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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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経済的差別と教育の機会均等―判例にみるアメリカの教
育(2)―
白石, 裕
京都大学医療技術短期大学部紀要 (1984), 4: 69-79
1984
http://hdl.handle.net/2433/49291
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
経 済 的 差 別 と教 育 の 機 会 均 等
-
判 例 にみ るア メ リカの教 育 (
2)-
白 石
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5
7P.
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9)
。通常,前者をセラノ第 1判決,
考 察 の 視 点
後者をセラノ第 2判決 とよんでいる。第 2判決
本稿は,カ リフォルニ ア州最高裁判所が審理
は第 1判決の内容 とほぼ同 じであるが,第 1判
したセラノ対 プ リース ト事件を考察 の対象 とし
決は法 の平等保護 の根拠規定を合衆国憲法修正
ている。同事件 は同裁判所 によって 2度審理 さ
4条 に求めたのに対 し,第 2判決はカ リフォ
第1
9
71年 8月3
0日 にまず 最初 の 判決が出た
れ, 1
ルニア州憲法のそれに該 当す る規定 に求 めた こ
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。 次 いで1
9
76
年1
2
月30日に 2度 目の判
と,また第 1判決はただ達意判決を下 したのみ
であったのに対 し,第 2判決は違憲判決を下 し
決が出た (
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た上 に,さ らにある救済措置を命令 した ことが
京都大学医療技術短期大学部教養科
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4
年 7月2
7日受付,同年 8月 7日受理
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9-
京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1
9
8
4
異なる点である。本稿 は,主 にセラノ第 1判決
か くて両基準 の適用 は,州 当局 がその措置の合
について検討 し,第 2判決 については最後 に若
理性だけを立証すればよい合理性 テス ト(
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干触れ るにとどめたい。
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)に比べ ると,州 にはるかに困難
セラノ裁判 において教育の機会均等 の原則を
な課題を負わせ ることか ら,通常,原告が勝訴
脅かす経済的差別 とは何か といえば, 子 どもの
す る。換言すれ ば,判断基準 の未確定 な経済的
スクール ・ディス トリク ト
受 ける教育の質 が 学
差別 の疑 いのある教育機会 の問題 にこれ らの基
区 の有す る財産課税評
価額の大小 によって左右 され るということであ
ウ
エ
ルス
る。判決ではこの財産課税評価額 の大小を資産
準を用 いた ことは, この問題 が人種的差別 と同
といっている。 そ して判決は,学区の資産の多
宣言 したような ものである。か くてセ ラノ判決
少 により教育費収入 の不平等 を生みだすカ リフ
は, 1つの試金石 を投 じた ことになるが,それ
ォ
じような強い程度で違憲判決 とな りうることを
だけに後 に述べ るよ うに種 々の問題点が指摘 さ
ルニア州公立学校財政制度 に違憲判決を下 し
れている。
たのである。 つま り判決は,教育の場 における
セ ラノ訴訟の契機 は,原告 とな ったメキシコ
経済的差別 we
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on を問題 に し
たのである。
系 アメ リカ人 JohnSe
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anoが,息子 An亡
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が通学す る東部 ロスア ンゼルス,ボール ドウィ
ところでアメ リカ合衆国 における教育の機会
均等 に関す る判例 は, これまで人種的差別 に関
ンパ ーク学区の学校長 に優秀 な Ant
hony を転
連 した判例が圧倒的 に多 く,経済的差別 に関す
校 させ るよ うにすすめ られ,その勧めに従 って
る判例 は極めて少ない。 したが って依 るべ き先
Se
r
r
ano は家族 を中流階層 の白人が多 く住む郊
例が少ないこのよ うな訴訟 に対 してカ リフォル
外へ居を移 した ことを公益法 に関す るある組織
ニア州最高裁判所 がどのよ うな判断基準 により
の指導者
なが ら判決を下 したのか,興味深 く注 目され る
l
lはカ リフォル
るといわれている。 そ して Be
Dar
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lに語 った ことにあ
ところである。実際,同裁判所 が以下 に述べ る
ニア大学 ロスア ンゼルス 校法学部教授 Har
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ような判断基準を適用 した ことは目新 しく独創
Ho
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zにこの件 を話 し,以後,彼等を中心 に
的なこととされつつ も,その通用 については判
して公立学校財政制度 に対す る訴訟を提訴す る
決の論 旨その ものが否定 されかねない基本的な
ことが画策 された とい う。提訴以前に Se
r
r
ano
問題 も提起 されている。
の息子 Ant
hony は,問題 とな った学区か らす
でに転校 していた。 か くて同事件 は, Se
r
r
ano
結論的にいえば,セ ラノ判決は,人種的差別
の問題などに しば しば適用 され る 「
差別 の疑 い
自身が語 った といわれ るよ うに 「
法律家 による
のある分類」(
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on)の基準 と,
訴訟」(
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)であ り,同訴訟を推進 し
言論の自由,信教 の自由など憲法 に定めを もち,
たのは JohnSe
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anoの問題ではな く,改革の
特別の保護を必要 とす る 「
基本的利益」(
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意欲 に燃 え た 法律家の野心 t
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) の基準を併用 している。 この
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sで あった と い わ れ る
両基準を用 いた ことは,極 めて画期的な ことで
のである1
)
。 セ ラノの裁判 が, 教 育 費 支 出 の
ある。 とい うのは, これ らの基準が適用 され る
不平等を直接, 問題 に しな い で, わざわざ資
と,州 当局 は裁判所 による 「
厳重審査 テス ト」
産の多少 に原因を もつ 経済的差別 we
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にはその区別 di
