...

活況を呈するロシアの乗用車市場

by user

on
Category: Documents
23

views

Report

Comments

Transcript

活況を呈するロシアの乗用車市場
活況を呈するロシアの乗用車市場
―2003年の状況を中心に―
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口 泉
はじめに
1.市場の全般的状況
2.主要国産メーカーの状況(外資系企業を含む)
3.外国新車市場の状況
まとめにかえて
はじめに
現在、ロシアの乗用車市場では日本車の販売台数が急激に伸びており、日本メーカーのロシア
市場に対する関心度も急速に高まりつつある。そのような状況を踏まえ、本稿では、ロシアの乗
用車市場の全般的状況の他、ロシアの純国産メーカーの動向、外国メーカーによる現地生産の状
況、および、今後クローズアップされてくると予測される諸問題(質の悪いガソリンの問題、輸
入関税の問題)等についても言及する。
1.市場の全般的状況
(1)現状
ロシアの乗用車の新車市場は、大別して、①純国産新車、②外国新車(ロシア国内で組み立て
られた外国車+輸入新車)
、③輸入中古車の3つのセグメントで構成される。
ロシアの乗用車市場の規模に関しては、複数の機関が数字を発表しているが、本稿では2004年
2月3日付けのコメルサント紙等に紹介されているPricewaterhouse(以下P社)の情報をベースに
した数字を紹介しておく。
P社によれば、2003年の新車販売台数は前年より約5.5%増加し約150万台に達した。また、金額
ベースの市場規模の伸びはそれよりも大きく、前年比14%増の123億ドルに達した。
セグメント別の販売台数の増減で最も特徴的なのは、輸入中古車の販売台数の減少と、外国新
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
1
車の販売台数の伸びである。前者が約50万台から40万台に減少したのに対し、後者(グレーイン
ポート分は除く)は約11万台から約22万台(Chevrolet-Nivaを含む数字)へとほぼ倍増した。国産
新車の販売台数も微増したので、全体で販売台数が5.5%伸びたものと判断される。金額ベースで
も似通った傾向が見受けられ、外国新車の販売額は27億9,000万ドルから40億8,000万ドルに、純国
産新車の販売額は37億ドルから42億ドルにそれぞれ伸びたのに対し、輸入中古車の販売額は約42
億ドルから40億ドルに減少した。
輸入中古車の販売台数が減少したのは、2002年秋に7年落ちの中古車の個人向輸入関税が、2003
年夏に製造後3~7年の中古車の個人向輸入関税が、それぞれ大幅に引き上げられた結果である
と判断される。
輸入中古車の関税引き上げの結果、最も恩恵を被るのは純国産車メーカーであると予測されて
いたが、2003年の数字を見る限りでは、その恩恵を最も強く受けたのは外国新車セグメントであ
ったとの解釈も可能である。
(2)市場予測
市場予測についても複数の組織が数字を発表している。各組織により、数字はかなり大きく異
なるが、外国新車の販売台数が急増するという点についてはほぼ見解が一致している。
たとえば、フォードは2003年時点で約20万台である外国新車販売台数が、2006年には44万3,000
台に達するとの予測を行っている。
また、UAZを傘下におさめるセヴェルスターリ・アフト社は、純国産車の生産台数は今後横ば
いの状況が続くが、ロシアでの外国車の生産台数が今後急激に伸び、2010年には78万5,000台に達
するというかなり極端な予測を行っている1)。
ただ、希望的観測との意見も多いが、ロシア最大の乗用車メーカー「AvtoVAZ」だけは、外国
車の販売量の伸びを非常に控えめに予測している。同社の予測によれば、2008年にはロシアの新
車販売台数は現在の150万台から177万台に伸びるが、そのうち1万ドル以上の車(外国新車とほ
ぼ同義であると考えてよい)の販売台数は12万1,000台から14万5,000台への微増にとどまり、残り
はすべて1万ドル未満の車により占められるとの予測を行っている。
現在の外国車の販売台数の伸び具合を勘案するとフォードの予測が最も現実に即したものであ
るとの印象を受けるが、ロシア経済の外的環境への適応力の弱さに起因する不安定さを勘案する
と、AvtoVAZの(純国産メーカーにとっての)希望的観測が現実のものとなる可能性も完全には
否定しきれない。
2
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
2.主要国産メーカーの状況(外資系企業を含む)
(1)2003年の全般的状況
ロシアの国産メーカーは大別して2つのグループに分類することが可能である。ひとつは、純
国産の車種を生産しているメーカー群である。第1表でいえばAvtoVAZ以下ZMAまでの8メーカ
ーがその範疇に入る。もうひとつは、外国メーカーの車種あるいはそれに準じる車種を生産して
いるメーカー群で、第1表でいえばTagAZ以下の5メーカーがその範疇に入る。
前者の企業群においては、2001年末ごろから2002年秋ごろまで続いた7年落ち中古車の輸入量
の急増傾向の影響を受け、2002年の販売台数が大きく落ち込み、同年後半から2003年前半まで在
庫調整のための減産を強いられた。その後、市場での主要なライバルである7年落ちの中古車の
個人向け輸入関税率の大幅引き上げ(2002年秋実施)の効果が出始め、純国産車の売れ行きは2003
年に入り回復傾向に転じた。そして、2003年前半ごろには在庫調整が済み、2003年後半より増産
に転じたものの、2003年の通年では前年比約1.3%の減産となった。ただ、第1表には記載してい
ないが、2004年に入ってからは全般的に生産が好調で、SeAZ、ロスラーダを除くすべての企業で
前年同期と比較して生産量が大幅に伸びたようである。たとえば、AvtoVAZの2004年第1四半期
の生産量は前年同期比で27.1%伸びた。その他、IzhMash-Avtoは29.8%、GAZにいたっては約160%
も生産量が増加した。7年落ち中古車の輸入関税率引き上げの効果が今も続いていると考えてよ
いであろう。ただ、現在の好調さが今後も長期的に続くかは微妙である。鋼板の値上がりやモデ
ルチェンジの結果(ロシアの純国産車の場合、モデルチェンジを行うと必ずといってよいほど価
格が上昇する)純国産車の価格は全般的に上昇傾向にあり、今後、特にVAZ-2110に代表される純
国産車としては高価格帯に位置する車種を中心に売れ行きが低下する危険性が大きいと判断され
るからである。
一方、後者の企業群の場合、いずれもまだ生産規模が小さいものの、2003年はほぼ例外なく大
幅に生産量が伸びた。特に、生産が本格化してきたフォード・ロシアとGM-AvtoVAZで生産量が
大幅に伸びた。ただ、いずれの企業も価格が1万ドル前後もしくはそれ以上の、一般のロシア人
の感覚で言えばかなり高価な車種を中心に生産を行っているので、このまま一本調子で生産量が
伸びていくとは断言できない。あくまで私見であるが、ロシアの産業構造等を勘案すると、現在
観察されているような原材料の国際市況の好調さが長期にわたり続きでもしない限り、1万ドル
以上の車種を購入できる消費者の数が劇的に増加するとは考え難いからである。また、仮にロシ
アの消費者の購買力がさらに上昇し、外国車の販売台数が急激に伸びるというシナリオを想定し
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
3
た場合でも、輸入外車との競争というファクターを考慮する必要があろう。外国車の現地生産を
行っている企業の場合、生産車種やモデルチェンジの頻度が限定される傾向がどうしても強くな
るので、バリエーションが豊かな輸入新車と比較すると目新しさの点で見劣りする。このハンデ
ィを克服するには、価格面で大幅な割安感が必要となるが、国産の部品の品質の悪さなどもあり
割安感を長期的に維持することは必ずしも容易ではない。したがって、外国車の現地生産を行っ
ている企業の場合、少しでも価格面での戦略を間違うと売行きが不安定になる傾向は避けられな
いのではなかろうか。実際、GM-AvtoVAZなどでは、価格戦略のミスが原因で主力車の
Chevrolet-Nivaの売れ行きが早くも鈍化してきているようである。逆に言えば、フォード・フォー
カスが販売の好調さを維持できているのは、かなり大胆な実質的割引(特別為替レートの適用、
自動車ローンの金利の一部負担)を実施することにより割安感を維持できているためであるとの
解釈も可能であろう。
その他、外国車の生産を行っている工場の多くで、生産量が設計生産量に近づきつつあり、今
後急激に生産量が伸びる可能性が低くなっているという点も見逃してはならないだろう。
(第1表)ロシアの主要メーカー別乗用車生産台数の推移
(単位 1,000台)
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
AvtoVAZ
740.5
595.3
673.5
708.4
767.3
703.0
699.8
GAZ
124.8
125.4
125.5
116.0
81.0
65.6
56.8
UAZ
51.4
31.9
36.7
40.2
35.3
33.6
32.7
Moskvich
20.6
40.0
30.1
5.5
0.81
0
0
5.5
10.6
15.0
27.0
47.8
65.8
78.3
-
…
…
…
…
42.9
28.7
8.3
11.0
14.0
17.0
18.7
19.4
20.0
17.9
19.1
28.0
33.0
37.8
38.7
40.0
-
5.1
9.4
0.3
1.5
2.2
5.9
…
1.5
…
3.2
4.9
5.7
8.4
Avtoframos
-
-
1.3
0.6
…
0.15
1.3
フォード・ロシア
-
-
-
-
-
2.5
16.2
GM-AvtoVAZ
-
-
-
-
