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なぜイギリス法曹は今でも風変りな法服とかつらを着用しているのか
法学部 140 回連続講演会 平成 28 年 10 月4日 なぜイギリス法曹は今でも風変りな法服とかつらを着用しているのか ―その歴史と現在― 法学部教授 小野 新 裁判開始前の法廷の様子を撮ったニュース映像によって多くの人が気づいているように, 日本の裁判官は法廷で黒い法服を着用している.裁判官の法服着用は他の多くの国でも見 られるが,その中でもイギリスの裁判官の法服は実にユニークである.重要な刑事事件を扱 う裁判所の法廷に着席している裁判官は,サンタクロースを思わせる,緋色のどう見ても時 代錯誤的な法服をいまだに着用している.裁判官は黒や紫色の法服を着用している裁判官 もいるし,着用する法服は着席する裁判所の歴史的伝統によっても異なり,きわめてバラエ ティに富んでいる.不思議なことに,日本の最高裁にあたるイギリスの最上級の裁判所の裁 判官は法服を着用せず,背広姿である. 法服は裁判官だけでなく,バリスタと呼ばれる弁護士も着用している(イギリスには伝統 的に二種の弁護士がいる) .ガウンと呼ばれこちらは黒色だが,弁護士の格によって素材が 異なり,格上の弁護士は絹製のガウンを着用できる.この弁護士が法廷で着用するガウンが 実は喪服が起源であることは,ちょっとした驚きであろう. イギリスの裁判官や弁護士は法服だけでなく,いまだに法廷でかつらを着用している.か つらの歴史は法服の歴史ほど古くはなく,17 世紀に社会の上流階層に普及したものである が,時代とともに廃れ行く中で聖職者と法律家だけはその着用に固執し,前者は 19 世紀前 半に着用を止めたが,法律家についてはかつら着用の伝統が現在まで残っている. こうした法服やかつらの着用の慣行は,イギリスがかつて支配していた世界各地にイギ リス法ともに伝播し,今日でもイギリス法文化の一部として維持している地域や国もある 一方,時代遅れの風習であるとしてこれを拒絶する傾向も見られる. この講演では,イギリスに焦点を合わせて法服とかつらの歴史を概観し,その上でイギリ ス法曹の法服とかつら着用の現状を紹介し,なぜ現在も法服とかつらの着用が行われてい るのか,その理由を考えてみることにする.