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on,あるいは分類 c
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的結果を生 みだそ うとした」法律家の意図であ
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on が 「強い公共利益」 (
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った と理解 され るのである2
)
。 そ して判決 白身
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)を有す ること,およびそれ らの区別が
もまた,原告 の弁護士であ った John Coons
,
州 当局の目的を促進す るためにぜひ とも必要で
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kyの主張,
あることを立証 しなければな らないか らである。
すなわ ち, i.現在 の財政制度の硬直性 ゆえに
- 70 -
白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等
第 2は地方財産税の税率 に関す るもので, こ
司法的干渉 は不可避であ る, 2.資産 による分
類 は,憲法上 の原則 に照 らして差別 の疑 いがあ
のよ うな財政制度 の下では原告 は他 の学区で提
る, 3.教育 は特別 な保護を受 けるに 価 す る
供 されている教育の機会 と少 な くとも同等 ,あ
「
基本的利益」である, 4.教育の地 方 統 制
るいはそれよ り劣 らざるをえない教育の機会 を
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ntを強調 す る州 の利益は,財政
提供す ることにな るが,それにもかかわ らず税
的中立に基づ く制度 によ って子 どもの権利を侵
率 は, 他 の学区 と比べて 高 くなって い る と い
す ことな く満足 され うる, とい う主張をほぼ受
4
条, カ リ
う。 第 3に原告 は合衆国憲法修正第 1
け入れた形 とな った3)0
フォルニア州 憲法 に照 らして,現在 の公立学校
本稿は,以下 に,セ ラノ裁判 が経済的差別 の
財政制度の有効性 と合憲性 について相 当の争訟
判断基準 と して適用 した前述 の 2つの基準を中
が当事者 の間に生 じている, と申立てたのであ
心 に して同判決の内容を検討す る。
る。
以上 の訴訟事 由にもとづ き,原告 は以下の裁
訴訟事由 と判決
定 を訴願 した。第 1に現在 の財政制度 に対 して
セラノ対プ リース ト事件 は,JohnSe
r
r
anoら
達意判決を下す こと,第 2に財政制度の無効性
原告が以下 に述べ ることを理由 として,カ リフ
を救済す るため教育資金 の再配分を行 うよ うに
ォルニア州財務長官 Bake
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t ら州 当局を
被告 に命令を出す こと,第 3に控訴裁判所 は本
被告 として,始 めはカ リフォルニア州控訴裁判
訴訟 の管轄権 を保有 し,被告 な らびに州議会 が
所 (
同州 の場合, Supe
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rCour
t
)に提訴 した
ある合理的な時間内にこれ らの裁定 に従わなか
が,敗訴 したため,カ リフォルニア州最高裁判
った場合 には控訴裁判所 は,財政制度再編 の裁
所 に上告 した事件 である。同最高裁判所 は, こ
定をす ること,である。以上の申立てはいずれ
の事件 につ いて1
971
年 8月30日,および第 1判
も第 1審で認 め られなか ったため,原告 が上告
9
76年 1
2月3
0日の 2度
決の被告の上告 に基づ き1
した ものである。
本件 を受理,審査 したカ リフォルニア州最高
にわたって判決を下 した ことはすでに述べた と
おりである。
裁判所 は,まず予審 として問題 とな った公立学
第 1判決で原告 が提訴 した訴訟事 由は,第 1
にカ リフォルニア州 の公 立初等 中等学校を運営,
校財政制度の実態を検討 した。以下 にその問題
について簡単 にみておこう4)。
維持す るための財政制度 は違憲ではないか, と
判決が指摘 した学区の自己財源である地方財
いうものであ る。すなわ ち,原告の子 どもたち
産税 の不均等,およびそれに原因を もつ教育費
が通学す るロスア ンゼルス ・カウンティの公立
収入 ,支 出の学区間不均等を本事件 の発生地 で
ローカル ・プ ロパ ーティ ・タックス
学校財政 は 地 方 財 産 税 に依存 しており,
あるロスア ンゼルス ・カウンティの関係す る 3
この財産税を主な財源 とす る財政力,すなわ ち
つの学区 (いずれ も初等 中等統 一 学区) で比
学区の資産の相違 により生ず る生徒 1人 あた り
統計数
較 してみ ると,第 1表の とお りである (
教育費収入が学区間でかな り差があ り,その結
字 は,1
968-6
9年度,出典 は判決文 による)。
ユ ニ プアイ ド ・スクールディス トリク ト
果そのような (
不利な) 学区に住む原告の子 ど
表の(
1
)
欄 は,地方学区の実際の課税評価額,
もたちに提供 され る教育機会 の質 と程度が,他
財政力 ,すなわち本判決でい う資産を表わすが,
の多 くの学区に住 む子 ど もに提供 され るそれに
富裕 な学区 ビバ リー ヒルズ と原告 Se
r
r
anoが住
比べて著 しく劣 った もの にな っていること,か
んでいたボール ドウインパ ーク学区 とは資産 に
くて現在 の公立学校財政制度は合衆国憲法修正
おいていかに大 きな差があるかがわか る。表 の
4
条な らびにカ リフォルニア州憲法で定め る
第1
(
2
)
欄 は,法定税率 1% によって学区が得 る教育
法 の平等保護条項 の要件 を充 していない, とい
費収入であ る。その比率 は(
1
)
欄 よりもさらにひ
うものである。
ろが る。 このため貧困な学区は教育費収入を増
- 71-
京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1
9
8
4
第
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-、
、事 項
学 区
ミ(
1
)
地方財産税評価額
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パ サ デ ィ ナ
ビバ リーヒルズ
1表 生徒 1人あたり学区資産の比較
比率
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3
,
7
0
6
ドル
I
(
2
)
法定税率 Ⅰ%による教 (
3
)
実際の
課税率
育費収入
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1
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ル F 1
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1
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(
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)
教育費実支出額
mm
5
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4
9ドル
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9ドル
%11,23
12
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4
5
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.
