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闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまっ

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闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまっ
闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまった∼
それはともかく嫁にいい暮らしをさせるために頑張って
成り上がろうと思う∼
サンマグロシホタテ
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまった∼それはと
もかく嫁にいい暮らしをさせるために頑張って成り上がろうと思う∼
︻Nコード︼
N9889CU
︻作者名︼
サンマグロシホタテ
︻あらすじ︼
旧題:山奥から下山した魔法使い、嫌われ者の令嬢を嫁にする∼
ノクターン版∼
山奥で魔術の修行を積み、下山した少年は成り上がりを夢見て王都
を目指していた、その途中で身なりはボロボロだが、やけに育ちの
良さそうな少女と出会う。
1
以前投稿した短編にR18表現を追加したものです。
2
出会い︵前書き︶
以前投稿した短編にエロシーンつけました
大分脳みそが茹で上がった状態で書いたので少々粗があるかもしれ
ません
3
出会い
俺の名はクリス、家名はない。幼い頃近所に住んでた胡散臭い爺
さんの﹃魔法を使えるようになればモテモテじゃ﹄とかいう巫山戯
た口車に乗り、当時から、まぁ一言で言えばエロガキだった俺は愚
かにもジジイの弟子となり、18歳の現在まで山奥で修行漬けの生
活だった。
幸いにも食料などを運んできてくれる猟師の皆さんが親切にも色
々と教えてくれたお陰で、魔法しか能のないジジイのような社会不
適合者にならず、それなりに常識を弁えてるつもりだ。
さて、そんな生活に終止符を打ち、猟師の皆さんに惜しまれつつ、
いざ都会に出て成り上がってやる! と気合をいれ旅立った。近所
の田舎は魔物が多く出没するはずだったが、俺とジジイが魔術実験
のモルモッ⋮⋮じゃなくてお世話になった村人に僅かでも恩を返そ
うと、周囲の魔物を根こそぎ駆除したから、今じゃこのマーニュ王
国で一番の安全地帯だ。
旅路は順調、さてもうすぐ王室直轄地入る少し前のことだった。
︱︱︱いやぁぁぁぁ!
街道から外れた茂みから、女の子の悲鳴が聞こえ、俺は即座に駆
けつけた。
ボロ
そこにいたのは、身なりはそれなりに整ってるが、悪鬼のような
形相でナイフを振りかざす男と⋮⋮奴隷が着るような襤褸を纏った
4
少女だった。
男は憎悪のあまり俺に気がついていないのか、俺という乱入者が
居るにもかかわらず少女の太股にナイフを突き立てる。少女の悲鳴
を聞き笑い出すその姿は狂ってるとしか思えない。
いくら奴隷だったとしてもこれは見過ごせない。少女しか目に入
ってないようなので、俺は背後から魔術を用い意識を刈り取る。数
日は目が覚めないだろうが、万が一に備え男の両手足を縛っておく。
男を少女から見えない位置に放り投げ、血を流し呻いてる少女に
向き合う。
﹁大丈夫か? 俺は魔法が使える、怪我を治してやるから落ち着く
んだ﹂
女の子の目にはまだ怯えがあるが、騒いだりはせず、小さくお願
いしますと呟く。俺は彼女の患部に触れ治癒の魔法を行使する。
﹁あの⋮⋮わたくしに嫌悪を抱かないのですか?﹂
魔法による治療が終わったあと、少女は奇妙な事を尋ねてきた。
﹁それは奴隷だからか? いや不幸な身の上だとは思うけど嫌悪と
かはないぞ﹂
オリヴィアと名乗った少女は体は汚れているし、虐待されていた
のか体の所々に痣が痛ましい。痣もついでに治癒し、濡れタオルで
顔の汚れを拭ったら、田舎じゃ絶対に見れないような極上の美少女
だったのだ。
5
こんな子に嫌悪を抱くとかありえんだろ、やばいドキドキが止ま
らない。こんな可愛い子生まれて初めて見た。
ちらりと男を見て、所有者がこいつなら始末して、俺が貰うのも
アリだな。美少女を恋人にできて俺は幸せ︱︱︱当然奴隷身分から
は解放する︱︱︱勿論ナイフで刺すような男より俺のほうが彼女も
幸せだ、間違いない、彼女もそう思ってるだろう、よし今すぐ始末
を⋮⋮
﹁い、いえ、わたくしは何をしても殿方から嫌悪感を向けられまし
て⋮⋮幼い頃から、それこそお父様からも⋮⋮﹂
イヤありえんだろう、もう一度言うが、この美少女を嫌悪ってあ
りえんだろ。こんな娘が近所に住んでたら俺だったら毎日アプロー
チかけてるぞ⋮⋮ん? 注意して診ると歪な魔力が彼女を蝕んでる。
﹁ひょっとして、﹃奴隷化﹄の呪いの他に別な呪いを受けてる?﹂
﹁分かりません、ただ幼い頃からいつも殿方には嫌われてまして⋮
⋮お母様や侍女には可愛がって頂きましたが⋮⋮﹂
俺はオリヴィアに一言断ってから、体に触れ魔術的に詳しく診て
みる⋮⋮奴隷化の呪いはあった、更に魂の奥深くに⋮⋮なんだこれ!
﹁まず一つ、好感情を向けられると悪感情に反転する呪いがかかっ
てる﹂
﹁そ、そんなっ!﹂
6
薄々気づいていたのかもしれないが、はっきりと﹃呪い﹄と言わ
れショックを受けている。
﹁もう一つ、こっちのが悪質なんだけど、誰かに向けられた悪意を
押し付けられて、君に向けられる好意を奪われてる。これは近くに
居ないと効果はないっぽいけどな﹂
つまり、彼女の行動が見知らぬ誰かに好感情を抱かれるようなも
のだったとする、しかしその好意は全て近くにいる誰かに向けられ、
彼女に向けられるのは無関心だ。逆に近くにいる誰かが嫌われるよ
うな行動をすればするほど、彼女は理由もなく嫌われるのだ。
だったら無関係になればいいと、逃げても今度は感情の好悪反転
で嫌われる⋮⋮ここまでくると殺したほうが慈悲深いんじゃないか
とも思えるくらい悪意に満ちた呪いだ。
なんでわかったかって? ふふ⋮⋮あのクソジジイ、魔法が使え
ればモテモテとか吐かしやがったが⋮⋮呪とか専門の闇の魔法なん
て世間的に受けの悪い系統の、どこにモテる要素があるんだクソ野
郎! 闇魔法使いなんて胸張って名乗れない上に、女の子にドン引
きされるわ! 猟師さんが指摘してくれなきゃ都会で成り上がるべ
く頑張っても非モテの根暗野郎とか言われてたに違いない。幸いジ
ジイの蔵書は豊富でソレを読んで一般的な魔法は大半使いこなせる
から普通の魔法使いを名乗っても問題ないのだ。
闇魔法使いは、同属性の呪いへの耐性は高いんで、凶悪ではあっ
ても範囲が広い︱︱︱恐らく異性限定︱︱︱この呪いに簡単に抵抗
できたのだ。
﹁とりあえずだ、背景を知れば呪いを解くにも楽だから洗いざらい
7
喋ってみな、奴隷にされた経緯もな﹂
⋮⋮と、オリヴィアはいきなり泣き出した、そして嗚咽を堪えな
がらポツリポツリと話し出す。
∼∼∼∼∼オリヴィア視点∼∼∼∼∼
﹁づ、づらがっだんだなぁ⋮⋮グスグス⋮⋮ぢぐじょう! クソ野
郎どもが!﹂
﹁ヒック! ヒック! クリスざまぁぁぁ、わだっ私のために泣い
てくださるなんてぇぇ⋮⋮うぇぇぇん!﹂
わたくしが胸の内を全て明かす頃には、クリス様の目からは滝に
ように涙が流れておりました。殿方が涙を流すのを見るのは初めて
ですので、ビックリしてしまいました。それと同時にわたくしの為
に悲しんで下さるこの方を見て、わたくしは嬉しくて胸が温かくな
るのが分かりました、ついでに涙が止まりません。
わたくしのかつての名はオリヴィア・ヘルトール、マーニュ王国
に3家ある公爵家の一員でございました。
幼い頃から⋮⋮いえ物心ついた頃から、わたくしは二つ年下の妹
であるアンジェリカと比較され生きておりました。
父は常に妹だけを可愛がり、兄も、弟も、さらには男性の使用人
8
達すらわたくしのことは邪険にして妹ばかりを構ってばかり。
ただ、母や祖母、女性の使用人たちはわたくしを可愛がってくだ
さり、公爵家の者として恥ずかしくない程度の立ち振る舞いは学ぶ
ことができました⋮⋮父はわたくしに割く人材があるなら妹の養育
に充てろなどと言っていたそうですが、母や祖母が何とかしてくれ
ました。
母たちからすると、父らが何故わたくしをこれほどまでに嫌うの
か、全く理解の外であり、説得の糸口すら掴めなかったようです。
なんとかしようとしても貴族の家の権力は家長が全て握っているの
で、取り付く島も無かったそうです。
成長し、他家の子女たちと交流するようになると、少年たちは全
て妹ばかりを見て、わたくしは謂れのない誹謗ばかりを受けてまし
た、それでも仲の良い令嬢たちとの交流はあり、全く孤立というわ
けではありませんでした。同情も多分にあったのでしょう。
さらに年頃となり、婚約の話が出るようになると、妹には縁談が
殺到し、かなり揉めたようです。
その頃わたくしは王妃様に気に入られ、王太子殿下との婚約話が
持ち上がりましたが、妹に夢中だった王太子殿下自らの強硬な反対
で成立はしませんでした。それだけであれば子供の婚約話が纏まら
なかった、だけで終わったのですが⋮⋮
父は、わたくしが当家の恥さらしだと⋮⋮追放し、あまつさえ奴
隷として⋮⋮売り出されたその日のうちにわたくしを憎々しげに見
る男に買われてしまったのです。そして人目につかぬ森へと連れ込
まれ⋮⋮
9
﹁グスグス⋮⋮ズッ⋮⋮信じらんねぇゴミ野郎どもめ! とりあえ
ず移動に制限のかかる奴隷化の呪いは解いちまおう﹂
奴隷とは主である所有者から逃げられないように、あまり離れる
ことのできないように魔法で制限される存在です。クリス様に倒さ
れ縛られたこの男から100メートルも離れると、全身が焼かれる
ような激痛で苛まされるのです。
他にも、質問に沈黙する事もできませんし、反抗などすれば死あ
るのみ、他にも無数の制限があり、およそ考えられる人間の尊厳を
全て奪われるのが奴隷というものです。
呪いを解くと簡単にクリス様は仰いますが、この呪いは非常に高
度な特別性の呪いで⋮⋮
︱︱︱パチンッ
﹁ふん、胸糞悪ぃ、ほら解けたぞ﹂
え? あ? あれ? 胸元にあった呪いの文様が消えてる⋮⋮
﹁流石にもう一個の呪いは、力尽くで抑えるだけで解除まではいか
ないな、できる限り弱らせた上で神殿でなんとかして貰うしかない
な﹂
呪い⋮⋮解けた? もう奴隷じゃないのですか?
﹁おっし、王都で成り上がってやるつもりだったけど、クソ野郎ど
もと同じ空気吸う気になれないからな、どっかデカい神殿がある街
10
に行く、心当たりあるか?﹂
﹁そ、そうですね⋮⋮それではここから北のラーロン地方は如何で
しょう? ﹃法の女神大神殿﹄を擁し、大規模な開拓計画が近々始
まるので、実力次第では叙爵もありえますわ﹂
わたくしは面識がありませんが、確か第二王子カール様が旗頭に
なって開拓を進める計画が進んでいます、時期的にそろそろだとお
茶会で王妃様が話してました。
今から向かえば募集が始まるかどうかといったところではないで
しょうか?
﹁地理とかは詳しくないから助かる、それじゃ一緒に行こう。神殿
でオリヴィアの呪いを解いたらガンガン手柄立てて偉くなってやる﹂
﹁で、ですが⋮⋮わたくしなど連れてはご迷惑ではないですか? それにわたくしは嫌われ者ですし、お返しできるものを持っており
ません﹂
家を追放されたわたくしのような小娘になど何の価値もありませ
ん。足でまといになるくらいなら⋮⋮と思ってましたら、いきなり
抱きしめられてしまいました。
﹁そうか、じゃ呪いを解いたら嫁さんになってくれ﹂
﹁なっななな⋮⋮で、ですが家が決めた⋮⋮あ⋮⋮﹂
家なんて、もうとっくに追放された身ではないですか。
11
﹁色々屁理屈が欲しいなら言ってやるが、そんなもんはあくまでも
屁理屈だ、俺がオリヴィアに惚れたから嫁にしたい⋮⋮じゃダメか
?﹂
さっきまで大泣きだったので、お互いに顔がグシャグシャでした
が、真っ直ぐにわたくしを見据えるクリス様は⋮⋮これまで見た誰
より綺麗で、凛々しく⋮⋮いつの間にかわたくしは小さく、はい、
と呟き頷いておりました。
わたくしの返事に、嬉しそうに顔を綻ばせるクリス様を見て、わ
たくしは胸の高鳴りを抑えられませんでした。
﹁待ってろ、辛い生活なんて忘れさせてやる、テメーの女にいい暮
らしさせてやるのが男の甲斐性ってモンだ﹂
∼∼∼∼∼クリス視点∼∼∼∼∼
とりあえずボロボロの服は捨て、濡れタオルだけじゃ拭えない汚
れを落とすのに近くの川にやってきた。
幸いにして川の水はそのまま飲めるくらい綺麗だ、岩陰を見つけ
そこに人払いの結界を構築する。
﹁そのボロは捨てて、どっかの村に着くまで俺の予備の服を着な、
ダボダボだろうけどその辺は紐かなんかで調整すりゃいい。その前
に体を綺麗にするぞ﹂
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﹁はい、クリス様、それではお召し物をお借りいたします、身を清
めて参りますので⋮⋮﹂
なんか自分一人で川に入ろうとしてる俺の嫁︵予定︶だが、肩を
抱き一緒に川辺へ、そしてボロ布をはぎ取る、奴隷の服に下着なん
てあるはずもなく当然裸だ、そして俺も服を脱ぐ。
﹁きゃっ! クックリス様!?﹂
いきなり全裸にされ驚き狼狽してるオリヴィアは、胸と性器を隠
し真っ赤になってる。おうっ! 分かってたけど彼女の細腕では隠
しきれないほどおっぱいでかい、直で見るとでかいだけでなく形も
イイのが最高だ。
﹁なんだ? 川で水浴びするのに服を脱いで駄目なのか?﹂
﹁だ、駄目ではございませんが⋮⋮み、未婚の身で殿方に肌を晒す
など、まして屋外ではないですか⋮⋮﹂
あぁ、恥ずかしがる姿も可愛い、腰まで届き軽くウェーブのかか
った銀の髪は日の光を反射して煌めいて、まるで女神のようだ、宿
まで我慢? 無理だ。
脱がしたときは胸にばかり視線が向いていたが腰から尻へのライ
ンもまた実にエロい。超絶美少女でスタイル抜群とか⋮⋮もう一度
言う我慢とか無理だ。多少強引に恥ずかしがるオリヴィアの体を濡
らした手で撫でる。
﹁ひゃっ! あっあっ、く、クリス様ぁ⋮⋮むぐっ﹂
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混乱しているオリヴィアを正面から抱き、キスをする。動きが止
まったところで片手を胸へ、もう片方の手を膣口へと這わせる。
﹁んむぅ!﹂
未知の感覚にどうしていいか分からなくなってるようだ、最初は
キスとか胸を触るだけにするつもりだったが、無理。結婚を申し込
んでOKしてくれた女の子が、しかも全裸でなすがままにされてる
んだぞ。
愛撫しているうちに、元から大して強度のなかった理性の糸は呆
気なく千切れた。
抱き合ったまま、俺は大きな岩の上に仰向けになる、嫁を固い岩
の上に寝かせるわけにはいかないからな。
﹁い、いけません、殿方の上に乗るなどはしたないですわ⋮⋮﹂
﹁気にするな、それよりも⋮⋮わかるな?﹂
俺の逸物はもうかつてないほど昂ってる、肌に触れてる彼女が気
づいていないはずはない。
顔を真っ赤にして頷く、世間知らずの令嬢でも性教育は受けてる
だろう、俺の胸元に当てていた手を下げ、俺の逸物に触れる。自分
で触るのとは全然違う、女の子の手ってこんなに気持いいのか、そ
れともオリヴィアだからか。
彼女は俺のペニスを自分の膣口まで導く、そして潤んだ瞳で俺を
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見て微笑む。その顔は蕩けてしまいそうな程美しく、なによりも淫
靡であった。
﹁クリス様、様々な不幸のあったこの身でございますが、幸いにも
未だ乙女でございます。今日この日に愛する貴方様へ純潔を捧げる
ことができて、オリヴィアは幸せでございます﹂
オリヴィアは俺の逸物を掴んだまま、徐々に腰を落とす。俺の肉
棒を自ら秘所に迎え入れる。痛みに顔を顰めつつも、隠しきれない
興奮に紅潮していた。
そして、一気に腰を沈める、同時に俺の彼女に尻を掴み突き上げ
た。
﹁ぐっ! あぁぁぁぁぁ!!﹂
彼女の秘所からは、破瓜の血が流れている、オリヴィアの膣内を
俺が、俺だけが好きにできるのだと思うと、更に昂ぶってくる。だ
が痛がってる彼女を見てこのまま無遠慮に動くわけにも行かない。
﹁オリヴィア、痛いだろう? そのまま動くな﹂
両手は尻を掴んだまま、触れるだけのキスをする。少なくとも痛
みが引くまでは、このままでいよう。
﹁はぁはぁ⋮⋮クリス様、わたくしのことは気にせず、この身体を
好きにしてくださいませ﹂
涙を浮かべながらも健気に微笑み、そんなことを言ってくるオリ
ヴィアが、ますます愛おしくなってくる。
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﹁やっあぁん! むぅぅん!﹂
腰は動かさないが、巨乳を揉みながら舌を絡めたキスをする。
﹁だ、だめです⋮⋮胸は⋮⋮﹂
﹁なんだ? 気持ち良くないのか? それとも痛いならすぐ止める
ぞ﹂
﹁い、いえ、痛いわけでは⋮⋮﹂
嫌がってはいないようなので、たわわに実った二つの果実を時に
強く、時に弱々しくその感触を堪能する。
しばらく巨乳を堪能してるうちに彼女の顔から苦痛の色が消えた、
どうやら落ち着いてきたのか。軽く腰を突き上げてみる。
﹁あっあぁぁぁん! やっあっあっあっ!﹂
どうやらもう痛みは消えたようだ、このまま小刻みに動かすだけ
で蕩けそうな程の快感が襲って来る。ヤバイ気持ちよすぎて腰が止
まらない、止められない。
﹁あぁ! クリス様、これが、これがセックスなのですね! オリ
ヴィアはクリス様に処女を捧げることができて幸せです﹂
﹁俺もだ、俺もオリヴィアと出会えて最高に幸せだ!﹂
俺は自分が彼女の肢体に溺れつつあるのを自覚したが、構わない、
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彼女は俺の嫁だ、溺れて何が悪い。オリヴィアの喘ぎ声が更に俺の
出す
理性を溶かす、俺は無言で突き上げ続け⋮⋮限界が近づいてきた。
ナカ
﹁出るぞ、オリヴィアの膣内に射精するぞ!﹂
﹁はっはっ! はい、クリス様ください、クリス様の妻である証と
して⋮⋮孕ませてくださいませ、オリヴィアにクリス様の御子を孕
ませてください!﹂
︱︱︱ドピュドピュドピュ⋮⋮
﹁はっ! あっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!﹂
出
射精した瞬間、オリヴィアは身体を仰け反らせ。そのまま力尽き
たかのように俺の胸元に顔を埋める。
﹁はぁはぁ⋮⋮ふぅ⋮⋮ありがとうオリヴィア、愛してるぞ﹂
﹁わた⋮⋮わたくしも⋮⋮クリス様を愛しております﹂
抱き合ったまま、繋がったまま俺たちはキスをし、その場で微笑
み合うのだった⋮⋮勿論その後、体を洗い終わり直ぐに2回戦に突
入し、夜になってしまったので川原で野宿した。
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出会い︵後書き︶
読んでくれ皆様ありがとうございます
なろうの方の連載もありますので間隔が空くかもしれません。
18
祝福︵前書き︶
日間ランキング11位になりました。
評価とブックマークしていただいた皆様ありがとうございます。
19
祝福
あぁ俺の嫁可愛い、今彼女が着てるのは裾を詰めた俺の予備の服
だ。ダボダボなのに胸元だけがパッツンしてるのが素晴らしい、サ
ラシを巻いていても隠しきれないナイスバディである。
さて、服装はともかく、お嬢様なオリヴィアが徒歩の旅をする以
上、休憩が多くなる。彼女は疲れたなんて弱音を吐かないし、足が
痛かろうが無理して歩くのだ、必然俺が気を使わなければならない。
アイテムボックス
靴擦れなんかは俺が治すし、果汁を混ぜた水を入れた水筒を、時
の止まった異次元に物を放り込んで置ける便利魔法︻収納空間︼に
沢山用意してある。
﹁はぁはぁ⋮⋮申し訳ございませんクリス様⋮⋮はぁはぁ﹂
木陰で寄り添いながら休憩中、果実水を飲み、肩で息をしながら
申し訳なさそうにするオリヴィアの上気した姿を見れば無理させる
事は出来ないし、いくら休憩しても構わないのだが。荒い息を吐く
彼女に悪戯心が湧いた俺は悪くない。
﹁ふふっ申し訳ないと思うなら、そうだな膝枕でもしてもらおうか
な?﹂
俺が言うと若干恥ずかしそうに頷き、頭を乗せやすいように位置
調節をしてくれる。俺たちがいるのは道から外れたちょっとした林
の中で、日差しが柔らかく気持ちがいい。
20
﹁お昼寝するには良い陽気ですね、クリス様﹂
﹁ああ、風も気持ちいいな⋮⋮なによりオリヴィアの太ももの感触
が一番だが﹂
﹁くすっ膝枕くらいでしたら、いつでも仰ってください⋮⋮ひゃん
!﹂
うん、良い声だ。彼女のズボンは俺の服、つまり男物なわけで﹃
前﹄にはボタンで閉めるタイプの穴が空いてるのだ。しかもダボダ
ボなので、全開になっても気付かなかった彼女の油断だ。
つまり、ナニをしたのかというとズボンの﹃窓﹄を開けて、彼女
の突起を唇や舌で弄ってるのだ。
﹁ンッッッ! だ、ダメですわ! まだ日が高いではないですか⋮
⋮ひゃぁぁぁぁん!﹂
俺が膝枕されてる状態で無理矢理引き剥がす事もできず。既に彼
女の細い腰を掴み、ズボンの紐は解かれ膝までずり下げられて、立
ち上がって逃げることもできない。
つまり、自分が履いてたズボンに足を縛られてるようなものだ、
逃げられない彼女の性器を舌で丹念に愛撫する。
﹁や、やめ⋮⋮はっはぁぁん! な、なりません殿方がそのような
⋮⋮﹂
﹁昨日はじっくり見なかったけど、女性の性器ってこうなってるん
だ、こんな狭いところに俺のチンポが入ったんだな﹂
21
昨日の初体験を思い出したのだろうか、徐々に俺の唾液とは違う
モノが彼女の膣口を濡らす。
﹁んっ! あっあっあっ! だめ、だめですぅ﹂
俺の頭に手を添え、形ばかりの抵抗をしてるが、まったく力が入
ってない。聞いた話で多くの娼婦を相手にしたある男は、舌だけで
女性を自在に絶頂させる事ができたらしいが、彼女としか経験のな
い俺には無理だろう。
十分に濡れたのを見て、彼女を立たせ近くの木に両手をつかせる。
﹁オリヴィア⋮⋮いいか?﹂
﹁はい⋮⋮クリス様の望むままに⋮⋮﹂
足がズボンで拘束されたままなので、ぴったりくっついた太股の
間にチンポを挿入する。うおっこれだけですげぇ気持ち良い!
背後からおっぱいを揉みつつ、素股を数回繰り返すと、あっとい
う間に逸物が最大まで滾る。もうちょっと胸で感じさせたかったけ
どもう我慢の限界だ。
︱︱︱ズブッ⋮⋮じゅぽ⋮⋮パンッパンッパンッ
﹁あっあっあっ! クックリス様ぁぁ! 痛くないです、昨日より
痛くなくて気持ちいいですぅぅぅ﹂
﹁イイのか! 俺のチンポをマンコに突っ込まれて気持ちいいんだ
22
な!﹂
心なしか更に愛液が垂れてきている。好きになった女の子が俺の
チンポで気持ちよくなってると思うと、更に腰が動く。
﹁イイのぉ!⋮⋮気持ちいいのです! クリス様とのセックスが気
持ちいいです!﹂
︱︱︱じゅぼじゅぼじゅぼ
腰を振るたびに挿入がスムーズになり、更に早く、強く、奥に。
腰と尻がぶつかる音と、彼女の喘ぎ声が林の中に響く。
﹁はっはぁぁぁぁん! イっちゃいます! クリス様のオチンチン
が気持ちよすぎて、あっあっ! あぁぁぁぁぁ!﹂
ナカダシ
オリヴィアの体が反り返り、膣内がキツいほど締まる。俺も耐え
切れずに彼女の最奥に膣内射精した。
お互い脱力し、その場に座り込んでしまう。荒い息のままこちら
を向いたオリヴィアにキスをする。存分に舌を絡め合ったあと、俺
の胸元に頭を乗せてきた。
暫くそのままお喋りしていたのだが、どうも彼女は立てないほど
消耗してしまったらしく、結局その場で野宿することにした。
俺は夜にはすっかり回復したのだが、疲れきって眠ってる彼女に
悪戯できるはずも無く。襲いかかりたい衝動に耐えつつ、夜明けま
で火の番をしていた。
23
∼∼∼∼∼そんな感じで旅をしつつ、数日後∼∼∼∼∼
北のラーロン地方に向かう途中、最初は旅慣れない彼女は歩きに
くそうだった︱︱︱なんでもまだ膣内に異物感があるそうだ︱︱︱
が、行商人の馬車に乗せてもらったりして意外と早く街に到着した。
さて、街に入って早速大神殿に向う、呪いのせいか軽い男性恐怖
症のオリヴィアは、人ごみの中ではずっと俺の腕にしがみついたま
まだ。
傍目にはイチャイチャしてるように見えるのだろう、雑踏の中か
ら時折壁を殴る音が聞こえる。まぁ俺の嫁は世界一可愛いので気持
ちは分からなくもない。
﹁オリヴィア、先ずは大神殿で呪いを解除する申請をするんだけど、
高度な呪いほど解呪にも準備にも時間がかかるから、始まるのに短
くても一週間はかかると思う﹂
呪いの専門家から見て、オリヴィアを蝕んでる呪いは強力ではあ
るものの、徳の高い神官が入念な準備をして時間をかければ十分解
除可能だ。
勿論その分寄付金を積まなければならないが、出会ってから毎晩
俺の精液を媒体とした解呪をその身の内に受け入れているので、多
少は楽になってるはずだ。ただの堪え性のないエテ公だと思ったか
! その通りではあるが。
24
﹁あ、あのクリス様、今更ですが教会への寄付金はどうなさるので
すか? それ以外にも滞在にも費用がかかるかと⋮⋮﹂
﹁問題ない、修行中に魔物を狩りまくったから素材を売った金だけ
でも多分屋敷くらい建つ、足りなければまた魔物を狩る﹂
アイテムボックス
旅の途中はほとんど自給自足と︻収納空間︼で事足りたけど、商
業ギルドに預けてある金でなんとかなるだろう。
﹁気にすんな、嫁の身を綺麗にしていい暮らしさせるのも旦那の甲
斐性だろうよ﹂
﹁クリス様⋮⋮﹂
あぁ︰⋮顔を真っ赤にしちゃって可愛いなぁ、今なら周辺の魔物
を絶滅させることができるかもしれない程、体の底から活力が湧い
てくるようだ。
壁を殴る音が急に大きくなったな、ふふっ嫉妬の視線すら心地い
いな。闇魔法使いの俺にとってその手の呪詛なんか効かないどころ
か逆に利用できるしな。
﹁神殿に話を通したら後は宿でゆっくりしよう、数日程度とは言っ
ても旅の疲れが溜まってるだろう﹂
﹁はい、クリス様、わたくし宿に泊まるのは初めてですので楽しみ
です﹂
俺の魔術で人払い、獣払いしてて安全だったとは言え、今まで野
25
宿だったからお嬢様のオリヴィアには負担だったろう、ゆっくり休
ませてやらないとな⋮⋮寝かせてやれるかは俺の理性次第か。
大丈夫だろう、きっと、多分、恐らく、でも若いんだし一晩くら
い⋮⋮駄目だ駄目だ! オリヴィアを休ませないと、いっそのこと
解呪できるまで呪術で自分の性欲を封印しようかな?
そんな、煩悩まみれな苦悩を抱えつつ、街の中心である大神殿へ
と歩いて行った。
大神殿の前まで到着すると、正門前でいかにも偉そうなオッサン
が仁王立ちしているのを見た、正門は広いから邪魔にはなってない
けど、偉そうな服を着てるのでとにかく目立っている。
まぁ俺たちのような善良極まる旅人にはなにも関係ないだろう、
旅人の礼儀としてすれ違う時に軽く会釈だけして通り過ぎようとし
たのだが⋮⋮
﹁待ちなされ、クリス様、オリヴィア様で相違ござらんか?﹂
俺とオリヴィアを見た瞬間、いきなりオッサンのやたらと響く大
きな声で呼び止められ、気がつくとオッサンと同じような意匠の神
官服? を着た人達に囲まれていた。
﹁確かに俺はクリスだが、えぇっと⋮⋮アンタ、いや貴方は?﹂
とりあえず偉そうな人なので、俺のできる最大限の敬語で話して
みる。
﹁これは失礼、儂はトラバントと申す、大神官の職責を、法の女神
26
トライア様より賜る者です﹂
大神官って実質この大神殿のトップだったような⋮⋮オリヴィア
を見ると驚きで固まってる。いやこれは怯えてる感じか。
﹁話は聞くから囲むの止めてくれ、いくら神官さんでも大人の男に
囲まれちゃ気分悪い﹂
﹁おおっ! 気遣いが足らずに申し訳ない、では儂が案内致すので
付いてきてくだされ。これ! お前たちは早う戻らんか﹂
オッサンに怒鳴られた神官の人たちは俺たちに頭を下げたあと去
っていった。しかし大神官が直々に案内とか俺はいつからVIPに
なったんだ?
﹁実は数日前女神様より神託を受け、クリス様とオリヴィア様を案
内するよう仰せつかり、この正門前でお待ち申し上げておりました﹂
はい? 女神の神託ってなんじゃい?! 俺らってそんな重要人
物の訳ないと思うんだけど。
﹁クリス様、神託を受けた以上、神官の皆様にとって絶対です、こ
こは大人しくついて行きましょう﹂
どうも皆さん、案内のお供に志願が多すぎて、結果的に囲む事に
なってしまったらしい。やる気が空回りしただけなので特別にオリ
ヴィアを怯えさせたことは許す。
という訳で大人しく大神官の後ろを歩く、普段の行いが良い俺だ
し、探られて痛い腹なんて無いからな、尤も嫁との道中、特に野宿
27
の時にナニしてたとか詳しく話せとか言われても困るが。
案内された先で何があったかというと⋮⋮まず呪いを解いて貰え
た。まるで肩についたイモムシをひょいと取ってぽいっと投げ捨て
るかのようにあっさりと。
そして解いてくれたご本人︵?︶は俺らの目の前でピカピカと輝
いております。
そう、ここは大神殿、﹃降臨の間﹄と呼ばれる大神官だって滅多
に入れない大神殿の最重要区画になぜか連れてこられ、女神さまと
ご対面しております。
﹁愛の女神ディアの軽率な行いをまず詫びよう﹂
同行した神官の皆さんは絶賛土下座中、謝られたオリヴィアも恐
縮しまくって俺の腕にしがみつき、ほぼフリーズ状態。
なんで女神様が謝ってるのかというと、要するに神様の中で愛の
女神とかいうのが、お気に入りの女の子に自分の意識をリンクさせ
モテモテ人生を疑似体験するとかいう遊びをしてたのが発端らしい。
それだけなら何も問題なかった、愛の女神に気に入られた女の子
は単にモテるというだけで、結婚したあたりでリンクと加護が途切
れるから害はほぼない⋮⋮が、エスカレートしてしまった。
ノロイ
お気に入りの少女に祝福を与え、更なる好意、愛情を集めようと
考え、結果近くにいた姉を生贄にしてしまったのだ。その結果が好
悪感情反転の呪い。
28
神様世界の決まりとかは知らないが、この件で法の女神様は愛の
女神を罰する事を決定。呪いの期間が15年間だから、何もない空
間に1500年封印されるのだそうだ。
⋮⋮で、ここからが本題、封印を決定したのは良い。しかしこの
マーニュ王国は王都に﹃愛の女神大神殿﹄があり子孫繁栄の守護者
として崇められてる。その神が封印されたとなると国は荒れてしま
うらしいので、法の女神様自ら補填する様に加護を与えてくれるそ
うだ。
女神さまのありがたいお言葉に背後の神官のおっちゃん達なんか、
男泣きしてるっぽい、嗚咽がここまで聞こえる。
﹁よって魔法使いクリス、汝に我が加護を与え今代の勇者とする﹂
⋮⋮マテ、ちょっと待て! 聞いてないぞ女神様よ⋮⋮あぁ!も
ういねぇ、爆弾発言だけ残して消えやがった!
﹁おっおぉぉぉ! 勇者様! 女神の地上代理人たる勇者がこの地
でお生まれになったぞ!﹂
やばい、大神官のオッサンがテンション上がりすぎてハイになっ
てる!
ちょっと女神様! 戻ってきてくれ、俺アンタのこと別に信仰し
てる訳じゃないんだぞ!
︽ああ、加護のついでに、我がそなたらを夫婦として祝福してやろ
う︾
29
どこからともなく声が聞こえ、なんか降臨の間にキラキラとした
光が漂い始めた。これ見たことあるぞ、結婚式とかで神官が使う祝
福の魔法で、確か子供が出来やすくなって出産時の負担が減るらし
い。
高位の神官ほどこの祝福は効果が高く、結婚式を司る神官がどれ
だけ祝福を使いこなせるかで結婚式の﹃格﹄が決まるのだそうだ。
俺が見た事あるような、田舎神官の使う祝福とは規模と光量が段
違いだ。王族、公爵級の結婚式で大神官が招かれることを考えると、
女神さまから直接祝福を貰った俺って凄いんじゃなかろうか?
﹁⋮⋮﹂
オリヴィアは展開についていけずにまだフリーズしたまま、背後
のおっさん達は狂喜のあまり変な踊り踊ってるし、どうしよう?
∼∼∼∼∼その夜∼∼∼∼∼
色々あって時間を取られたが、流石に夜には解放されて、今俺た
ちがいるのはこの街で一番の宿の一室だ。神殿に泊まるように勧め
られたが、断った。
それでも食い下がる奴がいたが、俺とオリヴィアのような夫婦に
なったばかりの若い男女に﹃そういう事﹄を我慢させる気か? と
言ったら黙った。
30
法の女神の神官は厳しい戒律に生きてることで有名だ、神殿の敷
地内でセックスなんてしようものなら即刻破門は間違いないレベル
の不祥事だ、勇者にそんなことをされては神殿の権威はガタ落ちだ
ろう。
その代わりに最高級の宿を用意してくれたのはありがたい、何よ
りこの宿には風呂があるのが素晴らしい⋮⋮大浴場だけで個室に風
呂がないのは仕方ないが残念だ。俺が偉くなったら家に風呂を作ろ
う、そして嫁と一緒に入ろうと今誓った。
﹁ひゃ! あん、クリス様ぁ、だ、だめそんなにされちゃったら⋮
⋮﹂
おっと、つい風呂について考え込んでいたが、いつの間にかオリ
ヴィアが大浴場から帰ってきていたか。考え事をしていても無意識
に嫁の胸を揉むとは、俺のおっぱい好きにも困ったものだ、矯正す
る気は毛ほどもないが。
﹁もう! クリス様いきなりびっくりするじゃないですか﹂
風呂では、丹念に肌を磨いたのだろう、彼女の白い肌はまるで輝
いて見えた。綺麗だ⋮⋮俺は気がつけば彼女を抱きしめていた。
﹁綺麗だよオリヴィア、色々とあったけど呪いが解けたからにはも
う一度言う。俺の嫁さんになってくれ﹂
﹁はい、わたくしで良ければ喜んで﹂
⋮⋮散々高ぶっていたし、今までで一番綺麗なオリヴィア興奮し
31
てないといえば嘘になるが。今欲望任せで押し倒すのは⋮⋮なんて
いうか無粋だな。
俺とオリヴィアはベッドの上で抱き合ったまま語り合い、やはり
慣れない旅で俺も彼女も疲れていたのだろう。
いつの間にか俺は眠りに落ちていた。意識が途切れる直前、唇に
柔らかく温かいものが触れた気がした⋮⋮
32
祝福︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
作中でも言ってるように勇者とは神の地上代行者という位置付けで、
状況によっては王様より発言力があったりします。
ご意見ご感想お待ちしております。
33
新居︵前書き︶
まさか日間一位になれるとは思いもよりませんでした!
皆さんに読んでいただき感謝致します。
34
新居
俺がオリヴィアと正式に夫婦になったその翌日。第二王子カール・
マーニュ︱︱︱婿入りしたので現在はカール・カロリング辺境伯︱
︱︱を旗印とする大規模開拓事業が公布された。
当初の予定通り、俺のような山奥で育った田舎者が成り上がる為
にも、開拓に参加するつもりだ。オリヴィアの話だと叙爵︱︱︱つ
まり爵位持ちの貴族になれる︱︱︱もありうるという話だしな。
まぁそれはそれとして⋮⋮
﹁旦那様♪ はい、あ∼ん♪﹂
嫁が一口サイズにちぎったパンを食べさせて貰いつつ、オリヴィ
アの好物らしいポテトサラダをスプーンに掬う
﹁こんな美味いパンは初めてだなぁ、食べさせてくれる人が最高だ
からだな。ほら、お返しに⋮⋮あ∼ん﹂
スプーンをやや赤面した彼女の口に運ぶと、美味しそうにポテト
サラダを食べてくれた。あぁ幸せだなぁ、居心地の悪そうにこちら
に目線を向けないメイドは見ないことにしよう。
盛り付けられた朝食の中に、小ぶりなトマトを見つけ︱︱︱この
辺境でしか採れない糖度の高いトマトだとか︱︱︱口に含み、隣に
座るオリヴィアの顎を人差し指で持ち上げる。
35
﹁旦那様⋮⋮﹂
俺の意図を察した彼女は、先程よりも頬を紅潮させつつ、そっと
目を閉じる。そのまま口に含んだトマトを口移しで食べさせる。
﹁んっ⋮⋮ちゅ⋮⋮はむ﹂
口の中で半分にしたトマトを、お返しとばかりに俺の口へ。初め
て食べたが、甘いなぁまるで果物みたいだ。
﹁もう、旦那様ったら食事中に悪戯なんて駄目じゃないですか﹂
﹁他に人目があるとこじゃやらないよ、二人で落ち着いて食事って
のは初めてだし、新婚なんではしゃいじゃったな。﹂
ちなみに俺が口移しで食べさせようとした時点でメイドは逃げた。
空気が読めるようで何よりだ。
﹁それに悪戯って言っても、最初に﹃あ∼ん﹄してきたのはオリヴ
ィアだろ﹂
﹁うっ⋮⋮そ、それなんですが﹂
なんでも異性には無差別に嫌われていたオリヴィアは、交友関係
が狭く、空いた時間は本を読んでることが多かった。その中でも恋
愛小説はお気に入りで、強い憧れを抱いていたそうだ。
﹁結婚できたら、是非やってみたかったんです。旦那様に出会う前
は諦めていたんですが﹂
36
はにか
と、含羞む彼女が可愛いので、﹃あ∼ん﹄を続行だ。今度はパン
をちぎってあげよう。
∼∼∼∼∼約一時間後∼∼∼∼∼
食事が終わる頃に︱︱︱多分食い終わるまで待ってたんだろう、
申し訳ない︱︱︱大神官のトラバントさんがやってきた。
﹁おはようございます、昨夜はお寛ぎ頂けましたかな?﹂
俺たちが食事中にどうしてたを聞いてるのだろう。からかうよう
な含み笑いをしつつも、何事もないかのように挨拶をしてきた。
﹁ああ、こんな良い宿に泊まるなんて生まれて初めてだ、機会があ
ったらまた泊まりたいな﹂
俺とトラバントさんは向かい合って座っているのだが、オリヴィ
アは俺の後ろに立ったままだ。隣に座るように言っても、男同士の
話にしゃしゃり出るのはマーニュ王国の令嬢としてとても非常識な
のだとか。
トラバントさんも、さも当然といった風だし、上流階級とはそう
いうものなのだろう。成り上がりを目指す以上この辺の事はよく勉
強しとこう、嫁に恥をかかせるような真似は絶対にできないからな。
﹁さて、昨日は誰も彼も忙しくて聞けなかったのですが、勇者様は
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今後どのようになさるおつもりですかな?﹂
オレ
大神官としての立場上、トラバントさんは勇者に神殿の利となる
ように動いて貰いたいのだろう。
﹁この街に来た当初の予定通り、第二王子の開拓に参加するつもり
だ。嫁にいい暮らしをさせたいんでね﹂
﹁それでしたら、トライア大神殿に所属して頂ければ⋮⋮﹂
一応といった感じでトラバントさんが提案するが、ジェスチャー
で遮る。
﹁法の女神の加護を受けた勇者なんだから、神殿に為に働いて欲し
いってのは分かる。分かるんだが、それだと俺は楽だけど、生まれ
てくる子供たちまでって訳でもないだろう?﹂
俺とオリヴィアだけ贅沢な暮らしをするなら、神殿に所属するだ
け、名前を貸すだけで構わない。だが仮に俺が死んだあとどうする
? 残された者に残るのは多少の資産だけだろう。
だから﹃家﹄を残したい、俺個人を歴史書や神殿の記録の一ペー
ジではなく、しっかりと目に見える﹃家﹄という形で残す。子孫が
豊かな生活を送れるようにな。
﹁まっ、尤もらしい屁理屈こねたが、本音をぶっちゃけると、神殿
の暮らしってのは息が詰まりそうだからな。魔物狩ってるか畑でも
耕して方が気楽でいい﹂
﹁勇者様がそのように仰せであれば、否はございません。開拓に参
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加なされるのでしたら、我らも全面的に協力させていただきます﹂
当然といえば当然なのだろうが、開拓には大神殿も無関係ではな
く、いろんな場所に顔が利く。元々神殿の勢力が強い土地柄で、地
元の人間はほとんどが信者なのだから。
﹁集まった者達の為に、辺境伯の屋敷で説明会と参加者の登録受付
があるのですが、一緒に参りましょう。勇者様のことは街の者はほ
とんど知っております故、神殿所有の馬車であれば安全ですぞ﹂
昨日の今日で大したものだ、堂々と街を歩いたら人に囲まれる羽
目になりそうだ。俺だけなら問題なくてもオリヴィアが一緒にいた
場合、彼女には厳しいだろう。
﹁オリヴィアは宿で休んでいた方が良いのか? 彼女は人ごみが苦
手だ﹂
子供の頃から全ての異性から悪感情を向けられる呪いを受けてた
関係上、軽度の男性恐怖症で済んでるのが奇跡に近い。そして辺境
伯の屋敷に集まる人間はほとんど男だろう、そんな場所となると彼
女に多大なストレスがかかるであろう事が、簡単に想像できる。
﹁オリヴィア様も、トライア様から直接祝福を受けた花嫁として、
名前も顔も知られております。ご一緒したほうが宜しいでしょう﹂
トラバントさんの言葉に嫌な予感がして、窓の外を見てみると⋮
⋮いる、オリヴィアを一目見ようと物陰に隠れ、或いは堂々と宿の
入口に大勢の人間がいた。
祝福を受けた花嫁というだけでなく、呪いの解けた彼女の容姿は
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贔屓目なしに極上の美少女だ、似顔絵を見ただけでも見てみたいと
思う奴は多いだろう。今更文句を言っても仕方ないにせよ、面倒だ
な。
別に魔術で容姿を誤魔化してもいいんだが、後暗い事もないのに
顔を隠すのは、なんか負けた気分だからな。しかし、オリヴィアと
街でデートできないのは困る⋮⋮嫁の為なら顔を誤魔化すくらい何
も問題ないな、うん。
﹁馬車を頼む、妙な事をしてくる奴は俺がなんとかするから、さっ
さと辺境伯の屋敷へ行こう。オリヴィアは俺から離れるなよ﹂
﹁は、はい!﹂
窓の外を見た彼女も顔色が優れない、繋いだ彼女の手が微かに震
えていた。
∼∼∼∼∼馬車に乗り辺境伯の屋敷へ∼∼∼∼∼
詰めかけた連中を、力づくで排除するわけにもいかないので、イ
チャイチャしてる姿を見せつけつつ馬車に乗った。俺が勇者なのは
全員が承知のようで、嫉妬の目線は少なかったが、その代わり俺の
嫁を見世物のように見られるのは気分のいいものじゃない。
さて、神殿の馬車に乗って辺境伯の屋敷に向かっていた筈が、昼
を過ぎやっと馬車が止まったと思いきや、着いたのは人の気配のな
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い屋敷だった。門や玄関は新品のようで汚れ一つ無い。
﹁辺境伯の屋敷じゃなかったのか?﹂
トラバントさんが俺たちを陥れる理由もないと思うが、予想外の
場所に連れてこられた以上オリヴィアを片手に抱き、全方位を警戒
する。
﹁申し訳ございません、辺境伯の屋敷は途中通りかかったのですが、
勇者様の影響力を重く見たカール様の指示で、この屋敷を差し上げ
るので待機して頂けと⋮⋮﹂
窓の外を見てたけど、やたら豪華な屋敷の前を通ったなそういえ
ば。少し止まってすぐ通り過ぎたから目的地とは思わなかった。
なんでもカール王子自ら声をかけて集めた、大規模な傭兵団の団
長や高名な冒険者など、戦力として特に期待している者たちには、
開拓団の幹部として遇するのに屋敷を与えているそうだ。
オレ
王子からすれば、勇者が開拓に名乗り出た時点で厚遇しなければ、
神殿を敵に回すとか思ったのかもしれない。俺は気にしないけど神
殿側に煩い奴はいそうだな。
﹁カール様自ら、顔合わせを兼ねて説明する為に訪ねるので、希望
する時刻はございますか? カール様も予定を合わせるそうです﹂
とは言っても早くても夕方まで彼の予定は詰まってるそうなので、
先に連絡をくれればいつでも構わないと伝えた。トラバントさんの
お供の人が頷き、来た道を戻っていったので、後は王子が来るまで
屋敷に待機か。
41
彼は多忙なので、何時でもいいのなら数日待つことになるそうだ
が、何も問題はない、なんたって新婚だからな。
﹁それでは儂はこれで失礼をいたします。おお、そうでした使用人
などは、如何なされますかな? 宜しければ儂が手配を致しますぞ
?﹂
﹁うーん、オリヴィアはどうだ?﹂
別に俺としては必要ないけど、元々貴族のオリヴィアには必要か
もしれん。
﹁使用人の差配は夫人の勤めでございます、わたくしも教育を受け
た身ですのでお任せ下さい﹂
オリヴィア曰く、いくら新築でも人の手で管理しないと家はすぐ
に傷んでしまうそうだ。俺が帰る家を過ごしやすく維持するのが妻
としての勤めだと張り切ってる。
余談だが、オリヴィアはハンカチ一枚洗った事がなく、サラダに
ドレッシングを自分でかけた事すら無いそうだ。彼女の受けた教育
とは、公の場でのマナーだったり教養、そして何より重要なのが、
使用人を動かす事と、側室の管理をすることなのだとか。
﹁この屋敷の規模ですと⋮⋮専門の教育を受けていないことを考え
て10人くらい必要かと﹂
﹁それじゃトラバントさん、10人頼む。とりあえずこれだけあれ
ば前金になるだろ﹂
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︻収納空間︼から金貨を数枚取り出す、基本殆どは商業ギルドに
預けてあるのだけど、緊急時用に用意してたものだ。
トラバントさんも俺の使用人を雇うのに彼や神殿が費用を出すの
は、筋が通らないと分かっているのだろう。一瞬不要だと言いかけ
たが、大人しく受け取った。
使用人は明日にでも手配するそうだ、さて今日一日はこの屋敷で
二人っきりだ、色々見て回って必要なものがあれば変装でもして買
いに行こう。
∼∼∼∼∼その日の夜∼∼∼∼∼
昨夜、偉くなったら二人で入れる浴場を家に造ると決めたが、思
いのほか早く叶ってしまった。広い屋敷に今日一日二人っきりの今、
ナニをしてるかというと⋮⋮
﹁んっんっんっ! 旦那様、き、気持ちいいですか?﹂
大理石で出来た浴槽の縁に腰掛ける俺の眼下には、四つん這いに
なり俺の逸物に口で奉仕するオリヴィアがいた。
﹁ちゅっ! んっんむぅ⋮⋮﹂
屋敷に中に浴場を見つけた俺は早速湯を張り、オリヴィアを連れ
43
込んだのだ。二人でお互いの体を洗いながら、そろそろベッドに連
れ込もうとしたら、オリヴィアの希望で奉仕を受けた。出会ってか
らの道中ではセックスの主導権は全て俺が握っていて、彼女はなす
がままにされていたので、勉強した成果を試したいそうだ。
ちなみに勉強とは﹃専用の家庭教師﹄から受けた性教育のこと。
夫となる男がどのような嗜好でも対応できる性奉仕の極意らしい。
この四つん這いフェラチオが俺に対応する性奉仕なのだろうか⋮
⋮やばい、物凄く興奮してる。可愛いオリヴィアが、俺を掴んで離
さない極上の肢体を晒し、犬のような格好で俺のチンポを舐め、時
には口に含む。
確かに刺激としては少し弱いのだが、懸命に奉仕してくれるオリ
ヴィアへの愛おしさで、どうにかなってしまいそうだ。
﹁んっんっんむ⋮⋮はっはっはっ⋮⋮ちゅぶ、ちゅ⋮⋮﹂
頭を撫でると嬉しそうに俺を見るオリヴィア、最大まで昂ぶった
俺のチンポを期待するような蕩けた目で見るオリヴィア、頭を動か
すごとにお尻を揺らすオリヴィア⋮⋮だ、だめだもう耐えきれない!
︱︱︱ドピュドピュドピュ⋮⋮
彼女のフェラに耐え切れず思わず口の中に出してしまった。早く
吐き出すように言おうとしたら、彼女は俺の精液をそのまま飲んで
しまったのだ。
﹁愛する旦那様の精液を吐くなんてできません。オリヴィアは⋮⋮
身も心も旦那様のモノですから﹂
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嬉しそうに俺のモノだと微笑む妻の顔は、どうしようもなく淫靡
で⋮⋮寝室まで連れ込む理性はあっさり消失した。
立ち上がり彼女の膝の裏に手を回した俺は、そのまま持ち上げ立
ったまま秘所に逸物を突っ込む。
﹁ふぁ! あぁ! ふ、深いです、今までで一番奥まで!﹂
足場がなくて不安なのか俺の頭を抱き込むオリヴィア、身長差と
体勢のせいかキスができないのが残念だ。まぁその分激しくする。
﹁ひぁぁぁ! あっあっあぁぁぁぁん! ズンズンって! 旦那様
のオチンチンがズンズンってぇぇぇ!﹂
オリヴィアを持ち上げたまま、激しく上下すると、合わせるよう
に彼女の腰まで届く長い髪が乱れる。
﹁オリヴィア! オリヴィア!﹂
﹁はぁぁぁん! 旦那様ぁクリス様ぁ好き! 愛してます﹂
オリヴィアの抱きつく力が強くなり、さらに体を密着させる、触
れ合う肌と肌の感触すべてが愛おしい!
︱︱︱ズプズプズプズプ!
気持ちよすぎる! 貪るようにオリヴィアの膣内を俺のチンポで
掻き回す! もっと! もっともっとオリヴィアを味わいたい! しかしあまりの快感に限界はすぐにやってきた。
45
出す
﹁射精するぞ! オリヴィアの膣内の一番奥に! 俺のを注ぎ込む
ぞ!﹂
出
﹁はひぃ! い、今射精されたらイっちゃいます! 旦那様の精液
で孕ませていただいてイっちゃいますぅぅぅ!﹂
︱︱︱ドピュドピュドピュ⋮⋮
間があまり空いていないのにも関わらず、二度目の射精なのにか
なりの量だった。盛大に絶頂に達したオリヴィアは俺に抱きつくの
が精一杯なほどに脱力している。
﹁はぁはぁはぁ⋮⋮﹂
﹁だ、旦那様⋮⋮頭の中が真っ白になってしまいました⋮⋮﹂
絶頂の余韻に浸る彼女から逸物を引き抜くと、精液が膣口から零
れ落ちる。まだまだ俺は余裕があるが、オリヴィアには負担をかけ
られない。
風呂で軽く汗を流し、お姫様抱っこで寝室まで運ぶとオリヴィア
は疲れきったのだろう、すぐに寝息をたてた
﹁おやすみオリヴィア、明日は変装してデートしような。好きなイ
ンテリアとか教えてくれよ﹂
未だ鎮まらない逸物で裸で眠るオリヴィアに悪戯したい欲望を抑
え、愛する妻を抱きしめながら眠りに就いた。
46
︱︱︱申し訳ございませんクリス様、殿方を満足させて差し上げ
られないなんて、わたくしはどうしたら⋮⋮
夢か現か⋮⋮そんな悔やむ声が聞こえた気がした。
47
新居︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございました
専用の家庭教師はベテラン高級娼婦とかの副業的なものですかね?
需要があるなら専門家がいても良いけど。
子供残すのが重要ならこういう教育受けてるのかなぁと言う妄想。
48
婚約破棄
温かく柔らかいものに包まれる感覚がする。起きているのか夢を
見ているのか曖昧だが、感じるものは快感。
︱︱︱んっ、んむ⋮⋮ピチャ⋮⋮クチュクチュクチュ
音がする方向へ手を伸ばしてみると、サラサラとした手触りのな
にかがある。そのまま撫でていると、優しく慈しむような声が聞こ
えてきた。
﹁おはようございます旦那様﹂
﹁ああ、オリヴィア⋮⋮おはよう⋮⋮﹂
声がした方向を撫でているうちに目が覚めてきた。ここは昨日か
ら住まわせて貰ってる屋敷で、俺とオリヴィアは風呂から上がると、
裸のまま一緒のベッドで寝て⋮⋮愛する妻の奉仕で目が覚めるなん
て最高だ、オリヴィアの髪を撫でつつ、されるがままにする。
︱︱︱クチュクチュクチュ⋮⋮んっんっんっ!
ああ、気持ちいい、俺の逸物を口に咥えるオリヴィアの舌先は、
巧みに快感を感じる部分を撫でる。
﹁んっ! イイぞ、気持ちいいよ、オリヴィア﹂
俺に奉仕をしながら嬉しそうに微笑むオリヴィア。一度フェラを
49
中断し、今度はその巨乳で俺のチンポを包み込み、先端に舌を這わ
せる。
︱︱︱ピチャ ピチャ ンンンッ!
柔らかく瑞々しい、オリヴィアの巨乳で逸物を挟まれ、彼女はそ
の豊かな双丘を相互に動かしてくれる。挿入した時とはまた別種の
気持ちよさだ。しかもチンポの先端を舌で刺激され、すぐにでもイ
ってしまいそうだ。
︱︱︱ピチャピチャ、ずりゅずりゅずりゅ
﹁うぉっ! 出る、オリヴィアが気持ちよすぎてもうイっちまう!﹂
俺の言葉に気をよくしたのか先端を咥え更にフェラのペースが早
くする。我慢する理由もない、快感のままにオリヴィアの頭を抱える
﹁くっ! 出るぞ!﹂
︱︱︱ドピュドピュドピュ⋮⋮んっクチュクチュ⋮⋮んくっ
俺の精液を飲んだオリヴィアの蕩けた顔にたまらなく興奮する。
セックスの時以外常に清楚で穏やかな彼女の、淫らな一面は俺だけ
のものだ。
出
射精したばかりだと言うのに、俺の逸物は元気なまま。これはア
レだ、俺の嫁が可愛すぎるせいだ、俺は悪くない、よって柔らかな
ベッドに彼女を押し倒した。
﹁あんっ♪ 旦那様ったらいけませんわ♪﹂
50
言葉だけは拒んでても、表情と仕草は誘ってるとしか思えないぞ
オリヴィア。それに気が付かないとでも思ったか? お前の秘所か
ら前戯が不要なくらい垂れる蜜を。
﹁俺だけ気持ちよくしてもらっちゃ不公平だからな、今度は俺がイ
カせてやる﹂
組み伏せられMの字型に足を開くオリヴィアの膣穴に、まだまだ
衰えない逸物を勢いよく挿入する。
﹁ンンンンンッ! あぁぁ! だ、だめぇ! 旦那様のオチンチン
がぁ、奥にぃ奥に当たってるのぉぉ!﹂
︱︱︱ズリュ ズリュ ズリュ パンパンパンッ
最初は勢いよく奥まで犯すかのように、そして徐々に小刻みにリ
ズムをつけて挿入を繰り返す。出会ってから毎日のように彼女を抱
いているが、日を追うごとに彼女の膣内は柔らかく、俺の逸物を心
地よく包み込んでくれる。まるで俺専用に最適化されてるような、
そんな自分勝手な考えすら浮かぶ。
﹁あっあっあっはっあぁぁぁぁ! んむぅ!﹂
俺の手の中で悶えるオリヴィアの姿に、つい嬌声をあげる彼女の
口を唇で塞いでしまう。もちろん挿入は繰り返したまま。
﹁ンッンッンンンンン! ンチュ チュプ チュ⋮⋮﹂
声を出せないまま、お互いに舌を絡め合う。そうしているとまる
51
で溶け合っているかのような錯覚に陥る。
溶け合う感覚のままにピストン運動を繰り返す、いつの間にかオ
リヴィアの両足が俺の腰に絡まりより強く密着する。
︱︱︱グチュ グチュ グチュ グチュ ﹁はぁっ! もっとぉ! キモチいいのォ! 旦那様の大きいオチ
ンチンを奥までください!﹂
オリヴィアの股間から流れる愛蜜は俺の先走り汁と混じり合い、
泡立ちながらシーツを汚す。
突くたびに揺れる胸に舌を這わせる。ピンッと張り詰める乳首を
唇で甘噛みすると、その身体を強ばらせ膣口の締りが強くなる。
﹁ひぁ! そこは! だ、だめぇ⋮⋮旦那様ぁ⋮⋮あっあっんあぁ
ぁぁ!﹂
︱︱︱ビクン ビクン ビクン
﹁ぐっ! そんなに締めたら⋮⋮俺もイクぞ!﹂
︱︱︱ドピュドピュドピュ
﹁はぁはぁ⋮⋮オリヴィア⋮⋮乳首が気持ちよかったのか? 随分
早くイったじゃないか﹂
﹁だって⋮⋮びっくりしてしまいまして⋮⋮﹂
52
新発見だな、今まで胸を揉んだり舐めたりしたが、乳首を重点的
に責めたことは無かったが、そうか、乳首が弱かったのか。
お互い果てた後の気怠さを楽しみながら、オリヴィアを胸元に引
き寄せ髪の手触りを堪能する。その最中にオリヴィアが遠慮がちに
話しかけてきた。
﹁あの、旦那様お願いがあるんです﹂
﹁よし分かった、任せろ﹂
即答すると、オリヴィアが困ったように笑いながら
﹁まだ何も言ってませんが⋮⋮﹂
何を言ってるんだ、オリヴィアのお願いなら何が何でも叶えてや
ろうじゃないか。嫁のおねだりに応えるのも男の甲斐性だろうが。
﹁ふふ、ありがとうございます、実は王都にいる友人にわたくしが
無事だと手紙を送りたいのです﹂
∼∼∼∼∼ディアーネ視点∼∼∼∼∼
53
﹁ディアーネ・メイティアよ、貴様との婚約は破棄だ! そもそも
貴様のような女衒を生業とする家の女との婚約など我がレイフォン
侯爵家に相応しいはずもない!﹂
⋮⋮と、そんな王都中の令息令嬢の集まる夜会でバカが吠えたの
が昨日の夜。
見世物になる趣味は無いのでさっさと帰宅し、両親に報告し、い
つもの時間に就寝、そしていつもの時間に目が覚めて、身嗜みを整
えた頃に父が正式に婚約は白紙になったと教えてくれた。
父は成人男性の平均よりだいぶ小柄で、頭も禿げ上がり貧相な小
悪党といった印象を受けるのだが、贅を凝らした椅子に座る姿には、
威厳とも違う奇妙な貫禄を纏っていた。
まぁ当家の生業を考えれば当然かも知れない、我が国に存在する
娼館は全て国営であり、その管理を司るのが我がメイティア伯爵家
なのだから。
海千山千の狡猾な忘八商人どもを相手に常に目を光らせ、無認可
の娼館を見つけては容赦なく叩き潰すような人間が、ただの貧相な
小男であるわけがない。
そんな父からすれば、女にイカレるだけなら兎も角、仮にも婚約
者を衆目の前で面罵するような男はこっちから縁を切ってやりたい
くらいだろう⋮⋮一言で言えば無粋だからだ。
ルール
ルール
そう、我が家は国全ての娼館を管理し支配する一族、それゆえに
貴族としての法と共に花街の不文律が体に染み付いている。即ち﹃
粋﹄ではない異性など犬畜生にも劣る唾棄すべきモノにしか思えな
54
い。
﹁レイフォン家の小倅から強い要望でな、正式に婚約は白紙になっ
た⋮⋮一応付き合いは長かろう、未練はあるか?﹂
確かに、私と元婚約者のシャルロー・レイフォンとは幼馴染の間
柄で、子供の頃は仲が良く婚約もスムーズに決まったという。だか
らそれなりに愛情はあったし、未練がないといえば嘘になるが⋮⋮
﹁花が飛び去るミツバチを追うなんておかしな話、無粋の極みです
よお父様﹂
自分をフッた男への未練を表に出すなんて、これは粋じゃありま
せん。ミツバチが去ったのなら更に艶やかに咲き誇るまで。
﹁とは言っても王都にいる身分が釣り合いそうなのは、軒並み﹃ア
レ﹄に夢中だからのぉ﹂
嘆かわしいとでも言いたげに嘆息する父、﹃アレ﹄というのはシ
ャルローが夢中の女であり、私の親友オリヴィアの妹でもあるアン
ジェリカ・ヘルトール公爵令嬢。
今年15歳で社交界にデビューした彼女は、見目は確かに美しい
というか可愛らしいのだが、私からするとあまりにも無粋だ。不特
定多数の男性に対し無遠慮に声をかけ、肌を接触させる、あまりに
もあからさまな男漁りとしか表現できない行為に、その場に居合わ
せる女性全員が眉を顰めたものだ。
姉であるオリヴィアが注意しても、小馬鹿にしきった態度で改め
る気配は無い。それどころか周囲の男どもがオリヴィアを責める有
55
様だ。彼女の父や兄までも⋮⋮正直私はオリヴィアほどの令嬢を嫌
う連中の精神が理解できない。
例えが悪いかもしれないが、仮に彼女が我が家直営の娼婦だとし
ら、下級貴族など手も触れられない高嶺の花となることだろう。私
の親友の美貌と立ち振る舞いはそれほどのものだ。
ああ、困ったな昨夜は連絡のつかないオリヴィアの事を聞こうと、
ヘルトール家の者に会いたかったのに。なにやらゴタゴタがあった
らしく、ヘルトール家に縁の者は出席していなかったのだ。
こうなったら、アンジェリカ嬢に会うのは嫌だが、直接訪ねるか
? そんな事を考えてると不意に、窓から音がした。
﹁手紙を運ぶのに使われる使い魔だな、これ、誰かあるか?﹂
父が手を叩き使用人が窓を開けると、使い魔らしいカラスが手紙
を落とし飛び去った。多少無用心なようだが、鳥型の使い魔で送ら
れてくる手紙は緊急の案件であることが多く、仮に焼き払ったとし
て、手紙が重要なものであった場合泣くに泣けない。
普通は空飛ぶ魔物を警戒して4∼5羽を時間差をつけて飛ばすの
だが、鳥型使い魔は高位の魔法使いに依頼しないと送れない。その
ため依頼料をケチって1∼2羽だけという場合もある。
使い魔に害意があった場合窓を突き破ったりするのだから気にし
たって仕方ないという側面もあるが。
使用人が拾い、内容を確認した手紙にはなんとオリヴィアのサイ
ンがあった。私はすぐに手紙を読み⋮⋮父にも見せる。
56
オリヴィアからの手紙を読んだ父は満面の笑みを浮かべ⋮⋮
﹁ディアーネ、無粋な小倅と破談となったのは僥倖であったの、し
かも昨日の今日だ、これはすなわち縁なのかも知れん﹂
意外かもしれないが、如何にも悪役顔な父はロマンチストである。
意外かもしれないが、割と父は運命とか信じるタチである。物凄く
意外かもしれないが、この悪役顔で父は信心深かったりする。
﹁今すぐラーロン地方のオリヴィア嬢の元へ向かえ、私物の類は後
で届ける﹂
﹁え? はぁ確かにオリヴィアには会いたいですが、そんなに焦ら
なくても良いのでは? 手紙を読む限り彼女の旦那様は大事にして
くれてるようですし﹂
親友の無事が分かり安堵したが、父は何をそんなに急いでいるの
だろう? 大体新婚家庭に手紙も出さずに訪問など無粋にも程があ
るでしょう。
﹁この王都で勇者が誕生したことを知るのはまだ儂らのみだ、この
アドバンテージを活かさんでどうするというのだ! お前には勇者
殿に嫁いでもらう﹂
57
婚約破棄︵後書き︶
読んでくださった皆様ありがとうございました
ディアーネ嬢視点の話だったので彼女の容姿には触れませんでした
が、オリヴィアが清楚な美少女であるのに対し、彼女は艶美な美少
女といった感じでタレ目に泣きぼくろ、オリヴィア以上の巨乳に加
え、家伝の技術により誰もが目を奪われるほどの色気を持って、夜
の技術も本職上位陣に比肩します、しかもそれで処女だったりする。
58
王都︵前書き︶
オリヴィアの呪いが解けて、主人公がお屋敷でイチャイチャしてる頃
王都でのお話です
多少不快な表現が含まれるかもしれませんがご了承ください。
59
王都
それは儂が自室でヘルトール公爵領内における報告書に目を通し
てる時であった。この時儂が知る術も無かったが、それは娘に掛け
られた呪いが、女神の手により消え去ったのと同時刻。
オリヴィア
ふと、赤子を抱いた妻の肖像画が目に入り⋮⋮つい先日まで娘に
行ってきた虐待の数々を⋮⋮愛していたはずの娘に何をしてきたの
かを思い出してしまった。
︱︱︱理由もなく暴力を振るったことを。
︱︱︱使用人にいない者として扱うように命じたことを。
︱︱︱家畜の餌を食わせたこともあった、夜間に冷水を浴びせ外
に放置したことも、妹と比べ散々罵倒したことも⋮⋮なによりも
︱︱︱儂は⋮⋮娘を⋮⋮ドレイトシテ ホウリダシタ?
足が震え立つことができない、胃の中身が逆流して、視界が真っ
暗になる。
﹁がっ! あ⋮⋮あぁ⋮⋮儂は儂はっ! げぼぉぉぉぉぉぉ!﹂
頭の中身がぐちゃぐちゃだ、どうして良いのか分からない、分か
らない分からないワカラナイワカラナイ!
手に痛みが走ったと思ったら、どうやら自ら万年筆で手を突き刺
60
していたようだ⋮⋮足りない、儂は娘に一体何をした? 儂は大理
石の柱に向かって何度も頭を打ち付け⋮⋮気がつけば自室のベッド
で眠っていた。
異常に気がついた者が、駆けつけた時には儂は頭から血を流し、
吐瀉物まみれで倒れていたそうだ。目が覚めた瞬間使用人にオリヴ
ィアを連れ戻すように命じる。
他に何もしなくていい、使用人全員で探索に当たるのだ。公務が
滞る? 知ったことかそんなものよりオリヴィアを探せ!
胸に燻る後悔を少しでも吐き出したくて、儂が子供の頃から仕え
る執事長を呼びつけたのだが、なんでも普段どうりに仕事をしてい
る最中に、いきなり自殺を図り意識不明の状態だとか。そうかアイ
ツも儂と一緒か。
オリヴィア
娘が生まれる前から仕えている使用人たちも、程度の差はあれ同
じような状況でしばらく使い物になりそうにない。
息子たちやまだ若い使用人たちの場合、オリヴィアは最初から虐
げられている存在で、アンジェリカの引き立て役という意識があっ
た。それだけに儂らが乱心したものと思い混乱し、オリヴィアを探
せという命令にしても明らかにやる気が見えない。
では侍女たちはどうかと言うと、今までの虐待を知って娘に同情
的である以上、探すふりをしてサボる始末だ。だが儂に今までオリ
ヴィアの味方であった者達を叱りつける筋合いが、いや資格がある
はずない。
ならば儂自ら動かねば⋮⋮医者は止めるが剣で脅し黙らせた。邪
61
魔するな儂は娘を探さなければならんのだ!
先ず娘を放り出してしまった奴隷商の店に向かう。オリヴィアの
行方を聞いたのだが、守秘義務がどうとか煩わしい、要するに知り
たければ金を出せという事なのだろうが、時間が惜しい。奴隷商の
指を儂が自ら切り落としたらすぐに白状した。
娘を買った男の行方を全力で探した、公爵家の伝手の全てを使い
捜索しても王都の外に出たことしか分からなかった。
捜索は続けるが成果もなく時間だけが過ぎていく、妻や母は儂の
豹変を驚き事情を聞いてきた。そういえば妻たちには奴隷として放
り出すとき、儂は説明が面倒で、怒りのままに別荘に蟄居を命じた
と嘘の説明していたのだ。
妻たちには正直に、ありのままに話し⋮⋮妻は無言のままに平手
打ちを、母は乗馬用のムチを持ち出し、儂を何度も打ち据えた。
許してくれ、儂が悪かった、儂はどうなってもいい、誰か、誰か
オリヴィアの行方を教えてくれ⋮⋮その苦悶は、さらに数日後辺境
からある知らせが届くまで続いた。
∼∼∼∼∼ディアーネの婚約破棄の後、王宮にてアンジ
ェリカ視点∼∼∼∼∼
62
燭台に灯るかすかな炎だけが、その豪奢で広々とした部屋を照ら
す。揺らめく光源と漂う淫香の煙が、薄暗く廃退的な雰囲気を作り
上げていた。
その為だけに設計された王宮に用意させた私の部屋、壁には名前
も覚えてない美男子たちが下半身を隠す腰布だけで並んでいる。こ
こからでも分かるくらい、だらしなく下半身を膨らませながら。
﹁んっ! うふっうふふふふふふふふふ! ほら、遠慮なんてしな
くていいのよ? ﹃ご褒美﹄なんだから﹂
︱︱︱クチュ クチュ クチュ クチュ
うふふふふ! 美貌の婚約者を夜会の席で捨てた男が、今こうし
て私の性器を犬のように舐め回してる姿を見たら、元婚約者はどう
思うでしょう。そのザマを想像するだけでイってしまいそうなほど
興奮してくる。
巨大サイズのベッドの上には私と、ついさっき婚約破棄を宣言し
たシャルロー・レイフォン。これはご褒美だ、婚約者を捨て私に愛
を捧げると決めた者への餌、私の愛という極上の首輪で嵌めるため
に、与えた犬への餌だ。
︱︱︱クチュ クチュ クチュ クチュ
﹁はぁん! いいわよ、意外と上手じゃない、あの女にも同じよう
なことをしたの?﹂
﹁そのようなことはない! アンジェリカを気持ちよくするために
63
愛を込めてるだけさ﹂
ディアーネ
意外ね、あの女のあの身体で男に肌を許してないなんて。あの女
から漂う色香は女である私ですら見惚れてしまいそうなほどのモノ
だった。
一族の稼業ゆえだろう、燃えるような赤い髪も、白磁のような白
い肌も、他の令嬢とは一線を画す。羨ましい⋮⋮
姉に比肩する美貌、印象的な泣き黒子、男どもの誰もが目を奪わ
れる豊かな胸も細い腰も﹃女﹄の魅せ方を知り尽くした仕草も⋮⋮
何もかもが羨ましい!
だからシャルローは念入りに誘惑した、あの美貌の女よりも私を
選ぶように。惨めに夜会から退席したディアーネ、その婚約者から
犬のように奉仕を受けてる私。
﹁ふふっあはははははははははは!﹂
オリヴィア
愉快だわ、こんなに愉快なのは姉が奴隷となったと報告を受けた
時くらいかしら? 私は幼い頃から愛されてきた、父からも兄弟か
らも、使用人からも。
全ての男たちが姉よりも私を愛してくれた⋮⋮それが当然と思っ
て少し成長した頃に気がついた、美貌も、スタイルも、教養も、何
から何まで私は姉に劣っているという事実に。
その時からだろうか、周囲のすべての男たちに姉は嫌われだした
のだ。そしてその分まで私を愛してくてるのだ、幼い頃は理解でき
なかったが今ならわかる。
64
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
私より美しい女など⋮⋮遍く悪意の泥に沈めてしまえば良いのだ、
と。私にはそれを選ぶ権利があるのだと。
﹁ククク⋮⋮あーっはっはっはっは!﹂
腹立たしいが私が嫉妬した以上逃れられない。ディアーネは今頃
足元まで悪意の泥に浸かってるだろう⋮⋮徐々に沈むといい、一週
間もすれば姉と同じ境遇まで堕ちるのだ。
︱︱︱ワタシヨリ キレイナオンナハ ゼンイン キラワレレバ
イインダ︱︱︱
笑いが止まらない、ああ、とても気分が良いわ、今夜はシャルロ
ーに挿入まで許してやっても良いかもしれない。
﹁くんっ あっあっあっ! ふふっ随分と昂ってるのねシャルロー
?﹂
この犬は私のベッドに入った瞬間から、勃起したまま、ふふっよ
く見れば王太子のソレよりちょっと大きいかしら?
﹁ふふっ私への愛を選んだご褒美よ? 来なさい⋮⋮﹂
許可を出したとたん、シャルローは覆い被さってきた。あらあら
発情した犬そのものじゃない。
︱︱︱グチャ グチャ グチャ グチュグチュ⋮⋮
﹁んあぁ! は、はげし⋮⋮ンッンッあぁぁぁぁん!﹂
65
入れ
この男、挿入した途端さらにオチンチンが膨らんで⋮⋮それに上
手いっ! ディアーネ
あの女との仲が良好だったから、てっきり経験が無いのかと思っ
たが、商売女とでも寝たことがあるのだろう。巨大なペニスが子宮
を叩き、今まで感じたことのない程の快感が襲う。
︱︱︱パンパンパンッ ズピュ⋮⋮
﹁うっ! はぁはぁはぁ⋮⋮﹂
あら? もうイっちゃたの⋮⋮一度射精した巨根は見る見る縮ん
でいく。見れば相当悔しそうだ、多分初めて私に挿入したから興奮
しすぎたのかな?
はぁ⋮⋮オチンチンが大きくて上手でも、あんまり早いと興ざめ
ね。ちょっと中途半端だけど、まぁご褒美としては十分でしょう。
﹁シャルロー気持ちよかったみたいね? それじゃ順番だから⋮⋮
次、来なさい﹂
壁に待機していた男が嬉しそうにベッドに入ってくる。それと同
時に悔しそうなシャルローがベッドから降りて壁際に立つ。
次の男は⋮⋮名前なんだっけ? まぁ別にどうでもいいか、頑張
って私をイカせてご覧なさい、そうすればご褒美をあげるわ。
まだまだ夜は長い⋮⋮もっとよ、もっと愛が欲しい。遍く全ての
愛をこの私に捧げなさい。
66
∼∼∼∼∼ディアーネ視点∼∼∼∼∼
婚約破棄された翌日、オリヴィアの手紙を受け取った私は、当家
秘蔵のゴーレム馬車で辺境のラーロン地方へ向かっていた。
ゴーレム馬車は通常の馬車より数倍速く疾走し、そこらの魔物な
ど軽く蹴散らすことができる。勿論安価な物ではないが、王国中の
性産業を一手に担う我がメイティア伯爵家は、王国でも三指に入る
資産を誇るのだ、なぜ父がこれほどまでに急いでるのかと言うと⋮⋮
﹁手紙によれば勇者殿にはオリヴィア嬢以外に女の影はない、それ
はわかるな?﹂
﹁え? ええ、祝福を授かったのがつい昨日のようですし、流石に
側室の話を持っていく者は少ないでしょう﹂
手紙を読んでるだけで砂糖を吐きそうなほどのラブラブぶりだ、
これで側室の話を出すなんて無粋以前に勇者様の怒りを買うだけで
しょう。
勇者様と結婚したのも驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのが彼
女を蝕んでいた呪いの話だ。あまりにも悪質な呪いに思わず吐き気
がした、これが彼女の嫌われていた理由か。
67
﹁お前は手紙の内容をよく吟味せよ、軽く読んだだけでオリヴィア
嬢は主人を満足させることができず、悩んでいるのが手に取るよう
に分かる﹂
流石娼館の元締めだ、そういう事には鼻が利くんですね。そうい
えばお父様ってオリヴィアを嫌っていなかったような?
﹁儂が女に対して感情を動かすなどありえん、女に情を抱いてはこ
の稼業はやっていけん。情を抱けば心を病むぞ、女のお前に言って
も詮無きことだが﹂
流石に娘の私には多少情があると信じたい。なるほど、女性に関
して無感情だから呪いも効かないってことですね。
﹁それに⋮⋮ふ∼む、女に対し感情を動かさんとは言ったが、儂は
どうやらお前に悪感情を抱いているな。オリヴィア嬢と同じ呪いを
受けたなディアーネ﹂
無表情でとんでもない事を言い出すお父様、いやいやいやいや!
それってヤバイじゃないですか!
﹁丁度いい、呪いを解いてもらい、ついでに誑し込め、それだけの
教育はしてきたはずだ。勇者殿はどうも情に厚い、というより情に
脆い人物のようだ、儂からすれば篭絡の手段は山ほど思いつく﹂
情に脆いお人好しとか、私もいくらでもその手段が思いつきます
ね。
﹁よいか、オリヴィア嬢が正妻なのは動かしようがないが、第二夫
人の座に収まれば今後発展するであろう辺境で、大きな力を振るえ
68
るであろう﹂
他の貴族が手を打つ前に私を送り込もうって事ですね、分かりま
した。家のためでもありますし、親友と姉妹になるのも悪くはあり
ません。
同じ主人に嫁いだ妻たちは姉妹とされ、親戚として繋がりを持て
るのです、当然今後とも増える勇者様の妻たちの実家との伝手も期
待してるのでしょう。勇者様って超絶優良物件ですねホント。
ちなみに、辺境のトップである第二王子のカール様に、そういう
話はないのかと言いうと、今のところ一切ありません。
婿入りの立場である以上、奥様のデシデラータ様との間に世継ぎ
が生まれないと、混乱の元になるため全て断ってるそうです。もっ
とも只今奥様はご懐妊中のため、カール様に嫁ぐのを希望する令嬢
は多いとか。まぁあの方美男子の上に天才と評判ですからね。
それはさておき、先方に一切話を通してないので、私の嫁入りは
オリヴィアの説得次第ですよ。いきなり押しかけたらオリヴィアも
驚くでしょうね。トホホ、こんな押しかけ女房のような事しないで、
結婚するならもうちょっと粋な出会いがしたかったですわ。
69
王都︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございました
次回からハーレムいけそうです。
70
王子︵前書き︶
前話で、ディアーネ嬢のハーレム入りと言ったが、長くなったので
分割させていただきました。
そして一話毎に一回エロを入れると決めてるので、番外編的なエピ
ソードを挟みました、以前感想欄に要望のあった女騎士モノです、
楽しんでいただければ幸いです。
正妻放っておいて女騎士とイチャイチャはどうなんだって意見を頂
きまして、8/25 13:55に3P描写を加筆しました
71
王子
家人不在の時や、声をかけても気付かれなかった場合のために、
屋敷の門の脇には手紙置きと呼ばれている、郵便物を入れる穴だけ
空いた鍵付きの箱が設置されている。なんでも第二王子が便利だか
らと辺境を中心に広め、今では少し裕福な一般家庭なら何処でも設
置されてるそうだ。
オリヴィアから話を聞く限りでは、カール王子は随分と新しいも
の好きと言うか、新しいものを考案して広げるのがお好きなようだ。
なんでも彼のアイディアで、今までかなりの労力を割いていた様々
な仕事が格段に楽になり、生活に余裕が出てきたそうだ。
その才能は政治だけでなく武芸の方面にも発揮され、武勇伝にも
事欠かない、伝聞だが若干14歳にして王都の武芸試合に参加し近
衛騎士を相手に素手で圧倒したとか。
剣技を競う場なのだからせめて何か武器を使ってくれと言われた
そうだが、﹃武器を使ったら寸止めしないといけないじゃないか、
当身ならセーフ!﹄とか言い放った瞬間、近衛騎士たちは逃走した
とかしなかったとか。
噂では非公式に王太子とも試合をして、輝かしい笑顔を浮かべな
がら顔面に飛び膝蹴りを叩き込みノックアウトしたとか。去年は令
嬢たちの間ではこの話でもちきりだったらしい。
これでまだ15歳というのだから恐れ入る、所謂天才と呼ばれる
人種なのだろう。先代辺境伯があっさり婿に家督を譲ったのも納得
72
だ。
さて、そんな天才様が我が家︱︱︱昨日から泊まっただけなので
あまり実感はないが︱︱︱に3日後の昼に訪ねて来ると、手紙が箱
に入ってた。
届いたのは多分今朝、俺がセックスに夢中になりすぎていたのか、
手紙を届けた人が声をかけても無駄だと思ったのか、まぁ両方だろ
う。
寝室はちょっと匂いが残ってるので、朝食兼昼食を食べた部屋で
ソファーに寝転がりつつ︱︱︱勿論膝枕で︱︱︱手紙を読み終え、
オリヴィアに聞いてみる事にする。
﹁なぁオリヴィア、一応雇い主というか主君になる人なんだし、な
んかもてなしとかした方が良いのか? 昼に来るんだし、昼飯とか﹂
﹁この場合、辺境伯の身分にある者が、いくら勇者とはいえ無位無
官の旦那様を訪ねるのですから、食事を振舞うのは止めた方が良い
ですわ、お茶とお菓子だけ用意すれば大丈夫でしょう﹂
彼らほどの身分になると、初見の人間が振舞う食事を︱︱︱お茶
くらいなら問題ないようだ︱︱︱毒見なしで口にすることはありえ
ないらしい。
加えて﹃誰かと食事﹄というのも仕事の内なので、俺のような勧め
られて断りにくい、至極面倒な立場の人間が余計な気を回すと、あ
ちらも困るとのこと。
カール王子はそのへんあまり気にしない、気さくな人物と評判ら
しいのだが、俺があんまり非常識な事をすれば嫁の恥になるのだか
73
ら気をつけなければならない。
﹁こういうお客様への対応も、夫人の勤めですから﹂
俺はこういうのに疎いからホントに助かる、よって感謝の気持ち
は抱きしめてキス⋮⋮膝枕されてるから難しいな、よし、代わりに
お尻を撫でて伝えよう。
﹁ひゃ! ンッ⋮⋮﹂
お尻をナデナデ、あぁ柔らかくて気持いい⋮⋮そのまま撫でてる
とオリヴィアに頬をムニムニと摘まれたり引っ張られたりした。お
互い疲れるまでしばらく攻防を続ける。
﹁それじゃ客用の茶器とか家具とか、街に出て見て回るか﹂
デートの
さっきまで抓られていた頬を撫でられつつ、出かける提案をする。
俺が言うとちょっと困った感じで。
﹁わたくしたちが街を歩くと騒ぎになりそうですわよ?﹂
平気平気、一般人を欺く程度の幻術なら雑作もない、膝枕から起
き上がり俺は収納空間から冒険者風の服を取り出す、同じくサイズ
が小さめのオリヴィア用に用意した服も取り出す。
デート中の冒険者カップルを装えば問題ないだろう、辺境には魔
物が多く、これからの発展が期待されている。必然成り上がりを目
指す冒険者たちが数多い。それこそ石を投げれば冒険者に当たるく
らいたくさんいるのだから。
74
﹁冒険者風の服を着て、髪の色を誤魔化す程度で十分だろう。本当
は嫁さんには着飾って欲しいけど、周囲の目が集まるのってストレ
スだろう?﹂
﹁はい⋮⋮殿方の目線が集中すると⋮⋮どうしても怖くて⋮⋮﹂
子供の頃から悪意に晒されれば無理もない、かつてを思い出した
のだろう、俯き震えていた。
﹁俺がずっと傍にいるから﹂
﹁⋮⋮はい、旦那様﹂
そっと、彼女を抱きしめキスをする。一分、二分⋮⋮暫くキスし
たままでいるといつの間にか彼女の震えは止まっていた。
﹁お嬢さん、俺と一緒にお出かけしませんか?﹂
﹁わたくしでよければ喜んで﹂
オリヴィアの手を取り、本で読んだ誘い文句を言うと、彼女も笑
って応える。そのまま手を繋ぎ、玄関を開け表に出ようとしたとこ
ろ⋮⋮
﹁ゴホンッ!﹂
ちょうど目の前で大神官のトラバントさんが馬車から降りたとこ
ろだった。彼からすれば訪ねたら出かけようとしてるんだから運が
良かったということか。何時訪ねるとか約束してた訳じゃないから
な。
75
﹁あ、おはようトラバントさん﹂
﹁もう昼過ぎてますぞ勇者様、若い夫婦ですので致し方ないですが﹂
困ったような表情で注意してくる。確かに朝起きてすぐセックス
とか、爛れた生活をしてると言われても一切反論できない。
﹁やれやれ、朝の訪問は控えて正解でしたな﹂
どうも朝っぱらからナニをしていたのか、大凡把握されてるな。
把握というより推測か、流石大神官だな素晴らしい観察眼だ、単に
俺の行動パターンが読みやすいだけかも知れんが。
﹁昨日頼まれた、使用人の件ですが連れてまいりましたぞ。身元の
しっかりした者たちですが、本職というわけではございません﹂
地元の人間を優先的に雇用するようにカール王子から通達されて
るらしく、雇ったのは仕事が効率化したせいで時間の余った、近所
の住民が多いらしい。オリヴィアの男性恐怖症も考慮して、全員近
所に住む奥様方だそうだ。
ご主人が仕事に出てる間のお手伝いのようなもので、仮になにか
やらかしてしまったら、村八分されるのが目に見えているので、下
手な人間の紹介より信用できるとのことだ。
トラバントさんに紹介された使用人は、この屋敷にほど近い職人
街の奥様方⋮⋮上品にいう必要もないが、人の良さそうなオバちゃ
ん達だった。
76
﹁初めまして勇者様、アタシは仕立て屋を営むアランの家内でマー
サと申します﹂
一応代表らしいマーサさん︵55歳︶を始め全員から自己紹介を
受けたあとでこっちも名乗る、家の中でも勇者様はちょっと堅苦し
いな。
﹁よろしく頼む、俺はクリスだ、こっちが妻のオリヴィア。あと家
の中でも﹃勇者様﹄は落ち着かないから名前で呼んで欲しい﹂
﹁承知いたしましたクリス様、オリヴィア様﹂
意外と礼儀正しいと思ったのは失礼だったか。考えてみれば職人
の奥さんってことは、客の相手とかするよな。
近年の好景気で弟子が増えたおかげで、家事が分担されたので︱
︱︱水汲み掃除など見習いの仕事なのだ︱︱︱オバちゃん達は結構
暇らしい。
屋敷の間取りを把握して貰うのに簡単な清掃と、必要な備品を買
い揃えるようにと、金貨をマーサさんに預ける。なんか恐縮してた
が俺が気にすることでもない。
日が落ちる前には帰ると伝え、俺たちはデートに出かける。街で
買い物や食事なんて初めてだから楽しみだ。
そうして冒険者に扮した上に容姿を誤魔化しているので、住民に
バレて囲まれるということもなく、俺たちは自分たちが住むことに
なる街を存分に見て回った。
77
∼∼∼∼∼3日後∼∼∼∼∼
最初は恐縮していたオバちゃん達とも打ち解け、今日はカール王
子が訪問する日だ。臣籍に降ったそうなので正式にはカロリング卿
と呼ぶべきなんだろうが、周囲の人達全員がカール王子と呼ぶので
気にしないことにした。
﹁初めましてクリス殿、カール・カロリングだ。ボクのことはカー
ルで構わない﹂
目の前にいるのは年相応、いやむしろ幼く見える少年だった。金
髪碧眼で穏やかに微笑む彼は整った容姿と相まって、紅顔の美少年
と言うか、失礼かもしれないが少女のように可愛らしい印象がある
⋮⋮もっとも凶器のごとく鍛え上げられた拳ダコと、素人では分か
らないように金属で補強された仕込み服を見なければな。
後で分かったことだが、他にも手首の返しだけで取り出せる袖口
に隠したナイフ、靴には鉄板と刃物が仕込まれていて、無造作に髪
を束ねてる紐は外すと絞殺具になるらしい。怖ぇよこの王子!
魔法使い
カール王子の俺を見る目も、戦力を推し量ってるのが分かる。す
まんが俺って世間一般がイメージする勇者と違って、本職は呪術師
だからな? 近接戦はできなくもないけど並の兵士程度の腕前だぞ。
78
﹁クリス殿は我が領土の開拓に真っ先に名乗り出て下さったが、理
由を伺っても?﹂
﹁最初は成り上がりが目的で、オリヴィアに出会ってからは彼女に
いい生活をさせてやりたいから⋮⋮です﹂
﹁あはは、ここは貴方の屋敷ですし、公的な場でもありませんので
普通に話していただいて結構ですよ。第一クリス殿の方が年上では
ないですか﹂
王子の砕けた態度にこちらの肩の力も多少抜ける。開拓が本格的
に始まるまでは資材調達やら組織編成やら、やることは山積みで早
くても一ヶ月後、それまで好きにしてて良いらしい。
待機期間は魔物などを倒してくれれば報奨金を出すし、素材の買
取りもしている、大物を狩れば功績として褒美を出すそうなので、
退屈することはないだろう。嫁とデートばかりってのもアレだし、
ちゃんと働いてるとこ見せて甲斐性を示さんとな。
そして開拓が始まれば、勇者として魔物の多い最前線で戦っても
らうと。誤魔化しもせずはっきり言うのが好感が持てた、キツい方
が手柄を立てやすいし望むところだ。
その後は他愛も無い世間話をしたりして、予定していた時間通り
に王子は帰った。門のところまで見送ったら馬車に乗る間際にこっ
そりと、ちょっとしたお願いをされた。
﹁そういえば、クリス殿は闇属性の魔法使いだと聞きましたが、実
は⋮⋮﹂
79
自分の属性を誰かに名乗った覚えはないんだが、どういう情報網
なんだこの王子⋮⋮うん、この人絶対に敵にしたら駄目な人だ、3
0分足らずの会話で俺はそう確信した。
∼∼∼∼∼護衛騎士ジャンヌ視点∼∼∼∼∼
︱︱︱よっしゃ! 魔法使い系勇者キタ! 単騎MAP殲滅兵器
とかこれで開拓勝つる!
たまによくわからない独り言を漏らす我が主君カール様ですが、
たったの五年でかつて辺鄙な田舎だったラーロン地方を、ここまで
豊かな土地に導いてくださった天才の心中を推し量るなど武辺者の
私には無理な相談でしょう。
今日の会談は、トライア大神殿にて女神様より加護を賜った勇者
様との初顔合わせ、主君の様子を見る限りでは大変好印象のようだ。
確かに会談の様子を見る限りでは好人物だし、背後に控える輝かん
ばかりの美貌の奥様とは大変お似合いの美男子だ。
まぁ私としてはカール様の方が好⋮⋮ゲフンゲフン! 何を考え
・・
たジャンヌ! 敬愛する主君に邪な懸想を抱くなど言語道断! あ
ぁでも、訓練の時偶然私の胸に触れたカール様の手の感触を思い出
すと⋮⋮
80
﹁あぁ! イケませんカール様、訓練中にそんな! みんなが見て
ます、せめてベッドに﹃ゴスッ﹄キャイン!﹂
﹁ジャンヌ、ボクと同い年の君がエロ妄想するなとは言わないけど
⋮⋮せめて口に出すなこのバカ!﹂
ううう⋮⋮主君の愛のムチが痛いです、この方素手で魔物を撲殺
できますから、そんな拳でゲンコツしないでください⋮⋮
﹁この残念っぷりで戦闘力はボク以上だから困る、どこで教育間違
えたんだろ⋮⋮﹂
﹁そんな、貧しい農村で私を見出してくださった、大恩あるカール
様のお役に立ちたいと苛烈な修行を修めたのに﹂
5年前、食べるものにも事欠いた故郷で、他国に身売りされる予
定だった娘たち全員を救い、働く場を用意してくださったのがカー
ル様だ。私はその恩義に報いるために騎士を目指し必死に頑張った
のだ。
外で剣を振ってばかりでしたから日焼けしまくりましたよ、はぁ
⋮⋮屋敷に勤めてる女性たちは肌が真っ白で綺麗で羨ましいです。
女性同士の集まりがあると私一人がこんがり褐色肌なので、居心
地悪いんです。その分修行頑張りました、頑張った分また日焼けで
す、もう白い肌の自分なんて思い出せないですよあっはっは!
そしてその熱意が認められ騎士となったのが去年、私は嬉しさの
あまりカール様への溢れる想いを、本人の前でしかも叙勲式の最中
に暴露してしまったのも良い思い出だ。
81
﹁正直は美徳だと思うけどね、思ったことをなんでも口にしちゃう
のは正直とは言わないんだよ! 頼むから気分が高ぶると思ったこ
とをなんでも口に出すその癖を直せ!﹂
いやぁ、あの時は同期の騎士たち全員に生暖かい目で見られまし
たね。先代様も大笑いしてましたし。
﹁ボクの方が恥ずかしかったよ! あの晩はデシデラータが拗ねて
大変だったんだぞ!﹂
顔を真っ赤にしたカール様は可愛いですね、照れておられるんで
しょうか? ﹁怒ってるんだよ! 思ってること全部口に出てるからな!﹂
さて、そんな普段通りのやり取りをしつつ、辺境伯のお屋敷に帰
還いたしました。帰ってからのカール様のご予定はデシデラータ様
と昼食、その後もスケジュールはぎっしりです。
∼∼∼∼∼その夜∼∼∼∼∼
﹁カール様、お帰りなさいませ。ジャンヌも護衛ありがとうね﹂
82
その日の予定を全て消化した頃にはもうすっかり夜も更けてしま
いました。最近はこれでも早く終わった方です。
デシデラータ様は身重でありながら、毎日こうして玄関でカール
様のお出迎えをします。心配そうに早く休むように注意するカール
様ですが、先ほどまでのお疲れのご様子が消え、とても嬉しそうな
顔をしています。
デシデラータ様も恋する乙女そのものですね、妊婦ですけど⋮⋮
はぁカール様のことをお慕いして早5年経ちましたが、入り込める
隙間が一切ありません。政略結婚の筈なんですけどねこの二人。
﹁それでは失礼いたします、カール様もお早めにお休みください﹂
明日も早朝から予定が詰まってます⋮⋮はぁ、早く寝よっと、カ
ール様はこの後デシデラータ様と仲良く寝るんだろうな⋮⋮くすん
﹁そうだジャンヌ、実は今日の昼にクリス殿に頼んでお前に﹃ある
術﹄を施してもらったんだ﹂
なんとっ! 確か勇者様は呪術師⋮⋮わ、私に呪いをかけたので
すか、私がお馬鹿だからお払い箱ですか!
﹁だから思ったことを口に出すな馬鹿、一度しか言わないからよく
聞け。勇者とは神の地上代行者、つまり神官の使う神聖魔法も大神
官以上に使いこなせる﹂
ごめんなさいごめんなさい! 私邪魔ですよね、仲睦まじいご夫
婦のお邪魔虫ですよね! 私なんかがカール様を好きでごめんなさ
い!
83
﹁彼女のお腹にいる子は占い師によると男子らしいし、デシデラー
タもお前が側室になるのは認めている。女性のジャンヌがボクの護
衛騎士な時点で周囲は既に側室と見てるしな﹂
そうだ、修道院に入ろう、一生この想いを胸に秘め、清く正しく
神に仕えて⋮⋮
勇者
﹁勇者殿には︻祝福︼をかけてもらった、神の地上代行者が施した
祝福は大神官以上の﹃格﹄だ、身分程度でお前に文句をつける奴は
いないだろう﹂
ジャンヌは生涯を貴方様の治める街に貢献しようと⋮⋮はて? 祝福? それって結婚の時に神官様に⋮⋮え? え? あれ?
﹁闇の魔法で光を誤魔化したから仕方ないけど混乱してるな、汗を
流したらボクの寝室に来い、分かったか? 命令復唱してみろ﹂
﹁はっはひ! 騎士ジャンヌは身を清めたあとカール様の寝室に向
かいます!﹂
∼∼∼∼∼カール視点∼∼∼∼∼
さて、ボク専属の護衛騎士ジャンヌは、人買い撲滅の一環で偶然
救ったのだが。その当時からボクへの好意を隠しもせず、我武者羅
に騎士を目指し修行に励んできた。
84
ほとんど手入れをしないでも艶を失わない金の髪は、修行中流れ
る汗と共にキラキラと煌き、可愛らしい少女は段々と綺麗になって
いった。不覚にも目を奪われる回数も年々増える。正直に言おう、
最初は彼女の好意に絆され色々と目をかけているうちに、いつの間
に惚れてしまっていた。
妻も最初はヤキモチを焼いたりしてたのだが、ジャンヌはあまり
にもまっすぐ過ぎて、嫉妬するのが馬鹿らしくなったそうだ。
話し合った結果、デシデラータが男子を懐妊したとわかった時点
で側室にしようと決めていた。本人の了解? 聞くまでもないだろ
う。祝福を授かった以上もう我慢しない。
﹁こっこれは夢でしょうか? ジャンヌは馬車の中で居眠りですか
? か、か、カール様がわたっわたしを⋮⋮﹂
﹁くすっジャンヌったら可愛いわね﹂
デシデラータが硬直するジャンヌの手を引きベッドに招き寄せる。
なんだかんだ言って彼女もジャンヌのことは可愛がってるからな、
ベッドの上にちょこんと座るジャンヌは、どうしたらいいのか分か
らないのだろう、きょとんとしている。
混乱する彼女をベッドに押し倒し、唇を塞ぐ。5年前に出会った
日からボクを好きだと言い続けるこの唇は、もうボクだけのモノだ。
﹁んっんっっっっ∼∼∼∼ンッ!﹂
キスすると同時にジャンヌの身体か強張りが消え、胸元に伸びた
85
ボクの手にもなすがままにされている。
﹁ぷはっ⋮⋮きす⋮⋮かーるさまと⋮⋮ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇん
!﹂
顔を真っ赤にして、笑いながら号泣するという意外と器用な真似
をするジャンヌ。妻は彼女を背後から抱きしめ頭を撫でる。
おっと、ジャンヌだけにキスをしたらデシデラータがヤキモチを
妬くな、ジャンヌを宥めているデシデラータにもキスをする、舌を
差し込みお互い絡め合うように⋮⋮
﹁んっんむぅ! チュクチュク⋮⋮ぷはぁ! もうっあなた! 今
夜はジャンヌを見てあげないとダメですよ﹂
怒られてしまった、では背後から妻が抱きしめてるので、ボクは
正面から抱きしめる。
﹁いつもボクの傍にいてくれてありがとう、ボクを好きになってく
れてありがとう。ボクも⋮⋮ジャンヌのことが好きだよ﹂
﹁ふぎゃ! あわっ! あわわわ⋮⋮二人がかり! 二人がかりで
弄られる! 私こんな願望持ってたんですか! ああ、でもカール
様とデシデラータ様なら⋮⋮はう! 夢なら早く覚めてぇ! 初体
験は夢じゃなくて現実の方が⋮⋮あう! しかし現実にこんなこと
⋮⋮﹂
抱きしめてる間、彼女は混乱してるのか、いつも以上に内心を暴
露し続ける。
86
﹁あなた⋮⋮ジャンヌが物凄く可愛いのですが、いつもこの娘を傍
に置いて羨ましいですわ﹂
さりげなく混乱するジャンヌの胸を揉み、耳を甘噛みしたりして
る妻。なんかいつも以上に興奮してないか? お腹を圧迫しないよ
うに気をつけろよ。
﹁そうだろう、こんな可愛い子が傍にいて絆されないはず無いだろ
う﹂
おっぱいはデシデラータが占有してるので、ボクはお尻や太もも
を撫でる。ジャンヌの褐色の肌は鍛えていても、柔らかく手に吸い
付くようだ。
10分ほどそのままだっただろうか? 流石に混乱から立ち直っ
たが二人がかりで愛撫され続けたせいか若いその肢体には官能の火
が灯り、すっかり蕩けきってる。
﹁夢じゃ⋮⋮ないんですよね、夢だったら修道院に駆け込みますよ
?﹂
﹁そうだよ、勇者殿から祝福を貰ったのも、可愛いジャンヌをベッ
ドに連れ込んで押し倒してるのも、デシデラータと二人で可愛がっ
たのも全て現実だ。夢見心地ではあるけどね﹂
もう一度キスをする、今度は多少落ち着いたのか、ボクの頬に手
を添えてきた。
﹁んっ⋮⋮ちゅ、ちゅ⋮⋮ンッッ!﹂
87
キスをしながらジャンヌの服に手をかけ、生まれたままの姿にす
る。デシデラータもいつの間にか服を脱ぎその白い肌を晒していた。
妊娠前も大きなデシデラータのおっぱいは、ボクの子供を孕んで
から更に大きくなり。女性としての色気が日毎に増してるかのよう
だ。
ジャンヌの鍛えられ引き締まった肢体は健康的な瑞々しさに溢れ。
真っ白な肌のデシデラータの肢体、褐色肌のジャンヌが二人生まれ
たままの姿で並ぶ。
﹁ひぁ! だ、だめぇ脱がさないで⋮⋮よ、鎧の痕を見ないでくだ
さい⋮⋮日焼けして女らしくないし⋮⋮﹂
鎧の痕ってこれか? 確かに少し不自然な日焼け跡だけど、ボク
が気にしてないことを教えるために、その部分に舌を這わせる、そ
のまま徐々に下半身へ移動し、秘所へ到達。
﹁あっあぁぁぁん! だ、だめぇ! そんなところ汚いです⋮⋮ん
むぅ!﹂
﹁ジャンヌの身体はどこも綺麗よ、そうとても綺麗なの⋮⋮羨まし
いくらい﹂
美少女同士の濃厚なキスに触発され、更に秘所への愛撫を激しく
する。ジャンヌのオマンコからは既に愛液が溢れ、まるでお漏らし
をしたかのようだ。
︱︱︱ピチャ ピチャ クチュ クチャ⋮⋮
88
﹁はぁん! あっあっあぁぁぁぁ!!﹂
妻にジャンヌの唇を独占させるのも夫の沽券に関わるので、両手
でジャンヌを愛撫し続け、デシデラータと舌を絡めながらキスをす
る。
﹁ジャンヌ、ここは子供が生まれてくる神聖な場所ですのよ、なぜ
汚いのですか?﹂
︱︱︱クチュ クチュ ピチャ ピチャ
﹁だ、だって⋮⋮そこはおしっこが⋮⋮でるところです⋮⋮ひぁ!
んぁぁぁ!﹂
言ってて恥ずかしかったのか、彼女の顔が真っ赤に染まる。これ
以上からかうとまた混乱しそうだし、止めておくか、十分に濡れて
るしね。
愛撫を止めボクの目の前で足を開かせる。唯一日に焼けていない
その処女腔はボクの指で蜜を垂らし。無自覚に男の理性を溶かしボ
クを誘う。
デシデラータもジャンヌが初めて女になる瞬間に悪戯する気はな
いのだろう、不安げなジャンヌの両手を握る。
何も知らない農村の少女だったジャンヌが牝の表情をしている。
ボクを好きだと言ってひたむきに修行に耐えるジャンヌの表情は情
欲に蕩けている。
いつも、どんなに疲れていても眩しい笑顔を向けてくれるジャン
89
ヌの処女を⋮⋮ボクのモノにする!
邪魔な服を脱ぎ、すでに猛りきった肉棒を彼女の蜜穴に擦り付け
る⋮⋮彼女の愛液で濡れた欲棒を膣口に狙いを定める。
﹁ジャンヌ、愛してるよ﹂
﹁わ、私も! 私もカール様を初めて会った時から愛してます!﹂
潤んだ瞳をボクに向るジャンヌの背に手を回し力を込め⋮⋮一息
に彼女の処女膣を欲棒で貫く!
﹁ぎっ! あぁぁぁぁぁぁ!! カール様! カール様ぁぁぁぁ﹂
処女膜を破られた痛みにじっと耐えるジャンヌ、自分の初体験を
思い出したのか、デシデラータは自分の胸元に彼女を抱き寄せ、頭
を撫でて慰めている。
﹁くぅぅ! キツい!﹂
比較するのはマナー違反かもしれないが、柔らかく包む感じのデ
シデラータと違い、鍛えられたジャンヌの膣はボクの肉棒を締め付
ける。
軽く動かしただけで痺れるような快感に襲われ、気を抜くとすぐ
にイってしまいそうだ。ジャンヌの腰を抱きかかえ、ベッドに押し
付け動きを止める。
﹁痛っ! 痛いけど⋮⋮ジャンヌは⋮⋮カール様に処女を捧げるこ
とができて⋮⋮幸せです﹂
90
痛みを堪えながら微笑みを浮かべる彼女を見て、楽しむよりは今
日は早めに終わらせ、徐々にセックスに慣らしていったほうが良い
と決めた。
︱︱︱ズボ ズボ ズボ ヌプ ヌプ ヌプ
出来るだけ痛くないように、ゆっくりと小刻みに動かす。同時に
膣口の痛みが紛れるようにと、舌先で乳首を愛撫する。
﹁あっあっ! んぁぁ! やだ! しゅごいのぉぉ! だめぇ何も
考えられないよぉぉぉ﹂
妊娠中のデシデラータは抱くことができないので、最近溜まって
いるせいか、すぐに射精感がこみ上げてきた。
出す
﹁出すぞ、ジャンヌの膣内が気持ちよすぎて、もう射精するぞ! ジャンヌの子宮にボクの精子を注ぎ込んでやるぞ!﹂
ナカ
ナカダ
﹁はぁっ! カール様ぁぁぁ! ジャンヌの膣内に出すんですか!
ジャンヌはカール様に孕ませて頂けるんですか﹂
シ
もう限界だ、肉棒をジャンヌの最奥まで押し込みそのまま膣内射
精する。最近ご無沙汰だったせいか、射精が止まらない。
︱︱︱ドプ ドプ ドプ ピュ ピュ
﹁ひぁぁぁ! 出てる! カール様のオチンチンからドピュドピュ
出てくるのぉ!﹂
91
ナカダシ
初めてで膣内射精され、射精がおさまるとベッドの上で脱力する。
ボクは汗ばむジャンヌの褐色の肌を抱き寄せ、腕に、うなじに、お
腹に、おっぱいに、体中ボクのものだとキスをする。
いい匂い⋮⋮ジャンヌから香る汗の匂いにクラクラしてしまう。
そして一度射精したにも関わらず、俺の欲棒はその硬度を保ったま
まだ。ジャンヌがいい匂いだからだな。
﹁あなた、妊娠してからセックスは控えておりましたが⋮⋮今夜だ
けご奉仕させていただいいてもよろしいですか? ジャンヌとのセ
ックスを見て⋮⋮その、火照っちゃいまして﹂
頷くと嬉しそうにデシデラータがボクの股間に口付けし、フェラ
チオを始める。初めての頃に比べて格段に上達したものだ、なんで
も高級娼婦を招いて頑張って練習したそうだ。
﹁んっ! 上手になったねデシデラータ、さっきジャンヌの膣内に
出したばかりなのに⋮⋮﹂
﹁はぁ⋮⋮あなたのオチンチン⋮⋮ちゅ、ちゅぷ⋮⋮ジャンヌの愛
液が混じって、いつもと違う味⋮⋮﹂
ボクとデシデラータの姿に脱力したジャンヌも何かしようと思っ
たのだろう、起き上がってきた。
﹁カール様、お望みでしたらご満足するまでジャンヌの事を、好き
にしてください。な、ナニをされても⋮⋮嬉しいですから﹂
可愛いことを言ってくれる、お望み通り明日から毎晩好きにさせ
てもらう。しかし今はデシデラータの奉仕を受けてる最中だ、あま
92
りジャンヌに構ってるかにはいかない。
﹁出るぞ、そのまま口に中に出すぞデシデラータ﹂
︱︱︱ピュ ピュ ドッ ドッ
﹁んむぅ! んくんく⋮⋮はぁはぁ﹂
ボクの精液を飲み干したデシデラータの頭を撫でる。そのままベ
ッドに横になり、左右にデシデラータとジャンヌを寝かせる。
﹁初めてで痛かっただろう、今日は無理しないでこのまま寝るぞ。
明日も忙しいんだからな﹂
﹁はい、おやすみなさいませカール様、明日も⋮⋮ジャン⋮⋮ヌは
⋮⋮貴方⋮⋮様の傍⋮⋮に⋮⋮﹂
相変わらず寝つきが良いなジャンヌは、ボクの腕の中で安心しき
った顔で眠る彼女の頬にキスをする。
﹁おやすみなさいませ、あなた⋮⋮﹂
﹁おやすみ⋮⋮愛してるよデシデラータ﹂
﹁私も⋮⋮愛してますよ⋮⋮カール様﹂
両手で抱いた、二人のぬくもりに包まれながら心地のいい睡魔に
身を委ねる。今日はぐっすり眠れそうだ。
93
王子︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございました
︳︶
残念な描写のジャンヌ嬢ですが、王子のセリフにもあるように戦闘
力だけは飛び抜けてたりします。
3P描写は意外と難しい、ご意見などお待ちしております
主人公、オリヴィア、ディアーネの3Pはまた次回にm︵︳
m
94
淫花︵前書き︶
前話で、カール王子とジャンヌのセックス描写を、夫婦でジャンヌ
を可愛がる感じの3Pに加筆しました
95
淫花
カール王子を見送って、昼食を食べ終え寛いでいた。オリヴィア
はオバちゃん達から教わりながら、デザートを振舞おうと手作りの
お菓子に挑戦中だ。
俺は欠伸を噛み殺しつつ読書、彼女のお菓子作りが終わって、一
緒に食べたら午後からデートの予定なので、プランを考えてると、
来客を告げる呼び鈴が鳴った。
﹁ディアーネ・メイティアと名乗る女性が、オリヴィア様を訪ねて
参りましたが﹂
﹁えぇ! ディアーネが?!﹂
確か自分の無事を伝えた親友だったな、はて? 手紙は送って数
時間で届いたとはいえ王都からここまで早すぎないか? 馬を使い
潰す勢いで強行軍しても4日の距離はあるんだぞ。
﹁三日で辺境っておかしくないか? 早馬より早いじゃないか﹂
オリヴィアは今﹃女神の花嫁﹄とか呼ばれて辺境で有名人だ、友
人を騙って近づこうとする輩がいないとも限らない。騙ったところ
ですぐバレると思うんだが、馬鹿というのはどこにでもいるものだ。
﹁どうもゴーレム馬車にお乗りのようで、あんな立派な馬車初めて
見ましたよ。下手すればお屋敷が建つくらいの値が張りますよ!﹂
96
ちょっと興奮気味なのは、来客を告げたニーナさん︵53歳︶確
か彼女の旦那さんと息子さんは馬車を造る職人だったな。
そんな馬車でやって来るってことは本物なのかな? 聞いた話じ
ゃ物凄い金持ちって話だし。でも万が一があるし一応俺も一緒に出
迎えよう。
∼∼∼∼∼オリヴィア視点∼∼∼∼∼
ディアーネがやって来たと聞き、わたくしは急いで応接間に向か
います。いきなり失踪して心配をかけたというのもありますが、態
々非常に高価なゴーレム馬車を使ってまで彼女がやってくるのには
何か理由があるはずです。
万が一があるからと、旦那様も一緒です。姿を変える魔術など門
外漢であるはずの旦那様があっさり使えるくらいには簡単だからで
す。
もっとも、後にこの話をしたところ簡単に使えるのは、それ専門
に修行を積んだ者だけだ! とか、勇者を比較対象にするな! と
か、怒られてしまいました。
﹁ディアーネ!﹂
応接間の扉を開けると、ソファーで寛ぐディアーネがこちらを見
て微笑み軽く手を振ってきます。
97
あぁ、相変わらず女性のわたくしですら、ドキドキしてしまいそ
うな程色っぽいですね。目の前のディアーネは間違いなく本物です、
姿を似せただけではこの色気は絶対に出せませんから。
普通胸が大きいと太って見られることが多いのですが、計算され
た仕立てなのか胸の大きさを強調しつつも、全体としてすっきりと
した印象を受けます。
ウェーブのかかった赤い髪は陽の光を浴びて輝いて見えます。そ
の美貌と相まってそこにいるだけでまるで一枚の絵画⋮⋮と、言う
には少々扇情的ですが、下品な印象が全くないあたり流石です。
﹁オリヴィア、急に連絡が取れなくなって心配したのよ? それで
いきなり結婚したなんて手紙が届いたときは吃驚したわ﹂
わたくしたちは手を取り合って、再会の喜びを確認します。あ、
嬉しくてうっかりしてましたが旦那様も一緒でした、早く紹介しま
せんと。
﹁旦那様、彼女が手紙を送ったわたくしの親友でして、ディアーネ・
メイティア伯爵令嬢ですわ﹂
紹介されたディアーネも、淑女の作法に則った挨拶をします。旦
那様もわたくしが教えた通りに挨拶を返します、ちょっとぎこちな
いですけど、旦那様は姿勢が綺麗なのでそれなりに様になってます。
﹁カール王子が来るからって猛練習した甲斐があったな、女性相手
の挨拶はこんな感じで良かったのか?﹂
98
﹁はい、格好良いですよ旦那様、惚れ直してしまいました﹂
くすっ、正直に感想を言ったら旦那様ったら照れちゃいました、
普段自信満々で頼もしいのに、たまに見せる子供っぽさがとても可
愛いです。つい無意識に彼の腕に抱きついてしまったのも仕方あり
ません。
﹁いやはや手紙でも分かってましたが、お熱いことで。このまま部
屋にいては愛の火に焦がされ、花が枯れてしまわないか心配ですね﹂
彼女らしい言い回しで、人前でイチャつくなと言われてしまいま
した。親友の前だからと気を抜きすぎでしょうか?
旦那様の目線はディアーネに向けられ⋮⋮ちょっと凝視しすぎで
はないでしょうか? た、確かに胸はディアーネの方が大きいです
が。不安だったので旦那様に抱きつく手に力がこもってしまいます。
﹁それでディアーネさん、結婚した友達に会いに来るってのは分か
るんだが⋮⋮呪いを解いて欲しいなら先に言ってくれれば準備くら
いできたんだが?﹂
呪い!? それは聞き捨てできません、どういうことですか旦那
様。
﹁オリヴィアを蝕んでいたものと同種、まぁ数段弱めだがな。この
屋敷に俺とオリヴィア以外はオバちゃんばっかりで良かったな、仮
に男の使用人がいたら多分追い出されてる﹂
ディアーネの美貌とプロポーション、そして色事を司る一族とし
て自然と身についてる﹃殿方を立てる﹄仕草は、ほとんどの男性が
99
好感情を抱きます。それがわたくしと同じ呪いに蝕まれたとしたら
⋮⋮
﹁はい、幼馴染みとの婚約も一方的に破棄され、もはや王都に身の
置き所がございません。厚顔の極みではありますが、こうして親友
を頼った次第です﹂
﹁わ、わたくしからもお願いします、旦那様っ! どうかディアー
ネを!﹂
旦那様はわたくしの頭に手を置くと、心配するなと微笑んでくだ
さいました。
﹁準備も何もないし、俺一人だから、時間がかかるな。多分終わる
のは夜遅くになるぞ﹂
∼∼∼∼∼クリス視点∼∼∼∼∼
さて、解呪の儀式を始めたのはいいんだが⋮⋮集中できん。理由
? 俺が健康的な若い男だからだ。
午後から予定していたデートが出来なくなったのは残念だが、呪
いに蝕まれた妻の親友を放って置けるはずもない。オリヴィアは部
屋の外で待機している。
それはさておき、解呪のためとはいえ、蝋燭の灯りだけの暗い密
室でベッドに横たわるこのディアーネ嬢。彼女と二人っきりという
のは目のやり場に困る。
100
解呪の為に薬草を混ぜた水で身を清め、同じ水に浸した布だけを
纏い、眠っているディアーネ嬢の体のラインがはっきり見えるせい
だ。どのくらいハッキリかというと、巨大な山脈の頂上の突起がよ
く見れば分かるくらいだ。
胸が巨きいだけでなく形も良く、腰から尻にかけてのラインがエ
ロすぎる。おまけにオリヴィアとは違うタイプの超美少女だ、今は
寝てるが初対面の時、垂れ目がちの大きな目で笑いかけられるとゾ
クッときたものだ。
それだけなら目をつぶって儀式に集中すればいいんだが、香水の
香りがまた集中を乱す。匂いがキツいわけではない、すれ違った際
に軽く香る程度なのだが、密室で集中してるせいかどうしても気に
なる。端的に言うと、超良い香りが仄かに漂っててドキドキする。
薬草水で薄まらないあたり高級品なんだろうな、金持ちって話だし。
いかん! これはいかん! 俺にはオリヴィアという嫁がいるの
だ、彼女の親友相手に劣情を抱くなど言語道断! 仕方ないあまり
やりたくなかったが闇の魔法で自分の感情を封じてしまおう。
呪いの専門である闇の魔法だが、厳密にどういうものかと言えば
﹃精神に干渉する術﹄と定義されている。そのため一般人への印象
ジジイ
は悪く、白眼視されることも少なくない、そんな事も知らさずに修
行させた師匠はいつかぶん殴ろうと思う。
とにかく今は解呪だけに集中だ、後のことは後で考えよう。
101
∼∼∼∼∼オリヴィア視点∼∼∼∼∼
旦那様とディアーネがベッドしか入ってない部屋に入り、どれほ
どの時間が経ったでしょう? 窓の外は既に暗く、いつもであれば
旦那様に激しく愛され、ヘトヘトで眠りに就いてる時間でしょうか。
魔術に関してわたくしに出来ることはなく、こうして隣の部屋で
親友の為に祈るだけです。
ううう、初めて出会った時から今まで旦那様と一緒でない夜は無
かったので、ついつい余計なことを考えてしまいます。
思い出すのはかつて公爵家で過ごした子供の頃。お父様に疎まれ
るわたくしを、いつも慰めてくれるお母様やお婆様、そして侍女た
ちがいない暗い部屋に閉じ込められて⋮⋮
︱︱︱ガチャ
嫌なことを思い出して沈みがちな気分は、扉が開く音ですぐ消え
てしいました。中からはとても疲れたご様子の旦那様だけが出てき
ました。
﹁オリヴィア、ディアーネ嬢の呪いはもう大丈夫だ。すぐに目を覚
ますと思う﹂
﹁良かった! 旦那様ありがとうございます﹂
旦那様は抱きついたわたくしに軽く触れるだけのキスをして、彼
102
女は不安だろうから傍にいてやれ、とだけ言い残し寝室へ向かわれ
ます。
相当お疲れなのでしょう、旦那様から求められないのは初めてで
す。
∼∼∼∼∼クリス視点∼∼∼∼∼
寝室で自ら封印した感情を元に戻す、実はこういう感情を封じた
りするのは、反動が大きくて極力使いたくなかった。
封じていた感情は﹃性欲﹄だ、術を解いた瞬間に逸物がいつも以
上に膨張し痛い、マジで痛い!
﹁∼∼∼∼∼ッッッ!﹂
何事にも当て嵌る事かもしれないが、無理やり押さえつけたモノ
は解き放った瞬間勢いよく噴出する。今回はあの色気たっぷりなデ
ィアーネ嬢と、ふたりっきりで密室に数時間も篭っていたのだ、封
じていた反動は予想よりも大きい。
こんなケダモノのような状態で、オリヴィアを抱いたら傷つけて
しまうかもしれない。精神を平静にする魔術を自分にかけてみるが、
昂りすぎていて殆ど効かない、眠らせる魔術も同様だ。
﹁ええい! 筋トレだ! 筋トレして疲れきれば寝れるはず﹂
103
そうして、腕立て腹筋スクワット、背筋は⋮⋮股間が痛くて止め
た、とにかく汗をかいて息が切れたあたりで、無理やりベッドに横
になり目を瞑った。鮮明にオリヴィアの裸とか、ディアーネ嬢の香
りを思い出して寝れんがな!
意地でも寝ようと、無理やり目を瞑って動かないでいると廊下か
ら足音がして、扉が開く音がした。
﹁旦那様は⋮⋮お休みのようです﹂
オリヴィアの声、こんな性欲が暴走した状態で抱くわけにはいか
ない、乱暴にして彼女が傷つきでもしたらと思うと、背筋が凍るよ
うだ。
初めて出会った時に一目惚れした、そして不憫な境遇への同情も
あって、彼女のために呪いを解いてやろうと大きな神殿を目指した。
道中何度も抱いた、抱くごとに彼女の身体に溺れ。言葉を交わし
俺を頼ってくれる姿に愛情を深めた。
その彼女が、俺を怯えた目で見たら、そんな目で見られたらと、
想像するだけでも耐えられない。
なにやらゴソゴソと音が聞こえるが気にしない、とにかく目を瞑
って眠らなくては⋮⋮
﹁∼∼∼ッ!﹂
﹁∼∼∼∼!!﹂
104
なにやら話し声が聞こえる⋮⋮オリヴィアと誰かいるのだろうか
⋮⋮寝ぼけているのかな? ようやく寝れるのか。
だが次の瞬間、股間に走る強烈な快感に目を開けると⋮⋮そこに
はお尻が二つ並んでいた。
﹁チュチュ⋮⋮ん、んむ⋮⋮ディアーネ、こんな感じかしら﹂
﹁ええ、上手よオリヴィア、しかし大きいわね⋮⋮練習に使った張
形なんて比べ物にならないわ⋮⋮チュクチュク⋮⋮はむ、ンッンッ
ンッ!﹂
片方の可愛いお尻はオリヴィアだ、毎晩見て揉んでキスしてるか
ら間違いない。もう一つのお尻は誰だろう? 大きさ、張り、形、
全てが極上品だ⋮⋮そうか夢か、悶々としすぎて淫夢を見てしまっ
てるのか。
⋮⋮ってそんなわけ無い! 上半身を起こし二人のお尻を揉む。
素晴らしい手触りだ。
﹁きゃっ! 旦那様﹂
﹁お休みのところ申し訳ございませんクリス様﹂
もう一人のお尻はディアーネか、ホントこの女は身体中全てエロ
いな。だが丁度いい、お前のせいで高まりきった性欲はお前で発散
してやる。その扇情的な姿を男の前で晒して犯されないと思うほど
初心じゃないだろ?
105
仄かなランプの明かりを反射する下着が女性的な身体のラインを
強調して、全裸よりもエロく感じる。後で聞いたのだが、色と柄で
男の視線を誘導するよう計算して仕立てられた、ディアーネ専用の
特注の下着で自分に目が行くようにしていたそうだ、専門家ってス
ゲェな。
街を見て歩いた時に買い揃えたオリヴィアの、ちょっとエッチな
下着より布面積多いのにエロく見える。抑えていた性欲が噴き出し
てる今の俺が、愛妻の親友を迷いもなく犯そうと乱暴な思考に陥っ
てしまうほどにディアーネの誘惑は魅力的過ぎた。
︱︱︱クチュ クチュ ズリュ ズリュ ぺチャ ぺチャ⋮⋮
﹁はうっ あっあっ⋮⋮だ、旦那様、そんなオマンコ弄られたら⋮
⋮ご奉仕が⋮⋮﹂
ディアーネの身体は存分に犯すつもりだが、オリヴィアを放って
おくこともできない、片手の指でオリヴィアの秘所を優しく愛撫す
る。
﹁ンッんむぅぅぅ! あぁぁぁ! ク、クリトリス食べないでぇ!
あむあむされたら⋮⋮﹂
ディアーネのお尻にキスをしたあと、歯型がつかない程度に噛む、
その柔らかさを堪能しながら徐々に口を秘所に近づけ、舌で愛撫す
る。ディアーネのアソコからは淫蜜が滴り、すぐにも逸物が欲しい
と誘ってるかのようだ。
︱︱︱ピチャ チュク ピチャ チュク ズリュ ズリュ ズリュ
106
二人で俺にフェラしているが、時折お互いのおっぱいで挟んだり、
出せ
玉袋を撫でたりとバリエーションの多い刺激で何時でもイってしま
いそうだ。一発射精すれば少しは高まりすぎた性欲も収まるだろう、
もうすぐ出そうとする時だった。
﹁ひぁ! あっあっんぁぁぁぁぁぁ!﹂
ディアーネの背が仰け反り、脱力してフェラが止まる。
﹁はぁはぁ⋮⋮クリス様へのご奉仕でしたのに⋮⋮先にイカされて
しまうなんて⋮⋮参り⋮⋮ましたわ﹂
火照った身体を俺に預け、蕩けきった表情で俺を見るディアーネ。
彼女を先にイカせたのだと思うと、例えようのない征服感に満たさ
れ、更に昂ってくる。
﹁んむぅぅ! だ、旦那様の指でクチュクチュされてイっちゃいま
すぅぅぅ﹂
続いてオリヴィアも絶頂に達した、いつもより敏感だな。親友と
一緒で興奮したのか?
﹁申し訳ございません旦那様、オリヴィアのお口で気持ちよくなっ
てください﹂
オリヴィアがフェラを再開しようとしているが止める。このまま
口に出すなんて勿体無い⋮⋮この昂ぶりは二人の膣内に注ぎ込んで
やりたい!
俺は体勢を変え、四つん這いのままお尻を高く持ち上げる二人を
107
眺める。この体勢だと二人の恥ずかしい穴が丸見えだ。二人も分か
ってるのだろう、俺を見るその表情は羞恥に染まっている。
さっきのダブルフェラで勃起しすぎて痛いくらいだ、俺はディア
ーネのお尻を掴み、愛液で濡れたオマンコを貫く。
︱︱︱にゅぷ ぷちっ ずぷぷぷぷぷ⋮⋮
﹁んあぁぁぁっ! おっ大きすぎ⋮⋮はぁぁぁぁん!﹂
挿入し結合部を見るとディアーネの太ももには一筋の血が流れて
いた。
﹁嬉しい、んっ勇者様に処女を捧げられてディアーネは⋮⋮ああん、
幸せです、どうかそのままディアーネを犯して孕ませてくださいま
せ⋮⋮﹂
普段だったらディアーネが落ち着くまで動かないでいるのだが、
この時は情欲に染まりきり、ディアーネ程の美少女の処女を奪った
興奮で、頭の中は真っ白だった。彼女の膣内は動かなくても絡みつ
いてくるようで、その快感が更に理性を溶かす。
︱︱︱ズプ ズプ パンパンパンパンッ
腰が止まらない、先ほどまでの解呪の儀式を思い出す、無防備に
眠る彼女が今こうして俺に犯されている。
ナカダシ
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮気持ちいいぞディアーネ! さっきイケなかっ
たから出すぞ! お望みどおり膣内射精だ、俺の子種を子宮に注ぎ
込んでやるよ﹂
108
﹁あっあっ来てぇぇぇ! ディアーネの処女マンコに中出しして!
クリス様のおっきなオチンチンで孕ませてぇぇぇ﹂
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ
﹁はぁ! んあぁぁぁぁぁぁぁ!! アツいのぉぉぉクリス様の精
液がアツすぎてオマンコ火傷しちゃいそうなのぉぉぉ﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮まだだ、一発じゃまだまだ足りない⋮⋮﹂
このまま抜かずにもう一発イこうかと思ってたら、今度は横から
オリヴィアがおねだりしてきた。
﹁旦那様、ディアーネばっかり可愛がってずるいですわ。わたくし
も⋮⋮﹂
恥ずかしがりながらお尻をフルフルと振って、世界一可愛い妻が
俺を誘っているのだ、断る術はあるだろうか? いや無い! 断言
できる。
ディアーネはお尻を掴んで挿入したが、オリヴィアは背後から覆
い被さるような体勢で挿入する。膣内の感触を楽しみながらおっぱ
いを堪能し、可愛い喘ぎ声を出す唇を口で塞ぐ。
﹁んむっ んっんっん∼∼∼ッッ! ちゅちゅちゅ⋮⋮ぷはぁ﹂
︱︱︱ニュプ ニュプ ニュプ ニュプ
﹁あっあっあ! んぁぁ! イイ! 気持いいですぅぅ 奥にぃ奥
109
にいつもより当たってるのぉ!﹂
一発出して少し落ち着いたので、膣内の感触を楽しみながら挿入
を繰り返す。ふとイタズラを思いつき、オリヴィアから逸物を引き
抜く。
﹁ふぇ? 旦那様?﹂
﹁なぁオリヴィア、もうすぐイキそうだろ?﹂
俺の質問に素直に頷く、イキそうなところで待ったをかけられ、
キョトンとしてるのがまた可愛い。
﹁イキたければ⋮⋮ディアーネみたいにエッチなおねだりしてみな
よ﹂
そう言って再び挿入する、今度はゆっくりと、焦らすように。
﹁ふぇ! お、おねだりだなんて⋮⋮﹂
﹁そうね、オリヴィアこんな感じはどうかしら?﹂
なにやらオリヴィアに耳打ちするディアーネ、一度射精した後で
放置も可哀想なので、極上のお尻を撫でて揉んでおく。やばいなク
セになりそうな感触だ、ディアーネが嫌がってないから、更にお尻
を堪能する手に力が篭る。
﹁だ、旦那様⋮⋮﹂
ディアーネのお尻を揉んでる間に、おねだりの言葉が決まったよ
110
うだ。顔を真っ赤にして、なにやらぼそぼそと⋮⋮
﹁⋮⋮です⋮⋮﹂
﹁すまない、声が小さいから聞こえないなぁ﹂
そう言って、ゆっくり動かしてた逸物を奥まで押し込み、そこで
止める。
﹁ひゃん! と、止めないください⋮⋮い、言います﹂
羞恥に染まったオリヴィアの顔にゾクゾクする。
﹁お、オリヴィアの⋮⋮クリス様専用オマンコに⋮⋮おっきなオチ
ンチンで孕ませてくださいませ⋮⋮わ、わたくしはもう、クリス様
のオチンチンでないと満足できない⋮⋮い、淫乱な身体になってし
まったのです⋮⋮ど、どうかこの淫らな妻に旦那様のお情けをくだ
さいませ⋮⋮﹂
辿々しいおねだりに、俺の理性は完全に溶けた。言い終えて真っ
赤なオリヴィアが可愛い! お尻を撫でられ悶えるディアーネが可
愛い! この二人を組み敷いてるのが夢かと思うほどだ。
︱︱︱パンパンパンッ!
﹁あっあっ激し⋮⋮ふあぁ! すごいのぉ! イっちゃう! 旦那
様のおっきなオチンチンでオリヴィアはイっちゃいますぅぅぅぅ!﹂
︱︱︱ビクッ ビクッ ビクンッ!
111
ナカダシ
オリヴィアがイクと同時に膣内の締め付けが強くなり、俺も我慢
しないで膣内射精する。
﹁何も考えられないのぉ! 気持ちよすぎてお馬鹿になっちゃうぅ
ぅ! はぁぁぁぁぁん!﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮盛大にイったなオリヴィア﹂
そろそろ増大した性欲も収まってきたが、まだまだ萎えるには程
遠い。いつもならオリヴィアが回復するまで待つのだが、その場合
オリヴィアが寝てしまうことが多い。しかし。
﹁ふふっオリヴィアの幸せそうなこと、これほど美しく咲き誇れる
彼女は女として羨ましい限りです。そして自らの手で手折り散らせ
た旦那様も、男冥利に尽きることでしょう﹂
ディアーネが幸せそうに倒れてるオリヴィアの髪を撫で、身を寄
せながらこちらに向き直る。
﹁未だ冷めない淫熱を冷まさぬままに、眠りについてはいずれ身を
焦がしましょう。願わくばその淫熱で私を咲かせ散らせてください
ませ﹂
オリヴィアとディアーネ、いずれ劣らぬ美少女が身を寄せ合って
俺を誘っている。その事実に今だ萎えない俺の逸物は昂ぶる。
ディアーネは両足を広げ、俺の精液が溢れる膣口を見せびらかす
ように誘う。そのさまは例えようもなく淫らで、綺麗で⋮⋮愛おし
くて。
112
その後、ディアーネの膣内に5回、なんとか回復したオリヴィア
の膣内に3回射精した頃には、窓の外は白み小鳥の鳴き声が聞こえ
てきた。
俺は左右の腕に二人を抱き、満足感に包まれ眠りに就いた⋮⋮
113
淫花︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
あっさり篭絡された感じの主人公ですが、愛妻の親友って事で殆ど
警戒して無かったからで、本来ハニートラップにはかなり警戒して
るんですよ。
︵警戒しててもディアーネ嬢相手に耐えられるかは別問題ですが︶
次回は嫁二人とイチャイチャ予定、仕事の都合上ちょっと遅れるか
もしれません
114
淫花−裏−︵前書き︶
ディアーネ視点ご希望の感想が多かったので書いてみました
115
淫花−裏−
薄暗い部屋で目を覚ますと、目の前には心配そうな表情で私を見
るオリヴィアがいた。
﹁ディアーネ、旦那様は大丈夫と仰られましたが、どこか調子の悪
いところはある?﹂
身を起こし確かめてみる⋮⋮薬草を混ぜた水を浴びて、同じく濡
れた布だけを巻いて数時間寝ていたのだから、風邪をひいても不思
議ではないが、逆に身が軽く調子が良い程だ。
後に聞いたところ、呪いと一緒に体に悪いモノも一緒に取り除い
てくれた︱︱︱強行軍な馬車旅で疲労が溜まっていた︱︱︱らしく、
肌の髪のツヤが良い。
﹁むしろ体調が良いくらいだわ、ありがとうオリヴィア﹂
体に巻いた布の具合から察するに、眠っている間、私の体に悪戯
していないのだろう。身体には自信があっただけに多少プライドに
触れるが、私の中でクリス様の評価を一段上げた。
もう一つ妻に親友だからと頼まれて嫌な顔を一つせず、笑って夜
まで時間を割いてくれたのも好印象だ。
実のところ、クリス様に関してはオリヴィアを救っただけの、魔
術しか能のない無粋な男であれば、謝礼だけ支払い王都に帰るつも
りだった。しかし⋮⋮今は勇者の名に違わぬ実に粋なお方だと思っ
116
てる。
さてどうしたものか、どうしたら父の命令通り第二夫人の座を得
られるか。相思相愛のオリヴィアをどう説得するか。あの方に⋮⋮
どうすれば愛していただけるかを。
花街の女は金次第で誰とでも寝て、好いた惚れたなんか無縁だろ
う、と一般の方は考えているのでしょう。
ミツバチ
間違ってはいないが勘違いしないで欲しい、確かに恋愛とは無縁
だ。花から花へ移り気の殿方を留めることのできない花は、ただ一
人枯れるだけ。
なれば、一夜限りの旦那様を想い、気を引くために創意工夫をし、
身も心も捧げ留めようとする。その行為が恋焦がれる乙女と何が違
うのか。花は蜜を求める相手の為に咲き誇り、我が身から離れる時
まで正真正銘﹃惚れる﹄のだ。
娼婦
あぁ! 私に教育を施した先生達の言葉を今実感しました。殿方
を我が身に留める為に、相手に尽くしたいと心から想う、これが﹃
惚れる﹄という事なのですね。
﹁ディアーネ? 顔が赤いけど大丈夫なの? 体が冷えたのならお
風呂を用意してるわよ﹂
﹁ふふっ違うわ、オリヴィアの旦那様と二人っきりだったから、思
い出したら照れちゃった。とても粋で素敵な方だし⋮⋮ヤキモチ焼
いちゃった?﹂
私の評価が我が事のように嬉しいのか、心配そうな表情から一転
117
上機嫌になる。
﹁旦那様は世界一素敵な方ですから、モテるのは当然よ﹂
手紙の内容で察してましたが本当にベタ惚れね。オリヴィアを出
し抜いて誘惑なんて無粋な真似は出来ないし、突破口としてはセッ
クスで夫を満足させられない事に悩んでるって、お父様は指摘して
ましたが⋮⋮さてどう切り出したものかしら?
