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第5章 オープン・エコノミーの マクロ経済学
第5章 オープン・エコノミーの マクロ経済学 国際収支統計 国際収支表: ある国の居住者と外国の居住者の間で行わ れたすべての経済的取引を体系的に記録 1)経常収支 2)資本収支 3)外貨準備増減 1) 経常収支=貿易・サービス収支+所得収支 +経常移転収支 貿易・サービス収支=貿易収支+サービス収支 貿易収支:一般商品の輸出・輸入に計上される取引 サービス収支:サービスの輸出・輸入に計上される取引 1.輸送,2.旅行,3.通信,4.建設,5.保険, 6.金融,7.情報, 8.特許等使用料,9.その他営利業務(貿易関連サービスな ど),10.文化・興業(映画・音楽・スポーツ・娯楽など),11.公 的その他サービス 所得収支:非居住者への雇用者報酬,投資収益(直 接投資収益,証券投資収益,貸付利息,預金利息な ど) 経常移転収支:売買を伴わない消費財に関わる所得 移転(援助,国際機関への拠出金,母国への送金な ど) 2) 資本収支=投資収支+その他資本収支 投資収支=直接投資+証券投資+その他の投資 直接投資:政府・民間の対外投資,外国居住者の対内投資 証券投資:証券投資などの収益 その他の投資:輸出入に伴う長期信用,借款,国際的貸借な ど その他資本収支:資本移転収支(資本形成のための 無償資金援助),特許権・著作権などのその他資産 3) 外貨準備増減 まとめると 経常収支+資本収支=外貨準備増減 経常収支 125.763 貿易・サービス収支 74.299 貿易収支 125.634 所得収支 62.062 サービス収支 -51.337 経常移転収支 -10.595 資本収支 -91.243 投資収支 -81.296 直接投資 -25.039 その他資本収支 -9.947 証券投資 -40.567 その他投資 -15.688 図5-1 国際収支統計 為替レートと国際通貨制度 外国為替市場 為替レート 円を売って外貨を買う,外貨を売って円を買う市場 外国為替市場で決定される日本円と外国通貨の交換 比率 国際通貨制度 固定相場制:為替レートが固定 変動相場制:為替レートが外国為替市場を通じ て変動 クリーン・フロート:為替レートの完全に自由な決定 ダーティ・フロート:中央銀行による管理 円とドルの交換 円建て(邦貨建て)為替レート ドル建て(外貨建て)為替レート 1円=0.01ドルのように,円の価値をドルで表示するもの($/¥) 円安=円が減価する 1ドル=100円のように,ドルの価値を円で表示するもの(¥/$) 1ドル=100円から1ドル=105円になるような場合 固定為替相場制の下では平価切り下げという 円高=円が増価する 1ドル=100円から1ドル=95円のようになる場合 固定為替相場制の下では平価切り上げという 為替レートの決定 外国為替市場における円の供給・外貨の需要 日本の居住者による外国製品の購入(輸入),外国債 の購入(資本流出)など 外貨の供給・円の需要 外国への日本製品の売却(輸出),外国の居住者によ る日本国債の購入(資本流入)など ①貿易(経常取引)に伴う需給 ②資本移動(資本取引)に伴う需給 ③為替レートの変動予想に基づく投機によるもの ④中央銀行の介入によるもの ドルの需要と供給 x:ドルの円建て為替レート (¥/$) D:ドルの需要曲線 S:ドルの供給曲線 x*:自由市場での均衡為替 レート x1:ドルの超過供給が発生 し,為替レートは低下する (ドル安・円高) x2:ドルの超過需要が発生 し,為替レートは上昇する (ドル高・円安) x x0 x1 S 超過供給 x* x2 超過需要 D 