1
やすため,t
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i
de といって住民 の投票 に
に原因を もつ教育費収入の学区問不均等 に重大
より法定税率を上廻 る税率で課税せ ざるをえな
な制度的欠 陥を認 めたのである。
い。 ところが富裕な学区 も t
ax ove
r
r
i
de をす
以上の予審的な事柄を述べた後,判決 は本論
るので両者 の差 は縮少 しない。表の(3)欄 は,実
に入 り,結論 として学区の資産の相違 にもとづ
際の課税率を示 して いる。表の(
4)
欄 は,実際の
く教育機会 の経済的差別 we
al
t
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s
c
r
i
mi
nat
i
on
教育費支 出額を示 している。資産の差,法定税
は 「差別 の疑 いのある分類」 にな ること,教育
率 による収入の差 に比べ ると,その差 は大幅 に
は 「
基本的利益」であること,現在 の公立学校
縮少 している。それ は学区によ り実際の課税率
財政制度 は 「強い公共利益」 の遂行 にぜ ひ とも
が違 うこと,あ るいはた とえ富裕な学区 に して
必要 な ものではないと論 じ,学区 と住民 の資産
も無制限 に教育費支 出をす るわけではないこと
に基づ いて教育の機会 の差別を助長 しているカ
にもよるが,やは り州 の補助金 に負 うところが
リフォルニア州公 立学校財政制度を法の平等保
大 きい。ただ判決は,学区間の資産の差 に基づ
4条違反である
護 を規定 した合衆国憲法修正第 1
く教育費収入の格差 を是正すべ き州 の補助金が
と裁定 し,第 1審判決を破棄 し,本件を第 1審
その補助方式 ゆえに富裕学区を優遇 し,貧 困学
控訴裁判所 に差 し戻 したのであ った。なお判決
区 との均等化効果をそれほどあげていないと指
は,同上制度をカ リフォルニア州憲法の該 当規
摘す る。すなわ ち,カ リフォルニア州 の公立初
定 に違反す るとは直接 いっていないが,判 決文
フア ウ ンデ ー シヨ ン ・
等 中等学校教育 に対す る補助金 は,標準教育費
の多 くの箇所でその趣 旨の ことを述べている。
プ ログ ラム
計画 とよばれ,州内のすべての生徒 に一定の教
「
差別の疑いのある分類」 としての
育費を確保す る制度を とっている (
た とえば,
資産
1
9
6
8-6
9年度 においては初等学校生徒 1人 あた
5
5ドル, 中等教育 の 生徒 1人 あた り 4
8
8ド
り3
セラノ判決 は,まず第 1に 「差別の疑 いのあ
ル)。 そ してその補助方式 は,貧富にかかわ ら
る分類」 の基準を用 いて資産の多少 に左右 され
ず全学区に一律 に補助金を与え る基本補助 ba-
る現行 の財政制度 に対 して違憲判決を下 してい
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eai
d (
同年度 において生徒 1人 あた り
るが,その ことは判決文のい くつかの箇所で表
1
2
5ドル)と学区の資産 に逆比例 して配分す る均
明されている。た とえば,判決文 の冒頭の全体
qua
l
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i
onai
d とか ら成 るが,判決
等化補助 e
l
i
van 裁判官は,次 のよ うに述
意見 として Sul
フ ラツ ト ・グ ラ ン ト
は前者の一律補助金た る基本補助を特 に上で述
べている。「当法廷 は,《カ リフォルニア州 の公
べたような点か ら問題視す るのである。 しか も
立学校)財政計画 は貧困な者を差別 していると
標準教育費 自体 ,実支 出額をかな り下廻 り,蛋
い うこと, というのは,それは子 どもの教育の
低必要額 さえ充 た して いない。か くて判決は,
質 を両親 と近隣の資産 の函数 に しているか らで
現在の 「
州補助金を もって しては,地方財産税
あ ると認めた。
」
に基づ く財政制度 に固有 な不平等を相殺す るに
い うまで もな く裁判 は,原告 の主張 と被告 の
は不適切である」 と述べ,学区の資産の不均等
弁論 とを軸 と して展開 され るわけであるが,請
-7
2-
白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等
点を明確 にす るため こ こで被告 の主 な弁論 を紹
生徒 1人 あた り学区の財産税課税評価額 と住民
介す る。被告 は,公立学校財政制度 が学区の資
の資産 との間 に相 関があるとい う原告 の主 張を
産を もとに して貧 困な者 を差別 しているとい う
事実 と して認 め, 「
学区の資産を基礎 とす る分
原告 の主張 に反論 す る。被告 の主 な反論 は,罪
類 も,(住民 ・個人の資産を もとに した分類 と),
1に州 当局 は州補助金 によ る基本補助 によって
同 じよ うに無効 であると考え る」, そ して学 区
全生徒 に一律 に,均等 化補助 によって貧困な学
の課税基盤 をなす商工業資産 は州 内に不均等 に
区 によ り多 く,補助金 を交付 している,第 2に
散 らばっているのであ り, 「そ う した資産 が偶
原告 が問題 とす る経済 的差別 の指標 た る生徒 1
然そ こに存在す るとい う理 由だけで,あ る学区
人 あた り財産税課税評価額 および生徒 1人 あた
の子 どもに他 の学区の子 どもよ り多 くの教育費
り教育費支 出は,学区や住民 の資産 に関す る信
を割 当て ることは,子 どもの教育 の質 を私的な
頼 に足 る指標 ではな く,財産税 の総評価額であ
商工業施設 の有無 に依存 させ るもの」 であ り,
るべ きこと,また生徒 1人 あた りの支 出額 は学
そのよ うな ことは 「
教育財政 の基盤 と して は最
区の税率 によって も決定 されているので学区の
も不適切 であ り」, か くて 「学区の資産 に基づ
資産を実際 には反映 していない,第 3に学区の
く差別 は無効 であ る」 とい う。第 4の教育費支
資産 はそのまま直 ちに家庭 の資産 とはな らない,
出 と教育 の質 との関係 につ いては判決 は, ホブ
第 4に教育費支 出の相 違 は教育 の質 に影響を与
Hobs
onv.Hans
e
n,269
ソ ン対- ンセ ン事件 (