﹁あのね⋮⋮ディアーネが来てくれるとは思わなかったの。実は手
紙のやり取りを続けて、折を見て相談したいことがあったのよ﹂
∼∼∼∼∼お風呂にて∼∼∼∼∼
オリヴィアに案内され、二人で入るにはやや広すぎる浴槽に、親
友と二人で浸かる。辺境でお風呂に入れるとは思わなかったわね、
あぁ⋮⋮温かいお湯は身体の強張りを解してくれるようだわ。
伯爵家
お風呂って楽な姿勢ができるから実家でも疲れたらすぐにお風呂
に入ってたのよね。胸元の重いものが浮くのが実に良い。それに身
体を清潔に保つのは淑女の嗜み、私が用意した石鹸はよく泡立ち、
お肌はピカピカよ。
﹁我がメイティア伯爵家特製の石鹸はどう? オリヴィアの肌に合
わなければ別の物を用意できるけど﹂
118
伊達に娼館を統括する家じゃない、石鹸を始め諸々の衛生用品、
及び多岐にわたる化粧品のトップブランド︱︱︱むしろ独占市場︱
︱︱が我が家なのだ。オリヴィアが今使ってるのは、我が一族と選
ばれた高級娼婦、そして極一握りの者だけが使える、一般の者には
存在すら知らない最高級品質の石鹸だ。
﹁合わないなんてとんでもないわ⋮⋮うわぁ凄い、お肌がこんなに
綺麗になるなんて⋮⋮﹂
アンジェリカ嬢
ふふっ、親友の素直な感想にこっちまで嬉しくなる、なんといっ
ても王妃様のご愛用の自信作なのよ。あのアバズレも愛用してるの
が気に入らないけど、商売だから仕方がない。
﹁結婚のお祝いにプレゼントするわ、ふふっ今後とも我が家をご贔
屓にね?﹂
﹁そ、そうね⋮⋮こういうものはメイティア伯爵家が一番よね﹂
悩んでるわねぇ、旦那様に喜んでもらいたいけど、散財は避けた
いってところかしら?
﹁ところでオリヴィア、相談ってなに?﹂
﹁あ、あのね⋮⋮こんなことディアーネにしか相談できないのだけ
ど⋮⋮わたくし⋮⋮旦那様と閨を共にして、どんなに頑張ってご奉
仕しても、旦那様はとても元気で⋮⋮抱いていただいても私が疲れ
きってしまうと、旦那様はまだまだ余裕があるのに寝てしまうの﹂
⋮⋮ふふっ、こちらから言い出す手間が省けたわ。オリヴィアも
分かってるのでしょう、一人じゃどんなに頑張っても身が持たない
119
って事に。たまにいるのよ性豪と言うか絶倫な人って。
﹁オリヴィア、親友の貴女だから正直に言うけど、私ね父から命令
されてここまで来たのよ。勇者様の屋敷に娘を⋮⋮私を送る意図は
分かるでしょ?﹂
﹁⋮⋮はい﹂
多分私が急いでやってきた理由は予想はしてたのでしょうけど、
やっぱりラブラブなところに他の女が入ってくるのは複雑なのね。
単に呪いを解いてもらいたいだけなら、侍女とだけ行動し大神殿
に寄進して呪いを解いてもらえば良いのだ。態々勇者様のもとにや
ってきたのは、他の貴族より先に側室を送り込むという事。
﹁親友と殿方の寵愛を競うなんて無粋な真似はしたくないし。オリ
ヴィアが側室なんていらないと言うのなら、呪いを解いてくれたお
礼に、我が家が厳選した高級娼婦を派遣するわ。何度か抱いて飽き
られたのなら別の者を派遣してもいいし、身請けして愛人にしても
いいわ﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
まぁクリス様の性格的に飽きたらポイして次の連れてこいって事
はないでしょうね。あと娼婦を身請けしたら愛人じゃなくてきちん
と側室にしそうね。
﹁だ、だめ⋮⋮旦那様が選んだ人でない限り⋮⋮見知らぬ人と姉妹
になるなんて⋮⋮やだ、怖いの⋮⋮私は旦那様の夫人だから⋮⋮知
らない人の親戚とかに会わなきゃ駄目だから﹂
120
うーん、オリヴィアとしては旦那様が側室を受け入れるのは大丈
夫だけど︱︱︱側室は当然女性なのだから︱︱︱その親戚への挨拶
男性恐怖症
とかが怖いのね。その点私の場合、親戚が来たら私自身が応対する
し、オリヴィアの事情は知ってるのだから、配慮するだろう。
﹁自分勝手でごめんなさい、どうしても旦那様の傍じゃないと怖い
の⋮⋮お願いディアーネ、私の姉妹になって欲しいの、貴女が望む
ならわたくしが側室に⋮⋮﹂
﹁落ち着きなさい、旦那様に一番愛されてる貴女がそんな事言って
どうするのよ﹂
今にも泣きそうなオリヴィアを抱きしめる。表面上軽い男嫌いに
見えて彼女の男性恐怖症は根が深い、それこそ心の奥底まで蝕んで
いる。
やれやれ、幼い頃からの親友なのだし、これから姉妹になるのだ。
旦那様と共に彼女を守ってあげるくらい出来なければ、女が廃ると
いうものだ。
﹁暗い考えなんて愛する殿方に抱かれればすぐ消えるわ。良い機会
だし実地で﹃指導﹄してあげる、箱入り令嬢の性教育みたいなお遊
びとは違う本物の﹃殿方の悦ばせ方﹄をね﹂
∼∼∼∼∼寝室へ∼∼∼∼∼
121
﹁どうやら、旦那様は⋮⋮お休みのようです﹂
いや、アレは寝たふりでしょ、呼吸でわかるわ⋮⋮う∼∼ん、ム
ラムラして寝れないっぽい?
オリヴィアの案内で寝室にやってきた、彼女の持つ合鍵で部屋に
入る。部屋に明かりは一切ないが、月明かりで大体の輪郭くらいは
掴める。
﹁とりあえず私の指示通りに動いてね、先ずは下着だけになってね﹂
﹁ふぇ?! わ、分かったわ﹂
うんうん、素直な生徒で教えがいがあるわ、私はここぞと言う時
の為に仕立てた、所謂勝負下着。オリヴィアはデザインは大人し目
だけど微妙に透ける素材で出来た下着姿だ。
私たちは左右からベッドにあがり、旦那様の顔にお尻を向ける感
じでフェラチオを開始する。
︱︱︱チュパ チュパ チュパ
﹁ンッンッンッ そうよ、舌先でな撫でるように⋮⋮教えた場所は
敏感だからね⋮⋮﹂
﹁はむっはっはっはっ⋮⋮あぁ旦那様いつもより大きくて⋮⋮逞し
い⋮⋮﹂
流石にいつもよりは大きいんだ、これが標準だと言われたら困る
122
わ。
﹁チュチュ⋮⋮ん、んむ⋮⋮ディアーネ、こんな感じかしら﹂
﹁ええ、上手よオリヴィア、しかし大きいわね⋮⋮練習に使った張
形なんて比べ物にならないわ⋮⋮チュクチュク⋮⋮はむ、ンッンッ
ンッ!﹂
︱︱︱チュク チュク チュパ チュパ
オリヴィアは熱心に私の手本を真似しながら、勇者様の逸物を愛
おしそうに奉仕する。私も負けじと奉仕に熱が入れ⋮⋮いきなりお
尻を掴まれ、揉まれる。
﹁きゃっ! 旦那様﹂
﹁お休みのところ申し訳ございませんクリス様﹂
二人がかりでフェラされてれば、寝たふりにも限度があるみたい
ね。そのままご奉仕を続けると、クリス様は負けじとお尻とオマン
コを愛撫し始める。
︱︱︱クチュ クチュ ズリュ ズリュ ぺチャ ぺチャ⋮⋮
﹁はうっ あっあっ⋮⋮だ、旦那様、そんなオマンコ弄られたら⋮
⋮ご奉仕が⋮⋮﹂
オリヴィアには指で優しく、私には指と口で激しく愛撫してきま
す。まぁ私の方に目が行くように位置関係を調節してましたからね。
123
彼はお尻にキスしたあと、優しく噛んだり舌を這わせます⋮⋮や
だ、お尻を噛まれたときビクってしちゃいました。
﹁ンッんむぅぅぅ! あぁぁぁ! ク、クリトリス食べないでぇ!
あむあむされたら⋮⋮﹂
お尻の愛撫だけでなく段々とオマンコに近づき、舌で愛撫をされ
る⋮⋮あんっこの人上手いわ、快感をコントロールする術を教育さ
れた私なのに、優しく気遣うような舌先に段々と官能が高まる。
︱︱︱ピチャ チュク ピチャ チュク ズリュ ズリュ ズリュ
﹁あっあっああんっっ!﹂
﹁くぅん! オリヴィアご奉仕を止めちゃダメよ⋮⋮﹂
愛する殿方の優しい指使いを前に、フェラチオに集中できないオ
リヴィアにはパイズリをさせる。万が一感じた拍子に殿方の逸物に
歯を当てるなど、あってはならないからだ。
他にも玉袋を撫でたり、刺激に緩急をつけたパイズリをしてるう
ちに、クリス様がそろそろ射精しそうな気配がする。
﹁ひぁ! あっあっんぁぁぁぁぁぁ!﹂
私はクリス様が射精する前に自ら絶頂へ達する。あらかじめ昂っ
ていればイクのはコントロールできるからだ。
﹁はぁはぁ⋮⋮クリス様へのご奉仕でしたのに⋮⋮先にイカされて
しまうなんて⋮⋮参り⋮⋮ましたわ﹂
124
オリヴィアから話を聞いた限り、この方はセックスの主導権を握
りたがるタイプだ︱︱︱まぁ男性のタイプなど千差万別なんですが
︱︱︱その場合大雑把な傾向として女性を先にイカせたがる。
﹁んむぅぅ! だ、旦那様の指でクチュクチュされてイっちゃいま
すぅぅぅ﹂
オリヴィアも上手いタイミングだ、まぁ彼女の場合演技じゃなく
てホントに指でイカされたんでしょうね。
﹁先に達してしまい、申し訳ございません旦那様、オリヴィアのお
口で気持ちよくなってください﹂
私は教えてないから素で言ってるんでしょうね、自然と相手を昂
ぶらせる言動が出るあたり、この二人本当に相性が良いのね。
案の定興奮しきったクリス様は、体勢を変え、私たちを四つん這
いに背後へ。どちらを先に犯すのか運任せだけど、さりげなくお尻
を突き出したのが良かったのか、クリス様は私のお尻を鷲掴みにし、
その巨大な肉棒を私の処女膣に猛然と突き刺す。
︱︱︱にゅぷ ぷちっ ずぷぷぷぷぷ⋮⋮
﹁んあぁぁぁっ! おっ大きすぎ⋮⋮はぁぁぁぁん!﹂
あぁ! 私の処女が⋮⋮太ももを伝う破瓜の血がシーツを染める。
初めて牡を受け入れた膣口の痛みは耐えられる! 惚れた男に処女
を捧げた喜びの前に痛みなど些細なものだ。
125
﹁嬉しい、んっ勇者様に処女を捧げられてディアーネは⋮⋮ああん、
幸せです、どうかそのままディアーネを犯して孕ませてくださいま
せ⋮⋮﹂
︱︱︱ズプ ズプ パンパンパンパンッ
ディアーネ
性技
気持いい
振り返り、私の処女を捧げた殿方を見る⋮⋮ああ、私に夢中な顔
だ、私の身体に酔ってくれている。今まで磨いた花の蜜は甘いです
か?
ナカダシ
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮気持ちいいぞディアーネ! さっきイケなかっ
たから出すぞ! お望みどおり膣内射精だ、俺の子種を子宮に注ぎ
込んでやるよ﹂
ディアーネ 堪能して
あぁ嬉しい! そんなに夢中で腰を振ってくださるほど気持ちい
いんですね。存分にこの花を愛でてください。
﹁あっあっ来てぇぇぇ! ディアーネの処女マンコに中出しして!
クリス様のおっきなオチンチンで孕ませてぇぇぇ﹂
その瞬間、焼けるような熱いモノが私の膣の奥に注ぎ込まれる!
あっあっ! 凄すぎる。この瞬間私の身体の全てのクリス様の色
に染め上げられたような錯覚に陥った。
﹁はぁ! んあぁぁぁぁぁぁぁ!! アツいのぉぉぉクリス様の精
液がアツすぎてオマンコ火傷しちゃいそうなのぉぉぉ﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮まだだ、一発じゃまだまだ足りない⋮⋮﹂
私の膣内には射精したばかりの肉棒が今だ衰えず残ってる。あぁ
126
もっと私を味わってくださるのですね。
﹁旦那様、ディアーネばっかり可愛がってずるいですわ。わたくし
も⋮⋮﹂
オリヴィアが体力の限界を迎えても、まだまだクリス様は治まら
ないだろう。私の処女を捧げたご主人様、今宵こそは満足していた
だきますよ。
ナカダシ
それから⋮⋮私とオリヴィアを体位を変えつつ相互に抱き、私が
4回、オリヴィアに3回膣内射精していただいた頃にオリヴィアが
ダウンした。クリス様の腕枕で幸せそうに眠る彼女を見下ろしなが
ら、私はクリス様に下から突かれ陥落寸前だった。
仰向けに、オリヴィアを片手に抱いたままのクリス様に騎乗位で
犯されているのだ。四度目の膣内射精のあと抜かずにそのままなの
だが、その肉棒は最初ほどの巨大さではないものの、それでも私の
膣壁を圧迫する巨大さだ。
︱︱︱ズプ ズプ ズプ ズプ
﹁はっはっはっ! んんんんんぅぅぅ⋮⋮あぁイっちゃう! 申し
訳ございませんクリス様ぁぁ! ディアーネはイっちゃいますぅぅ
ぅぅ﹂
膝立ちのまま下から挿れられ、片手でおっぱいを弄られながら、
もう快感のコントロールなどできなくなっていた。抱かれるたびに
私も知らなかった弱い部分を的確に突かれ、もう何度イカされたか
覚えていない。
127
﹁ああ俺も出すぞ! ディアーネの膣内にまた出すぞ!﹂
﹁んほぉぉぉぉ! イっちゃうぅぅ! 中出しされてイっちゃいま
す! あっあっんあぁぁぁぁぁ⋮⋮﹂
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ
もう意識を繋ぎ留めるだけで精一杯だが、私には幼い頃から培わ
れた矜持がある。クリス様の⋮⋮愛する御主人様の欲棒はまだ余力
がある⋮⋮そのままでは眠れない⋮⋮
一瞬意識が途切れ、膝立ちのままご主人様の胸元に倒れてしまう。
相当な勢いだったと思うが、ご主人様は微笑んで私を腕に抱く。
温かい⋮⋮心地いい⋮⋮愛するお方の腕の中はなんと落ち着くん
だろう⋮⋮
唇が温かいもので塞がれる、ああ、ご主人様がキスをしてくれた。
﹁ディアーネの身体はエロすぎてつい張り切っちゃたよ、もうクタ
クタで明日朝起きれるかな?﹂
優しく笑いかけてくださった、ああ、ご満足していただいたんで
すね⋮⋮嬉しい、女冥利に尽きるお言葉です⋮⋮
﹁空がもう明るいな、まぁいいや、昼過ぎまで寝ちまおう﹂
おやすみなさいませ⋮⋮そういえば私、今日周期的に妊娠しやす
い日なんですよね、ついでに夜這い前に孕む確率が高くなる魔法の
霊薬を飲みましたし⋮⋮ご主人様のおっきなオチンチンに5回も膣
128
内射精されたから⋮⋮眠りにつく直前ふと、頭に浮かんだのだが⋮
⋮まぁいいや。
129
淫花−裏−︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
ディアーネの主義主張は吉原を題材にした小説などを参考にし異世
界風味なアレンジと作者の妄想を混ぜたものになります。
130
奮起︵前書き︶
一話に一回エロを入れるつもりですが
挿入なしでも裸の嫁二人とイチャイチャはエロに入ると思いたい
131
奮起
目を覚ますと銀色の煌めきに目を奪われた。
﹁んんっ⋮⋮﹂
この声は⋮⋮どうやらオリヴィアが仰向けに寝ている俺に、抱き
つく形で眠っているようだ。はぁ嫁の寝顔はマジ可愛い、いつもは
令嬢らしい立ち振る舞いの彼女だが、生まれたままの姿で、俺の胸
元で幸せそうに眠る隙だらけの姿も一段と可愛い。
寝起きのキスをしようと身体を起こそうとするが、なぜか身体が
動かない。段々と意識が覚醒していくと、どうやら後ろから抱きし
められてるようだ。
どうりで枕が柔らかくて温かくて、夢見心地になるような香りが
仄かに漂ってるわけだ。俺の頭はオリヴィアのソレを上回る巨乳に
挟まれていた。
思い出した、俺は昨日の晩ディアーネとも寝たんだ、性欲が暴走
ナカダシ
してしまったとは言え、愛するオリヴィアの友達に手を出すとは⋮
⋮いやあれだけ膣内射精しまくって言い訳はするまい。俺は確かに
ディアーネの身体に夢中になってたし、彼女のことを愛おしいと思
ったんだ。
って言うか、二人して夜這いしてきたわけだし、そのへんの理由
は二人が目を覚ましてから聞けばいい。それはそれとして動けない
この状況どうしよう?
132
頭はがっちりディアーネに抱えられ、巨大なおっぱいを枕にして
るのだ。正直中毒になりそうなくらい気持ち良く、起き上がるには
多大な意志の力が必要になるだろう。残念ながら俺にはこのおっぱ
い枕から逃れる理由が存在せず、よって起き上がる気力は欠片も湧
き上がってこない。
右手は自由に動くのだが、眠ってる間に無意識なのか? オリヴ
ィアの小ぶりなお尻を鷲掴みにしていて、吸い付いたかのように離
れない。もみもみ⋮⋮あぁ朝一からこの素晴らしい感触を堪能して
しまえば、なんか一日中このままでいい様な気がしてきた。。
左手はディアーネのスベスベで柔らかい太ももに挟まれてる、重
くはないんだが、少し動かすとオマンコを刺激してしまい、ディア
ーネを起こしてしまいそうだ。それに太ももの感触はやはり極上で
素晴らしく、これまた吸い付いて離れない。
むぅ⋮⋮完全に動きを封じられてしまった、このままでは彼女た
ちが目を覚ますまで、愛妻に抱きつかれ、おっぱい枕で動けず、両
手でお尻と太ももの感触を味わい続けることになるのか。
⋮⋮別に緊急の用事もないし、彼女たちが起きるまで感触を楽し
んでおくことにする。あぁ∼∼∼幸せなんだが、このままだとダメ
になりそう⋮⋮
二人が起きたのはそれからすぐの事で、オリヴィアは俺の指がつ
いついオマンコに伸びてしまい、指が彼女の膣口に入った時点で目
を覚まし。ディアーネは顔を横にするとすぐ近くにピンクの突起が
あるのが悪い。目の前に美味しそうな乳首があれば誰だって舌を伸
ばすだろう、だから俺もした、反省はしたが後悔はない。
133
﹁おはようございます旦那様﹂
寝てるところにオマンコを愛撫され、飛び起きたオリヴィアだが、
抱きついたままで、嬉しそうに微笑みながら挨拶をくれた。
﹁心地よい目覚めでなによりです、クリス様﹂
ディアーネは俺が上半身を起こすのと同時に離れると、ベッドの
上で綺麗な姿勢に座り直し頭を下げた。初めて見る挨拶の仕方だけ
ど、自分を下にそして俺を上に置いた動作なのは何となく分かった。
﹁浅ましくも未婚の身でありながら、妻を持つ殿方の寝室へ立ち入
った仕儀。伏してお詫び申し奉ります﹂
﹁ディ、ディアーネ?! 頭を上げて、第一お願いしたのは⋮⋮﹂
なにやら焦るオリヴィアの口に手を添え遮る。うーん、夜這いし
てきてこうして丁寧に謝るってことは? 俺に抱かれたかったって
のは確かなんだろうが、それで謝る理由を考えると⋮⋮面倒だ、理
由や何かは本人とオリヴィアから聞けばいい。
理由を聞く前に、俺はディアーネを抱き寄せ、何か言う前にキス
をする。
﹁んん∼∼∼ッッ! チュチュプ⋮⋮ンッンッンッ⋮⋮﹂
口の中を犯すように舌を差し込み、口内を舐め回し唾液を飲ませ
る。離れると絡まったお互いの舌から糸が引く。
134
﹁抱いた以上はお前は俺の女だ、嫌だと言っても、俺の女になると
言うまでベッドから出さない﹂
ベッドの上でお互い裸のままだ、抱き寄せた彼女は嬉しそうに破
顔し、再び同じ姿勢で頭を下げた。
﹁嫌だなんてとんでもございません。このディアーネ・メイティア
は喜んで、貴方様に心身共に捧げお仕えいたします﹂
言い終えるとディアーネはオリヴィアの反対側に抱きついてきた。
呆気にとられるオリヴィアは何か言いたげに口をパクパクさせてい
る。
﹁理由も聞かずに抱き寄せ、女として求められるとは。ふふっなん
て粋な告白でしょう、昨夜から既に惚れておりましたが、もう貴方
様以外の殿方など目に入りません﹂
うっとりと、頬を染め上目遣いで俺を見るディアーネから漂う色
香は、もはや魔法の域にあるのかもしれない。隣にオリヴィアを抱
いてなければこのまま押し倒してるだろう。
﹁あ、あれ⋮⋮あの、ディアーネ? どういう事? 昨日のことは
わたくしが誘ったことだし、旦那様もディアーネの事をあれだけ求
めたのだし⋮⋮﹂
﹁簡単に言えばクリス様の反応を見たかったからよ、理由を問いた
だすとか、オリヴィアに聞くとかすると思ったのだけど⋮⋮こんな
粋な返しをされては、ますます惚れてしまいました﹂
要するに抱いておいて、責任転嫁するとかヘタレなこと言えば幻
135
滅されたってことだろうな。
﹁俺としては抱いたケジメをつけただけだ。それで? なんで二人
がかりで夜這いしてきたんだ?﹂
﹁はい、実は⋮⋮﹂
昨日の解呪の儀式が終わってからのあらましを聞いて、とりあえ
ずオリヴィアのおっぱいを強めに揉む。
﹁ひゃん! も、申し訳ございません旦那様!﹂
﹁うん、謝ったから許す。サプライスも嬉しいが、悩んでることを
相談してくれると、頼られてるのを実感してもっと嬉しいから、次
から気をつけるんだぞ﹂
強めに揉んだので、ちょっと目が潤んでるオリヴィアは、まっす
ぐ俺を見て﹁はい﹂とだけ答え頷いた。
あぁゴメンよ、痛かったか? 怒ってないからそんなに落ち込ま
ないでくれ。俯くオリヴィアに優しくキスを繰り返し、なんとかい
つもの笑顔に戻ってもらった。
彼女の機嫌が戻ったので、気になってたことを聞いてみた。
﹁聞きたいんだが、結婚の時の祝福って普通は第三者がするものな
のか?﹂
﹁そのような決まりはございません、僧籍にある殿方が結婚する際
は、自分で花嫁に祝福する場合が多ございます﹂
136
俺は神官じゃないけど、勇者になって神聖魔法が使えるようにな
ったのだし、善は急げと言うからな。傍のディアーネを片手で抱き
しめ、キスをすると同時に神聖魔法の祝福を発動させる。
︱︱︱パァァァァァ⋮⋮
﹁ク、クリス様!﹂
ディアーネが驚愕の表情で祝福の光を眺めてるいる。勇者なんて
ものになったせいか、大神官の祝福より強力な光と規模なのだ。効
果はそのままで光量を抑えることもできるけど、こういうのは派手
な方が喜ばれるからな。
﹁これで⋮⋮俺たちは夫婦だ、ホントはオリヴィアにも同じことや
りたかったけど、祝福って重ね掛けができないからな﹂
より強力な祝福で上書きはできるみたいだけど、流石に女神から
直接受けた祝福を超えることはできない。
祝福を受けたディアーネは、呆然としていると思ったら、いきな
り大粒の涙を溢し始める。
﹁お⋮⋮おぉぉ⋮⋮貴方様⋮⋮貴方様はなんて⋮⋮﹂
﹁ディアーネ!? いきなりは不躾だったか?﹂
謝ろうとすると、押し倒す勢いでキスされた。頬は染まりきり、
俺を見る目は涙を流しながらも喜びに溢れていた。その表情は、ま
るで恋する乙女そのもの。
137
﹁もう⋮⋮もう一生離れません⋮⋮貴方様の妻にしていただき幸せ
⋮⋮ぐすっ! ふぇぇぇぇん﹂
泣かれてしまい困ってオリヴィアに助けを求めると、なんかジト
目で拗ねてる。
﹁むぅぅ⋮⋮わ、わたくしの時もこのくらい素敵なプロポーズして
欲しかったです!﹂
拗ねてるオリヴィアも可愛い⋮⋮じゃなくて、ディアーネを泣き
止ませてくれ! 腕を抓らないでくれオリヴィア、痛くはないけど。
オリヴィアの機嫌を取り直し、ディアーネを泣き止ませた。いい
加減に裸でいるのはどうかと思い、絞ったタオルで体を拭き、着替
えた。寝室から出ると、ちょうどオバちゃんがお昼ご飯を作り終え
たところで、俺たちは遅めの朝食を食べた。オバちゃん達の生暖か
い目線は気がつかないふりをしよう。
ちなみにこの屋敷で起こった出来事は︱︱︱インパクトがあるの
はディアーネに俺自身が祝福をかけた︵要するに嫁にした︶事だろ
う︱︱︱尾ひれ背びれどころか翼まで生える勢いで脚色され、翌日
には街中に知れ渡ることになるだろう。
﹁さて、実家を追い出されたオリヴィアだけなら、もうちょい新婚
生活満喫してても良かったんだが。伯爵家の令嬢を嫁にするのに家
称号
名無しは格好がつかないと思う﹂
女神
今の俺は他人から貰った名前だけで贅沢してる状況だ。魔物を狩
って得た資産があるから焦る必要も無かったんだが、ディアーネを
138
嫁にするにあたって勇者なだけの一般人では些か情けない気分にな
る。
﹁と、いう訳でちょっと手柄を立ててくる。日没には帰るつもりだ
けど、遅くなるようなら使い魔飛ばすから﹂
∼∼∼∼∼カール視点∼∼∼∼∼
勇者殿と友好的な初対面を果たし、めでたくジャンヌと結ばれた
次の日。相変わらすボクは忙しかった。
具体的には早朝から書類仕事に忙殺され、なんとか捌き終えたの
は昼過ぎ。昼食もろくに摂らず、午後からは高名な冒険者や大勢の
部下を率いる傭兵団の幹部たちと、開拓予定地を縄張りとする強力
な魔物への対策を協議。我の強い連中なので西の空が赤く染まる頃
まで紛糾した、嫌だなぁこれから午後の分の書類を片付けないとい
けないのに。
﹁あなた、お疲れ様でした﹂
会議場から出てきたボクをデシデラータが出迎えてくれた。君が
笑顔でいてくれればボクはどんな苦労にも耐えられるよ⋮⋮苦労に
は耐えられてもおなかすいた⋮⋮
139
﹁執務室で簡単につまめるサンドイッチなどを用意させました、あ
のやっぱり私も書類整理くらいは⋮⋮﹂
﹁駄目だ、デシデラータは自分の体を大事にするんだ、子供を産む
という大仕事に比べればボクのしてる事なんて些細なことさ﹂
彼女のお腹は大分目立ってきている、本音を言えば夜遅くまでボ
クを出迎えるのを控えて、安静にしてて欲しいのだ。
﹁あなた⋮⋮﹂
心配そうなデシデラータの頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけ
⋮⋮
﹁た、大変ですぅぅぅ! 魔物素材買取処まできてくださいぃぃぃ
ぃ!﹂
すごい勢いで突進してきたジャンヌの大声で台無しだよ!
﹁一体何だよジャンヌ、身分の高い馬鹿がごねてるのか? それと
も実力だけはある馬鹿どもの喧嘩か?﹂
態々ボクを呼ぶということは、ジャンヌでは対処できない事が起
こったということだ。疲れてる時に余計な仕事を増やしたのだは誰
だ? 理由の如何によっては三階建てのこの屋敷よりも、高い場所
まで飛ばせてやるぞ。ストレスを溜めに溜めたアッパーカットでな!
何があったのかを聞いてもジャンヌの説明はどうも要領を得ない。
どうも獲物を解体する場所が一時的にストップするほどの異常事態
ということだ。
140
魔物素材買取処は、冒険者が増えたことにより、やや手狭な辺境
の冒険者ギルドでは、対処しきれない程の素材が毎日持ち込まれる
ようになった為に新しく建てた施設だ。
支払いの金銭を置いておく関係で、この屋敷の敷地内にあり利便
性の高い場所だし、解体のプロが常駐し、魔法のかかった倉庫も近
くにあるので毎日多くの冒険者が訪れる。
買取処にやってきたボクが目にしたのは信じがたい光景だった。
そこには山があった、多くの冒険者で人垣ができていたが、それで
も敷地に入った瞬間山があるとわかった。
﹁か、カール様が通ります、カール様を呼んできました!﹂
山
魔物
ジャンヌの声に冒険者たちは道を開けてくれた、山の近くまで歩
・・・・・・・
くと、ソレは魔物の死体であることが分かった。ソレは複数が山に
なってるのではなくたった一頭の狼であることが分かった。
﹁⋮⋮東の大草原を⋮⋮支配していた月光狼の︻魔王種︼⋮⋮﹃月
狼王クルト﹄?﹂
︻魔王種︼とは群れをなす魔物の中で数百年に一体程度の割合で
発生する、まさしく災害の化身とも言える存在だ。魔王種が発生す
ると同族を率いて縄張りを拡大し、その群れの規模を爆発的に肥大
化させる。
元々、約50年前まで月光狼は、繁殖力は強いが好んで人や家畜
を襲わない大人しい魔物だった。しかし魔王種の発生により瞬く間
に肥沃な草原は﹃月狼王クルト﹄の手に落ちたのだ。
141
月狼王の出現のせいなのか、凶暴化した狼の群れに人々は逃げる
ことしかできず、かつての国土を大きく削る羽目に陥った。
ボクの開拓計画の最初の障害は、この魔王種だと定め、綿密に計
画を練り続けてきたのだ⋮⋮練り続けてきた。目の前で息絶えてる
月狼王のために⋮⋮あれなんか目眩がしてきた。
﹁王子の顔色が随分と悪いぞ? やっぱりこんなデカいモノをいき
なり放り出すのは非常識だったか?﹂
ボクの気も知らず、的はずれな心配をしてるのは、つい昨日会っ
た勇者だった⋮⋮非常識なのは確かだけど君とボクとでは﹃非常識﹄
の意味合いが違うよね?
﹁カール様は朝から晩まで働き詰めなのです、護衛騎士としてはも
うちょっと休んでいただきたいと⋮⋮﹂
ジャンヌ
もっとずれた心配をしてるのは、つい昨日結ばれた妻だ⋮⋮違う
働き詰めとかそういう問題じゃない。
﹁うーん、手下も大量に倒したから解体を頼みたいんだけど、解体
する人の迷惑かな? 俺一人スペース取っちゃ悪いしな﹂
お願いクリス殿、その気遣いをボクにも向けて。大物倒したら褒
美を出すって言ったの僕だけど、なんで初っ端から魔王種倒すのさ。
ボクが想定してた大物ってのはちょっと大きめの縄張り構えた、地
域の主的存在のことなんだよ?
め、目眩が酷くなってきた⋮⋮あ、あれまだ夕方なのに⋮⋮目の
142
前が暗く⋮⋮
︱︱︱パチンッ
おぉ! なんかいきなり疲れが吹き飛んだ。頭もすっきりした!
まるで霧が晴れたかのようだ。
﹁活力を与える魔法と、精神を安定させる魔法を使ったけど⋮⋮体
調はどうだカール王子?﹂
﹁やっぱり疲労が溜まっていらっしゃるのですね、お願いです無理
をなさらないで﹂
だからジャンヌ、君の心配はズレてるってば。
﹁クリス殿はとにかくボクの執務室に来てくれ⋮⋮その前に解体す
る場所に小山があっても邪魔だから倉庫に運んでくれる?﹂
多分﹃収納空間﹄の魔法で運んできたんだろうけど、ここに置か
れても通行の邪魔だ。とりあえず倉庫に置いて貰おう。
とりあえず倉庫に運び込んでる僅かな時間に考えをまとめよう。
単独で魔王種倒すとか報酬の前例が無いんだよォォォ!
143
奮起︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございました
主人公は嫁とイチャイチャしてばかりですが、勇者なので作中最強
です、基本嫁を優先ですので滅多に戦いませんが。
あとはタイトル変更を考えてます、いい感じのが思いついたら、次
回投稿する時に変更しますね。
144
功績
王子に執務室に来るように言われ、メイドさんに案内され部屋に
入る。乱雑な執務室の中には王子と護衛のジャンヌさんだけじゃな
く、なぜか大神官トラバントさんまで座っていた。
﹁クリス様ぁぁぁぁ! 心配しましたぞ!﹂
暑苦しいオッサンが号泣して泣きついてきたので、身を躱すが、
方向転換し再度抱きついてくる。とりあえず動けなくなるように誘
眠の術を仕掛けるが、魔法抵抗力が恐ろしく高く効かない。泣きな
がら抱きついてくるのは嫁だけで十分だっての。
﹁大物の魔物の居場所を聞かれ、つい魔王種の事を話した儂も迂闊
でしたが⋮⋮なんで一人で! しかもろくに準備もなく向かうんで
すか! 生きた心地がしませんでしたぞ!﹂
泣き止んだと思ったら今度は怒り出した、そう言えばなんか声が
聞こえた気がするが、その時はゴーレム馬車に乗ってたからな。ゴ
ーレム馬車の速度はそこらの俊馬よりも数倍の速度が出る、一旦走
り出せば追いつける道理もないだろう。
ディアーネが持参金代わりに受け取ってくださいと貰ったものだ
が、草原を猛スピードで駆けるのは実に楽しい、今度嫁二人を連れ
て遠乗りに出かけようと思う。
﹁えーと心配をかけたのは悪かった、今度は一人で向かうのは止め
るから。特に怪我もないし、危なくも無かったから、今回は大目に
145
見て欲しい﹂
ほらアレだ、嫁に格好良いとこ見せたかったんだ、とか。何もし
てないのに勇者呼ばわりが居心地悪かった、等々言い訳をすると、
渋々引き下がった。﹁次があったら儂の孫娘を⋮⋮﹂とか聞こえた
気がしたが、独り言はスルーするのがマナーなので、何も言わずソ
ファに座る。
﹁それでクリス殿、あの巨大狼﹃月狼王クルト﹄は発生から50年、
軍による討伐を何度も返り討ちにした草原の王者です、その恐るべ
き魔王種をどうやって倒したのですか?﹂
勧められたお茶を飲み、俺はこれまでの経緯を大雑把に話すこと
にする。
﹁まず昨日の昼、王子が帰ったあとにオリヴィアの親友のディアー
ネ・メイティアがやって来てな。色々あって嫁にした。屋敷で働い
てるオバちゃんに知られたから明日の朝には街中に知れ渡るだろう
な﹂
︱︱︱ぶふっ!
︵メ、メイティア! あの王国三指に入る大富豪の⋮⋮︶︵よ、嫁
だと! くっ出遅れたか︶
﹁わぁ、おめでとうございますクリス様﹂
﹁どうも、ジャン⋮⋮じゃなくてカロリング夫人﹂
王子の護衛、褐色肌の美人さんはカール王子の奥さんだと聞いた
146
ので言い直すと、彼女は気さくに笑って﹁ジャンヌで結構ですよ﹂
と言ってくれた。そこいらの騎士よりはるかに強いとか聞いたけど、
朗らかでいい人だな。
﹁それで実家と縁の切れたオリヴィアだけなら、本格的に開拓が始
まるまで新婚生活してても良かったんだが。ディアーネを嫁にする
となると、勇者って名前だけの一般人じゃちょいと情けないと思っ
てな﹂
︵いやいやいやいやいや! 勇者の称号だけで王家からも婚姻申し
大神官
込まれるからね!︶︵クリス様! 今の時点で一般人とは程遠いで
すからな! 儂より身分高いですから!︶
﹁うふふ、男の人ってやっぱりそういうの気にするんですねぇ﹂
あれだけの美人を嫁にしてるんだから、見栄の一つや二つ張らな
いとな。とは言え中身のない見栄なんて恥ずかしいから、きっちり
とした、誰の目にも疑いようのない実績が欲しかったんだ。
﹁それで大物を狩れば褒美が出る、ってカール王子のお墨付きがあ
るから、トラバントさんから一番手柄になる大物の居場所を聞き出
して、狩りに行った﹂
︵そんな簡単に魔王種倒さないで!︶︵ちょっと散歩に行くノリで
狩りに行かないでくだされ!︶
﹁即断即決! さすが勇者様ですね﹂
うーん、カール王子とトラバントさんは黙っちゃてるな、怒って
るのだろうか? やはり一人で勝手に行動したのは軽率だったか。
147
考えてみれば俺には守るべき嫁が二人もいるんだ、もう少し慎重に
なるべきだったな。
﹁それでゴーレム馬車で東の草原に向かってな、周囲に人がいない
のを確認してから、魔物避けの反対の術で、魔物寄せの術を使った
んだ。ものすごく広範囲で﹂
︵使うな! しかも単独でしょうが!︶
﹁あの⋮⋮質問ですが﹃ものすごく広範囲﹄とは⋮⋮その、どの程
度の規模なのですかな?﹂
ちょっと顔が青いトラバントさんが質問してきた。やっぱり大神
官も忙しいんだな、激務で疲労の溜まった王子と同じく、胃の辺り
を抑えてる。疲れると胃腸が弱るから俺も気をつけよう。
﹁収納空間で確認したら大体10万匹くらい集まったな。勿論あの
デカいのもすごい勢いで襲ってきたぞ﹂
︵10万ってなんだ! それ見渡す限り狼で埋まってるレベルじゃ
ないか!︶︵何やらかしてるんですかこの方は!︶
﹁そんなに沢山の月光狼に囲まれるなんて! そ、それでどうなっ
たんですか!﹂
今更だが、勇者になって変わったことと言えば、神聖魔法、つま
り女神から力を借りて奇跡を起こす術を使えるようになった事。そ
して魔力の総量と﹃器﹄が拡大した事。
﹃器﹄とは言ってしまえば、個人が一回の魔術行使で使用できる
148
魔力の限界値を指す。もっと噛み砕いて言うと最大出力が上がった
のだ。
・・・・・・・・・・
﹁とりあえず手近な一頭に炎の術を放って仕留めたんだ。そうする
と群れは警戒する、つまり炎に焼かれるのは怖いと恐怖させた﹂
︵統率されてる群れ相手だと、余計に凶暴になるんじゃないか?︶
︵中途半端な恐怖心は容易に残虐性に変わりますからな︶
﹁そ、それでどうしたんですか?︵ドキドキハラハラ︶﹂
﹁最大出力でその恐怖を増大させた、闇の魔法ってのは精神に作用
する魔術だからな﹂
無理やり恐怖させる事もできるけど、元々対象が抱いている感情
を増幅させる方が簡単で消費も少ない。
﹁それを集まった狼全てを巻き込むような広範囲で発動させると、
逃げるでも、身が竦むでもない⋮⋮恐怖があるラインを超えると、
精神が死に肉体もそれに引き摺られる﹂
手応えからして勇者になる前でもデカい奴一頭くらいなんとかな
ったな、まぁ10万頭も集めるような馬鹿げた広範囲は無理だけど。
1万頭くらいならいけただろう⋮⋮いや、収納空間が足りなくて、
草原に死骸を放置する羽目になってたか。
︵や、闇魔法ってここまで凶悪だったの!?︶︵凄まじい、簡単そ
うに言っているが常人ではそんな恐怖の増大も、ましてそんな広域
まで影響を与えるなど不可能じゃ︶
149
﹁ま、魔王種はどうしたんですか? 流石にそれで魔王である月狼
王が倒れるとは思いません﹂
﹁いや? その時に死んだよ、この感情を増幅させる魔法の利点は
魔法防御力とか無関係で効果があることだな。意外かもしれないけ
ど群れのボスって結構臆病だぞ﹂
︵一発! たったの一発でボクの苦心した討伐計画終了なの!︶︵
魔王種って闇魔法が効果あったのですか!︶
﹁おぉ∼∼∼さすが勇者様です! 凄い魔法を使えるだけでなく、
色んな事知ってらっしゃるのですね!﹂
闇の魔法は対生物に特化してるからな、ただ野生ってのはある意
味潔いからなんとかなった。けど人間とか知的な種族だと、高度な
理性が感情を抑えるから効果が安定しないんだよな。
﹁それで、今度は大量に生き物が死んだりすると、アンデッドが湧
いたりするってよく聞くだろ? 特に精神死なんて無念を残しそう
な死因だと土地が汚染される可能性が高い﹂
﹁なっ! それで、それでどうしたんだい!﹂
アンデッドと聞き、今度はカール王子が勢いよく立ち上がり質問
してきた。
﹁うん、周囲を漂ってた怨念を全て俺が取り込んでね⋮⋮﹂
︵神聖魔法で浄化してくれたのかな?︶︵流石は勇者様だ︶
150
これに関しては勇者になってなかったら、流石に個人でどうにか
できるものじゃなかった。器が拡大してなければ半分くらいは、怨
念を放置して神殿に泣きついてたな。
﹁取り込んだ怨念を利用して、無意識下に死の恐怖を植え付けるタ
イプの魔物払いの術を構築した。10万頭分の怨念を全部使って物
凄く広範囲にな﹂
︵あ、意外とエグいなこの人︶︵信徒に伝えるにはちょっと⋮⋮い
い感じな英雄譚になるように創作するしかないかのぉ︶
﹁お、怨念を利用した術ですか?! なにやら怖いです︵ブルブル
ガクガク︶﹂
﹁人間には効果ないし、多分1年くらいは効果が続くと思う。それ
で狼の死骸全部収納空間に仕舞って帰ったんだ﹂
﹁広範囲に一年も続く魔物払いの術なんて、魔王種討伐に匹敵する
くらいの偉業だからね!﹂
顔を真っ赤にしたカール王子から指摘を受ける。顔が真っ赤⋮⋮
怒ってるのだろうか? 確かに怨念を利用するなんて真っ当な倫理
観があれば、眉を顰めるような非道な行いだろう、トップの不興を
買ってしまうとは失敗したかもしれない。実際に難しい顔をして悩
んでる。
︵ホントこの人への報酬どうしよう、メイティア伯爵家と繋がりが
あるっていうか、昨日繋がったわけだが。こんな短期間に娘を辺境
オヤジ
に送るくらい意気込んでるわけだ、それでその勇者にして婿様を冷
遇したと思われたら⋮⋮国王と同レベルで敵に回せない家を怒らせ
151
る!︶
﹁えっと⋮⋮ク、クリス殿の功績が大きすぎるので、ちょっと国王
陛下と相談させてください。あと月狼王の魔核を譲って頂いても?
証明に必要なんです﹂
魔核と言うのは魔物の体内に存在する魔力が固まった結晶で、日
常生活にもこの魔核を主材料とした道具が使われるくらい、生活に
欠かせないものだ。勿論日用品に使う魔核は、弱い魔物から採取で
きる低ランクの粗悪品で、魔核のランクが高ければ高いほどその価
値は膨れ上がる。魔王種の魔核ともなれば下手すれば、城が建つか
もしれない価値がある。
俺が持ち込んだもので予定を崩してしまったのは心苦しいので、
せめて価値ある魔核を譲れば機嫌が治るかも知れない。成り上がる
には上司の機嫌を取っとかないとな、世間知らずの俺だってその程
度の空気は読めるのだ。
﹁倉庫に置いておいたデカい狼、えっとクルトだったかな? 素材
は譲るよ、残りの10万頭も解体の人が困らない程度に小出しに出
すから﹂
︵魔王種の素材なんて譲られても換金できないよ! どうしよう、
ボクが王都に行く前になにか褒美として差し出さないと⋮⋮地位?
ボクの裁量では爵位を与えることはできないし、かと言って分か
りやすい褒美がないと、各方面を怒らせるかも知れない。神殿の事
情を知らない幹部とか、娘を嫁入りさせた大物貴族とか!︶
どうしよう、カール王子の様子がおかしいな? やはり辺境伯の
地位にある人間ともなると、色々考えないといけない事が多いのだ
152
ろうか? 良かれと思った魔物狩りだが、迷惑だったのか⋮⋮仕事
の段取り崩されて気分のいい人はいないだろうからな。
しばらく悩んでいる様子のカール王子だが、考えが纏まったよう
で、こちらに引きつった笑みを向けながら切り出してきた。
﹁クリス殿の屋敷の近くの工業区、職人街があるだろう。今度人が
増えるの見込んで近場に商業区画を造る予定で、もう測量と区分け
は終わってて後は土地の上に、建物を建てて出店する権利を売りに
出すだけなんだけど⋮⋮500ブロック中、100ブロックをクリ
ス殿に差し上げよう! 税金と具体的な場所に関してはまた後で話
し合おう、それとは別にボクが王都から帰ったら魔王種討伐の褒美
を出すからね!﹂
そう言えばオバちゃんが言ってた気がするな、格子状に区切られ
た道だけが出来ていて、建物を建てる予定地に下見に来る商人風の
人が最近多いそうだ。1ブロックの広さがが大体﹃大きめの宿屋一
軒分﹄程の敷地だそうだ。
まだ基礎ができてない空き地は、子供たちの遊び場になってるそ
うだ。なんでもカール王子が考案した玉遊びに夢中で、毎日泥だら
けになって帰ってくると、オバちゃん達が笑い半分呆れ半分で言っ
ていた。
﹁商業区か⋮⋮近所ではあるけど貰っても持て余しそうだな﹂
﹁大丈夫! メイティア家の令嬢がいるだろう? 彼女の実家に相
談するといい、多分専門家を送ってくれるから。それにお互いに利
益のある話を持ちかけると、嫁さんの実家と仲良くできるよ!﹂
153
︵こ、これでメイティア伯爵家は納得するだろう、神殿は魔王の素
材押し付けてなんか祭事をやらせよう、上から下まで総デスマーチ
状態にしてやれば、ボクに構ってる暇はあるまい! すまんがボク
の保身の為に過労死しろ︶
﹁トラバント殿は開拓者の意気軒昂の為に、魔王種が勇者に倒され
たことの喧伝に、神殿が主催で祭事を催して欲しい。魔核を抜いた
魔王の死骸を差し上げるから、一ヶ月後の開拓開始宣言に合わせて
くれ﹂
﹁うぬっ! 主催となればカロリング辺境伯家が音頭をとるのが筋
ではないですか、神殿としても協力は惜しみませんが⋮⋮﹂
カール王子とトラバントさんは、なにやら口喧嘩レベルの白熱し
た議論をしている。やっぱり偉くなると大変なんだなぁ、二人共俺
のことはそっちのけだし、帰るとするか。
∼∼∼∼∼帰宅∼∼∼∼∼
帰って今日の出来事を伝えると、一人で討伐に行くのは止めてほ
しいと怒られた。王子と大神官に散々怒られて反省したから許して
欲しい。
抱きしめキスをして、なんとか二人を宥めるがまだまだ怒りは鎮
まらないようで。言葉を尽くして謝り、三人でお風呂に入って、二
人に髪を洗って貰ったり、背中を洗ってあげたりしてるうちに、な
154
んとか機嫌を治してくれた。
エッチする前の身嗜みを整えるのに、もう少し時間がかかるそう
なので、先に風呂から上がり寝室で待つこと約二十分、バスローブ
姿の二人がベッドに上がり、何も言わずにキスをする。
﹁んむっ⋮⋮ちゅぱ、クチュ⋮⋮ンンンンッ⋮⋮ぷはっ、旦那様が
お強いのは誰よりも信じておりますが、せめて護衛をつけてくださ
いませ﹂
舌を絡め合うようなキスの後、目に涙を浮かべ上目遣いで懇願し
てくる。これは怒られるよりも胸に来る。
﹁ああ、もうしないよ、心配させてごめんな﹂
オリヴィアの涙を指で拭い、もう一度キスをする。同時にバスロ
ーブを脱がせると裸ではなく、見た覚えのないエッチな下着だった。
火照った肌に白い生地が映える。
﹁んっ⋮⋮チュチュ⋮⋮はぁ⋮⋮信じます﹂
ようやく笑顔を浮かべてくれたオリヴィアは、そのまま頭を下げ、
俺の逸物に奉仕をしてくれる。
︱︱︱はむっ チュプ チュプ
くっ、昨日までより格段に上手い。的確に敏感な場所に舌を這わ
せてきて、逸物はすぐに最大限まで膨れ上がる。このままでは呆気
なくイカされてしまうので、反撃のためオリヴィアの秘所に手を伸
ばすが⋮⋮
155
﹁私を見てくださらないなんて酷い人、ふふっそういうお方を振り
向かせるのが、腕の見せどころですがね﹂
傍で動かず様子を見てたディアーネが、不意打ち気味に俺を押し
倒し唇を奪う、それだけではなく、両手はディアーネのおっぱいを
押し付けられ、動かせない。
﹁んっんっんっ! わ、わたくしたちを心配させる悪い旦那様は、
二人がかりでおしおきです! か、覚悟してください﹂
フェラチオからパイズリしつつ、先端を舐めだしたオリヴィア。
一方ディアーネは恐ろしくキスが上手で、離そうにも唇が彼女から
離れようとしない。
︱︱︱ニュプ ニュプ ピチャ クチャ ニュル ニュル
逸物を挟むオリヴィアの胸の感触と、格段に上達した舌使いに、
あっという間に射精感がこみ上げてくる。一対一ならオリヴィアの
体勢を変え、先にイカせるのだが、ディアーネに動きを封じられて
何もできない。
﹁ペロッ⋮⋮ムチュ⋮⋮チュチュチュ⋮⋮﹂
ディアーネとのキスは俺が防戦一方だ、口に中をディアーネの柔
らかい舌で舐め尽くされ、快感で痺れてしまいそうだ。俺の頭に添
えられた彼女の両手には、ほとんど力が篭っていないのに固定され
たかのように動けない。
勿論反撃の為にディアーネのバスローブを剥ぎ取り、大きな胸を
156
更に強調するエッチな下着越しにおっぱいで感じさせようと指を動
かす。
おっぱいの愛撫で感じていないわけでは無い、乳首を摘んだり、
強めに揉んだりすると反応はある。しかしディアーネのキスは止ま
らない、キスがこんなに気持ちいいなんて、ハマってしまいそう⋮
⋮だ、駄目だ限界だ。
オリヴィアの奉仕の快感と、ディアーネの猛攻の前に、俺は耐え
切れず射精してしまう。
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ
﹁んむぅぅぅぅ! こくっこくっ⋮⋮んんっ⋮⋮チュプチュプ⋮⋮
んくっ﹂
昨夜大量に出した筈のザーメンだが、一日足らずで随分と出した
ものだ。オリヴィアは口内に大量に出されたソレを苦労して飲み干
す。
﹁はぁはぁ⋮⋮旦那様の子種がこんなに⋮⋮気持ちよくなっていた
だいて嬉しいです⋮⋮﹂
俺のザーメンを飲み干したオリヴィアは、うっとりと微笑む。そ
の蕩けた声色に彼女もまた情欲が昂っていると分かる。
射精したことで、ディアーネは唇を離し、してやったりとでも言
いたげな表情で微笑んでる。昨日と今日は彼女とセックスしてばか
りなのだが、ディアーネは基本的に相手を不快にする仕草は決して
しない。
157
何もできずイカされても、彼女のいたずらっぽい微笑みを見ると
﹁今度はこっちの番だ﹂と、セックスで対抗する気になってくる。
今度はこっちが攻める番だ、オリヴィアをうつ向けに寝かせ、デ
ィアーネに押し倒すような体勢にさせる。
﹁うふっ、オリヴィアまだ口に中に残ってるクリス様の子種⋮⋮私
にも頂戴?﹂
︱︱︱クチュ あむっ ピチャ クチャ
オリヴィアの口内に残る俺のザーメンを舐めとるディアーネの淫
靡な姿に、興奮が高まる。俺は愛撫が不要なほどに、濡れている二
人の重なった蜜穴の間に肉棒を擦りつける。
﹁ひぁ! や、やだ挿れてくださらないのですか?﹂
﹁こ、これって⋮⋮はぁん! 当たってるのぉ! クリトリスにオ
チンチンが当たって⋮⋮んはぁ!﹂
これは、二人同時に犯してるような錯覚に陥る。何度か前後に動
かすだけで既に肉棒は痛いほどに勃起している。
俺の逸物は二人の愛液まみれで、極上の美少女二人のオマンコは
既に俺を受け入れる準備が出来ているのがわかる。先ずはオリヴィ
アだ。
︱︱︱ズリュ! グチュ グチュ ヌチャヌチャヌチャ⋮⋮
158
﹁んはぁぁ! だ、旦那様のおっきくて逞しいオチンチンがぁぁぁ
! ひゃ! だ、だめぇ! んはぁぁぁ!﹂
オリヴィアの感じるポイントに肉棒を擦りつけつつ、さっきイカ
されたお返しに激しく打ち付けると、元々昂ぶっていたオリヴィア
の嬌声があがる。
﹁はんっ! あっあっあっ! 気持ちいいのぉ! 旦那様のオチン
チンがぁぁぁ﹂
︱︱︱パンパンパン⋮⋮ピタッ
﹁あぁ! 旦那様ぁ⋮⋮意地悪しないでぇ﹂
突然腰を止められたオリヴィアは、またイヤラシい台詞を言わさ
れるのかと、困ったように俺を見るが⋮⋮
﹁あぁぁぁん! バックから犬みたいに犯されるの好きなのォォ!
んあぁ! オリヴィアの前なのにぃぃ! オリヴィアの前で犬み
たいに犯されてるのォォ﹂
︱︱︱クチュ クチュ パンパンパンパン! ピタッ
﹁と、止めないでぇ! もっと、もっとぉ﹂
﹁旦那様ぁ⋮⋮お願いします、オリヴィアにください⋮⋮﹂
折角こうして二人を相手にしてるんだ、俺は相互に挿入を繰り返
し二人を焦らす。切なそうにこちらを見る美少女二人に、倒錯した
興奮を覚える。
159
ナカダシ
﹁よりエッチなおねだりした方に先に膣内射精してやるよ﹂
俺の言葉にすぐ反応したのはやはりディアーネだった。自分の指
で膣口を広げつつ、蠱惑的にお尻を揺らす⋮⋮動作だけで犯して下
さいと主張してるようだ。正直あまりのエロさにすぐさまチンポを
ぶち込みたくなった。
﹁クリス様ぁ⋮⋮ディアーネのクリス様専用のオマンコを、おっき
くて逞しくて熱いオチンチンで乱暴にしてください⋮⋮﹂
セリフも動きも淫靡そのもので、ディアーネの膣穴に逸物を入れ
ようとした瞬間だった。
﹁ひくっぐすっ⋮⋮旦那様ぁ⋮⋮い、いじわるしないで⋮⋮ヒック
ヒック⋮⋮﹂
オリヴィアの泣き顔を見た瞬間、俺はオリヴィに優しくキスをす
る。
﹁す、すまん! ごめんよオリヴィア泣かないでくれ! 意地悪し
て悪かったから泣き止んでくれ﹂
泣き顔を見た途端に混乱してしまい、らしくもなくオロオロして
しまう。もう一度キスしようと顔を近づけると⋮⋮
﹁ふふっ旦那様ったら可愛い﹂
ん? あれ? なんか機嫌良さそう⋮⋮もしかして嘘泣き?
160
﹁旦那様はエッチの時いつも意地悪なんですもの、ちょっとお返し
と⋮⋮あ、あら?﹂
ほほう⋮⋮嘘泣きか、そうかそうか夫婦間で嘘をつくなんていけ
ない子だなぁ? 俺もそうだが、オリヴィア、気がついてるか? お前を押し倒してる形のディアーネが怒りのオーラを発してるのを。
﹁オリヴィア⋮⋮嫌な事されて嫌だと言うのは当然だと思うの⋮⋮
けどね? 殿方が私たちの身体に夢中になってくださってるのに水
を差すのは粋じゃないわよ?﹂
﹁え⋮⋮あの? ディアーネ? 怒ってる? ひゃん!﹂
ディアーネの手がオリヴィアの胸に伸びる、その手は優しく繊細
で、的確にオリヴィアの官能を高めていく。
﹁んはぁぁぁ! あぁん! や、やめて女同士で⋮⋮﹂
﹁お仕置きよ、クリス様に抱いていただいてるのに、嘘泣きするな
んて悪い娘は、私の手で感じさせてあげる﹂
流石ディアーネ、女同士でも指技だけで感じさせられるのか。そ
うすると俺からのお仕置きとして⋮⋮二人がかりで弄ってあげるよ、
覚悟しろオリヴィア。
︱︱︱ズブゥ! グチョ グチョ ズプズプズプズプ
﹁ふぁぁぁぁぁ! あっあっんあぁぁぁぁぁん! ふ、二人がかり
なんてぇ⋮⋮旦那様のオチンチンが来てるぅ奥までぇぇぇ! ひゃ
ん、や、やだディアーネそんなことされたら!﹂
161
体勢を変え、赤ちゃんのしーしーのポーズで俺に後ろから貫かれ、
前からディアーネに優しく愛撫されているオリヴィア。
﹁ひぃ! イっちゃうのぉ! あっあっんはぁぁぁぁぁぁ!!﹂
︱︱︱ビクンッ! ビクッ ビクビク⋮⋮
﹁反省した?﹂
盛大に絶頂に達し、脱力したオリヴィアは頷く。
﹁ふぁい⋮⋮ごめんなさい旦那様⋮⋮﹂
﹁俺はオリヴィアのことを愛してるから、オリヴィアが傷ついたか
と思って焦ったよ。もうやらないでくれ、嫁さんに泣かれちゃった
ら、俺まで泣きたくなるくらい悲しいから﹂
﹁はい⋮⋮わたくしも愛してます﹂
ベッドに寝かせ、絶頂の余韻で力なく横になるオリヴィアにキス
をする。肩で息をしてるから、しばらく休ませてあげよう。
﹁オリヴィアがダウンしたから、回復するまでディアーネ一人だな。
さっきは中途半端に終わったからたっぷり可愛がるぞ﹂
﹁この身体はすべてクリス様に捧げたもの⋮⋮存分にお楽しみくだ
さい﹂
先ほどの仕切り直しのように、四つん這いになって俺を誘う。デ
162
ィアーネが嫁入りして、これからの夜は長くなりそうだ。
163
功績︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
さて、次のヒロインはどうしましょうかね?
164
女傑︵前書き︶
沢山のブックマークと評価をくださりありがとうございます。
165
女傑
朝起きると、俺たちはすぐに風呂へ向かう。毎晩激しく愛し合う
ので汗やら何やらで、身体中ベトベトだからだ。余談だがエッチ後
の姿を使用人に見られては気まずいので、部屋に造った隠し階段を
降りるとすぐに脱衣所に入れるようになってる。
浴槽のお湯は昨夜に沸かしたものなので、大分温くなってる。と
は言え眠気が残る中、ゆっくり体をほぐすのに丁度いい。
﹁ンッ∼∼∼♪﹂
俺に身を寄せ機嫌よさげに、湯船に浸かるオリヴィアの銀の髪は、
窓から差し込む朝日を反射しキラキラしている。先ほど丹念に洗っ
たおかげか宝石のように艶めいている。
﹁夜は気がつけなかったけど、髪が綺麗になったな。それによく見
れば肌も⋮⋮どうりで触った感触が良かったわけだ﹂
すぐ傍で寛いでいる妻の髪を軽く手櫛で梳いてみると、まるで絹
のように滑らかでまるで抵抗を感じない。
﹁ディアーネの持ってきてくれた、石鹸や洗髪料のおかげですよ。
彼女の家は衛生や化粧の薬を、長年研究を続けている家系ですから﹂
そう言えば娼館の元締めって言ってたな、そういう家ならこの手
の物が発展するのも納得だ。
166
﹁愛する殿方のために綺麗でありたいと願うのは、古今問わず女の
性ですもの。ミツバチに﹃酔って﹄いただき留めるには、身は綺麗
で佳き芳香を放たなければね?﹂
ちゃぷんと、オリヴィアの反対側、俺を挟んで湯船に入ったディ
アーネは、早速腕を絡め、肩に寄りかかる。
オリヴィアの使っていた物とは、微妙に色の違う泡を立て髪を洗
っていたディアーネから、花の香りが漂ってきた。石鹸の香りとも
違う、これは髪が仄かに香ってるのか。
﹁いい匂いだな⋮⋮すれ違い様にこの香りを嗅いだら、フラフラと
ディアーネに﹃酔って﹄いってしまいそうだ﹂
﹁クリス様以外寄せる気はございませんがね﹂
クスッと色気たっぷりな笑みを浮かべ、さらに密着してくるディ
アーネ。うーん昨夜散々出したのに、俺の愚息ときたら元気なこと
だ。
﹁あらっ? 旦那様ったら⋮⋮﹂
苦笑したオリヴィアが俺の逸物に手を伸ばす、ディアーネも同時
にだ。愛妻二人に優しく撫でられたチンポはすぐさま臨戦態勢に入
る。
ナカダシ
﹁朝からヘトヘトになるまでセックスするのもなんだし、一回ずつ
膣内射精したら風呂から上がるぞ﹂
湯船から出た俺は、先ず浴室の床に座らせたオリヴィアのオマン
167
コを愛撫する。髪と同様銀色の陰毛に覆われた膣口は、ディアーネ
の指導でより綺麗に手入れされている。昨夜たっぷりと子種を注い
だ蜜穴に舌を這わせると、ふわりと良い香りがする。
﹁チュク、ムチュ⋮⋮いい匂いだ、期待して香水をつけてたのか?﹂
﹁はぁん! は、はい⋮⋮旦那様ってば、お風呂でエッチを始める
ことが多いではないですか⋮⋮んっはぁ! あっあっ⋮⋮いつ求め
られても良いように⋮⋮んふぅ⋮⋮お手入れしました﹂
クンニするときに良い香りがすると、気分が良い。セックスの時
に性器を清潔にしておくのは当然のマナーとして︱︱︱俺も石鹸で
念入りに洗ってる︱︱︱この辺の心遣いがあると、セックスしてて
気持ちいいだけでなく、愛おしさがこみ上げてくる。
︱︱︱クチャ ピチャ ピチャ
﹁あっあっ⋮⋮ひぅん!﹂
オマンコから蜜が溢れてくると、愛液と香水の香りが混じり匂い
の質が変化する。﹃そういう用途の香水﹄なのは間違いない、クン
ニしてる最中は芳しい花の香りだったものが、愛液と混じった途端
に官能を刺激する淫香に変化する。
﹁濡れてきたな⋮⋮こんなイヤラシい匂いをオマンコから出すなん
て、俺に抱かれるまで無垢だったオリヴィアが随分とエッチな娘に
なったじゃないか﹂
﹁ひぅ! わ、わたくしがエッチなのは⋮⋮旦那様だけです⋮⋮旦
那様の前だけですわ﹂
168
顔を真っ赤にしながら反論するオリヴィアを、座ったまま膝の上
に乗せ、唇を重ねると同時に彼女のオマンコを貫く。
﹁ンム∼∼ッッッッ⋮⋮ぷはっあっあっあっ! やっそ、そこ弱い
のにっ⋮⋮ひぁんあぁぁぁん!﹂
若い夫婦の俺たちは、ほぼ毎晩セックスしてるわけだが。何度も
肌を重ねれば好みの体勢というのが分かってくる。
例えばオリヴィアは、今やってる対面座位が一番好きで、毎晩一
回はこの体勢でお互いに達する。俺の場合は背後からおっぱいを鷲
掴みにしつつの後背位が好みだ。
ちなみにディアーネも後背位が一番感じるらしいのだが、彼女の
場合俺の性格とか、セックスの時の反応を覚えていて、好みを合わ
せてる可能性が高い。なんというか徹底的に相手の嗜好に合わせる
のが、女の嗜みとでも言いかねないからな。
それはともかくオリヴィアに集中だ。膝の上に乗せたまま下から
突き上げるたびに、膣奥に肉棒の先端が当たる。ここがオリヴィア
の中で一番弱く、肉棒で突くとすぐに余裕がなくなり俺のなすがま
まにされる。
﹁んはぁ! ンッンッんんんんんぅぅぅぅ! ひぁぁぁぁ!!﹂
彼女の膣内も暖かく気持ちがいいが、目の前で揺れる巨乳も無視
できない。両手で揉みしだき乳首を口に含む。
﹁やっあっあぁぁぁ! だめぇイっちゃう! オマンコとおっぱい
169
を同時に可愛がられてイっちゃいますぅぅぅ﹂
︱︱︱クチュ はむっ ちゅぅぅぅぅぅ!
ナカダシ
乳首を甘噛みし、吸う。それと同時に突き上げを激しくし、絶頂
寸前のオマンコに膣内射精する。
︱︱︱ビュク ビュク ビュク⋮⋮
﹁はぁぁぁぁぁぁん! ⋮⋮はぁはぁ旦那様⋮⋮んっちゅ﹂
同時に達した俺たちはキスをして、名残惜しいが離れる。イった
直後の脱力した状態の彼女は、そのまま風呂の床に仰向けに寝転が
る。さて、待たせたな。
﹁お待ちしておりました、ディアーネにもクリス様のお情けをくだ
さいませ﹂
猫が背伸びをするポーズというべきか、四つん這いでお尻を俺に
向け、高々と見せびらかすように誘ってくれる。その蜜壷は既に愛
撫の必要がない程に濡れていた。
﹁んふぅ⋮⋮クリス様とオリヴィアの愛し合う姿を見て、自分で慰
めてしまいました⋮⋮どうかこの淫乱なディアーネにお慈悲をくだ
さいませ⋮⋮ご主人様﹂
真っ白で瑞々しいお尻をくねらせ、潤んだ目で俺を見るディアー
ネ。勿論相手は嫁なのだから我慢する必要などどこにもない。
細い腰を両手で掴み、射精してなお衰えない肉棒をディアーネの
170
オマンコにあてがう。入浴中なので彼女の自慢の赤く長い髪はタオ
ルでまとめられ、白く綺麗な背中と、ほっそりとしたうなじに、ど
うしようもない色香を感じる。
︱︱︱ずぷぅ ズリュ ズリュ パンパンパンパン
ナカダシ
﹁あっはぁ! 素敵! 昨日あれだけ膣内射精してくださったのに。
オリヴィアの膣内に出したばかりなのに! こんな⋮⋮こんなに逞
しいなんてぇぇぇ﹂
ディアーネは意識して強めに締めたり、柔らかく包んだりと、俺
が打ち付けるタイミングに合わせて、気持ちよくなるように膣に込
める力を調節している。弱い部分は把握していても、それ以上の快
感に襲われ、気を抜くとあっさりとイカされてしまう。
腰を掴んでいた手を動かし、巨乳を揉む。そしてさらに激しく打
ち付ける。
﹁あぁぁぁん! も、もうご主人様はホントおっぱいがお好きです
ね﹂
﹁ああ、大好きだ、こんな極上の手触りハマらない方がどうかして
る!﹂
手を動かし、腰を突き出し、舌で身体を愛撫する。ディアーネの
声に余裕がなくなってきた頃、射精感が高まってきた。
﹁くぅぅ出るぞ! ディアーネの子宮目掛けて俺の子種をぶちまけ
てやる﹂
171
﹁はっはっはっ! はひぃディアーネにご主人様の精子をください
! ご主人様の愛で私を孕ませてくださいぃぃぃぃぃ!﹂
︱︱︱ドピュ ドピュ ピュ ⋮⋮
∼∼∼∼∼その後∼∼∼∼∼
調子に乗りすぎた、結局あのあと三人してお風呂でのセックスが
楽しくなってしまったのだ。もうちょとだけ、ご奉仕します、まだ
元気なんでもう一発⋮⋮そんなことやってるうちに、嫁二人がグロ
ッキー状態になってしまい、体を拭いて着替えるにも一苦労な有様
になってしまった。
﹁クリス様、お若いんですから抑えろとは言いませんよ? けどね
⋮⋮もうちょっと相手を気遣うことはできるんだと、このマーサは
思うんですよ﹂
そんなわけで、朝ごはんを食べる前にお手伝いさんの代表である、
仕立て屋の奥様、マーサさん︵55歳︶の前で床に座らされ説教を
受けてる最中です。
嫁ふたりはソファでグッタリしており、オバちゃん達に介抱され
てる。
﹁まったく! 18歳の男の子なんてそりゃ底なしでしょうがね、
いかにも育ちのいい奥様達がついていけるわけ無いでしょう! 反
172
省しなさい!﹂
﹁は、はい! ごもっともです、オリヴィアとディアーネへの気遣
いが足りなかったのは反省する!﹂
その後もみっちりと説教を受け、朝食にありついたのは、朝とい
うには遅く、昼にはまだちょっと早いといった中途半端な時間にな
ってしまったのだ。
いくら若くても流石に二人ともデートを楽しめるほど体力が回復
していない、魔法で回復させれば良いのではないか? とオバちゃ
ん達が聞いてきたが、日常生活を魔法に頼りすぎると、無意識に魔
法へ対する抵抗力が失われるのだ。
詳しい理屈を並べても、魔法への理解のない人には説明されても
困るだろう、要するに便利なものに頼りすぎると体に悪いと説明し
たら、納得してくれた。
俺はソファに座り、嫁二人を膝枕で寝かせたまま、本でも読もう
かと思い、頼んで持ってきてもらった。さて、のんびり読書でも⋮
⋮と本を開いた時だった。
﹁クリス様、お客様がお見えです、傭兵団﹃熱砂の龍﹄団長サリー
マ様と仰ってます﹂
あいにくと傭兵とかそういう人種には、疎いので聞き覚えがない
が、訪ねて来たんだから会うのは構わないだろう。どうせ屋敷でゴ
ロゴロしてるだけのつもりだったし。
膝枕で眠る二人を起こさないように気をつけながら、応接間へ向
173
かった。
傭兵団の団長と聞くと、筋骨隆々の厳つい男を想像するが、サリ
ーマは女性名だ。さっきまで想像していた大男を女性に置き換えて
みると⋮⋮やめよう、精神衛生上良くない。
どんな人物かオバちゃんに聞けばよかったと後悔しながらも、応
接間の扉を開ける。そこで待っていたのは、30半ばくらいの美人
さんだった。
黒くて癖のある髪は後頭部で一纏めにされており、いかにも活動
的な感じだ、背が高くスタイルもいいサリーマさんは、人懐っこい
笑みを浮かべて挨拶してきた。
﹁やぁ初めましてだな、アタシはサリーマってんだ。こっから近く
の屋敷に住まわせても貰ってるのさ﹂
朗らかに握手を求めてきた彼女の第一印象は、ぶっちゃけ二足歩
行の肉食獣だ、普通の服を着ていても、露出している手足はネコ科
の猛獣のように引き締まり、多分魔法なしで殴り合えば瞬く間に殺
されるだろう。
﹁初めまして、クリスだ。魔法使いだが何故か色々あってここに住
んでる﹂
﹁いやぁ良い男じゃないか勇者様は、見たよ昨日の領主様のお屋敷
でさ、魔王種のデカ狼の死体! アタシが30年若ければ押しかけ
てベッドに潜り込んでたねぇ! あっはっは﹂
バンバンと背中を叩かれかなり痛い、結構知られてるのかと思っ
174
て聞いてみたら、既に冒険者を始め集められた傭兵たちは全員知っ
てるそうだ。
﹁いやはや、アタシのトコは食い詰めた馬鹿と、戦場で拾ったガキ
ばっかりで大所帯なだけなんだがね⋮⋮魔王と戦わずに済んだ、あ
りがとうよ。おかげでうちのバカどもが死なずに済んだよ﹂
この開拓事業、最初の難関として魔王種討伐が計画されており、
厳しい戦いは覚悟の上だが、真っ先に死ぬのは自分たちのような、
前線で戦う傭兵なのだと、溜息混じりに語ってくれた。
﹁この開拓が成功すれば、アタシも、アタシのガキ共も部下全員が
堅気になれると信じて、参加の要請を受けたのさ。実際に他じゃ考
えられない厚遇だよ、でかい屋敷に住めてガキどもは大はしゃぎさ﹂
戦場で使い捨てとして扱われるのが傭兵だ、そんな自分たちが土
地と家を持てる、手柄によっては貴族も夢じゃない⋮⋮彼女の傭兵
団の士気は高くやる気に溢れていた。だけど、魔王種との戦いで犠
牲者が出ないわけがない、それだけが彼女を悩ませていたのだ。
﹁それがねぇ、クックック! 狩った魔物の素材を売りに行ったら
! その魔王が死んでるんだよ! 夢かと思ってアタシはついつい
部下の頬を抓っちまったよ! だっはっは!﹂
バンバンバンバン! だから痛いって、笑いながら叩かないで!
あと夢だと思うなら自分の頬を抓れよ。
﹁大したもんだ勇者様は、どうだいアタシの娘が欲しけりゃ熨斗つ
けてくれてやるよ? 嫁いでないのは十番目の娘で九歳だけど﹂
175
﹁ンな小さい娘を嫁にしたら俺の評判は地に落ちるわ! ってか十
番目ってサリーマさん子供何人いるんだ?﹂
﹁そうだねぇ初産が14で、45の今まで産んだのが23人⋮⋮あ
と戦とかで親を亡くしたガキを引き取ったのが丁度50人だねぇ、
食い詰めた馬鹿なチンピラもアタシのガキみたいなもんだから⋮⋮﹂
30代に見えたのに45歳だったのか、いやそれより予想よりは
るかに子沢山だった。どうも傭兵団﹃熱砂の龍﹄はサリーマさんが
トップの家族みたいなものらしい。
あと産んだ子供の父親は全員違うらしい、戦場で出会った男と一
夜の恋に燃え上がり、授かる場合がほとんどだそうだ。たまに手紙
のやり取りをして近況を聞くと、なんか彼女と結ばれて子供ができ
た男は、全員とにかく出世してるらしい、その伝手を頼りにして、
引き取った子供の里親を探したり、部下に堅気の仕事を紹介したり
してもらってるそうだ。
﹁勇者様は18だっけか? その年頃の娘は⋮⋮宮廷魔術師の息子
とかいうインテリとの娘だなぁ。マルフィーザって名前だけアタシ
が付けて、父親が引き取ったけど今頃どうしてるのかねぇ⋮⋮手紙
はたまに送ってるけど返事はないし、まぁお偉い貴族様が昔遊んだ
年増女の手紙なんざ読まないか﹂
関係を持った男の人数は多いが、その時その時で相手に対して本
気で惚れていたそうだが、生まれた子供を引き取ってくれる男もい
れば、産む頃にはどうしようもない事情で別れてしまった場合も多
い。そんな中で子育てをしつつ、戦災孤児の面倒を見る彼女を慕う
者は数多い。とにかく多い、具体的には﹃熱砂の龍﹄傭兵団のほぼ
全員だ。
176
実は開拓事業に一番意欲的なのが彼女の子供たちで、母親に楽な
生活をさせるために、張り切って魔王種討伐の準備をしていた。
傭兵団を率いる長男、マヘンドラさんは30歳で彼女を慕う﹃熱
砂の龍﹄傭兵団総数約三千人を率いるに不足の無い、指揮官として
も戦士としても大変優れている。現状で傭兵団を実質率いてるのは
彼で、息子の事を語るサリーマさんはちょっと誇らしげだ。
﹁親孝行に張り切ってるってか、いい話だな﹂
﹁けっ戦の合間に乳をくれてやったガキが、ちょっと部下ができた
程度で調子に乗ってんのさ﹂
照れ隠しなのか悪態をついて出したお茶をがぶ飲みしてる。色々
な方面から叱られてしまった魔王種討伐だった。けど彼女の子供や
部下が犠牲にならずに済んだのは、素直に嬉しいと思えた、彼女は
いい人だから、きっと自分を慕う人間が死ねば深く悲しむだろうか
ら。
﹁今日訪ねて来たのは、お礼を言うのが目的なのか?﹂
﹁いや、アタシのガキ共との顔合わせも兼ねてさ、ちょいとアタシ
らと仕事しないかい? 腕が立って信用できる奴となると勇者様が
一番だしね﹂
初対面で信用もなにも無いと思うが、俺の信用=神殿の信用であ
り、加えて女神が選んだんだから大丈夫だろうと思われてるようだ。
﹁依頼者も勇者様に会えるかも知れないなら是非って言ってたし、
177
期限は大体往復で二週間程度さ﹂
﹁新婚の俺に二週間も嫁と離れろと?﹂
オリヴィアと出会う前ならともなく、嫁二人の身体に溺れきって
る自覚のある俺にとって、そんな長期間の遠出ははっきり言って拷
問に近い。サリーマさんには好印象を抱いてるけど、これは断らせ
てもらおう。
﹁まぁまぁ話だけでもね、なんだったら嫁さん連れてきても構わな
いよ。なにしろ依頼は貴人の護衛、お忍びでカール王子と交渉に来
た﹃クレイター諸島連合王国﹄のお姫様を、西の海岸にある船の隠
し場所まで送り届けることだからね、嫁さん連れてきても話し相手
に丁度良いんじゃないかい? どう見ても良いトコのお嬢様だし話
も合うと思うよ﹂
うちのバカ連中にお姫様のお話し相手なんて無理だからねぇあっ
はっは! 冗談めかして言ってるけど⋮⋮その依頼って内容聞いて
断れる類のモノですか? いや断ったら情報漏洩でサリーマさんが
罰を受けるレベルじゃないか。
後で聞いたところこの依頼を息子が請けてきた際、直感的に、理
勇者
由もなく、どうしようもないレベルで悪い予感がしたので、何とか
して俺を引き込みたかったそうだ。そして歴戦の傭兵である彼女の
直感は、紛れもなく正しかった。
178
女傑︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
サリーマさんイメージ的には天空の城ラ○ュタのドーラさんを三〇
代にした感じ︵実際は45歳だけど︶
ヒロインでなくてもこういうキャラは割と好きなのでサブキャラと
して活躍してもらいたいと思います。
179
狼姫︵前書き︶
お待たせしました、新ヒロイン登場です
エッチシーンが少し微妙かも? 難しい視点での描写なので勘弁し
てください。
180
狼姫
なんだかんだと押し切られ、嫁がOKなら、護衛に同行すること
になった。まぁ護衛といってもカール王子との交渉に来た、お姫様
の一行と一緒に余剰分で売った食料を運ぶのがメインで、それほど
危険ではない。食料を狙った魔物は出るが、俺からすれば危険はな
いという意味だ。
﹁まず馬車500台分の食料と、この地方でカール様が輸出したい
品を数百点。それをアタシ達﹃熱砂の龍﹄傭兵団3000人中20
00人が運ぶ。そして西の海岸に隠してあるクレイター諸島連合王
国の船まで届けるのが主な任務だ﹂
クレイター諸島連合王国は、このラーロン地方から西、海を隔て
た場所にある。大小50を超える島々で構成された海洋国家だ。
実はこのクレイター王国は交易の殆どを、このマーニュ王国と大
変仲の悪いリーテンブ帝国に頼っていたせいか、我が国と殆ど接点
が無かった。だが最近になって帝国が横暴になってきており︱︱︱
理由の一つは戦争で国土を増やし出したせいかと言われている︱︱
︱予告なく食料の値上げをしだしたのだ。
付き合いが長いのだし多少なら我慢もしたが、一方的な搾取とし
か思えない程値上げされては、今後に危機感を覚えて当然だった。
そのため首脳陣は秘密裏にマーニュ王国を頼りに交渉団を送り込ん
で来たそうだ。
理由の二つ目は食料を輸入に頼ってるせいだろう。年中気温が低
181
く、特に冬になると島から島へ歩いて渡れる程の極寒の気候。反面
夏は涼しく快適で帝国貴族の避暑地として、観光で潤ってるそうだ
が、耕作に適してるとはお世辞にも言えないので、食料等は殆ど帝
国に頼ってるのが現状らしい。
その代わり造船や、かの国固有の魔法によって作られる魔法道具
は、このクレイター諸島連合王国でしか手に入らない。そのため小
国にも関わらずその重要度は高く、この国でも手に入るが帝国経由
の輸入品になってしまうので大変高価だ。
そんな情勢で、最近発展して食料が豊富なこの地に目を付けない
わけがない。お姫様が交渉団の代表なあたり本気度が伺える、幸い
カール王子は大口顧客を逃す人ではないので、普通ではありえない
ほどスムーズに交渉は纏まったらしい。
﹁代表のお姫様⋮⋮ルーフェイ王女の護衛は、あちらの騎士さんに
任せておけばいいさ。アタシらは食料とかを積んだ馬車を守るのさ﹂
ルーフェイ王女は今年に成人したばかりらしく、名前だけとは言
えこの交渉団の代表だ。サリーマさんの話だと、見る者を和ませて
くれる雰囲気を持った、たいへん愛らしく笑顔の似合うお姫様だと
か。既に彼女の傭兵団内部にはファンまで存在しているそうだ。
﹁なんかカール様とのお見合いも兼ねてるって話だったけど、他国
の王族との婚姻となると、王族とは言え臣籍に降りた辺境伯の一存
で決められるはずないからねぇ。カール様もなんか随分好印象だっ
たみたいだけど⋮⋮目線がフリフリの尻尾と耳に集中してたあたり、
間違いなく女として見ちゃいないね﹂
﹁クレイターというと伝聞でしか知らないけど、多種多様な種族で
182
構成された多種族国家だったな。何族だ?﹂
さて、最近帝国が横暴になった理由の三つ目にして最大の理由は、
大陸で大多数の人間︱︱︱全ての種族は自分たちを人間と称する︱
︱︱は俺たちのような無形族なのだが、帝国では最近無形族以外を
蔑視する連中が台頭してきたからだそうだ。
犬、猫、鳥、様々な形態を持った人間で構成されるクレイター王
国からすれば、そんな理由で食料を値上げされてはたまったもので
はない。
﹁今の国王は鳥人族だったと思うけど、お姫様は人狼族だね。髪は
桃色で肩で切り揃えてる、尻尾と耳も同色だ。全体的に小柄な人狼
族だけどお姫様は特に小柄でね、大事に育てられたんだろうね、人
懐っこくてとっても良い子ちゃんだよ﹂
余談だが、親子で種族が違うのは普通のことで、基本的に母親と
同じ種族で産まれるのだ。例えば俺が鳥人族の女性を孕ませたとし
たら、産まれてくる子供は全て鳥人族になり、鳥人族の男性が無形
族の女性との間に子供を作れば、生まれてくるのは全て無形族だ。
獣人族
彼女の傭兵団にも、流れ者のクレイター人が少ないながらも所属
しているのが、護衛を任される一因であったようだ。他種族を排他
する人間はどこの国にも一定数は存在するのだから。無形族に裏切
られたばかりの彼女らが、警戒するのも仕方のないことだ。
だからといってお姫様たちだけで行動するよりも、2000人も
の兵士と一緒の方が安全なのは間違いない。なぜなら海岸に向かう
途中にはそれなりに規模の大きい森林があり、魔物の数も多いから
だ。一応西の森林も開拓予定地ではあるが、草原の方が優先度が高
183
いので後回しにされている。
ぐるっと森林を迂回して大体一週間、一晩程度なら半径2kmの
アイテムボックス
範囲で魔物を寄せ付けない結界を張れる俺がいれば、まぁ安全だろ
う。収納空間を使えば野外で風呂にも入れるし。
﹁分かった、嫁二人が同行すると言えば、俺も付き合おう﹂
いくつかの確認をしてから、サリーマさんには応接間で待ってて
もらい、二人が休んでる私室に向かう。
∼∼∼∼∼嫁達に事情説明∼∼∼∼∼
﹁⋮⋮と、言うわけで、明後日から二週間くらい同行を頼まれたけ
ど、二人はどうだろう? 嫌なら断るけど﹂
グロッキー状態から回復したオリヴィアとディアーネは急な話に
驚いたようで、考え込んでいる。
︵他国の王族と誼が結べるなら⋮⋮旦那様は勇者ですが後ろ盾はあ
りませんし⋮⋮︶
︵サリーマ様はその筋では人望の篤い方として、尊敬されている女
傭兵、親密さを周囲に知らしめれば⋮⋮︶
やはり令嬢に二週間の野外生活は厳しいだろうか? ディアーネ
184
の持ってきたゴーレム馬車ならそれなりに快適に過ごせるのだが。
﹁喜んで同行させていただいますわ、まるで出会った時のようで今
から楽しみです﹂
オリヴィアの言葉にディアーネも頷いている、二人が大丈夫なら
サリーマさんに同行すると伝えてこよう。急な話だったけど荷物は
収納空間に押し込むだけだから、準備に時間はかからないんだよね。
﹁そう言えば、魔王種討伐の報酬の一部に商業区画の2割を頂ける
と伺いましたが。後日交渉ですか?﹂
ふと、思い出したかのように準備のために、私室に向かおうとし
ていたディアーネが足を止め俺に聞いてきた。
﹁そうだね、王子は王都に行っちゃったけど、文官の偉い人と相談
して決めてってさ。忙しそうだし帰ってからでも大丈夫じゃないか
?﹂
カール王子は朝早くに数人のお供だけを連れて、王都に向かった。
俺が帰ったあとも休まずに働いたそうで、体を壊さないか心配だ。
なお結局大神殿に魔王討伐のお祭りの準備を丸投げしたらしく、
トラバントさんは目の回るような忙しさだそうだ。訪ねるのも悪い
し、俺がサリーマさんの仕事に同行する件は、きちんと伝言を頼も
うと思う。つい昨日心配させちゃって叱られたばかりだからな、有
名なサリーマさんと2000人もの兵士が一緒にいるんだし彼も安
心だろう。
﹁この手の事は早めに決めてしまった方が、辺境伯家の者たちも予
185
定が立てやすくなると思います。よろしければ私が手紙を書きます
から、実家の者に一任されますか?﹂
カール王子もディアーネの実家に相談した方が良いと言ってたな。
俺は勿論、妻二人も素人なのだし、詳しい人に任せたほうが安全か。
﹁分かった、鳥の使い魔を用意する。それと義父になるんだし俺も
手紙を書くよ、ただ貴族相手の手紙なんてよく分からないから、オ
リヴィア頼むな﹂
﹁はい、お任せ下さい﹂
先ずはサリーマさんに護衛の件を伝え、会った事のない義父への
手紙に四苦八苦しながらも、明日からの出立に備え早めに眠ること
にした。
∼∼∼∼∼ルーフェイ王女視点∼∼∼∼∼
私の名はルーフェイ・ルーガン、クレイター諸島連合王国の第2
王女です。先日成人と認められ、今まで国交のなかったマーニュ王
国への交渉団の代表として選ばれました。
しかし国交のない国との交渉です、実質交渉を一任されている孤
人族の外交大臣であるフォクシーが頼りです。私も可能な限りこの
国の情報を集めマナーを学び、お飾りの代表なりに立派に勤め上げ
るのです、交渉次第では顔も知らない殿方のもとに嫁ぐ覚悟で挑み
186
ました。
夫となる殿方に忠実に従うように躾けられましたが、お父様の仰
られた身体を差し出すとは、どういうことなのでしょうか? 痛い
ことする人とか、意地悪な人だったらと思うと、とても不安です。
時期が良かったのでしょうか? なんとこの地方にて勇者様が誕
生するという慶事が滞在中に起こったのです。そのおかげなのか、
カール様は終始上機嫌で交渉もスムーズに運び、私たちは期待以上
の成果を得ることができました。帝国から購入するよりも2∼3割
も安く、安定的かつ大量に食料を得る事が出来る様になったのです。
纏まった条件を記した文書に、お互いの母印を押した時には、嬉
しさのあまり尻尾でスカートを捲り上げてしまいました⋮⋮うぅぅ
! なんて恥ずかしい真似を最後の最後にしてしまったのでしょう
! カール様は微笑みながら、不自然なくらい同席した大臣のフォ
クシーに話しかけてます。どうやら見なかったふりをしてくれたよ
うです。
あぁ! 大臣の目線が痛いです! こ、これはお説教コースでし
ょうか。フォクシーも機嫌が良いはずですから手加減してくれるは
ずです。
なんといっても輸入品の実物を実際に見たほうが、この後の交渉
がしやすいだろうと。後払いで良いと仰り500台近い馬車に、パ
ンパンに詰まった食料を持たせてくれたのです。
その上2000人を超える統率の取れた戦士たちを護衛としてく
ださるとは、カール様の期待の大きさが伺えます。
187
残念なのはカール様は多忙の為、出立に際しご挨拶ができなかっ
た事です。しかし今後お礼を言う機会は多いでしょう⋮⋮と言うか、
多分この国に嫁ぐことになるでしょうからね。最有力はカール様で
しょうか、それとも王都の貴族の可能性もあります、なんにせよ国
のためには覚悟をしておく必要があります。
さて、調印式でのミスはちょっとした注意だけでも許してもらい
ましたし、急いで帰路につかねばなりません。街の西側、長閑な田
園風景の広がる地区に、ずらりと並んだ大型馬車が約500台、平
地の少ないクレイター諸島連合王国ではなかなか見られない光景で
す。
2000人の戦士たちの中から、背が高くよく日に焼けた女性が、
私の前に歩いてきます。ただ歩いてるだけだというのに、彼女の凛
とした振る舞いは同性の私から見てもとても格好良いです。そして
私の前で略式ですがクレイター式の跪拝をしてくれます。
﹁姫様、大任を果たされ大変喜ばしく思います。私は﹃熱砂の龍﹄
傭兵団団長サリーマと申し上げます﹂
﹁丁寧な挨拶痛み入りますサリーマ様。私はクレイター諸島連合王
国第二王女ルーフェイ・ルーガン、貴女がいてくださり万の兵にも
比肩するほど頼もしく思います﹂
えぇっと大丈夫ですよね? ﹃万の兵にも∼﹄云々は私の国では、
戦士を褒める時の最上級の表現なのだけど。国が違えば言い回しも
違うでしょうけど、褒めて頼ってるニュアンスは伝わるわよね?
そんな心配をよそにサリーマ様はニッコリと笑い﹁過分な評価恐
れ入ります﹂と言ってくれた。良かった、2000人もの戦士を従
188
える人だもの、怒らせていい事なんて一つもないわ。
﹁もう一人紹介したい者がおります、宜しいですか?﹂
傭兵団の幹部でしょうか? それとも私たちの周囲を守る女性の
戦士の顔見せでしょうか? なんにせよ断る理由はありませんので、
頷き連れてくるように促します。
そうしてやってきた青年? いや少年を見て、私は言葉を失いま
す。なぜなら先日まで街に滞在していて、彼が分からないなんてあ
りえません。
﹁初めま⋮⋮お初にお目にかかります、クリス⋮⋮法の女神より加
護を賜り、勇者の称号を授かったクリスと申し上げる﹂
あわわわ⋮⋮どうしましょう、初めて顔を合わせた勇者様ですが、
18歳と若く、とても優しそうで⋮⋮素敵な方です。魔王種を一人
で倒したとか、草原に魔物の立ち入れない結界を張ったとか、まる
でおとぎ話の英雄のよう、私緊張してちゃんとご挨拶ができたか覚
えてません。
どどど⋮⋮どうしましょう! 尻尾の動きを止められません、息
が苦しくてフラフラします⋮⋮はっ! まさか風邪でしょうか!?
緊張の糸が切れてしまったせいでしょうか! 乳母の娘で幼馴染
のメイド、バニイがなにやらニヤニヤしてますが、私を元気づける
ための笑顔なのでしょう、ゆっくり馬車で休みませんとね。
その後勇者様が乗ってきた大変立派な馬車の中には、二人の奥様
もおられ紹介して頂きました。大変お綺麗で博識な奥様方です、大
変乗り心地のいいゴーレム馬車の中でお喋りしているうちに、すっ
189
かり好きになりお友達になりました。
けどちょっと胸のあたりが痛みます⋮⋮お二人に比べ私が背の低
い貧相な体型だからでしょうか?
そうして特にトラブルもなく西へ向かいます。
∼∼∼∼∼夜∼∼∼∼∼
周囲にはかがり火が焚かれ、人狼族の私にとっては視界に不自由
はありません。同じ馬車の中には兎人族の幼馴染バニイもぐっすり
休んでいます、私は起こさないようにこっそり馬車の外に出ます、
夜になっても起きてるなんて悪い事をしてるみたいでちょっとドキ
ドキします。
夜間とは言え周囲には2000人の戦士たち、まして勇者様が自
ら構築した魔物払いの術まであるのです。少し夜風に当たるくらい
問題ないでしょう。
普段でしたら供の者に心配をかけるような真似は慎むのですが、
今日オリヴィア様から聞いた勇者様と出会ってからの旅の話を聞き、
ちょっと冒険してみたくなったのです。
とは言えあまり長時間出歩くとバニイに叱られてしまいます。バ
ニイの母上は私の乳母なので、王女である私に対してあまり遠慮が
ありません⋮⋮怖いのですぐに戻ることにします、そうだ勇者様の
190
ゴーレム馬車の近くまで行ったら帰りましょう。
王族である私の馬車の周囲には流石に人はいませんね、あら? でも不眠番を請け負う女性の戦士くらいいそうなのに誰もいません
ね? まぁ見つかるよりは良いので気にせず進み、勇者様の馬車の
近くまでたどり着きました。
︱︱︱あっあっ⋮⋮だめぇ声がでちゃいます
不意に馬車の中から、小さな、おそらく無形族には聞こえないほ
どのか細い声が聞こえました。心配になり耳を澄ませてみると、ど
うやらオリヴィア様の声のようです。
﹁どうしたのでしょうか? ひょっとしたらお腹を壊してしまった
とか?﹂
︱︱︱パンパンパン⋮⋮ンンン∼∼ッッ! ヒャァァン!
更に聞こえる何かを打ち付けるような音と、オリヴィア様のか細
い声。私は心配になり馬車の窓を覗き込みます。
﹁旦那様ぁ⋮⋮あっあっ⋮⋮そんな、は、激しくされたら⋮⋮﹂
つい好奇心で近づいた私が見たものは、これまでの人生で最も衝
撃的な光景でした。とっても綺麗な銀の髪を振り回しながら、裸で
クリス様と抱き合うオリヴィア様でした。
えぇ! は、裸で何をなさってるのですか?! よく見ればオリ
ヴィア様だけでなくディアーネ様まで、そのとても女性らしい肢体
を勇者様の前に曝け出しています。
191
︱︱︱グチュ グチュ クチャ クチャ クチャ
裸で抱き合ったまま勇者様とオリヴィア様はキスを交わします。
これは分かります、ご夫婦ですものキスくらいはするでしょう。で、
ですがなぜお股の部分をぶつけ合ってるのですか? 殿方には幼い
頃お父様と沐浴をしたときに見た、突起があるはずですが、あんな
に激しくぶつけて痛くないのでしょうか?
﹁くぅっ⋮⋮はっはっんはぁぁぁ! イクッイっちゃいますぅぅぅ
ぅ﹂
ナカダシ
﹁俺もイクぞ、ここか? ここが子宮口だな! たっぷり膣内射精
するぞ﹂
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ ビクッ!
﹁はぁぁぁぁぁぁん! 熱いのぉ! 旦那様の熱いのが子宮に! 子宮にドピュドピュきてるのぉぉぉ﹂
なんということでしょう、オリヴィア様が仰け反ったと思ったら、
ぐったりしてしまいました。でも勇者様とキスを繰り返してますし、
なんだかとっても幸せそうです。
私のような世間知らずの知識では、いったい何をしているのかわ
かりませんが⋮⋮はぁドキドキして、お股がキュンってきました。
休む前にお小水は済ませたのですが?
少し視線をずらしている間に、今度はディアーネ様が足を大きく
広げ、お股を勇者様の前に曝け出しております。なっ! なんでし
192
ょうお小水の出る秘所を勇者様が舐め始めました。
﹁んむぅ! やっやっやぁぁぁ⋮⋮香水つけてませんのに匂いを嗅
がないでぇ﹂
﹁ふふっ香水がなくてもディアーネの此処は甘い香りがするな。あ
ぁディアーネは蜜までいやらしいな﹂
こ、これはディアーネ様は嫌がってるのでしょうか⋮⋮けど表情
は嬉しそうです。
﹁真っ暗闇の中セックスも良いな、視界がない分感触を楽しめる、
そろそろ挿れるぞ﹂
﹁んっ⋮⋮はい、抱きしめてくださいませ、ご主人様の温もりを感
じたまま抱かれたいの⋮⋮﹂
真っ暗? ああ、そうでした、無形族は夜目が利かないんでした
ね。勇者様たちはお互いの顔も見えないのだろう、手探りで触れ合
いながら、お股同士をぶつけ合った。
つぅぅぅ⋮⋮やだ! さっきお股がキュンってしちゃったのは、
やっぱりお小水でしたか。こ、こうしてはいられません早く戻って
着替えなくては。成人したというのに情けないです。
急いで私の馬車に戻りました、幸い見張りの人には見つかりませ
んでしたので、コソコソと馬車の扉を開け⋮⋮
﹁姫様? 何故お一人で出歩いてらっしゃるのですか?﹂
193
目の前にはとっても怒ってるバニイが仁王立ちしてました。あわ
わわ⋮⋮ち、違うのです、ちょっと夜風に当たるだけのつもりだっ
たのです。
残念なことに私の下手な言い訳のせいで、更に怒られる羽目にな
りました。ううう、着替えて馬車内の寝台に入っても先ほど目にし
た光景が目に浮かんで寝れません。
194
狼姫︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございました
ルーフェイ姫は成人です、彼女の国の法では成人なのです
よって彼女の年齢は明記しません、紳士な読者の皆さんは空想で補
ってくれると信じておりますw
195
襲来︵前書き︶
申し訳ございません、話の流れ的に今回はエッチ無しです。
次の話ではきっと犬耳合法ロリ姫とのエッチまで行きたいと思いま
す
196
襲来
マーニュ王国王都では辺境から届いた﹃勇者誕生﹄の知らせに、
上から下まで真贋入り乱れた噂話が飛び交っていた。そんな中ある
意味当事者のボクが王宮にやって来たのだから、話しかけてくる連
中が多く、ウザったくて仕方ない。
オヤジ
予め使いは出しているから、国王と会うのにそれほど待たされる
とは思わない。とは言え流石に着いてすぐとはいかなかったようで、
今ボクは貴賓室でお茶を飲んでいる。服装は立派なむさ苦しい連中
に囲まれながらな。
どこから聞き付けたものやら、顔も知らない貴族連中が押しかけ
てくる。貴様ら仕事はないのか? 暇なのか? ボクは普段書類に
埋もれてるというのに。
﹁⋮⋮それでですな、我が国の発展の鍵となるカロリング卿の開拓
計画。是非とも協力を︱︱︱﹂
﹁⋮⋮という訳でして、双方の領地を大いに潤してくれる計画なの
です。是非とも協力を︱︱︱﹂
﹁⋮⋮実は、ここだけの話カロリング卿に協力したいと願う者達は
多く、是非とも協力を︱︱︱﹂
実のある話が聞けるかもと、つい面会を許したのが拙かった。我
も私もと次々現れ、ボクのいる部屋に押しかけてきて、判を押した
かのように似たような話しかしてこない。そして態となのか? お
197
前ら事前に話を合わせてるのか? そして練習でもしたのか? 暇
で羨ましいなゴラァ!
﹁﹁﹁つきましては当家の娘と勇者様との見合いを!﹂﹂﹂
なぜお前ら別々の話をしててそこだけハモる? つーか同時に喋
んな、ボクの脳みそは一つだけなんだから、内容が吟味できんわ!
﹁あー諸君、クリス殿は正妻のオリヴィアさんと大変仲睦まじくて
な。彼女を通さないと側室入りはまず無理だ﹂
ボクが家名を告げない事から平民だと勘違いしたのだろう、返っ
てくる答えは﹁所詮平民ではないですか﹂だ。
王都の民衆の間だと女神から直接祝福を受けた花嫁ということで、
似顔絵が飛ぶように売れる事態になっているオリヴィア嬢、なんと
いうか既にアイドル扱いである。ただ身分的に平民ということで、
貴族の中で目先のことしか見えてない連中は彼女を、ほぼいない者
として扱ってる。
いや法的に平民なのは確かなんだけど、彼女は元とはいえ公爵令
嬢だよ? 教養とか立ち振る舞いはそこいらの令嬢なんて歯牙にも
かけないよ? それ以前に宗教の権威舐めてない?
中には彼女がヘルトール公爵家の人間だと気付いてる者もいるし、
前代未聞と言える﹃格﹄の祝福を授かってる意味を理解してる者も
いる。どっちにせよ側室としてでも、娘を勧めてくるから面倒なの
には変わりない。
既にメイティア伯爵家のディアーネ嬢も嫁入りしてるんだけどな、
198
教えてやる義理もないのでそのへんは曖昧に答えておく。
それでも食い下がってくる貴族連中にウンザリしてると、また新
たな訪問者がやってきた。豪奢な衣装を無理なく着こなす小柄で小
悪党顔の男⋮⋮メイティア伯爵だ。
大富豪の彼は、爵位以上に影響力が強い、早い話どんな世の中だ
ろうが金持ちは強いのだ。彼の出現に貴族たちは慌てて道を譲る、
邪魔はしないがしっかりを聞き耳は立てる算段のようだ。
﹁商業区域の件で、相談を受けました。儂自ら視察に赴いても宜し
いか?﹂
挨拶もそこそこに早速本題に入る伯爵、周囲の貴族は彼も勇者に
対し、娘の嫁入りを目論んでると思ったのだろう。ディアーネ嬢は
美人で有名だし婚約破棄されたことは誰もが知ってるからね。
相談を受けたってことは、やっぱり鳥の使い魔で連絡を受けたな。
今後の開拓に伴う利権争いは彼が大幅なフライングでリードを広げ
ているということか、情報の速さだけでなく、勇者の義父って立場
はボクの領地では殆どの人間が味方になるって事だ。
﹁勿論です、我が領地は今まさに発展の為に第一歩を踏み出したば
かり。経験豊富なメイティア卿のご意見をいただければ幸いです﹂
﹁開拓の為に冒険者や傭兵などの荒くれ者が多いとなれば、当家の
出番ですからの。必要なものがあればなんでも手配いたしますぞ﹂
メイティア家は娼館の管理を司る家、開拓地には不可欠な物なの
で、周囲の貴族も実務的な商売の話と思ったようだ。
199
元々ボクの領地って法の女神大神殿がある土地柄か、娼館とか少
なくてね。現状パンク気味なのでクリス殿の件がなくても、協力を
仰がないといけないのだ。
伯爵と話し合い土地の割り当てや税金など、大雑把にだけ決めて
おく。後の細かいことは現地で詰めると決めて、伯爵は帰っていっ
た。
見事にディアーネ嬢の事は匂わせないで、商売の話だけして去っ
ていった。予想通りクリス殿はメイティア伯爵に丸投げしたか、褒
美として与えた商業区域だけど、素人に適当な運営されたらこっち
も困るからね。
オヤジ
メイティア伯爵が部屋から出ると、今度は近衛騎士がやって来る、
オヤジ
国王と面会の用意ができたそうだ。まだ何か言いたそうな貴族たち
を尻目に、国王の執務室へ向かう。
∼∼∼∼∼執務室∼∼∼∼∼
﹁随分と愉快な事態になったようだなカール﹂
﹁何年も練り上げた計画の前提条件がいきなり崩れたときは、ホン
ト倒れかけたよ﹂
どんなに上手く立ち回っても、犠牲者が必ず出る討伐計画だった
200
んだ。必勝は確信してたけど、下手すれば万単位の犠牲者を覚悟し
勇者
ないといけない。無数の配下を従える魔王種とはそういう存在だ⋮
⋮理不尽があっさり狩ったけどな!
﹁50年前、月狼王の前に逃げる事しかできず、大きく国土を奪わ
れた。その後何度も討伐に失敗した我が祖父は無念の中で病没した
⋮⋮祖父の末期の形相が今も余の脳裏に焼き付いておる⋮⋮﹂
曽祖父の話は子供の頃からよく聞いた、義父も討伐に参加したこ
とがあったらしく、何度も月狼王への怒りを聞かされたものだ。王
として領主として土地を奪われるとは、それ程の無念ということか。
ボクも、頑張って開墾した田園地区を他人の領地にするとか言わ
れたら⋮⋮まぁ殴るな、次に蹴るな。そして目一杯暴れるな。
﹁まず祖父の無念を晴らしてくれたことに礼を言う、ようやく胸を
張って墓参りができそうだ﹂
なんでも祖父の最後のインパクトが強すぎて、墓参りには二の足
を踏んでたそうだ。ボクからすると無茶な討伐を繰り返して、国を
傾けかけた暴君なんだけどね、まぁ故人を、まして曽祖父を悪くは
言うまい。
昔話の前に仕事の話を済ませるとしよう、懐から魔核を取り出し
執務室の机に乗せる。
﹁これが魔王種の魔核だ、取引材料にするにも価値があり過ぎるし
献上する形になるな﹂
﹁おぉ! 余もこれほどの魔核は初めて見たわ、城一つ分の価値が
201
あると言われるのも納得であるな﹂
魔法道具の素材としてこれ以上は存在しない。仮にこの魔核で魔
剣を作ったとしよう、恐らくそのひと振りは大地を切り裂き、雲で
すら割るだろう。
魔物避けの結界装置に使えば、末代まで王都は魔物に悩まされる
事はなくなり。船に組み込めば天を翔けるかも知れない。
オヤジ
ぶっちゃけ辺境では持て余すのだ、だったら国王に渡してこっち
の要求を通したほうがいい。
﹁とりあえずボクに公爵位をくれ。あと手柄のある者に対し、自領
を分け与える権限。あと叙爵の権利だな、子爵が3、男爵が10、
騎士爵は無制限な。流石に伯爵以上は許可を貰いに来るよ﹂
草原が安全に開拓できるようになった以上、とにかく土地が余る
のが予想できる。村にもならない集落でも領地なのだから、治める
者には爵位を与えるのが手っ取り早い、なによりもいちいちボクが
王都まで許可を貰いに行くのも面倒だ。
﹁分かった、憎き魔王種を討伐したのだ⋮⋮そうだな3ヶ月、いや
5ヶ月後だな、お前に公爵位を与える式典を行うものとする。土地
と叙爵の件は後日正式な文書として送ろう﹂
ふむ、この手のことは流石に王の一存でも、今すぐというわけで
もないか。当然といえば当然か、後は土地や叙爵は事後報告をしっ
かりするように釘を刺された。
﹁後は、魔王種を直接倒した勇者殿の事なんだけど⋮⋮報酬どうし
202
よ? 前例が無ければどの程度が妥当かも分かんないんだ﹂
﹁アルチーナはまだ結婚しとらんし、勇者殿に嫁がせるか? 余と
しては早めに親戚になっておきたいのだ、突出した個人を繋ぎ留め
るには女が一番手っ取り早く、楽だからの﹂
アルチーナはボクの異母妹で確かヘルトール公爵家の跡取りと婚
約してたはずだ。こっちの都合で勝手に婚約を無かった事にするの
は流石に憚られる。第一繋ぎ留めるって意味ではディアーネ嬢がい
れば問題ないと思う。ある意味その為の教育を受けた女性だし最適
任だろう。
﹁うーん⋮⋮クリス殿はそういう無理やり引き剥がされた娘を、自
分の嫁にするってのは嫌いそうだな。親父はオリヴィア嬢が虐待さ
れてた件は知ってるだろう? そのせいでヘルトール公爵の事をす
ごく嫌ってるし﹂
嫌ってるというよりほぼ無視してるな、要するに情が深いんで身
内が傷つくような真似されたら、ものすごく怒る。ディアーネ嬢と
婚約破棄した奴も勝手な理由で彼女を侮辱したとして、腹を立てて
たそうだ。
アンジェリカ
﹁ヘルトールの小倅は妹を構うばかりで、アルチーナとは割と冷え
てるから丁度いいと思ったんだがな﹂
ふっと溜息を吐く父、噂通りのビッチぶりのようだ。親父は国王
として精神干渉を無効化する魔法道具を常時身につけているし、ボ
クも同様のものを装備している。
﹁⋮⋮場合によってはお前の子を、余の養子として後継者にするか
203
もしれん。教育を怠るな、そして味方を増やしておけ﹂
﹁兄貴はそこまでダメか?﹂
アンジェリカ
以前試合をしたときはそこまでアレじゃなかったと思うが、今は
どうなんだろう? ビッチと婚約はしてるけど、アレの子は誰が父
親か分からないからなぁ、その点サリーマさんも子沢山で全員父親
が違うけど、なんかビッチと言うには違うし。
﹁勇者殿のことだが、そうだな⋮⋮侯爵位と余が自ら家名を賜すと
いうのはどうであろう? 英雄として大々的に知らしめたいから派
手に式典を行いたいと思う﹂
そうなるとボクと一緒が良いかな? サリーマさんとかも伯爵く
らいにして良いかも知れない、女性は爵位を得られないから長男の
マヘンドラさんあたり、他の息子や幹部たちには騎士爵がいいだろ
う、他にも5ヶ月の間に手柄を立てる者も多いだろうし⋮⋮時期的
に寒くなるし開拓も進まないだろう、主だった者が離れても問題な
さそうだ。
﹁良いと思う、勇者殿についてはボクから伝えるよ﹂
﹁家名については正式な物として貴族名鑑に記載し渡そう﹂
全ての貴族は王家発行の貴族名鑑を毎年受け取っている、逆に言
うとコレを渡されない家は貴族ではない。
﹁本来時間がかかるものだが、なんとかお前の出立前には用意して
おく。お前から勇者殿に渡すのだぞ﹂
204
﹁ありがとう、ホント一人で魔王種を倒すとか頭の痛い事してくれ
るよ﹂
悩んでいた報酬の件が片付きそうでほっと一息。それにしても侯
爵となると、ボクの領地のナンバー2って位置づけになるのか⋮⋮
やっぱ理由をでっち上げてアルチーナと婚約させようかな?
﹁余も会うのが楽しみであるな、これで他にも魔王種を倒したら⋮
⋮余でもどう報いたら良いか分からんわい、カッカッカ!﹂
﹁ハハッそうしたらホントにアルチーナを差し出すくらいかな? まぁもうこの国で確認されてる魔王種はいないから有り得ないんだ
けどね﹂
﹁もしもの話である、他にも王家秘蔵の宝を下賜し領地も与えねば
な、そうだ軍に適当な名誉職を作ってだな⋮⋮﹂
そうして親父との面会を終えたボクは、母上や開拓に関わる官僚
たち、そして資材の生産や運搬を請け負う商家などを訪ねたりして、
王都で忙しく過ごした。
この時ボクは辺境に帰ったら、更なる厄介事が発生しているとは
思っていなかった⋮⋮いや、領地の利になるから厄介じゃないが、
ボクや文官たちが過労死一歩手前まで追い詰められるような事態は、
間違いなく厄介事だ。
あぁ! この時城にいる暇そうな貴族の三男以下︱︱︱読み書き
ができれば貴族でなくてもいい︱︱︱を纏めて簀巻きにしてでも攫
ってくるんだった! と後悔した。
205
∼∼∼∼∼サリーマ視点∼∼∼∼∼
空は快晴、出発から四日経って500台の馬車はトラブルもなく、
2000人の部下を連れてる以上魔物も滅多に襲ってこない。実に
順調だねぇ、変わったことといえばお姫様が勇者様︱︱︱おっとク
リス殿って呼ぶように言われたんだったね︱︱︱を見る目が毎日変
わるくらいかね?
先頭を進む長男のマヘンドラと馬上で談笑しているクリス殿を、
顔を赤くしながら馬車の窓からチラチラと覗いては、すぐに引っ込
むのを繰り返している。同じ馬車に乗ってる奥様方も微笑ましいも
のを見る目で眺めてるねぇ。
まぁ世間知らずのお姫様が勇者なんて肩書き持ったイケメンに、
優しくされたらそりゃコロッと堕ちるのも仕方ない。
﹁なぁ賭けるかい? お姫様の初恋が実るか否かでさ。アタシはく
っつくのに秘蔵のワインを賭けるよ﹂
﹁姐さん、くっつかないに賭ける奴いますかね? 姫さんの護衛の
連中ですら、なんか勇者さんが良く見えるような位置に馬車動かし
てるじゃないっすか﹂
まぁあの姫様がこの国に嫁ぐのは多分確定だからねぇ、相手は決
まってないけど、候補の中には当然クリス殿も入ってるだろうから
ね。本人が強く希望すれば一気に最有力だろう。
206
クリス殿と奥様方も妹同然に可愛がってるし、こりゃ余程のこと
がなければ初恋成就かね?
そんな暢気な事を考えつつ、馬が少しヨロけたと感じた瞬間だっ
た。流石のアタシも大勢の部下と、近くに魔王を倒した勇者がいる
ことで警戒が薄れていたのか、不意打ちを許してしまう距離まで接
近を許してしまったのだ。
一直線に伸びた馬車の行列に向かって、森の中から子供ほどの大
きさの蟻が湧いて出たのだ。
﹁鎧蟻だって! 森にいるなんて聞いてないよまったく! テメェ
らぁぁぁぁ前衛は蟻どもの足止め! 残りは森に火を放てぇぇぇぇ﹂
鎧蟻とは文字通り全身鎧を纏ったかのように、とんでもなく頑丈
な外殻を持つ体長1メートル前後の蟻の魔物で、力が強くとにかく
タフだ。弱点は動きの遅さと、虫全般に言えることだが火に弱い。
﹁ちっ商品だが仕方ねぇ﹂
アタシは蟻どもが現れると同時に、食料を積んだ馬車の中から油
の入った壺を取り出し、森になかに投げ飛ばす。そしてハンカチを
油に浸し、火を付け石に包んで投げた。なんとか油壺の割れた場所
にぶつかったようだ、急激に燃え広がり魔物の足が止まる。手が軽
く火傷したが剣は握れるので問題はない。
﹁手の空いてる奴は油を森の中に投げ込めぇぇぇぇ!﹂
アタシの指示で混乱から醒めた連中は、ある者は武器で牽制し、
207
ある者は指示通り油を投げ込んでる。クリス殿は⋮⋮流石に心配は
いらないようだ、蟻は黒い霧のようなものに触れた瞬間、痙攣して
すぐに動かなくなっている。
姫様と彼の奥さんが同じ馬車に乗っていたのが幸いか、彼に任せ
ておけばお姫様は安全だろう。となればコチラは蟻の撃退に集中で
きる。
鎧蟻は知られている限りでは100匹程度の群れで生活しており、
巣の中にいる女王蟻と幼虫の為にせっせと餌を運び込む。女王は主
に生き物を、幼虫は草食で巣の近くの草木は根刮ぎ巣の中に運ばれ
るのだ。
つまり近くに巣ができたということか、森にまだ草木が残ってる
ことから、まだ幼虫は生まれていないのだろう。ならば蟻を撃退後
巣を突き止め、巣穴に油を流し火を付ければ終わりだ、本格的な被
害が出る前に駆除できたのは僥倖と言えるだろう。
﹁女王蟻が卵を産む前の食料を集めてる段階なら、蟻共の数も多く
ない。野郎ども気張るんだよ!﹂
アタシの発破に部下たちが応える。馬を走らせ前線に向かおうと
した⋮⋮その時だった。
地面が揺れた。森が震えた。馬は畏れ動けなくなった。歴戦の戦
士である部下たちが呆然と武器を落とす。
︱︱︱ギチ ギチ ギチ ギギギギギ⋮⋮
﹃ソレ﹄の姿で最初に見えたのは頭だった、頭部だけで10メー
208
トルを超える樹木がまるで針のように見えた。﹃ソレ﹄が身動ぎを
しただけで地面が悲鳴を上げるかのように震えた。
黒い小山かと錯覚した﹃ソレ﹄は⋮⋮何の冗談かと思うほど巨大
な、肥大化した蟻の腹部だった。
﹁よ⋮⋮鎧蟻の⋮⋮魔王種?! 女王蟻なのかコレ!﹂
209
襲来︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
息を吸うようにトラブルを呼び込むのも勇者というものだと思いま
す
210
萌芽︵前書き︶
遅れて申し訳ございません
211
萌芽
闇の魔法とは精神に干渉する術である。そう聞くと心や感情を思
エロ本
い浮かべる者が多く、それに干渉すると言われれば、眉を顰める者
が多いのは当然だ。具体的には男向け春画本のような真似とか、人
様に大っぴらに言えないような事をしてんじゃないかと思われてい
る。
実際に歴史上には日常的に魔法を悪用し、不埒な行いをしていた
者が何人もいるので、否定できないのが悩み所だ。そういう人間に
限って高位の術者だったりするからタチが悪い。
エロのために努力したのか? それとも可能だからつい魔が差し
たのか? 俺もモテるために必死に修行したクチだから悪いとは言
わないけど、魔法を悪用した犯罪はやめろ、後進が肩身の狭い思い
をするだろうが!
俺も闇魔法使いだからやろうと思えば可能なのだが、前提条件と
して、心というのは恐ろしく頑強で、元の状態に戻ろうとする本能
に根ざした回復能力は、余人が考えるよりも遥かに強い。
はっきり言えば勇者の俺が他人の心を操ろうとしても、一時間ほ
どで効果が消える上に魔力がほぼ枯渇する事態に陥る。感情も同様
で永続的な効果など不可能だと断定できる。
つまり部屋に連れ込みヤルことは出来ても、その後に愛される筈
もない。どこのアホが強姦魔に好意を抱くというのだ。俺には考え
られないな、俺はセックスが好きだが、事後のイチャイチャも同じ
212
くらい大好きなのだ。
呪い
どこぞの女神がやらかした加護みたいなのは例外なので考えない
ようにしよう。ふざけた効果のくせに人間が再現しようとしたら、
即座に脳みそがパンクしかねないくらい超絶的に高度な術なんだよ
アレ。
それじゃ闇の魔法って真っ当な用途で役に立たないんじゃないか
と思われるが、精神というものは心や感情だけってわけでは無い。
むしろそれ以外を指す場合が多い。
例えば記憶、忘れていた事柄を思い出したり、嫌な記憶を忘れさ
せたり。やりようによっては他者の記憶を読んだり、自身の記憶を
与えたりもできる。
例えば感覚、自らの五感を研ぎ澄ませたり、逆に他者の五感を封
じたり鈍らせたりできる。幻覚、幻聴なども自由自在だ。
例えば呪詛、死んだ生き物の怨念を利用し長期間精神を蝕み続け
まじな
る術だ、奴隷化の呪いなどが代表的だろう。魔物払いの術もこの範
のろ
疇なので一概に悪いものでもない。良い効果を呪いと称し、悪い効
果を呪いと区別する事もある。
他にも出来ることは数多あるが、まぁ見事に殆どが一般のウケが
悪い物ばかりである。闇の魔法とかいう印象の悪さも加わり、勇者
になってなかったら闇魔法使いなんて絶対に知られないように立ち
回ってただろうな、間違いなく周囲の目線が痛いなんてレベルじゃ
ない。
ジジイ
さて⋮⋮そんな世間ウケの悪い魔法を伝授した師匠への愚痴を思
213
い浮かべつつ、激痛でショック死させる闇魔法で襲い来る敵を倒す。
本当は闇魔法を人前で使いたくないが、敵だけを選択して多数を相
手にするのに適した魔法だから仕方ない。攻撃的な炎や雷撃では乱
戦で味方を巻き込みかねないからな。
巨大蟻は森の中から群れをなして次から次へと襲ってくる。俺は
嫁達と護衛対象のお姫様の乗った馬車の上に立ち、近寄る敵をなぎ
払ってるのだがどうにも数が多すぎる。
しかしサリーマさんの機転で森に火を放ったおかげで、襲ってく
る蟻の数は目に見れて減った。このままなら撃退はすぐだろう。味
方に犠牲者が出るようなら、大規模魔法で敵を全滅させるのだが、
幸い敵が鈍重なのとサリーマさん配下の傭兵たちは戦い慣れてるの
か立ち回りが上手い。これなら商品の油壺程度の被害で済むだろう。
繰り返すが、俺としては闇の魔法は周囲にあまり見られたくない。
印象が悪いのもあるんだが、何も知らない第三者に﹁闇の魔法で操
ったんだろう﹂とか疑われるのが正直辛い。それに妹のように無邪
気に懐いてくるルーフェイ姫に、そんな目で見られるかもしれない
と思うと、どうしても躊躇してしまう。
とにかく襲ってくる蟻を倒し、余裕が出来たら神聖魔法で戦って
る傭兵達の傷を癒し、援護をする。このままいけば撃退ももうすぐ
だろう、そう思ってた矢先にサリーマさんの悲鳴じみた声が聞こえ
た。
﹁よ⋮⋮鎧蟻の⋮⋮魔王種?! 女王蟻なのかコレ!﹂
地響きとともに現れたのは小山かと見紛う巨大な女王蟻だった、
あまりの巨体に移動するだけで地面が揺れる規格外さだ。しかし魔
214
物の蟻であっても、基本的に女王蟻は巣から動かないはず。それで
も目の前で自ら動いて襲って来てるのは魔王種だからだろうか? それとも別の理由が?
いや、考えてる暇はない、一刻も早くこのデカブツを始末しなけ
ればならない。最低でもゴーレム馬車に乗ってる俺とオリヴィア、
ディアーネ、ルーフェイ姫は逃げられるとしても、サリーマさんを
・・・・・・・・・
はじめ2000人の傭兵達と姫様の護衛は助からない。
・・・・・・・・・
なぜならば、この女王蟻は⋮⋮卵を産むかのように自らの腹から
成虫を生み出してるのだから。あっという間に倒した数の倍ほどの
蟻が産み出され、襲いかかってくる。
﹁なんだありゃ⋮⋮ありえねぇよ⋮⋮ありえねぇ⋮⋮﹂
弱々しい震え声聞こえた、馬車の近くにいるのは牛の角が生えた
巨漢の戦士で姫の護衛の一人だ。剣を落として呆然としている、見
れば周囲の傭兵たちも似たような状況に陥ってる。
﹁荷物を捨てろぉぉぉぉぉ! 馬に乗れ! ひたすら逃げろ! 自
分が助かることだけ考えるんだぁぁぁぁぁ!﹂
サリーマさんの焦った声、確かに的確な判断なんだろうが、魔王
が出現したあとでは遅かった。馬は既に恐慌状態で人の指示を受け
付けないだろう。
︱︱︱ギチギチギチギチギチギチ⋮⋮ガリガリガリガリガリ⋮⋮
鎧蟻の攻勢がいきなり強くなる、森を見ると蟻どもは焼死した仲
間の死骸を乗り越えて殺到して来るのだ。魔王種の出現に浮き足立
215
った傭兵たちは、ギリギリでサリーマさんの声で我に返り、我先と
逃げ出している。
雲霞の如く押し寄せる鎧蟻の群れ、歩みは遅くても着実に少しず
つ距離を詰めてくる。
馬車の中にいる嫁二人は、思ったよりも静かだ。俺を信じてくれ
ているのか、手を組み祈りを捧げている。姫は混乱するかと思った
が意外と気丈だ、震えながらもオリヴィアたちと同じく、一心に祈
ってる。
さて、嫁の期待に応えるのも男の甲斐性、俺の傍は世界一安心で
きる場所なのだと教えてやろう。
俺の手から溢れ出す闇が女王蟻を中心に漂う。痛みを意に介さな
い昆虫型の魔物だが感覚が無いわけではない、一定程度の痛みは遮
断できるのだと言われているが、まぁその辺の屁理屈はどうでもい
い。
要するにこいつらは﹃ある一定以上の痛みを経験したことがない﹄
のだ、とは言え普通に激痛を与える魔法を放っても、雑魚はショッ
ク死させられるが魔王種には通じないだろう。
ではどうするのか? 闇の魔法は精神に干渉する術、俺の放つ闇
は鎧蟻の群れの﹃感覚をリンクさせる﹄元々自我が薄く群体として
の性質のある蟻の魔物だ、ほとんど抵抗なく感覚のリンクを受け入
れる。
司令塔としての役割のある女王蟻も、生態として自分の産んだ配
下と意識がうっすらと繋がっているらしいので、繋がりの強化を抵
216
抗なく受け入れてしまう。
﹁すまない、ちゃんと供養するからな﹂
そして周囲に漂う闇を、近くで喰われかけて半死半生の馬達とも
繋げ⋮⋮電撃を放ち馬にトドメを刺す、その数10頭。生き物がシ
ョック死するほどの激痛、単純に考えてその十倍の衝撃を、群れ全
てで等しく喰らった鎧蟻はその場で痙攣し息絶える。
そして死亡した鎧蟻、感覚を繋いだ感触でその数およそ1万⋮⋮
その全てが味わった激痛を押し付けられた女王蟻は、一瞬震えたか
と思うと動かなくなった。
あの繁殖能力で配下の蟻が1万って事はないだろう、恐らく蟻ら
しく広域に広がり餌を集めてるんじゃないだろうか?
周囲の人間には見えないように、周囲を漂う死んだ蟻の怨念を集
める。昆虫に感情はないが、痛みにより死んだことでそれなりに集
まる。そしてやはりと言うべきか魔王種の怨念は凄まじく、俺です
ら持て余しそうだ。
まじな
怨念を呪いとして、俺のいる場を基点として弱く期限が短い代わ
りにとにかく広域に、ただただ広大な魔物払いを構築する。
∼∼∼∼∼サリーマ視点∼∼∼∼∼
217
魔王種が地響きを立てて倒れた瞬間、一瞬とは言えアタシは不覚
にも頭が真っ白になっちまった。だってそうだろう? ほんの数秒
前に部下たちを逃がす為、命を捨てる覚悟を決めたところだったん
だよ。
﹁怪我人はいないか? 無傷か軽傷くらいの奴は逃げた馬を探して
きてくれ﹂
﹁⋮⋮はっ! お前ら! いつまでボケてんだい!﹂
危ない危ない、部下は馬鹿ばっかりだから、アタシがしっかりし
ないとね。運が良かったのは鎧蟻共は人間を無視して、馬を優先的
に狙ったことだね、お陰で部下に怪我人はいても死人は出なかった。
それにしても魔王種か⋮⋮鎧蟻の魔王種と言えばリーテンブ帝国
の片隅に300年前から君臨する﹃鋼蟻帝パラポネス﹄のはず。な
んでここまでやって来たのかね? 魔物が縄張りを移動するのは餌
が無くなったか、もっと強い奴に追い出されたってパターンが多い
が、流石に300年生きた魔王種なのだし前者だろうか?
確か歴史上帝国にも何人か勇者が誕生していて、彼らが軍勢を率
いて討伐に挑んでも、パラポネスの打倒は叶わなかった筈。そんな
ことを帝国出身の奴に寝物語に聞いたことがある。
まぁアタシはあんまり頭が良くないからね、考えたって仕方がな
い。まして既に倒されてる奴の事よりも、仕事に集中した方が建設
的ってもんだ。
﹁蟻の素材は帰り道で回収するよ、放っておいても硬すぎて食われ
る心配もないし、多すぎて持ち逃げされても問題ない。とりあえず
218
馬車が通れるように退かしな﹂
何人かは解体作業しようとしてたが、アタシの声に慌てて蟻ども
を運び出す。
﹁蟻なんて何に使うんだ? 食うのか?﹂
アタシは食いたくないねぇ、魔王種をぶっ倒した命の恩人様は、
妙にピントのずれた事を言ってらっしゃる。
﹁鎧蟻の外殻は鉄と混ぜると重さはそのままで、強度が跳ね上がる
んだよ。魔鋼と呼ばれる金属になってね、頑丈なだけでなく魔法へ
の抵抗力がそれなりに高いから、鎧や盾の素材に最適なのさ﹂
成長した個体ほど抵抗力が高くなるから、成虫がこんなにいるの
はまるで宝の山だね。まして魔王の素材ともなれば、強度はもとよ
り魔法を一切無効化してもおかしくない⋮⋮ちょっとだけ魔王の素
材を分けて貰おう。
こんだけあると魔鋼製の金属鎧が何百人分、いや何千人分作れる
かねぇ? 手下どもに装備させれば戦場で生き延びれる確率が⋮⋮
おっと、今はそんなこと考えてる時じゃないよ。大体倒したのはク
リス殿だしね。
﹁アタシ達は被害の確認したあとで野営の準備をするから、クリス
殿は魔王の魔核だけでも回収したらどうだい?﹂
﹁収納空間に収めて後で誰かにやってもらうよ、虫とか触りたくな
いし、まして女王蟻って気持ち悪いだろ﹂
219
確かにあのブヨブヨの腹は触りたくないねぇ、とは言え魔王を倒
した勇者様をこき使うのも気が引けるし、嫁さんたちと休んでても
らうかね? ん、アレは⋮⋮
﹁それじゃ怖い思いをしたお嬢様方を慰めてやりなよ﹂
馬車の窓からこちらを遠慮がちに覗う、ルーフェイ姫様が見えた
がまぁなんというか。襲撃前はチラチラ気になる男を見てるだけだ
ったものが、完全に恋する乙女そのものになってるねぇ。アタシに
もあんな頃が⋮⋮無いな、アタシがガキの頃は食うに困ってかっぱ
らいか、喧嘩くらいしか記憶にないね。
﹁もうちょい進んだ先で野営するよ、手の空いた奴は準備を始めな。
今日は魔王をぶっ倒す現場に居合わせたお祝いだ。ちょいと豪勢に
いこうじゃないか﹂
忙しく動いてるうちに立ち直れたのだろう、アタシの指示に威勢
良く返事が返ってくる。ただ中には酒を出そうとしてる奴らがいた
ので殴っておいた、護衛任務中に酒を飲ますわけねぇだろこの馬鹿
共。
∼∼∼∼∼クリス視点∼∼∼∼∼
魔王種討伐の後から、徐々にルーフェイ姫のスキンシップが増え
てきて困っている、主に下半身的な理由で。
220
道中に隙あらばニコニコと、頬を赤らめながら腕や腰に抱きつい
てくるのは、まぁ妹に懐かれたみたいで微笑ましい。しかし、膨ら
みかけの胸を押し付けられるとなると、どうしても女として意識し
てしまう、後は親愛の証しとか言って、指とか顔とかペロッと舐め
るのは止めてほしい。いけないと思いつつ興奮してしまった自分が
恨めしい。
その分のムラムラは夜にオリヴィア達に解消してもらうことにし
よう、俺たちが寝る馬車の周囲には、魔物払いはもちろん、獣払い、
虫払い、人払いの術を幾重にも施しているので覗かれる心配もない。
まぁ王族クラスが身に付ける、精神干渉を無効化する装備品でもあ
れば別だが、持ってそうなルーフェイ姫が馬車から抜け出して覗き
とかするわけないしな。
︱︱︱クチャ クチャ クチャ
今日は馬車の中ではなく、野外でセックスする事にした。オリヴ
ィアの初体験の話になってディアーネが自分もと言い出したからだ。
﹁んむっんっんっんっ⋮⋮﹂
出
﹁ぺチャぺチャ⋮⋮ふふ毎晩私たちの膣内に何度も射精してくださ
ってるのに、今夜は一段と逞しいですわ﹂
微かな光源のみの暗い森の中で、妻二人から奉仕を受けている。
今日は屋外ということでドレス姿のまま、俺の前に跪き懸命にフェ
ラチオをしてくれる。
﹁俺はお前たちに夢中だからな、こうしてエロい姿を見せてくれる
だけで、何度でも滾っちまう﹂
221
俺に奉仕をしてくれる二人の、手触りのいい髪を撫でる。嬉しそ
うに上目遣いで俺を見るのが堪らない。
︱︱︱クチャ クチャ クチュ クチュ
魔術により小虫一匹に至るまで追い払った森は、微かな葉擦れの
音しかせず、不気味なほどに静かだ。そんな中で俺の逸物にフェラ
チオする淫らな水音だけが響く。
﹁んちゅ⋮⋮はっはっはっ⋮⋮クリス様ぁどうぞいつでもお出しく
ださい﹂
﹁ちゅぽちゅぽ⋮⋮んんんっ⋮⋮﹂
俺の肉棒を口に含むオリヴィアが、蕩けた目で俺を見る。どうや
出
らこのまま出して欲しいようだな、オリヴィアはセックスするとき
は俺の意向を最優先にするのだが、どうも口の中に射精されるのが
結構好きなようだ。
﹁出すぞ、俺のザーメンを口の中にな﹂
オリヴィアの頭を両手で掴むと、口淫のペースが上がる。オリヴ
ィアのような絶世の美少女が俺の腰にしがみつき、必死にフェラチ
オに励む姿だけでもイってしまいそうだ。
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ⋮⋮
ふぅ⋮⋮射精した逸物から口を離し、ザーメンを飲み干すオリヴ
ィア。ディアーネは尿道に舌先を這わせ、残りの精液を舐めとって
222
いく。イったばかりだと言うのに、ディアーネの舌によって再び昂
ぶってしまう。
﹁二人共、木に手をついてお尻をこっちに向けるんだ﹂
二人はドレスのスカートをたくし上げ、並んでお尻と性器を晒す。
ふふっ揃って下着を履いてないあたり、俺の好みが分かってるな二
人共。
﹁昨日はオリヴィアが先だったから、今日はディアーネから挿れる
よ﹂
人払いをかけた森の中、ぼんやりとした光源しかない暗闇の中で、
白く瑞々しいお尻と、俺の指で蜜穴から溢れる愛液がより官能を刺
激する。
﹁嬉しい⋮⋮ディアーネにクリス様の大きくて逞しいオチンチンを
くださいませ﹂
形のいいお尻を突き出し、挿れ易い体勢で俺に潤んだ瞳を向ける
ディアーネ。既に最大まで勃起した俺の逸物を挿入すると柔らかく、
時に締め付けながら迎え入れてくれる。
﹁んはぁ! あっあっあっ⋮⋮クリス様たら⋮⋮んっはぁ⋮⋮道中
お姫様とばっかり仲良くして⋮⋮くぅっ!﹂
最初だから激しくは腰を打ちつけず、ゆっくりとディアーネの膣
内の感触を楽しみながら挿入を繰り返す。同時にオリヴィアも指で
イカせるように、敏感な秘所を愛撫する。
223
﹁あんっやぁ旦那さまぁ⋮⋮だ、だめぇあっはぁぁん! 指だけじ
ゃ切ないのぉ、お願いですぅ旦那様のオチンチンでイカせてくださ
いませ﹂
オリヴィアも指だけじゃ物足りないのか、お尻を突き出し挿入を
ねだってくる。ふふ、極上の美少女二人がお尻を振って誘ってくる
様は最高だ。服を着たままエッチするのも新鮮で良い、全裸とは違
ったエロさがある。
﹁オリヴィアのおねだりなら叶えてあげたいけど、もうちょっと待
ってるんだ、ディアーネをイカせたら、すぐ挿れてあげるからね﹂
︱︱︱パンパンパンパン ズチャズチャグチュグチュ
もはやお漏らしをしたかのように溢れ出すディアーネの愛液を、
俺の逸物で混ぜあわせる卑猥な音が夜の森に響く⋮⋮
∼∼∼∼∼ルーフェイ視点∼∼∼∼∼
﹁あっあっあっご主人様のオチンチンがぁぁ、当たってます、子宮
に当たってるのぉぉ﹂
ああ、道中お話してる時は妖艶で大人の魅力があるディアーネ様
が、あんなはしたない声を上げるなんて⋮⋮クリス様も恍惚とした
表情をされてます。
224
︱︱︱パンパンパンパン
お股とお尻をぶつけ合う音が隠れている私にまで聞こえます。私
はディアーネ様を自分に置き換え、あんな⋮⋮あんな事をクリス様
が私に⋮⋮ディアーネ様のように⋮⋮
︱︱︱ジュン⋮⋮たらぁぁ
やだ、またお股からお小水が⋮⋮でも大丈夫です、全く同じ柄の
下着と拭くためのタオルを用意してます。バレないように下着は履
かないつもりでしたが、いざ外に出るとスースーして落ち着かない
ので仕方ありません。
﹁ふぁあ⋮⋮気持ちいいっ! 気持ちいいですぅ⋮⋮あっあっあぁ
ぁぁぁ! ご主人様は私たちに夢中と仰いましたが⋮⋮私も、私と
オリヴィアも⋮⋮もうご主人様に夢中ですわ。好き! 好きです!
ご主人様愛してます﹂
﹁はぁはぁはぁ⋮⋮﹂
何故でしょう息が荒くなります、ディアーネ様のクリス様への想
いに胸が痛むような⋮⋮試しにおっぱいを撫でてみるとビクンって
しちゃいました。
身体が熱くて、頭がクラクラします。虫に刺されたり草木で引っ
掻けたりしないようにと長袖のカーディガンを着てきましたが、我
慢できず脱いでしまいます。
確かに最近少しずつ大きくなってる私の胸ですが、夜風に晒され
た乳首がおっきくなっちゃってるのです! お風呂で触った時はこ
225
んな事にはならなかったのに⋮⋮試しにもう一度自分の胸に触ると
⋮⋮
︱︱︱ビクンッ ビクッ たらぁぁ
﹁ンンッ! ん∼∼∼∼∼ッッッ!﹂
なんなのですかこの感覚は、わふぅ⋮⋮おっぱいを弄るのを止め
られないのです! やだ! お小水がまた出ちゃいました、なんて
はしたない。私はタオルで妙に粘性のあるお小水を拭き取り、お股
も拭くと⋮⋮
﹁あぁぁぁ! 一緒にぃ⋮⋮一緒にイキます! ご主人様の子種を
子宮に注がれてイっちゃいますぅぅぅ﹂
︱︱︱ビクッ ビクビクビクゥゥゥ!! ディアーネ様の悲鳴のような声に驚き、雷に打たれたような衝撃
が私の体を走ります! あ、足元がガクガクです、お股からお小水
が止まりません!
