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日本は本当に経常収支赤字になるのか?

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日本は本当に経常収支赤字になるのか?
リサーチ TODAY
2012 年 2 月 8 日
日本は本当に経常収支赤字になるのか?
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今日日本経済に関し最も話題になっている項目は、今後の貿易収支や経常収支の展望ではないか。
1月25日に財務省から発表された2011年12月の貿易統計(速報)で、2011年の貿易収支が31年ぶりの
赤字を記録したことは大きな話題になった。この問題の重要性は、日本の国債市場が安定を保つ大前
提が経常収支の黒字にあり、この前提の転換は国債市場の信任に直結することにある。みずほ総合研
究所では、この問題の重要性に鑑み、貿易収支の展望に関する試算を行った。本日はその試算のレポ
ート「貿易赤字定着リスクをどうみるか」を紹介する1。昨今経常収支が赤字になるとの議論も多いが、今
回我々が重視したのは、どのような前提を置けば赤字になるかを明らかにすることである。当社の試算で
は、早期の経常収支赤字転落は、かなり極端な条件が重ならないと生じないとの結果になる。今回の試
算はあくまでも一定の仮定によるものであり、それゆえその結果についても幅をもってみる必要があるが、
こうした条件を数値で明示的に示すことに意義があると考えた。
そもそも2011年の貿易収支が前年に比べて約9兆円も悪化(+6.6兆円⇒▲2.5兆円)した要因は下記
の図表に示したようになる。まず、輸出による要因が約2兆円ある。これは主に震災による供給制約とタイ
の洪水の影響によるものだ。他方、輸入の要因が約7兆円あるが、このうち約2兆円は原発停止に伴う
LNG等の輸入拡大、そして約5兆円は原油をはじめとした原材料の価格上昇によるものだ。
■図表:貿易収支前年差の要因分解
(兆円)
金
額
数量要因
価格要因
輸
出
-1.8
-2.1
0.2
輸
入
-7.3
-1.9
-5.3
収
支
-9.1
-4.0
-5.1
(資料)財務省「貿易統計」によりみずほ総合研究所作成
今後の貿易収支を展望すれば、供給制約の解消によって輸出のマイナス要因が改善に向かうので、
輸入を決める原発停止の影響や、原油価格動向が鍵を握る。つまり、交易条件が大きく悪化しなければ、
貿易収支は緩やかに改善に向かうが、今後数年間貿易収支赤字が続く可能性も考えられる。
今回の試算結果によれば、経常収支については、世界一の対外純資産を背景にした所得収支黒字
(2011年時点で約14兆円)の存在から、早期に赤字に転じる可能性は低い。ただし、次ページの図表で
示したように、①原油高(毎年5ドル上昇)、②原発停止でのLNG等輸入継続、③円高継続(毎年5%増
1
「貿易赤字定着リスクをどうみるか」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2012 年 2 月 3 日)
1
リサーチTODAY
2012 年 2 月 8 日
価)の3要因が重なって続く場合には、2019年に経常収支が赤字に転じるとの結果になった。
■図表:経常収支の推移(2019年に赤字になるケース)
(兆円)
30
貿易収支
移転収支
25
サービス収支
経常収支
所得収支
(試算)
20
15
10
5
0
-5
-10
2005
2010
2015
2020
2025
(年)
(注)1.2012 年以降の前提は以下の通り。
貿易収支:通関統計ベースの貿易収支に国際収支統計との乖離幅約 0.9 兆円(2011 年の見込み値)を加算
所得収支:・対外収益率と対外純資産残高を掛け合わせて算出
・対外収益率は 2010 年の収益率(約 4.4%)が続くと想定
・対外純資産は為替増価率(毎年 5%)の 1.38 倍(2004 年~2010 年における為替変化率と為替
要因による対外純資産変化率の弾性値)を前年末の純資産から目減りさせた後、当年の経常収支を
加えて計算
サービス収支、移転収支:2011 年(それぞれ▲1.6 兆円、▲1.1 兆円)から横ばい
2.2011 年の貿易収支は貿易統計の実績を基に計算。その他の収支は 11 月までの前年比で延長。
3.1984 年以前はドルベースでの公表のため、みずほ総合研究所が円ベースに換算。
(資料)財務省「国際収支統計」、「貿易統計」によりみずほ総合研究所作成
先に述べたような3つの前提が重なることは、かなり極端な状況とも言える。今日、日本の経常収支赤
字がヘッドラインリスクになって市場に不安が生じることも考えられるだけに、今後の日本の経常収支を展
望する上では冷静かつ客観的な判断が必要である。
それでも、経常収支が赤字になる可能性が多少なりとも存在することを踏まえた対応も必要であろう。
まず、貿易収支改善のためには、①原発への対応も含めたエネルギー対策、②原油価格高に対応した
省エネルギーの推進、③輸出促進に向けた市場確保策、④企業の国際競争力改善が考えられる。また、
所得収支改善には、⑤円高を利用した対外資産増加を通じ、より収益性の高い海外資産の購入を促進
させることも重要になる2。さらに、⑥市場の安定に向けた国内の財政規律の確保が必要である。今日政
治の世界でも議論される論点、たとえば、TPP、原発も含めたエネルギー戦略、為替に影響を与える日米
関係、消費増税等は、その全てが国債市場に直結していることを認識する必要があるだろう。
2
日本の黒字が縮小する過程では、市場で円への評価が低下し円安に向かう可能性が高い。その場合、海外資産の増加は日
本の黒字縮小を補完するヘッジ機能を果たす。今日の当局の対応姿勢には対外資産購入を助ける発想のものが増えている。
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