-
0.3
25.2
986
840
954
969
1,022
981
1,011
IzhMash-Avto
ロスラーダ
SeAZ
ZMA(KAMAZ)
TagAZ
AvtoTOR
ロシア全体
(出所)各種資料より。
4
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
(2)各メーカーの状況
AvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場) 同社の定款資本金は約160億ルーブル。発行済みの株式の数は
普通株が2,719万株、優先株が490万株(額面はいずれも500ルーブル)となっている(
『ヴェード
モスチ』紙、2004.2.5)
。同社はロシア最大の乗用車メーカーであるが、資本関係ははっきりしな
い。株式の約53%を同社の経営陣が複数のオフショア企業を通し保有しているといわれているが、
具体的にどの幹部がどの程度の株式を保有しているのかは明らかにされていない。その他の主要
な株主は以下のとおりである(一部株主は省略している)
:①AvtoVAZの労働集団-約18%、②外
国貿易銀行-8%、③ロシア連邦政府-2.05%、④国内証券市場流通分-約13%、⑤外国証券市
場(フランクフルトおよびベルリン)流通分-1%弱。
なお、同社は年内中にロンドン証券市場で株式をGDRの形で上場する計画を有しており、その
絡みで近々、より具体的な株主構成が公表されるとの噂も一部に存在する。
好景気の影響を直接的に受けた2001年は非常に販売が好調で、約77万6,000台の販売台数を記録
した。しかし、2002年に入り、市場での主要なライバルである7年落ち中古車の輸入台数が急激
に増加したこともあり、販売が一転して悪化し、販売台数は約67万台にとどまった(
『ヴェードモ
スチ』紙、2003.10.29)
。2003年に入ってからも不振は続いたが、同年後半より輸入中古車の輸入
量が徐々に減少していったこともあり売行きが回復し、2003年の販売台数は70万台を超えたもの
と推測される。2004年に入ってからも販売の堅調さは続いており、1~3月の販売台数は前年同
期比13.2%増の17万9,952台であった(2004年1~3月期の生産台数は17万3,866台であった)
。
同社はIAS準拠の財務諸表を発表しているが、それによると2001年は売上高が1,290億ルーブル
で純利が159億ルーブルであったのに対し、
2002年の当該の数字は順に1,194億ルーブルと11億ルー
ブルであった。純利の数字が極端に異なるのが気になるが、アナリストたちの間では、2001年の
純利の数字には債務の棒引き措置等による見かけ上の利益が含まれており、2002年の数字の方が
より実態に近いとの見解が一般的になっているようである(
『ヴェードモスチ』紙、2003.8.13)
。
AvtoVAZの車種は大別して、①2110シリーズと呼ばれる乗用車(セダンタイプの22102、21103、
ワゴンタイプの2111、ハッチバック・タイプの2112等:2003年秋時点でのモスクワ市場での小売
価格は6,500~7,800ドル)
、②サマラシリーズと呼ばれる乗用車(VAZ-2108、-2109、-21099、-114、
-1152):小売価格5,400~6,300ドル)
、③クラシックシリーズと呼ばれるVAZ-2105のプラットフォ
ームをベースとした一連の乗用車(VAZ-21043、-21053、-2107:小売販売価格3,500~3,900ドル)
、
④NIVAシリーズと呼ばれるSUV(VAZ-2121、-2131等:小売販売価格5,900~7,500ドル)の4つの
タイプに分類される。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
5
2003年のそれぞれのタイプ別の生産台数は、①が22万2,094台、②が22万400台、③が20万7,834
台、④が4万144台となっている。その他、9,417台の新モデルの試験生産が行われた。
2003年のより詳細なモデル別生産量の数字は入手できなかったので、第2表では2002年のモデ
ル別生産量をベースに、2003年初頭と同年秋時点の各モデルの小売価格(モスクワ市場での平均
価格)を比較してみる。純国産モデルに全般的に言えることだが、2003年に入り、AvtoVAZでも
各モデルの小売販売価格が急激に上昇していることが、この表からわかる。一説によれば、2003
年の1年間で、純国産新車の小売価格の平均値は5,000ドルから6,000ドルに上昇したといわれてい
る(AvtoVAZの場合は2003年中に5度値上げを実施し、価格は平均で10%上昇した)
。各メーカー
は、材料費や光熱費の高騰のため値上げを余儀なくされたと説明しているが、市場での主要ライ
バルである7年落ち中古車の輸入量の減少に便乗した値上げであった可能性も否定できない。
2004年に入ってからもVAZ車の値上がり傾向が続いており、年初から3月末までに3度、工場出
荷価格の値上げが実施されたといわれている(autonews.ru、2004.4.14:4月中に、さらに1度値
上げが実施されたという情報も存在する)
。実際、ロシアの大手自動車販売ディーラーであるアフ
トミール社の2004年4月末時点のプライス・リストを見ると、第2表に示した2003年秋時点の価
格よりも、どのモデルも約10%前後高めとなっている。VAZ車の強みがもっぱら価格の安さであ
ることを勘案すると、これは非常に危険な兆候であるといえる。
AvtoVAZは2003年4月にVAZ-21043の生産を、そして10月にはVAZ-2108の生産を中止した。さ
らに、2004年中には-2109と-21099の生産が中止される予定となっている。AvtoVAZは、これらの
モデルの生産中止による減産分を、当面は同社のモデルとしては最も新しい部類に属するサマラ
2(-114と-115)の生産量を増加させることにより補う意向を表明している。もっとも、これらは
最新モデルといっても、その実体は-2109と-21099のマイナーチェンジ・モデルにすぎない。だが、
価格は旧モデル(-2109、-21099)と比較して数百ドル~1,000ドル程度高くなっている。したがっ
て、-2109と-21099の生産中止は、モデルチェンジを隠れ蓑とした事実上の販売価格の値上げであ
るという声が一部に存在する。
さらに、同社は、2004年11月から、量産準備に数年の年月と約5億ドルを費やしたといわれて
いるBクラスの新モデル「VAZ-1117、1118、1119(Kalina)
」の量産を開始する計画を有している。
現在の計画では、2005年に年産6万台を達成した後、2007年に設計生産量の22万台を達成するこ
とが目標として掲げられている。この新モデルの市場での成否の鍵を握るのは、やはり価格であ
ろう。実際、AvtoVAZのカダンニコフ会長も、何としても価格を8,000ドル以内に抑える必要があ
ると語っている(
『ヴェードモスチ』紙、2004.2.9)
。カダンニコフ会長は、恐らく、
「ロシアの
6
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
(第2表)2002年のAvtoVAZの車種別生産量
(単位 ドル)
価格
(2003秋)
量産開始年
生産台数、
台
価格
(2003初頭)
VAZ-21043/ワゴン
1984
44,691
3,800
…
-21053/セダン
1980
23,487
3,300
3,600
-2107/セダン
1982
131,196
3,500
3,800
-2108/ハッチバック
1984
10,069
4,400
…
-2109/ハッチバック
1987
68,988
4,400
5,400
-21099/セダン
1990
74,326
4,900
5,700
モデル名/車体タイプ
-114/ハッチバック
2000
3,104
5,400
5,900
-115/セダン
2000
50,174
6,200
6,300
-21102/セダン
1997
81,346
5,800
6,500
-21103/セダン
1997
36,657
6,000
6,700
-2111/ワゴン
1998
38,584
6,000
7,400
-2112/ハッチバック
2000
58,371
6,100
6,800
-2121/RV
1977
65,261
4,300
5,900
1995
9,269
5,800
7,400
-2131/RV
(出所)
『ザルリョム』誌。
消費者の購買力はそれほど高くなく、少なくとも現時点では、8,000ドル以上のモデルが年間20万
台も売れるとは考え難い」と考えているのであろう。ただ、一部には、これまでのVAZ車の品質
を勘案すると、8,000ドルでも厳しいのではとの意見も存在するようである。いずれにせよ、純国
産車の価格が、市場が容認しうる「上限」に近づきつつあるのは確かなように思われる。
その他、AvtoVAZは、現在の2110シリーズに替わる新モデル「VAZ-2170」を2005年後半に投下
する計画を有している。
GAZ(ゴーリキー自動車工場) GAZは2000年末にルスプロムアフトという持ち株会社の傘下に
入った。当初ルスプロムアフトの持ち株比率は約60%であったが、現在はGAZの株式の75%を保
有している。ルスプロムアフトはGAZの他にも、複数のバス工場、エンジン工場、トラック工場、
建設機械製造工場、部品工場を傘下におさめている。
かつては、デリパスカ率いるバーザブィ・エレメントとアブラモビッチ率いるMillhouseがルス
プロムアフトの株式をそれぞれ37.5%ずつ保有していたが(残りの25%は傘下の工場の経営陣が
保有していた)
、現在は、バーザブィ・エレメントがすべての株式を保有している(
『ヴェードモ
スチ』紙、2004.4.16)
。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
7
GAZはヴォルガ(GAZ-3102、-3110、-31105)と呼ばれる大型の乗用車を生産している。GAZ
