...

白血病幹細胞のニッチ - 上原記念生命科学財団

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

白血病幹細胞のニッチ - 上原記念生命科学財団
 上原記念生命科学財団研究報告集, 23(2009)
168. 白血病と骨組織の相互作用の解明
-白血病幹細胞のニッチ(居場所)を標的とした新規治療法の開発-
前川 平
Key words:慢性骨髄性白血病,ニッチ,ABL,破骨細
胞,バフェチニブ
京都大学 医学部附属病院 輸血細胞
治療部
緒 言
白血病細胞にもヒエラルキーがあり,いわゆる白血病幹細胞が存在し,多くの場合抗がん剤の効きにくい休止期にとどまり,
耐性・再発の原因となる.もし,白血病幹細胞の居場所(ニッチ;Niche)が明らかとなれば,ニッチを攻撃し白血病幹細胞の
安住の地を根絶する薬剤を見つけられる可能性がある.ニッチを破壊する薬剤と白血病自身を特異的に攻撃する薬剤を併用す
れば,従来の治療法では難治性であった白血病をも完治できるのではないかと考え,これら二つの側面から新たな薬剤の開発
を目指した.
正常造血幹細胞のニッチは骨内膜近傍に存在する骨芽細胞 (osteoblast: OB) によって形成される.OB と破骨細胞
(osteoclast: OC) は密接な相互作用を持つ.われわれは白血病幹細胞のニッチも OB と OC によって形成されるのではないか
と仮説を立てた.OC を破壊することによって,ニッチの破綻を来たす可能性のある薬剤,Reveromycin A (RM-A) の抗白
血病効果について検討した.また,白血病細胞自身に対する新規薬剤として BCR-ABL 陽性慢性骨髄性白血病 (chronic
myeloid leukemia ; CML) の第1選択薬メシル酸イマチニブ(IM) の耐性機序克服可能な薬剤の開発を試みた.
方 法
1.白血病幹細胞ニッチの同定
GFP と野生型 (wt) bcr-abl をマウス白血病細胞株 Ba/F3 に遺伝子導入し Ba/F3/wt bcr-ablGFP を作成し,本細胞
株をヌードマウスに移植した.その後,頚椎脱臼により安楽死させたマウスから経時的に大腿骨を採取し,実体蛍光顕微鏡で
GFP 陽性細胞の生着開始部位を観察した.また NOD/SCID マウスにヒト白血病細胞株 K562 を移植し,抗ヒト CD45 抗体で
免疫染色し生着部位を観察した.
2. ニッチ攻撃による白血病細胞生着阻害および治療効果
まず in vitro における Ba/F3/wt bcr-ablGFP に対する RM-A の殺細胞効果について検討した.ヌードマウスに RM-A
を 4 日間投与し,OC が枯渇したヌードマウスを作成した.本マウスに Ba/F3/wt bcr-ablGFP を移植し,GFP 陽性細胞の
大腿骨および脾臓での生着を観察した.また,マウスに Ba/F3/wt bcr-ablGFP を移植し,移植翌日より RM-A 0, 2, 8
mg/kg/day を 10 日間投与し,RM-A に生着完了後の白血病細胞の進展阻止効果があるかについて検討した.
3. 新規チロシンキナーゼの開発
まず ABL/IM 複合体結晶の X 線解析像を詳細に検討し,展開可能な部位を検索した.展開可能な部位に分子を引き込む
力の強い CF3 を導入した種々の化合物を合成した.これらの BCR-ABL 陽性白血病細胞株に対する殺細胞効果,ABL を
含む各種キナーゼに対する阻害作用を in vitro で検討した.効果の高い薬剤を選択し,次いで IM 耐性に最も関与するキナ
ーゼドメインの変異(12 種)を有する bcr-abl を導入した白血病細胞株に対する効果を検討した.さらにこれらのスクリーニン
グから得られた数種の化合物の動物に対する安全性について検証した.最終的に選択された化合物バフェチニブ(論文発表
時は INNO-406 または NS-187)の各種白血病細胞株移植マウスに対する治療効果について検討した.