﹁はぁはぁはぁはぁ⋮⋮﹂
呼吸を整え再びクリス様に目を向けると、今度はオリヴィア様が
ディアーネ様と同じ体勢でお尻とお股をぶつけてます。違うのはク
リス様がオリヴィア様のおっぱいを撫でてることです。
﹁はぁぁん! やぁぁそんなに気持ちよくされたら、すぐにイっち
ゃいます! 散々焦らされたから⋮⋮んっんっんあぁぁぁ!!﹂
226
清楚で穏やかなオリヴィア様が、まるで別人のように悶えてます。
そ、そんなに今されてる行為は凄いのでしょうか?
無意識にお股に手が伸びてしまいます、先ほどの衝撃を忘れたわ
けではありませんが⋮⋮何故でしょうお股が切ないです。触ってる
だけでジンジンするのです。
気がつくと、お小水の出るところを指で撫でて、擦って、弄るの
が止められません。オリヴィア様がされてる行為が自分だったらと
想像すると、ますますお小水が溢れてきます。
﹁くぅん⋮⋮くぅん⋮⋮切ないです⋮⋮はぁはぁはぁクリス様⋮⋮
クリス様ぁ⋮⋮ルーフェイは⋮⋮ルーフェイは⋮⋮くぅんくぅん⋮
⋮﹂
お股を弄る手が止まりません、胸も切なくて揉むとまた衝撃が全
身を走ります。
﹁あっあっあっ⋮⋮だ、出して下さるんですか! 旦那様のオチン
チンでわたくしをッ⋮⋮イカせてくださいぃぃ! 赤ちゃんできち
ゃう! 旦那様のオチンチンで孕んじゃうのォォ﹂
子供⋮⋮毎晩の行為は子供を作るためなのですか! 一瞬私は想
像してしまいます。赤ん坊を抱く私、微笑みながら肩を抱いて寄り
添って下さるクリス様⋮⋮
︱︱︱ビクビクビクゥゥゥ!!
﹁ふぅふぅ⋮⋮はぁはぁ⋮⋮﹂
227
今までとは比較にならない衝撃に、思わず座り込んでしまいます。
あぁドレスまでお小水で汚れてしまいました。私は一体どうしてし
まったのでしょう? ま、まさか病気になってしまったとか? 病
身では嫁ぐなんてできません⋮⋮こうしてはいられません、本国と
魔法で連絡のできる大臣のフォクシーに相談して、お父様に頼んで
お医者様を手配して貰いませんと。
私は森の中で子供を作ってるクリス様達に気付かれないように、
馬車に戻ります。勿論途中で汚れた下着とタオルは草むらに捨てま
した。それにしても馬車に戻るまでの間護衛の方がいらっしゃらな
いのはどうしてかしら?
228
萌芽︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがございました。
覗きに気づかない主人公ですが、暗くてほとんど見えない、自分の
結界に自信がある、姫様が夜に馬車から抜け出すなんて考えてない、
あと全神経を嫁に集中してるので気付けてませんでした。
それはそうと相談された大臣も報告を受けたルーフェイパパもどう
答えていいか分からんでしょうなw
229
狼の嫁入り
街を発って一週間、俺たちは西の海岸、船の隠し場所まで辿りつ
いた。いかにも海の男といった格好をしたバリエーション豊富な獣
人族、魚人族、鳥人族などが、馬車から下ろした食料を積み込んで
いる。
手伝おうかと思ったが、偉い人から招待された。ルーフェイ姫が
案内してくれて俺とサリーマさん、マヘンドラさん、オリヴィア、
ディアーネは海辺に設置された東屋で歓待を受けていた。景色も良
いし、海からの風は心地いい、姫様自ら注いでくれたお酒は、俺の
ような飲み慣れてない若造でも分かるくらい美味い。
もてな
客人を饗そうという、さりげない気遣いが感じられる。流石は一
国を代表するだけのことはある、と感心するばかりである⋮⋮歓待
は素晴らしいんだ。
﹁ぬおぉぉぉぉぉ! コレがっ! コレが魔王種の持つ魔核である
かぁぁぁっ! なんたる純度! そして輝き! 我は感動に言葉を
失うばかりであぁぁぁる!﹂
失ってねーよ⋮⋮多分その場にいる全員の心が一つになったかも
しれない。どうしたものかと周囲を見渡すと、サリーさんとマヘン
ドラさんは隠してあった船の全てを纏めてるという、青い鱗の生え
た巨漢のウィリーさん︱︱︱クレイターの海軍提督だそうだ︱︱︱
と何やら話し込んでる。
オリヴィアとディアーネは男の話には口を出さないのが、淑女の
230
常識と言わんばかりに俺の後ろでルーフェイ姫と楽しそうにお喋り
している。
元々俺がご指名で呼ばれたんだから、俺が相手しないといけない
のは分かってるんだけど⋮⋮ちょっと苦手なタイプである。
﹁大儀であぁぁる! 大事な両国の交易の第一歩に、このクレイタ
ー諸島連合王国国王オベローン・ルーガンが立ち会うべく飛んで参
った甲斐があるのであぁぁる!﹂
どういう応対すれば良いんだこの場合? しかし随分とフットワ
ーク軽いな王様、ウロコの生えた船長さんもなんかやりにくそうに
してるし。サリーマさんも露骨に避けてる。
オベローン王は鳥人族で背中に立派な翼を持つ偉丈夫だ、普通鳥
人族は空を飛ぶために脂肪や筋肉が付きにくい体質らしいのだけど、
この王様は背が高く筋骨隆々な上に強面で実に迫力がある。正直ル
ーフェイ姫と血の繋がりを疑ったが﹁お父様! 私頑張りました!﹂
とか言って、ルーフェイ姫が尻尾を振りつつ抱きついたから父親に
間違いないのだろう。
﹁大儀であった﹂とか言いつつ頭を撫でてるんだけど、強面なの
が悪いのか、微笑んでるつもりだろうけど獰猛な捕食者の笑みにし
か見えない。
東屋からは交易品が次々に船に運び込まれる様子がよく分かる、
娘を撫でつつその様子を見る王様の口元は歪んでる。悪巧みしてそ
うに見えるんだが、姫様曰く、あれで機嫌が良い時の笑顔なんだそ
うだ。
231
なんでも狐の大臣さんが魔法で道中の事を随時連絡してたらしく、
笑顔で俺に護衛の礼を言ってきた。殺気がないのはわかるけど怖い
っす王様。
﹁魔王種討伐大儀である、まさに勇者の名に相応しき偉業であると、
このクレイター諸島連合王国国王オベローン・ルーガンが宣言する
!﹂
﹁お、恐れ入ります⋮⋮﹂
一応オリヴィアの指導で敬語での会話を練習してるんだけど、さ
すがに王様相手には焦ってしまい、うまく言葉が出てこない。
﹁うむ、我は瑣末な言葉遣いなど気に止めぬ、気を楽にして話すが
いい。それで勇者殿よ、是非この魔核を譲っていただきたい﹂
王様の頼みって口調がマイルドなだけの命令だよね、まぁ貫禄と
いうか威厳のせいなのか、上から目線が自然すぎてあっさり頷いて
しまう。
狐の大臣さんが連絡を取ったところ、どんな対価でも支払うから
魔核を譲って欲しいと打診された。それで道中魔王種の解体をした
ら、なんと巨大蟻の体内には3つの魔核が存在していたので、その
内の一つを王様に見せたところ、いきなり大声で魔核を調べ出した
というわけだ。
﹁なんとありがたい! 勇者殿は我が国の恩人であるな。では魔核
その代わりと言ってはなんだが⋮⋮おお、そうだ名案が浮かんだぞ
! 我が娘ルーフェイを嫁がせようではないか!﹂
232
﹁お、お父様っ!﹂
いきなりとんでもない事を言い出した王様。あとルーフェイ姫は
嬉しそうだな、顔を真っ赤にして尻尾をパタパタと、喜びを全身で
表現してるかのようだ。姫が俺に好意を抱いてるのはなんとなく察
してるし、可愛いと思ってはいるんだが⋮⋮
﹁⋮⋮王様、俺はそういうのは気に入らないな﹂
﹁ク、クリス様! わ、私じゃダメですか?!﹂
否定されるとは思わなかったのかルーフェイ姫はギュッとスカー
トの裾を掴んで、必死に涙をこらえている。その姿に言葉が足りて
なかったのに気がつき、つい慌てて頭を撫でで宥める。
﹁違うぞ、ルーフェイ姫がダメなんて思ってないからな。姫のこと
は可愛いと思ってるし好きだから、泣かないでくれ、な?﹂
なかなか泣き止まないので、今度は抱きしめて背中をポンポンと
撫でる。そうしているうちに何とか泣き止んでくれた。勘弁してく
れ女の子に泣かれるなんて、俺が一方的に悪者じゃないか。
ん? 抱きしめつつこのセリフってまるで告白のような⋮⋮なん
か姫のシュンと垂れ下がってた尻尾が、かつてないほどの高速でブ
ンブン振られてる。
﹁⋮⋮はい⋮⋮私も⋮⋮クリス様の事好きです⋮⋮大好きです﹂
あの? 姫様? そのセリフはちょっと拙くないか? 王様に誤
解されちゃうよ? 背後のオリヴィアとディアーネは微笑ましそう
233
にこっちも見てるし、王様に至ってはニヤニヤと楽しそうだ。
とりあえず咳払いをしたあと、足りてなかった言葉を言い直す。
その前に姫様よ、俺の腰に抱きついて幸せそうに頬を擦り付けるの
は止めようか、淑女がはしたないぞ。
﹁なぁ王様、俺としては3つもあるんだから魔核を1つ譲るくらい
構わないんだが、モノでの取引で嫁を貰うなんてのは気に入らない
な。大体魔王だなんだと大層な魔物でも、所詮デカい虫から採れた
モノなんてルーフェイ姫と釣り合うわけがないだろう﹂
﹁むぅぅぅぅん! 勇者殿の心意気は誠に天晴であぁぁぁる! 確
かに互い憎からず想ってる二人が結ばれるのに、斯様な建前は不要
である! ルーフェイのことは勇者殿に任せたぁぁぁ! 我が娘を
頼むぞ﹂
王様ちょっと待って、色々手順すっ飛ばしすぎだ! しかし嫁二
人はなんかニコニコしてルーフェイ姫と挨拶を交わしてる、あれ?
既に決定してるの? って言うか建前だったの?
後で聞いたら、定期連絡の時点で俺に懐きまくってる姫の様子を
聞き、王様は俺に嫁がせる気だったらしい。
﹁では魔核の件であるが、譲ってくれるのであれば、今後マーニュ
王国との国交において、魔核に見合う対価を払おうではないか。そ
れとは別に勇者殿⋮⋮否ぁぁぁ! 婿殿には我が持つ宝を差し出そ
うではないか!﹂
ああ、既に婿殿呼ばわりか、王様がノリ気だし断れない。まぁ姫
様は可愛いし甘えてくる娘だから、既に絆されてる自覚はある。チ
234
ラリと嫁二人を見ると反対する気は無さそうだ。
﹁近いうちに婿殿の主君たる辺境伯殿の元へ飛んで向かうのである
! その時に宝を渡そう、楽しみにしてるが良いぞ! ハーッハッ
ハッハ!﹂
言うだけ言ったら翼を広げ、飛んで帰っていった。本国まで船で
丸1日の距離らしいが、ソレを30分ほどで帰れるそうだ。今更だ
けどお供の人とか、居なくていいのか王様⋮⋮ ∼∼∼∼∼帰り道∼∼∼∼∼
取引が終わり、途中で鎧蟻の素材を拾って帰るというサリーマさ
ん達とは別に、俺たちゴーレム馬車で疾走していた。全力を出せば
今日の夜には街に帰れるがルーフェイもいるし、無理して進むこと
もないだろう。
そのルーフェイだが馬車の中でオリヴィア達と話している、その
内容は俺には聞かせてもらえないので、大人しく御者代でゴーレム
馬を操作している。
断片的に聞こえるのはやや高めで響くルーフェイの声、どうもオ
リヴィア姉さま、ディアーネ姉さまと呼び方が変わってる。そう言
えば複数の嫁さんがいる場合、姉妹として扱うんだっけ。
235
馬車を走らせてるうちに日が傾いていたので、周囲に術を施す。
その間に嫁達は食事の用意を始める。
家事なんてした事のないオリヴィアだが、この一週間の間に慣れ
たのか、テキパキと折りたたみ式のテーブルと椅子を設置し、周囲
が暗くなるので火を焚き、虫除けの香草を焚き火に焼べる。野営の
手ほどきはサリーマさん直伝で、元々頭が良い彼女はコツを掴めば
上達は早かった
ディアーネは貴族令嬢にも関わらず家事全般を高水準でこなせる
ので、簡易の携帯食に手を加え皿に盛り付けてくれる。彩り豊かで
実に美味しそうだ。
ルーフェイはというと、不器用ながら一通りは家事が出来るらし
くディアーネを手伝っている。アタフタと危なっかしい場面でもデ
ィアーネにフォローされて、なんとかなってるのを見ると、仲の良
い姉妹を見てるかのようで微笑ましい。
俺はというと、魔物払いの構築が終われば風呂の設置だ。馬車か
ら少し離れた場所に、頑丈かつ柔軟で撥水性のある魔獣の皮ででき
アイテムボックス
たカーペットを敷き、その上に3∼4人は余裕で入れる大きさの浴
槽を収納空間から取り出す。水の魔法で浴槽を満たし、水の中に手
を突っ込み火炎魔法を発動させればお風呂完成である。
さて風呂の用意ができたしメシにするか。今は他人の目がないの
で存分にイチャイチャするとしよう。
236
∼∼∼∼∼ルーフェイ視点∼∼∼∼∼
楽しい夕食を終え、お片付けを済ませたら、クリス様が用意して
くださったお風呂に入るのです。道中では護衛の皆に守られながら、
一番最初に入浴させていただきましたが、今夜からはお姉様たちと
一緒にお風呂です。
クリス様は家長であり一番偉いので当然最初にお風呂に入り、私
たちが体を洗い終わるまで馬車の中で待っててくださいます。いつ
もでしたら一緒に入浴なさるのですが、私の準備に色々時間がかか
るということで、今夜は別々にお風呂です。ちょっと残念です、ク
リス様のお背中を流してさしあげたかったのですが。
﹁良いですか? 旦那様と肌を合わせるのですから、最低限清潔で
なくてはなりません。肌だけでなくお口の中もですよ﹂
﹁ひゃぁい、わ、わはりまひあ∼∼︵はい、分かりました︶﹂
ううう、スースーするお薬で口をゆすいだ後、小さなブラシでお
口の中をゴシゴシされてます。オリヴィア姉さまは優しく磨いて下
さるので痛くはなく、むしろ気持ちいいです。
私は夫となる殿方から言われた事に、なんでも従うように教わり
ましたが、このようなマナーは教わってません、流石お姉様たちは
博識です。
﹁こらルーちゃん、尻尾を動かさないで、洗いにくいわ﹂
237
あわわ、申し訳ございませんディアーネ姉さま、お口ゴシゴシが
気持ちよくてつい。
私は柔らかいカーペットの上で、ディアーネ姉さまに、花の香り
がする泡で洗ってもらってます。わふぅ、それにしてもお姉様方は
おっぱいが大きです、私も成長すればこのくらいの大きさになるの
でしょうか?
﹁お口はこれで良し、手足の爪はちゃんとしてるわね﹂
お姉様たちとゆっくり温まったあと、クリス様の待ってる馬車に
向かいます。そこで毎晩お姉様たちにしていた事をされるのですね。
ドキドキです。
∼∼∼∼∼クリス視点∼∼∼∼∼
馬車の中で待っていると、ルーフェイが遠慮がちに入ってきた。
今夜はルーフェイの初夜ということで、今夜は二人だけで一夜を過
ごすとオリヴィア達と決めていた。ちなみに二人は結構高級なテン
トで休む事になってる、軍の将官が野営に使う高級品だそうだ。
バスローブ姿でもじもじと恥ずかしそうにしているルーフェイは、
可愛いし好きなのは確かなんだが、果たしてその気になるのだろう
か? そもそも彼女は受け入れられるのだろうか? 無理なような
らもう少し身体が成長するまで待つしかない⋮⋮そんな風に思って
いたが。
238
﹁クリス様⋮⋮その至らぬところはございますが。誠心誠意、妻と
して仕えさせていただきます﹂
普段の子供っぽいところはどこに行ったのか、風呂上りだからな
のか、それとも別の理由か。頬を染めつつ真っ直ぐ俺を見るルーフ
ェイの姿は女としての色気を孕んでいた。
︱︱︱ドサッ
馬車のソファは大きくベッドとして充分使えるものだ、道中に何
度も嫁達を抱いたこのソファに、いまだ未成熟なルーフェイを押し
倒し唇を奪う。
﹁んっ⋮⋮んむぅ⋮⋮チュチュ﹂
いきなりで驚いたようだが、キスすること自体には抵抗はないよ
うで、両手を俺の首に回し、俺のされるがままに受け入れている。
唇を離すと今度は嬉しそうに顔や首筋に舌先を這わしてくる。人狼
族固有の親愛表現なのは分かってるのだけど、これはこれで気持ち
がいい。
﹁可愛いよルーフェイ、いきなりの結婚だったけど俺の嫁になった
以上は⋮⋮幸せにするからな﹂
﹁は、はい! クリス様、私今とっても幸せです⋮⋮そ、それであ
の⋮⋮私にもオリヴィア姉様達にしたような事をするのですか?﹂
ふふっ真っ赤になって本当に可愛い、挿入する前にたっぷりと蕩
かして⋮⋮なんか今の言葉引っかかるな?
239
﹁オリヴィア達にした事ってどんなことかな? 言ってみな﹂
これがお風呂に入ってる間に、エッチのレクチャーを受けたとか
言うのなら、何の問題もないんだけど。
﹁はいっ昨晩の森の中とか、真っ暗な中の馬車の中とか。お股とお
股をぶつけ合うと、とっても姉様達は嬉しそうでした!﹂
﹁⋮⋮見てた?﹂
なぜか目をキラキラと輝かせ、頷くルーフェイ。たまたま夜風に
当たろうと馬車の外に出た時に偶然見かけてしまい、それ以降毎晩
だそうだ。
﹁私夜目が利きますし、耳も良いのでバッチリでした。それで赤ち
ゃんを授かる行為と聞きまして⋮⋮むぎゅぅ!﹂
とりあえずキスで口を塞ぐ、そうか覗きか⋮⋮しかも毎晩となる
と、お仕置きしないとな。しかし初夜に酷い事はしたくないし⋮⋮
﹁夫婦の秘め事を覗くとはルーフェイは悪い子だったのか。これが
オリヴィア達にバレたら怒られるな﹂
﹁はぅ! お、怒られちゃうのですか?!﹂
オリヴィアが怒るところは想像がつかないけど、説教くらいはし
そうだし。ディアーネもお尻ペンペンくらいはするんじゃないだろ
うか? 俺がそう伝えると気の毒なくらい怯えだした。箱入りな上
に基本的に良い子だから怒られ慣れてないのかね。
240
﹁そうだな、可愛いルーフェイが怒られるのも可哀想だし。ここは
俺達だけの秘密って事にしておこう﹂
怯えていたのが一転、満面の笑みを浮かべる、表情がコロコロと
変わって面白い。
﹁その代わり⋮⋮そうだな覗いていて何か身体が変にならなかった
か?﹂
﹁ふぇ! じ、実は⋮⋮私お股からお小水が溢れて⋮⋮濡れたのを
拭こうとしたら身体中がビクッってしました⋮⋮おっぱいを触って
も同じように⋮⋮﹂
まさかとは思うが⋮⋮いやこれまでの話からすると、この娘って
性知識ゼロか?
﹁そうか、それじゃ黙っててあげる代わりに、裸になってビクッと
した時にどうやったのかやってみてくれ﹂
﹁は⋮⋮はい⋮⋮﹂
流石に裸になるのは恥ずかしいのか、顔を赤くしつつも言われた
通りにバスローブの紐を解き、ソファに座った俺の前に立ちその未
成熟な裸体を晒す。陰毛の一切見えないルーフェイの割れ目からは
既に愛液が溢れ、真っ白な太ももから滴り落ちていた。
からかうのも可哀想だし、そのまま続きを促すと、躊躇いがちに
伸ばした指で性器を弄り出す。そしてもう一方の手で膨らみかけて
いる胸へと伸ばす。
241
﹁はぅ! くぅん⋮⋮くぅん⋮⋮や、やだ、また⋮⋮またお股が切
なくなっちゃいます⋮⋮ルーフェイは変じゃないですか? 相談し
たら変じゃないって言われましたけど⋮⋮ク、クリス様のことを考
えると⋮⋮くぅんくぅん⋮⋮切なくなっちゃうのです﹂
辿々しい手つきで、性器と胸を弄るルーフェイの表情は本人に自
覚はなくても、完全にメスのソレだ。
﹁ンンンンッ! 切ないのです、あっあっ指が止まらないのぉ、ど
んどん切ないのが止まらないのです﹂
微かな明かりだけの薄暗い馬車の中、未成熟な体つきの少女が裸
で立ったまま、俺の目の前でオナニーをする姿に、今まで感じたこ
とのない興奮を感じる。ズボンの中の逸物は膨れ上がり痛いくらい
だ。
﹁くぅんくぅん⋮⋮変です、ルーフェイは⋮⋮ルーフェイは⋮⋮あ
っあっあぁぁぁぁん!!﹂
一際大きな嬌声と同時に一瞬硬直する。どうやらイったようだ、
息を荒くしている。オナニーの最中は俺から意識を逸らさなかった
が、今は少し朦朧としている。その間に俺も服を脱ぎ、ルーフェイ
をソファに押し倒す。
﹁はぁはぁはぁ⋮⋮クリス様⋮⋮﹂
﹁ルーフェイは変なんかじゃないよ、アレは好きな人の事を想って
エッチな気分になると、誰だってああなるんだよ﹂
242
俺は優しく、啄むようなキスをしながら彼女が安心するように説
明する。
﹁は、はいクリス様の事を考えると⋮⋮いつも切なくなっちゃうの
です﹂
潤んだ目で俺を見る彼女は、﹃女の子﹄ではなく﹃女﹄の顔をし
ていた。もう我慢できない、最大まで滾ったチンポに彼女の愛液を
擦り付ける。その際に俺のチンポがクリトリスを刺激し、彼女の身
体は強ばる。
﹁ルーフェイ、今からお前を孕ませる。痛みが鈍化するように術を
かけるが、それでも苦しいかも知れない⋮⋮もうちょっと大きくな
ってからにするか?﹂
ここで中断は正直ツライが、彼女が怖がるのならこのまま寝てし
まってもいい。彼女の体格からすると俺のチンポは凶器に見えるか
もしれんからな。
彼女は勃起した逸物を見て少し青くなったが、覚悟を決めたかの
ように真っ直ぐに俺を見る。
﹁私は、クリス様のなさる事でしたら、なんでも受け入れます⋮⋮
どうか、ルーフェイを⋮⋮孕ませてくださいませ﹂
︱︱︱クチュ⋮⋮ずぶぅ!
﹁くぅ⋮⋮ンンン∼∼∼∼∼∼∼ッッッ!!﹂
痛みを鈍化させる術を施したあと、足を広げ一気にルーフェイの
243
膣口を貫く。これはキツイ⋮⋮ルーフェイの膣内は処女であること
を考えても狭く、俺の逸物を強烈に締め付ける。
﹁入ったぞ、すぐに終わらせるからな、痛かったら俺の背中なりな
んなり引っ掻いていい﹂
鈍化させても相当痛むはずだ、目に涙を浮かべて痛みに耐えてい
るが、それでも嬉しそうに俺に抱きついてくる。
﹁ルーフェイは⋮⋮嬉しいです、好きな人にされる事なら⋮⋮なん
でも受け入れます﹂
溢れる愛液に混じった破瓜の血は相当な量だ、相当痛いだろうに
健気に微笑むルーフェイは見た目以上に大人に見えた。
﹁慣れれば痛みも無くなるし、気持ちよくなるから。毎晩少しづつ
慣らしていこうな﹂
﹁はい⋮⋮んっちゅ⋮⋮はむ﹂
繋がったままキスを繰り返し、おっぱいを優しく愛撫する。正直
動かさなくても彼女の膣内の締め付けは強く、このままでも十分に
気持ちがいい。
﹁んむ⋮⋮ちゅちゅ⋮⋮くぅん。好きです、初めて会った時から好
きです﹂
﹁んっ⋮⋮んんっ⋮⋮あぁ俺もルーフェイを愛してるよ﹂
ルーフェイの痛みに耐える健気な姿に愛おしくなり、キスを繰り
244
返すたびに快感が高まり、段々と射精感がこみ上げてくる。
﹁出すぞルーフェイ、お前の子宮に俺のザーメンを注いで孕ませて
やる﹂
﹁お、お股同士ぶつけなくていいんですか?﹂
やっぱ所々勘違いしてるな、まぁそのへんの性教育はディアーネ
に任せるのが一番か。
︱︱︱ドピュ ドピュ ドピュ⋮⋮
﹁くぅぅぅん! あったかいですぅ⋮⋮あったかいのが中に入って
くるです⋮⋮あぁ、まるでクリス様にマーキングされちゃったみた
いです﹂
マーキングって犬の縄張りを主張するアレコレだっけ? まぁル
ーフェイの身体は俺以外に触れることは許さない以上間違ってはい
ないか?
チンポを引き抜くと、無毛の膣穴から精液が溢れてくる。一度の
射精では俺の逸物は収まらないんだが、流石にこれ以上続けるのは
彼女の負担が大きい。俺はルーフェイを抱き寄せ、そのままソファ
に横になる。
﹁よく頑張ったな、ルーフェイは立派な奥さんだよ﹂
頭を撫でつつキスをすると、彼女は満面の笑みで抱きつき、顔中
に舌先を這わせる。頬をペロペロされるのはくすぐったいのだが、
彼女の愛情なのだから甘んじて受け入れよう。
245
俺たちはお互いの体温を感じながら、ゆっくりと眠りに落ちてい
った。
246
狼の嫁入り︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
247
帰路︵前書き︶
感想欄で王族とあっさり結婚しすぎじゃね? と言うご指摘を受け
たので、ちょっとエピソードを追加してみました。
女性蔑視ととられる表現がありますが、人権の概念が無い異世界の
上、男性中心の社会ならこんなもんだということでご了承ください。
248
帰路
サリーマ様に譲ってもらった上級士官用のテントは、ちょっとし
た寝室くらいの広さが有り、閉塞感によるストレスを全く感じませ
ん。わたくしたちは先程まで、並べた簡易ベッドでお喋りをしてい
ましたが、ディアーネが眠そうにしていたので、ランプに遮光用の
布を被せ休むことにしました。
真っ暗闇の中で一人でいると色々と考えてしまいます。例えばル
ーフェイは今頃、旦那様に優しく抱かれてるのでしょうか? 出会
ってから旦那様と離れて眠ったことははないので、愛されている自
信と自覚はあっても、ついそんな考えが浮かんでしまいます。
ルーフェイは国元では成人と認められているとはいえ、まだまだ
精神的にも肉体的にも未成熟な少女です、旦那様も激しくしたりは
しないでしょう。優しく、慈しむようにルーフェイを抱く旦那様の
姿を容易に想像できて⋮⋮その姿を自分に重ねて想像する。
啄むように何度もキスをして、お互いの唾液を絡め合うような濃
厚な口付けに段々と変わっていく。キスに感じてる隙に旦那様の手
ですぐに服を脱がされてしまい、一糸纏わぬ姿を晒してしまう。
まさぐ
旦那様の手は胸を、お尻を、秘所を弄り、あっという間に硬くて
大きいな旦那様のモノを受け入れられるよう蕩けてしまう。それと
も、なすがままにされ快感に溺れるわたくしの反応を愉しむ為に、
指と舌で絶頂するまで愛撫されるだろうか?
そんな淫らな妄想をしていると、つい、指先が己の秘所に伸びそ
249
うになりますが、親友が隣で寝てると言うのに自慰なんて出来るわ
けが無い。頑張って眠ろうと目と瞑っても、思い浮かぶのは愛しい
夫の指と唇の感触、そしてわたくしを抱きしめ包む温もり。
そうしてしばらくの間、眠れずに悶々としていると、眠っている
はずのディアーネが声をかけてきました。毛布の中でモゾモゾして
たので起こしてしまったのでしょうか。
﹁オリヴィア、どうしたの? 寝心地悪かった?﹂
﹁そんなことないわ、テントって珍しいから⋮⋮ディアーネも眠れ
なかったらまたお喋りする?﹂
ランプにかけた布を取り、再びランプの灯火に照らされるテント
の中。薄手のネグリジェ姿のディアーネは、女のわたくしですら見
惚れてしまいそうな程に綺麗です。彼女との結婚を拒んだ方の気が
しれませんね。
政治的な理由で早めに結婚する場合もありますが、基本的に子供
婚約破棄
を産むのに無理がないよう、貴族の令嬢は大体18歳前後に結婚し
ます。例の件がなければ、18歳のディアーネがここにいる事も、
旦那様に嫁ぐ事もなかったでしょう。
ディアーネはわたくしの眠れない理由を察したのでしょう、簡易
ベッドに入ってきて手を握ってくれました。親友の手の温もりに、
もやもやした気分が少しだけ晴れた気分です。
﹁大丈夫よ、クリス様に一番愛されてるのは間違いなくオリヴィア
なのだから。私が妬いてしまうほどにね﹂
250
﹁ディアーネだってとても愛されてるわ⋮⋮それに一番旦那様のお
役に立ってるのは、間違いなく貴女だもの⋮⋮わたくしなんかより
もずっと﹂
例えば今回の旦那様とルーフェイとの結婚は対外的に﹃魔王種の
魔核の対価として王から姫を与えられた﹄となります。多少事情が
異なっても、建前としてそういうことになりますし、おそらくこの
結婚は脚色され美談として民に広まることでしょう。
姫を娶るために魔王に挑む勇者、民衆の好みそうなお話ですね。
それが国益になる縁談であれば、なおの事喧伝し、その過程で旦那
様の勇者としての名声はクレイターにも遍く轟く。
王族・貴族にとって娘とは﹃取引材料﹄であることが大前提とし
て、見目が良く教養もあればさらに価値は高くなります。さらに同
じ男性に嫁いだ妻たちは姉妹として扱われ、家同士を繋ぐパイプ役
となる。そうなるべく教育を受けて育ったのです。
マーニュ王国と同様に、社会の中心が男性のクレイターでも、恐
らくは似たような考えがあると思われます。
クレイター諸島連合王国は我が国の慣習くらい調べているでしょ
う。あっさり決めたように見えても、その実様々な思惑があるので
す。勿論ルーフェイが旦那様を好いていたことも理由の一つですが。
まずマーニュ王国中枢への伝手。既に縁を切られたわたくしの実
家は無理としても、ディアーネの実家であるメイティア伯爵家とス
ムーズに話を通せるのは、これから国交を結ぶ上で重要でしょう。
次に関係の悪化が予想される帝国への牽制。個人で広域の魔物を
251
全滅させる事のできる勇者に、王女を嫁がせた事は十分な示威とな
ることでしょう。
思いつく限りで特に重要なのがこの二つで、他には単純にラーロ
ン地方への伝手、法の女神大神殿への伝手、今後重要な地位に就く
であろう旦那様の子供に、人狼族がいる事のメリット。
多少のデメリットは無視して良いくらいです、目を付けない方が
おかしいですね。ルーフェイのお供の人が旦那様の人柄をしっかり
見極めるべく、観察していましたからね。
﹁そう言えば聞きそびれたけど、ルーフェイが旦那様へ積極的にス
キンシップをするように誘導してたわよね?﹂
﹁ルーちゃんは素直な子だから分かり易いでしょ? ほとんど一目
惚れ状態だったから後押ししただけよ。クリス様も甘えられると弱
いというか、懐かれると可愛がる人だし⋮⋮正直に言うと、クリス
様の利になるようにしつつ、実家への利益誘導よ﹂
流石です、わたくしが実家と絶縁されてる以上、現状でクレイタ
ー諸島連合王国と深い繋がりを持つのは、旦那様を除くと直接取引
の交渉を担ったカール様と、嫁いだ姫の﹃姉﹄であるディアーネの
実家です。旦那様の頭角を現していく中、周囲で一番利益を享受し
てるのは、実はメイティア伯爵なのかも知れません。
﹁やっぱり一番旦那様のお役に立ってるのはディアーネです、これ
から旦那様が興すであろう家にとって益になることばかり⋮⋮わた
くしなんて⋮⋮﹂
男性恐怖症でまともに人前に出られませんし、実家とも縁が切れ
252
てるのでパイプ役にもなれません。閨の技術はディアーネにとても
及びませんし、ルーフェイのように可愛らしくも⋮⋮そんな暗い考
えが頭から離れないでいると、ディアーネの胸元に抱き締められる。
むぐ、わたくしより大きな胸に顔を挟まれると呼吸がしにくいです。
・・・・・
﹁貴女以上にクリス様の妻として、お似合いの女性はいないのだか
ら自信を持ちなさいなお姉ちゃん﹂
﹁お姉ちゃんって、ディアーネの方が年上じゃない﹂
抱き締められて頭を撫でられえている姿は、どう見てもディアー
ネの方が姉に見えますよ。
﹁複数の妻がいる場合、正妻が長女って事になるのは知ってるでし
ょ。それともお姉様って呼ぶ?﹂
17歳のわたくしが18歳のディアーネに姉呼ばわりされるのは、
正妻
止めてもらいたいです。わたくしとしては旦那様の傍にいられれば
それで満足なので、ディアーネが長女でも良いんですよ?
﹁クリス様はその辺り無頓着だけど、ちゃんと決めておかないと揉
め事になりかねないのよ。多分これからクリス様に嫁いでくる女性
は沢山いるから、考えておかないと駄目よ?﹂
そうしてしばらくの間、これから増えるであろうクリス様の妻た
ちとどう向き合うか? 屋敷内でどんな決め事をするのかなど。デ
ィアーネと話してる間に瞼が重くなってきました。
﹁そろそろ眠くなった? リラックス効果のあるお香が効いたみた
いで良かったわ﹂
253
香水かと思ったらお香だったのね、ありがとうディアーネ。わた
くしは眠りに落ちる直前に、大好きな親友を抱きしめた。
﹁あ、あらぁ⋮⋮ちょっとオリヴィア離れなさい、抱き着かれたま
ま寝られたら、狭いベッドだからはみ出ちゃうのよ⋮⋮﹂
臆病な私の親友でいてくれてありがとう⋮⋮大好きよディアーネ
⋮⋮
﹁こ、こら、放しなさいってば。身動ぎしたらベッドから落ちるか
ら⋮⋮ってもう寝てるの﹂
とても安心できる逞しい旦那様の腕の中とはちょっと違いますが、
ディアーネの肌は柔らかく良い香りがします⋮⋮
∼∼∼∼∼
ルーフェイとの初夜は、未成熟な彼女の身体に負担をかけない為
に、早く終わらせたので、いつもより早い時間に目が覚めた。まぁ
寝たのが早かったからな、普段は夜遅くまでオリヴィアとディアー
ネを抱いてるからな。
ふと、頬に柔らかい感触を感じ、目線を向けると、先に目を覚ま
していたらしいルーフェイがキスしてくれたようだ。照れたような
笑顔が朝日に照らされて輝いている、子供のように見ていたルーフ
ェイが一瞬大人びて見えてドキッとした。
254
﹁おはようルーフェイ⋮⋮んっ﹂
﹁くぅん⋮⋮んむっちゅ⋮⋮ちゅ﹂
朝の挨拶のあと、唇を重ねる。舌を絡ませ、互いの唾液を味わう。
唇を離すと夢見心地といった風情の幼妻は、俺の胸元に抱きつき甘
えてくる。こちらも負けじと片手で尻尾のモフモフとした感触を楽
しみ、もう一方の手で頭や背中を撫でる。
﹁わふぅん、クリス様ぁ⋮⋮わふぅ、しっぽの触りかたが⋮⋮くふ
ぅん、いやらしいです﹂
尻尾は敏感なのか、顔を赤くしつつも蕩けた表情に変わる。尻尾
の先からつけ根まで丹念に手櫛で梳き、小さいながらも柔らかいお
尻に手を伸ばす。その間、されるがままのルーフェイは、恥ずかし
そうに俺の胸元に顔を押し付けてしまい表情は見えない。尤も可愛
い尻尾がブンブンと振られてるので、嫌ではないだろう。
﹁ルーフェイ、昨日は痛いのをよく我慢してくれたな。よく頑張っ
てくれた、可愛すぎてますます好きになったよ﹂
﹁えへへ⋮⋮クリス様に喜んでもらえて嬉しいです﹂
胸元から離れ、上目遣いの無邪気なその笑みの破壊力に、つい押
し倒したい衝動に駆られたが、なんとか我慢する。お互いに全裸の
ままなので、このままイチャイチャしていては、我慢できずに昨夜
に続きに突入するのは確実だ。
﹁風呂に行くぞ、昨日は汗かいたからさっぱりしよう﹂
255
どうせ結界で誰も入れないのだが、一応バスローブだけ着て、裸
のルーフェイをお姫様抱っこで運ぶ。
﹁わぅん! わ、私も着るものください、裸のままお外なんて⋮⋮
んむぅん﹂
反論はキスで封じて馬車を降りる、昨夜の暗闇の中、月明かりで
白く照らされるルーフェイは、まるで妖精のような可愛らしさだっ
たが、明るい日の下でよく見ると、小柄で全体的に幼い印象ではあ
るものの、しっかりと女性らしいスタイルをしている。
さて、すっかり温くなったお湯で汗を流し、一緒に浴槽に浸かる。
ルーフェイは俺の膝の上で、向かい合う形で座らせている。お尻の
感触が実に素晴らしい。ニコニコと上機嫌な笑顔にこっちも自然と
頬が緩む。
そうして温いお湯に浸かりながら、ルーフェイに頬を舐められた
り、お返しにお尻を撫でたりしながら、イチャイチャしてると、オ
リヴィアとディアーネもやってきた。彼女たちも今日は早く目が覚
めたようだ。
﹁おはようございます旦那様、ルーフェイ、昨夜は大丈夫だった?﹂
﹁わぅん! あ、あの⋮⋮その⋮⋮痛かったけど⋮⋮幸せです﹂
﹁あらあら、これは帰り道でお話を聞くのが楽しみね。おはようご
ざいますクリス様﹂
﹁おはよう二人共﹂
256
二人は軽く寝汗を流すと、浴槽に入り俺の腕に絡まる。右手はオ
リヴィアがおっぱいの谷間に挟まれ、左手はディアーネの太股に挟
まれる。膝の上にはルーフェイが陣取ってるし、ああ、なんだ天国
はここにあったのか。
しばらく感触を楽しんでいると、オリヴィアが俺の肩にもたれか
かり頬にキスしてきた。
﹁旦那様⋮⋮朝から元気でいらっしゃるご様子ですので、わたくし
にも分けて頂けませんか?﹂
そう言って俺の最大まで勃起した逸物にそっと触れる、まぁ美少
女三人にお風呂で囲まれていてはこうなるのも当然、バレないわけ
がないか。
風呂を出て、浴槽の縁に腰をかけると、オリヴィアはチンポを口
に含み奉仕してくれる。彼女の左右にディアーネとルーフェイも跪
き、玉袋やオリヴィアの口に入りきらない竿の根元の部分に、舌先
を這わせる。
くっ、フェラチオの上達もあるんだが、オリヴィア、ディアーネ、
ルーフェイとタイプの違う美少女が、揃って俺のチンポに奉仕して
る淫靡な光景に、いつも以上に興奮してしまう。
オリヴィアの小さな口で肉棒の先端を含み、敏感な部分を舌先で
刺激され、物凄く気持ちが良い。ディアーネの肉棒に舌を這わせな
がら、上目遣いで俺を見つめる姿は堪らなくエロい。
ルーフェイだけはどうしていいのか分からず、ディアーネの真似
をしてるだけのようだが、その拙い様が初々しく可愛らしい。
257
もうちょっとこの光景を堪能したかったが限界だ。両手でオリヴ
ィアの頭を撫でる、夫婦間で決まってるフェラチオしてる時に、そ
ろそろ出そうだというサインだ。サインを受けたオリヴィアは腰に
抱きつき、より深く俺のチンポを飲み込み、舌の動きが激しくなる。
吸い付かれた限界間近のチンポは、美少女三人のフェラチオで昂
った性欲をオリヴィアの口内に解き放った。結構な量を射精したが、
オリヴィアは俺の精液を一滴も溢すまいとしている。
﹁んっ! んく⋮⋮んむぅ﹂
俺のザーメンを飲み干し、チンポの先端を舌先で綺麗にしてくれ
たオリヴィアは上目遣いで、満足した俺の表情に嬉しそうな顔をす
る。そんな顔で見ないでくれ⋮⋮顔も性格も身体も心根も何もかも
俺の理想の女に、そんな顔で見られたら⋮⋮お前がヘトヘトになる
まで止まれないじゃないか。
どうやら俺は一晩オリヴィアを抱かなかっただけで︱︱︱ルーフ
中出し
ェイに不満が有る訳じゃないが︱︱︱性欲が収まらないようだ。こ
の後、体位を変えつつ5回も膣内射精してしまい、オリヴィアが疲
れ果て、ダウンするまで夢中でセックスしてしまった。
中出し
ちなみにルーフェイはまだ昨夜の痛みがあるだろうから、クンニ
と素股で何度もイカせ。ディアーネは3回の膣内射精したあたりで
なんとか止めた。
まだまだイケそうな感じだが、嫁三人を朝から︱︱︱いや夜でも
駄目だけど︱︱︱グロッキーにするわけにはいかないので止めた。
止めたと言うよりディアーネが、程々で抑えてくれたのだろう。
258
エッチの後でも元気なディアーネが、用意してくれた朝食を食べ
られないくらい、疲れ切っているオリヴィアに何度も謝るが、彼女
は笑って許してくれた。ううう⋮⋮エロいことが我慢できない旦那
でゴメンよ。
妻たちを休ませるために早く帰ろうとしてるのに、無茶して急い
でオリヴィアたちに負担をかけては本末転倒だ。馬車を揺らさない
程度に急いで、頻繁に休憩をとりながら帰路を進む。
∼∼∼∼∼
辺境の開拓には中央と連絡を密にする必要があるので、王都でも
仕事が山積みで忙しい最中、ボクが滞在する屋敷に客がやってきた。
普通ならアポなし訪問なんて門前払いなんだけど、相手の身分が高
いとそれができなくて困る。
﹁お互い忙しい身の上であるのですし、公的な場ではないので先に
用件を仰ってください﹂
今日は人に会う予定だけで10件もあるのだ、可能な限り余裕の
あるスケジュールを組んでるのだけど、長々とお世辞の応酬をやっ
てる暇はない。
﹁ボクが公爵位を賜る件についての挨拶ですか? それとも開拓事
業の融資の話ですか? それとも⋮⋮﹂
目の前の壮年の男は、以前会った時と比べて別人かと疑うほど変
259
わり果てていた。いや憔悴してるというべきか⋮⋮出されたお茶に
手も付けないで、じっと俯いてる。話があって訪ねたんだろうに、
無言で居られても困る。こっちから水を向けてやろう。
﹁⋮⋮貴方のお嬢さん、オリヴィア嬢の件でしょうか? ヘルトー
ル公爵﹂
やつ
びくん⋮⋮と、公爵の肩が震え、やがて覚悟を決めたかのように
初めてボクを見た。なんと言うか窶れている分、執念じみた意志の
強さが窺えた。
﹁オリヴィア・ヘルトールはカロリング卿の領地に厄介になってる
と聞き及び⋮⋮﹂
﹁ボクの領地にヘルトール家のご令嬢はおりません、誰かと勘違い
していらっしゃるのでは? ﹃女神の花嫁﹄オリヴィア夫人はヘル
トール公爵家とは一切関係がない筈です﹂
勘当したんだろ? 今更父親面してうちの領地にちょっかい出さ
ないよな? とりあえず殺気を込めて睨みつけたんだけど、弱って
はいても流石は公爵家の当主と言うべきか、ボクの殺気を軽く流し
て会話を続ける。
﹁姿絵を見ました、間違えようがなく儂の娘でございます! 娘を
娶った勇者と会わせていただきたい!﹂
﹁公的な場じゃないって言ったのはボクですからぶっちゃけ言いま
すよ? 虐待して勘当した娘が勇者様の嫁になったからってねぇ、
愛妻家の彼は公爵を嫌ってますから、父親面して近寄ったら多分殺
されますよ。どうせすぐ王室が公表するから言いますけど、一人で
260
魔王種倒すような勇者様に、公爵家の権威とかで脅しても通じると
思います?﹂
クリス殿は基本お人好しだから殺しはしないだろうけど、記憶消
して帰らせるくらいは躊躇なくやるだろうな。愛妻家の彼が嫁を虐
待してた父親なんて、多分視界にも入れたくないだろう。
なら
そして女神の代理人である勇者様が嫌う相手となれば、大神殿も
それに倣うだろうな。オリヴィアさんもかなりの人気だし、現状噂
でしか知られてない虐待が、事実と分かれば⋮⋮甘く見積もってヘ
ルトール家の事業の殆どが滅茶苦茶になるんじゃないかな?
﹁そ、そんなつもりでは⋮⋮無事な姿を一目だけでも⋮⋮﹂
﹁ボクは決して仲介しませんよ、彼を怒らせたくないのでね。ラー
ロン地方に来るならお忍びでどうぞ、決して誰にも行き先を教えな
いでくださいよ? 貴方が路地裏で冷たくなってた場合、忙しい最
中に事故死になるよう建前を整えるとか、余計な手間をかけたくな
いですからね﹂
しかしこの豹変ぶりは例の呪いが解けたせいかな? 愛情が裏返
アンジェリカ
って憎悪になるって聞いたけど、それがなくなって愛情を抱いてい
た娘に対する行いを思い出したって事か。悪いのはビッチなんだろ
うけど、同時に彼の娘が原因とも言えるし。
﹁彼女の生母や祖母は、虐待はしてないどころか味方であったのは
聞いてます。義母であれば勇者殿も無下にはしないでしょうから、
女性であれば面会できる機会を設ける事を約束します。ご存知でし
ょうが、丁度大々的に開拓を開始する前に催す式典が、近々あるの
で参加なされるのでしょう? 奥方であればヘルトール公爵家の者
261
として不足はないでしょう﹂
我が国において大きな事業を前に催す式典は、関係者の意思統一
を図る意味でも、利権的な擦り合せの意味でも非常に重要だ。この
手の式典は当主か跡取りが出席し、都合で無理な場合でも、名代と
して一族の男子か地位のある家臣を出席させるのが普通である。
しかし﹁この事業に我が家は不干渉でございます﹂と周囲に知ら
しめる場合には、女性が参加するのが暗黙のルールである。
当然だが女性といっても家族でないといけない。当主の妻や娘、
母親なら何も問題はない。遠縁のお嬢さんでも、ちゃんと挨拶をこ
なせば大丈夫、不参加の表明だから煩く言う人間は殆どいないから
だ。しかし一族以外、赤の他人を名代にしてしまうと、自分たちの
事業を侮ってると受け取られ、不参加の方がまだマシとなる。こう
いうしきたりは古今何処にでもあるものだが、ホント面倒くさい。
﹁うっ⋮⋮では、儂が娘に謝罪するのは⋮⋮﹂
悪いんだけど、ボクと同格以上の公爵家なんかに事業参加される
と、影響力が強すぎる上に、気を使わきゃいけないから困るんだよ。
他の2家には話を通してるけど、アンタの家はゴタゴタしてて連絡
つかなかったからな。
﹁手紙でも持たせてください、男性を式典に参加させても構いませ
んが、オリヴィア夫人に近寄ったら勇者殿に排除されるでしょうね。
重ねて言いますが勇者殿は愛妻家ですよ﹂
現状王国に三家︱︱︱ボクを含めればこれから四家になる︱︱︱
しかない、公爵家の協力を得られれば資金や人材の面で助かるのは
262
確かだ。しかしボクの指示を無視する派閥なんて出来たら困るし、
後になって利権を要求されるのも鬱陶しい。
オヤジ
国王の言うように味方は増やすつもりだが、それは寄子としてだ、
有り体に言えば子分だ。開拓によって発生する利権を得られるのは、
ボクに味方する者、いや部下になる貴族だけにしないといけない。
ボクの意図を読んだのか、ヘルトール公爵は妻と母を式典に参加
させるとだけ言って、力なく帰っていった。
この事はクリス殿とオリヴィア嬢に伝えておくか。嫁の母や祖母
が訪ねて来ると知れば、貴族として恥ずかしくないように、立ち振
る舞いの特訓に終始してくれれば万々歳だ。頼むからこれ以上功績
挙げないでね、報酬とか考えると頭と胃が痛くなるから。
オヤジ
そう言えば国王がアルチーナを勇者殿に嫁がせたがってたな。婚
約者の筈のヘルトール家の跡取りは確か20歳だけど、未だ婚姻を
結んだと言う話は聞かない。アルチーナはボクと同い年の異母妹で
15歳だ、噂では18歳になるまで待ってると聞いたが、跡取りが
シスコン拗らせてるのが実情だろうな。
どうせ開拓が始まれば戦力として活躍するのは間違いないし、報
酬の名目で嫁がせるのも良いだろう。それまでは無理することはな
いか。
アルチーナの生母は、身分は低いのだがその美貌は絶世の美姫と
称えられ、国王の側室に召し上げられた女性だ。母親によく似たア
ルチーナは少々キツめの顔立ちながら、兄のボクから見ても素晴ら
しい美少女だ。まぁスレンダーと言うか凹凸の少ない体型だがな。
263
つい昨日も妹と話したが、追放されたオリヴィア嬢を心配してた
そうだが、勇者と結ばれた事を知り我が事のように喜んでいた。多
分今の婚約を解消して、勇者に嫁げと言われても、それほど抵抗な
く受け入れそうだ、オヤジがそれとなく話してるのかもしれない。
まぁオリヴィア嬢とディアーネ嬢を侍らしてるのだ、ぺったん娘
のアルチーナが混ざっても浮くだけか。無理に今すぐ婚約を白紙に
することもないか⋮⋮ボクはこの判断を領地に戻ってすぐに後悔す
る事になる。
264
帰路︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
主要登場人物の年齢をまとめますと
クリス︵18︶
オリヴィア︵17︶
ディアーネ︵18︶
ルーフェイ︵生国では成人してます、女性に年齢を尋ねるのはシツ
レイ、イイネ?︶
カール︵15︶
サリーマ︵45︶
アンジェリカ︵15︶
265
波紋−国王︵前書き︶
多くのブックマークをいただきありがとうございます
お陰様をもちましてPV1,000,000突破しました、今後共
よろしくお願い下します
今回はエロなし、主人公のやらかしで、いろんな人が苦労します。
266
波紋−国王
元々は法の女神トライアが降臨したと、伝説に語られる小さな祠
の周囲に信徒たちが集まり、紆余曲折を経て大神殿となり更に人が
集まった。今ではラーロン地方最大の都市に成長し、この地を治め
る領主の姓を戴く都市カロリング。
そして現在天才と名高いカール王子が領主となった事で、凄まじ
い速度で発展し続けるこの街に俺たちは帰ってきた。一週間と少し
の期間留守にした程度で、帰ってきたと思えるのだから、どうやら
自分で思ってる以上にこの街を気に入ってるようだ。
野外に設置した風呂場でのセックスに夢中になり、オリヴィア達
を疲れさせてしまったので、休憩を多くとりながらの帰り道。途中
風景を楽しんだり、川辺で遊んだりしてたので、途中で夜を明かし
てしまったが、馬車の中、狭いベッドで三人の可愛くて愛おしい妻
たちと、イチャイチャしながら寝るのは俺的に大満足なので良しと
しよう。
ベッドの中では当然全員裸なのだが、無邪気に懐くルーフェイに
抱きつかれ、頬を舐められるオリヴィアとディアーネの恥ずかしが
る姿は鼻血が出るかと思った。美少女同士の裸の触れ合いに興奮し
て、つい張り切って気が付いたら外が明るかったのは反省してる。
気分は高揚していても寝不足に変わりはないので、次の日ものん
びりと進む。街に到着したのが丁度良い時間帯だったので良かった、
暗くなると屋敷で働いてるオバちゃん達は帰ってしまうからな。ル
ーフェイが一緒に住むのだから、紹介しないといけない。急いで屋
267
敷に向かおうとしたら、オリヴィアに止められた。
﹁お待ちください旦那様、魔王種を討ち取った件と、ルーフェイと
婚姻を結んだ件は出来るだけ早くに、カール様とトラバント様に会
ってお伝えするべきです﹂
﹁クリス様、このような重要な話は後回しにすると面倒な事になり
ますわ。私たちは馬車の中で待っておりますので、まず辺境伯の屋
敷に向かうべきかと﹂
嫁二人に言われ、尤もだと思い辺境伯の屋敷に向かうが、途中で
彼が王都に行っているのを思い出した。期間的にどう考えても不在
だろう、どれくらい王都に滞在するのかも分からないので、今日会
うのは諦めるしかない。
それならばと大神殿を訪ねてみたら、お祭りの準備で誰も彼も忙
しそうにしており声を掛けにくい。一応勇者の俺は、顔パスでトラ
バントさんに会いに行けるだろうけど、予め都合を聞いといた方が
良いな。
﹁うーん、伝言で済ませるような話じゃないし、かと言って忙しい
最中に無理やり会いに行くのも非常識だろう。ここは手紙を送って
おいて会うことができたら詳しく話せばいいか﹂
早速鳥型使い魔を召喚する、通常この手の使い魔は、空飛ぶ魔物
に襲われたりする可能性があるので、重要な手紙には使わないのが
普通だ。
しかし俺の潤沢な魔力を注いだ使い魔は、強力かつ飛ぶ速度が速
い上に、魔物には認識されない術が施してあり安全だ。早速オリヴ
268
ィアの監修の元でカール王子に送る手紙を書き、使い魔を飛ばす。
ついでだ、2個ある魔核も一緒に送ってやれ。俺が持ってても持て
余すからな。
どこからともなく王都でも持て余すよ! 会議場が混沌の坩堝だ
よ! とか空耳が聞こえたが、気にせず屋敷に帰った、長旅の疲れ
を癒すべくオリヴィア、ディアーネとイチャイチャし、ルーフェイ
を存分に可愛がるのだ。
∼∼∼∼∼
余の名はカロルス・マーニュ、このマーニュ王国を治める王であ
る。国王陛下などと持て囃されても、王の仕事など華やかなのはご
く一部。大半は地味な書類仕事に、自分勝手な事ばかり抜かす連中
の陳情を聞いてやったり、悪口雑言がまだマシと思える程の、ネチ
ネチとした嫌味が飛び交う会議をしたりと。ストレスが溜まる事こ
の上ない。
﹁ふぅ⋮⋮全く余計な仕事を増やす輩のせいで、もう夜ではないか﹂
いつもより公務の終わる時間が長引いてしまったが、愛用のカッ
プに満ちたホットワインの仄かな甘みが疲れを溶かしてくれるよう
だ、そして鼻腔を擽る香りを楽しむ。そして甘い菓子を口に運び、
繊細な甘味を味わいながら咀嚼、そして口内に余韻を残しつつワイ
ンを飲む。
ブレンド
ふむ、レモンの風味が少々強かったかの? ここは一撮みの砂糖
を入れて⋮⋮いやラム酒をひと匙、贈り物次第で様々な一面を見せ
269
てくれる酒は、正しく我儘で気まぐれな美姫のようであるな。
まったく、余の心に安寧を齎してくれるのは酒と甘味だけ、正し
く終生余の寵愛を受ける恋人と言えよう。だが最近は我が寵姫との
語らいを邪魔する無粋者が多くて困る、余の心を救ってくれる寵姫
を特に妬み引き離そうと目論むのは、典医とか言う役職の奸臣であ
る、何時かはどうにかせねばなるまい。
具体的には書類を片付け、公務が終わり良い気分で飲んでるとこ
ワイン
ろを邪魔する奸臣。余の主治医にして宮廷魔術師マラジ・モンドバ
ンがいきなり余の執務室に入ってきて、余の美姫達を魔法で氷漬け
にしてしまったのだ、なんたる不敬か! この無礼者め、ただ一日
一杯の約束を忘れてひと瓶飲み干しただけではないか。
睨みつけ、怒鳴って黙らせようと思ったが、マラジの奴から放た
れる怒気と攻撃的な魔力にちょっと冷静になる。それ以前にほんと
に寒い! マラジから発する冷気が余の執務室を満たしている。ま
⋮⋮まぁ王たる余は、臣の苦言を聞き届ける度量を持っておる故に
不問にいたそう。余が寛大で良かったな、決して怖いからではない
ので勘違いするなよ。
﹁⋮⋮だからもう若くないんですから、酒と甘味は程々にって言っ
たじゃないですか! なんですかその転がってる酒瓶は!﹂
﹁喧しいわ、余のストレス解消法を邪魔するでない。余に禁酒・禁
甘味をさせたくば国内の厄介事を少なくとも半分にしてみせよ﹂
サイン一つで国民の人生変えかねない重圧が貴様に分かるものか
! 玉体たる余は常に心身を健康に保たねばならぬ、よって心の安
寧を齎す酒を飲むのは国益に⋮⋮怖いから睨むなマラジ、寒いから
270
冷気を抑えよ。
﹁ストレス解消なら運動してください! 飲むなとは言いませんが
控えてください陛下!﹂
えぇい煩い、仕事が多いんだから仕方ないであろう。余は悪くな
い、役に立たん倅が悪いのだ。奴が王太子として公務の役に立てば、
余がここまでストレスを溜める生活しておらんわ。
長男のオルランドは幼少の頃は利発で、国を率いる勇敢な男にな
ると期待しておったものが、18にもなって15の小娘に入れ込み
とても公務を任せられん。小娘を排除できれば良いのだが愛の女神
から祝福を賜ったとか言う能力で、男共を誑かし下手に排除しよう
とすれば反乱が起こりかねんのだ。
精神干渉の類は無効化する装備を持たせていた筈なのだが、目を
離した隙に失くしてしまったとか⋮⋮失くしたで済むかアホンダラ
! アレがどれだけ高価か分かってるのか、ああ、こんなことなら
世継ぎ争いを避ける為、なんて余計な考えないでカールを残してお
けば良かった。
後悔しても仕方ないか、側室の産んだ長男と正室の産んだ次男。
カールが産まれてから王宮に漂う不穏な空気は決して勘違いの類で
はなく、早い時期に王太子を定めねば大きな禍根が残ることは、歴
史を紐解いても明らかである。
母親の身分は正室の息子であるカールが上ではあるが、オルラン
ドの生母の実家もそれなり以上の名家で影響力は大きい。余は長子
継続の慣習に則りオルランドを王太子とし、カールを婿入りさせ臣
籍へと降ろした。
271
幼い頃から厳しい教育を施したオルランドが馬鹿で使い物になら
なくて、辺境に婿入りさせたカールは史上有数の天才と褒め称えら
れ、今もなおカールの領地は目覚ましい発展を遂げている。
今更泣き言を言って、後悔してもどうしようもない。世の無常を
噛み締めつつ、いつもの癖でホットワインで満たした水差しに手を
伸ばす⋮⋮が、凍りついていて水差しから出てこない。
﹁だから飲みすぎですって、お酒とお菓子は没収です。良いですか
明日から食事のリクエストは受け付けません、陛下の嫌いな野菜で
あっても、無理やり食べていただきますからね﹂
くっこの奸臣めが、王に向かって好き嫌いをする童の如き扱いと
は何たる無礼か、誰だこんな者を召抱え傍に置いた愚か者は⋮⋮余
であった!
﹁分かったわい、まったく明日から余は機嫌が悪いから覚悟いたせ﹂
﹁ストレス解消に運動が嫌なら娼婦でも呼びますか? 陛下が毎晩
空にするワインの代金に比べたら安上がりですよ﹂
ワインは余の個人的な資産で買ってる物だから、お前に口出しさ
れる謂れはないわい。ったく嗜好品の予算に制限をかけた宰相め、
酒くらいでケチケチしおって、あんな守銭奴を宰相に据えた愚か者
は誰だ⋮⋮余である。
﹁余の場合、女を抱くにも事前の身辺調査がなければ、指一つ触れ
られんわ、余の胤が市井に混じったらどうなるか考えてみよ﹂
272
﹁はて? 娼婦の子供が父親を知らないなどありふれた話でしょう。
貴種の落胤を自称する程度の自由はあるかと、自称した結果どのよ
うな未来を辿るかは分かりかねますが﹂
メイティア伯爵に命じれば身辺調査済みで、安全な女を用意でき
るかもしれんが、一回や二回ならともかく、ストレス解消のたびに
呼びつけては、誰に悪心が芽生えるか分かったものではない。具体
オルランド
的には娼婦の子に王子を自称などされたりしたら非常に困る。万が
一馬鹿を廃嫡しようなどと考える大馬鹿が現れるかも知れないから
だ。
そういった可能性があるだけで面倒事の種だというのを、マラジ
はあり得ない事と考えているようだ。まぁ医者に政の面倒さが理解
できるとは思わんが、お前も一応だが貴族家の当主であろうが。
初代から連綿と続く典医の家系モンドバン伯爵家は、魔法薬の研
究と流通を司る一族で、魔法使いとしても名の知れた一族だ。
医者が政治に関わると禄なことにならん場合が多いので、基本的
に医術と魔術の研究を優先し、社交にはあまり関わらない一族だ。
とはいえ宮廷魔術師は軍に関わることが多いので、まるで付き合い
が無いわけではない。
こやつの家の事はともかく、酒がダメなら茶を用意させると、な
ぜかバカみたいに苦い薬草茶を出してきた。お前余が苦いのが嫌い
なの知ってるだろう、なぜ飲ませようとする? 肝臓によく効く魔
法薬を混ぜた? だったら味くらい何とかせよ。嫌がらせか? 嫌
がらせなんだなこの奸臣め、後で覚えてろ。
苦い薬草茶に顔を顰めちびちび飲みながら、目の前のマラジに気
273
が付かれないような仕返し方法を考えていると、ドアをノックする
音が聞こえた。
むっ? 公務の時間が終わったというのに、また面倒事か? 酒
が入った時に書類は読みたくないのだが。仕方ないので入室を許可
してやると、カールが滞在していた屋敷の執事長がやってきた。
﹁失礼いたします陛下、実はカロリング卿の屋敷に、鳥型使い魔に
より、この書状と小包が届いたのですが。カロリング卿はすでに領
地に戻られており、放置する訳にもいかず、陛下の判断を仰ぎたく
存じます﹂
ふむ、鳥型の使い魔に運ばせたと言う事は緊急の連絡であろうか
? 鳥型使い魔は意外と融通が利かず、屋敷に家人が不在であれば、
書状を持って帰ってしまう。しかし逆に人がいればそのまま渡して
去ってしまうのだ。
これが辺境伯家の家臣であれば、なんとかしてカールを追って書
状を届けたであろう。しかしカールが王都で滞在する屋敷は余が手
配した使用人、要するに王家が召抱えた者だけしかおらぬ。カール
の家臣は一緒にラーロン地方に向かってる最中であろう。
緊急の案件であれば急ぎ伝えねばならぬ、王家が所有するゴーレ
ム馬車であれば今晩中に追いつくのも不可能ではない。その前に一
応内容に目を通しておくか、酔い醒ましに薬草茶を啜り手紙を読む。
むぅ! なんと勇者殿からの書状ではないか、これは場合によって
は余が手助けを⋮⋮
︱︱︱ぶふぉぉぉぉぉ!!
274
﹁へ、陛下如何なされましたか!﹂
﹁ゲホッゲホッゲホッ! おい小包! 今すぐ小包を開けよ﹂
中身は⋮⋮書状の内容通りであった。つい先日見たものと同等の
モノ。凄まじい魔力を秘めた魔王種の魔核が、簡易に包装だけされ
小包から転げ出てきた。しかも二つ。
マラジは小包の中身のあまりの規格外さに言葉もない。執事長は
高価な魔核なのは理解しても、どれだけの価値があるのかは知らな
いのだろう。
﹁なっ! なぜこんなモノが無造作に小包で届けられるのですか!
一つで城が建つほどの価値があるのですよ、使い方次第ではそれ
以上だ!﹂
﹁お前も手紙を読め⋮⋮余は少し考えをまとめる﹂
マラジに手紙を渡し、頭をスッキリさせる為にもう一度薬草茶を
飲む。食い入るように手紙を読むマラジの顔が段々青くなってるが、
まぁ気にすることはないか。執事長には魔核は余が預かるので、他
言無用を言い渡し退室させる。
さて、如何したものか? 合計三つ手に入った魔王種の魔核の扱
いは⋮⋮勇者殿の功績として王家に献上という形で受け取った魔核
だが、一つだけでも反響が凄まじかった。ある者は兵器として運用
するべきと主張し、ある者は国を豊かにする為に利用すべきと断じ、
またある者は己の浪曼を会議場で語りだしたので叩き出された。城
より巨大な動く鎧って何に使うのだ何に。
275
しかも兵器として利用しようとする連中でも意見が分かれ、騎士
団長と筆頭宮廷魔術師の取っ組み合いにまで発展したのだ。魔術師
筆頭はマラジの父親で、モンドバン家の前当主なのだが、なぜ老境
の魔法使いが若い騎士団長と肉弾戦で渡り合えるのかは知らん。
国を豊かにしようとする一派でも、食料、流通、防犯、医療、そ
の他諸々に利用すべきと主張が入り乱れ、とても意見が纏まらない。
一つでこれなのだ、三つも有ることがバレたら⋮⋮頭痛くなってき
た。余が秘蔵しては駄目か? 駄目だろうな。
他にも考えることは多い、その内の一つは﹃鋼蟻帝パラポネス﹄
がなぜ我が国にやってきたのか? 女王蟻という性質上、かの魔王
種は巣から動かず、膨大な数の配下に餌を集めさせ、卵を産む。た
だそれだけの魔王の筈だ。
なるほど三百年も一箇所を動かなければ、餌を集めるにも限度が
あるのは道理である。しかし地理的に遠い我が国よりも、帝国内に
は豊かな穀倉地帯があるのだ、そちらを目指すのが普通ではないか
? そもそも野生が、まして単純な思考の魔物が慣れない気候の土
地に移る可能性はかなり低いだろう。
情報が足りない、この手紙の内容だけで判断は危険か。とりあえ
ず開拓の名目で送る兵力は上乗せしておこう。ヘタをすれば﹃魔王
種を縄張りから追い出す﹄手段があるのかも知れないのだ、リーテ
ンブ帝国への備えはもう一段警戒度を高める。
次はクレイター諸島連合王国か、交易に関しては反対する者はお
るまい、便利な魔法道具が直接輸入ができるのは助かるからな。魔
王の魔核を一つ譲ったのが気になるが、姫を差し出してきた以上、
歩み寄る姿勢を見せているし、魔核の対価を支払うとも王自らが言
276
ってる。一応こちらから人を送っておくが、基本はカールに任せる
としよう。
勇者殿に姫を嫁がせたのは、恐らくは帝国への備えか。無いとは
思うが勇者殿が、万が一にもクレイターに抱き込まれては大損害で
ある。手を打たねばと思ったが、考えるまでもなく若い男を引き止
めるのは、女が一番手っ取り早い。間違いなくカールもこの手紙を
読めば同じ結論に至るはず。
呼び鈴を鳴らし、やってきた侍従に命じる。
﹁今すぐアルチーナを呼んで来い。ああ、ついでにヘルトール公爵
にすぐ来るように伝えよ、何があってもだ﹂
薬草茶を自棄気味に飲み干すと酔いが完全に醒めた、この手紙の
内容が事実であれば⋮⋮明日の緊急会議の混沌が目に浮かぶようで
ゲンナリする。いっそのことカールに丸投げしようかの? それが
余の心の平穏を守る最上の手段に思えてきた。
書状を一応写しておくか? 説明の手間が省ける。原書は急いで
カールの元へ届けなければな。ふと手紙を預けたマラジを見ると妙
に静かだ、さっきまで青い顔してたのにどうした?
﹁陛下、カール様に書状を届ける役目、私に任せていただけますか
? 今からゴーレム馬車を走らせればそれだけ早く追いつけます﹂
ワイン
魔法使いの方がゴーレム馬車を早く走らせる事が出来るのだから、
まぁ確かにマラジが適任であるな。余の愛する寵姫を氷漬けにした
許しがたい奸臣だが、一応信頼はしておる。
277
﹁よかろう、任せた、王家所有の馬車を使うか? それとも自前の
馬車で追うのか?﹂
﹁当家所有のゴーレム馬車が良いでしょう、王家所有の物は手続き
に時間がかかります。またカール様を始め勇者様やルーフェイ姫か
ら話を聞いてまいります﹂
妙にやる気であるな? まぁ開拓地に魔法薬は必需品であろうか
ら、一度はモンドバン家当主として視察に行くのかの? 口煩いの
が遠出するするのは助かるので実にありがたいがの。
﹁では勇者殿に宛てた手紙を書くので準備をして参れ。それとカー
ルには大至急アルチーナを勇者殿に嫁がせるので、なんとか説得し
ろと伝えよ﹂
﹁御意!﹂
小走りで部屋を出ていったマラジを見送りつつ、手紙を書く。そ
う言えば聞きそびれたの、なんかブツブツ言っておったサリーマっ
て誰じゃ?
278
波紋−国王︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
279
波紋−大神官︵前書き︶
お待たせしました
お仕事でちょっと纏まった時間が取れませんでした
感想で大神官の仰天が甘いと指摘を受けたので少々加筆しました。
280
波紋−大神官
王都と大神殿に使い魔を飛ばして、約一週間ぶりに屋敷でのんび
りしていた。夕食を済ませ、愛する妻たちとゆったりとした団欒︱
︱︱お茶を飲みながらイチャイチャとも言うが︱︱︱は何物にも代
え難い至福の時間だ。
﹁旦那様♪ はい、あ∼ん﹂
﹁クリス様ぁ私のも食べてくださいませ♪﹂
食後のデザートして出された果物を、食べさせっこは実に幸せだ、
気分的に果物の糖度が高くなった気がする。はむ、もぐもぐ、甘く
て美味い、最高だ。
オリヴィアとディアーネをそれぞれ腕の中に抱き、他愛も無い会
話を弾ませつつイチャイチャを続ける。なお、ルーフェイはお手伝
いのオバちゃんに紹介したところ、あっという間に馴染んだ。むし
ろオバちゃん達がルーフェイの可愛さに陥落し、つい先程までお菓
子を食べさせてもらったり、様々な服を着せられ構われていた。
特に嫌がった様子がない事から、多分国元でも似たような扱いだ
ったのかもしれない。なんとなくルーフェイに性知識が無かった理
由が分かった気がする。
いい加減に日が落ちて暗くなった頃に、オバちゃん達の帰りが遅
いのを心配したご家族が、屋敷の近くまで様子を見に来たので、全
員帰った。オバちゃん達全員名残惜しそうだったので、別に泊まっ
281
ていっても問題ないと言ったのだけど、彼女らは職人街の奥様達な
ので、朝早くに旦那さん達の食事の用意とかするのに帰らないとい
けないのだ。
明日の朝にはルーフェイの件は街中に知れ渡りそうである。小さ
い女の子も守備範囲とか言い触らさない事を祈るばかりだ、既に手
を出してるので一切反論できないからな。
さて、オバちゃん達が帰れば後は夫婦の時間だ、オリヴィアとデ
ィアーネは更に密着し、ルーフェイも俺の膝の上に座り甘えてくる。
さっきまでは行儀良くしていたのは、流石に王族としては使用人の
前でイチャイチャは憚られたからだそうだ。どうせ気にならなくな
るのは時間の問題だろう。
﹁クリス様クリス様。さっき姉様たちがしたみたいに私もやってい
いですか?﹂
小さなフォークに刺した果物を手に取って、控えめに言ってくる
が勿論良いに決まってる。ルーフェイの差し出した果物を食べさせ
てもらうと、照れくさそうな笑顔を浮かべる。可愛いなぁ、甘やか
したくなる気持ちが物凄く分かる。
﹁美味しいよルーフェイ、それじゃお返ししてあげるね﹂
両手はオリヴィアとディアーネに抱き付かれて動かせないので、
俺のしようとしてる事を察したオリヴィアが、果物を口に含ませて
くれる。唇で果物を挟んだままルーフェイの顔に近付けると、彼女
も顔を真っ赤にして口を開き、口移しで食べてくれた。
﹁わ、わふぅ⋮⋮は、恥ずかしいですクリス様ぁ⋮⋮﹂
282
口移しで食べる前も顔が赤かったが、実際にやると余計に恥ずか
しいようで、もう耳まで赤くなっている。まぁしっぽがブンブンと
凄い勢いで降られているので嫌ではないのだろう。
羞恥のあまり思考停止してるみたいなので、クレイター式の愛情
表現である頬を舌で舐めるのをルーフェイにしてあげる。暫くルー
フェイのほっぺの感触を楽しんでる内に我に返ったようで、お返し
とばかりにキスしてくれた。
﹁ちゅ⋮⋮んっんっ⋮⋮はふう、クリス様とのキス気持ち良いです﹂
幸せそうなルーフェイに触発されたのか、オリヴィアとディアー
ネも真似して俺の頬をペロッとしてきたので、こっちもお返しして、
また頬を舐められて⋮⋮と、そんな和やかな時間を過ごしている最
中の事だった。
手紙置きに物が届いたときに、配達する人が手紙置き近くの呼び
鈴を鳴らす決まりだ。その呼び鈴が鳴ったので見に行くと、一通の
手紙が届いていた。どうやらトラバントさんがなんとか時間を捻出
してくれたようで。明日の朝、日の出から一刻後に神殿まで来て欲
しいと、書いてある。
﹁明日の朝は神殿に行くから今日は早めに寝ようか。そうだルーフ
ェイも来るか? 神殿で祝福をかけようと思うんだけど﹂
﹁わふっ! よ、よろしくお願いいたします!﹂
祝福をかけるとは、正式な夫婦として神から認められる儀式を神
官が代行するもので、祝福がないと公的には夫婦と認められないの
283
だ。結婚前にセックスするのは良いのかって? お互いに結婚の意
思がある男女が、祝福を授かる前にセックスなんて普通だから問題
ない。
よほど義務的だったり政略的な婚姻でもない限り、花嫁のお腹が
膨らんでたり、子供が産まれてるなんて、田舎ではよくある。都会
でも珍しくない。むしろ妊娠した事実を盾に結婚を親に認めさせる
なんて話は、成人するまでに数回は聞く話だ。
聞けば貴族社会でも、婚約期間中に我慢できずに令嬢を妊娠させ
るなんて、良くある事らしい。婚約と言えばディアーネの元婚約者
って、彼女を前になんで我慢できたんだ? 俺だったら婚約したそ
の日の晩に押し倒す自信がある。まぁ他人の事なんでどうでも良い
が。
それはともかく、女性にとって祝福を授かる理想のシチュエーシ
ョンとして、一般的には荘厳な神殿で正装をした上で、祝福の光に
包まれ口付けを交わす⋮⋮ってのが人気が高い。恋愛物の演劇とか
では王道のラストシーンだな。
﹁た、楽しみですクリス様⋮⋮えへへ﹂
俺の膝の上に座り、胸元に顔を埋めるルーフェイの表情が見えな
いのが残念だが、尻尾がブンブンと凄い勢いで振られているので実
に分かり易い。頭を撫でてあげると更にスピードアップした。
喜んでもらえたようで何よりだ。それじゃ夫婦らしく仲良く風呂
に入ろうか? 胸元でじゃれつくルーフェイを抱きかかえ風呂に向
かう。オリヴィアとディアーネも、もちろん一緒だ。
284
∼∼∼∼∼
お風呂の中で美少女三人と全裸で洗いっことかして、イチャイチ
ャしたので、俺の逸物は風呂場で襲わなかったのが不思議なくらい
昂ぶっていた。寝室に入りすぐ、バスローブ姿のままのオリヴィア
を組み伏せキスすると同時に、欲棒を膣内にぶち込んだ。オリヴィ
アの膣内はすでに愛液で溢れ、熱いくらいに火照っている。
﹁んぁぁぁぁ! い、いきなりなんてぇ! 熱いのぉ、旦那様のオ
チンチンでオマンコが焼けちゃいますぅぅぅ﹂
﹁風呂でもう受け入れられるように、ビショビショに濡れてたんだ
ろ? いつもみたいにフェラチオから始めて我慢させるのも悪いか
ら、先に気持ちよくさせてやるよ!﹂
腰を抱えたままピストン運動は止めず、乳首を口に含む。オリヴ
ィアの乳首が敏感なのは誰よりも俺が知ってるからな、舌を這わせ
ると案の定、彼女の身体は強張り、膣を締め付ける。
﹁はぁん! やぁ乳首はだめぇ、オマンコとおっぱいを同時にされ
たらスグにイッちゃいますぅぅ!﹂
﹁なんだいつもより濡れてるじゃないか? こんなにお漏らしする
くらい感じてくれてるのか?﹂
膣奥をチンポの先端でノックしながら、淫らに喘ぐ妻の蕩けきっ
た表情を見るのが、最近のお気に入りになってきた。綺麗だよオリ
ヴィア、清楚な淑女が俺の腕の中でだけその表情をしてくれるのが、
285
たまらなく興奮させてくれる。
﹁あっあっ⋮⋮だ、旦那様の⋮⋮いじわる、こ、こんな激しく求め
られて⋮⋮嬉しくて⋮⋮んんっ! あぁ奥まで来てるぅ!﹂
俺に押し倒され、この腕の中で喘ぐ愛妻の姿に、膣内で更にチン
ポは肥大化する。もうひと押しで絶頂しそうだが、もうちょっと蜜
壷の感触を楽しんでからイカせてやろう。俺はオリヴィアの身を起
こし、騎乗位の体勢に変わろうと身を起こそうとすると、不意に背
中に柔らかいモノがぶつかる。
どうやら仰向けになろうとしたところで、ディアーネのおっぱい
で受け止められたようだ。そのまま背後から抱きしめられ、舌を絡
めたキスをされる。
﹁んっ⋮⋮んく⋮⋮﹂
ディアーネは相変わらずキスが上手い。一瞬だが意識をキスに移
してしまい、少しだけ腰の動きを止めてしまった。
その隙に、俺のされるがままにされていたオリヴィアが身を起こ
し、対面座位の体勢になり抱きしめられる。これは⋮⋮正面をオリ
ヴィアのおっぱいに、背後をディアーネのおっぱいに挟まれる形に
なってしまった。
おおぅ、前後から押し付けられるおっぱいの感触が素晴らしい。
しかしまいったな、これじゃ強引に動けない、俺には抱きついてき
た嫁を、押し退けるような真似はできないからだ。
オリヴィアは俺に正面から抱きついたままゆっくりと、腰を前後
286
し、意識してるのか、ぎこちないながらも膣の締めつけに緩急をつ
ける、予想外の刺激に射精感があっという間に高まってしまう。
くっ! 拙いぞ、このままじゃオリヴィアをイカせる前に射精し
てしまう。俺の方でペースを握りたくても、ディアーネのキスが気
持ち良すぎて動けない。
射精を堪えるのに歯を食いしばろうにも、万が一にもディアーネ
の舌を噛む訳にもいかない。それを知ってか知らずか、ますます舌
を絡め、口の中をディアーネに愛撫されてしまう。
チンポと唇の両方からの快感、そして前後から擦りつけられる巨
乳の感触がヤバイ! セックスの主導権を握りたい俺だが、このま
までは先にイってしまう。
ナカダシ
このまま為す術なく膣内射精してしまうのもなんか負けた気がす
るので、せめてオリヴィアを先にイカせるため、空いた両手でオリ
ヴィアのおっぱいを愛撫⋮⋮しようとしたが、片手はディアーネの
太股に挟まれ、もう片手はルーフェイがしがみつき指を舐められて
る。
愛おしそうに俺の指に舌を這わせるルーフェイ。キスをしながら
俺の手を、自らの敏感な部分に導き動きを封じるディアーネ。そし
てオリヴィアのオマンコは俺にとって最高の名器だ、ゆっくりとし
た動きであっても気持ち良すぎる。くっ⋮⋮もうだめだ! 耐えき
れずにオリヴィアの膣内に精液を放つと、一滴でも零すまいと足を
腰に絡め更に密着してくる。
﹁んはぁぁぁ! んっ⋮⋮はぁはぁ、くすっ、いっぱい出して頂け
ました﹂
287
ナカダシ
俺が膣内射精すると同時に、ディアーネの唇が離れ、息をつく間
もなく今度はオリヴィアに唇を塞がれる。運動能力的に躱して反撃
することも可能だけど、俺にオリヴィアからのキスを躱すなんて出
来るはずがない。
﹁んっちゅ⋮⋮んっんっ⋮⋮ぷはぁ、ふふっ旦那様可愛い﹂
イタズラが成功した子供のような笑顔も、最高に可愛いなオリヴ
ィア⋮⋮じゃなくて、なんだか一方的にやられたようで悔しいので、
ここから反撃だ。
﹁むっ! さっきのは油断しただけだぞ、今からでも抜かずに何度
もイカせてやる﹂
尤も、アレはアレで非常に気持ち良く、癖になりそうだが、俺と
しては自分のチンポと愛撫で嫁を気持ち良くしてやりたいのだ。ま
してオリヴィアをイカせず、俺だけ射精するなどあってはならない。
まだまだ萎えない俺のチンポを、膣内に咥え込んだままのオリヴ
ィアの腰を掴み、下から激しく突き上げようと⋮⋮オリヴィアが俺
の顔に手を添えたまま、真正面から俺の目を見て一言。
﹁愛してます。わたくしも旦那様に気持ち良くなっていただきたい
んですよ﹂
俺の理想そのものと言える美貌、その潤んだ瞳に頬を染めた表情
は、とてつもない色気を孕み。まして愛してるなんて真正面から言
われたものだから、つい思考停止してしまう。
288
呆けてる間に、オリヴィアにキスされ、お互いに舌を貪り合う。
そしていつの間にか体勢を変えられ、気がついたのはディアーネの
秘所に挿入した瞬間だった。
﹁んむぅ! 一度出したというのに、いつもながら逞しいこと、気
を付けないと私が先に気をやってしまいそうですわ﹂
体位としては正常位でディアーネに挿れた状態だが、先程と同じ
くオリヴィアが背後に回り後頭部におっぱいを押し付けてくる。そ
のまま押され、またしても巨乳でサンドイッチされてしまう。また
動きを封じられてしまった。
﹁作戦成功です、旦那様は照れ屋さんですね、ふふっ可愛くてます
ます好きになってしまいました﹂
俺もエッチに積極的なオリヴィアに惚れ直したかもしれん。優し
く背後から抱きしめられ、仄かに香水と混じったオリヴィアの香り
に、クラクラしてきた。興奮しすぎというより色香に酔ったという
のが一番近い。
このままでも天国と言えるほど気持ち良いのだが、同じ手でイカ
されては男の沽券に関わる。理性を総動員しサンドイッチ状態から
脱するのだ、そこから主導権を取り戻し⋮⋮そこで不意打ちで挿入
部分を舐められてしまう。
﹁わふぅ⋮⋮クリス様のオチンチンがすごく熱くなってます﹂
予想外の刺激に力が抜けてしまう。しまったルーフェイがいた、
しかも下手に動くと蹴ってしまいそうな位置にいる。
289
﹁こ、こらルーフェイ、そこにいたら足が当たるぞ﹂
﹁わふ? でも姉様達がここでご奉仕しろって⋮⋮﹂
やられた! いつの間に嫁三人で作戦を練っていたのか。ルーフ
ェイの舌と、ディアーネの緩急をつけた膣圧にまたイってしまいそ
うだ。下手に動いてはルーフェイに足が当たるので動くに動けず、
上下からおっぱいに挟まれ体勢も変えられない。
﹁くぅぅ! 何とかして⋮⋮んむっ! ちゅく、んく⋮⋮﹂
なんとか反撃しようにもオリヴィアのキスと、ディアーネの蠢く
膣内が気持ち良い。ルーフェイに挿入した部分を舐められて、動か
さなくても官能は高まる一方だ。そうして何もできないままに為す
術なく射精してしまう。
﹁んっ! ふふっ、ご主人様の熱い精液を感じますわ﹂
くっ! 射精して脱力した微かな隙に、更におっぱいを押し付け
てきた。俺の顔はディアーネの巨乳に挟まれ、後頭部からオリヴィ
アのおっぱいを押し付けられたままだ。
正直二度も良いようにされてしまい、もはやこの天国から抜け出
す気力など湧いてこない。
﹁旦那様ぁお願いがあるのですが﹂
オリヴィアが甘えた声で話しかけてくる、どうした? 俺に出来
る事ならなんでもするぞ。
290
﹁今宵は、私たちにご奉仕させていただいてもよろしいですか?﹂
ディアーネの声が優しく頭に染み入ってくる。これがおねだりテ
クニックか、こんな甘い誘惑をされては頷くしかできない。まぁ嫁
におねだりされたら状況に関わらず頷くつもりだがな。
﹁ありがとうございます、旦那様、それでは仰向けになっていただ
けますか﹂
言われた通りに体の向きを反転させ、仰向けになる。その際ディ
アーネに膝枕してもらった。
﹁それじゃルーちゃんご主人様に失礼の無いようにするのよ﹂
﹁は、はい姉様に言われた通りがんばります﹂
どうやら今日の俺はルーフェイのセックスの教材のようだ。その
後は二人に手本を見せて貰ったりしながら、ルーフェイは俺に一生
懸命尽くしてくれた。健気なルーフェイが可愛いので俺のチンポも
中々衰えず、彼女がヘトヘトになるまでエッチの指導は続く。
ナカダシ
そうして、何度もルーフェイに膣内射精し、彼女の体力が限界に
近づいたところで、今夜は眠ることになった。俺に抱きついて眠る
ルーフェイは疲れ果てているが、なにやら満足げで幸せそうに寝息
を立てていた。
さて、明日は朝から神殿まで連れて行かないとな、起きてすぐエ
ッチはしないように気を付けよう。
291
∼∼∼∼∼
開拓事業を始める際の式典と、それに並行して開拓者の意気を高
める為に、祭事を催すと決まったのがつい一週間と少し前。その為
大神殿は連日のように上も下も大忙しである。
訪れる信者の為の通常のお勤めだけでなく、勇者様が魔王種を討
伐するという大慶事を大々的に祝うのだ。無償で振舞う為のお酒や
料理の手配、喧嘩っぱやい者達が大勢集まるので、警備や予想され
る混雑の対応を協議して、出店や大道芸などを生業とする者達への
場所の割り振り、その全ての予算の兼ね合い等々、やらねばならな
い事が多すぎる。
今までに例を見ないほどの忙しさで、普段いがみ合っている部署
︱︱︱派閥とも言う︱︱︱同士ですら連携して慣れない仕事を頑張
っている。
催事の目玉として、神殿の大講堂でクリス様とオリヴィア様の出
会い、そして魔王種を討伐するまでを多少脚色して綴った恋愛活劇
を公演するのだ。そこで若い神官見習いたちが、しかも仲の悪い部
署の者同士であったのにも関わらず、夜遅くまで一緒に練習してい
る姿には、不覚にも目頭が熱くなったものだ。
手と手を取り合い頑張る若者の姿は、いつだって儂のような老人
勇者
には眩しいものだ。儂の名前を出さずに差し入れを持って行ってや
ヒロイン
ろうと思う。まぁクリス様役を決めるのに、殴り合い一歩手前の白
熱した激論やら、オリヴィア様役を巡ってのひと悶着は、忙しい毎
日の良い思い出だと思うとしよう。
292
そんなある日、クリス様から時間が出来たら訪ねるので、面会で
きる時刻を教えて欲しいと手紙を受け取った。来いと言われればす
ぐに屋敷まで訪ねたのだが、これは多忙な現状を気遣っての事だろ
う。
とりあえず任せられる仕事は全て部下に任せ、なんとか一時間程
度捻出し、空いた時間を手紙で伝えると、時間ぴったりにクリス様
がやって来られた。
﹁忙しいのにごめんなトラバントさん、お姫様の護衛に同行した時
に色々あってね。伝言で済む話じゃないから直接話しに来たよ﹂
そう言えばクレイター国の交渉団が滞在してましたな、神殿にも
代表が挨拶に来られましたが大層可愛らしい姫君でした。彼女たち
が帰国の際に勇者様を護衛にするとは、カール様も随分と気を使っ
てるようですな。
残念なのはクリス様が同行なさるのを事前に知っておれば、我が
孫娘を護衛として推挙したものを、機会を逸してしまったのは惜し
かったですの。まぁ護衛という任務の関係上、詳細を言い触らす訳
もないのは百も承知。
﹁どっから話したものかな⋮⋮ええっとデカイ狼は広場に飾るんだ
っけ?﹂
﹁勿論です、50年も前に多くの国土と人命を奪った魔王種です、
討伐の事実は遍く民衆に知らせねばなりません。儂の友人も奴の討
伐に参加し、何人帰ることのできぬ結果となったか⋮⋮﹂
儂としては憎き魔王とはいえども、晒し者にするのは気が進まな
293
いのだ。だが先代辺境伯のロジェ・カロリング様や、老臣達がどう
しても奴に槍を突き立てたいと強硬に主張しているし、神殿内でも
儂と同世代の者達が賛同してるものだから、儂一人が反対してもど
うしようもない。
領主として領地を、そして生まれ育った故郷を奪われた者達の怒
りはそれほどのものか。聞いた話では魔王の死骸は辺境伯邸の倉庫
アイテムボックス
に保管する予定であったのだが、屋敷に勤める老僕が倉庫の鍵を開
け、月狼王の死骸に火を放つ事件があり、今はクリス様の収納空間
に収まっている。
流石に魔王種の毛皮は簡単に燃えるよな代物ではなく、少し焦げ
た程度であったし。息子を食い殺された復讐だと証言した老僕に同
情した者も多く、謹慎で済ませたとロジェ様が仰っていた。
﹁近場で置けそうな広場に先約があるとなると、他には収まりきら
ないから困ったな。郊外でもいいから、もっとデカいのを置ける場
所ないかな?﹂
ん? もっとデカいのとな? なんだかとても嫌な予感がします
が、とりあえず神殿から北にある荒地のことを教え⋮⋮
﹁それじゃそこにパラポネスとか言う、デカい蟻の素材置いとくか
ら好きにして良いよ。なんでも鉄と混ぜると便利な金属になるそう
だから高く売れるだろ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮パラ⋮⋮ポネス⋮⋮と申されましたか?﹂
儂の耳がおかしくなったのでしょうかの? この国にいるはずの
ない魔王種の名前を聞いたような? 最近忙しいですのできっと聞
294
き間違いでしょう、そうでしょう?
﹁同行してくれたサリーマさんは﹃鋼蟻帝パラポネス﹄って言って
いたな、鎧蟻の魔王種で小山みたいな女王蟻だ﹂
⋮⋮うーん⋮⋮⋮⋮はっ! 一瞬思考が止まってしもうた! 落
ち着け、落ち着けよトラバントよ、大事なのは平常心だ、儂は大神
官なのだ。法の女神トライア様に仕える者は狼狽えない、そうじゃ
法の守護者として常に揺るがぬ心を持たなければ! 心の中で深呼
吸をし、思考を切り替える。
﹁お、おぉ! 発生から300年は経ち、帝国ですら討伐の叶わぬ
魔王種を倒すとは! 流石はクリス様ですな﹂
あまりの事に驚いたが、考えてみれば儂らになんの不利益もない
話、我らが勇者様が武勲を挙げられたという単純な話じゃ。ほっほ
っほ、来年はこの件を題材に演劇を上演するかの。
デカ
﹁護衛してて襲われたから返り討ちにした、一部を一緒にいた傭兵
団の人に分けたけど巨大すぎて余ってさ。素材売ったお金で頑張っ
てる人たちに、美味いものでも振舞ってあげなよ、みんな忙しそう
だし﹂
パラポネス⋮⋮確か我が国より北方の国で発生し、多くの国が連
合を組んでも300年討伐の叶わなかった恐るべき魔王種。齢を重
ねる毎に強大化する魔王種が300年も生存すれば。どれほどの脅
威となるかは想像に難くない。
最近になって大陸最大の領地を持つまでに版図を広げたリーテン
ブ帝国ですら、手を焼き。かの帝国では討伐を成し遂げた者は皇族
295
として遇するというお触れが出るほどだ。
鎧蟻の甲殻を材料にした魔鋼は防具の素材として需要は計り知れ
ず、確かに多額の利益が見込めます。まして魔王種ともなればその
価値はまさに青天井でしょう。
﹁腹とかブヨブヨしてて気持ち悪いし、そもそも巨大な虫とか飾っ
ても女の子が、まぁ男でも嫌だろうけど。俺じゃ売っぱらう伝手と
か無いから神殿に任せようと思ってさ﹂
カネ
お祭りって予算がかかるだろ? 皆が楽しめるように神殿で使っ
てくれ⋮⋮と笑顔の勇者様に言われましても、いや気遣いは有り難
いのですが。それって、警備から解体、その他諸々に人手が割かれ
るってことですよね? 組織の長として予算が増えるのは嬉しいで
すが、現状でやられると過労死一直線なのですが⋮⋮
﹁お待ちくだされ、討伐した魔物の素材は、辺境伯家で一括に卸す
のが筋ですぞ。食肉を知り合いに分ける程度ならともかく、魔王種
の素材の価値はまさに青天井、勝手に売るのはある意味脱税ではな
いでしょうか!﹂
ちなみにそんな決まりはないが、中間マージンが辺境伯家の財源
になってるのは確か。申し訳ないんですがこれ以上人手を取られた
ら、神に仕える身としての勤めに支障が出ます。
予算は欲しいですが、その為に神官として勤めを疎かにするのは
本末転倒。ふっ流石は儂、魔王を倒した衝撃で混乱していては、何
も考えずに受け取っていたことでしょう。しかし法の女神様に仕え
る我らは常に平常心。揺るがぬ強靭な精神の持ち主なのですから。
296
﹁それもそうか、カール王子は留守だったから後にしてたけど、会
いにいく時にでも渡すよ⋮⋮でも邪魔になりそうだよな、デカイか
ら倉庫にも入りそうにない﹂
アイテムボックス
とりあえずお祭りが始まるまでは、収納空間に入れたままにして
くださるようだ。二体目の魔王を倒してしまうとは予想もしなかっ
たが、立て続けに偉業を成し遂げる姿に、誇らしい気持ちになりま
す。この方こそが我らが祈りを捧げる女神様が、遣わしてくださっ
た勇者なのですから。
そして折を見て儂の孫娘のアルテナを嫁がせよう。自慢ではない
が、決して自慢ではないが儂の孫は、器量良し、気立て良し、家事
は万能で、信仰厚く神聖魔法の練度に優れており。それを奢らずに
神官戦士としての修行を怠らぬ努力家な、何処に嫁に出しても恥ず
かしくない自慢の孫である。
とはいえ儂が無理に嫁がせるのも外聞が悪いからの、徐々に接点
を増やしつつ仲を深めるようにするのだ。アルテナもクリス様に憧
れておるようだし何も問題はあるまい。
ふふふ、勇者様と親戚になれば普段口煩い長老連中も、強くは言
えまいて。儂は話してる間に少々温くなったお茶を飲み、頭の中で
クリス様と孫娘をくっつける計画を⋮⋮
﹁そうそう、それとクレイターの姫さんを嫁に貰ったから﹂
︱︱︱ブホォォォォ!!
﹁ゲホッゲホッ! し、失礼しました﹂
297
いかん不意打ちでお茶を吐いてしもうた! クリス様にもかかっ
てしまったが、気にした様子もなく咽せた儂を心配そうに見ておら
れる。
﹁大丈夫かトラバントさん、背中叩こうか?﹂
別の事を考えていたせいか平常心が乱れてしまったか、落ち着け、
落ち着けよ儂。落ち着いて祈りを捧げるのだ。その間クリス様は雑
巾で飛び散ったお茶を拭いていてくださっていた。も、申し訳ござ
いません、クリス様にそのような真似をさせるとは。
﹁話を戻すけど、都合のつく時でいいから神殿の儀式場を貸しても
らえないか? 確か結婚の時に着る正装も貸出してたよね。一応本
人も連れてきてるけど、流石に大神官の執務室に連れてくるわけに
はいかないから、別の部屋で待っててもらってる﹂
確かに結婚の時に纏う正装は、神殿で聖別した生地で仕立てられ
た純白の服︱︱︱男は簡易な神官服で女はかなり意匠の凝ったドレ
スだ︱︱︱で貸出も販売もしてますが。その前に正装を纏うのは誰
かというのを確認させてくだされ。
﹁クレイター国の姫と申されましたか? あの、良ければどのよう
な事情か伺っても?﹂
﹁魔王種倒したら魔核が三つあってな、そのうち一つをクレイター
の王様が欲しいって言うから譲ったんだ﹂
いやそんな、お裾分けじゃないんですから、一つで各国の力関係
を崩すような危険物をあっさり渡さないでくだされ。とりあえず魔
王種関係と勇者様の女性問題は、全てをあるがままに受け入れるこ
298
とに決めた。
﹁それでルーフェイを、ああ、クレイターの姫の事だけど。嫁に差
し出すって言ってきたから、一度は断ったんだけど強引にな。オリ
ヴィアたちが道中妹みたいに可愛がってたし、俺にも懐いてたから
受け入れたんだ﹂
クリス様の三人目の嫁はアルテナを選んでいただこうという、儂
の目論見が潰えた悔しさを信仰心で消し去り、思考の切り替えによ
り再び平常心を取り戻す。
﹁一国の王女との婚姻となれば、できれば内外に知らしめる意味で
も、時期を選んだほうが宜しいかと。近いうちであれば貴族の皆様
が集まる式典の日など如何でしょう? 正装も貸し出しのものでは
なく、新しく仕立てるべきでしょう﹂
済まない演劇の衣装を担当する信者たちよ、急ぎのオーダーメイ
ドを受注してしまったが頑張ってくれ。催事の目玉として、勇者様
と姫様の婚姻という絶大なイベントにはドレスが必須なのだ⋮⋮儂
の方も予定変更で仕事が増える気がしますが、祭りを盛り上げる為
には致し方ありません。
﹁そっか、ルーフェイはお姫様だしな、それじゃその日に頼みます﹂
今から段取り変更をするとなると、各部署から怨嗟の声が上がり
そうですが、これ以上ない式典の目玉になるのだからなんとかする
しかあるまい。ふふ儂は冷静じゃ、平常心で祭りの成功に心を砕い
てるのじゃ⋮⋮
その日、儂の必死の説得により、勇者様と王女の結婚式を行うと
299
・・・・・
決めたのは良かったが⋮⋮後日、さらに過密なスケジュールになる
事態がやって来るとは夢にも思っていなかった。
300
波紋−大神官︵後書き︶
読んでくれた皆様ありがとうございます
主人公も決して神殿の皆様を過労死させたいわけではありません、
基本的には頑張ってる人を励ましつつ、お祭りが盛り上がれば良い
なと思ってます。
301
忍び寄る者︵前書き︶
ちょっと新ヒロインさんを書くのが楽しくて、カール君の描写は次
回に持ち越します。
なお、今回乱暴な描写がありますが、前後の文脈から特に誰かが迷
惑を被るわけではないのが分かると思いますので、ご了承ください。
302
忍び寄る者
トラバントさんとの面会を終え、催事の目玉としての結婚式の話
をすると、今日祝福を受けるものだと期待していたルーフェイは、
がっかりした様子で尻尾も垂れ下がってしまった。
しかし結婚式で着るドレスを仕立てるためだと言うと、すぐに機
セレブ
嫌を直してくれた。なんでも待つ時間を楽しむのが仕立服の醍醐味
だとか、この辺の感覚はさすが王族と言ったところか。
俺からすると既存の服の寸法直せば十分なんだが、それを口に出
すのは野暮というもの、女の子にとって結婚式で纏うドレスは特別
なのだから。
男物の正装は寸法を測るだけだったが、女物のまして王女が結婚
式に纏うドレスとなると寸法の他に、デザインやらアクセサリー等
々専門の職人さん達との打ち合わせが長くなってしまった。
ルーフェイは楽しそうに、そして真剣にサンプルのデザイン画を
見比べていて、俺は若干置いてけぼりである。やっぱり女の子はこ
ういうの好きだよな、今度オリヴィアとディアーネにも、ドレスを
贈りたいから連れてこよう。
女の買い物、まして仕立服ともなれば時間がかかって当然、文句
を言わずに付き合うのが男の度量だろう。なんか職人さん一同﹁ス
ケジュールが⋮⋮﹂とか、﹁内職のできる職人を可能な限り抑えろ
⋮⋮﹂とか言いつつ青い顔をしてるが、待ってる間に仕立て代の全
額を先払いしておいた。こうすると良い具合にプレッシャーになる
303
ジジイ
って師匠が言ってたし。
そうして神殿専属の仕立て屋で、正装の採寸を済ませた俺たちは、
馬車は神殿に預け、ゆっくりと手を繋いで街を散策しつつ屋敷に帰
る事にした。
帰り道では、街の人間がほとんどが俺の事を知っているせいか、
すれ違うたびにお辞儀されたり、中には拝む人までいるが、俺は気
にしない。ルーフェイにも視線が集まるが、注目されるのは慣れて
るのかいつも通りだ。むしろ笑って手を振ったりしてる辺り、お姫
様なんだなぁと実感する。
獣人族は珍しいが、冒険者をやってるクレイター人が、たまにい
るので奇異な目で見られてはいない。むしろ人懐っこい笑顔のルー
フェイに好意的な視線が多い。
時間はお昼にはまだちょっと早いくらい、ご機嫌なルーフェイと
手を繋いで歩く街並みは、人通りの多い通りだけあって中々の賑わ
いだ。特に予定があるわけでもないし、デートを楽しむとしよう、
夫婦や恋人というより保護者に見えるのは気にしないことにする。
﹁ルーフェイ、お昼ご飯にはまだちょっと早いけど、どこかで食べ
て帰ろうか。なにか食べたいものはあるか?﹂
﹁それじゃこの街で流行ってるっていう﹃素材パン﹄を試してみた
いです﹂
意外なチョイスだが、確かにお姫様が食べるにはちょっと行儀の
悪いので、護衛の人達が食べさせてはくれないだろうな。それで街
を眺めれば、ちらほらと美味そうに食べながら歩いてる人がいるの
304
だから、興味を持ってもおかしくはない。一応この街の名物として
それなりに知られたものだしね。
素材パンとはカール王子がこの地方にやって来てから、数年後に
急速に広まったモノで、単純に細長いパンの真ん中に縦に切れ目を
入れて様々な具材を挟んだパンだ。単純なので誰でも手軽に作れる
し、歩きながら食べれるので、忙しい労働者たちの食事として受け
入れられたそうだ。
多分カール王子からすれば忙しい中、食堂に足を運ぶのは勿論、
部屋に使用人が持ってくる食事の度に、態々机の上を片付けるのが
面倒だったんだろう。物凄く散らかってるからなカール王子の執務
室。
行儀が悪いと苦言を呈した重臣もいたらしいのだが、山のような
書類に埋もれ、幽鬼が如き形相のカール王子がパンを食べつつ筆を
走らせてる様子を見て、即座に前言撤回と謝罪をして踵を返したと
いう⋮⋮書類仕事から逃げたな重臣さん、武官だったという話だか
ら分からなくもないけど、せめて手伝ってあげようよ。
さて、そんな曰くのある素材パンだが、広めた本人は本当は﹃ソ
ーザイパン﹄だと主張してたらしい、とお手伝いのオバちゃんが言
ってた。まぁもはや街では素材パンで認知されているので諦めても
らうしかない。
﹁素材パンだな、分かったそれじゃお店で食べるんじゃなくて、持
ち帰り用で包んでもらって公園で食べようか? それとも持ち込み
が出来るカフェにでも入ろうか?﹂
﹁わふっ! それじゃ公園に参りましょう。まるでピクニックみた
305
いですねクリス様!﹂
二人でピクニックというのが嬉しいのか、腰に抱き着き、尻尾を
ブンブン振り回すルーフェイ。なんでも滅多に外出できなかったの
で、自由に出歩けるだけで楽しいそうだ。よしよしピクニックくら
い、いつでも連れてってやるぞ。
﹁今日は二人きりだけど、次の機会があったら、オリヴィアとディ
アーネも連れてピクニックに行こうか。みんなでお弁当作ってさ﹂
﹁は、はいです! 姉様たちも一緒にピクニックかぁ⋮⋮絶対! 絶対行きましょうねクリス様!﹂
楽しみで堪らないと、満面の笑みで俺に抱き付いてくるルーフェ
イに、自然と俺の頬も緩んでしまう。あぁ可愛い、俺の嫁は皆、タ
イプが違えど最高に可愛い。
さてさて、ご機嫌なルーフェイとのランチはどこで買おうかな?
素材パンは作るのが簡単なだけあって、誰でも手軽にできる商売
だ。パンそのものは安く買えるし、冒険者などが自ら狩った獲物の
肉などを焼いて挟んだものとか、食べられる野草をサラダと言い張
り店に出す人もいるらしい。
当然当たり外れの幅は大きく、初見の店で買うのはちょっとした
ギャンブルだ。まぁそれを楽しんでる人も一定数いるのだが。外れ
の店でもまぁ笑い話になるだろうけど、折角だし美味しいお店を見
つけたいな。
﹁クリス様! あのお店です、あのお店から良い匂いがします﹂
306
そう言ってルーフェイが指さしたのは、小さいながらも小奇麗な
パン屋だった。ふむ、舌が肥えてる上に、鼻の良いルーフェイが言
うなら間違いはないだろう、当たりの店ならオリヴィアたちの分を
買って帰ってもいい。
ちなみに俺が気に入ってるのは塩っ気の強い味付けの、焼いた厚
切りベーコンと野菜数種類を挟んだもの。オリヴィアはポテトサラ
ダ、ディアーネはハムとチーズがお気に入りだ。
カール王子は様々な野菜と調味料を混ぜて煮込んだ黒いソースを、
たっぷりと染み込ませた焼きパスタが至高だと主張してるが、賛同
者は少ない。俺としてはソース焼きパスタは普通に美味しいので、
別々に食べたほうが良いような気がするが、権力者に逆らってまで
言う事でもない。
ただこの焼きパスタパン、数少ない賛同者には非常に気に入られ
ていて発案者に敬意を表し、黒ソースの焼きパスタパンはカールパ
ンと呼ばれているそうだ。
それぞれの好みはともかく、ルーフェイに手を引かれ、立ち寄っ
た店は掃除が行き届いていて雰囲気が良い。店に入るとパンの匂い
と共に木の香りもする、どうやら新築の店のようだ。店には女性が
一人だけで、飲食店らしく化粧っ気の薄い、やや地味な印象の店員
さんだった。
﹁いらっしゃませ﹃森の庵亭﹄へ、ようこそおいで下さいました﹂
﹁わふっ! ますます良い匂いがします、クリス様ここで買いまし
ょう﹂
307
店に入った途端ルーフェイの尻尾を振る速度が上がる、良さそう
な店なので今日の昼飯はここで買うとするか。虫除けの為なのか透
明なガラスで覆われた陳列棚には、作り置きと思われる素材パンが
所狭しと並んでいた。盛り付けが綺麗でどれも美味そうに見える。
﹁ルーフェイは好きな物を選びな、ただ食べきれないほど沢山買っ
ちゃダメだぞ﹂
﹁はい、クリス様!﹂
元気よく返事をするルーフェイの意識は、既に陳列されたパンに
向かってるようで、尻尾を振りながら陳列棚を熱心に眺める姿は実
に和む。パン屋のお嬢さんも同じことを考えてるのか? 微笑みな
がらルーフェイを見ている。
ちょっとぽっちゃりしてて地味な、印象に残らない感じの女性な
のだが、よく見ると⋮⋮あれ太ってるんじゃなくて胸がデカいのと、
胸囲
服装のせいでそう見えるだけだ。やや小柄なのに目測でディアーネ
と同等以上、なんて凄まじい脅威だ、つい目線が固定されてしまう。
おっと不躾な視線に気付かれたか? 店員さんがこっちを見るが、
軽くほほ笑むだけで何も言わない。多分そういう視線に慣れてるの
かな? なんか悪い気がしたので嫁やオバちゃん達の分も買って帰
ろう。
さて、まずは自分の分を買うとするか、とはいえ素材パンは千切
って分ける事もできるし、ルーフェイと被らないように選ぶか⋮⋮
どうやらルーフェイは考え抜いた挙句に、揚げ物を挟んだ物を選ん
だようだ。それじゃ俺は豚の腸詰と、タレ付きの羊肉の二個買うと
するか。
308
﹁クリス様クリス様! これが一番良い匂いがします! 一緒に食
べさせっこしましょうね﹂
ルーフェイは一つ、どうやら食べきれないほど買っちゃダメと言
ったから、悩んだ挙句に豚肉のフライを挟んだパンにしたようだ。
アイテムボックス
俺たちが食べる分を除き、お土産分として店にある全種類の素材パ
ンを買い、持ち帰り用に包んでもらう。収納空間に入れれば、これ
で時間が経っても温かいままだ。
アイテムボックス
お嬢さんがなにやら驚いてる様子だが、収納空間なんてそれほど
珍しい魔法でもない筈だから、何か失礼をしてしまったのか? ま
さかルーフェイの態度から俺たちが恋人か夫婦だと察し、幼い少女
を手籠めにする悪人に思われたのだろうか? 確かに平均より小柄なルーフェイに手を出した事実は揺るがない
のだが、嫁なんだから問題あるまい、きっとない。
﹁あ、あの⋮⋮﹂
まさか衛兵に通報されたりしないよな? いやでも客観的に見て
俺とルーフェイを見たらどう思うだろうか? 無形族と人狼族だか
ら兄妹には見えないだろうし、ルーフェイはことあるごとに抱き着
いてくるし⋮⋮良し店を出たら周囲の認識をずらす術で、誰の目に
も映らない様にしよう。
﹁あの、お客様⋮⋮﹂
﹁なんだ? ルーフェイは正式に俺に嫁いできたんだから、デート
して責められる謂れはないぞ。まぁ祝福をかけるのはまだ先だが﹂
309
﹁いえ、そうではなく⋮⋮お釣りをどうぞ、あと沢山買っていただ
いたのと、よろしければ私のお店を今後ご贔屓いただければと思い
まして、サービスでアップルパイをお付けします。さっき焼きあが
ったばかりで奥様にも気に入っていただけるかと﹂
ああ、すまん店員さん、考え事に没頭してたせいで、つい剣呑と
した態度になってしまった。こういう態度は男らしくないので、こ
こは紳士的に礼を言うと、釣りとアップルパイを受け取り店を出た。
ルーフェイは良い匂いだとパイの包みをキラキラした目で見てる。
公園で一緒に食べた素材パンは物凄く美味く、特にサービスで貰
ったアップルパイは、王女であるルーフェイから大絶賛だった。こ
れは大当たりの店だな、屋敷から歩いていける距離だし、ちょくち
ょく寄らせてもらうか。
∼∼∼∼∼
アタシの名はヴィヴィアン、リーテンブ帝国の諜報員だ。多くの
冒険者や食い詰めた開拓希望者が集まるこの街に潜り込むのは簡単
で、アタシは街に溶け込む一環として、パン屋の経営者としての身
分を手に入れた。
任務は情報収集と噂のばら撒き、店を開いたのはつい昨日の事だ
が、中々順調だと思う。この街への移住者は多く余所者として警戒
されることもない、諜報員として培った話術があれば、パンを買い
に来た客から様々な話を聞き、また不穏な噂を植え付けられるって
もんだ。
310
そしてもう一つ重要なのが、権力者の妾でもいいから取り入るこ
と。この街にはその為に専門の教育を、幼い頃から叩き込まれた同
僚が何人も潜り込んでるのさ。後は身請けした元娼婦とかかね、彼
女らは男を誘うプロだからね。
そしていざ戦争が始まったりすれば、内部から不和を煽ったり離
間工作を仕掛けたりするのがアタシの任務。同じ事はこの国もやっ
てるからおあいこってなもんだ、むしろこの国、いやカロリング辺
境伯のほうがえげつないな。
全貌はアタシのような下っ端には知らされていないけど、なんで
も帝国傘下の国々に謀反の火種をばら撒いたり、中央政府には金を
使って内部抗争を泥沼化させたりと、なんかアタシの上司がまるで
悪魔の所業だと恐れていたね。まるで帝国の内部事情を熟知してる
かのように、的確に金やら偽手紙やらを送り付けてるそうだ。
やだやだ、こういう陰険な事が日常の王族やら貴族ってのはおっ
かないね。本音を言えば関わりたくない、だから権力者と縁が薄そ
うなパン屋を開いたんだ。
でも任務だからなぁ嫌だけど、形だけでも権力者に近寄るふりを
しないと⋮⋮どうせなら若くてイケメンのお貴族様なら喜んでお近
づきになりたいけど、そんな優良物件がパン屋の店員なんて相手に
するはずもないからね、変な夢見ないでパン屋やってよ。
そんな事を考えていたその日、昼前にやってきたお客さん、いや
あの方と会って昨日までの考えはすべて消し飛んだ。
やたらと上機嫌な人狼族の少女を連れた彼の顔は、逆光でよく見
311
えなかったがかなり若そうだ、歳は19歳のアタシと同じくらいだ
ろうか? 服装はきちんと寸法を測って仕立てられた物のようで、
派手さはないがよく見れば高価な生地で誂えられている。断言でき
る金持ちだ!
そうなると人狼族の女の子は使用人かなにかだろうか? マーニ
ュ王国はクレイターと国交は無いはずなので、珍しい人種を奴隷と
して連れまわしてるのかとも思ったが、肌、髪、そして手を観察し
てみると、恐らくはお嬢様だ。
ただ多少家事は嗜んでるようだから下級貴族? それとも裕福な
商家の子かな? そんな子が無邪気に懐く彼は要するにそれ以上の
身分なのだろう。
じっと観察してたのが不味かったのか、彼はアタシを訝しげに見
ている。慌てて営業スマイルの仮面を被ると、何事もなかったかの
ように素材パンを選び出す。危ない危ない、今度はばれないように
さりげなく彼を観察する。
アイテムボックス
結論から言おう⋮⋮若くて金持ちで、連れの女の子への対応から
女性に優しそうで、しかも商品を受け取ったときに簡単に収納空間
の魔法を使うなんて、熟練の魔法使いでも難しいっていう超高難易
度の魔法なのに! しかもイケメンとか。これは惚れるでしょう、
任務とか関係なしに妾になりたい!
アタシの邪念が気付かれたのか、クリス様と呼ばれる彼に声をか
けると、人狼族の女の子を嫁だと言って、会話を切られる。くっ流
石に女に言い寄られるのに慣れてるのかガードが堅い!
﹁いえ、そうではなく⋮⋮お釣りをどうぞ、あと沢山買っていただ
312
いたのと、よろしければ私のお店を今後ご贔屓いただければと思い
まして、サービスでアップルパイをお付けします。さっき焼きあが
ったばかりで奥様にも気に入っていただけるかと﹂
自慢ではないがアタシは料理が上手い、教育の一環で仕込まれた
が才能があったらしく、一等地にレストランを開いてもやっていけ
ると思う。がんばれアタシ! なんとか、なんとか常連になっても
らえれば突破口はある!
﹁ん、そうか⋮⋮ありがとうまた来るよ﹂
そうして女の子を伴い彼は店を出た⋮⋮また来るよ、また来るよ
⋮⋮うへへ。これはアレかな期待しちゃって良いのかな?
∼∼∼∼∼
賑やかだった大通りは日が落ちると、途端に静かになる。アタシ
は店仕舞いを終え、休もうとした時だった。いきなり店のドアが開
き、若い男が入ってきた、なっなんで?! 鍵は閉めたはずなのに!
﹁だ、誰! 大声出せば人が集まるんだよ﹂
精一杯の虚勢を張るアタシを嘲るように、無遠慮に近づく男⋮⋮
それは昼に店に来たクリスさんだった。女の子を連れていた時に見
せた優しい笑顔は欠片も無く、代わりに飢えた野獣のような眼差し
でアタシを見据えていた。
その強い眼光にアタシは声をあげるのも忘れ、竦んでしまってい
313
た。怖い、オオカミと相対したウサギとはこんな心境なのだろうか?
﹁客としてきた、騒ぐな﹂
﹁え? あ、ク、クリスさん? パンはもう売り切れちゃって⋮⋮﹂
・・・・・・・・
﹁お前を買いに来た﹂
それだけ言うとクリスさんは店の奥、アタシが普段生活してる部
屋にいきなり入り込み。動けないアタシを壁際に抑えつけ、無理や
りキスされる。
﹁んっ! んむぅぅぅ﹂
あぁ! 初めてのキスがこんなあっさり奪われるなんて、しかも
口内を蹂躙するように舌で弄られ何にも考えられないっっっ! 舌
と舌が絡み合ういやらしい水音が耳に響く。
あまりの事に混乱したアタシは、キスで意識を奪われている間に
彼の手で、服を切り裂かれているのに気が付けなかった。家族にす
ら見せた事のない姿にされ、胸にも腰にも彼のいやらしい指に触れ
られると、痺れたような快感が身体中を駆け巡る。
﹁ふふっ思った通りお前の身体は極上だな、そんな野暮ったい服は
邪魔だな、俺に生まれたままの姿を見せろ﹂
ついに下着まで剥ぎ取られ、生まれたままの姿をクリスさんに晒
してしまう。あぁ恥ずかしいよぉ、逃げないといけないと頭では分
かっていても、身体が竦んでしまっている。いや、心のどこかで﹁
彼から逃げられるはずがない﹂と言う諦めと、﹁この人のモノにな
314
りたい﹂と、考える倒錯した願望が、足を止めてしまっていた。
﹁いやぁ! や、やめて乱暴にしないで、アタシ初めてなのにぃぃ
ぃ﹂
初めてと聞いてクリスさんの口角が歪む。まるで仕留めた獲物の
前で舌なめずりをする獣のようだ⋮⋮いや、実際彼は獣欲を一切隠
さないケダモノだ! いつの間にか服を脱いだ彼の股間⋮⋮あ、あ
んなモノが、あんなに大きなモノが、アタシの膣内に入るわけない
よ!
﹁デカい胸だ、こんなもので俺を誘っておいて抵抗するんじゃない。
この胸はもう俺以外に見せるんじゃないぞ⋮⋮まぁこれからガキを
何人も孕ませてやるから俺以外ってのは無理か? ククク⋮⋮﹂
本気としか思えない冗談を言いつつ、アタシの胸にむしゃぶりつ
く。乱暴にされ痛いかと思ったが、意外と優しい手つきで、段々と
気持ちくなってしまう。
﹁あっやぁ⋮⋮はぁん、お願いもうやめてクリスさん⋮⋮アタシ⋮
⋮んむぅ!﹂
胸で感じさせられ、舌を絡めたキスで、もう何が何だか分からな
くなる⋮⋮頭の中が真っ白になり、元々弱かった抵抗が完全にでき
なくなる⋮⋮体から力が抜けたのが分かったのだろう、押し倒され
ていたアタシの身体の向きを変え四つん這いにさせられる。
背後から覆いかぶさるように、両手はアタシの手に重ねられ身動
きが取れない。度重なる胸への愛撫と、キスによってもはや言葉で
抗う事すら諦めてしまっていた。この人に身体も心も奪われるのを
315
自ら認めてしまっていた。
﹁貰うぞ?﹂
耳元で囁かれた一言に、もう逆らう事はできず、頷いてしまう。
アタシは頷いてしまったのだ。あぁ⋮⋮あげちゃうんだ、この方に
アタシは貰われちゃう。
﹁いっ! あっんあぁぁぁぁぁぁ!!﹂
熱いモノがアタシの膣口に当たったかと思うと、一気に貫かれる。
長大な肉の凶器によって長年守ってきた処女を奪われて⋮⋮あぁ奪
われちゃったよぉ。激痛と、どうしようもない喪失感に涙が溢れ止
まらない。そんなアタシを見てクリスさんは笑う。
﹁なんだ? そんなに嬉しかったのか? ククク⋮⋮ハーッハッハ
ッハ!﹂
アタシの処女を奪った彼は気を良くしたのか、ゆっくりと、感触
を楽しむようにオチンチンを出し入れする。あぁ! 熱いのが奥ま
でっ! 大きくて逞しいものが何度も子宮の入り口を叩く。
﹁あっあっ! あぁぁぁ酷い事されてるのにぃ⋮⋮無理やりなのに
ぃ、あっあっくぅぅぅ! ク、クリスさん⋮⋮もう許してぇ﹂
認めたくない現実、アタシのオマンコは愛液で濡れてしまってい
た。当然彼が気付かないはずがなく。ニヤリと嗜虐的な笑みを浮か
べる。
﹁ふふっ口では何と言おうと身体は正直なようだな、素直に楽しめ
316
ヴィヴィアン、そうすれば少しは優しくしてやるぞ?﹂
﹁いやぁ! アタシ感じてなんて⋮⋮乱暴にされて感じるような女
じゃ⋮⋮﹂
アタシの反論は、欲棒を膣の奥まで押し込まれ、奥まで激しく突
かれ止められる。代わりに口から溢れるのは嬌声、彼の前に処女の
アタシが太刀打ちできるはずもなく。もうとっくに彼の獣欲の前に
屈してしまっていたのだ。
﹁あ、あ⋮⋮もっと⋮⋮﹂
﹁聞こえないぞ、もっと大きな声で言え﹂
もうこの人には逆らえない⋮⋮アタシ、何人もこの人の子供を孕
んじゃうんだ⋮⋮
﹁もっと! もっと激しくしてぇぇぇ! アタシは⋮⋮ヴィヴィア
ンはもう身も心もクリスさんのモノにされてしまいましたぁぁぁぁ﹂
﹁よく言ったな、ご褒美だ、膣内に出してやるから受け取れよ、俺
のは濃いからな確実に孕むぞ?﹂
﹁はひぃぃぃ孕ませてぇ! ヴィヴィアンはクリスさんの子種で⋮
⋮﹂
∼∼∼∼∼
317
﹁うひひ⋮⋮いやぁん♪ クリスさんのケダモノ♪ そんな乱暴に
されたら間違いなく出来ちゃう♪﹂
﹁もしも∼∼し⋮⋮店員さん? パンを⋮⋮やっぱりいいです、お
邪魔しました﹂
はっ! アタシは今まで何を?! 慌てて周囲を見渡すとクリス
さんと人狼族の女の子はすでに雑踏に紛れ姿が見えない。その代わ
りに道行く人たちが、生暖かい目線でアタシを見てる。
﹁い、いらっしゃいませぇぇぇぇ! ﹃森の庵亭﹄へようこそおい
で下さいましたぁぁぁぁぁぁ!!﹂
正気に戻ったアタシは帰ろうとした客の襟首を掴み、笑顔で接客
をする。なんとか誤魔化しが効いたのか、午後からはかなりの客が
入った。どうも昨日パンを買った客が、私の店を紹介してくれたそ
うで、日没にはまだ時間があるのに店内のパンは売り切れてしまっ
た。
仕方ないのでパンに挟む具材だけ売ることにして、お客から情報
を集める。するとクリスさんについて詳しい話が聞けた。どうもア
タシの独り言を聞いたらしい客の一人が、親切にも詳しく話してく
れたのだ。
﹁ゆ、勇者様! あの方ってそんな偉い人だったんですか﹂
﹁そうさ、さっきこの店で売ってる素材パンを公園で食べてるのを
見てね、ひょっとしたらと思ったんだ。一緒にいたのはなんでもど
こかのお姫様でお嫁さんらしいよ﹂
318
迂闊だ、帝国の諜報員として赴任したばかりとはいえ、アタシが
パン屋の準備に追われてたせいで勇者の事を知らなかったとは⋮⋮
﹁ご正妻のオリヴィア様なんてとんでもない美人だし、ご側室のデ
ィアーネ様も勿論美人だけど、それ以上に色っぽくてねぇ⋮⋮﹂
どうも勇者はこの街ではかなり有名人のようだ、聞いてもいない
ことを延々と教えてくれる。
お、面白い⋮⋮やってやろうじゃないか! 勇者に近づくことが
できれば任務も捗るというものだ。正直この時点で帝国からの任務
とか頭から抜けていた気がする、だって任務に忠実に働いて下っ端
諜報員として生きるのと、金持ちイケメンで優しい勇者様の妾とし
て生きるか、どっちかを選べと言われたら⋮⋮ものすごい勢いで後
者に天秤が傾き、前者は空の彼方へ吹っ飛んでいったのだろう。
319
忍び寄る者︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
320
波紋−王子
その日、屋敷に予想もしない来客がやって来た。
﹁初めまして、儂の名はグロス・メイティアと申す。娘のディアー
ネを娶っていただき光栄至極に存ずる﹂
初めて会ったディアーネの父親は、頭の禿げあがった背の低い中
年なんだけど、妙な威圧感があって、やや気圧されてしまう。それ
でもオリヴィアの指導を受けて、最近及第点を貰えるようになった、
貴族の礼を返す。
﹁わ、私のような若輩にも、丁寧なご挨拶⋮⋮えーと⋮⋮お、恐れ
入ります。初めましてクリスと申します﹂
オリヴィア
緊張でちょっと詰まってしまった、背後に控えるマナーの先生も
呆れ気味だ。マナー教室が今後かなり厳しくなるかも知れないから
気を付けないと。いつも優しいオリヴィアだが、指導となると厳し
くていつも勉強の後はヘトヘトなのだ。だがまぁその後に甘えさせ
てもらって、あっさり癒されるあたり我ながら単純だな。
メイティア伯爵は俺のぎこちない挨拶に気を悪くした風もなく、
軽く笑っている。
﹁例えば一般の兵士から、槍働きで身を立てた者の中にはもっと粗
暴な者も多い。そんな中で作法を守り、敬意を払う気概があるなら
ば十分でしょう。我が国の懐はそこまで狭くはございませんぞ﹂
321
なんでも何代も歴史を重ねた貴族、と言うより中央で国政を動か
してる人達の場合、言葉一つ、手紙の一編、僅かな礼の仕草で、他
者からの攻撃材料になりかねない。しかしその反面新興の家とかに
対しては、礼儀に寛容らしく、あからさまな無礼でない限り特に何
も言わないそうだ。
まぁメイティア伯爵に言わせれば新興の家は中央に食い込めない、
要するに政敵になるわけではない。だからこそ些細な事を注意して
相手を不快にするより、煽てて味方にした方が単純に得だからと、
身も蓋もない本音を聞かされたが。
﹁とはいえ、クリス殿は魔王種討伐の功績を以て、叙爵されると聞
き及んでおります。カロリング卿が帰り次第、話があることでしょ
う﹂
﹁そうなの? ⋮⋮ですか、先に言ってしまって良かったの? ⋮
⋮ですか﹂
いかん、落ち着け俺、どうも混乱して言葉遣いが変だ、こんなん
じゃいざという時、嫁に恥をかかせてしまう。メイティア伯爵の言
ったとおりに叙爵されるなら、俺の些細な言葉遣いでオリヴィア達
が馬鹿にされてしまうのは避けたい。
﹁先に知っておれば慌てることもないでしょう、確かに作法は身に
着けて損はありますまい。なぁに慣れれば自然と口と身体は動くも
のです﹂
なんでも叙爵の際には国王陛下に謁見するのだが、ぎこちなくて
もちゃんとした礼服を着て、作法を守れば問題ないそうだ、どうせ
式典では定型文の受け答えしかしないのだから。
322
あげつら
その後のパーティーは酒が入るから多少の言葉遣いは問題視され
ない、そもそも勇者を相手に言葉尻を論うような度胸のあるアホは
居ないそうだ。
しかし、その場で何か言ってくるようなのは居なくても、礼儀を
知らない田舎者だと思われたら嫁に恥をかかすからな、オリヴィア
先生のマナー教室を今後も頑張らなくては、ついでに最近勉強で疲
れた体をマッサージして貰うのが最近の楽しみでもある。
﹁陛下との謁見や正式な叙爵は5か月後の﹃建国祭﹄の式典にて行
われますが、余程の無礼でもない限り問題ございません。それより
も、叙爵されるまでに貴族としての体裁を整えておく必要がありま
す﹂
形だけでも国の要職︱︱︱体裁を整えるためだけの役職が存在す
るらしい、勿論無給だが︱︱︱に就き。国の為に働いてますってア
ピールが必要らしい。
﹁その辺りはカロリング卿が用意するでしょう。さて、それで儂が
訪ねた理由ですが、手紙によると商業区域の運営を任せていただく
という話。これはメイティア伯爵家がクリス殿の信任を受けた﹃委
託﹄による運営という形で宜しいですかな?﹂
俺が頷くと、伯爵は既に用意してあったらしい細かい条件を書い
た書類を、渡してくれたので目を通してみた。土地使用料として毎
月定額貰えることや、問題があっても伯爵家で対処してくれる等。
ちょっと読んだだけで俺に有利な条件だと分かる。
オリヴィアにも見てもらうと、どうも破格の条件らしく驚いてる。
323
こっちは経営に関して何も知らない若造なのだし、てっきり伯爵に
有利な条件を提示するかと思ってたのだ。
﹁勇者の義父という立場は、この辺境では大きいのです。勇者の威
を借りる代価と思って下され、なにより当家の﹃商売﹄で起こりう
る様々な問題というのは、若者にはちと荷が重いかと﹂
ニヤリと笑う伯爵からは、仕事のできる男のオーラが漂っていた。
確かに素人が口を挟んでも拗れるだけか、だったら土地代だけ貰っ
ておくのが良いのかな。そうして話は進み、纏まったところで、今
度は現地で話をすることになった。
お供の人達、というか経営を任される予定の伯爵の部下は、当然
ながら男ばかりなので、男性恐怖症のオリヴィアは留守番。加えて
ちょっと情操教育に良くないお店の話をするので、ルーフェイも留
守番だ。俺はディアーネを伴い、伯爵と一緒に商業区域に向かった。
∼∼∼∼∼
俺の屋敷にやってくるまでに、伯爵は辺境伯の屋敷を訪ね、留守
を預かる重臣と協議して既に場所を決めていたらしい。どこからど
こまでが娼館兼宿屋だとか、公衆湯屋は井戸のあるこのブロックだ
とか、この場所に酒場を造れば酔漢を娼館に誘導しやすい、とかの
説明だけで終わった。完成予想の図面を見せてもらうと、立派な歓
楽街である。
ちなみに屋敷にあるような浴槽に湯を張るタイプの風呂は、水の
確保の面でコストが嵩み、一般人には敷居が高い。公衆湯屋とは、
324
基本蒸気で満たした石室で体を温め、垢を落とし、水で汗を流す形
式だそうだ。
川で水浴びが基本だった田舎では、聞いた事のない施設で、ちょ
っと興味が沸いた。
﹁王都にはそういう場所があったんですね、完成したら試しに入っ
てみますよ﹂
﹁左様ですか、では試してみるとよろしい。おい準備を﹂
アイテムボックス
メイティア伯爵が部下に声をかけると、何やら一抱えもある木箱
をもって来た。ふむ⋮⋮収納空間の効果を限定的に付与した魔法道
具か?
﹁本来、戦場にて急造の砦をその場に﹃取り出す﹄魔法道具ですが、
研究を重ねこのように空き地に店舗を用意することが出来るように
なったのです。まぁ使い捨ての上にあまり大きな建物は無理ですが
な﹂
そう言って均等に割り振られた区画の一つに箱を設置し、なにや
ら唱えると、すぐさま箱は発光して箱に封じられた魔法が発現する。
光が収まり目を開くと、空き地であった場所には立派な店舗が出現
していた。
一ブロックを丸々使い切る三階建ての建物を、あまり大きくない
と言ってしまうあたり王都の娼館ってどれだけデカいんだろう? 小さめな町の宿屋よりはるかにデカいんだが。
後でディアーネに聞くと、王都にある最大の娼館で一階層に千部
325
屋もあり、しかも客のランクによって棲み分けする為に三階層ある
さなが
らしい。その内部にはレストランを始め様々な店舗が軒を連ねてお
り、宛ら一つの歓楽街を建物に詰め込んだような場所らしい。
﹁すぐに準備に取り掛かります、建物としては少々小さいですが、
当家の最新の設備を整えてございます。お客様第一号として感想を
いただければ幸いですな、ディアーネ、お前が説明して差し上げろ﹂
﹁はい、お父様、クリス様こちらへ。湯屋には独特の作法がありま
すから、まずそこからお教えしますね﹂
視察と案内は終わったので、設備を動かす人以外はこの街の色々
な場所に赴くらしい。俺は伯爵と握手を交わし、次の商談に向かう
伯爵を見送った。
ディアーネに手を引かれ即席の湯屋に入ると、そこは俺のような
田舎者にも分かる洒落た空間だった。ロビーは吹き抜けで屋根から
光が差し込み、照明がなくてもとても明るい。また湯上りの客を目
当てとした娼婦の客引きがしやすいようにと、ロビーは広々として
開放感がある。
建物の1階が湯屋で、2階がレストランとバーを兼ね、3階は宿
泊・休憩用の部屋があるそうだ。まず試すのが湯屋なので、ディア
ーネに案内されロビーをまっすぐ進む。
正面入り口から入って、右側が男性用、左側が女性用、そして正
面が少人数での貸し切り部屋らしく、俺たちは正面の貸し切り部屋
に向かう。頑丈で音を通さない素材の壁で区切られた一室に入ると、
まず脱衣所がありここで服を脱ぐ。正式に営業を始めるとこの脱衣
所で、服や下着を洗ってくれるサービスがあるそうだ。
326
確かに汗をかいてさっぱりした後に、汚れた服を着たくないよな。
着替えを持ってきても良いけど、服はなんだかんだと高級品だから
替えが無い人もいるだろうし、盗難の可能性もある。入ってる最中
店に預けるのが一番安全だろうな。
行き届いたサービスに感心しつつ、全裸になった俺とディアーネ
は手を繋いで蒸気の漏れ出す石室に向かう。
﹁慣れた客であれば自分専用の垢擦り用タオルや、水筒を持ってく
るのですが、殆どの者は湯屋が用意したタオルを使用します。クリ
ス様、石室の入り口近くに置かれたタオルと水筒を持って入りまし
ょう﹂
ディアーネに言われ脱衣所の見やすい場所に置かれた、目の粗い
ザラザラしたタオルと水筒を持って入り口をくぐると、そこは仄か
な香気を帯びた湯気で満たされていた。
﹁おーこれは確かに汗が噴き出そうだな、それになんか良い匂いが
するな?﹂
﹁それは窯の中に入ってる香草ですわ、ノミやシラミと言った害虫
が嫌う匂いなのです。他にも発汗を促すものや、怪我の治りが早く
なるものなど、たくさん種類がございます﹂
これもメイティア伯爵家の研究の成果ですわ、と笑顔で話すディ
アーネの表情には実家の家業への誇りが垣間見えた気がする。そう
して話してる間にも、高い室温と蒸気で汗が噴き出てくる。密室な
ので火を使ったランプなどは置いていないが、発光する魔法道具が
天井に設置されていて仄かに明るい。
327
備えてあったベンチに並んで腰を掛け、しばらくするとお互い汗
だくだ。タオルで身体を擦ると毎日体を洗っていても意外と垢が出
るな、お互いに背中を擦ったりしてる内にもどんどん汗は噴き出て
くる。
﹁クリス様、水を飲んでおきませんと、お体に障りますわ⋮⋮んく
っ、んむ⋮⋮﹂
水筒の水を口に含んだディアーネが、口移しで飲ませてくれる。
水は微かに甘く、汗だくの身体に染み入ってくる。お返しに俺から
も口移しで飲ませてやると、彼女は妖艶に微笑み身を寄せてくる。
お互いに裸で汗まみれの中、ディアーネの肢体はいつも以上に淫
靡で、つい胸に手が伸びるがさりげなく止められてしまう。
﹁湯屋で﹃そういう事﹄をしますと万が一がありますので、続きは
部屋で⋮⋮ね?﹂
悪戯っぽい微笑みで、汗まみれの裸で腕を絡めてきたり、口移し
で水を飲ませておいて、お預けは酷いと思うが、これもまたお互い
の愛情を育むエッチのスパイスと自分を納得させ、キスだけで我慢
する。
飲ませ合いをしながら水筒の中身が無くなると、ディアーネに手
を引かれ、入ってきた扉とは別の扉をくぐる。扉の先は石造りの小
さな部屋で、中央には大きめの水樽が置かれていて、これで汗を流
せということだろう。
先に進むディアーネが、部屋に入り口にある小さな光る石に手を
328
かざすと、天井から水が雨のように降ってくる。やや冷たいが火照
った体には心地いい。
﹁この仕掛けは貸し出し用の部屋にしか用意してません、普通は水
樽の水で汗を流します﹂
確かに随分と贅沢な仕掛けだ、だが俺としてはバケツに汲んだ水
を頭からかぶる方が好みかな。水樽の脇に備え付けてある桶に水を
汲んで被ると実に爽快だ。一方ディアーネは天井から降って来る水
を浴びて汗を流している、その姿が妙に色っぽくてドキドキしてし
まう。
見られてるのに気が付いてるであろう彼女の悪戯っぽい笑みを見
て⋮⋮ヤバい押し倒したい、いや我慢だ、この後部屋に行ったら存
分にディアーネとエッチ出来るんだから、無粋な真似はなしだ。我
慢我慢!