がルスプロムアフトの傘下に入る2000年末までは、その生産ラインはフル稼働状態で年間12万台
前後のヴォルガが生産されていた。この数字だけを見ると非常に良好な状態であったかのように
思われるが、実態は悲惨なものであった。ヴォルガの販売はほとんどすべてバーター取引を利用
して実施されており、事実上原価割れの価格で販売されるケースが大半だったのである。つまり、
生産をすればするほど赤字が膨らむという状況が生じていた(粉飾決算を行っていたので、ルス
プロムアフトの傘下に入るまでその事実は判明しなかったのだが)
。2000年末にGAZを買収したル
スプロムアフトは、2001年よりバーター取引を廃止し、きちんと利益の出る形でヴォルガを販売
するようになった。その結果、ヴォルガの小売価格は高騰し(第3表)
、同モデルの市場での競争
力は急激に低下した。それに伴い、生産量も2001年以降減少傾向にある。ただ、2004年第1四半
期の生産量は、2月以降に新型ヴォルガ(GAZ-31105)の生産が急激に伸びたこともあり、前年
同期の倍以上の2万2,181台に達した(販売台数も大幅に伸びたが、1万6,352台と生産台数をかな
り下回った)
。この状態が続くかどうかは、GAZ-31105が市場での人気を今後長期間維持できるか
否かにかかっているが、このモデルに対する専門家の評価は厳しく、
「物珍しさもあり一時的には
売れるだろうが、すぐに飽きられるだろう」との見方が優勢となっている。
なお、GAZは乗用車の他、商用車(トラック、マイクロバス)も生産している。中でも特に小
型トラック「ガゼリ」やガゼリをベースにしたマイクロバスは安定した人気を誇っており、GAZ
の屋台骨を支える主力製品となっている。2003年の同社の商用車生産量は約15万7,000台であった。
2000年は、売上高は286億ルーブルと比較的堅調であったが、過去の粉飾決算の後始末に伴う巨
額の特別損失を計上したため51億ルーブルもの赤字を出した。しかし、2001年は売上高こそ296
億ルーブルと伸び悩んだものの、4,600万ルーブルの純利を出すことに成功した。さらに、2002年
も売上高330億ルーブルとやや伸び悩んだが、経営合理化の効果が出て2億1,403万ルーブルの純
利を出すことに成功した。2003年の通年の数字は入手できなかったが、1~9月期の数字は売上
高約300億ルーブル、純利約3億7,000万ルーブルとなっていた3)。
現在販売されているヴォルガは、最も旧式のVAZ-3102(1982年に量産を開始)
、3102の後継モ
デルのVAZ-3110(1997年量産開始。外見は3102とかなり異なるが中身はほぼ同じといわれている)
、
3110のマイナーチェンジ・モデルであるVAZ-31105(2004年2月より量産開始)の3つに大別され
る。各モデルの小売販売価格の推移は第3表のとおりであるが、この表からもわかるとおり、ヴ
ォルガの場合もVAZ車同様、急激に小売価格が上昇している。
8
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
(第3表)ヴォルガのモスクワ市場での小売価格の推移
(単位 ドル)
モデル名
2000年夏
2003年初め
2003年秋
2004年春
GAZ-3102-101
5,930
7,200
…
-3102-411
4,180
4,900
6,900
…
8,200
8,200
-3102-121
…
-3110-101
4,100
5,000
6,000
…
-3110-411
4,030
4,900
5,700
…
-31105-120
-
(出所)
『ザルリョム』誌等。
-
-
7,000
IzhMash-Avto(イジェフスク自動車工場) 同社はソ連時代より続く自動車メーカーであるが、
1999年に企業グループ「SOK(サマラ統一会社)
」に買収され、その傘下に入った。その後、AvtoVAZ
で生産中止になったVAZ-2106などを主に生産するようになった。
IzhMash-Avtoの親会社であるSOKは非常に謎の多い企業で、その実態はよくわかっていない。
ただ、VAZ-2106に代表される、型は旧いものの市場での人気が根強いモデルの生産・販売権をい
とも簡単にAvtoVAZから取得している事実から判断して、AvtoVAZと水面下で繋がっている可能
性が高いとみなすのが妥当であろう。実際、関係者の間では、AvtoVAZの複数の幹部がSOKの事
実上のオーナーとなっているとの見方が優勢となっている(AvtoVAZもSOKもその事実を強く否
定しているが)
。
SOKは、IzhMash-Avtoや後述のロスラーダといったアセンブリー工場の他、アフトプリボール、
アフトスヴェート(照明器具)
、OSVAR(照明器具)
、プラスチク、アフトノルマーリ、VAZイン
テルセルヴィス(AvtoVAZにとって最大の部品サプライヤー。ブレーキ、ハンドル、暖房、サス
ペンション関連の部品約200アイテムをAvtoVAZに納入している)等の部品メーカーを多数傘下に
おさめている。その他、SOKは2003年11月に、イタリアのAutocomponent Engineeringと共同で、イ
タリアの自動車用照明器具メーカー「Av-EL SPA」を買収している。一部情報によれば、SOK傘
下のロシアの照明器具メーカー(たとえばアフロスヴェト)とAv-ELSPAが合弁企業を設立し、ロ
シアで照明器具の現地生産を行う計画が存在するようである(
『ヴェードモスチ』紙、2003.11.25)
。
1999年にSOKの傘下に入った後、しばらくはIzhMash-Avtoのオリジナル車(オダ等)だけが生
産されていたが、2001年から、AvtoVAZから部品供給を受けVAZ車(VAZ-2106)の生産も開始さ
れるようになった。その後、2003年からはVAZ-21043の生産も開始された。その結果、一時は5,000
台前後にまで落ち込んでいた年間生産量が2001年以降急激に回復し、2003年の生産量は8万台近
くに達した。同年の車種別の生産量は、VAZ-2106が約4万台、オリジナル車「オダ(Izh-2126)
」
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
9
が約3万6,000台、VAZ-21043が約3,500台であった(その他、Izh-2717とよばれる商用車が約1万
5,000台生産された)
。工場側の説明によれば、オダは年産量が11万台に達しないと採算ベースにの
らないとされており(
『アフトイズベスチヤ』誌、2004.3)
、現時点では、ロシア市場で根強い人
気を誇るVAZ-2106(現在、このモデルはIzhMash-Avtoでしか生産されていない)が、IzhMash-Avto
の屋台骨を支えているといっても過言ではないであろう。
これら3モデルの2004年春時点でのモスクワ市場での小売販売価格は、VAZ-2106が約4,100ドル、
VAZ-21043が5,200ドル、オダが3,400~3,700ドル(2003年秋時点の数字。現在は4,000ドルを超え
ているものと推測される)となっていた。
2003年秋、IzhMash-Avtoと韓国のKia社は、KiaのSpectraという乗用車のアセンブリーを
IzhMash-Avtoで実施することで基本合意に達した。計画によれば、アセンブリーは2004年秋に開
始され、同年中に約1,000台がアセンブリーされる予定になっている。その後、2005年には早くも
4万台がアセンブリーされ、2007年には年産12万台が達成される予定となっている。アセンブリ
ー用の設備はIzhMash-AvtoがKia側から購入することになっており、2004年6月末までに契約が締
結される見込みとなっている。
Spectraは1,600ccクラスの乗用車であるが、IzhMash-Avto側の発表によれば、同社で現地生産さ
れるSpectraの価格は1万2,000ドル程度と見込まれているようである。あくまで筆者の私見である
が、この価格設定では年産12万台はおろか年産4万台を達成するのも困難なのではなかろうか。
ロスラーダ 同工場も上記のIzhMash-Avto同様、SOKの傘下に入っている。SOKは1995年に設立
された会社で、当初は自動車の販売のみを行っていたが、やがて国産車のアセンブリーを開始す
る意向を固め、1998~1999年頃に、休業状態にあったサマラ州スイズランの軍需工場の敷地内に
自動車アセンブリー工場を建設した。これが、現在、ロスラーダと呼ばれている工場である。
同工場では、当初は、VAZ-2106だけが生産されていたが、2000年からはVAZ-21093の生産も開
始された。その後、2002年にVAZ-2106の生産が中止されたが、そのかわりにVAZ-2104、-2107の
生産が開始された。この2002年がロスラーダの生産のピークで、年間生産量は約4万3,000台に達
した(設計生産能力は約4万台/年といわれている)
。ただ、2003年はVAZ-2104の生産が中止さ
れたこともあり、生産量は約2万6,000台にとどまった。さらに、2004年に入ってからVAZ-21093
の生産が中止され、現在はVAZ-2107だけしか生産されていない。新しいモデルの生産開始は計画
されておらず、2004年の生産量は1万台程度にとどまるものと予測されている(
『ヴェードモスチ』
紙、2004.1.13)
。
10
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
UAZ(ウリヤノフスク自動車工場) ロシア最大の鉄鋼メーカー「セヴェルスターリ」の子会社で
あるセヴェリスターリ・アフトが、UAZの株式の66.07%を保有している。その他、セヴェルスタ
ーリ・アフトはザヴォルジエ・エンジン工場(UAZの他GAZにエンジンを供給している。2003年
には約29万台のエンジンを生産した。
)の株式の65.28%を保有している。
セヴェルスターリ・アフトの2002年の売上高は約154億ルーブル、純利は5億4,600万ルーブル
