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第2章マーケティング事例 十勝野ポーク(PDF/167KB)
2.ブランド化を基本として地元市場を足がかりに本州進出をねらう -(株)ヒュース 1)はじめに 近年わが国の豚肉出回り量は 165 万トンから 170 万トンの間で推移している。このうち 国産と輸入がおよそ 5 割ずつを占めている。その変動を見ると国産品はほぼ 90 万トン弱で 一定であるのに対して輸入品は 75 万トンから 85 万トンと増減しており、国内需要の増減 を輸入品が吸収していると考えられる。また期末在庫を見ると 15 万トンから 20 万トンの 間で推移しているものの、そのほとんどを輸入豚肉が占め、国産品在庫は 2 万トンに満た ない。このことからも輸入品が国内需要の増減の調整として使われていることが見てとれ る。逆の見方をすると、それだけ国内産豚肉の需要は堅調であると言える。このことは近 年の国産農畜産物嗜好の高まりの中でいっそう強くなっているものと思われる(図 1、図 2)。 国内養豚農場の戸数は減少の一途ではあるが、以上に見たように国産豚肉に対する需要 は根強いものがある。ここで注目する(株)ヒュース(以下単にヒュースとする)は、品 種と飼養管理でプレミアムを付加した豚肉生産で、地元十勝から本州に市場を拡大しよう としている企業である。 2)企業概要 同社は平成 16 年に設立され、4 カ所に農場をかまえるが、このうち 1 農場が育種豚の農 場で、残る 3 農場が肉豚用である。従業員は、農作業の従事者が 22 名、事務職員研究員が 7 名である。頭数規模はデュロック種の母豚が 160 頭、同種雄 120 頭、大ヨーク雄 25 頭、 ランドレース雄 25 頭を保有しており、デュロック種は育種用原々種、原種を保有している。 うち 国産品 うち 輸入品 千 900 ト ン 800 700 600 500 400 300 200 100 2003 2004 2005 2006 2007 資料:農水省「食肉流通統計」、財務省「貿易統計」、在庫量は農畜産業振興機構調べ 注:数量は部分肉ベース 図 1 豚肉の推定出回り量 19 国産品在庫 千 200 ト ン 180 輸入品在庫 160 140 120 100 80 60 40 20 2003 2004 2005 2006 2007 資料:農水省「食肉流通統計」、財務省「貿易統計」、在庫量は農畜産業振興機構調べ 注:数量は部分肉ベース 図 2 豚肉の推定期末在庫 毎月出荷頭数は約 2,300 頭である。ほとんどはテーブルミート(家庭消費向け豚肉)とし ての販売であるが、一部加工品も委託加工し販売している。 現在同社の主力商品は「十勝野ポーク」という銘柄豚として出荷されている。毎月出荷 量のうち十勝野ポークは 1,000 頭であり、残る 1,300 頭は無銘豚として出荷している。 将来的には毎月出荷豚数を 2,800 頭に増頭する予定で、そのうち十勝野ポークを 7 割に まで増やしたいと考えているが、いずれにしろ 10 割にはできない。それは、肉豚は生き物 であるからどうしても品質の波が出る。そのためバッファー部分として 3 割は無銘豚とし て出荷する枠を残しておかなければならないと考えるからである。製品の信頼を得るため に重要な取組みであると言える。 現在、地産地消という考え方は広く知れわたっているが、一方で「外貨」獲得のために は積極的に農畜産物の移出を図ることが有効である。ヒュースとしては本州向け移出を将 来的な目標と掲げている。「外貨」の獲得が地域経済の活性化のためにプラスに作用し、ま た企業の特長を生かした販売方法として有効であると考えるからである。将来的に全国に ヒュースの豚肉を広げたいという方針を持っており、それゆえ「十勝野ポーク」というネ ーミングを付した。十勝での販売拡大はそのファーストステップとして位置づけられてい る。 3)製品戦略としての育種改良 同社のマーケティングにおける特徴の第一は製品戦略である。プレミアムのあるテーブ ルミートを生産販売し、市場からの一定の評価を得ている。