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器械運動(高)~6年 マット運動~ 基本的な回転技を安定してできるよう

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器械運動(高)~6年 マット運動~ 基本的な回転技を安定してできるよう
No.9
山口支部
器械運動(高)~6年 マット運動~
基本的な回転技を安定してできるようにし、動きのポイントを
見つけ合いながら、新しい技に挑戦する楽しさを膨らませる子ど
もを育てる
山口県山口市立大殿小学校
1
織
田
英
則
主題設定の理由
器械運動は、様々な器械の条件に規定されて生み出された「技」に挑戦し、これを達成
したときに楽しさや喜びを味わうことができる運動である。マット運動は他の器械運動に
比べると、たたみのうえや床の上で日常的に行われるような運動が多い。それは、鉄棒運
動や跳び箱運動のように床面より高いところで体操器械を利用して行う運動よりも身近で
取り組みやすい運動と言える。また、宙返りなどのアクロバティックな動きにあこがれを
もつ子どもが多い。身近な動きが発展していくと、やがてあこがれの動きにつながってい
く。子どもたちは簡単な技でもできるようになるとうれしい。そして獲得した動きは他の
技につながり、自分もいつか宙返りができるようになれるかもしれないという気持ちを生
む。「次はあんな技に挑戦してみたい」「もっと練習してできるようになりたい」という
思いをもち、すすんで学習しようとする意欲が高まると考える。
マット運動の「できた」には技が初めて「できた」粗い状態と上手に「できた」美しい
状態がある。6年生でも基本的な技が美しい動きでできた時には、初めてできた時とは違
った喜びが生まれる。基本的な技が安定してできるようになることは発展技ができるよう
になるためには欠かせない。また、6年生という学年になると、ただ「できる」「できな
い」を問題にするのではなく、「なぜ、できるのか」「なぜそうなるのか」という動きの
ポイントを考えさせたい。それも友達と一緒に見つけ合い、伝え合うことで学びが高まる
と考える。児童がこの学習を通して、「動き」と「学び」を高め、もっと楽しく体育の学
習に取り組むことにつながるのではないかと考え、本主題を設定した。
2
子どもの実態
本学級の子どもたち(男子17名、女子15名
計32名)にアンケートを行ったとこ
ろ32名のうち21名が「マット運動が好き」と答えた。「技ができるようになったらう
れしいから好き。」といった理由が見られた。逆に好きでない理由は「こわいときがある
し、あまりできないから」などが挙げられた。
本学年の子どもたちは、5年生の時に文部科学省の事業で元モスクワオリンピック代表
候補の女子体操選手笹田弥生選手にマット運動の出前授業をして頂いている。その際に、
楽しい動きを通して基本の動きを身につける方法を教わったり、運動のコツを教わったり
した。
3
研究の視点
(1)専門家による具体的な支援
本実践の取り組みで最も重視したのが「専門家との連携による具体的な支援」であ
る。専門家とは人材活用事業で来られた元オリンピック女子体操選手の笹田弥生選手
である。子どもたちは、2時間という限られた時間の中でも笹田選手と行うマット運
動に引き込まれていた。笹田選手と一緒にマット運動の学習を行えば、子どもたちの
意欲や動きが高まるのではないかと考えた。しかし、笹田選手に毎時間来て頂くこと
は不可能である。人材活用事業を一回限りで終わらせず、その後も継続した関わりを
もち、専門家から得られる利点を具体的な手立てとして授業に生かすことができるか
を考えることで、私たちが目指す、新しい技に挑戦し続ける楽しさを膨らませる子ど
もを育てることができるのではないかと考えた。
(2)手立て1
課題のもたせ方の工夫
取り組む技をDVDで提示し、こんな動きをしたいというあこがれをもたせたい。
また、何度も繰り返し見られるようにすることで力の流れを確認できるようにし、自
分の課題の発見に生かすことができるようする。加えて、毎時間児童の動きを録画し
それを後で視聴することで、自分のイメージする動きと実際の動きを比較し、各自の
