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第1編 行政法総論 第1章 行政 1 行政法の特質 行政法学の目的 ・行政

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第1編 行政法総論 第1章 行政 1 行政法の特質 行政法学の目的 ・行政
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
第1編
行政法総論
第1章
行政
1
行政法の特質
行政法学の目的
・行政法典は存在しない
・無数の行政に関する法律→その通則を考察するもの
例;営業許可・停止,課税処分
権利義務を決定する処分として共通の性質→行政行為として考察
いずれも取消しがあるまで原則として効力が否定されない点で共通→公定力の存在
行政法の全体構造
・行政組織法
→一般法理の他,国家行政組織法,地方自治法,国家公務員法,内閣法等
・行政作用法→主に一般法理を学ぶ
・行政救済法→行政不服審査法,行政事件訴訟法,国家賠償法等を中心に学ぶ
-1-
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
2
行政の意義
1【論点】行政の定義
控除説(消極説)→行政;国家作用の中から,立法作用,司法作用を除くもの
行政についての積極定義を放棄
∵歴史的沿革に適合的,∵多様な行政活動をもれなく包摂できる
∵行政の多様化→積極的定義は困難である一方,定義付けの必要性が乏しい
積極説
行政;法の下に,法の規制を受けながら/
現実的具体的に国家目的の積極的実現を目指して行われる/
全体として統一性を持ち継続的な形成的国家活動
∵行政の概念の積極的定義ができない→独立の学問としての行政法学が存在し得ない
×上記の理由づけ→根拠がない
×積極説による定義→行政の特徴なり傾向を大づかみに描いたものに過ぎない
×個別の行政法上の観念と定義との連動が見られない
3
行政の分類
規制行政;国民の権利利益を制限・剥奪する行政活動
例;租税賦課・徴収,建築規制
給付行政;国民に一定の権利利益を与える行政活動,積極国家において重要
例;補助金・生活保護費の支給,公共施設の提供,道路・公園の設置・管理
↓
ただし
両者の相対化;ある国民にとって受益的,他方国民に侵害的である場合
例;建築確認→近隣の居住者に迷惑な場合
-2-
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第2章
1
法律による行政の原理
法律による行政
法律の法規(専権的)創造性;法規を創造する力は法律が独占していること
#法規;国民の権利義務に関する一般的規律のこと
↓
法規命令の制定→法律の授権が必要ということになる
↓
法律による行政;行政活動→法律の定めるところ,法律に従って行わなければならない
・近代立憲主義国家において確立
趣旨
・公権力の濫用を防ぎ,国民の権利・自由を守る(自由主義的要請)
・法律による統制→行政を民主的コントロールの下におく
2
法律による行政の原理の内容
法律の優位;行政活動→法律の定めに違反して行われてはならないとの原則
cf. 法 律 の 定 め よ り も 厳 し い 行 政 指 導 → 法 律 の 優 位 に 反 し な い
法律の留保;行政活動→法律の根拠を要するとの原則
2【論点】法律の留保が妥当する範囲
●法律の根拠が必要な行政活動の範囲をどのように考えるべきか
侵害留保説;国民の自由と権利を権力的に制限ないし侵害するような行政活動
・行政活動→独自の判断に基づき行政目的を追求できる自律的作用とみる
∵人権保障→自説の範囲で実現できる。∵基準の明確性
×民主的責任行政の確立に対する配慮が不足している
×侵害行政と受益行政は必ずしも二分できない
全部留保説;すべての行政活動
∵自由保障のみならず,民主的責任行政も実現すべきである
×複雑化した現代の行政需要に臨機応変に対応できない
→包括的な授権立法を許す結果となるおそれ
×行政主体にも民主的正当性が認められる
権力留保説;権力的な行為形式によって行われる行政活動
・受益的な行政活動も含む
∵人権保障→権力行使の根拠は法律に求めるべきだが,行政活動の自由領域も承認
×行政計画,行政指導は非権力的性格を持つ→法律の根拠が不要となるおそれ
-3-
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第3章
公法と私法
3【論点】公法・私法二元論の当否(発展)
二元論(従来の通説)
・議論の実益→行政法学の対象は公法に限る
・行政法を「行政の組織及び作用並びにその統制に関する国内公法」と定義
∵行政法学の体系的地位の確立
∵ 法 原 理 の 違 い( 公 法 関 係 ; 命 令 強 制 の 関 係 又 は 公 共 の 福 祉 と 密 接 に 結 び つ い た 関 係 )
∵行政事件訴訟法の適用を受ける範囲を明らかにできる
一元論(公法・私法の区別を否定する立場)
・行政法上の法律関係を規律する法原理→実定法に照らし個別具体的に定まる
・特別な法的規律→実定法が個別的に規定した限りで存在するに過ぎない
∵非権力的行政活動(現代は役割が増大)→行政法学の対象にすべき
∵行政事件訴訟法等の存在を根拠に公法・私法二元論の有用性を論じる→論理が逆
*訴訟は手段
-4-
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第4章
1
行政法の法源
成文法源
憲 法 , 条 約 , 法 律 , 命 令 ( 政 令 , 内 閣 府 令 , 省 令 , 規 則 ), 条 例
2
不文法源
慣習法;長年の慣習が一般国民の法的確信を得て,法的規範として承認されたもの
#行政先例法;行政庁における長年に渡る取扱い→法的確信を得るに至ったもの
例
法令の公布は官報をもってする
判例法;判例が明らかにした法規範,最高裁判所の判決によって形成される
・抽象的な行政法規を具体化し,その内容を明らかにする
・慣習法の存在とその内容を明確にする
法の一般原則;一般社会の正義心において,かくあるべきと認められる条理又は筋合
・信義則,権利濫用,緊急避難
・法解釈の基本原理,法に欠陥がある場合の補充原理
→裁判は条理に従ったものである必要
・時代の推移と社会の変遷に伴い推移・変遷する
-5-
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4【判例】租税関係と信義則
事案;青色申告の承認を受けないまました青色申告
→数度受理した後に白色申告としての更正処分がなされる
判旨
・租税法規に適合する課税処分→信義則の適用は慎重であるべき,特別事情が必要
・特別事情;納税者間の平等・公平という要請を犠牲にしてもなお納税者の信頼を保
護しなければ正義に反すると言えるようなもの
・適用要件
税務官庁が信頼の対象となる公的見解を表示したこと
納税者が帰責性なく公的見解を信頼し,帰責性なく信頼に基づいて行動したこと
表示に反する課税処分が行われ,納税者が経済的不利益を受けることになったこと
5【判例】行政権の濫用
事案;個室付浴場を営むため土地を購入し,県の指導を受けながら建築確認を得る
→住民の反対運動を受け,営業予定地の近くの土地を児童遊園とする認可
結果,個室付浴場の営業が不可能になる→認可は行政権の濫用,国家賠償請求
判旨;本件認可→行政権の著しい濫用によるものとして違法
6【判例】緊急の措置
事案;A町にある川に無権限でヨットの係留施設を設置→A町がこれを撤去
撤去に法律の根拠がない→撤去のために支出した費用の返還を求めた住民訴訟が提起
判旨;緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置
→ 民 法 720 条 の 法 意 に 照 ら し て 容 認 す べ き
…損害賠償の責任を負わない
2
前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合
について準用する。
-6-
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第2編
行政作用法
第1章
行政作用法の全体構造
行政立法・行政計画による基準設定
↓
行政行為・行政契約による法律関係の形成
↓
#行政指導;国民への自発的な協力が要請されることがある
行政上の強制手段等による実現
#以上の活動は行政手続を踏まえた上でなされる
第2章
1
行政立法
意義
法条の形式をもって一般的・抽象的な定めをすること
2
法律による行政の原理との関係
唯 一 の 立 法 機 関 は 国 会 ( 憲 法 41 条 )
↓
しかし
専門・技術的知識や,政治的中立性が要求される立法→行政立法の必要性
憲 法 も 政 令 の 制 定 を 認 め て い る (憲 法 73 条 6 号 )
3
法規命令
憲法;委任命令・執行命令→委任命令の制定の可否,限界等の論点参照
7【判例】委任の限界
事 案 ;「 美 術 品 と し て 価 値 の あ る 刀 剣 類 」 → 規 則 が 鑑 定 対 象 を 日 本 刀 に 限 定
外国製サーベルの鑑定が拒否される
#教育委員会が行う
判旨;美術品としての文化財的価値を有する日本刀に限るとの限定
→法の趣旨に沿う合理性を有する,限定は許される
事案;面会;幼年者との接見を禁止する規則
判旨;限定の趣旨は幼年者への心情配慮→監護に当たる親権者などが配慮すべき事柄
∴限定→委任の範囲を超えた無効なもの
-7-
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
法規命令の成立要件及び効力
・主体,内容,手続及び形式の各点について法に適合すること
#正当な権限・授権があるか
上級の法令との抵触はないか,内容は明確で実現可能なものか
審議機関の議決を経る必要がある場合は,その議決
命令の種類の明記,署名がある文書によること等
・公布(外部への公表)
法規命令の消滅
・命令の取消し又は改廃
・終期の到来,解除条件の成就
・命令と矛盾する上級法令の制定改廃
・根拠法令の消滅
4
行政規則
行政立法のうち,法規たる性質がない→国民の権利義務に関係がない事項を定める
例
行政事務の分配,物的施設の管理に関する定め
・行政権の当然の権能→制定に法の授権は不要
通達
・上級行政機関が下級行政機関の権限行使を指揮するために発する命令
( 国 家 行 政 組 織 法 14 条 2 項 )
cf. 訓 令 ; 書 面 に よ ら な い も の 。 通 常 は 訓 令 も 含 め て 通 達 と 称 す る
・法の解釈を巡り問題がある場合,行政機関に裁量が与えられている場合
→下級行政機関における取扱いの統一を図る
・性質;行政組織の内部的規範,法規ではない→国民や裁判所は拘束されない
↓
結果
通達の制定に授権は不要,随時発することができる
公示は不要,秘密通達も認められる
通達に反する処分→直ちに違法と評価されるわけではない
取消訴訟で通達そのものを争うことができない
【判例】租税法律主義の適用範囲→憲法のレジュメ参照
-8-
cf. 行 政 内 部 の 懲 戒
×通達行政の問題点への対応は?
