n, t heSe r r a no丘r s tde c i s i on,wast ha taf undi ngs c he mewhi c hmake st he qua l i t yorac hi l d' se duc a t i onde pe nde ntupo nt hewe al t hofhi spar e nt sa nd ・ ,t l l eWe al t h ofhi ss c hooldi s t r i c t )i nvi di ous l ydi s c r i mi na t e s ne i ghbour s( i ・ e agal nS tt hepoori nc o nt r a ve nt i o noft hee qualpr ot e c t i o nc l a us e soft heFour t e e nt hAme ndme ntoft heU. S・Co ns t i t ut i o na ndpa r al l e lc l a us e si nt heCa l i f わr ni aCons t i t ut i o n・Theve r ys t r i ki ngf e a t ur e soft hede c i s i onwe r et ha tt hehi h g c our ta ppl i e d"t hes us pe c tc l as s i 丘c a t i onandf unda me nt ali nt e r e s t "C r i t e r i at o t hewe al t hdi s c r i mi na t i onc as ei nt hes phe r eofe duc a t i o nandhe l dt hepr l nC i pl e 丘s c alne ut r al i t y",t ha ti s ,t hei n月 . ue nc eoft hewe al t hme nt i o ne da bovet obe of" e xc l ude df r om t hepubl i ce duc a t i o n, t obef as hi one di nr e me dyi ngt heCal i f or ni a publ i cs c ho olf undi ngs c he merThi spape r ,s ummar l Z l ngt hede c i s i on, di s c us s e s t hear gume nt sa boutt heappl i c a t i on oft he s ec r i t e r i aandt he a vai l a bi l i t y oft heGs c a lne ut r alpr l nC i pl e,a nd丘na l l yt o uc he supo nt hea f t e r ma t hoft he hef bl l owl ngl e gi s l a t i ver e f わr msa ndt heSe r r anos e c ond 丘r s tde c i s i o n,1 ・ e,t de c i s i o l l . ・ 5 5 7P. 2 d92 9) 。通常,前者をセラノ第 1判決, 考 察 の 視 点 後者をセラノ第 2判決 とよんでいる。第 2判決 本稿は,カ リフォルニ ア州最高裁判所が審理 は第 1判決の内容 とほぼ同 じであるが,第 1判 したセラノ対 プ リース ト事件を考察 の対象 とし 決は法 の平等保護 の根拠規定を合衆国憲法修正 ている。同事件 は同裁判所 によって 2度審理 さ 4条 に求めたのに対 し,第 2判決はカ リフォ 第1 9 71年 8月3 0日 にまず 最初 の 判決が出た れ, 1 ルニア州憲法のそれに該 当す る規定 に求 めた こ ( Se r r a nov.Pr i e s t ,9 6Ca l .Rpt r .6 01,4 8 7P. 2d1 2 41 ) 。 次 いで1 9 76 年1 2 月30日に 2度 目の判 と,また第 1判決はただ達意判決を下 したのみ であったのに対 し,第 2判決は違憲判決を下 し 決が出た ( Se r r a nov.Pr i e s t ,1 35Ca l . Rpt r . 3 4 5, た上 に,さ らにある救済措置を命令 した ことが 京都大学医療技術短期大学部教養科 Di v i s i o no fGe ne r a lEdu c a t i o n,Co l l e g eo fMe d i c a lTe c hn o l o g y ,Ky o t oUni v e r s i t y 1 9 8 4 年 7月2 7日受付,同年 8月 7日受理 -6 9- 京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1 9 8 4 異なる点である。本稿 は,主 にセラノ第 1判決 か くて両基準 の適用 は,州 当局 がその措置の合 について検討 し,第 2判決 については最後 に若 理性だけを立証すればよい合理性 テス ト( r at i o- 干触れ るにとどめたい。 nalbas i st e s t )に比べ ると,州 にはるかに困難 セラノ裁判 において教育の機会均等 の原則を な課題を負わせ ることか ら,通常,原告が勝訴 脅かす経済的差別 とは何か といえば, 子 どもの す る。換言すれ ば,判断基準 の未確定 な経済的 スクール ・ディス トリク ト 受 ける教育の質 が 学 差別 の疑 いのある教育機会 の問題 にこれ らの基 区 の有す る財産課税評 価額の大小 によって左右 され るということであ ウ エ ルス る。判決ではこの財産課税評価額 の大小を資産 準を用 いた ことは, この問題 が人種的差別 と同 といっている。 そ して判決は,学区の資産の多 宣言 したような ものである。か くてセ ラノ判決 少 により教育費収入 の不平等 を生みだすカ リフ は, 1つの試金石 を投 じた ことになるが,それ ォ じような強い程度で違憲判決 とな りうることを だけに後 に述べ るよ うに種 々の問題点が指摘 さ ルニア州公立学校財政制度 に違憲判決を下 し れている。 たのである。 つま り判決は,教育の場 における セ ラノ訴訟の契機 は,原告 とな ったメキシコ 経済的差別 we al t h di s c r i mi nat i on を問題 に し たのである。 系 アメ リカ人 JohnSe r r anoが,息子 An亡 hony が通学す る東部 ロスア ンゼルス,ボール ドウィ ところでアメ リカ合衆国 における教育の機会 均等 に関す る判例 は, これまで人種的差別 に関 ンパ ーク学区の学校長 に優秀 な Ant hony を転 連 した判例が圧倒的 に多 く,経済的差別 に関す 校 させ るよ うにすすめ られ,その勧めに従 って る判例 は極めて少ない。 したが って依 るべ き先 Se r r ano は家族 を中流階層 の白人が多 く住む郊 例が少ないこのよ うな訴訟 に対 してカ リフォル 外へ居を移 した ことを公益法 に関す るある組織 ニア州最高裁判所 がどのよ うな判断基準 により の指導者 なが ら判決を下 したのか,興味深 く注 目され る l lはカ リフォル るといわれている。 