であった(IAS準拠の数字)
。2003年の数字はまだ確定していないが、販売が比較的好調だったこ
とに加え(自動車部門の販売台数は約8%、エンジン部門の販売台数は15%それぞれ伸びた)
、積
極的なコスト削減努力が行われたこともあり、売上高約192億ルーブル、純利約8億ルーブルとそ
れぞれ前年を大幅に上回ることが予測されている(
『ヴェードモスチ』紙、2004.4.8)
。
UAZの2003年の自動車生産量は約8万台で、そのうちの約40%が乗用車であった。同社の乗用
車部門は、もっぱらSUVを生産しており、これまでの主力は価格帯4,000~6,000ドルのUAZ-3151-2
や-3151-4等であった。ただ、これらのモデルは2003年末より生産が中止されており、2004年初め
より、ユーロ2対応のエンジンを装備した新しいUAZ-3151(UAZ-3151-9もしくはHunterと呼ばれ
ている)が生産されている。この新しいUAZ-3151は、部品の一部が外国製というのが「売り」と
なっているようで、小売販売価格は6,000ドル~となっている。
UAZでは、外国の部品メーカーに現地生産を呼びかけるなどして、今後も外国部品の割合を増
やすことを目指している。その成否は微妙であるが、注目すべき動きであるといえる。
Avtotor Avtotorはロシア資本の会社(ただし、同社の名目上の主要株主はオランダに登記され
た投資会社「ドーアンB.V」ということになっている)で、保税地域であるカリーニングラードの
2工場(ヤンターリとカリーニングラードブムマシ)で、BMW車とKia車のアセンブリーを行っ
ている。
(第4表)AVTOTORでのKIA車(乗用車)の主要モデル別生産量の推移
モデル名
価格、
ドル
2000
2001
2002
(単位 台)
2004
2003
1~3
Rio
12,000~
33
648
1,766
4,340
1,061
Magentis
20,000~
-
194
607
576
580
Sportage
19,000~
274
1,108
1,467
1,838
532
Carnival
24,000~
16
73
112
233
254
(注)価格は、自動車ディーラー「AVTOMIR」のHPによる。
(出所)AVTOTORのHP等。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
11
Avtotorは1997年ごろよりヤンターリ(第1工場とも呼ばれている)でKia車のアセンブリーを開
始した。その後、1999年末にヤンターリでBMW車のアセンブリーが開始された関係で、Kia車の
アセンブリーはカリーニングラードブムマシ(第2工場)で行われるようになった。
AvtotorとKiaの契約は、Avtotor側がKia側から生産設備を購入し、Kia側の技術指導を受けた後、
アセンブリーも販売も独自に行うという内容になっているようである。もちろん部品の供給はKia
から受けているのだが、支払い条件は3か月分の部品代金前払いという形になっている。Avtotor
側から見ればかなり厳しい契約条件であると言える。特に部品3カ月分の代金前払いという条件
は、Avtotorの資金繰りを非常にタイトなものとしており、2003年のように需要が大幅に伸びても、
それに見合った量の部品を購入できず、結局需要に応えられないという状況が生じやすい。Avtotor
では、この状況を打開するため、2003年末より外部投資家の資金を誘致し、部品の購入量を大幅
に増やすという措置をとった。その結果、2004年第1四半期のKia車の生産量は、前年同期の約倍
の2,442台に達した。
現在、AvtotorでアセンブリーされているKiaの乗用車はRio(中型乗用車)
、Magentis(大型セダ
ン)
、Sportage(SUV)
、Carnival(ワゴン)の4種類であるが4)、このうち車体の溶接と塗装がカ
リーニングラードで行われているのはSportage5)だけで(一部には、Avtotorはこのモデルに関して
は製造ライセンスを獲得しているとの情報も存在する)
、残りのモデルに関してはほぼ完成した車
が持ち込まれ部品の一部を取り付けるという方式が採用されているようである(
『アフトイズベス
チヤ』誌、2003.17)
。
BMWとの契約は、Kiaとのそれとはかなり異なっており、生産量の決定および販売はBMW側が
行うことになっている。その他、BMW側は、カリーニングラードにスタッフを常駐させ品質管理
も徹底的に行っている。
BMW車のアセンブリーは、1999年末よりヤンターリで行われており、2000年から2002年までは
毎年2,000台以上が生産された。しかし、2003年はBMW側の判断で、生産量が1,428台に制限され
た。2004年に入ってからも、2月まで5シリーズの生産が中止されていたこともあり(新5シリ
ーズの生産は3月より開始された)
、減産傾向が続き、同期の生産量は255台にとどまった。
Kia車とBMW車の他、AVTOTORでは近々GMの大型SUV「Hummer2」のアセンブリーも開始
する計画を有しているが、当面の生産量は年間200~400台程度にとどまる見込みである。
TagAZ(タガンログ自動車工場) ロストフ州を拠点とする新興財閥「ドンインベスト」が約3億
ドルを投下して1998年に完成させた工場で、塗装ライン、溶接ライン、組立ライン等で構成され
12
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
る。生産能力は12万台/年とされている。1998年より韓国の大宇車(Lanos、Nubria、Leganza)の
ライセンス製造を開始したが、ロシアの経済危機や大宇の経営破綻問題等があり、2000年には生
産量が300台程度にまで落ち込んだ。
その後、ドンインベストは大宇車の生産を完全に停止し、2001年5月より現代のAccentという
セダン(Cクラス)の生産を開始した(その他、一時、シトロエンのベルランゴという車6)も生
産されていた)
。第2表からもわかるとおり、2001年以降、ドンインベストの生産量は順調に回復
しており2003年には約6,000台のAccentが生産された。2004年には、Accentの他、現代のSonataとい
う大型(Eクラス)セダンの生産も開始される予定になっている(すでに3月に生産が開始された
という情報も存在する)
。ドンインベストの計画では、2004年中に約1万7,000台のAcccentと4,000
台のSonataが生産される見込みとなっている。
ちなみに、2004年春時点でのドンインベスト製のAccentの小売販売価格は1万ドル~となって
いる。また、2004年5月ごろより販売が開始されるドンインベスト製のSonataの小売販売価格は、
17,500ドル~程度に設定される予定となっている。
フォード・ロシア フォードは、1999年7月にロシア政府との間に投資協定を締結し、製造開始5
年後にローカル・コンテンツを50%以上にすることなどを条件7)として税制上および関税上の特
典を獲得し、2002年7月よりレニングラード州に建設した自社工場でCクラス乗用車「Focus」の
生産を開始した。
現地生産のFocusの小売販売価格は、当初、輸入されたFocusよりも約4,000ドルも安い1万900
ドルに設定された。その結果、購入希望者が殺到し、一時は半年以上のバックオーダーがかかる
ほどであった。その後、2003年3月に価格がドル建てからユーロ建てに変更されるという形で、
実質的値上げが実施され売行きはやや低下したが8)、2003年夏ごろより年利4.9%というロシアで
は破格の低金利ローン(外貨建て)でFocusを販売するというキャンペーンが実施されたり、かな
り大幅な値引き9)が実施されたこともあり、売行きが大幅に低下することはなかった。その結果、
Focusは2003年の外国新車の車種別販売台数でトップにたった(第6表)
。2004年に入ってからも
売行きの好調さは続いており、第1四半期には4,997台の販売を記録しトップの座を守った。
好調な販売に支えられる形で生産量も順調に伸びており、2002年には2,500台だった生産量が
2003年には1万6,000台強に達した。さらに2004年に関しては、7月より三交代制を導入し、年産
約2万7,000台を達成することを目標としているようである。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
13
アフトフラモス アフトフラモスは1998年夏にルノーとモスクワ市との間に設立された合弁企業
で、1999年より、モスクワ市の事実上の傘下にあるMoskvichから借り受けた工場でMegane、
Renault-19といったモデルのアセンブリーを行っていたが、売行き不振で2000年8月に生産を中断
した。その後、2002年に入り、ルノーは再び動きを活発化させ同年秋にはSymbolという小型(B
クラス)乗用車の現地アセンブリーを、日産10台程度の規模ではあるが再開した10)。
そして、2003年2月末に、Moskvichから買収した敷地に約2億5,000万ドル(2億5,000万ユーロ
という情報もある)を投下して本格的な新工場を建設する旨を記した協定を、モスクワ市行政府
との間で締結した。この協定に基づき、合弁企業はモスクワ市から借地代等に関する複数の特典
を獲得した。ただ、生産設備の輸入関税に関する特典をロシア政府から獲得できるか否かは微妙
となっている。
協定によれば、2005年後半よりX-90と呼ばれる小型乗用車の量産が開始される予定となってい
る。この新モデルの詳細は今のところ不明であるが、ルノー・サイドはロシアでの小売販売価格
を7,000~1万ユーロに設定したいとの意向を表明している(
『イズベスチヤ』紙、2004.3.17)
。こ
のプロジェクトの場合も、その成否は品質を維持しつつ価格をどの程度まで下げられるかにかか
っているといえよう。