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第3章
1
行政行為
行政行為の意義
行政庁が,①法律の定めるところに従い,その②一方的判断に基づいて
③国民の④権利義務その他の法的地位を⑤具体的に決定する行為
①法律の根拠が必要
③名宛人は国民
②一方的行為
cf. 行 政 契 約
cf. 通 達 の よ う な 内 部 行 為
④権利変動の原因,法的な規制を伴う
⑤個別具体的な行為
cf. 行 政 指 導 , 即 時 強 制
cf. 行 政 立 法
↓
権力的な行為→私法の法律行為とは異質
法 律 上 の 「 処 分 」「 行 政 処 分 」 等 の 用 語 と ほ ぼ 同 義 ( 判 例 )
#国又は地方公共団体が行う行為のうち,
その行為によって,直接国民の権利義務を形成し
またはその範囲を確定することが法律上認められているもの
2
行政行為の分類
侵害的行政行為・授益的行政行為→利益を与えるものか不利益を与えるものか
か め い
例
下命,禁止,許可・特許・認可
#上記分類→相対的→ある者には授益的,ある者には侵害的な行政行為もある
例;建築確認,土地収用裁決
法律行為的行政行為・準法律行為的行政行為
・意思表示を要素とするか否か→意思に基づく効果が発生するか
例
下命・禁止・許可・免除・特許・認可・代理
cf. 確 認 ・ 交 渉 ・ 通 知 ・ 受 理
・区別の実益→行政裁量の存否に影響する
命令的行為・形成的行為
・命令的行為;義務を命じ,又はこれを免ずる行為。自由の制限又はその解除に関わる
例
下命・禁止・許可・免除
・形成的行為;法律上の効力の発生・変更・消滅→権利・能力・包括的な権利の設定
相手方の権利を設定又は剥奪する行為
例
特許又は剥奪行為
第三者の行為を補充して効力を完成させ,又は第三者に代わってする行為
例
認可・代理
・区別の実益
命令的行為;羈束裁量行為,反する行為は有効
形成的行為;自由裁量行為,反する行為は無効
-9-
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下命・禁止
下命;国民に一定の作為・不作為・給付・受忍を命じる行為
例;租税納付命令,違法建築物の除却・移転の命令(建築基準法 9 条 1 項)
禁止;下命のうち,特に一定の不作為を命じる行為
例;営業停止命令,道路の通行禁止(道路交通法 6 条 4 項)
違法建築物の使用禁止(建築基準法 9 条 1 項)
免除;特定の場合に,作為・給付・受忍の義務を解除する行為
・下命の裏をなす性質
例;納税の猶予
許可;一般的な禁止を特定の場合に解除すること
・適法に一定の行為をすることが可能になる
例 ; 医 薬 品 製 造 の 承 認( 薬 事 法 14 条 1 項 ),自 動 車 運 転 の 免 許( 道 路 交 通 法 84 条 1 項 )
公衆浴場,飲食店の営業許可
・禁止の裏をなす性質
# 法 令 上 ,「 許 可 」 以 外 の 語 が 用 い ら れ る 例 も 多 い → 免 許 , 認 可 な ど
・許可は新たに権利を発生させるものではない
cf. 特 許
・羈束裁量
・重複許可もありえ,許可を受けた者の優劣→民法等で定まる
・申請が競合した場合→先願主義(申請が先の者が優先される)
・許可がないままなされた行為→強制執行又は処罰の対象になるが
当然に効力が否定されるわけではない
特許;直接の相手方のために,能力,権利の付与又は包括的な法律関係を設定する行為
・出願が前提要件,出願の趣旨に反する特許→有効に成立しない
例 ; 鉱 業 権 設 定 の 許 可 ( 鉱 業 法 21 条 ), 運 送 事 業 の 免 許 ( 道 路 運 送 法 4 条 1 項 )
生 活 保 護 の 決 定 ( 生 活 保 護 法 19 条 1 項 )
公 務 員 の 任 命 ( 国 家 公 務 員 法 55 条 1 項 , 地 方 公 務 員 法 17 条 1 項 )
・自由裁量
・既に特許が与えられた者がいることを理由とした拒否処分が可能
別の者に特許が与えられた場合→既に特許が与えられた者は対抗可能
・先願主義は採られない→申請者のいずれに特許を与えるのが適切かによる
・特許がないままなされた行為→無効
cf. 剥 権 行 為 ・ 変 更 行 為 ; 特 許 に よ っ て 設 定 ・ 付 与 さ れ た 権 利 や 法 的 地 位 の 剥 奪 ・ 変 更
認可;第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させる行為
例 ; 地 方 債 起 債 の 許 可 ( 地 方 財 政 法 5 条 の 4), 銀 行 合 併 の 認 可 ( 銀 行 法 30 条 1 項 )
農地の取得における農地委員会の許可
・法律行為の効力要件,自由裁量行為
cf. 許 可 ; 行 為 の 適 法 要 件
- 10 -
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代理;第三者がなすべき行為を国が代わって行う→第三者がしたのと同じ効果の発生
例 ; 土 地 収 用 の 裁 決 ( 土 地 収 用 法 47 条 の 2), 日 銀 総 裁 の 任 命 ( 日 本 銀 行 法 23 条 1 項 )
確認;特定の事実又は法律関係に関し疑い又は争いがある場合に/
公の権威をもってその存否又は真否を確認する行為
例 ; 建 築 確 認 ( 建 築 基 準 法 6 条 ), 恩 給 権 の 裁 定 ( 恩 給 法 12 条 )
公証;特定の事実又は法律関係の存否を公に証明する行為
例 ; 運 転 免 許 証 の 交 付 ( 道 路 交 通 法 92 条 ), 選 挙 人 名 簿 へ の 登 録 ( 公 職 選 挙 法 22 条 )
通知;特定の事項を知らしめる行為
・特定又は不特定の人に対するもの
例 ; 租 税 納 付 の 特 則 ( 国 税 通 則 法 37 条 ), 代 執 行 の 戒 告 ( 行 政 代 執 行 法 3 条 1 項 )
特 許 出 願 の 公 告 ( 特 許 法 64 条 )
受理;他人の行為を有効な行為として受領する行為
例 ; 婚 姻 届 の 受 理 ( 戸 籍 法 74 条 )
- 11 -
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3
行政行為の効力
行政行為の効力の発生時期
→到達主義,行政行為の内容を相手が了知できる状態になった時点(判例)
公定力;違法な行政行為でも行政行為の相手方,第三者,他の国家機関とも
当該行為の効力を無視することができない効力
・効力の否定には権限を有する国家機関による取消しが必要
例;違法な買収処分がされた農地が,転売された場合
→取り返しには処分を取り消しておく必要がある
cf. 当 然 無 効 の 場 合 → 公 定 力 は 発 生 し な い
8【論点】公定力の根拠
適法性推定説
∵権限を有する行政庁が公益のために行った行為→裁判所の判決同様の権威がある
×行政行為の適法性→一方当事者の判断に過ぎない
反射的効果説(通説)
・公定力→取消訴訟が存在する結果として反射的に生じる効力に過ぎない
∵取消訴訟の趣旨→行政上の法律関係の安定を図るためのもの
公定力はその結果与えられた仮の効力,取消判決まで効力が温存されるに過ぎない
・機能
違法の疑いがある行政行為も一応有効なものとして通用→行政上の法律関係の安定
・公定力の限界
重大明白な瑕疵→当然に無効,公定力・不可争力は生じない
公定力の客観的範囲;機能的限界
→行政処分の目的・性質に応じ,これを認めるべき合理的必要な限度に限られる
a;国家賠償請求訴訟→あらかじめ行政行為を取り消しておく必要はない
∵行政行為の効果を争うものではない
b;違法性の承継
先行処分が後行行為の準備行為に過ぎない場合
→後行行為を争う訴訟で先行行為の違法性を認定できる
- 12 -
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不 可 争 力 ( 行 政 事 件 訴 訟 法 14 条 )
・一定の期間の経過→私人の側から行為の効力を争うことができなくなる効力
・効力を争うことができる期間を短期に限定→行政上の法律関係を早期に確定させる
・不服申立てによる取消し,取消訴訟による取消しができなくなる
cf. 行 政 庁 が 職 権 に よ り 行 政 行 為 を 取 消 し ・ 撤 回 す る こ と は 妨 げ な い
・無効な行政行為→不可争力は発生しない
不可変更力;行政行為をした行政庁→自らこれを変更することが許されないとする効力
・行政行為のうち,特定の種類のもののみに認められる
争いを公権的に裁断することを目的とするもの(決定・裁決等)
利害関係者の参与によってなされる確認的性質をもった行政行為(争いあり)
cf. 実 質 的 確 定 力 ; 処 分 庁 , 上 級 行 政 庁 , 裁 判 所 を 拘 束 す る 効 力 , 既 判 力
自力執行力;行政行為によって命じられた義務を国民が任意に履行しない場合
→行政庁自ら義務者に強制執行し,義務内容を実現することができる効力
・下命・禁止など義務を課す行政行為に限り発生する
行政目的の早期実現,裁判所の負担軽減を狙ったもの
・行政行為に対する不服申立て,抗告訴訟
→原則として自力執行力は妨げられない
( 執 行 不 停 止 の 原 則 , 行 政 不 服 審 査 法 34 条 1 項 , 行 政 事 件 訴 訟 法 25 条 1 項 )
・明文による法律の根拠が必要
∵権利を侵害する行為である
∵行政代執行法 1 条→法律の根拠を要することを前提としている
- 13 -
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4
行政裁量
行政行為を行うに際し,法律により行政機関に認められた判断の余地のこと
∵複雑多様な行政需要・高度に専門的な問題に対応
→行政庁の知識と判断能力に期待するほうが結果的に妥当
cf. 法 律 に よ る 行 政 の 原 理 の 徹 底 → 羈 束 行 為 が 望 ま し い
羈束行為と裁量行為
・羈束行為;法律による厳格な拘束の下に行われる行為
法律が行政機関に政策的・行政的判断の余地を与えない
・裁量行為;法律が行政機関に広範な授権
→行政機関の政策的・行政的判断によって行われる行為
裁量行為の種類
要件裁量;要件が充足されているかの認定における裁量
効果裁量;行政行為を行うか,どのような行為を行うかの認定における裁量
例 ;「 医 師 が … 医 師 と し て の 品 位 を 損 す る よ う な 行 為 の あ っ た と き は ,
厚生労働大臣は,
その免許を取り消し,又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる」
・ 羈 束 裁 量 ( 法 規 裁 量 ); 法 律 の 文 言 上 は 一 義 的 に 確 定 し な い よ う に 見 え る
→法律が予定する客観的な基準が存在すると考えられる場合
何が法であるかの裁量→裁量を誤る行為は違法行為となる
例;皇居外苑の使用許可,農地賃貸借の設定・移転の許可,運転免許の取消し
・ 自 由 裁 量 ( 便 宜 裁 量 ); 純 粋 に 行 政 機 関 の 政 策 的 ・ 行 政 的 判 断 に 委 ね ら れ た 場 合
何が行政の目的に合致し,公益に適するかの裁量→裁量を誤る行為は不当行為
原則として司法審査は及ばない
例;在留許可の更新,車両制限令上の道路管理者の認定,教科書検定と裁量審査
公務員への懲戒処分
- 14 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
9【判例】皇居外苑の使用許可
事例;メーデーのための皇居外苑の使用許可申請
→厚生大臣は特に理由を示さないまま不許可処分
判旨;公共福祉用財産の利用の許否
→目的に副うものである限り,管理権者の単なる自由裁量に属するものではない
・財産の種類に応じ,またその規模,施設を勘案し,
その使命を十分達成させるよう適正にその管理権を行使すべき
→その行使を誤り,国民の利用を妨げるにおいては違法たるを免れない
10【判例】農地賃貸借の設定・移転の許可
●農地賃貸借の設定・移転の許可(農地委員会・知事の許可)の法的性質
判旨;農地に関する賃借権の設定・移転は本来個人の自由
→小作人保護のためこれに制限を加えるのは個人の自由の制限
∴行政庁→法律の目的に必要な限度においてのみ行政庁も承認を拒むことができる
承認するかしないかは農地委員会の自由な裁量に任されているのではない
11【判例】マクリーン事件→事案は憲法のレジュメ参照
判旨;在留期間の更新事由は概括的に規定,判断基準が特に定められていない
→更新事由の有無の判断を法務大臣の広範な裁量に任せる趣旨
∵諸般の事情を斟酌し,時宜に応じた適切な判断を期待したもの
12【判例】公務員の懲戒処分
判旨;懲戒するか,どのような処分を選ぶか→懲戒権者の裁量に任されている
∴裁判所は懲戒権者と同一の立場に立って判断するわけではない
→社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合のみ違法
- 15 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
裁量権の逸脱・濫用の判断基準
・重大な事実誤認
例;人違い
・平等原則違反
・比例原則違反
例;些細な不正に対し,不当に過酷な懲戒処分を行う等
・目的違反ないし動機違反
法の本来の目的から逸脱した不正な動機に基づく場合
例;組合活動の抑制を図る目的による組合活動家である職員の転任処分
個室付き浴場の開業を阻止するための児童遊園設置認可処分
・他事考慮
判断過程審査と手続的裁量論
・処分を行われた判断過程に着目
→裁量判断が行政庁の恣意・独断のない公正な手続に則って行われたか否か
∵自由裁量行為→処分内容の適法性を裁判所が判断することは困難
・個人タクシーの免許について判例
免許の申請人は公正な手続によって免許の許否につき判定を受ける法的利益がある
→手続的裁量論の法理を認めたもの
・行政手続法→上記判例法理を背景に制定されたもの
行政決定の公正さの確保,裁量処分への手続的コントロールを強化するもの
い かた
13【判例】伊方原発訴訟
事件;原子炉設置許可申請に対する内閣総理大臣による許可処分
→住民が取消訴訟を提起
判旨;原子炉設置基準の適合性判断
→原子力委員会の意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨
・裁判所の審理→行政庁の判断に不合理な点があるという観点から行われる
・不合理と判断される場合
→被告行政庁の判断が下のような事情に依拠して行われた場合
調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点がある場合
調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤,欠落がある場合
- 16 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
5
行政行為の瑕疵
瑕疵ある行政行為→法の要件を欠く場合(違法)
無効な行政行為
・ 取 消 し を 待 た ず 法 律 的 効 果 が 生 じ な い 行 為 ( 行 政 事 件 訴 訟 法 3 条 4 項 , 36 条 参 照 )
公定力,不可争力,自力執行力など一切の法的効力が発生しない
・瑕疵の程度がはなはだしい場合→公定力を発生させることは不合理
・効力を争う争訟手続→いつでも直接に裁判所に訴えてその効力を争うことが可能
cf. 取 り 消 し う べ き 行 政 行 為
争訟の提起には一定期間の制限→期間経過後は争うことができない
審査請求前置主義が採られた場合→事前に審査請求等に対する裁決を経る必要
・当該行為が前提となる行為を争う場合
→通常の民事訴訟で直接,無効であることを主張可能,裁判所も拘束されない
事情判決の適用もない
14【論点】取り消しうべき行政行為と無効な行政行為の区別
重大明白説(判例・通説)
・無効な行政行為→次の2要件が調う場合
①瑕疵の重大性(重要な法規違反)∵取消訴訟を強制する意義は乏しい
②瑕疵の明白性(瑕疵の存在が外観上明白)∵裁判所でなくとも判断が容易
明白性補充要件説
・瑕疵の重大性が要件,その他の条件を課すかは利益状況による
・利害関係を有する第三者が存在しない→瑕疵の明白性は必ずしも必要ない