そ して Be Dar r i c k A.Be l lに語 った ことにあ ところである。実際,同裁判所 が以下 に述べ る ニア大学 ロスア ンゼルス 校法学部教授 Har o l d ような判断基準を適用 した ことは目新 しく独創 Ho r owi t zにこの件 を話 し,以後,彼等を中心 に 的なこととされつつ も,その通用 については判 して公立学校財政制度 に対す る訴訟を提訴す る 決の論 旨その ものが否定 されかねない基本的な ことが画策 された とい う。提訴以前に Se r r ano 問題 も提起 されている。 の息子 Ant hony は,問題 とな った学区か らす でに転校 していた。 か くて同事件 は, Se r r ano 結論的にいえば,セ ラノ判決は,人種的差別 の問題などに しば しば適用 され る 「 差別 の疑 い 自身が語 った といわれ るよ うに 「 法律家 による のある分類」( s us pe c tc l as s i ic f at i on)の基準 と, 訴訟」( l awye r s 'c as e )であ り,同訴訟を推進 し 言論の自由,信教 の自由など憲法 に定めを もち, たのは JohnSe r r anoの問題ではな く,改革の 特別の保護を必要 とす る 「 基本的利益」( f unda一 意欲 に燃 え た 法律家の野心 t heambi t i onsof me nt a li nt e r e s t ) の基準を併用 している。 この r e f o r mmi nde dl awye r sで あった と い わ れ る 両基準を用 いた ことは,極 めて画期的な ことで のである1 ) 。 セ ラノの裁判 が, 教 育 費 支 出 の ある。 とい うのは, これ らの基準が適用 され る 不平等を直接, 問題 に しな い で, わざわざ資 と,州 当局 は裁判所 による 「 厳重審査 テス ト」 産の多少 に原因を もつ 経済的差別 we a l t h di - ( s t r i c ts c r ut i nyt e s t )を受 ゅ,それに耐え るため s c r i i nat m i on を争点 と したの も 「ある特別 な法 にはその区別 di s t i nc t i on,あるいは分類 c l as s i - 的結果を生 みだそ うとした」法律家の意図であ ic f a t i on が 「強い公共利益」 ( c ompe l l i ng s t a t e った と理解 され るのである2 ) 。 そ して判決 白身 i nt e r e s t )を有す ること,およびそれ らの区別が もまた,原告 の弁護士であ った John Coons , 州 当局の目的を促進す るためにぜひ とも必要で St e phe nSugar man,Si dne yW o l i ns kyの主張, あることを立証 しなければな らないか らである。 すなわ ち, i.現在 の財政制度の硬直性 ゆえに - 70 - 白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等 第 2は地方財産税の税率 に関す るもので, こ 司法的干渉 は不可避であ る, 2.資産 による分 類 は,憲法上 の原則 に照 らして差別 の疑 いがあ のよ うな財政制度 の下では原告 は他 の学区で提 る, 3.教育 は特別 な保護を受 けるに 価 す る 供 されている教育の機会 と少 な くとも同等 ,あ 「 基本的利益」である, 4.教育の地 方 統 制 るいはそれよ り劣 らざるをえない教育の機会 を l oc a lgo ve r nme ntを強調 す る州 の利益は,財政 提供す ることにな るが,それにもかかわ らず税 的中立に基づ く制度 によ って子 どもの権利を侵 率 は, 他 の学区 と比べて 高 くなって い る と い す ことな く満足 され うる, とい う主張をほぼ受 4 条, カ リ う。 第 3に原告 は合衆国憲法修正第 1 け入れた形 とな った3)0 フォルニア州 憲法 に照 らして,現在 の公立学校 本稿は,以下 に,セ ラノ裁判 が経済的差別 の 財政制度の有効性 と合憲性 について相 当の争訟 判断基準 と して適用 した前述 の 2つの基準を中 が当事者 の間に生 じている, と申立てたのであ 心 に して同判決の内容を検討す る。 る。 以上 の訴訟事 由にもとづ き,原告 は以下の裁 訴訟事由 と判決 定 を訴願 した。第 1に現在 の財政制度 に対 して セラノ対プ リース ト事件 は,JohnSe r r anoら 達意判決を下す こと,第 2に財政制度の無効性 原告が以下 に述べ ることを理由 として,カ リフ を救済す るため教育資金 の再配分を行 うよ うに ォルニア州財務長官 Bake rPr i e s t ら州 当局を 被告 に命令を出す こと,第 3に控訴裁判所 は本 被告 として,始 めはカ リフォルニア州控訴裁判 訴訟 の管轄権 を保有 し,被告 な らびに州議会 が 所 ( 同州 の場合, Supe r i o rCour t )に提訴 した ある合理的な時間内にこれ らの裁定 に従わなか が,敗訴 したため,カ リフォルニア州最高裁判 った場合 には控訴裁判所 は,財政制度再編 の裁 所 に上告 した事件 である。同最高裁判所 は, こ 定をす ること,である。以上の申立てはいずれ の事件 につ いて1 971 年 8月30日,および第 1判 も第 1審で認 め られなか ったため,原告 が上告 9 76年 1 2月3 0日の 2度 決の被告の上告 に基づ き1 した ものである。 本件 を受理,審査 したカ リフォルニア州最高 にわたって判決を下 した ことはすでに述べた と おりである。 裁判所 は,まず予審 として問題 とな った公立学 第 1判決で原告 が提訴 した訴訟事 由は,第 1 にカ リフォルニア州 の公 立初等 中等学校を運営, 校財政制度の実態を検討 した。以下 にその問題 について簡単 にみておこう4)。 維持す るための財政制度 は違憲ではないか, と 判決が指摘 した学区の自己財源である地方財 いうものであ る。すなわ ち,原告の子 どもたち 産税 の不均等,およびそれに原因を もつ教育費 が通学す るロスア ンゼルス ・カウンティの公立 収入 ,支 出の学区間不均等を本事件 の発生地 で ローカル ・プ ロパ ーティ ・タックス 学校財政 は 地 方 財 産 税 に依存 しており, あるロスア ンゼルス ・カウンティの関係す る 3 この財産税を主な財源 とす る財政力,すなわ ち つの学区 (いずれ も初等 中等統 一 学区) で比 学区の資産の相違 により生ず る生徒 1人 あた り 統計数 較 してみ ると,第 1表の とお りである ( 教育費収入が学区間でかな り差があ り,その結 字 は,1 968-6 9年度,出典 は判決文 による)。 