GM-AvtoVAZ GM、AvtoVAZ、EBRDの3者により設立された合弁企業11)で、2002年9月より、
トリヤッチのAvtoVAZに隣接する新工場でSUV「Chevrolet Niva」の生産を開始した。
Chevrolet Nivaは、AvtoVAZが開発したVAZ-2131をベースにGMの技術支援を受け完成されたオ
リジナル車で、GMとAvtoVAZの間の契約に従い、累積生産量2万台を達成するまでは部品の65%
はAvtoVAZが供給し12)、残りの35%の部品は外資系を含む外部サプライヤーが供給することにな
っていたようである13)。ただ、2003年夏頃に累積生産量2万台を達成してからは、AvtoVAZが供
給していた部品の一部が、輸入品等に切り替えられた。説明するまでもないだろうが、これは
AvtoVAZやその他の国産部品メーカーが供給する部品の不良品率が非常に高いために取られた措
置である。ちなみに、2004年5月時点では、AvtoVAZから直接供給される部品の割合は、全体の
約47%にまで減少しているようである(
『ヴェードモスチ』紙、2004.5.31)
。
Chevrolet-Nivaの当初の生産目標は、2003年3万5,000台、2004年6万台であったが、2003年の生
産量は約2万5,000台にとどまった。2004年に関しても最近下方修正が行われ、5万5,150台という
新たな目標が掲げられた(
『ヴェードモスチ』紙、2004.3.4)14)。Chevrolet-Nivaの生産が伸び悩ん
でいる理由としては、以下の要因が考えられる。
14
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
第1に、部品の品質の悪さである。先にも述べたとおり、GM-AvtoVAZは車体をはじめとする
部品の約半分をAvtoVAZからの供給に頼っているが、その品質が悪いため生産に支障が生じるケ
ースが多発しているようである。たとえば、2003年秋にGM-AvtoVAZは、
「車体不足のため、年間
生産量を5,000台縮小せざるを得ない」という発表を行ったが、これは、AvtoVAZから供給される
車体の品質にばらつきがあり(一説によると不良品率が10%前後に達するといわれている)
、相当
量を返品せざるを得なくなったために生じた事象である。
第2に、小売価格の値上げによる販売不振である。Chevrolet-Nivaの当初の小売価格は8,000ドル
であったが、2003年3月に、それまでオプションであったフォグランプを標準装備とした上で
8,500ドルに値上げされた。さらにその後、2003年夏に価格がドル建てからユーロ建てに変更され、
ドル建ての価格が約1万1,000ドルに達した。その結果、売行きが悪くなり、2003年末には価格を
1万ドル未満(約9,600ドル)に引き下げるという措置がとられた。しかし、売行きは思ったよう
に回復せず、2004年2月には、AvtoVAZのヴィリチク社長がGM-AvtoVAZの価格戦略のミスを公
然と批判するという事態を招いた。
2003年夏に大幅な値上げが実施された理由は不明であるが、AvtoVAZから供給される部品の品
質が予想以上に悪い(より正確に言えば、品質が極めて不安定である)ため15)、一部の部品を輸
入品等に切り替えた結果、生産コストが上がり値上げを実施せざるを得なくなったのではないか
と推測される。いずれにせよ、部品の品質の問題が、このプロジェクトに大きな影を投げかけは
じめたのはほぼ確実のように思われる。
恐らくこのままでは、当初の予定どおり2005年に設計生産量7万5,000台/年を達成することは
難しいであろう。Chevrolet-Niva生産プロジェクトは、①部品の国内調達率が非常に高い、②製品
の小売販売価格が非常に安い、③設計生産量が7万5,000台と比較的大きいといった興味深い特徴
を有しており、個人的には最も成功の可能性が高い現地生産プロジェクトのひとつだと思ってい
たが、今のところやや苦戦しているとの印象を持たざるを得ない。
なお、GM-AvtoVAZは、フォード同様にロシア政府との間で投資契約を締結して、Opel-Astra
T-3000をベースとする「Chevrolet-Viva」という名称のセダンの現地生産を2005年より開始する計
画を有しているが、その詳細については次回の自動車関連レポートで紹介したい。
Moskvich 全盛時には年間約18万台の小型乗用車(Moskvich)を生産していたが、品質の悪さ
が主因で数年前より極度の不振に陥り、2002年から完全な操業停止状態にある。2003年6月に事
実上の破産状態に陥り、2004年1月から18カ月間、外部管財人の管理下に置かれることが決定し
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
15
ている。一時、既述のSOK主導で再建が行われるのはないかとの噂が出たが、結局噂のままで終
わった。現在、ZIL(リハチョフ名称自動車工場)に資産を譲渡する案が検討されているとの情報
が出ているが、ZILもそれほど業績の良い会社ではないので、常識的に考えて、その実現性はかな
り低いように思われる。このままいけば、再建が断念され、借地権を含む資産が競売にかけられ
る可能性も否定できない。
SeAZ(セルプホフ自動車工場)、ZMA(軽自動車生産工場) 前者はAvtoVAZの、後者はKaMAZの
子会社で、いずれもオカ(VAZ-11113)と呼ばれる軽乗用車を生産している。名称からもわかると
おり、オカはAvtoVAZが開発した軽乗用車で、少なくともSeAZの生産分に関しては部品も同社で
生産されている(ZMAに関しては情報を入手できなかった)
。
オカは、ロシアではあまり好まれないとされる軽乗用車であるが、約2,600ドルという価格の安
さ(2003年秋時点のモスクワ市場での価格)ゆえに安定した人気を誇っており、生産量もここ数
年漸増傾向が続いている。
オカは約20年前に生産が開始された車で、数年前よりモデル・チェンジ(新モデルはオカ2も
しくはVAZ-1121と呼ばれている)の話が定期的に出ているが、今のところ具現化されていない。
最も新しい情報(
『ヴェードモスチ』紙、2004.3.29)によれば、年内中にもAvtoVAZでオカ2の試
験生産が開始され、2006年ごろより、SeAZとZMAで生産が開始されるといわれている。また、同
情報によれば、ピーク時の生産量は2工場合計で8万~10万台/年、小売販売価格は3,000~3,500
ドル程度が想定されているとのことである。
UzDawewooAvto ウズベキスタンのアクサイ市に所在する自動車工場で、年間生産能力は約20
万台/年(16万台という説もある)とされている。周辺には合弁の部品工場が7つ存在し、部品
の現地調達も積極的に行っている。その他、ロシアのセヴェルスターリからも鋼板を購入してい
るようである。1996年に生産を開始し、1997年には6万4,000台の生産を記録したが、その後、大
宇の経営破たんなどもあり、1998年-5.4万、1999年-5万、2000年-3.07万、2001年-4.1万、2002
年-3.47万とやや伸び悩んでいる。2003年の生産量は約4万台で、モデル別生産量は、Nexia-2.4
万、Matiz-0.32万、Tico-0.6万、Damas-0.7万、Lacetti-0.03万となっている。これらモデルのう
ち、NexiaとMatizがロシアに輸出されており、2003年のロシア市場での販売台数は両モデル合わせ
て約2万台であった(2004年第1四半期の販売台数は約6,000台)
。同工場は、GMの引き受け工場
の中には含まれなかったが、2003年初頭に部品納入に関する3年契約を大宇側と結んでおり、2004
16
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
年には6万台以上の大宇車の生産を計画している。実際、2004年に入ってから生産量が急増して
おり、1~3月期の生産量は前年同期比約77%増の1万3,300台に達した。
3.外国新車市場の状況
外国新車市場(輸入新車+ロシア国内で生産されている外国車)に関しては、当会のモスクワ
事務所が発行しているメールマガジン「Rotobo Moscow News」で随時紹介しているので、本稿で
は、その概要ならびに2003年の市場拡大の一因といわれている割賦販売の状況をごく簡単に紹介
するにとどめる。また、輸入中古車市場の状況に関しては、紙面の都合もあり、本稿では割愛さ
せていただく。
(1)全般的状況
2004年2月3日付け『コメルサント』紙によれば、2003年のオフィシャル・ディストリビュー
ター経由の外国新車(ロシア国内でアセンブリーされた外国車を含む。ただし、Chevrolet-Nivaは
含まない)の販売台数は約19万6,000台で、うち約16万4,000台が輸入車であった。この他、並行輸
入された外国車が約1万8,000台あったといわれているので、2003年の外国新車の販売台数は約21
万4,000台であったということになる。
2002年の外国新車の販売台数は約11万台だといわれているので(これは並行輸入分を含まない
数字であるが、2002年の並行輸入台数は2003年の数字と大差ないものと推測される)
、外国新車の
市場規模は2003年に大幅に拡大したといえる。
市場規模が急激に拡大した最大の理由は、石油価格の高値安定を主因とする好景気の結果、国
民の購買力が向上したことにあると思われる。また、割賦販売の急激な普及や、ドル安の結果箪
笥預金されていたドルが外国新車市場に流入したことも、市場の拡大に貢献した可能性が高い。
その他、2002年秋の7年落ちの中古車の個人向輸入関税引き上げおよび2003年夏の3~7年もの
中古車の個人向輸入関税の大幅引き上げの結果、中古車の輸入量が減少したことや、国産新車の
値上げ傾向が顕著であったことも、プラス材料であったと思われる。実際、フォードは、Focusの
購入者の52%が以前国産車を保有していた人々で、36%が輸入中古車のオーナーだった人々であ