備え付けのバスローブを着て、サッパリしたところで、普通だっ
たら食事だったりお酒を飲んだりするのがこの店での定番なんだろ
う。ただあいにくと昼食は済ませたばかりだし、日の高い時間から
酒を飲むわけにもいかない。あと俺の逸物が昂りきっていてヤバい。
ロビーに戻ると2階を素通りして、3階にある休憩室に案内され
た。俺たちが1階で汗を流してる間に支度が済んだのか、休憩室は
高級な宿のように上品で落ち着いた内装だった。
しかしお預けされて昂った俺の性欲は、上品な内装などお構いな
しにディアーネをベッドに押し倒した。唇に、首筋に、胸に、バス
ローブを肌蹴させ段々と舌を下半身に移し這わせていく。
329
﹁はぅぅ! クリス様、そんないきなり⋮⋮んふぅ!﹂
男を色香で酔わせる、彼女の蠱惑的な肢体は俺だけもの。俺の舌
と指で彼女を喘がせ、蕩けた表情は俺だけのもの。おっぱいも、お
尻も、オマンコも全て俺のモノだと主張するのにキスの痕をつけて
いく。
﹁ひゃん! クリス様ぁ今は二人きりですし、おねだりして良いで
すか?﹂
﹁良いぞ、何が欲しいんだ?﹂
エッチの前でなくてもディアーネのおねだりなら、なんでもする
というのに。それとも物じゃないのか?
﹁いつもはオリヴィアも一緒ですから、控えてましたが⋮⋮今日は
私を縛って犯すように激しく抱いてくださいませ﹂
相手を縛るとか俺にとっては未知の領域だ。しかしディアーネの
期待に満ちた目で見られると断りにくいな⋮⋮しかし縛るとなると
身体を痛めるかもしれないし。
﹁うーん、あまり痛そうなのはやりたくないけど、今日のところは
タオルで軽く結ぶくらいで構わないか?﹂
﹁構いません、要は気分ですからね。こう愛する方に屈服させられ
たいと申しますか、為す術もなくクリス様にこの身を蹂躙されたい
のです﹂
所謂イメージプレイと言うものだろうか? そうして仰向けで裸
330
のまま、両手両足をベッドの端にタオルで縛られたディアーネの姿
に⋮⋮何というか奇妙な興奮を覚える。先ほどの続きで下半身に舌
を這わせ⋮⋮
﹁んっ! ンンンッッッ∼∼∼∼∼! はぁぁ、入ってくるのぉぉ
ぉ﹂
すでに湿り気を帯びているディアーネのオマンコに最大限伸ばし
た舌を挿入する。いつもとは違う愛撫にディアーネが身悶えるが、
縛られてるので軽く身動ぎするだけだ。淫らな肢体で俺を溺れさせ
るディアーネを感じさせてる。
﹁やっあっあぁぁぁぁ! や、やだなにこれぇぇ! こんなのはじ
めてぇぇ! あっあっはぁぁぁぁん!﹂
普段体力の差でなんとか優位になってるが、それまではなんとな
く﹃愉しませてもらってる﹄感じがするディアーネとのエッチ。俺
としてはなんとか彼女を感じさせたくて、必死にクンニする。
ディアーネの股間に顔を押し付けより深く舌を挿れ、空いた手で
クリトリスを優しく弄る。
﹁あっあっ⋮⋮そんなクリス様ぁ⋮⋮あぁぁこんなに早くイカされ
るなんてぇぇぇ! んっはぁぁぁぁぁぁん!!﹂
瞬間、ディアーネが体を仰け反ら、その拍子に彼女を縛っていた
タオルが解けたが、気にせず脱力したままのディアーネのオマンコ
に昂り切った逸物を挿入。いつもよりスムーズに入った気がする。
﹁ひぁぁぁぁ! や、やめてぇイったばかりなのにぃぃぃ! んあ
331
ぁぁぁ! んむぅぅぅ﹂
やめてと言いつつもその目は潤んで、欲情に蕩けている。この極
上の美少女を、いつも余裕のある美貌を俺が喘がせてると思うと。
この俺を溺れさせる淫らな肢体を、組み敷いて好きにしてるかと思
うと、思わずキスして、腰の動きを激しくしてしまう。
ディアーネのオマンコの奥まで、俺の最大限に勃起したチンポで
犯し、乱暴なピストン運動を繰り返す。何か言いたげな唇は既に俺
の口で塞がれ、おっぱいはいつもより少し強めに揉んでいる。
いつもよりも激しい挿入の繰り返しで、結合部分からは淫らな水
音が響く。エッチする前に彼女がおねだりしたようにまるで犯すよ
うな激しさで、まるで彼女を肢体を蹂躙するかのように昂った欲棒
を叩きつける。
﹁んっんむぅぅぅ! あぁ! 凄い! こんな凄すぎるわ! 激し
すぎて、あっあっはぁぁぁん!﹂
解けた両手で俺にしがみ付き、両足は腰に絡みつけてくる。お互
いに密着しながらも、腰の動きは止まらない、オマンコからは愛液
が溢れお互いの腰がぶつかる度に淫蜜が飛散する。
腰が止まらない。ディアーネの膣内は、まるで俺のチンポに誂え
たかのように動かすたびに気持ちの良い部分を刺激してくれる。俺
の方もディアーネが感じる部分を重点的に攻めてるので、お互いあ
っという間に絶頂は近づく。
出
﹁ディアーネ! そろそろ射精すぞ!﹂
332
﹁はいぃぃ私も、私もイキます! あっあぁぁぁぁぁぁぁ!!﹂
射精する一瞬前にディアーネの腰を掴んで膣の奥で猛りきった欲
棒を解放する。それと同時にディアーネも全身を震わせ絶倒に達し
た。
﹁はぁぁぁぁぁん! 熱いのぉぉぉ! ご主人様の熱いザーメン中
出しされてイっちゃうのぉぉぉぉ!!﹂
まだ挿入したまま抱き合い、ベッドに倒れる。そのまま唇を重ね
舌を絡めあう。こんなに激しいセックスは初めてだが、気持ち良す
ぎて癖になりそうだ。
﹁ぷはっ⋮⋮はぁはぁ素敵でしたわご主人様﹂
お互いにまだ余裕はあるが、こうしてお互いの体温を感じあうの
も悪くない。動かさないにせよ、ディアーネのオマンコは柔らかく
て気持ちが良いからな。
﹁考えてみれば⋮⋮ディアーネと二人っきりでセックスって初めて
だな。いつもはオリヴィアを交えての3Pだし⋮⋮ごめんな気が回
らなくて﹂
オリヴィア
二人きりでデートもしてないし、ちょっとディアーネに対して不
誠実だった気がする。彼女ほどの女を身体だけ楽しんで、後は正妻
と一緒というのは、良い筈がない。
﹁いいのですよ、側室である以上お情けを頂けるだけで十分幸せで
す﹂
333
謝る俺の頬に手を添えて、優しく微笑みかけてくるその美貌に、
愛おしさが込み上げ⋮⋮ついでに逸物も元気になった。
挿入したままの状態で気が付かない筈がなく、優しい微笑みは、
セックスするときの淫靡な笑みに変わる。
俺は仰向けになり、騎乗位の体勢になる。挿入したまま上に乗っ
たディアーネは、自慢の巨乳を見せつけるかのように、腰を振ろう
とするが⋮⋮
﹁セックスだけで良いなんて言うなよディアーネ。お前は俺の嫁な
んだから楽しませてやりたいし、幸せにしたい。惚れた女にそう願
うのはおかしいか?﹂
﹁はひ? ほほほ惚れたって⋮⋮そ、それはオリヴィアの事でしょ
う! わた、私は⋮⋮﹂
なにやら動揺しだしたが、おかしな事言っただろうか? 起き上
がり対面座位の格好で、ディアーネの顔をじっと見つめると、今ま
で見たことがない程、顔を真っ赤にしている。
﹁勿論オリヴィアは愛してるが、お前とルーフェイも嫁にした女は
真剣に愛してるし、幸せにしてやりたいと思ってる﹂
我ながら都合のいい事言ってる気がするが、嫁を幸せにしたいと
思うのは当然だろう。なんで動揺してるんだディアーネは? しか
し⋮⋮いつも余裕のある態度のディアーネが慌ててるのは可愛いな。
キスをしてそのまま対面座位でセックスするが、ディアーネが妙
だな? いつものように積極的にお互い気持ちよくなるように動か
334
ずに、妙に受け身で甘えてくる。エッチの最中から俺の呼び方が﹃
ご主人様﹄に変わったが、さっきの屈服させられたい発言の一環か
な?
﹁ご主人様、私も⋮⋮私もご主人様を愛してます﹂
﹁俺もディアーネを愛してる﹂
その後のセックスはディアーネに合わせ、優しく甘やかすような
エッチを夕刻まで続けた。ディアーネの可愛い一面が見れたから満
足だな、ますます惚れてしまったよ。
∼∼∼∼∼カール視点∼∼∼∼∼
王都での用事を済ませたボクは、家臣たちを連れて領地に帰る途
中にある、小さな農村の村長の家に泊まっていた。
村長さんは恐縮してたが、馬車やテントでの寝泊りは居住性は良
くても最低限警戒が必要なので、ちゃんとした建物で休めるならそ
れに越したことはない。片手間の魔法でほとんどの生物を侵入不可
にするような規格外は、普通は居ないんだ。
緊張させてしまって申し訳ないが、対価は十分に払うので勘弁し
て欲しい。王都では働きづめだったからボクはゆっくりと休みたい
んだ。
335
村長さんの家に一室だけある客室で、ジャンヌの膝枕でウトウト
してると家臣の一人が遠慮がちにノックしてきた。
﹁お休みのところ申し訳ございません、実は王都より緊急の報告が
あると使者が参りました。モンドバン伯爵家の家紋が入ったゴーレ
ム馬車でやってきたので間違いはないかと﹂
オヤジ
モンドバン伯爵家って、確か王家直属の主治医の家系だったな。
要するに国王が信用する腹心が態々使者としてやって来た以上、た
だ事じゃない。ジャンヌとのひと時を邪魔されて腹が立つが仕方な
い、連れてくるように指示する。
慌ただしく人払いされた客室に現れたのは、意外にもモンドバン
伯爵だけでなく、その娘のマルフィーザ嬢までいた。会ったのは初
めてだけど、彼女はまるでサリーマさんを若返らせたような容姿で、
一瞬驚いたが今はそういう事を言ってる場合じゃない。
王女
伯爵に続いて、妹のアルチーナまでやって来たのは驚いた。アル
チーナの顔を、知ってたらしい村長さんが卒倒しかけていたぞ。
他にもアルチーナの乳母の娘で、専属侍女のモルガノさんだ、オ
デッセ子爵の長女だったな。ボクが辺境に送られる前に一緒に遊ん
だ覚えがある。
﹁お兄様、お休み中申し訳ございません。ですが父上の勅命により
遣わされた以上、私の同行をお認め下さい﹂
生真面目に騎士の礼に則った挨拶をしてくるのが、ボクの異母妹
アルチーナ。艶のある黒い髪を短めに切り揃え、動きやすい騎士服
を着こなす姿は、薄っぺらい胸と相まって華奢な少年にも見える。
336
なんで王女が騎士服を着てるのかというと、単に動きにくいドレ
スが嫌いなだけで、機能性を持ちつつ王族としての面目が立つ程度
に華美なのが、騎士用の軍服だからで別に男装趣味というわけでは
ない。
だが普段騎士服を着てるせいなのかは知らないが、趣味の剣術や
ら乗馬やらが高じて、しかも生来の生真面目さなのか? 教官の課
す普通の令嬢がすぐに根を上げるような厳しい練習を、黙々と積み
重ねた結果、今では並の騎士では歯が立たないほどの腕前になって
る。
先日会った時も、ボクの考案した体操着を着て木剣で素振りをし
てたからな。お前兄妹とはいえ男に生足見せてんじゃねえよ、黒髪
ショートカットのアルチーナには恐ろしいほど似合ってたが。
ちなみにその日は偶々用事で外していたが、普段はモルガノさん
や他の侍女達と一緒に体操着姿で運動してるとか⋮⋮ぺったん娘の
妹はどうでもいいが、メイドさんたちの体操着姿はちょっと見たか
ったな。いっそジャンヌに体操服を着せようかな⋮⋮おっと気を取
り直して本題に入らなければ。
﹁お前までやってくるとはただ事じゃないな、一体何があった?﹂
王族
本来なら既に臣籍に降りたボクは、妹に対して臣下の礼をとるべ
きなんだろうけど、急いでやって来たからには、そんなこと言って
る必要はないだろう。
﹁まずはこの書状をお読みください。本来カール様に宛てられたも
のですが、無人となった屋敷に届けられたので、陛下と私が内容を
337
読ませていただきました﹂
なんだそりゃ? ボクが王都に滞在する予定は伝えていたのに誰
だ? そんな杜撰な真似をするのは。ボクは内心呆れつつ手紙を読
み⋮⋮読んでるうちに頭と胃が痛くなってきた。
どうしよう? 冗談が現実になった、アレか? オヤジとの雑談
がフラグか? 犬が歩けば棒に当たるように、勇者が出掛ければ魔
王に遭遇するのだろうか?
﹁アルチーナがボクを追ってきた理由は分かった。婚約の件は済ん
だんだな?﹂
﹁はい、お父様とヘルトール公爵の間で話がついたようです。私の
婚約は解消され、勇者様に嫁ぐようにと﹂
オヤジ
アルチーナは公爵家の跡取りとの婚約の解消には、特に思うとこ
ろはなさそうだ。国王がアルチーナを急いで勇者殿に嫁がせたいの
は分かるが、ずいぶん急だな。ヘルトール公爵相当反発したんじゃ
ないか?
﹁元々兄妹揃って王家と縁を結ぶのに反対する者も多かったですし、
勇者様を王都の式典に招く際に、面会できるように取り計らうと⋮
⋮﹂
王都で会ったヘルトール公爵の憔悴ぶりを思い出し、納得する。
跡取りの元婚約者は寝耳に水だろうけど、元々シスコン拗らせて妹
とは疎遠な奴だし、気にすることはないか。
そんな事よりも手紙を読み進めていくうちに、ツッコミどころが
338
多すぎて頭痛がさらに酷くなる⋮⋮魔王の魔核を小包で送るなとか、
あっさり他国に渡すなとか、なんで目を離した隙にまた嫁が増えて
んのとか。
ストライクゾーン
ルーフェイ姫って犬耳幼女じゃんかよ! 許容範囲も勇者だなお
い! クレイターとの折衝って間違いなくボクの仕事になるから、
また寝る時間が削れるよド畜生⋮⋮ん? んん?
魔王種を縄張りから追い出すなんて、そんな大規模な軍事行動を
帝国中に送った諜報員が気付かない筈がない。少数精鋭? 帝国の
新兵器? それとも⋮⋮
ボクの中で一瞬嫌な仮説が浮かび上がる、正直勘でしかないし、
理由を説明しろと言われても困るのだが。予想される最悪の展開が
脳裏から離れない。冷汗が止まらず、今のボクはモンドバン伯爵が
慌てる程度には顔色が悪いのだろう。
﹁カロリング卿! 一体どうされました、すぐベッドに横になって
ください﹂
慌てる伯爵を手で制し、アルチーナに向き合う。
﹁ボクは今すぐ王都に戻る、大至急オヤジと話さないと。アルチー
ナ達はボクの家臣たちと一緒にカロリングの街へ行ってくれ、ゴー
レム馬車ならたぶん途中で追いつくから﹂
﹁え? どうしたんですかお兄様﹂
説明してる時間が惜しい、伯爵にはゴーレム馬車を貸してくれる
ように頼み。心配されながらも承諾してもらう。
339
ボクはジャンヌを伴い、急いで王都に向かった。どれだけ諜報員
を派遣しても噂すらないのだし突拍子もない考えだ、心配しすぎだ
と呆れられるかもしれない。それでも最悪には備えるべきだろう。
︱︱︱帝国に、勇者がいるのかもしれない⋮⋮と。
340
波紋−王子︵後書き︶
読んでくださった皆様ありがとうございます
341
キャラクター紹介︵前書き︶
キャラクターが増えてきたので、整理も兼ねてキャラ紹介をします。
342
キャラクター紹介
︱︱︱クリス︱︱︱
本編主人公、マーニュ王国、東の地方にある山岳地帯に点在する
小さな集落の出身。100人に1人程度の割合でどこにでもいる、
魔力がやや高い体質であったので、隠棲するためにやって来た老魔
法使いに目を付けられ﹁魔法が使えればモテる﹂とか頭の悪いキャ
ッチコピーに騙され弟子になる。
体質的に適性があったのか、師が特に念入りに指導したため闇属
性の魔法を得意とする。途中でなんかイメージが悪いことに気付き、
独学で闇属性以外の魔法も覚える、この時に高難易度の魔法︻収納
空間︼を習得したのは、指導が良かったのか、本人の才能か?
基本的に情に脆い善人、ただし偉くなって美女を侍らすとか考え
ていたので、エロガキなのは間違いないだろう。まぁ﹁モテるから﹂
とか言われて、怪しい爺さんに付いて行くあたりお察しである。
成り上がりを目指す途中で、オリヴィアに一目惚れ。彼女に良い
暮らしをさせるために努力した結果、勇者になったり、嫁さん増え
たり、魔王を倒したりと、今日も周囲を振り回す。
︱︱︱オリヴィア・ヘルトール︱︱︱
メインヒロイン。マーニュ王国に3家しかない公爵家の長女。産
まれた当初は多くの人から愛され守られていた⋮⋮が、愛の女神の
343
加護を享けて生誕した妹アンジェリカが⋮⋮否、アンジェリカをこ
の世のヒロインと定める愛の女神により﹃当て馬﹄の役割を押し付
けられる。
異性を限定した好悪反転の呪いにより、全ての異性から嫌われる
彼女は、とうとう父から勘当され、奴隷にまで落とされる。
彼女を殺したいほど憎悪した男に買われ︱︱︱好悪反転の呪いを
考えると本来は主人公同様一目惚れだったのではないだろうか?︱
︱︱殺害される寸前主人公に救われる。初めて優しくされたことも
あり、クリスを深く愛することになる。言い方は悪いかもしれない
が、彼に依存することで壊れかけた精神をなんとか保ったとも言え
る。
︱︱︱ディアーネ・メイティア︱︱︱
オリヴィアの親友、王国三指に入る大富豪メイティア伯爵家の娘。
オリヴィアが王都を追放され﹃当て馬﹄がいなくなった為に、アン
ジェリカが新たに呪いをかける、この呪いのトリガーは﹃嫉妬﹄要
するにアンジェリカより優れた女性は、この呪いの対象になる可能
性が高い。
真っ先に嫉妬されたあたり、彼女の美貌は抜きんでていたという
証明か。元婚約者にはそれなりに愛情を抱いていたが、衆人環視の
中婚約破棄されてまで未練を残すほどでもなかった。
押しかける形でクリスに嫁入りする、篭絡するつもりで肌を重ね、
篭絡には成功したものの自分もまた相手にべた惚れしてしまい、今
ではイチャイチャが楽しい。
344
︱︱︱ルーフェイ・ルーガン︱︱︱
クレイター諸島連合王国第二王女、クリスが倒した魔王種の魔核
を譲ってもらう対価として、王命で嫁がされた⋮⋮という建前で、
色々周囲の思惑はあるにせよ、ほとんど一目で恋した勇者に嫁入り
する。
ちょっと恥ずかしい事をしてくるが、基本的に優しく甘えさせて
くれる夫と結婚できて幸せ。クレイターでは女性の自由はあまりな
く、所有物と扱われ、家の都合で嫁いだり離縁したりは日常だった
りする。
そのような文化であるために、甘えたがりな性質であるにも関わ
らず、ほとんど我儘を言わないのは、幼い頃からの教育によるもの。
ちょっとくらい我儘言って良いんだぞ、と夫に言われても、実はち
ょっと返事に困ってる。
︱︱︱カール・カロリング︵マーニュ︶︱︱︱
8歳で辺境のカロリング辺境伯家に婿入りした、マーニュ王国第
二王子。正妃の子であるので場合によっては王太子の第一候補だっ
たが、﹃長子が家督を継ぐべし﹄という王国の暗黙の了解により、
相続争いを避けるために辺境に送られる。
当初は不満ばかりだったが、なんやかんやあって、領地を凄まじ
い勢いで発展させ、天才の名を欲しいままにする。ただし、オヤジ
と兄貴はいつかぶん殴ると決めていた模様。
345
妻のデシデラータとの結婚に関してだけは父親に感謝しており、
王都に招かれたとき、偶然を装い父親の髪の毛を毟った事で溜飲を
下げた。怒られたが負い目があったらしくお咎め無しになる、なお
兄には遠慮なく飛び膝蹴りを食らわせた。
現在、領地に勇者が生まれ、領地に多大な利益を齎してくれる事
をしてくれるが、その対処に追われ、若くして胃に穴が開きそうで
ある。
︱︱︱デシデラータ・カロリング︱︱︱
カールの正妻、先代辺境伯の一人娘。幼い頃から結ばれたカール
との仲は政略結婚にも関わらず非常に良好、現在妊娠中、占いによ
ると男の子らしい。そろそろ安定期に入ってきた。
夫のワーカーホリックぶりを心配してる。
︱︱︱ジャンヌ・カロリング︱︱︱
カールの側室兼護衛騎士。カールの人買い組織撲滅活動の一環で
救った農村の少女。思ったことは何でも口にする正直者で、カール
への恩返しの為に必死に特訓した結果、辺境で屈指の剣士に成長し
た。
妊娠したら剣の修業ができないなぁと、地味に悩んでる。
346
︱︱︱ロジェ・カロリング︱︱︱
先代辺境伯、頼れる婿に家督を譲り悠々自適に生活中。主人公が
魔王種﹃月狼王クルト﹄を倒したと聞いた時は興奮のあまり血管が
切れそうになった。
︱︱︱ブラダ・カロリング︱︱︱
ロジェ・カロリングの妻、妊娠中の娘に変わって内証を仕切って
る。夫にはなんとか婿殿の手伝いをさせようと考えてる。
︱︱︱サリーマ︱︱︱
傭兵団﹃熱砂の龍﹄団長、御年45歳の女傑、たぶん接近戦に限
り作中の誰よりも強い。実子多数、養子も多数、面倒見てるチンピ
ラは数えきれない。その全員に慕われてる。
︱︱︱マヘンドラ︱︱︱
サリーマの長男、実質傭兵団を仕切ってる。母親に楽な暮らしを
させるため、奮闘してる。
︱︱︱トラバント︱︱︱
法の女神大神殿のトップ、大神官。元々かなりの家柄の出身だが、
神職に就く際家名は捨てている。多分勇者に振り回される人の中で
347
唯一苦労を苦にしてない⋮⋮らしい。信仰心で誤魔化してるとか言
ってはいけない、彼は敬虔な聖職者なのだから。
孫娘をクリスと引き合わせようと、忙しい最中に企んでる。
︱︱︱カロルス・マーニュ︱︱︱
マーニュ王国国王。お酒と甘味大好きな糖尿病一直線な王様、ま
ぁ魔法薬で肝臓が治るので問題ない。息子が小娘に誑かされて役立
たずの現状、カールかアルチーナの子供が男子なら養子にしようか
悩んでる。
︱︱︱アルチーナ・マーニュ︱︱︱
マーニュ王国王女。剣術、馬術、その他諸々体を動かすのが趣味
のスポーツ大好き少女。カールの考案した体操着が気に入っていて、
嫁入り先でも他の奥さん誘って運動しようと思ってる。ファンタジ
ーでも⋮⋮ブルマを履いたままエッチが書きたいんだ!
︱︱︱マラジ・モンドバン︱︱︱
代々国王の主治医を任されている、医者の家系。宮廷魔術師も兼
任している。貴族として嫁は複数いるが、いまでもサリーマさんが
忘れられない一途な人。サリーマに瓜二つのマルフィーザを溺愛し
てる。
348
︱︱︱マルフィーザ・モンドバン︱︱︱
モンドバン伯爵家令嬢、女性なので医学は学ばせてもらえないが、
魔法の才能はあったらしく、魔法使いとして修業中。
︱︱︱グロス・メイティア︱︱︱
国中の娼館を管理するメイティア伯爵家当主、小悪党顔なのに、
全身から漂う仕事のできる男のオーラで、誰からも一目置かれてい
る。主人公に振り回されるわけでもなく、ちゃっかり利益は得てる
あたり流石大富豪である。
︱︱︱フィエラブラ・ヘルトール︱︱︱
オリヴィアの父親、ヘルトール公爵家当主。本来は家族に対して
深い愛情を持つ人物なのだが。アンジェリカが産まれたことですべ
てが狂う、紛う事なき女神の被害者である。呪いが解けた現在娘に
謝りたいのだが、男性恐怖症になった原因そのものなので、近寄ら
せてもらえない。
︱︱︱オリヴィアの兄︱︱︱
アルチーナの婚約者。シスコン拗らせて王女を邪険に扱い婚約は
白紙に、今後出番があるかどうかは謎、たぶんない。
︱︱︱アンジェリカ・ヘルトール︱︱︱
349
今日も元気に逆ハーレム乱交。愛の女神の加護のせいか絶倫で、
一晩に何人相手にしても余裕なセックスモンスター。エロに関して
だけは断トツで今作最強。割と狂った状況に置かれてるという意味
では被害者なのだが、思いっきり人生楽しんでる。
美男子だったり、筋骨隆々だったり、あるいはブサ面でも逸物が
デカければ奴隷身分であっても寝室に招き︵性的に︶食べるので、
ある意味身分とか一切気にしないあたり大人物なのではなかろうか
? ただし病気には気を使ってる。
以前投稿した短編では、加護がなくなれば男にドン引きされる容
姿になったが、長編ではそういうことはなく、素で絶世の美少女と
言えるレベル、スタイルもボンキュボン。性的テクニックもプロ顔
負け。
主人公の事を知ったら、間違いなく興味をもって口説きにやって
くるが、周囲の男どもが情報を遮断する。繰り返すが勇者なんて人
種には間違いなく彼女の食指が動くので、それで寝室に呼ばれる回
数が減るのが嫌なのだろう。
︱︱︱オべローン・ルーガン︱︱︱
クレイター諸島連合王国国王。声のデカい強面、魔王の魔核を手
に入れて、なにやら大きな目的があるようだ。
︱︱︱ヴィヴィアン︱︱︱
350
帝国から派遣された諜報員。料理上手で胸もデカい、わざと地味
になるような化粧をしなければ、ハニトラ要員として十二分に通じ
る美人さん、19歳処女。スペックは高いが残念な女性。
351
キャラクター紹介︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
深夜のテンションで書いたものなのでちょっと抜けがあるかもしれ
ません
352
死霊︵前書き︶
連休中時間が取れず遅れてしまって申し訳ございません
今回はエロ無し
353
死霊
デート
ディアーネと視察の後、嫁とはちゃんと二人きりで向き合う時間
が必要だと思い。週に一回くらい二人だけで過ごす時間を作ること
にした。そう伝えると三人とも喜んでくれて、その日の晩はいつも
よりもイチャイチャセックスした。
ただ昼にディアーネと濃厚エッチしたせいか、最後の方では主導
権を取られてしまい、ちょっと悔しかった。まぁ天国のような時間
だったので良しとしよう。
さて、そんな清々しい目覚めの今朝、今日はオリヴィアとデート
をするべく準備をしていた。しかし、間が悪いことに準備してる最
中に大神殿から至急手を貸してほしいと、早馬で手紙が届いたのだ。
急ぎの用事じゃ仕方ないが、はぁ⋮⋮ついてないな。
﹁北の荒野で魔物の増殖ねぇ⋮⋮アンデッドというかゴーストが殆
どみたいだけど、なんかあったかな? 自然発生するタイプじゃな
いんだけどな﹂
丁寧な文体だが要約すると、ゴースト系の魔物が大量に発生した
ので助けてほしい、詳しいことは神殿で話すので急いで来て欲しい
と書いてある。大神殿は現在目の回るような忙しさだ、なのですぐ
動ける戦力を動かすのは当然だろう。
﹁ううう⋮⋮お化けとか怖いです﹂
ゴースト系と聞き、ルーフェイが震えながら俺にしがみ付いてき
354
た。とりあえず頭を撫でてあげる。
﹁よしよし、実体のないゴーストとか、俺の家に入れないから大丈
夫だって⋮⋮ん?﹂
ふにょん⋮⋮と、感触に覚えのある柔らかいものが後頭部に当た
る。オリヴィアが背後から抱きしめてきたのは分かるが、なんで腕
が震えてるんだ?
﹁旦那様が傍にいらっしゃれば、お化けなんて⋮⋮お化けなんて⋮
⋮﹂
﹁ご主人様、その子ってばお化けとかそういう話に物凄く弱いんで
す﹂
お化け
オリヴィアはゴースト系モンスターが怖かったのか、条件次第で
街でも出没するから怖がるのも仕方ない。攻撃力は無いし、専用ア
イテムがあれば一般人でも倒せる弱い魔物なんだが、まぁ怖がる嫁
さんを安心させるのも男の務めだな。
オリヴィアの震える腕に手を添えると、段々震えが弱くなってき
た。
﹁俺がいるから安心しろ﹂
﹁⋮⋮はい﹂
しばらく抱かれたままでいると、落ち着いたのか震えがなくなり、
俺の隣に座る。なんでも呪いを受けていた子供の頃、男のゴースト
に何度も襲われた経験があって、当時を思い出してしまったそうだ。
355
意識がなく本能のみで動く筈のゴーストにまで嫌われるとは⋮⋮
とことん碌でもない呪いだな。ひょっとして人間だけじゃなく、オ
スなら何でもありなんじゃなかろうか?
﹁しかし急な話ですわね、魔王種が縄張りを移した影響でしょうか
?﹂
﹁わふぅ⋮⋮アンデッドってことは、恨みを残して死んだ人がたく
さんいるとかですか?﹂
﹁あわわわ⋮⋮ガクガクブルブル⋮⋮﹂
嫁三人は魔物の生態には詳しくないので思いついた推測を言って
るが、それにしてはアンデッドが増殖するのはおかしいんだよな。
狼の群れを使った魔物払いの術は、他の魔物が存在しない魔王種
クルトの縄張りの殆どを覆い、元々狼しか棲んでいなかった場所に、
他の魔物が立ち入れなくするもの。弱いゴーストくらいはいたかも
しれないが、そんなレベルのゴースト系は魔物払いであっさり消滅
する。
次に、鎧蟻の怨念を利用した魔物払いは、帰巣本能を刺激し、巣
に篭らせたりするもので、他所への影響はあるはずない。これは縄
張りを移動していた蟻共に対して、以前住んでた場所に戻るように
調整した術なのだから。
キャンプで使うような問答無用で魔物を立ち入れなくする術なら
簡単なんだけど、そうすると人との魔物の棲み分けが滅茶苦茶にな
るからな。どちらも無関係の人に被害が及ばないように気を遣った、
356
広域精神干渉なのだから、アンデッド増殖の原因にはならない。自
然とは考えにくいし、そうなるとなんらかの理由が⋮⋮まぁ神殿で
話を聞いてからでいいか。
﹁まっ、原因はともかく、助けを求められたからには助けに行くよ。
今日はデートの予定だったのに、ごめんなオリヴィア﹂
﹁残念とは思いますが、殿方がお勤めに向かわれるのなら、笑って
見送るのが妻の役割ですわ﹂
まだ怖がってるが、俺がちゃんとゴースト系は近寄れない術を展
開したと言うと、安心したようだ。ついでにアンデッド払いの効果
があるアクセサリーでも自作⋮⋮いや俺にその手のセンスは無いか
ら、専門の職人に注文するか。 オリヴィアにキスをして、ディアーネとルーフェイにも勿論キス
をして、大神殿に向かう。さて、できるだけ早く済ませて、今日の
埋め合わせに、今夜はたっぷりオリヴィアを可愛がると決めた。
∼∼∼∼∼
トライア大神殿の一室でアンデッド増殖に関する説明を受けに来
た俺は、涙を止めることが出来ずにいた。
﹁ううう⋮⋮苦労したんだなぁ。可哀そうだなんて⋮⋮なんて無粋
な事ぁ言わねぇ! 頑張ったなぁ⋮⋮ぐすっ⋮⋮﹂
﹁ううう⋮⋮勇者様のそのお言葉だけで今までの苦労が報われる思
357
いですじゃ。私の夫も月狼王の爪牙にかかり⋮⋮息子もこの子を残
して討伐に参加し⋮⋮それからというものこの婆一人で孫娘を⋮⋮﹂
涙ながらに語るのは、神官戦士たちを統べる司祭長のサテリット
さん、実に綺麗な白髪のお婆さんだが、背筋は伸び老いによる衰え
は感じさせない。たぶん殴り合ったら俺が負ける、神官戦士を纏め
てるだけあって、動作に一切の隙が無いんだよこの婆さん。
そんな人が弱々しく語ってくれたのは、俺が倒した魔王種に故郷
を奪われた話に始まり、神官戦士として犠牲になった旦那さん、そ
して息子さんも帰らぬ人となり、残された孫娘の境遇だった。
トラバントさんが部屋にやってくるまで世間話をしていたのだが、
いつの間にかサテリットさんの身の上話になり、護衛として紹介さ
れた目の前の少女の境遇の話になり、司祭長なだけに話し上手なの
もあって、ついつい聞き入ってしまったのだ。
﹁今でこそ司祭長など過分な立場を頂いておりますが、この子が幼
い頃は、私は神官戦士として何時殉教するか分からぬ身。不安を抱
えながらも糧を得るために魔物の征伐に赴く日々⋮⋮よくぞ真っ直
ぐに育ってくれたねユングフィア﹂
﹁うん⋮⋮うん⋮⋮もう魔王なんて俺が倒したんだ、苦労した分幸
せになってくれ﹂
俺は目の前の少女、ユングフィアさんの手を握り締め、泣きなが
らその苦労を労わることしかできない。長く伸ばした黒髪に、大き
く鋭い切れ目は整った顔立ちと相まって、凛としたやや冷たい印象
の少女なのだが。今は顔を赤くして、しどろもどろになってる。
358
司祭長の孫娘、ユングフィアさんは祖母と同じく神官戦士の道へ
と進み、才能か、努力の結果か? 同年代の神官戦士の中でその実
力は頭一つとびぬけている。身長も文字通りの意味で頭一つ抜きん
出ていた。
﹁ゆ、勇者様、私如きに過分な心遣い嬉しく思いますが⋮⋮﹂
・・・・
困ったように俺を見下ろすユングフィアさんは緊張してるのか、
やや言葉がぎこちない。初めて紹介されたときは、美人だなぁとか、
背の高いキリッとした子だなぁと思っただけだが、その美貌が恥じ
らいを帯びると途端に可愛くなる。
﹁ああ、ごめんよ不躾だった。ユングフィアさんくらいの美人なら
男たちが放っておくはずないよな﹂
﹁び、びじっ! そ、そんなことはありません。私のような無愛想
な大女なんて﹂
なんか謙遜してるけど、こんだけ美人でモテない筈ないだろ。顔
爆乳
は綺麗だし、話した感じ真面目で裏表ないし、あとなにより男とし
て、向き合った時に否応なしに視界に入る大山脈に惹かれないはず
ない。実際に目を離せない俺が断言する。
爆乳
うん、身長差のせいか、ちょうど目の前に聳え立つ大山脈に飛び
つきたくなる。俺が独身だったら口説くな、それでOK貰ったらす
ぐさまベッドに連れ込むわ。
﹁すくすくと育ったのは僥倖ですが、情けないことに、育ちすぎた
せいで男どもは揃って尻込みしましてな﹂
359
﹁なんだ大神殿は戒律が厳しすぎて女を見る目がないのか?﹂
あれか? 接点の多い同僚は神官戦士なわけだから、自分より強
い女の子は避けるんだろうか? 喧嘩に強いだけが男の価値でもあ
るまいに、夫婦喧嘩でボコられそう? 黙って殴られればいい、嫁
に手をあげる奴は屑だ。ただしベッドの上でお尻ぺんぺんはアリだ。
﹁あ⋮⋮あの⋮⋮私は普通の男の人より大きいので、その⋮⋮せっ
戦士としては役に立ちます!﹂
﹁うん、アンデッド討伐に行くとき同行してくれるんだろ? 頼り
にしてるよ、それとは別にユングフィアさんは美人だから道中楽し
みにしてるよ﹂
ちょっと前の月狼王を倒したときは単独で行って怒られたからな、
大した脅威でもないけど一応今回から護衛の人を神殿から派遣して
もらうことになった。
爆乳
まぁアンデッド退治なんて気分が悪くなる事が多いからな、美人
が傍にいればやる気が出るってもんだ。凄まじい大山脈だしな。す
まないオリヴィア、ディアーネ、男ってのはおっぱいに目のない愚
かな存在なんだ。ルーフェイは⋮⋮まぁ膨らみかけってのも素晴ら
しいと思う。
さっきまで手を握ってたけど、よろしくと言って改めて握手する。
場所はユングフィアさんが知ってるそうだし、早速現場に行くとす
るか。一緒に仕事するんだし、帰ったら屋敷に夕食に誘ってもいい
かもしれない。
さっきよりも顔が赤くなってるけど緊張してるんだろう、彼女た
360
ち神官にとって勇者って、雲の上の存在らしいからな。
﹁よ⋮⋮よろしく⋮⋮お願いいたします勇者様﹂
﹁ああ、クリスでいいよ﹂
握手する手に随分と力が籠ってきたな⋮⋮戦士としての鍛え抜か
れた握力のせいか手が痛いんだが。でも女の子の手を振り払うなん
てできないからな、我慢だ我慢。痣はできるかもしれんが、後で治
せば問題ない。
﹁で、ではっ! ク⋮⋮クリス様⋮⋮わ、私のことなど、どうか呼
び捨てで!﹂
俺の名前を呼ぶ時の、気恥ずかしそうな表情も、美人がすると破
壊力高いなぁ。それはそうと更に力が込められたせいか、握り締め
られた俺の手がそろそろ危ない。
﹁分かった、それじゃユングフィア早速案内してくれ﹂
﹁はいっ! お、お任せ下さい﹂
元気よく返事して、手を握りしめたまま顔を近づけてくる。頬を
染めた美人に迫られるのは嬉しいんだが、痛くない振りをするもの
そろそろ限界が⋮⋮と、唐突にサテリットさんが間に入ってくれた
おかげで助かった。
﹁馬鹿者、嫁入り前の娘が、そんなに顔を近づけるなどはしたない
! 申し訳ございません勇者様。孫はどうも殿方との付き合いがな
く、とんだ失礼をいたしました﹂
361
﹁気にしなくていいよ、俺も男だからな、可愛い女の子に言い寄ら
れて悪い気はしないから﹂
流石サテリットさんは躾に厳しいんだな、やっぱり唯一血の繋が
ったお孫さんだけに、将来が心配なのだろう。ユングフィアを叱り
つつ、今度は俺に自分が動けなくなった場合について語りだした。
ごめんサテリットさん、彼女に男が近寄らない理由が分かった気が
する。
﹁勇者様、私もいつ神の御許に召されるか分からぬ歳、出来ればそ
れまでに甲斐性のある男と夫婦になって、儂自ら祝福をかけてやり
たいと常々思っておりまして⋮⋮﹂
確かに彼女の旦那になるなら回復魔法は必須だな、一番回復でき
る人の割合が多い神官戦士たちだが、避けられてる現状難しいんだ
ろうな。それならいっそ俺が⋮⋮
と、そんな事を考えている最中、ノックも無しにいきなり扉が蹴
破られた。
﹁サテリット! こんの性悪ババァが! いつまで経ってもクリス
様が打ち合わせにいらっしゃらないから変だと思ったら! 貴様の
せいか!﹂
﹁やかましいわいトラバント! この腹黒ジジィめ! アンデッド
討伐ならこっちの管轄なんじゃから貴様は祭りの準備をしとけ!﹂
﹁だからっ! 勇者様がいらっしゃるのに神官戦士を動員する必要
がどこにあるんじゃい! 今でさえ通常の勤めが厳しいのだぞ﹂
362
﹁かーーーっっ! 忙しいのは誰のせいじゃ! そもそもお前が⋮
⋮﹂
いきなり部屋に入ってきたトラバントさんとサテリットさんは、
顔を合わせるなりいきなり喧嘩腰だ。というか額がぶつかり合う距
離で、怒鳴り合ってる。
﹁ユングフィア、あの二人仲悪いの?﹂
﹁は、はい、それはもう⋮⋮﹂
なんでも神殿内でこの二人の仲の悪さは有名で、喧嘩は日常茶飯
事、どんなに忙しくても廊下ですれ違えば必ず悪態を叩き合うらし
い。まぁどちらも立場上神殿の不利益になるような真似はしないし、
足の引っ張り合いとかもしないので、いつもの光景として受け入れ
られてるそうだ。
そういえば俺、アンデッド討伐するっていうから詳しい話を聞き
に来たんだけど? トラバントさんが忙しいからと言われ、待って
る間の世間話がいつの間にかユングフィアの話題になったんだよな。
怒鳴り合いの内容からすると、サテリットさんが孫娘を俺に紹介
するのに手を打ったそうだけど、別に護衛の紹介くらい気にする事
は無いと思うんだが。
喧嘩されてては話が進まないので、仲裁しようと前に出た瞬間。
鈴を転がすように美声が響いた。
﹁お爺様、勇者様の御前です﹂
363
決して大きな声ではないのだが、喧嘩していた二人の耳にも届い
たようで、お互いばつが悪そうに距離をとる。離れる際舌打ちし合
うタイミングが同時なあたり、本当はこの二人仲が良いんじゃない
かと思ってしまう。
﹁おお! そうであったな、こんな脳みそまで筋肉で出来てる白髪
のメスオーガに関わってる暇はないわい﹂
お互いまだ言い足りなそうだけど、俺の前だから抑えたのか一応
口喧嘩を止める。トラバントさんは先ほどの声の持ち主を俺の前に
連れてきた。
神職なので化粧っ気はないが、長くて綺麗な金髪と鈴を転がすよ
うな美声が印象的な、温和で大人しい雰囲気の美少女だ。
﹁儂の孫娘でアルテナと申します。クリス様と同年代では特に神聖
魔法に長けておりまして、アンデッド討伐のお役に立つものと⋮⋮﹂
﹁なにをボケておるか! 神聖魔法の使い手なら勇者様だけいらっ
しゃれば十分じゃろうが、必要なのは術者の傍に控える戦士じゃ﹂
勢いよくアルテナさんを紹介してくるトラバントさん。ユングフ
ィアを連れてそれを遮るサテリットさん。なんか二人してまた険悪
に睨み合ってる。
⋮⋮そういえばオリヴィアが言ってたな、マーニュ王国の貴族社
会だと﹃当主乃至それに準ずる影響力のある人が、自ら娘を連れて
紹介するのはお見合いとほぼ同義﹄であり﹃断ったら相手の面子丸
潰れ﹄なのだと。令嬢が自己紹介するなら普通の顔見せだが、当主
364
が紹介するとそうなるそうだ。
上流階級のしきたりって面倒だと思う、そして大神官と司祭長の
地位にある人が知らない筈はないんだよな。要するに討伐依頼と一
緒にお見合いさせようってことか。って言うかすでにユングフィア
をサテリットさんに紹介されたよな俺、そしてさっきアルテナさん
を紹介されたよな。
オリヴィアたちも俺の立場で大神殿の関係者と縁を結ぶのは、避
けられないと言ってたな。俺としてはユングフィアが嫁に来るなら
喜んで迎えるし、アルテナさんも気立ての良さそうな美少女だ。
お見合い云々は討伐の後にオリヴィアたちと相談するとして。年
寄り二人が飽きもせず喧嘩を再開し、話が進まないのでさっさとユ
ングフィアとアルテナさんを連れて討伐に行こう。場所はユングフ
ィアが知ってるから問題ないだろう。
﹁遅くても日没には戻るから、遅れるなら使い魔飛ばすからね﹂
俺の伝言が聞こえたのか聞こえてないのかは知らないが、とりあ
えず喧嘩中の二人は放っておこう。日の高いうちに現場に向かわな
いとな。
∼∼∼∼∼
どうも勇者様が買った店ということで評判になり、今日もパン屋
﹃森の庵亭﹄は盛況だ。もう諜報員辞めてこの街でパン屋やってた
方が、幸せになれる気がしないでもない、だがまぁ魔法による監視
365
をされてるので、真面目に任務をやってる振りをするしかないんだ
よ。
今日はカロリングの街で最も有名な場所。法の女神大神殿から大
量の注文を受けちまった、物凄く忙しいので手軽に食べられる素材
パンはありがたいそうだが、大量の調理済みの素材パンを荷車で運
んでいる現状、断ればよかったと後悔している。
﹁はぁ⋮⋮監視があるから下手に人も雇えないし。店に泥棒が入っ
たらどうしてくれるんだいまったく﹂
帝国だったら、目を離した隙に商品を万引きされる程度なら御の
字で、店内の金目のものは片っ端から盗まれる恐れまである。むし
ろ女一人の店なんて開店当日に襲われてもおかしくない。
領土拡張の影響なのか、ちょっと前まで他国人だった同国人が多
く、習慣の違いからくるトラブルは後を絶たない。当然仕事にもあ
りつけないことが多く、大半は食うにも困る有様の貧民で溢れ、お
世辞にも治安はよろしくない。ぶっちゃけて悪い、最悪だ。
鍵は一応それなりの質のモノを使ってるが、帝国人としては店を
無人にしておくのは不安で仕方ない。注文の品を届けたらすぐに帰
らないと⋮⋮はっ! あ、あの方は!
神官戦士の装備を纏った女二人を連れて、勇者様が馬に乗って行
くのを見かけ、アタシはすぐさま駆け寄り声をかける。
﹁先日はありがとうございます、奥様には喜んでいただけたでしょ
うか?﹂
366
はっ! し、しまったアタシ荷車曳いてたからかなり汗をかいて
る! 汗を吸った仕事着はぴったりと身体に張り付き、体のライン
がはっきり分かる。まずい下手をしたら娼婦の客引き扱いされるか
も。
連れの女性も呆れたようにアタシを見てる⋮⋮ううう、舞い上が
ったせいでとんでもない失敗をしてしまった。
︵おっぱいデカいとは思ったけど、予想以上だ。小柄で痩せてる分、
よりおっぱいが大きく見える︶
︵やっぱり殿方は小柄な方の方が好みなのでしょうか⋮⋮︶
︵む、胸の大きさが全てじゃないはずです︶
﹁パン屋の店員さんだね、この前貰ったアップルパイは美味しかっ
たよ、みんな褒めてたし、また今度店に寄らせてもらうよ﹂
﹁あ、ありがとうございます! あ、あとこれ大量に注文いただい
たので少し余分に持ってきたんです、よかったらどうぞ!﹂
さすが勇者様は紳士だ、見苦しい姿のアタシをスルーしてくれた。
余分に持ってきたパンを連れの神官らしき女性に渡し、一礼したら
すぐさま離れる。
その後注文の品を神殿の人に渡し、代金を受け取り⋮⋮気配を消
して勇者様の追跡を開始する、嗅覚を強化する魔術を用い、渡した
パン︱︱︱特に匂いの強い素材を挟んであるやつだ︱︱︱の匂いを
追う。
367
連れの女神官に渡したのは正解だったようだ、思った通り馬の鞍
に取り付けた荷物入れに、パンを入れてくれたのだから。勇者様の
収納空間に入れられると匂いを追えないからね。
諜報員として重要人物の動向︱︱︱出来れば趣味嗜好、特に女の
好みは知りたい︱︱︱を探るのは当然、これは職務なのだと自分に
言い聞かせ匂いを追う。嗅覚を強化した状態だと街中はちょっとし
た地獄なのだが、幸いにもほとんど人のいない荒野に向かったよう
だ。
荒野に入り、人のいないことを確認したところで、嗅覚強化から
聴覚強化に切り替える。風の音、馬の蹄の音、少ないながらも生き
物の音の中から、人の声だけを拾う。
どうやら彼らは増殖したアンデッドを討伐するために荒野を駆け
てるようだ、盗賊の集まりが魔物にでも殺されたのか?
この距離ならばれる事もないだろうが、相手は勇者様だ慎重に追
跡をする。どうやら目標のアンデッドの群れを見つけたようだ、強
化した聴覚は魔物の断末魔の叫びまで聞こえてしまう。
急いで少し小高い丘の上に移動すると今度は視力を強化し、彼ら
の戦いを目視する。どうやらゴーストの類はあっさりと消滅し、彼
らは原因となったと思しきゾンビと相対している。
ゾンビと言っても体が腐ってる訳でもなく、結構身綺麗でそれな
同僚
りに整った容姿の女性と分か⋮⋮あの人冒険者としてこの国に潜り
込んだ諜報員じゃ?
アタシたち諜報員が﹃監視﹄と﹃身分証明﹄の為にと、術を掛け
368
られた際に刻まれた普段は見えない刻印が輝いてる。強化された視
力は魔術的な視覚も強化されるのではっきりと分かった。
⋮⋮あの刻印があの人をアンデッド化させたんだ。
369
死霊︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
当主から娘を紹介されるのは、かなり強制力のあるお見合いという
しきたりですが、そう簡単に婚姻を結べるものではありません。
元々そのつもりだった場合を除き、当主が未婚女性を連れてきた場
合別室に案内されるのが普通、という設定。
割と貴族になりたての相手に使われる手段だったり、しきたりを知
らず罠にはまる可能性が高い。
370
誘惑の夜−前編−︵前書き︶
お待たせしました
371
誘惑の夜−前編−
アンデッドが増殖したらしい北の荒野は、植物があまり育たない
痩せた土地で周囲は剥き出しの岩ばかり、さらに北に馬を走らせ数
日の距離には、リーテンブ帝国との国境がある。
ゴーレム馬車で来ても良かったんだが、先日の旅で急いで帰るた
めに、やや規定量を超えた魔力を注いでしまったらしく、今は職人
街に点検に出してる。馬車職人の皆さんの、こんな高級馬車に触れ
るのは初めてだと言った言葉には緊張と、職人として高度な仕事を
調べられるという高揚が混じっていた。頑張って技術の肥やしにし
てほしいと思う。
ちょっと移動に時間がかかるのが難点か? 我ながら贅沢な不満
だな。まぁ馬に乗るのも嫌いではないし気にしないけどな、農耕用
の馬くらいしか乗った経験はないが、流石神殿の用意した馬は、温
厚で頭もいいし当然馬力もあり、岩ばかりの荒野でも安心して進め
る。
荒野をさらに北に進むと、やや険しい山地がありそこを越えた先
は、寒冷な気候ながらも土地は肥え水も豊富なリーテンブ帝国の穀
倉地帯だ。カール王子がやってくる以前の辺境では、帝国に食糧を
頼ってた部分もあるのだが、相当上から目線だったそうで、この地
方の住人たちの帝国嫌いに拍車をかけたそうだ。
そんな物寂しい荒野を馬の背に乗りながら眺めていると、アルテ
ナ︱︱︱呼び捨てにされたほうが気が楽なんだそうだ︱︱︱が話し
かけてくる。
372
﹁クリス様、このまま進めば目的地まであと30分といったところ
ですわ。少し早めに昼食はいかがでしょう? アンデッド討伐の後
ではあまり食欲が湧かないと思いますが﹂
大人しく控えめな印象の彼女だが、俺の世話をしようとなにかと
話しかけてくれる。物寂しい荒野で馬を走らせてるとき、無言だと
ちょっと悲しいのでありがたいと思う。
ユングフィアも声をかけようとしてくれるんだが、いかんせん彼
女は口下手で、二言三言で会話が途切れてしまう。無言で寂しいか
ら何か言おうと頑張ってるのは認めよう。アルテナと会話してる最
中に水を向けると嬉しそうなのが可愛い。
﹁いや、このまま進むぞ、ちょっとくらい空腹の方が動きやすい﹂
そのまま馬を走らせ、しばらくすると周囲に禍々しい空気が漂い
始める。これは⋮⋮汚染された土地の特徴だな、遺体が片付けられ
ない戦場のように、ゴースト系が好み集まる空間だ。
こんな偶に冒険者がやってくる程度の寂しい土地で、なぜ土地が
汚染される程の怨念が集まったのかは不明だったが、どうやらこの
先にいるアンデッドが汚染源のようだ。
アンデッドモンスターは理性も失われそれほど強くもないのだけ
ど、長時間一ヶ所に留まるとその場を汚染してしまう。そうなると
ゴーストは何処からともなく集まるわ、土地は枯れるわで浄化しな
い限り人が住める環境ではなくなってしまう。
﹁汚染の源をなんとかしないとゴーストをいくら倒しても無駄だな。
373
突っ込むぞ!﹂
馬の尻に鞭を入れ加速する、ゴーストの群れは軽く手をかざすだ
けでまとめて消し去れる。事前の打ち合わせで、同行者二名はゴー
スト相手の場合自分たちの事は気にしなくていいと言っていたが、
さて二人はどうだ?
アルテナは神聖魔法に長けていると紹介された通り、馬を操りな
がら略式の祈りを捧げるだけでゴーストは消滅する。神聖魔法に適
性が高い体質のようで、発動が早く燃費も良さそうだ。
ユングフィアはもっと単純だ、鎧そのものに高度な防護術式が組
み込まれてるらしく、近寄るだけで掻き消されていく。見た感じ腰
に下げたメイスも同様に、強力な魔法の武器だが使うまでもないみ
たいだ。
これならゴースト程度はいないものとして扱っても問題ないか⋮
⋮問題はゴーストの中心、土地を汚染する﹃核﹄か。怯える馬を闇
魔法で無理やり平常心にして突き進むと、ゴーストの密集する中心
に﹃ソレ﹄はあった。
遠目には人に見える、だが近寄ってみると姿形こそ人間、冒険者
グ
風の女性だ。しかし決定的に違うのはその目、落ち窪んだ眼窩は黒
ール
く染まり、文字通りに爛々と燃えるような紅い輝きを放つ瞳⋮⋮屍
鬼か。
間違っても女の子に近寄らせたくないアンデッド︱︱︱まぁアン
デッド全般近寄らせたくはないが︱︱︱だ。確か胎児を好み、偏執
的に妊婦を狙うとか文献に書かれていて、地域によってはグールの
紅い目で見られただけで、結婚を断る理由になるとまで言われてい
374
る。
確か、こいつの瞳を粉末状にすると避妊・堕胎の薬になるんだっ
たか。流石に人の形をしたものから目玉を抉るような真似は出来な
いし、気持ち悪いから骨の一片も残さず灰にするけどな。
﹁オ⋮⋮オオオオオオオオオオオオ!!﹂
グールは俺の事を認識したらしく、長い髪を振り回しながら襲い
掛かってきた、だが遅い。馬を走らせながら神聖魔法をグールに放
ち、周囲のゴースト諸共俺が放つ光の中に溶けていった。
さて、グールは倒したし、後は汚染された土地を浄化して終わり
だな。一時間程度かかるとして、かなり早く帰れるな。職人街にで
も寄って嫁三人に贈るアクセサリーでも⋮⋮
︱︱︱いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
不意に聞こえた女性の悲鳴に、瞬時に意識を切り替え周囲を警戒
するが、この周囲には一切敵は存在しない、そうなるとどこから悲
鳴が?
﹁なんだ! まさか感知できないアンデッドまでいたのか﹂
﹁クリス様! 向こうの丘の上に女性がっ!﹂
駆け寄ってきたユングフィアは悲鳴の出所が分かったようで、か
なり離れた場所にある小高い丘を指差した。
グール
屍鬼を倒したことで、倒し損ねたゴーストが冒険者でも襲ったか
375
? なんにせよかなり切羽詰まったように感じる声だ。俺が馬に鞭
を入れ駆けると、二人も黙って付いてきた。
小高い丘の上、そこには胸元を抑え苦しむ女性⋮⋮ついさっき会
ったパン屋のお姉さんじゃないか! なんでこんなところに? 周
囲にアンデッドはいない、病気か何かだろうか?
﹁大丈夫か? 俺は治癒魔法が使えるから安心しろ。落ち着いて痛
いところを教えてくれ﹂
﹁こ、刻印! 刻印が光って⋮⋮た、助けて⋮⋮アンデッドになん
てなりたくない⋮⋮助けてくださいなんでもしますから!﹂
刻印? 落ち着いて胸元を注視してみると、微かに異様な魔力を
帯びた刻印が鈍い光を放ち⋮⋮これはっ! 毒のようなものを精製
する類の術か!
力任せに服を剥ぎ取り、左の脇下にある光る刻印に集中し、術の
解除を試みると⋮⋮
﹁ひぎぃ! あ、あぁぁぁぁっ!﹂
刻印に刻まれた術の抵抗なのか、彼女がさらに苦しみだす。拙い、
術を解除しよとすると、毒の精製量が増す仕組みか。
解毒を試みても、毒そのものを精製する術が解けないと延々と体
を蝕み続ける。どんだけ性格の悪い術をかけんだよ! 屑野郎!
拙いぞ段々ゴーストが集まってきた、ゴーストは戦闘力は無いの
だけど恐怖を煽り、精神を乱すことができる、一刻を争うこの状況
376
では致命的に邪魔だ。このままじゃ彼女もグールになってしまう!
焦りながら解毒を施すが、術を解かないとキリがない、毒の精製
は彼女自身の生命力を利用してるようで、解毒しながらもどんどん
衰弱してるのが分かる。
﹁クリス様! お待たせしました﹂
駆け寄ってきたユングフィアが集まったゴーストを蹴散らす、少
し遅れて馬の扱いに慣れていないアルテナがやってきた。
﹁アルテナ、彼女の解毒を頼む! 心臓付近だ! ユングフィアは
ゴーストを頼む!﹂
アルテナが解毒を始めると同時に収納空間から生命力ポーション
を取り出し、飲ませる⋮⋮意識が朦朧としていて飲み込めないのか、
仕方ないので口移しで飲ませると多少は回復したようだ。
なんで彼女がこんな場所にいるのかは後で聞くとして、今は術を
解くのに集中だ。解毒をアルテナが担当してくれるから、術の解除
に集中できる。
魔術形態としてはアンデッド化の毒を精製するのは土の魔法に属
する。闇じゃないのかと誤解されがちだが、闇の魔法というのは肉
体を変質させる事は出来ない。精神的な負荷で体の不調を誘発させ
ることはできるが。
土の魔法とは土砂や植物を操ったり変質させたりするのが基本。
そこから応用して﹃自然物の操作、変質﹄させるのがまとめて土の
魔法で、当然人間の肉体も自然物とされる、自然魔術とも称され、
神聖魔法以外の回復魔法はこの系統だ。
377
余談だが、風の魔法は空気を操作する基礎から発展し気象に干渉
したり、超絶的な操作能力で一定の空間内を自由自在にでき、空間
魔法とも言われる。
水の魔法は、魔力で水を精製することから始まり、水以外にも酒
やら食肉やら、果ては金属までも精製できるようになると水属性の
専門家とされる。創造魔法とも呼ばれる。
火の魔法、一般的に考えられるような手から火の玉を放つだけで
はなく、熟練になればなるほど概念的な物まで﹃燃やす﹄ことが出
来る。地方によっては破壊魔術やら焼滅魔術やら物騒な異名を付け
られることが多い。
他にも光やら召喚やら付与やら色々あるが、まぁそれはさておき。
俺は闇以外でも各属性の基礎程度なら一通り使いこなせるのだが。
こんな高度な土の魔法には手が出せないので、神聖魔法を使い力づ
くで刻印を消し去るしかできない。
ディスペル
とにかく勇者になって増えまくった魔力で、神聖魔法︻魔術破棄︼
を、流し込むように、アンデッド化の刻印に叩き付ける。
∼∼∼∼∼
もうすっかり日が暮れてしまい、仕方ないので使い魔を送り、今
アイテムボックス
日は帰れない事とその事情を手紙に書いてを妻たちと神殿に伝える。
収納空間からに高級テントを取り出し、衰弱し意識のないパン屋さ
んを寝かせてあげる。
378
なんとか術の破棄と解毒には成功したが、彼女の意識は戻らない。
念のため生命力ポーションをもう一度飲ませ、診察したところ命に
別状はないようで一安心だ。
ユングフィアは、日が落ちる前に出来る限りの事をすると言って、
屍鬼がいたあたりに聖別した塩を撒きある程度の浄化をしに行って
る。
アルテナは彼女に貰ったパンだけでは寂しいと、簡素ながらスー
プを作ってる。良い匂いがここまで漂ってくる、魔物の多い場所で
香りの強い料理を作ると、魔物が寄ってくる場合があるのだけど、
殆ど魔物がいない事と俺が魔物払いをしてるので特に問題は無い。
⋮⋮さて、困った、人助けをしたんだから別に疚しい事は無いし、
胸を張って明日帰ればいいんだが⋮⋮どうにもムラムラしていかん。
だって非常時とはいえ店員さんの服を乱暴に剥ぎ取っちゃったん
だよ? 毒の刻印は心臓付近、ようするにおっぱいのすぐ近くだっ
たんだよ? そんで彼女って見事としか言えないような美巨乳だよ
! 重力に逆らって形を保ってるんだよ!
目の前で身動ぎするたびにプルンプルン揺れるおっぱいを見て、
興奮しない男はいるだろうか? いたとしたら幼児か特殊性癖しか
いないだろう。
お店だと彼女は地味目の化粧をしていたが、素顔の彼女は童顔で
かなり可愛い。いかんいかん、気絶した女性に悪戯するなんてあり
えん。
379
丁度アルテナに食事の支度が出来たと呼ばれたので、飯を食って
さっさと寝てしまおう⋮⋮
∼∼∼∼∼
寝れない! テントの中の簡易ベッドは二つだけ。一つは店員さ
んを寝かせ、もう一つは俺が使ってる。女性二人にベッドを使わせ
ようとしたのだが、二人揃って俺を寝袋で寝かせ自分はベッドで寝
れないと反対されたせいだ。
あのね? 俺もね神官さんたちが俺を敬ってくれてるのは分かる
よ? あんまり自覚はないんだけど勇者なんて立場だ。神殿に仕え
る人間として、立場的にも心情的にも君らの主張は尤もだと思うん
だ。
﹁んっ⋮⋮くっあっ⋮⋮んあぁぁ⋮⋮はぁはぁ﹂
だが若い女性と隣り合ったベッドで寝ろってのはあんまりだと思
わないか! 命に別状はなくても毒の影響なのか、かなり汗をかい
ている彼女の女の匂いは、否応なく異性として意識させられる。
そして苦しそうに息を荒らげる彼女の声が喘ぎ声に聞こえて、興
奮して全然眠くならないんだよ! 暗くて周囲が静かだから余計に
耳に飛び込んできて。目を瞑って寝ようとしても、刻印を消すとき
に目に入った、大きなおっぱいが脳裏に焼き付き鮮明に思い出せる。
﹁はぁ⋮⋮んっ⋮⋮ふぅぅぅはぁぁぁ⋮⋮あっあん⋮⋮﹂
380
駄目だ! これじゃ徹夜した方が精神的に楽だ! ユングフィア
とアルテナは遮音性の高い布で仕切られた、別の部屋で寝てるし気
付きはしないだろう。寝室から出ようとベッドから降りたとき⋮⋮
ぎゅっと⋮⋮ベッドの端から伸びた手に、服の裾を掴まれた。
﹁ひとりに⋮⋮しないで⋮⋮﹂
朧げな意識の中で﹃誰か﹄が傍にいるのに気が付いていたのか、
弱々しく俺の服の裾を掴んでいる彼女。これじゃこの手を振り払う
ことは出来ない⋮⋮いや待て俺がこの部屋にいたら貴女の貞操が危
険なんですが。
精神干渉への抵抗力は高いと自認してるが、ムラムラした状態で
の理性なんぞ、俺自身信用してないんだぞ。
﹁いか⋮⋮ないで⋮⋮なんでもするから﹂
ん? いまなんでもするって⋮⋮って! 店員さんみたいな可愛
い子がそんなこと言っちゃいけません! 男はみんな狼なんだよ、
おっぱい
﹃待て﹄がちゃんと躾けられた奴でも、喜んで飛び掛かるよ! ボ
リューム満点のお肉にしゃぶりつくよ! 桃色の突起を美味しく頂
きたいよ!
必死に飛び掛かりたい衝動を抑えながら、なんとか彼女を寝かし
つけるために、動いた拍子に落ちた毛布を掛けてあげようと⋮⋮は
だけた胸元と、汗で服がぴったりと張り付き、体のラインがはっき
りと分かる肢体が目に入る。
ごくり⋮⋮小柄で童顔の上にこのスタイルは反則だろう。肌を伝
381
う滴がより一層いやらしさを強調する。いやいやいや! 意識のな
い女性に手を出すなんて強姦まがいの事できん! 第一名前も知ら
ないんだぞ!
﹁はぁはぁはぁ⋮⋮んんっ⋮⋮こ、ここは? アタシ助かったの?﹂
俺が理性と煩悩の狭間で葛藤していると、どうやら意識を取り戻
してくれたようだ。助かった! 事情を説明してゆっくり休んでも
らおう。俺はそのあと外で茹で上がった頭を冷やすのに、冷水でも
頭から被るか。
とりあえず近くのテーブルをベッドの脇に運び、その上に水と果
物を用意してあげる。弱った身体でも食べられるだろう。決して最
大まで勃起した逸物を隠すためではない。
お腹が空いてたらしい彼女は果物を頬張りつつ俺の説明を聞いて
いた。説明が終わると彼女はヴィヴィアンと名乗り、涙を流しなが
らお礼を言ってくる。
﹁ありがとう⋮⋮ありがとうございます! ぐすっ⋮⋮ありがとう
ございます!﹂
﹁ヴィヴィアンさんにも事情はあるのだろうけど今は聞かない、疲
れてるだろうからゆっくり休むといいよ﹂
努めて紳士的に部屋を出ようと歩くが、焦ってたせいかすぐ背後
から、ヴィヴィアンさんが寄ってきてるのに気づけなかった。後ろ
から抱きしめられ、不意を突かれたせいでベッドに倒れてしまった。
なんか体勢を操られた気がするが、パン屋の店員さんがそんな武
382
道家みたいな真似できるわけないし偶然かな? なぜかヴィヴィア
ンさんに押し倒された形なのも偶然だろう。
﹁あ、あのヴィヴィアンさん? 男の俺が隣にいたらゆっくり寝れ
ないだろう? それとももっと果物欲し⋮⋮んむっ!﹂
いきなりキス、しかも舌を絡めてきた拍子に何かを飲み込んでし
まった。
﹁好きです! 惚れました一生尽くします! 妾でも使用人でも、
いっそ性奴隷でも構いませんのでお傍においてください!﹂
﹁いやいやいや落ち着けヴィヴィアンさん、気持ちは嬉しいけどそ
ういうのは⋮⋮ぐっ!﹂
彼女の柔らかい素肌が俺の逸物に布越しとはいえ触れる、俺が勃
起してるのに気が付いたのだろう、彼女は嬉しそうに肌を寄せて⋮
⋮俺の理性の糸はぷっつりと切れた。
俺の上から覆いかぶさるヴィヴィアンの体勢を力任せに変え、ベ
ッドに押さえ付ける形にすると、邪魔な衣服を脱がせ⋮⋮そうだこ
の前ディアーネにしたように腕を縛ってやれ。性欲で茹で上がった
頭にはそれが名案に思えた。
脱がせたシャツでたくし上げ両手の部分でぐるぐる巻きする、そ
うして露わになった巨乳を鷲掴みにし、綺麗なピンク色の乳首を口
に含み吸い付き、優しく噛む。
﹁やっあぁぁ⋮⋮ひぅ! ク、クリスさん⋮⋮アタシの胸気に入っ
てくれた?﹂
383
﹁ああ、最高だヴィヴィアンのおっぱいはもう俺のものだ!﹂
胸の谷間から香る女の匂いにさらに興奮し、目に見えて大きくな
った乳首に更に昂る。彼女が俺の手で感じている事実に性欲が加速
する。このまま俺のチンポで欲望のまま、膣腔を蹂躙し孕ませたい
衝動に駆られる。
しかし彼女は俺の女だ、もう決めた。だからこそ優しく、蕩かす
ように快感を与え俺から離れられないようにしたい。俺って意外と
独占欲強かったんだな、正直抱いた女はもう手放したくないと強烈
に思う。
汗を吸った彼女のズボンを脱がせ、下着を剥ぎ取りオマンコを露
わにすると、反射的に抵抗しようとするが、縛られてるので叶わな
い。秘所の割れ目沿いに指を這わせ、同時にクリトリスにも触れる。
最初は弱く。
﹁ひゃん! あっあっあっ! ア、アタシ初めてなんです⋮⋮だか
ら⋮⋮﹂
ヴィヴィアンの反応を伺いつつ徐々に強く。彼女くらい可愛けれ
ば、男なんて選り取り見取りだと思うが、処女だったのか。
﹁んっんっ! はぁぁぁん! す、凄いのぉこんな! こんなの初
めてぇ!﹂
﹁随分感じやすいんだな、乳首がこんなに立ってるの初めて見たぞ﹂
口に含んだままの乳首を唇で噛むと、心なしか更にオマンコが濡
384
れる。どうも彼女はおっぱいの方が感じやすいようだ。
﹁ち、違うの、クリスさんが上手いから⋮⋮クリスさんのが気持ち
良くて感じちゃうんです!﹂
嬉しいことを言ってくれる、手と舌でヴィヴィアンを悶えさせる
のは、男冥利に尽きるが、俺も愛撫だけじゃ物足りなくなってきた
から、そろそろ挿れたい。俺は力任せに両足を大きく開かせ、ラン
プの明かりに照らされた蜜穴は、怪しい光を放ち誘ってるかのよう
だ。
﹁ああ⋮⋮ど、どうぞアタシの初めてを貰ってください⋮⋮クリス
さん⋮⋮好きにして⋮⋮ください﹂
﹁ヴィヴィアン⋮⋮いくぞ?﹂
潤んだ眼を俺に向けるヴィヴィアンにキスをして、両手で彼女の
巨乳を揉みしだく。そして⋮⋮
﹁んむっちゅ⋮⋮んはぁぁぁぁぁぁ!﹂
愛液に濡れた彼女のオマンコは、微かな抵抗をあっさり貫いた俺
のチンポを奥まで飲み込んだ。言葉通りヴィヴィアンは、俺にされ
る事はなんでも嬉しそうに受け入れる。
本当ならゆっくりと、ヴィヴィアンのオマンコの感触を楽しみた
いのだが、毒で衰弱していた彼女にセックスは負担だろう。今は多
幸感で疲れを感じていないが、やりすぎて良いわけがない。
挿入直後はすぐには動かず、体中を優しく撫でる、痛がってる感
385
じはしないがやせ我慢してる場合、こうすると痛みを誤魔化せるか
らな。
﹁あの、クリスさん好きにして良いんだよ? アタシの事は気にし
ないで気持ち良くなって⋮⋮んむっ﹂
彼女の唇を口で塞ぎ、手はお尻を撫でて揉む。うん、おっぱいだ
けじゃなくお尻の感触も良いな。なんというかディアーネとはタイ
プが違うにせよ、全身で男を誘うようなエロい身体だ。まぁ他の男
が触れることは、これから無い。
この身体を好きにできるのは俺だけ、妾でも構わないとか言って
たが、俺は抱いた女を都合のいい女扱いする気はない。嫁として不
自由のない生活をさせてやるからな。
﹁あんっ! あっあっんむぅぅ⋮⋮そ、そこはだめぇアタシ汗かい
てるから⋮⋮﹂
脇の下に舌を這わせると恥ずかしいのか、オマンコがさらに締め
付けてくる。だが縛られた状態では、どうすることもできずに、な
すが儘だ。そろそろ動かしてもいいか。
俺の腰が動くと、彼女も合わせて腰をくねらせる。処女を喪失し
て間もないと言うのに、お互いがより快感を得るために俺に合わせ
て腰を振っている。
﹁っっっ! はぁぁん! 奥にっ奥に当たってるのぉ!﹂
ゆっくりと、そしてヴィヴィアンの感じる箇所を探りながら腰を
動かす。彼女に体力があれば激しく攻め立てるところだが、今日は
386
ゆっくりだ、疲れさせないように。
す
出
﹁ヴィヴィアン、今日は初めてだから無理はしないでこのまま射精
するぞ。ヴィヴィアンの膣内に出すぞ﹂
ナカ
﹁は、はいっ! 出してください、アタシの膣内に!﹂
いつもはもう少し我慢するのだが、早く終わらせないと彼女に負
担がかかるからな。もっと楽しみたいけど今後時間はたっぷりとあ
る。彼女のお尻を掴んで、一番奥までチンポを押し込んだ瞬間、昂
った性欲を彼女の膣奥に解き放った。
﹁あっひぁぁぁぁぁぁぁ!! 熱いのが! クリスさんの熱いのが
アタシの膣内に!﹂
優しくゆっくりとしたセックスだったので、高まった性欲はまだ
まだ鎮まらないが、彼女に無理をさせるわけにはいかない。ヴィヴ
ィアンを縛っていたシャツを解いてあげて、腕枕でそのまま寝よう
と⋮⋮
﹁そ、その無聊を慰めるのでしたら⋮⋮わ、私にも⋮⋮﹂
顔を真っ赤にし、何故か鎧姿のユングフィア。後で聞いたところ
俺が近くにいたので、緊張して眠れず周囲の見回りをしてたらしい。
それで帰ってみたら俺が助けた彼女を縛って犯してる︵ように見え
た︶ので、自分の身を差し出し、彼女を救おうと飛び込んできたそ
うだ。
﹁英雄色を好むと言いますし⋮⋮私が身を賭して劣情を受け入れま
す、どうか⋮⋮﹂
387
﹁違うから! なんかユングフィアは誤解してるから!﹂
﹁私の事を綺麗と言って下ったのは嬉しかったです⋮⋮その言葉が
嘘でないのならどうか!﹂
﹁誓って嘘は言ってないけど、もっと別の事誤解してるからね!﹂
ヴィヴィアンに説明させようにも、やはり疲れ切ってたのかベッ
ドで寝息を立てている。うん、良かった精液と一緒に活力を与える
術を体内に注いだのが功を奏したか、明日の朝には元気に⋮⋮って
! いかん、このままじゃユングフィアの俺に対する評価が強姦魔
に成り下がってしまう!
﹁わ、私のような大女は魅力には乏しいかもしれませんが、体力だ
けはありますので⋮⋮どうか存分に⋮⋮﹂
﹁待ってユングフィアさん﹂
いつの間にか部屋にいたのか知らないが、アルテナがユングフィ
アを止めてくれるのはありがたい、さぁ早くユングフィアの誤解を
解いてくれ。
﹁神殿を出発する際、クリス様を見る彼女の目⋮⋮あれは正しく恋
する乙女でしたわ! そのことから考えまして、彼女の方からクリ
ス様を誘惑したのですわ⋮⋮つまり﹂
あれ? 彼女からの誘惑というのは間違ってないけど、なんか猛
烈に嫌な予感が⋮⋮あ、ヴィヴィアンを腕枕してるから逃げられな
い! ちょっと! アルテナ、君の目がかなり怖いんだけど!
388
﹁私にも勇者様の愛を得る機会があると見て宜しいのですね?﹂
アルテナの声は鈴を転がすような美声に艶が混じり、とてつもな
い色気を孕んでいた⋮⋮君って大人しくて控えめな娘だと思ってた
けど、肉食系だったんだね⋮⋮いくらなんでも彼女たちにまで手を
出すのは最低すぎるから、上手く宥めて⋮⋮ぐっ!
瞬間⋮⋮心臓が激しく波打ったかと思うと、まるで身体の奥底か
ら活力が沸いてくるかのようだった。
体中の血が燃えるように熱い! 頭が真っ白になり⋮⋮目の前の
美少女二人を見て⋮⋮いや待て! 俺は今何を考えた? この二人
に手を出すとしても、ちゃんと親御さんに筋を通して、結婚したう
えで⋮⋮別にその前に手を出しても誰も責めないんじゃないか? ⋮⋮彼女らの保護者は俺に嫁がせる気みたいだし⋮⋮
そういえば⋮⋮ヴィヴィアンに最初キスをされたとき⋮⋮なんか
飲まされたような⋮⋮
389
誘惑の夜−前編−︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
ヴィヴィアンさん割と残念な性格だけど、ハニトラ要員のスパイな
んで﹃その気になるお薬﹄は常備してる感じですね。
390
誘惑の夜−後編−︵前書き︶
今回はエロメイン
391
誘惑の夜−後編−
薄暗いテントの中に淫らな水音だけがやけに耳に響く、聖別され
た銀の鎧を纏ったままのユングフィアと、公平さ清廉さを表す白い
神官服に身を包むアルテナ。甲乙つけ難い美少女二人が熱心に俺の
チンポに奉仕してる姿はたまらなく淫靡で、それだけでイってしま
いそうだ。
ユングフィアは凛とした美貌を羞恥に染め、おっかなびっくり手
で扱き、そしてゆっくりと逸物に舌を這わせる。大人しそうなアル
テナはチンポに興味津々と言った風情で、顔を寄せ躊躇なくフェラ
チオをする。
﹁二人とも随分と熱心だな、そんなに俺のチンポは美味いか?﹂
ヴィヴィアンに腕枕をしながら裸で寝そべっている俺のチンポに、
美少女二人が初めて見るであろう肉棒に、舌を這わせている姿にそ
んな戯言が口に出る。反応したのはアルテナだ、舌の動きを止め手
で優しく撫でながら俺に情欲を孕んだ眼を向ける。
﹁遠くで、遠目で奥様との仲睦まじいお姿を見たときから⋮⋮奥様、
オリヴィア様の姿を自分に重ね。こうして⋮⋮肌を重ねる日を夢見
ておりました⋮⋮はっはっ⋮⋮んくっ、んっんっんっ﹂
フェラチオを再開したアルテナは、今度は肉棒全体を口に含む。
温かい口内で舌を頑張って動かし、拙い口淫ながらも、俺を気持ち
良くさせようとしてるのが分かる。時折様子を窺うような上目遣い
がさらに俺を興奮させる。
392
﹁ん⋮⋮ちゅ、んっんっ⋮⋮﹂
﹁ア、アルテナさんずるいです﹂
神官戦士として何時も凛々しい姿を崩さないユングフィアが、恥
ずかしそうに顔を染めどうして良いか分からずオロオロしている。
しばらくしてアルテナに占拠されてない場所に舌を這わせる事にし
たようだ。
俺のチンポはデカいから、アルテナの小さな口には収まりきらな
いので、おずおずといった感じででチンポの根元を舐めているが、
ちょっと快感としては微妙だ。まぁ自分で考えてなんとかしようと
する姿は、可愛いのでそのままにしておこう。
﹁ふふっもっと丹念に綺麗にしろよ、これからお前らの処女をぶち
抜いて孕ませるものだからな﹂
孕ませるの言葉に二人は一瞬強張ったが、俺への奉仕を優先した
のか? さらに舌の動きが早くなる。空いた手で頭を撫でてやると
蕩けた表情でさらに奉仕に熱がこもる。
ナカダシ
ついさっきヴィヴィアンに膣内射精したばかりなのだが、美少女
二人の奉仕による視覚的な興奮のせいか、ぎこちないフェラチオで
もそろそろ射精しそうだ。
とはいえ口に中に出して飲ませるのは可哀そうだし、聖別された
装備を汚すのも悪いからな。なによりどうせ射精するなら膣内に出
したい。
393
﹁お前たちフェラはもういい﹂
﹁ひぅ! な、なにか不作法でも?!﹂
怯えたように俺を見るユングフィアだが、安心させるように頭を
撫でてやる。
﹁そうじゃない、気持ち良くてイってしまいそうだったぞ﹂
俺はユングフィアの下腹部に触れ、ズボンの隙間からオマンコに
指を這わせると、僅かに悲鳴を上げるが彼女は俺の手を受け入れる。
ぴったりと閉じた割れ目からは蜜が滴り落ち、俺に食われるのを待
ってるかのようだ。
﹁出すならここに出したいんでな、二人とも四つん這いになって尻
を向けろ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁クリス様に⋮⋮乙女の証を捧げます﹂
二人はすぐさま言われた通りに俺に尻を向ける。恐れと期待が入
り混じった視線を向ける二人の尻、そして同時にオマンコに手を這
わせると嬌声を、疑いようのないメスの喘ぎ声をあげたのはどちら
だろうか? まぁそんなことはどうでもいい⋮⋮二人揃って声も出
せないほど感じさせてやる。
まずはユングフィアだ、鎧は馬に乗るのを想定してるもので、好
都合にも尻の部分は鎧に覆われていない、鎧下のズボンをずり下す
と、既に愛液で溢れたオマンコが露わになる。
394
﹁フェラチオで感じていたのか? エッチには興味なさそう顔して
随分と淫乱なんだなユングフィア?﹂
﹁そ、そんなクリス様⋮⋮わ、私は淫乱なんかじゃ⋮⋮﹂
凛々しいユングフィアの恥ずかし気な表情は、たまらなく俺を興
奮させる。こんなにも可愛い彼女を避けるとは神殿の男連中は本当
に見る目がないな、ちょっと力が強くて背が高いくらい魅力のうち
だろうに。
﹁気にするなエッチな女の方が好みだからな。俺の前でだけ乱れた
姿を見せてくれるのは、男冥利に尽きるというものだぞ﹂
これはもう愛撫はいらないだろう、欲棒でクリトリスを弄ってや
ると、面白いように喘ぎ声を上げる。
﹁あぁ! あ、熱いです、これが⋮⋮これが男の人の⋮⋮クリス様
の﹂
脱がせて分かったが彼女は、胸だけでなく尻もデカい、しかも形
もいいし、鷲掴みにした感触は俺好みだ。お尻を掴んで濡れた蜜穴
にチンポをあてる。
﹁んっ⋮⋮はぁ⋮⋮わ、私の身体を⋮⋮好きにしてください﹂
﹁ああ⋮⋮貰うぞ﹂
一息に処女孔ををぶち抜くと太ももに破瓜の血が垂れ落ちる。ユ
ングフィアの膣腔はかなりキツく深い。最大限に勃起した俺の逸物
395
でやっと奥まで届くといった感じで、チンポ全体を締め付けるよう
な感触に、気を抜くとすぐにイってしまいそうだ。
﹁はぁ! んはぁぁぁぁぁぁぁぁん!﹂
﹁ははっ! 身体だけでなくオマンコも俺好みだなユングフィア!﹂
淫欲の熱に浮かされた俺は、彼女を気遣うこともできず、ユング
フィアの膣腔の気持ち良さに、腰が止められない。激しくチンポを
彼女の膣奥まで叩き付ける。
﹁あっあっあぁぁぁぁ!! はっ激し⋮⋮激しすぎて⋮⋮壊れちゃ
う! はっあっんはぁぁぁぁぁ!!﹂
彼女のオマンコは俺専用に誂えたかの如く、俺のチンポにぴった
りだ。愛液はさらに零れ落ちるようで挿入はますますスムーズに、
挿入速度も速くなり、ユングフィアの嬌声はますます高まる。
﹁んふぅぅ! クリス様! クリス様ぁぁぁ! あ、頭が真っ白に
なって⋮⋮ひぎぃぃぃ!﹂
四つん這いになった鎧姿のユングフィア、喘ぎ声はまるで泣いて
いるかのようで、まるで決闘に敗れた女騎士を犯してるかのようだ。
﹁ユングフィア、お前はもう俺のものだ! これから何度も孕ませ
てやるから覚悟しろよ﹂
﹁はっあぁ⋮⋮わ、私は⋮⋮クリス様のモノ⋮⋮赤ちゃんを⋮⋮あ
っあっあぁぁぁん! 来ちゃう、なにかが来ちゃうのぉぉ! んっ
っっひぁぁぁ!﹂
396
身体を仰け反らせ、初めてだというのに盛大に絶頂に達したよう
だ。初めてでこんなに乱れるなんてホント俺好みだ。そのまま激し
く打ち付る。
﹁ひっ! ま、待ってください私⋮⋮そんな激しくされたらぁぁぁ
! んあぁぁぁ!﹂
だが止まらない、射精したばかりだと言うのに一向に肉棒が萎え
ないのは、ユングフィアの具合が良いのと、俺と身体の相性が良い
からだろう。
﹁たっぷりと子宮に俺の精液を注いでやる、嬉しいだろうユングフ
ィア?﹂
﹁はひぃぃ! う、うれ⋮⋮嬉しいです! どうか私を⋮⋮私を孕
ませてぇぇぇ!﹂
潤んだ眼で膣内射精を嘆願するその表情がたまらない。俺は彼女
の最奥に思い切り膣内射精する。
﹁はぁぁぁぁぁ!! 来てるのぉぉ! 熱いのが私の奥にっ! は
ぁんはぁぁぁぁぁ!﹂
膣内射精と同時にイったようで、四つん這いの姿勢のまま崩れ落
ちるユングフィア。膣孔からチンポを引き抜くと溢れた精液が零れ
落ちる。こんなに大量に射精したのは何時ぶりだろう? オリヴィ
アとの初体験の時くらいか?
しかしそんなに大量に出したにも拘らず、一発だけじゃ足りない
397
と言わんばかりに俺の逸物はまだまだ猛ったままだ。ユングフィア
から引き抜いたそれは一切大きさを変えず、もう1人の美少女に狙
いを定める。
﹁待たせたな、望み通りお前も抱いてやるぞ﹂
ユングフィアの痴態を目の当たりにしても、怯えた様子はなく、
むしろ期待した目で俺を見る。
﹁はぁはぁ⋮⋮お待ちしておりましたわ⋮⋮どうかこのアルテナも
存分に犯してくださいませ﹂
同じ体位で抱くのも芸がないと思い、四つん這いのままで俺に尻
を差し出すアルテナの膝を背後から抱え、おしっこしーしーのポー
ズで持ち上げる。
﹁ユングフィア⋮⋮アルテナの下着を剥ぎ取りオマンコを舐めろ﹂
どうもダブルフェラしてる時から薄々察してたが、アルテナは祖
父の影響なのかユングフィアに対して、妙なライバル意識があるよ
うだ。
俺の命令に素直に従うユングフィアは言われた通りにアルテナの
下着を脱がし⋮⋮アルテナの⋮⋮ライバルのオマンコにクンニする。
﹁いやぁぁ! や、やめてユングフィアさん! んぐっ﹂
キスで唇を塞ぎ、ライバルに舌で愛撫され、はしたなく愛液を垂
らす姿は、とても昼間の大人しい姿からは想像もできない。
398
﹁普段は清楚で控えめなお前が、セックスではこんなに淫乱とはな、
くくっ! 可愛いぞアルテナ、俺好みのエッチな良い嫁になるな﹂
﹁ひぐぅぅ! は、はい! 私は、クリス様好みの⋮⋮エッチなお
嫁さんになりま⋮⋮はっんはぁぁぁぁ!﹂
おっと、キスとクンニだけで軽くだがイッたようだ、処女なのは
間違いないみたいだけど、かなり感じやすいようだ。
﹁へぇこんなに早くアクメするとはな⋮⋮普段からオナニーとかし
てるのか?﹂
持ち上げたまま首筋に舌を這わせ、耳に移り、唇を甘噛みするこ
ろにはすっかり息は荒くなっている。
﹁は、はひぃ⋮⋮毎日毎日息苦しくて⋮⋮ついオマンコに手が伸び
てしまい⋮⋮ひっくひっく⋮⋮毎晩自分で⋮⋮﹂
﹁泣くな、エッチな女は俺好みだと言っただろう? 毎晩のオナニ
ーとは比べ物にならないくらい喘がせてやるよ﹂
下から突き上げるようにアルテナの処女マンコの入り口にチンポ
を突き付け⋮⋮俺はふと悪戯を思いつき、収納空間から姿見を取り
出す。
俺に抱えられ大きく股を開いた姿を目の前に映す。思った通りに
アルテナは蕩けた表情がいきなり羞恥に染まり、長い金髪を振り乱
し、両手で顔を隠す。
﹁あぁ! いやぁぁ! 恥ずかしいですわ! 私、私こんな淫らな
399
表情⋮⋮んぐぅぅぅ!﹂
アルテナの瞳に映ったのは、俺のチンポで処女を破られる瞬間だ
った、持ち上げたままアルテナの処女を貫くと、かなりきつい締め
付けだが思った以上にスムーズに挿入できた。これならすぐに動い
ても痛くはないだろう。
持ち上げてる状態なので、体を上下に揺するだけでも容易く奥ま
で肉棒が届く。そして一筋流れる破瓜の血に例えようもない征服欲
が満たされ、チンポが膣のなかで更に大きくなる。
﹁あっあっんはぁぁぁ! あぁぁぁ見ないでくださいませ! こん
な淫らな顔を見ないでぇぇぇぇ!﹂
﹁いいや見せてもらうぞ、俺だけに、俺のチンポを突っ込まれてる
時だけ、こんな蕩けた顔を見せろ!﹂
体勢のせいか激しく動けないが、アルテナの反応は劇的だった。
ただでさえキツイ膣圧が、さらに締まり痛いくらいだ。そのうえ恥
ずかしがってバタバタと足を動かすのだから、膣内で俺のチンポを
擦りたまらなく気持ちいい。
ナカダシ
まだまだ射精は我慢できるが、今夜はもっと二人を味わい尽くし
たいからな。一度膣内射精して別の体位を愉しむとしよう。
ナカダシ
﹁出すぞ、膣内射精されて孕む瞬間をじっくり見ろよ⋮⋮﹂
恥ずかしがって顔を隠すアルテナの手を無理やりどかせ、結合部
分をはっきり分かるように位置を調節し⋮⋮本日三度目だというの
に大量に射精する。
400
﹁んんんん∼∼∼∼∼∼ッッ!! んはぁぁ! 熱いのぉぉクリス
様の精液が私の膣内に⋮⋮﹂
精液が子宮に注ぎ込まれた瞬間、アルテナも絶頂に達する。脱力
した彼女からチンポを引き抜くと、破瓜の血に混じった精液が、膣
孔から零れ落ちる。
﹁ふぅ⋮⋮ふふふ、身悶える姿は最高に可愛くて、俺好みのエロい
良い嫁になるなアルテナは﹂
﹁んっはぁ⋮⋮はぁはぁ、ありがとうございます⋮⋮私はクリス様
好みのエッチなお嫁になりますわ﹂
ゆっくりと床に下ろしたアルテナはへたり込むが、なんとか服を
脱ぎ、傍でライバルの痴態を見ていたユングフィアと一緒に、言わ
れた通り一糸纏わぬ姿を俺に晒す。
圧倒的なユングフィアの爆乳はさらに俺を昂らせ、手のひらに丁
度収まる大きさのアルテナのおっぱいも、張りがあって揉み心地は
良さそうだ。
その後俺の性欲は二人が気絶するまで治まることは無かった⋮⋮
∼∼∼∼∼
﹁昨夜は申し訳ございませんでした!﹂
401
朝、目を覚ますと俺は、裸のままベッドで横になってる三人に土
下座した。朝起きて冷静に考えると昨夜のあれは、ほとんど権力を
かさに着た強姦に近い、ならば最初にするのは謝罪だ、その次は⋮
⋮サンドバックになるくらいで許してもらえるだろうか?
三人にそう伝えると怒ってはいないそうだが、それじゃ俺の気が
済まない。ぶっちゃけビンタでもされた方が気が楽だ。
﹁待って待って、昨日のアレはアタシから誘ったからですよ! 謝
らないでください﹂
ヴィヴィアンが慌てるが、それにしたって衰弱した女性に手を出
すのは問題あるだろう。朝起きて見知らぬ女性が二人裸で寝ていた
のだから、驚いても良さそうなものだが彼女は平然としている。
﹁クリス様、私は女性として求めていただいて嬉しかったです﹂
﹁そ、そうですわ! 私たちは望んでクリス様に身を捧げたのです
から、どうか頭を上げて下さいませ﹂
土下座する俺に慌てたのはユングフィアとアルテナも同様だ。確
かの彼女たちからすれば上位者に頭を下げられるのは困ってしまう
だろう。
いや、俺だってね、君らが俺の依頼に同行したのは、仲を深めて
勇者である俺に嫁ぐように、トラバントさんやサテリットさんに言
われたからだとは察してるんだよ。
二人とも文句なしの美少女だから、彼女たちさえ良ければ、嫁に
するのはむしろ大歓迎なんだよ? けどそれにしたってデートした
402
り、又は一緒に仕事したりとかして、仲良くなってからだと思って
たんだよ。
四つん這いになって尻を向けろとか、鏡の前で処女喪失とかって
なんだよ昨日の俺! 叶うなら昨夜の俺をぶん殴りたい、二人とも
初めてだったんだから、暴走しててももうちょっと優しく出来るだ
ろうが!
﹁本当に申し訳ない! 嫁にするからには大事にするつもりだけど、
もう二度とああいう辱めるような真似はしないから!﹂
﹁い、いえ⋮⋮偶にでしたらむしろ大歓迎⋮⋮ではなくて、私は最
初からクリス様のなされる事でしたら、なんでも受け入れますわ﹂
アルテナが慰めてくれるが、俺の気が済まない。そうして土下座
を続ける俺の手を取り、胸元に引き寄せたのはヴィヴィアン。ああ、
この柔らかくて最高のおっぱいを毎晩好きに⋮⋮って違う! エロ
思考から離れろ俺!
﹁謝るのはアタシです、実は昨日キスした時に⋮⋮その、アタシを
求めてくれるように媚薬を⋮⋮その口の中に隠していた媚薬を飲ま
せたせいですし﹂
そういえばあの時なにか飲まされたな、てっきりヴィヴィアンの
唾液かなにかだろうかと思って飲み込んでしまったが、媚薬だった
のか⋮⋮なぜパン屋の店員が口の中に、媚薬を仕込んでるのかは知
らないが。
﹁正直に言います、アタシはリーテンブ帝国の諜報員として街に潜
り込んでいた者です⋮⋮主な任務は⋮⋮有力者に取り入る為に⋮⋮
403
身を売ることです﹂
﹁なっ!﹂
﹁そんなっ!﹂
アルテナとユングフィアは驚いてるが、俺は納得した。性質の悪
い術だと思ったが裏切り防止に加え、街中で被害を出すのが目的だ
ったのか。
ヴィヴィアンにかけられていたのは、任務放棄の意思を持つと発
動するもの。発動条件に関しては、闇魔法の術式が組み込まれてい
てすぐわかったが、弄って発動を止めるには時間が足りなかったの
だ。ついでに発動した事実は術者にすぐ伝わるようになってる。
グール
恐らくだが術の発動と同時にヴィヴィアンは死んだものと見做さ
れただろう。なぜなら術の発動は屍鬼に変貌するのと同義だからだ。
いるだけで土地を汚すようなアンデッドが出没したら、即座に討伐
されるのは間違いない。
﹁任務の為にクリスさんの後をつけまして、同じ任務を受けて冒険
者として潜り込んでいた同僚があんな姿に⋮⋮監視の為にと言われ
植え付けられた刻印が発動してるのを見て⋮⋮ぐすっ!﹂
声には嗚咽が混じり、肩が小刻みに震えているのを見て、俺は彼
エロい
女を抱きしめ背中を撫でてやる。昨夜の性交のままお互い裸なので
抱き合ってるとまた変な気分になるが、ここはぐっと我慢だ。
﹁クリスさん⋮⋮ごめんなさい⋮⋮アタシ、アタシ⋮⋮﹂
404
﹁心配するな、近づいた動機はどうあれもう俺はお前を手放す気は
ない。俺のところに嫁に来いヴィヴィアン、幸せにするから﹂
泣きながらさらに強く抱き着いてくるヴィヴィアンにキスをして
⋮⋮祝福を発動する。周囲に光が満ちてヴィヴィアンを優しく包み
込む。
﹁クリス⋮⋮さん⋮⋮﹂
ヴィヴィアンは涙で声が出ないようだ、俺に縋りつきながらただ
涙を流す。そうして抱き合ってると左右から柔らかいものに包まれ
る。
﹁女の私たちから言うのは、はしたない事かと存じますが⋮⋮﹂
﹁私たちも⋮⋮欲しいですわ﹂
ユングフィアとアルテナも抱きかかえ、祝福を再度発動し二人同
時に与える。一挙に三人も嫁が出来てしまった、オリヴィアたちに
なんて説明しようかな⋮⋮
∼∼∼∼∼
クレイター諸島連合王国、その政の中心たる王城にて。クレイタ
ー国王たる我はその使者が述べる口上を欠伸を噛み殺しつつ聞いて
いた。
﹁ですから両国の平和と安定の為に、婚姻を結ぶべきでしょう。幸
405
いにも陛下には年頃の姫が二人もおられる、姉妹揃って帝室と縁を
繋げばクレイターの繁栄は約束されたも同然ですぞ!﹂
とりあえず言葉遣いだけはそれなり、あくまでそれなりに繕って
おるのだが、態度からしてこちらを見下してるのが良く判る。確か
に付き合いが長いので国の意見を代弁する大使は常駐してるのだが、
新たに赴任したこの男の態度はどうにかならんのか?
クリス
帝国の要求は要約すると﹃二人の姫を差し出せ、そうすれば食料
の値段を元通りにしてやる﹄である。我が勇者殿に会って帰ってき
た頃から、なぜだか帝国の態度が急に横柄になってきおった。以前
の大使は帰国したのも無関係ではあるまい。
マーニュ王国から買い付けた食料やその他諸々は、隠し港︱︱︱
今後はマーニュ王国との窓口になるであろう︱︱︱に積み上げたの
で、これを交渉のカードにして食料の値段引き下げしようとした矢
先のことだ。
重臣たちはマーニュ王国との交易の件を知っているので、何も知
らない使者の態度を滑稽なものとして見ておるようだ。理性があっ
て助かるぞ皆の者、ついうっかり始末してしまっては何があるか分
からんからな。
﹁ふむふむ、王女を他国に嫁がせ国家間の繋がりを深める、実に尤
もな意見であるな。我も一人の親として善い嫁ぎ先があれば心休ま
るというものだ、さっそく輿入れの準備を進めようではないか﹂
婚姻の準備をするとは言ってもリーテンブに嫁ぐとは言わんがな、
第一嫁いだ先で差別を受けるという話はよく聞く。
406
第一王女のティータニアは我と同じ鳥人族。妃譲りの美貌と、純
白の翼はクレイターで最も美しいと評判である。現在マーニュ王国
とのパイプ役にするべくカール殿と婚姻を結ぶよう準備を終え、あ
とは連れていくだけである。
﹁そうでしょうとも、流石陛下は慧眼であらせられる﹂
この大使の表情から察するに、我が王女二人を帝国に送る準備を
してるとでも思ったのだろうか? 思ったんだろうな、なんという
か何事も自分の都合通りに動くと思ってる節があるからな。
大使は顔を歪め、言葉遣いだけは丁寧に慇懃な態度で退出する。
正直無礼討ちにしても構わんのだが、帝国の思惑が分からんうちは
下手に動くべきではないの。多分だがあの男は︱︱︱本人は知らん
だろうが︱︱︱我に誅されるのが役目の可能性がある。
何というか奴の言動その他が、全力で無礼討ちされるのを待って
るとしか思えないのだが、怪しすぎて手が出せん。要求にしても王
女二人を寄越せとか応じるなんてありえんわな。
何故あれほど強硬かつ強引な要求をしてきたのか? あれではま
るで我が国に食糧を輸出できるのが帝国だけであるかのような振る
舞いだ。
リーテンブ皇帝は支配下に置いた国の姫を︱︱︱年頃の姫がいな
ければ最も権威をもっている女性を︱︱︱側室に迎えているのは有
名な話である。確か60を過ぎているので、歳の割には元気なもの
だと思ったが、皇帝の漁色趣味によるものであろうか?
なんにせよ、食料を不当に値上げするなら別の場所で買うまでで
407
ある。今しばらくはマーニュ王国との交易を隠し情報を集めるよう
家臣たちに命じ⋮⋮我は収納空間の魔法を込めた袋を腰に括り付け、
愛娘ティータニアを伴いマーニュ王国に飛び立つ。
さぁ娘の嫁入りである、我が自ら勇者殿の主君とされ、天才と名
高い婿殿を見定めようではないか! 我は意気揚々と羽ばたき天を
翔る。
408
誘惑の夜−後編−︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
エロは書きたいが、エッチの背景である物語も進めたい。そんな心
境で書いてるので主人公が好き勝手にイチャエロしつつ、周囲で話
が進むという構成に⋮⋮
409
16:30
星空の誓い︵前書き︶
11/1
誤字訂正と本文を少々加筆
410
星空の誓い
アンデッド討伐を終え、神殿に依頼完了の報告と同時に、アルテ
ナとユングフィアの両名と結婚する意思を伝えたところ。まずトラ
バントさんは狂喜のあまり神官服を脱いで踊り出した。このオッサ
ンはテンション上がると脱ぐ癖があるのだろうか? 酔っぱらうと
脱ぐタイプか?
そしてサテリットさんは﹁孫をよろしくお願いします﹂と、満面
の笑みで俺と握手をしたあと、ツカツカとトラバントさんに近づき
⋮⋮
﹁ウザったいわ! この馬鹿正気に戻らんかっ!﹂
なんか変なテンションになって踊ってるオッサンの顔面めがけて、
全身を駆動させた拳を叩き込み気絶させ⋮⋮たかに見えた。
﹁何をするかこのバーガ!﹂
だが、流石に大神官は並みの頑強さではない、全体重を乗せた一
撃を放ったサテリットさんにローキックで体勢を崩した後、ボディ
ブロウの綺麗なコンビネーションを叩き込む。仲が悪いとは言って
も女性の顔を殴らないあたり流石の紳士か⋮⋮いや紳士が女性殴っ
ちゃだめだが。
俺が喰らえば一発で悶絶しそうなボディブロウを受けても、即座
に反撃するサテリットさんも流石だ、神官戦士を束ねてるだけの事
はある。そうしていつものように取っ組み合いの喧嘩を開始した。
411
ちなみにバーガとはババアとオーガを組み合わせたサテリットさん
のあだ名らしい、そう呼ぶのはトラバントさんだけだが。
そんな神殿トップの喧嘩を横目で見つつ、トラバントさんの執務
室で仕事をしていた眼鏡をかけた秘書さんは、結婚おめでとうとア
ルテナとユングフィアに声をかけ、朗らかに談笑している。彼らの
喧嘩に慣れてるのか、実の孫ですら制止する気配がない。
﹁止めなくて大丈夫なのか? なんかお互い頭突きをかましながら
悪口言い合ってるんだけど⋮⋮﹂
﹁ご安心ください⋮⋮いつものことですから﹂
トラバントさんの秘書シュティさんが遠い目をしながら語ってい
る、彼は今年で40歳で次の大神官と目されている人だ。組織の運
営は勿論、神官としての能力も秀でた有能な人なのだけど、疲労と
気苦労のせいか年齢以上に老けて見えた。よく見ると髪の毛も⋮⋮
いや指摘しないのがマナーだな、うん。
なんか俺と彼女たちがくっつくのを予想してたようで、シュティ
さんはアルテナとユングフィアに結婚のお祝いとして、それぞれ高
価な手鏡を贈ってくれた。うーん有能な人は気遣いもバッチリ出来
るんだな、しかし疲れ切った表情で死んだ目をしてるのが最近の忙
しさを物語っている。
﹁あーその、シュティさん? アルテナは毎日神聖魔法を使って治
癒を施してたそうだし、ユングフィアも警備の仕事があったんだよ
ね? いきなり二人も抜けたりして大変だと思うし、良かったら午
後からでも穴埋めに手伝おうか?﹂
412
女性は結婚すると還俗する決まりで、俺に嫁入りすると神殿の仕
事は辞めないといけない。サテリットさんみたいにご主人に先立た
れた人は、また神職に戻る場合が多いらしい。
彼らが忙しい原因の何割かは俺のせいだし、神聖魔法なら俺も使
えるのだから、怪我人、病人を治す仕事なら段取りを知らなくても
何とかなると思う。そんなことを考え手伝いを申し出たのだが、申
し訳なさそうにシュティさんは断ってきた。
﹁いえ、勇者様のお手を煩わすわけには参りませんし⋮⋮間違いな
く余計に忙しくなりますので、勇者様はどうか奥様方とゆるりとお
過ごしくださいませ﹂
シュティさん曰く、俺が診療所で神聖魔法使ってると、ご利益を
求める人たちが殺到して余計に仕事が増えるそうだ。勇者の影響力
半端ないなぁ。
﹁手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ、それじゃ俺たちは
帰るから﹂
﹁はい、お気をつけてお帰りくださいませ、君たちも健勝でね﹂
﹁はいシュティさんも頑張ってくださいませ。ボランティアの募集
とかあれば駆け付けますわ﹂
﹁わ、私も見回りとかで人が足りないときは声をかけてください﹂
シュティさんに見送られ、神殿を後にする。なお大神官と司祭長
はいまだ白熱の罵倒合戦を繰り広げており、俺たちのことは目に入
って無いようだ。
413
屋敷への帰り道で、パン屋から引っ越す準備を終わらせたヴィヴ
ィアンと合流し、屋敷に帰宅した。諜報員として用意したお店に、
死んだと思われてる彼女が住んでいては万が一があるからな。ヴィ
ヴィアンは適当に服とかを散らかして空き巣を装いつつ、お金とか
資料とかだけ持ち出し、失踪を装うのだ。
俺の屋敷に住んでてばれないのかと思うが、街の住民に見せてい
たのは限りなく印象に残らないよう、とにかく地味な化粧をしてた
そうだ。今の姿を見せても誰パン屋の店員だと気が付かないだろう、
とは本人の談だ。
そうして丸一日ぶりに屋敷に帰ると、出迎えてくれた嫁たちに、
ヴィヴィアン達三人を紹介する。
意外にもオリヴィアたちは、嫁が三人増えたことに驚いてなかっ
た。なんでも同行者が女性な時点で予想してたそうだ。俺って嫁に
信用されてないのか? 目で訴えかけたところ﹁旦那様の人柄は誰
よりも信用しておりますが、理性と申しますか下半身に関しては⋮
⋮ちょっと﹂だそうだ。
お、俺はそんなに下半身にだらしない男だったのか⋮⋮拙いなま
ったく反論できないぞ。ちょっと落ち込むが、オリヴィアが身を寄
せて慰めてくれたので、気を持ち直す。
﹁皆さん、人数が増えたことですから、色々と決まりを作ろうと思
います。食堂のテーブルに集まってください﹂
オリヴィアの音頭で始まった家族会議では、急に嫁が三人から六
人に増えたので、誰が夜に俺とエッチするかを決めることになった。
414
曰く、﹁エッチな旦那様でも流石に一晩で6人は無理だと思います﹂
とのこと、無理すればできるが毎晩は厳しいか? いや嫁への愛が
あれば⋮⋮でもじっくりと可愛がるには手が足りない。
俺としては全員とベッドで寝たいのだが、流石に無理があるので
毎晩嫁たちが三人、組み合わせを変えて4Pセックスすると決まる。
このメンバーは基本オリヴィアが決めて、オリヴィアが不在の時は
ディアーネに決定権がある。ちなみにエッチに関する家族会議にて
俺に発言権は一切なかった。
∼∼∼∼∼
そんなこんなで最初の組み合わせは、オリヴィア、ヴィヴィアン、
ユングフィア。それぞれタイプの違う美少女を様々な体位で喘がせ、
絶頂に導き、膣内に散々俺の精液を注ぎ込む。三人の嫁を満足させ
た俺は、かつてないほど心地の良い疲労に身を委ね眠りについた。
そして⋮⋮眠っていた俺だが、唐突に永遠の眠りにつきそう⋮⋮
ぶっちゃけ死にかけていた。
まず左右からユングフィアとヴィヴィアンに抱き着かれる、これ
は大歓迎なのだが頭を抱えるように寝てるので、俺は左右から巨大
なおっぱいに挟まれる。右を向けばヴィヴィアンのおっぱいに。左
を向けばユングフィアのおっぱいを顔に押し付けられる。
どちらも顔が埋まるほどの巨大さと、張りがありつつも柔らかい
おっぱいであり⋮⋮なんというか呼吸が難しい。では仰向けに寝れ
ばどうかというと、二人に対抗したのか? 俺の胸元にうつ伏せで
415
寝ていた筈のオリヴィアのおっぱいが目の前にある。
何が言いたいのかというと⋮⋮世の男性諸君に問いたい。おっぱ
い窒息死というのは男の死に様として中々浪漫があるとは思わない
だろうか? 俺としては幸せな死に様だと思う。
心地のいい弾力を左右、そして上から押し付けられ口と鼻が塞が
れる⋮⋮だんだんと意識が白く⋮⋮女の子の匂いに脳が溶ける⋮⋮
あぁオリヴィア愛してるよ、死ぬ前にせめて君との子供が⋮⋮俺の
脳裏に彼女と一緒に花畑で散歩する光景が映り⋮⋮オリヴィアと離
れ段々と遠ざかり⋮⋮
ええい! 新婚で嫁を未亡人にしてたまるか! 俺が死ぬのはど
んなに早くても、それぞれ嫁に三人以上の子供を孕ませ、その子た
ちが全員一人前になるまで、または孫が生まれるまで!
死の間際でおっぱいの感触を楽しむ余裕があるはずもなく、とに
かく全力で身体を起こす。
﹁きゃっ! 旦那様如何なされました?﹂
いきなり跳ね起きたものだから起こしてしまったか、しかし流石
におっぱいで窒息死しかけたとも言えない。
﹁ごめんよ、ちょっとトイレにね。まだ外は暗いからもう少し寝て
なよ﹂
﹁ふぁい⋮⋮﹂
寝ぼけているヴィヴィアンがさらに密着してくるがやんわりと離
416
し、無防備な寝顔でまだ寝ているユングフィアの抱き着いてくる腕
を解く。
﹁旦那様、わたくしもご一緒してよろしいですか? 暗い廊下は⋮
⋮その怖くて﹂
そういえばお化けが苦手なんだったな、勿論断る理由はない、バ
スローブだけ着て廊下に出る。真っ暗な廊下を俺が生み出した明か
りだけを頼りに歩いていると、心なしか俺の腕をつかむオリヴィア
の手に力が籠っている。安心しろ俺がいればゴーストなんて近寄れ
ないから。
別にホントにトイレに行きたかったわけでもないが、お互いにト
イレから出ると、オリヴィアの提案で庭を少し散歩することになっ
た。
外は月明りで意外と明るく、お手伝いのオバちゃん達が植えた花
を照らしている。昼に眺めるのとは違って幻想的な趣があった。オ
リヴィアと手を繋ぎそれなりに広い庭を一周しベンチに座る。夜風
が少々冷たいが、オリヴィアと身を寄せ合っていれば温かい。
俺の腕を取り甘えてくる少女は、月の光に照らされて、いつも以
上に綺麗に見えた。うん、正直惚れ直した。俺はたまらず頬に手を
添えキスをする。
﹁んっ⋮⋮﹂
唇を離し見つめ合うと、照れたように微笑み彼女からのキスをく
れた。
417
﹁わたくしの旦那様は、世界一素敵な方だから⋮⋮モテるのは当然
ですけど、ちょっと不安です﹂
夜の庭で、ベンチに座って身を寄せる彼女は、独白のように呟い
た。
ヒト
﹁アルテナさんも、ユングフィアさんも、ヴィヴィアンさんも⋮⋮
とっても旦那様とお似合いの綺麗な女性です。ルーフェイも数年す
ればわたくしよりも素敵なレディになりそうですし、ディアーネは
⋮⋮女としてちょっと劣等感抱くくらい完璧です﹂
俺を掴む手が強くなり、段々と彼女の声に嗚咽が混じりだす。
﹁わたくしなんて⋮⋮人前に出れない怖がりで、旦那様のお役に立
てなくて⋮⋮ヒック、ヒック⋮⋮﹂
震える声で縋り付く彼女の肩を抱き、黙って彼女の独白を聞く。
そして俺も不安を打ち明けてくれた彼女に応えるよう、自らの赤心
を口にしようと思う。
﹁最初は一目惚れだった、境遇に同情もあったし、勿論下心もあっ
た。呪いを解いてやった恩で、この綺麗な女の子と恋人になれるか
もしれないってな﹂
まぁ実際は呪いが解けたら結婚しよう、とか言ってしまったわけ
だが。紛れもない本心からの言葉だった。
﹁俺が一番愛してるのは、間違いなくオリヴィアなんだ⋮⋮けどい
くら言葉で言っても不安は拭えないんだろ? だったら⋮⋮﹂
418
俺に縋りつくオリヴィアと唇を重ね、舌を絡め合いお互いの唾液
を嚥下する。俺の愛情を伝えるように。
そうして抱きしめ合って互いの体温を感じているうちに、性的に
昂るのは若い俺達には仕方のない事だった。ベッドから出てバスロ
ーブ姿で、一枚脱げば全裸であった事も理由の一つだろうが、言葉
よりも雄弁に俺の想いを伝えるのはコレが一番だ。
オリヴィアはベンチに横になった俺に跨り、バスローブを脱ぐと
一糸纏わぬ姿で肉棒を自分の秘所に導き咥えこむ。つい数時間前に
さんざんザーメンを注ぎ込んだ膣内は愛液に溢れ、柔らかく、そし
て温かく俺を迎え入れる。
﹁んっ! はぁ⋮⋮旦那様ったら、先ほどまであんなに激しかった
のに、もうこんなに大きくして﹂
﹁お前だからだよ、オリヴィアと肌を合わせるといくらでも元気に
なれるんだ﹂
騎乗位で繋がった俺たちは、声をかけるまでもなく、お互いに腰
を動かし官能を高めあう。
﹁あっあっあっ! もっと⋮⋮もっとわたくしを⋮⋮はぅ! んふ
ぅぅ! もっと、もっと激しく犯してください⋮⋮﹂
﹁あぁ! 不安が無くなるくらい、何も考えられないくらい犯して
やる! お前は身も心も何もかも俺のものだ!﹂
精液と愛液が混じった水音と、媚肉どうしを小刻みにぶつけ合う
音が夜の庭に響く。チンポがオマンコの奥を叩くたびに、抑えよう
419
にも抑えきれない喘ぎ声がオリヴィアの小さな唇から漏れ出す。
オリヴィアのお尻を掴んで下から突き上げ、結合部分から淫靡な
水音をさらに響かせる。お尻の手触りと膣内の締め付け。そして前
を見れば彼女の大きな胸がプルンプルンと揺れている。この揺れる
おっぱいは良い眺めだな、上下運動が実に楽しい。
﹁あっあっ! んん∼∼∼∼ッッ! いぃ! 良いです! オチン
チンが凄いのぉ! 旦那様にまたすぐにイカされちゃうのぉぉ! んはぁぁ! あっあっ! おっきなオチンチンが気持ち良すぎるの
ぉぉ﹂
満天の星空の下、月明かりに照らされ喘ぐその姿は、あぁ綺麗だ。
オリヴィアのこの姿は俺だけのものだ! 何度抱いても、何度も抱
きたくなる程に彼女の身体に溺れていく。
﹁愛してるよオリヴィア! あぁもう好きで好きで堪らない! 一
回抱くごとに増々惚れちまう!﹂
﹁わた、わたくしもっ! 初めて会ったあの時からずっと! ずっ
と旦那様が好きです! 大好きですクリス様! わたくしを絶望か
ら救ってくれたわたくしだけの勇者様!﹂
何度も射精したのに、また彼女を抱いていると何度でもイケそう
だ。そしてオリヴィアもそろそろイキそうなのが分かる。
ナカ
﹁出るぞ! オリヴィアの膣内に!﹂
﹁んはぁぁぁぁ! わたくしも⋮⋮わたくしもイキます! 一緒に、
一緒にぃぃあっあぁぁぁんはぁぁぁぁぁ!!﹂
420
ナカダシ
その瞬間オリヴィアの身体は大きく仰け反り膣が俺の欲棒を締め
付ける。数時間前にたっぷりと膣内射精したばかりだというのに、
自分でも信じられないほどの量を彼女に注ぎ込む。
﹁はっはっはぁぁぁぁ⋮⋮はぁはぁはぁ⋮⋮旦那様⋮⋮愛してます﹂
﹁ふぅぅぅ⋮⋮はぁはぁ⋮⋮ああ、俺も愛してる﹂
星空の下で俺たちは裸のまま抱き合い、余韻に浸る。彼女のため
にも明日からもっと頑張って、この街の発展に力を尽くそうと誓っ
た。俺の嫁たちが安全に、幸せに暮らせるようにな。
∼∼∼∼∼
オヤジ
途中引き返して国王と急遽話し合わなければならない事態になっ
たが、途中合流したモンドバン伯爵にゴーレム馬車を貸してもらえ
て助かった。おかげで予定通りに帰ることが出来たからね。
﹁わぁぁ! 活気があって良い街ですねお兄様﹂
﹁もうすぐ開拓を本格的に始める式典とお祭りがあるからな、各地
から商人が集まってるせいもある。普段はもう少し落ち着いてるよ﹂
大通りを馬車の窓から眺めながら通るだけでも、人の多さが分か
る。しかし予想よりも遥かに多いな、なにかあったのかな?
﹁おかしい、お祭りが近いからって馬車で通れない程集まるってお
421
かしいぞ? 誰か、ボクが街を離れてる間に何かあったのか聞いて
きてくれ﹂
家臣のうち数名に馬車を降りて話を聞いてきてもらう、元々この
街の者だから噂を集めるのは簡単だろう。
﹁アルチーナは屋敷に着いたらすぐにクリス殿を招待するから、ち
ゃんとドレスを着るんだぞ﹂
﹁分かりました、けどお兄様、私結婚してもたぶん普段着は今の騎
士服ですよ﹂
その辺は夫婦で決めてくれ、ボクは別に普段騎士服だろうが体操
着だろうが、いっそ水着姿でも文句は言わん。
﹁クリス殿は山奥で魔術の修業を積んでいたせいか、あまり服装に
は拘らないと思うよ。第一お前は騎士服でもドレスでも大して色気
が⋮⋮﹂
アルチーナから放たれた右ストレートを首をひねって避けるが、
かすかに頬に掠ってしまった。ボクが躱しきれないとは腕を上げた
な。
﹁おほほ、お兄様? 何か仰いまして?﹂
﹁いやいやお前には騎士服が似合ってるって言ったんだぞ、ははは
⋮⋮﹂
お互い座ってるので、上半身の力だけを利用して、軽い拳と軽口
の応酬が続く。コイツ簡単な格闘術の手解きしてやっただけなのに
422
随分と腕を上げたものだ。まぁ戦士としても魔法使いとしても才能
グラップラー
があるのは知ってたけど、ボクが余計な手解きをしたせいか順調に
武道家の道を進んでるな。王女として正しいのかは知らんが。
そんなボク達をやや呆れながら見てるのが、モンドバン伯爵とそ
の娘のマルフィーザ嬢。兄妹のじゃれあいだから気にしないでね。
モルガノみたいに慣れ切ってスルーされるのも寂しいけど。
﹁そう言えばやることが多くて聞き忘れてたけど、伯爵は﹃熱砂の
龍傭兵団﹄のサリーマさんとお知り合いみたいですね。マルフィー
ザ嬢を連れてきたのは母親と会わせる為ですか?﹂
なんと言うかここまでサリーマさんそっくりだと、誰が母親かな
んてすぐわかる。まぁスタイルの良さと褐色の肌は母親譲りみたい
だけど、魔法使いらしく体は全く鍛えていない、後姉御肌なサリー
マさんと違い、無口でクールな印象なので、雰囲気はだいぶ違う。
ただ、父親である伯爵の意向なのか、サリーマさんのトレードマ
ークとも言える、癖のある黒髪を後頭部で一括りにしたポニーテー
ルなのは一緒だ。
﹁実母に会う目的もありますが⋮⋮実は出立前に祖父から⋮⋮﹂
マルフィーザ嬢が何か言おうとした時、馬車の扉が勢いよく開き、
聞き込みに出て行った家臣の一人が入ってきた。
﹁たったっ大変ですカール様! 屋敷にて異常事態が発生し、我ら
家臣ではどう対応してよいか分からず、一刻も早くカール様の判断
を仰ぎたいと⋮⋮﹂
423
﹁異常事態だと!? いったい何があった﹂
ボクが留守の間に何が起きたんだ! 予想していた事態を幾つか
思い浮かべ、悪い予想から順に対策を頭の中で組み上げる。報告し
てきた家臣は気持ちを静めるように一度深呼吸をして⋮⋮
﹁理由は全く理解できないのですが⋮⋮帝国から送られてきた諜報
員が何十人も自首してきて、私どもの権限では扱いに困るような情
報を持ち込んでくるのです!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮は?﹂
ごめん意味わかんない。
424
星空の誓い︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます
主人公お化け嫌いなヒロインの為に頑張りました、詳しくは次回に
て。
425
愛の果実︵前書き︶
お待たせしました、今回はディアーネメインエッチ+わかりやすい
下種な敵キャラ登場
426
愛の果実
昨夜オリヴィアと二人だけで抜け出し、庭でセックスしてた件は、
からか
寝ぼけていても流石と言うべきかヴィヴィアンには気づかれていた。
朝風呂に入ってるときに揶揄われ、ユングフィアと一緒にずるいと
か言い出したので、そのままお風呂でエッチに突入してしまった。
ヴィヴィアンは専門の訓練を受けているし、ユングフィアは神官
戦士だけあって体力が並外れていたので、朝御飯が出来たとディア
ーネが声をかけてくるまでお風呂でセックスしてしまい、怒られて
しまった。
屋敷で働くオバちゃんたちは、旦那さん達の朝御飯を作ったり、
お店の開店の準備をしたりしてから出勤してくるので、朝食は自分
たちで作るのだ⋮⋮どうせ若い新婚の俺たちが朝起きるのは遅いの
だから、ゆっくりで良いとか言ったせいだが。
そんなわけで、昨日の話し合いで、人も増えたので俺と前日にエ
ッチしてない嫁が、朝御飯の用意をすると決まった。今日はディア
ーネ、アルテナ、ルーフェイが厨房に立つことになってる⋮⋮のだ
が。俺とエッチしない場合はディアーネの朝は早い。神殿で育った
アルテナよりも早く起きる。
夜は早く休み、朝はまだ暗いうちに目覚め、お風呂で肌や髪の手
入れに始まり、爪や口内、性器まで丹念に手入れするらしい。曰く、
﹁ご主人様を想えば自らを磨くことに苦などあるはずない﹂そうデ
ィアーネが言いながら、俺に微笑みかけてきた時はヤバかった、他
の嫁がいなければその場で押し倒してただろう。
427
それで家事までしてくれるのだから頭が上がらない。オリヴィア
を始め嫁たちは、彼女に触発され身嗜みや家事のイロハを熱心に勉
強し始めたそうだ。特に家事の経験が一切無いオリヴィアは、オバ
ちゃんたちに教えを乞い、本人の才能もあったのかメキメキと腕を
上げている。
﹁もう! ご主人様ったら、そんなだから下半身は信用できないと
言われるのですよ! オリヴィアたちもよ、今日から朝食は全員で
食べると昨日決めたのは忘れてないわよね!﹂
風呂から上がった俺たちは大人しくディアーネに叱られる。家事
をしている間に俺が他の嫁とセックスしてたら、そりゃいい気はし
ないだろう。皆で誠心誠意謝っていると不意に、こっそりオリヴィ
アたちに聞かれないように耳打ちされた。
﹁明日の朝は二人っきりで⋮⋮ね?﹂
色気たっぷりに囁かれたその艶声に頷くしかない。ディアーネが
俺に腕を絡めて食堂に連れていく。いつもだったらオリヴィアも腕
を絡めてくるところだが、お説教されていた手前遠慮してるっぽい。
﹁ううう∼∼∼なんかディアーネに美味しいところを取られた感じ
だわ﹂
﹁オッホッホ! それなら一緒に早起きしてご主人様の朝餉の支度
をしてみる?﹂
大変豊かなおっぱいを張り、なんか悪役っぽいポーズで親友をか
らかうディアーネ。朝に弱いオリヴィアはがっくりと項垂れてしま
428
う。彼女はどんなに頑張っても、明るくならないと起きれないから
なぁ、俺とセックスすると疲労で余計に起きれないし。
怒られていたので、ちょっと遅れてしまったが、ルーフェイとア
ルテナが朝食の準備を終え待っていてくれていた。二人にも謝ると
アルテナは笑って許してくれたが、ルーフェイにはハグとなでなで
を要求されてしまった。
柔らかいルーフェイの髪の感触を楽しみ、やや高めの体温を堪能
した後は、ルーフェイだけ甘やかすと不公平なのでアルテナにも同
じことをする。質素な神殿暮らしでは手の届かない超高級洗髪料の
おかげか、髪から仄かに花の香りが鼻に残る。
﹁はうぅぅ! ク、クリス様恥ずかしいですわ﹂
おぅ、物凄く赤面して可愛いなぁ。無意識のうちにキスしてしま
い、ルーフェイがちょっと拗ねたが、同じようにキスしてあげると
尻尾を振って機嫌を直してくれた。
全員揃ったところで朝食を食べ、食後のお茶を飲んでるときに今
日の予定を皆に話す。
グール
﹁街中で屍鬼化されて、土地を汚染されたら浄化が大変だからな。
片っ端から例の刻印を消しておこうと思う﹂
ヴィヴィアンが張り切って作ってくれたデザートを食べつつ、食
堂で今日の予定を話す。帝国の諜報員の境遇があまりにも可哀そう
なので、味方にはできないまでも逃がしてあげたいとは思う。
余談だが、元諜報員のヴィヴィアンが平気で俺の屋敷に寝泊まり
429
し、嫁として自由に振舞えるのは、法の女神トライア固有の神聖魔
法︻誓約︼と呼ばれる、誓った事柄を絶対に破れない縛りを、大神
官の立会いの下受け入れたからだ。
詳しい内容は省くが要するに夫に尽くすこと、家族を大事にする
こと、マーニュ王国を裏切らないといった内容だ。そんな事しなく
ても俺としては、嫁になった女を一切疑う気はないんだが、まぁ対
外的に疑いの目を向けられないために、必要な段取りと考えるとす
る。
それはさておき、諜報員に刻まれた刻印を消すとは言っても、色
々と知ってそうな奴だった場合は悪いと思うが、命を救う代わりに
記憶を覗かせて貰う。けどヴィヴィアンの話だと、無理やり送られ
てきた大半の諜報員は何も知らされてないそうだし、逃がしても痛
手はないだろう。
いきなり見知らぬ他人である俺が﹃お前には裏切ったらアンデッ
ド化する術をかけられてる﹄とか言っても、信じないだろうし下手
すれば攻撃されるだろう。
﹁本当はカール王子に事前に話を通しておくべきなんだろうけど、
予定では明日の午後に帰ってくるそうだし、出来れば今日中に連絡
役だけでも確保しておきたい。ヴィヴィアンの失踪に不信を抱いて
詳しく調べられると、この屋敷に辿り着く可能性があるからな﹂
第一にアンデッド化の刻印を諜報員は知らされていないから、か
つての彼女の仲間が、捕らわれたと思しきヴィヴィアンの足取りを
追って、周辺を虱潰しに調べるかもしれない。相手はプロだ、下手
すれば今日のうちにも嫁たち住むこの屋敷に入り込めるかもしれな
い。
430
勿論嫁の安全が第一の俺は、一流の魔法使いでも突破困難な結界
をこの屋敷に構築している、具体的には俺や嫁たちに敵意や害意を
抱いてると、その悪意に比例して認識を狂わせ、度合いによっては
五感を消し去って、そのまま息絶える結界を張ってるのだ。
しかしプロ相手に油断はしない、決してできない。屋敷の内外に
は十数種類もの思いつく限り凶悪な魔法の護りを、既に構築済みだ
が絶対に油断はしない。俺の可愛い嫁達に万が一があってはならな
いからだ。
第二、諜報員も人の子だ、ヴィヴィアンみたいに現地人に絆され
る人も中にはいるかもしれない。現に刻印を発動させてしまった冒
険者の女性は、ヴィヴィアンに聞いたところ、地元の冒険者の青年
と良い雰囲気だったらしい。
荒野だったから対処できたが、街中でアンデッド化されると間違
いなくパニックになる。グールが現れた結果土地が汚染されゴース
トが寄ってくるからだ。ゴーストって攻撃力は無いけど、その分不
安を増大させる特殊能力があるから、街中に出没されると厄介だ。
話をしているうちにオリヴィアの顔が真っ青になってる。やっぱ
りお化け嫌いには恐ろしい話だよな。嫁を安心させるためにも、今
からその芽を摘みに行くんだ。
﹁安心しろオリヴィア、そうさせない為に俺が動く。あの刻印はど
うも術者が居所を知る為だと思うけど、特殊な気配を発してるから
な、街にいる刻印を刻まれた奴らの居所は全員分かる。遅くても三
日以内に終わらせるよ﹂
431
デ
真剣な表情で話を聞いていたヴィヴィアンが立ち上がり、一緒に
ートする
行くと申し出てくるが、残念ながら断る。街中をヴィヴィアンと一
緒に歩くのも悪くはないが、彼女の寝返りを帝国側に知られるリス
クは冒せない。
﹁死んだと思われてたほうが安全なんで、暫くヴィヴィアンは出歩
かないほうがいいな。万が一変装を見破られると危険だ﹂
ただ親しい友人でもいれば生きてるのを伝える事は出来るがどう
だ? と、言うと首を横に振る。
﹁諜報員同士は連絡役を除いて顔と名前を知ってるくらいです⋮⋮
ただ、専門の訓練を受けた諜報員はアタシを除いて10人程で、後
は身請けした娼婦や雇った冒険者、後は⋮⋮政争に敗れた騎士や文
官とかを無理やり動員してるんです﹂
それって諜報員として役に立つのか? うっかり怪しまれたりす
るんじゃないかと思うが。刻印の効果を思い出す、﹃任務放棄﹄で
発動するなら、失敗して逃げようとしただけで発動するだろう。つ
まり諜報に失敗しようが、街中で刻印が発動するなら損はないとと
いう胸糞悪い判断なのだろう。
歴史の本に書いてあった、堅固な要塞に立て籠もる敵に業を煮や
したある将軍は、伝染病に罹った男を、生きたまま投石機で城壁に
投げ込んだ話を思い出す。その非道な策を実行した将軍は、敵味方
全員から外道の誹りを受け、惨たらしい最期を迎えたという。
人の命を弄ぶような行いは、巡って廻って結果として悲惨な最期
を遂げる教訓として、子供向けの教本にすら書いてある内容だ。
432
この刻印を刻んだ奴は歴史の勉強してるのかね? 勉強してなく
ても少し考えれば、露見した瞬間に周囲の信用無くしそうなのが分
ると思うんだが。所詮他国のことと考えてるのか?
相手は諜報員、下手に大人数を動員して捕縛すると逃げる可能性
がある、そして逃げるとアンデッド化の術が発動するとなれば、気
付かれないように動かなくてはならない。そしてそういう陰で動く
となれば闇魔法の独壇場だ。
ここは勇者らしく世の為人の為に働こうじゃないか、陰でコソコ
ソ動くのが勇者らしいかと聞かれれば答えに詰まるがな。
俺はヴィヴィアンから聞き出した連絡役の居所に向かって、容姿
を誤魔化す術を使い屋敷を飛び出す、部屋を出るときに誰かの呟き
が聞こえた。
﹁こんな酷い事をするなんてどれほど心の歪んだ人間なんでしょう﹂
まったくだ、声を大にして尤もだと言いたい。さて酷い事をされ
てる連中を、勇者らしく助けに行くとするか。
∼∼∼∼∼
ここはリーテンブ帝国、皇帝の居城。細部に至るまで緻密な細工
を施された豪奢な部屋は、神に選ばれた俺様の為だけに用意された
離宮の一室だ。この離宮に存在する全ての者は俺様を悦ばせ、尽く
すためだけに存在する。
433
だが、そんな選ばれた俺様でも儘ならないモノはある。無能な馬
鹿が新しい奴隷の調達に失敗するとかな。
﹁おい! 何時になったら獣娘を連れてくるんだよ! 今の奴隷共
にはそろそろ飽きてきたぞ! クレイターには圧力をかけて十分追
い込んでる筈だろう!﹂
﹁は、はっ! ご、ご安心ください只今クレイター国王はようやく
己の立場に気付いた様子で、二人の王女を送る準備をしてると申し
ておりました!﹂
﹁馬鹿か! 準備なんぞ要らんだろう! ここに連れてきて奴隷に
して犯すだけなんだ早く連れて来い!﹂
ふざけた報告に通信の魔法道具を投げつけ叩き壊した。こののろ
ま共が! 差し出された姫たちは、ちやほやされて育ったせいか、
奴隷にしてやったらあっという間に精神が壊れやがるから、ちょっ
と犯したら飽きちまうんだよ!
以前女の調達に高級娼婦を薦めてきた奴がいたが、殺さない程度
にぶちのめし、捨て駒としてマーニュ王国へ送り込んだ。ふざけた
ことを言う奴は、当然の末路として敵国でアンデッドになってろ。
まったく、他の男に股を開いたようなビッチなんざ抱く奴の気が知
れない。
それに女ってのは、口では調子の良いこと言っても、腹の底でな
にか企んでやがるからな。隠し事の出来ない奴隷が一番だ。特に高
貴な女が奴隷にまで堕ちて、泣きながら俺様に従順に奉仕してくる
のは堪らない。
434
﹁ったく、俺様が魔王を追い出してやったというのに﹂
気に入らない報告でささくれだった気分は、今一番気に入ってる
姫奴隷で解消するか。妾腹とはいえ皇帝の娘で、俺様が侍らしてい
る姫奴隷の中では一番身分が高い。
しかも姫騎士レヴィアは皇帝が俺様に﹃差し出して﹄来た女の中
では群を抜いて美人だ。だがどうにも気が強く、奴隷の呪いをかけ
てやっても憎々しげに俺様を睨む程だ。逆らえないのに反抗的なの
が最近可愛く思えてきた。
媚薬で感度を上げてやって、焦らしながら絶頂させてやると、目
に涙を浮かべて睨んでくるのがまた良い。オマンコの締まりも最高
だし、奴隷にすると妊娠しないからいくら出してやっても面倒にな
らないのが良い。
ククク⋮⋮口ではなんと言おうが、奴隷の刻印を刻まれた奴は主
人に逆らえない。やっぱり奴隷は良いな、絶対服従の奴だけが信用
できるからな。
これが、これが軍神ファールスの加護、倒した者を犯し奪い屈服
させる勇者としての能力だ! それに加えあらゆる属性の魔法を使
いこなせ、指一本で歴戦の戦士を倒せる身体能力。
皇帝ですら俺様の意向は無視できない、なぜならば俺様こそが神
に選ばれた勇者だからだ。
﹁しかしそろそろマーニュとの戦争が始まる時期だってのにグダグ
ダしてやがるなぁ。ったく、早くオルランドの妹のアルチーナを姫
奴隷にしてやりたいってのに⋮⋮﹂
435
折角好きなゲームの世界に転生したんだ、お気に入りキャラを早
く犯してぇな。早くスパイ共はカールを裏切らせろよ使えねぇ連中
だ。
∼∼∼∼∼
ヴィヴィアンの刻印を解除した時に、ある程度の術の構成を読み
取ったので、不意打ちで刻印を消すことができた。どうもヴィヴィ
アンのような、本職の諜報員たちに刻まれたそれが特別強固であっ
ただけで、殆どの諜報員の刻印は容易く消し去れた。
やはり全員が自身に刻まれた刻印を、位置確認と諜報員であるこ
との証明としてしか認識しておらず、中には攻撃してきた奴もいた。
しかし闇魔法を使いアンデッド化した女冒険者と交戦した記憶、そ
して刻印に関する知識を直接頭に叩き込むと、途端に大人しくなり、
涙を流しながらお礼を言ってきた。
攻撃してこなかった人たちも刻印が解除され、その効果を教えて
あげると同様で、お礼にとお金とか装飾品とか、中には機密っぽい
文書を渡してくる人もいた。しかし俺は政治とかあんまり自信がな
いので、ここは上司に丸投げする事にする。そういう話は辺境伯家
に持って行ってくれと言うと素直に自首してくれるそうだ。
多少だが彼らから話を聞くと、帝国では随分と酷い扱いを受けて
いたようで、死んだと思われたならこれ幸いと、この街で暮らすこ
436
とにする人が多い。家族が心配で帝国に帰る人もいたので、路銀代
わりに金貨を数枚あげると泣きながらお礼を言われた。帝国人は涙
脆い人が多いのかな?