ユ ニ プアイ ド ・スクールディス トリク ト 果そのような ( 不利な) 学区に住む原告の子 ど 表の( 1 ) 欄 は,地方学区の実際の課税評価額, もたちに提供 され る教育機会 の質 と程度が,他 財政力 ,すなわち本判決でい う資産を表わすが, の多 くの学区に住 む子 ど もに提供 され るそれに 富裕 な学区 ビバ リー ヒルズ と原告 Se r r anoが住 比べて著 しく劣 った もの にな っていること,か んでいたボール ドウインパ ーク学区 とは資産 に くて現在 の公立学校財政制度は合衆国憲法修正 おいていかに大 きな差があるかがわか る。表 の 4 条な らびにカ リフォルニア州憲法で定め る 第1 ( 2 ) 欄 は,法定税率 1% によって学区が得 る教育 法 の平等保護条項 の要件 を充 していない, とい 費収入であ る。その比率 は( 1 ) 欄 よりもさらにひ うものである。 ろが る。 このため貧困な学区は教育費収入を増 - 71- 京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1 9 8 4 第 i⊇S -、 、事 項 学 区 ミ( 1 ) 地方財産税評価額 \ \ \ i Z I ー ル ド ンパーク ウ イ ボ パ サ デ ィ ナ ビバ リーヒルズ 1表 生徒 1人あたり学区資産の比較 比率 : 言 t ) t l , ∴ tL 3 , 7 0 6 ドル I ( 2 ) 法定税率 Ⅰ%による教 ( 3 ) 実際の 課税率 育費収入 r元 を ∴4 1 7 . L J lド l ∴こ 9 1 ル F 1 1 3 , 7 0 6ドル 【5 885ドル 8 7 0ドル 0, f18 . , . 1 L <・ ( 4 ) 教育費実支出額 mm 5 7 7 . 4 9ドル 8 4 0 .1 9ドル %11,23 12 .3 8 I I L. A 1 I 1 . 4 5 1 .72ドル 12 . 1 やすため,t ax o ve r r i de といって住民 の投票 に に原因を もつ教育費収入の学区問不均等 に重大 より法定税率を上廻 る税率で課税せ ざるをえな な制度的欠 陥を認 めたのである。 い。 ところが富裕な学区 も t ax ove r r i de をす 以上の予審的な事柄を述べた後,判決 は本論 るので両者 の差 は縮少 しない。表の(3)欄 は,実 に入 り,結論 として学区の資産の相違 にもとづ 際の課税率を示 して いる。表の( 4) 欄 は,実際の く教育機会 の経済的差別 we al t hdi s c r i mi nat i on 教育費支 出額を示 している。資産の差,法定税 は 「差別 の疑 いのある分類」 にな ること,教育 率 による収入の差 に比べ ると,その差 は大幅 に は 「 基本的利益」であること,現在 の公立学校 縮少 している。それ は学区によ り実際の課税率 財政制度 は 「強い公共利益」 の遂行 にぜ ひ とも が違 うこと,あ るいはた とえ富裕な学区 に して 必要 な ものではないと論 じ,学区 と住民 の資産 も無制限 に教育費支 出をす るわけではないこと に基づ いて教育の機会 の差別を助長 しているカ にもよるが,やは り州 の補助金 に負 うところが リフォルニア州公 立学校財政制度を法の平等保 大 きい。ただ判決は,学区間の資産の差 に基づ 4条違反である 護 を規定 した合衆国憲法修正第 1 く教育費収入の格差 を是正すべ き州 の補助金が と裁定 し,第 1審判決を破棄 し,本件を第 1審 その補助方式 ゆえに富裕学区を優遇 し,貧 困学 控訴裁判所 に差 し戻 したのであ った。なお判決 区 との均等化効果をそれほどあげていないと指 は,同上制度をカ リフォルニア州憲法の該 当規 摘す る。すなわ ち,カ リフォルニア州 の公立初 定 に違反す るとは直接 いっていないが,判 決文 フア ウ ンデ ー シヨ ン ・ 等 中等学校教育 に対す る補助金 は,標準教育費 の多 くの箇所でその趣 旨の ことを述べている。 プ ログ ラム 計画 とよばれ,州内のすべての生徒 に一定の教 「 差別の疑いのある分類」 としての 育費を確保す る制度を とっている ( た とえば, 資産 1 9 6 8-6 9年度 においては初等学校生徒 1人 あた 5 5ドル, 中等教育 の 生徒 1人 あた り 4 8 8ド り3 セラノ判決 は,まず第 1に 「差別の疑 いのあ ル)。 そ してその補助方式 は,貧富にかかわ ら る分類」 の基準を用 いて資産の多少 に左右 され ず全学区に一律 に補助金を与え る基本補助 ba- る現行 の財政制度 に対 して違憲判決を下 してい s i cs t a t eai d ( 同年度 において生徒 1人 あた り るが,その ことは判決文のい くつかの箇所で表 1 2 5ドル)と学区の資産 に逆比例 して配分す る均 明されている。た とえば,判決文 の冒頭の全体 qua l i z at i onai d とか ら成 るが,判決 等化補助 e l i van 裁判官は,次 のよ うに述 意見 として Sul フ ラツ ト ・グ ラ ン ト は前者の一律補助金た る基本補助を特 に上で述 べている。「当法廷 は,《カ リフォルニア州 の公 べたような点か ら問題視す るのである。 しか も 立学校)財政計画 は貧困な者を差別 していると 標準教育費 自体 ,実支 出額をかな り下廻 り,蛋 い うこと, というのは,それは子 どもの教育の 低必要額 さえ充 た して いない。か くて判決は, 質 を両親 と近隣の資産 の函数 に しているか らで 現在の 「 州補助金を もって しては,地方財産税 あ ると認めた。 」 に基づ く財政制度 に固有 な不平等を相殺す るに い うまで もな く裁判 は,原告 の主張 と被告 の は不適切である」 と述べ,学区の資産の不均等 弁論 とを軸 と して展開 され るわけであるが,請 -7 2- 白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等 点を明確 にす るため こ こで被告 の主 な弁論 を紹 生徒 1人 あた り学区の財産税課税評価額 と住民 介す る。被告 は,公立学校財政制度 が学区の資 の資産 との間 に相 関があるとい う原告 の主 張を 産を もとに して貧 困な者 を差別 しているとい う 事実 と して認 め, 「 学区の資産を基礎 とす る分 原告 の主張 に反論 す る。被告 の主 な反論 は,罪 類 も,(住民 ・個人の資産を もとに した分類 と), 1に州 当局 は州補助金 によ る基本補助 によって 同 じよ うに無効 であると考え る」, そ して学 区 全生徒 に一律 に,均等 化補助 によって貧困な学 の課税基盤 をなす商工業資産 は州 内に不均等 に 区 によ り多 く,補助金 を交付 している,第 2に 散 らばっているのであ り, 「そ う した資産 が偶 原告 が問題 とす る経済 的差別 の指標 た る生徒 1 然そ こに存在す るとい う理 由だけで,あ る学区 人 あた り財産税課税評価額 および生徒 1人 あた の子 どもに他 の学区の子 どもよ り多 くの教育費 り教育費支 出は,学区や住民 の資産 に関す る信 を割 当て ることは,子 どもの教育 の質 を私的な 頼 に足 る指標 ではな く,財産税 の総評価額であ 商工業施設 の有無 に依存 させ るもの」 であ り, るべ きこと,また生徒 1人 あた りの支 出額 は学 そのよ うな ことは 「 教育財政 の基盤 と して は最 区の税率 によって も決定 されているので学区の も不適切 であ り」, か くて 「学区の資産 に基づ 資産を実際 には反映 していない,第 3に学区の く差別 は無効 であ る」 とい う。