同社の十勝野ポークは市場で 取り引きされる国産豚肉の建値に対して+20 円/kg 程度の金額を上乗せして取り引きされて 20 いるということであった。 その裏付けである製品差別化の手段として、自社農場で独自に育種改良を行っている点 があげられる。育種学および家畜飼養の専門家を招いて独自に系統選抜を行っているので ある。育種の方向は肉質として特徴を出すことはもちろんであるが、あくまでも企業とし ての活動であることから、産肉性の向上も考慮されている。飼養面では、微量要素や植物 エキスを給与し肉にコクを出すようにしている。このことについては卸企業からも一定の 評価を得ている。 同社の豚肉の特徴の第一は品種選抜にあるといって良い。同社の十勝野ポークは一般的 な三元交配によって生産され、母豚となるランドレースと大ヨークシャーの交雑種に種豚 のデュロック種を交配させるが、デュロック種の原々種を保持し独自の三元交配を行って いる。デュロック純粋種も「十勝野純粋紅豚」として主として関東で販売されている。 同社の製品戦略としては、道外出荷もすべて十勝野ポークで対応したいと考えているが、 残念ながら道外市場における認知は十分ではない。交配としては一般的な三元交配である 以上品種面から差別化を図ることはできず、小売でも差別化製品としての扱いは困難であ ると見られている。そのためとりあえずは品種として異なるデュロック種をもって「紅豚」 という銘柄で販売しているのである。育種改良の具体的作業(交配作業)については民間 の育種の専門家に委託し、飼養管理にかかわる飼料の配合は家畜栄養学の専門家に委託し ている。 4)流通戦略としての企業連携 同社の設立は平成 16 年であるが,それまでの共同経営からの独立はこれよりさらにさか のぼる。はやくから日本ハムからの資本参加を得ると同時に取引においても密接な連携を 保っている。 一般豚については、道内でと畜したのち、日本フード(道内は東日本フード)を経由し て精肉店、スーパー等へおろす。道内分は十勝野ポーク以外の銘柄で販売する量がおよそ 1,800~1,900 頭/月である。十勝野ポークとしては、佐々木畜産、ヤマサミート、有澤精肉 店を経由してコープ札幌(ベルデ店、柏店)、スーパーダイイチに納入されている。これが 十勝では現在 440~450 頭/月である。 道外への移出は当初からの目的であり、日本ハムの販売戦略でもある。日本ハムの支援 を受け今後も拡大する意向を持っている。今後は特に関東圏を中心に販売を拡大したいと 考えているが、いずれにしろ現在の規模では不十分であり、今後積極的な生産規模の拡大 を図る予定である。 5)まとめ ことあるごとに「食の安全・安心」がいわれるが、しかし消費者にしてみれば商品の差 別化としてもっともわかりやすいのは「味」であり、そのもとになる品種、エサの差別化 21 は、黒豚やイベリコ豚の例を見るまでもなく、もっともストレートに消費者に訴求する手 段であろう。ヒュースの戦略はこの点に注目し、一般的な三元交配ではあるが、仕上げの 種豚であるデュロックの原々種を保持し、育種に特徴を出すとともに、エサにも注意を払 っている。また、デュロックの純粋種である紅豚の販売という特徴的な販売戦略もとって いる。これがヒュースのマーケティングにおいて特徴的な第一の点である。 第二点として販売チャネルの確保があげられ、現状では地元市場への浸透に取り組んで いるが、将来的には本州府県への進出を計画し、そのために日本ハムを中心とした取引関 係を活かした販売チャネルを確保している。「十勝野」というネーミングも道外移出を意識 したものである。 近年の国産農畜産物志向の高まりは、同社の取り組みを後押しするものであるといえる が、需要量に大きな変動がなくほぼ成熟した市場といえる国内豚肉市場に対して、後発企 業がどれほどシェアをのばせるのかということについては様々な見方があろう。 「十勝」という地域ブランド名を冠した製品であることに注目すると、例えば同社が構 想するように、他の地域ブランド製品とのタイアップによる様々な方面からの市場浸透も 有効な手段といえるであろう。 22