・無効な行政行為と認定すべき要件
①過誤が課税要件の根幹に関わること
②徴税行政の安定とその円滑な運営の利益に照らしても,
不利益を甘受させることが著しく不当といえる特段の事情の存在
# 昭 和 48 年 の 判 例 ( 虚 偽 の 登 記 及 び 偽 造 の 売 買 契 約 書 に 基 づ く 課 税 処 分 の 効 力 )
→特殊事情の下で採用された理論
- 17 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
無効原因となる場合
ア
主体に関する瑕疵
・他の行政機関の協力又は相手方の同意を欠く場合→原則として無効
例;行政庁が建築許可をする場合→消防長又は消防署長の同意を要する
公務員の任命→相手方の同意が必要
・行政機関の権限外の行為
事項的(事物的)及び地域的(場所的)な限界を超えた行為→無効
・行政機関の意思の不存在
意思のない行為→無効
錯誤による意思表示→原則として表示に従って効力が生じる(判例)
cf. 錯 誤 に よ る 表 示 の 内 容 が 不 能 又 は 違 法 な 場 合 → 無 効 又 は 取 り 消 し う る
イ
形式に関する瑕疵
・形式の具備の目的
権限のある行政庁によりなされたこと,内容を明確にする
将来の紛争に備えた証拠の保全→法律生活の安定を図る
・上記の要請が満たされない場合は無効
例;書面によるべきところを口頭で行う,理由付記を要するのに,これがない場合
行政庁の署名・捺印を欠く場合
cf. 取 り 消 し う る 場 合 ; 書 面 の 記 載 に 不 備 が あ る 場 合 , 日 付 の 記 載 を 欠 く 場 合
理由の内容に不備(例;抽象的に過ぎる場合)がある場合
ウ
内容に関する瑕疵→無効
・事実上実現が不可能な場合
例;死者に対する医師免許付与,存在しない土地の収用裁決
・内容が不明確な場合
例;買収すべき土地の範囲が明らかでない農地買収処分
#書面上不明確だが,事実上明確な場合→無効とはしない傾向にある(判例)
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違法性の承継;数個の行政行為が連続して行われる場合
→先行行為の違法性が後行行為に承継され,後行行為の違法事由となること
・実益→先行処分につき不可争力が生じていても,後行行為を争える
・原則→違法性の承継は認められない
∵行政上の法律関係の早期安定
・例外;先行行為と後行行為が相結合
→一つの効果の実現を目指し,これを完成するものである場合
例;土地収用手続における事業認定とそれに続く収用裁決
農地買収計画とそれに続く買収処分
cf. 租 税 賦 課 処 分 と そ れ に 続 く 滞 納 処 分 → 違 法 性 の 承 継 な し
∵前者は租税の納付義務を課す処分,後者は履行を強制するためのもの
→両者は別個の効果を目指すものである
cf. 先 行 す る 行 為 が 無 効 な 場 合 → 後 行 行 為 が 瑕 疵 を 帯 び る
瑕疵の治癒・違法な行政行為の転換
・瑕疵ある行政行為の効力を否定する必要がなく
効力を否定することが行政行為の相手方の信頼を裏切るおそれがある場合
→法的安定性,行政経済の見地から,当初の行政行為の効力の維持を認める
・瑕疵の治癒
欠けている要件(通常は手続的及び形式的要件)の追完→瑕疵がなくなった場合
例;農地買収計画の縦覧期間が所定よりも1日短い
→その期間内に関係者が全員縦覧を済ませていた場合
招集手続に瑕疵
→たまたま所定の参加者が全員出席して,異議なく議決に参加した場合
cf. 理 由 付 記 が 要 求 さ れ て い る に も か か わ ら ず , こ れ を 行 わ な か っ た と い う 違 法
→後日不服申立の裁決の段階で追完されても違法性の治癒はない(判例)
∵理由付記の趣旨;処分庁の判断の慎重・合理性の担保,相手方に理由を知らせ,
不服申立の便宜を図る→瑕疵の治癒を認めることは趣旨に合致しない
∵審査裁決によって初めて具体的な処分の根拠を知らされた場合
→不服理由を十分に主張することができない
・違法行為の転換
瑕疵ある行政行為→瑕疵がない別の行政行為として有効なものと扱うこと
例;死者に対してなされた許可処分の通知
→これを受け取った相続人に対する許可処分として扱う場合
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6
行政行為の取消
行政行為の職権取消
・行政行為に一定の取消原因が存在する場合
→権限のある行政庁がその法律上の効力を失わせ,
既往に遡って初めからその行為が行われなかったと同様の状態に復させる行為
・国民からの請求はできない
cf. 争 訟 取 消 → 行 政 訴 訟 に よ る 取 消
・法律の根拠は不要
∵法律による行政に反する状態や,行政目的に違反した状態→速やかに除去されるべき
・取消権者→処分庁,監督官庁(争いあり)
職権取消の制限
・不可変更力ある行政行為→原則として取り消せない
・授益的行政行為→原則として取り消せない
∵相手方の信頼を害する
例外;行為の成立に相手方の不正行為が関わっている場合
相手方の信頼を犠牲にしてもなお取消しを認めるべき公益上の必要性がある場合
cf. 侵 害 的 行 政 行 為 → 自 由 に 取 り 消 す こ と が 可 能
7
行政行為の撤回
行政行為に新たな事由(義務違反,公益上の必要性等)が発生
→将来にわたりその効力を失わせるためにする行政行為
・成立上の瑕疵は不要
・実定法の文言上「取消し」と規定されていることが多い
例 ; 行 政 手 続 法 13 条
・撤回権者;原則として処分行政庁のみ,監督行政庁による撤回は法律の定めが必要
∵新たに同一の行政行為を行うのと同じだから
撤回の制限
・不可変更力を備えた行政行為
・授益的行政行為→撤回が制限される
∵相手方の利益保護
撤回の必要が相手の責めに帰すべき事情によって生じた場合
または相手方の同意がある場合に限る
#上記以外に公益上撤回が必要な場合
→補償の上で撤回が可能との見解あり,ただし下記の判例参照
cf. 侵 害 的 行 政 行 為 → 自 由 に 撤 回 が 可 能
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15【論点】法律の根拠の要否
不要説(通説)
∵行政行為の公益適合性を図る必要
∵撤回の対象は授益的行政行為によって形成された法律関係→これを消滅させる
撤回によっても私人の本来的自由が侵害されるわけではない
#赤ちゃんあっせん事件;医師が実子のあっせんのため虚偽の出生証明書を作成
→医師法違反などに問われ,妊娠中絶の施術を行う医師の指定が取り消される
判旨;撤回によって発生する個人の不利益を考慮してもなお撤回すべき公益上の必要
性が高い場合→明文の根拠がなくても撤回が可能
cf. 必 要 説
∵授益的行政行為の撤回それ自体が新たな侵害的行政行為である
16【判例】行政行為の撤回と補償
事案;東京都から期間の定めなく土地を借り受ける
→東京都がその用に供するため,大部分の使用許可を取り消す
判旨;原則として補償が不要
∵期間の定めがない使用権→行政財産の本来の用途又は目的上の必要性が生じた
場合は,その時点で消滅するとの内在的な制約がある
・例外;別段の定めにより,使用権者が使用権を保有する実質的理由がある場合
対価の支払いを償却するに足りないと認められる期間内に行政目的が生じた場合
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8
行政行為の附款
附款の意義;行政行為に附加された従たる意思表示→行政行為の効果を制限するもの
種類→法令上は「条件」と規定されることが多い
条件
ア
例;バス事業免許
道路工事完成を条件としてが発効(停止条件)
指定期間内に運輸を開始しないと失効(解除条件)
イ
期限→始期と終期がある
例 ; 道 路 の 占 用 → 3 月 10 日 か ら 同 月 20 日 ま で 認 め る
ウ
負担;主たる意思表示に附随
→行政行為の相手方に対して特別の義務を命じる意思表示
例
免許の条件(眼鏡等)
河川の占用許可にあたっての占用料の納付
・負担があっても行政行為の効力は完全に発生する
義務の不履行→直ちに行政行為の効力が消滅するわけではない
撤回権(取消権)の留保
エ
例
公共用物の使用許可
→公益上必要あるときは,許可を取り消す旨を付加すること
法律効果の一部除外;法令が一般にその行為に付した効果の一部の発生を除外
オ
例
公 務 員 の 出 張 に 旅 費 を 支 給 し な い ( 旅 費 法 46 条 )
通 行 自 動 車 の 限 定 ( 道 路 運 送 法 47 条 3 項 )
・法律の根拠を要する
∵法律が認める効果を行政庁の意思により排除するもの
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附款の許容性と限界
・附款を付すことができる場合
a法律行為的行政行為であること
b法の明文があるか,行政行為の内容に裁量が与えられている場合に限る
#裁量権の行使の場合→裁量権の行使の限界の法理が妥当
17【判例】附款の限界
事案;駅前広場内における建築許可申請
→必要があれば無償で物件を撤去する等の条件を付した上で,建築許可
● 憲 法 29 条 3 項 等 に 違 反 し な い か ?
判旨;無補償で物件を撤去する旨の条件を付すことは適法
・ 都 市 計 画 上 必 要 な 建 築 物 へ の 制 限 → 公 共 の 福 祉 の た め の も の , 29 条 に 反 し な い
・本件土地は法律上収用又は使用されることがあるのは明らか
→新たに建築物を設置しても除去を要するに至ることも明らか
∴上記の条件→都市計画上の駅前広場設定事業の実施上必要やむを得ない制限
瑕疵ある附款
・法令違反,または裁量権の行使が不当な場合
・附款の瑕疵と行政行為の効力
附款が重要な要素でない場合→附款が無効になるのみ
附款が重要な要素→行政行為全体が無効となる
・附款だけの取消し→本体たる行政行為と可分か不可分かで決まる
負担は可分,条件・期限は不可分とされることが多い
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第4章
1
行政上の強制手段
行政上の強制手段
意義;行政機関が行政目的を実現するために国民に対して行う強制手段の総称
・直接的なものから,間接的なものまで様々
趣旨;行政行為により発生した義務→自発的履行が確保されるとは限らない
↓
強制的措置,罰則を科す
行政運営の効率化,行政目的の達成
・場合によって義務づける前にいきなり強制措置を採ることも必要(即時強制)
種別→行政強制,行政罰,行政罰以外の制裁手続に分類可能
2
行政強制
意義;行政上の目的を達成するため,行政上必要な状態を実現する作用
→人の身体又は財産に実力を加える,義務者に心理的強制を加える
↓
国民の身体又は財産に強制を加える作用
特に厳重な制約が加えられる
・常に法律の根拠が必要とする
・場合により司法権の介入を要するものとする
行政上の強制執行
・行政法上の義務の不履行に対し,行政権の主体が,将来に向かい,実力をもって/
その義務を履行させ又はその履行があったのと同一の状態を実現する作用
・法律の根拠は必ず必要
代執行の一般法=行政代執行法,個々の法規の特則による修正
直接強制,執行罰についての一般法は存在しない→個々の法規に根拠
(新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法 3 条 6 項等)
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民事上の強制執行との関係
・自力執行ができない場合→民事法上の手続により裁判所の手を借りた強制執行は可能
18【論点】行政上の強制執行と民事上の強制執行
●行政上の強制執行ができる義務→民事上の強制執行が可能か
否定説(通説・判例)
∵行政上の強制執行が認められている場合→これによるべきとするのが法の趣旨
#事案;行政上の強制徴収が可能な農業共済組合の債権
→債権者代位権に基づく行使が主張される
判旨;強制徴収が可能な趣旨
事業遂行上必要な財源を確保→簡易迅速な手段によることが適切妥当だから
・当該債権を民訴法上の強制執行の手段とすること→立法趣旨に反する
公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠き,許されない
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代執行
・行政代執行法がその一般法(以下,このページで引用する法は行政代執行法)
第 2 条
② 法 律 ( 法 律 の 委 任 に 基 く 命 令 、 規 則 及 び 条 例 を 含 む 。 以 下 同 じ 。) に よ り 直
接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすこと
の で き る 行 為 に 限 る 。) に つ い て ③ 義 務 者 が こ れ を 履 行 し な い 場 合 、 他 の 手 段 に よ つ
てその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公
益 に 反 す る と 認 め ら れ る と き は 、① 当 該 行 政 庁 は 、自 ら 義 務 者 の な す べ き 行 為 を な し 、
又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
①意義;代替的作為義務が履行されない場合
→当該行政庁が自ら義務者がなすべき行為をし,または第三者にこれをさせる
その費用を義務者から徴収するもの
②対象;法律により直接命ぜられ,又は法律に基づき行政庁により命じられた行為
cf. 行 政 指 導 の 代 執 行 は 不 可 能
かつ,他人が代わってすることができる行為に限定される
cf. 健 康 診 断 を 受 け る 義 務 , 営 業 停 止 等 不 作 為 義 務 は 代 執 行 の 対 象 に な ら な い
③実体要件
・対象は代替的作為義務に限る
・他の手段による履行の確保が困難であること
・不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる場合
手続要件
戒告(法 3 条 1 項)→代執行令書による通知(法 3 条 2 項,3 項)
→代執行の実行,証票の携帯(法 4 条)→費用の徴収(法 6 条 1 項,2 項)
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執行罰
・対象は不作為義務,不代替的作為義務
・一定の期限を定め,期限内に義務を履行しないときに過料に処することを予告
→心理的圧迫を加えることにより間接的に履行を強制する方法
・実効性に疑問→現在は原則として廃止→行政罰に代えられている
砂 防 法 36 条 が 唯 一 残 る 規 定
直接強制
・直接に義務者の身体又は財産に実力を加える
→義務の履行があったのと同一の状態を実現する作用
・実効性が高いが,人権侵害の危険が大きい
例 ; 不 法 入 国 外 国 人 の 強 制 退 去 ( 出 入 国 管 理 及 び 難 民 認 定 法 52 条 )
違 法 駐 車 車 両 の 移 動 ( 道 路 交 通 法 51 条 6 項 , 8 項 )
性 病 罹 患 者 に 対 す る 強 制 検 診 ( 旧 性 病 予 防 法 11 条 )
行政上の強制徴収
・公法上の金銭給付義務が履行されない場合
→強制手段により,義務が履行されたのと同様の結果を実現するためにする作用
例;滞納処分(国税徴収法,地方税法)
租税以外の金銭給付義務→「国税滞納処分の例によ」る
国税徴収法は→事実上,強制徴収の一般法としての地位を占める
即時強制;直接に国民の身体又は財産に実力を加え、行政上必要な状態を実現する作用
・目前急迫の障害を除く必要上義務を命ずる暇のない場合
その性質上義務を命ずることによってはその目的を達しがたい場合
・当然に法律の根拠が必要
例 ; 感 染 症 患 者 の 強 制 入 院 ( 感 染 症 予 防 法 19 条 2 項 )
延 焼 の お そ れ が あ る 対 象 物 の 破 壊 ( 消 防 法 29 条 2 項 )
・義務の履行を強制するためのものではない→行政上の直接強制との違い