え るもので はない,第 5によ しん ば学校財政制
,マ クニス対 シャピロ事件
F.Supp.4
01
,1
96
7
)
度 が資産 によ って分類 されていた と して も,そ
(
Mc
l
nni
sv.Shapi
r
(
)
,2
93F.Suロp.327,1
969)
def
ac
t
oc
l
as
s
i
ic
f
aれは 「
事実 と しての分類 」 (
な どの判例を引用 し,そ こでの肯定的見解 を援
,「法律上の分類」(dejurecla-
t
i
on)であ って
用す る。第 5の反論は,アメ リカ合衆国の判例
s
s
i
ic
f
a
t
i
on)で はない,原告 も法律等 による意図
a
c
t
o,dej
ur
eの問
史上 において論争 の多 い def
的な差別待遇 の異議 を 申立てているわけではな
題であ る。判決 は, 「合衆国最高裁判所 および
く, したが って憲法上 の問題 に抵触 して いない,
当法廷 が これまで資産 による分類を無効 と して
とい うものであ る。
pos
e
f
uldi
s
c
r
i
i nat
m
i
on
判決 は,意図的差別 pur
以上の被告 の弁論 に対 して判決 は結果 と して
の事件 ではな く,貧困な者 にその影響 が重 くの
原告 の主張を ほぼ認 め る立場 に立 ったので,当
nt
e
nt
i
ona
lc
l
as
s
i
if
しかか る意図せ ざる分類 uni
然 の ことなが ら被告 の弁論 に反論す る形で見解
c
a
t
i
onを含んで いる」 と述べ,ダ リフィン対 イ
を示 した。まず被告 の第 1の抗弁 に関 して,判
Gr
i
f
inv.I
f
l
l
i
noi
s
,351U.S.12,
リノイ事件 (
約半分)
決 は州 の補助金 は学校財政の 1部分 (
1
956)その他 の判例を引用 した。 そ して判 決 は,
にす ぎない こと,またすでに述べたよ うに州補
ac
t
os
e
gr
e
ga
t
i
on
合衆国最高裁判所 はまだ def
助金 の欠陥を指摘 す る。 第 2の反論 につ いては
の違憲性 につ いては判断を下 して いないが,カ
判決は必ず しも要領をえず,ただ 「現在 の文脈
リフォルニア州最高裁判所 はジャクソン対パ サ
における学区の資産の唯一 の意味あ る測定値 は
Jac
ks
o
nv.Pas
ade
naCi
t
ySc
hool
デ ィナ事件 (
財産税 に関す る絶対額ではな くて,生徒 1人 あ
I
)
ソ
ーセス
た り資源の割合で ある, とい うのは学区が生徒
Di
s
t
r
i
c
t
,5
9 Cal
.2
d 87
6,881,31Ca
l
.Rpt
r
.
6
06,3
82P.2d878,1
963)
,サ ンフ ランシス コ
を教育す るためにどれ ほど貢献 したかを決定す
統一学区対 ジ ョンソン事 件
るのは後者 の数字 だか らである」とい う説 明に
on,3Cal
.3d
Uni
ie
f
d Sc
hoo
lDi
s
t
r
i
c
tv.Johns
とどめている。 また 税率の 問題 につ いては,
937,92Cal
.Rpt
r
.3
09,47
9P.2d66
9,1
971)
「
貧 困な学区が富裕 な学 区の教育機会 の提供 に
でそのよ うな意図せざる人種的隔離 も無効 であ
(
Sam Fr
anc
i
s
c
o
十分 に見合 うほど高率課税 をす ることは不可能
ると裁定 した こと,さ らに学区の境界 を定 め,
であ る」 と指摘す る。第 3に関 しては判決 は,
それ によ って学区の資産 の多少 を決定 した州 当
-7
3-
京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1
9
8
4
局 の行為 が意図せ ざる結果では決 してないこと
報告書 によれば,カ リフォルニア州では黒人 な
を指摘 した。
どマイノ リティの人 口の半分以上の者 は,生徒
以上が 「
差別 の疑 いのある分類」 の基準を用
いたセラノ判決 の主な論拠である。教育 に対す
1人 あた り課税評価額,すなわ ち資産 において
平均を超え る学区に住んでいるという7)。
した
る経済的差別 の問題を直接の訴訟事由 とした裁
が って 「
公立学校財政制度 は,貧困な者一般 を
判 は,恐 らくセ ラノ裁 判が初めてであ る。 しか
差別 しているというよりは,そのある部分 を差
も「
差別 の疑 いのある分類」を適用す るために,
別 している8)」ということになる。
わざわざ資産 という概念を もちだ した。 したが
第 3の問題 は,やはり被告 が主張 したよ うに
ってその試みが評価 され る一方 で,判決の論 旨
学校教育費支 出の相違 と教育の質 との関係 であ
自体の問題点 も少 なか らず指摘 されている。以
る。すで に述べたように,判決は他 の判例を援
下 にそれ らの主 な問題点を述べてみ る。現在 ま
用 して両者 の相関関係を肯定 し,問題 の深刻 さ
でに 「
差別 の疑 いのあ る分類」 と して確定 され
を強調 したが, これまで多 くの調査や研究 にも
i
onal
ているのは人種, 宗教 , 国民的出自 nat
かかわ らず,それについて肯定的な結論 はまだ
or
i
gi
nなどであ るが,それ らに比べ ると資産は
出ていない。た とえば,教育費支 出の多 くを占
不利益な状態を特定 し難 い。そ こで判決の論 旨
めるのは教員給与費であるが, 「
教員給与費 の
に関連す る問題点 の第 1は,資産の相違 に基づ
相違 は教授 の質の函数 というよ りは,勤務年数
く不利益な状態 がどのような ものであれば,差
および学位 の函数であることが しば しばである。
別 の疑 いのある状態で あると明白にいえ るのか
さ らに学区間の給与表の相違 は,賃金表や教員
e
phe
n R.Gol
ds
t
e
i
n に
ということである。 St
組合 の団体交渉力の違 いか もしれない9)」 ので
,
相対的不利益」
よれば, この不利益な状態 は 「
ある。判決が援用 した判例,た とえばマ クニス
(
r
e
l
at
i
vedi
s
advant
age)と「
絶対的剥奪」(
abs
ol
ut
e
0
0
0ドルの教
対 シャピロ事件 に して も 「
恐 らく1
de
pr
i
vat
i
on)とに分 けて考え ることがで きる5'。
育を受 ける子 どもは,6
0
0ドルの学校教育 を 受
セ ラノ判決 は前者 の考 え方を とったのであ り,