第 4の教育費支 資産 はそのまま直 ちに家庭 の資産 とはな らない, 出 と教育 の質 との関係 につ いては判決 は, ホブ 第 4に教育費支 出の相 違 は教育 の質 に影響を与 Hobs onv.Hans e n,269 ソ ン対- ンセ ン事件 ( え るもので はない,第 5によ しん ば学校財政制 ,マ クニス対 シャピロ事件 F.Supp.4 01 ,1 96 7 ) 度 が資産 によ って分類 されていた と して も,そ ( Mc l nni sv.Shapi r ( ) ,2 93F.Suロp.327,1 969) def ac t oc l as s i ic f aれは 「 事実 と しての分類 」 ( な どの判例を引用 し,そ こでの肯定的見解 を援 ,「法律上の分類」(dejurecla- t i on)であ って 用す る。第 5の反論は,アメ リカ合衆国の判例 s s i ic f a t i on)で はない,原告 も法律等 による意図 a c t o,dej ur eの問 史上 において論争 の多 い def 的な差別待遇 の異議 を 申立てているわけではな 題であ る。判決 は, 「合衆国最高裁判所 および く, したが って憲法上 の問題 に抵触 して いない, 当法廷 が これまで資産 による分類を無効 と して とい うものであ る。 pos e f uldi s c r i i nat m i on 判決 は,意図的差別 pur 以上の被告 の弁論 に対 して判決 は結果 と して の事件 ではな く,貧困な者 にその影響 が重 くの 原告 の主張を ほぼ認 め る立場 に立 ったので,当 nt e nt i ona lc l as s i if しかか る意図せ ざる分類 uni 然 の ことなが ら被告 の弁論 に反論す る形で見解 c a t i onを含んで いる」 と述べ,ダ リフィン対 イ を示 した。まず被告 の第 1の抗弁 に関 して,判 Gr i f inv.I f l l i noi s ,351U.S.12, リノイ事件 ( 約半分) 決 は州 の補助金 は学校財政の 1部分 ( 1 956)その他 の判例を引用 した。 そ して判 決 は, にす ぎない こと,またすでに述べたよ うに州補 ac t os e gr e ga t i on 合衆国最高裁判所 はまだ def 助金 の欠陥を指摘 す る。 第 2の反論 につ いては の違憲性 につ いては判断を下 して いないが,カ 判決は必ず しも要領をえず,ただ 「現在 の文脈 リフォルニア州最高裁判所 はジャクソン対パ サ における学区の資産の唯一 の意味あ る測定値 は Jac ks o nv.Pas ade naCi t ySc hool デ ィナ事件 ( 財産税 に関す る絶対額ではな くて,生徒 1人 あ I ) ソ ーセス た り資源の割合で ある, とい うのは学区が生徒 Di s t r i c t ,5 9 Cal .2 d 87 6,881,31Ca l .Rpt r . 6 06,3 82P.2d878,1 963) ,サ ンフ ランシス コ を教育す るためにどれ ほど貢献 したかを決定す 統一学区対 ジ ョンソン事 件 るのは後者 の数字 だか らである」とい う説 明に on,3Cal .3d Uni ie f d Sc hoo lDi s t r i c tv.Johns とどめている。 また 税率の 問題 につ いては, 937,92Cal .Rpt r .3 09,47 9P.2d66 9,1 971) 「 貧 困な学区が富裕 な学 区の教育機会 の提供 に でそのよ うな意図せざる人種的隔離 も無効 であ ( Sam Fr anc i s c o 十分 に見合 うほど高率課税 をす ることは不可能 ると裁定 した こと,さ らに学区の境界 を定 め, であ る」 と指摘す る。第 3に関 しては判決 は, それ によ って学区の資産 の多少 を決定 した州 当 -7 3- 京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1 9 8 4 局 の行為 が意図せ ざる結果では決 してないこと 報告書 によれば,カ リフォルニア州では黒人 な を指摘 した。 どマイノ リティの人 口の半分以上の者 は,生徒 以上が 「 差別 の疑 いのある分類」 の基準を用 いたセラノ判決 の主な論拠である。教育 に対す 1人 あた り課税評価額,すなわ ち資産 において 平均を超え る学区に住んでいるという7)。 した る経済的差別 の問題を直接の訴訟事由 とした裁 が って 「 公立学校財政制度 は,貧困な者一般 を 判 は,恐 らくセ ラノ裁 判が初めてであ る。 しか 差別 しているというよりは,そのある部分 を差 も「 差別 の疑 いのある分類」を適用す るために, 別 している8)」ということになる。 わざわざ資産 という概念を もちだ した。 したが 第 3の問題 は,やはり被告 が主張 したよ うに ってその試みが評価 され る一方 で,判決の論 旨 学校教育費支 出の相違 と教育の質 との関係 であ 自体の問題点 も少 なか らず指摘 されている。以 る。すで に述べたように,判決は他 の判例を援 下 にそれ らの主 な問題点を述べてみ る。現在 ま 用 して両者 の相関関係を肯定 し,問題 の深刻 さ でに 「 差別 の疑 いのあ る分類」 と して確定 され を強調 したが, これまで多 くの調査や研究 にも i onal ているのは人種, 宗教 , 国民的出自 nat かかわ らず,それについて肯定的な結論 はまだ or i gi nなどであ るが,それ らに比べ ると資産は 出ていない。た とえば,教育費支 出の多 くを占 不利益な状態を特定 し難 い。そ こで判決の論 旨 めるのは教員給与費であるが, 「 教員給与費 の に関連す る問題点 の第 1は,資産の相違 に基づ 相違 は教授 の質の函数 というよ りは,勤務年数 く不利益な状態 がどのような ものであれば,差 および学位 の函数であることが しば しばである。 別 の疑 いのある状態で あると明白にいえ るのか さ らに学区間の給与表の相違 は,賃金表や教員 e phe n R.Gol ds t e i n に ということである。 St 組合 の団体交渉力の違 いか もしれない9)」 ので , 相対的不利益」 よれば, この不利益な状態 は 「 ある。判決が援用 した判例,た とえばマ クニス ( r e l at i vedi s advant age)と「 絶対的剥奪」( abs ol ut e 0 0 0ドルの教 対 シャピロ事件 に して も 「 恐 らく1 de pr i vat i on)とに分 けて考え ることがで きる5'。 