#実際には区別は困難
例;直接強制の例→即時強制と考える余地がある
原則として直接強制と考えるべき
∵即時強制は国民の権利を強度に制約するもの
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
行政調査;行政機関によって行われる情報収集活動
・行政機関が行政目的達成のために行う
例 ; 納 税 義 務 者 に 対 す る 質 問 検 査 ( 所 得 税 法 234 条 1 項 )
職務質問(警職法 2 条 1 項)
煤 煙 排 出 者 の 工 場 事 業 所 へ の 立 入 検 査 ( 大 気 汚 染 防 止 法 26 条 1 項 )
・法律の根拠→強制調査や間接強制を伴う調査は必要
cf. 任 意 調 査 は 不 要
・許容範囲→刑事訴訟法の所持品検査,自動車の一斉検問等参照
・手続的規制→一般的な要件を定めることは困難
∵様々な態様があるから
# 行 政 手 続 法 に も 定 め が な い ; 行 政 手 続 法 3 条 1 項 14 号 及 び 2 条 4 号 イ 参 照
例 ; 事 前 の 通 告 ( 消 防 法 4 条 3 項 ), 居 住 者 の 承 諾 ( 建 築 基 準 法 12 条 4 項 )
令 状 の 取 得 ( 国 税 犯 則 取 締 法 2 条 4 項 , 出 入 国 管 理 法 31 条 4 項 )
【判例】→川崎民商事件等
事前の通告は必須ではない,黙秘権,令状主義の保障は及ばない
- 28 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
3
行政罰
行政法上の義務違反に対し,一般統治権に基づき,制裁として科せられる罰
cf. 懲 戒 罰 ; 公 務 員 関 係 等 , 特 別 な 法 律 関 係 に お け る も の
・過去の行政法上の義務違反に対する制裁として科せられる
cf. 執 行 罰 ; 将 来 に わ た り , 行 政 法 上 の 義 務 の 履 行 を 強 制 す る こ と が 目 的
#行政罰にも間接的に義務の履行を強制する効果はある
∵行政罰はあらかじめ義務違反に対する制裁を予告するもの
・義務の履行を強制すると同時に行政罰を科すことは可能
∵異なる趣旨の作用
行政刑罰;行政上の義務違反→刑法に定めのある刑罰を科すもの,制裁
cf. 刑 事 罰 ; 反 道 徳 的 性 質 の 行 為 に 対 す る 道 義 的 責 任
・刑事罰と行政罰の区別は明確ではない
特別の定めがない限り,行政刑罰には刑法総則が適用(刑法 8 条)
原則として検察官による起訴,裁判所が行政刑罰を科刑
#例外は国税犯則通告制度,交通反則金通告制度
秩序罰;行政上の秩序を維持するための罰,過料を科す
・比較的軽微な義務違反に対して科される
例;届け出,登録,通知等の手続を怠った場合
∵単純な義務の懈怠→行政上において直接な障害を加えるに至っていない
・過料;刑罰ではない→刑法総則の適用はなく,刑事訴訟手続による必要もない
法令の規定に基づき国=裁判所が非訟事件手続によって科す
または条例・規則に基づき地方公共団体の長が行政行為の形式で科す
(地方税の滞納処分の例により徴収)
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
第5章
その他の行政の活動形式
行政立法,行政行為,強制手段→権力的・一方的なもの
↓
しかし
円滑な行政目的の達成,法律の隙間を埋める必要→新しい行政の活動形式が必要
1
行政計画
行政機関が行政活動について定める計画の総称
・目標創造性;一定の行政の目標を設定する
総合性;目標に到達するための諸々の手段・方策の間の総合的調整を図る
・行政計画策定の必要性
行政活動の複雑・多様化→行政活動の合理性・整合性確保のため
一定の行政目的・計画に基づく行政活動の予告
→国民を行政目的の達成に向け誘導する機能
行政計画の法的統制
・行政計画の策定→法律に根拠がないものも少なくない
# 根 拠 が あ る も の ( 都 市 計 画 法 7 条 ・ 8 条 ・ 11 条 , 環 境 基 本 法 15 条 ・ 17 条 )
・法律による行政の原理との関係→一般に法律の根拠は不要
拘束的計画は国民の権利利益を制限する→法律の根拠が必要
・手続的統制→計画内容の適正化・合理化,利害関係人の利益保護を狙ったもの
議会の議決が必要なもの
例;地方自治法 2 条 4 項
あらかじめ審議会の審議を必要とするもの
例;国土利用計画法 5 条 3 項
住 民 の 参 加 手 続 を 要 す る も の ( 都 市 計 画 法 16 条 , 17 条 )
#参加手続;公聴会の開催,計画案の公告・縦覧,それに対する意見書の提出等
↓
内容がまちまち,不十分
例;公聴会の参加が行政機関の裁量に委ねられている
住民の参加の時期は計画案の策定以降→住民の意見が反映されにくい
- 30 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
2
行政契約
意義;行政主体が行政目的を達成するために締結する契約
ほかの行政主体や私人と対等な立場で締結する
・授益的行政活動の増加→行政契約の果たす役割が大きくなる
cf. 私 人 と の 間 で 権 利 義 務 関 係 を 設 定 す る 原 則 的 行 為 形 式 → 行 政 行 為
類型
・行政サービスの提供に関わる契約(給付行政における契約)
例;住宅,体育館等公共施設の利用契約
水道等公共企業との利用契約,補助金交付契約
・行政手段調達のための契約
例;政府契約
例
物品納入契約,公共事業の請負契約等
公共用地買収のための契約等,その他公用負担契約
例
私有地を道路の敷地に供する
公務員の雇用契約
・財産管理のための契約
例;国公有財産の売渡や貸付のための契約
・規制行政の手段としての契約
法律の規定が不十分な場合→協定により対応
・行政主体間の契約
例 ; 境 界 地 の 道 路 ・ 河 川 の 費 用 負 担 割 合 の 協 議 ( 道 路 法 54 条 , 河 川 法 65 条 )
地 方 公 共 団 体 間 の 事 務 委 託 ( 地 方 自 治 法 252 条 の 14) 等
#争いがある場合→公法上の契約として当事者訴訟による
cf. 水 道 の 利 用 契 約 , 庁 舎 建 築 の 請 負 契 約
→法律の根拠不要,私法上の契約として民事訴訟による
- 31 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
行政契約の法的統制
・法律の根拠→原則として不要
∵相手方との合意によるもの
例外;事務委託は権限の配分の変更→法律の根拠必要
・私人間の契約自由の原則→そのままでは妥当しない
∵公共性,公正性の維持
差 別 的 取 扱 い の 禁 止 ( 郵 便 法 5 条 , 憲 法 14 条 )
行 政 主 体 が 契 約 の 締 結 を 強 制 さ れ る 場 合 ( 水 道 法 15 条 , 憲 法 25 条 )
19【判例】武蔵野市給水拒否刑事事件
事案;マンション建設の指導要綱に従わない場合に水道を供給しないこと
判旨;正当な理由なく給水契約の締結を拒んだ場合にあたる
∵給水契約の申込書の受領を拒絶した時期に,業者は指導要綱に基づく行政指導には
従わない意思を明確に表明
∵住民も給水を現実に必要としている
∵行政指導→任意性を損なうものは違法
本件指導要綱→制裁措置を背景として事業主に一定の義務を課すようなもの
行政指導の限界を超え,違法な公権力な行使
手続的規制
・ 議 会 の 議 決 が 必 要 と さ れ る 場 合 ( 地 方 自 治 法 96 条 1 項 5 号 )
・物品納入契約,土木建築契約
→ 入 札 に よ る 競 争 契 約 が 原 則 ( 会 計 法 29 条 の 3, 地 方 自 治 法 234 条 )
例外として随意契約を行うことができる場合
→契約の性質又は目的が競争を許さない場合
緊急の必要により競争によることができない場合
競争に付することが不利と認められる場合
- 32 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
3
行政指導
行政機関が行政目的実現のため国民に働きかけ,その自発的な協力を要請する行為
(定義)行政手続法第 2 条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該
各 号 に 定 め る と こ ろ に よ る ( 柱 書 )。
六.行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実
現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為
であって処分に該当しないものをいう。
「処分に該当しない」→法的拘束力がない
従わなくても強制執行,行政罰の対象にならない→伝統的理論によれば法的に無
∴国民との摩擦・抵抗を引き起こすことなく所期の行政目的を実現可能
∴法律の授権は不要
∵国民の法的利益に直接の影響を及ぼさない
→行政需要に迅速に対応が可能
∴形式的には抗告訴訟,国家賠償請求の対象にならない
∵「公権力の行使」との性格がない
↓
しかし
・現実には私人が服従を拒むことは困難
∵不服従の事実の公表,給付の打切りなどを伴うおそれ
・行政目的の実現のため重大な機能(ほとんどすべての行政領域で多用)
私人に極めて大きな影響
問題点
・本来法律に基づいてなされるべき規制が,行政指導により事実上強制される
・誤った行政指導に基づき生じた私人の損害につき救済が困難
・監督官庁と業界の癒着を生むおそれ
種類
・助成的行政指導
私人に対し行政が知識・情報を提供→私人の活動を助成
例;営農指導,経営指導,税務相談
・規制的行政指導
私人の活動を規制する機能を果たす,違法行為の是正,積極的な規制目的達成
例;違法建築物の所有者への是正命令に先立って行われる警告
産業廃棄物処理業者に対する操業自粛
・調整的行政指導
私人間の紛争を解決する機能を果たす
例;マンション建設主と周辺住民,大規模小売店舗の事業者と周辺中小小売商
#一方の紛争当事者にとっては規制的なものとして働くことがある
- 33 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
法的統制
・組織法上の根拠が必要
→ 当 該 行 政 機 関 の 所 掌 事 務 の 範 囲 に 限 ら れ る ( 行 政 手 続 法 32 条 1 項 )
・法の定めがある場合→これに抵触する行政指導は許されない
・平等原則,比例原則は行政指導に及ぶ→程度を越えた指導・勧奨は不法行為を構成
20【論点】行政指導の法律の根拠の要否
一切不要とする説(判例)
∵行政指導は非権力的な事実行為である
×行政指導の機能は多様→一律に法律の根拠を不要とすることは形式的に過ぎる
少なくとも規制的行政指導には法律の根拠を必要とする説
∵相手方の権利自由を実質的に制限することになる
×法律の不備を補い,行政需要に機敏に対応することが困難になる
手続的統制→行政手続法による
・不透明・不公正な行政指導が行われることを防止
・マンション建設の確認申請→近隣住民による建設反対
建築主が確認留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明
→話し合いによる解決まで確認を留保することは特段の事情がない限り違法(判例)
・教育施設負担金の寄付を求めるマンション建設の指導要綱
→業者が従わない場合,水道供給契約の締結を拒否することは違法(判例)
- 34 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
第6章
1
行政手続
行政手続と行政手続法
行政手続;一定の行政活動をする場合の事前手続一般
#広義;行政活動に際してとられる手続一般
→異議申立て・審査請求等,行政上の不服申立て手続のことも含む
事前手続を及ぼすことの狙い
・行政決定の民主的正当性の確保,慎重さの確保
・行政機関単独による判断よりも適切な決定が得られる可能性が与えられる
・違法な行政活動による権利侵害,既成事実の発生の予防になる
憲 法 上 の 根 拠 → 31 条
21【判例】成田新法事件
事案;成田新法に基づく使用禁止処分(建物を次の用に供することの禁止)
・暴力主義的破壊活動者の集合の用
・暴力主義的破壊活動に使用されるおそれがある物の製造又は保管の場所の用
判 旨 ; 行 政 手 続 に も 法 定 手 続 の 保 障 ( 憲 法 31 条 ) は 及 ぶ
・行政手続は刑事手続と自ずから差異がある,行政目的に応じて多種多様である
∴常に必ずそのような機会を与えなければならないものではない
事前の告知,弁解,防禦の機会を与えるか→複数の事情の総合判断で決する
・公益はその確保が強く要請されている,高度かつ緊急の必要性を有する
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21【判例】個人タクシー事件
事案;個人タクシー営業の免許申請
→聴聞手続を経ることなく,内部的審査基準に適合しないものとして却下
●事実の認定につき独断を疑われることがないような手続によって判定を受けるべき
権利が侵害されたのではないか
判旨;個人タクシー事業免許の許否→職業選択の自由に関するもの
∴独断を疑うことが客観的に認められるような不公正な手続をとってはならない
・審査基準の設定,公正かつ合理的な運用,とくに微妙,高度な認定を要する場合
→申請人に対し,必要事項の主張と証拠の提出の機会を与えなければならない
・上記基準に反する場合→法的利益の侵害あり,不許可処分の違法事由となる
22【判例】群馬中央バス事件
事案;バス会社が営業路線の延長を求め,運輸大臣に免許を申請
・運輸審議会による公聴会開催,却下が適当との答申→運輸大臣が却下
●運輸審議会の審理手続→独立・公正な手続により行われていないのではないか
判旨;諮問機関への諮問,答申を尊重して処分する法の趣旨
→行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保すること
∴諮問の経由は極めて重要な意義
・処分が違法→取消しの対象となる場合
諮問を経ない処分
答申自体に諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められる瑕疵がある場合
例;諮問機関の審理・決定の過程に重大な法規違反があること等
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行政手続法
・目的(行政手続法 1 条 1 項,以下この項目では法と略す)
行政運営における公正の確保,透明性の向上を図り,国民の権利利益の保護
#透明性;行政上の意思決定の内容及び過程が国民にとって明らかであること
・内容;処分・行政指導および届け出に関する手続に関し,共通する事項を定めたもの
#行政立法,行政上の強制執行,行政調査,行政計画,行政契約は対象外
・意見公募手続
政令・省令・審査基準・処分基準・行政指導指針についての案を作成した場合
→ 一 般 に 公 表 し , 広 く 国 民 か ら 意 見 ・ 情 報 を 募 集 す る 手 続 を 経 る 義 務 ( 法 39 条 )
・適用除外(法 3 条,4 条)
例;地方公共団体の機関が行う手続(法 3 条 3 項)
∵地方自治の尊重
#行政運営における公正の確保,透明性の向上を図るため必要な措置を講ずる義務
( 法 46 条 )
#地方公共団体が行う処分でも法律に基づくものは行政手続法が適用される
∵根拠が法律におかれている→国法が当該処分につき関心をもっているといえる
個別法に特別の定めがある場合→それに従う(法 1 条 2 項)
2
申請に対する処分に関する手続
申請;法令に基づき,
自己に対する何らかの利益を付与する処分(許認可等)を求める行為
→当該行為に対して行政庁が許否の応答をすべきこととされているもの(2 条 3 号)
#何らかの利益→行政庁の許可,認可,免許
申請前の手続
・ 審 査 基 準 を 定 め る 法 的 義 務 ( 5 条 1 項 ), 公 に し て お く 法 的 義 務 ( 5 条 3 項 )
*審査基準;申請により求められた許認可等をするかどうかを
法令の定めに従って判断するために必要な基準
公にすること→特別な支障がある場合は除く
・標準処理期間の設定→努力義務,定めた場合は公にする法的義務が発生