ける子 どもよりは,一層良 い教育を受 けている
セ ラノ第 1判決の後 に出て資産 に基づ く教育機
といえ るだろ う」 と蓋然的な こと しかい ってい
会不平等 の同 じよ うな訴訟を破棄 した ロ ドリゲ
ない。 この問題 は一般論 として論ず るには難 し
Sam Ant
oni
o SchoolDi
s
t
r
i
c
tv.Rodス判決 (
く,個 々の事例 に応 じて判断す るよ り仕方がな
r
i
gue
z
,411U.S.1
973)は,後者の考え方を と
いのか もしれない。
ったのである。 いうまで もな く we
al
t
h di
s
c
r
i
「
基本的利益」 と しての教育
絶対的剥奪」の状態 にあれば,差
mi
nat
i
on が 「
別 の疑 いがあるといえ るであろ うし, 「
相対的
不利益」 の場合 にはその論拠 は弱 くなる。
セ ラノ判決は,次 に 「
基本的利益」 の判断基
準 を用 いるが, これは同 じよ うに原告 の主張を
「
差別 の疑 いのある分類」適用 に関す るセラ
採 り入れた ものである。原告 は,現在 の公立学
ノ判決の論拠の第 2の問題点 は,被告 の弁論 に
校財政制度は資産の多少 に基づ く経済的差別 の
もあったよ うに,学区の資産 と住民の資産 との
疑 いがあ るだけではな く,それはまた 「
基本的
関係である6)。 もともと判決が we
al
t
h di
s
c
r
i
-
利益」たる教育のあ り方 にも抵触 していると主
,
mi
nat
i
on の論拠 に引用 した判例 は個人を対象
経済的差別分類 」 (
we
al
t
h
張す る。すなわ ち 「
に して行 なわれた差別 の問題である。セ ラノ判
c
l
as
s
i
ic
f
at
i
on)と 「基本的利益」とを結合 させ,
決は,いってみれば個人を学区に読み替えて類
それによ り法の平等保護の問題を一層強 い形で
推を行 な っている。 したが って,貧困な学区が
問 うているのである。
貧 困な個人 の集合体で あれば問題がないわけで
判決は,原告側 の見解を参考 に しつつ,教育
あるが,実際 はそ うではない。た とえば,ある
が 「
基本的利益」であることを以下の 3点か ら
-7
4-
白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等
,
プJ
)ザ -バ テ
であ り 「
投票 は市民権 ,政治的権利へ の保 存
論証 しよ うとす る。第 1は個人 および社会 にと
イプ
っての教育 の重要性 ,第 2は合衆 国最高裁判所
薬 であ るがゆえに,基本 的利益 と見な されて き
が経済的差別 問題 に開通 した判決で基本的利益
た」 のであ り,教育 につ いて同 じよ うな ことを
であると裁定 した刑事被 告人 の権利 および投票
カ リフォルニア州憲法第 1節第 4項で定 めて い
の権利 と教育 との比較 ,第 3は政府 の他 の機能
ると指摘す る。同節 は, 「知識 と英知 の広 い普
と教育機能 との比 較であ る。
及 は人 々の権利 と自由の保護 にとって必須な も
第 1の教育 の重要性 についていえば,まず判
のであ るか ら,議会 はあ らゆ る適切 な手段 によ
決 は,教育 が 「基本的利 益」であ るとい うこと
って,知的,科学的,道徳的-・
-改善 の促進 を
につ いて先例 とな る判例 がない ことを認め る。
図 らなければな らない」 と規定 している。
そ こで判決 は教育 が現代 の産業国家で果た して
第 3の政府 の他 の機能 と教育機能 との比較 に
いる役割 を自 ら検 討 し,教育 は個人 の経済的社
つ いては,その比較を通 して判決は,現代 の社
会 的成功- の機会 の主要 な要因であ ること,ま
会 における教育 の際立 って貴重な機能 は教育 を
た教育は子 ど もが市民 と しての発達 を遂げ,政
「
基本的利益」 と して扱 うことを要求 してい る
治 および コ ミュニテ ィの生活- の参加 にユニー
と して,その理 由に以下 の 5点 をあげ る。第 1
クな影響を与 え るとい う見解 を示す。そ して教
に教育 は自由企業 デモクラシーを維持 し,不利
育の基本的重要性 に触 れ た判例 と してブラウン
な環境 に もかかわ らず経済市場 で競争 しうる機
Br
ownv.Boar
dofEduc
a対教育委員会事件 (
会 を個人 に保障す るとい う面で決定的 に重要 な
ものであ る,第 2に教育 は消防,警察 ,福祉 な
t
i
on,34
7U.S.483,1
95
4)を引用す る。
第 2の諸権利 と教育 との比較 につ いては,判
どの公共 サー ビスに比べ ると,個人 の生活,個
決 は, 「教育 の権 利を合 衆国最高裁判所 が資産
人 がそ こか ら利益を得 るとい う点ではよ り一層
に もとづ く差別 か ら保護 した 2つの 『基本的利
0年 か ら1
3
広 く普遍 的であ る,第 3に公教育 は1
益』, すなわ ち, 刑事事件 における被告人 の権
年 にわた る人生 の長い期間 にわた って継続的 に
利 および投票す る権利 と重要性 において比較 す
イ
ルミ
ネ
ーテイン
グ
ることは啓発 的な ことで あ る」 と述べ る。続 け
行 なわれ ること,他 のいかな る政府 のサー ビス
もその受取人 との間にこのよ うな持続 的で深 い
て判決は,教育 と刑事被 告人 の権利 は自由-の
つなが りを もつ ものはない,第 4に教育 はその
権利 とい う点 では共通す るものがあ るが,教育
程度 において他 の公共 サー ビスに比べ るものが
は,刑事被告人 の無料で訴訟手続 の公的謄本 の
ないほど青少年 の人格形成 に関与 して いる,罪
写 しを得 る権 利や無料 で裁判所指 名の弁護人 に
5に教育が重要 であるがゆえに州 は教育を義務
よる弁護 を得 る権 利 よ りは,はるかに大 きな社
制 と している,である。
会 的意義を もつ ものだ と してその説 明に Coons
教育 が 「基本的権利」であることの以上の判
た ちの文章を引用す る。 Coons た ちはい う,
決の論理 に問題点 があるとすれ ば,それほどの
「教育 は刑法 の場合 よ りもはるか に多数 の人間
。まず第 1の教育 の重
よ うな ものであろ うか11)
に直接,影響を与 え るだ けではない。・
--教育
要性 につ いていえ ば,判決 は教育が個人 の経済