中には身体でお礼とか言いながら蠱惑的な肢体を見せつけてくる、
超美人で色っぽいお姉さんもいて︱︱︱元娼婦のメリッサさんと名
乗った︱︱︱ちょっと誘惑に負けそうだったが、他にも刻印を持っ
てる者を探さないといけないと伝え、非常に残念ながらお礼を受け
取らずに立ち去った。
見つめられ腕を絡められた瞬間クラッと来たぞ。流石プロだ恐る
べし⋮⋮ちょっとメイティア伯爵に相談して一晩くらい⋮⋮いやい
や俺には愛する妻たちがいるんだ、彼女らを放っておいて夜の蝶々
と戯れるなんて出来るわけがない⋮⋮が、プロのお姉さんをメロメ
ロにするのもロマンが⋮⋮いかんいかん、エロから離れろ俺。
でも名乗られたときに、正直にクリスって名乗っちまったが仕方
ないんだ。あの熱っぽい潤んだ流し目で見られたら、ついつい男は
正直になっちゃうんだよ! ムラっとしてしまったのも仕方ないん
だよ!
なんとか嫁たちの顔を思い浮かべ、ムラムラを振り払おうと⋮⋮
鮮明に嫁たちの身体の感触を思い出してしまい、ついでにメリッサ
さんに触られたときの柔らかい胸の感触も思い出し、余計に悶々と
してきた。我慢だ我慢! 帰れば可愛い嫁たちとエッチ出来るんだ。
その日は日が暮れるまで隠れた諜報員たちを探し出し、刻印を消
して回った。連絡役は一番最初に無力化したので他の者たちには感
付かれていない筈だ。残りは明日、全員刻印を消し去ってやろうじ
ゃないか!
437
若い情熱をなんとか抑えながら、屋敷に帰り。皆で和気藹々と夕
食を食べて⋮⋮今夜の閨を担当するディアーネ、ルーフェイ、アル
テナに我慢していたものを解き放った。
∼∼∼∼∼
昨日の朝約束した通りに今日は早く起きてディアーネと二人っき
りだ、昨夜激しくしたせいかアルテナとルーフェイは疲れ切ってい
るが満足げな顔で熟睡してる。満足させたのは良いがやり過ぎたか
も知れない。ごめんな二人とも今度からはちゃんと手加減して可愛
がるから。
まだ暗いうちに一緒に朝風呂に入ってエッチしようとしても、は
ぐらかされてしまい、そのまま朝食の準備に入る。うーん、てっき
り二人っきりでセックスするもんだと思い込んでいたが、確かに夫
婦の愛情を育むのはエッチばかりじゃないよな。
こうして二人で朝御飯の準備というのも新婚らしくて良いな、エ
プロン姿のディアーネも新鮮で、可愛い一面をまた知ることが⋮⋮
はて? 俺が寝ぼけているのでは無ければ、いつの間にか愛する妻
は、全裸でエプロンだけ身に着けてるような⋮⋮
﹁ご主人様♪ 朝一番で蜜の滴る果実を召し上がれ♪﹂
お尻
ピンクのフリルのついた可愛いデザインのエプロンを翻すと、そ
こにはプリプリで瑞々しい果実が俺を誘っていた。妻の誘惑に俺は
抵抗できなかった。するつもりは一切なかったが。
438
テーブルに手をついて、お尻を向けているディアーネのエプロン
の脇から手を入れ、大きく張りのあるおっぱいを鷲掴みにする。
彼女は強く揉むと痛がるのでゆっくりと指を動かし感触を堪能す
る、そうしてるうちにピンと立った乳首を指でつまむと、痛くしな
いよう細心の注意を払って優しく愛撫する。
﹁はぁっ⋮⋮んっ! ご主人様の指⋮⋮んはぁ!あっあっ⋮⋮いぃ
! 気持ちいいのぉ﹂
﹁ディアーネこっちを向け、セックスの前のキスがまだだ⋮⋮ん!﹂
背後から胸を愛撫され、舌を絡めたキスで気分が昂ったのか、デ
ィアーネの太股には愛液が垂れている。
おっぱいの感触をもう少し味わっていたかったが、期待している
妻を焦らすのもなんだし、胸を愛撫する右手だけを残し、左手で蜜
壺に指を挿れ、クリトリスも一緒に擦る。
﹁んあぁぁ! やっあっご主人様ぁ! そんな⋮⋮気持ち良くて先
にイカされちゃう!﹂
﹁綺麗だよディアーネ、俺の指で感じてくれてるのが、エッチに潤
んだ表情が堪らなく綺麗だ﹂
唇を塞ぎ、両手の愛撫のペースを速めると、段々と彼女の官能が
高まってるのが分かる。性感のコントロールを出来るはずの彼女が、
素直に俺の指と唇で感じてくれるのが堪らなく嬉しい。
439
﹁んっ! んむぅぅぅぅ!! ぷはっ! あぁイクッ! イっちゃ
うのぉぉぉぉ!!﹂
ビクンッと、一瞬肢体を強張らせたディアーネは脱力して床に座
り込みそうになったが、背後から支えそのままの体勢で⋮⋮猛った
欲棒をオマンコに挿入する!
﹁ひぁぁぁぁ! だ、だめご主人様⋮⋮私イったばかりで⋮⋮﹂
口では駄目だと言ってるが、何度も彼女を抱いている俺は知って
る。絶頂の余韻が残ってるうちにチンポを抜かず、子宮の入り口を
突かれるのが弱いのだ。
可愛いピンクのエプロンは汗を吸ったせいか、肌に吸い付き胸か
ら腰のラインがはっきりと浮き彫りになり。全裸よりもいやらしく
見え、それが俺を更に興奮させる。
柔らかいお尻を両手で掴み、腰を振るう。興奮しすぎたせいか、
それとも彼女の膣が良すぎるのか、ディアーネの淫らな腰使いも相
まってあっという間に射精感が高まる。
だが挿入してすぐに射精するというのも情けない話なので、歯を
食いしばって射精を堪え⋮⋮さらに激しく彼女の蜜壺をかき回す。
﹁あっあっあぁぁぁん! はっ激し⋮⋮あんあんんんぁぁぁぁぁ!﹂
テーブルの上はディアーネの飛び散った愛液に塗れ、床はすでに
スープを溢したかのような様相だ。オリヴィアは彼女を完璧な女性
だと褒めていた、その完璧な女を淫らに蕩かせ、喘がせ、愛を捧げ
られている事実。誰も触れる事の叶わない天上の果実を俺ただ一人
440
が貪り尽くせるのだ。
﹁ディアーネ愛してるぞ!﹂
﹁わたっ私も⋮⋮ご主人様を愛してます! 欲しいの! ご主人様
との赤ちゃん!﹂
あぁ! 嫁のおねだりなら応えてやらないとな! もう射精を堪
えるのは限界だ。彼女の子宮に、膣の奥深くに俺の子種を植え付け
てやる! ﹁出すぞ! 俺のザーメンを残らずオマンコに注いでやるぞディア
ーネ!﹂
﹁嬉しい! 来てぇご主人様の大きくて逞しいオチンチンでディア
ーネを孕ませてぇぇぇぇ! あっあっんはぁぁぁぁぁ!!﹂
お互いの官能が高まり、頭の中が真っ白になる。ディアーネと溶
け合うような錯覚の中で、俺はディアーネの腰を力任せに引き寄せ、
俺たちは同時に絶頂へと達し、膣奥に精を解き放った。
﹁ふぅ⋮⋮はぁはぁ⋮⋮頭の中が真っ白になったみたいだ。ディア
ーネとのセックスは気持ち良すぎて増々嵌っちまったよ﹂
﹁ふぅふぅ⋮⋮ご主人様に気持ち良くなって頂ければ幸いです。私
も⋮⋮もうご主人様なしでは生きていけませんわ﹂
再びキスをしてくるディアーネに、愛おしさが湧き上がるようだ。
元々一回射精したくらいじゃ治まらないのだし、今度はテーブルに
仰向けで寝かせ⋮⋮やっべ朝御飯担当のオリヴィアたちが目を覚ま
441
したっぽい。
流石に厨房でエッチする前に、魔術で嫁たちがまだ寝てるのを確
認したんだが、ディアーネとセックスしてる間に起きてしまったよ
うだ。
﹁あら、その様子ですとオリヴィアたちが起きてしまったようです
ね、ふふっ下拵えは終わってますから、まだまだ初心者のオリヴィ
アとユングフィアでも大丈夫でしょう、ヴィヴィアンもいますから
ね﹂
どうやら手際よく準備は終わらせていたようだ、残念そうにテー
ブル付近の片づけをして、精臭を消すためのアイテム︱︱︱流石準
備万端だ︱︱︱を使い、セックス痕跡をすべて消したところでお風
呂まで手を引かれ連れていかれた。
そこで何事もなかったかのようにディアーネとお風呂に入ってる
と、寝汗を流しに来たオリヴィアたちも風呂に入ってきた。俺がエ
ッチした翌朝に嫁と一緒に風呂に入るのはいつもの事なので、オリ
ヴィアたちも疑問に思わずイチャイチャしながら汗を流した。
﹁昨日の夜は寂しかったので、起きてすぐ旦那様とお風呂に入れて
嬉しいです﹂
朝食の席では機嫌よく俺の肩に身を寄せるオリヴィア。寝坊した
せいでちょっとタイミングのずれたルーフェイとアルテナは残念そ
うだった。
﹁ふふっ早起きすると良いことがあったでしょ?﹂
442
ルーフェイを撫でながら慰めてるディアーネも、先ほどの痴態を
微塵も感じさせず機嫌よく朝御飯を食べていた。
なんか俺彼女に上手く操縦されてるような気がするが⋮⋮まぁ幸
せなので気にしない事にしよう。今日の午後にはカール王子も帰っ
てくる予定だし、今日も諜報員探しを頑張るぞ。
443
愛の果実︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
444
修羅場︵前書き︶
旅行に行ったりなんなりで遅れてしまって申し訳ございません
今回はエロなしで、感想欄で書かれた勇者についてのお話を少々加
筆とかしてました。
445
修羅場
辺境伯家の屋敷に戻ったボク達を待っていたのは、山のように積
まれた調書だった。正直見なかった事にして踵を返し寝室に直行し
たかった。
しかし身重のデシデラータが、少しでもボクの負担を減らそうと、
せっせと書類の分類をしてるのを見てはそうも言ってられない。部
下にやらせるべきではあるんだが、下っ端文官に見せられない情報
があるせいで、ボクがいない時は彼女がやるしかない。後ジャンヌ
は書類仕事の役には立たない。
﹁ただいまデシデラータ、後のことはボクに任せて休むんだ﹂
﹁カール様お帰りなさいませ、出迎えも出来ず申し訳ございません﹂
少し離れてる間にまた少しお腹が大きくなった気がするデシデラ
ータが、書類を読む手を止めてボクの傍に駆け寄ってきた。肩を抱
いてキスをして、お土産に買ってきた香水を渡すと、嬉しそうに表
情を綻ばせる。
書類
あぁ可愛いなぁ、彼女も安定期に入ったそうだし今夜あたり軽く
エッチを⋮⋮目の前の山を何とかしないと無理ですか。無理だよね。
留守中の出来事を些細な事でも文書にしておけなんて、馬鹿な事言
ったの誰だよ⋮⋮ボクだったよ畜生!
正直帰って早々に仕事とかしたくない、デシデラータとジャンヌ
を私室に連れ込んで、夫婦の時間を過ごしたいのだ。ただ目の前の
446
惨状がそれを許さないだけで⋮⋮ハハハ原因というか元凶は分って
るけどね、勇者相手に仕事するなとも言えねぇよ畜生!
魔王種一人で倒すとか、頭のおかしい武勲立ててるんだし。仕事
せず奥さんとイチャイチャしてても、誰も文句言わないんだから、
大人しくデートでもしてなよ! 間違いなくあの人って思い付きで
行動してるよね!
理解はしてる、帝国がキナ臭い現状で獅子身中の虫である諜報員
を、根こそぎ自首させるって物凄い成果だと。いざ戦争となったら
内部に憂いがないって、とんでもなく大きなアドバンテージで、泣
いて喜ぶレベルの快挙だと。
ただその成果の分、書類が増えるだけで⋮⋮もう少しその辺りも
配慮してくれても良いと思うんだ、思うけど無理だよね言ってない
もの。ド畜生め!
あぁ王都で暇そうにしてる貴族の次男三男当たりを、簀巻きにし
てでも攫ってくるんだった。読み書き算盤ができるなら、そのへん
の丁稚を雇っても良いくらいだよ。そんな益体もない妄想をしなが
ら、デシデラータや留守番していた文官たちから詳しい事情を確認
する。
なんでも帝国から送り込まれた諜報員には、逆らうとアンデッド
化する呪いがかけられていて、クリス殿がそれを片っ端から解除し
て回ってるらしい。
勇者
なんで元凶がこの場にいないのかは分かった。﹃回ってた﹄じゃ
なくて﹃回ってる﹄んだね、つまりまだ増えると。
447
﹁そのクリス殿は今どちらに?﹂
﹁バラバラに街中に潜んでる諜報員に気取られないように動いてる
そうですので、居場所は分りかねます﹂
伝言によると、アンデッド化の呪いを受けてる人達全員を解呪し
たら、顔を出すつもりらしい。なんでも今日か明日には全員なんと
かなるそうだ。どうもスパイをどうこうするつもりはなく、単純に
街中でアンデッドにならないよう動いてるようだ。
﹁呪いが解かれると術者には死亡したと伝わるらしく、自首した者
たちはマーニュ王国に移り住むのを希望する者が多いのです﹂
言われて信じるような内容なのかと思ったが、実際に荒野でアン
デッド化した諜報員を目撃したのがクリス殿らしく、魔法で自身の
記憶と知識を植え付け、問答無用で信じさせたようだ。
それで捨て駒にされた以上、帝国に義理があるわけもなく、自分
の知ってる情報をこっちに流してくれているのだ。いや助かるよ、
本当にありがたいんだけど、量が膨大で拡散されると困るような情
報がちらほら混じってるのが問題なんだ。
﹁中には家臣たちではとても持て余す内容の話がありまして、当主
の夫人である私が代理で報告を受けていたのです﹂
一番報告をするのに問題ないのは、先代辺境伯の義父上なのだが、
あいにくと数日前から泊まり込みで、神殿の催し物の手伝いに夫婦
で出かけているらしい。王都では重要な交渉が多かったから、重臣
達を纏めて連れてったのは拙かったな。
448
﹁あんまり夫人に聞かせるような内容じゃないだろ、ついでに護衛
の人に聞かれると困るような情報も結構あるみたいだね﹂
﹁はい、女に聞かせる話ではないと仰る方もいまして。自首して来
た方達も解放して大丈夫なものか判断が出来ず、彼らの進言で屋敷
の一室に軟禁しております﹂
自分から軟禁させるというのもおかしな話だが、まぁ自首してき
たとはいえ諜報員に自由に歩き回られてはこっちも困る。だからと
言ってまた明日来てください、と言うのも間抜けな話なので、残っ
た家臣たちと相談の上、軟禁する事になったらしい。
デシデラータ
とは言え自首してきた諜報員の扱いなんて、辺境伯令嬢が知って
る訳もなく。個室から出れない以外は完全にお客様の待遇で、三食
昼寝付き、各部屋にはお風呂も備えてあり自由に入れ、使用人に言
えば本やボードゲーム、お菓子なども持ってきてくれる。
それで何を勘違いしたのか、妙に感激して何か仕事があるなら、
ぜひ手伝わせてほしいと言い出す人もいるそうだ。良い心がけだ、
ありがたく扱き使ってあげよう。
﹁陛下に報告する必要もあるだろうから。すまないがモンドバン伯
爵、軟禁した者たちから話を聞いてきてくれないか? 手伝いを申
し出る者には手当てを出すとも言ってくれ﹂
﹁お任せください、帝国諜報員たちの話は文書に纏め報告させてい
ただきます﹂
家臣で持て余す話なら、国王の側近で伯爵家当主のマラジ・モン
ドバンなら問題あるまい。ボクの家臣ではないので、彼に伝わった
449
オヤジ
話は国王に全て伝わるがまぁ問題ない、正直全部親父に丸投げした
いくらいだ。
デス
ボクが行ってもいいんだが、流石にこの山となった調書を何とか
マーチ
しないといけないからな、家臣の皆には帰って早々悪いが皆で地獄
を行進しようか。
公爵
に同行
﹁その前に、初めましてカロリング夫人、モンドバン伯爵家当主マ
ラジ・モンドバンと申します。所用ありカロリング
させていただきました﹂
﹁若年の我が身でありながら、先に名乗りを上げない非礼お許しく
ださい。カール・カロリングが妻デシデラータ・カロリングでござ
いま⋮⋮公爵?﹂
﹁伯爵、ボクから伝えたかったんだが。まぁ仕方ないか、クリス殿
が魔王種倒したおこぼれで公爵になるのが内定したんだ。正式に爵
位を賜るのは今度の建国祭の式典だね﹂
ちなみに、公爵位は﹃新しく賜る﹄のであって辺境伯の爵位はそ
のままボクが持っている。この場合は男子が二人以上生まれれば、
辺境伯の爵位を持つ分家を興すことになる。
オヤジ
国王との交渉で、家臣に与える事のできる爵位は一旦ボクが保有
し、それを分けるという形になってる。つまり今のボクは沢山爵位
を持ってるという事だ。
例外は騎士爵でこれは各貴族家に直接仕える家臣に、ある程度の
権限をもつ騎士として召し抱えることを差す。分かりやすく言えば
領地を治める為に、ある程度の権限を許された人で、騎士と言うよ
450
りちょっと偉い役人だと思って間違いない。
いきなり最上位の家格になったデシデラータは驚いてるが、そう
劇的に生活が変わるわけではないのですぐ慣れるだろう。そもそも
この領地は中央から離れた辺境だし。
﹁忘れてたけどこっちも紹介しておかないとな、ボクの腹違いの妹
でマーニュ王国王女アルチーナだ﹂
﹁ご紹介に預かりました、アルチーナ・マーニュでございます。我
が義姉上となるデシデラータ様のお話は兄との道中伺っております
わ﹂
忘れられていた扱いに軽くボクを睨むアルチーナだったが、流石
に初対面の上、公爵夫人︵予定︶のデシデラータ相手には、綺麗な
へりくだ
所作で挨拶を済ませる。コイツ結構上下関係厳しいタイプだから、
義姉であるデシデラータには意外と謙るな。
アルチーナのあとは、マルフィーザ嬢とモルガノの紹介をする。
サリーマさんそっくりのマルフィーザ嬢に驚いていたみたいだが、
娘だというとすぐに納得してくれた。
﹁サリーマさんは要人警護で今は不在だけど、日程的にもうすぐ帰
ってくると思う。それまでこの屋敷に滞在してもらうから﹂
﹁お心遣いありがたく、お許しいただけるのでしたら、私も書類の
整理をお手伝いいたしますが﹂
無口で無表情なマルフィーザ嬢だが、礼儀正しく手伝いを申し出
てくれた。勿論断る理由はない、医者にして魔法使いの家系だけに
451
活字を苦にしないのもすごく助かる。
﹁うーん、みんなが忙しくしてるのに私だけのんびりしてるのも悪
いわね。お兄様、少しくらいなら私も手伝いますわ﹂
おぉ! 流石体育会系王女は、皆が働いてる最中に優雅にお茶を
飲む程図太くはなかったようだ。妹なんだし遠慮なく手伝わせよう。
自動的に専属メイドであるモルガノも戦力になるしね。
﹁助かるよアルチーナ、それじゃみんな頑張ろう。でもデシデラー
タ、君は大事に時期なんだ。ゆっくり休んでてほしい﹂
﹁そうですわデシデラータ様、大事な身体なのですからお休みくだ
さいませ﹂
ボクとアルチーナに諭され、渋々といった感じで退室する妻を見
送り⋮⋮さてデスマーチ開始だ。
∼∼∼∼∼
結論から言おう、持ち込まれた情報は非常に重要かつ有用なもの
で今後、帝国への備えとして十二分に役に立つものばかりだ⋮⋮量
が膨大だがな! 纏めるまでに時間がかかるがな!
﹁アルチーナ! 帝国の宮廷関係は黒い箱、軍事関係は白い箱に入
れておけ! 鳥形使い魔で送るから5枚ずつ複写しろ、箱は正式な
手順で開けないと中身が燃える魔法の道具だから気をつけろよ﹂
452
﹁は、はい! モルガノ、用紙がもうないから持ってき⋮⋮インク
も切れたわ急いで持ってきて!﹂
オ
慣れない仕事に涙目になりながらも手を動かすアルチーナ、そし
ヤジ
てそれをさりげなくフォローする有能メイドのモルガノ。すまん国
王へ緊急報告するレベルの情報って、お前か伯爵くらいにしか見せ
られんのだ。
﹁モンドバン伯爵、渡した書類は特に重要なモノなので、要点を纏
めて報告書を作ってください。マルフィーザ嬢はどんどん鳥形使い
魔の召喚を⋮⋮そこ! 女性陣が頑張ってるのに寝るんじゃない!﹂
膨大な報告書を纏めるカロリング家の文官たちに混じって、この
家のやり方に慣れてない人たちに、仕事しながら指示を出す。終わ
らない書類の山に挑んで何時間経ったっけ? なんか窓の外が白い
が気のせいだろう。
そんなデスマーチに王女や伯爵を巻き込んでいいのかって? は
っ! ある程度以上の教養がある人間を逃がす筈ないだろう。この
二人がいないとボクの負担が増えるんだよ⋮⋮おい! トイレに行
く振りをして逃げようとするなアルチーナ!
最初は慣れないながらも黙って仕事してたが、自首してくる諜報
員が増えてきて、調書が追加されるたびに、我が妹の心の折れる音
が聞こえた気がする。
暫くして、あの手この手で逃げようとするアルチーナを捕まえ、
肩を掴んで執務室に連れ戻す度になんか怯えられたな。出来るだけ
爽やかに微笑んで戻るように説得したと言うのに。なに? 悪魔の
笑みにしか見えなかったって? ハハハ、デスマーチの最中に道連
453
れを逃がすわけないじゃないか。
心が折れるたびに逃げようと試みたアルチーナだったが、今では
目の下に隈をつくりながらも、自棄になったのか、それとも吹っ切
れたのか。なんかブツブツ言いながら、ひたすら書類を分類してる。
それでも思い出したかのように逃げようとするが、段々と逃げ方
が雑になっていたので、良い具合に思考能力が落ちてきた感じかな
? ボクの経験上そろそろストレスでキレる頃合いかもしれん。
そんな中、軍関係の書類に目を通してる内に、多分あるだろうな
と思ってた報告を見つけたようだ。いきなり立ち上がりボクの前ま
でやってきて、書類を突き付け慌てたように喚いている。
﹁にっにっ兄様! 見てくださいよこれ勇者! 帝国の勇者ってな
んですか!﹂
﹁ああうるさい! いるかもしれないと予想してたから騒ぐんじゃ
ない!﹂
スパイ達の中に帝国の中枢で働いてた官僚がいて、その人が知っ
てる事を全部話してくれたんだ。なんでも勇者の勘気に触れて呪い
の刻印を植え付けられたそうで、地味に有能な人なので今現在書類
の山を物凄い勢いで処理してる。
﹁大体なんで私を書類仕事に駆り出してるんですか! 自首したと
はいえなんで帝国の人間が兄様の執務室で仕事してるんですか! そもそもなんですかこの状況はぁぁぁぁ!﹂
部屋に閉じ籠ってるのが嫌いなアルチーナのストレスが限界に達
454
したようだ。まぁ帰ってきてからほぼ執務室に閉じ込めてる状況だ
しな。目の下の隈が今の忙しさを物語ってる。
﹁私は! 我が国の勇者様に! 侯爵位を賜るクリス様に嫁ぎに来
たんですよ! なんで執務室に閉じ込められて書類仕事手伝わされ
てるんですか!﹂
ストレスでキレたアルチーナに勢いよく机を叩かれ、大きな音が
したが、部屋にいる全員が黙々と書類を処理してる辺り、我が家の
家臣はよく訓練されている。
﹁うるせぇ! その勇者様がやらかした結果なんだから、嫁予定の
お前は手伝え! 内助の功って奴だ﹂
﹁未だ嫁じゃありませんわぁぁぁ!﹂
まぁ目の下に隈が出来るくらい、追い詰められるまで手伝ってく
れたことには感謝してる。こいつもなんだかんだでお人好しだから
な。だがそれはそれとして手伝え妹よ。ボクは身内なら容赦なく扱
き使うタイプだぞ。
兄妹の醜い言い争いの最中、また執務室のドアが乱暴に開けられ
る。仕事してる間にも自首してくる奴が多くて、もう慣れたものだ。
今度はどんな奴だ?
﹁カール様朗報です! また帝国の諜報員が自首してきましたが、
なんと本人は元は帝国中央の官僚であったと申しております! 文
官ですよ文官!﹂
﹁今すぐ執務室に連行しろ! 官僚ってことは文官だな! 間違い
455
なく文官だな!﹂
お手伝い
新たな生贄の登場に、執務室内で虚ろな目をしている連中が少し
元気になった気がする。ボクはまだ大丈夫だが彼らもそろそろ限界
か? そうだなあんまりやりすぎて逃げられるのは困るし、ここは
少し休ませてやるか。
﹁女性陣は休憩してよし! 残りはボクが自首してきた者に仕事内
容を叩き込むまでの間、仮眠を許可する!﹂
まるでアンデッドのような表情で報告書を纏めていた連中の目に
光が灯り、キリの良いところまで終わらせようと筆の動きが速くな
った気がする。
ところで自首してきた敵のスパイに仕事させようってのに、誰も
反対しないあたり少し追い詰めすぎただろうか? 全くここまで家
臣たちを追いつけた外道は一体どんな奴なんだ? ボクだが。
﹁お兄様! 休憩とは何分ですか?! お風呂に入る時間はありま
すか?!﹂
﹁アルチーナ様落ち着いてください、この場合カール様からお手伝
いの要請が来るまでです﹂
休んだらまた手伝ってくれる気でいるあたり、やっぱりお人好し
だ。それともボクが働いている時に、自分が休む事に罪悪感を感じ
る、体育会系ならではの感性だろうか?
﹁アルチーナもモルガノもありがとう、今日はもう大丈夫だよ、ゆ
っくり休んでくれ⋮⋮マルフィーザ嬢もありがとう﹂
456
﹁いえ⋮⋮お気になさらず﹂
無口な彼女はボクに会釈だけして、アルチーナ達と一緒に部屋を
出ていく。妹とそのメイドは遠慮なく扱き使ったがやっぱり他家の
令嬢にいきなり仕事させたのは拙かったか⋮⋮いや普通に考えて拙
いよね。テンパってて気が回らなかったか、なんか埋め合わせを考
えておこうかな?
﹁ご安心くださいカール様、魔術を学ぶ者は、文書を纏めたり計算
したりするのは日常ですので、さして苦ではありませんぞ。娘は不
愛想なのが普通ですから怒ってるわけではありません﹂
執務室の中で唯一平気そうな顔で仕事してるモンドバン伯爵が声
をかけてきた。この人ほんと有能だな、引き抜けないかな⋮⋮本職
は御典医だから無理なのは分ってるけど。
ボクの分までお茶を淹れつつ纏めた文書を見直してる彼は、机に
突っ伏して仮眠してる元諜報員を痛ましそうに眺めつつ、ボソリと
呟いた。
﹁帝国は随分と非道な術を施すものですな、しかもアンデッド化の
刻印を植え付け、裏切れないようにしたのは勇者とは。軍神ファー
ルスも何を考えていることやら﹂
勇者とは、神々の地上代行者だ。神官たちとは違い、神々のなん
らかの目的の為に加護を授かり力を振るう者たち⋮⋮過去の記録に
よると例外なく強大な神聖魔法を使いこなし、目的に沿った特殊能
力を与えられるらしい。
457
我が国の勇者はよく分からん、いきなり女神様が現れて﹁お前今
日から勇者な﹂とか言われただけだし、そもそも特殊能力を自覚し
てないみたいだ。ただ神聖魔法に関しては、元々の魔力の総量が高
い事もあって、凄まじい威力になってるらしい。
特殊能力と言えばアンジェリカ嬢だが、アレは産まれた時からの
加護らしいので勇者とは言えない、﹃目的に即した人物﹄が勇者と
して選ばれるわけだから、生まれつき加護を持つ人間は勇者ではな
く、神の寵児とか神童と呼ばれるのだ。
後は信仰されてない神は、勇者と呼べるほど強力な加護は与えら
れない。歴史上異能・異才を振るったとか言われる人物は、大抵信
仰されない神から加護を授かったとされる。死に難いとか特殊な知
識を何故か知ってるとかね。
帝国の勇者は分りやすいな、倒した相手や降伏した者を奴隷化す
るとか、全方面に喧嘩を売ってるとしか思えない特殊能力から察す
るに、軍神の目的は戦火を齎すこと⋮⋮だと思う、自信はないけど。
﹁軍神だけに戦争のことじゃないのかな? 案外一般の者に勇者の
存在を、ボクの送った諜報員ですら調べられないほど厳重に隠して
るのは、とても民衆には受け入れられない人格だとか?﹂
軍神ってのは戦争関係の加護をくれる反面、戦争を強要したり、
平和なところに火種を投げ込んだりするのが役目みたいなものだ。
どう考えてもこの勇者の存在が、帝国の領土拡張主義に舵を切らせ
たとしか思えない。
ひととなり
﹁元々世話係だった人が勘気に触れて諜報員に仕立てられるっての
が多いから、話を聞いて帝国勇者の為人を推測するに⋮⋮まぁ一言
458
で言って屑かな? 伯爵はどう思う﹂
﹁私も同意見ですな、そもそも英雄的人格ではなく、卑しい心根の
人間が大きな戦力を持っている方が周囲の被害は大きいでしょう。
歴史がそれを証明してます﹂
話を聞く限り、どうも交渉でどうにかなりそうな人格じゃない。
多分男だったら殺されて、女性だったら奴隷にして慰み者にされる
と思われる⋮⋮戦争の嫌な一面を体現してるな、この辺が軍神の加
護を受けた理由だろうか?
また気持ち悪いレベルで非処女を嫌ってる、自由意思を奪われた
奴隷以外信用しない、思い通りにならないと癇癪を起こす⋮⋮と、
存在を秘匿するのも納得の危険人物だ。
﹁戦争が始まる前に知れて良かったよ。開戦してからじゃ打てる手
は限定されるからね﹂
﹁私は軍事には詳しくありませんが、勇者を相手にするのにこちら
も勇者を頼る以外に手はあるのですか?﹂
伯爵の考えではこっちの勇者様に頼る以外無いみたいだけど、キ
ナ臭いとはいえまだ戦争してないからね。
・・・・
﹁戦争は一人で起こせるものじゃない、相手が戦争を出来ないよう
に立ち回るさ﹂
そう考えるとクレイター王国に大きな貸しがある状態で手を組め
るのは助かるな。それに帝国に不満のある元独立国の残党に連絡を
取ってみるか、今回の情報のおかげで手土産には事欠かない。
459
もうすぐ子供が産まれるんだ。デシデラータを不安定な状況で出
産させるわけにはいかないからね。
伯爵曰く、この時のボクの表情は、とても女性には見せられない
ほど邪悪に歪んでいたそうだ。失敬な、ちょっと帝国が戦争どころ
じゃない状況にするために、策を練ってただけじゃないか。
460
修羅場︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
創作などやってる経験上色々ご指摘などが無いと、独り善がりな展
開に走りがちですので至らぬ点は突っ込んでいただけるとありがた
いです。
461
甘い夜︵前書き︶
お待たせしました、今回はお話を進めつつルーフェイメインエッチ
回
462
甘い夜
街中の諜報員を探しアンデッド化の刻印の除去を始めてから、二
日目の日暮れ少し前に、俺が感知できる範囲内︱︱︱この街全体︱
︱︱での刻印はすべて消し去った。冒険者を装っていても流石に暗
くなる前には街に戻るだろうし、恐らく全員分消せただろう。
暗くなってからカール王子の屋敷を訪ねるのも悪いので、明日の
昼頃に顔を出すと手紙を出し、家に帰ることにする。嫁たちに心配
をかけてしまったので、お菓子でも買って帰ろうかな? でもその
辺で売ってるやつよりヴィヴィアンが作ったお菓子の方が美味いん
だよな、果物の方がいいかな?
日が暮れると普通の商店は店仕舞いなので、商品を売り尽くそう
と随分と値引きされている。うんうん、いい感じに熟しててお得だ
な、多めに買っていこう。まとめて買うと店主さんは相好を崩し色
々おまけしてくれた、今は沢山の野菜や果物を箱に詰めてくれてい
る。
待ってる間に、一応スパイを統括してたらしい元帝国官僚の人か
ら貰った名簿を確認し、人数と消した刻印の数が一致したのを確か
める。そうして何気なく名簿を眺めているとヴィヴィアンの名前が
あった。
ヴィヴィアン・ビロン、備考欄にはビロン男爵家三女とだけ書い
てあった。ありゃ? なんか自分は平民みたいに言ってたけど男爵
家の出身なのか。帝国の内情は知らないけど、令嬢が諜報員をさせ
られてるくらいだし事情があるんだろうな。
463
こういうのは本人から言い出さない限り、触れないのがマナーだ
し、今の彼女は俺の嫁なのだから、気にすることはないか。そうし
てふとヴィヴィアンの項目のすぐ上にメリッサ・ビロンと書いてあ
ったのを見つけた。
メリッサってあの元娼婦の超色っぽい美人さんか⋮⋮備考欄には
23歳って年齢と元娼婦としか書いてない。同姓って事はヴィヴィ
アンのお姉さんかな? 自首するって言ってたし上手くすれば明日
会えるかな?
オリヴィアとディアーネ以外の四人は、結婚したこと伝えるのに
明日カール王子の屋敷に連れて行くつもりだし、姉妹の再会はある
かもしれないな。うーん、このメリッサさんの事は話しておくべき
か?
上手くすれば巨乳美人姉妹を同時に美味しく頂いて⋮⋮はっ! いかんいかん超美人で妖艶なお姉さんを思い出してしまい、ついエ
ロ妄想に耽ってしまった。助けたことを笠に着てエッチを強要なん
て卑劣な真似は男らしくない!
でも経験豊富なお姉さんってちょっと憧れが⋮⋮でも、あんな美
人なんだから男なんて選り取り見取りだろうし、中にはお眼鏡に適
った運の良い男もいるだろう。恋人の一人や二人いないわけがない
しアホな考えは捨てよう。
∼∼∼∼∼
464
その晩俺のベッドにやってくるのはルーフェイ、アルテナ、ヴィ
ヴィアンと聞いていた。ただアルテナはエッチの前の身嗜みを整え
るのに慣れてないので手間取ってしまい、ヴィヴィアンがフォロー
してあげてるそうだ。
ここでそんなの良いから早くベッドに来いとは絶対に言えない。
俺の為にしてくれている努力を無下にするなんてできないし、女性
の準備に時間がかかるのは当たり前だからね。
そして今寝室にはルーフェイだけ先にやって来ていた。彼女は身
嗜みを整えないのかって? だってルーフェイってシモの毛生えて
ないもの。神殿暮らしのアルテナとユングフィアは清潔にはしてる
んだけど、アソコの処理は慣れてないのだ。
﹁ヴィヴィアン達が来るまでは二人っきりだね。ルーフェイおいで﹂
﹁えへへ⋮⋮二人っきりでエッチは初夜以来ですね﹂
ガウンを脱ぎ捨て全裸になったルーフェイは、尻尾を振りながら
俺の胸元に抱き着いてきた。さらさらとした手触りの柔らかいルー
フェイの髪を撫でると、仄かに桃の甘い香りが漂ってきた。
﹁洗髪料を変えたのか? 甘い香りがして俺は好きだな、今すぐ食
べちゃいたいくらいだ﹂
抱き着いてきたルーフェイの首筋にキスをして、徐々に喉元に舌
を這わせる。そして頬から額に唇で触れる。うっとりとした表情で
尻尾を振りながら、俺に全てを預けたかのように、なすがままにさ
れている。
465
﹁わふぅ⋮⋮クリス様にキスされると、身体中がとってもあったか
いです⋮⋮んむっんふぅぅ﹂
キスで顔を赤くして、幼い顔立ちながらもはっきりと女の⋮⋮い
や牝の表情をしてるルーフェイに、唇を重ね舌を絡める。尻尾は忙
しく動き、連動して可愛いらしいお尻が震えている。
﹁ちゅ⋮⋮んっんっ⋮⋮わふぅ⋮⋮えへへ﹂
離れるとお互いの口から銀色の糸が引く、俺たちは裸で抱き合っ
たまま見つめあい、嬉しそうに微笑むルーフェイに愛おしさが込み
上げてきた。
﹁ルーフェイは可愛いな、俺のところに嫁に来てくれてありがとう
⋮⋮愛してるよルーフェイ﹂
﹁はい、私も好きです⋮⋮愛してますクリス様﹂
もう一度キスすると、ルーフェイの体の向きを変えシックスナイ
ンの体勢にし、陰毛の一切無い、綺麗な割れ目に沿って、舌の先端
でくすぐるように愛撫する。感じやすいルーフェイをイカせるのは
簡単なんだけど、そうすると体力のない彼女はすぐダウンしてしま
う。
﹁きゅふん! やっやぁぁん! 恥ずかしいです⋮⋮﹂
﹁恥ずかしがるルーフェイが可愛いから、俺がイクまで続けるぞ。
頑張って俺をイカせてみろ﹂
真っ赤な顔で俺を見るルーフェイは、両手で俺のチンポをしごい
466
てくれる。可愛い口で頑張って奉仕してくるのかと思ったのだが、
考えてみれば身長差のせいか微妙にフェラチオするには厳しいよう
だ。
仰向けから少し身を起こしてあげると丁度いい位置に動き、小さ
な舌で俺のチンポを舐めてくれる。お互い体勢的にちょっと疲れそ
うな体位になってしまったが、ルーフェイは軽いからそんな負担で
もない。
﹁ちゅっ⋮⋮んっんっ⋮⋮が、頑張ってイカせてさしあげま⋮⋮き
ゃうん!﹂
﹁どうした? おしゃぶりが止まったぞ? それともこの恥ずかし
い姿をヴィヴィアンとアルテナに見せるか?﹂
今のお尻を高々と上げた状態を俺以外に見られるのは嫌なのか、
フェラの勢いが増した気がする。
﹁んっんんっ⋮⋮はぁ⋮⋮はむ!﹂
必死に小さな口で俺のチンポを頬張り、舌と唇、そして両手で愛
撫してれる姿は、小柄な少女ながらも淫靡で、そして愛らしい。し
かしながら経験の少ない彼女の拙いフェラチオなら俺には、気持ち
良さを味わいながら悪戯する余裕がある。
クリトリスを軽く唇で甘噛みし、同時に秘裂に指を挿入すると、
ルーフェイの身体がビクッと強張り動きが止まる。
﹁きゅぅん! ク、クリス様ぁ意地悪です⋮⋮﹂
467
﹁何のことだ? ルーフェイにばかり気持ち良くして貰っちゃ悪い
と思ったからさ、ルーフェイも気持ちよくしてあげるよ、もうお漏
らししたみたいに濡れてるオマンコをね﹂
なんとか俺をイカせようとフェラチオを再開するが、俺の指が彼
女の弱い部分を刺激すると途端に力を無くしてしまう。
﹁わふぅ! クリス様ぁ⋮⋮もう意地悪しないで、ル、ルーフェイ
はもう⋮⋮わふぅ⋮⋮﹂
ルーフェイの愛液は俺の胸元まで濡らしてしまっている、可愛す
ぎるからちょっとイジメてしまったが、そろそろイカせてあげるか。
さっきまでは一本の指で弄っていたが、今度は両手で膣穴を広げ、
内部に舌を這わせる。
﹁きゃうぅん! いぃ! あっあっあっ気持ちいのォォ! んはぁ
ぁぁぁ!!﹂
ルーフェイは尻尾を逆立だせ、アクメに達すると俺の上から退け
て力が抜けたかのようにポテンとベッドに横になる。
愛液でビショビショの身体を近くに備え付けてあるタオルで拭き、
絶頂の余韻に浸ってるルーフェイを背後から抱きしめる。
﹁わふぅ⋮⋮クリス様ぁ先に達してしまい申し訳ございません﹂
ルーフェイに先にイカされたら男としてちょっとプライドが傷つ
くと思うが、まぁ俺を気持ち良くしようと想っての言葉だろう。俺
の腕の中にすっぽりと収まる小さな少女の頭を撫でつつ、体勢を変
468
え上からのしかかる。
﹁俺としてはルーフェイが気持ち良くなってくれればそれでいいさ、
さぁ今度は俺のチンポで気持ち良くしてやるぞ﹂
﹁は、はいです!﹂
横向きにしたままルーフェイの片足を俺の肩に乗せると、愛液が
ランプの明かりを反射し、オマンコと小さく窄んだお尻の穴ががま
るで俺を誘ってるかのように妖しく煌めく。
それを指摘すると恥ずかしさのあまり泣き出しそうだから言わな
いけどな。幼な妻の淫らな姿は俺だけが知ってればいい事だ。
ゆっくりと、狭い膣穴に挿入していく。洪水のように濡れていて
もルーフェイの膣内は狭く俺を締め付ける。
﹁はぁ! ンン∼∼∼∼∼ッッ!﹂
ルーフェイの膣奥まで到達すると軽く腰を揺らし、小刻みに子宮
口を刺激する。ここがルーフェイの感じるポイントで、すぐさま嬌
声があがる。
﹁きゅぅん! あぁそこ! クリス様そこがいぃのぉ!﹂
より快感を求めるかのように、不自由な体勢にも拘わらず俺に合
わせて腰を揺する。
エッチな事を何も知らなかった箱入り王女が、淫らに腰を動かし
積極的に俺を求める姿は男冥利に尽きる。先ほどのフェラチオも合
469
出
わせて、ルーフェイの狭い膣穴はそれだけで気持ちがいいので、そ
ろそろ射精しそうだ。
腰のグラインドを大きくし、徐々に強く幼いオマンコを犯してい
く。
﹁あっはぁぁぁ! クリス様ぁ! イッちゃう! ルーフェイはま
たイッちゃいますぅぅぅ﹂
﹁あぁ俺もイクぞルーフェイ! たっぷり子宮の中に俺のザーメン
を飲ませてやる﹂
ルーフェイに合わせてチンポで膣奥を何度も叩き、限界が近づく
とルーフェイのお尻を掴み奥に押し付けたまま射精する。
﹁わふぅぅぅぅぅぅん!﹂
射精と同時にルーフェイもまた盛大に身体を仰け反らせ絶頂する。
荒い息を吐きながらも、満ち足りた表情で俺に抱き着き頬を舐め甘
えてくる。ルーフェイってエッチの後にこうして甘えてくるから可
愛いんだよなぁ
﹁きゅぅん⋮⋮ちゅっちゅ⋮⋮﹂
暫く抱き合ったままでルーフェイを可愛がっていると、ノックの
音が響き、アルテナとヴィヴィアンが入ってきた。
さて、今夜も可愛い嫁さん達を存分に愛して、気持ち良くしてあ
げよう。
470
∼∼∼∼∼
﹁んんっ! はぁぁぁぁん!﹂
ナカダシ
ヴィヴィアンが膣内射精と同時に絶頂に達し、大きく仰け反ると、
巨胸がぶるんぶるんと弾けるように震える。
彼女も俺もそろそろ限界だな、もう寝るか⋮⋮アルテナもルーフ
ェイも力尽きて寝てるしあの事を聞くにはいいタイミングかな?
﹁なぁヴィヴィアン、今日こんな物を貰ったんだ﹂
腕枕されて満足気な表情で抱き着いていたヴィヴィアンに、貰っ
た名簿を取り出して見せると、諜報員の一覧なのが分かったのか困
ったようにため息をついた。
﹁あーひょっとしてアタシの家名を見ちゃいましたか? 幼い頃に
没落した家なんであんまり気にした事なかったです﹂
なんでも没落した後は家族はバラバラになり、ヴィヴィアンは幼
く容姿に期待が持てたために、ハニートラップから戦闘までこなせ
る諜報員として帝国の専門機関に引き取られたらしい。
その諜報員として訓練は幼い子供にとって余りにも過酷で、余計
なことを考えてる暇は一切なかったそうだ。
腕枕しながら彼女の身の上話を聞いていても、あまり悲壮感がな
471
いのが救いか、とっくの昔に割り切っているのだろう。
ソレ
﹁名簿な、一応の人数確認の為に貰ったんだけど、ヴィヴィアンの
名前を見つけてつい読んじまったんだ。覗きみたいなマネしてごめ
んな﹂
﹁ふふっ良いですよ、昔の事とか一切興味ないとか言われるよりも、
アタシの事に興味を持ってくれて嬉しいです﹂
胸元に頬を寄せてきたので、撫でてあげると気持ちよさそうに吐
息を漏らす。その色っぽい仕草はなんとなく助けたメリッサさんに
似ていた。
﹁それでヴィヴィアンの項目の近くに同姓の女性名が目に入ってな。
美人なんで印象に残ってたんだけどメリッサさんってお姉さんとか
か?﹂
﹁ね、姉さんに会ったんでムグッ! ∼∼∼∼ッッ! ぷはっ﹂
﹁ルーフェイとアルテナが寝てるから静かにな﹂
なんか大声出しそうだったのでキスして口を塞いだ。そのせいか
ちょっと落ち着いたようでヒソヒソと声を抑えてメリッサさんにつ
いて質問してきた。
元娼婦を名乗ったこと、刻印を解除したら自首すると言って辺境
拍の屋敷に向かったこと、色っぽい美人さんだと感想を言うと軽く
頬を抓られた。痛くはないけど、女性と話していて他の女に鼻を伸
ばすのはマナー違反だったな、ごめんよヴィヴィアン。
472
﹁明日の昼頃に俺たちが結婚したことを、カール王子に報告するの
に一緒に行くから。その時に会えるかもな、自首した人たちは軟禁
されてるそうだし﹂
軟禁と言うと悪い扱いだと思われるが、部屋から出れないだけで
お客様待遇らしいから、心配することはないだろう。
﹁一応勇者だ、頼めば面会くらいさせてくれるだろ。明日、自分は
幸せになったって伝えてやりな﹂
﹁はい、ありがとうクリスさん⋮⋮アタシ幸せだよ﹂
∼∼∼∼∼
次の日、王子が留守の間に増えた嫁四人を連れて、色々と報告の
為にカール王子の屋敷に出向く。一応元諜報員のヴィヴィアンの事
とか説明しないとな、連絡しないでいて変な目で見られてはかなわ
ない。
ユングフィアとアルテナは元々この街の住民で、身元もしっかり
してるから問題ないが、ルーフェイの事は手紙じゃなくてちゃんと
オレ
伝えないとな。クレイターの王様の事もあるし。
ルーフェイ
式典の時お姫様と勇者の結婚式とか予定してるし、俺から伝えた
方がいいだろう。多分知ってるだろうけど。
刻印は無くなってもまだ帝国に忠義立てする人もいるかもしれな
いので、用心の為にゴーレム馬車に乗って辺境伯の屋敷に向かう。
473
その途中で馬に乗ってカール王子の屋敷に向かってる人の姿を見
かけた。あれはサリーマさんと、息子のマヘンドラさんだな、部下
がいないところを見ると、どうやら報告の為に早く帰ってきたみた
いだ。
﹁おーい、サリーマさん、マヘンドラさん。おかえり∼∼早かった
ですね﹂
声をかけて手を振ると彼女たちもこっちに気付いたらしく、片手
を上げて挨拶してきた。
﹁おっクリス殿かい、蟻の素材だけ持ってちんたら進むのは性に合
わなくてね。後の事は部下共に任せて来たんだよ﹂
彼女はルーフェイの事は知ってるけど、帰ってきてから嫁入りし
た三人の事は知らないはずだし、馬車で進みながら紹介する。
﹁はっはっは! 少し見ないうちにまた嫁が増えるたぁ大したモン
だ! 甲斐性のある勇者様はモテるねぇ! やっぱアタシの娘くれ
てやろうか?﹂
申し訳ないが9歳児と結婚とか、外聞が悪いなんてものじゃない
ので断らせてもらう。見た目子供のルーフェイは良いのかって? 彼女は成人してるので問題ない。
ちなみにサリーマさんの娘さんは大層利発な少女で、将来は美人
確定な整った顔立ちをしている。と、手伝いのオバちゃんが言って
た。なんか商店街のマスコット的存在になってるらしく、近所の同
年代の子供たちが先を競って話しかけるくらいにはモテるようだ。
474
まぁそれはともかく、俺はゴーレム馬車の御者台に、サリーマさ
んたちは馬に乗ったまま並走し一緒に辺境伯の屋敷に入った。
魔物の素材を取引する倉庫の付近は冒険者たちでいっぱいで、広
い敷地の一画ではカール王子が考案したとされる、玉蹴り遊びに興
じてる人たちもいる。査定が終わるまで暇なのは分かるけど良いの
かな? 一応ここって偉い人の庭なのに。
﹁なんでも喧嘩とかが絶えなくて、体力余ってるなら運動しろって
な事を、カール様が言い出してね。それ専用に整備したそうだよ﹂
よく見れば確かに騒がしいけど殺伐とした雰囲気はなく、みんな
楽しそうだ。俺も暇なときに参加しようかな。
﹁へぇあの黒い髪のお嬢ちゃん中々良い動きするねぇ。冒険者の男
どもでも追いつけてないよ﹂
言われて見ればひと際目立つショートカットの女の子が、素早い
動きで相手を抜き去り敵チームを翻弄している。ちょっと気の強そ
うな雰囲気の綺麗な娘だ、何故か目の下に隈が出来てるみたいだけ
ど溌溂としてるなぁ。
動きに華があるので、男たちは勿論、女性の冒険者からも声援が
送られている。若干女性からは黄色い声が混じってる気がするが、
俺には関係ないので気にしないことにする。
﹁お前たちも暇なときに一緒にやってみるか?﹂
﹁はい、いつでも仰ってください。神殿の敷地でも玉蹴りは流行っ
475
ているので、経験がありますしちょっと自信があります﹂
いかにも運動が得意そうなユングフィアは真っ先に賛成する、背
が高いとこういうのは有利だしな。
﹁私も神殿ルールありなら自信があります!﹂
アルテナも名乗り出てくる。運動得意そうに見えないけど神殿ル
ールってなんだ?
﹁神聖魔法を使った妨害あり・敵チームを攻撃なしルールなら私は
神殿でも一番なんです﹂
﹁却下だ、それを認めたら冒険者の魔法使いたちが、魔法による援
護と妨害ありついでに攻撃ありルールとか言い出すぞ﹂
多分魔法ありルールとか適用されると俺は出禁になりそう。もし
くはボールを回して貰えなさそう⋮⋮なんだその寂しい状況は、俺
は嫁たちと爽やかな汗を流したいだけなのに。
盛り上がってる冒険者たちを尻目に玄関に向かっていると、大き
などよめきが上がる、何事かと見てみると、力加減を誤ったのかボ
ールが俺たちの上空を通り敷地の外へ⋮⋮人に当たったら大変なの
で風の魔法を使い向きを変えてあげようっと。
専門じゃないのでせいぜい敷地の外に出ないように風を吹かせる
だけだが、ボールに妙な回転がかかっていたのか予想以上の勢いで
更に上空に飛び⋮⋮
﹁ぎゃぁぁぁぁん!!﹂
476
何やら人間らしい悲鳴が聞こえたと思ったら空から、大きな白い
鳥らしきナニカが落下してきたのだ。
477
甘い夜︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
ヴィヴィアンの実家ですが、長女がなろうテンプレ婚約破棄ものみ
たいなことやらかして一家離散、二女のメリッサさん娼婦になって
花街の頂点に、三女のヴィヴィアン諜報員に⋮⋮とか裏設定考えた。
後、感想受付を制限無しにしました。
478
冒険者︵前書き︶
アルチーナ視点がちょっと長くなってしまったので、エロ展開まで
︳
m︶少○サッカー風味な冒険者サッカーって書いてて
いけず申し訳ありません。
m︵︳
意外と面白いんだもの。
479
冒険者
マーニュ王国王女のアルチーナです。疲れ切っていた筈ですが、
明るいと眠れない性質なので、カーテン越しに日の光が差し込むお
昼前に目が覚めてしまいました。
昨夜、いや今日の早朝まで執務室でお仕事を手伝ってましたが、
お兄様って普段からあんなにお忙しいのでしょうか? まぁ今回は
敵国の諜報員がまとめて自首するなんて、普通はあり得ない特殊な
状況でしたから、特に忙しかったのでしょう。
徹夜なんて初めてですし、お風呂に入ったらすぐ眠ってしまいま
した。いつもなら起きてすぐ動けるのですが、どうも体が重い感じ
がします。お腹も空きましたね。
﹁モルガノ、モルガノお腹が空いちゃったからなにか軽食でも⋮⋮﹂
そこまで言いかけて止めました、私の部屋のソファでメイド服姿
のモルガノが寝息を立ててます。考えてみれば彼女も徹夜、しかも
私のフォローまでしてたのですから疲れ切っていて当然ですね。
付き合いの長い幼馴染ですが彼女の寝顔なんて珍しいものを見て
しまいました、普段私よりも早く起きるのが専属侍女ですからね。
起こすのも可哀そうなので、ゆっくり寝かせてあげましょう。まず
は顔を洗って⋮⋮やだ、まだ目の下の隈がとれてないわ。
お化粧しないと人前に出れませんが、私って自分でお化粧したこ
とないですし、髪を梳いたこともありません。うーん⋮⋮でもここ
480
は王都でもないですし、口煩い連中はいませんから少しくらい横着
しても大丈夫でしょう、こういう時は軽く運動でもしましょうかね。
お化粧もしないで外に出るなんてモルガノにバレたら叱られてし
まいますが、ちょっと外で運動するだけです。すぐ戻れば大丈夫で
すよね? マルフィーザさんも誘おうか考えましたが、彼女もおそ
らく眠っているでしょう。
庭を見ると素材買取所の近くの広場で、大勢の人たちがお兄様の
考案した玉蹴りをやってます。丁度良いわ混ぜて貰いましょう、ル
ールは知ってますし、私の運動能力ならヒーローになるのは間違い
なしね。
早速運動着に着替えましょうっと、うーん不特定多数の殿方の目
がありますし、お兄様の考案したいつもの﹃ぶるま﹄は動きやすく
て好きなんですが、流石に淑女としてはしたないですから、長袖の
運動着を着て私は庭へと駆けだした。
思えば地域ごとの特殊ルールの事を失念していた自分を叱りつけ
たいです! まさかこの街限定で冒険者ルールなるものが存在して
いたとは。ついでにこの街に集った冒険者は腕利きばかりだという
ことも⋮⋮
∼∼∼∼∼
いしつぶて
飛んでくる石飛礫で抉られた地面を躱しながら、敵陣目掛けて一
直線に駆ける! 味方チームの参謀マイケルの助言によると、芝生
が生えた場所には落とし穴が設置されてる可能性が高いらしい。一
481
流の狩人が作った罠はよほど優れた観察眼を持ってないと見抜けな
い上に、ボールに意識が集中してるので走りながら避けるのはほぼ
不可能だからだ。
経験豊富なチーム参謀マイケルの助言に従い、多少迂回する。草
の生い茂ってる場所は避けて、地肌がむき出しの地面を選んで走る。
﹁くそっ罠が読まれたか! ヘンリー、ベンジャミン! 囲め囲め、
相手は女一人だ﹂
ボールを蹴りつつ走る! 相手チームの大剣使いと鞭使いが立ち
塞がるが、武器を直接身体に当ててはならず、魔法も身体のみなら
ずボールにも当ててはいけないルールなので、フェイントを駆使し
抜き去る⋮⋮しかしその瞬間を狙っていたのは鞭使いだ。
武器を身体に当ててはいけない。しかし鞭の先端から発する衝撃
波であれば別だ、背後からボールを弾かれ衝撃で足をもつれさせて
転倒⋮⋮せずにバランスを取り前のめりの状態で更にダッシュ! 弾かれたボールを拾い敵陣めがけて一直線だ。
味方から歓声が上がる、二人の戦士は私の足の速さに付いてこれ
ない。さぁ後は敵陣を守る守護役との一騎打ちだ。
それぞれのチームで守護役だけは魔法をボールに当てても良いと
されていて、殆どは魔法使いがその役を担っている。敵チームの守
護役は土魔法の使い手で、10メートルにも及ぶ2本の鉄の帯をま
るで己の腕の延長のように自由自在に操る男だ。
網状に組んだ鉄の帯は文字通り鉄の壁であり、一瞬で敵を締め上
げる拘束衣に早変わりする攻防一体の恐るべき術だ。
482
玉蹴りでは自重してるが本来彼の操る鉄の帯は極々薄く鍛えてあ
り、城壁をも切り裂くと評判だ。名前は知らないが﹃龍首落し﹄の
異名を持つ凄腕の冒険者だとチーム参謀マイケルが言ってた。
﹁やるなお嬢ちゃん! だが俺の護る陣地は抜けねぇぞ﹂
﹁その慢心⋮⋮正面から打ち砕いてさしあげますわ!﹂
敵も味方も周囲にはいない、私のチームメイトは一騎打ちの状況
を作るために、敵の選手を抑えてくれているのだ。
時間をかけてしまうと、鞭使いに追いつかれる。鞭使いの衝撃波
は厄介なので、ちらりと背後を確認すると、なんとか我がチーム随
一のタフガイ、鉄槌使いのジェイソンが間に合い足止めをしてくれ
ている。
次の瞬間、地面が揺れたかと思ったら、ジェイソンの一撃で飛び
散った土砂がまるで津波のように大剣使いと鞭使いに襲い掛かり、
彼らを纏めて飲み込み戦闘不能にしていた。
ふっ流石は﹃地割り﹄のジェイソン。お兄様から屋敷を与えられ
るだけの事はありますね。私も負けてはいられません、王女として、
そして勇者様に嫁ぐ身である以上、私は無様を晒すわけにはいかな
い!
ボールを敵陣めがけて蹴り込み、全速力で駆ける! ボールを追
い抜き、龍首落しに肉薄。彼は私の速力に多少驚いたようだが、淀
みなく鉄帯に更なる魔力を注ぎ迎撃の構えをとる。
483
流石、二つ名を持つ冒険者は咄嗟の判断が的確ですね。私の実力
を見誤ってる事以外はね! 喰らいなさいお兄様直伝の秘拳を! 鉄帯の網に接触し、踏み込む足の力を無駄なく腕に伝動させ掌打を
打ち込む!
﹁秘拳! アーマァァァブレイクッッ!!﹂
超重量の魔物同士が激突したかのような轟音が響き、鉄の網を貫
通した掌打の威力をまともに受け、操る鉄帯諸共後方に弾き飛ばさ
れる龍首落し。しかし鉄の網は一切に揺るがず健在だ。
﹁くっ! 私のアーマーブレイクをまともに喰らって、なおも術を
維持するとはね、見事よ!﹂
しかし後方に弾かれたために私の蹴ったボールが守護役の退いた
敵陣に吸い込まれ⋮⋮陣地を抜いた。
﹁がっ! ゴホッゴホッ! 油断した、素手でなんて威力を出しや
がる﹂
﹁うおぉぉぉぉ! ジャックの守りが抜かれた!﹂
﹁スゲェ! あのジャックを弾き飛ばすなんて﹂
敵味方両方から沸き立つ歓声を受けガッツポーズをすると、さら
に歓声があがる。龍首落しはジャックさんですね、覚えておきまし
ょう。彼もお兄様に屋敷を与えられた開拓の主戦力ですから。
味方の陣地に戻った私をチームメイトたちは笑って迎えてくれた。
全員20代から30代の経験豊富な冒険者や傭兵ですので、実力を
484
認めたら小娘だと侮ることなく、対等に接してくれるのが嬉しいで
す。王都では騎士の訓練に混じっても腫物扱いですからね。
味方チームの面々が軽口を叩きながら褒めてくれるが、彼らが敵
の守護役と一騎打ちの状況を作ってくれなければ無理だったのだ。
チームメイトとハイタッチを交わしつつ、久々の充足感に酔いしれ
る。
﹁やるなお嬢ちゃん、どうだい今晩俺に付きあわないか? 見ただ
ろ? 俺がヘンリーたちをぶっ飛ばす雄姿をよぉ!﹂
﹁ジェイソンてめぇ自分の面見て女誘えよ! 嬢ちゃん、こんな人
間と豚と熊を足して割らないようなブ男より、若くてイケメンの俺
の方が良いだろ?﹂
﹁誰がイケメンだ! ポール! てめぇこそ鏡を見な! そこらの
イボカエルの方がまだマシなツラしてらぁ!﹂
﹁ふふっお誘いありがとうございますジェイソンさん、ポールさん。
ですが私には婚約者がいますので遠慮させていただきますわ﹂
﹁あー確かになんか良い家の娘さんっぽいし、そういうのが居るん
だなぁ残念だ﹂
良い家どころか王女ですけどね、婚約者がいると言うと、周囲の
殿方は残念そうな表情で一斉にため息をついてます。社交界とかと
違ってこういう素直な反応は好感が持てますね、私はこの街でもう
まくやって行けそうです。
﹁おっし! 仕切り直しだ、俺たちも嬢ちゃんに負けてられねぇぜ﹂
485
チームリーダーのジョニーの一声で、全員気を取り直したかのよ
うに顔を引き締めます。先制しても気を抜けばあっという間に抜か
れてしまうのが、この球技ですからね。
一点取るごとに、観客の中の魔法使いが凸凹になった地面を修復
している、その間のインターバルがあるのが開拓地冒険者ルール。
その間に体力を回復させ怪我の手当てをするのだ。
チーム参謀のマイケルが元神官で、治癒を得意とする神聖魔法の
使い手なので、衝撃波で擦りむいた足を綺麗に治してくれた。体操
着のズボンも破れてしまいましたが、この試合の間くらいは問題な
いでしょう。
﹁ありがとうございますマイケルさん﹂
﹁なに、可愛い女の子には優しくして、良いところを見せたいのが
男ってもんだからね﹂
なかなか良いセリフですけどねぇ⋮⋮マイケルさん鼻の下を伸ば
しながら、私のお尻を凝視してては台無しですよ? ほら、マイケ
ルの奥さんがやって来て襟首を掴んで連行されてしまいました。
なんでも法の女神様に仕える神官だったのが、神殿の敷地内で奥
さんとエッチしたのがバレて破門され、冒険者になった人らしいで
す。煩悩塗れでも加護を与えてくれるあたり女神様は流石に寛大で
すね。
そろそろ地面の修復が終わりそうなので、私はチームの仲間たち
と共に再び自陣に集結する。
486
∼∼∼∼∼
それはゲーム終盤の事だった、スコアは4対3でこちらが優位だ。
敵チームリーダーは私にこれ以上点を取らせまいと、自ら私のマー
クをし、なかなかボールに触れられない。
敵リーダーのロバートは﹃天翔け﹄の異名を持つ、単騎で敵陣に
突入し敵将を討った武勇伝を持つ歴戦の傭兵だ。
剣士としても、傭兵を率いる指揮官としても隔絶した技量を持つ
だけでなく、﹃天翔け﹄の由来となった空気を蹴って空を走る風魔
法を得意とする。全てを駆使して挑んでも勝てる相手ではないし、
空を走る相手に振り切ることもできない。
この試合彼には三点も許してしまっている、今まで彼を抑えてい
たジョニーが居なければ、優位のまま終盤を迎えることはなかった
だろう。しかし劣位にあるにもかかわらずロバートは、ここで私を
抑え攻撃の起点を潰す戦略に出た。
結果、機動力で劣る我がチームは敵の連携に翻弄され、自陣近く
まで攻められてしまっている。私が自由に動ければ、足の速さでか
き乱してやるのに。
悔しいが、冷静に考えれば敵の最大戦力を、この場に釘付けにし
てると考えれば悪くはない。しかし流石は歴戦の傭兵だ、私を抑え
ながらも的確に指示を出し、一糸乱れぬ動きを見せる敵チームを前
に、自陣を抜かれてしまった、これで同点だ。
487
また仕切り直しでこちらが攻め手になる、マイケルの助言に従い、
私がボールを持って駆け、残りはサポートする。一騎駆けする私の
前には、やはりロバートが立ち塞がる。
ここでボールを奪われては敵の勢いに飲まれるだけだ、私は覚悟
を決めロバートに立ち向かう。しかしその時横合いから声をかけら
れる。
﹁コイツは俺が抑える! お嬢ちゃん先に進め!﹂
﹁ジョニー!﹂
私ですら気づかないうちに現れたリーダーのジョニーがロバート
と打ち合う。ジョニーの周囲は陽炎のように空気が歪み距離感を狂
わせる、地味なようだが近接戦で間合いを狂わせる効果は計り知れ
ない脅威だ。
武器同士をぶつかり合う音を背に再び敵陣へと向かって駆ける。
ロバートが追おうとしてるようだが、ジョニーに追いつかれ打ち合
いになってしまう。
・・・・・
空を走れるロバートに追いつけるとは凄まじい足の速さだと思っ
たが、そんな生易しいものではない。彼は炎魔法で空間を焼滅させ
殆ど瞬間移動の速度で動けるのだ。
凄まじいですね、流石はこの街に来た冒険者の中でも屈指の実力
者にして最強の炎使い、﹃陽炎﹄のジョニーです。
リーダー同士の一騎打ちに会場は大盛り上がりだ、期待に応える
488
ため私はまっすぐに進む、そして私の行く道を阻むのは⋮⋮二本の
鉄帯を自らの手足のごとく自在に操る龍首落し。ジャックが自陣の
護りを放棄し私の前にやってきたのだ。
﹁守りに入っちゃ勝てねぇからな! ここは攻め手に回るぜ、覚悟
しなお嬢ちゃん!﹂
拙い! 彼に自由に動き回られると私には成す術がない。10メ
ートルにも及ぶ二本の鉄帯を変幻自在に操るジャックは、広い空間
でこそ真価を発揮する。加えて実戦経験豊富な冒険者だ、近接戦し
か戦う術の無い私とは戦術の幅が違いすぎる。
鉄帯を動かすのは相当消耗すると聞いたが、逆に言えば消費を気
にしなければ、彼自身が自由に動けるのだ。
ならば⋮⋮ここは味方にボールを渡し、彼をここで抑えるしかな
い。
﹁みんな! 敵陣に全力で走れぇぇぇぇ!﹂
敵陣に向かって思いっきり蹴り飛ばし、なんとかジャックを抑え
ようとしたのだが、敵とて木石じゃない、全力で蹴ったボールに反
応し鉄帯で弾いてしまったのだ。ボールは高く飛び屋敷の敷地の外
へ飛んでいく⋮⋮なんか空から女の子が落ちてきた!
∼∼∼∼∼
空から落ちて来る女の子は、真っ白な翼と、同じく白い髪の鳥人
489
族だ。ボールの当たり所が悪かったのか気絶してるのか、脳震盪を
起こしてるのかは分らないが自力で飛べないようだ。
﹁ちっ! あの勢いじゃ助からない﹂
冒険者の中にも彼女を助けようとしてる人がいるが、落下地点は
俺が一番近い。なにより俺が風を起こしたせいでもあるからな。
少女の落ちそうな場所に向かって駆け寄り、風魔法で上昇気流を
起こす、専門じゃないので力は弱いが勇者としての膨大な魔力でな
んとか落下速度を遅くする。
前を見ると同じように女の子を助けようと駆け寄ってくる少女が
いた。玉蹴りで活躍してたショートカットの女の子だ。
﹁俺に任せろ﹂
上昇気流をさらに強くし。身体強化で自身を加速⋮⋮地面にぶつ
かる直前にダッシュしたまま女の子を抱きかかえる。
加速しすぎたせいで勢い余って地面を十数メートル滑る事になっ
たが、俺が下になったので白い翼の少女は無傷だ。呼吸も正常だし
大丈夫だろう。俺の背中はヤスリで削ったような感じでめっちゃ痛
いけど。
﹁だっだっ大丈夫ですか! 背中から凄い血が⋮⋮﹂
声をかけてきたのは、俺と同じように女の子に駆け寄ってきた黒
髪の女の子だ。遠目でも可愛い子なのは分ってたけど、近くで見る
とすごい綺麗だな。育ちのいい感じがするけど冒険者かな?
490
﹁回復魔法が使えるから大丈夫だよ、まぁ傷口を洗ってからでない
とダメだけど﹂
闇魔法で痛みは抑えてるし、止血してるから大丈夫っちゃ大丈夫
だけど、ズボンまで血塗れになってて視覚的に痛いな。彼女にこの
子を任せて、傷を洗うのに風呂でも借りようかな。
﹁済まないけど、女の子は気絶してるだけだからベッドに寝かせて
あげてくれ、それと屋敷の人を呼んできて﹂
﹁わ、分りました!﹂
︵この人強い⋮⋮全然勝てる気がしないわ︶
黒髪の子は冒険者に劣らない身体能力の持ち主だからなのか、軽
々と女の子を背負う。
﹁ありがとう流石に血塗れのまま、ベッドまで運んであげるわけに
はいかないからな。ああ、そういえば名乗って無かったな。俺の名
前はクリスだ﹂
﹁貴方こそ怪我してるのですからご自愛ください、私はアルチーナ
と⋮⋮クリス? ひょっとして勇者様?﹂
あんまり自覚はないけど、頷くとアルチーナさんはいきなり顔面
蒼白になり、背負っていた女の子がずり落ちそうになったので慌て
て支えてあげる。なんか随分とショックを受けてるみたいだ、どう
したの? 俺はそんな怯えられるような真似をした覚えは⋮⋮ちょ
っとあるな。
491
﹁たったっ! 大変ご無礼を! 申し訳ございませんっ!﹂
︵しまった! 私お化粧してないわ、しかも泥と汗まみれだし⋮⋮
みっみっ見られた! ⋮⋮こんな姿を未来の旦那様に!︶
﹁落ち着いて、アルチーナさんが謝るようなこと何もないから、ね
?﹂
信心深い子なのかな? そんなに畏れられるとちょっと傷つくん
だけど。
﹁うわ∼∼∼∼ん! ごめんなさい勇者様!﹂
︵髪の毛もボサボサだし、まだ目の下に隈が残ってるのにぃぃ! ど、どうしようだらしない女だと思われる!︶
アルチーナさんは物凄い速さで屋敷に向かって走っていった。困
ったな、女の子を置いて行っちゃった。仕方ない、ユングフィアあ
たりに頼むか、お姫様だっこで嫁たちのところに戻ろうとしたら、
女の子の瞼が動いた。
﹁う∼∼∼ん⋮⋮﹂
ん? 女の子の意識が戻ったか?
﹁大丈夫かお嬢ちゃん?﹂
回復魔法をかけてあげると意識が戻ったようで、徐々に目の焦点
が合ってきた
﹁あ⋮⋮んっ⋮⋮痛っ! ⋮⋮くない? あれ翼を傷めたような?﹂
492
キョロキョロとあたりを見渡しながら、不思議そうに自分の翼を
見ている女の子。白い翼に目が行きがちだが、翼と同色の長い髪と、
人形のように整った顔立ちの神秘的な印象を受ける美少女だ。
﹁回復魔法で怪我とかは治したからな、頭とかは打ってないか? なんか朦朧としてたし﹂
﹁へ? あ、ありがとう? 今は大丈夫です、あごに何かぶつかっ
て落ちた拍子に翼が痛かったのは覚えて⋮⋮﹂
あ、地面に寝かせるわけにはいかないからお姫様だっこのままだ
った、女の子はひどく驚いた表情で俺を見ている。触ったままでい
るのも悪いので地面にゆっくりと降ろしてあげる。
﹁⋮⋮⋮⋮ティータニアと申します。ご尊名を伺っても?﹂
﹁クリスだ、本当に大丈夫か? 足元がふらついてるぞ﹂
足元がおぼつかない感じで俺をじっと見るティータニアさんだが、
歩くのが厳しいのかな? 未婚の女性にあんまり触れる訳にもいか
ないので、ユングフィアに頼んでおんぶでも⋮⋮肩に手を置かれた、
肩を貸してほしいのかな?
﹁ダーリンとお呼びしても宜しいでしょうか?﹂
493
冒険者︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
とある短編で教えてもらったバグを利用した小技を使ってみました
が読みにくかったりしますかね?
感想お待ちしております。
494
珠玉︵前書き︶
︳
m︶
2話続けてエロなしで申し訳ございません。
次回は姉妹丼に行けますからm︵︳
495
珠玉
﹁お⋮⋮終わったな? 急を要する報告は全部送ったな?﹂
徹夜明けの執務室、窓から差し込む太陽の輝きと青い空はさなが
ら試練を乗り越えた者への、神からの祝福のようだ⋮⋮緊急の案件
だけ終わらせたのであって、まだ仕事は半分残ってるけどな。くそ
っ部下たちにこんな過酷な労苦を課したのは誰だ⋮⋮ボクだ!
虚ろな目でペンを走らす家臣たちを見て、一旦区切りをつけて休
むことにする。重要な情報は一刻も早く王都に送らないといけない
ので徹夜してしまったが、後はいつも通りの時間で働けば⋮⋮いや
ちょっと休ませないと駄目か。
﹁一応情報の精査をする必要もありますが、その辺は王室直轄の専
門機関に任せればよいでしょう。残りの調書は、まぁ一週間くらい
時間をかけても問題は無いかと、帝国に買収されてる国境の兵士や
役人の捕縛は、既に武官に命じておられるようですし﹂
死屍累々たる有様の執務室で唯一平気な顔でお茶を飲んでるモン
オヤジ
ドバン伯爵、ちょっと肩が凝りましたなとか言ってるけどすごく余
裕そう。この人本業は国王の主治医なだけに政治にはあまり関わら
ないとか言ってたけど、伊達に伯爵家の当主じゃない。
﹁みんな、疲れているのに本当にありがとう、今日と明日はゆっく
り休んで、明後日のお昼から執務を再開しよう﹂
ボクの声に家臣たちの目に生気が戻る。特にボクと王都に行って
496
いた重臣たちは、疲れ切ってはいるが皆やり遂げた表情だ。ごめん
な帰って早々修羅場に放り込んで、今日明日は家族とゆっくり過ご
してくれ。
﹁あと手伝ってくれた諸君、約束通り特別手当を出す。筆頭武官の
ランゴに申し出てくれ、一人頭金貨10枚を用意させた﹂
扱き使った元諜報員たちは、意外な大金に驚いてるようだ。中に
はそんなに受け取れないと言う人もいるが、帝国に帰れないんだか
ら、お金はいくらあっても足りないだろう。
﹁今は忙しいけど大神殿で︻誓約︼を受け入れた者は、家臣として
迎え入れる。また、このまま屋敷を去り市井に混じって暮らすにし
ても、お金は必要だろう? 忙しいのに巻き込んだのと、口止め料
も兼ねてる、遠慮なく受け取ってくれ﹂
忙しかったのは主に君らの持ち込んだ情報のせいなんだが、情報
提供者を粗雑に扱うみたいな評判が立つのはよろしくない。ちゃん
と対価を支払えばそう悪評は広まらないだろう。
﹁おぉ! 私どもの事をそこまで⋮⋮カロリング卿に喜んでお仕え
させていただきます!﹂
諜報員を統括する立場だった元官僚の人は、感激してるのか目に
涙を浮かべている。うむ、君は有能だから家臣になったら、更に遠
慮なく扱き使ってあげよう。
ぶっちゃけ草原が安全に開拓できるので、かつて人が住んでいた
場所を復興したり、新たな町や村ができるのだから、文官はいくら
いても足りないからね。働き次第では開拓地の新しい町村を治める
497
領主に推薦するから頑張れよ。
普通新規雇用の者が、まして他国の人間に重要な仕事を任される
と、良い顔をしない家臣は何人かいるものだ。
ナカマ
しかし一緒に修羅場を乗り越えた連帯感があるせいか、古参の家
臣も新しい道連れを歓迎している。何人かは明日一緒に飲む約束し
てるな、家臣同士で存分に友誼を深めて欲しいと思う。
﹁それじゃ解散してくれ、明後日からよろしく頼むよ﹂
﹁はっ! 必ずやカロリング卿のご期待に応えて見せましょう﹂
期待と希望に満ちた表情でボクに跪くのは、元諜報員たち。そう
いえば彼らの泊まる場所考えてなかったけど、暫くは軟禁部屋で良
いか。あそこって普通に客室だし。
重い足を引きずり帰っていく部下たちを見送る。伯爵が疲れのと
れる薬草茶を用意してくれたので、飲んだら風呂に入って寝ようか
と思っていた矢先の事だった。
﹁モンドバン伯爵、窓から離れて、万が一の場合魔法で援護をお願
いします﹂
なにやら巨大なものが飛んでくる気配を察する。慌てて窓際から
退避する⋮⋮猛スピードでボクの執務室目掛けて飛んでくるナニカ
が肉眼でも見えた。
敵襲か? 魔物の襲撃か? なんにせよ窓は破壊されるだろうと
思い身構えていると⋮⋮ソレは窓の直前で急停止し、意外と丁寧な
498
手つきで窓を開けた。
﹁汝がカール・カロリング卿であるな! 我はオべローン・ルーガ
ン、クレイター諸島連合王国国王であぁぁぁる!﹂
実に慣れた様子で自然に︱︱︱まるで日常的に行う動作のように
︱︱︱窓から翼を持つ巨漢が入ってきた。貫禄のある偉丈夫ぶりに、
つい不審者として殴りかかるのを躊躇ってしまった。
﹁え? は、初めましてカール・カロリングです⋮⋮って! なん
で国王がホイホイ一人でやってくるんだよぉぉぉぉ!!﹂
﹁うむ、船で来るより飛んだ方が速い故な﹂
威厳たっぷりに的外れな事を抜かす、自称国王はなんとも突っ込
みどころ満載だった。声がデカいよ、顔が怖いよ、なんで窓から来
るんだよ、って言うかアンタマジで国王なの!?
よし、落ち着こう、目の前の国王︵仮︶は、なるほど事前に聞い
たクレイター国王らしい風貌だ。猛禽を思わせる濃茶色の巨大な翼、
同色の髪と髭。顔も似顔絵と特徴が一致する⋮⋮で? なんで国王
が一人で来てんの?
﹁手紙でのやり取りをするより、我が出向いた方が話が早かろうと
思ってな。約束通り勇者殿に貰った魔核の対価について話し合いに
来た次第である!﹂
﹁王様がそんな腰が軽くていいのか! なんかあったらどうするの
さ、自由人過ぎるだろ!﹂
499
﹁構わん構わん、実質国政を差配してるのは氏族議会である故な、
我がおらんでもどうとでもなるわ﹂
クレイター諸島連合王国は、国王と言っても絶対的な権力を持っ
てるわけではなく、あくまでも全ての氏族のまとめ役であって、な
んでも無茶が通るわけではないそうだ。それでも王の意向は議会も
それなりに配慮するらしいけどね。
聞いた話だと、クレイター諸島連合王国は仮に国王が倒れても、
息子ではなく有力氏族のトップが集まって、その中から次期国王を
決める政治体系だ。この王様は圧倒的な武力でライバル氏族を押し
のけ王の座を得て、国民の信頼も厚いという。
事前の情報収集ではそう聞いた。こんな豪快と言うか奇天烈な性
格してるとは思いもしなかったけどな。こんなんが国の顔で良いの
か? 良いんだろうな、食料輸入の販路を広げたり、魔王の魔核を
持ち帰るって大成果を挙げてるわけだし。
彼の性格はともかく、王族とは言っても、彼が退位し別の氏族の
者が王になれば、その時点で単なる有力氏族に転落する。それでも
マーニュ王国に例えれば公爵家相当の勢力なんだろうから、ちっと
は自分の身を大事にしろよ!
だからってどうすんだ? どうすんだよこのオッサン。ほんとに
国王か確かめられるのってクリス殿かその嫁たち、特にルーフェイ
姫なら問題ないだろう。今から使いを出すか? でも本当に王様だ
ったら待たせるのも悪いような⋮⋮
﹁カロリング卿、散らかった執務室では落ち着いて話も出来ないで
しょう。まずは一国の主との対談にするに、恥ずかしくない程度の
500
身嗜みを、急いで整えてくださいませ﹂
伯爵の落ち着いた声に少し冷静さを取り戻す。そ、そうだよねア
ポなし訪問なんだから少しくらい待たせたって問題ないよね。
﹁クレイター国王陛下、遠路はるばるお越しいただき恐懼感激の極
みにございます。私はモンドバン伯爵家当主、マラジ・モンドバン
と申し上げる﹂
﹁うむ、モンドバン卿であるな、覚えておこう﹂
伯爵が落ち着いた声でオッサンに話しかける。サラッとクレイタ
ー式のお辞儀で応対できるのが凄いな。
﹁畏れながら、賓客を迎えながら、茶の一つも振舞わぬなど、マー
ニュ貴族にあるまじき仕儀。私どもの面目を立てると思い、何卒貴
賓室にて歓待を受けて頂けますか?﹂
へりくだ
めっちゃ遠まわしで謙ってるけど。要するに準備ができるまで部
屋で待ってろって事ね。
﹁なに、急に訪ねたこちらに非があるのだ。待つくらいは当然であ
るな、それと一人連れがいるので紹介しよう﹂
﹁護衛の方ですか?﹂
﹁否、クレイター王国第一王女の⋮⋮﹂
﹁はいそこぉぉ! ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁ! ゼェハァ⋮⋮
ゼェハァ⋮⋮﹂
501
そこまで言いかけて、窓の外から聞こえたカン高い声に遮られる。
そこには白い羽の綺麗な少女がいた。かなり小柄で痩せているので、
一見幼く見えるが勝気そうというか、ちょっとキツめの印象を受け
る、彼女は部屋に入らず窓の縁に腰を掛けていた。
﹁ゼェ⋮⋮ゼェ⋮⋮なんで⋮⋮海を越えてから、休みなしで⋮⋮は
ぁはぁ、飛ばなきゃならないのよ⋮⋮はぁはぁ⋮⋮﹂
いかにも疲労困憊と言った感じでオッサンを睨む少女は、腰に下
げた袋から水筒を取り出し飲み干す。話の流れからひょっとして彼
女は第一王女なのだろうか?
﹁大体ね! 今その人にお父様から紹介しようとしたでしょ! マ
ーニュ王国の貴族のしきたり知っててやったでしょ!﹂
﹁当然である! 今までわがまま勝手を許したが、いい加減にどこ
ぞに嫁ぐが良いわ!﹂
うん、さっきは完全に油断してたけど、この国の風習として当主
から未婚の女性を紹介されるのは、かなり強制力の強いお見合いと
して扱われるのだ。知っててやったという事は、この子をボクと結
婚させようとしたのか。
﹁わったっしっはっ! ルーちゃんに会いに行くと言われたから、
海を超えるような距離を一緒に飛んできたのよ!﹂
﹁嘘ではない! だがそれはそれとしてお前はいい加減に結婚する
がよい! 我が娘である以上男嫌いなど理由にならんわ!﹂
502
﹁長距離飛んで汗をかいたままでお見合いなんて嫌に決まってるで
しょ! しかも段取り無しなんて馬鹿でしょ! お父様って空飛ぶ
ために脳みそ減らして軽くなったの?!﹂
唐突に始まった親子喧嘩にボクとモンドバン伯爵は何も言えずに
いた。正直このまま部屋を出てベッドに入りたい。ひょっとしたら
それが一番ボクの心に、平穏を齎してくれる選択肢ではなかろうか
? 後で面倒事が増える? 知ってるよ畜生め。
﹁大体ね! 男なんて馬鹿でデリカシーが無くて馬鹿で自己中な馬
鹿で臭くて汚い馬鹿ばっかりじゃない! お父様が良い例よ!﹂
﹁なっ! 訂正せよ我は断じて臭くなどは⋮⋮﹂
うん、確かにこの王様、遠距離を飛んできたせいか、かなり汗臭
いな。あとは王様だから仕方ないにせよ、自己中でデリカシーがな
いのも間違いない。それにしても見た目通り、かなりキツイ性格し
てるなぁ。
﹁国王だから誰も指摘しないに決まってるじゃない! そんな事も
分からないから馬鹿だって言ってるよのよ!﹂
王様に反論の隙を与えず罵倒した後は窓から飛び去ってしまう。
﹁ま、待たぬかティータニア! 我は断じて臭くなど⋮⋮﹂
彼女はオッサンが止めるもの聞かず、無視してそのまま空を飛ん
で行ってしまう。やっぱり王女なのか、なんでお姫様まで連れて来
てんだこのオッサンは!
503
﹁むぅ⋮⋮カロリング卿との見合いを進めるべく連れてきたが、あ
の調子ではやはり上手くいきそうもないか﹂
﹁交渉団がやってきた時にそれらしい打診は受けましたけど、普通
はいきなりやってきて結婚しろとか言われたら混乱しますよ。ああ、
あとカールで結構です﹂
なんでも第一王女のティータニア姫は、人見知りが激しく、かつ
かなりの男嫌いで、あの性格だ。どうりで幼い感じのルーフェイ姫
が交渉団の代表に選ばれたのか納得した。
状況を弁えて猫を被るくらいは出来るだろうけど、あの性格では
ストレス溜めると思う。まだ人懐っこいルーフェイ姫の方がお飾り
にする分には相応しいだろうな。
﹁実は今まで多くの有力氏族の者たちとの見合いをさせたが、全部
駄目であったのだ。それで無形族ならばと思ったのだが⋮⋮どうし
たものであるか﹂
無理やり結婚させない程度には親心があっても、著しくデリカシ
ーに欠けてるのが悪いんじゃないかな?
オべローン王もあの手この手で結婚させようとしたらしいけど。
尽く失敗してる理由は、王女の気が強い性格なのもあるんだろうけ
ど、多分にオッサンの段取りが悪いだけのような気がしてきた。
同国人ですら駄目なのに、他国人相手に大丈夫なわけないだろ。
喉元まで出かかった一言を飲み込む。飛んで行かれては王女を追え
ないので、とりあえず王様を貴賓室に案内させる。
504
オべローン王を貴賓室に待たせ。伯爵の勧めに従い20分だけ仮
眠、その後に軽く汗を流してから貴賓室に向かうと。クリス殿がル
ーフェイ姫と新たに増えた嫁達を連れて、オべローン王と話してい
た。
﹁許す! 大いに許すぞ婿殿! そう勇者に下賜するクレイター王
国の宝とは我が娘ティータニアに他ならぬのであぁぁぁる!﹂
そして何故かついさっき飛び去ったティータニア姫がクリス殿の
腕に引っ付いていた。そして何故か勇者にまた嫁が増えた。
∼∼∼∼∼
﹁さ、さっきの言葉は忘れなさい! 寝惚けてただけなんだから勘
違いするんじゃないわよ﹂
顔を真っ赤にして俺の目の前でジタバタしてるティータニアちゃ
んだが、微笑ましい気持ちになって頭を撫でる。何か言いたそうに
頬を上気させて口をパクパクさせるが、結局何も言わずに大人しく
撫でられてる。
はにか
我儘そうな女の子が含羞みの表情を見せると、綺麗な顔立ちとあ
いまって破壊力が半端ないな。
﹁結構乱暴に受け止めたから痛いところとかはないかな? 打ち身
とかあって女の子の身体に痕が残ったら大変だからね﹂
﹁なっなっ⋮⋮ない⋮⋮です﹂
505
さて、どうしたものかな? 翼をパタパタ動かしたり、真っ赤に
なって両手をブンブン振ったりして、可愛いけどどうにも墜落のシ
ョックで混乱してるっぽいな。
﹁⋮⋮妹と同じ匂いがする⋮⋮はふぅぅ﹂
匂いと言うのがよく分からないが、なにやら落ち着いてきたよう
でなによりだ。頭を撫でていた腕に縋りつくと、顔が赤いのは変わ
らないがうっとりとした表情だ。
背中の怪我を玉蹴りをやっていた冒険者が、傷の洗浄と治癒をし
てくれている。彼らもティータニアちゃんの挙動が可愛いのか、微
笑ましいものを見る目だ。
そうしてるうち、ふと視線を感じて振り返ると冒険者たちが何や
ら俺を拝んでる。特に鉄槌を持った強面の人は熱心に祈ってる。な
んでだ?
お礼と一緒に何をやってるのか聞くと﹁勇者様の女運を分けて貰
えるような気がする﹂とか言って笑ってた。えーと冗談だよな? 本気じゃないよな?
結構強面の人たちが、なんだか真剣な表情で背中の傷を洗ってく
れたり、祈りを捧げながら傷薬を塗ってくれた人は、きっと信心深
い人なんだろう。多分そうなんだと信じたい。
祈りと一緒に﹁屋敷にメイドさんとデートできますように﹂とか
﹁商会のお嬢さんの護衛任務に選ばれますように﹂とか聞こえたが、
ネタで言ってるだけだろう⋮⋮多分。
506
見知らぬ他人に親切にしてもらえると、自分も誰かに親切にして
あげようって気になってくるものだ。多少不純な念を感じた気がす
るが気のせいだろう。
そんな事を考えてると、馬車の中から嫁たちが駆け寄ってきた。
先頭はルーフェイだ、人狼族の特徴として彼女は持久力はないけど
瞬発力はかなり高く、足も速い。そして俺の傍にいる白い翼の少女
を見てなにやら驚いた表情だ。
﹁お姉さま! どうしてここにいるのですか﹂
﹁あぁ! ルーちゃん、いきなりお嫁に行っちゃうものだから姉さ
ん心配したのよ﹂
∼∼∼∼∼
ティータニアちゃん、もとい王女様を伴って屋敷に入ると、メイ
ドさんに貴賓室に案内された。どうもカール王子はクレイターの王
様がいきなりやってきたせいで、手が離せないらしい。
サリーマさんとマヘンドラさんも今日の所は面会を諦め帰ってし
まい、ヴィヴィアンは捕まった諜報員との面会を頼んだら、すぐに
了解を貰ったのでメリッサさんの軟禁部屋に案内される。
そんな訳でルーフェイ、ユングフィア、アルテナ、ティータニア
姫と一緒に貴賓室に入ると、そこには鳥人族の強面の巨漢、オべロ
ーン王が己が部屋の主とでも言わんばかりに寛いでいた。
507
﹁おぉ! 婿殿よ壮健であったか? ルーフェイとは仲睦まじい様
子でなによりである!﹂
﹁おかげさまで、いきなりやって来るものだから驚いちゃいました
よ﹂
王様とお姫様だけで他国にやって来るとは、ほんと自由人だなこ
の人。握手を交わすのだが、すこし手を握っただけでティータニア
姫が間に割って入ってきた。
﹁ちょっと! 彼からはルーフェイの良い匂いがするんだから、体
臭が移ったらどうするのよ﹂
﹁ええい! 我は断じて臭ってなど! ⋮⋮ん?﹂
そこで初めて俺の腕に抱き着いてる形のティータニア姫に目が向
いたようだ。
﹁ティータニア、お前なんで勇者殿は触って平気なのであるか? いままで男相手には臭いとか汚いとか言って近づけもしなかったの
に﹂
そうなの? かなり勝気な娘だとは思うけど。そんな事言うよう
には見えないけど。
貴賓室に来る途中でルーフェイに聞いたら、彼女はかなりの男嫌
いというか、男の体臭が大嫌いなのだそうだ。普通鳥人族はそれほ
ど匂いには敏感ではないのだけど、彼女は何故か感覚が鋭いらしい。
508
﹁そうね、いつもなら臭くて離れちゃうんだけど、彼は普通に触れ
るわ﹂
﹁良し分かった、ティータニアよお前は勇者クリス殿に嫁ぐが良い﹂
﹁ちょっと待て、王様色々と手順をすっ飛ばし過ぎだろう!﹂
いきなり予想外の事を言い出すので反論するが、王様は聞いてな
い、聞いていないというより聞き流してる。
﹁許す! 大いに許すぞ婿殿! そう勇者に下賜するクレイター王
国の宝とは我が娘ティータニアに他ならぬのであぁぁぁる!﹂
︵ホントは家宝の杖を持ってきたのであるが、ティータニアを宝と
言うことにすれば、下賜せんで済むのである!︶
相変わらず悪いこと考えてそうな強面だが、体質的に男の体臭を
受け付けない中、大丈夫な奴がいれば、そういう結論になるもんな
のかな?
﹁それに婿殿は金銀財宝よりも美しい女子に価値を見出す御仁であ
ろう?﹂
﹁助平なのはその通りだけど、当事者の娘を無視して話を進めるの
は止めた方が良いんじゃないか?﹂
﹁そ、そうよ! お父様は私はともかく、相手の意思を確認もしな
いで物事を進めるから自己中とか言われるのよ! ででででも! 何時か何処かに嫁ぐのだから妹と一緒に暮らせるのは嬉しいわ。勘
違いしないでよね! 今日初めて出会った殿方を好きになっちゃう
なんて、演劇みたいなことあるわけないんだから!﹂
509
俺は初めて会ったオリヴィアに惚れてその場でプロポーズしたが
ね。まぁそれはともかく。
﹁姉妹そろって同じ人間に嫁ぐって良いのか? 世間知らずの俺で
も変だと思うんだが﹂
﹁関係を深めたい相手に、娘を複数嫁がせるのはよくあることよ。
勇者殿にはそれだけの価値があるのだと思えばよいのである﹂
︵まっ帝国への意趣返しも否定はせんがな︶
その後はなんだかんだと王様に押し切られティータニアとも結婚
することになった。いや綺麗な娘だから大歓迎だけど。
妙に疲れた表情で賓室にやってきたカール王子は、王様を歓待し
ないといけないそうなので、明日にまた訪ねる約束をして俺たちは
屋敷を後にした。
510
珠玉︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
511
姉妹︵前書き︶
遅れて申し訳ございません
512
姉妹
幼い頃、私は病弱であった。色素の抜けた髪と肌は日の光に弱く、
鳥人族でありながらまともに空を飛ぶこともできない。
グール
赤みを帯びた瞳は、屍鬼を連想させる不吉なものであるがゆえに、
王の娘でありながら幼い頃より侮蔑と嘲笑の視線に晒され続けた。
なまじ黒翼の美姫と称えられる母に似て、整った容姿であったこ
とへの嫉妬もあったかもしれない。父はなにかと気をかけてくれた
が、王である以上娘にかかりきりになることも出来ず、嫌がらせは
年を追うごとに陰湿さを増した。
母も深い漆黒の翼に誇りを持つ、鴉の一族出身であったためかは
知らないが、白い翼を持つ娘の私を無視することが多かった。母で
さえそれだ、一門の者たちの私への態度も知れるというもの。白い
鴉など排斥の対象でしかないのだ。
もっとも、母が私を避けていたのは私が白い羽で生まれた事で、
実家から相当悪し様に罵られ堪えていたかららしい。無視くらいで
済んでいたのは、称えて良いレベルの我慢強さだと思う。
そんな中で、いつも傍にいてくれたのは妹のルーフェイだ。王女
にして人狼族の名門氏族の族長、フェリル家当主に溺愛されている
孫娘が傍にいて、嫌がらせなどされるわけもない。用事で妹が出か
けたりすると途端に虐められるが。
ルーフェイからすると堅苦しい毎日の中、気楽に話せる姉に懐い
513
ていただけであっても、私は妹に救われていたのだ。本当にルーフ
ェイには頭が上がらない。
兄達もいるが⋮⋮父に似たのか豪快な性格の脳筋ばかりで、可愛
がってはくれるがスキンシップが乱暴でウザく、著しくデリカシー
に欠けるので省く、まぁ嫌いではない。
そんな生活が唐突に終わりを告げたのは、9歳の時、四年に一度
催される海神祭での事だった。
海神祭とは海の夫婦神である海神ガイオス様に航海の無事を祈り、
女神アムピトリ様に海の恵みを感謝する儀式で、王の義務とも言う
べき大祭だ。これを怠り夫婦神にそっぽを向かれると、冗談抜きで
国が亡ぶのだから国民一丸となって神の無聊をお慰めするのだ。
勿論王族は欠席など許されず、晴天の日差しに身を焼かれながら
も、必死に耐えながら滞りなく義務を果たす。まぁ当時の私は9歳
なので、大人の指示に従いながら定型文を読むだけだったが。
父のすぐ隣で奉納される歌や踊りを眺めてる時の事だった。儀式
の最中に日傘など差させて貰える筈もなく、日の光に耐えかねた私
はとうとう、意識を失う、その後の事は父から聞かされた。
気を失っていた私は直接見てはいないが、私が気絶すると同時に
海は大時化となり、晴天であった空はあっという間に厚い雲に覆わ
れ、雷鳴と共に豪雨に見舞われたそうだ。
大事な儀式の最中に天変地異だ、相当混乱したであろうに怪我人
もいなかったのは、天変地異などどうでもよくなるような事態が起
こったからだ。すなわち、海の大神殿に海の夫婦神ガイオス様とア
514
ムピトリ様が降臨なされた。
私は夢の中ではっきりと神の声を賜った。私はこれから出会う、
夫となるべき者との間に男子を授かる。そしてその子は我らが加護
を十全に振るうことのできる神子である。成人する齢に達すれば大
神殿にて勇者としての加護を授けよう、と⋮⋮
その日から生活が一変した。まず勇者の母となるべく加護を授か
ったのだが、病弱であった身体が頑丈になった、健常な者よりも遥
かに、ひたすらに無意味とも思えるレベルの頑丈な身体を手に入れ
た。
具体的には全長20メートルの海蛇竜の尻尾で殴打されても傷一
つなく無事だった。脳震盪は起こしたし、すごく痛くて気絶したけ
ど。身体が頑丈過ぎて食べようとした海蛇竜の牙と顎が砕けたそう
だ。恐らく雲の上から墜落しても無傷だろう。
眠り薬や麻痺毒を盛られたこともあるが、一切効かなかった、試
したことはないし試す気もないが、致死毒を飲まされても多分効か
ないと思う。
もう一つは嗅覚が鋭敏になり、なんとなく周囲の人間の感情を嗅
ぎ分けられるようになった。それはまぁ役に立つ加護ではあるけど、
その代わり﹃夫となるべき者﹄以外の男性からは悪臭しか感じられ
なくなった。
肉親である父や兄は例外だが、あまり入浴の習慣がないのでやっ
ぱり臭い。鳥人族は嗅覚が鈍い方なので、今まで気にならなかった
のに。これが鼻が良くなった弊害か、ルーフェイを始め嗅覚の鋭い
人たちはよく耐えられるものだ。
515
ここまで強力な加護を下さるのなら、私を勇者にしてくれても良
かったのでは? とも思ったことがあるが、神が私に望んでいるの
は勇者の母としての役割であり、ひたすらに死なないような加護を
下さったというわけだ。
さて、必要以上に健康になった私を待っていたのは、今まで私を
嘲っていた者たちの豹変ぶりだ。どうも﹃私の子供が勇者になる﹄
と言う神託の都合のいい部分しか聞いてないらしく、連日求婚者が
列をなした。
複数の男に迫られ余りの悪臭に耐えられず、飛んで逃げた。しか
し中には追って来る奴もいて、そういう奴は兵士に逮捕された。普
通に考えれば王女、しかも9歳児を追いかけ求婚するなど犯罪以外
の何物でもないぞ馬鹿ども。
私の白い翼を馬鹿にしていた者も、海神祭の前に吐いたセリフを
忘れたかのように、白い翼を鳥肌が立つほどの美辞麗句で褒め称え
る。余りの変わり身に気持ち悪くなってさんざん罵倒したらしい、
悪臭に耐えるのに必死で何を言ったのか覚えてないし。
今はまぁマシなのだが私と母は、一門の連中のいっそ笑える程の
へつら
手のひら返しにより、人間不信に陥ったりもした。さんざん罵倒し
た次の日に、愛想笑いで媚び諂うなんて、どういう神経してるんだ
あいつ等は?
ただ共通の悩みを抱えてしまったことで母との会話は増え、今で
は母娘の仲は良好だ、幼い頃の時間を取り戻すように、母は私を甘
やかしてくれる。むしろ過保護なレベルだ。
516
成人と認められる頃から私は﹁男嫌い﹂﹁人見知り﹂といった評
価を受けつつ、毎日やって来る求婚者たちに対する断り文句が、段
々と辛辣なものになっていく。勘違いしないでほしいのは辛辣なの
は男だけで、侍女や女官には普通に真面目な王女らしい態度だ。
父としても国内の者から私の夫となるべき者を探したようだが、
結局国内では見つからなかった。15歳になり国内で見つけるのを
諦め、他国から婿を取る乃至は、嫁ぐ必要が出てくるのだが、帝国
は獣人蔑視が強く論外、万が一もの帝国に夫︵予定︶がいれば拉致
するだけだ。
これから国交を結ぶことになるマーニュ王国に望みを託し、傑物
と名高いカール・カロリング辺境伯との、お見合いをすることにな
った⋮⋮私は聞いてないけどね! ルーフェイに会いに行くと聞い
て、同行しただけなんですけどね!
周囲は不意打ちで父から紹介しカロリング卿と結婚させようとし
たと思われてるが、断言する。絶対にそんなこと考えないで、普通
のお見合いのノリで紹介しようとしてた。
﹃下手な射手も当たるまで射れば必ず当たる﹄と言う諺があるの
だが、父の方針はまさにヘタクソな射手そのものだ。
辺境伯に嫁がせると対外的には喧伝してたのだけど、本命として
は﹃夫となるべき者﹄を探すことだ。
辺境伯とのお見合いに失敗しても、色々と見て回り悪臭を感じな
い男性を探す口実があれば良かったのだ。だからせめて事前に一言
言ってよ。ノリと脊髄反射で生きてる人はホント人生楽しそうね、
真似したいとは思わないけど。
517
国交を結ぼうとしてる国の王から紹介された見合い相手。しかも
王女の身分とか、どう考えてもあっちからすれば断れないでしょ!
頼むから相手国の風習くらい知っとこうよ!
正直父は戦場以外では役に立たない武辺者なのだから、余計な事
をして周囲を引っ掻き回さないでほしい、たまに家臣たちが悲鳴を
上げて走り回ってるし。
結局、カロリング卿からも悪臭を感じてしまい、むこうに非がな
いように振る舞ってから飛び立つ。
珍しい他国の風景を空から楽しもうと、街に向かって飛んでいた
のだが⋮⋮風が吹いたと思った瞬間、飛んで来たボールが顎に直撃
し、視界が揺れた拍子に翼を捻ってしまい墜落してしまう。
頑丈になる加護は捻挫とかは対象外なので、無理な体勢で翼を動
かしたので、あまりの痛さに気絶してしまう。そして⋮⋮やっと出
会えた。私の夫となるべき人。
しかしいくら探し求めていた人だからと言って、初対面で﹁ダー
リンとお呼びしても宜しいでしょうか?﹂は我ながら血迷ったこと
を言ったものだ。
慌てて取り繕うつもりが、ついついいつもの悪態を吐いてしまい、
ますます慌ててしまう。しかし、彼は気にした様子もなく頭を撫で
れくれた。はふぅぅ! こんなに優しく撫でられるなんて母以外で
は初めてよ、父や兄の場合は撫でるじゃなくてかき混ぜる感じだし。
初対面だけどもう好きになっちゃたかもしれない。陳腐な言い方
518
ルーフェイ
かもしれないけど、運命の相手にすっかり心を奪われてしまってい
た。あぁこの方良い匂いがするわ、まるで妹のような⋮⋮あれ?
﹁お姉さま! どうしてここにいるのですか﹂
﹁あぁ! ルーちゃん、いきなりお嫁に行っちゃうものだから姉さ
ん心配したのよ﹂
駆け寄ってきた妹は、墜落してきたのは私だと分かって心配そう
にしてくれる、あぁ家族の中ではこの子だけよ私を気遣ってくれる
のは。加護のせいか今では母ですら墜落くらいじゃ心配してくれな
いのに。
まさかルーフェイの旦那様とは予想外だったけど、可愛い妹と暮
らせるなら下手な家に嫁ぐより喜ばしい。
一応神託の件は機密なんで、単純に男嫌いの王女が懐いたように
振る舞う。父も察したのだろう、私とクリス様との結婚を強引では
あるが進めてくれた。
﹁許す! 大いに許すぞ婿殿! そう勇者に下賜するクレイター王
国の宝とは我が娘ティータニアに他ならぬのであぁぁぁる!﹂
なんかいかにもクリス様と結婚させるために連れてきた風に装っ
てるけど、私は知ってる、凄く悩んで家宝の杖︱︱︱魔法使いが持
てば一騎当千の戦力を得ると謳われる国宝だ︱︱︱を下賜しようと
してたことを。
父から感情を嗅ぎ分けると⋮⋮物凄く喜んでる。私の夫が見つか
ったのと、家宝を渡さなくても済みそうだからだろう。国王として
519
どうなんだと言いたくなるセコさだ。
﹁それに婿殿は金銀財宝よりも美しい女子に価値を見出す御仁であ
ろう?﹂
﹁助平なのはその通りだけど、当事者の娘を無視して話を進めるの
は止めた方が良いんじゃないか?﹂
うーん、父にこんなこと言われるなんて女好きな方なのかしら?
ルーフェイの他にも三人も連れてるし、ちょっとこの方の感情を
嗅ぎ分けてみると⋮⋮うん、馬鹿だこの人、打算的な感情がほとん
ど無い。
私へ対する一番大きな感情は、庇護欲だ、つまり私を愛でて守ろ
うとする感情、これは良い。大事にしてくれそうだし、流石はルー
フェイが好いた旦那様らしいと思えて納得する。
しかしその次が性欲ってどうなんだろう? いや女として求めら
れるのは歓迎だが、クレイターの姫を娶ると言うのに、私に対して
金銭とか権勢への欲を一切抱かないのはどうなんですか?
男は皆馬鹿だと常から言ってましたが、この方も頭は良いんでし
ょうけど間違いなく馬鹿ですね。父と同じタイプの人間です、つま
りノリと思い付き、後は性欲に素直で周囲を引っ掻き回すタイプで
す。とはいえ暗さが一切ないので、好ましい馬鹿さと思えるのは、
生涯仕えるべき夫だからでしょうか?
∼∼∼∼∼
520
カール王子からは詳しい話は明日の昼と言われ、そのままティー
タニアを伴って帰ることになった。まぁクレイターの王様が来てる
んじゃ落ち着いて話せないよな。
﹁はっはっは! 婿殿では明日また会おうではないか! 孫の顔を
期待しておるので頑張るのだぞ!﹂
﹁それじゃ妊娠が分かったら手紙を送りますよ。あと若い娘さんを
前にあんまり露骨なこと言うとまた怒られるんじゃないの?﹂
王様に振られた話題にルーフェイは平気な顔をしてるが、ティー
タニアは顔を紅潮させてそっぽを向いている。なんか文句言いたげ
だけど俺の手前黙ってるっぽい。
﹁うむ、連絡を受けたら迎えを遣わそう。婿殿よ我の娘たちが懐妊
したらクレイターで過ごし出産させて欲しいのだ。子を産むとなれ
ば生まれ故郷以上の環境はない﹂
成程、確かに生まれ故郷ならリラックスして出産に臨めるという
ものだな。それに王様も孫が可愛いんだろう、真っ先に抱き上げた
いのかな?
﹁分かった、使い魔を送ればいいかな?﹂
﹁うむ! 婿殿にはこれをやろうではないか、使い魔よりも早く連
絡が出来るのである!﹂
王様が懐から取り出した石板は、魔力を通すと遠距離でも会話の
できる魔法のアイテムで、高価なものではあるけどタダで貰った。
521
これはクレイターでしか作れない魔法道具で、この国では買いたく
ても買えないほどの貴重品だ。この手の道具は帝国が輸入させない
からだと聞いている。
俺と王様の直通ラインがあるとあらぬ疑いを向けられるんじゃな
いかと思ったが、同じ魔法道具をカール王子も複数貰ったようだ。
︵うむ、ティータニアらの近況は逐一把握しておらんとな。貿易を
担当する大臣に言われた通り、数個無償で渡したがケチケチせずも
っとくれてやれば良かろうに︶
多分にオべローン王としては、マーニュ国王や首脳陣と直接対話
できるようにするのと、便利な魔法道具の輸入を促進するのが狙い
では? と言うのが王子の推測だ。流石ノリに生きてるようで色々
考えてるんだなぁ。
ヴィヴィアンは無事にお姉さんのメリッサさんと再会し、姉妹で
積もる話があるらしく、今日は辺境伯の屋敷に︱︱︱メリッサさん
の軟禁部屋︱︱︱泊まらせてもらうことになった。俺が身元保証す
れば釈放できるらしいので、明日また会うことになるだろう。
さて、屋敷に帰ってまずはティータニアの紹介だ、ルーフェイの
姉と言うこともあって、すんなり嫁たちにも認められた。
またルーフェイと同じくクレイターの姫だ、一緒に結婚式を挙げ
てはどうかと言う意見もあったが、広いとはいえ一ヶ所に男性が多
くいる空間には、耐えられないという本人の希望もあって、祝福を
かけるのは今夜と言うことになった。
522
∼∼∼∼∼
寝室で待っていると控えめなノックが聞こえるが、入ってくる気
配がない。今日はティータニアの初夜なので彼女と二人きりのはず、
どうしたんだろうか?
﹁しししつ⋮⋮失礼! いっいたしま、ます! こっこっ今宵は!
このティータニア・ルーガンが⋮⋮旦那様の⋮⋮ぶぶぶ無聊を慰
め⋮⋮﹂
うーんドア越しでも物凄く緊張してるのが伝わってくる。ドアを
開けてあげると、薄手のネグリジェ姿のティータニアが顔を真っ赤
にしてもじもじしてた。おぅ、強気そうな娘が恥じらう姿は破壊力
あるな。
﹁お姉さま、ここまで来て怖気づくのはクリス様に失礼ですよ﹂
翼に隠れて見えなかったがルーフェイも背後にいたようで、背後
から押されたティータニアはつんのめって俺に向かって倒れ込んで
きた。転ぶ前に抱き止め、慌てるティータニアにキスをする。
﹁んむぅ!﹂
目を見開いて慌てるティータニアだが、抱きしめられてる状態で
逃げることも出来ず、恐る恐る俺の唇と舌を受け入れる。
唇を離すとお互いの口から糸が引く、それを見たティータニアは
更に赤くなって、どうしたら良いか分からずあたふたしてる。
523
﹁ティータニアは可愛いな、王様に強引に進められた結婚かもしれ
ないけど、ティータニアが俺のところに嫁いできてくれて嬉しいよ﹂
﹁ひゃい! わわ! 私も⋮⋮うっ嬉しいれす!﹂
︵本音だわ! 一切お世辞とか抜きで私を可愛いって⋮⋮はうぅぅ
!︶
彼女も緊張してるんだろう、幼げに見える綺麗で整った顔が、こ
ろころ表情を変える。頬に手を添えもう一度キスをする、それと同
時に祝福をかけ、この瞬間俺たちは夫婦になった。
﹁クリス様⋮⋮﹂
祝福の光に包まれた彼女は、嬉しそうに顔を綻ばせ、俺の腕の中
に飛び込んできた。抱きしめたまま予想よりも遥かに軽いティータ
ニアをベッドに運ぶ。
﹁俺たちは今、正式に夫婦になった。ティータニア、一緒に幸せに
なろうな。勿論ルーフェイも、オリヴィアたちも一緒だぞ﹂
﹁はい、これからよろしくお願いいたします⋮⋮﹂
ベッドに座り込んだティータニアのネグリジェを脱がせ。裸にす
ると暗い寝室にその肌の白さが際立った。ランプの明かりに照らさ
れ、いっそ神秘的な芸術品のように思えた。
﹁ルーちゃん、これからどうすればいいの? その⋮⋮乳母から聞
いた話では、夫への愛情と献身を示すために、奉仕しなさいと教え
られたのだけど⋮⋮﹂
524
﹁お姉さま心配しないで、私もちゃんとディアーネ姉さまにご奉仕
のについて教えてもらったのです。私がお手本です﹂
ルーフェイが一緒にやってきたのは、ティータニアが初夜で無作
法があってはならないと、ついて来てもらったそうだ。フォローっ
て意味ならオリヴィアかディアーネの方が適してるんだが、実の妹
の方が彼女も気が楽なんだろう。
そうして、ベッドの上で寝間着を脱いで裸になった俺は、胡坐を
かいて二人に奉仕を受けることになった。
俺の前には、白磁のような白い肌、絹のような光沢のある白い髪、
そして白い翼を背負った美少女ティータニア。そして初めて見る男
性器にやや腰が引けている姉をフォローするべく、バスローブを脱
いで裸のルーフェイ。
見た目に幼い二人の美少女が俺の前に跪いてチンポに舌を這わせ、
奉仕する姿に例えようもない興奮を覚える。まして血を分けた姉妹、
しかも一国の姫を言う身分の少女がだ。
﹁あぁ⋮⋮大きい、こんなに大きなものが私の膣内に入るのでしょ
うか?﹂
﹁大丈夫ですお姉さま、私も初めての時はそう思いましたけど⋮⋮﹂
初体験を思い出したのか、忙しなく尻尾を動かしながら俺への奉
仕に力を籠めるルーフェイ。
ティータニアは知識としては知っていても初めて見る男性器にお
っかなびっくり舌を這わせ、ときにはその小さな口で俺のチンポを
525
口に含み舌と唇で刺激してくれる。
﹁んっちゅ、ちゅ⋮⋮ど、どうでしょうか? ティータニアはちゃ
んとご奉仕できてますか?﹂
うっとりとした表情で俺を見上げるのが堪らない。小柄な王女二
人に奉仕される興奮に歯を食いしばり、頑張って耐えなければ射精
してしまいそうなくらい昂ってきた。
﹁ちゅ、あむっ⋮⋮んっんっんっ⋮⋮お姉さまクリス様のオチンチ
ンがいつもより大きくなってます﹂
﹁んむっ⋮⋮な、なにか苦いものが出てきましたが⋮⋮あぁこの匂
い⋮⋮﹂
視覚的な快感もあるが、二人がかりで与えられる快感に我慢する
のも厳しくなってきた。しかし初体験のティータニアに精液を飲ま
せるとかしたくないし、ルーフェイもフェラチオは好きみたいだけ
ど、口内に射精されるのは嫌がるからな。
髪にかけたりするとエッチの後の手入れが大変だと、嫁たちが言
ってたしフェラチオでイクのは止めておこう。
﹁ありがとう二人とも、気持ちいいよ。お返しに気持ち良くしてあ
げるからベッドに横になって﹂
言われるがままにルーフェイは仰向けになり、翼を背負ってる関
係上、仰向けになれないティータニアはうつ伏せになる。
ティータニアの腰を浮かせ、後ろからオマンコをクンニする。ル
526
ーフェイと同様に陰毛が生えておらず、ぴったりと閉じた秘所の割
れ目に舌を侵入させる。
﹁ひぅ! ク、クリス様恥ずかしいです! んはぁぁ! あっあっ
あぁぁぁん!﹂
指でもクリトリスを摘まみ、フェラチオの時点で感じていたのだ
ろう、潤み始めた幼い処女孔を舌で蹂躙する。お尻に顔を押し付け
るようにして更に深く。
片手はルーフェイのオマンコに伸ばし、指を膣内に挿入すると熱
いくらいに熱を帯び、愛液であふれていた。
﹁はっはっんはぁぁ! やぁお尻が、お尻が丸見えになっちゃいま
すぅぅ! あはぁん! 恥ずかしいよぉ﹂
﹁わふぅん! らめぇ今夜はお姉さまを⋮⋮お姉さまを可愛がって
くださいませ! あぁぁん!﹂
俺の舌と指で美少女姉妹が快感に喘いでる姿。高貴な王女を俺の
腕の中で独占している事実は、かつてないほど昂らせ、愛撫にも力
がこもる。
﹁わふ! わふぅぅん! ゆ、指二本で、んはぁぁぁぁ! そ、そ
んなにされたら⋮⋮﹂
﹁やぁぁ! なにこれ凄い! すごいのぉぉ! 恥ずかしいのに、
恥ずかしいのに気持ち良いのぉ! んむぅぅくる、なにかきちゃう
のぉぉ!﹂
527
姉妹のオマンコは愛液が溢れ、自分の足元を濡らしている。止め
とばかりに愛撫を激しくすると、二人は同時にその肢体を強張らる。
﹁あっあっんぁぁぁぁぁ!!﹂
﹁んきゅぅぅ! イク! イっちゃいますぅぅぅ!﹂
同時に達した二人は、脱力し、ベッドの上で折り重なるように倒
れ込む。ちょうどティータニアがルーフェイを押し倒すような形に
なってる。白い翼も垂れ下がり、姉妹を包んでいる。
そしてイった直後の、身体から緊張が取れた瞬間、俺は背後から
ティータニアの処女孔に己の欲棒を押し込んだ。
﹁ンッッッ!﹂
﹁あっんあぁぁぁぁぁ!!﹂
小柄なティータニアではかなり痛むだろうと、実は痛みを鈍くす
る術をこっそりかけていたのだが、理由は分らないが彼女は魔術が
効きにくく、効果が弱い。身体が弛緩した瞬間を狙ったんだが、そ
れでもかなり痛そうだ。
﹁ひぐぅ⋮⋮あぁ嬉しい⋮⋮クリス様の逞しいもので、ティータニ
アを貰って下さったんですね﹂
目に涙を浮かべながら健気に微笑む、可愛いお姫様に愛おしさが
込み上げ、挿入した状態から動かさずに唇を奪う。
流石に痛みが引くまでは動かすつもりはないが、小柄な見た目通
528
りに狭い膣内は、俺のチンポを締め付け射精を促してくる。
﹁どうか私の事はお気になさらず、この身を好きにしてくだ⋮⋮ひ
ゃん!﹂
﹁んっ⋮⋮ちゅ、お姉さま、クリス様は私たちの事を大事にしてく
れてますから、そんな事言って困らせたら駄目です﹂
ティータニアの膨らみかけた胸をルーフェイが愛撫してる。痛み
を紛らわすためなのだろう。しかし妹の舌に胸を好きにされている
姿は、背徳的で、だからこそ興奮してしまう。
﹁あぁ! ルーちゃん、ダメ⋮⋮んっ! いやぁ乳首舐めちゃだめ
ぇ! んふぅぅ﹂
﹁お姉さま⋮⋮綺麗、ちゅ、ちゅ⋮⋮﹂
くっ! ルーフェイの舌先による攻めに、ティータニアが反応す
るたびに膣が締まり、動かなくても気持ちが良い。
﹁ティータニア、少しだけ動かすから我慢するんだぞ。痛くないよ
うに早く終わらせる﹂
﹁はい我慢します、クリス様のなされる事でしたらなんでも⋮⋮ど
んな事でも受け入れますから﹂
背後からティータニアの細い腰を掴み、小刻みに腰を揺らすと、
痛みに耐えるように翼が強張っている。あぁごめんよティータニア、
痛い思いをさせちゃってごめん!
529
ただでさえ狭いオマンコだ、少し動かすだけで射精感が込み上げ
て来て、俺は一切我慢しないでそのままティータニアの膣内に子種
を注ぎ込んだ。
﹁あぁぁ! 熱いのが、クリス様の熱いのが私の膣奥に来た! 出
来ちゃう、こんな熱いのを注がれたら赤ちゃん出来ちゃうよぉぉ!﹂
﹁そうだ、俺の嫁になったからには最低でも三人は孕ませるからな﹂
﹁赤ちゃん⋮⋮クリス様と私の赤ちゃん⋮⋮﹂
嬉しそうにザーメンを注ぎ込まれた下腹部に手を当て、妊娠した
自分を想像したのだろうか? 一瞬幼げな筈のティータニアが俺よ
りも年上の女性に見えたような気がした。
夜はまだまだ長い、ティータニアに無理はさせられないが、次は
ルーフェイを可愛がってあげよう。
530
姉妹︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
ちなみにクリス君、お姫様︵大貴族の娘でも︶を嫁にしても利用し
て成り上がろうという気は全くなく。自分の実力で嫁たちにいい暮
らしをさせる為頑張ってます。
その辺がティータニアの﹃頭は良いかもしれないけど馬鹿﹄と言う
評価になります。
あと感想欄にあった鳥人族の服ってこんな感じだと妄想、筋肉も脂
肪も付きにくい設定なので、上空を飛ぶときはちゃんと防寒着来て
るイメージ。ペイントで描いてみたけど下手なりに内容は分る⋮⋮
と思う。
http://16606.mitemin.net/i1740
65/
<i174065|16606>
http://16606.mitemin.net/i1740
66/
<i174066|16606>
531
栄達︵前書き︶
1/25割り込む投稿です
532
栄達
オべローン王との会談が終わり、交渉が纏まったら彼は上機嫌で
飛び去った。文字通りの意味で会議室の窓を開けて、そのまま止め
る間もなく飛んで帰った。おーいオッサンよ、こっちは歓待の宴を
用意してる最中だったんだけど?
あとクリス殿に明日会おうとか言ってなかったっけ? まさか、
いくらなんでも連日では来ないよな?
まぁ帰っちゃった事は彼の新しい奥さんのヴィヴィアンさんに伝
えればいいか。しかし魔術的に縛ってるとは言え、敵の諜報員を、
あっさり嫁にする神経はどうなってるんだろう?
ゴッデスエンゲージ
多分大神官のトラバントさんに指摘されなきゃ︻誓約︼の神聖魔
法すら使わそうだし。まぁ勇者だからと言うことで無理やり納得し
ておこう、全てをあるがままに受け入れればストレスも無くな⋮⋮
ると良いなぁ。
そのヴィヴィアンさんは自首した諜報員の中に姉妹がいたとかで、
彼女の部屋に泊まってる。部下曰く、タイプは違うけど物凄く色っ
ぽいお姉さんで、姉妹揃ってるとそれはもう眼福だとか。仕事が無
ければ見に行きたいところだけど⋮⋮無理だな、ボクは今会議室の
冷たい机に頬ずりするので忙しい、あぁ冷たくて気持ちいい⋮⋮。
﹁疲れた⋮⋮なんであの人あんなに人の話を聞かないんだ⋮⋮正直
このまま寝れそう﹂
533
﹁お疲れ様ですカール様、いやぁ顔の怖い人でしたね﹂
ジャンヌ、例え誰もがそう思っていてもそれは口に出しちゃダメ
だよ? 会議室の机に突っ伏したボクに、ジャンヌがお茶を出して
くれた。
彼女もボクの背後で会談の間ずっと、緊張を保ったままで立ちっ
ぱなしだったから疲れたのだろう。それでなくても一国の王との会
談だ、努めて明るく振る舞っていても、声色には疲労が混じってる。
ボクの知らないところで婚姻の成立したティータニア姫が、勇者
殿にくっついて彼の屋敷に着いてったまでは良い。どうせルーフェ
イ姫が嫁いでるんだから一人も二人も一緒だ。
しかしその後、魔王種の魔核の代価をどのようにするかを、話し
合わなければいけなかったのだが⋮⋮これが実に難航した。
なんでって? オべローン王って基本的に人の話を聞かないで、
勝手に話を決めてしまうので、強引に交渉が終わりそうになるんだ。
その都度に止めたり修正したりで、普通の交渉の三倍は疲れる、し
かも強面なものだから話しかけるだけでも気力が要る。
殴り合い
外交交渉を任される人って凄いんだな、ボクにはとても無理だ。
途中にストレスで交渉が肉体言語に移行するかもしれない。
オヤジ
ううう⋮⋮これが一国を治める王との会談と言うものか。肉親だ
けにボクに割と甘くて話しかけやすい国王とは、比べ物にならない
くらい神経がすり減ったよ。とりあえず癒しを求めてジャンヌのお
っぱいを揉む⋮⋮鎧着てたよ畜生。
534
﹁カール様、お疲れでしたらお休みになります? 不肖このジャン
ヌが添い寝をさせていただきますよ﹂
﹁そうも言ってられないよ、とりあえずオべローン王が帰っちゃっ
た事。それと準備が無駄になるのも勿体ないから、慰労会の名目で
宴をやるって担当者に伝えてきてくれ。それと相談したいことがあ
るからモンドバン伯爵に、執務室に来てくれるように伝言お願い﹂
﹁わ、分かりました。はうぅ⋮⋮オジサンが怖かったからカール様
に慰めて貰いたかったのに⋮⋮﹂
いつもなら注意する思ったことを直接口に出す癖だけど、今回に
限って言えばなんとなく荒んだ気持ちが癒された気がする。お礼代
わりにキスをして、軽くお尻を撫でた後ジャンヌを送り出した。
どれ、可愛いジャンヌの照れ顔で癒されたので、もうひと踏ん張
り溜まった書類を片付けるとするか。
∼∼∼∼∼
自首した諜報員から齎された情報で、重要度の高い物は処理した。
残り二週間を切った開拓を宣言する式典の準備は、家臣たちの尽力
仕事
もあって何時でも始められる。昨日までであれば修羅場は過ぎ去っ
て後は余裕が出る⋮⋮筈だったが、ついさっきまた面倒が増えた。
﹁貿易港⋮⋮ですか?﹂
重臣たちが休んでるので、今すぐ相談できる人はモンドバン伯爵
535
しかいない。いきなり呼びつけたのに嫌な顔一つ見せずに話を聞い
てくれる、この人がいてくれて本当に良かった。
マーニュ王国で海に面してるのはこのラーロン地方の極一部だけ
で、国民の大半は海を見た事が無い。それでは今後の取引に支障が
出るからとボクもこの提案を受けたのだ。
﹁うん、オべローン王の提案でね。交易するのに拠点は必須だけど、
内陸国のこの国で港を造るノウハウなんて無いから、魔王種の魔核
の代価に資材の提供と職人の派遣をするってさ、建築の費えは向こ
うで、警備はこっち﹂
﹁その件に関して陛下は?﹂
﹁あの王様は曖昧な返事したり先延ばしにしようとすると、勝手に
物事決めちゃうから相談する暇もなかったよ。一応ボクに一任して
くれるって言質はあるから、事後報告で良いと思う。悪いけどモン
ドバン伯爵、鳥型使い魔の召喚お願いします﹂
心得ました、と伯爵の手元が光った瞬間、五羽もの使い魔が飛び
立ち、窓際に整然と整列する。
この使い魔召喚は召喚魔法の基礎だけど、そもそも召喚魔法の難
易度が非常に高いので、術者は非常に少ない。そう考えると娘のマ
ルフィーザ嬢は物凄く優秀なんだな。
﹁場所は食料の受け渡しをした西の海岸で、飛んで帰ったらすぐに
資材と職人手配するって話だから、急いでこっちも警備の兵と、ノ
ウハウを学ぶための人材を送らないといけないんだけど⋮⋮﹂
536
オべローン王は﹁では急いで手配するのである﹂と飛んで帰った
ので、あの調子では直ぐに船に資材を積んでやってきそうだ。急い
でこちらも人を送らないといけない。
﹁式典に併せてやって来る兵士では間に合いませんでしょうし、建
築や補修のノウハウを学ぶにしてもある程度の知識が無いといけま
せんね、出来れば本職の職人、最低でも工兵としての教育を受けて
ませんと﹂
港の維持管理するにもノウハウは必要だ、しかし職人だけ送って
も今度は海の魔物への対処を考えないといけない。
カロリング家の兵士を派遣することはできるけど、今でさえ東の
草原を開拓する人数がギリギリで、海岸に警備兵を送っては開拓が
遅れてしまう。
冒険者や傭兵は多いけど、きちんと統率されてる集団でなければ
外交問題になる可能性があるので、個人主義な冒険者をたくさん送
れば良いと言うわけではない。
規律が良くて、陣地造りが出来る豊富な人材に加えて、魔物への
対処ができる集団、なんてそんな都合よくいるわけが無いよなぁ、
ホントどうしよう?
どうしたものか頭を悩ませていると、サリーマさんと息子のマヘ
ンドラさん、他にも部下数名が報告の為にやってきたので、執務室
に来てもらった。
﹁カール様、アタシの部下たちが鎧蟻の素材を積んで帰ってきたん
ですが、量が多いので運動場で解体しても良いでしょうかね?﹂
537
﹁ああ、サリーマさんお帰りなさい。昨日は報告に来てもらったの
に、顔も見せないで済まないね、運動場は好きに使って構わないよ﹂
サリーマさんが目配せすると、背後にいた部下が外に向かって走
っていく。鎧蟻は素材として優れてるから、王都にでも運べば多額
の利益が出るだろう。
一応文書で護衛任務中に起こった出来事の報告は受けているけど、
流石に魔王種が倒された話は文書では良く分からないので、サリー
マさんから直接報告を受けようとした時だった。
傍で座っていたモンドバン伯爵がサリーマさんに抱き着いたのだ。
後ろに控えていた息子さんを始め部下たちも、いきなりで驚いてい
る。
﹁ちょっ! いきなりなんだ⋮⋮って、アンタまさかマラジかい?﹂
﹁覚えていてくれて嬉しいよ、すまない。いままで連絡が取れずに
すまなった!﹂
伯爵はおもむろにサリーマさんの前に跪き、手の甲にキスをする。
あれって確か⋮⋮今では芝居とかでしか見かけない男から女へプロ
ポーズするとか、求愛するときの古式な作法だっけ?