るとのデータを発表しており(
『ヴェードモスチ』紙、2003.4.29)
、国産新車市場や輸入中古車市
場から相当数の客が移行してきている可能性は非常に高いといえる。
以上列挙した外国新車市場にとっての追い風傾向は、2004年に入ってからも続いており、引き
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
17
続き外国新車の売れ行きは好調となっている。現在のような状況が続けば、2004年の外国新車の
販売台数は30万台を超えるのではとの声が一部に出始めている(
『コメルサント』紙、2004.4.12)
。
(2)メーカー別の輸入新車の販売状況
2003年のメーカー別の外国新車の販売状況で最も目立つのは、ドル安ユーロ高の影響を受け、
ドル建てで輸入販売を行っているメーカーと、ユーロ建てで輸入販売を行っているメーカーとの
間で明暗がはっきりと分かれたという点であろう。前者に属するのは、日本メーカーや韓国メー
カーで、ほとんどのメーカーが販売台数を前年の2~3倍に増やした。後者に属するのは欧州メ
ーカーで、ほとんどのメーカーで販売量の伸びが30%未満にとどまった。なかには、VWやSkoda
のように販売量が減少するメーカーすら存在した。
日本メーカーの中でもユーロ建てで輸入販売を行っていた日産だけは、販売の伸びがそれほど
顕著でなかったという事実や、欧州メーカーの中でもドル建てで輸入販売を行っていたOpelが大
幅に販売量を伸ばしたという事実からも、為替レートの問題が輸入新車の販売にいかに大きな影
響を及ぼしたかをうかがい知ることができる。ちなみに、2004年に入り、日産はドル建てでの輸
入販売に切り替えたが、その結果、同社の2004年1~3月期の販売量は前年同期比で56%伸びた。
また、同様の措置を講じたAudiの販売量も同様に37%伸びた。ただ、ユーロ建てで輸入販売を行
っているメーカーでも、現地生産を行っているフォードや、高級車に特化しているメルセデス・
ベンツなどは、ユーロ高の影響をほとんど受けなかった。
韓国メーカーのモデルやフォードのFocusは価格が全般的に安いので売行きが急増しても不思
議ではないが、Cクラスの基本仕様車でも小売価格が1万5,000ドル以上に達する日本車の売行き
が急激に伸びたのは注目に値する。たとえば、高級車種に特化したレクサス・ブランド(トヨタ)
が、後発組にもかかわらず2004年1~3月期の販売実績でBMW、Audi、メルセデス・ベンツに肉
迫してきているし、マツダのマツダ3というモデルは、何と来年2月までバックオーダーがかか
っているといわれている(
『ヴェードモスチ』紙、2004.4.12)
。その他、まだ正式な輸入が開始さ
れていないにもかかわらず、日産のMuranoというモデル(北米市場向けのSUV。ロシアでの小売
価格は6万ドル以上)が年間1,000台近くも売れているとの情報が一部に存在する(
『ルースキー・
フォーカス』誌、2004.3.8-14)
。
日本メーカーの関係者の方々の努力のたまものであると思われるが、ロシアでの日本車のブラ
ンドイメージや信頼感は極めて高いと考えてよいであろう。実際、www.autonews.ruという自動車
専門サイトが2004年4月12日から5月1日の間に、サイトを通し9,196人を対象として行った「ど
18
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
この国の車が最も信頼できるか」というアンケート調査では、67.4%が「日本車が最も信頼でき
る」と答えている(以下、ドイツ車-22.4%、国産車-3.9%、アメリカ車-1.4%、その他-2.9%
となっている)
。このサイトにアクセスする人々の大半が富裕層により占められている可能性が高
いという点を勘案しても、注目すべき調査結果であると言える。
この調査結果を見る限りでは、今後、ロシアの人々の購買力がさらに向上していけば、その恩
恵を最も強く受けるのは日本メーカーであると考えられる。
その他、これは2003年に限った傾向ではないが、比較的小さな市場であるにもかかわらず、世
界中のほとんどすべての主要メーカーが進出し、それぞれがそれなりの販売実績を挙げていると
いう点も、ロシアの外国新車市場の大きな特徴のように思われる。換言すれば、嗜好の多様性が
際立っている市場であるとの解釈も可能であろう。
(第5表)主要メーカー別新車販売台数
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004.1~3
Toyota(Lexus含む)
5,979
4,093
2,335
4,461
8,630
26,472
9,213
Ford
5,070
1,175
1,375
4,124
6,669
20,712
6,273
16,315
15,902
13,600
9,950
12,418
20,255
6,112
2,883
4,183
3,836
6,004
8,167
17,663
4,676
Hyundai
…
…
…
…
5,575
14,561
6,662
Kia
…
…
….
…
5,382
12,420
4,288
Renault
3,162
1,146
3,002
7,254
8,337
11,357
3,281
Nissan
7,292
4,098
2,536
5,286
8,026
9,470
2,950
Peugeot
1,337
604
1,428
4,246
6,984
8,782
1,682
…
…
…
…
2,865
7,318
2,638
Skoda
6,737
1,897
2,924
8,391
9,444
6,678
366
VW
4,536
3,479
3,473
7,254
6,825
6,335
1,512
Volvo
Daewoo
Mitsubishi
Opel
1,296
826
917
837
2,929
5,027
915
Suzuki
…
…
…
…
1,912
4,044
920
BMW
949
700
1,301
2,636
3,790
3,774
905
Honda
1,550
1,100
615
837
1,340
3,574
1,155
Mazda
…
…
…
…
641
1,862
923
Subaru
…
…
…
…
571
1,272
714
1,361
1,650
2,292
3,806
2,131
3,205
723
合計(概数)
7万
5万
5万
(注)数字にはChevrolet-Nivaは含まれていない。
(出所)各種資料より。
8万
11万
19.6万
…
Mercedes-Benz
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
19
(3)車種別の輸入新車の販売状況
売上げ上位20車種(第6表)のうちFocus(第1位)
、Accent(第6位)
、Symbol(第7位)
、Rio
(第9位)の4車種はロシア国内で現地生産が行われている。その他、Nexia(第2位)とMatiz
(第8位)はウズベキスタン製であり、現地生産車に近い存在であるといえる。これらの車種(販
売台数の過半を輸入車が占めるSymbolを除く)の販売台数の合計は、約4万5,000台前後に達する。
これら現地生産車種およびそれに準じる車種の最大の売りは、何と言っても価格の安さであろう
(もしくは輸入新車と比較しての割安感)
。Focusにしても、大幅な値引きや低金利ローン(金利
の一部をフォードが負担している)といった販促キャンペーンがなかったら、この販売実績は達
成できなかったかもしれない。
クラス別に見るとCクラスのモデルが圧倒的に多い。次いでBクラスの車も、その価格の手ごろ
さゆえに人気が高い。市場関係者の中には、Bクラスのモデルの潜在的需要はもっと高いと見る人
が多く、ルノーが現地生産を計画しているX-90やAvtoVAZの新モデル「VAZ-1117~1119」がいず
れもBクラスのモデルであるのは偶然ではないと思われる。また、Dクラスの乗用車も安定した人
気を示している。その他、Eクラスのモデルに対する潜在的需要も高いのであろうが、やはり価格
の高さがネックとなり、販売台数がどうしても限定されるようである。ただ、いくら値段が安い
とはいってもAクラスのモデル(軽乗用車)は人気がないようで、上位20位以内に入っているの
はMatizだけである。ちなみに、上位50モデルまでを見ていっても、ランクインしているAクラス
の車はMatiz以外には見当たらない。
次に価格帯別に見ていくと、第6表(売行き上位20モデル)を見る限りでは1万5,000ドル以下
の車が圧倒的に多いように思えるが、20位~50位までを見ると2万ドル以上の車が実に20モデル
も入っている。この関係で、全体的に見ると、2万ドル以上のモデルの占める割合は意外に大き
く、外国新車市場の約37%を占めている。以下、1万~1万5,000ドルが34%、1万5,000~2万ド
ルが16%、1万ドル未満が13%となっている(
『ルースキー・フォーカス』誌、2004.4.19-25)
。
メーカー別販売台数でトップの座についたトヨタの強みは、モデルのラインナップが豊富で、
各セグメントでトップもしくはそれに近い販売台数を記録している点であろう。特に、Eクラスの
Camryや、SUVのLand Cruiser 100が(総合の)上位20位以内に食い込んでいるのは特筆すべきこと
であると言える(第6表)
。
20
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
(第6表)2003年にロシアで最も売れた車種
クラス
2003
販売台数
2002
2004.1~3
価格1)
1.Ford Focus
C
15,876
3,572
4,997
10,620ユーロ
2.Daewoo Nexia
C
14,772
6,945
…2)
7,600ドル
3.Toyota Corolla
C
8,772
2,319
2,759
14,900ドル
4.Mitsubishi Carisma
C
7,867