は,犯罪の率 を減少 させ るだ けではな く (その
的社会的成功へ の機会 の重要 な要因であること
反比例の関係 は強 い), 民主的社会 のあ らゆ る
を指摘 す るが,そのことを示す社会科学的なデ
価値,少 し例 をあげれば,参加 , コ ミュニケー
ータの引用 はない。また本訴訟の提訴事 由であ
シ ョン,社会移動 とい った ものを支 え るもので
る教育 の場 における経済的差別 が,す なわ ち具
あ る」 と10)。 また教育 と投票権 との間 にはさ ら
体的 には資産の差 に基づ く教育費支 出の違 いが
ア ナロジー
に一層,直接的な類似 が あるとい う。なぜ な ら
経済 的社会的成功-の機会 にどのよ うな関連 を
「この両者 は,デモ クラシーの参加 ,デモ クラ
もつか,本判 決の核心 ともい うべ きこの主題 に
シーの機能 に とって決定 的 に重要 であ る」か ら
つ いての言及 もな く,それ につ いてのデータの
-
7 5
-
京都大学医療技術短期大学部紀要 第 4号 1
9
8
4
引用 もない。市民性 の育成 について も同 じこと
の論理 は上のよ うな問題点を含む ところか ら,
がいえ る。第 2の他 の諸権利 と教育 との類似比
「セラノ判決の教育の 『
基本的利益』 に関す る
較 についてはど うで あろ うか。まず刑事被告人
分析 は,論理的 にも,また合衆国最高裁判所が
の権利 についていえ ば,それは被告人ゆえに自
扱 う問題 の権限 とい う面か らみて も 疑 問 が あ
由を制限 しよ うとす る州 の措置に対 して被告人
4
)
」と批判 され るのである。
る1
を保護す る必要 か ら生 まれた ものである。 した
判決 は,子 どもの教育の質を親や近隣の資産
が ってその性格か ら してその権利 は,教育の権
の函数 に しているカ リフォルニア州学校財政制
利のよ うに絶えず政府 のサービスの改善,向上
度 は,明 らかに教育の 「
基本的利益」 に抵触す
f
ir
f
ma
t
i
ver
ig
ht
s とは
をもとめ る積極的権利 a
るとい う。 そ して 「
差別 の疑わ しき 分 類」 と
異なる。 次 に投票権 は,州 によって保障 された
「
基本的利益」 の基準を用 いた 「
厳重審査 テス
a
f
ir
f
ma
t
i
ver
i
ghtであ り,それは究極的には民
ト」の最後の段階である 「強い公共利益」 の検
主的社会 において教育まで も含む政治的権利で
討 に移 る。 そ こで判決は,被告 の主張す る地方
ある。公教育 は政治的接近 に関連を もつが,そ
の教育統制,教育責任 という公共利益 は,た と
れ自体 は 「デモ クラシーにとって本質的な もの
えば貧困な学区にとっては幻想 にすぎないなど
ではない12)」。 また以上のよ うな刑事被告人 の
とい う観点か ら疑問を投げかけ,同財政制度 は
訴訟手続 の保障 と投 票権 につ いては合衆国憲法
「強い公共利益」の達成 にはぜひ とも必要な も
に定めがあるのに対 して,同憲法 は教育 につい
のではないこと,以上 これまで述べて きた こと
てなん ら触 れてはいない。連邦 の裁判所 による
か ら同制度 は 「
厳重審査 テス ト」 に耐え ること
判例は,合衆国憲法 に規定があるかないかで,
がで きないと論 じ,それゆえにそれは原告 な ら
ある権利 が 「
基本的利益」 にな るか,な らない
びに同様 な状況 にある者 に対 して法の平等保護
かの 1つの大 きな判 断基準 として きた。
を拒否す るものだ と結論づけたのであった。
第 3の政府 の他 の機能 と教育 との比較 につい
てはどうであろ うか。 この場合 にも指摘 された
「
財政中立の原則」
教育の特徴を教育費支 出の相違 に関連づ けた論
セラノ判決の意義は,判断基準が未確定 な教
及 はない。それを別 にすれば,まず 1か ら 3の
育の場 における経済的差別 の問題 にすでに述べ
公共サー ビスの普遍性 と持続性 については教育
たよ うな 2つの判断基準を適用 した ことにある。
サービスだけがそれ らを独 占 しているわけでは
それを方法論上の意義 とすれば,同判決は内容
な く,警察,消防 もまた然 りである。第 4の青
的な意義を も有 しているといえ る。それは判決
少年の人格形成 につ いて も教育はその役割を量
が 「
子 どもの教育 の質を親や近隣の資産の函数
的質的にも独 占 して いるとはいえない。第 5の
に してはな らない」 と述べているように, 「
財
教育の義務制 につ いては,教育の重要性 という
政中立の原則」を唱えていることである。 以下
こともきりなが ら,む しろ親の経済的,さ らに
にこの原則 について若干述べておきたい。
いえば親の知的な能力 の問題が義務制の根底 に
「
財政 中立の原則」 とは, この原則を提唱 し
,
ある。また私学の存在 が認め られているよ うに
公教
た Coonsなど原告側の法律家 によれば 「
公教育-の就学 は決 して強制 されていないので
育 の質 は,州全体 の資産の函数であるべ きであ
ある。
って,ある 1つの資産だけの函数であ ってはな
「
教育 の重要性 につ いては誰 も否定で きない
」とい うものである。子 どもの教育の
らない15'
し,また社会 は教育 の配分 について注意深 く見
質 が,すなわ ち具体的には教育費支 出水準が学
守 らなければな らない とい う判決の結論を誰 も
区の資産状況 に対 して中立的であるべ きこと,
退 けることはで きない13)」ことはい うまで もな
この ことが この原則のいわん とす るところであ
い。 しか しなが ら,教育の重要性 に関す る判決
るが, この原則 は 「あ ってはな らない」 と否定
-7
6-
白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等
,
形 で述べてあ り 「どうあるべ きか」とい う形で
owi
t
z
,Ki
r
p,W i
s
e らは裁判所 を して改
て Hor
は表現 されていない。 ここにこの原則 の もう 1
革のための積極的な原則を述べ させ よ うと して
つの狙 いがあるのであ る。 この原則を理論化 し
結果 の平等,教育需要の充足 を 目的 とし,その
,
た Coonsによれば 「セ ラノ判決が何をいって
いないかを強調す ることが大事な ことである」
。
,
限 りにおいて地方学区の白律性 の制限 は止むを
えないとい う立場であった2
0