﹁ななっ! 何やってんだいマラジ! いきなり恥ずかしい事して
んじゃないよ!﹂
﹁何をと言われても、私の率直に気持ちを伝えてるのだ。二度と会
えないものと諦めていた⋮⋮サリーマ、会いたかったよ。まずは謝
538
らせてくれ﹂
熱っぽい視線をサリーマさんに送る伯爵を見て、後回しにするの
も悪いので、とりあえずボクはサリーマさんから報告を受け取るの
を諦めた。そして伯爵と二人で客室に追い払った。執務室で感動の
再会とかされても困る。
詳しい話は息子のマヘンドラさんから聞き、連れてきた部下たち
は解体作業に向かった。それから小一時間後に二人が戻ってきた。
ちょっと汗の匂いがしたのだが⋮⋮あんた等人の家の客室でナニや
ってた? 彼女たちが戻ってくるまで別室で待機してたマヘンドラ
さんも呆れ顔だ。
﹁いやぁ積もる話がありまして、つい盛り上がってしまいましたよ﹂
モンドバン伯爵のそれはもうスッキリとした笑顔を見て、大体何
があったのかを察したが、まぁ口に出すのは野暮だろう。伯爵は娘
さんにサリーマさんと同じ髪型させるくらい、彼女と別れた事後悔
してたそうだし。
﹁伯爵は家臣ではないのですから、何処でナニをしようが構わない
のですけど、ボクの屋敷であることは覚えていてください⋮⋮さて、
それでさっき言ってた貿易港の件ですけど﹂
﹁込み入った話ならお暇させてもらいますが?﹂
政治に関する話だったら一介の傭兵が聞いて良い事は何もないと
ばかりに、席を立つサリーマさんとマヘンドラさん。とは言えこの
話は貴女方がメインだから聞いて貰わないと困るんだよ。
539
﹁いや、サリーマさんも聞いてください。マヘンドラさんに聞いた
んですけど、﹃熱砂の龍傭兵団﹄って陣地とか自分たちで造れる上
に、他の部隊とかからも作成の依頼が来たりするんですよね?﹂
﹁そりゃ三千人も抱えてりゃ余所に依頼してられないですよ。それ
にこの手の経験は潰しが利きますんで、上手くすれば堅気になれま
すし﹂
詳しい話を聞くと、サリーマさんは傭兵としての仕事が少ない農
繁期に部下たちに農家の手伝いをさせて、人手の無い農家に婿入り・
嫁入りさせたりすることが多い。
他にも様々な職人の下で手伝いをさせて、先方が必要であれば弟
子入りを斡旋したりと、部下たちを堅気にするのに色々やってるそ
うだ。
それでも限度はあるので、堅気になれなかったにせよ彼女の傭兵
団は多くの職種を経験した人ばかり。
特にサリーマさんが言った通り、潰しが利く上に戦争中重宝する
土木作業に関しては、団員の殆どが職人の手解きを受けていて、全
員工兵として雇われてもやってけるそうだ。
この話を聞き確信した、居るじゃないかこんな身近に適任者が。
ボクは自然と笑みを浮かべるが、何故かサリーマさんはちょっと引
いている。マヘンドラさんが怯えてる気がするが気のせいだと断じ
る。
﹁あの、カール様? 何か依頼でしたら、できたらマヘンドラの奴
に話を通して頂けると⋮⋮﹂
540
﹁ちょっと待ってお袋、護衛任務から帰ったばかりだから依頼は⋮
⋮﹂
うんうん、実質傭兵団を纏めてるのは彼だからね、良く出来た跡
取りがいて羨ましいなぁ。ボクにももうすぐ跡取りが産まれるんだ
よ、あっはっは。
﹁報酬としてマヘンドラさんに子爵位と金貨三千枚を前払いで差し
・・・・・・・
上げるので、前回食料の受け渡しをした海岸で貿易港建設中の護衛
を、港が出来るまでお願いしますね、勿論食料とかの物資もこっち
で用意するから﹂
﹁へ?﹂
﹁はいぃ?﹂
ボクの依頼に目を丸くするサリーマさんとマヘンドラさん。驚い
た時の表情は結構似てるなぁ、流石親子だ。
﹁そんな訳で帰ってきて早々悪いけど、取引した海岸に貿易港を造
るからそこの護衛をお願いするよ、あとクレイターの職人たちの手
伝いをしつつノウハウも勉強してね。港町が出来ればそこを治める
領主として、子爵から伯爵にしてあげるから﹂
﹁そんな訳ってどんな訳ですか? この国唯一の港を治めろとか無
茶言わないでくださいな。アタシらは人数が多いだけの傭兵団です
よ﹂
﹁その辺は考えてるよ、流石に港町を一家だけで治めるとなると相
541
当の規模じゃないとできないから、サリーマさんたちは基本街や街
道の警備を担当にするつもりだよ、あと港の補修とかかな﹂
他にも商取引を担当する家とか、輸出入品を管理する家とか、ク
レイターとの外交交渉を任せる家とか。複数の貴族家が治める町に
するつもりだ。まぁ全部ボクの寄子なのは確定だけど。
﹁時期的にお祭りに参加できないのは残念かも知れないけど、クレ
イターの王様と顔見知りだから話は早いよね?﹂
﹁いや、その⋮⋮護衛任務が終わったばかり⋮⋮﹂
・・・・・
まだなにか言いたげなマヘンドラさんの肩を力いっぱい掴み、ボ
クは可能か限り優しい笑顔で脅は⋮⋮もとい説得を続ける。
﹁そうだ子爵なのに家名が無いのはおかしいよね、ラージャ家って
のはどうかな? ラージャ子爵家。港が出来れば伯爵だよ、やった
ねマヘンドラ・ラージャ子爵﹂
﹁いだ! 痛い⋮⋮お、お、お待ちを⋮⋮いきなりで何が何だか⋮
⋮﹂
なんで怯えた顔をしてるんだいマヘンドラさん? ただちょっと
両手で肩を全力で鷲掴みにしてるだけじゃないか。ボクの握力は魔
物の頭蓋骨を握り潰せるけど。
﹁サリーマさんの息子さんとか傭兵団の幹部とかにも騎士爵をあげ
る、手柄次第で男爵も考えるよ⋮⋮部下は家臣にすれば堅気だよね
⋮⋮そ・う・だ・よ・ねっ! ラージャ卿﹂
542
﹁ひぎぃぃ! わ、分かりました! お、お受けいたします!﹂
いやぁ快く受けてくれて助かった、なんたって大出世だからね。
なんかちょっと涙目になってるのは嬉し涙だと自己暗示は済んでる。
まぁちょっとだけ混乱するもの無理はないが、正直君ら以上に適任
者がいないんだよ。
﹁マヘンドラ、依頼人の無茶ぶりなんて何時もの事じゃないか。む
しろ拠点を造る間の護衛程度の依頼で、簡単に爵位をあげて良いん
ですか?﹂
﹁構わない、正直に言うと開拓しても治める人いないと荒れるだけ
だしね。爵位をあげるってことは、その土地を治める許可って事、
つまり国の後ろ盾があるって証明だから﹂
後は君らが貴族になれるって前例を作ることで、士気を高める意
味もあるんだけど、これは言う必要はないかな。
広大な草原に安全に立ち入れるようになった以上、約五十年前ま
で人の住んでいた場所を立て直す方が、更地から村を造るより手っ
取り早い。
そして中央から派遣された人を据えるより、現場の人間に治めさ
せた方が反発もないからね、治める人間には爵位を与える事にして
るんだ。
人望があり、尚且つ多方面に伝手を持つサリーマさんの息子が、
魔王種討伐の手助けをして子爵になったと聞けば、成り上がりを目
指す者がもっと集まる事だろう。勇者は例外だから知らん。
543
﹁アタシらをそこまで買っていただいて感謝します。オラいつまで
呆けてんだマヘンドラ、念願の貴族だぞ、胸張れ、前向け。まだグ
ズってんなら蹴っ飛ばすよ!﹂
﹁で、でもお袋! いきなり貴族様って言われても⋮⋮どうしたら
良いん、ぶはぁ!﹂
まだ混乱してるマヘンドラさんの背中を蹴っ飛ばしたサリーマさ
ん、ノーモーションで放った蹴りだけどその威力は凄まじく、壁際
まで飛ばされる。
﹁受けたモンをグダグダ言ってんな! とりあえず海岸まで行って
警護。その後はその場で考えろ﹂
﹁げふっ⋮⋮わ、分かったよお袋⋮⋮ぐふっ﹂
あ、マヘンドラさんが泡拭いて倒れた。不意打ちで手加減抜きで
蹴ったせいか、流石にダメージが大きかったみたいだ。サリーマさ
んも﹁あ、やべ﹂って顔してる。伯爵は何も言わずにマヘンドラさ
んに治癒をしてあげてる。
﹁正式に国に承認されて、貴族の証明である貴族名鑑を渡すのは建
国祭での式典だけど、内定したと思って間違いないよ。とりあえず
肩書が増えただけで仕事は大して変わらないから大丈夫だよ、ボク
もフォローする﹂
実際貴族だなんだいっても、地方貴族の寄子としての貴族って要
するに騎士である、実際傭兵団を纏めるのと大して変わらないよ。
戦闘員を指揮して、非戦闘員を守るってのが基本だし。
544
﹁国から文官を派遣してもらうし、サリーマさんたちだけに任せる
わけじゃないから安心して。ただ急に決まった話だから、誰を送る
か決めるのに時間がかかるだけだよ﹂
﹁オべローン王から頂いた遠距離通話の魔法道具を使えば、カロリ
ング家に指示を求めることもできるし、難しく考えることはないよ、
サリーマの息子なのだから私も可能な限り手助けするよ﹂
さりげなくサリーマさんの肩を抱いて、自分は頼れるアピールし
てる伯爵。おーおー積極的だねぇ。サリーマさんも満更でなさそう
⋮⋮と言うか、恥じらってる感じが恐ろしく色っぽい。四十歳過ぎ
てこれなんだらそりゃモテるわな。
﹁それじゃ馬車に沢山詰めた鎧蟻は置いていきますから、馬車を貸
してくださいね。護衛に参加しなかった千人を最低限の準備で明日
に出発させ、残り二千人は十分な用意をしてから出発で宜しいです
か?﹂
サリーマさんの要求も尤もなので倉庫の備品を好きに持って行か
せる事にする。一応魔王種討伐の遠征用に用意したものだから持ち
運びやすくまとめてるものだ。
﹁後は大量の飲用水を生み出せる水魔法の使い手をお願いしますね、
長期間の集団行動じゃ必須です。クレイター王国側にもいるでしょ
うけど、他国人よりは身内の方が頼みやすいです﹂
どうも彼女の傭兵団には魔法の使い手が少なく、水魔法を使える
人はいないらしい。昔はいたけど堅気になって遠い町で暮らしてる
そうだ。まぁ飲用水を生み出せるかどうかはともかく、魔法使いは
引く手数多だよね。
545
﹁それなら冒険者から希望する者を募って⋮⋮水魔法使いは普通冒
険者になるより街で安全に暮らしてるよね﹂
沢山冒険者がいるのだけど、水魔法使いの噂はほとんど聞かない。
何故かと言うと水魔法使いは危険を冒さなくても、ちょっと大きめ
の町なら食うに困らないどころか、裕福な生活が出来るからだ。
﹁カール様宜しいですか、娘のマルフィーザは水魔法を得意として
おります。中央から兵が送られてくるまで母親に同行させても?﹂
﹁マルフィーザ嬢は本当に多芸だね、伯爵が良いなら構わないけど。
宮廷魔術師として職務は良いのか? 彼女は元帥秘書官に任じられ
ただろう﹂
そう、伯爵としては母親に会わせるために連れてきたつもりだっ
たけど、クリス殿に急遽報酬として元帥の地位を授けるにあたり。
伯爵の父親、筆頭宮廷魔術師のメガス・モンドバンが孫娘をクリス
殿の秘書にするよう捻じ込んできたのだ。
﹁中央から人が送られて来るまでの間でしたら問題ありません﹂
当主である父親がそう言うなら止める筋合いもないか。マルフィ
ーザ嬢も兄弟姉妹と交流を深めるいい機会だろうしね。
﹁そうと決まれば早速準備させていただきます、さて息子共はアタ
シにそっくりなマルフィーザを見てどんな顔するかねぇ?﹂
気絶したマヘンドラさんを軽々と担ぎ、サリーマさんは執務室を
出て行った。一緒にモンドバン伯爵も付いて行ったけど、まぁ彼は
546
サリーマさんと一緒に居たいのだろう。
こうして式典とお祭りの開始まで二週間を切った今、やっと修羅
場のような忙しさから解放されたのだ。
547
栄達︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
548
団欒︵前書き︶
親知らずを抜いてから、鈍い痛みが続き痛み止めが手放せない︵´;
ω;`︶
遅れてしまって申しわけありません。
今回は挿入とかはなしです。
549
団欒
頬を撫でられる感触がして目を覚ますと、俺に抱き着くように眠
るティータニアの白い翼が顔に当たっていたようだ。
昨晩存分に愛し合った王女姉妹に左右から抱きつかれ、その柔ら
かさと温かさに、両腕で強く抱き寄せ、可愛らしい寝顔を眺めてる
と、二人は安心しきった表情で規則正しい寝息を立てている。
窓から見る空は白んでいるが、まだ起きるには早い時刻だから、
もうちょっと左右から伝わる温もりを堪能しようかな? そんな事
を考えてると、右側に抱き着いているティータニアが目を覚ました
ようだ。
はにか
横向きに寝てるのでベッドからはみ出た翼がパタパタと動き、軽
く伸びをした彼女は、寝惚け眼で俺を見て幸せそうに含羞む。
﹁おはよう、いつもこんなに起きるの早いのか?﹂
﹁おはようございますクリス様、そうですね、空が明るくなると自
然に目が覚めてしまいます﹂
寝起きのキスをしてから改めて彼女を見ると、精巧な人形じみた
美貌が、熱の籠った眼差しで、じっと俺を見て微笑んでる。ちょっ
と気恥ずかしいけど、目を逸らすのもなんか負けた気分なので、な
んとなくお互いに見つめあい、そして同時に吹き出してしまう。
﹁くすっ﹂
550
﹁ふふっ﹂
綺麗な子が笑うと本当にドキッとするな。つい昨夜の続きをした
くなってくるが、今からエッチすると間違いなく朝御飯に間に合わ
ない。かと言って起きるには少々早いので、新婚らしくイチャイチ
ャするべく、抱き寄せて耳たぶを軽く噛んでみる。
﹁ひゃうん! だめですよクリス様ぁ、あふん⋮⋮﹂
実に初々しくて可愛い反応なので、頬、首筋、うなじ⋮⋮いろん
な場所を舌で撫でる、恥ずかしくても俺にされることは拒まず、未
知の感触に身を委ねるティータニアに愛おしさが込み上げてくる。
しかしこれ以上するとセックスに突入しそうなんで自重。左側に
抱き付いてるルーフェイも寝てるからね。
﹁目が覚めちゃったし風呂で汗を流そうか、昨日は沢山汗かいたし
な﹂
﹁もう、汗をかかせたのは誰ですか? クリス様ったら休ませて下
さらないんですもの﹂
拗ねたように頬を膨らませるティータニアが可愛いので、文句を
言ってくる口を唇で塞ぎ、自由になった右手で、手のひらにすっぽ
りと収まる小ぶりなおっぱいを揉みほぐす。
﹁あっ⋮⋮んっ⋮⋮もう、クリス様はいじわるです﹂
﹁ティータニアとルーフェイが可愛いから、つい張り切ったんだ。
551
それにおねだりしてきたのは誰だったかな?﹂
高貴な姫姉妹を、一緒に俺の腕の中で喘がせる快感に、歯止めが
効かなかったのは事実だ。しかしルーフェイが疲れ切ってダウンし
た後も、ティータニアは新雪のようなお尻を振って、俺を求めてき
たんだよな。
ナカダシ
初めてだというのに何度も絶頂して、その美貌を情欲に染め蕩け
た表情で膣内射精をおねだりされたら、そりゃ頑張るしかないだろ
う。
﹁それは⋮⋮クリス様が上手だから⋮⋮気持ち良くって⋮⋮﹂
この子は俺を朝から誘ってるのだろうか? 恥じらいの表情で上
目遣い、しかもそんなセリフ言われたら、押し倒されるのを待って
るとしか思えないぞ? ついでに寝起き早々から元気で節操のない
ムスコをチラチラ見るのは、期待してるようにしか見えない。
それで恥ずかしいのか、さらに真っ赤になって俯いてしまう。あ
ぁ可愛い。可愛すぎて俺の理性がそろそろ危険領域に入ってきた。
やばい自重、マジで自重、お互い裸のままだから俺のあまり強固
ではない理性が特に拙い。ここで彼女を押し倒したらまたディアー
ネに怒られる、あとオリヴィアにも説教されるだろう。ここはなけ
なしの理性を総動員してなんとか話題を逸らすのだ。
﹁ティータニアを満足させることが出来たのは、男冥利に尽きるな。
それじゃ風呂に行こう。ルーフェイも起こすか﹂
﹁ルーちゃんは起こせば素直に起きる子なんですが、やっぱり昨夜
552
は遅かったからか起きそうにないですね﹂
ついでにヘトヘトになるまでセックスしたからだな。幸せそうに
寝てるのを起こすのも忍びないが、一人だけベッドに残すわけにも
いかないので。裸のままお姫様だっこして風呂に行くとする。
浴室に入るとまだいつもより早いのに、お姉さんの所に泊まって
るヴィヴィアン以外の嫁たち全員がいた。合計で七人もいると、大
きめの浴室でも流石にちょっと手狭に感じるな。その分密着できる
からなにも問題はないが。
﹁おはよう、今日はみんないつもより早くないか?﹂
﹁おはようございます旦那様。実は昨日ティータニアの事もあって
お伝え損ねたのですが⋮⋮んむっ﹂
寝惚けているルーフェイはティータニアに任せて、軽く手桶で汗
を流し浴槽に入り詳しい話を聞くとするか。勿論オリヴィアを抱き
寄せてキスしてからな。
なんでもお祭りの準備に忙しい神殿から、職人街に色々な小物を
作る依頼が殺到してるらしく、人手が無いからとお手伝いのオバち
ゃん達に頼まれ、最初はアルテナとユングフィアが、お手伝いに行
くことになっていたそうだ。
﹁マーサさん達も忙しくてお休みするそうです。それで皆で盛り上
げるべきお祭りなので、わたしくたちも微力ながらお手伝いをさせ
ていただくことになったのです﹂
﹁分かった、気をつけてな。俺も用事終わったら職人街に手伝いに
553
行こうか?﹂
みんなで小物作りも楽しそうだと思って言ってみたが、オリヴィ
アの反対側から抱き付いてきたディアーネは、ちょっと考えた後必
要ないと言う。
﹁うーん、私たちは朝からお昼まで、子供に配る飴を作って包装す
るのですけど、カロリング卿とのお話が長引くと行き違いになりそ
うですわよ﹂
お昼まで手伝いをした後は、以前俺とディアーネで行った湯屋で
寛いだ後、買い物に行く予定だそうだ。彼女たちは目立つから探す
のも手間ではないだろうけど、女の買い物に男が混じると、碌なこ
とはないって修業時代に猟師のおじさんが言ってたからな。
﹁そのお手伝い私も同行して良いかしら? 街も見て回りたいから
ね﹂
まだウトウトしてるルーフェイを椅子に座らせ、髪を洗ってあげ
てるティータニアはこちらの話を聞いていたようだ。
﹁勿論ですよ、ティータニア様を見たらみんなびっくりするでしょ
うね⋮⋮多分私と一緒に飾りつけのお手伝いになりそうですけど﹂
背が高く力のあるユングフィアは、飴作りより街の飾りつけを頼
オバちゃん
まれてるそうだ、そりゃ空が飛べるんだからそうなるか。ちなみに
お手伝いは職人街のご婦人達ばかりなので、男衆は関わらないらし
い。
﹁別に大丈夫よ、それとユングフィア、様はいらないわ。王女に身
554
分だったのは確かだけど、今は同じ夫に仕える姉妹じゃない﹂
﹁そ、そうですか? でも私なんて祖母が祭司長なだけで、家名の
無い平民ですけど⋮⋮きゃっ!﹂
どうにも身分差の意識が残るせいか、若干ティータニアに、後オ
リヴィアとディアーネにも、遠慮のあるユングフィアの爆乳を揉み
つつ、普通に接するように諭す。
﹁家名が無いって言ったら俺もだぞ? まぁなんかメイティア伯爵
によると叙爵されるみたいだし、ユングフィアも夫人なんだから気
にするな﹂
人懐っこいルーフェイに比べてティータニアは、確かに神秘的な
美貌も相まって、いかにもお姫様と言った気品がある。ルーフェイ
に気品が無いわけではないが、それ以上に庇護欲そそるタイプなん
で気圧されるってことはないのだ。
王侯特有の気品ある姿を前に、身体に染みついた身分意識を無く
すのは難しい⋮⋮そんな事を考えてると、アルテナがジト目で俺を
見る。何故だ? ライバル意識のあるユングフィアだけ可愛がって
るからか? よし、ではアルテナのお尻も揉んで⋮⋮ディアーネに
耳を引っ張られて引き剥がされてしまった。
﹁ご主人様? 朝からこんなに花に囲まれ、その中の一輪のみ愛で
ては、やきもち焼いてしまいますわ﹂
﹁ディアーネ、注意するのはそこなの?﹂
ついさっき湯船から出たオリヴィアは、ティータニアの髪を洗い
555
ながら、少し呆れたようにツッコミを入れる。
﹁すまない、蔑ろにするつもりはないんだ。ただ家族内で遠慮のあ
るユングフィアを諭そうとしてな、つい胸に手が伸びたんだ﹂
﹁つい、じゃないですよぉ。いきなり胸を揉まないでください﹂
﹁そうですクリス様、ユングフィアさんばかりズルいです﹂
それでは左右にディアーネとアルテナを抱き寄せ。ユングフィア
のおっぱいに顔を埋めよう、それで解決⋮⋮アルテナに腕を抓られ
ちょっと痛かった、何故だ?
そんな感じでイチャイチャしてると、ようやくルーフェイも目が
覚めたらしい。不思議そうにキョロキョロしだした。
﹁くぅん? クリス様やお姉さまたちとお風呂? あれ私はベッド
に?﹂
﹁一人だけベッドに置いてけぼりにできないから、連れてきたのよ。
ほら髪を洗ってる最中だから動かないで﹂
﹁わふっ! それじゃ後で、お姉さまの翼は私が洗います﹂
ティータニアの髪はオリヴィアが洗ってるのだけど、翼に関して
は専用の洗い方があって、ちゃんと練習した人じゃないと、結構繊
細な翼を傷めてしまい、羽が抜けて不格好になってしまうそうだ。
翼を洗うのは髪以上に時間がかかるらしいので、仲良し姉妹が洗
いっこしてる間に朝御飯を作るべく、そろそろ風呂から上がるとす
556
るか。
﹁ごめんなさい、明日から私も朝食を作るの手伝うから﹂
箱入りかと思いきや、家事もそれなりに仕込まれてるティータニ
アは、申し訳なさそうに言ってくる。
﹁気にしないで良い、女の子が身嗜みに時間をかけるのは当たり前
だからね﹂
五人で食事の支度をしたので、意外と早く済んでしまい、ティー
タニア達がお風呂から上がるまでイチャイチャしてた。さて昨日は
ゴタゴタしてたので、何もしないで帰ってしまったので、今日はち
ゃんと上司に色々報告しないとな。
∼∼∼∼∼
辺境伯の屋敷に着くと応接間に通される。そこにはカール王子と、
昨日会ったアルチーナさんが綺麗なドレス姿で迎えてくれた。
﹁クリス殿も昨日は大変だったみたいですね。それと⋮⋮﹂
﹁き、昨日の事は忘れてくださいませ! 大変お見苦しい姿を晒し
てしまい申し訳ございません﹂
綺麗なドレスを着た彼女は、運動場で泥だらけだった姿とはまる
で別人かと思うほど印象が違う。運動服姿でもいかにも育ちの良い
お嬢さんといった感じだったけど、ちゃんと化粧をしてドレスを着
557
ていると、どことなく気品すら感じる。
﹁ドレス姿も綺麗だけど、昨日の元気いっぱいなアルチーナさんも
可愛かったよ﹂
﹁かっかわ⋮⋮﹂
真っ赤になって俯いてしまった、はて? 彼女くらい可愛ければ、
可愛いとか綺麗とか言われ慣れてるんじゃないか?
﹁良かったなアルチーナ、ボクの言った通りだろ? クリス殿は小
さいことは気にしない人だって﹂
︵多分普通に感想言っただけなんだろうけど、傍から聞いてると口
説いてるとしか思えないなぁ︶
なんか言外に美女なら誰でもバッチ来い! みたいに言われてる
気がするが⋮⋮反論できないので気にしないでおこう。
あと昨日また会おうとか言ってた王様は、用件が済んだらすぐ帰
ったらしい。貰った通信用の魔法道具でティータニアがクレイター
の家臣から連絡を受けて、呆れながら教えてくれたので知ってたけ
ど。。
﹁さて、魔王種討伐の件。クレイター王女との婚姻。それに諜報員
の件など色々ありますが。その前にボクの要件から伝えさせてもら
うよ﹂
勧められた椅子に座り、カール王子と向き合う。アルチーナさん
は椅子に座らずカール王子の後ろに立っている。やっぱりオリヴィ
アたちと同じように男同士の話には口を出さないんだな。
558
﹁コホンッ! まず一つ、魔王種を討伐し、合計三つもの魔王級の
魔核を献上した功績を以て、法の女神トライアの地上代行者クリス
に、陛下から三つの褒美を下賜されます。まず、侯爵の位と﹃アス
トライア﹄の家名を与える﹂
﹁有難く﹂
おお! 余りの事につい短い返事だったけど、俺が貴族か⋮⋮こ
れで成り上がるって目標は達成したわけだ。嫁やこれから生まれる
であろう子供たちの為に﹃家﹄を手に入れるって目標が。⋮⋮まだ
実感が沸かないけどな。
しかし侯爵となると準王家である公爵の次に偉いのか、一応嫁た
ちに釣りあう立場を得たと思えばいいか。うむ、地位に恥じないよ
う頑張って働かないとな、自分で稼いだ金で嫁たちに、良い暮らし
をさせるのが男の甲斐性ってもんだ。
﹁こちらが貴族の家に毎年贈られるマーニュ王国貴族名鑑でござい
ます﹂
黙って立っていたアルチーナさんが渡してくれたのは、ずっしり
と重い分厚い名簿。貴族名鑑は国中の貴族の当主や夫人、そしてそ
の子供の名前が記載されており、これに名前が無いと公的にその家
の人間とは認めて貰えない。
なので結婚したらすぐ中央に報告しないと、下手すると夫人を騙
る罪人になってしまう。まぁ別に地方の場合だと、名前が書いてな
い女性を連れてても、愛人と思われてスルーされるだけだが、これ
が生き馬の目を抜く中央だと、非難の材料になるとか⋮⋮政治の世
559
界って怖いな。
﹁どうぞ、ご自身の家名をご覧になってください﹂
侯爵の欄を開くと国全体で十家くらいあるみたいだ。ア、アス⋮
⋮アストライア⋮⋮あった。クリス・アストライア、正妻オリヴィ
ア・アストライア、第二夫人ディアーネ・アストライアと書いてあ
る。ディアーネの欄には旧姓メイティアとも書いてあるな。
二人しか書いてないのはこの名鑑を作ってる時点では、ルーフェ
イたちと結婚してない、もしくはしたことは知らなかったからだ。
他にも年齢、髪や瞳の色が記載され、領地の欄は空白になっている、
あと役職欄には⋮⋮北方元帥?
﹁順に説明しますよ。まず他の夫人方は後でボクが中央に報告して
おきます。特にクレイターのお姫様たちの件もあるので、夫人の序
列はこちらで勝手に変更することがあります。この辺は国の都合な
ので了承してくださいね﹂
そっか、ルーフェイたちはお姫様だしな、この名簿に名前が無い
のは外聞が悪いか。ちなみにこの夫人の序列は基本的に身分で決ま
り、同格の場合は実家の収入とか年齢で決まる。どっちが上か下か
で結構揉めたりする場合があるのらしい。
ただ実家を追い出されたオリヴィアは身分上は平民なんだが、女
神から直接貰った祝福のおかげか正妻の座は揺るがないそうだ。
﹁次に役職の欄をご覧になりましたね? 二つ目の褒美は軍を司る
元帥の位です。北方元帥とはマーニュ王国北部、要するにこのラー
ロン地方一帯に駐在する軍を統括する役儀です。はっきり言います
560
が軍の象徴としての意味合いが強い名誉職なので、勇者の称号を利
用させてもらいました﹂
オレ
﹁勇者の名前が役に立つなら好きに使ってく⋮⋮ださい。とはいえ
椅子にふんぞり返ってるのも、性に合わないので元帥ってどんな事
をすれば?﹂
カール王子曰く、退役した将軍とかが就く名誉職なのが元帥なの
で、特に仕事はない。実際の軍務とかは経験豊富な将官たちが行う
ので、基本は自由らしい。
詳しいことは開拓を本格的に始める際の式典に、合わせてやって
来る軍の将軍たちと話し合うとして。一応直属の部下みたいな人達
も付き、既に副官となる人は決まっていて、後で紹介してくれるら
しい。気になるけど今はカール王子の話が優先だ。
﹁最後の褒美として、クリス殿にはマーニュ王国王女である、この
アルチーナを娶ってもらいたい。さっきのやり取りを見る限りそれ
なりに好印象みたいですが、嫌ってことはないですよね?﹂
﹁ア、アルチーナさんって、アルチーナ殿下だったの! え、えっ
と⋮⋮知らなかった事とは言え、先日は大変失礼な振る舞いを⋮⋮﹂
考えてみれば王女様と同名の女性が、今この部屋にいるんだから
予想して然るべきだった。顔を知らなかったことに腹を立てて嫌わ
れたりしないかな?
﹁い、いえ昨日の泥だらけの姿では、仕方ありませんわ。私も夫と
なる方と初めて会うのに、お化粧もしていないなど、お恥ずかしい
姿を⋮⋮﹂
561
﹁お互い悪印象は無いみたいだから話を進めますよ、この婚姻は勇
者と縁を結びたい陛下の勅命です。ボクとしてもクリス殿とは、誰
に目にもわかりやすい繋がりが欲しかったので、妹との婚姻は勇者
が誕生した時から考えてました﹂
急な話だけど、カール王子が直接持ってきた縁談、しかも王様の
命令となると断るって選択肢はない。もっとも、彼女は健康的な感
じの美少女なんで、勅命とか抜きにしても大歓迎だ。
﹁そうすると、式典の時にルーフェイと結婚式を挙げて、そこで祝
福をかける予定だけど。アルチーナ殿下も一緒にするべきかな?﹂
﹁そうですね、国中の貴族、名士が集まりますから。マーニュ、ク
レイター両国の姫と式を挙げるのは、かなりインパクトがあります
ね。それじゃ神殿にはボクから話を通しておきます、ドレスも急ピ
ッチで用意させますので﹂
純白のドレスを纏ったルーフェイとアルチーナ殿下を、両側に侍
らせて結婚式とは⋮⋮勇者でなかったら呪詛の十や二十は飛ばされ
るかもしれん。呪詛ならまだマシで光物を投げつけられたらどうし
よう。
いや美少女を嫁にするんだ、その程度の事を覚悟しないでどうす
る? 何不自由ない生活と、夜の性生活を満足させ、尚且つ危険な
目には遭わせないようにするのが、旦那である俺の義務だろう。
﹁ドレスの寸法合わせが終わったら、殿下は俺の屋敷で生活する⋮
⋮しますか?﹂
562
昨日ティータニアを迎え入れたばかりだけど、オリヴィア、ディ
アーネとは顔見知りだそうだし、連れ帰っても大丈夫だろう。それ
に侯爵になったお祝いもしたい。
﹁クリス様⋮⋮あの出来れば夫人としてアストライア侯爵邸に赴く
のは、結婚式の後でも宜しいでしょうか? その⋮⋮正式に結婚式
を挙げ祝福を受け取ってから、私の純潔を捧げたいのです﹂
﹁勿論、正式に夫婦になるのを楽しみにしてるよ﹂
婚前にセックスするのは別に責められるような事ではないのだけ
ど、やはり正式に夫婦になってから結ばれるのが、少女にとって憧
れらしい。
ちょっと想像してみる。純白の穢れのないドレスに身を包んだル
ーフェイとアルチーナ殿下を、ベッドの上に組み伏せ喘がせる情景
を⋮⋮やっべ凄く興奮する。
﹁私も⋮⋮クリス様との結婚式を、そして共に暮らす日々を楽しみ
にしております﹂
アルチーナ殿下は俺の頬にキスをして退室していく。努めて平静
に振舞ってたけど、キスしてくれた後顔を真っ赤にしてるのが可愛
いな。
﹁妹との仲は問題なさそうで何よりです、それでは次はクリス殿か
らの報告を伺いましょう﹂
鎧蟻の魔王種を倒した時と、ルーフェイを嫁にした経緯は部下か
ら詳細に報告を受けていたようで、話はすぐに終わったが。諜報員
563
達に刻まれた呪いの刻印についてと、解呪を始めた経緯、そしてヴ
ィヴィアンの件などかなり時間を説明に費やした。
その過程で呪いをかけた人間について心当たりを聞いたけど、ま
さか勇者とは思わなかったな。軍神ファールスの加護を受ける人間
と言うのは、やっぱり戦争が好きなのだろうか?
﹁参考までに聞きますが、軍神の加護を受けた勇者と相対した場合
どのように?﹂
﹁うーん⋮⋮報告された人物像からすると多分⋮⋮﹂
一応思いついた対処法を答えたんだけど、何故かカール王子はや
や腰が引けつつ頭を抱えてる。どうしたんだろう? リスクが少な
い作戦だと思うけど。
﹁な、なるほど、参考になりました、戦争が起きないように策を練
るつもりですが、万が一の際はお力をお借りしますね﹂
︵能力的に十分可能なんだろうけど、躊躇なくえげつない方針考え
るなこの人⋮⋮︶
﹁正直、ヴィヴィアンにくだらない呪いをかけた奴を許す気はない
んだ。まぁ命を助けた縁で嫁にしたわけだけど、こういう人の心を
弄ぶ奴は認められない﹂
﹁また夫人が増えたと思ってましたが、そういう事情でしたか。報
告は聞いてましたが件の呪いをかけた勇者は、いつか報いを受ける
事でしょう、土地の汚染を防いでくれたのは英断です、感謝しても
し足りない﹂
564
﹁あ、そうだ、メリッサさんの釈放ってできるかな? 姉妹が再会
できたんだし﹂
﹁ヴィヴィアン夫人の姉の件はクリス殿が、アストライア侯爵家が
身元を保証する形でしたら釈放して構いません。元々無理やり送り
込まれた人間ですから﹂
﹁そう言って貰えるとありがたい。なんか複雑な事情があるみたい
だし、メリッサさんの身の振り方はこっちで考えてみます﹂
折角会えた生き別れの姉妹だし、なによりヴィヴィアンに頼られ
たのだから全力で応えるつもりだ。とりあえず侯爵になれたお祝い
に、彼女も参加させよう。
他にもサリーマさんの息子のマヘンドラさんが子爵になるとか、
西の海岸に貿易港を造るとか教えて貰ったり、王子への報告ついで
に雑談をした後、メリッサさんの部屋に案内してもらう。
﹁迎えに来たよヴィヴィアン﹂
﹁あっクリスさん!﹂
ドアをノックすると、中からヴィヴィアンの声が聞こえ、すぐに
鍵を開け部屋に入れてくれた。ここは諜報員を捕まえておく軟禁部
屋の筈なので、ちょっとおかしい気もするが、まぁいいや。
部屋に入るとヴィヴィアンが腕に抱き付いてきたのでキスする。
そして部屋の奥に目を向けると、優しい笑みで俺たちを見るメリッ
サさんがいた。
565
うーん助けた時は薄暗い部屋だったけど、こうして明るい部屋で
改めて見ると、とんでもない美人さんだなぁ。ヴィヴィアンを抱き
しめてるのに見惚れそう。
﹁まぁクリス君いらっしゃい、先日はありがとう。諜報員を辞めら
れただけじゃなくて、こうして妹と再会できるなんて夢のようよ﹂
微笑みながらヴィヴィアンの反対側の腕を取り、おっぱいを押し
付けてくるメリッサさん。流石にカール王子の屋敷でエロい事も出
来ないので、努めて紳士的に振舞う。まぁ俺の内心なんて二人には
バレバレっぽいけどな。
﹁メリッサさんを釈放する許しは貰ったから、帰ろうか。メリッサ
さんも身の振り方が決まるまで泊って行ってくださいね﹂
﹁ありがとうクリス君、お世話になるわ。ふふっ昨日はヴィヴィア
ンにたっぷり惚気話を聞かされちゃったのも納得ね﹂
ヴィヴィアン
そう言って頬にキスされると、紳士的に振舞うのが厳しいので勘
弁して。嫁のお姉さんに鼻の下を伸ばすの必死に耐えてるんだから。
二人を連れて帰る途中で報酬の事を話すと、﹁それじゃ今日はお
祝いですね﹂とヴィヴィアンが妙に張り切りだして、帰り道で市場
に寄ることにした。
566
団欒︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
次回メリッサさんとヴィヴィアンとのエッチです。
567
約束︵前書き︶
12/16割り込み投稿となります
568
約束
市場に並ぶのは主に近くの農村から直接運ばれてきたもので、新
鮮な食材が安く手に入る。また、商人でなくても使用料を払えば場
所を貸して貰えるので、たまに冒険者が狩ってきた魔物を並べてた
りする。
その為、魔法道具の作成に必須な魔核が安く売ってたり、珍味だ
ったり滋養があったりする高級食材が、捨て値で手に入る場合もあ
るので侮れない。まぁそういうのは強い割に世間知らずがすること
で、ある程度世慣れた冒険者は伝手のある商家に直接持っていく⋮
⋮らしい。この街に来る道中馬車に乗せてくれた商人のツイガメさ
んが言ってた。
ある程度大きな町ならどこでもこういう市場はある。なので俺も
修業してた頃に倒した魔物の素材は、顔なじみの猟師のおじさんに
お願いして、村から歩いて数日の場所にある結構大きな町で売って
もらってた。
ジジイ
自分で行きたかったが師匠に修業中を理由に下山禁止されてたん
だよな。当時は不満だったが今なら分かる、多分オリヴィアと出会
う前の俺がこういう賑やかな場所に行ったら、色っぽいお姉さんに
フラフラ付いて行ってトラブルになりそうだからな。
具体的には左右から俺に腕を絡める美人姉妹みたいな、顔もスタ
イルも性格も良さそうな美女がいたら、当時の俺なら迷わずナンパ
するだろう。流石に男連れで声はかけないけど、たまに舌打ちや壁
を殴る音が聞こえるのも仕方ないと思ってしまう。
569
しかし注目浴びるなぁ、美女二人を連れて歩いてると実に目立つ。
てもち
近隣の人達は俺の顔を知ってるので絡まれたりはしないけど、少々
居心地が悪い。
ぶさた
ヴィヴィアンとメリッサが楽しそうに買い物してて、俺は手持ち
無沙汰なのは別に良い。しかしメリッサさんが色仕掛けを駆使し、
売値の半値以下にまで値引き交渉しているのに、口が出せないのは
少々もどかしい。値引き交渉も市場でのコミュニケーションの一環
なんだろうけど、ちょっとモヤっとする。
ちなみにヴィヴィアンも食材を買う時に値引き交渉はするけど、
俺と結婚したからには色仕掛けは止めて、話術だけだそうだ。うむ、
なんか嬉しいので、ついヴィヴィアンにキスしたら、壁を殴る音が
増えた。
それはともかく、メリッサさんは今後この街に住むのだし、俺の
屋敷に泊まるにせよ、何処かに家を借りるにせよ色々と入用なので
ある。で、女の買い物に俺が口を出せる訳もなく、黙って虫よけ兼
荷物持ちを務める。
アイテムボックス
買った食材や日用品を二人に言われるがまま︻収納空間︼に放り
込み続けて約一時間。大体買い物が終わった後は別行動することに
なった。
﹁一時間後に市場の入り口で待ち合わせね⋮⋮たったの一時間で良
いのか?﹂
大人の女性の生活必需品を買い揃えるのに一時間で足りるのだろ
うか? それに二人だけだと間違いなくナンパとかもされそうだ。
570
なんといってもこの二人は、美人でスタイルが犯罪的なくらいエロ
いし。俺の言いたいことが分かったのか、二人は笑って大丈夫だと
言う。
﹁ナンパなんてアタシも姉さんも慣れてますから平気ですよ。それ
に一度にまとめて買う訳じゃなくて手荷物程度ですから一時間でも
多いくらいですって﹂
ヴィヴィアンがそう言うなら、大丈夫なんだろう。それに女同士
の方が気楽だろう、多分俺が同行してると買いにくい物もあるだろ
うと思う。
﹁分かった気をつけてな、俺は適当にブラついてるから﹂
﹁ありがとうクリス君。お礼に今日はクリス君の好きなモノ作って
あげるからね﹂
優しい笑みを浮かべるメリッサさんに頭を撫でられる。子ども扱
いではあるんだが、彼女にされると妙に幸せな気分になるのは年上
の包容力だろうか?
エロ本
二人と別れ、人混みを歩く。さて、今のところ特に欲しい物はな
いし、道行く人たちの殆どが俺の顔を知ってるので、流石に春画本
とかは買いに行けない。仕方ないので散歩がてら屋台でも冷やかそ
うかと歩いてると、唐突に声をかけられた。
﹁おっ! クリス殿じゃないか﹂
﹁どうも、サリーマさん。カール王子から聞いたよ、マヘンドラさ
んが子爵位を貰うって。えーと、御栄達おめでとうございます﹂
571
﹁ははっクリス殿のおこぼれみたいなもんさ。今日は娘たちになん
か買ってやろうと思ってね。ほらお前たちご挨拶しな﹂
﹁はいは∼∼い♪ 初めまして勇者様! ミーシャでっす! 九歳
でっす! ところで何歳くらいになったら手を出して貰えます?﹂
すそ
偶然市場にいたらしいサリーマさんに声をかけられ。一緒にいた
小さな女の子は目をキラキラ輝かせながら、俺の上着の裾を掴んで
・・・
自己紹介してきた。あぁこの子がサリーマさんの末っ子か、基本性
に明け透けな傭兵団で育ったせいかおませな子だなぁ。
将来美人確定と思われる可愛い子だが、九歳児にはそういう気分
にならないからね? とりあえず頭を撫でて﹁大人になったらね﹂
とだけ答えておく。ミーシャちゃんの目がキラリと光り、小声で﹁
おっし言質取った﹂とか言ったのは空耳だと信じよう。
俺の腕に抱き付いて上機嫌なミーシャちゃんともう一人、サリー
マさんと同じ髪型で俺と同じくらいの背丈の女の子に目を向け⋮⋮
あれ? あれれ? 服装は勿論、見知った髪型と全然違うからすぐ
に気づかなかったけど、コイツは⋮⋮。
﹁お前マルフィーザか? なんでその髪型にしてんだ⋮⋮﹂
﹁お久しぶり⋮⋮です﹂
礼儀正しく頭を下げるマルフィーザ。師匠の親戚の子で、一年の
内で数日間だけ山にやって来て一緒に修業した同門の魔法使い。
山での修業の時にしか会わないので、野暮ったい修行用ローブ姿
572
しか見た事なかったが、お洒落なワンピースにポニーテールのマル
フィーザは別人と見紛うほど可愛い。
ジジイと二人だけで生活してた修業中は、マルフィーザが来るの
が楽しみだった。バレたら殴られる危険を冒してでも風呂を覗くく
らいには気になってた相手なんだよなぁ。
自分で言うのもなんだが、彼女とはかなり仲が良い。多分良い家
のお嬢様なのは察しがついてるんだけど、本人が言わない以上はた
だのマルフィーザとして接していた。
仲が良いのでお互いに気兼ねなく話せるのに、マルフィーザの丁
寧な対応には正直違和感しかない。態度だけでなく髪型もだ、マル
フィーザは髪を纏めるのが嫌いって公言してて、癖のある長い黒髪
をいつもおろしてた筈なんだけど、なんでポニーテールにしてるん
だ? いや可愛いし似合ってるけどさ。
そして今気付いた、マルフィーザって物凄くサリーマさんに似て
る。特に髪型が一緒だと瓜二つだ。
﹁ひょっとして以前サリーマさんが言ってた、父親に引き取られた
娘ってマルフィーザだったのか﹂
てっきり同名の別人だと思ってた。髪型が一緒だとそっくりだけ
ど、普段から自信に満ち溢れて活動的なサリーマさんと、マルフィ
ーザでは顔が似てても印象が全然違うから思いつかなかった。
みぎり
﹁はい、マラジ・モンドバンの娘で⋮⋮ございます。幼少の砌に身
分を偽っていた⋮⋮仕儀、お詫びしま⋮⋮いたします﹂
573
なんというか無理して丁寧な言葉遣いしてるのが良く分かる。多
分コイツの事を良く知らない人間なら、大人しい口下手な娘だと思
うだろう⋮⋮まぁ本人に聞けば良いか、まだ引っ付いてるミーシャ
ちゃんを引き剥がし、マルフィーザの手を掴む、触れた瞬間手が強
張った気がした。
﹁サリーマさん、コイツちょっと借りますね﹂
﹁はいよ。あ、なんだったら今日は帰ってこなくてもいいよ?﹂
﹁ちょ、ちょっと待て⋮⋮待ってくださいバカ、じゃなくて⋮⋮ク
リス⋮⋮様﹂
みぞおち
コイツが本気で嫌だったら、今頃鳩尾に拳が突き刺さってるだろ
うから、嫌がってないな。どうせ暇だし久しぶりにコイツと話すの
が楽しみだ。どっか良い雰囲気のカフェにでも連れて行こう。
なにやらイイ笑顔のサリーマさんとミーシャちゃんに見送られ、
市場を出て大通りに向かう。ばったり会った友達と話すのは何も疚
しい事じゃないのだけど、万が一ヴィヴィアンに見られたらなんか
気まずいからな。
∼∼∼∼∼
また違う女と歩いてるとか噂されたくないので、幻覚でお互い顔
を誤魔化してからカフェに入ると、マルフィーザはさっさと髪を下
して、長い髪を広げて頭を振る。ホッとしたような表情から見てや
っぱり無理してたっぽいなぁ。
574
﹁この髪型ね、父さんの命令で無理やりだったのよ、助かったわ。
それはそれとしてケーキと紅茶注文して、アンタの奢りね﹂
ちょうど店員さんが注文を聞きに来たので、紅茶とケーキを注文
する。マルフィーザは確かチーズケーキが好きだったと思うので、
二人分注文すると、さっきまでのしかめっ面は消えて機嫌良さそう
な笑顔を見せてくれた。
﹁この店はお手伝いのオバちゃん達に評判がいい店だから期待しと
けよ﹂
﹁デートに連れて来ておいて、そういう情報源は伏せといた方が良
いと思うわよ? けどまぁセクハラばっかりのエロバカの癖に、ア
ね
タシの好きなケーキ覚えてくれてたのは嬉しいわ、ありがとうクリ
ス。けどアンタの好きなドライフルーツ煉りこんだケーキもあった
じゃない、そっちも注文しても良かったんじゃない?﹂
チーズケーキ
﹁どういたしまして、そりゃ毎年山にチーズケーキ持って来たから
なお前。なんかお前と会ったらこれ食うのが習慣になってた﹂
アイテムボックス
こいつも︻収納空間︼使えるから、コイツが土産に持ってくるチ
ーズケーキが結構楽しみだったんだよな。
暫くケーキの話題で盛り上がってると、注文が届いたので、二人
同時にケーキを食べる⋮⋮うん、オバちゃんイチ押しなだけあって
美味いな。
﹁それで? 理由聞いても良いか?﹂
575
﹁母さんと妹との買い物中に引っ張っておいて今更ね。ったく初め
て母娘らしいことしてたのに邪魔するんじゃないわよ、どうせもう
すぐしたら毎日顔を合わせるんだから﹂
﹁へ? お前俺の嫁入りするのか? 分かった子供は何人欲しい?
最低でも三人は⋮⋮﹂
﹁バカ黙れ、話飛躍させんなバカ⋮⋮まっ周囲はそれ期待してるし。
嫁入りの前に元帥サマの副官兼秘書になるのよ、聞いてないの?﹂
そういえばカール王子が軍でのサポートするのに副官がいるって
言ってたな。あの時は重要な話をしてたから詳しい話は後回しにし
ちゃって結局聞きそびれたんだよな。
﹁後で紹介する副官ってお前だったのか﹂
﹁元帥なんて肩書だけで仕事はないの。それでスケベのアンタの秘
書はどうせ手を出されるからってさ、軍閥貴族の間じゃ一族の娘を
捻じ込もうって動きが凄かったのよ。婚約者の立場ゴリ押しでアタ
シになったけど﹂
⋮⋮ん? いまなんか聞き捨てならない一言が聞こえた気がした
ぞ。
﹁待て、お前なんか今凄い事言わなかったか? 婚約者ってなんだ
?﹂
﹁アタシとアンタよ、言ってないから知らないのも仕方ないわ。実
はね⋮⋮﹂
576
マルフィーザが言うには、俺が修業を終えて王都で冒険者を始め
たら、顔見知りだからと指名依頼で、マルフィーザと一緒に宮廷魔
術師としての仕事をする予定だったらしい。
そうして一緒に仕事をこなしてるうちに、同門の友人から恋人に
なって、そこで初めて婚約者の事を明かして結婚、モンドバン家に
婿入りって予定だった。
﹁婚約が決まったのは十二歳の頃。戸籍を管理してる部署があって
ね、婚姻関係の書類も保管してるんだけど、そこにちゃんと婚約が
成立したって証拠もあるわよ。大叔父様とアンタの両親のサイン入
りよ﹂
﹁おい、何故当人知らせないんだよそういう重要な事﹂
もんもん
まさか俺に婚約者がいたとは⋮⋮くっコイツの風呂を覗いて暫く
悶々して寝れなかった日々を返せ!
﹁ばか⋮⋮婚約とかそういうの関係ないわよ。デートとか繰り返し
てさ、アタシの事好きになって貰いたかったの。それで両想いにな
ったら夫婦じゃなくて恋人っぽい事したかったの、文句ある? ど
うせアンタに婚約の事知られたら、その日の晩には押し倒されて女
にされるでしょ? ⋮⋮求められたら抵抗しないけど﹂
うぐっ顔を赤くして目を逸らすマルフィーザがめっちゃ可愛い。
普段口が悪いのに、ふとした拍子に好意を伝えてくるのは反則だろ。
﹁で、期待して王都で待ってたら、アンタは別の女と結婚して、ア
タシなんて手の届かない勇者なんてなっちゃってさ⋮⋮﹂
577
﹁ごめん⋮⋮本当にごめん。俺自分の事しか考えてなかった﹂
﹁謝んないでよ、黙ってるように大叔父様に頼んだのはアタシだし。
なんだかんだと縁があったわけだし﹂
それでも王都で俺を待ってたマルフィーザの気持ちを考えたらじ
っとしていられない。知らなかったとはいえこの話を聞いて何もし
なかったら、俺はクズだ! でも具体的に何をしたらいいのか分か
らん! とりあえずケジメだ!
﹁マルフィーザ! 俺を殴れ!﹂
﹁うん、バカ落ち着け。スケベのアンタが副官のアタシに手を出さ
ない訳ないでしょ? で、手を出したら責任とってくれるよね?﹂
﹁勿論だ、特に役職なんてなくても手を出すぞ!﹂
言われるまでもない、婚約云々を抜きにしても、マルフィーザの
事は好きだしな。
﹁まぁアルチーナ様の後でね。サリーマ母さんの仕事の手伝いでア
ンタの結婚式が終わるまで、西の海岸でお仕事があるのよ。それで
帰ったら⋮⋮改めて口説いてよ、アンタの事は好きだけど、男から
好きだって言って貰いたいからね﹂
﹁ああ、楽しみにしておけよ﹂
話してるうちにもうすぐヴィヴィアン達と待ち合わせの時間にな
ってたので、俺たちはカフェで別れた。あとで嫁たちにもマルフィ
ーザの事話しておかないとな。
578
∼∼∼∼∼
買い物を終えた二人と合流して屋敷に帰ると、今朝オリヴィアが
言った通り、職人街でお祭りの準備に参加してるので、お手伝いの
オバちゃんたちを含め誰もいなかった。
﹁予想より早く用事が終わったから誰もいないな、今日は外食にす
るか?﹂
﹁折角新鮮な食材を買ってきたんですからアタシが作りますよ、姉
さんと一緒に待っててください﹂
アイテムボックス
︻収納空間︼に入ってれば、買ったものは時間経過しないんだが、
まぁいいや。ヴィヴィアンは上機嫌で、すぐにエプロンを身に着け、
厨房に入っていった。
そして食堂に残された俺とメリッサさん。嫁たちといつも食事を
してる部屋に彼女と二人だけと言うのもちょっと困る。主に俺の理
性的な問題で。
﹁ふふっ妹の⋮⋮家族の手料理なんてずっと諦めていたのに、あっ
さり叶ってしまいましたわ﹂
ヴィヴィアン同様上機嫌なメリッサさんは楚々とした仕草で俺の
隣に腰かけ、ごく自然に俺に腕を絡める。うおお、おっぱい柔らけ
ぇ、スゲェ良い匂い。年上のお姉さんに甘えられるのが、こんなに
グッとくるものだとは。
579
﹁メリッサさんなら家庭を持つくらいすぐだろ? 男どもが放って
おくはずない﹂
﹁あら? 嬉しい評価ですわね⋮⋮それじゃクリス君はお姉さんを
放っておくの?﹂
白魚のようなたおやかな手で俺の手を胸に導く。ふにょんと、指
が埋まるくらい柔らかく、服の上から揉んだにも拘わらず一瞬吸い
付いたかのような極上の感触。
まずい、絶対に主導権を握れそうにない。年上の余裕なのか俺み
たいなエロガキの扱いに慣れてるのか⋮⋮間違いなく両方だ。
﹁そ、そうじゃなくて⋮⋮帝国にいた頃からメリッサさんがモテな
いわけないだろ。身請けされたって話だし、相手がいる女の人に手
を出すなんて出来るわけない﹂
精一杯冷静に言ってるつもりだけど、今だ手がメリッサさんのお
っぱいから離れないのでどうにも情けない。俺のセリフをどう受け
取ったのか? 彼女は優しい目で俺に微笑みかけると、頬にキスを
してくれた。
﹁クリス君は優しい子ね、お姉さんますます気に入っちゃったわ。
それとね、身請けされたって言っても諜報員として送り込むためだ
ったから、私に旦那様はいないのよ﹂
普通娼婦を身請けするということは、自分の嫁にするためだ、金
持ちの場合はお妾さんってとこだが。娼婦側に身請けを断る権利が
ないので、彼女の人生を買った人物を知らないまま、この国に送り
580
込まれたのだという。
﹁それに難しく考えることはないのよ? お姉さんはもう、この身
一つしか持ち合わせがないの。呪いを解いてくれて、しかも妹に会
わせてくれたクリス君に、私が出来るお礼と言ったらセックスしか
ないの⋮⋮娼婦ですもの﹂
メリッサさんはますます密着し、正直辛抱するのが辛い。股間は
痛いくらい張ってるし、メリッサさんの大人の色気にクラクラして
きた。しかしヴィヴィアンがお昼ご飯を作ってる最中にエッチする
わけにもいかない。
・・・・
﹁と、床いそぎは野暮⋮⋮だろう? お、俺は嫁のヴィヴィアンを
放ってまでがっつきはしないぞ!﹂
嘘です、正直このまま押し倒したいです。経験豊富なお姉さんを
アンアン喘がせたいです。彼女からするとガキの強がりは微笑まし
いものらしく、もう一度頬にキスをすると離れてくれた。
﹁ふふっ、ヴィヴィアンは本当に素敵な人に出会えたのね、クリス
君の事も考えないでごめんなさい﹂
食事ができるまでの間、彼女と話をしていたのだが、メリッサさ
んは話し上手聞き上手で、時間はあっという間に過ぎたような気が
した。そして昼食を作り食堂に運んできたヴィヴィアンの一言。
﹁あれ? 姉さんが誘惑したのに、クリスさん襲い掛からなかった
の?﹂
ヴィヴィアン、お前は自分の旦那をなんだと思ってるんだ。エロ
581
ガキだって? ⋮⋮まぁ反論は出来ないな。
三人でヴィヴィアンの作った昼食を食べ、さぁメリッサさんの身
の振り方を話し合おうとしたのだが、メリッサさんの話術に誘導さ
れるように、俺へのお礼にセックスするのが何故か決定事項になっ
て、寝室に連れ込まれてしまった。
582
約束︵後書き︶
呼んで下さりありがとうございます。この後の話は少しずつ訂正し
ていきます
583
完全敗北︵前書き︶
少し遅いですがあけましておめでとうございます
年末年始の忙しさと、その他諸々でどうもペースが崩れてしまい申
し訳ございません。
今回のタイトルはあれですね主人公最強ものでも一回くらいボロ負
けしないと成長しませんから
︵ナニが成長するのかは言ってない︶
584
完全敗北
美人姉妹に左右の腕を掴まれ、寝室に連れ込まれた俺だったが、
為す術なくベッドに寝かされる。なんとか主導権を握ろうと抵抗し
ても、耳たぶを甘噛みされて、気が逸れているうちにズボンを脱が
された。
そして服を脱いだヴィヴィアンとメリッサさんの前に、抵抗を諦
めた。大人の色気にあっさり負けたともいう。情けないと思うなか
れ、考えてもみて欲しい。
小柄で童顔だが、けしからんエロボディのヴィヴィアンと、聖母
のように優しい微笑みを浮かべながらも、その肢体全てが、ガチで
男を誘う色気を発してるメリッサさんに迫られるのだ、抵抗するか
? 俺は無理だ。
たお
特にメリッサさん、彼女はヤバい。嫋やかな指の動きで撫でられ
ると、あっさり身体から力が抜けて抵抗できなくなってしまうのだ。
ってか左右から柔らかく巨大な膨らみを押し付けられて物凄く気持
ちが良い。
なんというか今すぐ押し倒したいのだが、なけなしの理性を総動
員して彼女に確認をしないといけない。
﹁メリッサさんは本当に良いのか? 俺かなり独占したがるタイプ
だぞ﹂
﹁フフッ﹂
585
優しい眼差しで俺を見るメリッサさんにドキッとした拍子に、あ
っさりと唇を奪われる。彼女の舌が歯茎を舐め、自然と口が開いて
しまう。
﹁むぐっ⋮⋮んんぅ⋮⋮﹂
舌が絡み余りの気持ち良さに声が漏れてしまう。無意識に俺の手
は彼女の胸に伸びて、指が埋まるほど柔らかいおっぱいの感触を堪
能してると、彼女は俺に組み伏せられるような体勢になってしまう。
俺としては普段通りに、積極的に感じさせてやりたい。しかしメ
リッサさんに限っては、動きを読まれてるかのように先手を打たれ
ヴィヴィアン
て為す術なく手玉に取られてしまう。いや、経験豊富なお姉さんに
リードされるのもそれはそれで興奮するけど、嫁に情けない姿は見
せたくないのだ。
反撃しようにも彼女の繊細な舌の動きは、生き物のように俺の口
の中を愛撫して、頭が痺れる。その淫靡な肢体は俺の手に吸い付く
ようだ。気が付けばまだチンポを触られてもいないのに、すでに勃
起してしまっている。
﹁んっあっ⋮⋮んくっ⋮⋮くぅ⋮⋮メリッサさん⋮⋮﹂
﹁キスで感じてるクリス君可愛いわ、お姉さんにもっと任せてね?﹂
唇が離れ、しばし見つめ合う、彼女の目はどこまでも優しく、甘
い温もりに包み込まれたかのような感覚に陥っていく。身も心も彼
女に委ねしまいそうな、甘く、優しい快感に酔っていく。駄目だ⋮
⋮経験値が違い過ぎる、娼館に嵌る奴の気持ちが分かった気がする。
586
勿論セックスはまだまだ始まったばかりだ、キスして終わりな筈
もなく。ヴィヴィアンは俺の股間の前に跪つき、チンポに舌を這わ
せ。メリッサさんはその巨乳で竿の部分を挟む。
ヴィヴィアンのフェラチオは嫁の中ではディアーネと並んで、す
ごく上手だ。しかし、全体を包む込むように柔らかい胸に挟まれ扱
かれる甘い刺激に、あっという間に痛いくらいに勃起してしまう。
やばい、パイズリがこんなに気持ち良いとは思わなかった。
﹁う⋮⋮あっ⋮⋮すげぇ気持ちいい⋮⋮﹂
オリヴィアを始め巨乳の嫁にもパイズリはして貰う事が多いけど、
どっちかと言うと奉仕して貰ってるという、視覚的な快感の方が大
きかった。しかしメリッサさんの柔らかく張りのあるおっぱいに挟
まれると、膣内とは全く違う予想外の動きで快感を齎す。
収まりきらずに、はみ出た先端をヴィヴィアンは口に含む。そし
てヴィヴィアンがパイズリを始めると、今度はメリッサさんがフェ
ラしてくれる。
二人同時にチンポを舐めたかと思えば、左右から二人の巨乳で挟
んだりと、射精しないように必死に我慢する。
﹁まぁ! こんなに大きくて逞しいオチンチン初めてよ、お嫁さん
たちがクリス君に夢中になるのも当然ね﹂
﹁ちゅ、くちゅ⋮⋮クリスさんは大きくて硬いだけじゃなくて、絶
倫で凄いから﹂
587
お世辞なのだとは思うのだけど、メリッサさんにそう言われると、
なんとなくいい気分になってしまうのは俺が単純だからか? この
人褒めるのが上手くて、的確に男の自尊心をくすぐってくるのだ。
美人姉妹がベッドに寝る俺の股間の前で、跪いて奉仕してくれて
いるシチュエーションに、二人の髪を撫でると、ヴィヴィアンとメ
リッサさんが照れたような表情で笑いかけてくれる。印象が違って
もどこか似ている微笑みにやっぱり姉妹なんだと納得する。
﹁んむっ⋮⋮んっんっ﹂
竿の部分をおっぱいで扱くメリッサさん。先端を口に含んだヴィ
ヴィアンの唇と舌は的確に感じる部分を刺激し痺れるような快感に、
気を抜けばあっさり射精してしまいそうだ。いくら二人が年上でも、
こんなに早く射精してしまうのは些か情けない。
唐突にメリッサさんはパイズリを中断し、玉袋に舌を這わせる。
ヴィヴィアンの単独のパイズリも気持ちいいけど、そこは俺以外に
経験のないヴィヴィアンと、プロだったのメリッサさんの差なのか
? まだ我慢できる刺激だ。
﹁あぁクリスさん、頑張って気持ち良くするから⋮⋮んっんくっ⋮
⋮﹂
鈴口に舌を這わせ先走りを舐めるヴィヴィアン。陰嚢を優しく刺
激するメリッサさん。美人姉妹の奉仕に我慢にも限度がある、俺が
ヴィヴィアンの頭を撫でるように両手を添えると、心得たようにチ
ンポを口の奥に含む。
﹁ごめん! もう出すぞヴィヴィアン﹂
588
ヴィヴィアンは俺の腰に手を回し、逸物を深く咥えると、いつで
も良いと言いたげに俺を上目遣いで見る。年上なのに幼く見えるヴ
ィヴィアンの頭を両手で抑えると昂りきった性欲を解き放つ。
我慢したせいで、勢いよく口内に吐き出された精液を飲み干した
ヴィヴィアンは、トロンとした情欲に火が灯ったような、淫らな表
情を浮かべる。
﹁クスッ、いつもより多いね、クリスさん﹂
﹁二人のパイズリとフェラが気持ち良すぎたんだよ﹂
体勢を変えて二人をベッドに寝かせると、フェラチオで興奮した
のか、すでに愛撫が不要なほど濡れていた。
並んだ巨乳美人姉妹が、脚をMの字に広げて俺に抱かれるのを待
ってる。思わずゴクリと喉が鳴るくらい淫らな光景だ。この姉妹を
今から抱くのだと思うと、さっき大量に射精したにも関わらず、先
ほどと変わらない大きさまで勃起している。
﹁あぁ⋮⋮出した直後でもこんなに逞しいなんて﹂
メリッサさんに驚いたような表情に気分を良くした俺は、彼女の
割れ目にチンポをあてがい⋮⋮キスをする。軽く唇に触れただけで
離すと、メリッサさんは優しく微笑みながら俺の耳元で小さく、だ
けど確実に聞こえるように﹁きて﹂と囁いた。この声はどこまでも
甘く、その誘いに抗うことはできなかった。
﹁あっ! んっ∼∼∼出したばっかりでこんなに大きいなんてぇ!﹂
589
ゆっくりと、膣の感触を確かめるように挿入する。メリッサさん
に膣内は抵抗なく奥まで俺を受け入れる。まるでそれ自体が別個の
生き物であるかのように俺のチンポを刺激し、動かしてもいないの
に物凄く気持ちが良い。
﹁す、すげ⋮⋮挿れただけでイッちまいそう⋮⋮﹂
挿入してすぐには動かさず、メリッサさんの膣を堪能する。不意
にメリッサさんの両足が腰に絡まりより深く繋がる。くぅ、これで
腰を動かしたらどれだけ気持ちいいんだ?
﹁んっ! 挿れた途端また大きくなるなんて、こんな凄いの初めて
よ。来てる奥まで届いちゃってるのぉ﹂
蕩けた表情がさらに俺の劣情を煽る。年上の綺麗なお姉さんが、
俺の逸物を銜え込んでうっとりと頬を染める姿に、更に喘がせたい
欲望が暴走する。もっと、もっと俺のチンポで喘がせたい、俺以外
の男なんて見向きもしないくらい感じさせてやる!
どうせ、エッチのテクニックで勝てるわけが無いんだ、唯一勝っ
てる体力でガンガン攻めて彼女を虜にしたい。娼婦として数多の男
たちを夢中にさせたであろう彼女を、独占したい欲棒が鎌首をもた
げる。
﹁あっあぁぁ! は、はげし⋮⋮﹂
体力に任せた我武者羅な挿入に彼女が感じてる、俺のチンポで快
感に喘いでる。気分を良くした俺は更に激しく攻める。もっと強く、
もっと奥まで届くように腰を叩きつける。
590
組み伏せた彼女は俺の腕の中で嬌声をあげている、絡み付いた両
足と、しがみつく様に背中に回された両手がさらに俺たちを密着さ
せる。腰を激しく動かしながらも乱暴におっぱいを愛撫し、ピンと
立った乳首に吸い付く。
ヴィヴィアン
もっとこの肢体を味わい尽くしたい。いや⋮⋮この美貌の彼女を、
嫁の姉を孕ませたい。そうすれば彼女は完全に俺のモノだ。情欲に
茹った頭はそんな自分勝手な考えを浮かべてしまう。
﹁はあっ! 凄い、いいのぉ! こんなに激しいのは初めてよ!﹂
﹁そんなに、そんなに俺のが良いのか! 俺とのセックスが気持ち
いいか!?﹂
﹁イイわ! クリス君が一番気持ちいいわ!﹂
潤んだ目で見つめながらそんな事を言われたら、堪らなくなるだ
ろうが、吸い付くような白い肌。手に収まりきらない程の巨乳も、
張りのあるお尻も手放したくなくなるだろう。
極上の肢体を組み敷いてるとは言え、妻であるヴィヴィアンも放
っておくわけにはいかない。腰を動かしながらヴィヴィアンを抱き
寄せキスしておっぱいを愛撫する。
﹁んむっ! ちゅ、んくっ⋮⋮﹂
逸物でメリッサさんを貫き、ヴィヴィアンの胸と唇の感触を貪る
快感。誰もが綺麗だと称賛するほどの美人姉妹を今だけは俺だけの
ものにしているのだ。
591
俺の腰の動きに合わせて、メリッサさんも腰をくねらせると、た
だでさえギリギリだった我慢があっさりと限界を超え。膣内に射精
してしまう。
﹁うっ⋮⋮くぅぅぅ!﹂
先ほどヴィヴィアンの口内に射精したばかりだと言うのに、彼女
の子宮内に注ぎ込んだ精液はさっきと変わらないくらい大量だ。
﹁ふふっやっぱり十代の子は元気ね、あんなに激しくするなんて、
夢中になってもらえたかしら?﹂
感じさせていたとは思うがイカせられなかったのは悔しい。出来
れば経験豊富な彼女を絶頂させ俺のチンポに夢中にさせたい。
﹁うふっまだまだヤル気満々って感じね、オチンチンも全然萎えな
いし﹂
﹁まだまだいけるさ、メリッサさんをイカせるまで終わらせない!﹂
逸物はまだメリッサさんの膣内に挿入したままだ、このまま彼女
の感じるポイントを探って⋮⋮ぐっ! 腰を捻られただけで、ヤバ
いくらい気持ちいい。一瞬でも気が逸れたのが失敗だったのか、彼
女は身を起こし騎乗位の体勢になる。
﹁頑張る男の子って素敵ね、だから⋮⋮もっと甘えて良いのよ?﹂
﹁あぁぁ! ね、姉さんなんでアタシを⋮⋮﹂
592
見れば、同じようにメリッサさんに体勢を変えられたヴィヴィア
ンは、姉の指でクリトリスとオマンコを愛撫されていた。
﹁ヴィヴィアンはクリス君以外に経験が無いのよね、基本も心構え
も出来てるけど、私から見ると処女も同然だし、クリス君の為にも
ちょっと教育してあげる﹂
﹁ひぃ! あっあっあぁぁぁなにこれ、あっあっんはぁぁぁぁ!!﹂
十分に濡れていたヴィヴィアンのオマンコは、メリッサさんの指
技で淫らな水音をたてる。
﹁ちゃんと締め付けなさい、この程度じゃクリス君の硬くて大きな
オチンチンを、満足させられるくらい気持ち良くしてあげられない
わよ﹂
片手だけの絶妙な指使いで、俺とのセックス以上に嬌声をあげる
ヴィヴィアン。美人姉妹の絡みにちょっと興奮するが、セックスの
主導権を何とか握りたいのでメリッサさんの意識がヴィヴィアンに
向いてる間に⋮⋮
﹁クリス君は気を楽にしててね、お姉さんクリス君の為に頑張るか
ら﹂
瞬間、腰の動きとと膣内の締め付けだけで、射精してしまいそう
なくらいの快感に襲われる。ま、拙いこのままだと何もできないで
イカされてしまう!
﹁あっあっ! クリスさん⋮⋮アタシ、アタシ指だけでイカされそ
う⋮⋮んっんっふぁぁ!﹂
593
俺の上に跨ったメリッサさんの優し気な微笑みは変わらず、だけ
どその目には隠しようのない情欲が灯っていた。
﹁クリス君のオチンチンがおっきすぎて、もう少しでイカされちゃ
うところだったわ。私にも一応元プロのプライドがあるし⋮⋮ちょ
っと攻めるわよ﹂
そう言って、腰を振った途端にチンポが食われるような錯覚に陥
った。絶妙な締め付けでまるで膣内に吸い付けられたかのようだっ
た。
﹁クリス君が相手を感じさせたがるタイプなのは分ったけど。私も
元プロとしてはクリス君を気持ち良くしてあげたいの。だからいつ
でも射精して良いのよ、受け止めるからね﹂
ヴィヴィアンとお互いに手を握り合い、快感を堪えるのだけど、
不規則な膣の圧力と、予想外の場所を刺激する腰の動きにあっとい
う間に射精してしまいそうだ。
﹁ふふっ我慢もセックスを盛り上げるスパイスだけど、どこまで耐
えられるかな?﹂
必死に快感に耐えている俺たちが微笑ましいのか、優しい声色で
語りかけながらも、彼女の指と腰使いはさらに激しく、繊細になる。
くっ! このまま出すだけなんて情けなすぎる、どうせイクなら
メリッサさんも気持ち良くしてからだ!
騎乗位の体勢なので、腰と突き上げ、彼女の子宮を叩く、さらに
594
奥へ、さらに深く俺のチンポで彼女のオマンコを犯す!
﹁はぁっ! やだ、射精したのにこんな奥までなんてっ! 凄っ、
あっあっあぁ駄目っ! 子宮口をそんなに激しくなんて⋮⋮﹂
俺の突き上げが予想以上だったのか、ヴィヴィアンへの愛撫が一
瞬止まる。その隙にメリッサさんの背後に回ったヴィヴィアンはメ
リッサさんの豊満なおっぱいを鷲掴みにして、反撃とばかりに乳首
を攻めた。
﹁せめて一回くらい姉さんをイカせてあげる﹂
﹁ひゃん! ヴィヴィアン、待って今攻められたら⋮⋮﹂
彼女に反撃するのは今しかない、激しく突き上げると、更に水音
が立ち、俺の下半身を濡らす。性器同士をぶつけ合う淫ら音が寝室
に響く。
﹁あっあっ当たってるわ、子宮に当たっちゃってる! んはぁぁ二
人がかりでそんなに激しくされたら⋮⋮﹂
表情からは余裕が無くなり、明らかに俺とのエッチで感じてる、
経験豊富な彼女を感じさせている。
ヴィヴィアンに胸を、俺から膣奥を攻められ、明らかに感じてる。
もうちょっとイカせられると思い油断したのが拙かったのか。それ
とも流石に元とは言えプロは油断を見抜いたのか。
﹁きゅふっ! ひぃあぁぁぁ! あっあっんはぁぁぁぁ!!﹂
595
メリッサさんの指はヴィヴィアンの膣内に侵入し、同時にクリト
リスを摘まむと、一瞬でヴィヴィアンは身体を硬直させあっさり絶
頂に達してしまう。
ヴィヴィアンの手が離れた瞬間、メリッサさんは俺に覆い被さる。
ヤバい腰の動きを抑えられて突き上げられない。
﹁ふふっクリス君のオチンチンは凄すぎるわ、これでもうちょっと
練習したら⋮⋮お姉さんメロメロになっちゃうかも?﹂
ちゅっ⋮⋮と彼女の唇が頬に触れ。同時に腰を軽くひねった瞬間、
彼女をイカせるまで射精するまいと我慢していたモノがあっさりと
限界を超え、彼女の子宮口に精液を吐き出してしまった。
﹁んっ⋮⋮くぅぅぅ! はぁはぁ⋮⋮﹂
駄目だ、無理に激しくしたせいか疲れた。勝てない。せめてもの
反撃でメリッサさんにおっぱいに顔を埋めてやる。
﹁参った⋮⋮今の俺じゃ倒れるまで抱いてもイカせてやれない﹂
﹁別に勝負って訳じゃないけど⋮⋮ふふっクリス君がもう少し経験
を積んだら、お姉さんあっさり負けちゃうかもね﹂
うむ、貴族になって家を興すって目標は達成したから、今度は経
験を積んでメリッサさんの身も心も虜にするのを目標にするのも良
い⋮⋮けどなぁ。
ナカダシ
﹁多分、メリッサさんさっきの膣内射精で妊娠したから、もう暫く
するとセックスできないな﹂
596
﹁え?﹂
俺の言葉が予想外だったのか、余裕のある笑顔で固まってしまう。
年上なのに仕草が可愛いなぁ。
﹁セックスする少し前に気付いたんだけど、メリッサさんって子宮
に不妊の術が掛けられてるでしょ﹂
﹁え、えぇ⋮⋮帝国の娼婦は全員そうよ﹂
詳しく聞くと、この術は性病を予防する術︱︱︱というか呪い︱
︱︱の一種で、娼婦は全てこの術が掛けられるそうだ、そして身請
けされると神殿にお金を払い術を解除してもらうそうだ。
ただ、解除方法が特殊で、よほど高等な神聖魔法か、高位の闇魔
法の使い手でない限り﹃子宮に直接解呪の魔力を帯びた精液を注ぐ﹄
という手順を踏まないと解除できない。当然身請けした女を他の男
に抱かれるのを嫌がる人間が殆どで、解呪は見送られる場合が多い。
俺は当然そんな手順を踏まなくても解呪できるが、折角なので正
規の手段で解呪させてもらった。エッチする前に確認したのはメリ
ッサさんに相手がいたら、この方法で解呪するのは拙いと思ったか
らだ。
﹁不妊の術を解除したら、なんで姉さんが妊娠したことになるの?﹂
﹁呪いで抑えつけられていたモノを解くと必ず反動があってな。こ
の場合、術を解いた瞬間に物凄く妊娠しやすくなる。術をかけられ
ていた期間が長いほど確率が高くなるんだ﹂
597
メリッサさんは真剣に俺の話を聞いて、下腹部を抑えている。ど
うやら自分に子供が出来るとは思ってなかったみたいだ。
ナカダシ
﹁一回目の膣内射精で術を解くだけなら妊娠することは無いんだけ
ど。二回目の膣内射精で九割九分俺の子供を孕んだと思う﹂
最初は解呪した後はヴィヴィアンの相手をして、エッチが終わっ
てから、この事を説明するつもりだった。そのあとプロポーズして、
彼女が頷いたら、お互い納得の上で⋮⋮って予定だったんだけど、
あまりにも気持ちが良いから途中でスッパリ忘れてた。
﹁子供⋮⋮私に子供が⋮⋮ううう⋮⋮﹂
﹁メリッサさん⋮⋮メリッサ、説明を後回しにしたのは悪かった、
今言うのは卑怯かもしれないけど⋮⋮俺と結婚してくれ﹂
﹁はい⋮⋮喜んで⋮⋮﹂
598
完全敗北︵後書き︶
ペースを取り戻すためにちょっとテンプレ短編一本書いて、調子を
取り戻そうと思います。
以前のペースになんとか戻れるようにがんばります。
読んでくれた皆さまありがとうございました。
599
懐妊︵前書き︶
読んでくださる皆様に報告があります
31話﹁姉妹﹂の後に﹁栄達﹂を差し込み投稿しました
筆者の構成の未熟さをお詫び申し上げます
600
懐妊
メリッサとヴィヴィアンの姉妹とセックスの後は、一緒の風呂に
入り汗を流す。巨乳美人姉妹と満足するまで風呂でイチャイチャす
るのはまさに天国、男の夢と言えるだろう。だから我が愚息が元気
になるのも仕方ないのだ。
﹁クリス君、もう回復したのね⋮⋮﹂
﹁左右から美人に身体を洗って貰えばそりゃ⋮⋮うん、もう一戦出
来るな﹂
どんなに疲れていても、左右から豊満なおっぱいを擦りつけるよ
うに洗って貰えば、そしてすべすべの白い肌をこの手で揉むように
磨いてあげていれば、元気になるのは自明の理だろう。
﹁んっ! クリス君そこは⋮⋮﹂
﹁さっきのエッチで汚れたところは洗わないと、遠慮しないで気を
楽にして、な?﹂
俺の唾液まみれになったおっぱいとか念入りに洗わないとな、泡
立てた石鹸をつけて、メリッサの白くて柔らかい双丘を下から掬い
あげるように揉む。勿論メリッサだけ贔屓するわけはない、可愛い
ヴィヴィアンのおっぱいも⋮⋮避けられた、ショックだ。
﹁はいクリスさんお預けですよ、このままじゃお風呂でセックス始
まっちゃいそうだし、これからお祝いの御馳走作るんですからね﹂
601
﹁分かった、我慢するよ﹂
エッチ出来ないのは残念だけど、まぁさっきのセックスでヴィヴ
ィアンもメリッサも疲れてるだろうから、これ以上疲れさせるわけ
にもいかないだろう。
活力を与える魔法はあるけど、それをするくらいならエッチを控
えるべきだ、日常的に魔法による治癒に頼ってると、いろんな原因
が絡んで身体に悪いのだ。月に一度や二度なら兎も角、セックスで
の疲労回復なんてのに頻繁に使うのは、相手を一切気遣わない屑の
所業だ。
その辺を心得てる二人は風呂から上がると、エッチの後で疲れて
るにも拘わらず、厨房で忙しく料理をしてくれている。このまま休
んでお祝いはどこかのレストランで⋮⋮とは言い難い。
﹁何か手伝えることあるか?﹂
﹁侯爵様になるんですからどっしりと構えててくださいな﹂
忙しそうな二人の姿を見て何か手伝おうと申し出たのだけど、や
んわりと断られた。そりゃヴィヴィアンに比べたら料理できないけ
どさ。
﹁でもほら新婚なんだし一緒に料理とか﹂
﹁新婚だからクリスさんのためになにかしたいんですよ。一家の主
なんですから、こういう事は女のアタシらに任せてゆっくりしてて
ください﹂
602
そう言われて厨房から追い出されてしまった、うーん困ったな、
手持ち無沙汰になってしまった。今屋敷にはメリッサ達姉妹の他は
俺しかいないし、本を読む気分でもない。昼寝するには中途半端な
時間だ。
そうだ、マルフィーザは元帥になる俺の副官になるんだから、パ
ーティーに招待しよう。手紙を書いて鳥形使い魔を召喚し、サリー
マさんの屋敷であるラージャ子爵邸に送ると、マルフィーザが召喚
したらしい使い魔が、手紙を持ってすぐやって来たので確認すると
⋮⋮ん? 手紙は二通あるな、片方はマルフィーザで夕飯時に訪ね
ると書いてある。もう片方は⋮⋮。
ヤ
︱︱︱クリス殿へ、マルの奴は明日の朝に西に海岸に行くから、
今晩は足腰立たないくらい犯っちゃ駄目よ? アタシの娘にしちゃ
奥手で純情だから優しくしてやるんだよ?
うむ、イイ笑顔のサリーマさんがマルフィーザを煽ってるのが目
に浮かぶが、マルフィーザを口説くのは副官に就任してからと決め
ているので今夜は無しだ。気心の知れた相手とはいえ、お酒飲んだ
後で押し倒すとかダメすぎるだろ。
とりあえず今日は嫁さん達に紹介する為に招くからエッチ無し、
日を改めてマルフィーザ好みの雰囲気で口説くと返信する。手紙に
サリーマさん宛と書くの忘れたけど⋮⋮まぁいいや。それにしても
本格的にやる事なくなったな。
だからと言ってパーティーのご馳走を作ってくれてる二人に、性
的な悪戯をするわけにも行かないし⋮⋮と、やることが無くて困っ
てる時、屋敷の敷地に良く知ってる気配が近づいてくる。オリヴィ
603
ア達だ、今朝言ってたより早いな?
なんにせよ出迎えに行こう、ふふっオリヴィア達も貴族名鑑を貰
ったのを知ったら喜ぶかな? 貰った分厚い名簿を持って正門まで
迎えに行と、俺の姿を見た瞬間オリヴィアが駆け寄ってきた。
﹁旦那様! 旦那様ぁぁぁぁ♪﹂
満面の笑みのオリヴィアがいきなり抱き着いてきて、甘えるよう
に全身を密着せてきた。
﹁おかえり、今日は嬉しいことがあったみたいだな﹂
職人街にお手伝いに行った筈だけど、何かあったのかな? オリ
ヴィアはもう嬉しくて堪らないと言った感じで抱き着くだけじゃな
はしゃ
くキスも繰り返してくる。遅れてやってきたディアーネ、アルテナ
は、燥ぐオリヴィアをニコニコしながら見てる。
﹁はい、はいっ! 旦那様聞いてください。今日お手伝いの後、占
い師の下を訪ねたら⋮⋮出来たんです。わたくし⋮⋮旦那様との子
供が出来たんです!﹂
﹁オリヴィアッッ! そうか、妊娠したのか⋮⋮ありがとう、ほん
とにありがとう!﹂
いつかは来ると思っていた吉報にオリヴィアを抱きしめ、何度も
キスをする。オリヴィアは嬉しそうに微笑みながらも目に涙を浮か
べて、言葉少なく俺に縋りついてくる。ああ、愛おしすぎてキスだ
けじゃ足りない、髪を撫でたり抱きしめるだけでも足りず、思いつ
く限りの愛情表現を彼女にその場で示し続ける。
604
この場合占い師とは、別に未来が分かるとか、運命が読めるとか
ではなくて、生き物や物質のオーラが見える特殊な魔法使いだ。
この術を使えると失せ物の場所が分かったり、行方不明の人が何
をしてるのかとか知ることができる。何より一番需要のある仕事は、
妊娠の有無を確かめる事だろう、いつ頃に授かったのかも分かるし、
安定期あたりになると胎児の性別もオーラで見分けられるのだとか。
﹁えへへ⋮⋮旦那様と二人だけでこの街を目指してた頃に授かった
みたいなんです、ひょっとしたら初体験の時かも知れないです﹂
﹁そうか、そうなるともう暫くすればお腹が大きくなりだすのか﹂
オリヴィアのお腹に手を添える、今はまだ目立たないけど、ここ
にオリヴィアと俺の子供が芽吹いたのか。あの日、一目惚れした少
女がこうして母親になる一歩を踏み出したと思うと⋮⋮ぐすっ、あ、
ヤバい泣きそう。
﹁オリヴィアァァ⋮⋮ぐすっ! 俺スゲェ嬉しいよ、嬉しいんだけ
ど涙が⋮⋮涙が止まらねぇよぉ﹂
﹁あらあら、旦那様ったら、初めて会った時と一緒で泣き虫さんで
すね﹂
抱き寄せられたと思ったら、頭を撫でられる。子ども扱いは勘弁
してほしいが、嫁たちに泣き顔を見せるのも躊躇われるので、この
ままオリヴィアの胸に顔を埋めて、涙が止まるまでそのまま抱きし
め⋮⋮。
605
﹁ご主人様、玄関先でイチャイチャするくらいなら屋敷の中に入っ
てくださいな﹂
呆れた声色のディアーネにツッコまれ、ここが玄関先だったのを
思い出した。
いかん、嬉しすぎて周囲を見えてなかった、そうだ、妊娠したか
らには身体を冷やすなんて言語道断、暖かい部屋でリラックスして
過ごさないと。とりあえずいつも皆で寛いでる食堂にオリヴィアを
お姫様だっこで連れていく。
ヴィヴィアンと一緒に厨房にいたメリッサを紹介すると、オリヴ
ィアにちょっと抓られたが、ヴィヴィアンの姉と言うことで受け入
れて貰えた。下半身にだらしない旦那でごめんなさい。
そのメリッサだが、オリヴィアの妊娠の事を聞くとすぐに真剣な
表情になる。
﹁ヴィヴィアン、確か生ハム用意してるわよね? 生焼けは駄目、
十分加熱した料理に変更よ、後はチーズがあったけど必ず火を通し
て﹂
﹁どうしたの?﹂
いきなりメニューの変更を指示したメリッサに尋ねると、なんで
も妊婦が火を通さないものを食べるのは、お腹の子供に良くないら
しい。他にも幾つかの香辛料や香草は避けるように材料のチェック
を始める。
帝国の娼婦は全員、不妊の呪いをかけられてるって話なのに詳し
606
いのは意外だった。他の嫁に聞かれないようにこっそり聞いてみる
と⋮⋮
﹁娼婦になる前に色々あったの﹂
とだけ言って、少し寂しそうに微笑むだけだった。言いたくない
のなら詮索はするべきじゃないか、妊娠できると聞いて嬉しそうだ
ったし、出産に関して思うところがあるのだろう。
﹁メリッサ、男の俺じゃ至らないところのフォローを頼む﹂
﹁分かったわ、後で私の知ってることを皆にレクチャーするから、
子供が出来た時の心得として聞いてね﹂
自分が妊娠した時の事を考えてたのだろう、明日嫁たち全員でメ
リッサの話を聞くことになったみたいだ。
﹁オリヴィアの妊娠で聞きそびれたんだけど、ルーフェイたちは?
別行動したのか?﹂
ルーフェイ、ティータニア、ユングフィアがまだ帰ってないけど、
どうしたんだろう? 地元民の上に神官戦士のユングフィアは大丈
夫だとして、お姫様二人は帰りが遅いと心配になる。あの二人は目
立つし可愛いからな。
﹁ルーフェイとティータニアは、オリヴィア妊娠のお祝いをするの
だと言って、職人街の人たちに頼んで、慶事があった時に食べるお
菓子を作ってくれてます。ユングフィアが付き添ってくれてますか
ら大丈夫だと思います﹂
607
確かクリームを塗ったパンケーキを、祝い事の席で振舞う風習が
クレイターにあったな。ただのパンケーキではなく、白いクリーム
の上に、色付きの砂糖で絵を描くそうだ。例えば結婚式なら鳥の絵
で、昇進なら魚の絵、妊娠ならウサギの絵といった具合⋮⋮だった
はず、昔読んだ本の内容なのでちょっとあやふやだ。
﹁職人街なら大丈夫だとは思うけど、暗くなるようなら迎えに行く
よ。後は⋮⋮そうそう、カール王子から魔王種討伐の褒美を貰って
な⋮⋮﹂
貴族名鑑を渡され、侯爵位の内定を受けた事。お飾りとは言え元
帥の地位を貰ったこと。そしてアルチーナ姫と婚約が決まった事を
伝える。侯爵位と元帥の座に関しては皆喜んでくれて、アルチーナ
姫との結婚話は何故か、皆は納得した表情だ。
どうも王家からすると、勇者の俺と親戚になるメリットが大きい
らしく、遅かれ早かれ彼女と婚姻話が持ち上がるのは予想してたそ
うだ。ちなみにアルチーナ姫と、オリヴィアとディアーネは顔見知
りで、特にオリヴィアとは仲が良いとの事だ。
彼女とはあまり会話してないけど、オリヴィアから話を聞くと、
とても優しい女の子とのこと。そう言えばティータニアが空から落
下してきた時に、真っ先に助けようと駆け寄ってくれたんだよな。
彼女とも上手くやっていけそうだ。
そうして、暫くするとルーフェイたちが帰ってきたので、ルーフ
ェイ自身が飾り付けた、ウサギの絵が描かれたパンケーキを皆で食
べ、お祝いは賑やかに始まる。
日が暮れる頃、おめかししたマルフィーザもやって来て皆に紹介
608
したら、意外にもあっさり皆に受け入れられた⋮⋮あれ? 予定と
は言えまた嫁が増えるのに注意とかないのか?
婚約者
疑問に思ってたらパーティーが終わる頃に、こっそりディアーネ
に教えて貰った、なんでもとっくに皆はマルフィーザの事を知って
たらしい。え? 知らなかったの俺だけ?
﹁ご主人様、普通は嫁入りする前に、相手の事くらい調べますよ。
王都では婚約が成立したら保護者のサインが入った書面を保管して
誰でも閲覧できますから、その気になればすぐ分かります、父が調
べて教えてくれたので私が皆に話しました﹂
﹁旦那様からお話してくださるまで待ってるつもりでしたので、紹
介されて直ぐに分かりましたよ。サリーマ様にそっくりなのは驚き
ましたが﹂
こ、この屋敷で知らなかったの俺だけか! 談笑する嫁たちとマ
ルフィーザを見て、なんか疎外感を感じる。くそぉマルフィーザめ、
修業時代と同じよう風呂覗いてやる。
609
懐妊︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
感想などで、ヒロインが多過ぎとのご指摘を賜り、読み返してみる
と確かにヒロイン一人一人の描写が薄くなっていると思いました。
展開のネタバレではないですが、ここから完結までは今までで名前
の出た女性以外に新たに嫁入りしないようにしようと思います。
610
講義︵前書き︶
お待たせしました
今回はエロなし
611
講義
オリヴィア
オリヴィア懐妊のお祝いの翌日︱︱︱貴族になる内定貰ったのも
あるけど、嫁に子供が出来た事の方が俺には嬉しい︱︱︱朝食の後
は嫁さん達全員がメリッサから妊娠中の心得講座を受けるべく、食
堂に集まってる。そして俺は屋敷から追い出された。
﹁はい、クリス君は外で遊んでてね﹂
﹁待てメリッサ、妊娠中のサポートって夫である俺も無関係じゃな
いだろう﹂
ほら、色々あるだろう。体調を崩した時に一刻も早く医者の所に
空を飛んで連れてくとか、酸っぱいものが食べたくなった時に市場
で買い占めてくるとか⋮⋮俺の主張に何故か頭を撫でられ、子供の
ように諭された。
﹁あのね、妊娠中のサポートは女達でやるから、クリス君はいつも
通りにしてくれればそれで良いの。どうせ妊娠中の苦しみは男に分
かるわけが無いから聞いても無駄よ、あとあんまりおバカな事やる
と、お姉さん怒るわよ?﹂
昨日から変わらない優しい笑顔なんだけど、妙に迫力のある態度
のメリッサに有無を言わせず追い出された。ううう、俺は夫なのに、
侯爵になるのに屋敷から追い出されるって⋮⋮。
今日一日中オリヴィアを抱きしめ、イチャイチャしていたかった
と言うのに、過保護は逆にストレス溜めるとか言われては引き下が
612
るしかない。メリッサめ、ベッドで苛めて泣かせて⋮⋮現状勝てな
いので俺が苛められ泣かされそうだ。
﹁ふふっ良い具合に尻に敷かれてるわねぇ﹂
﹁うむ、あの柔らかい尻で踏まれると、なんとも言えない幸せな気
分になってな﹂
屋敷を追い出されたのは仕方ないので、今日﹃熱砂の龍傭兵団﹄
の先遣隊千人と共に警備に向かうマルフィーザを送ることにした。
こうして二人で歩いて他愛もない話してるとなんか修業時代を思い
出すなぁ。
﹁アタシも結婚したらあごで扱き使ってあげるわよ。その代わりに
アンタの為になんでもしてあげるから﹂
﹁ああ、俺もお前が幸せになるように頑張っていい暮らしさせてや
る。その代わりお前の事好きにするぞ、具体的には最低でも三人は
孕ませてやる﹂
﹁いいよ、アタシ母さんと同じで安産型らしいし、何人でも産んだ
げる。勇者クラスの︻祝福︼があれば多分妊娠中殆ど悪阻とか無い
し、出産も楽だろうからね﹂
そうだな、術者の格が高い程︻祝福︼は効果が高いし、嫁さん達
が苦しまないならそれに越したことはない。法の女神から直接祝福
を受けたオリヴィアは言わずもがな。妊娠したと聞いた時は不安だ
ったが、マルフィーザに言われたらなんか気分が軽くなった気がす
る。
613
まだ結婚してないのに子供の話で盛り上がりつつ、サリーマさん
の屋敷までやってきた。なんかミーシャちゃんがお茶に誘ってくれ
たが、傭兵たちが出発の準備で忙しそうなので辞退した。だって居
心地悪そうだし。
﹁それじゃまたね、次に会う時は多分副官に就任する時だと思うよ﹂
﹁おぅまたな。次に会う時はちゃんと口説くから覚悟しとけよ﹂
別れ際、ミーシャちゃんに見えない位置でこっそり頬にキスして
くれたマルフィーザに、お返しとして唇にキスしたら鼻を抓まれた。
な、何故だ?
﹁このバカ、ファーストキスだったんだからねバカ。もうちょっと
雰囲気のある時にしてよバカ﹂
ごめんなさい
﹁ひ、ひゃい⋮⋮ほめんははい﹂
ううう、顔を近付けたら目を瞑って待ってた癖に理不尽だ。でも
顔が真っ赤なマルフィーザが今すぐ押し倒したいくらい可愛いので
許す。
アイテムボックス
サリーマさんの屋敷からも追い出されたものは仕方がない、余り
まくってる月光狼の素材を卸に行くか。地味に収納空間の容量圧迫
してるから早く処理したいんだよな。ただ狼の死体の山を積み上げ
ても迷惑にしかならないからなぁ。
アイテムボックス
とは言え、収納空間の維持に、少し魔力の消費が嵩む程度でそれ
ほど困ってる訳でもない。素材を卸して帰るだけじゃ暇だから、討
伐に行っても良い⋮⋮そうだな、妻が妊娠中屋敷でゆっくりしてる
614
なら、夫として働いて稼ぐのが甲斐性と言うものだ。
街で遊んでも良いけど、周辺住民はほぼ全員俺の顔を知ってるか
ら、はしゃぐのも場所を選ばないといけない。貴族になるんだ、今
後は外聞ってものを気にしないと。良しここは気合を入れて仕事に
精を出すとしよう。
点検を終えたゴーレム馬車を受け取った後は、大物の縄張りを教
えて貰うために、辺境伯の屋敷の敷地内にある素材買取所に向かう。
するとそこでは威勢のいい声が響いていた。
﹁だからよ、誘き寄せるための肉なら何でもいいんだ、出来るだけ
血の流れてない魔物の死骸は無いのかい? 血の匂いが無いと食い
つきが悪いんだよ﹂
﹁ロバートさん勘弁してくださいよ。ここに運ばれるのは大抵切ら
れたり刺されたりして死んだ魔物ばっかりっすよ? あんたが部下
使って鈍器でも使って仕留めりゃ良いんじゃないかい?﹂
﹁全然数が足りねぇんだよ。大物引き寄せるには大量の餌がいるん
だ、手下どもだけじゃ足りねぇよ﹂
ロバートって聞いた覚えがあるな、確か開拓団の主力として屋敷
を与えられてる傭兵だっけ? 俺がティータニアを助けた時にでき
た傷口を洗ってくれた人だ。魔物の死骸を欲しがってるなら譲って
あげても良いか。
﹁ちょっと良いかな? 魔物の死骸なら余ってるから譲るよ﹂
﹁おっ? そりゃありがたい⋮⋮って勇者様かい﹂
615
﹁こっこれは勇者様! 足を運んで下さり畏れいります﹂
買取所の職員はちょっと緊張してる感じだけど、如何にも歴戦と
言った風情の彼はかなり砕けた感じで接してくれる。うん、俺とし
てもこのくらいの方が話しやすいな。
歳は40前後、全身が戦うための筋肉で覆われている感じだ。十
数人の精鋭だけで構成された﹃草原の隼傭兵団﹄は多くの国から好
待遇での仕官の誘いが来るほど、信用と実績がある一団らしい。
三千人も抱えてるサリーマさん達が割とおかしいだけで、十数人
くらいが普通の傭兵団の規模なのだとか。ただ、人数が多ければ活
躍する機会も多いので、名声ではサリーマさんの﹃熱砂の龍傭兵団﹄
に一歩劣る為、彼らへの対抗意識が強い。
そしてつい先日サリーマさんの息子のマヘンドラさんが、子爵の
地位を貰ったのがこの街に集まった冒険者や傭兵たちの間に知れ渡
った。俺もヴィヴィアンから聞いたので、後で何か餞別でも贈ろう
かな? 海岸に長期滞在する為の準備中だそうだし。
﹁この話を聞いて奮い立たなきゃ男じゃねぇさ! なんたって土地
を治める貴族になれるってカール様の意思表示だからな﹂
サリーマさん達に対する対抗意識もあるけど、それ以上にロバー
トさんからは隠しもしない野心が溢れていた。どんなに好条件での
誘いであっても、平民の上に戦いしか知らない傭兵には、決して領
地や爵位などは与えられないのが普通なのに、ここではそのチャン
スが前例付きで示されたのだ。
616
ロバートさんも年齢的にそろそろ引退を考える年齢だからこそ、
公務員
カール王子の﹃平民であっても貴族に取り立てる﹄と言う話に積極
的なわけだ。部下たちも家臣にすれば立派な武官だからね。
魔王種討伐を手伝った彼らで子爵になれるのだから、自分たちも
⋮⋮と奮い立っても何もおかしくはない。
﹁それで大物を狩るために餌を集めてたのか﹂
見れば彼の部下らしい屈強な男たちが、魔物の死骸を乗せた荷車
の近くに待機していた。戦士として技量は俺には分からないけど、
何人かは結構な魔術の腕を持ってるのが分かる。
アイテムボックス
﹁俺は収納空間の魔法が使えるから、ロバ︱トさんが良かったら現
地まで同行しようか? 丁度嫁さんに家を追い出されて討伐に行こ
うと思ってたんだ﹂
﹁ん? 勇者様が追い出されるって何やらかしたんだ? 浮気かい
?﹂
浮気じゃない、手を出した女性は全員本気だ。とりあえず妻の一
人が妊娠したんで嫁全員で妊娠中の勉強をしてると教えると、ロバ
ートは破顔して背中を叩いてくる、痛いからやめてくれ。
﹁そいつはめでたいねぇ! 勇者様から運を分けて貰えそうだし、
ぜひ一緒に来てくれよ﹂
考えてみれば一人で討伐に行くと嫁に怒られるから、彼らと一緒
に討伐なら問題ないか。
617
﹁それじゃよろしく、あとクリスでいいよ﹂
﹁おっし! よろしくなクリス。俺らが狙ってるのは水蛇竜の卵で
な。ついでに水蛇竜の棲み処になってる湖はこの街の水源の一つだ。
群れを散らして、人が住めるように確保すれば大手柄間違いなしだ
ぜ﹂
最も優れた騎獣とはなにか? と、聞かれて別の国の人は馬と答
えるだろう、またある国では飛龍と答えるかもしれない。書物で読
んだだけのある国では天馬こそ至高と断じていた。そしてこの国で
最高の騎獣とは水蛇竜であると殆どの人が答える。
水蛇竜の背に跨り、縦横無尽に戦場を駆ける騎士は水竜騎士と称
され、彼らの活躍が戦況の趨勢を決するとまで言われる。水蛇竜に
跨った騎士に一度も憧れない少年は居ないとまで言われている。
水蛇竜は蛇のように長い胴体をもつレッサードラゴンの一種だ、
最大級の個体で全長約20メートル。空を飛ぶわけでもなく、鋭い
爪牙も持ってない。やや肉食寄りの雑食で、森だろうが高原であろ
うがが、ある程度の水場さえあればどこでも縄張りにする。
鋭い嗅覚を持ちで、血の匂いを嗅ぐと縄張りの外であっても襲っ
てくるし、縄張りに立ち入ればすぐさま群れで襲い掛かる。
水蛇竜は強力な魔物なので、その縄張りの周囲には殆ど他の魔物
は寄り付かない。縄張りを主張するのに独特の臭気を発する粘液を
木や岩に擦りつけるので、その匂いを嗅いだ魔物は一目散に離れる
のだ。この粘液は持続時間の長い魔物払いの道具として、鱗や牙よ
りも価値のある素材だったりする。
618
基本水棲の生き物だけど、砂漠でもない限りどんな悪路であろう
とも一切速度を落とさず這い続けられ、しかも頭の後ろに鞍をつけ
るのだけど殆ど振動が無いそうだ。勿論泳ぎにかけては下手な魚よ
りも遥かに速い。
野生の成体は人に懐かないが、卵を召喚魔法を応用した術で孵化
させると、とても人に従順で賢い。野生でもかなり賢いのだけど、
人が育てると人語をある程度理解する程だ。
ちなみに俺の師匠は魔術で操った水蛇竜にボートを曳かせてたな。
だって水蛇竜がいるだけで弱い魔物って近寄らないので、とても楽
なんだそうだ。
さて、そんな最高の騎獣である水蛇竜だが、当然卵を手に入れる
のは並大抵の難易度じゃない。水蛇竜は縄張りに中で群れて生活し
てる上に、卵は纏めて水の底、しかも数頭が常にとぐろを巻いて守
ってるのだ。
水中で水蛇竜の群れと戦うなんて、人間には不可能なのだからど
うやって卵を手に入れるかと言うと。獣肉で少しずつ誘き寄せて陸
上で倒す。かなり慎重にやらないと十数メートルもある水蛇竜に、
群れで襲われるから文字通り命懸けの釣りと言えるだろう。
それを繰り返していくと数十体に一体の割合で、粘性の強い保護
膜で覆われた卵が、尻尾とかにくっついてる場合があるのでそれを
回収するしかない。多分とぐろを巻いて、守ってる最中で飢えてる
ところを誘き出された個体なんじゃないかと言われている。
習性はともかく、延々と卵のついた水蛇竜がやって来るまで戦い
続けないといけない、しかも確実にくる保証はどこにもないのだか
619
ら、腕に自信が無いととても挑戦する気にもならないのが水蛇竜の
卵と言うものだ。
﹁水源は北東だったね、ゴーレム馬車なら一時間で着くし、皆俺が
乗ってきた馬車に乗ると良いよ、俺が操作するから普通より早いぞ﹂
﹁流石に全員は乗れねぇ⋮⋮まぁ屋根に乗っけりゃ良いか、振り落
とされたらそいつが悪いって事で。野郎ども、適当に屋根に乗る奴
決めとけ﹂
﹁面白そうな話をしてるな、俺も噛ませろ﹂
ロバートさんの用意した物を収納空間に収めていると、背後から
声をかけられた。確か彼も玉蹴りの試合で見たな。なんか拝みなが
ら怪我を治してくれた土魔法の使い手の人だ。
﹁ジャックじゃねぇか、普段ソロのお前が珍しいな﹂
﹁鉄の帯を操る人だよね、この前は怪我を治癒してくれてありがと
う﹂
かなり親しげなのでロバートさんと同年代かと思ったら、かなり
若くて30歳だそうだ。ただ少し童顔なので20代半ばにも見える。
﹁なぁに、勇者様の女運を分けて貰ったお陰か、馴染みの女に身請
冒険者
け話を持ちかけたら首を縦に振ってくれてな。ここはひとつ手柄を
立てて、根無し草から足を洗おうと思ってな﹂
彼はこの街出身だそうで、以前からこの街にあった娼館は需要過
多で、幼馴染の娼婦を身請けしようにも難しかったらしい。それが
620
最近娼館が増えたおかげでやっと身請けできたそうだ。
﹁勇者様は確か軍のお偉いさんになるんだろ? 実力をアピールす
るのが目的さ。それとロバート、手柄なんぞは全部くれてやる、そ
の代わり俺が軍に入れるようにちょいと手を貸せ、コネあるだろお
前﹂
二つ名持ちの冒険者なら何処だって厚遇すると思うけど、それだ
けじゃやっていけないって事なのかな? なんでも権力のある人の
後ろ盾があるのとないのでは待遇がかなり違うそうだ。具体的には
危険な任務を押し付けられる可能性が高いらしい。
ロバートさんもジャックさんの実力は認めているので、彼も湖に
同行することになった。彼の二つ名は﹃龍首落し﹄レッサードラゴ
ンの水蛇竜くらいなら、群れで襲ってきても撃退できるそうだ。
なるほど、その身に流れる研ぎ澄まされた魔力を見れば納得だ、
正直勇者になる前の俺より強そう。得意とする魔術の系統的に対魔
物なら俺が上で、対人ならジャックが圧倒的に上回る感じだ。
∼∼∼∼∼ 贅を凝らした部屋には血の匂いが漂い、不快な呻き声が響き続け
る。使えないクズは何処まで役に立たないんだ? せめて不快な声
を抑える程度はして見せろクズがっ!
﹁おい、俺様を待たせた挙句が﹁クレイターの姫は二人ともマーニ
ュに嫁いだ﹂だと?﹂
621
﹁ううう⋮⋮お許しを⋮⋮すぐに詳細を調べて姫をお連れいたしま
す﹂
既に原型を留めていない顔面に蹴りをくれてやり壁に叩きつける。
ちっ力を入れ過ぎたせいか、俺様のベッドに飛び散ったクズの血が
付いちまった、処分して新しい奴手配させねぇとな。
﹁馬鹿が、他の男が触れたかもしれない女なんぞもういらねぇ、ク
レイターには相応の誠意を見せるまで船を出さないようにしておけ。
ったく獣女を奴隷にするのは向こうが根を上げるまで待って⋮⋮ま
てよ?﹂
確かクレイターの姫はどっちもロリだ、結婚しても手を出されて
ない可能性は低くはないか? それなら俺様のモノになる予定だっ
た姫奴隷を、奪った間男の前で処女を散らしてやるのも楽しそうだ。
いや、政略結婚ならお互いに大して興味が無いかもしれない、そ
れなら⋮⋮女神官はどうだろうか? 真面目に信仰に励んでるよう
なのは殆ど処女だろうし、そういうのを奴隷にして今まで信じてた
ものを滅茶苦茶にしたら⋮⋮その上でそいつに好意を寄せてる奴が
いれば⋮⋮ただ奴隷を犯すより楽しそうだな。
ふひっ! ふひひひ、想像するだけで勃ってきた。その場合その
男も奴隷にしてやってもいいな、延々と想い人が俺様に犯され続け
るのを見せてやってもいい。
確かカールの治める土地は法の女神の大神殿があったな。魔王種
の蟻に襲われたんじゃなければクレイターの姫もいるかもしれない
し、ついでに探させるか。まだ処女なら奴隷にしてやってもいいし
622
な。
﹁おい、奴隷にした魔物を好きに使っていいから、法の女神の大神
殿がある街を襲って来い。それで姫がいれば攫え、居なくても大神
殿で修業してる女神官を連れて来い﹂
ゲームだとアルテナってキャラがいたな、上手くすればソイツが
俺の手元に来るかもしれないな。泣き叫びながら神に祈ってるとこ
ろで処女を奪うのを想像したら⋮⋮ふひっ気分が乗ってきたからま
だ壊れてない奴隷を⋮⋮と、思ったがこういう気分が乗った時は真
っ先にレヴィアが思い浮かぶ。
奴隷にされてもなお、プライドを失わずに俺を睨む美貌の姫騎士
を思い浮かべる。ああ、やっぱりレヴィアが一番良いな、あいつが
もうちょっと従順になれば不妊の呪いを解いてやって孕ませてやろ
う。
アイツあれだけ美人なんだ、俺に差し出されるまでアイツを好い
てた奴がいるかもしれないな。そういう奴にレヴィアは俺の所有物
だと見せつけてやるのに、ボテ腹セックスも良いかもしれない。
くひひ⋮⋮俺様へのせめてもの抵抗なのか普通に抱いただけだと、
全然声を出さないでイクのも必死に堪えるレヴィアだ。今日は媚薬
を飲ませてアクメさせてやるか。我慢は良くないからな、たまには
奴隷も気持ち良くさせてやるのも主人の務めだな。
∼∼∼∼∼
623
﹁くしゅん!﹂
﹁どうしたのアルテナ? 少し顔色が悪いみたいだけど風邪?﹂
なんでしょう? 一瞬寒気がしたのですが体調を崩したのでしょ
うか? 嫁入りしてそれほど日が経ってないので、まだ妊娠の兆候
が出るわけないですし。
少しの風邪くらいで神聖魔法に頼るのは、逆に病気への抵抗力が
無くなるので、体調不良程度では魔法で治すのは慎むべきですね。
神殿での暮らしではないので、最近少し夜更かししすぎたかしら?
﹁失礼いたしました、お話を遮ってしまい申し訳ございません﹂
昨日クリス様に見初められこの屋敷にやってきたメリッサさんの
お話は大変有意義で、流石に経験豊富な方は頼りになります。
﹁基本的な事はさっきのお話でおしまいよ、実際妊娠しても殆ど体
調を崩さない人もいれば、まともに動けなくなるくらい悪阻が酷い
人もいるから、お互いに体調に気遣いましょう﹂
メリッサさんの一声で熱心に話を聞いていた皆さんは緊張が解か
れたようにため息をついた。神殿が運営する診療所で働いていた私
は、出産に立ち会った事が何度かあるのですが、妊娠中の注意事項
はためになりました。
昼食にはまだ早い時間ですので、これから自由時間に何をしよう
かと考えてると、ディアーネ様が立ち上がりメリッサさんになにや
ら目で合図を送ってます。
624
・・
﹁それでは、態々クリス君にお出かけして貰ったから、本来の講義
を始めます﹂
﹁わふぅ? 妊娠中の心得以外に何かありましたかメリッサ姉様﹂
﹁妻の嗜みとして料理とか?﹂
これから街に散歩に行く予定だったティータニア様とルーフェイ
様が不思議そうに首を傾げてます。私も妊娠中の心構えを聞く以外
は何も聞いてません。
﹁エッチな旦那様を満足させてあげるために、元娼婦のお姉さんが
色々教えてあげますからね﹂
そう言って、初めてあった時から変わらない、優しい微笑みを浮
かべるメリッサさんは女の私から見てドキッとするくらい綺麗で色
っぽいです。クリス様のお手付きになるのも納得です。
昼食をとるのも忘れるくらい皆で熱心に受けた講義はとても有意
義で、なんとなくアストライア家の夫人一同の距離が縮まった気が
します。さぁ今晩は私がクリス様の閨に向かう予定なので頑張って
教えを実践しようと思います。
625
講義︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
美容等、身体の手入れに関しては王国トップレベルのディアーネ
化粧の技術に関して英才教育を叩き込まれたヴィヴィアン
実戦的なエロテクは最上格のメリッサ
この三名により嫁さんたちのエッチレベルは日々成長中
626
堕将︵前書き︶
今回難産の為に遅れて申し訳ございません
627
堕将
ただでさえ広大な皇城の片隅にある離宮から、兵士たちが待機す
る兵舎までは最短距離ですら30分。俺のような武官では立ち入れ
ない区域を避けると、速足で歩いても1時間はかかる。ったく、庭
を馬で移動させろよくそったれが。
ああくそっ、なんで偉い奴ってのは、こうも無駄にだだっ広い場
所に住みたがるのかね? 何かにつけて広く大きい造りの皇城は、
どこかに移動するだけで時間がかかるのは不便じゃないのか? 住
む奴の事を考えてない証拠だな、滅べばいいのに。
俺︱︱︱ピサロ・ゲルム︱︱︱は、離宮に呼び出しを受けて、渋
々足を運んだのだが。ついさっき下された理不尽な命令に頭を悩ま
せている。そういう意味では、この無駄に長い廊下にも意味がある
のだろうか? 理不尽をなんとか飲み込む時間を与える意味で。
﹁他国の神殿を襲えって何考えてやがる⋮⋮いくら勇者だからって
ありえねぇよ⋮⋮﹂
つい口に出た愚痴に、慌てて周囲に誰もいないか確認する。この
皇城では勇者の言葉は皇帝の言葉と同等、疑問を呈するだけで処罰
される可能性がある。なまじ皇帝に目を掛けられてる敗戦国の武官
など、周囲が寄って集って排除するだろう。むしろ排除しろよ、田
舎で大人しくしてろと言えよ。
リーテンブ帝国の皇帝は秀でた者であれば等しく取り立てること
で有名だ。戦場で活躍した戦士や賢者と名高い学者、誰もが認める
628
職人、果てはどんな場所にも侵入できる泥棒までも召し抱えるとす
ら言われている。そしてそれは事実だ、帝国軍を散々殺した敵将す
らこの皇城に住まわせるのだから。
皇帝から﹁其方の武技と軍才は万の兵よりも得難い﹂とありがた
くもない評価を受け、周囲から嫌な目で見られている。それだけな
らまだしも人質を取られ、お手軽に使われている現状、いつ使い捨
てられるか分かったもんじゃない。
皇帝に目を掛けられてるからと言って、好待遇とは限らない。現
に先程、殆ど死にに行けと言わんばかりの命令をされたばかりだ。
自分が⋮⋮ブルートーン王国の大将軍であった己が、まさか神殿
に押し入り女子を攫う賊の真似事をせよとは⋮⋮勇者の言葉でなけ
ればその場で切り殺していた、いや帯剣は許されていないので殴り
殺していたであろう。しかし受けざるをえないのが今の俺だ。
姫が⋮⋮姫が奴の命に背けば殺されてしまう。くそっ! くそが
奴隷化の呪いさえなければっ! かつて婚約者として親交を深めた
少女は、今や表情が全く変わらない人形のようになってしまってい
る。
どうすれば無垢な少女に、あれほどまでに絶望に満ちた目をさせ
ることができると言うのか。これ見よがしに姫をすぐ傍に立たせ、
この命令を下したのだ。
叶うならその辺の高価そうな石像を破壊して大声で奴の罵りたい、
いや、今すぐにでも斬りたい。三歩歩く間に十通りもの殺害計画が
脳内に練りあがるが、主人が死ねば奴隷も死ぬ、単純にしてどうし
ようもない現実があった。
629
任務を果たし姫の奴隷化を解いて貰う、そのような交渉も無い。
奴は自分のモノを他人に渡すのを極端に嫌がるのだ。
以前奴隷になった主君の娘を返してほしいと願った騎士がいた。
戦で大功を立て、生涯楽に暮らせる程の恩給を捨てても、主君の娘
を自由にしようとしたその男に、皇帝も感銘を受けたらしく﹁許す﹂
と諸将の前で頷いた。
真に忠義の士よ、あぁ臣とは彼の如く在れ。心ある者は皆彼を称
えたが⋮⋮死んだ。奴隷化を解かれ、騎士に嬉しそうに駆け寄る姫
は彼共々に、いきなり癇癪を起こした勇者に殺されたのだ。
﹁やるしか⋮⋮ないか⋮⋮﹂
兵舎に到着し、部下たちに勇者から受けた命令を伝えなければ。
抗う事のできない自分の無力さに、零れ出た言葉は、自分のモノと
は思えないほど疲れ切ったものだった⋮⋮
∼∼∼∼∼
猛スピードで北東の湖に向かったので、昼には大分早い時間に到
着した。ゴーレム馬車の屋根に乗ってた人達がなにやら体調が悪そ
うだけど、少し休めば何とかなるだろう、ジャックが鉄帯で支えて
くれたおかげで脱落者はいなかったしな。
﹁いやぁゴーレム馬車ってのはあんなに速いもんなのか、俺もいつ
かは欲しいもんだぜ﹂
630
﹁あんなスピードが出るのはクリスのバカげた魔力のせいだ。普通
は馬より早い程度だぞ﹂
整備されてない道を走ったので、車軸とか一応確認するが特に問
題は無かった。うん、近所の馬車職人も良い腕してるな、最高速度
で走っても大丈夫なように補強されてる。
嫁達が乗ってると振動に気を使って走るのだけど、乗ってるのが
全員男なら気兼ねなく最高速度が出せて楽しかった。男同士だと気
を使う必要が無くて楽でいいな。
小高い丘の上から見下ろすカロリングの街の水源の一つ、ナーガ
ス湖。この広大な湖は50年前まで北側にあるブルートーン王国と
交易の拠点として多くの船が行き来していた。
しかし月狼王の出現と、リーテンブ帝国にブルートーン王国が併
呑されたために、それ以来このナーガス湖は人の往来が絶えて久し
い。帝国とも一応交易はあったけど、陸路の方が安全なので殆ど使
われなくなったのだ。
﹁50年も人が住んでないと、かつて交易で栄えたナーガスの町も
殆ど廃墟だな、それでも石造りの倉庫とかは残ってるから拠点には
できそうだし、復興もすぐできる﹂
ただ殆どの石造りの建物には水蛇竜の縄張りを示す粘液が張り付
いてるあたり、町中は恐らく水蛇竜の狩場なのだろう。水中なら魔
王種からも逃げるのは容易だし、餌も豊富となればかなり大きな群
れを形成してると思われる。
631
﹁傭兵団の人達辛そうだし、少し休んだら、水蛇竜の狩りを始めよ
うか?﹂
﹁いや、クリスとジャックがいれば数頭纏めてでも勝てるだろう、
あいつらは素材の解体をさせりゃいいさ﹂
丘の上に魔物払いの術を構築し、気分の悪そうな人たちを待機さ
せ、俺とロバート、ジャックの三人で湖に近づく。水蛇竜は恐ろし
く嗅覚が鋭いから、湖からは3キロメートルほど離れていても、人
間三人が縄張りに近づいてるのは気が付いてるだろう。
﹁おっし、それじゃクリス、魔物の肉を出してくれ、俺が空から誘
導してくる﹂
作戦としては単純で、﹃天駆け﹄のロバートの二つ名の通り、彼
は空を走れる風魔法の使い手だ、空から肉を撒いて数匹ずつ誘き寄
せて倒すと言うもの。考えなしに肉を落とすと水蛇竜に囲まれるだ
けで終わるので、その辺は経験豊富なロバートに任せるしかない。
囲まれても俺がいればなんとかなるけど、そうすると﹃ロバート
達の手柄﹄にならない可能性があるからな、自分の野望の為だから
サポートだけに留めて欲しいと頼まれてる。
まぁ傭兵団の人達に死人が出かねない状況になったら、まとめて
眠らすとかするつもりだ。とは言ってもロバートが手に負えないほ
どの状況に陥らせるとも思わないので、言われたとおりにサポート
に徹しよう。
縛った物を浮かせる効果のある魔法道具﹃荷運び紐﹄で、取り出
した狼の死骸を大量に持ったロバートが、ナーガスの町の上空へ駆
632
けて行った。
俺とジャックは釣りあがるのを待つしかない、俺たちは特に言葉
を交わすことなく、草むらの上に座り目を閉じ意識を自身の内に向
ける。簡単な瞑想だが戦闘の前にしておくと魔術の精度が高まるの
で、魔法使いとしては言われるまでもない当然の事。
そうして暫くの間瞑想を続けると、ロバートの気配を感じ、目を
開く。大量の狼を持ってないので全部ばら撒いたのだろう、収納空
間を開き次の釣り餌を取り出そうとすると⋮⋮
﹁部下たちを連れて撤退するぞ! 急げ異常事態だ!﹂
焦る声を聞いて即座に魔物払いを張った陣地まで走る。走りなが
ら事情を聞くと、通常では考えられないほどの水蛇竜の群れが南西
の方向、つまりカロリングの街の方向に向かってるとの事だ。
﹁一つの群れなら飢えたとか縄張りを追われたとかの理由で、大勢
の人間が住んでる町や村を襲うのは極稀にあるんだが⋮⋮空から見
た限り千匹は居やがる、湖の中にも、もっといるかもしれねぇ!﹂
水蛇竜はレッサードラゴンだ、野生でも知能は高い、高いのだけ
ど野生なだけに飢えれば人を襲う。しかし千匹以上の群れが一直線
に街に向かうのはいくらなんでも不可解だ、この場合誰かがそうな
るように仕向けたと考えるべきか。
魔物を調教して従える術は闇魔法の一種だが、これだけの数を操
るのはコストが高いだけで、細かい指示を出せないのであまり意味
がない。そうすると先頭を駆けてる奴に率いられてるのか? 違う
にしても似たようなものだろう。
633
﹁ロバート、ジャック、多分これは人為的なモノだ、俺が水蛇竜の
群れを止めるからお前たちは怪しい奴を探してくれ﹂
﹁了解だ、敵がいるとしたら町の建物の中か船に乗ってる可能性が
高い、俺は湖面を、ジャックお前は町中を索敵してくれ。部下たち
も同行させる﹂
﹁敵がいたら可能な限り生かして捕らえるぞロバート。その方が情
報を搾り取れて手柄になる﹂
経験豊富な二人は異常事態でも混乱しないで俺の意図を読んでく
れる、ロバートが空を走り、ジャックが鉄帯を蜘蛛の足のように操
り、物凄い速度で町へと向かって行った。
さて、水蛇竜は平気で城壁とか乗り越えるから、カロリングの街
へ行かせるわけにはいかない。
とりあえず俺の方に来てもらうぞ、魔王種クルトを誘き寄せた時
と同様に魔物寄せの術を発動させると、千を超える水蛇竜の群れが
一斉にこちらを向き、雪崩のように俺に向かってきた。
先頭の水蛇竜だけが操られていて、残りがそれに付いて行ってる
だけかと予想していたのだが、目視できる距離まで近寄られると、
群れの全てが何者かに支配されているのが分かった、もっと言えば
奴隷化の状態になってる。
確かに洗脳ではなく奴隷化の状態なら、ある程度の指示を出せば
勝手に動くのだろうけど、魔物の奴隷化って人間とは比較にならな
いくらい難易度が高く、術をかける際の魔力の消費も桁が違う。
634
魔物寄せが通じるあたり強制力は弱そうだけど、それでもこの数
を支配するのは意図が読めない。どういう魔力量なんだ? それと
も個人ではなくて組織的に魔力供給してるのか?
まぁ良いや、奴隷化を解いちまおう、野生に戻して少し怯えさせ
れば湖に帰るだろう。いや少しくらい捕獲しとくか? サリーマさ
ん達の栄達祝いに贈っても良い、海岸の警備なら水蛇竜がいて邪魔
にはならないだろう。海が近いなら餌にも困らないだろうし。
基本的に淡水に棲んでるのに、海でも普通に活動出来るあたり流
石ドラゴンの一種と言うべきか。
ちなみに我がアストライア家で水蛇竜を飼うのはちょっと無理だ、
ディアーネが蛇とか物凄い嫌いだし。嗅覚の鋭いルーフェイとティ
ータニアも多分嫌がる、水蛇竜の粘液って匂いが強いから。
水竜騎士に憧れが無いわけじゃないが、嫁が嫌がりそうなものを
態々飼うつもりはないからな。
群れの殆どが魔術の射程範囲に入ったのを確認して、先ずは奴隷
化を解除する。
∼∼∼∼∼
水蛇竜の群れ
﹁目晦ましはまだ来ないのか?﹂
大神殿のすぐ近くにある喫茶店で、愛用のキセルから紫煙を燻ら
635
せ数時間、いい加減店員の目が痛い。表面上は愛想が良いが、目が
語ってる﹁居座るなら金払え﹂と。すまん俺に自由にできる予算っ
て少ないんだよ、くそケチ勇者め、死ねばいいのに。
﹁はっ、もうとっくに予定の時間を過ぎてるにも拘わらず、影も形
もございません﹂
多くの冒険者を抱えるこの街に侵入するのは容易い事だった。下
手すれば内部を探るだけでも、数か月の準備が必要かと思ってた大
神殿だったが、式典に併せて催事を行うらしく、警備は緩い。これ
は攻城戦に慣れた将として断言できる。
それ以前に馬鹿勇者の命令なんであまり悠長にもしてられない、
奴は気が短いからな。脅しとは分かっていても、失敗すれば姫を害
すると言われては急がなくてはならないので、大神殿の守りの甘さ
はありがたい。
まぁ神殿に攻め入るなんて奴は普通は居ないから油断するのは仕
方がない。俺の見た限り魔物や盗賊などに対する備えとしては必要
十分だが、﹃軍隊﹄を相手にした備えは一切していないのだ。
重要な場所は厳重に見張りが置かれ、魔術的な防備がされている。
しかし信徒に紛れされた部下たちを、簡単に潜ませることが出来た
のが良い証拠だ。これで水蛇竜の群れが街の周囲に集まるとなれば、
人の目は殆どそちらに向く、クソッタレな任務も容易く遂行できる
と言うものだ。
水蛇竜の群れ
その目晦ましが来ればの話だがな、クソ勇者から水蛇竜を操る権
限を渡されてるのは俺の部下ではなく、クソ勇者が監視に付けた奴
の腰巾着だ。人目を引きつけるだけにしろと釘を刺してはいるが、
636
けしか
どこまで従うかわからん。下手すれば街の人間に水蛇竜を嗾けるか
もしれない。
﹁日が暮れたら予定は丸潰れだ、最悪俺たちだけで動かねぇといけ
なくなる﹂
基本神殿は日が暮れたら一般信徒は立ち入り禁止になる、空いて
るのは診療所くらいなのだが、荒くれ者の冒険者が多く訪れるので
当然警備されている、馬鹿正直に押し込み強盗なんてしたら部下に
も、警備の神官戦士にも被害が出るだろう。
理想は陽動で神官戦士たちの目を引き付け、クソ勇者の要望通り
に女性神官を攫って逃げる。可能な限り部下を失いたくないし、帝
国とキナ臭いこの国の戦力を減らす気もない。
警備の穴はすぐに見抜けたし、脱出経路も侵入したその日に確保
した。帝国の諜報員に渡りを付けることが出来れば楽だったのだが、
クソ勇者が居所を教えてくれないせいで無理だ。こっちから探すく
らいなら自分たちだけで動いた方が安全だからな。
せめて俺の事を知ってる諜報員がいれば、接触してくるのを期待
して目立つ喫茶店に居座ってるのだが、どうも空振りに終わりそう
だ。
﹁日が経つと式典に併せて貴族連中がやって来る、当然警備も強化
されるから、予定通り今日じゃないといけないってのに⋮⋮なにや
ってんだ連中は﹂
今日、日が落ちる前に作戦を決行しないとならないのはもう一つ
訳がある。勇者だ、この街で少し情報収集すれば、この街には法の
637
女神の加護を受けた勇者が、この神殿のすぐ近くに住んでるのが分
かる。その勇者が魔物の討伐に出かけてる今日でないと作戦失敗ど
ころか、ただの人攫いの盗賊として捕殺される可能性が高い。
街の住民から話を聞く限りでは、恋人と共にこの街にやって来て、
彼女をとても大事にしてる事。勇者と縁を求める縁談で娶った娘で
あっても平等に愛情を注いでる事。魔王種を倒しただの、汚染され
た土地を浄化しただのと彼を称える話には事欠かない。
俺も部下一同も﹁ウチのクソ勇者と交換してください﹂と考えた。
考えてもどうにかなる事じゃないので、一斉にため息をつくくらい
許されるだろう。
そうして部下たちが入れ替わり立ち代わり報告にやって来るが、
一向に水蛇竜がやって来る気配が無い。日没まであと約一時間、も
う待ってる時間が無い。
﹁⋮⋮始めるぞ﹂
﹁合図を頂ければ我ら一同何時でも﹂
強面がやって来るせいで迷惑をかけた店には、謝罪の意味を込め
て有り金全部置いて店を出る。やれやれかつて一国の軍勢を率いた
大将軍が落ちぶれたもんだな。こんな碌でもない任務を押し付けら
れるくらいだ、運にも見放されてるのかも知れない。
ため息をつきながら大神殿に向かうと⋮⋮運に見放されてるのか、
それともクソ勇者の悪運のせいなのかねぇ? 周囲に気取られない
よう隣を歩く部下に指示を出す。
638
﹁あの神殿に向かう騎士服を着た少女から目を離すな、彼女はマー
ニュ王国王女のアルチーナだ﹂
639
堕将︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
少年誌的な展開に入るのでエロはもう暫くお待ちください、後感想
で嫁のキャラ紹介が欲しいと言われたので、簡単ですが一覧を作っ
てみました。
クリス・アストライア
戦力/7+5
統率/5+5
知謀/4
教養/5
交渉/7+5
主人公、計算能力や知識など並みの貴族以上の教養は備えている
のだけど、ノリと思い付きで行動する頭の良い馬鹿である。戦力が
10を超えてると単騎で軍隊に無双できる。
オリヴィア・アストライア︵旧姓ヘルトール︶
戦力/0
統率/6
知謀/8
教養/9
交渉/9︵ただし男が相手だと0、男性恐怖症でまともに会話でき
ない︶
640
アストライア侯爵家の正室、男性恐怖症の為、基本的に屋敷の中
で側室たちや使用人を取り纏めている。実は資産管理を旦那がほぼ
丸投げしてるため、クリスの資産を運用し、かなりの利潤を生んで
いる。妊娠中動けなくても、書面の指示だけでアストライア家の資
産は日々増えているのだ。
知謀8、教養9、交渉9は小国なら内政の全てを任されても問題
ないレベルだったりする。
ディアーネ・アストライア︵旧姓メイティア︶
戦力/1
統率/3
知謀/5
教養/8
交渉/10
国内の娼館を取り仕切るメイティア伯爵家の令嬢、現在第二夫人。
流石にお姫様が嫁入りすると序列的には下がるけど、実質嫁内では
ナンバー2。旦那が不在時は彼女が来客担当。
ルーフェイ・アストライア︵旧姓ルーガン︶
戦力/3
統率/3
知謀/3
教養/6
641
交渉/4
クレイター諸島連合王国の第二王女、魔王種の魔核の対価にクリ
スに嫁として差し出された建前だが、当人はそんな事気にしない。
屋敷のマスコット枠、戦力3と一般兵士並みの戦力は、人狼族とし
ての身体能力によるもの、本人は虫一匹殺せない。
ヴィヴィアン・アストライア︵旧姓ビロン︶
戦力/5
統率/2
知謀/5
教養/4
交渉/8
パン屋の店主として街に潜り込んでいた、元リーテンブ帝国諜報
員。クリスを顔の良い金持ちと見定め篭絡しようと近寄ったが、結
局自分が篭絡されて嫁になる。屋敷では厨房を任されていて昼食と
夕食は殆ど彼女が作ってる。余談だが諜報員として培った交渉8の
能力を食材の値引き交渉にしか使ってない。
アルテナ・アストライア
戦力/4
統率/3
知謀/3
教養/6
交渉/3
642
大神官の孫娘で、神聖魔法に関しては大神殿でも上位の使い手。
神官戦士としての訓練も受けているが、体格に恵まれず荒事は向か
ない。家事万能なので手が足りないところのフォローに回ることが
多い。ユングフィアをランバル視してるが、豊胸に効果があるとさ
れる体操の後、項垂れてることが多い。
ユングフィア・アストライア
戦力/7
統率/6
知謀/2
教養/4
交渉/2
ちょっと普通より背が高いのを気にしてる神官戦士。周囲には凛
々しい女戦士と思われており、暴走しがちなクリスの護衛を任され
てる。自分は女らしくないと思ってるので、同い年で同じ神殿で育
ったアルテナと自分を見比べて黄昏てることが多い。
ティータニア・アストライア︵旧姓ルーガン︶
戦力/1
統率/6
知謀/4
教養/7
交渉/5+5
643
ルーフェイの腹違いの姉にして、クレイター王国第一王女。勇者
の母となるべく加護を海洋神から授かっており、ひたすらに頑強、
ただ本人は非力なために戦力は低い。他者の感情を匂いで理解する
能力を持つ。ただし、クリスと家族以外の男からは悪臭を感じてし
まい、殆ど交渉できない。
なお、勇者の母になる云々はクレイターの機密事項、ルーフェイ
は知ってるが姉妹共々クリスにも秘密にしている。
メリッサ・アストライア︵旧姓ビロン︶
戦力/0
統率/1
知謀/4
教養/8
交渉/10
ヴィヴィアンの姉、元は男爵家の二女であったが彼女が16歳の
時にビロン男爵家は改易され貴族籍を失う。その時彼女は結婚して
いたそうだが、いったいどのような過去があったのか? 彼女は決
して語らない。今言えるのは﹃子供を産める﹄事に彼女は何よりの
喜びを感じ、夫に惜しみない愛と献身を捧げている事だ。
来客担当がディアーネなら、彼女は市井や等から幅広く街の出来
事や噂を集める担当。また年上であることもあってアストライア家
の夫人たちのメンタルケアをしている。
∼∼∼これから嫁入り予定
644
アルチーナ・マーニュ
戦力/6
統率/5
知謀/3
教養/7
交渉/3
マーニュ王国王女、これから嫁入り予定。体を動かすのが好きな
スポーツ少女、嫁入りしたら王家や兄カールとの連絡役になると思
われる。普段着が騎士服でさりげなく女性に人気がある。
マルフィーザ・モンドバン
戦力/7
統率/1
知謀/6
教養/8
交渉/5
モンドバン伯爵令嬢にして、﹃熱砂の龍傭兵団﹄サリーマの娘、
実家のごり押しでクリスの副官︵っていうか秘書︶としてサポート
を命じられている。実家としてはお手付きを期待してる模様、実際
主人公が美人秘書に手を出さない未来が思い浮かばない。
魔法使いとして非常に有能、余談だが彼女の祖父とクリスの師匠
は兄弟で、オリヴィアに出会わず王都で暮らしてたら、師匠の紹介
645
で彼女と付き合う可能性が高かった。
レヴィア
詳細不明の姫騎士
割と大雑把なイメージですね、ちなみに堕将ピサロさん、戦力9の
統率10くらいの実力者
646
特に本編と関わりのない一幕・バレンタイン短編︵前書き︶
続きを期待してくれた皆さま申し訳ございません
ストーリーを進めるのにエッチシーンを挟みにくいので、番外編的
なお話を投稿します
647
特に本編と関わりのない一幕・バレンタイン短編
このカロリングの街には領主であるカール・カロリング様が齎し
た多くの画期的なモノで溢れている。
例えば食べ物、切れ込みを入れたパンに具材を挟む素材パンは、
労働者の食事として受け入れられ、人々は日々創意工夫を絶やさな
い。
例えば競技、今まで大勢で集まって盛り上がるなどと言った催し
は祭事を除き、やれ殴り合いでどっちが勝つか賭けるだの、やれ冒
険者の見栄の張り合いが真剣勝負に発展しただの野蛮なモノばかり
だったが。新しく流行った玉蹴り遊びはもう大人から子供まで浸透
し、流血沙汰になるまでの喧嘩は目に見えて激減した。
他にも色々あるが流石は天才と名高いカール様の考案した文化は、
この辺境をより便利に、より豊かにしてくれるものばかりだ。そし
て今日、水面下で浸透しているイベントがある。
﹁バレンタインですよユングフィアさん! 王都出身の人や世事に
疎い人はまだ知られてないイベントですが、今日と言う日はチャン
スなのです﹂
と、大通りに面した喫茶店で力いっぱい主張する彼女は、カロリ
ングの街の領主、カール・カロリング様の第二夫人のジャンヌだ。
実はこのジャンヌには神官戦士としての指導をしたことがありま
して、所謂妹弟子です。稽古をつけてるといつの間に懐かれ、仲良
648
くなったのでお互いに結婚した今も、一緒に買い物に行き、相談の
乗ってあげるくらいには親しい仲なのです。
﹁バレンタインですか? 私も女性の冒険者がそんな事を言ってた
のを、聞いた覚えがありますが⋮⋮﹂
﹁私がカール様から聞き出したところ、今日は女性から男性に想い
をアピールするイベントなのです﹂
イベントの音頭を取ったのはカール様で、地元の商家に話を通し
て徐々に噂を広めてるとか。なんでも﹃ちょこれーと﹄なる甘いお
菓子を贈り、言外に愛情を示すのがこのイベントの趣旨らしいです。
﹁なるほど、噂には聞いてましたがそういうイベントなら、普段勇
気を出せない女性の良い切っ掛けになりそうですね﹂
﹁知り合いに聞いても﹃ちょとれーと﹄と言うものが、どんなモノ
かは良く分かりませんが、甘いお菓子なら蜂蜜でも砂糖でも大丈夫
でしょう、ふふカール様喜んでくれるかなぁ﹂
夫であるカール様を想っているのか、頬を染めるジャンヌは年相
応の少女らしく可愛いですね、これで⋮⋮
﹁くふっ甘いお菓子のお礼と言いながら、押し倒されたらどうしま
しょう⋮⋮いやん、だめですカール様ぁ♪ お礼は真っ白な子種だ
なんて、孕んでしまったら護衛んきゅ!﹂
とりあえずデコピンでいかがわしい妄想を止めます。思ったこと
を口にする癖は全く直ってませんね、夫人になり更に妄想が具体的
になったせいか、最近際どい発言が増えてきた気がします。
649
﹁ジャンヌ、ここは大通りに面したカフェですから発言には気を付
けてください﹂
﹁は、はい⋮⋮ユングフィアさん、お願いですからもうちょっと手
加減を⋮⋮﹂
﹁とにかく、ジャンヌの妄想は置いておいて。そういうイベントで
あるなら、夫であるクリス様に女らしさをアピールしたいのですね。
私のようなガサツな大女でも愛して下さるクリス様に、女らしい所
をお見せしたいです﹂
とは言っても私は野外で野宿の用意ならできますが、お菓子作り
と言った女らしい事はちょっと苦手なのです。ここは地味に料理の
上手なジャンヌに意見を求めてみます。
﹁大丈夫ですよユングフィアさん、ここはこの、カール様から聞き
出した﹃男がグッとくるシチュエーション集﹄があればクリス様も
イチコロに違いありません﹂
ジャンヌの持ってきた本は、彼女の手書きらしいメモが乱雑に書
かれたものです。女の私には理解しがたい状況を多々書いてありま
すが、クリス様が喜んでくれるなら多少の羞恥は甘んじて受け入れ
ましょう。
ん? この口移しでお菓子を﹃あ∼ん﹄するのは私でも出来そう
ですね、バレンタインなので甘いお菓子である必要がありますが⋮
⋮うーん、バターがたっぷりのクッキーに蜂蜜でも付けましょうか
ね?
650
∼∼∼∼∼
﹁ユングフィア、二人で話したいって何かあったのか?﹂
部屋で寛いでると、いきなりユングフィアに呼び出されたんだが、
はばか
態々人目に付かない食糧倉庫まで連れて来てどうしたんだろうか?
真面目なユングフィアが人目を憚る用事ってのがちょっと思いつ
かない。
﹁ク、クリス様! じ、実はジャンヌから教えて貰ったのですが。
今日はバレンタインと言うイベントの日なのです!﹂
﹁イベント? バレンタイン?﹂
そう言えばユングフィアってジャンヌさんと仲が良かったっけ、
要するにカール王子が考案したイベントなのかな?
﹁そうです! この日は甘いお菓子に殿方への想いを込めてプレゼ
ントするイベントです! で⋮⋮ですから! 私のプレゼントを、
うっ受け取ってください﹂
顔を真っ赤にしたユングフィアは可愛いなぁ、要するに好きな男
に甘いお菓子をプレゼントするイベントって事か? 妻の愛情は疑
ってないけどこうして、好意を形にして示されると嬉しいな。
ユングフィアは懐から陶器の瓶を取り出し⋮⋮焦ったのか握り潰
651
してしまった。かなりの勢いで飛び散ってしまい、胸の辺りを中心
に蜂蜜がべったりくっついてしまっている。
﹁あ⋮⋮ひゃん! やぁん、べたべたする﹂
瓶を割ってしまったせいで更に慌てたのか、服に付いた蜂蜜を拭
おうとして更に染みを広げてしまっている。凛々しい女戦士のドジ
っぷりは実に微笑ましい⋮⋮って、いかんいかん、慌てる彼女は可
愛いけど、陶器の破片で指でも切ってたら治癒してあげないと。
﹁大丈夫か、瓶を握り潰しちゃったけど怪我はないか?﹂
﹁ふえぇぇん! ご、ごめんなさいクリス様食べて頂こうと思った
蜂蜜を駄目にしてしまいました﹂
彼女の手を取って切り傷が無いか見ると、特に怪我はないみたい
だ。一安心して改めて蜂蜜まみれのユングフィアを見ると⋮⋮
﹁ふむ⋮⋮つまりこれは﹃私を食べて欲しい﹄と言う意思表示で良
いんだな?﹂
﹁⋮⋮え?﹂
まぁとりあえず蜂蜜まみれの服は脱がすとするか、収納空間にユ
ングフィアの服だけ放り込んで素っ裸にする。
﹁きゃぁぁ! なっなっ!?﹂
うむ、全裸にちょこっと蜂蜜が付いてるのがエロくていい感じだ。
収納空間には基本生き物は入らないし、着てる物だけ収納なんて、
652
相手が抵抗すれば出来ない。しかし俺のすることに一切抵抗する考
えのない彼女からはあっさりと服を剥ぎ取れた。
混乱してるユングフィアを壁際に押し付け、おっぱいに付いた蜂
蜜を舐める。うん、甘い。これはもう全部嘗め尽くすしかないな、
折角のユングフィアのプレゼントだ残したら勿体ない。
﹁あっ⋮⋮ひぅ! クリス様ぁ⋮⋮﹂
﹁はむ⋮⋮ユングフィアの想いが詰まった蜂蜜は最高に美味いな、
どれ、こっちの蜜はどうなってる?﹂
おっぱいから段々と下半身に舌を移動させ、オマンコまで到達す
るとそこはユングフィアの蜜が滴り落ちていた。
﹁こんなに濡らして、ふふ、残さず嘗め尽くさないとな﹂
﹁やっあぁぁぁ! そこは⋮⋮﹂
壁際に押し付けられ、立ったままの彼女から滴る淫蜜は、どんど
ん溢れて長い足を垂れ落ちてる。折角の蜜が零れて勿体ないな、倉
庫に積まれてる麻袋に寝かせ、まんぐり返しの体勢にし、淫蜜の溢
れる秘穴に舌を差し込む。
﹁んはぁ! だ、だめぇ見ちゃいます⋮⋮そんなところ見ないでぇ
ぇ﹂
身長に見合ったら大きなお尻を両手で愛撫しつつ、ひくひくと窄
まるお尻の穴に軽く触れると面白いように身体を硬直させる。
653
﹁だ、だめ! だめ! そ、そんなところ恥ずかしい⋮⋮あっあっ
クリス様ぁぁ! だ、だめぇぇぇ!﹂
恥ずかしさのあまり両手で顔を隠しながら全身を痙攣させるユン
グフィア。盛大にイッたせいで麻袋の上でぐったりと身体を弛緩さ
せ、荒い息を吐いている。
﹁まったく、こんなに美人で、俺好みのエッチな身体の上に、可愛
いなんて、どこまで俺を惚れさせれば気が済むんだユングフィア?﹂
﹁か、可愛いだなんて⋮⋮私みたいな⋮⋮んはぁ!﹂
自分の可愛さを自覚してないところも、また可愛いんだけど、自
己評価が低いのは困ったもんだ。ここは夫としてたっぷり自分が愛
されてることを自覚させてあげないとな。トロトロに蕩けまくった
オマンコに不意打ち気味に逸物を挿れる。
﹁ひぅ! あぁ! あっあっんあぁぁぁ!﹂
挿入と同時に嫁の中で一番大きなおっぱいにむしゃぶりつく。愛
撫して間に大きくなった乳首を唇で甘噛みすると、仄かに蜂蜜の甘
い香りが漂ってる。
ああ、オマンコに挿れながら、このおっぱいに顔を埋めて味わう
のってホント最高に気持ちが良い! 他の嫁だと身長差のせいか同
じ事をやろうにも、体を曲げなくちゃダメだから、体勢が崩れるの
で思いっきり腰が振れないんだよな。
﹁あっあっあっ! きてるのぉクリス様のオチンチン奥まで!﹂
654
ユングフィアの両足が腰に絡み、全力で抱き締められる。ちょっ
と痛いが愛妻の温かさに包み込まれる感覚に幸せを感じる、愛おし
さからより深く繋がろうと更に激しく肉棒を叩き込み、ユングフィ
アも俺に合わせて腰を動かす。
﹁あひぃ! 凄い、凄い気持ちいい! おっぱいも、オマンコも!
