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15.為替レートの決定理論

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15.為替レートの決定理論
15.為替レートの決定理論
経済学で言う理論は、自然科学のそれと違って、ある条件(モデル)の下で展開さ
れるので、仮説と呼ばれることが多々あります。ここでは為替レートに関する3つ
の代表的な仮説を紹介します。
①購買力平価仮説
「2国間での物価水準(購買力)の差を埋めるのが為替レートである」というのが、
購買力平価仮説です。つまり、自国の物価水準をP、相手国の物価水準をP’、為替
レートを π とすると
P = πP’ ・・・・・・・・・・・・(15-1)
が成り立つというのです。
テレビのニュース番組で、現在の為替レートにそぐわない『内外価格差』が取り
上げられているのを見聞きすると、この仮説を疑問視する向きもあるでしょう。しか
し、10 年以上の単位で為替レートの変動を調査すると、この仮説に近い動きをして
います。図表 15-1 参照。例を上げてみましょう。かつてベンツは、中古車でも「腐っ
てもベンツ」と高価で売買されていましたが、今では「腐ったベンツはただの鉄屑」、
ベンツに乗っている人を金持ちと思うことも少なくなってきました。輸入自動車の
価格は急激に低下し、ドイツのある自動車会社などは「生産国のドイツと価格差がな
い」と宣伝しているほどだし、アメリカ車は日本車より安く感じる車種があります。
この限りでは内外価格差は確かになくなり、購買力は等しくなるように変化してい
るといえます。
図表 15-1
でも現実には、いろいろな製品に内外価格差があるのも事実です。日本で 120 円
で売られているコーラは、アメリカでは 25 セント程度です。この仮説による為替レ
ート π は、
π = ¥120/0.25$ = 480 (円/ドル)
となります。また、日本で 2 5 0 円のタバコが、アメリカで 2.3 ドルならば、
その為替レートは、
π = ¥250/2.3$ = 108.7 (円/ドル)
となります。
物価(購買力)から換算した為替レートが、コーラでは 480 円、タバコでは 108.7
円という結果がなぜ起こるのでしょうか。鮮魚・青果などは、日本国内でさえ発送費
用、仲買業者のマージン等が加算されるため生産地と都市部とでは価格差が生じま
す。まして輸出入ではより大きな輸送コスト、関税などが加わり、価格差が出るの
は当然と言えます。購買力平価仮説では、このようなコストを一切ないものと仮定
して、外国との購買力を見つめているためです。したがって、現実に内外価格差を
解消するには、規制緩和だけでなく流通経路の簡略化も必要になります。また、ブラ
ンド志向も排除しなければならなりません。この仮説は、インフレ率の高い国の通貨
が安くなる、デフレの発生している国の通貨は高くなるということです。この説に従
えば、日本の物価は下落し(デフレ傾向)、かつ近年安定しているので円高傾向にあ
ると言えます。購買力平価による為替レートを比較する際に、ハンバーガーのマクド
ナルドが引用されます。その理由は、何処の国でも同一の品質、サービスで提供さ
れているからです。
②アッセト・アプローチ
アッセト・アプローチでは、「自国の利子率rと相手国との利子率r’の差に応じ
て、為替レートが変動する」としています。
両者の間に次式の関係が成立するように、為替レートが変動するとする説です。
r = r’+( π’− π )/π ・・・・・・・・・(15-2)
π : 預金時の為替レート
π’: 受け取り時の為替レート
つまり、日本の利子率rが低ければ、為替レート π が上がり、円安ドル高になり、
逆に日本の利子率rが高ければ、為替レート π が下がり、円高ドル安になるという
のです。
日本の利子率とアメリカの利子率を比較して、利子率の高いアメリカの銀行に預
金した方が得だ、との宣伝を聞いたことがあるでしょう。本当でしょうか。例として
100 円を預金したら、
1年後の受け取り額はいくらになるかを計算してみましょう。
前提条件として例として 100 円を預金したら
日本の利子率
2%
アメリカの利子率
7%
預入時の為替レート π = 100 円
受取時の為替レート π’=
95 円
とする。計算結果を図表 15-2に示しました。アメリカで預金しても、円高が進行し
て1ドル/95 円になると、1 年後に受け取る円は、日本で預金したより 30 銭少なくな
ってしまいました。このように、1年後の為替レートによって受取金額がプラスに
なったり、マイナスになったりするのが外貨預金の特徴です。特に円高の趨勢にある
ときに外国に預金するのは、リスクの高いことになります。
図表 15-2
預
外貨預金
金 額
日本での預金学
1年後の受取額
100×( 1+r )= 102 円
アメリカでの預金額 1×( 1+r’)=
¥95=1ドル
1.07 ドル
×π’ =
為替レート
③フローアプローチ
需要と供給の原理を用いた古典的な理論です。
需要は、輸入による外貨の支払、資本の流出、
移転支出で構成され、供給は輸出による外貨の
受け取り、資本の流入、貿易外受取となります。
投機目的で為替市場に資金を供給する今日の
為替相場を概観するとき、購買力平価では対象
期間が長すぎ、金利差をベースにした実物経済
の動きでは、相場の金額に与える影響が小さく
なってしまいました。よって単純ではあります
が、外貨交換量によに為替が変動するとの考え
はシンプル理解しやすいです。
1.07 ドル
101,7 円
S
D
交換量
図表 15-3
④アブソープション・セオリー
アブソープション・セオリーは、国民所得の中の消費と貯蓄の関係に着目した仮説
です。
経常収支 = 国民総所得 − (消費 + 投資 + 政府財政支出)
とし、
( 国民総所得 − 税収 ) = 可処分所得
( 可処分所得 − 消費 ) = 貯蓄
( 税収 − 政府支出 ) = 財政収支
といった論理を重ねて、
経常収支 = 貯蓄 − 投資 + 政府財政収支
を導きます。いま政府財政収支がバランスしているとすればこの項はゼロとなりま
すから、
経常収支 = 貯蓄 − 投資
となり、 貯蓄が投資を上回れば経常収支は黒字に、逆に投資が貯蓄を上回れば経常
収支は赤字になります。経常収支をバランスさせるように為替は変動します。
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