課題を明確にもつことができると考える。
(3)手立て2
練習方法の工夫
笹田選手は「カエルの足打ち」や「ゆりかご運動」などの基本の技につながる動き
を準備運動として紹介された。本単元でもそれらの動きを準備運動として取り入れた
いと考えた。また、技につながる動きをスモールステップで獲得していく練習方法も
取り入れていきたいと思った。
(4)手立て3
学習カードの工夫
2種類のカードを使用する。①技の練習をする際に使用するカード②学習を振り返
り目標を設定する振り返りカードの2種類である。
①のカードは技の分解図を載せた技カードで、技の練習の際に使用する。技のポイ
ントに気付くヒントとしてスモールステップでの練習方法や場の工夫を紹介する。
②のカードは本時の振り返り、発見した技のポイント、生まれた疑問を書きこむ振
り返りカードで、授業の終わりと練習の前に使用する。自己評価が次回の課題につな
がるようにする。カードには教師のコメントを入れ、課題をより明確にしたり、活動
を価値付けて意欲を高めたりすることに活用できると考える。
(5)手立て4
運動感覚を高める工夫
技を身につけていくにあたり、運動感覚の必要性を強く感じた。そこで、基本の技
につながる動きを行う準備運動に加えて、より多くの技につながる動きを楽しみなが
ら身につけられるよう5分間のサーキットトレーニングを取り入れることを考えた。
4
単元について(単元構造図による)
5
研究の実際と考察
(1)課題のもたせ方の工夫
技の練習に入る前にDVDでお手本の動きを提示した。
DVD には、技のポイントも示されており、技のイメージ
やポイントを意識させて練習に取り組ませた。練習をし
ながら途中で友達と再度 DVD を見ながら「このときひ
ざを曲げてるよ。」「首を上げて前を見ている。」など、
より細かく技を分析する姿が見られた。そしてマットに
戻り、お互いを見合いながら「さっきのビデオより足が低いよ。」「腰が低いよ。」と
いった具体的なアドバイスをし合うようになった。イラストや写真と比べて動きの流
れが見えるので技をとらえやすく友達の動きとの違いも見つけやすいと思われる。
毎時間、授業の終わりにその時間に取り組んだ技を児童が行うところを全員分録画
し、給食の時間や朝の会の時間を利用して視聴した。これにより、子ども一人一人の
課題を明確に把握することができ、より具体的な助言を与えることができた。子ども
自身も自分の頭で描いてるイメージと実際の違いを認識し、具体的な課題をもつこと
ができ、次時の学習で課題解決に取り組む姿が見られた。
(2)練習方法の工夫
技の練習に際して、スモールステップでの練習を行い、より易しい場で技を練習し
て感覚をつかんだり、恐怖心を和らげることができるように工夫を行った。ロイター
板で傾斜を作ったり、マットを重ねて高低差を作ることで後転や開脚が行いやすくな
ることを紹介すると、積極的に取り入れていた。また、テープをマットに貼ってまっ
すぐ回ることを意識させたり、ゴムひもを使って、足を高く上げることを意識させた。
道具を使うことで練習しやすくなることを経験すると、その後、積極的に場を工夫し
ようとする姿が見られ、それは班を超えて広がっていった。
(3)学習カードの工夫
毎時間授業後に振り返りカードを記入させた。カードには「技がうまくできた原因」
「技のポイント」「先生教えて」の3つを記述させた。カードは毎時間目を通しコメ
ントを書くようにした。そして、次時の個別の支援に生かしたり、全体に紹介して価
値付けるようにした。そうすることで、回を追うごとに具体的な記述が増え、表現も
より体育の学習らしくなっていった。
「先生教えて」に書かれたものについては、より具体的なアドバイスを与え、元オ
リンピック選手の笹田弥生さんにメールを使って助言をお願いした。動画を添付して
送ることで、さらに個に応じた助言をいただくことができ、それを子どもに伝えるこ
とで動きの変化や意識の高まりが見られた。一斉に行う授業の中で個々の課題や動き
を把握することは難しく、一人一人により合理的に支援を行うことにも工夫が必要に
なる。動画で動きを録画したり振り返りカードにお尋ねを書かせることは個別支援に
おいて有効であることが確認できた。