もっとぉもっと強くしてぇ!﹂
ユングフィアの膣からは愛液が止めどなく溢れ、さらに早く、強
く腰を叩きつける。腰を動かすのと同時に乳首だけじゃなく胸全体
を形が歪むくらい強く愛撫すると、オマンコがさらに締まる。
﹁あっあっあぁぁぁぁ! クリス様ぁ! クリス様のおっきくて逞
しいオチンチン専用のオマンコはどうですか? ユングフィアはク
リス様に気持ち良くなっていただいてますか?!﹂
﹁ああ! 最高だ、オマンコだけじゃない、俺専用のおっぱいもお
尻もユングフィアの全部が最高にエロくて気持ちいいぞ!﹂
激しく挿入しながら、名残惜しいがおっぱいをしゃぶるのを中断
し、ユングフィアの身を起こさせ唇を奪う。この唇も俺専用だ、俺
の舌に絡まる彼女の口内を味わえるのも俺だけだ。凛々しくて可愛
いユングフィアの身も心も全て俺のモノだ。
﹁んっんっんむぅぅぅ! ちゅむ、はむっ!﹂
お互いに舌を絡めながら、唇、おっぱい、オマンコを同時に責め
られたユングフィアの官能はあっという間に高まり、膣壁は更にき
つく締まる。互いに絶頂が近づいてるのが分かり、ラストスパート
とばかりに激しく、より深くまで繋がるように身を寄せる。
655
﹁んっんんっ⋮⋮ぷはぁ! 出すぞ、俺専用のユングフィアの子宮
にたっぷりザーメンを出すぞ!﹂
﹁あぁ! クリス様! 孕ませて、ユングフィアをクリス様のオチ
ンチンで孕ませてぇぇぇ!!﹂
白濁液をユングフィアに膣奥に注ぎ込むと同時に、彼女の身体が
痙攣し痛いくらいに膣が締まる。逸物を抜くと愛液に混じった俺の
精液がオマンコから垂れる。
﹁ふぅ⋮⋮ご馳走さま﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮はぁ⋮⋮私幸せです⋮⋮﹂
エッチの後の火照った顔のユングフィアは可愛いだけじゃなくて
色っぽいな、まだまだ俺の逸物は元気だし体位を変えて、今度は⋮⋮
﹁こらぁぁぁぁぁ!! 倉庫でナニやってるんですか!﹂
エッチを続行しようと、脱力してるユングフィアに覆いかぶさろ
うとした瞬間、怒鳴られたので振り返ると倉庫の入り口で仁王立ち
してるヴィヴィアンがいた。
﹁エッチは兎も角! みんなが食べる小麦の入った袋の上でなにを
してるんですか! すぐ降りて! そして正座!﹂
ヴィヴィアンの剣幕に俺はズボンだけ履いて即座に床に正座する。
ユングフィアは流石に全裸なのは拙いので服を取り出して着替える
まで待ってもらった。
656
﹁クリスさん! みんなが食べる小麦の袋をベッド代わりにするな
んて何を考えてるんですか!﹂
﹁あ、いや⋮⋮その⋮⋮ごめん、つい⋮⋮﹂
﹁ヴィヴィアンさん、その⋮⋮私が誘ったせいなので⋮⋮﹂
この屋敷の厨房を仕切ってるヴィヴィアンには、この食糧倉庫は
自分が責任をもって管理してる自負がある。そのせいで俺たちの言
い訳は火に油を注いだようで、更にヴィヴィアンを怒らせてしまい、
長時間正座のまま説教され、その日夕食⋮⋮俺とユングフィアの前
には塩スープしか置かれなかった。
オリヴィアが許してくれるようにお願いしてくれたが、食事に関
してヴィヴィアンには逆らえず、怒ってる理由を聞いたら弁護して
くれなくなった。ううう⋮⋮ごめんよぉ。
その日の晩、一番最後に風呂に入るように言われた俺は、指示通
りにゆっくり風呂に入った。そうして寝室で待ってたのは、なんと
嫁たち全員だった。
唯一ユングフィアだけ居心地が悪そうなのは、一人だけ抜け駆け
したと言うことで、怒られたそうだ。俺が我慢できずに襲い掛かっ
たせいでもあるので、改めて今日の事を謝ろうとしたのだが、なん
かいつもと違うな? 妙に甘い匂いが漂ってるような?
﹁ユングフィアから今日のイベントの事を聞きました⋮⋮さぁ旦那
様、わたくしの甘いお菓子をご賞味ください﹂
657
ベッドの上で扇情的なポーズで待っていた、オリヴィアのおっぱ
いにはクリームが盛り付けられていて。
﹁ご主人様、どうか私たちの愛も受け取ってくださいませ﹂
ディアーネの胸の谷間には果物ベースのソースが絡んだケーキが
置かれ。
﹁あ、クリスさん安心してね、お腹空かせてるユングフィアの分も
お菓子は用意してるから﹂
ヴィヴィアンのおっぱいはゼリー状のお菓子で覆われている。一
見下着に見えたけどゼリーで覆ってたのか、地味に凄い技術だな。
なんでもユングフィアからバレンタインの話を聞き出し、折角の
イベントだからと全員で楽しむことに決めたようだ。
その晩、嫁たちの用意したお菓子を平らげ、全員と平等にイチャ
イチャエッチしたのは良いが⋮⋮翌朝掃除が大変で髪とか肌がべと
べとになってしまったとかで、自分の身体をお皿代わりに差し出す
のは止めて、来年は手作りのお菓子でお茶会をしようと嫁たち全員
の意見で決まった。
658
特に本編と関わりのない一幕・バレンタイン短編︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
アルテナ﹁ユングフィアさんお腹が空いてるからってお菓子沢山食
べたら太っちゃいますよ?﹂
ユングフィア﹁うーん、でも普段から運動してますし⋮⋮あ、でも
また胸が大きくなってきたかも﹂
アルテナ﹁︵#^ω^︶ピキピキ﹂
こんなライバル同士の会話があったとか無かったとか⋮⋮
659
誘拐
﹁それではアルチーナ殿下、結婚式の式次第は以上になります。ド
レスも職人がなんとか仕立てて見せると張り切っておりますので、
当日には間に合うことでしょう﹂
私
クリス様
私は今、大神殿に結婚式の段取り確認の為に訪ねていた。いきな
りの予定変更で忙しいのに悪いとは思ったけど、王女と勇者の結婚
式は、国中の貴族が集まる式典の目玉なのだから無理でも推し進め
るしかない。
一生に一度の結婚式、まして私の伴侶となるのは女神様に選ばれ
し勇者様。万が一にも粗相などあってはならない、その為にも段取
りはちゃんと決めておかないと当日混乱する羽目になってしまいま
すからね。
幸いにも大神官様はこの大イベントに積極的でスケジュールの調
整に奔走して下さってる。目に光が無いのは、忙しくてお疲れなだ
けだと信じましょう。
﹁お忙しい中、ありがとうございます大神官様﹂
﹁いえいえ、これも勇者様の威を示す絶好の機会と心得ます﹂
私の結婚式は少し前に紹介して貰ったクレイターのルーフェイ姫
と同時に行われる。別々に結婚式を挙げる案もあったのだけど、ク
レイター諸島連合王国との国交が始まることを印象付ける狙いがお
兄様にあったようで、一緒に式を挙げる事になったのです。
660
複数人を娶る場合、同時に式を挙げる事は珍しくないのですが、
流石に二つの国の王女を同時に、と言うのは前代未聞でしょう。
あの白い羽の女性、ティータニア姫もクリス様に嫁いでるので三
人同時も覚悟していましたが、どうも彼女には事情があるみたいで、
詳しくは聞いてないけど人の多い所が苦手みたい。
﹁アルチーナ殿下、結婚式の式次第は屋敷でクリス様にお伝えいた
しますが⋮⋮宜しければアストライア邸にお越しになりますか? クリス様やルーフェイも交えて話されるのも良いかと存じ上げます
が﹂
﹁そうね、今日はもう日が暮れるから、明日か明後日には伺うわ。
急な話だったのにアルテナさんも付き合ってくれてありがとう﹂
﹁恐れ入りますアルチーナ殿下、結婚式では私とユングフィアが傍
に控えさせて頂きますので﹂
結婚式では家族以外の人間が、新婦の衣装を整えたり髪を結うな
どの世話をしてはならない決まりがある。普通なら母親や祖母が担
当するのだけど、実は﹃愛の女神大神殿﹄のある王都だと有名無実
化した慣習で、貴族なら侍女に世話をさせたり、平民でも友人が手
伝ったりする場合が多い。ただし厳格な法の女神大神殿でそれは通
用しなかった。
新婦側の親類が不在、乃至は式に参加できない︱︱︱冒険者など
が結婚式を挙げる場合等︱︱︱場合は神殿に所属する女性がお世話
するのだけど、貴族の場合はあまり歓迎されない。
661
まず、生家と上手くいってないと思われる、それに加え神殿側に
謝礼金を支払う必要があって、面子的に少額を支払うわけにはいか
ないし、額が大きいと野暮の誹りを受ける。実に面倒なうえに正解
がないから性質が悪い。この手の仕来りをどうにかできませんかお
兄様?
まさかお兄様にお着替えを手伝ってもらう訳にもいかないし、王
都の後宮に住んでるお母さまが辺境に来れるわけもないから、彼女
たちの申し出はありがたい。同じ旦那様に嫁ぐ姉妹だからと言い張
れるので、王侯貴族的に建前が整ってれば問題ないのです。
ルーフェイ姫も同じように結婚式の間、他の夫人がお世話をする
事になってる。なんか親類、具体的には国王様が当日に飛んできそ
うな気がするが。
そもそも急に決まった結婚式なので、親戚のお手伝いを手配して
ない事に気が付いたのは、このラーロン地方に入ってからの事。気
が付いてから焦って、クリス様にご相談しようとアストライア邸を
訪ねたら、間が悪い事にクリス様は出掛けていて、留守だったので
す。
相談だけでなく結婚式について、そして今後について色々と、お
話したい事があったのですが残念です。
事情を夫人たちに話したら、式の進行を任されてるのは神殿なの
で今度はそちらに向かうように勧められ、自分が間に入れば大神官
様のスケジュールの都合がつけやすいと、孫娘のアルテナさんが同
行を申し出てくれたのです。
﹁もう少し早い時間であれば、アルテナさんをお茶に誘うところだ
662
けど。もうじき日が暮れるから帰らないといけないわね﹂
彼女とは仲良く出来そうです、なんというか同じような悩みを抱
えてそうだし。一緒に街を歩いてみたかったけど、この時間では仕
方がありません。出来れば嫁入り前にオリヴィア様を始め、夫人た
ちとお喋りしたり、お出かけしたりして仲良くなっておきたいわ。
大神官様に挨拶をして、帰ろうとしたその時だ。破裂するような
音が周囲に響き、神殿を揺るがす。急いで窓の外を見ると、神殿の
あらゆる場所から白煙が立ち込め一般信徒たちが、慌てて外に出よ
うと一斉に正門に向かって走っている。
火事? それにしては火の手は上がってないし煙が異様に白すぎ
る、これは⋮⋮煙幕と破裂音で混乱させるのが目的なの? 誰が?
何の為に?
﹁アルチーナ殿下、急いで外に出ませんと! 馬車は専用で出入口
がありますからすぐに⋮⋮﹂
﹁待ちなさい、今すぐ馬車で出ようとしたら、外に向かう人たちが
危ないわ。正門が混み合ってるのを見て、馬車用の出入り口から出
ようとする人も多いはずよ、神殿の間取りを知ってる地元民なら猶
更よ﹂
慌てるアルテナさんを宥めるのに努めて冷静に振舞うが、こっち
だって異常事態には慣れてないのだ。どうして良いか分からずそれ
らしい屁理屈を言ったのは良いけど、本当にどうしようかしら?
﹁殿下、一先ず護衛の武官たちと合流されるが宜しい。アルテナは
殿下と共に騒ぎが落ち着くまで広い場所に居なさい、人混みに巻き
663
込まれると危ない故、近寄らないように﹂
﹁は、はい! お爺様﹂
大神官様の落ち着いた声に私も多少冷静さを取り戻す、確かに仮
に襲撃であったとしても、武官たちと一緒にいた方が安全に決まっ
てる。
アルテナさんに手を引かれ護衛のいる待機所まで急ぐ。待機所は
かなり広いから人混みの心配もないし、屋外なので火事であったと
しても大丈夫⋮⋮ではなかった、待機所に到着した私たちを待って
いたのは、地面に倒れている武官たち、そして⋮⋮
﹁待ってたぞ、混乱が起きれば真っ先に護衛と合流しようとするの
は当然の判断だ。恨んでくれて構わんよ、ちょっと誘拐されてもら
おうか﹂
冒険者が着るような頑丈だけど飾り気のない服を着た男だった。
短く切った黒に近い茶色の髪はボサボサで、無精ひげの男を見て理
解する。彼は私程度では及びもつかない高みにある武人だと。
倒れ伏す護衛達から血は流れていない事から生きてはいるのだろ
う。私はアルテナさんを背後に庇い、人を呼ぶように指示だけして
男に突貫する。せめて、せめて時間を稼がないと! 最高速度で肉
薄しアルテナさんが人を呼ぶまで引き付けなければ。
小娘と侮ってるのか全力の拳が男に当た⋮⋮らずに、まるですり
抜けるかのように⋮⋮どうやって躱されたのかすら理解できず。
﹁悪いがお姫様程度の腕で足止めされるほど鈍っちゃいないよ﹂
664
意外にも私を気遣うような、その言葉を最後に私の意識は、落ち
た。
∼∼∼∼∼
﹁アルテナとアルチーナ殿下が?!﹂
ロバートとジャックが、いかにも人相の悪い連中から聞き出した
大神殿の襲撃計画。ロバートから大神殿は攻城戦に慣れた武将なら、
容易く攻め落とせる造りをしてると言う指摘を受けて、急いで帰っ
た。そして大神殿で聞かされた事情はおよそ最悪のモノだった。
﹁申し訳⋮⋮申し訳ございませんクリス様⋮⋮﹂
憔悴した様子で、地面に頭を擦りつけ詫びてくるトラバントさん
だが、彼を責めてる時間は無い。そもそも神殿を襲撃するなんて誰
もが予想の外だろう。神官戦士たちは対魔物に関しては百戦錬磨で
も、人間相手はそれこそコソ泥や酔っ払いを取り押さえる程度の訓
練しかしていないのだ。
﹁今すぐ賊を追う、カール王子や俺の嫁たちに説明しておいてくれ﹂
﹁し、しかし手がかりが⋮⋮そこら中から破裂音と煙幕が焚かれ、
賊の手先も一般信徒に紛れバラバラの方向へ逃げ、捕らえることも
⋮⋮﹂
665
神官戦士たちを総動員して賊の手がかりを探っているが、殆ど手
掛かりが掴めていない。実際に交戦した者の話では並みの騎士より
も腕が立つ連中だとか。不幸中の幸いと言うべきか、アルチーナ殿
下とアルテナが攫われた以外は、少しの怪我人が出たくらいで死者
はいなかった。
いや、王女であるアルチーナ殿下を狙った犯行なのか? 話を聞
く限りではどう考えても計画的な誘拐だ。そうなると急がないとア
ルテナが危ない。くそっ嫁を危険に晒してしまうとは、俺の不甲斐
無さに腹が立つ、この怒りは誘拐犯に叩きつけてやる。
﹁なんとかなる、アルチーナ殿下はともかく、アルテナの使ってる
洗髪料はメイティア家から贈られた特注品だ、香りを追う﹂
俺の嫁たちは全員、自分専用の石鹸や洗髪料を使ってる、ディア
ーネの指導の下で自分に合っていて、尚且つ香りだけで誰かが分か
るように調合された高級品なのだ。早い話がアルテナ専用の髪にか
ける香水を使ってるようなもの、当然俺はその香りを覚えている。
﹁数日以内に二人を連れ戻してくる、後は任せたよ﹂
﹁はっ、ははぁ!﹂
トラバントさんはすぐさま部屋から出ていく、各方面に話を通し
に行ったのだろう。オリヴィア達を心配させたくはないが、アルテ
ナたちを救いに行かない選択肢は俺の中には存在しない。
急いで城壁の外まで行き、待機させていた水蛇竜の背に乗る。サ
リーマさん達に贈る用にと捕らえて支配した奴だが、本当に連れて
666
来て良かった。体長にして20メートル超の最大級の水蛇竜でとに
かく速くスタミナもある。
﹁俺の記憶にあるアルテナの髪の匂い、お前に移す⋮⋮追ってくれ﹂
水蛇竜は恐ろしく嗅覚が鋭い。闇魔法による記憶の譲渡であって
も、そもそも﹃嗅覚の規格﹄が違う懸念があったが、どうやらアル
テナの匂いを認識してくれたようだ、これでダメなら屋敷に戻って
アルテナの服とか持ってこないといけないところだった。
まだ、大神殿襲撃から一時間程度の時間差だ、この水蛇竜は俺の
魔法の援護を受けてゴーレム馬車よりも速く、敵が馬車で逃げてる
ならすぐさま追いつける筈だが、どうやら敵も水蛇竜を使役してる
ようだ。あれだけ大量の群れを動かしたのだから当然か。
だが、魔術的に強化された水蛇竜は休み無しで駆けることができ
る。待ってろアルテナ、アルチーナ殿下も必ず助けるからな。
∼∼∼∼∼
﹁くひっへひひひひひひひひひ!!!!﹂
おいおいおいおい何のサプライスだよ?! 戦争始まるまで王都
にいると思ってたんだがな。縛った物を浮かせる﹃荷運び紐﹄で縛
られ、俺様の前に差し出された女は、メインディッシュにと思って
たマーニュ王国の姫だ。
667
﹁良くやった! なんだよなんだよやるじゃないかお前!﹂
名前は覚えてないが、俺様の奴隷の内の一人と婚約してた奴を褒
めてやる。しかしコイツは仮面をかぶったような無表情で、何を考
えてるか良く分からん、俺様が褒めてやったと言うのにつまんねぇ
奴だ。
なんか監視用に同行させた連中は全滅したそうだが、アルチーナ
とアルテナを連れてきた大手柄に比べれば些細な事で、話題にする
時間も勿体ない。
﹁勇者⋮⋮帝国の勇者ね、私たちを攫ってどうするつもりですの?
!﹂
ふへへ、気の強い女だ。ゲームそのままの性格で、しかも実物は
黒髪ショートの気の強そうな美少女と、ドンピシャで俺様好みだぜ、
これが奴隷になって俺様に媚びながら、奉仕するかと思うと今にも
イッちまいそうだ。
さるぐつわ
もう一人、ゲームのお気に入りのキャラであるアルテナは、声を
出せる状況だと神聖魔法を使ってくる可能性が高いから猿轡を噛ま
せ、手足を縛られた状態でソファに寝かせてる。こっちも俺様を睨
んでくる程度には芯が強いようだ、ぐへへ処女を頂く時が楽しみだ
ぜ。
しかし俺様は美味しい物から食ってく主義だからな、先ずアルチ
ーナを存分に犯し尽してから、アルテナは奴隷にしてやろう。
﹁おい、俺様はこれからお楽しみなんだ、さっさと出ていきな、気
668
の利かない奴でもこいつらを攫ってきた事に免じて許してやらぁ﹂
﹁∼∼ッッ! 失礼する﹂
なんだなんだ? お姫様の処女喪失するシーンでも拝みたかった
のか? 不機嫌そうに出ていきやがって、まあどうでもいいか。
そんな事より早くアルチーナを奴隷にして犯したいから縛ってい
た紐を解いてやる⋮⋮っと、自由になった途端にアルチーナの拳が
頬を掠めたが、間一髪避けた。良いねぇ反抗的なのが従順になるの
が最高なんだよ。
素手でもかなりの腕前みたいだが、勇者である俺様の前じゃ無意
味だ。連続で放たれる拳や蹴りを片手で捌く事で実力差を知らしめ
てやろう。そして無意識でも敗北を認めた瞬間、姫奴隷の出来上が
りだ。
勇者である俺様の特殊能力は、倒した、もしくは降伏した相手を
奴隷化させる。最高の能力だぜ、絶対服従になった相手を犯す以上
の快感は存在しないと断言できる。
﹁くっ! せいやぁぁぁぁ!!﹂
速く、鋭く、魔法的な補助もあるのか華奢な体格の割に重い攻撃
を繰り出しながらも、簡単に捌かれることで、焦ってるのが良く分
かる。自分の実力に自信があればあるほど、表面的には兎も角、無
意識で負けを認めるのは早い。事実微かにではあるが奴隷の刻印が
白く綺麗な肌に浮かびつつある。
﹁ふひひ⋮⋮どうした? そんなもんか? 今すぐ服を脱いで﹁犯
669
してください﹂って頼めば少しは優しくしてやるぞ?﹂
﹁ふざっ、ふざけるな! お前なんか⋮⋮お前なんか勇者だなんて
認めない!﹂
じわじわと奴隷の刻印の色が濃くなってる、最初は薄い灰色だっ
たものが完全に黒くなった瞬間、気の強い王女は姫奴隷に堕ちる。
怒りと悔しさを虚勢を張ることで隠し、攻撃はますます激しくな
るが、俺様の特殊能力の前には意味がない、拳が躱される毎に、蹴
りが片手で弾かれる毎に奴隷の刻印は濃くなっていく。
楽しいなぁ、こうして少しづつ気の強い女の心が折れていくのが
目に見えるって。こうして俺を睨む綺麗な顔が処女をぶち破ってや
った時どんな表情をするんだろうか? 悔しそうに俺様を睨むだろ
うか? 泣き叫んで許しを請うだろうか?
そうだ、いっそのことレヴィアと並べて犯すのはどうだろうか?
リーテンブ帝国とマーニュ王国の姫が揃って悔しそうに俺様に奉
仕するのはこれ以上ない愉悦だろう。
そうと決まれば攻撃を捌きつつ、魔法を使ってレヴィアを呼び寄
せよう。もうじきアルチーナの奴隷の刻印が完全に黒くなるから早
く来いよレヴィア。
﹁あっあぁぁぁぁぁ!!﹂
やけくそ気味に放たれた掌打を真正面から受けてやる、やっと命
中してほくそ笑むアルチーナだったが、すぐさま驚愕に青くなるの
が実に良い。全力の一撃だったんだろう? 当たってダメージにな
670
ると思っただろう?
﹁くひひ⋮⋮残念だったな? 勇者の身体がそこらの雑魚と同じだ
と思ったか?﹂
勇者として加護を受けてから極まった身体能力は、アルチーナ程
度がどれほど頑張っても傷一つ受けないくらいの頑強さも与えてく
れた。ひひ、全力の攻撃が効かないと分かった瞬間の心が折れる表
情はやっぱ最高だな。そしてこの瞬間アルチーナに浮かんだ奴隷の
刻印は完全に黒く染まり、今完全に奴隷へと堕ちた。
﹁あっ⋮⋮ぐっ! くぅぅぅ!﹂
﹁ひひひ! あはははは!! やった、マーニュ王国の姫を奴隷に
してやったぞ! さぁ最初の命令をしてやる俺様の前で服を脱げ﹂
﹁いっ⋮⋮いや⋮⋮お前なんか⋮⋮お前なんかに⋮⋮﹂
ああ最高だ、悔しそうな顔、怒りに満ちた表情で俺様を睨みなが
らも、奴隷の刻印により逆らえず少しづつ、震える手で服を脱いで
いく様は最高だ。
﹁そして宣言しろ﹃私は軍神の勇者、アレス・マーズ様の奴隷です﹄
ってな!﹂
﹁わ、わた⋮⋮ぐぅぅぅ! 私は軍神⋮⋮﹂
ひひ、無駄無駄、奴隷になった奴が主人の命令に逆らうなんて無
理なんだよ、憎悪の目で睨みながら必死に命令に背こうとしてる姿
に更に興奮してきた。そしてドア越しに良く知った気配を感じたの
671
で、特別に俺様がドアを開けてやる。
﹁∼∼ッッ! 失礼いたします﹂
﹁レヴィアか、早かったなそんなに俺様に犯されたかったのか?﹂
開けっ放しのドアから入らず廊下から声をかけてきたのは、先ほ
ど呼び出したレヴィアだ。皇女として豪奢なドレスは纏っているが、
ドレスの隙間から垣間見える四肢は騎士として鍛え上げられている。
新しい奴隷が服を脱いでいる状況から大体の事を察したのか、黒
に近い深緑の髪は震え、エメラルドに例えられる瞳が怒りに燃えて
いる。良いぞやっぱりレヴィアの反応は最高だ。
ゲームで知っている。こいつは皇族としての義務感が強く、情に
厚い善人。民を護る為だなどと大真面目に騎士を志し。なまじ才能
があったものだから戦に出て、倒れた味方、倒した敵の事で傷つき
思い悩む。そんな不器用な女だ。
﹁ふひひ、おいお前も早く脱げ。今日はコイツと一緒に一晩中犯し
て⋮⋮﹂
瞬間、レヴィアに気を取られたせいか、それともアルチーナが奴
隷になったことで気が緩んでいたのか? 唐突に、何の前触れもな
く窓をバカでかい蛇の尻尾が破り、その勢いのまま壁まで弾き飛ば
される。
﹁痛っ! なんだ! なんでこんなのが皇城に入り込めるんだ﹂
俺様を弾き飛ばしたのは水蛇竜だ、馬鹿な全長20メートルもあ
672
る魔物が誰にもバレずに入り込めるわけが無い。皇帝の居城の守り
がそんな甘いものであるわけない。それこそ広範囲に精神干渉でも
しない限り、必ず誰かに見つけられ警鐘が鳴るはずだ。
すぐさま立ち上がる、レヴィアはすでに破られた窓に近づいて⋮
⋮何故か呆けていた。見ればアルチーナも、縛っておいたアルテナ
の姿が無い、慌てて窓の外を見ると、隣の建物の屋根の上に人影が
あった。
アルチーナ
今夜は満月。明るい月明かりが侵入者の姿をはっきりと見せる。
アルテナ
そこには⋮⋮俺様の奴隷を胸元に抱き寄せ、俺様のモノにする予定
だった女とキスをしている男の姿が見えた。そして⋮⋮
何かされたのかと心配になって横目で様子を見たレヴィアは⋮⋮
今まで見た事もないような潤んだ、熱の籠った目で男を見ていた。
673
誘拐︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
ちなみに帝国勇者ことアレス・マーズさんのステータスはこんな感じ
戦力/2+10
統率/3+5
知謀/2
教養/1
交渉/2
ついでにレヴィア皇女
戦力/7
統率/9
知謀/5
教養/7
交渉/8
674
脱出︵前書き︶
お待たせいたしました
675
脱出
﹁おい! 俺様の奴隷に触んじゃねぇよ! 誰だ、てめぇは!﹂
あの野郎いつまで俺様のモノに引っ付いてやがる、俺様の奴隷に
触れてタダで済むと思うな、目の前でアルチーナとアルテナを犯し
て絶望の中で殺してやる。
屋根の上に乗った男は、俺様が質問してるのにまだアルテナとキ
スしてやがる。本気で俺様を舐めてるようだな、魔法を使ったら折
角アルチーナを奴隷にしたのに巻き込んじまうから、俺様も屋根に
飛び乗るか?
いやひょっとしてジャンプして無防備なところを狙う気かも知れ
ない。仮にも皇城に単独で侵入できる奴だ、勇者である俺様が負け
ることは無いにせよ、油断すれば逃げられるかもしれない。ここは
慎重に動くとするか。勿論、俺様の奴隷に触れてた時間分は痛めつ
けて後悔させるがな。
しかし慎重に動くとは言ってもどうするべきか? 悩んでると、
男はやっとアルテナから唇を離し、こちらを見据える。特に感情の
浮かんでない無表情さはまるで人形みたいで気味が悪い。
﹁ふむ、誘拐犯とは言え、一応聞かれたからには答えてやろう﹂
屋根の上から聞こえる男の声色は、事務的にも聞こえる平坦な口
調で、ますます人形めいた印象が強くなる。
676
隣のレヴィアが潤んだ目で奴を見て、頬を染めてるのが癇に障る
し、上から目線の口調も腹が立つ。何よりも左右の手で二人の美少
女を抱き、女たちが安心したように身を委ねてるのが特に気に入ら
ない。
何から何までイラつく男だ! 思いつく限りの苦痛と屈辱を与え
ながら殺してやる!
﹁俺の名は⋮⋮パイオーツ・シリスキーだ!﹂
﹁パイオーツ・シリスキーだな! 殺すまで覚えていてやる!﹂
会話してやってる間に高めた魔力を全て身体能力強化に注ぎ込み、
パイオーツが動く隙を与えず屋根に飛び乗る。薄暗い月明かりの中、
超高速の跳躍は奴には捉え切れまい!
馬鹿が油断しやがって、両手で女を抱きかかえてるから防御も出
来ないだろう。油断せず、一撃を加えるが⋮⋮変だ。顔面に叩き込
んだ拳に奇妙な手応え⋮⋮倒れたパイオーツの姿が徐々に崩れ⋮⋮
﹁いや、敵の本拠地で女抱えて棒立ちの訳ないだろ? 常識で考え
ろよ﹂
殴り飛ばしたと思ったのは、幻覚を被せただけの藁人形だった。
くそっ様子見してる間にまんまと逃げられた! ふざけやがってパ
イオーツ・シリスキーめ!
からか
あざわら
まだ藁人形からは奴とのリンクが繋がってるらしく、声が聞こえ
てくる。先程までの平坦な口調ではなく、揶揄うような、嘲笑って
るように聞こえる声だ。
677
﹁誘拐犯から恋人を取り戻したからには、男らしくコソコソ逃げず
に正面から凱旋してやろうじゃないか。捕まえられると思うなら頑
張りな、笑いながら帰ってやるよ、早く帰って、怖い思いをした二
人を優しく慰めてあげたいからな﹂
正面からだと?! 急いで正門に兵隊を集めて足止めさせねぇと
! くそが逃がしてなるものか。舐めやがってパイオーツ・シリス
キーめ!
藁人形を建物ごと吹き飛ばしてもまだ怒りが収まらない、奴をぶ
ち殺さないとこの怒りは消えない、消すつもりもない。
﹁レヴィア! なにボケっとしてやがるんだ、早く騎士団を動かせ
! 正門前に待機してる連中に死ぬ気で足止めさせろ﹂
皇女にして騎士のレヴィアには城内の警備兵たちを指揮する権限
があり、いつでも連絡のできる魔法道具を持ってるのに、まだ壊れ
た窓の傍で動きやがらない。
くそっくそっ! なんでこんな当然の事を俺様が指示しないとい
けないんだよ! 何も言わずに動くのが当然だろうが!
﹁⋮⋮ふん⋮⋮自分で⋮⋮やればいいだろう。ぐっ! くぅぅぅ!﹂
﹁なんで侵入者を逃がすなって指示で反抗するんだよ! お前は奴
奴隷
隷なんだ、言いつけに背くだけで苦痛だろうが! お前は! 俺の
女なんだぞ!﹂
くそが! レヴィアが反抗的なのはいつもの事だが、俺様のモノ
678
になる女を連れ去られた非常事態でまで反抗されると腹が立つ。何
よりもコイツ、明らかにあのパイオーツ・シリスキーを庇ってやが
る。
俺様の命令を無視する事で激しい痛みに苛まされてる筈なのに、
全く動こうとしないどころか俺様を睨むレヴィアを張り倒し、持っ
てる魔法道具を取り上げ皇城にいる全ての兵と騎士を正門に集合さ
せる。勿論死に物狂いで奴を足止めさせるよう厳命するのを忘れな
い。
殺してやる! 決めたぞレヴィアの目の前で拷問して、命乞いさ
せた挙句にレヴィアの手で始末させてやる。
∼∼∼∼∼
レヴィアを伴い正門に到着すると、命令通りに皇城の正門には多
くの兵士たちが整然と並んでいた。流石に戦争に慣れた帝国兵は動
きが早いな。
パイオーツ・シリスキーがいつやって来ても迎撃できるように、
待ち構える騎士たちは皇帝の居城を護る最精鋭だ、如何に奴が水蛇
竜を操っても容易く制圧できるだけの戦力はある。
そうだ、これだけの戦力があれば奴がこの皇城から逃げられる筈
が無い。多数の精鋭兵どもを簡単に動かせる俺様の実力を舐めた報
いは、絶対に受けさせてやる。
そして、俺様が到着したとほぼ同時に、水蛇竜が正門近くに接近
679
していると報告が来た。奴め、帝国兵の動きの速さに焦って突撃を
試みたか。
全長20メートルを超える水蛇竜が猛スピードで突っ込んできた
が、経験豊富な騎士たちは慌てずに、魔物の動きを封じ斬り刻む。
同時に水蛇竜に乗っていた人影が地面に落ちて⋮⋮
斬り刻まれたのは、結んだベッドシーツ⋮⋮落ちた人影はさっき
と同じ藁人形⋮⋮そして人形を介して聞こえてくる声からは、明ら
かに馬鹿にしたような声色があった。
﹁女を連れて、正面突破とかする訳ないじゃん。常識で考えろよば
ーか﹂
幻覚に騙されたと知った騎士たちが慌てて周囲を警戒するが、い
アルテナ
るわけない。誰にも気付かれず侵入した以上、脱出も簡単だろう。
アルチーナ
つまり⋮⋮俺様の奴隷が。お気に入りの女が⋮⋮あの男に奪われ
たと言う事。許さねぇ⋮⋮草の根を分けても探し出してやる。
﹁パイオーツ・シリスキィィィィ! 殺してやる! 殺してやるぞ﹂
幻覚が解かれズタボロになった藁人形から再び声が聞こえてくる、
段々と小さくなるこの声は、奴との距離が離れてるからか? また
何かふざけた事を抜かす気か?
﹁ああ、それとなんか叫んでたみたいだけど、まさかこんなアホな
偽名を信じるとは思わなかった。あんまり大声出すと恥ずかしいぞ
パイオーツ・シリスキーって﹂
680
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮プッ﹂
集まった帝国兵の中から噴き出すような声が聞こえ⋮⋮正門諸共
に俺様の怒りを叩きつけ破壊し尽した。殺す、何が何でも見つけ出
して殺す!
∼∼∼∼∼
﹁怖い思いさせてごめんな、もう大丈夫だぞ﹂
アルテナの香りを休みなく追跡して丸一日。途中ナーガス湖にい
た水蛇竜を数匹捕獲したりして、疲労して速度の落ちた奴を解放し
乗り換えを繰り返して、やっと追いついた先は、今まで見た事もな
いような大都会だった。
流石に街中で20メートル近い魔物を走らせるなんてしたら、兵
士に邪魔されるに決まってるし、一般の住民を怖がらせる趣味もな
い。
そこで闇魔法で認識を阻害する術を展開して、なるべく人目に付
かないように気を付けながら街中を進むと、とんでもなく巨大で豪
華な城に辿り着いた。
ロバート達が捕まえたチンピラたちの証言を信じるなら、ここは
リーテンブ帝国の首都の筈だが、俺の嫁を攫われたんだから取り返
しに殴り込んでも大丈夫だろう。
681
まぁ俺も一応貴族になるから、問題が起きないように極力バレな
いようにするか。神殿襲撃の時点で十分問題だが、後日にでも実行
犯と首謀者にケジメつけさせれば俺としては問題ない。あまり話を
大きくすると無関係の人間にまで飛び火するからな。
例えばついさっき俺が精神を操って、入り口を開けさせた門番達
とかな。彼らにも家庭があるだろうし首切られたら可哀そうだ。侵
入の段階で処罰の可能性がある? そこまでは知らん、俺の身内じ
ゃないし。
アルテナの香りを更に追跡⋮⋮ところどころに魔術的な防備があ
るので、無力化させつつ攫われた二人を追う。そして豪華な城から
少し離れた場所で、アルテナとアルチーナ姫の気配を感知し急いで
侵入する。
気配を消し、部屋を覗くとアルテナは縛られ転がされており、ア
ルチーナ姫は服を脱ぐのを強要されていた。
とりあえず気持ち悪い笑みを浮かべるブ男を、水蛇竜の尻尾で殴
り飛ばし、ぶち破った窓から二人を抱きかかえ脱出した。良かった
無事に二人を取り戻せた、ああ、怪我とかなくて良かった。
﹁ひっぐ⋮⋮ぐす⋮⋮クリス様⋮⋮怖かった、怖かったよぉ⋮⋮﹂
下着だけのアルチーナ姫に上着をかけてあげて胸元に抱き寄せる。
奴隷化の呪いが掛けられてるようなので直ぐに解呪してあげると、
緊張の糸が切れたのか堰を切ったように泣き崩れる。
﹁クリス様⋮⋮信じてました、きっと助けに来て下さると⋮⋮﹂
682
アルテナも怖かっただろうに、気丈に振る舞う姿がいじらしくて、
拘束を外しキスをする。腰に回した手に伝わる震えは気が付かない
ふりをして、唇だけではなく舌を絡め口全体でアルテナを堪能する。
さて、あんまり敵のホームでのんびりもしてられないし、アルチ
ーナ姫を抱いてアルテナにキスしたポーズのまま、藁人形に幻覚を
被せてすぐに水蛇竜の背に乗り離脱する。
アイテムボックス
この藁人形は修業してる頃、魔物を誘き寄せる為に収納空間に入
れといた奴で、軽くて遠距離から魔法で動かすにも楽なお手軽アイ
テムだ。
一応声でのやり取りは出来るようにしておこう、敵の目を少しで
も引き付けられれば御の字ってとこか。
侵入した時と同じように、気配を消しながら来た道を戻る。妙に
頑丈なブ男と、置いてきた藁人形越しにやり取りの後、建物ごと吹
き飛ばされた。
まぁ一分も保てば上等か、デタラメ吹き込んどいたけど引っかか
るかどうかはちょっと賭けだな、人海戦術で追われると連れてる二
人に危険が及ぶ場合があるからな。威力は大したものだけど、どう
も魔術の発動に慣れてないと言うか、妙に素人臭いな? まぁどう
でもいいか。
水蛇竜を走らせ城を脱出したところで、今度は正門近くから爆発
音が聞こえた。どうやらデタラメに引っかかったようでなにより、
むしろ引っかかるとは思わなかった。混乱してる街を尻目に城壁を
超え、人気のない草原まで逃げたところで一息つく。
683
やれやれ、丸一日水蛇竜の後頭部に乗ってたから流石に疲れた。
もうちょっと身を隠せる場所を見つけたら少し休もう。誘拐犯が休
みなくここまで来たと言うことは、アルテナたちも休んでいないと
言う事だ。
アルチーナ姫は泣き疲れたのか、俺に縋りつきながら寝息を立て
てるし、アルテナもちょっと顔色が悪いように見える。
﹁もう少し進んだら休憩しよう、姫も横にして休ませてあげたいし、
アルテナも疲れただろう﹂
﹁クリス様こそお休みになってくださいませ、私は敵に囚われてる
間、眠らされておりましたから﹂
﹁いや、魔法で眠らされてても丸一日以上水も飲んでないと、自分
で思ってる以上に衰弱してる。それに魔法による眠りは寝た事にな
らないからな、アルテナは今緊張状態だから寝れないだけで疲れ切
ってるぞ。水を飲んで、果物だけでも口に入れたら、眠れなくても
良い、目を瞑って横になれ、俺は周囲を見張ってるから﹂
アルテナは俺を休ませたいみたいだが、流石に敵の勢力圏で気を
抜くことはできない、なぜなら認識阻害をかけていても多分見つか
る。大規模な軍隊には絶対に一人はいる、光魔法の使い手がいると、
九割九分捕捉されるだろう。
光魔法とは明かりを灯すのが基本で、習熟すると﹃視る﹄と言う
一点に特化していく。﹃物を探す﹄﹃虚偽・隠蔽を見抜く﹄などに
長けた属性で、専門の光魔法使いともなれば軍のお偉いさんが頭を
下げて仕官を願うとまで言われている。
684
別名、感知魔法とも言われる系統で、敵軍の動きを察知したり、
遠くの地形を映し地図を作製したりと、光魔法使いの有無が戦争の
趨勢を定めるほど重要だ。
そして達人になると、落ちてる髪の毛で個人を特定する程の調査
能力と、大陸の端から端まで見通せる超広域の知覚能力を持ち得る。
そしてリーテンブ帝国程の大国に、そのレベルの術者がいない筈が
ない。
警戒を緩めないで進み、ちょっとした雑木林を見つけたので水蛇
竜から降りて休もうとした瞬間、林の中から一人の老人が姿を現し
た。
﹁こちらに敵意はござらん、少し宜しいか?﹂
強い。この爺さんは間違いなく魔術の達人級、魔力の器と総量は
俺が勝っていても。魔力を扱う技術に関しては俺よりも遥かに上を
行ってる。ぶっちゃけ俺の師匠と同類っぽくて苦手なタイプだ。
﹁とりあえず、なぜ追いつけたのかだけ説明してくれ。こちらの属
性は闇、虚言は無駄だ﹂
魔法使い同士が相対し交渉するときは自身の属性を先に言ってお
くのが礼儀らしい。らしいと言うのは師匠に教わっただけで、他の
魔法使いと相対するって今までなかったからだ。
﹁ほぅ! お若いのに道義を弁えておられるとは感心ですのぉ。い
やはや昨今の若造共に勇者様の爪の垢でも煎じて飲ませたいところ
ですな﹂
685
楽しそうに話す老人の様子は、好々爺めいていて、隙だらけに見
えるがとんでもない。俺ですら気付かないうちに周囲には光の玉が
浮かんでおり、一挙手一投足に至るまでこの爺さんに観察されてい
る。
監視用の術だから危険はないけど、俺に気付かせないで術を展開
できるのが、この老人の実力を示していた。そしてカロリングの街
で俺の顔は知られてるから、勇者だと知っててもおかしくはないが、
知ってるのは重要な情報を握る上層部に限られるはずだ。仲の悪い
国に勇者がいるって知られると士気に関わるし、帝国にも法の女神
を信仰する人がいるんだから、国から離脱される恐れもある。
﹁先ず追いつけた理由でしたのぉ、手前の属性は光でございまして
ご存知の通り、人を探すのに少々秀でております﹂
相当高い身分だろうに、意外と腰の低い丁寧な物腰。警戒心を抱
かせない朗らかな表情。しかしこちらを見る老人の眼光は戦場に生
きた戦人のものだ。
﹁そしてもう一つ、得意な系統がありまして。手前としては勇者様
と顔を合わせた上で話がございまして、先回りさせていただきまし
た﹂
﹁爺さん、俺は追い付いてきた理由じゃなくて手段を聞いてるんだ。
嘘はついてないみたいだけど、時間稼ぎと判断したら攻撃させても
らう﹂
恨みはないが二人の安全と天秤に掛けて、この爺さんを排除する
のが手っ取り早いと見たら躊躇する気はない。
686
﹁おや、寝不足で少々気が立っておられるようですのぉ、ではお答
えしますが、前のもう一つの得意系統は﹃時﹄でございます。時空
魔法と言った方が分かりやすいですかの? 勇者様を見つけて瞬間
移動で先回りさせて頂いた次第﹂
﹁爺さん、なんでアンタ権力者に始末されてないんだ?﹂
アカン、ヤバいぞこの爺さん。超広範囲を監視出来て、簡単に瞬
間移動が可能とか、いつ謀殺されてもおかしくないぞ。
アイテムボックス
時空魔法は﹃時間﹄や﹃異なる次元﹄に干渉する術で、一応俺も
使えるが収納空間だけ、それ以上の術は師匠も使えないし、学ぼう
にも魔導書は所在は、いや存在するかどうかすら不明とされる。
光魔法使いを厚遇するのは便利だからと言うのもあるけど、一番
の理由は囲い込みだ。その気になればどこでも覗き見る事の出来る
術者が、敵対する勢力に雇われでもしたら危険だから。そしていつ
でも目の届く範囲に置いておく為だ。
そして自由自在に好き勝手に動く光魔法使いなんて、権力者から
すれば恐怖以外の何物でもない。まして瞬間移動でいつでも寝首を
駆けるとなれば⋮⋮なんで殺されてないんだこの爺さん?
﹁ああ、それは簡単な事でございます、お恥ずかしながら手前には、
少々余人が手を出しにくい程度の権力がありましてな﹂
﹁それと得意とする魔術を隠してるとかか?﹂
初対面の俺に正直に話すくらいだから隠してないのかと思ったが、
687
考えてみれば隠すよな、こんな面倒事に必ず巻き込まれる属性。俺
が闇属性なのを公言しない程度には当たり前の事だ。
﹁ほほほ、精神に干渉する闇魔法の使い手を前に、嘘は悪手でござ
いましょう﹂
﹁それは確かにそうだけど、俺が嘘をついたとかは思わなかったの
か?﹂
・・・・・
﹁思いません⋮⋮否、思えません。それこそが法の女神が求める者
の能力故に。そう⋮⋮それは手前が、かつて法の女神の手を取って
いれば得られたであろう能力⋮⋮正道を歩む王の能力﹂
なんだ? この爺さんは何を言ってるんだ?
・・・・・・
・・・・
﹁手前は精神干渉を遮断する装備を幾重も纏っております。しかし
それでも尚、問答無用で信じてしまい、勇者様の言葉を疑えない。
人々を導き調和を齎す、女神が望んだ正道の王の言葉﹂
能力? 正道の王? 爺さんが何か勘違いしてるんじゃないかと
思ったが、少なくともこの爺さんは嘘はついてないし、変な思い込
みをしてる様にも見えない。
﹁先ずは自己紹介からさせて頂こう﹂
爺さんが手に持った杖を一振りした瞬間。それが時空魔法の発動
だと気が付いた時には俺たち三人は、広く豪奢な部屋に立っていた。
馬鹿な瞬間移動させられただと、油断はしていなかったと言うのに
抵抗も出来なかったと言うのか!
688
﹁この杖はのぉ⋮⋮約30年前に即位後すぐ倒した、火尾狐の魔王
種⋮⋮﹃炎獣王ビャクメン﹄の魔核で作ったモノでござる。効果は
一瞬で魔術が発動できるというもの、それこそ抵抗を試みる暇もな
い程にの﹂
杖を持ったままの爺さんは、いかにも高級品のソファに腰かけ、
指を鳴らしただけで空間が歪み、一瞬前まで何もなかったテーブル
の上に湯気の立つ紅茶が現れた。
﹁先ずは断りもなくこの離宮にお連れした非礼をお詫び申し上げる﹂
﹁いや⋮⋮相応の事情があるのは分かるから構わない。それで話っ
てのは?﹂
水蛇竜が瞬間移動に取り残されたのは兎も角。俺のすぐ脇で眠っ
たままのアルチーナは膝枕してあげて、アルテナもかなり疲労して
るからソファに座らせる。淑女として俺の後ろに立とうとしてたけ
ど、疲れてる妻を立たせてる訳にはいかない。
﹁先ずはこの年寄りの昔話を聞いて下され。約30年前に手前が⋮
⋮このリーテンブ帝国が帝国となる前。このリチャード・リーテン
ブがリーテンブ王国の王に即位した日の事でした⋮⋮﹂
リーテンブ帝国、初代皇帝はかつての出来事を思い出すかのよう
にゆっくりと話し始めた。
689
脱出︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
690
帝国の真相
﹁さて、先ずは何処から話したものですかの⋮⋮ふむ、では最初に
手前の目的。否、神がこのリチャード・リーテンブに望んだ﹃役目﹄
からお話ししましょう。っと、その前に⋮⋮﹂
皇帝陛下の爺さんは紅茶に蒸留酒を数滴垂らしつつ、俺たちの紅
茶に何を入れるか確認してきた。
﹁アルテナは確かミルクだけだったよな? アルチーナはどうする
?﹂
一応胡散臭い爺さんではなく、皇帝の前なので、いくらなんでも
寝たままは拙いだろうと先程アルチーナを起こしたのは良いけど、
目を覚まして早々目の前に皇帝がいたもんだから︱︱︱顔だけは知
ってたみたいだ︱︱︱かなり取り乱してた。今は俺の腕に縋りつき
何とか平静を取り戻してる。
﹁わ、私もミルクだけでお願いしますわ﹂
﹁それじゃミルクと砂糖を頼む﹂
爺さんは軽く頷くと、パチンと指を鳴らすだけでテーブル上に二
つの小瓶が出現する。二人はミルクを俺は砂糖を、それぞれ好みの
量を紅茶に入れ、一口飲むと今まで飲んでた紅茶とは全く違う、芳
醇な香りが口の中に広がる。
敵意が無い事を証明する為か? 精神干渉を防ぐ装備を外してる
691
ので、一応は害意が無い事は闇魔法で精神を探って確認させて貰っ
てる。しかし初対面の、しかも関係微妙な他国の魔法使いに自分の
内心を見せるとは、どういう言う胆力してるんだこの爺さん。
カップを持ったまま爺さんはソファに深く腰を沈め、ゆっくりと、
出来るだけ分かり易いように話し始める。それは懐かしむようで、
悔いるようにも見えて。彼の代でこの大陸一の大国にまでのし上げ
た英雄らしからぬ弱さがあった。
﹁今より約30年前、帝国となる前のリーテンブ王国の王に即位し
た手前は、ある神託を授かりました﹂
∼∼∼∼∼
これは今より30年ほど前。私は三十路を少々過ぎた頃に王位を
受け継ぎ、リーテンブ王国15代国王となった。
私は幼少より魔術に長けており、王太子であった頃から武勲には
事欠かなかった。やっかみの類が無いでもなかったが、私の才を羨
おもね
み称える者が大半であった。今にして思えば相当慢心していたと思
うし、王太子である私に阿っていた者が殆どであった。若かったと
はいえ当時の振る舞いは汗顔の至りだ。
とは言えある程度傲慢に振舞うのは、王として必要な事であった
ので咎める者はいなかった。そして自分こそが最も優れた人間なの
だと思いあがったままに、神殿での即位式の最中に神からの啓示を
受け、加護を授かった事で、更に歯止めが無くなった。
692
ああ、我こそ神に選ばれた王か。我の足跡が大陸の歴史に燦然と
輝く神話となるのか。神の声を聴いた瞬間そんな考えが浮かんだの
は、目の前に降り立つのは一柱ではなく、二柱の輝く人影が私に手
を差しのべたからだ。これで舞い上がらぬ王がいれば顔を見たいも
のだ。
私の前に顕現して下さった二柱の神。軍神ファールスと法の女神
トライア、どちらも大陸中で信仰され、有数の勢力を持つ偉大な二
柱の神。
神託に曰く、今より50年先の未来に飛竜の魔王種が出現し、大
陸は生き物の住めない不毛の土地となるであろう、故に汝は魔王種
を討つべく備えよと、その為の加護を授けようと。
まず最初に法の女神トライアは仰った。私の手を取り飛竜の棲息
圏内にある国々と同盟し連携することで、多くの人々と手を取り合
い苦難に立ち向かおうと。その同盟の盟主となるに相応しい加護を、
正道の王となる力を授けようと。
次いで軍神ファールスは仰った。周辺国を飲み込み巨大な帝国を
築けと。その過程で多くの戦が起こるだろうが、その戦いの中で数
多の英傑たちが誕生するだろう。彼らを従える常勝の加護を、覇道
を進む王の力を授けようと。
慢心したままに王となった私は、軍神の加護を賜り覇道を進む事
がこの上なく魅力的に思え、軍神の手を取った。そして軍神の加護
を手に入れた瞬間、例外なく平伏していた家臣達の熱狂に、祭壇の
間は包まれた。それがリーテンブ帝国の第一歩であった。
常勝の加護とは、私の身体は﹃勇者を除くあらゆる生き物からの
693
攻撃が無効となる﹄と言うもの、つまり勇者以外であれば一切の攻
撃を受け付けないのだから、敵将を一騎討ちで倒してしまえば、そ
れで戦の趨勢は決する。まして私はあらゆるモノを﹃視る﹄光魔法
使いだ、罠や絡め手なども一切効かない。
さりとてあたら兵たちを減らす訳にはいかないので、戦を始める
前に準備を疎かにする事は出来ない、家臣たちに戦支度を急がせる。
それと同時に、神託の通りに飛竜の魔王種を倒すのであれば、敵
を知る必要があるので、飛竜の生態調査を並行して行うことにした。
私自身が飛竜の棲息域に乗り込んで絶滅させることも考えたが、空
飛ぶ飛竜を一人で滅ぼすなど出来るわけが無いし、険しい山地に大
量の兵士を連れても行けない。
なにより種の根絶の危機には魔王種が誕生する可能性が高まると
言うののが通説だ。絶滅させるのを諦め、暇を見て間引いたり、生
態を調べるのに生け捕りにするに止める。
飛竜とは文字通り空を飛ぶ事に長けたレッサードラゴンの一種で、
一部の地域では調教し騎獣にする部族があるらしいとは聞いてる。
ただレッサードラゴンの中では弱い部類に入り、大陸を滅ぼすと言
われてもあまり実感が沸かなかった。
確かに飛竜の棲息範囲は恐ろしく広い、魔王種の出現は同種の魔
物の大量繁殖をも引き起こす為、確かに厄介極まるだろう。
だが一般的に知られてるだけでも、飛竜とは非常に小食で、5メ
ートルもの体長がありながら一日に必要な食料は普通の成人男性と
同じくらい。やや草食寄りの雑食で人里に飛んできては田畑を食い
荒らす事がある。空を飛ぶ為に体重は見た目ほどでもなく、訓練さ
694
れた兵士の弓なら鱗も貫ける。
武器を持った人間を積極的には襲わないし、飛竜そのものはいく
ら増えても被害は微々たるものだ、兵士が10人もいれば空を飛ば
れても討伐可能であるし、専用の装備でも用意すればもっと簡単だ
ろう。
しかし調べていくうちに厄介な飛竜の生態が判明する、誰もが気
に留めていなかった飛竜の排泄物が大陸を滅ぼしうる要因だと分か
った。
飛竜の体内、臓物の中には排泄物を食べて栄養価の高い蜜を分泌
する虫が生息している。これが図体の割に小食な理由で、それだけ
の寄生虫なら一切問題は無い。この虫はモツムシと名付けたのだが、
飛竜が大量に発生した場合このモツムシが問題だった。
飛竜の排泄物にはこのモツムシの幼虫が大量に混ざっており、卵
から孵った飛竜は最初に親の排泄物を食べると言うが、まぁその辺
はどうでもいい。
問題はこのモツムシの幼虫を飛竜以外の生き物が食べたりすると、
狂暴化し目についたあらゆる生き物を食い殺そうと暴れまわるのだ。
調べたところ、モツムシの分泌する蜜は栄養そのものはあるのだが、
飛竜以外の生き物が摂取してしまうと、精神を狂わせる劇物である
ことが分かった。
そして狂暴化した生き物が死ぬと、その死骸を食べた体内の幼虫
が変態し成虫になって、草木を食い荒らすのだ。この成虫の食欲は
ごくまれに発生する飛蝗現象にも似て際限なく、無差別に土地を荒
野へと変貌させる。
695
勿論飛竜の棲息範囲でどこでも起こりうる現象で、今までは数が
少ないために、狂暴化させる蜜を分泌しない成虫は、鳥や小型の魔
物等に食べられるだけだったが、飛竜の大量発生となると数が違い
過ぎる。
神々がこの虫の生態を知っていたのか、魔王種出現の因果でそう
なる事を予知したのかは兎も角。私が即位して以来歴史を鑑みても
神々の加護を授かった人間の割合が多く、神々がこの件を特に重要
視してるのは理解できた。
そしてこの使命に関して、僅かにでも怯懦の素振りを見せれば、
破滅が待ってることも理解した。それこそ己を信仰する民が戦火に
焼かれようとも、魔王種に対応できる体制さえ出来ていれば良いと
ばかりに、軍神は戦争を許すのだ。
飛竜の棲息圏外の国を攻めても、資源や人材が手に入るならば許
された。反抗する者たちを必要以上に激しく罰しても、体制の邪魔
になる要因の排除であれば問題視されなかった。
即位してから30年。リーテンブ帝国は名実共に大陸一の大国と
なった。私も齢60を超え流石に戦争ばかり続けるのは堪える歳だ
が、南の大国マーニュ王国を吸収し更に国力を高めるべく準備を始
めた。
何よりも国境付近のラーロン地方に狼の魔王種がいるのが良い。
奴の魔核を手に入れ対飛竜用の兵器を造れれば、それだけで攻め入
った甲斐がある。
また国土を吸収できなくても、戦争で成り上がりを目指す若者の
696
中から、またしても英傑が誕生するであろう。既に我が軍には綺羅
星の如く若き英傑たちが揃い、20年後の魔王種出現の際には大い
にその力を振るってくれるだろう。
マーニュ王国との戦争は兵たちを実戦に慣れさせたところで、程
々の所で和睦し。残り10年になれば国内に居座る蟻の魔王種を相
手に、対魔物の経験を積み重ねるのが良いであろう。
あと20年、私が人生を懸けて築き上げた、世界最強の帝国軍の
総力を飛竜の魔王種に叩き込むのだ。
∼∼∼∼∼
そこまで話して爺さんは一旦話を止め、紅茶のお代わりを淹れて
くれた。皇帝陛下が直々に淹れた紅茶と言うのも中々味わえないも
アイ
のだと思うが、この爺さんお湯入れてそのまま注ぐだけだから、折
角の高級品も台無しである。
テムボックス
どうも最初に淹れてくれたお茶は専門の使用人が用意した物を収
納空間に入れてただけっぽい。まぁ出されたものに文句を言う気は
ないけどな。
﹁今から20年後に魔王種が出現するのも、飛竜の異常繁殖が神々
ですら危険視するものだと言うのは分かった。分かったんだが少し
おかしくないか? 今の帝国って随分と⋮⋮アレだ纏まり悪くない
か?﹂
カール王子からちょっと聞いただけだが、話を聞く限り帝国は併
697
呑した国々が次々に反旗を翻す⋮⋮とまではいかなくても、かなり
足元がぐらついてる、こんなんで戦争始めたら帝国瓦解するんじゃ
ないか? 歴史を鑑みても、内憂を抱えた状態で戦争とか自殺とし
か思えないのだが。
いや、別に帝国の心配してる訳じゃなくて、純粋な疑問だ。まぁ
自分の国に戦争吹っかけてこないなら、それに越したことはないん
だけど。
﹁仰る通りです、ほんの1年前、去年までは精強な帝国軍が睨みを
利かせ、少々の反発はあっても反抗はあり得ませんでした。別に圧
政を敷いたわけでも重税を課したわけではありませんし、兵たちの
鍛錬の為、積極的に魔物を狩らせましたので、魔物の脅威がなくな
った地方では帝国の支配を歓迎する場所もあります﹂
魔物を兵士が狩ることで、その分収入の増えた兵士が気前よく金
を使う。人間は利があれば早々相手を嫌うことも無いので、出来る
だけ反発を少なくするようにする策だったと爺さんは答えた。
爺さんとしても飛竜の排泄物を処理させる為に、現地住民の協力
は不可欠なので、必要な措置として徹底させたそうだ。
それに加えて連絡網の構築や集落同士を結ぶ道の建設を進め、魔
物が減り安全となったので、整備された街道を使い人々の行き来や
物流が活発になり、兵士が頻繁に巡回するので盗賊の類もかなり減
少した。
まぁこの辺の帝国の政治話を聞いても、俺には良く分からんので
軽く頷くだけにする。アルチーナは熱心に爺さんの話を聞いてるあ
たり流石に王女か。アルテナは政治の話には殆ど我関せずの態度だ。
698
﹁先程も言った通り、手前はマーニュ王国に攻め入ろうと準備を進
めておりました。今より大体3年前、事前準備の一環として息子た
ちに内偵を命じました﹂
いくら皇帝が無敵だからと言って無策に攻めれば兵士の消耗が大
きい、そこで息子たちにマーニュ王国について調べさせ、異なる視
点からの情報を基に戦略を練るつもりだった。そしてそれぞれに献
策させることで、息子達の資質を図ろうと思ったそうだ。
﹁内偵を終え帰ってきた息子達は口を揃えて言いました、マーニュ
王国とは友好関係を築きましょう。誼を深め未来に発生する魔王種
との戦いに助力を求めましょう。西の大陸に攻め入り奴隷を手に入
れるべきです。息子達は全員そのような意見を言ってきたのです﹂
はて? 話の流れ的に﹁ここで武勲立てれば後継者候補の最有力
!﹂とか言って戦争推進しそうなものだけど、爺さんの息子達って
意外と戦争嫌いなのか? それとも内政に力を入れるべきだとか意
見があるのだろうか?
﹁内偵を進めていた息子たち全員が戦争回避を主張するので、手前
も無理をすることは無いと判断しました。重要なのは未来に出現す
る魔王種であって領地ではありませんからな﹂
ならばと併呑した国々と同化政策を進めるべく、そちらに掛かり
切りになったせいで、息子達の動向をあまり気にしてなかったのが
失敗だったと、爺さんに口調が一気に疲れたものになった。
﹁普段いがみ合ってる息子共の意見が一致することに疑念を抱くべ
きでした。手前はてっきり兵達に厭戦気分があって、息子共はその
699
意を酌んだものと思ってしまったのです⋮⋮ですが実際は、もっと
バカげたモノでした﹂
言葉を区切った爺さんは今度は紅茶ではなく、ワインを取り出し
一気に煽った。よほど言い難い事なのだろうか?
息子
﹁馬鹿共は⋮⋮内偵を進めてるうちに一人の令嬢に入れ込み戦争の
内偵そっちのけで、その令嬢に内偵の為の金銭を貢いでおったので
す。それで全く仕事をしていないのを隠すべく非戦を主張したのが
真相です!﹂
ひしゃ
努めて冷静に話してるつもりなのだろうけど、話してるうちに怒
りが蘇ってきたのか、銀製のワイングラスが爺さんの握力で拉げて
いってる。凄く緻密な装飾された高そうなグラスなのに勿体ない。
﹁しかも! 手前に黙って西の大陸に勝手に進出したのです、理由
を聞きますか? 件の令嬢に誰が珍しい奴隷を贈れるか競ってたそ
うですぞ! 馬鹿か! 貴様ら歳を考えろ40過ぎてるくせに惚れ
こんだ相手は15歳! 3年前は12歳の令嬢だろうがぁぁぁぁ!﹂
あ、うん。分かりたくないけど理解してしまった、オリヴィアの
妹か、俺も正直関わり合いたくない。
﹁はぁはぁ⋮⋮申し訳ございません勇者様、年甲斐もなく興奮して
しまいまして﹂
こうむ
﹁いや、その令嬢には俺の嫁さん達も被害を被ってるから﹂
大声出して我に返った爺さんはワインを飲み干し一息つくと、西
の大陸について教えてくれた。
700
西の大陸には人間が殆ど住んでいない、一部にクレイター人の商
人がいるくらいだ。この大陸の神々﹃エウロ神族﹄とは全く思想の
異なる﹃パミュラ神族﹄を信仰する妖精族が住まう広大な大陸だと
か。
接点の比較的多いクレイターでも、興味を持って調べない限り、
名前くらいしか知られていないそうだ。
﹁魔王種打倒の為であればあらゆる事をお許しになられた軍神ファ
ールスでしたが、これはお許しになりませんでした。西の大陸への
進出は逃げ道の確保と判断されたようなのです﹂
﹁息子が勝手にやった事じゃないのか?﹂
どうやら﹃いつでも西の大陸に行ける﹄のが逃げ道を用意したと
判断されてしまったらしい。それでも息子達の行動が発覚した時点
では気が付かなかった、なぜならば⋮⋮
﹁時期的に馬鹿共が西の大陸へ航路を見つけ出した頃、去年の話で
すがアレス・マーズと名乗る男が現れたのです。何処からやってき
たのか、そもそもマーズと言う家名は聞いたことも無く、調べても
存在を確認できませんでした﹂
しかし彼の身元など、軍神が遣わせた勇者であると言う事実の前
にはどうでも良かった。爺さんはすぐさま彼を囲うべく皇城の一画
を与え、また未婚の娘の中で最も美しく、同い年であったレヴィア
姫を嫁がせた。
この時爺さんは彼を軍神から贈られた援軍なのだろうと判断した、
701
なぜなら勇者アレスは現在17歳、20年後は正しく男としても武
将としても円熟の域に達し、前線指揮官として不足ない貫禄を持っ
ている事だろう。
だが、その勇者こそが軍神の送り込んだ﹃懲罰﹄だった。たった
の1年で併呑した国々との関係は拗れ、反乱の火種がそこら中に生
まれてしまった。その原因の大半がその勇者に起因した。
最初は皇帝や重臣たちには礼儀正しく、下働きの者にも普通に接
していた勇者アレスだったのだが、徐々にその本性が表に現れてき
たのだ。
先ずその異常な性癖により、毎年後宮に送られてくる美少女達︱
︱︱行儀見習いの一面があって皇帝のお手付きでもない限り、後宮
をから出ていくことも出来るそうだ︱︱︱に目を付けた勇者が奴隷
にして乱暴し、有力者達の離反を招いた。
皇帝は60歳を過ぎているのだ、当然後宮に娘を送る親の意図と
しては、中央で恥ずかしくない程度の立ち振る舞いを身に着け、コ
ネを構築すればそれで良し、中央で働く男に嫁げればさらに良し、
といった感じらしい。
事実爺さんが10代半ばの少女に手を出す訳もなく、後宮は良家
の子女達のサロンと化していた。その華やかな少女たちの園を土足
で踏み躙った勇者の乱行に、必死に勇者であることを隠すだけで手
いっぱいだったそうだ。
その後も多くの人間が泥を被りながらも勇者の情報は隠し続けた。
隠し続けても勇者の乱行は止まらない、人質として皇城で暮らして
いた各国の姫たちまで毒牙にかかり、帝国乃至は皇帝への不信と疑
702
念は頂点に達した。
﹁そして、今夜の出来事を多くの兵たちが目撃した以上、これまで
の醜聞が漏れ市井にまで届くのは間違いないでしょう⋮⋮彼が現れ
て一年、どれだけ手を尽くしても各国の離反はもう止められません﹂
淡々と語る爺さんの姿は、とても歴史に名を遺す大英雄のモノと
は思えないくらい弱々しく、何処にでもいるただの老人のようであ
った。
﹁勇者には神々に望まれた役割がございます。歴史上その役割を終
えた者の結末は様々、人々に慕われ穏やかな人生を過ごした者。勇
者の能力でもって栄華を極めた者。力に溺れ破滅した者⋮⋮その役
目とは与えられた能力を観察すれば凡そは察せられます﹂
﹁爺さんがさっき言った俺の能力か? あんまり自覚は無いんだけ
ど﹂
確か俺が発した言葉は問答無用で﹃疑えない﹄んだっけ? そう
考えるとあの時に誘拐犯が冗談で言ったアホな偽名を信じたのは、
それが原因って事か。
﹁勇者様はそれで宜しい。勇者に与えられた役割とは、御心のまま
に生きれば自然と達成されるものでございます﹂
﹁そういうもんか? 俺としては嫁さんに良い暮らしをさせられれ
ばそれで良いんだけどな﹂
﹁ええ、それで良いのです。勇者様がその為に動けば、それが神の
望んだ役目にも沿います⋮⋮恐らくですがこの国が内乱で疲弊する
703
前に、勇者様の手で平定されることでしょう。正道の王となる事を
神に望まれた、クリス・アストライア名の下に﹂
爺さんは真っすぐに俺を見て断言するが、俺は王様とか向いてる
と思えないんだがな。爺さんの話はここまでのようで、俺たちは今
夜皇城に泊まるよう勧められた。爺さんの時空魔法の腕なら今から
でもマーニュ王国との国境付近まで送れるのだが、疲弊しきった二
人を早くベッドで寝かせてあげたいので好意に甘える事にした。
うーん、爺さんに害意が無いのは分ってるんだけど、仮にも魔物
引き連れて殴り込んだ上に泊めて貰っていいのだろうか? まぁ皇
帝が良いと言ってるんだから気にしない事にしよう。
704
帝国の真相︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました、ちなみに現時点での
神様的目論見としては。
神﹁魔王種生まれるのは仕方ないんだがなんか俺らの大陸滅ぶんだ
けど﹂
神﹁と、とにかく人間たちが一致団結して解決するように誘導しま
しょう﹂
神﹁立地的に恵まれてて能力がある奴に加護つけよう﹂
神﹁とにかく50年後大陸が滅ばないように各々対策を考えると言
うことで﹂
神々﹁さんせーそれじゃ解散﹂
愛﹁あ、私は人口が増えるように頑張るから︵次のアバターではど
んな子と恋愛楽しもうかなww︶﹂
その後
軍﹁都合のいい奴がいたから加護与えよう、人間を纏めるには統一
国家を作らせるのが一番手っ取り早い﹂
法﹁協調路線を選ぶかもしれませんので、選ばせてあげましょう人
格的に貴方選びそうですが﹂
暫くして
軍﹁あの野郎余所に逃げる準備してやがる一旦潰すか﹂
法﹁能力的に魔王種に特効な少年を見つけました、人格も良いので
勇者します﹂
705
海﹁では彼の息子も勇者になるように誘導する、鳥人族なら飛竜に
も優位だ﹂
愛﹁帝国の人口ガンガン増えてるよw︵ぐふふ逆ハ︱レム最高ww︶
﹂
706
船の上︵前書き︶
遅れた上にエロまで展開を持って行けず申し訳ございません
作者は健康そのものですが会社の人が風邪をひくと穴埋めに忙しく
なるので、皆さんも体調管理には気を付けましょう
707
船の上
唇に触れた柔らかい感触に目が覚めた。微かに鼻腔をくすぐる女
の子の匂いと、身体中を包むような温かさが心地良い。無意識にそ
ちらに顔を向けたようで、再び啄むようなキスをされる。
﹁⋮⋮んっ、ちゅっ⋮⋮んむっ⋮⋮おはよう﹂
﹁おはようございますクリス様﹂
未だ重い瞼を開けると、窓から差し込む淡い光に照られたアルチ
ーナの笑顔がすぐ目の前にあった。絹のような光沢の黒い髪がまる
で輝いてるようで、気の強そうな瞳は穏やかな光をたたえ、真っす
ぐ俺の目を見ている。
ああ、綺麗な子だな。無意識に彼女の腰に回した右手に力を込め
て、抱き寄せたのは俺が悪いんじゃない、頬を染めたアルチーナの
笑顔が可愛いせいだ。
身を起こし俺からアルチーナにキスをする、舌を絡めると彼女は
躊躇なく俺を受け入れる。触れた肌に緊張したような感触は無く、
身も心も俺に委ねているようでキスしながら、さらに密着してくる。
最近分かってきた︱︱︱メリッサにレクチャーして貰った︱︱︱
女の子を感じさせるキスのやり方で攻めてみると、みるみる蕩けた
表情になる。キスだけで性的に感じさせることに満足し、唇を離す
と名残惜しそうな表情がまた可愛い。
708
﹁んっ⋮⋮はぁ⋮⋮クリス様ぁ⋮⋮キス⋮⋮素敵です﹂
離れた唇の間に垂れた糸が引く。アルチーナは下着姿のまま増々
俺に密着してくる、その姿は人懐っこい子猫のようで。幸せそうに
俺の胸元に頬を擦りつけてくるので暫くなすがままにされる。
昨晩は爺さんに皇城の客室を貸して貰ったんだけど、流石に帝国、
天蓋付きのベッドの寝心地は最高で三人で寝ても余裕の広さで狭苦
しさは全く無い。まぁ女性二人は俺に抱きついて寝たので、狭苦し
さも何もないのだが。
爺さんとの話が終わった後は流石に疲れていたので、汗を流す間
も惜しんでベッドに潜り込んだ。その時にアルチーナから敬称は付
けて欲しくないと言われたので、呼び捨てにすることにしたのだ。
その後も少し話をしてたのだけど、余り内容は覚えてない。気が
付いたらもう朝になってた感じで、よほど熟睡したんだな、まぁ丸
一日以上気を張って追跡なんてすれば当然か。
見れば俺たちの着ていた服はベッドの隅に脱ぎ捨てられていた。
よって俺たち三人は下着姿のまま。運動してるので鍛えられ、健康
的で爽やかな色気を持つアルチーナの柔肌の感触にムラムラしてき
た。
下着姿の美少女が発情しきった表情で身体を擦りつけてくるのだ、
その気にならない方が失礼だろう? だがしかし、残念ながらここ
は俺の家でないのだ、流石に泊めて貰った客室でセックスは拙かろ
う。常識的に。
だから鎮まれ俺の息子よ、アルチーナも俺の逸物が昂りまくって
709
るの気付いてるようで、太股を愚息に擦りつけてくる、くっここが
俺の家のベッドなら⋮⋮あ、でも初体験は初夜が良いと約束したの
で今は手が出せん。
ふと、アルテナがまだ寝てたら騒ぐのもかわいそうだと思い、左
手で抱いていたアルテナの感触を確かめようとして⋮⋮手が温かく
て柔らかいものに包まれてる、もっと言えばアルテナの太股に挟ま
れていた。そして微妙に、しかし確実に濡れていた。
﹁あ⋮⋮んふぅ⋮⋮クリス様おはようございます﹂
にっこりと、俺に挨拶をしてくるアルテナの顔はどう見てもエッ
チ直前、挿入を期待してる表情だ。ムラムラしてる時にその表情を
されると、我慢するのが厳しいんだが⋮⋮なんとか他人の家である
ことを思い出し自制する。
そう言えば今まで何度もアルテナを抱いたけど、一緒のベッドで
寝て手を出さない時って無かったな。アルテナって大人しそうで、
エッチには積極的だからな。
アルテナにもキスをすると、さらに密着してきて、それに対抗す
るようにアルチーナもますます密着してくる。ここが俺の部屋だっ
たら、迷いなく二人を押し倒してセックスに突入するところだ。
﹁二人ともおはよう、いますぐ食べちゃいたいくらい可愛いけど、
ここは他人の部屋だからちょっと我慢してくれ。帰り道でたっぷり
可愛がるからね﹂
﹁も、申し訳ございません! 私ったらはしたない真似を⋮⋮﹂
710
﹁えっ! ク、クリス様が我慢だなんて! ひょっとしてお加減が
悪いのですか﹂
アルテナの献身と愛情は疑いようがないし、俺も愛してるけど⋮
⋮俺って嫁からどう思われてるんだろうか? とりあえず失礼な事
を口走るアルテナの頬を軽く摘まんで黙らせるとする。
﹁他人の家でセックスすると迷惑かかるんじゃないか? って思っ
ただけでなんで驚くのかなアルテナ?﹂
﹁ひゃうぅぅ⋮⋮も、もうひわけほひゃいまへん⋮⋮﹂
痛くはしてないけど、顔をむにむにする感触が楽しい。まぁ嫁を
あまり苛めたくもないのでこの辺で許してあげよう。
﹁アルテナは帰ったらおしおきな。さてちょっと汗を流したら帰る
とするか﹂
リーテンブ帝国ではあまりお風呂に入る習慣が無いそうだけど、
流石に皇帝の身の回りの世話をする人たちは有能で若い男女3人で
寝てた俺たちの為に、人が入れるくらい大きな桶が三つ、それぞれ
にたっぷりお湯を張って持ってきてくれた。
・・
汗以外の体液で汚れてるの想定してたんですね? 分かります。
・・・・
分かるんだけど流石の俺も他人の家でセックスしないからね。そう
いう用途の宿屋なら別だけど。
桶の中のお湯で汗を流した後。アルチーナとアルテナは、昨夜お
風呂に入って無いので色々手入れをするそうだ。
711
アイテムボックス
仕方なく部屋で待つことにする。俺の収納空間内に化粧道具は入
って無いんだけど、ちょっと年嵩のメイドさんが用意してくれたの
だ。
そうして暫くして二人が戻ってくると、食堂に案内された。そこ
では既に爺さんが座っていて、モリモリ食べていた。いやガツガツ
と言った方が正確か。
﹁おお、勇者様おはようございます。先に頂いておりますぞ、チト
予定が詰まってましてな﹂
﹁おはよう、おかげでゆっくり休めたよ﹂
話しながらも爺さんの食べるペースは変わらない、大きめのサン
ドイッチをあっという間に腹に収めて、カップに入ったスープを飲
む。そしてまたサンドイッチを食べて⋮⋮と、言っちゃなんだが豪
快と言うか、皇帝らしからぬ食い方だ。
朝食の席に用意されているのはサンドイッチとカップに入ったス
ープ、後は一口サイズにカットされた果物。全て特に食べるのに作
法が要らないものだ。基本的に作法が必要なのは食器を扱う事全般
で、手掴みで食べる物はよほど下品な食べ方でない限り自由らしい。
この国の教養人は作法に関しては特に厳しいそうで、他国人にも
それを強要する傾向がある。
皇帝陛下
それで爺さんの客人と言えども、無作法な食い方をした人は使用
人︱︱︱当然皇帝の世話をする人たちはトップレベルの教養人だ︱
︱︱に侮られ蔑んだ目で見られるらしいので、この朝食メニューだ
そうだ。
712
爺さん曰く、﹁忙しいのに作法なんぞ守っていられるか﹂だそう
で、会食でもない限り手早く食べられるものを普段食ってるらしい。
なんだかんだと腹が減ってるので俺たちも食べることにする。おぉ
! スゲェ美味い。
絶品の朝食を堪能し、食べ終わった頃を見計らったかのように執
事さんらしき壮年の男性が紅茶を用意してくれた。
﹁私は勇者様に話がある。皆の者、下がれ﹂
爺さんの一言で使用人たちは一斉に退室する。誰一人足音を立て
ないあたり、全員武術の心得がありそう。っていうか俺、魔法無し
で殴り合ったらメイドさんにすら負けそう。
﹁さて、これから国境の近くまでお送りしますが、昨晩お伝え損ね
た事と言いますか、実はお願いがございまして⋮⋮﹂
話を聞き、爺さんの﹃お願い﹄を最大限努めることを約束した俺
たちは、旧ブルートーン王国、ナーガス湖の北端に瞬間移動で送っ
てもらった。
∼∼∼∼∼
さて、法の女神に選ばれた勇者様は、こちらに悪意が無ければ危
険はない善性の人物であった。多少好色だが十分健全な範疇だ。こ
の分なら﹃お願い﹄もそう悪くない賭けだと思う。
713
秘密裏に年頃の娘を嫁がせたらより確実だろうか? しかし私の
見る限り、奥方二人の容姿に対抗できるのはレヴィアくらいか? 今度暇を作って好みのタイプでも聞き出してみるか。
これから起こりうる未来を想像しながら、気を抜くと漏れ出そう
なため息をぐっと堪える。皇帝たる私が弱気を家臣に見せるわけに
はいかんのだ。しかし弱気は見せなくても苦悩を見せるのはまぁ問
題あるまい。実際話を聞いてるうちに頭が痛くなってきた。
﹁だから陛下、今すぐ城に攻め入った賊を追わなければ、帝国が舐
められてしまうんだ。騎士団を動かす許可をくれよ!﹂
朝食をとり謁見の間で家臣たちの報告を受けている最中に、我が
国の勇者アレス・マーズがやって来たのだが、魂胆が丸分かりであ
る。お前の御執心の女は旦那がいるんだから諦めろと言ってやりた
い、言ってやりたいが暴発すると面倒であるから対処に困る。
﹁昨夜の事なら報告を受けておる、それで賊は何処にいると言うの
だ。被害は? 其方が破壊した城門と、それに巻き込まれた兵たち
以上の被害でもあったのか?﹂
﹁マーニュ王国だよ! 攫ってきた女を連れ戻しに来たからには間
違いない! 今すぐ騎士団を率いて取り返さないと!﹂
⋮⋮あのなアレスよ、お前自分が何を言ってるか分かっているの
か? 賊と言っておいて﹃攫ってきた女を連れ戻す﹄って、要する
にこっちが誘拐した女性を奪還されたと言ってるのも同然であるぞ
? 周囲の家臣たちの目線が冷たいのぉ、私に向けられてる訳では
ないからどうでも良いが。
714
﹁先も言ったが報告は受けておる。この城に単独で攻め入り攫われ
た恋人を助けて無事に脱出するとは、まるで歌劇の主役のようであ
るな。斯様な英傑であれば叶うなら召し抱えたいものよ﹂
﹁そんな悠長な事言ってる場合じゃない! すぐにあの男を捕まえ
て処刑しないと帝国の名に傷が付くぞ﹂
傷が付いてるのはお前の評判なのだが。今朝詳細な報告を受けて
寝込まなかった私の精神力は凄い、流石私は歴史に名を遺す英雄で
ある、精神力も英雄級だ。
そして厄介事を処理する能力も英雄級であったら良いなと常々思
う。なんで自軍の勇者が我が城を破壊して、兵士に死傷者を出して
おるのだ。事態を隠す努力を諦めた私を誰も責められまい。
昨夜の事態を知った兵たちの中には、クリス様をまるで英雄のよ
うに褒め称える者までいるそうな。まぁ彼の出した被害はアレスに
与えた離宮の壁だけだからの、誰も恨みようがない、と言うか普通
に考えても物語の一幕のようで、若い男には魅力的に映るのだろう。
﹁聞けば侵入者は幻術の達人らしいではないか、ならば顔も素顔と
は限らんし、名前も知らんとなればどうやって探すのだ? いくら
なんでもなんの証拠もなく他国には攻め入れんよ。せめて物証が無
くてはな﹂
普通であればここで話を終わらせ、証拠を持ってくるとでも言う
のだろうが。﹃勇者は心のままに動くことが神の御意思に沿う﹄の
格言通りであれば⋮⋮
﹁証拠ならある、攫った女はマーニュ王国のアルチーナと、法の女
715
神大神殿に住んでいる女神官アルテナだ。もう一度攻めればあの男
が現れるに違いない!﹂
⋮⋮軍神ファールスよ、信者を無くしてまで帝国を滅ぼしたいの
ですか? 息を吸って吐くように厄介事の火種をばら撒く勇者の言
動に、取り乱さない家臣たちを褒めてやりたい。
話すたびに墓穴を掘る勇者アレスをとりあえず黙らせ、与えた離
宮に瞬間移動で追い返した。なんかギャーギャー言ってたが知らん。
暴発は勝手だがこちらを巻き込むでないぞ。
静かになった謁見の間で、家臣たちに確かな情報を集めるように
命じる。ここで曖昧な態度をすれば余計な事をする輩が出かねんか
らな、先ずは正しい情報を集めることに集中させれば下手な動きは
すまい。
私は事情を知っているが、知らないふりをせんといかん、クリス
様への﹃お願い﹄もあって、あまり機嫌を損ねたくもないからの。
∼∼∼∼∼
﹁この湖を南に真っ直ぐ進めば帰れる、来た時は支配してた水蛇竜
にかなり無茶させて3時間くらいだったけど、帰りはボートでも曳
かせて、お昼前には着く様にしよう﹂
瞬間移動で送られた先は、二人が攫われて追ってる最中に通りか
かった小さな漁村だった。急いでたせいで壊した柵がそのままにな
っていたので間違いない。
716
金貨を渡して小さな漁船を譲ってもらい、ついでに柵を壊したお
詫びに水蛇竜の粘液を溜めた筒を幾つか渡す。これだけで特に加工
しなくても魔物避けになるし、街で売れば筒が一個当たり金貨5枚
の価値があるのでお詫びには十分だろう。
漁船を受け取って、村から見えない程度の距離を進むと、支配下
に置いた水蛇竜を呼び寄せ漁船を曳かせ南へ。追跡中は丁度夜だっ
たし、焦っていたので周りを見る余裕は無かったけど、帰りは風景
を楽しむくらい構わないだろう。
水蛇竜に曳かれた漁船は揺れが少なく快適で、アルテナとアルチ
ーナも綺麗な湖面の景色を楽しそうに眺めてる。
﹁わぁ見てくださいクリス様! 湖面が朝日に照らされてとっても
綺麗です﹂
ゆらゆらと揺れる湖面に光が反射している、靄のかかった周囲と
相まって中々幻想的な雰囲気だ。よく見ると湖の透明度が高いので、
かなり離れた場所で青や緑、中には真っ赤な鱗を持った魚が群れで
泳いで居るのが分かる。
ジュエルスケイル
﹁アレはナーガス湖にしかいない輝鱗魚ですね、個体ごとに鱗の色
ジュエルスケイル
合いが違うのでモノによっては金貨100枚の値が付くとか。魔王
種が現れるまでカロリングの街の有力者は輝鱗魚を飼育するのがス
テータスだったそうですよ﹂
ジュエルスケイル
廃れたのはナーガス湖に立ち入れないから天然の輝鱗魚が手に入
らなくなったからで、ここ最近冒険者に捕獲依頼が出始めてるらし
い。アルテナも子供の頃にトラバントさんの家の池で飼育されてい
717
ジュエルスケイル
た輝鱗魚の稚魚の世話をしたことがあるそうだ。
﹁それじゃこの漁船には水槽があるし少し捕まえて行こうか? 屋
敷の庭に放しても良いし、カール王子やトラバントさんに贈っても
良い﹂
ジュエルスケイル
鱗が綺麗なのもあるけど実は物凄く美味らしい輝鱗魚の群れを水
蛇竜に飲み込ませ、水槽に吐き出させる。なるほどまるで宝石が泳
いでるみたいに綺麗な魚だ。体長30センチほどのこの魚が観賞用
として、そして贈答品として価値が高いのも頷ける。
落ち着いたら嫁たちを連れて舟遊びも良いな、妊娠中のオリヴィ
アの負担にならない良い気分転換になりそうだし、こうして魚釣り
も楽しそうだ。ティータニア辺りは空を飛んで網を投げるかもしれ
ん、あ、でもクレイターだと釣りは、貴族の交流の一環らしいので
案外釣りとか詳しいのかも知れない。
﹁綺麗⋮⋮見てくださいこの子なんて銀色の鱗に、まるでエメラル
ドのような光る深緑の鱗を持ってますわ、この赤い鱗の子なんて水
面の揺らぎで火の灯りのように見えます﹂
ジュエルスケイル
﹁この深い青の鱗はお爺様が気に入っていた子にそっくりです、あ
っ! 凄いです! 金色の鱗を持ってる輝鱗魚は凄く珍しいそうな
んですよ!﹂
珍しそうに水槽に捕まえた魚を眺めるアルチーナとアルテナ。こ
こでどんな味がするんだろうかとか言う無神経な事は言えない。バ
レないように収納空間の中に串と火鉢を隠した。
後で聞いたら直火で焼くのは折角綺麗な鱗が台無しになるので、
718
ジュエルス
丹念に内臓を取って鱗が変色しないように気を付けながら蒸気で蒸
すのが会食に出せる正式な調理法だとか。
ケイル
俺がそんな事を考えてるとは露知らず、食い気よりも綺麗な輝鱗
魚を眺める方に意識が向いてる二人は、身を乗り出して眺めてたの
が悪かったのか、尾びれで水を跳ねたので二人をびしょ濡れにして
しまった。
﹁ううう、着替えが無いのに⋮⋮﹂
困ったように呟くアルチーナだが、とりあえず服を脱がせ、日の
当たる場所に吊るして乾かすしかない。
・・
さて、嫁なら迷いなく手を出すのだが、生憎とアルチーナはまだ
嫁ではない、婚約者だ。初体験も結婚式の後が良いと本人の希望な
ので、同じくびしょ濡れのアルテナに任せて見えない場所に移動す
る。
下着姿で一緒に寝ておいて今更? と思わないでもないがまぁけ
じめの一種だ。同様にアルチーナを除け者にしてアルテナに手を出
すのも憚られる。
﹁二人とも、寒いならお湯を用意できるがどうする?﹂
吊るした服の近くに、さっき魚を焼こうと用意した火鉢を置いて
おけば1時間くらいで乾くだろう、天気も良いし、水蛇竜に引っ張
られてるせいか結構風もある。
﹁お願いいたしますわ、下着まで濡れてしまってるので一緒に干さ
せていただきます﹂
719
了解すると同時に仕切りと以前の馬車旅でも使った簡易の風呂を
用意してあげる。さっきも言ったがこれが嫁なら一緒に入るのだが、
アルチーナにはまだ手を出せないので、極力布でできた仕切りに映
る影は見ないようにする。
二人は俺の用意した風呂に入り、お湯に浸かりながら景色を楽し
んでるようだ。服が乾くまでどうしようかな? 釣りでもするかな、
漁船に古い釣り竿があったし試してみるか。
そうして暫く、水音だけが周囲に響く中、全く釣れないので︱︱
︱水蛇竜に船を曳かせて魚が寄って来るわけが無い事に後で気付い
た︱︱︱釣り糸を垂れながら少しウトウトしていると、不意にアル
チーナに声を掛けられた。
﹁あ、あの⋮⋮クリス様は奥様と一緒に入浴されるのがお好きと伺
ったのですが⋮⋮一緒に⋮⋮いかがですか?﹂
振り向くといつの間にか仕切りが取り払われ、丸見えの風呂の中
で恥ずかしそうに大きめのタオルで胸を隠したアルチーナと。神官
だと言うのにどこで教わったのか問い詰めたくなるような、男を誘
うポーズをしたアルテナがいた。
720
船の上︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます
次回はエッチシーンから入りますが⋮⋮エロ小説なのにここ数話エ
ロが無いので暫くイチャエロメインになりそう。
721
船の上・2︵前書き︶
お待たせしました
722
船の上・2
晴天の心地よい陽差しの中、水蛇竜に曳かせた漁船には水飛沫の
水音と、唾液が絡まる淫らな音が響く。
﹁ちゅ⋮⋮んっんっ⋮⋮ぴちゃ、あむぅ⋮⋮﹂
﹁クリス様⋮⋮昨夜から⋮⋮んちゅ⋮⋮ずっとこうしたかったんで
すよ、ちゃぱ、んちゅ⋮⋮﹂
見渡す限りの水平線、透明度の高い綺麗な湖を快適に進む船の上
は絶景と言って良いだろう。そこで風呂に入るのは、中々気分が良
い、そして美少女二人が相互にキスをおねだりしてくるとなれば、
これはもう贅沢の極みと言えるだろう。
二人にキスをしながら俺の手は、アルテナのおっぱいとアルチー
ナのお尻に伸びて、柔らかい肌の感触を存分に楽しんでいる。
小ぶりなアルテナのおっぱいだが乳首はすでに固くなり、軽く指
で撫でただけで反応し。アルチーナはお尻を撫でられ、恥ずかしそ
うにしながらもキスをねだる。
﹁アルチーナの処女を貰うのは結婚して⋮⋮初夜まで楽しみにして
おく約束だから⋮⋮アルテナは覚悟しろよ? 今朝のお仕置きを含
めて激しくしてやる﹂
﹁は、激しくですか⋮⋮勿論です私の心も身体も、クリス様のお心
のまま⋮⋮はぁん! やっ! そ、そこは⋮⋮﹂
723
胸から秘所に指を移動し、既にお湯とは違う粘性のある愛液に溢
れた蜜壺に指を挿れると身体を硬直させ、彼女の口からは嬌声が零
れる。
準備万端だな、焦らすのもかわいそうだから抜かずに三発くらい
膣内射精して⋮⋮と思ったところで、アルチーナにチンポを握られ
る。
﹁クリス様⋮⋮は、初めては確かに初夜で捧げたい所存ですが⋮⋮
せ、せめてご奉仕させて頂ければと⋮⋮﹂
初めて触る男性器をおっかなびっくり撫でる姿が可愛い、ここは
経験者のアルテナに指導させるか。
﹁二人とも風呂から出ろ、アルテナはフェラチオで見本を見せてや
れ﹂
風呂から出て、裸のまま床に立つと、二人は俺の前に膝をつき、
痛いくらいに勃起したチンポに手を這わせる。
﹁ああ⋮⋮大きい⋮⋮アルチーナ、クリス様のオチンチンは大きく
て逞しいけど、とても敏感なの。だから噛んだりするのは絶対にダ
メ、優しくお口で気持ち良くなって頂くのよ﹂
アルテナはアルチーナに良く見えるように口に含んだり、舌先で
つたな
敏感な部分を刺激したりし、アルチーナにも真似をさせる。まだま
だ二人とも拙いけど、頑張って俺を気持ち良くしようとしてくれる
のは分かる。
724
なによりも自分の生まれ育った国の王女が、俺の前に跪きチンポ
を舐める姿は予想以上の興奮だった。清楚で無垢な聖職者と、この
国最高の血筋の少女が並んで俺にフェラチオしてる、その事実に多
少のぎこちなさはむしろスパイスだった。
﹁あむ⋮⋮んぐんぐんぐ⋮⋮はぁ⋮⋮クリス様⋮⋮私は、アルチー
ナはずっと⋮⋮一生貴方様に尽くします。もうクリス様以外の男な
んて目に入りません﹂
チンポを口に含んだり、丁寧に舌を這わせながら上目遣いに俺を
見るアルチーナ。その瞳はいまだ処女であるにも関わらず、淫靡な
子種をねだる牝のそれだ。
﹁あぁ⋮⋮いつもより大きい⋮⋮はむっ⋮⋮んっんっ⋮⋮ちゅぱち
ゅぱ﹂
アルテナは激しく犯されるのを期待してるのか、秘所からは淫蜜
が溢れ、太股を伝って床に落ちている。興奮がそのまま奉仕の熱意
になってるようで、俺の逸物を熱っぽい目で見ながら熱心にフェラ
チオを続ける。
﹁アルテナはもう我慢できないか? 物欲しそうに俺のチンポを見
てるじゃないか﹂
﹁んむっ⋮⋮は⋮⋮い、昨夜からずっとクリス様のオチンチンが欲
しかったです。同じベッドで寝て⋮⋮でも昼夜を問わずに駆け付け
てくれたクリス様に浅ましくおねだりも出来ず⋮⋮身体が火照って
仕方ないんです⋮⋮﹂
﹁ふふっアルテナはエッチだな。それじゃ我慢させるの可哀そうだ
725
からな、フェラはもういいぞ﹂
床に腰を下ろした俺は、アルテナを抱き寄せ、止めどなく淫蜜の
零れるオマンコに、猛りきったチンポを一気に奥までぶち込む。
﹁んはぁぁ! あぁ! クリス様のオチンチン! すごいのぉぉぉ﹂
感極まったように喘ぎ声を上げるアルテナのオマンコは、膣壁が
チンポに絡みついて、かなりの締め付けだが、溢れた淫蜜のお陰で
ピストン運動がしやすい。
﹁は、激しく、もっと強くしてください! エッチな悪い子のアル
テナにお仕置きしてください﹂
ふふっ全くアルテナは俺に抱かれて以来、日に日にセックスに積
極的になってるな。エッチな嫁さんは大歓迎だし、アルテナに引っ
張られるように他の嫁も積極的になってるから良い事尽くめだ。だ
から激しくして欲しいとおねだりされれば応えるまで。
﹁んふぅ! あぁっ! いぃ! クリス様のおっきなオチンチンが、
は、激しいのぉ! あっあっ、はぁぁん! こんなにされたらスグ
にイッちゃいますぅぅぅ!﹂
船の上で他に人がいないからだろう、いつもの美声であられもな
い嬌声をあげるアルテナ。このままアクメさせても良いのだけど、
アルチーナを放っておくのも悪いからな、俺はチンポを挿入したま
ま身を倒し、騎乗位の体勢になる。
﹁アルテナだけ可愛がってア、ルチーナを仲間はずれにはしたくな
いからな、アルチーナは俺の顔の上に跨れ。一緒に気持ち良くして
726
やるから﹂
﹁ふぇ?! し、しかし殿方の、まして夫の顔に跨るなんて⋮⋮﹂
恥ずかしがって動こうとしないアルチーナの腰を掴み、無理やり
俺の上に座らせる。彼女もフェラチオで興奮していたのだろう、微
妙に濡れたオマンコの中に舌を挿れる。
﹁ひぁ! だ、駄目ですわクリス様! 殿方がそのような不浄な⋮
⋮あひぃ!﹂
アルチーナの処女孔の肉襞に沿うように舐めると、面白いように
反応する彼女が可愛くて、愛撫にも熱が入る、勿論オマンコを舐め
るだけでなくクリトリスにも舌を這わせ。両手でお尻を揉む。運動
してるせいか引き締まったお尻の手触りは中々のものだ。
﹁あぁぁっ、だ、だめ⋮⋮んくぅ⋮⋮﹂
声を出すまいと必死なアルチーナの反応を楽しみつつ、腰を突き
上げアルテナのオマンコも犯す。突き上げるタイミングに合わせて
アルテナも腰を動かす。
﹁いい⋮⋮気持ち良い! クリス様のオチンチンが奥までっ! ア
ルテナの子宮にキスしてくるのぉ! あっあっ! んはぁぁぁぁ!
イクゥゥゥゥ!﹂
ナカ
﹁あっあっ! クリス様の舌が膣内に! だめ、だめ⋮⋮だめぇぇ
ぇ!!﹂
いつもより激しく突き上げたせいか、あっけなく達したアルテナ
727
に触発されるように、アルチーナもイッたようだ。初めての絶頂に
呆けてるアルチーナはアルテナに抱きつくように身を倒す。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮凄いですわ⋮⋮これがセックス﹂
荒い息を吐いて絶頂の余韻に浸ってるアルチーナをここでまた舌
で愛撫するのは⋮⋮まぁ初めてだし止めておこう。お姫様のお尻の
感触を楽しみながら、アルテナへのお仕置きを続行するとするか。
再び腰を突き上げイッたばかりのアルテナを責め立てる。
﹁はぁぁ! クリス様、待って、私イッたばかり⋮⋮んあぁぁぁ!﹂
﹁お仕置きって言っただろう?﹂
アルチーナへの愛撫をしてない分、今度はさっきよりも小刻みに
アルテナの感じるポイントを攻める。一度イッたせいか、愛液で滑
りが良い。
﹁ひぁん! こんな⋮⋮こんなの頭が真っ白になっちゃう! クリ
ス様のオチンチン気持ち良すぎて! またイッちゃうのぉぉぉ!﹂
﹁俺も出すぞ! エッチが大好きなアルテナのオマンコの中に!﹂
﹁はひぃぃ! クリス様とのセックスに夢中でエッチなアルテナの
膣内に出してください! 私も⋮⋮私もオリヴィア様みたいに孕ま
せてぇぇ!﹂
アルテナの膣奥にチンポを押し込むと同時に、丸一日以上セック
スしないで溜まった性欲の塊をぶちまけた。アルテナの膣は具合が
良いのもあって引き抜くと、オマンコから精液が零れ落ちるほど大
728
量に射精した。
﹁アルチーナも今度は別の体勢で可愛がってやる。二人とも四つん
這いになってお尻をこっちに向けろ﹂
﹁ふぅ⋮⋮ふぅ⋮⋮どうぞアルテナのオマンコで気持ち良くなって
くださいませ⋮⋮﹂
﹁あぁ⋮⋮恥ずかしいですけど⋮⋮クリス様が望むならなんでもい
たします﹂
広大な湖だからまだまだ南端に着くには時間がかかる。じっくり
とアルテナの肢体を楽しみつつ、アルチーナの性感を開発してやら
ないとな。結婚式の後で処女を頂く前に俺好みに染め上げてやる。
晴天の心地よい陽射しの下で、水飛沫の音を掻き消すくらい、美
少女二人の嬌声が響く。
太陽が真上に差しかかった頃、マーニュ王国側であるナーガス湖
南端に着く頃には、二人とも疲れ切っていたが、スッキリとした良
い笑顔を浮かべていた。
∼∼∼∼∼
大神殿が襲撃を受けた件は、下手に民衆に知られると即時開戦の
危険を孕んでる。何時か戦争が起こるものだと覚悟はしていたが、
準備不足で戦争するなんて馬鹿な真似は出来ない。
729
不幸中の幸い⋮⋮と言って良いのか分からないが、襲撃者の手掛
かりが無いので、金銭狙いに神殿に押し入った凶賊として住民に周
知している。これで下手に帝国の仕業だと証拠があったら、一部が
暴走するのは目に見えている。
気付かれないで仕掛けを施した手際といい、アルチーナに付けた
護衛を事も無げに無力化する敵の技量といい、そして一切の手掛か
りを残さないで撤退した統率ぶりから見て、間違ってもそこらの賊
に出来る事ではない。
クリス殿は攫われたアルチーナとアルテナさんを連れ戻す為に賊
を追跡し、トラバントさんは混乱を収めるべく奔走している。ボク
は凶賊を探し出すべく最前線で指揮を執っている⋮⋮振りをしてい
る。
クリス殿と共に魔物の討伐に出ていた、ロバート率いる傭兵たち
とジャックが捕らえた、帝国勇者の腰巾着共を犯人に仕立てて⋮⋮
いや実際犯人一味なんだが、然るべく処理すれば民衆の不安を解消
するのに問題は無いだろう。
そして今、屋敷の地下室で拘束され床に転がされてる、流石のボ
クも妹が誘拐されているのに、穏当な手段なんて時間のかかる事や
ってられないからね、ちょっと脅したらベラベラ喋ってくれて良か
ったよ。
・・
ん? おいおいロバートなんでそんなに青い顔してるんだい? 尋問くらい傭兵である君には見慣れたものだろう?
・・・・
﹁一応必要な事は聞き出した、後はクリス殿が帰ってきたらこいつ
等は予定通りだ﹂
730
﹁俺は今、そいつらを生かして連れてきた事に、なけなしの良心が
痛んでるんですが⋮⋮﹂
失礼だな、手早く口を割らせる手段を用いただけじゃないか。チ
ンピラだから率先して情報を吐いてくれて助かったよ、ボクには他
人を痛めつけて悦ぶ趣味なんて無いし。
腰巾着共はこのまま地下室に閉じ込めて置き、ロバートを連れて
地上に戻る。途中で誰も立ち入らないように見張りをしていたジャ
ックとも合流し、二人を連れ部屋に戻る。
﹁犯人を捕らえてくれた事への報酬は後で良いかな? 今ちょっと
立て込んでるからね﹂
執務室でこの件に関する話をする前に、報酬について口止め分も
上乗せした報酬を渡すことを約束して、ちょっと待っててもらうよ
うにお願いする。連中を捕らえてくれた報酬を与えるにも、この件
がどう動くか見極めてからにしたい。
﹁構いませんよ、その代わりと言っちゃなんですが、戦になったら
是非この俺に一番槍を頂けませんかね?﹂
﹁やっぱり避けられないかな?﹂
歴戦の傭兵であるロバートの戦争を嗅ぎつける嗅覚は殆ど魔法の
域にある。ソファに座っているロバートを見ると、玉蹴りや魔物の
討伐を請け負ってる時の顔とは全く別人に見えた。
﹁連中の自白で確信しましたね、帝国には皇帝の制御を受け付けな
731
い勢力があって、しかもかなりの影響力を持ってるとなりゃ⋮⋮外
に目を向けさせるでしょうな﹂
テ
皇帝の言うことを聞かないから、余所で暴れさせるように誘導す
けしか
るって事か? はた迷惑な。
イマ︱
﹁大量の水蛇竜を嗾けようとしたやり口から見て、多分達人級の魔
物使い乃至は似たような技能持ちがいるのは間違いない﹂
一流の魔法使いの中でも実戦慣れしたジャックの断定に、ロバー
トも傭兵の視点から補足してくれる。
﹁つまり人間の数は少なくても、大量の魔物を率いた大部隊で攻め
てくる可能性が高ぇって事っす。魔物慣れした奴が多いのは助かり
ますね、特にジョニーは役に立ちやがるな、腹立つけど﹂
冒険者ルールの玉蹴りで今や名物選手となってるジョニーこと、
二つ名を持つ冒険者﹃陽炎のジョニー﹄は、間違いなくこのカロリ
ングの街で最大最強の火力を持つ人物だ。
炎魔法を究めた魔法使いで、色々な国から貴族級の待遇を提示さ
れても、尽く蹴ってまで冒険者一筋なのには訳があって、彼は人を
殺す事を極端に嫌うと言うか、徹底的に人を殺しかねない状況を避
けるのだ。それこそ盗賊退治まで避けて魔物の討伐しかしない。
そういう人物なので、軍とは極力距離を置いてるし、従軍義務の
ある貴族にはなりたがらない。開拓に参加したのも手柄を立てて土
地を手に入れたら、果樹園を開く為と堂々と公言している。
そんな性格でなぜ殺傷力が高く、破壊魔術とも言われる炎魔術を
732
究めようとしたのか本当に謎だ。果樹園経営したいなら水属性か土
属性を習得しようよ。
二つ名とは、冒険者や傭兵たちの中でも実力が飛び抜けていたり、
常人では考えられないような逸話のある人に、周囲の人たちが付け
るものだ。中には二つ名を自称する人もいるが、実力至上主義の冒
険者、傭兵の中でそれをすると叩き潰されるのが常だ。
だから二つ名が広く知られてる人は、周囲に尊敬や畏怖される実
力者の証明となる。二つ名持ちならどこの国で仕官しても好待遇で
迎えられる、ただ平民出身が多いので領地を得られることはまずな
いし、爵位も一代限りの者が大半だ。
この開拓事業では世襲貴族になれるチャンスを広く知らしめて、
二つ名持ちの強者を集める事に成功したのだ。今、この街で二つ名
持ちは五人、全員誰もが超一流と認める強者たち。
それぞれ屋敷を与えていて、開拓団の中心であり、重要な戦力と
して厚遇しているのだ。
﹁二つ名持ちは全員この屋敷に待機して欲しい。ロバートは部下達
にいつでも動けるようにしておいてくれ。少なくとも式典が終わる
までは討伐を控えて帝国の奇襲に備えるんだ、その後なら国軍がや
って来るから、有事の時まで自由にしてくれ﹂
﹁傭兵の俺たちは慣れてますんで大丈夫ですが、多分冒険者は中央
の連中に従うのに反発する連中が多いですぜ。カール様かクリスの
指揮下って形にした方が良いでしょう、それで駄目なら街の警備に
回すしかないっす﹂
733
ロバート以外は全員、独立自尊な冒険者だから国軍とは相性が悪
い。特に二つ名持ちは譲れないポリシー的なモノを持ってる場合が
多いからな、ジョニーみたいに人殺しを絶対に避けるとか。
﹁ああ、クリス殿は元帥の地位を国王から賜ったから、直属の部隊
とするのなら建前は通る。本人に指揮官の素質があるのかは知らな
い、あの人基本勝手に動くし﹂
﹁勇者様の部隊って肩書と、ある程度自由に動ける裁量があれば良
いんっすよ、元帥の地位に就いてて前線で指揮するわけないんだし、
部隊の指針を決めるのが国軍の指揮官なら命令系統が一本化できて
ますって﹂
ボクも戦争の経験とか無いから、ロバートの案は国軍の将軍に伝
えておく事にする。冒険者は基本遊撃として運用した方が、摩擦も
少ないだろうと言うのがロバートの提案だ。
﹁しかし﹃陽炎﹄のジョニーと﹃地割り﹄のジェイソンは集団行動
・・・
には慣れてるし、部隊の指揮もある程度はこなせる器だが⋮⋮カー
ル様はアイツの扱いはどうされますか?﹂
ジャックの指摘は、ボクが必死に考えないように目を逸らしてた
事で、ついいつもの癖で頭を押さえてしまう。なんかこのポーズ取
ると本当に頭が痛くなってくる気がする。
﹁か、彼女だって集団の和を乱す程アレじゃないだろう? 多分⋮
⋮﹂
﹁いや、乱します、後方に置いといた方が無難っすよ? 前線で勝
手に暴れるようなのが一人でもいると、全体の纏まりが悪くなりま
734
すから﹂
チーム
﹁前衛が必須の召喚術師なのに徒党を組んでないあたり、筋金入り
ですよ。事実与えられた屋敷に居るのは奴の召喚獣だけですし﹂
屋敷を与えても人の手で管理しないと、あっという間に痛んでし
まうものだ。ロバートは部下が沢山いるし、ジャックも身請けした
幼馴染や、その知り合いを屋敷に住まわせてる。ただ唯一二つ名持
ち冒険者の中で彼女だけは誰一人雇っていないのだ。
五人の二つ名持ちの中で唯一の女性﹃魔獣﹄のイザベラ。幼い頃
に人里離れた深い森の中を一人で生き抜いたと言われ、学ぶべき師
もなく書すらなく、自身の才能だけで魔獣を従え、招き寄せる事が
可能な天性の召喚術師。
その来歴のせいか極度の人見知りで、まともに会話できる人間は
ごく一握り、人の言葉を真似できるオウムのような魔物を仲介して、
討伐依頼を請けるのはもうこの街の名物と化している。
﹁広域の監視に彼女の協力は不可欠だから⋮⋮うん、なんとか話し
てみるよ﹂
頑張ってくださいとだけ言ってロバートとジャックは執務室から
出て行った。明日から彼らには屋敷で待機して貰うからにはちゃん
と部屋を用意させるとして。
自分で言っておいてなんだけど、あのコミュ障が極まってるイザ
ベラが、ここに住むって本当に可能なのだろうか? 沢山使用人が
いるからなぁボクの屋敷って。とにかく会って話をするしかないか。
735
とりあえず出来る事から確実に片づけていこう。呼び鈴を鳴らし
使用人に筆頭武官のランゴを呼び出してもらう。
﹁カール様、お待たせいたしました﹂
﹁ああ、例の件は聞いてるね? 帝国に潜んだ諜報員たちに伝える
んだ﹃麦畑で煙草を吸え﹄とな﹂
﹁命令復唱いたします、潜入任務に就いている者達全員に﹃麦畑で
煙草を吸え﹄と伝えます⋮⋮カール様暗号なのは承知しております
が何をさせるおつもりですか?﹂
﹁ボクはね、自分が悪党だってことくらい、それなりに自覚はして
るんだけど⋮⋮妹に手を出されて少し怒ってるとだけ言っておく。
下がっていいぞランゴ﹂
さて、仕込みは3割役に立てば大金星とは言われてるが、ボクが
帝国に仕込んだアレコレはどれだけ効果があるかな?
736
船の上・2︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
現在パラダイム出版様で書籍化の話が進んでおります、これも皆様
の応援があってこそであると確信しております、今後ともよろしく
お願いいたします。
また、なろうで投稿した﹁辺境に婿入りした王子∼﹂の前後編を書
下ろしとしてます。
737
恋慕︵前書き︶
お待たせしました
738
恋慕
ナーガス湖のマーニュ王国側、南端の岸が見えてきた頃。濡れた
服が乾いたので二人は着替えている。
妻とは言え、いやだからこそ着替えを覗くのは流石にマナー違反
だ。裸でエッチする関係なのに今更と思うかもしれないが、そうい
うものだから仕方がない。
俺が一人で景色を眺めてると、不意に少しだけ暗くなった気がす
る。はて? 太陽に雲がかかったかな、青天だと思ったけど⋮⋮見
上げると、白い鳥、いやアレは。
﹁ク∼リ∼ス∼様ぁぁぁ!﹂
﹁うぉぉっと!﹂
飛んで来た勢いのままに抱きついてきたティータニアを抱き締め
たのは良いが、勢いを止めきれず倒れてしまう。押し倒されると同
時にティータニアから顔中にキスをされる。
﹁ただいまティータニア﹂
﹁お帰りなさいませ。無事にアルテナたちを連れて帰って来ると信
じておりました⋮⋮けど﹂
ティータニアに馬乗りにされてるのだが、満面の笑みから一転し
て、ちょっと不機嫌そうな表情になったティータニアに見降ろされ、
739
左右に頬を引っ張られる、非力なティータニアだが、思いっきり抓
っているのでちょっと痛い。
﹁むぅ⋮⋮伝言だけ残されて誘拐犯を追うと聞いて皆心配したので
すよ﹂
﹁ごめんな﹂
後ろめたい事は無いけど、心配をかけてしまった以上言い訳はす
まい、腕を伸ばしティータニアの頭を撫でていると、着替えの終わ
った二人が仕切りから出てきた。
二人ともティータニアの声が聞こえていたようで、俺に馬乗りに
なってる彼女が船の上に居る事に驚いた様子もない。
あ、そうだティータニアに聞きたいことがあったんだった。他な
らぬこの漁船を曳いている水蛇竜の事だ。
﹁ところで、水蛇竜を屋敷で飼うとすると臭いとかどうだ?﹂
彼女は船を曳く水蛇竜を見て、それから軽く匂いを嗅ぐと、鼻を
抑え眉根を寄せる。
﹁申し訳ないんですが⋮⋮一時的なら兎も角飼うのはちょっと、恐
らくルーちゃんも同様でしょう。魔物避けの匂いなのは存じてます
が、この臭いは厳しいです﹂
乗り心地は良いから便利ではあるんだが、嫁が嫌なら諦めよう、
第一街中を20メートル近い魔物に乗って走るわけにもいかないか
らな。
740
アイテムボックス
ジュエルスケイル
船が岸に着くと収納空間に仕舞っていたゴーレム馬車を取り出し、
屋根の上に浴槽を置いてロープで固定して、輝鱗魚でいっぱいの水
槽から移し替える。ティータニアも宝石のように煌めきながら泳ぐ
姿が気に入ったみたいだ。
アイテムボックス
漁船も一応収納空間に収納して、船を曳いてくれた水蛇竜にお礼
代わりに生肉を食わせてやる。うーん、俺が人に従うように使役す
れば誰かに譲っても問題ないか。
﹁サリーマさんに栄達のお祝いとして水蛇竜を何匹か贈ろうと思う
から、帰り道でだけ臭いは我慢してくれ、後カール王子にも贈った
方が良いかな?﹂
﹁水竜騎士は男性の憧れですけど、いきなり成体の水蛇竜を贈られ
ても置き場に困るだけですわよ、海沿いの街へ赴任するラージャ卿
なら大丈夫でしょうけど﹂
ふむ、アルチーナが言うならそうなんだろう。それじゃ代わりに
水蛇竜の卵を贈るとするか、帰り道のついでに沢山とって来てたし。
俺だと上手く孵化させることはできない、俺だと成体の精神を操
る形だけど、人に従うように幼体から育てるには召喚術師が必要だ。
カロリングの街には冒険者が多いし、上手く孵化させることのでき
る召喚術師の一人や二人いるだろう。
ジュエルスケイル
水槽で沢山泳いでる輝鱗魚もトラバントさんなら飼い方分かって
るだろうし、落ち着いたら教えて貰おう。欲しい人に譲っても良い、
人付き合いするのに贈り物は有効だからな。
741
﹁確かノウハウを纏めた本がお爺様の家にあったはずです、帰った
ら借りてまいりますわ、餌とか上げないと可哀そうですし﹂
﹁庭の池で飼えるのね、綺麗だし楽しみだわ。お客様を招く時とか、
観賞用のペットとか居ればお茶会で話も弾むからね。でも私の父と
かだと⋮⋮美味しそうとか言いそうだわ、クレイターだとお魚って
基本食料だしね﹂
豪快な王様を思い出して女性陣は笑ってるが、すまん、実は俺も
美味しいらしいと聞いて串と火鉢を用意してました。
ジュエルスケイル
さて、帰ったらまずオリヴィア達に心配かけた事を謝らないとな、
輝鱗魚で機嫌を直してくれると良いんだけど。
∼∼∼∼∼
子供の頃、ばあやが読み聞かせてくれた英雄譚の主人公たちに憧
れた。英雄たちはどんな苦境にも笑って立ち向かい民を救い、友を
助け、愛しい人をその手に抱いた。
幼い頃は英雄に救われるお姫様に自分を重ね、長じては自らが英
雄の助けとなろうと鍛錬を重ね、学問は⋮⋮ちょっと苦手だったけ
ど努力を続けた。
それで良かった、子供の頃はそれだけで良かった。私は皇女とし
て国民の、帝国の、そして紛れもない英雄である父の助けとなる為
に、研鑽を重ねる事が性に合っていたようだ。
742
どんな辛い鍛錬も逃げようなどとは思わなかったし、特に剣術は
自分の成長を実感できて楽しかった。父の御前で武技を競う大会に
おいて、成績上位者に名を連ねた時、父に頭を撫でて頂いた時の喜
びは今でも覚えている。
しかし私は女だ、なるほど帝国軍の将として、立派に振舞えてい
る自信と自覚はある。民からは﹃姫将﹄なる二つ名で呼ばれ、帝国
軍の誇る多くの英傑たちと遜色ない戦果を挙げてはいる。しかし皇
女の身である以上誰かに嫁がなくてはならない。
私は生活に不自由など感じたことは一度もなく、ただ皇女である
と言うだけで誰からも傅かれる。であれば国の為の結婚を拒否する
我儘などはあり得ないのは分り切っている。
ならばせめて夫となる男性とは、政略結婚であれ、互いに尊重し
合う穏やかな関係を築きたい。もしも叶うならば愛し愛される本当
の夫婦になりたいと願うのは、別に悪くはないだろう。
だが、その願いは無残にも踏み躙られた⋮⋮他でもない父が選ん
だ結婚相手、神に選ばれたはずの勇者の手によって。
﹁ふん、気分が悪い。早く身を清めないと⋮⋮﹂
謎の魔法使いの襲撃から一夜明け、今はもう太陽が真上に達して
いる。陛下に出兵を要求する為に謁見の間に出向いて行ったと思っ
たら、いつの間にか帰って来ていた。
どうも、父の瞬間移動で放り出されたらしく、怒り心頭と言った
風情で、訳の分からない事を喚きながら私の寝室に乱入してきた挙
句に、あの男の相手をしてやっと終わったのがついさっきだ。ヘタ
743
クソなくせに体力だけはあるから始末が悪い。
確かに最初は軍神に選ばれた勇者の妻となり誇らしかった。父に
命じられあの男と夫婦になった当初は、慣れぬ環境だからと何かと
フォローしたし、夫を立てる為に出しゃばるような真似は極力控え、
尽くすよう努めてきた。
しかし段々とあの男は変わっていった。最初は普通に接していた
使用人に、居丈高な態度をとるようになり、重臣たちを軽んじ、騎
士たちを見下すようになっていった。
あの男は勇者だ、身分の上では確かに皇帝である父にも次ぐだろ
う。場合によっては傲慢に振舞う必要も確かにあるが、無意味に他
者に攻撃的になる必要などどこにもない。
妻として諫める事十数回、その度に私たちの関係は険悪になり、
理不尽な理由で衝突することも日常となり、遂には暴力により奴隷
にされ絶対服従を強要されてしまった。
その瞬間、あの男に対し更生してくれる期待は失われ。微かに残
っていた妻としての親愛の情は嫌悪へと変わる。強力な隷属の呪い
に蝕まれながら、尊厳だけは失うまいと意地を張る毎日。
そんな中で幼い頃に憧れた、英雄そのものの姿に心を奪われた。
悪人に攫われたお姫様を颯爽と救う英雄の姿に一目で恋に落ちた。
名前は偽名だったので﹃月明かりの君﹄と自分の中で呼んでいる。
冷たい水を頭から被って奴に汚された部分を洗い清めよう。身を
切るような冷たさの中、思い浮かべるのは月明かりの下で二人の女
性を腕に抱く彼の姿。彼に縋る女性を己に置き換え、キスされる自
744
分を想像する。
嫌悪しかしない奴のそれとは全く違う、暖かなモノが胸に灯る。
キスだけでなく、髪を、胸をそして性器に触れる彼の手を想い、つ
い手が伸びる。
泣きたくなるほど惨めな思いをする奴との交わりを忘れたくて、
胸と性器を弄る手を止められない。彼にキスをされて、彼に胸を愛
撫され、彼の指が私の淫核を攻める。
﹁ふぁ⋮⋮あぁっ! 月明かりの君よ、レヴィアを⋮⋮穢れたレヴ
ィアを清めてください﹂
自らの人差し指と中指で膣の入り口部分を刺激し、無駄に大きく
なった胸を形が変わるほど揉みしだく。あの方に奴に穢された私を
慰めて貰う情景を思い浮かべ、淫核を弄るだけでは物足りなくなり、
指が膣孔に潜り込ませる。
﹁はっ⋮⋮はっ、いぃ、もっと! もっと気持ち良くして!﹂
浴室の床に座り込んだまま、自慰をする手を止められない。あの
方を想うだけで熱い情欲が湧き出てくるようだ。
彼の顔は幻覚で認識が難しかったが、あの時未だかつて無い集中
力で幻覚を打ち破り見た素顔を思い浮かべる。
微笑んで、私に甘い言葉を囁き抱き締めてくださるのを想像する
だけで、秘所からは淫蜜が零れ落ちる。奴に犯されるときは、薬を
使われない限り濡れないと言うのに。
745
﹁あぁ⋮⋮ンンッ! 名も知れない月明かりの君、どうか、どうか
淫らな私を許して! 苦しいよ、胸の奥が痛いんだ、助けて⋮⋮助
けてよぉ⋮⋮﹂
胸の奥に灯った火は更に燃え上がる、指の動きは無意識のうちに
さらに激しくなり、媚薬を飲まされた時に感じたモノが込み上げて
くる。
﹁私も⋮⋮どうか連れ去って⋮⋮んくぅ! あっあっあぁぁぁぁ!﹂
イッた⋮⋮奴との交わりでは感じなかった快感の余韻を、ため息
をついて一区切りをつける。虚しい、気が付けば私はいつの間にか
泣いていた。戦に出ても、どんな辛くても流れなかった涙が止めど
なく溢れてくる。
﹁⋮⋮月明かりの君、もう一度逢いたい⋮⋮ううう、ぐすっ⋮⋮あ
ぁぁぁ! うわぁぁぁん!﹂
涙が止まらない、私の口から漏れ出る嗚咽が止められない。
涙を流すのは心の安定になると、教育係のばあやが言っていたの
を思い出す。今は泣こう、彼を想い涙を流せば私はまだ耐えられる。
∼∼∼∼∼
月明かりの君がやって来てから3日経ち、兵士や市井の者達の間
では彼の噂で持ち切りだ。同時に帝国を軽んじる風潮が出来始めて
るのを感じた。
746
それはそうだろう、たった一人が︱︱︱使役したらしい魔物がい
たが︱︱︱皇城に忍び込み多くの騎士を手玉に取ってのけたのだ。
ほうがんびいき
元々判官贔屓の気質がある帝国民が、連れ去られた女性を救いに
帝国に喧嘩を売るような快挙を好まない訳が無い。
一部の家臣たちは何とか噂を鎮火させようと躍起になっているが、
この手の事は下手に隠そうとするとかえって燃え上がるものだ。現
に吟遊詩人などこの話を面白おかしく脚色し、毎晩酒場でその美声
を披露してると言う。
私の部下が何人も聞いているので間違いない。止めるべきかと指
示を仰がれたが放っておくように命じた、止めても反感を買うだけ
で無駄と言うのもあるが、月明かりの君が英雄として語られるのが
嬉しいという本音は、誰にも知られるわけにはいかない。
まぁなんにせよ、市井の噂よりも、馬鹿に破壊された正門の修復
が最優先だ。兵士の多くが作業に駆り出され、工兵長の指示の下、
忙しく皆働いている。私も現場近くの部屋で書類仕事だ、時折現場
との連絡役である女兵士に指示を出したりと忙しい。
﹁レヴィア殿下に申し上げます。発注していた資材が届き、城外に
て待機させております。城内への搬送許可をお願いいたします﹂
﹁許可する、だが兵士を伴わせろ﹂
皇城に運搬するための許可証を作成し、連絡役に渡すと彼女は一
礼し、忙しそうに搬入口の方向へと走っていった。
747
建築の素人である私が現場を動けないのは、物資の搬送で商人た
ちが出入りするたびに必要ではあるが、煩雑な書類のやり取りを簡
略化するためだ。妾腹とは言え皇女かつ、軍属の私の許可証があれ
ば手続きなしで城に入れる。
皇城の警備が緩んでいる今、属国が余計な真似をする恐れがある
以上、最低限の警戒はしてるが。資材だけは商人に頼らなければ調
達に時間がかかるから、非常事態ゆえの特例と言う奴だ。
正門を破壊した張本人は、陛下に出兵の許可を頂けなかったせい
か、ここ3日間不機嫌そうに離宮に籠ってる。そして八つ当たりの
ように、陛下の後宮から連れ出した姫たちに乱暴をしている。
何とか助けてやりたいが、奴隷にされている以上、私自身が奴の
命令に抗うだけで精一杯で、他の少女たちは逆らえず奴の言いなり
だ。
奴を何とか賊の征伐にでも連れ出して、その間に神官を呼び奴隷
化を解かせることも考えた事がある。しかし奴は女をモノとしか見
ていないくせにやたらと嫉妬深い。
しかも勇者ゆえに多芸で多くの魔法を使える。呪いを解いても、
再び捕まるのは目に見えているし、そしてさらに酷い目に遭うのは
間違いない。
彼女たちをなんとかできないか悩んでいると、再び女兵士がやっ
て来る、今度は随分と慌てた様子だ。事故でもあったのか?
﹁でっ殿下大変でございます! 直ちに陛下にご報告をっ!﹂
748
﹁なにがあった、落ち着いて報告せよ﹂
﹁はっははっ! 失礼したしました。国境の物見台から急使が参り
まして⋮⋮属国の殆どが謀反の兵を挙げたと﹂
∼∼∼∼∼
﹁反乱は起こっておらん、金を掴まされた者が流した誤情報だ﹂
急いで陛下の許へ報告へ向かった私にかけられたのは、そんな一
言だった。
﹁私が光魔法に習熟しておるのは知っておるな? 報告を受けすぐ
に﹃視た﹄が属国の全てで反乱らしき動きは一切ない﹂
﹁では、その誤情報を流した者を捕らえなくては⋮⋮﹂
青天の霹靂のように齎された属国が一斉に謀反を起こすと言う悪
夢のような報告に、帝国軍の衝撃は相当なものだった。こんな事を
しでかした者を捕らえ、徹底的に背後を洗わなくては同じ事が今後
起こるだろう。
﹁もうとっくに、隠れているか逃げているだろうよ。無論私が出張
ればすぐに見つかるだろうが、流石に金で雇われただけの小物に私
が時間を割くほどの暇はない。加えて私が光魔法の使い手であるこ
とは隠しておるからな﹂
陛下は時空魔法の使い手としてリーテンブ帝国中に知れ渡ってい
749
るが、光魔法も達人級の使い手であることはごく一部しか知らない。
﹁してやられた感がするが、一応各地へ兵を送り、詳しく精査する
必要がある。派遣する兵に関しては私が差配する、報告ご苦労であ
った﹂
﹁はっ!﹂
私は陛下に一礼し、退室しようとすると、不意に声を掛けられた。
﹁レヴィアよ、あの男が現れた時、私の娘の中で未婚だったお前を
嫁がせたのは私の不明であった、時機を見て離縁させる、すまぬが
それまで我慢してくれ﹂
﹁へ、陛下! それは⋮⋮﹂
他に家臣たちがいないとはいえ、皇帝たる父が私ごときに謝罪す
るなどあってはならない。詫びるのであればあの男を諫める事の出
来なかった私だろう。
﹁気にするな、分かってはいるだろうが離縁の件は他言無用である、
良いな?﹂
﹁はっ⋮⋮陛下の御心のままに﹂
退室し、皇城の長い廊下歩き、現場に戻る道すがら、私は離縁を
許すと言った陛下の言葉に頬が緩むのを止めきれなかった。
しかし⋮⋮機嫌よく正門前の現場に戻った私を待っていたのは、
各地に兵を派遣する為に人手を取られ、閑散とした正門の修復現場
750
だった。
何故こんなに多くの兵士を連れていくのか確認してみると、どう
も誤報に釣られて各地で反乱とも言えないような、小競り合いが発
生しいるらしい。こちらは誤情報ではなく、軍の諜報部門が掴んだ
確かな報告だ。
まてよ? それはつまり現在皇城は、かなり手薄になってると言
う事か? 流石に警備の兵まで連れていくことは無いが、修復工事
に割り振れる人手は少ない。
陛下の差配に口を挟む気は毛頭ないが、工事が遅れるのは困るな、
専門の職人達
どこかで人手を調達しないと。修復作業の指揮をするのは帝国が召
し抱えた工兵部隊だが、単純な力作業をする人手が無ければそれだ
け遅れてしまう。
少し悩んだが、市井の者達を日雇いで働かせるか。身元の知れな
い者を陛下の住まう皇城に立ち入らせるのは騎士として良くは無い
のだが、流石に正門が壊れたままなのは外聞が悪い。
私は早速部下を呼んで、作業員募集の告知をさせる事にした。
その時の私は知らなかった、あの男に重要な情報を漏らす可能性
のある私には、知らされていなかった。何故なら奴隷にされている
ので、問われたら正直に答える制約が課せられているのだ、この帝
都にはマーニュ王国から送り込まれた諜報員が多数潜伏している事
実を。
751
恋慕︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
ちなみに前の話のカールの言った符丁は、偽情報で軍の動きを阻害
するための嫌がらせ。
彼からすると式典までに帝国の一部に暴走されると困るので
752
平和︵前書き︶
お待たせしました
753
平和
ナーガスの町からゴーレム馬車でゆっくり走って約二時間。背中
にティータニア、左手側にアルテナ、右手側にアルチーナがそれぞ
れ腕を絡め、イチャイチャしながらカロリングの街に到着した。
そして街の入り口で待っていたのは、愛しい妻たちの笑顔⋮⋮で
はなく、むさ苦しいオッサンの抱擁だった。狭い御者台で女の子三
オッサン
人に抱きつかれてる状態では、泣きながら凄まじいスピードで突進
してくる大神官躱すのは無理だった。
﹁うおぉぉぉぉん! クリス様! アルテナァ! アルチーナ様も
! よくぞ、よくぞご無事で! このトラバント心配で心配で⋮⋮﹂
泣きながら駆け寄って来るのが知り合いだからって、カウンター
気味に蹴り返すのを躊躇ったせいで、幸せな気分が真正面のオッサ
ンのお陰で台無しだよ! オッサンの涙で胸元濡れるとか嬉しくな
いから!
﹁オッサンに抱きつかれても嬉しくないから! トラバントさん落
ち着いてってば!﹂
﹁皆様に何かあったらこのトラバント、責任を取って自決する覚悟
を⋮⋮﹂
重いよ、責任感じてるのは分かるけど、謹慎とか辞職とか通り越
して自決とか覚悟が重すぎるから!
754
﹁見ての通り無事だから離れてくれって! これから嫁たちに無事
を伝えて、カール王子の所に行って報告してくるから。トラバント
さんも一緒で良いから早く退けて!﹂
アルテナが俺から引き離そうと、頑張ってくれてはいる。しかし
地味にマッチョなトラバントさん相手だと、女の子では非力すぎる。
いくらなんでも注目浴びてる中で大神官を殴るわけにもいかないか
らな。
力ずくでは無理なので、なんとか言葉で落ち着かせようとしてる
んだが、感極まってるのか俺の話を聞きやしない。
﹁ふぬぉぉぉ! 申し訳ございません、この儂が傍に居ながら許さ
れざる大失態にござる!﹂
﹁いやだから、無事だったんだから、そこまで自分を責めないでね。
だから離れて、胸元が濡れて気持ち悪いから﹂
どうしたものかと困ってるところに見覚えのある人影が見えた。
ユングフィアだ、彼女は背が高いから人混みでも分かり易い。
どうも心配で入り口付近で待っててくれていたらしく、水槽を馬
車の上に乗っけてるから目立つので、彼女も俺たちを見つけてくれ
たようで、手を振ると向こうも振り返してくれた。
駆け寄ってきた彼女は、オッサンに抱きつかれてる俺を見てどう
していいか分からずオロオロしてる。うん、まぁ良く分からないよ
なこの状況は。
﹁ユングフィア、ちょっと助けてくれ。トラバントさんを引き剥が
755
して﹂
﹁は、はい! 大神官様、クリス様が困ってらっしゃいますから﹂
上司
ここで彼女の祖母、サテリットさんなら人目を気にせず殴り飛ば
してるところだが、常識人の彼女には大神官を力ずくで引き剥がす
と言う選択肢は無いらしい。
﹁ううう⋮⋮大神殿に賊の侵入を許すなどこのトラバント一生の不
覚。何卒、何卒この無能めに勇者様より罰を与えて下され! さぁ
この老骨を好きにして⋮⋮﹂
﹁出入り自由な神殿で侵入防ぐの無理だから! 誤解を招きそうな
こと言わないで!﹂
大泣きしながら詫びてくるトラバントさんに、正面から縋り付か
れてる姿を大勢の人が、好奇の目線でを投げかけてくるので恥ずか
しい。しかも大半の人はトラバントさんは勿論、俺の顔を知ってる
から猶更目線が痛い。
﹁あぁもう! ユングフィアも馬車に乗れ、このまま屋敷に戻るか
ら御者頼む﹂
彼に悪気が無いので魔法を使って弾き飛ばすのもなんか良心が痛
む。仕方ないのでせめて人目だけは避けるか。とりあえず馬車の中
に入り、ユングフィアに御者台に座ってもらえば人目は避けられる
だろう。
ユングフィアにゴーレム馬車の操作を代わってもらって、馬車の
中でも泣き続けるトラバントさんを宥めながら屋敷に戻った。
756
人の多い街中では馬車もスピードを出せないので、ゆっくり進ん
でるうちにトラバントさんも正気を取り戻してくれて、さっきまで
トラバントさん
の醜態を自覚したのか馬車の床に座り深々と頭を下げる。アルテナ
がなんか冷たい目で祖父を見てるけど、まぁ落ち着いたのならそれ
で良いか。
﹁誠に⋮⋮誠に申し訳ございませんでした﹂
﹁心配してくれたのは嬉しいけど、もう少し落ち着いてくれ。って
か使い魔で無事を伝えただろ﹂
二人を助けてから一応無事を伝えていたのだが、それでも無事な
姿を見るまでは不安だったらしい。催事の準備にも身が入らないの
で、ずっと街の入り口で待機してたそうだ。忙しいだろうに神殿離
れてて大丈夫なのか?
﹁屋敷に戻ったらアルテナは済まないけど、トラバントさんを神殿
まで送ってあげてくれ、迎えを呼ぶより早いだろ﹂
﹁はい! お任せください﹂
彼女も疲れてるだろうけど、神殿の忙しさからするとトップ不在
はかなり拙そうだからな。代理で神殿全体の指揮を執ってる筈の、
秘書のシュティさんとか無事だろうか?
﹁それとアルチーナはカロリング邸で降りたら、カール王子の面会
時間の都合をつけてくれないか? 流石に行ってすぐ会える程暇じ
ゃないからね。領主だし﹂
757
﹁忙しい期間は過ぎたそうですから、クリス様との面会ならすぐだ
と思いますわ。兄に確認をとったらすぐに使いを出しますわ﹂
爺さんに瞬間移動で送ってもらったお陰で予定よりも早く帰れた
からな。仕事が入ってたら悪いから、ちゃんと事前に約束を入れて
おくのがマナーだ。
約束無しで押しかけると、相手に迷惑がかかる場合があるからな。
これが大人の付き合いと言うものだ、とオリヴィアに習った。
カロリング邸は屋敷に帰る通り道なので、アルチーナをカロリン
グ邸に降ろすと、家臣たちが慌てた様子で出迎えてくれた。
息を切らせて走ってきた顔見知りの重臣さんに、王子の都合のつ
はにか
く時間にまた訪ねると伝えて嫁の待つ家に向かう。帰り際にアルチ
ーナにキスをすると含羞んだ笑顔を見せてくれた。やっぱり可愛い
なぁ、お持ち帰りしたい。
屋敷に入るとオリヴィアを先頭に嫁たちが出迎えてくれる。さっ
きまでオッサンに抱きつかれていた場所にオリヴィアが飛び込んで
きて、激しくない触れるだけのキスをする。
﹁ただいま﹂
言いたい事は色々と頭に浮かんだが、出来てたのはいつも通りの、
出掛けて帰って来た時と同じ言葉で。
﹁お帰りなさいませ﹂
だからオリヴィアもいつも通りの笑顔と言葉で出迎えてくれた。
758
可愛い嫁さん達に﹁おかえりなさい﹂と言われて、囲まれるとやっ
と帰って来たんだと実感できた。
﹁あ、そうだ帰り道で土産にと思って綺麗な魚を獲って来たんだっ
た、庭の池に放すから﹂
ジュエルスケイル
輝鱗魚に事を話すと皆興味があるみたいだ、やっぱり女の子だし
綺麗なモノが好きなんだろう。あまり馬車の上に括り付けた水槽に
放置してると、死んじゃうから急いで放り込むと、色鮮やかな鱗の
煌めく魚が元気に泳ぎだした。
アイテムボックス
意外と元気だな、馬車の上に括り付けていた水槽を収納空間の内
部に仕舞う時にトラバントさんに教えて貰ったが、この魚かなり生
ジュエルス
命力が強くて、餌だけ与えてれば簡単に繁殖するらしい。難しいの
ケイル
は珍しい色彩の鱗を持つ個体を作り上げる事で、珍しい色彩の輝鱗
魚には高値が付くそうだ。
トラバントさんも神殿が帰るので、アルテナにゴーレム馬車で送
ってもらうつもりだったけど、疲れてるだろうからとトラバントさ
んが馬車を操縦して帰っていった。
ジュエルスケイル
後で輝鱗魚の飼育法を書いた本を持ってくるので、その時に馬車
を返すそうだ。
ジュエルスケイル
トラバントさんを見送った後、嫁さん達の集まってる池の傍に戻
ると、皆が興味津々な様子で池の中を元気泳ぐ輝鱗魚を見てはしゃ
いでる。
特にルーフェイは、尻尾をブンブン振ってるのが良く分かる。今
にも落ちそうなくらい身を乗り出してるけど、ティータニアが傍で
759
見てるから大丈夫かな?