0 ドルの需給量 固定相場制 為替レートは例えばx0に固定 ドルの超過供給に対し,政府は要求に応じていくらで もドルと交換に円を提供しなければならない 外貨準備が十分か いずれ外貨も底をつく 為替レート切り下げ(平価切り下げ) 超過需要の解消 為替レートの長期的な動き 購買力平価説 国際的な一物一価の法則 貿易財 ⇔ 非貿易財 インフレーション→為替レートの変化 内外価格差 為替レートを用いて国内外の価格を比較した ときに発生する格差 内外価格差の原因 関税・流通コストなど 貿易財が規制により非貿易財に(米など) 非貿易財部門の生産性が著しく低い 貿易財部門の生産性上昇率が高い マーシャル=ラーナーの条件 為替レートの変更が国際収支を改善するための 条件 自国と相手国の輸入の価格弾力性の和が1より 大きいとき,為替レートの切り上げが自国の国際 収支を改善する 日米2国 B:日本の貿易収支(ドル表示) P:日本製品価格(円表示) P*:アメリカ製品価格(ドル表示) M:日本の輸入量 M*:アメリカの輸入量 x:円建て為替レート 日本の貿易収支の円表示はxB円,日本の消費者の輸入 価格は xP*円,アメリカの消費者の輸入価格はP/xドル 日本の輸入量は為替レートの減少関数 M=M(xP*) 日本の輸出量=アメリカの輸入量は為替レートの増加関 数 M*=M*(P/x) 日本の貿易収支(円)=輸出(円)−輸入(円) xB=PM*-xP*M 日本の貿易収支(ドル表示) B=(P/x)・M*(P/x)-P*・M(xP*) 輸出のためのドル需要ー輸入のためのドル供給 xで微分する e:日本の輸入需要の価格弾力性, e*:アメリカの輸入需要の価格弾力性 書き換えると 初期にB=0が成立していれば, ならばxとBは同じ方向変化する 円高によって,輸出<輸入となり貿易収支が悪化する (円安によって,輸出>輸入となり貿易収支が改善する)条件 は e+e*>1 すなわち,日本の輸入需要の価格弾力性とアメリカの輸入需要 の価格弾力性の和が1より大きいことである(マーシャル=ラー ナーの条件) もし初期に B>0(日本が黒字)ならば,(xP*/P)・(M/M*)<1 よって,e+e*>1であっても となりうる (ハーシュマンの条件) ならば,円高によって日本の貿易収支は悪化する(黒字が減る) 円安によって国際収支は改善する(ますます黒字となる) オープン・エコノミーの IS/LMモデル 変動相場制の下で、GDP、利子率、為替レ ートはどのように決まるか 国内均衡と国際均衡の同時達成 マンデル=フレミング・モデル IS曲線,LM曲線,BP曲線 3資産:貨幣、債券、外国の債券 貨幣市場の均衡式(LM曲線) M=L(i, Y) (1) 内外債券の裁定 年始に意思決定:国内債券か外国債券か i, i*:国内・外国利子率 e0, e1 :年始・年末の為替レート 国内債券:1円(年始)→1+i 円(年末) 外国債券:1/e0ドル(年始)→(1+i*)e1/e0円(年 始):為替リスク リスク・プレミアムβ (1+i)(1+β)=(1+i*)(e1/e0) (2) (1+i)(1+β)=(1+i*)[1+((e1-e0)/e0)] (3) (e1-e0)/e0:為替レートの予想変化率 (3)の対数をとり、近似式 log(1+x)≒xを使う (e1-e0)/e0:=i-i*+β (4) 為替レートの期待変化率は内外の金利格差とリスク・ プレミアムの和に等しい 利子率平価 仮説 (e1-e0)/e0=Π-Π*+θ(e*-e0)/e0 (θ>0) Π, Π*:日本と外国の期待インフレ率 e*:長期均衡レート PPPとの相対で円安に過ぎるならe1<e0 PPPとの相対で円高に過ぎるならe1>e0 