(4)運動感覚を高める工夫
体育館のステージを腕支持でよこに移動し、突き放すように飛び降りる。マットや
跳び箱、平均台の上を川飛び越しで超える。肋木を使ってブリッジの姿勢から起き上
がったり、立った姿勢からブリッジをしたりする。このような
サーキットを準備し毎時間の始めの5分間を取り組ませた。子
どもたちは各ブースを移動しながら汗だくになって体を動かし
ていた。それぞれの難易度が違う場を設定し、自分の力に応じ
て選択し取り組むことができるようにした。またその時中心に
取り組む技によって内容を変えた。例えば開脚前転をする日には、跳び箱から腕支持
で降りる動きを行うブースを設けた。学習が進んでいくと、技を練習する際に「サー
キットのあの動きだ。」といった技とのつながりに気付くことができようになってい
った。
6
成果と今後の課題
この単元は、専門家による具体的な支援を授業に取り入れることで、動きや学びを高
めることを中心に展開した。その中で児童は「なぜできるのか。」「なぜそうなるのか。」
という動きのポイントを考え合いながら技に挑戦することができた。振り返りカードの記
述を見ると、児童が見ようとする動きのポイントが増えて、細かく具体的になっているこ
とが分かった。また、映像を活用することで、目指す動きのイメージを具体的にもったり、
実際の自分の動きとの違いに気づいたりすることができたようだ。それらによって児童は
努力の方向を定めることができたと考えられる。指導の視点からすると、以前から一斉指
導の場面で、子ども一人一人の動きを見取り、個々に応じた支援をするには限界を感じて
いた。そこで見取りに学習カードと映像を合わせることで個々の課題を把握したり、コメ
ントを書いたり実際に動きの補助を行ったりといった多様な支援を効果的に行うことがで
きた。また、カードに書かれた気づきを紹介することで動きのポイントをみんなで共有す
ることができた。
人材活用事業で関わりが生まれたオリンピック代表の笹田弥生選手からの様々な支援に
は大きな価値があったと言える。助言していただいた具体的な技術指導や段階を追った易
しい練習方法などが子どもの技能向上につながったといえる。今後はさらに動画を見てい
ただいて助言をいただいたり、師範の動画をいただいたり活用の可能性を広げ、子どもた
ちの技能向上につながる効果的な活用を模索していきたい。
授業をしてみて、45分の授業時間で練習に取り組む時間はそう多くないことに改めて
気付いた。準備や片づけ、ウォーミングアップを行い残った時間で技の練習に取り組むこ
とになる。児童の記述からも、もっと練習できたら技の習得も高まると感じられる。しか
し、単元として使える時間には限りがある。今後は低学年の時から系統を考えた年間計画
を立てるなどの学校全体での取り組みが必要だと感じた。6年生の児童が卒業して中学生
になっても新しい技に挑戦する楽しさを膨らませていけるように、学びと動きが高まる単
元構成を考えていきたい。
単元構想図
マット運動
1時間目
第6学年
2時間目
3時間目
4時間目
5時間目
共通事項(場作り、学習内容の確認、運動感覚づくり、
6時間目
)
・技の分析(動画の活用)
・技につながる動きの獲得と習熟
・学習カードの活用
・個別支援の工夫
・場の設定の工夫
・運動感覚の向上
共通事項(個人の振り返り・全体の振り返り
時間の流れ 「動き」に関する主な
(上から下)指導・支援・評価
第1時
第3時
第4時
次時の課題設定)
「動き」に関する指導内容
■マット運動につながる マット運動につながる動き
動きを準備運動として ・かえるの足打ち
取り上げ定着させる。 ・ゆりかご運動
■マット運動につながる ・うさぎとび
運動感覚を高めるサー ・川跳び
キットトレーニング。 ・腕支持からの突き放し
■スモールステップで練 ・かべ倒立
習できるように技を分 ・飛び降りからの着地など
析させる。
【前転・大きな前転】
(DVDの活用)
両手を着き、足を強く蹴
■課題が簡単になるには
って腰を大きく開いて回
どんな場を設定したら
転し、回転の勢いを利用
よいか考えさせなが
してしゃがみ立ちになる
ら、場づくりをさせる。 ・順次接地
■動きのポイントに気付
・腰の開き
けるように、分解図を 【開脚前転】