1
結 果
1.移植白血病細胞の生着部位
NOD/SCID に K562 移植後翌日,大腿骨に 1 個のみ CD45 陽性細胞(つまりヒト白血病細胞)を認めた.生着部位は,
OB および OC が豊富に存在する骨端部の骨内膜近傍であった(図1 A).さらに移植3日後には生着細胞数は 11 個(骨端
部 5 個および骨幹部 6 個)であった.11 個すべて骨内膜近傍であった(図 1B).
2. RM-A による白血病細胞生着阻害および治療効果
In vitro において,RM-A の直接的な殺細胞効果は,Ba/F3/wt bcr-ablGFP に対する IC50 が 100μM 以上と非常に
弱かった.この結果から RM-A による in vivo での直接的な抗白血病細胞効果はないと考えた.RM-A を 4 日間投与し,
OC が枯渇したヌードマウスでは,Ba/F3/wt bcr-ablGFP 細胞の生着がコントロールに比して有意に不良であった(図 1C).
また白血病細胞生着後のマウスに対して,4mg/kg/day 10 日間の RM-A 投与は,白血病細胞の増殖を阻害した.
3.新規 ABL/Lyn 同時阻害剤 NS-187 の開発
IM のフェニール環に隣接する 4 つのアミノ酸によって形成される疎水性ポケットに CF3 を導入することで ABL に対する親和
性が増加することを見出し,多く化合物を合成した.各種スクリーニングの結果,その他のキナーゼには高い特異性を保ちなが
らも ABL および LYN に対する阻害作用が強力で,動物に対する安全性も高い NS-187 を同定した.バフェチニブは IM と比
較し in vitro で 25-55 倍,in vivo で最低 10 倍強力な作用を野生型 BCR-ABL に対して示した.バフェチニブは Abl と
Lyn に対する特異性が高く Src は阻害しなかった.なぜ Src ファミリーに属する Lyn に特異性が高いかに関してドッキングモデ
ルで明らかにした.バフェチニブは wt のみならず T315I 以外の変異を有する BCR-ABL に有効であった.
図 1. 白血病生着部位と RM-A の効果.
NOD/SCID に K562 移植し,1 日後(A)および 3 日後(B)の大腿骨標本.大腿骨切片を抗 CD45 抗体で染色.図内
左上に大腿骨内の白血病細胞の生着部位を黒点で表す.検出された CD45 陽性細胞を円内に示す(x 200 倍).(C)
Reveromycin A で前処置し破骨細胞を枯渇させたヌードマウスにおける Ba/F3/wt bcr-ablGFP 細胞の生着.大腿
骨を実体蛍光顕微鏡で観察.
2
考 察
移植された白血病細胞が,まず骨端部や骨幹部の骨内膜近傍に生着すること,さらに RM-A によって OC が枯渇したマウス
において白血病細胞の生着は困難であった.これら結果から,やはり白血病細胞のニッチも正常造血幹細胞と同様に OB およ
び OC により形成されることが示唆された.また,白血病細胞に直接的な殺細胞効果を有さない RM-A が白血病細胞の進展
を抑制した.これら結果から,ニッチを攻撃することが新たな治療法となりえる可能性が示唆された.今後さらに RM-A の最適
な投与量・投与方法を模索し,RM-A を抗白血病薬として検討していく.
しかし白血病細胞のニッチをいくら攻撃しても,やはり白血病細胞自身を攻撃する薬剤の併用も必要と考えられる.バフェチニ
ブは IM の種々の耐性機序を克服可能なことが明らかとなり,今後 CML 治療において重要な薬剤になりえると期待される.バ
フェチニブの臨床第I相試験がすでに欧米で終了し,良好な結果が得られている.基礎的研究として,バフェチニブと OC を
破壊可能な薬剤である RM-A やビスフォスフォネート製剤の併用効果の検討を予定している.
本研究の共同研究者は,京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部の木村晋也(現,佐賀大学医学部血液・呼吸器・腫瘍内
科)である.