)
。 セラノ裁判 は,
判決がいっているのは,
現在 の制度
すなわち 「
第 1判決は前者 の見解,第 2判決 は後者 の見解
が違憲であるとい うことであ って,ボールはま
を とった といえる。
,
」。つま り 「
財政 中
さに議会の手 の中にある16'
セ ラノ第 1判決が 「財政中立 の原則」 に基づ
立 の原則」 の もう 1つの 目的は,Coons によれ
き特定 の選択を提案 しなか った ことは,違憲判
ば,救済の担 い手 と しての裁判所 の役割を限定
決を下 された財政制度を具体的 にどのよ うに改
し,制度改革 の担 い手 はあ くまで議会であるこ
善すべ きかについて多分 に酸味 さや不安を残す
とを暗 に示す にある。 この ことは,以下 のよ う
ことにな った。酸味 さ,不明確 とい うことにつ
にもいえ る。「否定形で述べ ることによって裁
いていえば,まずセラノ判決で救済 さるべ きは
判所 は,現在 の制度 に特定の選択を提案す るこ
子 どもなのか,納税者なのか とい う疑問があ る。
とな く違憲判決がで きる」 と17)0
Ki
r
pなどは,Coonsたちの仕事 は,貧 困な子 ど
判決が特定 の選択を提 案 しなか った ことは,
もの教育の機会を平等 にす ることを犠牲 に して,
タツクス .エフオ ト
た とえば,資産の多少 に基づ く学区問の教育費
課税努力を平等 にすることを強調 していると批
収入,支 出の違 い,そ してその相 関関係 を問題
'
。 このよ うな批判 に対 して Coonsは,
判す る21
に しなが らも,判決は教 育費支 出の平等 を求め
セラノ判決は決 して貧困な子 ど もだけを救 お う
なか った ことにみ ることがで きる。「当法廷 は,
としたのではない,む しろ財産 とい う資産 と教
《憲法の規定 が), 等 しい教育費支 出を求め る
育費支 出 との間の憲法上擁護で きない関係 を攻
もの とは解釈 しない」 のである。 もっとも判決
撃 したのであると語 っている22'。 判決の裁定 の
は,支出の平等ではな く,資産 (
収入) の平等
酸味 さ,不明確 についてはさ らに教育費支 出に
を暗 に提唱 していたのであ り,それが判決の論
関す る地方学区の決定権 を認 めるのか,それ と
, という指摘 もある。判
理的な読み方である18'
も州 当局 の権限を強める集権化 の方向を取 るべ
決 はまた学区の教育費支 出の選択 も否定 してい
きなのか という問題,あるいは判決でい う学区
ない。セラノ判決がなぜ教育費支 出の平等 を強
の資産 イコール教育費支 出 とい う想定 は,他 の
制 しなか ったのか,あるいは強制 しよ うとしな
行政サービス と強い競合関係 にあ り, しか も経
か ったのか,その理由は裁判所 の役割 の限定づ
費 のかさむ教育需要に悩 まされている大都市 の
げということもあろ うが,さ らに 「司法 の介入
教育サー ビスの場合には適切 な指標 とはな らな
を強 く求める平等主義者 さえ,アメ リカ人 の公
い問題をどうす るのか,などとい うことがある。
バプ リ
ツク ・コンシヤスネス
衆
識 の中に根 強 く存在す る地方学区は教
不安 につ いていえば,議会 が特 に裁判所 による
育 により多 くの経費を支 出 しよ うとす る選択を
意
命令 もな く,何事 もな しうるとなれば, この経
もつべ きであるとい う考えに抗す ることがで き
済的に困窮の時 にあって教育 にとって憂 うべ き
ない19)」とい うこともあろう。
事態,た とえば中央集権化,教育費支 出の下降
裁判所 の役割,地方学 区の自律性 の問題 につ
平準化,中産階級子弟の公立学校か らの脱 出な
いては原告 の弁護士,法律家の間で も見解 が分
どを招 くのではないか とい う懸念 がはや くもセ
れ
,「財政中立の原則」 を推す
Coons
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,
,セラノ
ラノ第 1判決の当時,表明 されたが23)
Suga
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man らは,裁判所 を して否定的,あるい
第 2判決後のカ リフォルニア州 の公立学校財政
は中立的な原則を述べ させ るに止 めよ うとし,
制度改革 の動 きは,少 くとも前 の 2つの事態 の
また地方学区の自律性を支持 した。 これに対 し
予想通 りの もの となった。
- 7
7-
京都大学医療技術短期大学部紀要
第
第 4号
1
9
8
4
局 は この ロ ドリゲス判決を盾 に とり,セ ラノ第
1判決か ら第 2判決へ
1判決が拠 りどころ と した合衆 国憲法修正第 1
4
カ リフォルニア州最 高裁判所 は,第 1判決 に
秦 ,そ して合衆国最高裁判所 の判例 を引用 して
もとづ き本件 を第 1審控訴裁判所 であ る Supe
厳
の 「
差別 の疑 わ しき分類」 「基本 的利益」 「
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tに差 し戻 した。同控訴裁判所 は第 1
重審査 テス ト」 の適用 は もはや意味をな さぬ と
判決後の議会 の対応を検討 した上で1
974年 9月
主張 した。 この反論 に対 して第 1審裁判所 は合
3日判決を下 し,カ リフォルニア州公立学校財
4条 の適用 は とり止 めたが,カ
衆国憲法修正第 1
政制度 は法 の平等保護 を定 めた同州憲法 に達反
0な
リフォルニア州公立学校財政制度 は SB9
,
,
す るものであ り,無効 であ るとの裁定 を した。
どによる改革 に もかかわ らず,なお資産の多少
この下級審での裁定を不服 と して被告である州
に基づ く学区間の教育費支 出の不平等 は相変 ら
当局が上告 したため, カ リフォルニア州最高裁
ず存在 して いることを認 め,同制度 はやは り法
976年 1
2月30日,同裁判所
判所 が再度審理 し,1
の平等保護を規定 したカ リフォルニア州憲法第
が再 び同制度 に達意判 決を下 し,それによ って
1節第 1
1項 および第21
項 (
現在 は第 1
6章第 4節,
本件 は結審 した。 これがセ ラノ第 2判決であ る。
第 7葦第 1節) に違反 してお り無効 であ ると裁
第 1判決の後 ,第 2判決が出 され るまで本訴
定 した。すでに述べたよ うにカ リフォルニア州