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申請後の手続
ア
申請に対する行政庁の審査・応答(法 7 条)
遅滞なく審査を開始・応答しなければならない
形式不備の申請→速やかに申請者に補正・申請拒否いずれかの手続を採る
・申請が到達したときには,遅滞なく審査を開始する義務が発生
→受理概念の否定,到達しても受理をしていないから審査しないという運用は不可
イ
理由の提示
申請に対し拒否する処分
→原則として同時にその理由を示さなければならない(法 8 条)
23【判例】旅券発給拒否事件
事 案 ;「 旅 券 法 13 条 1 項 5 号 に 該 当 す る 」 と の 理 由 を 付 し て 旅 券 の 発 給 を 拒 否
→理由不備ではないか
●理由を付すにはどの程度のものが求められるか
・理由を付す趣旨→判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制する
申請者に拒否の理由を知らせる→不服申し立てに便宜を与える
・発給拒否の根拠を示すだけでは十分ではない
いかなる事実関係を認定して判断したかを具体的に記載することを要する
ウ
情報の提供(法 9 条)
・審査の進行状況,申請に対する処分の時期の見通しを示すように努める義務(1 項)
申請者の求めに応じてする
・申請に必要な情報の提供に努める義務(2 項)
申請をしようとする者または申請者の求めに応じてする
エ
公 聴 会 の 開 催 ( 法 10 条 )
・公聴会の開催など,申請者以外の者の意見を聞く機会を設けるよう努める義務
申請者以外の者の利害を考慮すべきことが
当該法令において許認可等の要件とされるものを行う場合
オ
複 数 の 行 政 庁 が 関 与 す る 処 分 ( 法 11 条 )
他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中
→これを理由として自らがすべき処分をするかの審査・判断を遅延させてはならない
(1 項)
相互に関連する複数の申請
→ 関 係 行 政 庁 は 必 要 に 応 じ ,相 互 に 連 絡 を 取 り 審 査 の 促 進 に 努 め る も の と す る( 2 項 )
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3
不利益処分手続
行政庁が法令に基づき,①特定の者を名宛人として,直接にこれに義務を課し,また
はその権利を制限する処分(法 2 条 4 号)
①一般処分は不利益処分からは除外される
一般処分の例;道路交通法に基づく特定地域について交通規制を行う処分
審査基準の設定・公表
・法令の定めに従って判断するための基準(処分基準)を定め/
公 に す る よ う 努 め る 義 務 ( 法 12 条 1 項 )
・定める場合はできる限り具体的なものとしなければならない(同法 2 項)
・いずれも努力義務
∵処分の実績が乏しい場合→事前に基準を作成することが困難
∵公にすることの弊害が予想される
例;3 回目の違反で営業停止にするとの基準
→ 2 回までの違反は害がない,違反を助長するおそれ
不利益処分の理由の提示
・ 不 利 益 処 分 と 同 時 に 処 分 理 由 を 示 す 法 的 義 務 ( 法 14 条 1 項 )
理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合を除く
・ 不 利 益 処 分 を 書 面 で す る 場 合 → 理 由 も 書 面 で 示 す 義 務 ( 法 14 条 3 項 )
不利益処分をしようとする場合の手続
・聴聞または弁明の機会(簡易の手続)の付与
→不利益処分の相手方に「意見陳述のための手続」をとる必要
・聴聞が必要な場合→相手方に対する打撃が大きい場合
それ以外は弁明の機会の付与で足りる
例;許認可の取消し,資格や地位の直接的な剥奪,法人役員の解任
そ の 他 行 政 庁 が 相 当 と 認 め る と き ( 法 13 条 1 項 1 号 )
#公益上緊急に不利益処分をする必要がある場合
→これらの手続が省略されることがある(同条 2 項 1 号)
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4
行政指導手続
行政指導の一般原則
・当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならない
内 容 → 任 意 の 協 力 に よ っ て の み 実 現 さ れ る も の で あ る 必 要 ( 以 上 , 法 32 条 1 項 )
∵行政指導は処分ではない→当然の結果
#行政指導に応ずるべく説得を重ねること→一切否定されるものではない
・行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない
( 法 32 条 2 項 )
申請に関連する行政指導
・申請の取下げまたは内容の変更を求める行政指導を行う場合
→申請者が行政処分に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず
指 導 を 継 続 す る こ と で , 申 請 者 の 権 利 行 使 を 妨 げ て は な ら な い ( 法 33 条 )
許認可等の権限に関連する行政指導
・権限を有する行政官庁→許認可権を行使できない場合または行使する意思がない場合
権限を行使できる旨をことさらに示すことで
相 手 方 に 指 導 に 従 う こ と を 余 儀 な く さ せ る よ う な こ と を し て は な ら な い ( 法 34 条 )
∵行政機関が当該案件に関係がない許認可権を背景に
行政指導に従わせようとすることを禁止する趣旨
行政指導の方式
・ 行 政 指 導 を 行 う 者 → 行 政 指 導 の 趣 旨 ・ 内 容 ・ 責 任 を 明 確 に 示 す 義 務 ( 法 35 条 1 項 )
・行政指導が口頭でされる
→趣旨・内容・責任者を記載された書面の交付が求められた場合
特別の支障がない限り,これを交付しなければならない(同条 2 項)
複数の者を対象とする行政指導
・同一の行政目的を実現するため複数の者に対し行政指導を行う場合
→あらかじめ,事案に応じ,行政指導指針を定める
こ れ を 公 表 し な け れ ば な ら な い ( 法 36 条 )
∵不公平な指導を防止する趣旨
∵行政指導の指針の公開→第三者も当該指針を知りうる,透明性確保につながる
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第3編
行政救済法
第1章
行政救済法総論
行政活動が違法・不当に行われる→国民の権利侵害,一定の法的救済を与える必要
→行政救済制度の必要性,これを規律する法分野が行政救済法
1
行政争訟
行政上の法律関係に関する紛争につき,国家機関がこれを審理・判断
→違法・不当な行政活動を排除・是正を行うための制度
行政不服申立て,行政事件訴訟
2
国家補償
行政作用により国民に生じた損害を補填→金銭による救済を図るための制度
cf. 行 政 争 訟 → 違 法 不 当 な 行 政 活 動 の 排 除 ・ 是 正 を 行 う
国家賠償,損失補償
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
第2章
行政不服申立て
・行政庁の処分または不作為に対する私人の不服申立て→行政機関がこれを審査・解決
・行政不服審査法が規律
・目的;行政不服審査法 1 条(以下法と略す)
第 1条
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に
関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅
速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保するこ
とを目的とする。
機能
・当不当の判断も可能,書面審理主義(簡易・迅速な手続)
・行政自らに違法・不当な処分を是正する機会が与えられる→行政の適正な運営の確保
・裁判所の過剰な負担の回避
問題点
・行政組織内部の審査→判断の公正・中立性について疑問
・判断に慎重さを欠くおそれ
行政事件訴訟との関係
・原則;自由選択主義=行政事件訴訟の提起と行政不服申立て→いずれを行うも自由
例外;審査請求前置主義=不服申立てを経た後でなければ訴訟を提起できない場合
不 服 申 立 て の 対 象 → 行 政 庁 の 「 処 分 」 お よ び 「 不 作 為 」( 法 2 条 )
「 処 分 」 ≒ 「 処 分 性 」( 行 政 事 件 訴 訟 法 )
・行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為
・公権力の行使に当たる事実上の行為で
人の収容,物の留置その他,その内容が継続的性質を有するもの
「不作為」
・行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に
何らかの処分その他公権力の行使に当たる行為をすべきにもかかわらず,
これをしないこと
・「 処 分 そ の 他 公 権 力 の 行 使 に 当 た る 行 為 に 関 し 」 → 対 象 に 不 作 為 を 含 む 趣 旨
∵許認可などの申請に対する行政庁の握りつぶしを防ぐ趣旨
→不服申立ての対象は法令に基づく申請を経るものに限る
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
不服申立ての種類
・異議申立て;当該処分庁又は不作為庁に対してする不服申立て(法 3 条 2 項)
例;各省大臣の処分又は不作為につき各省大臣にする不服申立て
・審査請求;処分庁又は不作為庁以外の行政庁に対してする不服申立て(法 3 条 2 項)
上級庁にする場合のほか第三者的立場にある行政庁に対してするものも含む
しぶんぶきよく
例;各省大臣が地方支分部局の長に委任
→委任に基づいてした処分についての不服申立て
・ 再 審 査 請 求 ;「 審 査 請 求 」 の 採 決 を 経 た 後 , さ ら に 行 う 不 服 申 立 て ( 8 条 1 項 )
第二審の不服申立て,審査請求の裁決に不服がある者のみができる
列記主義;法律又は条例で再審査請求できる旨の定めがある場合に限る
→再審査請求の対象は法律又は条例による
対象;原処分でも裁決でもよい(不服申立人の選択に委ねられる)
異議申立てと審査請求の関係
「処分」についての不服申立て
・相互独立主義
審 査 請 求 と 異 議 申 立 て は 選 択 的 ,一 つ の 処 分 に は い ず れ か 一 つ に よ る( 法 5 条 ,6 条 )
・審査請求中心主義→処分については審査請求を行うのが原則(法 6 条ただし書参照)
∵処分庁自身による審理よりも公平・中立な判断が期待できる
上級行政庁があるとき→審査請求を行うことが原則(法 5 条 1 項 1 号本文)
#特別の定めがない限り,直近上級行政庁に審査請求をする(法 5 条 2 項)
上級行政庁がないが,審査請求ができる定めがある場合→法・条例が定める行政庁
・異議申立てによるべき例外
処分庁に上級行政庁がないとき(法 6 条 1 号)
処 分 庁 が 主 任 の 大 臣 ,宮 内 庁 長 官 ,外 局 も し く は こ れ に 置 か れ る 庁 の 場 合( 同 条 2 号 )
∵処分庁の職務上の独立性を尊重→審査請求ができない(法 5 条 1 項 1 号ただし書)
法律で異議申立てによることができるとされたとき(法 6 条 3 号)
#法律で異議申立てができる場合→原則として異議申立前置主義がとられる
( 法 20 条 1 項 本 文 ), こ の 場 合 の 審 査 の 対 象 は 原 処 分 ( 40 条 3 項 , 4 項 参 照 )
「不作為」についての不服申立て
・自由選択主義;異議申立て・直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかによる
∵事務処理の促進が狙い→一概に審査請求の方が優れているとはいえない
例外;不作為庁が主任の大臣,宮内庁長官,外局,これに置かれる庁
→異議申立てのみすることができる
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
1
不服申立ての要件
不服申立ての対象となる処分・不作為の存在
・適用除外とされているものでないこと(法 4 条 1 項ただし書)
・ 処 分 が 行 わ れ る 前 ( 法 14 条 1 項 , 45 条 参 照 )
不 作 為 に つ い て 申 請 を 経 な い 場 合 ( 法 2 条 2 項 , 49 条 2 号 参 照 )
→不服申立ては不可
不服申立ての方式
・書面提出主義;原則として書面を提出して行う(法 9 条 1 項)
∵論点を明確にする,手続を慎重にするため
・ 郵 送 で 行 う こ と も で き る ( 法 14 条 4 項 参 照 )
・行政上の不服申立てか,単なる陳述書なのか不分明な場合
→当事者の意思解釈の問題,申立て事項の内容に関わるものではない
不服申立て適格
・当事者能力;自己の名において不服申立をすることができる一般的な資格
自 然 人 ,法 人 の 他 ,代 表 者 の 定 め が あ る 法 人 格 が な い 社 団 に も 認 め ら れ る( 法 10 条 )
・当事者適格;特定の争訟において当事者として争訟を追行することができる資格
「行政庁の処分に不服がある者」→不服申立てをするだけの「利益」を有する者に限る
違法又は不当な行政処分によって,直接に自己の権利又は利益を侵害された者
不服申立期間
・期間の経過により原則として処分に対する申立てが不可能になる
除斥期間の性質がある
cf. 不 作 為 に 対 す る 不 服 申 立 て → 不 作 為 が 継 続 し て い る 限 り 行 う こ と が で き る
・ 処 分 が あ っ た こ と を 知 っ た 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 60 日 以 内( 法 14 条 1 項 本 文 ,48 条 )
処 分 が あ っ た 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 1 年 以 内 ( 法 14 条 3 項 本 文 )
・異議申立てを経た後に行う審査請求,再審査請求
→ 裁 決 又 は 決 定 が あ っ た こ と を 知 っ た 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 30 日 以 内
裁決・決定があった日の翌日から起算して1年以内
( 法 14 条 1 項 本 文 か っ こ 書 , 53 条 , 56 条 )
天災などやむを得ない理由,その他正当な理由がある場合はこの限りでない
・「 知 っ た 日 」; 社 会 通 念 上 了 知 す る こ と が で き る 状 態 に お か れ た と き
→特別の事情がない限り,知ったものと考える
#現実に知った日とする判例があるが,上記の見解を否定するものではない
例;告示その他適当な方法で公示された場合
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
不服申立庁
・ 審 査 請 求 ; 原 則 と し て 「 直 近 上 級 行 政 庁 」( 法 5 条 , 7 条 ), 審 査 庁
上級行政庁;当該行政事務に関し,処分庁を指揮監督する権限を有する行政庁
「 直 近 」; 二 重 三 重 の 上 級 行 政 庁 が あ る 場 合 , 処 分 行 政 庁 に よ り 近 接 し た 上 級 行 政 庁
例外;5 条 1 項 1 号ただし書,その他法律又は条例に定めがある場合
#直近上級行政庁があっても,それ以外の行政庁に審査請求すべきもの
処分庁に上級行政庁がない場合でも審査請求が認められるもの
・異議申立て;処分庁又は不作為庁に対してする(法 6 条,7 条)
・再審査請求;法律又は条例で定める行政庁に対して行う
処分権限の委任があった場合に認められる再審査請求→ 8 条 2 項,3 項に定め
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2
審理手続