育を受 ける子 どもは,6 0 0ドルの学校教育 を 受 セ ラノ判決 は前者 の考 え方を とったのであ り, ける子 どもよりは,一層良 い教育を受 けている セ ラノ第 1判決の後 に出て資産 に基づ く教育機 といえ るだろ う」 と蓋然的な こと しかい ってい 会不平等 の同 じよ うな訴訟を破棄 した ロ ドリゲ ない。 この問題 は一般論 として論ず るには難 し Sam Ant oni o SchoolDi s t r i c tv.Rodス判決 ( く,個 々の事例 に応 じて判断す るよ り仕方がな r i gue z ,411U.S.1 973)は,後者の考え方を と いのか もしれない。 ったのである。 いうまで もな く we al t h di s c r i 「 基本的利益」 と しての教育 絶対的剥奪」の状態 にあれば,差 mi nat i on が 「 別 の疑 いがあるといえ るであろ うし, 「 相対的 不利益」 の場合 にはその論拠 は弱 くなる。 セ ラノ判決は,次 に 「 基本的利益」 の判断基 準 を用 いるが, これは同 じよ うに原告 の主張を 「 差別 の疑 いのある分類」適用 に関す るセラ 採 り入れた ものである。原告 は,現在 の公立学 ノ判決の論拠の第 2の問題点 は,被告 の弁論 に 校財政制度は資産の多少 に基づ く経済的差別 の もあったよ うに,学区の資産 と住民の資産 との 疑 いがあ るだけではな く,それはまた 「 基本的 関係である6)。 もともと判決が we al t h di s c r i - 利益」たる教育のあ り方 にも抵触 していると主 , mi nat i on の論拠 に引用 した判例 は個人を対象 経済的差別分類 」 ( we al t h 張す る。すなわ ち 「 に して行 なわれた差別 の問題である。セ ラノ判 c l as s i ic f at i on)と 「基本的利益」とを結合 させ, 決は,いってみれば個人を学区に読み替えて類 それによ り法の平等保護の問題を一層強 い形で 推を行 な っている。 したが って,貧困な学区が 問 うているのである。 貧 困な個人 の集合体で あれば問題がないわけで 判決は,原告側 の見解を参考 に しつつ,教育 あるが,実際 はそ うではない。た とえば,ある が 「 基本的利益」であることを以下の 3点か ら -7 4- 白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等 , プJ )ザ -バ テ であ り 「 投票 は市民権 ,政治的権利へ の保 存 論証 しよ うとす る。第 1は個人 および社会 にと イプ っての教育 の重要性 ,第 2は合衆 国最高裁判所 薬 であ るがゆえに,基本 的利益 と見な されて き が経済的差別 問題 に開通 した判決で基本的利益 た」 のであ り,教育 につ いて同 じよ うな ことを であると裁定 した刑事被 告人 の権利 および投票 カ リフォルニア州憲法第 1節第 4項で定 めて い の権利 と教育 との比較 ,第 3は政府 の他 の機能 ると指摘す る。同節 は, 「知識 と英知 の広 い普 と教育機能 との比 較であ る。 及 は人 々の権利 と自由の保護 にとって必須な も 第 1の教育 の重要性 についていえば,まず判 のであ るか ら,議会 はあ らゆ る適切 な手段 によ 決 は,教育 が 「基本的利 益」であ るとい うこと って,知的,科学的,道徳的-・ -改善 の促進 を につ いて先例 とな る判例 がない ことを認め る。 図 らなければな らない」 と規定 している。 そ こで判決 は教育 が現代 の産業国家で果た して 第 3の政府 の他 の機能 と教育機能 との比較 に いる役割 を自 ら検 討 し,教育 は個人 の経済的社 つ いては,その比較を通 して判決は,現代 の社 会 的成功- の機会 の主要 な要因であ ること,ま 会 における教育 の際立 って貴重な機能 は教育 を た教育は子 ど もが市民 と しての発達 を遂げ,政 「 基本的利益」 と して扱 うことを要求 してい る 治 および コ ミュニテ ィの生活- の参加 にユニー と して,その理 由に以下 の 5点 をあげ る。第 1 クな影響を与 え るとい う見解 を示す。そ して教 に教育 は自由企業 デモクラシーを維持 し,不利 育の基本的重要性 に触 れ た判例 と してブラウン な環境 に もかかわ らず経済市場 で競争 しうる機 Br ownv.Boar dofEduc a対教育委員会事件 ( 会 を個人 に保障す るとい う面で決定的 に重要 な ものであ る,第 2に教育 は消防,警察 ,福祉 な t i on,34 7U.S.483,1 95 4)を引用す る。 第 2の諸権利 と教育 との比較 につ いては,判 どの公共 サー ビスに比べ ると,個人 の生活,個 決 は, 「教育 の権 利を合 衆国最高裁判所 が資産 人 がそ こか ら利益を得 るとい う点ではよ り一層 に もとづ く差別 か ら保護 した 2つの 『基本的利 0年 か ら1 3 広 く普遍 的であ る,第 3に公教育 は1 益』, すなわ ち, 刑事事件 における被告人 の権 年 にわた る人生 の長い期間 にわた って継続的 に 利 および投票す る権利 と重要性 において比較 す イ ルミ ネ ーテイン グ ることは啓発 的な ことで あ る」 と述べ る。続 け 行 なわれ ること,他 のいかな る政府 のサー ビス もその受取人 との間にこのよ うな持続 的で深 い て判決は,教育 と刑事被 告人 の権利 は自由-の つなが りを もつ ものはない,第 4に教育 はその 権利 とい う点 では共通す るものがあ るが,教育 程度 において他 の公共 サー ビスに比べ るものが は,刑事被告人 の無料で訴訟手続 の公的謄本 の ないほど青少年 の人格形成 に関与 して いる,罪 写 しを得 る権 利や無料 で裁判所指 名の弁護人 に 5に教育が重要 であるがゆえに州 は教育を義務 よる弁護 を得 る権 利 よ りは,はるかに大 きな社 制 と している,である。 会 的意義を もつ ものだ と してその説 明に Coons 教育 が 「基本的権利」であることの以上の判 た ちの文章を引用す る。 Coons た ちはい う, 決の論理 に問題点 があるとすれ ば,それほどの 「教育 は刑法 の場合 よ りもはるか に多数 の人間 。まず第 1の教育 の重 よ うな ものであろ うか11) に直接,影響を与 え るだ けではない。・ --教育 要性 につ いていえ ば,判決 は教育が個人 の経済 は,犯罪の率 を減少 させ るだ けではな く (その 的社会的成功へ の機会 の重要 な要因であること 反比例の関係 は強 い), 民主的社会 のあ らゆ る を指摘 す るが,そのことを示す社会科学的なデ 価値,少 し例 をあげれば,参加 , コ ミュニケー ータの引用 はない。また本訴訟の提訴事 由であ シ ョン,社会移動 とい った ものを支 え るもので る教育 の場 における経済的差別 が,す なわ ち具 あ る」 と10)。 