訟 に関連 を もつ大 きな変化があ った。 1つは,
最高裁判所 もこの裁定 を支持 したのであ った。
州議会 が第 1判決の裁定 に応 じるため,い くつ
ロ ドリゲス判決の影響 によ り法 の平等保護 の憲
かの法案を通過 させ ,財政制度の部分的改革を
法上 の根拠をカ リフォルニア州憲法 だ けに変 え
図 った ことであ る。法案 と して最 も基本的な も
た ことが注 目され る。 セ ラノ第 2判決で もう 1
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0と
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つの注 目すべ き点 は,控訴裁判所 が判決の時点
972年成立)で ある。S39
0 は標準教育
い う,1
974年) か ら 6年間 に学区間 の生徒
(
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9
73-74年度 に
費 をかな り増加 させ (た とえば1
1人 あた り教育費支 出の差異 を 1
00ドル以 内 に
おいて初等学校生徒 1人 あた り費用をそれまで
留 め るよ うに州 当局 に命 じた ことであ る。 同最
5
5ドルか ら765ドル-,中等教育の生徒 につ
の3
高裁判所 もこれを支持 した。 セ ラノ第 1判決で
88ドルか ら950ドル-), あ るいは税率
いては4
は何 も具体策 を示 さなか った最高裁判所 が,罪
を制限す ることによ って学区の教育費 の歳入制
2判決で 1部 とはいえ救済 の措 置を示 したので
限や生徒 1人 あた り教育費 に対 して最大 の支 出
983年 4月 2
8日,
あ る。 なお 控訴裁判所 は, 1
制限を設 けるな ど して学区問 の教育費支 出不平
「判決 に関す る覚書」 をだ し,その中で イ ンフ
等 の縮小 を図 った。 しか しなが ら,標準教育費
00ドル 差異
レー ションによる要素を加 味 して 1
計画の中には富裕 な学区を優遇す ることにな る
3.
2
% の達成率 であ ること,またカ リ
の基準 は9
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基本補助が相変 らず あ り,また t
フォルニア州 の制度 はそれだ け公正 な ものにな
も形 こそ違え存続 した ことによ り,また この間
った と述べた24)。
における高 いイ ンフ レー ションとい う事情 も加
1
97
8年 6月 ,カ リフォル ニア州 は州民 の投票
0 は学区問の教育費支 出の不平等
わ って,SB9
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3)を成立 させ ,
によ って提案1
是正 に大 した効果 を発揮 しなか った。
憲法改正を行 い,それ によ り地方財産税制度 の
9
73年 に ロ ドリゲ
もう 1つの大 きな変化 は,1
根本的な改革を行 な った。制度改革 の骨子 は,
ス判決がでた ことであ る。 この合衆国最高裁判
イ ンフ レー シ ョンか ら同制度 を救済す るにあ っ
所 による判決 は,セ ラノ訴訟 と同 じ内容 を もつ
たが, 地方財産税収入 を大 幅 に削 減す る 改革
訴訟であるに もかかわ らず,棄却判決を下 した
(た とえば,地方財産税収入 は市場評価額 の 1%
のである。 いわ ばセ ラノ第 1判決を真 向 うか ら
に限定 す るな ど) は,当然 の ことなが ら同財産
否定 した形 とな ったのであ る。被告 であ る州 当
税依存 の学区の財政制度 に終わ りを告 げ るもの
-
78 -
白石 裕 :経済的差別と教育の機会均等
とな った。以 後 ,学 区 の教 育費財源 は,連 邦政
新井秀明 :70年代アメ リカにおける公立学校財政
府 か らの補 助金 を除 け ば,専 ら州 政府 の資金 に
制度改革構想の特徴と問題点-セラノ判決 (
1
971
負 うことにな った。 しか しなが ら, この教 育費
年)と関わって-,関西教育行政学会編 「
教育行
支 出の集権 化 は財 政逼 迫 とい う事情 もあ って,
財政研究」第1
0号.
学 区の教育費 を増 す ど ころか,逆 に相 対 的 に低
下 させ て い るので あ る。 上 に示 した控 訴裁 判所
の覚書 の 「公 正」 評価 も,実際 は統 計 が示 す よ
うに下降平準化 で の評価 とい うこ とにな り,そ
の よ うな事態 はセ ラノ訴訟 の当事者 ,特 に原告
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いない。第 1判 決 の時点 で予想 され た憂 うべ き
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事態 が生 じた ことを考慮 すれ ば, セ ラノ判 決 の
意義 も功罪相半 ばす る とい うことにな るのか も
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)以下の問題点の指摘は,St
前掲論文による。p・535-540.
しれな いが,教育 の場 にお け る経 済 的差別 が違
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53
7.
憲 とな りうる こと,教 育 は 「基本 的利益 」とな
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りうることの立論 は,少 くとも州 の裁 判所 で同
様 な問題 が今 後提 訴 され うる可能性 を大 いに開
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(この文献で Uni
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sとあるのは, 恐 らく
間違いで,Coonsの証言はカ リフォルニア州上院
で行なわれたものと思われる。
リフォルニア大学教授 Char
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983.
4)邦文では以下の文献が詳細に実情を説明 している。
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