審査請求書の提出
↓
要件審理→不備があれば補正命令,または却下
↓
本案審理
・書面審理主義
当 事 者 の 意 見 陳 述 や 証 拠 調 べ → 書 面 で 行 わ れ る ( 法 25 条 1 項 本 文 )
∵資料が確実で安定しており,審理が簡易迅速
×印象が間接的である,臨機応変な対応ができない
例外;審査請求人又は参加請求人の申立て→口頭で意見を述べる機会を与える必要
( 法 25 条 1 項 た だ し 書 , 48 条 , 52 条 2 項 , 56 条 )
・職権証拠調べ
職権で,参考人の陳述・鑑定の要求,関係物件の提出,検証,審尋を行える
∵審理の効率を高めて,審査を迅速に行うため
職権探知
→不服申立人が主張しない事実についても職権で取り上げることができる(判例)
・処分についての審査請求
審 査 庁 は 処 分 庁 に 弁 明 書 の 提 出 を 求 め る こ と が で き る ( 法 22 条 )
審 査 請 求 人 → 弁 明 書 に 対 し て 反 論 書 を 提 出 で き る ( 法 23 条 )
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
3
執行停止制度
執行不停止の原則
第 34 条
審 査 請 求 は 、 処 分 の 効 力 、 処 分 の 執 行 又 は 手 続 の 続 行 を 妨 げ な い 。( 1 項 )
不服申立てを提起することで時間稼ぎを図ることを防ぐ
→行政の円滑な運営と公益の確保
執行停止
・ 執 行 停 止 の 必 要 性 ( 法 34 条 2 項 )
処分の執行→原状回復が困難になるおそれ
・行政事件訴訟に比較し,執行停止はかなり緩やかに認められる
執行の停止に代え,その他の措置を行うことも可能
例;免許取消しに代え,営業停止処分
∵争訟の裁断機関は行政機関
・処分の効力の停止以外の措置により目的達成できる場合
→ 執 行 停 止 不 可 ( 法 34 条 6 項 , 48 条 , 56 条 )
∵包括的手段を用いるのは最後
・執行停止の取消し
公共の福祉に重大な影響又は処分の執行・手続の続行が不可能なことが明らか
そ の 他 事 情 が 変 更 し た と き ( 法 35 条 , 48 条 , 56 条 )
#内閣総理大臣の異議の制度は存在しない
ア
職権による執行停止
・審査庁又は処分庁→必要があると認めるときは執行停止を行うことができる
申立ての他,職権によることも可能
cf. 行 政 事 件 訴 訟 で は 裁 判 所 の 職 権 に よ る 執 行 停 止 は 認 め ら れ な い
∵審査庁には処分庁に対して一般的な監督権がある
#審査庁が上級行政庁でない場合は職権による執行停止不可
イ
必要的執行停止
・ 執 行 停 止 が 義 務 づ け ら れ る 場 合 ( 法 34 条 4 項 , 48 条 , 56 条 )
・不服申立人の申立て
執行の不停止により生ずる重大な損害を避けるため
緊急の必要があると認めるとき
#例外
公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき
処分の執行もしくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき
本案について理由がないとみえるとき
cf. 行 政 事 件 訴 訟 ; 裁 判 所 に 執 行 停 止 を 義 務 づ け ら れ る 場 合 は な い
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
4
裁決・決定
不服申立ての終了原因→申立ての取下げ,裁決・決定
裁 決 ; 審 査 請 求 及 び 再 審 査 請 求 に 対 す る 行 政 庁 の 判 断 ( 法 40 条 , 55 条 )
決 定 ; 異 議 申 立 て に 対 す る 行 政 庁 の 判 断 ( 法 47 条 )
却下裁決・決定,棄却裁決・決定
・却下;本案の審理を拒絶する裁決・決定
・棄却;不服申立てに理由なし→原処分を是認する裁決・決定
#事情裁決・決定→処分が違法または不当ながら棄却される
( 法 40 条 6 項 前 段 , 48 条 , 56 条 )
取消しまたは撤廃により,公の利益に著しい障害を生ずる場合
不服申立人の受ける損害,損害の賠償,防止の程度及び方法等
一切の事情を考慮したうえ,
取消し又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるとき
・この場合,審査庁(または処分庁)
→当該処分が違法または不当であることを宣言しなければならない
( 40 条 6 項 後 段 , 48 条 , 56 条 )
認容裁決・決定;不服申立てに理由がある場合
・ 取 消 裁 決 ・ 決 定 ( 法 40 条 3 項 , 47 条 3 項 , 56 条 )
処分(事実行為を除く)についての不服申立てに理由があるとき
→審査庁または処分庁が当該処分の全部又は一部を取り消す
・ 撤 廃 裁 決 ・ 決 定 ( 法 40 条 4 項 , 56 条 , 47 条 4 項 )
事実行為についての不服申立てに理由があるとき
→審査請求では,審査庁が処分庁に事実行為の全部または一部の撤廃を命じる
異議申立てでは,処分庁が当該事実の全部または一部を撤廃
いずれもその旨が宣言される
・ 変 更 裁 決 ・ 決 定 ( 法 40 条 5 項 , 56 条 , 47 条 3 項 本 文 , 同 条 4 項 本 文 )
審査請求における審査庁(上級行政庁に限る)
→処分の変更し,または事実行為を変更すべきことを命じる
異議申立てにおける処分庁→処分または事実行為を変更できる
#不利益変更禁止の原則が妥当
∵不服申立ては国民の権利利益の救済手段である
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
不作為に対する裁決・決定
・ 異 議 申 立 て の 場 合 ( 50 条 2 項 )
異 議 申 立 て の あ っ た 日 の 翌 日 か ら 起 算 し て 20 日 以 内 に
申請に対する何らかの行為をするか,書面で不作為の理由を示さなければならない
・ 審 査 請 求 の 場 合 ( 51 条 3 項 )
審査庁は,不作為庁に対して速やかに申請に対する何らかの行為をすることを命じる
裁決でその旨を宣言する
裁決・決定の方法
・書面で行う。理由を付記し,審査庁または処分庁が記名押印
( 法 41 条 1 項 , 48 条 , 52 条 1 項 , 56 条 )
・ 到 達 主 義 ; 送 達 に よ り 効 力 が 生 じ る ( 法 42 条 1 項 , 48 条 , 52 条 1 項 , 56 条 )
裁決・決定の効力
・行政行為の一般的な効力
・ 不 可 争 力 ( 形 式 的 確 定 力 ); 一 定 期 間 の 経 過 に よ り 争 う こ と が で き な く な る 効 力
・ 不 可 変 更 力 ( 実 質 的 確 定 力 ); 審 査 庁 ・ 処 分 庁 自 身 が 拘 束 さ れ る
→自ら取消し・変更を行うことができなくなる
・形成力;認容裁決・決定→当該処分は取消しを待たず,当然に効力を失う
・拘束力;裁決→審査請求人,参加人の他,広く関係行政庁を拘束する
・執行力
- 49 -
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5
教示制度
処分庁が,処分の相手方に対して,不服申立てに関する手続を教え示す制度
#教示の内容→不服申立てをなすべき行政庁,不服申立て期間
趣旨;不服申立制度の存在及び利用方法を国民に知らせる
→行政救済の制度を十分に機能させる
種類
・ 必 要 的 教 示 ( 法 57 条 1 項 )
不服申立てをすることができる処分を書面でする場合
不服申立てができる旨,不服申立てをすべき行政庁及び期間を教示する義務
・ 請 求 に よ る 教 示 ( 法 57 条 2 項 )
利害関係人から教示が求められたとき→当該事項を教示する義務
*事項;不服申立てが可能か,不服申立てをすべき行政庁,期間
書面による教示が求められたときは書面で教示する義務が発生(同条 3 項)
#地方公共団体その他の公共団体に対する処分→以上の教示は不要(同条 4 項)
方法;行政不服審査法に定めはない→特別な定めがない限り,特段の制限はない
教示に関する救済措置
ア
教 示 を 行 わ な か っ た 場 合 → 不 服 申 立 書 を 提 出 で き る ( 法 58 条 1 項 )
・処分が審査請求をすることができるとき
→処分庁は速やかに当該不服申立書の正本を審査庁に送付すべき(同条 3 項)
はじめから当該審査庁に審査請求がされたものとみなされる
#不服申立書の提出にもかかわらず教示しなかったこと
→不服申立期間を徒過したことのやむを得ない事由にあたらない(下級審判例)
教示しなかったことが処分を違法とするものではない(下級審判例)
イ
誤った教示がされた場合
・不服申立てができない処分につき不服申立てができる旨の教示
→取消訴訟の出訴期間は,却下裁決・決定があったことを知った日
ま た は 裁 決 の 日 か ら 起 算 さ れ る ( 行 政 事 件 訴 訟 法 14 条 3 項 )
∵取消訴訟の出訴期間が徒過することを防ぐ
・ 誤 っ た 行 政 庁 を 教 示 → 教 示 さ れ た 行 政 庁 に 不 服 申 立 て が 行 わ れ る ( 法 18 条 , 46 条 )
当該行政庁は速やかに不服申立書を権限を有する行政庁に送付,不服申立人に通知
この場合,初めから権限を有する行政庁に不服申立てがされたものとみなされる
・不服申立期間を誤って長く教示した場合
→教示された期間内に不服申立てをすれば,法定の期間内になされたものとされる
( 法 19 条 , 48 条 )
・処分庁が,異議申立てが可能なことを教示しなかった場合
→ 直 ち に 審 査 請 求 を す る こ と が で き る ( 法 20 条 た だ し 書 1 号 )
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第3章
行政事件訴訟
行政活動に関連する紛争についての訴えの提起→裁判所がその解決を図るための制度
・行政事件訴訟法が規律
・目的→私人の権利・利益の保護
行政の適法性の確保(客観訴訟の存在)
・法律による行政の原理→事前の統制
行政事件訴訟→事後的な審査による法的統制の徹底
・ 根 拠 ; 憲 法 76 条 , 32 条
・不服申立てとの違い→違法性判断のみ,口頭審理主義(丁寧・慎重)
#本章で特に断りがない場合,引用条文は行政事件訴訟法からのもの
1
訴訟類型
主観訴訟;国民の権利利益の保護を目的とする訴訟
客観訴訟;行政活動の適法性の確保および客観的な法秩序の維持を目的とする訴訟
# 客 観 訴 訟 は 法 律 に 定 め る 場 合 に の み 提 起 す る こ と が で き る ( 法 42 条 )
∵政策的に認められるもの
抗告訴訟;行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟(法 3 条 1 項)
公権力の行使により権利利益を侵害された者→当該作為・不作為の適否を争う
・ 取 消 訴 訟 ; 処 分 の 取 消 し の 訴 え ( 法 3 条 2 項 ), 裁 決 の 取 消 し の 訴 え ( 法 3 条 3 項 )
#裁決には決定等も含む
取 消 訴 訟 に 関 す る 定 め → 他 の 訴 訟 形 態 に も 準 用 さ れ る ( 法 38 条 , 41 条 , 43 条 )
・無効等確認の訴え(法 3 条 4 項)
処分もしくは裁決の存否またはその効力の有無の確認を求める訴訟
無効の他,不存在の確認も含まれる
・不作為の違法確認の訴え(法 3 条 5 項)
申請に対する不作為についての違法確認
#返答がある場合にはこの訴えによるわけではない
裁判所がこの訴訟形態で行政庁に何らかの作為を命じることは許されない
・義務付けの訴え(法 3 条 6 項)
処分や裁決をすべき旨を命じることを求めるもの
・差止めの訴え(法 3 条 7 項)
一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず,これがされようとしている場合
→行政庁に対して,その処分または裁決をしてはならない旨を命じることを求める
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当事者訴訟(法 4 条)
→当事者の法律関係を確認し,または形成する処分または裁決に関する訴訟
・対等な当事者間の法律関係に関する訴訟→本質は民事訴訟と変わらない
行政事件訴訟法の若干の規定が適用される,事物管轄が地裁にあるとの特徴
・形式的当事者訴訟;法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの
本質は行政庁の処分または効力を争う訴訟→実質は抗告訴訟
ただし,当事者間で争わせた方が妥当な場合がある
例 ; 土 地 収 用 法 ( 133 条 2 項 ) → 補 償 額 に つ い て の 訴 え
起業者と被収用者の間で争わせる
∵処分の効力に影響がない訴え
・実質的当事者訴訟;当事者の公法上の法律関係に関する訴訟
例 ;「 確 認 の 訴 え 」; 公 務 員 の 地 位 確 認 訴 訟 , 公 法 上 の 金 銭 債 権 の 支 払 い 請 求 訴 訟
損失補償の請求訴訟
民衆訴訟;国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟
→自己の法律上の利益に関わらない資格で提起するもの(法 5 条)
・住民訴訟,選挙訴訟,当選訴訟がその例
機関訴訟;国又は公共団体の機関相互間における
権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟(法 6 条)
・行政権内部における紛争→本来行政庁自らが決すべき問題
ただし,公平な第三者の判断を求めることが適当,法律上裁判所への出訴が可能
・例;代執行訴訟,地方公共団体の議会と首長との間の紛争をめぐる裁定に関する訴訟
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2
取消訴訟
機能→権利利益の救済,法治国家原理担保
・原状回復機能
・適法性維持機能
・法律関係合一確定機能
取 消 判 決 の 効 力 が 第 三 者 に も 及 ぶ こ と か ら 導 か れ る ( 法 32 条 1 項 )
・差止機能
・再度考慮機能
取 消 判 決 は 関 係 行 政 庁 を 拘 束 す る ( 法 33 条 )
→行政庁は判決の趣旨に従って行動すべし
・処分反復防止機能
取消判決→同一理由に基づく同一処分の反復禁止効果があるとされる
不服申立てとの関係
・原則;自由選択主義
処分の取消しの訴え→審査請求ができる場合でも,提起は可能(法 8 条 1 項本文)
・例外;不服申立前置主義
法律に不服申立ての先行を要求する定めがある場合(法 8 条 1 項ただし書)
∵裁判所の負担の軽減,専門技術的な性質を有する事項→行政による解決が望ましい
・取消訴訟と審査請求の競合
同一の処分に取消訴訟と審査請求が共になされた場合
→裁決があるまで訴訟を中止することができる(法 8 条 3 項)
∵裁判所と審査庁の判断が矛盾することを避ける
↓
訴訟の中止中
取消しの裁決があったとき,訴えの利益が消滅,訴え却下
cf. 審 査 請 求 の 裁 決 の 前 に 裁 判 所 に よ る 取 消 し の 判 決 が 確 定 し た 場 合
→取消判決の形成力による処分の失効
関 係 行 政 庁 は 判 決 に 拘 束 さ れ る ( 以 上 法 32 条 1 項 , 33 条 1 項 )
・処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟
原則;原処分主義
原処分の違法は原処分の取消しによってのみ主張可能
裁 決 の 取 消 し の 訴 え → 裁 決 固 有 の 違 法 の み し か 主 張 で き な い ( 法 10 条 2 項 )
cf. 裁 決 取 消 訴 訟 に 処 分 の 取 消 し の 訴 え を 追 加 的 に 併 合
→被告の同意不要
処分の取消しの訴えも裁決の取消しの訴えを提起したときに提起したものとされる
例外;裁決主義
特別法の定めがある場合→裁決に対してのみ出訴が認められる