また教育 と投票権 との間 にはさ ら 体的 には資産の差 に基づ く教育費支 出の違 いが ア ナロジー に一層,直接的な類似 が あるとい う。なぜ な ら 経済 的社会的成功-の機会 にどのよ うな関連 を 「この両者 は,デモ クラシーの参加 ,デモ クラ もつか,本判 決の核心 ともい うべ きこの主題 に シーの機能 に とって決定 的 に重要 であ る」か ら つ いての言及 もな く,それ につ いてのデータの - 7 5 - 京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1 9 8 4 引用 もない。市民性 の育成 について も同 じこと の論理 は上のよ うな問題点を含む ところか ら, がいえ る。第 2の他 の諸権利 と教育 との類似比 「セラノ判決の教育の 『 基本的利益』 に関す る 較 についてはど うで あろ うか。まず刑事被告人 分析 は,論理的 にも,また合衆国最高裁判所が の権利 についていえ ば,それは被告人ゆえに自 扱 う問題 の権限 とい う面か らみて も 疑 問 が あ 由を制限 しよ うとす る州 の措置に対 して被告人 4 ) 」と批判 され るのである。 る1 を保護す る必要 か ら生 まれた ものである。 した 判決 は,子 どもの教育の質を親や近隣の資産 が ってその性格か ら してその権利 は,教育の権 の函数 に しているカ リフォルニア州学校財政制 利のよ うに絶えず政府 のサービスの改善,向上 度 は,明 らかに教育の 「 基本的利益」 に抵触す f ir f ma t i ver ig ht s とは をもとめ る積極的権利 a るとい う。 そ して 「 差別 の疑わ しき 分 類」 と 異なる。 次 に投票権 は,州 によって保障 された 「 基本的利益」 の基準を用 いた 「 厳重審査 テス a f ir f ma t i ver i ghtであ り,それは究極的には民 ト」の最後の段階である 「強い公共利益」 の検 主的社会 において教育まで も含む政治的権利で 討 に移 る。 そ こで判決は,被告 の主張す る地方 ある。公教育 は政治的接近 に関連を もつが,そ の教育統制,教育責任 という公共利益 は,た と れ自体 は 「デモ クラシーにとって本質的な もの えば貧困な学区にとっては幻想 にすぎないなど ではない12)」。 また以上のよ うな刑事被告人 の とい う観点か ら疑問を投げかけ,同財政制度 は 訴訟手続 の保障 と投 票権 につ いては合衆国憲法 「強い公共利益」の達成 にはぜひ とも必要な も に定めがあるのに対 して,同憲法 は教育 につい のではないこと,以上 これまで述べて きた こと てなん ら触 れてはいない。連邦 の裁判所 による か ら同制度 は 「 厳重審査 テス ト」 に耐え ること 判例は,合衆国憲法 に規定があるかないかで, がで きないと論 じ,それゆえにそれは原告 な ら ある権利 が 「 基本的利益」 にな るか,な らない びに同様 な状況 にある者 に対 して法の平等保護 かの 1つの大 きな判 断基準 として きた。 を拒否す るものだ と結論づけたのであった。 第 3の政府 の他 の機能 と教育 との比較 につい てはどうであろ うか。 この場合 にも指摘 された 「 財政中立の原則」 教育の特徴を教育費支 出の相違 に関連づ けた論 セラノ判決の意義は,判断基準が未確定 な教 及 はない。それを別 にすれば,まず 1か ら 3の 育の場 における経済的差別 の問題 にすでに述べ 公共サー ビスの普遍性 と持続性 については教育 たよ うな 2つの判断基準を適用 した ことにある。 サービスだけがそれ らを独 占 しているわけでは それを方法論上の意義 とすれば,同判決は内容 な く,警察,消防 もまた然 りである。第 4の青 的な意義を も有 しているといえ る。それは判決 少年の人格形成 につ いて も教育はその役割を量 が 「 子 どもの教育 の質を親や近隣の資産の函数 的質的にも独 占 して いるとはいえない。第 5の に してはな らない」 と述べているように, 「 財 教育の義務制 につ いては,教育の重要性 という 政中立の原則」を唱えていることである。 以下 こともきりなが ら,む しろ親の経済的,さ らに にこの原則 について若干述べておきたい。 いえば親の知的な能力 の問題が義務制の根底 に 「 財政 中立の原則」 とは, この原則を提唱 し , ある。また私学の存在 が認め られているよ うに 公教 た Coonsなど原告側の法律家 によれば 「 公教育-の就学 は決 して強制 されていないので 育 の質 は,州全体 の資産の函数であるべ きであ ある。 って,ある 1つの資産だけの函数であ ってはな 「 教育 の重要性 につ いては誰 も否定で きない 」とい うものである。子 どもの教育の らない15' し,また社会 は教育 の配分 について注意深 く見 質 が,すなわ ち具体的には教育費支 出水準が学 守 らなければな らない とい う判決の結論を誰 も 区の資産状況 に対 して中立的であるべ きこと, 退 けることはで きない13)」ことはい うまで もな この ことが この原則のいわん とす るところであ い。 しか しなが ら,教育の重要性 に関す る判決 るが, この原則 は 「あ ってはな らない」 と否定 -7 6- 白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等 , 形 で述べてあ り 「どうあるべ きか」とい う形で owi t z ,Ki r p,W i s e らは裁判所 を して改 て Hor は表現 されていない。 ここにこの原則 の もう 1 革のための積極的な原則を述べ させ よ うと して つの狙 いがあるのであ る。 この原則を理論化 し 結果 の平等,教育需要の充足 を 目的 とし,その , た Coonsによれば 「セ ラノ判決が何をいって いないかを強調す ることが大事な ことである」 。 , 限 りにおいて地方学区の白律性 の制限 は止むを えないとい う立場であった2 0 ) 。 セラノ裁判 は, 判決がいっているのは, 現在 の制度 すなわち 「 第 1判決は前者 の見解,第 2判決 は後者 の見解 が違憲であるとい うことであ って,ボールはま を とった といえる。 , 」。つま り 「 財政 中 さに議会の手 の中にある16' セ ラノ第 1判決が 「財政中立 の原則」 に基づ 立 の原則」 の もう 1つの 目的は,Coons によれ き特定 の選択を提案 しなか った ことは,違憲判 ば,救済の担 い手 と しての裁判所 の役割を限定 決を下 された財政制度を具体的 にどのよ うに改 し,制度改革 の担 い手 はあ くまで議会であるこ 善すべ きかについて多分 に酸味 さや不安を残す とを暗 に示す にある。 この ことは,以下 のよ う ことにな った。酸味 さ,不明確 とい うことにつ にもいえ る。「否定形で述べ ることによって裁 いていえば,まずセラノ判決で救済 さるべ きは 判所 は,現在 の制度 に特定の選択を提案す るこ 子 どもなのか,納税者なのか とい う疑問があ る。 