PPPは期待インフレ率の差を打ち消すように変 化する (5)を(4)に代入して Π-Π*+θ(e*-e0)=i-i*+β (6) e=e*+[(i*-Π*)-(i-Π)-β]/θ (7) 為替レートは PPP e*とそれからの乖離で決まる 乖離は外国の実質金利と日本の実質金利の格差、お よびリスク・プレミアムによって決まる 外国の実質金利上昇は円安要因 日本の実質金利上昇は円安要因 外国債に対するリスク・プレミアムの上昇は円高要因 解釈の問題:日本の利子率 i の上昇 (4)式では、円安の予想が生まれる (7)式では、円高をもたらす 円が瞬時に増価し、将来は減価するという予 想が形成される 貨幣市場の均衡式(LM曲線) M=L(i, Y) 資産市場(ストック)の均衡 (1) 財市場の均衡(ISバランス) Y=C+I+G+(EX-IM) 経常収支CA=EX-IM 円ベースの表現 PX-eP*M P:日本の財価格(円表示) P*:外国の財価格(ドル表示) X, M:日本の輸出量, 輸入量 e:円建て為替レート Pで割って X-(eP*/P)M (8) (9) 交易条件: eP*/P 輸出関数、輸入関数 X=X(eP*/P, Y*) M=M(eP*/P, Y) (10) (11) 実質ベースの経常収支 X(eP*/P, Y*)-(eP*/P)M(eP*/P, Y) (12) 単位調整して P*/P=1 とすると X(e, Y*)-M(e, Y) (13) マーシャル=ラーナーの条件 為替レートの変更が国際収支を改善するための条件 輸出の価格弾力性+輸入の価格弾力性>1 中・長期的には満たされる Jカーブ効果 為替レートの変化が経常収支に与える影響が短期的 には長期と逆になる現象 以下の分析では無視 経常収支 CA=X-eM=CA(e, Y, Y*) (14) Jカーブ効果を無視→CAはeの増加関数 財市場の均衡式(IS曲線) (15) e Y=C0+c(Y-T)+I(i-Π, r )+G+CA(e, Y, Y*) 貨幣市場の均衡式 M=L(i, Y) e=e*+[(i*-Π*)-(i-Π)-β]/θ (16) (17) IS曲線の傾き di/dYは負 i eの変化によるIS曲線 のシフト 円高→e↓→輸入増 →経常収支悪化 ⇔投資需要増←利子率 低下 IS’(e1) e1>e0>e2 LM曲線 M=L(i, Y) IS(e0) 0 IS”(e2) Y BP曲線 BP=CA+CF CF:純資本流入=資本流入− 資本流出 BP曲線は右上がり e1>e0>e2 r BP(e0) i>i*→資本流入→黒字 ⇔赤字←輸入増←Yの増加 BP’(e1) BP”(e2) eの変化によるBP曲線のシフト 円安→e↑→輸出増→経常収 支改善 ⇔資本収支悪化←利子率低下 円安なら下方シフト 円高なら上方シフト 0 Y 国内・国際同時均衡 IS曲線 LM曲線 BP曲線 1点で交わるところが 同時均衡 (i*,Y*) i LM BP i* IS 0 Y* Y 固定相場制下の財政・金融政策 拡張的財政政策 IS→IS‘ 国内均衡E‘ 利子率がi*からi1に上昇し, GDPがY*からY1に増大 E‘点はBP曲線の上方にある 資本流入→国際収支は黒字 外国為替市場では外貨が超 過供給 固定相場制の下では,政府 はこの超過供給に見合う円の 供給を行う LM LM’ i i1 i* BP E’ E E” IS’ IS 0 Y* Y1 Y** Y 国内のマネーサプライ増加 LM曲線は右方にシフト 資本の流入によるLM曲線のシフトは,国内の利子率 が国際収支を均衡させる水準に落ち着くまで続く LM曲線がLM'までシフトし,国内均衡と国際収支の均 衡が同時に達成されるE''点で停止する 固定相場制下では,財政政策の効果は拡張されて生 