#根拠は様々。たとえば裁決が実質的に最終処分の性質を有すると考えられる場合
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訴訟要件
・( 法 律 上 特 別 の 定 め が あ れ ば ) 審 査 請 求 の 前 置
・ 処 分 性 ;「 行 政 庁 の 処 分 そ の 他 公 権 力 の 行 使 に 当 た る 行 為 」( 法 3 条 2 項 ) に 限 る
「 処 分 」; 行 政 行 為
行政庁の権力的行為(例;法規,身柄拘束など権力的な事実行為)
cf. 通 達 な ど 行 政 の 内 部 行 為 , 行 政 指 導 , 非 権 力 的 事 実 行 為
→処分性は否定される
#ごみ焼却施設の設置につき処分性を否定する判例
∵処分→直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することを
法律上認められているもの,施設の設置はこれにあたらない
行政計画→処分性は場合により認められる
24【判例】行政計画の処分性
土地区画整理事業計画の処分性→否定
・計画;長期的見通しのもとに高度の行政的裁量によって一般的抽象的に決定
・利害関係者の権利への変動→具体的に確定されているわけではない,青写真的性質
計画が公告された段階では特定個人に向けられた具体的な処分ではない
権利に具体的な変動を与える行政処分ではない
土地再開発事業計画の処分性→肯定(判例)
・土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずる→市町村は収用権限を取得
・所有者等は自己の所有地等が収用されるべき地位
→対償の払渡しか建築施設の部分の譲受けか選択を余儀なくされる
・土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼす→行政処分にあたる
・現在は肯定されている
換地処分が当然に行われる,換地処分が行われる時点→事情判決になる
土地の処分が制限され,罰金も科される
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・ 原 告 適 格 ;「 法 律 上 の 利 益 」 が あ る 者 の み が 提 起 で き る ( 9 条 1 項 )
→主観訴訟であることの現れ
#原告適格が判例上認められた例
・公衆浴場法に基づく営業許可→既存業者
けいがん
・電波法に基づく競願者への放送免許→拒否処分を受けた者
∵拒否処分と他の業者への免許付与は表裏の関係にある
∵拒否処分の取消し→再検査の結果,拒否処分を受けた者への免許付与がありうる
・森林法に基づく保安林指定解除→地域住民
・定期航空運送事業免許処分→空港周辺住民
#判旨は下記論点参照
・原子炉設置許可処分→周辺住民
cf. 原 告 適 格 が 判 例 上 否 定 さ れ た 例
・質屋営業法に基づく新規の営業許可→既存業者の原告適格なし
・地方自治法に基づく町名変更→住民に原告適格なし
・景表法に基づくジュースの表示に関する規約の認定→一般消費者の原告適格なし
・埋立免許処分→周辺水面における漁業権者の原告適格なし
・鉄道業者への特急料金改定の認可→通勤定期乗車券を購入した利用者に原告適格なし
・史跡指定解除処分→遺跡研究者の原告適格なし
∵文化財の保護活用から受ける利益→個々人の利益として保護する趣旨ではない
∵文化財の学術研究者の学問研究上の利益の保護について特段の配慮もない
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2 5 【 論 点 】「 法 律 上 の 利 益 」 の 意 義
「法律上保護された利益」説(判例・通説)
・法律上保護された利益
→当該行政処分の根拠となる法規が保護した一定の私人の利益のこと
公益一般の利益を保護する行政法規によって保護される私人の利益
→法律上の利益に当たらない(事実上のもの,反射的利益)
・実定法の趣旨目的の解釈から論理的かつ一刀両断的に原告適格の存否を判断できる
∵裁判官の裁量的判断にすべて委ねるべきではない→立法者の授権に基づくべき
∵実定法を基準とした客観的な認定が可能
×行政法規の趣旨目的は一般的に信じられているほど客観的に明確ではない
×解釈により原告適格が認められる範囲が限定→権利救済が困難になる
#解釈→法文上,私益保護の意図が明確に読み取れる場合に限る等
判例;処分の根拠になった法律の法文だけでなく,法律の目的,関連法規
その他法秩序全体を考慮→原告適格をかなり柔軟かつ広範に承認する傾向
「法律上保護に値する利益」説
・現に原告が受けた不利益が裁判によって排除されるに値するほど重大であるか
→原告が現実に受ける不利益の性質,程度など利害の事態に着眼
個別具体的に訴えの利益の存否を判断する
∵現代社会における紛争の多様化,利益救済・適法性の保障の実現
× 基 準 が 不 明 確 , 10 条 1 項 と の 関 係 で 結 局 は 権 利 救 済 が で き な い
×取消訴訟を民衆訴訟として機能させることが狙い
→原則として行政訴訟を主観訴訟として構築している現行法の趣旨に適合しない
# 10 条 1 項
「 自 己 の 法 律 上 の 利 益 に 関 係 の な い 違 法 を 理 由 と し て 取 消 し を 求 め る こ と が で き な い 。」
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・訴えの客観的利益
訴訟を維持する客観的な事情・実益→狭義の訴えの利益
cf. 広 義 の 訴 え の 利 益 ; 原 告 適 格 , 処 分 性 も 含 め た 概 念
判決により侵害されていた権利や地位が回復されるようなものである必要
#原状回復が不可能→直ちに訴えの利益が否定されるわけではない
例;土地改良事業の施行の結果,原状回復が不可能と考えられる事態
→事業の施行認可の取消しを求める訴えの利益が認められる(判例)
#訴えの開始時において訴えの利益が認められる
→判例上,事情変更により訴えの利益が消滅すると認められた場合
・処分の効果が完了してしまった場合
例;建築確認の取消しを求める訴え→建築工事の完了により失われる
都市計画法に基づく開発許可の取消しを求める訴え
→工事の完了,検査済証の交付により失われる
#上記の場合→国家賠償により救済
・期間の経過により,本体たる処分の効果が完了してしまった場合
例;運転免許停止処分の取消しを求める訴えの利益
→処分後無違反無処分で1年経過し,前歴がないものとみなされる時点で失われる
#処分による名誉権の侵害→訴えの利益を認める根拠にならない
・行政処分が撤回等の事情でその効力を失った場合
例;税務署長の更正処分の取消しを求める訴えの利益→増額再更正処分により消滅
∵増額再更正処分→更正処分を取り消した上でなされる新たな処分である
・取消判決によっても原状回復が不可能な場合
例;保安林指定解除処分を争う訴えの利益
→代替施設の設置により洪水・渇水の危険が解消されることで消滅
メーデー開催のための皇居外苑使用許可申請に対する不許可処分
→ 5 月 1 日の経過により訴えの利益が消滅
・原告の死亡に際し訴訟承継が認められなかった場合
例;生活保護法に基づく保護変更決定の取消しを求める利益
→被受給者の死亡をもって消滅
処分又は裁決の効果が消滅後
→なお回復すべき法律上の利益を有する場合(法 9 条 1 項かっこ書)
訴えの利益は失われない
例;公務員が公職の候補者に立候補した後
→免職処分の取消しを求める訴えの利益は失われない
∵給料債権等の回復の利益がある
運転免許取消処分の取消しを求める訴えの利益
→免許の有効期間が経過しても失われない
∵免許の更新手続により免許を維持する利益がある
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
・被告適格
処 分 ・ 裁 決 を し た 行 政 庁 の 所 属 す る 国 又 は 公 共 団 体 ( 法 11 条 1 項 )
行政庁が国又は公共団体に所属しない場合→処分・裁決をした行政庁(同条 2 項)
訴状には処分・裁決をした行政庁を記載すべき(同条 4 項)
被告となった国・公共団体
→遅滞なく,裁判所に対し,行政庁を明らかにする義務を負う(同条 5 項)
#被告を誤った場合の救済手段
→ 原 告 の 申 立 て に よ り 裁 判 所 が 決 定 を も っ て 被 告 を 変 更 で き る ( 15 条 1 項 )
・出訴期間の遵守
∵処分や裁決の効力を長期間未確定の状態に置くことは不当
処 分 ま た は 裁 決 が あ っ た こ と を 知 っ た 日 か ら 6 か 月 ( 14 条 1 項 )
#正当な理由があるときはこの限りでない
処分または裁決の日から1年(同条 2 項)
審査請求があったとき
→裁決があったことを知った日または裁決があった日から起算(同条 3 項)
・裁判管轄
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取消訴訟の審理手続
・要件審理
→
補正または却下
不備がある
↓
・本案審理
手続の基本構造は民事訴訟と共通
民事訴訟とは異なる性質も持つ
∵訴訟の帰趨が公益に大きく関係する
・証明責任
原則;私人の自由を制限・義務を課す処分の取消しを求める訴訟→被告行政庁
私人が法的利益の拡張を求める訴訟→原告
例外;事例の特殊性を考慮し,当事者の公平を考えながら決する(学説)
#職権証拠調べが可能→証明責任が働く場面は少ない
26【論点】証明責任の所在
民事法上の法律要件分類説によるとの見解
×行政法規→行政活動のための行為規範たることに主眼を置いて定めている
証明責任の所在について十分な考慮がされていない
常に原告が証明責任を負うとの見解
∵行政行為には公定力が認められる→適法性の推定
×公定力→制度的な反射的効力に過ぎず,適法性が当然に推定されるとはいえない
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入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
・ 職 権 証 拠 調 べ ( 法 24 条 本 文 )
原則は当事者主義
当事者の主張する事実につき,証拠が不十分で心証を得難い
→職権証拠調べが可能(義務ではない,判例)
∵取扱いが公益に関わる→その処分を当事者に委ねることが不当な場合がある
当事者が主張しない事実まで探査,斟酌する職権探知は含まない
証拠調べの結果→当事者の意見を聞くことを要する
∵裁判所の専断を防ぐ
釈明処分;裁判所→行政庁に対し資料の提出を求めることができる
#資料;裁決の記録や処分の理由を明らかにする
・訴訟参加
第三者の訴訟参加;訴訟の結果により権利を侵害される第三者
→ 裁 判 所 は 訴 訟 に 参 加 さ せ る こ と が で き る ( 法 22 条 1 項 )
∵取消訴訟の効力→第三者に及び,訴訟の結果が第三者の権利利益に重大な影響
当事者,第三者の申立ての他,職権でも可能
行政庁の訴訟参加
裁 判 所 が 必 要 と 認 め る と き → 行 政 庁 を 訴 訟 に 参 加 さ せ る こ と が 可 能 ( 法 23 条 1 項 )
当事者,第三者の申立ての他,職権でも可能
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執行停止の制度
ア
執 行 不 停 止 の 原 則 ( 法 25 条 1 項 )
「処分の取消しの訴えの提起は,処分の効力,処分の執行又は手続の続行を妨げない」
仮 処 分 を す る こ と も で き な い ( 法 44 条 )
∵行政の円滑な運営の確保,濫訴の予防
イ
例 外 ; 執 行 停 止 ( 法 25 条 2 項 本 文 )
処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき
∵処分の執行等→原状回復が不可能となり,勝訴の意味が失われるおそれ
執 行 停 止 に よ っ て 公 共 の 福 祉 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ す お そ れ が な い こ と( 法 25 条 4 項 )
本 案 に つ い て 理 由 が な い と み え な い こ と ( 法 25 条 4 項 )
原告,利害関係(申立人適格)を有する第三者からの申立て→決定による
↓
決定
・確定により処分の効力,処分の執行または手続の続行の全部又は一部が停止される
・ 不 服 が あ る 者 → 高 等 裁 判 所 へ の 即 時 抗 告 が 可 能 ( 法 25 条 7 項 )
た だ し 決 定 の 執 行 は 停 止 さ れ な い ( 法 25 条 8 項 )
∵決定の意味を失わないため
・執行停止の理由が消滅するなど,事情が変更した場合
行 政 庁 の 申 立 て に よ り 執 行 停 止 の 決 定 を 取 り 消 す こ と が で き る ( 法 26 条 1 項 )
ウ
内 閣 総 理 大 臣 の 異 議 ( 法 27 条 )
・異議→執行停止決定の前後を問わず,述べることができる(同条 1 項)
・執行停止をすることができず,またはこれを取り消さなければならない
∵行政判断の適正を守るため→行政府の長に与えられた伝家の宝刀
↓
司法権の独立との関係は?異議の制度に限定を加える
やむを得ない場合に限る(同条 6 項前段)
理由を付す必要(同条 2 項)
→執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある事情を示す必要
(同条 3 項)
異議を述べた場合
→内閣総理大臣は次の常会において国会に報告する必要(同条 6 項後段)
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判決
#その他の終了原因;取下げ,放棄・認諾,和解
ア
種類
却下;本案の審理を拒絶する判決
・処分が適法と認定されるわけではない
棄却
認 容 ; 取 消 判 決( 全 部 又 は 一 部 を 認 容 → 処 分 又 は 裁 決 の 全 部 又 は 一 部 を 取 り 消 す 判 決 )
・関係行政庁に一定の処分又は裁決をすべき旨の給付判決をすることはできない
ただし,取消判決は関係行政庁を拘束する
→判決の趣旨に従い改めて処分,裁決をしなければならない
( 法 33 条 1 項 , 2 項 , 3 項 )
事情判決
・損害の賠償,損害の防止の程度等一切の事情を考慮
・処分又は裁決が違法でも請求を棄却できる
た だ し , 処 分 又 は 裁 決 が 違 法 で あ る こ と を 宣 言 し な け れ ば な ら な い ( 法 31 条 )
# 中 間 違 法 宣 言 判 決 ( 法 31 条 2 項 )
→相当と認めるとき,終局判決前に判決をもって処分が違法であることを宣言
∵行政行為を基礎として現状が変更される→新たな事実的及び法律的秩序が形成
既成事実の覆滅が公共の福祉に適合しないことがありうる
27【論点】違法判断の基準時
処分当時の法令・事実を前提として判決を行うべき(判例)
∵取消訴訟の制度=行政処分の事後審査
→行政行為が法律の定めるところに合致していたか否かを後行的に審査するもの
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イ
判決の効力
既判力
・訴訟物→処分の違法性一般
・取消判決;国家賠償請求訴訟でも当該処分が適法である旨の主張・判断は不可能
棄却判決;当該処分が適法であることの確定
→国賠訴訟等で処分の違法性を主張することは許されない
#行政庁が棄却判決の対象となった処分を撤回することは可能
∵国民に不利益がない
28【論点】違法の確認の範囲
a特定の違法原因に基づき違法であることの確認に止まるとの立場
b当該処分が違法であること一般の確認とみる立場(通説)
・具体的原因のいかんは問わない
c行政活動の違法な状態を排除することにあるとする見解
形成力;取消判決の確定→当該処分が当然に当初から効力を失う
第三者効;取消判決の形成力
→ 当 事 者 の 他 , 利 害 関 係 人 た る 第 三 者 に も 及 ぶ ( 法 32 条 1 項 )
∵法律関係を画一的に規律
例;農地の買収の取消→農地の売渡を受けた者にも及ぶ,農地返還義務の発生