文 献
1) Kimura, S., Naito, H., Segawa, H., Kuroda, J., Yuasa, T., Sato, K., Yokota, A., Kamitsuji, Y., Kawata,
E., Ashihara, E., Nakaya, Y., Naruoka, H., Wakayama, T., Nasu, K., Asaki, T., Niwa, T., Hirabayashi,
K. & Maekawa, T.: NS-187, a potent and selective dual Bcr-Abl/Lyn tyrosine kinase inhibitor, is a
novel agent for imatinib-resistant leukemia. Blood, 106: 3948-3954, 2005.
2) Segawa, H., Kimura, S., Kuroda, J., Sato, K., Yokota, A., Kawata, E., Kamitsuji, Y., Ashihara, E., Yuasa,
T., Fujiyama, Y., Ottmann, O.G. & Maekawa, T. : Zoledronate synergises with imatinib mesylate to
inhibit Ph primary leukaemic cell growth. Br. J. Haematol., 130: 558-560, 2005.
3) Segawa, H., Kimura, S., Kuroda, J., Sato, K., Nogawa, M., Yuasa, T., Yokota, A., Hodohara, K.,
Fujiyama, Y. & Maekawa, T. : The anti-leukemic efficacy of the third generation bisphosphonate
ONO5920/YM529. Leuk. Res., 29: 451-457, 2005.
4) Naito, H., Kimura, S., Nakaya, Y., Naruoka, H., Kimura, S., Ito, S., Wakayama, T., Maekawa, T. &
Hirabayashi, K. : In vivo antiproliferative effect of NS-187, a dual Bcr-Abl/Lyn tyrosine kinase
inhibitor, on leukemic cells harbouring Abl kinase domain mutations. Leuk. Res., 30: 1443-1446,
2006.
5) Sato, K., Yuasa, T., Nogawa, M., Kimura, S., Segawa, H., Yokota, A. & Maekawa, T. : A third
generation bisphosphonate, minodronic acid (YM529), successfully prevented the growth of bladder
cancer in vitro and in vivo. Brit. J. Cancer, 95: 1354-1361, 2006.
6) Yokota, A., Kimura, S., Masuda, S., Ashihara, E., Kuroda, J., Sato, K., Kamitsuji, Y., Kawata, E.,
Deguchi, Y., Urasaki, Y., Terui, Y., Ruthardt, M., Ueda, T., Hatake, K., Inui, K. & Maekawa, T. :
INNO-406, a novel BCR-ABL/Lyn dual tyrosine kinase inhibitor, suppresses the growth of Ph+
leukemia cells in the central nervous system and cyclosporine A augments its in vivo activity.
Blood, 109: 306-314, 2007.
7) Horie, N., Murata, H., Kimura, S., Takeshita, H., Sakabe, T., Matsui, T., Maekawa, T., Kubo, T. &
Fushiki, S. : Combined effects of a third-generation bisphosphonate, zoledronic acid with other anticancer agents against osteosarcoma. Brit. J. Cancer, 96: 255-261, 2007.
8) Uchida, R., Ashihara, E., Sato, K., Kimura, S., Kuroda, J., Takeuchi, M., Taniguchi, K., Okamoto, M.,
Shimura, K., Kiyono, Y., Shimazaki, C., Taniwaki, M. & Maekawa, T. : T cells kill myeloma cell by
sensing mevalonate metabolites and ICAM-1 molecules on cell surface. Biochem. Biophys. Res.
Commun., 354: 613-618, 2007.
9) Kuroda, J., Kimura, S., Strasser, A., Andreeff, M., O’Reilly, LA., Ashihara, E., Kamitsuji, Y., Yokota,
A., Kawata, E., Takeuchi, M., Tanaka, R., Tabe, Y., Taniwaki, M. & Maekawa, T. : Apoptosis-based
dual molecular targeting by INNO-406, a second generation Bcr-Abl inhibitor, and ABT-737, an
inhibitor of anti-apoptotic Bcl-2 proteins, against Bcr-Abl-positive leukemia. Cell Death Diff., 14:
1667-1677, 2007.
3
Fly UP