じる 外国為替(外貨)の超過供給に対応する国内のマネー サプライ増加があるから 緩和的金融政策 LM→LM‘ 国内均衡:E‘ 利子率がr2に下落,GDPがY2 に増大 E'点はBP曲線の下方にある 国際収支赤字(資本流出) 外国為替市場では外貨が超 過需要 固定為替相場の下では,政 府はこの超過需要に見合うだ け円を需要し外貨を供給 i i* LM BP E i2 LM’ E’ IS 0 Y* Y2 Y 国内のマネーサプライが減少 LM曲線は左方にシフト 国内の利子率が国際収支を均衡させる水準に落ち着 くまで続く LM曲線が元の位置に戻るまでシフト 国内均衡と国際収支の均衡が同時に達成される元の E点で停止 固定相場制下では,金融政策の効果は消滅 外国為替市場での外国為替の超過需要に対応する 国内でのマネーサプライの減少をもたらすから 不胎化政策 国際収支によるマネーサ プライへの影響,国内均 衡への影響を遮断するた めに,中央銀行が行う売 りオペ・買いオペなどの政 策 政府・中央銀行が国内均 衡と国際収支均衡を同時 に達成する点E'を何らか の理由で望まず,現在の 国内均衡である点Eを維 持したいとする i i* LM’ LM BP E’ E IS 0 Y* Y 放置すれば,点Eでは国際収支は赤字なので資 本が流出しマネーサプライが減少して,結局は 点E'が実現される 政府・中央銀行は,買いオペを実施し,マネーサ プライを増加させる LM曲線のシフトを抑え,点Eを維持し続けようと する(不胎化政策) 不胎化政策を無限に続けることは不可能→E'に 近づいていく ポリシー・ミックス 固定相場制下 ポリシー・ミックス 緩和的金融政策は不胎化政策がとられない場合は無効 不退化政策がとられる場合,短期的には有効だが,国内利子率 の低下を招く 拡張的財政政策は有効だが,国内利子率の上昇を招く 財政政策と金融政策の適当な組合せ 不完全雇用のとき, ポリシー・ミックスによって,完全雇用と国際 収支均衡の同時達成が図れないかが問題となる ティンバーゲンの定理 複数の政策目標があるとき,それらを同時に達成するには政策 目標の数以上の政策手段が必要である マンデルの政策割り当て r 領域 財政政策 金融政策 A 拡張的 縮小的 (失業,国際収支赤字) B 拡張的 拡張的 (失業,国際収支黒字) C 縮小的 拡張的 (インフレ,国際収支黒字) D 縮小的 縮小的 (インフレ,国際収支赤字) 国内均衡線 C (インフレ・黒字) B (失業・黒字) 対外均衡線 内外同時均衡 A (失業・赤字) 0 D (インフレ・赤字) YF Y 変動相場制下の財政・金融政策 変動為替相場制 資本移動完全 BP曲線は世界利子率 の下で水平 拡張的財政政策 IS→IS’ 国内均衡E’ 利子率がi1に上昇し, GDPがY1に増大 E’点はBP曲線の上方に ある 国際収支は黒字(資本 流入)→円高 LM i i1 i* E’ E BP IS’ IS 0 Y* Y1 Y 輸入増加,輸出減少 IS曲線の左方シフト iがi*に等しくなるまで資本移動,IS曲線の左 方シフトが続く 同時均衡のE点で停止 変動相場制下では財政政策は無効 緩和的金融政策 LM→LM‘ 国内均衡:E‘ 利子率がr2に下落, GDPがY2に増大 E'点はBP曲線の下方 にある 資本流出→国際収支 は赤字→円安 r LM LM’ BP r* r2 E” E E’ IS’ 0 IS Y* Y2 Y** Y 輸出増加,輸入減少 IS曲線の右方シフト iがi*に等しくなるまで資本移動,IS曲線の右 方シフトが続く IS曲線がIS’までシフトし,国内均衡と国際収 支の均衡が同時に達成されるE”点で停止 変動相場制下では金融政策の効果は拡大さ れる