# 第 三 者 → 訴 訟 参 加 ( 法 22 条 1 項 ), 再 審 の 訴 え の 提 起 が 可 能 ( 法 34 条 )
意義;利益を共通する第三者は含まない(下級審判例)
拘 束 力 ; 行 政 庁 へ の 効 力 ( 法 33 条 )
・行政庁が判決を尊重し,その趣旨に従って行動すべきことを義務づける効力
∵取消訴訟の実効性確保→行政事件訴訟法が特に判決に与えたもの(特別の効力)
・同一人に対し同一の処分をすることが禁じられる
cf. 別 の 理 由 に 基 づ い て 同 一 の 処 分 を す る こ と は 差 し 支 え な い
・判決の趣旨に従い,改めて措置を執るべき義務
申請の却下・棄却,審査請求を却下・棄却,処分・裁決が取り消された場合
→処分・裁決をやり直す
#私人が改めて申請・審査請求をする必要はない
・違法状態を除去する義務(不整合処分の取消義務)
例;租税賦課処分の取消し→後行処分である差押処分を取り消す義務が発生
- 63 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
第4章
国家賠償
違法な行政活動に起因する国民の損害を金銭に見積もって,
国・公共団体に賠償責任を負わせ,被害者の救済を図る制度
→国家賠償法が規律(本章では,法何条は国家賠償法のことを意味する)
明治憲法下→国家無答責の原則,国・公共団体の不法行為責任の否定
非権力的行政活動→民法の不法行為の定めによる責任のみ発生
↓
日 本 国 憲 法 ; 憲 法 17 条 に よ る 国 家 賠 償 請 求 権 の 保 障 , 国 家 賠 償 法 に よ る 具 体 化
→公務員の不法行為責任が一般に認められる
- 64 -
入門 講 座 柴田 ク ラス ・ 行政 法
1
公権力の行使に基づく賠償責任
第1条
①国又は公共団体の公権力の行使に当る②公務員が、③その職務を行うにつ
いて、④故意又は過失によつて⑤違法に他人に⑥損害を加えたときは、⑦国又は公共団
体 が 、 こ れ を 賠 償 す る 責 に 任 ず る 。( 1 項 )
2
前項の場合において、⑧公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共
団体は、その公務員に対して求償権を有する。
①「公権力の行使」
→営造物の設置管理作用,私経済活動を除くすべての行政活動を含む(通説・判例)
・本来は作為のこと
・立法行為,裁判作用も含む
#ただし,これらについて違法と評価される場合は極めて限定される
② 「 公 務 員 」; 国 家 公 務 員 法 , 地 方 公 務 員 法 に い う 公 務 員
公社・公団等特殊法人の職員
民間人でも公権力を行使する権限を与えられた者
例;弁護士会懲戒委員会の委員
③「職務を行うについて」→外形標準説による(判例)
④「過失」→通常の公務員に職務上要求される客観的な注意義務に違反すること
⑤「 違 法 」= 加 害 行 為 の 違 法 性 → 客 観 的 に 正 当 性 を 欠 く こ と( 厳 密 な 法 規 違 反 で は な い )
例;逃走車両をパトカーが追跡→第三者の車に衝突
→追跡が職務遂行において不要か,追跡が不相当な方法で行われた場合に違法と評価
⑥「損害」→精神的損害も含まれる。
例;処分が長期間にわたり遅延
→申請者の焦燥感・不安感を抱かされないという利益が法的保護の対象になる
⑦公務員の不法行為→国又は公共団体が責任を負う
・不法行為をしたのは公務員→法的性質は代位責任とみるのが通説
・国又は公共団体の免責の定めはない
⑧求償→公務員に故意又は重過失がある場合に限る
∵公務員に対して酷,事務執行の停滞をもたらすおそれ
∵公務を託する以上,軽過失があることはやむを得ない
- 65 -
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2 9 【 論 点 】「 公 権 力 の 行 使 」 の 意 義
狭 義 説 ;「 公 権 力 の 行 使 」 → 権 力 的 行 政 作 用 に 限 定
∵明治憲法下では権力的行政作用における賠償責任が否定
→これを認めたのが国家賠償法
広義説(通説・判例)
・営造物の設置管理作用,私経済活動を除くすべての行政活動を含む
1 条 1 項は国家賠償責任における一般法と位置づける
∵非権力的活動の利益状況→私経済関係よりは権力的活動と共通する要素が多い
∵使用者の免責の定めがある使用者責任→国賠責任による方が被害者保護になる
∵ 1 条 2 項による公務員への求償は制限的
→国賠責任による方が公務員は安心して公務に従事できる
最広義説;あらゆる行政活動を含む
∵被害者救済の点で,民法の不法行為よりも国賠法 1 条は有利
×文理・沿革に反する
30【論点】権限の不行使と国家賠償
● 権 限 の 不 行 使 → 「 公 権 力 の 行 使 」( 国 家 賠 償 法 1 条 1 項 ) に 含 ま れ る か ?
本来は「行使」とは作為
↓
ただし
法令上具体的な作為義務を負う公務員による不作為,国家賠償の対象となる
例;警官が銃刀法に基づくナイフの一時保管措置を怠る→傷害事件発生
危険物(海浜に漂着する砲弾の処理)の回収を怠る→砲弾が爆発し,死亡事故
いずれについても賠償責任を肯定する判例あり
・権限の不行使→直ちに国賠法1条の適用上違法との評価を受けるものではない
その不行使が著しく不合理と認められるとき,権限の不行使が違法と評価されうる
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31【判例】立法権・司法権の行使と国家賠償責任
在宅投票制度廃止事件
・立法行為が違法→「容易に想定しがたいような例外的な場合」に限る
・例外的な場合;立法の内容が憲法の一義的文言に違反,国会があえて立法
∵民主主義→立法は原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うに止まる
裁判官の裁判作用
・上訴などの訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在する場合
→当然に違法な行為があったとはいえない
・違法との評価;特別な事情が必要
裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて行使したと認められる事情
違法又は不法な目的をもって裁判した等
検察官の起訴
・無罪の判決が確定→逮捕・勾留,公訴提起・追行等が直ちに違法とはならない
∵逮捕・勾留はその時点で相当の嫌疑・必要性が認められる限り適法
∵公訴提起・追行もその時点における合理的な判断過程により嫌疑があれば足りる
32【論点】公務員の過失の認定
客観的過失で足りる
∵主観的な能力を基準とすると立証が困難となる
#公務員がその識見信念によって法律上の価値判断をした場合
→仮に判断が誤っていても,当該公務員に故意・過失があったとはいえない(判例)
国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ること
が必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわ
たってこれを怠る場合
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33【判例】加害公務員の特定
事案;定期健康診断における病変の見落とし→担当医師に過失があったか,医師の報
告の伝達過程に過誤があったのかが不明
判旨;下の条件を満たせば,具体的にどの公務員のどのような違法行為により
損害が発生したか,特定できない場合でも責任が発生する
ア
公務員による一連の行為のうち,いずれかに行為者の故意または過失による
違法行為があったのでなければ,被害が生じなかったという関係
イ
どの行為であるにせよ,これによる被害につき国又は公共団体が
法律上賠償責任を負うべき関係
#一連の行為が国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為ではない場合
→責任は発生しない
34【論点】公務員個人の責任
●国又は公共団体が責任を負う場合→公務員個人は被害者に直接責任を負うか?
責任を負わないとする見解(判例・通説)
∵国に求償権が存在する,国に責任を負わせれば被害者救済は達成できる
責任を負うとする見解
∵国賠法 1 条の責任を国の自己責任と構成
#下級審判例→公務員に故意又は重過失があるとき,直接の責任を認めるものあり
国
公共団体
a↓
b↓
c↓
公A
公B
公C
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2
公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任
第2条
①道路、河川その他の公の営造物の②設置又は管理に瑕疵があつたために③他
人 に 損 害 を 生 じ た と き は 、 国 又 は 公 共 団 体 は 、 こ れ を 賠 償 す る 責 に 任 ず る 。( 1 項 )
公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害
→明治憲法下でも民法の工作物責任として国・公共団体の責任は認められていた
∴ 本 条 は 確 認 規 定 , た だ し 適 用 範 囲 は 工 作 物 に 限 ら ず , 民 法 717 条 の 場 合 よ り も 拡 大
① 「 公 の 営 造 物 」; 公 物
=行政主体によって直接公の目的に供される有体物または物的施設
・およそ公の目的に供されている物,土地の工作物である必要はない
∵物について生ずる危険責任
例;警察犬,拳銃などの動産→公の営造物に含まれる
cf. 無 体 財 産 を 含 ま な い
②「設置又は管理」→国・公共団体が事実上これをなす状態にあれば足りる
(法令所定の権限に基づく必要はない,判例)
例;事実上管理を行っていた河川における転落事故
「瑕疵」
=営造物が通常有すべき安全性を欠き,他人に危害を及ぼす危険性のある状態(判例)
無過失責任
③損害の発生→要件が満たされると国に賠償責任が発生
損害の原因について責めに任ずべき者が存在する場合→国・公共団体は求償権を取得
被害者が加害公務員等に直接賠償請求をすることは不可
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3 5 【 論 点 】「 瑕 疵 」 の 意 義
●不可抗力に基づく場合は「瑕疵」にあたらず,免責
∴「瑕疵」の位置づけ→無過失責任と不可抗力を分ける概念
ただし,不可抗力によるか否かの線引きは困難
→「瑕疵」=通常有すべき安全性の解釈による
諸般の事情を総合考慮し,個別具体的に決する
事情;当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況,被害者の行為態様等
事例;校庭開放中,テニスコートの審判台→腰掛けていた者が転落
例;転落は管理者の予想できない行動に起因するもの
審判台自体の安全性に欠けるところがない→責任は否定
事例;道路の瑕疵
例;落石に対する防護柵,金網,事前の通行止めなどによる対処がない場合
故 障 し た 大 型 車 を 路 上 に 87 時 間 の 放 置
・予算不足→免責事由にならない
∵国・公共団体は施設提供者
・ 安 全 策 を 講 じ る 時 間 的 余 裕 が な い 場 合 → 不 可 抗 力 ,「 瑕 疵 」 が な い
例;夜間,通行車に標識が倒され,その直後に事故が発生した場合
・管理作用の観念も判断要素になる
例;道路の物的状況については不可抗力
しかし,災害の発生が予見できたのに,事前規制等避難対策が十分でない場合
→不可抗力とはいえない
事例;河川
・予算不足は免責事由となる
∵河川は自然界にもともと危険な状態で存在→国・公共団体は事故防止者
∵治水には多額の費用→全体的な行政上の考慮が必要
・「 瑕 疵 」 の 存 否
→同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念から
是認できる安全性が備わっているか否かをもって判断
・未改修河川;改修,整備の過程に対応する過渡的安全性をもって足りる
改修が行われていないというだけでは瑕疵があるとはいえない
→特別の事情が必要
改修計画が不合理である,早期の改修工事を施工しなければならない等
・改修済河川;改修がなされた段階で想定されていた洪水に対応できる
安全性を備えていたか
考慮すべき事情;自然的条件(過去に発生した水害の規模,発生の頻度,発生原因,
被 害 の 性 質 , 降 雨 状 況 , 流 域 の 地 形 等 ), 社 会 的 条 件 ( 土 地 の 利 用 状 況 等 )
改修を要する緊急性等
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3
その他
国家賠償責任の主体
・訴訟の被告は国・公共団体
・加害公務員の選任・監督者と俸給等費用の負担者が異なる場合
営造物の設置管理者と費用負担者が異なる場合
→どちらにでも請求可(法 3 条 1 項)
∵請求すべき相手が明らかでない場合に備えたもの
#この場合,賠償をした者は,行政組織内部において責任ある者に求償が可能
他の法との関係
・国賠法は民法の特別法→国家賠償法に定めがない場合,民法が適用(法 4 条)
共同不法行為,過失相殺,消滅時効の定め,失火責任法等
cf. 国 賠 法 の 適 用 が な い 場 合 ( 医 療 過 誤 事 件 等 ) → 民 法 に よ る 賠 償 請 求 が 可 能
・国・公共団体も安全配慮義務を負う
・民法以外の特別法がある→それが適用
例 ; 郵 便 法 68 条
相互保証主義;外国人が被害者→相互の保証がある場合に限り適用
請求手続→民事訴訟手続による
∵国賠法上の賠償請求権は私権
cf. 損 失 補 償 → 行 政 事 件 訴 訟 法 上 の 当 事 者 訴 訟 に 基 づ き 行 う
・請求に先立ち,取消訴訟等によりあらかじめ処分を取り消す必要はない
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第5章
損失補償
・国・公共団体の適法な行政活動により加えられた財産上の特別な損失
→財産的補填を行う
適法な行政活動;公用収用(公共事業のための財産の強制的取得)
公用制限(公共の利益を満たすため,特定の財産に制限を加える場合)
・一般法は存在しない
→ 個 別 的 な 法 律 の 定 め ( 土 地 収 用 法 68 条 以 下 , 道 路 法 70 条 ) の 他
憲 法 29 条 3 項 , 一 般 法 理 に よ る 規 律
個別的な法律の定めを欠く場合
→ 憲 法 29 条 3 項 を 根 拠 に 補 償 請 求 を す る 余 地 が な い わ け で は な い ( 判 例 )
補償の要否・内容
→憲法の論点参照
・補償の要否;形式的基準と実質的基準をもって判断するのが通説
・内容;完全補償が原則
補償の対象
・通常は収用若しくは制限される権利そのものを対象として補償される(権利補償)
・上記以外でも通常生ずべき損失→補償の対象となる余地がある
例;土地の一部を収用→残った部分の地価が低下した場合
( 残 地 補 償 , 土 地 収 用 法 74 条 )
収用する土地にある物件を移転するための費用の補償
( 移 転 補 償 , 土 地 収 用 法 77 条 )
・ 土 地 収 用 法 88 条 「 通 常 受 け る 損 失 」 → 補 償 し な け れ ば な ら な い
例;離作料,営業上の損失,建物の移転による賃料の損失
cf. 経 済 的 価 値 で な い 特 殊 な 価 値 ( 文 化 財 的 価 値 ) は 補 償 の 対 象 に な ら な い
・行政財産の使用許可の取消し→使用権の喪失に伴う損失は補償は不要(判例)
補償の方法
・原則として金銭補償
例 外 的 に 現 物 補 償 ( 個 々 の 法 律 に 定 め , 例 え ば 土 地 収 用 法 82 条 1 項 )
・金銭の支払い方法
被害者が数人いる場合→原則として個別的に支払う
∵被害者保護
例 外 → 一 括 払 い ( 土 地 収 用 法 69 条 等 , 格 別 に 見 積 も る こ と が 困 難 な 場 合 )
補償の時期;財産の供与と補償は当然に同時履行の関係にあるとはいえない(判例)
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