とな く違憲判決がで きる」 と17)0 Ki r pなどは,Coonsたちの仕事 は,貧 困な子 ど 判決が特定 の選択を提 案 しなか った ことは, もの教育の機会を平等 にす ることを犠牲 に して, タツクス .エフオ ト た とえば,資産の多少 に基づ く学区問の教育費 課税努力を平等 にすることを強調 していると批 収入,支 出の違 い,そ してその相 関関係 を問題 ' 。 このよ うな批判 に対 して Coonsは, 判す る21 に しなが らも,判決は教 育費支 出の平等 を求め セラノ判決は決 して貧困な子 ど もだけを救 お う なか った ことにみ ることがで きる。「当法廷 は, としたのではない,む しろ財産 とい う資産 と教 《憲法の規定 が), 等 しい教育費支 出を求め る 育費支 出 との間の憲法上擁護で きない関係 を攻 もの とは解釈 しない」 のである。 もっとも判決 撃 したのであると語 っている22'。 判決の裁定 の は,支出の平等ではな く,資産 ( 収入) の平等 酸味 さ,不明確 についてはさ らに教育費支 出に を暗 に提唱 していたのであ り,それが判決の論 関す る地方学区の決定権 を認 めるのか,それ と , という指摘 もある。判 理的な読み方である18' も州 当局 の権限を強める集権化 の方向を取 るべ 決 はまた学区の教育費支 出の選択 も否定 してい きなのか という問題,あるいは判決でい う学区 ない。セラノ判決がなぜ教育費支 出の平等 を強 の資産 イコール教育費支 出 とい う想定 は,他 の 制 しなか ったのか,あるいは強制 しよ うとしな 行政サービス と強い競合関係 にあ り, しか も経 か ったのか,その理由は裁判所 の役割 の限定づ 費 のかさむ教育需要に悩 まされている大都市 の げということもあろ うが,さ らに 「司法 の介入 教育サー ビスの場合には適切 な指標 とはな らな を強 く求める平等主義者 さえ,アメ リカ人 の公 い問題をどうす るのか,などとい うことがある。 バプ リ ツク ・コンシヤスネス 衆 識 の中に根 強 く存在す る地方学区は教 不安 につ いていえば,議会 が特 に裁判所 による 育 により多 くの経費を支 出 しよ うとす る選択を 意 命令 もな く,何事 もな しうるとなれば, この経 もつべ きであるとい う考えに抗す ることがで き 済的に困窮の時 にあって教育 にとって憂 うべ き ない19)」とい うこともあろう。 事態,た とえば中央集権化,教育費支 出の下降 裁判所 の役割,地方学 区の自律性 の問題 につ 平準化,中産階級子弟の公立学校か らの脱 出な いては原告 の弁護士,法律家の間で も見解 が分 どを招 くのではないか とい う懸念 がはや くもセ れ ,「財政中立の原則」 を推す Coons ,Cl une , ,セラノ ラノ第 1判決の当時,表明 されたが23) Suga r man らは,裁判所 を して否定的,あるい 第 2判決後のカ リフォルニア州 の公立学校財政 は中立的な原則を述べ させ るに止 めよ うとし, 制度改革 の動 きは,少 くとも前 の 2つの事態 の また地方学区の自律性を支持 した。 これに対 し 予想通 りの もの となった。 - 7 7- 京都大学医療技術短期大学部紀要 第 第 4号 1 9 8 4 局 は この ロ ドリゲス判決を盾 に とり,セ ラノ第 1判決か ら第 2判決へ 1判決が拠 りどころ と した合衆 国憲法修正第 1 4 カ リフォルニア州最 高裁判所 は,第 1判決 に 秦 ,そ して合衆国最高裁判所 の判例 を引用 して もとづ き本件 を第 1審控訴裁判所 であ る Supe 厳 の 「 差別 の疑 わ しき分類」 「基本 的利益」 「 r i o rCo ur tに差 し戻 した。同控訴裁判所 は第 1 重審査 テス ト」 の適用 は もはや意味をな さぬ と 判決後の議会 の対応を検討 した上で1 974年 9月 主張 した。 この反論 に対 して第 1審裁判所 は合 3日判決を下 し,カ リフォルニア州公立学校財 4条 の適用 は とり止 めたが,カ 衆国憲法修正第 1 政制度 は法 の平等保護 を定 めた同州憲法 に達反 0な リフォルニア州公立学校財政制度 は SB9 , , す るものであ り,無効 であ るとの裁定 を した。 どによる改革 に もかかわ らず,なお資産の多少 この下級審での裁定を不服 と して被告である州 に基づ く学区間の教育費支 出の不平等 は相変 ら 当局が上告 したため, カ リフォルニア州最高裁 ず存在 して いることを認 め,同制度 はやは り法 976年 1 2月30日,同裁判所 判所 が再度審理 し,1 の平等保護を規定 したカ リフォルニア州憲法第 が再 び同制度 に達意判 決を下 し,それによ って 1節第 1 1項 および第21 項 ( 現在 は第 1 6章第 4節, 本件 は結審 した。 これがセ ラノ第 2判決であ る。 第 7葦第 1節) に違反 してお り無効 であ ると裁 第 1判決の後 ,第 2判決が出 され るまで本訴 定 した。すでに述べたよ うにカ リフォルニア州 訟 に関連 を もつ大 きな変化があ った。 1つは, 最高裁判所 もこの裁定 を支持 したのであ った。 州議会 が第 1判決の裁定 に応 じるため,い くつ ロ ドリゲス判決の影響 によ り法 の平等保護 の憲 かの法案を通過 させ ,財政制度の部分的改革を 法上 の根拠をカ リフォルニア州憲法 だ けに変 え 図 った ことであ る。法案 と して最 も基本的な も た ことが注 目され る。 セ ラノ第 2判決で もう 1 0( Se na t eBi l l90,以下 SB9 0と のは上院法9 つの注 目すべ き点 は,控訴裁判所 が判決の時点 972年成立)で ある。S39 0 は標準教育 い う,1 974年) か ら 6年間 に学区間 の生徒 ( すなわ ち1 9 73-74年度 に 費 をかな り増加 させ (た とえば1 1人 あた り教育費支 出の差異 を 1 00ドル以 内 に おいて初等学校生徒 1人 あた り費用をそれまで 留 め るよ うに州 当局 に命 じた ことであ る。 同最 5 5ドルか ら765ドル-,中等教育の生徒 につ の3 高裁判所 もこれを支持 した。 セ ラノ第 1判決で 88ドルか ら950ドル-), あ るいは税率 いては4 は何 も具体策 を示 さなか った最高裁判所 が,罪 を制限す ることによ って学区の教育費 の歳入制 2判決で 1部 とはいえ救済 の措 置を示 したので 限や生徒 1人 あた り教育費 に対 して最大 の支 出 983年 4月 2 8日, あ る。 なお 控訴裁判所 は, 1 制限を設 けるな ど して学区問 の教育費支 出不平 「判決 に関す る覚書」 をだ し,その中で イ ンフ 等 の縮小 を図 った。 しか しなが ら,標準教育費 00ドル 差異 レー ションによる要素を加 味 して 1 計画の中には富裕 な学区を優遇す ることにな る 3. 2 % の達成率 であ ること,またカ リ の基準 は9 a xo v e r r i de 基本補助が相変 らず あ り,また t フォルニア州 の制度 はそれだ け公正 な ものにな も形 こそ違え存続 した ことによ り,また この間 った と述べた24)。 