4,493
136
14,990ドル
5.Toyota Camry
E
6,404
1,956
1,651
28,400ドル
6.Hyundai Accent
C
6,198
3,174
3,126
10,590ドル
7.Renault Symbol
B
5,741
4,417
1,704
8,850ユーロ
8.Daewoo Matiz
A
5,533
4,354
…
6,200ドル
9.Kia Rio
B
5,479
1,766
1,957
10,500ドル
10.Hyundai Getz
B
4,132
312
1,342
9,790ドル
11.Peugeot 307
C
3,976
2,596
994
13,430ユーロ
12.Renault Megane
C
3,934
2,904
694
13,390ユーロ
13.Skoda Octavia
D
3,898
5,129
…
13,100ユーロ
14.Opel Astra
C
3,859
1,722
1,487
13,449ドル
SUV
3,047
1,635
949
39,900ドル
16.Nissan Primera
D
3,041
2,041
948
20,900ドル
17.VW Passart
D
2,994
3,603
597
25,000ドル
18.Peugeot 206
B
2,787
2,208
522
11,000ユーロ
D
2,770
1,698
506
18,780ユーロ
15.Toyota Land Cruiser 100
19.Ford Mondeo
3)
2,759
C
20.Mitsubishi Lancer
15,490ドル
2,758
(注)1)2004年2月3日付けコメルサント紙より。価格は標準装備車のもの。2)Daewoo
車の2004年1~3月期の販売台数はNexiaとMatiz合計で6,112台。3)新型Lancerのロシアでの
販売は2003年夏より開始された。
(出所)各種資料より。
(4)割賦販売システム
割賦販売の普及も、外国新車の販売台数の増加に大きな貢献をしたとの見方が一般的となって
いる。より具体的に言えば、2003年に入り、金利の低下、頭金の割合の低下、審査の迅速化、融
資期間の長期化といった傾向が顕著となり、2002年には大都市部における新車販売に占める割賦
販売の割合は10%程度だったものが、2003年には20~30%に達したといわれている(
『ヴェードモ
スチ』紙、2003.12.11)
。ロシア全体で見ても、外国新車の販売の約10~15%を割賦販売が占める
といわれている(
『ヴェードモスチ』紙、2004.1.27)
。
外国新車販売にとって割賦販売の持つ意味は、今後、ますます大きくなると思われるので、そ
の現状と今後の展望についてごく簡単に紹介しておく。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
21
ロシアの割賦販売方式の基本的スキーム ロシアでは自動車購入者は、メーカーもしくは販売
会社の指定する銀行と融資契約を結び、その銀行から獲得した資金で自動車を購入するという形
態がとられている。自動車購入者用の融資を行う銀行の数は、現在約20行に達しているといわれ
ている(
『ヴェードモスチ』紙、2003.12.11)
。
金利 外貨建てのローンの場合、2003年初めごろは年利16~18%が普通であったが、春ごろに
は12~14%にまで下がり、現在では9~10%の条件を提示する銀行も存在する(主として外資系
の銀行)
。ただ、税金の問題16)や貸し倒れリスクの問題等が存在し、今後しばらくは、外貨建ての
ローンの金利が9%以下になる可能性は低いというのが一般的な見方となっている。
先にフォードのFocusを割賦販売で購入する場合には、年利4.9%の自動車ローンが適用されると
書いたが、この場合も銀行の貸し出し金利自体は9%以上で、フォードが金利の一部を負担して
いるので4.9%という数字が達成されていると推測される。金利が9%未満の外貨建て自動車ロー
ンの場合は、ディーラーかメーカーが金利の一部(もしくはすべて)を負担しているケースがほ
とんどであると考えてよいのではなかろうか。
ルーブル建ての自動車ローンの場合は、2003年初頭ごろは年利30%前後が標準的であったが、
現在は20%を大きく割り込むケースも見受けられるようになっている。中には、現在の中銀のリ
ファイナンス金利である14%を大きく下回るケースも見受けられる。ルーブル建てのローンの場
合も、極端に金利が低いものについては、ディーラーもしくはメーカーが金利の一部(もしくは
すべて)を負担していると考えてよいと思われる。
頭金 自動車の小売価格の30%を頭金として前納するというのが、ロシアの自動車ローンの最
も一般的な条件となっている。ただ、一部には、グタ・バンクやプロムビジネスバンクのように
頭金20%で融資を行っている銀行や、第1OVK銀行のように頭金10%で融資を行っている銀行も
存在する。ただ、恐らく、この場合(頭金が少ない場合)は、金利が通常よりも高くなるものと
推測される。逆に、通常よりも低い金利で融資が実施されている場合は、頭金の額が大きくなる
のが普通である。たとえば、年間4.9%の金利が採用されているFocus購入用のローンの場合は、小
売販売価格の50%以上を頭金として納付することが義務付けられている。
融資期間および審査期間 融資期間は1~3年が標準となっているが、Raiffeisenbankのように
一部の車種に限定して最大5年の融資期間を設定している銀行もある。かつては、融資の審査に
22
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
2週間以上かかるのが普通であったが、最近は審査期間の短縮化が進んでおり、数日での審査終
了が一般的となりつつある。
まとめにかえて
ロシアの乗用車市場が拡大基調で推移しているという見方で間違いないと思うが、不確定要素
や問題点がかなり多い市場であるとの印象も拭いきれない。以下では、今後の調査の方向性を確
認する意味もあり、それらロシアの乗用車市場における不確定要素や問題点を列挙し、まとめに
かえさせていただきたい。
なお、これらの不確定要素や問題点に関しては、今年度中に特別調査を実施し、それを年度末
調査報告書としてまとめる予定であるので、詳細についてはその報告書のほうをご参照いただき
たい。
関税問題 2004年の4月初めごろまでは、ロシアは、EUとの協議の中で、WTO加盟の条件とし
て、輸入新車の関税を現行の25%から35%に上げることを主張していた。より具体的に言えば、
WTO加盟後5年間の移行期を設け、その間は関税を35%に設定し、5年が経過した後に徐々に関
税率を引下げ、WTO加盟後10年目に関税率を5~10%にすることを目標とする、との見解を示し
ていた。
ところが、2003年4月26日にロシアのガゼータ紙が、
「フラトコフ首相がプロディEU委員長に
対し、輸入新車の関税の25%から35%への引き上げ要求を取り下げ、逆に20%に引き下げること
を約束した」との情報を流した。さらに、同紙は、「産業エネルギー省が、ロシア国内での外国
車アセンブリー用部品の輸入関税を3%にまで引き下げるべきであるとの提案を行った」と報じ
た。
注目すべきニュースであるといえる。この後、5月末に、グレフ経済発展貿易大臣も、「政府
には外国製新車の輸入関税を引き上げる意向はない」という主旨の発言を行ったようなので(『ヴ
ェードモスチ』紙、2004.5.28)、新車の輸入関税が35%に引き上げられる可能性は低くなったと
考えてよいであろう。ただ、輸入新車や部品の関税の引下げについては、今のところ、今後の動
向の判断材料となりうるような明確な続報を入手できていない。言うまでもないが、関税の問題
は、ロシアの自動車産業の今後に大きな影響を及ぼすファクターのひとつであるので、引き続き
トレースを続けたいと思っている。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
23
ガソリンの問題 ロシアではガソリンの質が非常に悪いといわれている。特に問題視されている
のは、主として輸入車用に使用されるAI-95という高オクタン価のガソリンである。ロシアでは、
AI-92のガソリンにガスコンデンセートを添加しオクタン価を上げるという方法を採用している
製油所が多いのだが、ガスコンデンセートに含まれている鉄分がエンジンの故障(特にプラグ)
につながる事例が数多く観察されている。また、ロシアでは、ガスコンデンセートの他にも、オ
クタン価を上げるために鉄やマンガンをベースとした添加剤が使用されることが多く、それが故
障の原因となっている可能性も存在する。
その他、モスクワなどでは密造されたガソリンはあまり出回っていないようだが、地方部では、
4エチル鉛やフェロセンを大量に使用してオクタン価を上げた密造ガソリンが、外国車の故障の
原因となっているケースも多いといわれている。地方での外国車の販売台数が増加するにつれ、
ロシアのガソリンの質の問題は大きくクローズアップされてくるものと予測される。当会では、
この問題に関しても、調査を行いたいと考えている。
部品の問題 GM-AvtoVAZやフォードの現地生産の状況を見ていると、両者ともロシア国内で
の部品の調達に苦労しているとの印象が強い。たとえば、フォード・ロシア/CISの部品買付け担
当責任者のジョン・ビルケット氏は、
「多くのロシアの部品メーカーは国際水準の製品を生産する
能力を有している。西側のマーケットでも通用する可能性がある。しかし、本格的な大量生産に
移行してもその品質を維持しうるとの絶対的確信はもてない。もうひとつの困難さは、ロシア企
業の場合、コンピューター・ソフトや技術を利用した技術的対応ができないことが多いという点
である。たとえば、ロシアのサプライヤーは図面を頼りに部品用の型を作成している。しかも、
常に正確に作成されるとは言い難い。したがって、既存の部品に修正を加える場合、それがわず
かなものであれ対応できないことがある。その他、GOSTと我々の規格の間のギャップという問題