載せた学習カードを活
両手を着き、足を強く蹴
用させる。
って腰を大きく開いて回
■能力に応じて個別に支
転し、脚を左右に大きく
援することで能力差を
開いて接地するとともに
うめるようにする。
素早く両手を着いて開脚
■自分の力だけでは難し
立ちをする。
い子にも友だちの補助
・回転加速
や工夫した場でできる
・脚を開くタイミング
ようにして感覚や自信
・手の突き放し
をつけさせるようにす 【開脚後転】
る。
しゃがみ立ちの姿勢から
○普通の状態で技ができ
尻を着いて後方に回転
るようになったり、出
し、脚を左右に大きく開
来映えを高めたりする
き両手でマットを押して
ことができる。
(技能) 開脚立ちする。
■倒立系の技につながる
サーキットの設定にす
る。
■効果的な補助の仕方を
助言する。
求められる楽しさ
「学び」に関する指導内容
子どもたちの意識の流れ
〈楽しさ1〉
回転系の基本的な技に
挑戦し、できるように
なる楽しさ
・どんな技に挑戦するの
かな。
・中学年の頃に挑戦した
技がある。
・笹田選手のような動き
はどうすればできるの
かな。
・どうすればできるのか
DVDをよく見てみよ
う。
・坂道マットならうまく
いくよ。平地でやるに
は何が大切なんだろ
う。
・友だちに出来映えを見
てもらうとできていな
いところに気付かせて
くれるよ。
・友だちに教えていて自
分が新しいことに気が
付いたよ。
・違う技でも同じ動きが
入っていることに気付
いた。
「学び」に関する主な
指導・支援・評価
・学習のねらいや進め方を ■副読本や資料を参考にして、マッ
知る。
ト運動のねらいや学習の進め方、
・マットの運び方や設置の
きまり、器械・器具の扱い方など
仕方、片づけ方などを知
を確認する。
る。
○きまりを守り、友だちと協力して
・サーキットの設定の仕方、 学習に取り組んでいる。
片づけ方などを知る。
(関心・意欲・態度)
・きまり、学習の場、安全 ■動画や学習カードを活用して、技
面について知る
のポイントを見つける。
・学習カードの書き方、資 ■技の連続分解図をのせた学習カー
料の活用の仕方を知る。
ドに気付きを書き込みできるよう
・挑戦する技を知る。
にする。
・お手本動画を見て技のポ ■必要な場合は、視聴覚機器で自分
イントを見つける
や友だちの動きを確認させる。
・自分の力に応じた課題を ■課題解決の糸口を体操選手にメー
見つける。
ルでたずねられるようにする。
・友だちと動きを見合い、 ■技を行う姿を録画し課題を見つけ
気付いたことを伝え合い、 たり、自分の動きを確認させたり
自分の動きの見直しをす
する。
る。
・お手本の動きを分析し、 ○自分の課題に応じた練習の場を選
運動の仕組みを見つける。 んだり、工夫して練習したりする
ことができる。
(思考・判断)
・腕支持
・友だちと動きを見合った ■道具を使って練習の場を工夫でき
・逆さ感覚
〈楽しさ2〉
り、教え合ったりしなが
るようにさせる。
・腰を高く上げる姿勢
倒立系の基本的な技に
らお手本の動きに近づく
【頭倒立】
挑戦し、できるように
ように練習をする。
しゃがみ立ちの姿勢から なる楽しさ
○自分の課題に応じた練習の場を選
両手と前頭部をマットに
・友だちに気付きを伝える
んだり、工夫して練習したりする
着け、腰・脚の順に引き ・5年生でやった倒立の
にはどんな言葉を使えば
ことができる。
上げ三点で倒立する。
動きが入っているな。
よりよく伝わるか考えな (思考・判断)
【倒立】
がら伝え合う。
立位の姿勢から上体を前 ・笹田選手のように動く
○普通の状態で技ができ
方に倒し、着手と同時に
にはどうしたらいいの
るようになったり、出
脚を振り上げ、倒立姿勢
か考えて、きれいに動
来映えを高めたりする
で静止する。
けるようになりたい。
ことができる。
(技能) 【側方倒立回転】
腰の位置を高く保ちなが ・次はロンダートにも挑
第6時
ら側方に手を着き、倒立
戦してみたいな。
を経過しながら直線上を
側方に回転し、側方立ち
になること。
■:「動き」に関する主な指導、支援
○:「動き」や「学び」に関する主な評価
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