における高 いイ ンフ レー ションとい う事情 も加 1 97 8年 6月 ,カ リフォル ニア州 は州民 の投票 0 は学区問の教育費支 出の不平等 わ って,SB9 3( Pr o po s i t i o n1 3)を成立 させ , によ って提案1 是正 に大 した効果 を発揮 しなか った。 憲法改正を行 い,それ によ り地方財産税制度 の 9 73年 に ロ ドリゲ もう 1つの大 きな変化 は,1 根本的な改革を行 な った。制度改革 の骨子 は, ス判決がでた ことであ る。 この合衆国最高裁判 イ ンフ レー シ ョンか ら同制度 を救済す るにあ っ 所 による判決 は,セ ラノ訴訟 と同 じ内容 を もつ たが, 地方財産税収入 を大 幅 に削 減す る 改革 訴訟であるに もかかわ らず,棄却判決を下 した (た とえば,地方財産税収入 は市場評価額 の 1% のである。 いわ ばセ ラノ第 1判決を真 向 うか ら に限定 す るな ど) は,当然 の ことなが ら同財産 否定 した形 とな ったのであ る。被告 であ る州 当 税依存 の学区の財政制度 に終わ りを告 げ るもの - 78 - 白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等 とな った。以 後 ,学 区 の教 育費財源 は,連 邦政 新井秀明 :70年代アメ リカにおける公立学校財政 府 か らの補 助金 を除 け ば,専 ら州 政府 の資金 に 制度改革構想の特徴と問題点-セラノ判決 ( 1 971 負 うことにな った。 しか しなが ら, この教 育費 年)と関わって-,関西教育行政学会編 「 教育行 支 出の集権 化 は財 政逼 迫 とい う事情 もあ って, 財政研究」第1 0号. 学 区の教育費 を増 す ど ころか,逆 に相 対 的 に低 下 させ て い るので あ る。 上 に示 した控 訴裁 判所 の覚書 の 「公 正」 評価 も,実際 は統 計 が示 す よ うに下降平準化 で の評価 とい うこ とにな り,そ の よ うな事態 はセ ラノ訴訟 の当事者 ,特 に原告 5)St e phe n R・Gol ds t e i n:op.° i t .p. 531 . 6)i bi d,p.51 952 0. 7)i bi d,p. 52 5. 8)i bi d,p. 52 4. 9)i bi d,p. 52 0. 1 0)John E・Coons ,Wi l l i a m H・Cl une Ⅲ,St e phe n 側 に とって は極 めて不本 意 な もので あ った に違 D・Sugar ma n: Educ a t i onal Oppor t unl t y: 57 いない。第 1判 決 の時点 で予想 され た憂 うべ き Ca l i f or ni aLa w Re ie v w,p・ 305,3621 363,1 969. 事態 が生 じた ことを考慮 すれ ば, セ ラノ判 決 の 意義 も功罪相半 ばす る とい うことにな るのか も e phe n R.Gol ds t e i nの ll )以下の問題点の指摘は,St 前掲論文による。p・535-540. しれな いが,教育 の場 にお け る経 済 的差別 が違 1 2)i bi d,p. 53 7. 憲 とな りうる こと,教 育 は 「基本 的利益 」とな 1 3)i bi d,p・ 542 . りうることの立論 は,少 くとも州 の裁 判所 で同 様 な問題 が今 後提 訴 され うる可能性 を大 いに開 1 5)John E・Coons ,Wi l l i a m H・Cl uneⅢ,St e phe n D・Suga r man:i bi d・ いた もの と して評価 され よ う。 文 1 4)i bi d,p. 542. 1 6)Ca l i f or ni aLe is g l a t ur eSe na t eSe na t eCommi t t e e on Educ a t i on & Se na t e Se l e c tCommi t t e e on 献 Sc hooIDi s t r i c tFi nanc e:Pr oc e e di ngsofHe ar 1)Ri c har dF・El mor e& Mi l br e yWa l l i nMcLaugh1 i n:Re f or m and Re t r e nc hme nt:The Pol i t i c s ofCa li f or ni aSc hoolFi nanc eRe f or m,P.2123, 43,Ba l l i nge r ,1 982・ i ng,Se r r ano v・Pr i e s t ,p・18-1 9,Oc t obe r20, 1 971. 1 7)Ri c har d F.El mor e:op.° i t .p.29. 1 8)St e phe n R.Go l ds t e i n:op.° i t .p. 51 5. 2)St e phe n R.Gol ds t e i n:I nt e r di s t r i c tI ne qua l i t i e s i n Sc hoolFi nanc i ng:A Cr i t i c a lAna l ys i s Of Se r r ano v・Pr i e s tand i t sPr oge ny,Uni ve r s l t y ofPe nns yl vani aLa wRe vi e w,p.512,1 97ト1 972 . 3)Te s t i monyofJo hn E.Coonsbe f or et heUni t e d St a t e sSe na t eSe l e c tCo mmi t t e eon Equa lEduc a t i ona lOppor t uni t y,Se pt e mbe r2 8,1 971 . 1 9)i bi d,p. 51 7. . 20)Ri c har dF・El mor e:opt° i t .p. 2531 21 )i bi d,p・ 31 . 22)i bi d,p. 42. 2 3) たとえば,Te s t i mo ny Pr e s e nt e d Be f or e Se na t e Se l e c tCommi t t e eHe ar i ngonSe r r anov.Pr i e s t , St a t eofCa l i f or ni a ,Oc t obe r20,1 971におけるカ (この文献で Uni t e d St a t e sとあるのは, 恐 らく 間違いで,Coonsの証言はカ リフォルニア州上院 で行なわれたものと思われる。 リフォルニア大学教授 Char l e sS・Be ns onの証言. 24)Supe r i orCour toft heSt a t eofCa l i f or ni a:Memor andum ofDe c i s i on,p・ 7,Apr i l28,1 983. 4)邦文では以下の文献が詳細に実情を説明 している。 - 79 -