も存在する」と語っている。この発言を読むと、フォードが現地生産のFocus用に調達している部
品が、今のところ、サイド・ガラス、フェンダー、バッテリー・カバー、アンテナ、エンジン用
フィルター、シートの布、ゴム製カーペット、ウインド・ウオッシャー液等、メイン部品とは言
い難い部品に限定されている事情がわかるような気がする。
ロシアの部品メーカーの技術レベルを上げなければ、外資による乗用車の現地生産も発展しな
いであろうし、ロシア国産の自動車の品質の向上もあり得ない。その意味で、最近、外資系の部
品メーカーの数が少しずつではあるが増えてきているのは喜ばしいことであるといえる17)。ただ、
このコンテキストで考えていくと、部品の輸入関税を3%に引き下げるという産業エネルギー省
24
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
の提案の意図が理解し難い。投資契約を結ばず現地アセンブリーを行っている外資系企業にとっ
ては朗報かもしれないが、投資契約を結びローカルコンテンツに関わる義務を負っているフォー
ドなどにとっては、決して好ましいことではないのではなかろうか。産業エネルギー省は、部品
の大半を輸入して組立だけを行う自動車会社を育成しようというのであろうか。情報が不足して
いることもあり、今のところ筆者には産業エネルギー省の意図が読めない。
このような背景を踏まえた上で、ロシアの自動車部品産業の現状および今後の展望について(特
に外資系メーカーの動向について)も調査を実施し、報告書の内容に反映できればと考えている。
純国産車の値上がり傾向 最近、モデルチェンジに伴う純国産車の値上がり傾向が顕著となっ
てきている。このまま一本調子で価格が上昇していけば、ロシアの乗用車メーカーは、市場を現
地生産の外国車や輸入車に奪われ、苦境にたたされるであろう。そのような事態を回避するため
にロシアの乗用車メーカーがどのような措置(ロビー活動を含む)を講じてくるのかといった点
や、各社が今後発売を予定している新モデル(特にAvtoVAZのVAZ-1117、1118、1119(Kalina)
)
のコストパフォーマンス等についても調査を行えればと考えている。
その他 ルーブル高ドル安の傾向が顕著であったことも、2003年のロシア乗用車市場の活況の
一因であったと判断されるが、その意味で、今後、ロシア政府がどのような為替政策をとってく
るのかについても注目する必要があると思われる。ルーブルが強くなりすぎてロシア経済に悪影
響を及ぼす可能性を危惧する声が一部で強まりつつあるからだ。
その他、割賦販売が今後どの程度普及していくのか、あるいは、地方の市場が今後どの程度成
長していくのかといった問題についても、可能であれば詳細に調査を行いたいと考えている。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
25
【注】
1)あくまで個人的な見解であるが、ロシアの乗用車市場の規模、部品調達の困難さ等を勘案すると、今後
6年間で、ロシア国内で生産される外国車の数が10倍以上にも達する可能性は極めて低いと判断される。
2)-114と-115は「サマラ2」と呼ばれている。
3)未確認情報であるが、その後2003年第4四半期に約3億ルーブルの特別損失を計上したとの情報が一部
に存在する。この情報が本当であれば、2003年のGAZの純利額は前年を下回る可能性が高い。
4)Avtotorでは、乗用車の他、Predgio、小型トラックK270011、K3000S、K360011といったKIAの商用車のア
センブリーも実施されている。
5)一部情報によれば(
『ヴェードモスチ』紙、2004.1.19)
、Kia本体はSportageの生産を中止する意向のよう
である。またAvtotorは、Sportageの部品の一部の現地生産も視野に入れているようである。
6)ドンインベスト・オリオンという名称で販売されていた。
7)この投資契約は、1998年にロシアの自動車分野への直接投資誘致を目的として出された大統領令(2月
に発令された大統領令135号「国内自動車産業発展のための投資誘致に関する補足的措置について」
)およ
び同名の政府決定(4月に出された政府決定第413号)に基づくものである。この大統領令および政府決定
の骨子は以下のとおりである。
①投資総額が最初の5年間で15億ルーブルを超える自動車あるいは自動車部品生産プロジェクトで、プ
ロジェクト開始後5年で、ローカルコンテンツが50%を超えるものが優遇措置の対象となる。
②当該プロジェクトに外資が参加する場合には、外資の当該合弁企業もしくは現地法人への出資額は1
億5,000万ルーブル以上でなければならない。
③優遇措置は、プロジェクト実施期間中(最高7年とする)
、ロシア国内の当該生産施設を保税倉庫扱い
とし、さらに、そこで生産される製品をロシア原産のものと認めるという形で具現化される。
8)この事実上の値上げは、バックオーダーを減少させることを目的として実施されたという説も存在する。
実際、この措置の後、6カ月以上に達していたバックオーダーが約3カ月に減少した。
9)これらの措置は、時限的なものだといわれていたが、今も実施されているようである。値引き額につい
ては諸説があり、900ユーロの値引きが実施されているという説(
(
『コメルサント』紙、2004.2.3)や、中
銀のレートよりも1ユーロあたり4ルーブル分ルーブル高の特別レートを適用するという形の値引き(支
払いはルーブルで行われる)が行われているという説(
『コメルサント』紙、2004.4.12)が存在する。
10)2002年のSymbolの生産量は149台、2003年は1,343台であった。
11)出資率はAvtoVAZとGMが各41.5%、EBRDが17%となっている。
12)AvtoVAZ経由で供給される部品と表現するほうが正確かもしれない。つまり、必ずしもAvtoVAZ自体が作
った部品という意味ではなく、AvtoVAZ系の部品メーカーが製造した部品も含まれるものと推測される。
なお、GM-AvtoVAZは、主としてAvtoVAZをはじめとする国産の部品を使用したChevrolet-Nivaの他、Opel
のエンジン(FAM-1)や日本のメーカーが開発したプロペラシャフトを使用したChevrolet-Nivaを生産する
計画も有している。当初、この外国製エンジン等を使用したChevrolet-Nivaはもっぱら輸出に供されるとい
われていたが、最新の情報によれば、当面は国内市場に供給されることになりそうである(
『ヴェードモス
チ』紙、2004.5.31)
。また、同情報によれば、GM-AvtoVAZは外国メーカー開発の部品の比率を大幅に増や
した新型「Chevrolet-Niva」の開発を検討しているようで、Opelのエンジン等を搭載したChevrolet-Nivaが、
その原型と目されているような印象を受ける。
13)AvtoVAZ以外の部品サプライヤーとしては、RAC(クラッチ)
、ルレヴィエ・システムィ(ステアリング・
システム)
、Lukas(ブレーキ・サーボ)
、チェリャビンスク・プラスチク(エンブレム)
、F-Design、KIK(軽
合金ディスク)
、Frenzelit(パッキング)
、アフトバズアグレガト(シート)
、SKK/Packard(ケーブル)
、ス
26
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
ィズランプラスチク(ドアウエザーストリップ)
、Automotive Lighting(フォグランプ)
、Decorative Plastics
(エンブレム)等の名を挙げることができる。
14)AvtoVAZのヴィリチク社長は、2004年の生産目標を4万台にまで引き下げるべきであるとの見解を示して
いる(RBC、2004.2.10)
。
15)あくまで筆者の憶測であるが、小ロットの試験生産の段階ではあまり問題がなかったのに、大量生産の
段階になった時点で各部品の不良品率が増加するといいった類の事象が生じたのではなかろうか。
16)外貨建ての自動車ローンの金利が9%を下回ると、利益の供与とみなされるようで、適用金利と9%の
間の差数に対し35%の税金が課せられるようである。たとえば、年利2%が適用された場合、7%分の金
利総額の35%が税金として徴収されるようである。ロシアでは全般的に金利が高いので、外貨建ての金利
が9%未満というは、常識外に低い金利とみなされるのであろう。
17)たとえば、米国のTenneco Automotiveが2003年10月よりトリヤッチでマフラーの生産を開始した。当初の
投資額は300万ドルで、年間15万のマフラーの生産を目指す(最終的な目標は年産50万)
。生産されたマフ
ラーはGM-AvtoVAZに納入されるが、フォード、ルノー、Kiaとも納入交渉を行っているとのことである。
その他、外資系の部品メーカーとしては、①イタリアのAutocomponent Engineeringがスイズランのプラス
チック社との間に設立した合弁企業(エアバッグ付ハンドル)
、②ボールガラス工場(サイドガラスをフォ
ードに納入。将来的にはフロントガラスも納入予定)
、③Boshサラトフ(サラトフのプラグ工場の敷地内に
生産設備を有しており、ガソリンエンジン制御装置、バキュームセンサーなどを生産している)
、④PEK/
SKK(GMとロシアのサマラ・ケーブル工場が設立した合弁企業。現在、GMから分社したDelphi社がGM
のシェアを引き継いでいる。ワイヤリング・ハーネスを生産している)
、⑤Briskオゼルスク(チェコのBrisk
Tabor社は約300万ドルを投下してカリーニングラードのオゼルスクに現地工場を建設。プラグの生産が行
われている)
、⑥AVTEL(カルーガのエンゲリスに所在するロシア資本のメーカー。Siemensの燃料ランプ
のライセンス製造を行っている)等の名を挙げることができる。
ロシア東欧貿易調査月報 2004 年6月号
27
Fly UP