俺も改めて池の中を覗くと、水槽に入れていた時とは違い、広い
池の中を悠々と泳いでいる。50年前までこの街では、この魚を飼
うのが富裕層のステータスなのも納得で、本当に宝石が泳いでるみ
たいだ。
その後は皆で池の傍でお茶を飲んでると、カール王子の時間の都
合がついたのでカロリング邸まで来てほしいと使者が迎えにやって
来たので付いて行く。
もうちょっと皆とイチャイチャしたかったけど、まぁ楽しみは夜
に取っておくか。
∼∼∼∼∼
﹁⋮⋮と、言うわけでアルテナとアルチーナを取り戻すついでに皇
帝の爺さんの話を聞いてきたんだ﹂
﹁待って。待って待って待って⋮⋮ちょっとボクの理解を超えてる
んだけど。皇帝リチャードがなんだって?﹂
カール王子の執務室に通された俺は、アルチーナ達を取り戻して
からの事を掻い摘んで話したのだけど、王子の顔色がみるみる悪く
なっていく、やっぱり単騎突入で目立つような真似をしたのは拙か
っただろうか?
この話してないの? と傍に立っているアルチーナに目で問いか
760
けると、首を横に振られた。彼女からすると重要な話は俺から話す
のが筋って考えらしい。
﹁皇帝の爺さんは20年後の魔王種発生に備えるのに領土拡張して
たそうだけど、勇者アレスの出現からガタガタになってるみたいで
な。なんとか帝国自体のダメージが少なくなるようにお願いされた
んだ﹂
爺さんに頼まれたお願いとは、要するに戦争が始まって勇者アレ
スが死んだらさっさと降伏する。だから内乱状態になる前に、帝国
の国土を勇者の名前で纏めて欲しい、ついでに自分たちの安全も保
障して欲しいそうだ。
どっちかと言うと後者の方が重要そうだったな爺さん、大国の皇
帝だってのに躊躇なく頭下げて保身に走るあたり、大人物と言えな
くもない決断力だ。
﹁え? 降伏? 帝国が? いやありえないでしょ、一代で大帝国
を築いた覇王だよ? どんなに追い詰められても、それこそ死ぬ直
前でも不敵に笑うような男の筈なのに⋮⋮﹂
王子は爺さんの事を良く調べてるんだな。確かにあの爺さん自分
の実力に自信があるから、戦場とかだと笑って先陣切りそう。まぁ
勇者以外には傷つけられない加護があるせいかもしれないけど。
自分を客観視して、どんな状況でも精神を平静に保つのは高位の
魔法使いにとって重要な事だ。精神が揺らいでると魔法の発動は遅
くなるし威力も激減する。
だからこそ徹底的に精神を鍛えるのが魔法使いだ。それこそ爺さ
761
んレベルなら、死ぬ直前であっても冷静に状況を俯瞰し、劣勢に追
い込まれても活路を見出せるだろう。
だけどそれ以上に自分の生涯を費やしてきた、魔王種討伐には真
剣なんだよな。自分で帝国を纏められなくなったと判断したら、あ
っさり他人に任せて、自分はフォローに回ろうと決断するくらいに。
生息範囲が恐ろしく広い魔王種を相手にするのに、爺さんの時空
魔法と光魔法が有るのと無いのでは全然違うから。その辺が安全を
保障した上での降伏なんだろうな。その頃には80過ぎてる筈だけ
ど、加護のお陰で病気も一切しないそうだから多分生きてるだろう。
﹁下手に戦争が長引いて、帝国に対する悪感情が溜まり過ぎる前に
降伏されれば、爺さんの一族を処刑しないでも文句は少ないだろ?﹂
戦争で降伏した国の王族は処刑され後顧の憂いを無くすのが当た
り前で、歴史を紐解いても例外は殆どない。
だけど少ない例外もあるのだ、それはお互いにほとんど被害が出
ないうちに決着すれば、敵国の王族を生かし、婚姻とかを結んでス
ムーズに統治する事がある。
﹁いや、確かに降伏されればボクだって処刑とかしたくないですけ
ど⋮⋮﹂
︵おいぃぃぃ! なに敵の皇帝と意気投合してんのこの人! 戦争
即降伏って何の冗談だよ! いや敵の勇者倒したらって話だけど⋮
⋮勝ったら勝ったで地獄じゃん! 立場的に政治的なアレコレ担当
するのボクじゃん! 今からでも親父に頼んで文官を派遣⋮⋮足り
るわけねぇぇぇぇ! すまん帝国の元官僚の諸君、過労死が決まっ
762
たよ、やったね!︶
カール王子が頭を抱えてるが、きっと戦争が終わった後に、両国
がさらに発展できる方針を考えてくれているのだろう。流石王族に
して天才と名高いカール王子だな。
報告すべき事は全て伝えたので、屋敷に帰らせて貰う。しかし王
子が挨拶しても上の空だったけど、なにか不安があるのだろうか?
攫われた二人を助ける時に殴り飛ばしたブ男が勇者アレスらしい
けど、俺から見れば問題なく倒せそうだけど、やっぱり王子からす
ると軍神の加護を受けた勇者と言うのは脅威なんだろうな。
馬車の待機する場所まで、アルチーナが見送りに来てくれた。敷
地が広いので手を繋いで歩いてると、ちょっとしたデート感覚だな。
﹁クリス様、また後日お屋敷に伺いますわ﹂
﹁ああ、今回の事もあって暫くは、少なくとも結婚式までは大人し
く街の中にいるよ﹂
送りの馬車が待機してる場所まで手を繋いでお喋りしながら歩く、
その間に結婚式の前に街中をデートする約束をした。デートを申し
込んだときのアルチーナの笑顔が可愛くて、つい襲いそうになった
が、キスするだけで我慢して屋敷に帰る事にした。
さて、今夜は不安にさせてしまったお詫びにたっぷりと愛する妻
を可愛がってあげるとするか。
763
平和︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
764
魔獣使い
家族全員でとった夕食の後、オリヴィアに何かして欲しい事があ
るか尋ねた。誘拐騒ぎがあったせいで、妊娠したオリヴィアに何か
してあげたかったのに、うやむやになってしまったからな。
﹁それでは旦那様⋮⋮二人っきりで過ごしても宜しいですか?﹂
上目遣いで頬を染め、照れを含んだ笑みを見せるものだから、そ
の場でお姫様だっこして風呂場に直行した。
家長である俺が最初に風呂に入るように言われているので、誰か
が先に入ってる事は基本的にない。
別にその辺は気にしないんだが、まぁ慣習と言うか俺より先に入
るのは、夫人としてあまり褒められた事じゃないと、オリヴィア達
貴族令嬢は教育されてるからだ。神殿で育ったアルテナたちも同様
だ。
オリヴィアの長くて綺麗な銀の髪を洗ってあげたり、逆に背中を
流して貰ったりして二人でお湯に浸かる。
結婚してすぐは我慢できずに、お風呂場でセックスに突入したも
のだが、後で入る嫁さん達に怒られるのでぐっと我慢する。気遣い
が出来ない男だと思われたくはないからな、お風呂ではキスとおっ
ぱいを弄るだけに留める。
実はティータニアの嫁入りの時にクレイター製の水を浄化する魔
765
法道具を貰っている。そのため我が家では、風呂から上がった時に
この魔法道具を使うことで、いつでも綺麗なお湯に浸かれるように
なっている。
しかし匂いまでは消えないから、お風呂でセックスすると、精液
などの淫臭が風呂場に残ってしまう。匂い消しは地味に高級品だし、
そうそう手軽には使えない。なのでお風呂でのセックスは控えるよ
うに言われている。
風呂から上がり、火照った身体のままにベッドに入り、お互いに
裸のままでベッドに座ったオリヴィアに、膝枕をしてもらうような
格好で下腹部に耳を当ててみる。
﹁やっぱり、まだ見ても分からないんだな﹂
﹁くす、それはそうですよ。普通でしたらお腹が膨らんできてから
妊娠が分かるのですから﹂
普通なら生理が来ないくらいの変化で、当然見た目では分からな
い時期なので、ただ彼女の細い腰に抱きついてる状態だ。このお腹
の中に俺とオリヴィアの子供がいると思うと、今更ながらに不安に
なる。
俺の気持ちを察したのか、オリヴィアが優しく頭を撫でてくれた。
すると漠然と脳裏に浮かび続ける不安が、溶けて消えていくような
気がする。あぁ⋮⋮俺ってやっぱり彼女に心底惚れてるんだなぁ。
﹁ありがとうオリヴィア、愛してる。初めて出会って一目惚れした
時よりも、ずっと大好きだ﹂
766
﹁わたくしもですよ。あの時の旦那様はまだ一介の少年でしたが、
わたくしにとってはあの日、出会った時からわたくしにとっての勇
者様。だからわたくしからも言わせてください、愛してくれて、あ
りがとうございます﹂
髪を撫でる手が、頬に添えられ、身を屈めた彼女の巨乳が顔に押
し付けられる。うん? ちょっと息苦しいぞ。
﹁むが、もがが⋮⋮﹂
彼女の柔らかい胸が口と鼻を塞いでちょっと、いやかなり苦しい
ぞ。ちょっと待ったオリヴィア、嬉しい感触だけどちょっとだけ解
放してくれ。
﹁でも⋮⋮結婚してから、わたくしの姉妹がちょっと増え過ぎでは
ございませんか?﹂
あれ? ちょっとだけオリヴィアの口調が不機嫌っぽいと言うか、
ちょっと拗ねてる感じ?
ますます強くおっぱいを押し付けてくるオリヴィア、天にも昇る
心地よさだが、このままだとおっぱいに埋もれて天に召されそう。
と、そんなことを考えてると、彼女が不意に身を起こしたので解放
される。
﹁むぅ、世界一素敵な旦那様がモテるのは当然ですけど⋮⋮わたく
しが一番旦那様を愛しておりますから﹂
﹁うん、俺も一番愛してるのはオリヴィアだ﹂
767
体勢を変え、胡坐をかいた俺に抱きつくように身を寄せるオリヴ
ィア。こうして対面座位で抱き合ってのセックスがオリヴィアの一
番お気に入りの体位だ。
なんでも上下運動と一緒に俺の胸でおっぱいが擦れるのが気持ち
良いらしい。後は顔を見ながらセックスするのが好きみたいだ。
﹁あむっ⋮⋮んちゅ、んっ! あん、お尻そんなに強く掴まれたら
⋮⋮﹂
舌を絡めたキスをしながら、両手はオリヴィアのお尻をしっかり
と掴み柔らかい感触を堪能する。
﹁ん? 痛かったか?﹂
オリヴィアの表情は痛がってるそれではなく、感じている時のそ
れだ。恥ずかしそうに首を横に振るので、俺はオリヴィアの小ぶり
なお尻の感触を更に楽しむことにする。
﹁ひぅん! あ⋮⋮やぁ、お尻だけじゃなく⋮⋮その⋮⋮んむぅ!﹂
なにが言いたいのかは大体分かるが、ここは焦らした方が可愛い
反応が見れそうなので、お尻の愛撫をさらに激しくし、口を強引に
塞いでしまう。
﹁んんっ! むぅむぅぅぅ、ぷはぁ⋮⋮あっあっ、はぅ! ちゅ⋮
⋮んちゅ、んむぅ!﹂
俺の舌と指に翻弄されながら、おっぱいを俺に押し付け、さっき
よりも濡れているオマンコを、物欲しそうに俺のチンポに擦りつけ
768
てくる。ふふっ恥ずかしがりつつ行動でおねだりしてくるあたりが
最高に可愛いな。
﹁どうしたんだ? 俺は妊娠したオリヴィアの負担にならないよう
に優しくしてるだけなんだが?﹂
愛撫する手は止めないで、唇を離すと、顔を真っ赤にしたまま上
目遣いで文句を言ってきた。
﹁はうぅぅ⋮⋮い、いじわる⋮⋮分かってらっしゃる癖に⋮⋮ひぅ
!﹂
片手だけオマンコに触れると同時に、すっかり濡れている熱い秘
所に指を挿入すると、膣内は俺の指を離すまいとするかのように、
吸い付き締め付けてくる。
﹁どうして欲しいんだオリヴィア? 言わないと分からないよ?﹂
﹁あっあっ! はぁぁん! いじ⋮⋮わる。旦那様のいじわるぅ⋮
⋮ください旦那様のオチンチン! オリヴィアの⋮⋮オ、オマンコ
に、旦那様の大きくて逞しいオチンチンを挿れてくださいませ!﹂
お風呂で散々我慢したのと、さっきまでの愛撫で既に俺のチンポ
は猛りまくってる。俺は彼女の細い腰を掴むと、ゆっくりと感触を
楽しむように彼女の子宮の入り口まで挿入した。
﹁あぁぁぁ! 旦那様のオチンチン凄いのぉ!﹂
﹁今日はあまり激しくしないで、ゆっくり楽しもうな﹂
769
妊娠が発覚した時点でセックスを控えるのが一般的なのだけど、
神聖魔法の祝福がかかった女性は妊娠しやすく、出産と際の苦痛が
軽減されるだけでなく。実は胎児の保護もされ、よほど乱暴にでも
しない限り流産などはしないし、悪阻もほとんどなくなる。
まぁなにが言いたいのかと言うと、妊娠中のエッチも特に問題な
いと言う事だ。
既に愛液で湿ってるオリヴィアのオマンコをゆっくりと出し入れ
すると、膣内のヒダが絡みついてくるようだ。俺は余り激しくする
ことなく、気持ちよさそうに喘いでいるオリヴィアの反応を楽しむ。
﹁くぁ、旦那様ったら⋮⋮あっあっんくぅ!﹂
ゆっくりと、オリヴィアの身体を揺するように腰を動かし、手は
お尻と胸を愛撫している。激しくし過ぎないように、でもオリヴィ
アを気持ち良くしてあげる為に優しく、彼女の感じるポイントを刺
激していく。
﹁あぁん! 旦那様、メリッサに聞いたのですが、今の時期でした
らまだ、いつも通りにエッチしても大丈夫みたいですから⋮⋮その、
もっと⋮⋮﹂
顔を赤くしておねだりするオリヴィアが可愛くて、つい腰の動き
が激しくなってしまう。しかもオリヴィアも俺に合わせて腰を振る
ものだから、気持ち良すぎて止められない。
﹁はぁ! あっあっあっ! 旦那様のオチンチン! 膣内でまた大
きく!﹂
770
﹁あぁもう! こんなに可愛いおねだりされたら我慢できないじゃ
ないか﹂
﹁我慢なんて⋮⋮んふぅ! わたくしの身体は全部旦那様のモノで
すから! 旦那様の望むままに⋮⋮んむぅ!﹂
オリヴィアの肩を掴んで唇を塞ぐ、キスをしたままピストン運動
をしていると、彼女の巨乳が俺の胸板に押し付けられ腰を動かすた
びに形を変え、そのたびに塞いだ唇から声が漏れだす。
﹁ンンンッ! むぐぅ⋮⋮はぁ、好き。大好きです旦那様ぁ﹂
唇を離すと、蕩けた表情。オマンコからは洪水のように愛液が溢
れ出し、乳首はピンっと勃っている。
チンポを動かすたびに膣壁が絡みつき快感を齎してくれる。
﹁あぁぁん! イクッ! 旦那様のオチンチンが気持ち良すぎてイ
ッちゃいますぅぅ﹂
﹁俺も、俺もイクぞ!﹂
オリヴィアの両足が俺の腰に絡みつき、より強くしがみついてく
る。その瞬間、彼女の全身が震え膣が締め付けてくる。
﹁んはぁぁぁ! 旦那様ぁぁぁ好き! 愛しておりますのぉぉぉ!﹂
同時に絶頂に達し、大量の精液がオリヴィアの膣内に注ぎ込まれ
る。それほど激しくないセックスだったのだけど、かつてない充足
感を感じ、繋がり抱き合ったままセックスの余韻に浸る。
771
﹁オリヴィア、んっ、ちゅ﹂
﹁あむっ⋮⋮ちゅ⋮⋮旦那様は、まだまだ元気ですね﹂
まだ挿入した状態だから、そりゃまだまだ衰えないで勃起してる
チンポが分かるか。けど妊娠したオリヴィアの不安を紛らわすため
に、愛情たっぷりのセックスするのは良いが、あまり激しくしてオ
リヴィアの負担になっては本末転倒だ。
﹁良いんだよ、オリヴィアは大事な身体なんだから、新婚の時みた
いに限界までエッチなんて駄目だ﹂
チンポを引き抜くと愛液と混じった精液が零れ出てくる。タオル
で拭いてあげて、そのまま寝てしまうつもりだった。
﹁旦那様、寝る前に汗を流しませんか?﹂
と、オリヴィアの提案を受けて立ち上がった俺は、オリヴィアを
お姫様だっこして風呂場へと向かう。
セックスしてる間に皆風呂から上がったようで、浴場に入ると、
長風呂派と言うか、温いお風呂に長く浸かるのが好きなメリッサと
ディアーネだけだった。ちなみにルーフェイなんかは熱いお風呂が
好きで、お風呂に入る順番とかでは先に入る事が多い。
先に言ったように我が家のお風呂は、水を浄化する魔法道具が用
意されていて、いつでも綺麗なお湯に浸かれる。だが温度までは戻
らないので、熱い湯が好きな人が先で、ぬるま湯が好きなら後とな
んとなく決まっていた。
772
﹁あら、ご主人様? オリヴィアと二人で過ごされるのでしたら、
先に出ますか?﹂
浴槽で寛いでいたディアーネが気を遣ってくれるが、流石にリラ
ックスしてる時に早く出ろと言う気はない。
﹁大丈夫だよ、ゆっくりしてなよ。俺が出かけてる間、お客さんと
か多かったって話だし﹂
ここに住むようになって、俺に会いに来る人は意外と多い。流石
に予め約束とかがあれば待ってるんだけど、そうでない場合出かけ
てる場合が殆どだからな。討伐に勤しんだり、嫁とデートしたりと
基本日中は家に居ないのだ。
カール王子やトラバントさんと言った街の重要人物は、手紙とか
使者を送って来たりするんだけど、結構事前連絡なしでやって来る
人が多いらしい。
らしいと言うのは、そういう人たちはディアーネが応対して、さ
っさと帰らせてしまうからだ。ディアーネが不在の時はメリッサが
対応してくれている事になっている。
彼女曰く、侯爵にして勇者、そして元帥の位を賜る俺に連絡なし
で訪問なんて、無礼討ちしても問題ないのがこの国の法であるとの
事。
一応俺の張った結界で悪意がある人は立ち入れないから安心なん
だが、一応警備の人とか雇った方が良いかな? でも男だとオリヴ
ィアが怖がるからな、女性だと変な噂が立ってしまう。具体的には
773
俺のお手付きと周囲に思われると嫁の貰い手が無くなる可能性があ
る。誤解だ、俺はそこまで節操なしじゃないんだぞ?
﹁縁談を持ってくる人が多いですが、そういうのは基本的にお断り
しておりますので。ご主人様のお耳に入れるまでもありませんわ。
サリーマ様のようなお仕事に関わる事でしたら、お通しする事にし
ておりますが﹂
うん、やっぱり女好きの噂︱︱︱いやまぁ事実だが︱︱︱のせい
で街の有力者だけでなく、王都に住む貴族からも、その手の話を持
ち込んでくるのか。
﹁特に今日はご主人様がお帰りになる日だと言うのに、性質の悪い
奴がやって来たので、ちょっと気持ちが荒んでますの、慰めてくだ
さいませ﹂
言葉に出すよりも早く、ディアーネの豊満なおっぱいが押し付け
られる。大変だったんだな、それでは苦労を労わる意味で腰に手を
回し抱き寄せる。
﹁そうよ、クリス君が帰って来るから機嫌の良かったディアーネが
ね、とっても不機嫌で宥めるの大変だったのよ?﹂
反対側からメリッサが同じくおっぱいを押し付けてきたので、彼
女も同じように抱き寄せる。オリヴィアが俺の膝の上に向かい合っ
て座ってるので、あっという間に三人の巨乳に包まれてしまった。
性質の悪い奴ってどんな奴か聞いてみたが、どうも言いたくない
らしく﹁ご主人様のお耳に入れるほどの事ではない﹂と言われては
追及するのも野暮と言うものか、黙ってキスすると嬉しそうに舌を
774
絡めてくれた。
そうして三人の愛する妻とイチャイチャしていたら、流れでその
まま寝室に行ってエッチしそうになったが、今夜はオリヴィアと二
人っきりにすると決めていたので。最大限の理性を動員しエッチを
断った。
だが、ディアーネとメリッサに寂しそうな顔をさせたくはないの
で。ディアーネとは明日デートの約束をして、メリッサとは明日の
夜二人でセックスする約束をしたら、機嫌を直してくれた。
∼∼∼∼∼
﹁諸君、引き籠りのイザベラをなんとか表に出す為には、なんとし
ても直接会わなくてはならない。君たちの奮戦に大いに期待してい
るよ﹂
街を覆う城壁の外、草原の見渡せる小高い丘の上に、ポツンと建
っている大きな屋敷の正門前。時折ドラゴンと思しき唸り声や、大
型肉食獣の吠え声を数十倍にしたかのような轟音が響くが、まぁ想
定の範囲内だ。
二つ名持ち冒険者や実績のある人間には、富裕層の住む高級住宅
街の屋敷を与える筈だった。しかし彼女は召喚し使役した魔物を屋
敷の警備に使っており、周辺住民の事も考え、彼女には街の外に在
る人気のない屋敷を与えたのだ。
かつてこの街に住んでいた富豪の別荘だけど、一応保有しておい
775
て良かった。彼女を街中に住まわせると、住民が可哀そうだしね。
﹁カール様、仮にも人に会いに行くだけで、奮戦ってどういうこと
ですかい?﹂
呆れ顔で質問してきたのは、連れてきた四人の中でも一番の巨漢、
﹃地割り﹄のジェイソンだ。巨大な鉄槌を軽々と肩に担ぎ、全身鎧
を纏っているにも関わらず鈍重な印象は全くない。
﹁だってイザベラだぞ、お前は彼女の人見知りを甘く見ている。外
に連れ出そうとする人間は敵認定されてもおかしくないぞ﹂
先程まで意識を集中し、精神を研ぎ澄ましていたジョニーが、何
も知らないジェイソンの肩に手を置き、やれやれといった風情で注
意をしてくれる。
﹁そうだ、いいか、あの屋敷は一応奴の支配下にあるんだが、凶悪
な召喚獣が闊歩する魔境だぞ、正直産卵時期のドラゴンの巣より危
険だ、気ぃ引き締めろよ﹂
﹁そんな奴を街の近くに住まわせるなよ!﹂
ロバートの警告に即座にツッコミを入れるジェイソン。領主とし
てその意見には同意したいが、彼女の戦力はそれ以上に魅力的なん
だよなぁ。
人見知りとは言え冒険者として十分以上の実績があるし、名乗り
出た人間は誰だって受け入れる方針だから、この郊外の屋敷を与え
た訳だ。
776
﹁一応開拓に名乗り出た以上、好んで暴れる事は無いと思うが、大
人数だと警戒するからな、召喚獣は殺すなよ、高位の召喚術師は使
役した魔物と精神的に繋がってることがあって、倒すと奴がヒステ
リーを起こす可能性が高い﹂
﹁カール様に万が一があってはいけないからな、だから俺たちが同
行したんだ﹂
﹁手紙で呼び出せよ! そんな奴のトコにカール様が行くの止めろ
よ!﹂
ジェイソンのツッコミは実に正論だ、正論なんだが彼女人見知り
だから、一応使い魔越しとは言え、一回だけ会った事のある︱︱︱
使い魔越しが会った事になるのかは知らんが︱︱︱ボクじゃないと
門前払いの可能性がある。
それに手紙も読まない可能性がある、いや、手紙置きに手紙が入
ってるのに気付かない可能性の方が高いか。
連れてきたのは二つ名持ち冒険者の四人。﹃天翔け﹄のロバート、
﹃龍首落し﹄ジャック、﹃陽炎﹄ジョニー、そして﹃地割り﹄のジ
ェイソンだ。この街最強の冒険者四人でなんとか、﹃魔獣﹄のイザ
ベラを表に連れ出すのだ。
覚悟を決めて門を潜ると、意外にも凶悪な召喚獣の姿は見えずに、
彼女がいつも周囲への連絡役に使っているオウムのような魔物が、
一羽だけ待ってるだけだった。近づくとその魔物は女性の声で喋り
だした。
﹁なんの⋮⋮御用ですか? ⋮⋮その、まだお仕事の時期には⋮⋮
777
あの、早いですが⋮⋮﹂
とりあえず会話に応じる気はあるみたいなので、現在この街と、
リーテンブ帝国との関係や、二つ名持ちの冒険者を、いつでも連絡
のつく場所に置いておきたい事などを伝えると、暫くの無言の後に
⋮⋮
﹁⋮⋮イザベラは人を襲う魔物の退治や、開拓のお手伝いの為に雇
われてる⋮⋮戦争は関係ない﹂
﹁うん、だから実際に前線に立つのは希望者や国軍の騎士たちだ。
君には召喚獣を通じて連絡や監視役をお願いしたいと思ってるんだ﹂
出来るだけ刺激しないように言葉を選んで会話を続ける。魔法使
い、特に極まった人間は何かしら拗らせてる場合があるので、下手
に虎の尾を踏まないように慎重にならなくてはならない。
多分個人としては貧弱でも、使役した召喚獣を含めれば、クリス
殿に次ぐ強大な戦闘力を持つ彼女を遊ばせておくことはできない。
﹁戦争に関わるのは⋮⋮嫌⋮⋮﹂
﹁うぐっ⋮⋮き、君にも何らかの希望があって、この事業に参加を
決めたんだろう? ほら貴族になりたいとか、お金持ちになりたい
とか。報酬に関してはボクに出来る限りの事をさせてもらうよ﹂
オウムの魔物越しの会話なので、相手の表情が分からないから正
直やりにくい。
﹁望み⋮⋮なんでも?﹂
778
﹁っっ! う、うん。ボクはまだ15だけどこの街の領主だし、陛
下から公爵の位を賜ることになってるんだ、大抵の事は何とかなる
よ﹂
食いついた! 何らかの信念で戦争嫌がってるなら交渉の余地は
ないけど、条件次第で動くならやり易い。
﹁あのね⋮⋮イザベラは⋮⋮﹂
気のせいかもしれないが魔物の声が緊張してるように聞こえる。
いったい何を要求してくるのだろうか?
﹁イザベラ⋮⋮結婚したいの⋮⋮﹂
背後で二つ名持ち4人が噴き出し、何処からか音もなく現れた熊
の張り手で吹っ飛んだ。殺意が無いとはいえ、この四人に気付かれ
ないで一撃を加えるとは⋮⋮やはり戦闘に関しては頭一つ二つ分は
突出してるな。
それはともかく、結婚がしたいか⋮⋮ボクも正直反応に困る要求
だが、彼女の言葉を反芻すると、どう考えても要求はお見合いの相
手を紹介することだ。
﹁えぇぇっと⋮⋮イザベラ? 結婚って事はどこかに嫁入りと言う
事かな? それとも婿を連れて来てこの屋敷に住まわせる?﹂
話しながらボクの知ってる独身の男を脳内でリストアップする。
クリス殿に押し付けるのが最良の選択に思えたが、他の夫人と上手
くやっていける未来が思い浮かばずに、最後の手段とする。
779
﹁相手の都合に⋮⋮合わせるよ﹂
﹁分かった、なんとか探してみて紹介するよ。えっと、好みのタイ
プとかは?﹂
聞いた途端に何やら怖気が走った。魔物越しで見えないが声を発
してる彼女が何やら笑っている姿が見えた気がした。
﹁あのね⋮⋮世の中に絶望してる人が良いの。ふふふ⋮⋮例えるな
ら心底好きな子に見限られて絶望のどん底に居るような人が良い!
あはは! そういう人を慰めてあげて、イザベラしか目に入らな
いようにしてあげたいの!﹂
うわぁ⋮⋮一気に紹介しようとしてた連中の範囲が狭くなったぞ。
拗らせてるとは思ったけどヤンデレ入ってるぞこの人。
﹁う、うん⋮⋮一応心当たりを当たってみるよ。また来るからね﹂
﹁うふふふふふふ! お待ちしてますカール様!﹂
∼∼∼∼∼
﹁君たち、ちょっと恋人寝取られたとか、何もかも失って不幸のど
ん底とか、そういう男知ってる? イザベラに紹介しようと考えて
た奴って、漏れなく結構良い家の人間で安定した生活してるから、
そういうのって無縁っぽいんだよ﹂
780
街に戻って早々に同行してくれた四人に尋ねてみたが、全員心当
たりが無いそうだ。そもそもこの街に居る冒険者とかは、野心的に
成り上がりを目指す人間が集まってるから、絶望とはあまり無縁だ
ったりするんだよ。
﹁一応酒場とかでそういう話聞いてみますんで﹂
﹁俺も馴染みの娼館でそういう鬱屈した客がいないか聞いてみます﹂
出来るだけ早く探したいところだけど難しい条件だな。久しぶり
の無理難題に頭を悩ませながら屋敷に戻る最中、ふと目を向けた公
園のベンチに項垂れ、如何にも絶望のどん底ですと全身で表現した
男が居た。
ボクは即座に馬車を止めて、男に近づいてみる。身なりはかなり
良い仕立てだ、髪も肌も色艶が良く手入れされてるように見える。
ただ全身から漂う鬱屈した印象が全てを台無しにしている。
﹁失礼、体調でも悪いのですか?﹂
ボクが話しかけると男はこちらに顔を向ける。物凄く顔色が悪い
けどボクはその男に見覚えがあった。
﹁貴方は⋮⋮レイフォン侯爵家のシャルロー殿?﹂
確かディアーネ夫人の元婚約者だっけ? なんでこの街に居るん
だろう? 式典はまだ先だしボクの家に挨拶しに来ないところから
仕事で来たって訳でもなさそうだし。
﹁これは⋮⋮カロリング卿ではありませんか。いえ体調は悪くない
781
ですよ⋮⋮ですが⋮⋮﹂
なんとなく放っておくと首でも吊りそうなので、屋敷に連れて帰
って事情を聞いてあげる事にした。勿論事情次第ではイザベラの前
に放り出すが。
782
魔獣使い︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
ちなみにシャルローさん、ディアーネの元婚約者で、婚約破棄した
人です、
この人もある意味被害者なので救済してあげたいと思って⋮⋮
なお、二つ名持ち︵最高格の冒険者・傭兵︶の5人の能力はこんな
感じ。
﹃天翔け﹄ロバート
戦力/9
統率/7
知謀/4
教養/3
交渉/5
﹃陽炎﹄ジョニー
戦力/9
統率/2
知謀/5
教養/4
交渉/3
﹃龍首落し﹄ジャック
戦力/8
統率/1
知謀/6
783
教養/7
交渉/2
﹃地割り﹄ジェイソン
戦力/8
統率/4
知謀/3
教養/2
交渉/6
﹃魔獣﹄イザベラ
戦力/5︵召喚獣を含めると10︶
統率/0
知謀/3
教養/3
交渉/0
784
キャラ紹介2︵前書き︶
本編作成中ですが息抜きにキャラ紹介でも。
イザベラの紹介はちょっとネタバレかも
785
キャラ紹介2
※ステータスの基準
︻戦力︼
戦闘能力。戦力値1は子供並み、2で一般人、3が腕自慢のチン
ピラくらい。5で一般的な騎士くらい、戦力値10がもあるとで単
騎で軍隊相手に無双できる。
︻統率︼
人の上に立ち集団を纏める能力。統率3もあれば田舎の村長は務
まる。統率10だと日本で言う朝倉宗滴、世界史で言うハンニバル
とか韓信とかは10を超えてるレベル。
︻知謀︼
頭の回転や閃き、注意深さ、勘の鋭さなど。知謀2が一般人。
︻教養︼
知識、技術、世情に関する理解の深さ。教養2で読み書きができ
るくらい。3もあれば文官として雇ってもらえる。総合的な数値な
ので、例えば読み書きがやっとできるレベルでも専門技術への造詣
が深ければ教養の数値は高い。
︻交渉︼
コミュニケーション能力。交渉値0は面と向かって会話できない
レベル。後は顔の良さとか話術とか身分とかも加味した数値。主人
公の交渉値+5は﹃問答無用で信用される﹄能力によるものと勇者
の地位。
786
︵例1︶
今日の夕食にお肉を買いに来ました。たくさん買うので値引きし
て貰いたいですが、店主は中々頑固そうだが、頑張って値引き交渉
だ。
︱︱︱お肉の値引き︵6面ダイス@1︶︱︱︱
オリヴィアの場合は男性に対する交渉値が0なので自動失敗。ル
ーフェイは交渉値4の為6面ダイスで4未満が出れば成功です。︵
交渉値−ダイスの値=達成値︶で達成値が大きければ値引きの上に
おまけして貰えます。達成値0は値引きして貰えません。
︵例2︶
畑を荒らす害獣だ! 何とかして追い払わなければ畑は壊滅だ。
許容達成値−3
︱︱︱害獣︵大型︶の撃退︵6面ダイス@2︶︱︱︱
クリスだったら戦力値12で自動成功。ユングフィアは戦力値7
なので、2D6で7以下を出せば被害なしで撃退。許容達成値が−
3なので出目が10であれば多少の被害が出たうえで撃退できたも
のとします。
これが害獣の群れでこちらも集団であれば統率による判定になり
ます。戦力値の高い人間の数だけ有利な補正を得るものとします。
まぁ作者はTRPGとかリプレイ録を読んだりするくらいしかし
787
ないので、わりと適当ですがこういうのを考えるのはちょっと楽し
いですねw
ちなみにエッチの判定は交渉値。メリッサさんとか閨スキルによ
る補正マシマシ、エッチ限定で交渉値20くらいあるんじゃないか
な? ディアーネとヴィヴィアンは知識はあるから交渉値高いけど、
経験が無いからスキルとかは無い。これから実地による練習次第
︱︱︱クリス・アストライア︱︱︱
本編主人公、マーニュ王国、東の地方にある山岳地帯に点在する
小さな集落の出身。100人に1人程度の割合でどこにでもいる、
魔力がやや高い体質であったので、隠棲するためにやって来た老魔
法使いに目を付けられ﹁魔法が使えればモテる﹂とか頭の悪いキャ
ッチコピーに騙され弟子になる。
体質的に適性があったのか、師が特に念入りに指導したため闇属
性の魔法を得意とする。途中で近所付き合いしていた猟師さん達に
指摘されなんかイメージが悪いことに気付く。
師匠が毎晩楽しみにしてるお酒の中身を酢に入れ替えるなど、地
味な仕返しをして、当然の如くバレて殴り合いの喧嘩となった。そ
の後独学で闇属性以外の魔法も覚える、この時に高難易度の魔法︻
収納空間︼を習得したのは、指導が良かったのか、本人の才能か?
788
基本的に情に脆い善人、ただし偉くなって美女を侍らすとか考え
ていたので、エロガキなのは間違いないだろう。まぁ﹁モテるから﹂
とか言われて、怪しい爺さんに付いて行くあたりお察しである。
故郷の女の子たちに年齢一桁の頃からフラグを立てていて、幼馴
染ハーレムとか頭の悪い計画を練っていたが当然の如く頓挫、一晩
凹んだ後立ち直って、ハーレムには養える甲斐性が必要だと気が付
き成り上がりを目指す。
王都に向かう途中で、オリヴィアに一目惚れ。彼女に良い暮らし
をさせるために努力した結果、勇者になったり、嫁さん増えたり、
魔王を倒したりと、今日も周囲を振り回す。
戦力/7+5
統率/5+5
知謀/4
教養/5
交渉/7+5
︱︱︱オリヴィア・アストライア︵旧姓ヘルトール︶︱︱︱
メインヒロイン。マーニュ王国に3家しかない公爵家の長女。産
まれた当初は多くの人から愛され守られていた⋮⋮が、愛の女神の
加護を享けて生誕した妹アンジェリカが⋮⋮否、アンジェリカをこ
の世のヒロインと定める愛の女神により﹃当て馬﹄の役割を押し付
けられる。
789
異性を限定した好悪反転の呪いにより、全ての異性から理不尽に
嫌われ父や兄からの虐待により、男性そのものに恐怖を抱く。その
ため婚約など成立するはずもなく、とうとう父から勘当され、奴隷
にまで落とされる。
彼女を殺したいほど憎悪した男に買われ︱︱︱好悪反転の呪いを
考えると本来は主人公同様一目惚れだったのではないだろうか?︱
︱︱殺害される寸前主人公に救われる。初めて優しくされたことも
あり、クリスを深く愛することになる。言い方は悪いかもしれない
が、彼に依存することで壊れかけた精神をなんとか保ったとも言え
る。
アストライア侯爵家の正室として、基本的に屋敷の中で側室たち
や使用人を取り纏めている。実は資産管理を旦那がほぼ丸投げして
るため、クリスの資産を運用し、かなりの利潤を生んでいる。妊娠
中動けなくても、書面の指示だけでアストライア家の資産は日々増
えているのだ。
知謀8、教養9、交渉9は小国なら内政の全てを任されても問題
ないレベルだったりする。
戦力/0
統率/6
知謀/8
教養/9
交渉/9︵ただし男が相手だと0、男性恐怖症でまともに会話で
きない︶
790
︱︱︱ディアーネ・アストライア︵旧姓メイティア︶︱︱︱
オリヴィアの親友、国内の娼館を取り仕切り、王国三指に入る大
富豪メイティア伯爵家の令嬢。オリヴィアが王都を追放され﹃当て
馬﹄がいなくなった為に、アンジェリカが新たに呪いをかける、こ
の呪いのトリガーは﹃嫉妬﹄要するにアンジェリカより優れた女性
は、この呪いの対象になる可能性が高い。
真っ先に嫉妬されたあたり、彼女の美貌は抜きんでていたという
証明か。元婚約者にはそれなりに愛情を抱いていたが、衆人環視の
中婚約破棄されてまで未練を残すほどでもなかった。
押しかける形でクリスに嫁入りする、最初は父の命で篭絡するつ
もりで肌を重ね、篭絡には成功したものの自分もまたクリスにべた
惚れしてしまい、今ではイチャイチャが楽しい。
現在第二夫人。流石にお姫様が嫁入りすると序列的には下がるけ
ど、実質嫁内ではナンバー2。旦那が不在時は彼女が来客担当。
戦力/1
統率/3
知謀/5
教養/8
交渉/10︵性的魅力を含む為同性の場合は−2︶
︱︱︱ルーフェイ・アストライア︵旧姓ルーガン︶︱︱︱
クレイター諸島連合王国第二王女、クリスが倒した魔王種の魔核
791
を譲ってもらう対価として、王命で嫁がされた⋮⋮という建前で、
色々周囲の思惑はあるにせよ、ほとんど一目で恋した勇者に嫁入り
する。
ちょっと恥ずかしい事をしてくるが、基本的に優しく甘えさせて
くれる夫と結婚できて幸せ。クレイターでは女性の自由はあまりな
く、所有物と扱われ、家の都合で嫁いだり離縁したりは日常だった
りする。
そのような文化であるために、甘えたがりな性質であるにも関わ
らず、ほとんど我儘を言わないのは、幼い頃からの教育によるもの。
ちょっとくらい我儘言って良いんだぞ、と夫に言われても、実はち
ょっと返事に困ってる。
屋敷のマスコット枠、戦力3と一般兵士並みの戦力は、人狼族と
しての身体能力によるもの、本人は虫一匹殺せない。本国と違い自
由に外に出歩けるので、最近は散歩とガーデニングが趣味になって
る。池に放してるジュエルスケイルのお世話を最近任され頑張って
る。
戦力/3
統率/3
知謀/3
教養/6
交渉/4
︱︱︱ヴィヴィアン・アストライア︵旧姓ビロン︶︱︱︱
792
パン屋の店主として街に潜り込んでいた、元リーテンブ帝国諜報
員。クリスを顔の良い金持ちと見定め篭絡しようと近寄ったが、結
局自分が篭絡されて嫁になる。
有能ではあるが所々で詰めが甘く割とポンコツ、年上として閨で
は優位に立ちたがってるが、全戦全敗、あっさり言いなりにされて
しまう。姉のメリッサの指導を受けて日々修業中。
屋敷では厨房を任されていて昼食と夕食は殆ど彼女が作ってる、
地味に既にクリスを始め家族の胃袋は掴んでるので嫁の中では発言
力が結構高かったりする。
余談だが諜報員として培った交渉8の能力を食材の値引き交渉に
しか使ってない。
戦力/5
統率/2
知謀/5
教養/4︵料理限定で+5︶
交渉/8
︱︱︱アルテナ・アストライア︱︱︱
大神官の孫娘で、神聖魔法に関しては大神殿でも上位の使い手。
神官戦士としての訓練も受けているが、体格に恵まれず荒事は向か
ない。
793
家事万能なので手が足りないところのフォローに回ることが多い。
ユングフィアをライバル視してるが、豊胸に効果があるとされる体
操の後、項垂れてることが多い。
普段はおっとりしたロマンチストな彼女だが、結婚してからエッ
チに目覚め、今ではややMッ気のある肉食系。
戦力/4
統率/3
知謀/3
教養/6
交渉/3
︱︱︱ユングフィア・アストライア︱︱︱
ちょっと普通より背が高く力が強いのを気にしてる神官戦士。祖
母のサテリットは女傑として名高くその才能を存分に受け継いでい
る。
周囲には凛々しい女戦士と思われており、暴走しがちなクリスの
護衛を任されているが、控えめな性格の為にストッパーにはお世辞
にもなれていない。
自分は女らしくないと思ってるので、同い年で同じ神殿で育った
アルテナが小柄で可憐な美少女あることにコンプレックスを感じ、
自分と見比べて黄昏てることが多い。
結婚してからまた胸が大きくなってきたので、鎧を着ると胸が文
字通りに痛いので、多額のお金がかかる鎧のオーダーメイドをクリ
794
スに相談しても良いのか悩んでる。
戦力/7
統率/6
知謀/2
教養/4
交渉/2
︱︱︱ティータニア・アストライア︵旧姓ルーガン︶︱︱︱
ルーフェイの腹違いの姉にして、クレイター王国第一王女。勇者
の母となるべく加護を海洋神から授かっており、ひたすらに死を避
けるかの如く頑強で頑丈。ただ本人は非力なために戦力は低い。
他者の感情を匂いで理解する特殊能力を授かっており。危険を察
知する事にも長けている。ただし、クリスと家族以外の男からは悪
臭を感じてしまい、殆ど交渉できない。
なお、勇者の母になる云々はクレイターの機密事項。ルーフェイ
は知ってるが姉妹共々クリスにも秘密にしている。ただうっかり口
を滑らす可能性が高い。
戦力/1
統率/6
知謀/4
教養/7
交渉/5+5︵異性が相手だと0になる︶
795
︱︱︱アルチーナ・アストライア︵旧姓マーニュ︶
マーニュ王国王女、これから嫁入り予定。体を動かすのが好きな
スポーツ少女、嫁入りしたら王家や兄カールとの連絡役になると思
われる。普段着が騎士服でさりげなく女性に人気がある。
元々婚約者であるオリヴィアの兄とは不仲で、勇者との婚姻話を
二つ返事で了承し、以前の婚約が解消されたのを喜んでいた。仲の
良かったオリヴィアの夫なので、初対面からそれなりに好印象だっ
た。
誘拐され、救出に来たクリスの姿に、それなりの好印象だった所
から一気に恋に落ちた。結婚するまでセックスは待って欲しいとの
言葉を本気で後悔した模様。
戦力/6
統率/5
知謀/3
教養/7
交渉/3
︱︱︱メリッサ・アストライア︵旧姓ビロン︶︱︱︱
ヴィヴィアンの姉、元は男爵家の二女であったが彼女が16歳の
時にビロン男爵家は改易され貴族籍を失う。その時彼女は結婚して
いたそうだが、いったいどのような過去があったのか? 彼女は決
して語らない。
796
今言えるのは﹃子供を産める﹄事に彼女は何よりの喜びを感じ、
夫に惜しみない愛と献身を捧げている事だ。その献身はエッチ方面
に発揮され唯一クリスをベッドの上で手玉にとれる。ディアーネも
クリス相手にある程度なら優位に立てるのだが、体力的な問題で逆
転されることが多い。
来客担当がディアーネなら、彼女は市井等から幅広く街の出来事
や噂を集める担当。また年長であることもあってアストライア家の
夫人たちのメンタルケアをしている。当然エッチのレクチャーもし
ている。
彼女の体験談は嫁たち全員が顔を真っ赤にしつつ、興味津々に聞
いてるのをクリスは知らない。ちなみにルーフェイが恥ずかしさの
あまり気絶するレベルで生々しいようだ。
戦力/0
統率/1
知謀/4
教養/8
交渉/10
︱︱︱マルフィーザ・モンドバン︱︱︱
モンドバン伯爵家の令嬢にして、﹃熱砂の龍傭兵団﹄サリーマの
娘、実家のごり押しでクリスの副官︵っていうか秘書︶としてサポ
ートを命じられている。実家としてはお手付きを期待してる模様。
実際主人公がスレンダーで褐色肌の美少女な秘書に手を出さない
797
未来が思い浮かばないし、母親のサリーマがいろいろ吹き込むせい
で、二人が結婚する頃にはかなりの耳年増になってるだろう。
魔法使いとして非常に有能、余談だが彼女の祖父とクリスの師匠
は兄弟で、オリヴィアに出会わず王都で暮らしてたら、師匠の紹介
で彼女と付き合う可能性が高かった。
戦力/7
統率/1
知謀/6
教養/8
交渉/5
︱︱︱レヴィア・リーテンブ︱︱︱
リーテンブ帝国の皇女にして、帝国軍の将、﹃姫将﹄の二つ名を
持つ姫騎士。軍神の遣わした勇者アレスに嫁ぐが、アレスの異常な
性癖により奴隷にされる。しかし誇りだけは失うまいと抗い続けた
ために、精神は摩耗し遠からず心を病むところだった。
アレスを手玉に取り、恋人を救う姿に英雄への憧憬を重ねクリス
に対し憧れに近い感情を抱く。感情や思考はアレスに筒抜けなので、
余計にアレスの精神を逆撫でしているのには気付いてない。
戦力/7
統率/9
知謀/5
798
教養/7
交渉/8
︱︱︱カール・カロリング︵マーニュ︶︱︱︱
8歳で辺境のカロリング辺境伯家に婿入りした、マーニュ王国第
二王子。正妃の子であるので場合によっては王太子の第一候補だっ
たが、﹃長子が家督を継ぐべし﹄という王国の暗黙の了解により、
相続争いを避けるために辺境に送られる。
当初は不満ばかりだったが、なんやかんやあって、領地を凄まじ
い勢いで発展させ、天才の名を欲しいままにする。ただし、オヤジ
と兄貴はいつかぶん殴ると決めていた模様。
妻のデシデラータとの結婚に関してだけは父親に感謝しており、
王都に招かれたとき、偶然を装い父親の髪の毛を毟った事で溜飲を
下げた。怒られたが負い目があったらしくお咎め無しになる、なお
兄には遠慮なく訓練中の事故を装って、良い笑顔を浮かべながら飛
び膝蹴りを食らわせた。それ以来兄には徹底的に避けられてる。
現在、領地に勇者が生まれ、領地に多大な利益を齎してくれる事
をしてくれるが、その対処に追われ、若くして胃に穴が開きそうで
ある。まぁあざといお嬢様な正妻、巨乳女騎士を側室にしてるので、
不憫枠にしても特に作者の心は痛まない。
妹が嫁ぐと世話役のメイドのモルガノさんはお役御免になるのだ
が。彼女をカロリング家で雇う方向で話は纏まっている。折角なの
で実妹の友達と言う萌えるポジションの、幼馴染なメイドさんも嫁
799
にする予定。だから頑張って働こうねw
戦力/7
統率/6
知謀/5+5
教養/7
交渉/5
︱︱︱デシデラータ・カロリング︱︱︱
カールの正妻、先代辺境伯の一人娘。幼い頃から結ばれたカール
との仲は政略結婚にも関わらず非常に良好、現在妊娠中、占いによ
ると男の子らしい。そろそろ安定期に入ってきた。
黒髪巨乳で、お淑やかな美少女と言うパーフェクト令嬢。ジャン
ヌとは親友ともいえるほど仲良し。
夫のワーカーホリックぶりを心配してる。
︱︱︱ジャンヌ・カロリング︱︱︱
カールの側室兼護衛騎士。カールの人買い組織撲滅活動の一環で
救った農村の少女。思ったことは何でも口にする正直者で、カール
への恩返しの為に必死に特訓した結果、辺境で屈指の剣士に成長し
た。
褐色肌の巨乳女騎士。くっ殺案件待ったなしなキャラだが、和姦
800
メインのこのお話でそんな展開にはならない、あるとしたらカール
とのプレイの一環だろう。その場合デシデラータとも共演して﹁お
嬢様には手を出さないで、代わりに私を好きにしろ﹂とか楽しそう
に言い出しそう。
妊娠したら剣の修業ができないなぁと、地味に悩んでる。
︱︱︱ロジェ・カロリング︱︱︱
先代辺境伯、頼れる婿に家督を譲り悠々自適に生活中。主人公
が魔王種﹃月狼王クルト﹄を倒したと聞いた時は、興奮のあまり血
管が切れそうになった。
︱︱︱ブラダ・カロリング︱︱︱
ロジェ・カロリングの妻、妊娠中の娘に変わって内証を仕切っ
てる。夫にはなんとか婿殿の手伝いをさせようと考えてる。
︱︱︱サリーマ・ラージャ︱︱︱
傭兵団﹃熱砂の龍﹄団長、御年45歳の女傑だが正直30代にし
か見えない。実子多数、養子も多数、面倒見てるチンピラは数えき
れない。その全員に慕われてる。
護衛任務の際にクレイター王と知己を得た事と、その他諸々の事
情が重なり子爵の位を息子が授かる。マルフィーザの父であるマラ
ジ・モンドバンと再会し、また子供が出来そうな勢いで求愛されて
801
いる。
戦力/8
統率/10
知謀/4
教養/3
交渉/6
︱︱︱マヘンドラ・ラージャ︱︱︱
サリーマの長男、実質傭兵団を仕切ってる。母親に楽な暮らしを
させるため、奮闘してる。
ある日突然爵位を貰い、右往左往してるが、基本有能なので何と
かなるだろう。嫁さん募集中。
︱︱︱トラバント︱︱︱
法の女神大神殿のトップ、大神官。元々かなりの家柄の出身だが、
神職に就く際家名は捨てている。多分勇者に振り回される人の中で
唯一苦労を苦にしてない⋮⋮らしい。信仰心で誤魔化してるとか言
ってはいけない、彼は敬虔な聖職者なのだから。
アルテナがクリスに嫁ぎ、幸せそうにしてる姿に大満足。しかし
人間欲求は尽きないもので早くひ孫の顔が見たいと、孫娘にプレッ
シャーをかけ微妙にプライベートで会ってもらえない。
802
︱︱︱サテリット︱︱︱
法の女神大神殿にて神官戦士たちを取り纏める司祭長。綺麗な白
髪の上品な老婦人で、神官としても、神殿に所属する戦士としても
すぐれた人物だが、割と短気で口より先に手が出るタイプ。大神官
のトラバントとは犬猿の仲で会うたびに喧嘩が絶えない。
ユングフィアの祖母で夫や息子夫婦とは死別してる。仇である狼
の魔王種﹃月狼王クルト﹄を倒した勇者がユングフィアを娶ってく
れたので、そろそろ引退を考えてる。それはそれとして大神官とは
毎日喧嘩中。
︱︱︱シュティ︱︱︱
次期大神官候補の最有力で、トラバントの秘書を務めるエリート。
40そこそこで大神官の代理を務められるくらい有能。お気遣いも
出来る紳士、ただし苦労人。
︱︱︱カロルス・マーニュ︱︱︱
マーニュ王国国王。お酒と甘味大好きな糖尿病一直線な王様、ま
ぁ魔法薬で肝臓が治るので問題ない。息子が小娘に誑かされて役立
たずの現状、カールかアルチーナの子供が男子なら養子にしようか
悩んでる。
魔王種の魔核が三つ手に入った現状、毎日混沌とした会議場で騒
いでる。真面目な議論をしてる筈が何故か一定数はロマンを語りだ
す人間がいるので、余計に収拾がつかないようだ。
803
︱︱︱マラジ・モンドバン︱︱︱
代々国王の主治医を任されている、医者の家系。宮廷魔術師も兼
任している。貴族として嫁は複数いるが、サリーマさんが大本命な
一途な人。サリーマに瓜二つのマルフィーザを溺愛してる。
︱︱︱グロス・メイティア︱︱︱
国中の娼館を管理するメイティア伯爵家当主、小悪党顔なのに、
全身から漂う仕事のできる男のオーラで、誰からも一目置かれてい
る。主人公に振り回されるわけでもなく、ちゃっかり利益は得てる
あたり流石大富豪である。
︱︱︱フィエラブラ・ヘルトール︱︱︱
オリヴィアの父親、ヘルトール公爵家当主。本来は家族に対して
深い愛情を持つ人物なのだが。アンジェリカが産まれたことですべ
てが狂う、紛う事なき女神の被害者である。
呪いが解けた現在娘に謝りたいのだが、男性恐怖症になった原因
そのものなので、近寄らせてもらえない。
︱︱︱オリヴィアの兄︱︱︱
アルチーナの元婚約者。シスコン拗らせて王女を邪険に扱い婚
804
約は白紙に、今後出番があるかどうかは謎、たぶんない。
︱︱︱アンジェリカ・ヘルトール︱︱︱
今日も元気に逆ハーレム乱交。愛の女神の加護のせいか絶倫で、
一晩に何人相手にしても余裕なセックスモンスター。エロに関して
だけは断トツで今作最強。割と狂った状況に置かれてるという意味
では被害者なのだが、思いっきり人生楽しんでる。
美男子だったり、筋骨隆々だったり、あるいはブサ面でも逸物
がデカければ奴隷身分であっても寝室に招き︵性的に︶食べるので、
ある意味身分とか一切気にしないあたり大人物なのではなかろうか
? ただし病気には気を使ってる。
以前投稿した短編では、加護がなくなれば男にドン引きされる
容姿になったが、長編ではそういうことはなく、素で絶世の美少女
と言えるレベル、スタイルもボンキュボン。性的テクニックもプロ
顔負け。
主人公の事を知ったら、間違いなく興味をもって口説きにやっ
てくるが、周囲の男どもが情報を遮断する。繰り返すが勇者なんて
人種には間違いなく彼女の食指が動くので、それで寝室に呼ばれる
回数が減るのが嫌なのだろう。
戦力/0
統率/2
知謀/4
教養/3
交渉/9+5
805
︱︱︱シャルロー・レイフォン︱︱︱
ディアーネの元婚約者、大勢の貴族が集まる夜会の席で堂々と婚
約破棄をやらかし、一時期レイフォン侯爵家が潰れかねないくらい
の危機に陥れた。
爵位が上でも世の中金持ちの方が強いのはいつの世も変わらない、
メイティア伯爵により家の事業の殆どが機能不全に陥りかけたが、
ギリギリで潰すのは見逃して貰った模様。
勘当で済ませて貰ったのは当主の温情、一縷の望みをかけてディ
アーネに縋ったが、結果はヤンデレに捕獲された。
︱︱︱オべローン・ルーガン︱︱︱
クレイター諸島連合王国国王。声のデカい強面、魔王の魔核を手
に入れて、なにやら大きな目的があるようだ。しかしそれはそれと
してノリと勢いで行動するタイプの自由人。王様がそれで良いのか
? 良いんだろうな⋮⋮
脳みそが筋肉で出来てそうだが、軍事に関する才覚はガチ。特に
海戦に関しては天才と名高い。政治に関しては? 家臣が優秀だか
ら気にするな。
戦力/9
統率/8
知謀/4
教養/5
806
交渉/7
︱︱︱リチャード・リーテンブ︱︱︱
リーテンブ帝国皇帝にして、一代で大帝国を築き上げた大英雄。
光魔法と時空魔法の達人で、勇者以外からは一切攻撃を受け付けな
いチート爺さん。
戦力/8+2
統率/6+3
知謀/7
教養/8
交渉/9
︱︱︱アレス・マーズ︱︱︱
軍神ファールスに選ばれた勇者。実は性癖を何とか抑えながら真
面目に勇者やってれば、レヴィアも普通に嫁として慕ってくれるし
大帝国の軍のトップの地位に就けて、魔王種討伐の後は一生豪遊で
きるうえに、誰からも尊敬される人生だった。自分からその未来を
ゴミ箱にダンクシュートしたが⋮⋮
戦力/2+10
統率/3+5
知謀/2
教養/1
交渉/2
807
﹃天翔け﹄ロバート
傭兵として有名人、サリーマをライバル視してる。傭兵団の規模
では完全に負けてるが、個人の戦力では互角以上
五人の中では一番統率値が高いのでまとめ役のポジションに収ま
ってる。
戦力/9
統率/7
知謀/4
教養/3
交渉/5
﹃陽炎﹄ジョニー
開拓地に集まった冒険者の中で最大火力を誇る魔法剣士。人殺し
を徹底して避ける信条を持ってる、魔物は普通に焼き払う。
戦力/9
統率/4
知謀/5
教養/4
交渉/3
﹃龍首落し﹄ジャック
808
カロリングの街出身の冒険者。幼馴染の娼婦を身請けしたので、
早く堅気になりたいと思ってる。
戦力/8
統率/1
知謀/6
教養/7
交渉/2
﹃地割り﹄ジェイソン
巨大なハンマーを振り回す巨漢。豪快な見た目の割に性格は繊細
で常識人、交渉値が一番高い。
戦力/8
統率/4
知謀/3
教養/2
交渉/6
﹃魔獣﹄イザベラ
コミュ障にして引き籠りなモンスタークイーン。容姿は﹃私がモ
テないのは∼﹄の、も○っちを想像して貰えれば大体合ってる、し
かしまともな格好で身嗜みを整えれば、化粧無しでも普通に可愛か
ったりする。ヤンデレだが。
神の加護無しで人類最強レベルの戦力を持っていても、その力故
に疎まれ人間不信を拗らせてるが、本人は普通の生活を切望してい
809
る。無理して開拓に参加したのもそれが理由。
契約外の仕事を持ってきたカールに対し、見合い相手の紹介をお
願いしたのは彼女にとっては、勇気を振り絞った偉業。ただ相手が
リア充だと嫌われるのが怖いので、本編のようなことを口走った模
様、コミュ障故致し方なし。
カールはクリスに押し付けるとか言ってたが、彼女とクリスの相
性は最悪︵リア充怖いから、後自分より強いと警戒してしまう︶だ
ったりする。
まぁ侯爵家出身のイケメンを彼氏にできたので本人は大満足、彼
を養ってあげる為に、勤労意欲が燃え上がっている。
戦力/5︵召喚獣を含めると10︶
統率/0
知謀/3
教養/3
交渉/0
810
キャラ紹介2︵後書き︶
次話はもう少々お待ちください。m︵︳
︳
m︶
811
生贄︵前書き︶
加筆修正しました
今回はちょっと難産だった上に、人によっては不快な表現があるか
23:40
もしれません。
5/4
812
生贄
日はまだ高い時刻だが、私がセックスをしたい気分だと言えば、
さほど待たずに男どもが群がって来る。
私の部屋には甘い香りの煙︱︱︱気化吸引型スタミナポーション
︱︱︱が立ち籠められ、いくら激しいセックスをしても疲れる事は
無く。壁に立て掛けられた無数のランプも、性欲を刺激する特殊な
光を放つ魔法道具だ。魔法的な効果だけでなく、揺れる明かりがよ
り一層淫靡な雰囲気を醸し出してくれている。
この部屋に掛けられた費用は、並みの貴族ならあっさり破産し、
数代に渡っても返済しきれない程だ。ふふっこの私がセックスを愉
しむ為なのだから当然の事よ。
普段なら一人だけ選んで他の男どもは待たせ、一人ずつじっくり
と味わうのだけど、今日は複数プレイの気分だったので五人に私の
ベッドに上がることを許した。あはっ! ペニスをギンギンに滾ら
見て
せて私を見てるわ、壁際に待機している全ての男たち全員が私を視
姦してる。肉欲と愛情の入り混じった心地の良い視線が、私に集中
してるのが分かるわ。
ベッドの上で大の字に寝転がった私に舌による奉仕を命じると、
名前も覚えてない連中は堪え性の無い犬のように私に群がり舌を這
わせる。
﹁あっ⋮⋮んっ! もっと激しくしても良いのよ? 私の身体に狂
って乱暴にするくらいじゃ怒らないから、もっとよ、もっと強くし
813
なさい﹂
私が言うと、男どもの愛撫が激しさを増し、私の珠の肌にキスの
痕が残る。
﹁いぃ⋮⋮そうよ、その調子よ、あはっ! あはは! 良いわ、五
人がかりでまるで犯されてるみたい!﹂
五か所同時の愛撫に私の性感はあっという間に高まる。私をイカ
せる事が出来るこいつ等にとって最高の名誉を前にして、舌の動き
がさらに激しく、乱暴なモノになっていく。
そうよ、それで良いのよ。どいつもこいつも私の顔色を伺って、
大人しいセックスしかしないから飽き飽きなのよ。男なら私を組み
伏せ、蹂躙するくらいの気概のある奴じゃないと燃えないわ。もっ
と、もっと私への愛に狂いなさい。
﹁はっはっ! あぁぁぁ! 良いわぁ、そこ、そこもっと強くっ!
いぃ、あっあっ⋮⋮イクゥゥゥゥ!﹂
全身を駆け巡る快感に酔いしれ、裸のままでベッドに身を委ねる。
ふふっ私の股間から零れた愛液を嬉しそうに舐めちゃって、子犬み
たいで可愛いわ。
身を起こした私は、五人の中で一番小柄な少年を押し倒しそのま
ま、小柄な体躯に見合った可愛らしいペニスを膣内に導き騎乗位で
繋がる。反応を見る限り初めてなのね? うふふ、私の膣で童貞喪
失出来るなんて幸せな子ね。
﹁あっ! すごい、すごいですアンジェリカ様ぁぁぁぁ!﹂
814
私よりも年下の少年が初めての快感に悶える様は実に征服欲をそ
そる。セックスに慣れた大人ばかりベッドに呼んでたけど、童貞君
を好きにするのもこれはこれで、快感は足りないにせよ楽しいセッ
クスだ。
軽く膣を絞めて腰を振ってやると、我慢なんて出来るわけもなく
あっさり射精してしまうが、申し訳なさと快楽の入り混じった表情
を見ると、許してやろうと思えるから不思議ね。
これがもう少し大人だったらベッドから叩き落すところよ、私を
感じさせないで挿れて直ぐにイクような早漏なんて、相手にする価
値なんてないもの。
﹁ご、ごめんなさいアンジェリカ様⋮⋮ぼく⋮⋮ぼく⋮⋮﹂
﹁一度出したから今度はもう少し耐えられるでしょ? 頑張って私
を感じさせなさい﹂
そう言ってさっきよりも手加減して腰を振ると、あっという間に
大きくなる。まぁ多少物足りないけど、これからに期待しましょう
か。
﹁お前たちもベッドの上で見てるだけじゃ辛いでしょ? ほらもっ
と近くに来なさい特別に私がシテあげるわ。後ろのお前はお尻に挿
れなさい﹂
子供ペニスを味わうのは相手の反応を愉しむのであって快感とし
ては物足りない、物欲しそうに私と少年のセックスを眺めてるだけ
だった男どもは目を輝かせこの身に群がる。その様はまるで、飢え
815
た獣を連想させた。
尤も⋮⋮美味しく頂くのは私だけどねぇ? 私の手でペニスを扱
いてあげてる二人はもうそろそろ限界のようだし、フェラチオして
あげてる男などは血が流れるほど歯を食いしばり射精を堪えている。
あはっ! その表情可愛いわぁ、特別に次も呼んであげましょう。
私に群がる五人の男どもを、一斉に射精させた方が私としても気
持ちが良いので、私が組み伏せてる少年がそろそろイキそうなのに
合わせて、少し刺激を加えてあげると、五人の男は全員ザーメンを
吐き出し私の肌を汚す。くふっ! 頑張って耐えてたから随分と気
持ち良かったみたいね?
その後壁に待機している男たちと交代させ、面子を変えながら複
数人プレイを楽しむ。そろそろ湯浴みがしたくなったので、まだ部
屋に呼んだ連中の中で、セックスしてない男どもを愉しんだら、今
日は終わりにするとしましょう。呼んだからには抱かせてあげない
と可哀そうだからね。
そうして最後にやってきたのはシャルローだった、ああ、そう言
えばあの婚約破棄の後から抱いてなかったっけ? 最初のセックス
が早漏だったから印象薄かったけど、ペニスは大きかったし、テク
ニックも悪くなかったわね。
﹁ほら、後ろから挿れさせてあげるわ、私をイカせられたらまた呼
んであげるからね⋮⋮んっ、ちゅ⋮⋮んむ﹂
私は猫が背伸びするような格好で、シャルローを迎え入れる。今
日は複数プレイと決めているので、私の目の前で寝そべっている男
にパイズリしつつ、横からペニスを突き出してる男にフェラチオし
816
てあげている。
私が他の男のペニスを咥えているのに嫉妬したのか、かなり激し
く乱暴に私の膣内を攻め立てる。ふふっ分かり易いんだから、さぁ
その嫉妬心を更に燃やして、もっともっと私を見なさい。私だけを
求めなさい。
﹁あっあっ⋮⋮んっむぅぅぅ!﹂
私のオマンコの奥を小刻みに叩く、大きく太いペニスに、不覚に
もフェラとパイズリの手を止めてしまう。良い、良いわ、このオチ
ンチンもテクニックも、かなり良いわ!
﹁んあぁぁぁ! 凄いのぉ! これイッちゃう、気持ち良くてイッ
ちゃうわ!﹂
﹁はぁぁ! はぁぁ! アンジェリカ、アンジェリカァァァァ!﹂
私は四つん這いのまま、シャルローはどんな表情をしてるのだろ
うかと思い、振り向いてみると⋮⋮一瞬で良い気分が冷めた。
即座にペニスを引き抜き、立ち上がると、いきなりの事に混乱し
てるシャルローの頬を打った。気分が悪い、さっさと湯浴みしたら
オルランドでも部屋に呼んで口直ししないとこの気分は収まらない。
私には分かる、私にはセックスしてる人間の心情が表情を見れば
直ぐに分かる。シャルローはあろう事か⋮⋮この私を抱きながら他
の女を重ねていた! それを表情を見た瞬間に理解した。
そして、理由は不明だが分かってしまった⋮⋮なんであの男は私
817
ディアーネ
が嫉妬して、呪いを受けたはずの元婚約者への悪意が無くなってる
の! 調べないと、調べて原因を消さなきゃ⋮⋮私が愛を独占でき
ないじゃない、この世の愛はすべて私に向けられなきゃいけないの
に!
∼∼∼∼∼
どうして? どうしてこんな事態になったのだろう? 最後の瞬
間、アンジェリカは機嫌良く私とのセックスを愉しんでいた筈、そ
れが私の顔を見た瞬間に、平手打ちを受け部屋から追い出された。
身嗜みが悪かった? 否、私は侯爵家の人間だ、何時如何なる時
でも見苦しくないようにしている。第一アンジェリカはセックス中
の失敗に関しては寛容だ、分からない、私の何が悪かったのだ?
どれほど考えてもアンジェリカの不興を買ってしまった私は、も
はや彼女の部屋に招かれることも無いだろう。同じ部屋にいた男た
ちの優越感の混じった憐みの視線に晒されながら、失意のままに生
まれ育った屋敷へと帰った。そして待っていたのは⋮⋮
﹁シャルローよ、今更如何なる面目あって当家の門を潜るか﹂
三男とは言えレイフォン家の息子が帰って来たと言うのに、誰一
人で迎えに来ないのはおかしいと思いながら、玄関を開けると、そ
こには体中から怒気を発した父が立っていた。
なんだろう? たかが一週間の間、アンジェリカにいつ呼ばれて
も良いように、彼女の近くで待機していただけなのに。その程度留
818
守にしただけで、私に甘い父が怒るなんてあるわけが無い、兄弟の
誰かが失敗を私に擦り付けでもしたのだろうか?
﹁父上? いったい何があったのですか?﹂
﹁何があった? 何があったのですか⋮⋮だと! シャルロー! 貴様本気で言ってるのか!﹂
激高した父に胸倉を掴まれ床に叩きつけられる。父が私に手を出
すなんて初めての事で、痛みよりも戸惑いの方が強かった。なんで
? なんでなんでなんで⋮⋮なんで私ばかりこんな目に遭うんだ?!
﹁∼∼∼ッッッ!! 何故怒ってるのか分かって無いようだな⋮⋮
もうよい、貴様に語って聞かせる時間すら惜しいわ! 出ていけ!
今後レイフォンを名乗る事は罷り成らん!﹂
床に押し付けたまま一方的に言い放たれると、襟首を掴まれたま
ま屋敷の外に放り出される。父は若い頃騎士として軍に所属してい
た事があり、レイフォン家の名跡を継いだ時に引退したのだが、今
でも鍛錬を欠かしておらず、私一人くらいなら容易く片手で放り投
げる。
弁明の言葉を出す前に顔面に硬い物を投げつけられ、痛みに悶え
てるうちに父は屋敷に戻ってしまった。
顔にぶつかったのは金貨の詰まった袋だったようで、一応拾って
懐に⋮⋮重くてずり落ちてしまう、ならばと腰紐に括り付けようと
しても、重くて歩きにくい、仕方なく両手で持っておく。
大声を出しても誰一人として応えてくれない。考えてみれば当然
819
の事だが、当主である父が勘当を言い渡した以上、助けてくれる使
用人がいるわけが無い。
ならば母だ! 母上に事情を説明し父を説得して貰わなければと、
裏口から屋敷に入ろうとしたら、見張りをしていたらしい侯爵家の
武官二人に見つかり、拘束されてしまった。
﹁き、貴様ら! こんな事をしてただで済むと思ってるのか! 私
は⋮⋮ムグッ!﹂
﹁勘当されて直ぐに裏口から入って来る、その面の皮の厚さは流石
と言っておくっす。けど、アンタはもうこの家の人間じゃないんっ
すよ、勝手に入ったのを見逃したら俺らがクビですんで、大人しく
出てくれねぇっすか﹂
﹁普段温厚な侯爵様がガチでキレてますんで、万が一他の連中に見
つかって報告でもしようもんなら、本気で斬れと命令されますよ?
だから大声は出さないでください﹂
口を塞がれながら、ズルズルと屋敷から連行されるように遠ざけ
られる。文句を言いたいが、侯爵家の警備を請け負う武官の拘束を
私が解けるはずもなく、路地裏に放り出されてしまう。
﹁若⋮⋮あぁいや、シャルローさん、冗談抜きで侯爵様が勘当を解
かない限り屋敷に入ったら、斬られますよ? 雇われの俺たちは兎
も角ですけど、アンタの婚約破棄騒動が原因で、家臣の人らとか下
手したら、首吊る人がいたかも知れないくらいヤバい状況だったん
だ﹂
﹁侯爵様だけで追い出したのはある意味温情っすよ? 他の家臣た
820
ちがいたら骨の一本や二本じゃ済まなかったっす、そんくらいこの
家ピンチだったんで﹂
そんな⋮⋮アンジェリカへの愛を宣言しただけでこんな事になる
なんて。一体どうすれば勘当を解いて貰える? こんな時に頼れる
友人たちはアンジェリカの部屋の近くで待機していて、私は近寄る
ことはできない。アンジェリカの不興を買った私が彼女に近寄るこ
とを、彼らは許さないだろう。
男の友人が駄目なら、女は? こんな時に父を説得できそうな人
間と言えば⋮⋮ディアーネ。そうだ、多分彼女が父に余計な事を言
ったから、勘当されたんだ! ならば彼女を説得すれば許して貰え
るだろう。
婚約破棄したとはいえ、私たちは幼馴染だし、彼女はまだ私の事
が好きな筈だ。よりを戻したいと言えば、きっと喜んで父への取り
成しをしてくれるだろう。
希望が見えてきたので、早速メイティア伯爵家に向かうと、門前
払いされてしまった。この家の使用人は、婚約者であった私の事を
知ってる筈なのにこの扱いとは!
仕方なく、屋敷の周囲をうろついて下働きの者に父から貰った金
貨を数枚渡すと、ディアーネはこの王都の北、辺境のラーロン地方
に居るそうだ。なんであんな田舎に? ひょっとして私に振られた
から傷心旅行なのだろうか?
ならば都合がよい、会いに行けば彼女も嬉しいだろう。この機会
に一線を越えて、よりを戻せばまた彼女の婚約者の立場を得られる。
大富豪のメイティア家に婿入りすれば、またアンジェリカに触れる
821
機会があるだろう。
私は金貨を使い、何とか辺境に向かう商家の一行に同行させて貰
う事が出来た。さぁ急いでディアーネに会って元の生活に戻らなけ
れば。
∼∼∼∼∼
﹁えいっ!﹂
﹁おっと!﹂
ジュエルスケイル
アストライア邸の中庭は、輝鱗魚を飼っている池があり、様々な
種類の花が植えられていたりなど。お茶会をしたり、軽い運動がで
きたりとかなり広い空間になっている。
その広い中庭の丁度日陰になっている一画で、私はメリッサと一
緒に汗を流していた。体型の維持には運動が不可欠なので、空いた
時間によくやってる。
オリヴィアとかは運動が苦手で避けてたけど、メリッサに﹁子供
を産むときには絶対に体力が無いといけません﹂と力説されたのを
切っ掛けに、無理のない範囲で付き合ってくれるようになった。
冒険者が好んで着るような安価な運動着は、生地が悪いのか激し
く動くと肌が荒れるので、私たちは﹃ぶるま﹄なる服で運動してい
るが⋮⋮女同士なら良いけど、殿方に見られるには少々憚られる格
好なので、屋敷の外で遊ぶ場合は、柔らかく滑りの良い素材で出来
822
た運動着で運動している。
ちなみに﹃ぶるま﹄を着てるのを、ご主人様に見られると高確率
で物陰に連れ込まれ、運動とは別の意味で汗を流す事になる。汗く
さい身体でセックスは嫌だと言えば、止めてくれると思うけど、私
たち夫人はご主人様に求められると喜んじゃうから、結局為すがま
まなんだけどね。
今私たちが対戦しているのは、ちょっとした空き地で出来るスポ
ーツとして、カール様が考案したとされるハゴータと呼ばれるゲー
ム。玉蹴り遊び程広い空間を必要としないので、公園などで遊んで
いるのをよく見かけるくらいには流行ってるみたい。
取っ手の付いた木の板で、羽玉と呼ばれる、樹脂を固めた小さな
玉に鳥の羽を付けたモノを、地面に落ちないように打ち合うだけの
単純なルール。いざ自分でやってみると中々楽しくて熱中してしま
う。
﹁ふふっクリス君が帰ってきた途端にみんな元気になっちゃって⋮
⋮せいっ﹂
﹁当然よ⋮⋮っとっと!﹂
クリス様
大神殿が襲撃され、アルテナとアルチーナ殿下が誘拐されてしま
い、ご主人様が奪還に向かったと聞いた時は、私の夫であれば大丈
夫だと信じる一方で、万が一があったらと考えてしまう。
屋敷の者全員が不安そうにしている中で、オリヴィアは気丈に振
舞ってはいたけど、親友の私には無理をしてるのが良く分かった。
ならば私も負けるわけにはいかないと、ご主人様が留守であっても
823
訪ねて来る来客をなんとかあしらっていた。
そうして使い魔で寄越された無事を伝える手紙を読み、今日のお
昼頃に無事に屋敷に帰ってきたご主人様を見て、やっと皆安心でき
たのだ。
帰って少し皆とお茶を飲んだら、報告の為にカール様の屋敷に向
かってしまわれたが、皆も安心したようにいつも通りに戻った。
﹁せいっ﹂
﹁あららら⋮⋮﹂
と、考え事していたのが拙かったのか、打ち返したのは良いが、
羽玉が池に落ちてしまった。そんなに高い物でもないし、予備もま
だあるので仕方ないから諦めましょうか、ついでに休憩しましょ。
あお
お互いに汗だくなので、用意してあった果汁入りの水で喉を潤す。
はしたないとは思うけど、胸元を開けて、扇子で扇ぐと気持ちが良
い、胸が揺れないように固定してるせいか蒸れるのよ。
﹁ディアーネ、気持ちは分かるけど庭でそういうのはダメよ?﹂
﹁屋敷に男の使用人がいたらしないわよ、見られてたって近所のお
ばさまだけじゃない﹂
殿方に見られる範囲なら貞淑にしていても、女だけの空間ならこ
んなものだ。上半身裸になって汗を拭かないだけまだマシよ。メリ
ッサだって私の気持ちわかるでしょ?
824
汗を拭きながら、メリッサとお喋りをしていると、お手伝いさん
のリーダーであるマーサさんが走ってきた。あら? 何かあったの
かしら?
﹁奥様、申し訳ございませんがお客様です﹂
﹁お客様? 来客の予定は無かった筈なのに、常識ないわねぇ﹂
またか、と心の中でため息をつき、相手は何者かと聞いてみると、
マーサさんの返答は予想外のモノだった。
﹁いかにも貴族と言った風体で、名前を尋ねても﹁私を知らないと
はふざけているのか!﹂などとすごい剣幕で怒鳴り散らしておりま
して、私たちではどうにもできません﹂
お手伝いさんは屋敷の使用人ではなく、職人街の奥様たちを日雇
いしてるだけ。彼女たちは個人経営のお店で接客をしているだけあ
って嫌な客、無駄に偉そうな客の応対もそれなりだけど、ここまで
馬鹿な客は流石に持て余したようね。
﹁親しい家でもない限り、聞かれる前に名乗るのが礼儀でしょうに、
何処の馬鹿かしら? 分かったわ、汗を流してから行くから放って
おきなさい﹂
﹁マーサさん、常識のない人はひょっとしたら勝手に部屋を出て、
屋敷をうろつく可能性があるわ。ヴィヴィアンかユングフィアに警
戒しておくように言って貰えないかしら? 勝手に部屋を出たら盗
人として扱って大丈夫よ﹂
おっと、私が言い忘れてた事を言ってくれて助かったわ。私の常
825
識では有り得ない事ではあるけど、馬鹿だから待たせてたら勝手に
出歩くかもしれない。それでオリヴィアと鉢合わせでもしたら目も
当てられないわ。
しかしどんな馬鹿でも来客である以上は、夫人として最低限の身
嗜みと言うものがある。汗でびっしょりの運動服で客を迎えるなん
てしようものなら、自身なのならず愛する夫まで馬鹿にされてしま
うのだから。
急いでお風呂に入り、メリッサにも手伝って貰って、一応見苦し
くない程度の体裁を整えて応接間に向かう。
気を効かせてくれたのかユングフィアが鎧姿で同行してくれた。
流石に危害を加えるような狼藉者ではないとは思うけど、どうせ追
い返すのだから示威になるでしょう。
応接間に着くと、一応ノックして少し時間を置いてから声を掛け
る。相手が礼儀知らずでもこちらまで無礼で返す程、大人気ない真
似はするつもりはない。
﹁お待たせいたしました。本日は当主不在につき、アストライア家
の第二夫人である⋮⋮﹂
﹁遅い! 何時までこの私を待たせる気だ!﹂
聞き覚えのある声による余りの暴言に、思わず顔が引き攣る。ド
元婚約者
アを開けるとそこには、見知った顔がふんぞり返っていた、アンタ
何しに来たのよシャルロー?
レイフォン侯爵家に年頃の娘はいない筈だから縁談を持ってきた
826
とも思えないし。侯爵家同士による事業提携の提案ならこんなバカ
を寄越すはずがない。ましてご主人様への顔繋ぎなら、この態度は
あり得ない。
このアストライア邸は勇者であるご主人様の屋敷よ? 陛下から
侯爵位を賜ったクリス様に喧嘩を売ってるって事かしら?
身分を笠に偉ぶるのはご主人様は嫌うけど、舐められたら相応の
対応をとらないと、今後同じようなのが沸いて出る可能性があるか
らね。
﹁あら? これは大変失礼いたしましたわ。お客様にお会いするの
にも準備が必要なものですから﹂
扇子で口元を隠しながらソファに座り、ユングフィアが用意して
くれた紅茶を口に含む。ご主人様が帝国の偉い人から貰って来た茶
葉らしいけど美味しいわね、コイツに出すのが勿体無いわ。
﹁ふんっ! まぁ私に会う為に、念入りに化粧をしていたと言うの
なら許してやろう。よほど私に会うのが嬉しかったようだしな﹂
えーと⋮⋮私、王都の最新の情報は持ってないけど、コイツをこ
の場で始末したら、レイフォン侯爵家が煩いかも知れないわね。
ご主人様の為にも軽率な行動は出来ないし、ユングフィアの手を
血で汚す訳にもいかないわ。
赤の他人だが。もう今後一切縁のない、顔と名前を知ってるだけ
の他人だけど。流石に王都で、特に軍においてそれなりに発現力の
ある家の人間なので、嫌味で返すのは止めておこう。
827
この男は心底どうでも良いのだけど、彼の父、レイフォン家現当
主は国軍の中に大勢の慕う騎士がいる人格者だけど、息子に甘いの
も有名だ。
シャルローはどうなろうとも、レイフォン卿を怒らせてはご主人
様の為にならない。むしろコイツの無礼を理由に、貸しを作れれば
ご主人様の役に立つわね。
早まった真似はしないで馬鹿の妄言として無視。腹が立つけど、
嫌な客であっても一応は、あくまでも一応はもてなす体裁をとるの
が夫人の務め、我慢しなきゃ。
﹁お客様にお会いする前に、化粧などは夫人として当然の事ですの
で。それよりもシャルロー・レイフォン様、本日当家を訪ねたのは
如何なるご用向きでございますか?﹂
努めて理性的に会話を続ける自分を褒めてあげたい。これは夫人
の務め、私は妻としてご主人様不在の時の来客を任されてるのだか
ら。私の不手際はご主人様の不手際になるのだと自分に言い聞かせ
る。
﹁うむ、ディアーネよ、私に振られてこんな田舎に引き籠るくらい、
傷ついていたとは気が付かなかった﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ん?﹂
え? コイツの脳内で私は振られて傷心だったの? 婚約破棄の
次の日に三日掛けてこの街にやって来た、そしてご主人様に出会っ
て結婚。幸せいっぱいだったから考えもしなかったけど、傍から見
828
るとそう思われるのかしら?
﹁可哀そうだからよりを戻してやろう。もう一度私の婚約者になれ﹂
とりあえず、コイツの言動が理解できず先程の言葉を反芻してみ
る⋮⋮え? なに? 私って可哀そうだったの? ユングフィアに
目を向けてみると彼女も目を白黒させている。
怒るよりも呆れてしまい、次に疑問が出てきた。あれ? ひょっ
としてコイツは私が結婚したのを知らないの? でもさっき私、こ
の家の夫人だって言ったわよね?
結婚する前に好んで着ていたような、殿方の目を惹きつける為に
仕立てたドレスは、もうご主人様の前でしか着ない。来客の時は露
出よりも、清潔さをイメージさせるドレスを着る事にしている。
私が今纏っているのは、暗黙の了解で既婚者しか着ないデザイン
のものだ。それなりに社交の経験があれば、未婚の女性は殆ど着な
いデザインなのは、彼も承知の筈。
﹁シャルロー・レイフォン様。何か誤解があるようですが、私はア
ストライア家の第二夫人、当主クリスが妻でございます。もう一度
婚約者になれとは無理な話ですわ﹂
とりあえず私が結婚したのを知らない前提で、シャルローの妄言
に反論する。ここまではっきり言われて理解できないなら、精神を
病んでる可能性がある。疲れてるだろうけどアルテナに相談するし
かないわね。
﹁うむ、意に添わぬ結婚であったのだろう。だが私はお前の幼馴染
829
だ、過去のすれ違いは水に流してやろう。だからさっさと離縁し、
私と共に王都に戻ったら父上に勘当を解くように説得しろ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮は?﹂
﹁ふっ、お前がそんな呆気にとられた顔をするのを見るのは初めて
だな、そんなに嬉しいのか?﹂
アンジェリカ
やっぱりコイツ、ビッチの呪いの影響で精神を病んだのかな? ひとまず気絶させて神殿で養生させてあげるのが優しさかしら? 幼馴染として神殿への喜捨を銀貨一枚くらい出してあげよう。
ユングフィアも同じ結論なのか、背後に回り、拳を握ってこっち
に目線を向けてきた。頷いてシャルローをどうしようか考える。
先ずアルテナに診て貰って、それから神殿に送る馬車はどうしま
しょうか? ゴーレム馬車は大神官様に貸してしまってるし、客間
に寝かせておくしかないわね。
﹁そうかそうか! やっぱりお前も嫌だったんだな!? さぁ早速
王都に戻ろう、また昔のように仲良く過ごそうじゃないか﹂
何やらさっき頷いたのを都合よく解釈したようで、勢いよく立ち
上がったシャルローは、私の手を掴もうとするが所詮はボンボン。
ユングフィアの方が遥かに速く一撃で気絶させられ⋮⋮なかった。
﹁ブギャッッッ! ぐおぉぉぉ! な、なにをする貴様!﹂
あら、痛みで悶絶してるけど,文句を言う元気はあるみたい。や
れやれユングフィアは優しいから手加減しすぎたのね、まぁ彼女が
830
本気出したらコイツ死ぬから仕方ないけど。
﹁あまり痛い思いをさせるのは可哀そうよユングフィア。まぁ気絶
させられなかったのは仕方ないから、そのまま抑えてて。ちょっと
アルテナを呼んでくるわ﹂
﹁申し訳ございませんディアーネ様、万が一打ち所が悪かったらと
思うと⋮⋮﹂
シャルローはユングフィアに任せて、部屋で休んでる筈のアルテ
ナを呼びに向かう。ドアノブを手にしたところで、ふと思いついた、
神殿の人に迎えに来てもらったらどうだろうか?
アルテナはお茶会の後、お昼寝すると言ってたから起こすのも悪
い気がする。精神を病んだ男を保護したから、お願いすると言えば
迎えに来てもらえるだろうか? でも神殿はご主人様の結婚式があ
るから忙しいって聞くし⋮⋮
﹁ま、待てディアーネ! お前はさっき第二夫人と言ったよな、私
と王都に戻れば私の正妻にしてやるぞ!﹂
﹁いい加減になさい。確かに家の都合で貴方の婚約者だったけど、
正式に白紙になった以上撤回は無理よ。そして何より私は夫を愛し
てるの、離縁なんて応じる訳ないじゃない﹂
ユングフィアに抑え付けられてるので、身動きの取れないシャル
ローは、さっきまでの居丈高な態度は何処へやら? 焦ったように
身勝手な事を喚き散らしている。
正直聞いてるだけで気分が悪い、こんなのと結婚する可能性が高
831
かったと思うと怖気がする。ご主人様が帰ってきたら甘えて、存分
に我が身の幸運を噛みしめようかしら。
﹁そ、そうだ! お前も一度私に抱かれれば、私の方が良いと思う
筈だ! どうせもう処女じゃないんだろ? 試しと思って今のうち
に⋮⋮モガッッッ!﹂
ああ、いけない、一瞬頭の中が真っ白になったと思ったら、ヒー
ルで馬鹿の頭を踏んでしまっていたわ。夫人として弱い者苛めをし
てると思われたら困るわね。
それはそれとして全体重をかけて後頭部を踏み躙る。グリグリと、
コイツの口を床に押し付けて喋れないように。
﹁今、なんて言ったの? さっきまでは痴人の妄言として聞き流し
てたけど⋮⋮抱かれろ? 貴方の方が良い? 試しと思って?﹂
﹁モガッ! ンン∼ッ! ングゥゥゥ!﹂
あらユングフィア、馬鹿を抑えてた貴女が、真っ青な顔して離れ
るなんてどうしたの? そうかコイツに触れてるのが気持ち悪いの
ね。分かるわ、私もこの靴、後で捨てようと思ってたのよ。
﹁よりにもよってこの私に⋮⋮このディアーネ・アストライアに、
不貞を働けと? ゴミ風情にこの肌を許せと? そう言ったのかし
ら?﹂
足を動かして頭の向きを変えてやり、今度はこめかみを踏み付け
る。言い訳だけは聞いてあげるけど許せない⋮⋮心底惚れたご主人
様への侮辱、そしてクリス様に捧げた愛を貶めたコイツは許せない。
832
踏み付ける足にも力が籠る。惜しいわね、ユングフィアくらい力
があればこのまま頭蓋骨を踏み潰すのに。
﹁ヒッ! ヒギィィィ! ゆ、許してくれ! 違うんだ! そんな
つもりじゃ⋮⋮﹂
見苦しく泣き喚きながら吐く言い訳は自分勝手なものばかり。ユ
ングフィアが離れて自由になった手足をジタバタと動かす姿は滑稽
の一言だ。
﹁そう言えばさっき、勘当されたとか言ってたわよね? つまりレ
イフォン家とは何の関わり合いの無い無礼者を一人くらい、首を刎
ねても特に問題ないわね﹂
﹁アガァァ! ごめんよ! 許して! 許してくれぇぇぇぇ!﹂
流石に屋敷を血で汚すのは憚られる。掃除も大変だし、この応接
間が使えなくなったら模様替えの手間がかかるわね。でもこのまま
屋敷から叩き出す程度じゃ気が済まないわ。
テーブルの上に置いた飲みかけの紅茶が目に入り、良い事を思い
ついた。少し離れた場所で震えてるユングフィアにカップを持って
来てもらい⋮⋮シャルローの股間のあたりにぶちまけた。
﹁フフッ⋮⋮あははははははは! なぁにシャルロー、まるでお漏
らししたみたいね? あはっ! まともな神経してたら自殺を考え
るんじゃないかしら?﹂
﹁ヒィ⋮⋮うわぁぁぁぁぁぁぁ﹂
833
少し気が晴れたので、踏み付けてた足を退かしてあげると、正に
脱兎の如くといった勢いで逃げた。これでもうこの屋敷に近寄らな
いでしょ。
﹁あの無様な姿で少しはスッキリしたけど、まだ気分が悪いわね。
お風呂に入ろうと思うけどユングフィアも一緒にどうかしら?﹂
﹁はっはいぃぃ! お供させていただきますディアーネ様!﹂
もう、ユングフィアったら、同じ夫に仕える姉妹なのだから呼び
捨てで構わないのに。生真面目な子だから染み付いた価値観がまだ
抜け切れてないのよね。
浴室に向かう途中、様子を見てたらしいメリッサとも一緒にお風
呂に入った。どうも彼女から見ると、私はかなり機嫌が悪いみたい。
ご主人様が帰られるまでにいつも通りに戻らないと心配させてしま
うわね。
∼∼∼∼∼
ボクは帰り道で公園で項垂れていたシャルローを拾い、屋敷で詳
しい事情を聞いた。アンジェリカに振られ、実家を勘当され、何と
かこの街にやってきたのは良いんだが⋮⋮感想は一つ、哀れ過ぎて
何も言えねぇ。
実家を勘当されるところまでは、まぁ自業自得だし特に同情も出
来ないけど、アストライア邸でのやり取りに関しては、ボクからは
834
何も言えず、ただ度数の強いお酒を差し出すのがボクにできる精一
杯だった。
だってボクは、顔も性格もスタイルも最高レベルな嫁と仲良いし、
超可愛い側室いるし。ぶっちゃけボクの慰めとか死体に鞭打つよう
なもの。上から目線の慰めは更に追い詰める事態になりかねない。
一緒に話を聞いてた家臣も似たような感想らしく、とりあえず無
言でグラスに蒸留酒を注いであげていた。微妙に涙ぐんでるのは多
分、ディアーネ夫人と面会した時の悲惨さを憐れんでるんだろうな。
図らずもイザベラの希望通りの人間が転がり込んできたわけだが
⋮⋮まぁ友達じゃないし別に良いか。殺されるわけじゃないし、む
しろ振られて傷心の青年に彼女紹介すると言う称えられて然るべき
善行だし⋮⋮善行だし、うん。ボクは悪くない。
話を聞き終わり、ほぼ抜け殻な彼を馬車の乗せ、イザベラの屋敷
に投げ捨ててきた。既に夜だが気にしない、むしろ好都合だ。敷地
に入るといつの間にか現れたアメーバ状の召喚獣に取り込まれ姿を
消したが⋮⋮ボクは悪くない。
翌日、フードを目深に被ったイザベラがやって来て、使用人の目
に触れない事を条件に屋敷に滞在してくれることになった。勿論シ
ャルローも一緒にやってきた。
絶望しきっていた彼だったが、イザベラと一緒に歩く姿を見る限
り少し元気を取り戻したのかな? 目に光が無いのは気にしない。
顔は見えないけどイザベラも、機嫌が良さそうな口調だから上手く
いったんだろう。
835
人目に付かない部屋は地下室しかないのだけど、案内すると気に
入った様子で喜んでいたので、この部屋で寝泊まりして貰う事にな
った。シャルローが微妙に、助けを求めるような目線を向けてきた
が知らん。一応家具一式と食料とかを運び込んで生活できるように
した。
誘拐犯一味がいたけど、昨日予定通りに民衆を納得させる為に﹃
使った﹄のでもういない。入れ違いで良かった、流石に犯罪者と一
緒にさせたくはないからね。
仕事を引き受けてくれたイザベラは有能の一言で、地下室に居な
がらも、国境は全て召喚獣による監視下に置かれ、前回の誘拐騒ぎ
のように内部で暴れて逃げても、あっさりと捕捉できる体制をその
日のうちに構築してしまったのだ。
ふっ実家を勘当された馬鹿なボンボン一人で彼女が味方になるな
ら安いもの⋮⋮もとい、侯爵家出身のイケメンを紹介した甲斐があ
ったと言うものだ。お互いを支え合う微笑ましいカップルだな。
﹁見張り用の子の支配権あげる⋮⋮召喚魔法使えなくても大丈夫に
してある﹂
驚いたのは彼女に支配された魔物は、魔法の素養が無くても操れ
るようにされていて、かなりの精度で操る事が可能で、感覚すら共
有できるのだ。凄いな、鳥の目線で見る景色って感動ものだ。
正直この使い魔を譲ってくれるなら、金貨百枚くらい迷いなく払
うぞ。興奮したボクは連絡用のオウムに向かって伝えると、不機嫌
そうな声が返ってきた。
836
﹁⋮⋮うちの子はお金でやり取りしない⋮⋮イザベラそういうの嫌
い﹂
﹁すまない失言だった。そうすると水蛇竜の孵化は君にとってはあ
まりやりたくない仕事かな?﹂
クリス殿が持ってきた水蛇竜の卵は、召喚魔法を使って孵化させ
ると人に従うようになる。育てるのに少し時間がかかることを除け
ば、誰もが大金を払ってでも欲しがるだろう。
﹁⋮⋮大事にしてくれる人なら良い⋮⋮孵化を請け負うのは構わな
い⋮⋮シャルローを養わないと⋮⋮あ⋮⋮んんっ﹂
﹁⋮⋮アァ⋮⋮イザベラ﹂
オウム越しの会話なのだが、この魔物オウムは向こうの会話を忠
実に伝えてくれるのか、イザベラの妙に艶のある声と、微かにだが、
か細いシャルローの声も聞こえてきた。喘ぎ声のような気がするが、
気のせいだと信じる。君ら地下室でナニやってんの? ナニやって
んだろうなぁ、掃除は自分たちでしてね。
ひとまず、防衛体制の強化は達成したので、あとは油断だけはし
ないようにしておこう、もう少ししたら国中から貴族が集まって来
るから、警戒はし過ぎる事は無いのだから。
837
生贄︵後書き︶
呼んでくれた皆さまありがとうございました。
感想欄でディアーネとのやり取りが見たいとあったので書いてみま
したが⋮⋮
まぁ、うん。自分で書いておいてなんですけど、作者の核シェルタ
ー程度の強度しかないメンタルに猫が爪とぎした程度は心が痛むな
ぁ。
まぁイザベラの素顔は結構可愛い系だし、幸せになると言う前提で、
先ず絶望を与えるのは創作の基本だから⋮⋮作者は悪くない︵自己
弁護︶
838
ブックマーク一万件突破記念・番外編︵前書き︶
先日書籍版のラフ画を見せて頂きまして、とても可愛いヒロインた
ちに満足です。
また主人公クリス君の絵を見て﹁なんか人の良い兄ちゃんがいそう﹂
と思い付き、書いた番外編を、ブクマ一万件に達した記念として投
稿します。
839
ブックマーク一万件突破記念・番外編
僕の名はディーン。僕の住んでいるフォズ村はマーニュ王国最東
端に位置する山岳地帯にひっそりと存在する小さな村だ。
村の周囲は成長の早いオークウィードの木ばかりで、木材だけは
腐るほどある。後はこの村近くの山で子供が遊びとして集める草や
木の実が、王都では随分高値で売れるらしい。なんでも薬草やら染
料になるそうだ。
僕の家は村で唯一の鍛冶屋だが、父の跡を継ぐために10歳で修
業を始めるまでは、随分と山を友達と歩き回ってこの草や木の実を
集めたものだ。鍛冶の修業を始めて2年経ち、弟が使う採取用のナ
イフを練習で作りつつ、友達と山を駆け巡ったのを思い出す。
弟は僕よりも4歳年下で8歳だけど、勘が良いのか要領が良いの
か分からないが、この採取がやたらと上手い。親に言われたノルマ
をあっさり達成して、空いた時間で遊びまわってる。
村の寄り合いで弟のノルマを増やそうと言う人もいる。けど頑張
ったのだから、ご褒美として自由に遊ばせるくらい当然だと領主様
の一声で、弟のノルマが増える事は無かった。
僕は寄り合いの席の隅っこで、大人たちの話を聞いてるだけだっ
たけど、ノルマを増やそうと主張した人の考えも分かる。
弟のクリスは一緒に採取に向かった子の分まで集めてしまい、そ
の子も一緒に遊びに誘うのだ。決まって女の子である、男の子の場
840
合はフォローはするけど集めた分を分けたりはしない。
分かってるだけでも5人くらい、特に可愛いと評判の女の子ばか
り誘うから、彼女らの親は良い顔してない。8歳の子供だから直接
注意したりはしないけど、僕は弟の将来が少し心配だ。父さんのセ
リフを借りるなら、大人になったら刺されるんじゃなかろうか?
いやね、女の子に優しくするのは良いよ? 空いた時間に一緒に
遊ぶのも良いだろう、好きな子が出来たなら応援しよう兄として⋮
⋮けどせめて一人に絞ろうよクリス。
そんな事を考えながら、僕は作ったナイフを柄に嵌めて、全体の
バランスを確認する。今までで一番良い出来に思わず笑みが浮かぶ、
父さんも満足げに頷いてる、さてあとは砥石で刃を整えて完成だ。
砥石に刃を滑らせ、さぁ仕上げだと気合を入れた時、家の外から
甲高い声が聞こえてきた。
﹁クリスゥゥゥ! あんたまた別の子連れ歩いて!﹂
﹁うるせぇぇ! モテる秘訣は優しさだって父ちゃん言ってたし!﹂
﹁あ、あの⋮⋮イレーネちゃん、クリス君別に悪くは⋮⋮﹂
ああ⋮⋮またやってる、ナイフを研ぐ手を一旦止めて、傍で見て
いた父さんに目線を送ると頷いてくれたので、騒ぎの元へと向かう。
そこではいつも通りの光景が繰り広げられていた。
﹁ウキィィィィ! 遊んでんの邪魔すんな男女!﹂
841
クリス
﹁ガルルルルル! ほんとサイテーよこの馬鹿猿!﹂
レーネ
イ
お互いに威嚇し合ってる、弟と村の子供とは一線を画す装いの女
の子。この二人は顔を合わせるたびに、こんな感じでケンカばっか
りである。
彼女は領主であるフォズ男爵様の娘で、弟と同い年だ。男爵様は
気さくな方であまり身分の違いには拘らず、子供同士仲良くさせて
バカ
貰っている。だからと言ってケンカして良いわけではないが、ナニ
やってるんだクリス。
﹁こら、またケンカか? クリスも女の子にそんな乱暴な事言っち
ゃダメだぞ﹂
﹁げっ! 兄貴﹂
﹁ディーンお兄ちゃん!﹂
クリスは僕を見た瞬間にばつの悪そうな顔をするが、イレーネち
ゃんは僕の傍に駆け寄ってきて、なんか意地の悪そうな笑顔をクリ
スに向ける。
触り心地の良さそうなふわふわの薄茶色の髪を、なんとなく撫で
てあげると、嬉しそうに僕の腰に抱き付き、クリスを馬鹿にしたよ
うに煽る。
﹁やーいバーカバーカ! クリスなんてディーンお兄ちゃんに怒ら
れちゃえ!﹂
﹁俺なんも悪い事してねぇし! それにバカって言う奴がバカだっ
842
て兄貴が言ったぞ!﹂
﹁そっそうなのお兄ちゃん!﹂
意地悪な笑顔から一転、焦ったようにイレーネちゃんが僕を見る。
そして二人のケンカを、オロオロしながら所在無げにしてるのがパ
ティちゃん。うん、とりあえず事情は察した、要するにいつもの事
だね。
クリスはいつものように、採取のノルマを一緒に山に入ったパテ
ィちゃんの分まで集めて、二人で遊ぼうとしてたんだろう。
ちなみに今日はパティちゃんだが、昨日はサリーちゃん、一昨日
はサラちゃんとリアちゃんだったな。父さんが親御さんになんか嫌
味言われてたけど僕は知らん。
原則として一人だけで採取に出ちゃダメだし、女の子では万が一
があるから、男の子と組ませる決まりを作った人に文句を言ってほ
しい。
ほぼ確実にノルマを達成するから、クリスと組みたがる子は多い。
けど女の子、特に可愛い子にばかり優しいから、クリスをよく思わ
ない親も結構いる。
多分そういう大人の話を真に受けて、潔癖気味なイレーネちゃん
はクリスに突っかかり。弟は弟で山で採取をしない彼女に、文句を
言われてカチンときたのだろう。
クリスからすればイレーネちゃんは楽しく遊んでるのを、いつも
邪魔する偉そうな奴であり。彼女からすれば弟は友達を狙う悪党な
843
んだろう。
ほぼ毎日の事ではあるんだが良く飽きないなこの二人、実は仲が
良いんじゃなかろうか? ひとまずお互いの主張を聞いてあげると、
なんとか二人は矛を収めてくれた。
大人は皆、領主の娘のイレーネちゃんの味方をする、それで相手
が怒られるとイレーネちゃんは凄く申し訳なさそうにするんだよね。
ケンカ中はムキになってるけど、クリスもノルマを早く終わらせて
るだけだから、罪悪感を感じてしまうらしい。
元々イレーネちゃんは気が強くて潔癖だから、毎日別の女の子と
遊んでるクリスに怒ってるのであって、嫌ってる訳じゃない。だか
らお互いの話を聞いているうちに、頭が冷えるのか直ぐにケンカを
止める。
僕のシャツの裾を掴んでいたイレーネちゃんも、話をしてるうち
に冷静になったようで、クリスにあっかんベーだけしてパティちゃ
んを連れて男爵様の屋敷に帰っていった。
パティちゃんと遊べなかったクリスは不満そうだったけど、新し
い採取用ナイフを渡すと機嫌を直した。翌日イレーネちゃんにナイ
フを自慢してまたケンカになったが、彼女にも作ってあげる事でな
んとか収めた。
そんなある日、村の近くに隠棲するというお爺さんがやって来て、
クリスを弟子にした。クリスは魔法使いになって偉くなるとか父さ
んに言ってたけど、お前下心丸出しなの全員知ってるぞ、普段の言
動から見て。
844
ケンカ友達のいなくなったイレーネちゃんは、寂しいのか僕の家
によく遊びにくるようになった。鍛冶場に女の子を立ち入らせる事
は出来ないけど、6歳になる末の弟の面倒を見てくれるので助かっ
てる。
そうして、10年の月日が流れた。18歳になったクリスは村に
帰って来ると、幼馴染の女の子たちがとっくに結婚してるのを知っ
てショックを受けていたが、そりゃ10年も音沙汰無ければそうだ
ろうよ、たまにでも帰ってくれば待っててくれる娘もいただろうに。
パティちゃんとかは、実際に最近までお前の事待ってたけど、こ
こ田舎だからなぁ、女の子とかは15∼16歳で嫁いじゃうんだよ。
18になったら周囲が縁談を勝手に進めちゃうし。
﹁ううう⋮⋮おのれジジイめ⋮⋮18になるまで普通結婚しない、
とか言ってたのは嘘だったのか⋮⋮﹂
嘘じゃないと思うよ、都会ならって但し書きが付くけど。慰めて
あげようと近寄ると、﹁ちくしょう⋮⋮幼馴染ハーレムが⋮⋮﹂と
か聞こえたので放置する事にした。二兎追う者は一兎も得ず、そう
いう不純な動機だから失敗するんだと思うぞ。
﹁って言うかお前さ、村の周囲の魔物の大半を駆除してくれたのは
助かったんだけど。それを自分が倒したと村の人に喧伝してれば、
パティちゃん、後は多分リアちゃんとかは、18歳まで待っててく
れたかもしれないぞ。けど、何も言わないで立ち去るから、行方不
明扱いだったんだよお前﹂
それを指摘すると更に落ち込んで部屋に籠ってしまった。10年
経っても相変わらずうちの弟はバカだなぁ。
845
翌朝、都会で成り上がると鼻息荒く家を出て行った。末の弟ノワ
ールは、クリスが帰って来る少し前に冒険者になって村を出たから、
王都で会ったら元気でやってると伝えてくれよ。
∼∼∼∼∼
クリスが家を出て行って暫くすると、イレーネちゃんの嫁入り話
が持ち上がった。彼女はこの10年で本当に綺麗になり、周辺の貴
族たちから縁談が殺到していたのだけど、男爵様はのらりくらりと
躱していた。
しかしイレーネちゃん⋮⋮いや、イレーネお嬢様も18歳になっ
たからには、縁談を躱すのも限界なのだろう。
少し前までよく家に遊びに来てくれていたけど、もう彼女は来な
いのだと思うと胸に穴が開いたかのようで、なんだか無性に酒が飲
みたい気分だ。
僕は彼女を妹のように可愛がっていたと今まで思ってたけど、そ
うではなかったと思い知らされたのは、彼女が僕の知らない土地に
嫁いでしまうと決まった後だった。
年頃の少女が頻繁に僕の家を訪ねるのだ、つまるところは﹃そう
いう事﹄だったのだろう。ひょっとしたらクリスを待ってたのかも
知れないし、よく面倒を見てた末弟のノワールに会いに来ていたの
かも知れない。
846
それでも⋮⋮もう彼女の笑顔を見る事が出来ないと思うと、心が
痛む、胸の奥底から泥が湧き出るような気分の悪さを、仕事に没頭
して目を逸らすしかできない。
﹁兄さん、根を詰めすぎだよ。少しくらい休んだら?﹂
﹁いや、良いんだ。僕はまだまだまだ腕が悪いからもっと仕事して
腕を磨かないと⋮⋮﹂
僕は鍛冶職人だ、一日休んだら三日分腕が落ちる。それに小さな
村だけど、やるべき事、必要な事はいくらでもある。
﹁そうだノワール、お前も仕事はどうした? お前はお嬢様の護衛
しないといけないんじゃなかったのか?﹂
ノワールは冒険者だが、お嬢様とは幼い頃から親しいので、護衛
として依頼を請けたと聞いている。そのノワールがなぜここにいる
んだ? 帰って来るには早すぎるから置いて行かれたのだろうか?
﹁それなんだけどね、ちょっと男爵様から兄さんを呼んでくるよう
に頼まれたんだ。忙しかったら明日でも大丈夫って言ってくれたけ
ど⋮⋮﹂
領主様の呼び出しじゃ仕方がない、仕事道具を片付けて軽く汗を
流し、お屋敷に向かう事にする。そしてお屋敷で待っていたのは、
男爵様と⋮⋮嫁に行った筈のイレーネお嬢様だった。
﹁よく来てくれたねディーン君、忙しかっただろうに、呼び出して
悪かった﹂
847
﹁いえ、男爵様の仰せですから。ご用向きは武具ですか? それと
も日用品の修理でしょうか?﹂
お嬢様が屋敷にいると言う事は、何らかのトラブルがあって延期
になったのかも知れない。会えないと思っていた彼女が目の前に居
る事に喜んでる反面、仕事で目を逸らしていた未練がまた鎌首をも
たげる。
想いを自覚した上で改めて見る彼女は、しっかりと化粧していて
子供の頃とは全く違う、もう、少女ではなく美しい女性になってい
た。僕はそんな事にも気が付かなかったのか。
﹁ああ、うん⋮⋮実はねイレーネの結婚なんだけど⋮⋮パルティア
伯爵の一声で白紙になっちゃったんだ﹂
聞き間違いだろうか? いくら僕でも貴族の結婚がそんな簡単に
無かったことになるなんて、普通じゃないと分かる。それとも僕の
願望からくる幻聴だろうか?
パルティア伯爵の名前は僕も聞いたことがある、フォズ男爵様の
寄親と言うか主家だ。
このマーニュ王国の東の地方は、パルティア伯爵の一門が支配し
てるようなもので、男爵様もパルティア伯爵の大勢いる寄子の一人
だと聞いたことがある。
﹁えっとね、いざイレーネの嫁ぎ先に行ったら、パルティア伯爵が
居てね、まぁ寄子同士の結婚式だから居るのは当然なんだけど⋮⋮
なんでか知らないけどクリス君の話題になったんだ﹂
848
クリス? そう言えばアイツ家を出て行ってから何をしてるんだ
ろうか? 魔法使いになったんだから冒険者だとは思うけど。何か
拙い事しでかしたのか? 具体的には女絡みで。
﹁それでねイレーネが君たち兄弟と親しいって話した途端に、物凄
く興奮した様子でさ。その場でイレーネの結婚は無しになっちゃた
んだ、随分混乱したけど一門の頭であるパルティア伯爵には逆らえ
なくてさ﹂
先方もイレーネの事は大層気に入っていたようで、この地方を支
配する伯爵の意向に難色を示して、いやはっきりと反対した。けれ
ども中央に伝手のある名家との縁談を進めて貰う事を条件に、結局
は同意したそうだ。
﹁もう凄い勢いでさ、誰も文句を言う暇もなく帰らされちゃったん
だよ。しかも帰りは伯爵家の武官が大勢で護衛だよ? もう緊張し
てさ、道中ご飯もろくに食べられなくて、痩せる思いだったよ﹂
そう言って男爵様は恰幅の良いお腹を揺らすが、余り痩せてるよ
うには見えなかった。まぁ本人が痩せたと言うならそうなんだろう、
大人になると余計なことを言わない重要さが身に染みて分かる。
﹁しかしいきなり破談とは、イレーネお嬢様はどうなるのですか?﹂
﹁それなんだけどね⋮⋮イレーネは何が何でも、君かノワール君の
どちらかと結婚させるように命令されたんだ。ああ心配しなくても
ノワール君はきっぱりと断ってるからねこの話﹂
男爵様の背後に立っているイレーネお嬢様を見ると、真っすぐに
僕を見ている。表情は変わらないけど、付き合いの長い僕には嬉し
849
そうにしてるが分かった。
僕は⋮⋮雲の上の事情なんてもうどうでも良かった。気が付けば
彼女が遠くに嫁ぐと知ってから、ようやく自覚した気持ちを男爵様
にぶつけており、僕とイレーネが夫婦になる事を許して貰ったのだ。
∼∼∼∼∼
それから⋮⋮いきなりの事で混乱があったけど、晴れて夫婦にな
った僕たちの生活はあまり変わらなかった。僕は今日も鍛冶仕事に
精を出している、違うのは頻繁に遊びに来ていたイレーネが、この
家に住むようになったこと。
両親は、新しく建てた新居に移り、この家にはイレーネと僕しか
いない。今日の仕事を終わらせ、汗を流し、イレーネの作ってくれ
た夕食を食べる。そして⋮⋮
﹁ディーンお兄ちゃん⋮⋮嬉しいよ⋮⋮私、私お兄ちゃんのお嫁さ
んになれたんだね⋮⋮﹂
寝室では緊張した様子のイレーネが待っていた。僕も仕事ばっか
りで経験は無いけど、ここは年上らしく冷静にならないと。
﹁イレーネ⋮⋮愛してるよ﹂
それだけ言って、僕たちは初めてキスをした。頭の中はもう真っ
白で、この後どうするべきか悩みながらキスをし続ける。
850
エロ本
そして唐突にクリスの隠し持っていた春画本の内容が脳裏に浮か
び、ベッドにイレーネを組み伏せ、服を脱がす。
初めて見る女性の裸体は男のものとは全く違う、触れれば壊れそ
うな繊細な美術品のようだった。
﹁あっ! お、お兄ちゃん⋮⋮んっ﹂
綺麗だ。髪を撫でてあげると嬉しそうに、子供の頃と同じ笑顔を
見せてくれる。僕は堪らずに何度もキスを繰り返し、自分でも気が
付かないうちに服を脱ぎ去っていた。
﹁お兄ちゃん⋮⋮好き、子供の頃からずっと好きだったの﹂
﹁ごめんよ、イレーネの気持ちに気付いてあげられなくて⋮⋮君が
いなくなると知って⋮⋮苦しかった、自分の気持ちに気が付いて心
が痛かったんだ﹂
我ながら情けない告白だと思う。けどイレーネは僕の頭を抱きか
かえて許してくれた。
﹁良いの、お兄ちゃんが私の事を妹みたいに見てたのは知ってるよ。
けど⋮⋮これからはもう妹じゃなくてお兄ちゃんのお嫁さんだよ﹂
そうして、何度もキスを繰り返してる内に、イレーネの秘所が濡
れているのに気が付き、知らず知らず喉を鳴らす。これがイレーネ
の⋮⋮こんな小さなところに入るのだろうか?
彼女と肌を触れ合わせてるうちに僕の逸物も痛いくらいに滾って
いる。本能は愛しいイレーネの全てを僕のモノにしたいと昂る。し
851
かし理性はイレーネを傷つけたくないとヘタレてしまっている。
頭の中は混乱しきっていて、イレーネのオマンコから滲み出る愛
液をチンポに擦りつけるだけで、挿れて良いモノかどうか分からな
い。
﹁ひぅ! あっクリトリスにオチンチンが擦れて⋮⋮あんっ!﹂
イレーネはオマンコを擦りつけられるだけでも気持ちが良いのか、
更に愛液の分泌が増える。気持ち良いのかいイレーネ? 僕もこう
してるだけでイってしまいそうだよ。
だが、この狭い膣内に挿れたらどんなに気持ちが良いのだろう?
だけど挿れてしまったらイレーネが痛がるかもしれない。そうし
て悩んでいると不意にイレーネの手が僕の逸物に触れる。
﹁お兄ちゃん⋮⋮お願いもっと。もっとイレーネの事気持ち良くし
て⋮⋮お兄ちゃんに、私の処女を貰ってほしいの⋮⋮﹂
イレーネは触れたチンポを自分のオマンコにあてがい、女にして
欲しいと。僕に抱かれるのを望んだ。その瞬間僕の脳内は本能に支
配される。
﹁イレーネ! イレーネ! イレーネェェェ!﹂
﹁ンンンンッッッ!! お兄ちゃぁぁぁぁん!﹂
思い切り腰を押し出すと、微かな抵抗の後僕のチンポはイレーネ
の純潔を奪った。同時に圧倒的な快感の前に、決壊寸前だった欲望
を解き放ってしまう。
852
﹁あっあっ! んあぁぁぁ! 熱いのォォ⋮⋮お兄ちゃんの熱いの
が、あぁぁ奥まで来るのぉぉ!﹂
ナ
挿入と同時に射精してしまい、咄嗟に謝ろうとしてしまうが、イ
レーネにキスで口を塞がれる。
カ
出し
﹁お兄ちゃんのオチンチンまだ大きいままでしょ⋮⋮イレーネの膣
内にまだまだ射精して良いんだよ。確実に孕んじゃうくらい⋮⋮﹂
彼女の言葉に励まされ、今度はイレーネを感じさせることが出来
るように、ゆっくりと、どうすれば彼女が気持ち良くなるのか確か
めながら腰を動かす。
﹁んっ、んむぅ⋮⋮あっお兄ちゃん、そこ、そこが気持ちいい!﹂
﹁こうかい? こうするのがイレーネは気持ちいんだね?﹂
夜は長い⋮⋮僕たちのこれからの人生もまだまだ長い。これから
ゆっくりと、お互いが幸せになれるように、寄り添って生きていこ
う。
∼∼∼∼∼
魔王種の魔核を巡る会議は今日も混迷を深めていた。兵器利用派
の騎士団長と筆頭宮廷魔術師は会議そっちのけで殴り合いをしてお
り。
853
商業利用派と政治利用派は普段いがみ合ってるのに、今日は仲良
く魔核の利用方法を説いてくる。ただし途中で主張がズレてきて結
局罵り合いに逆戻りしていた。
農業利用派は当初は真面目に意見を言ってくる一派だったのだが、
最近文化推進派に浸食され、採算度外視で美食を追求しだしてきた。
この会議が始まると、もう国王たる余をそっちのけで主義主張が
入り乱れ、纏められる気がしない。
もう余も開き直って酒でも飲むのが良いかも知れない⋮⋮こっそ
り持ち込んだ酒瓶を没収されてしまったがな、くそ誰だ会議中は飲
食禁止なんて決めたのは⋮⋮余であった!
﹁ふははは! 皆さま、意見が纏められないのならもういっそのこ
と、私が提唱する﹃鋼の巨人計画﹄を⋮⋮ぬぉぉぉぉ!﹂
浪漫派筆頭のパルティア伯爵が世迷言を言い出したので、護衛の
騎士が会議場からつまみ出そうと、とりあえず担ぎ上げる。
パルティア伯爵は政治家として有能ではあるし、戦場においては
猛火を纏う矢を放ち敵を一蹴する頼れる騎士だ。しかし魔核の扱い
に関しては途端にダメ人間と化すのはどうしたものだろうか。
﹁クックック⋮⋮はっはっは、意見が纏まらないのならもういっそ
勇者様のご意見を参考にするべきでしょう、そう思いませんか陛下
?﹂
騎士に荷物のように担ぎ上げられたパルティア伯爵の意見に、会
議場の空気が一気に鎮まる。それはこの場にいる誰もが考えていた
854
ことだが、あえて言わない事だったのだ。
﹁パルティア卿、魔王種の魔核は勇者様から陛下に献上されたもの
ではないですか、故に陛下がお決めになるのが筋ですぞ﹂
まつりごと
﹁左様、勇者様は政治には疎いと聞き及んでおります、ならばこそ
我ら政を担う貴族がこうして議論を交わしてるのではないですか!﹂
一斉に反論する貴族たちだが、確かにいくら会議をしても纏まら
ないのなら勇者殿の意見を聞くと言うのも、有りかも知れん。
﹁ふむ⋮⋮まぁ指針を定める参考にはなろう。では誰が使者として
赴くかであるが⋮⋮﹂
余が言いかけた途端に各派閥のリーダー格が挙手するので、勇者
殿の迷惑にならん程度の人数にするよう命じて、魔核に関する今日
の会議は閉会となった。
後日、何故か勇者殿が浪漫派に全面同意をしたのでおかしいと思
って調べると、パルティア伯爵は勇者殿の実兄を使者にしたとかで、
また紛糾する事になる。
﹁ふははは! 一門の人間を使者にして何が悪い、勇者様は兄弟仲
が良いのは調査済みよ!﹂
これが糾弾されたときの言い草である。しかし別段違法な事をし
てる訳ではないので。今度は各派閥が勇者殿の弟の抱き込み工作に
奔走する事になる。
しかし﹃勇者の同意﹄はかなり影響力があり、徐々に浪漫派の声
855
が大きくなっていく事になってしまったのは、余の痛恨の失態であ
った。パルティア伯爵が良い笑顔で﹁ククク⋮⋮これでまたガン○
ムに一歩前進﹂とか独り言を呟いていたそうだが、その意味を知る
者は誰もいなかった。
856
ブックマーク一万件突破記念・番外編︵後書き︶
呼んでくれた皆さまありがとうございました
ちなみにクリス君、お兄さんにはまったく頭が上がらず、弟にはな
んだかんだ言いつつ甘いです。
兄嫁のイレーネに関しては苦手意識と一緒にちょっと微妙な感情を
抱いてるとかだと、中々妄想が捗りますねw
857
逢引︵前書き︶
投稿が遅れまして申し訳ございません、今回ディアーネとのデート回
また、5/4に48話﹃生贄﹄加筆。感想欄で希望のあったシャル
ロー君心へし折り描写を大体一話分くらい加筆しました。
︵エッチシーンは⋮⋮まぁうん、流石にヤンデレ捕食シーンは作者
には難易度高い気がするのでご容赦くださいw︶
858
逢引
今日はディアーネとデートだ。朝食の後、ディアーネは化粧など
準備があるので、待ってる間、サリーマさんの屋敷を訪ねて栄達祝
いを渡しに行く事にする。
﹁ちょっとサリーマさん達に、叙爵のお祝いを渡してくるよ、一時
間くらいで戻ってくると思う﹂
﹁行ってらっしゃいませ旦那様﹂
贈るのは俺の支配下に置いた水蛇竜、当然ながら街に中に入れら
れる訳が無く、渡すのは街の外になる。手紙で場所や時間を伝えて
いるので先に行って待ってる為に早めに出掛ける。
一応隠蔽はしてるけど、サリーマさんレベルの実力者だと、隠蔽
を見破られて討伐されてしまう可能性があるからな。抵抗のできな
い贈り物が知らない間に解体されて、バーベキューにされてたら流
石に困る。
オリヴィアに見送られて玄関を出るとすると、外歩き用に仕立て
た服を着たルーフェイも一緒に行きたいと言うので二人で街の外に
出る。
人目に付きにくい場所に待機させていた水蛇竜は、俺が支配した
中で特に体が大きい五匹。生肉を取り出して与えると、モリモリガ
ツガツと良い食いっぷりを見せてくれる。
859
美味しそうに食べてるのを見ると、こっちの気分まで良くなるな。
水﹃蛇﹄竜とかいう割に、大きめの肉は、丸飲みしないでちゃんと
噛んでから飲み込むのか、実際に見て初めて知った事実だ。
ん? ルーフェイ俺の背中にしがみ付いてどうした? 甘えたい
のかな?
﹁どうしたルーフェイ? あ、ひょっとして臭かったか、忘れてた
けど臭いがキツイよなコイツら﹂
﹁きゅぅぅぅん、臭いじゃなくてですね⋮⋮怖いですよぉクリス様﹂
うーん、誘拐犯を追ってそして帝国から帰ってくるまでの間、騎
獣として連れ回り、慣れた事もあって良く見ると結構可愛いと思う
んだが。やっぱり女の子には20メートル超の蛇型ドラゴンは怖い
か?⋮⋮普通に考えて怖いよなやっぱり。
﹁大丈夫だよルーフェイ。こいつらは俺の支配下だし、それに仮に
襲ってきたとしても、ルーフェイは俺が守るから安心しろ﹂
﹁わふっ⋮⋮はいです﹂
頭を撫でてあげると落ち着いたのか、抱き着いたままだけど震え
は止まったみたいだ。
俺がサリーマさんにお祝いの品を渡してくると言って、一緒に行
きたがったから連れてきたけど、そう言えば水蛇竜の事言うの忘れ
てた。
﹁水蛇竜は海でも問題なく棲めるから、人を襲わないようにだけし
860
ておけば、勝手に魚とか食うんで餌代もそんなにいらないからな。
海沿いの警備に向かうサリーマさん達への贈り物に丁度良いだろ﹂
﹁クレイター諸島の近くの海にも船を襲う、海蛇竜って危険な魔物
がいますけど、違う魔物なんですか? クレイター人が見たら真っ
先に討伐されちゃいますよ﹂
実は水蛇竜と海蛇竜は、体長も姿も似てるから同一視されがちだ
けど、実際は全く違う。
水蛇竜はドラゴンの一種で知能が高く、陸上でも問題なく棲める。
海蛇竜はぶっちゃけ細長い魚の魔物で、陸に上がれないし、知能も
低く食欲しかないような魔物なので、闇魔法で精神を支配しない限
り飼い慣らすのは不可能だ。
他にも毒の有無とか、習性の違いとか専門的な事を言えばキリが
ないけど。ちゃんと育てれば人に慣れるのが水蛇竜で、狂暴で手が
付けられないのが海蛇竜だと思えば間違いない。尤も水蛇竜も野生
は十分狂暴だが。
﹁別種の魔物ではあるけど姿が似てるから、確かにクレイターの人
が驚くかも知れないね。ちゃんと支配されてるのを予め言っておく
ように伝えるよ﹂
木陰に座ってルーフェイとお喋りしてるうちに、そろそろ約束の
時間になってきた。門の方に目を向けると、見覚えのある人がやっ
て来るのが見える。
﹁やぁ、クリス殿。なんかお祝いくれるっていうから来たよ﹂
861
﹁おはようございますサリーマさん、マヘンドラさん。叙爵おめで
とう﹂
サリーマさんとマヘンドラさんは部下らしい屈強な人達と、なん
かインテリそうなオッサンを連れてやってきた。ふふっ皆驚いてる
な、支配下に置いた奴で特に大きいのを選んだ甲斐があった。
﹁お袋! 違うそうじゃない! 背後で水蛇竜がなんか食ってるの
になんで普通に挨拶してんだよ!﹂
﹁ん? そりゃお前、手紙には支配下に置いた水蛇竜を贈るって書
いてあったし﹂
﹁聞いてねぇよ! 贈り物を受け取りに行くとしか聞いてねぇ!﹂
あ、サリーマさん息子さんに黙ってサプライズのつもりだったの
かな? 言ってくれれば演出したのに、惜しい事したな。
﹁港を造る場所の警備って聞いたから、仕事の役に立ちそうな奴贈
るよ。今は俺の支配下にあるけど、この杖を持ってれば命令できる
から。まぁ可愛がってやってくれ﹂
サリーマさんに渡したのは簡易ではあるけど闇魔法を封じた杖で、
一本につき一匹を支配できる。魔法道具を作るのは専門の技術が必
要だけど、既に掛かった術を維持するためだけの媒体なら簡単だっ
たりする。
﹁いやぁ流石勇者様は太っ腹だねぇ! お返しは期待してなよ、む
ふふ⋮⋮とっておきのクリス殿が喜ぶお返しがあるから楽しみにし
てなよ﹂
862
﹁楽しみにしてますよ。ほらルーフェイからも贈り物があるんだろ
?﹂
﹁わふっ! サリーマ様、この度の御栄達おめでとうございます!
どうぞ皆さんで召し上がってください﹂
今朝からなんか厨房でヴィヴィアンと何かやってると思ったらお
菓子作ってたのか。確かオリヴィアの妊娠が分かった時に用意した
パンケーキだ、違うのは出世を祝う魚の図が色砂糖で描かれてると
ころか。
ルーフェイも含めて和気藹々と会話してる端で、じっと水蛇竜の
食事を見てるマヘンドラさんや、部下の人達はどうしたんだろう?
腰の剣に手が伸びてるしひょっとして臭いが駄目なんだろうか?
挨拶が済んだので細かい注意点を伝えようとすると、サリーマさ
んに同行してきたインテリそうなオッサンが分かり易く補足してく
れた。杖に籠められた術を維持のための魔力補充を、あっさりやっ
てのけるあたりかなりの腕前だな。
モンドバン伯爵家の当主と名乗ったけど⋮⋮あっ! この人マル
フィーザの親父さんか。マルフィーザが大叔父って言ってたから、
師匠の甥になるのかな?
﹁モンドバン伯爵、マギスって名前の白髪で後頭部にしか髪の毛残
って無い、六十くらいの如何にも性格の捻じ曲がった顔してる偏屈
ジジイが親戚にいたりします?﹂
﹁マギス・モンドバンであれば私の叔父でございます。先代モンド
863
バン伯にして筆頭宮廷魔術師である我が父の弟で、人付き合いが煩
わしくなり、親交のあったパルティア伯爵の領地に隠棲したと聞い
ております﹂
意外な繋がりだなぁ、人付き合いが嫌で隠棲っても、あの偏屈ジ
ジイなら納得だ。
﹁実は叔父上より手紙が届いていたのですよ、アストライア卿が冒
険者として王都にやってきたのであれば面倒を見てやれとね。公職
を放り出しておいて勝手な人ですよ、まったく﹂
やれやれといった風情ため息をつく伯爵だけど、意外とジジイを
慕ってるっぽいな。周囲に迷惑かけてるみたいだから、師匠の悪口
で盛り上がるのは出来そうだけど、ジジイよりも重要な話がある。
仮にも娘であるマルフィーザが、俺の副官に、実質嫁入りするっ
てのに挨拶に行かなかったのは、礼儀知らずと思われて拙い気がす
る。師匠の親戚なんだし一応謝っとこ。
﹁それと、モンドバン伯爵。マルフィーザの事知らなかったとはい
え、連絡もしないで申し訳ない﹂
﹁⋮⋮正直に言おう、私はマルフィーザの結婚には反対だった。情
けない事だがサリーマとの繋がりが消えてしまうような気がしてね﹂
その後サリーマさんも加わって、マルフィーザの話題で盛り上が
った。先遣隊として西の海岸に行っているマルフィーザがここにい
たら、多分真っ赤になって怒っただろう、なんというか伯爵って二
言目にはマルフィーザかサリーマさんを物凄く褒めるのだ、多分物
凄く恥ずかしいだろうな。
864
一方サリーマさんはあまり気にしてないっぽい。この辺は性格の
違いなんだろうな。さて、ルーフェイはマルフィーザと面識ないし、
置いてけぼりにするのは可哀想なので、予定があるの伝えて帰ると
するか。
∼∼∼∼∼
今日のディアーネとのデートは、俺が貰った区画にある開店前の
施設を訪ねた。
以前一緒に行った蒸気で温まる湯屋の、すぐ隣に建てられた施設
で、明るい屋内に様々な花が咲く造園となっている。
眺めるだけでも入場料を支払う価値があるし、可愛い嫁とデート
で歩くのも雰囲気があって実に良い。自分の目で見て気に入った花
があれば鉢植えで買う事も出来るので、帰りに買っていこうと思う。
贅沢な施設だと思ったけど、隣の湯屋から出た余剰分の蒸気を、
地下に張り巡らせた金属の管に通して温められた温室なので、意外
と維持費は安いらしい。
正式な開店はまだだけど、近所の人に意見を聞く意味も兼ねて、
相手
現在無料で公開されてるので結構人がいる。美少女な上に華やかな
ドレスを着たディアーネは注目の的だが、腕を組んで歩いてる俺が
いるのでナンパされるようなことは無い。
これが女の子だけで来ていたら、男どもが放っておく訳ないから
865
な。仮に嫁さん達だけでこの屋内庭園を歩いてるのを俺が独身だっ
た頃に見かけたら⋮⋮真っ先に声かける、そして口説くな、間違い
ない。
暫く散策した後、目立たない場所に設置されているベンチに腰か
け、お喋りしてると、いつの間にか昨日屋敷を訪ねたらしい嫌な客
の話になり。
嫌な事があったのなら吐き出した方が良いと言ったら、余程腹が
立っていたのか、包み隠さず話してくれた⋮⋮うーんディアーネの
主観が多分に入ってるんだろうけど、酷いなソイツ。ディアーネを
婚約者にしておいて何が不満だったんだ?
そうして落ち着いたころを見計らって抱き締め、貪るような情熱
的なキスをすると、彼女もまた受け入れてくれる。ディアーネはも
う俺だけの女なのだと主張するように。
﹁んっ! んくぅ、もう、もう! 私は身も心もご主人様のモノだ
と言うのに! 思い出すだけで嫌な気分になりますわ!﹂
﹁ディアーネがモテない筈無いからな、そういう勘違いした奴が出
るのも当然か。勿論誰にも渡さないけどな﹂
話題を変える為に周囲に目を向けると、ベンチの周りにはディア
ーネの髪の色に似た赤い花が咲き乱れており、窓から吹き込む風に
吹かれ、葉擦れの音はまるで鈴の音にも似ていた。確かこの花は⋮⋮
﹁この花も確かディアーネって言うんだったな。伝承によるとある
少女の美しさに神が嫉妬して、物言えぬ花に変えてしまったとか⋮
⋮﹂
866
﹁はい、花にされた彼女には、恋い焦がれる英雄がおりました。彼
には妻との間に子供がおりましたが、その子は病により生死の境を
彷徨います﹂
えぇっと⋮⋮本で読んだ記憶を何とか思い出してみる、ディアー
ネがなんか期待した目で見てるから、詰まるわけにはいかない。
﹁英雄は我が子の病を癒すべく名医を訪ねる。しかし英雄の名声を
嫉む者によって名医には会う事は叶わず、嘆く彼の耳に鈴の音が響
く、不思議に思い目を向けると、そこには赤い花が咲いていた﹂
﹁片思いではあっても、己が慕い焦がれる英雄が悲嘆する姿を見た
彼女は、花に変えられた悲しみを忘れ、彼の為に祈りを捧げます。
その想いに応えた神が一滴の蜜を英雄に与え、彼の子は病を退けた
と言う⋮⋮﹂
おとぎばなし
世の中の何処にでもあるありふれたお伽話。特徴的な葉擦れの音
から連想された作り話だけど、一節を語り終えたディアーネは胸元
に縋りついてくる。
﹁私の名前の由来になった花です⋮⋮子供の頃は何とも思いません
でしたけど、今は誇りに思いますわ、英雄となるご主人様を純粋に
想う者の名前ですもの﹂
暫くの間、ディアーネの花の葉擦れの音を聞きながら、無言で抱
き合う俺たち。なんとなく離れるのが躊躇われた。
彼女の温もりを感じながらベンチでゆっくりと、穏やかな時間を
過ごした⋮⋮が、俺の腹の虫が鳴ってしまい、同時に吹き出した後、
867
お昼ご飯を食べに行くことにした。
ちょっとカッコ悪かった気もするが、ディアーネも機嫌良さそう
だしまぁ良いか。
∼∼∼∼∼
﹁⋮⋮で、手前の血縁の中でお気に召す娘はおられましたかな?﹂
温室造園から出て、さて、何処でお昼ご飯を食べようかと大通り
を歩いていたのだが。何故俺はカフェの半分を占拠するくらいの、
大量の肖像画に囲まれてるのだろう?
店員が迷惑そうにしていたが、爺さんが金貨をチップで渡すと、
手のひらを返したかのように貸し切りにしてくれた。
﹁爺さんよ、皇帝がこんなに腰が軽くて良いのかい?﹂
心配する筋合いはないんだが、流石に60過ぎの老人が休みなく
仕事する訳では無いそうだ。
現状では殆ど皇太子が皇帝としての公務を果たしていて、重要な
報告は受け取ってはいるものの、実質は20年後の魔王種への対策
以外は殆ど政治に口を出さないらしい。
ちなみに皇太子は、爺さんの息子の中で特に優秀で、何よりもど
っかのビッチに誑かされないでまともに働く人らしい。他の息子は
魅了の影響で最近爺さんの制御を受け付けず、隠れて何かやってる
868
らしい。
それはともかく、いきなり嫁とのデート中に声を掛けられるとは
思わなかった。如何にも金持ちそうな隠居爺さんといった格好で、
違和感なく街に紛れられるのが凄いな。
なんでも俺の屋敷は魔術的な防護が強固すぎて、瞬間移動で立ち
入れないので、俺の居所を突き止め、大通りで待ち構えていたと言
うからからびっくりだ。
アイテムボックス
ディアーネには悪いと思ったが、とりあえずカフェに誘われたの
で入る。そこで爺さんの収納空間から取り出したと思われる、大量
の肖像画を見せられている。
﹁まぁ帝国の事情は知らんけど、デート中にこういう話は止めてく
れ。嫁さんとの逢瀬の最中に、他の女の話をするのは野暮ってもん
だろ? 肖像画は受け取るから返事は今度で良いか?﹂
﹁これは大変失礼しました。肖像画の裏には生まれ年や趣味嗜好な
ど書いてますので、是非ご参考下され﹂
基本偉い人は、他人の都合をあまり考えてくれない。特に悪いと
も思ってなさそうな顔で、肖像画だけ置いてさっさと瞬間移動で帰
ってしまった。肖像画を収納空間に仕舞うと、隣に座っているディ
アーネに向き合い頭を下げる。
﹁ごめん、デート中に気分悪くさせちゃって﹂
﹁い、いえ⋮⋮相手が、かのリーテンブ帝国の皇帝では仕方があり
ませんわ﹂
869
如才なく挨拶を交わしていたディアーネだが、今は緊張の糸が切
れたみたいにぐったりしてる。流石に街を歩いていて皇帝とエンカ
ウントするのは驚いたか。
﹁あれか、屋敷にやって来る縁談持ち込んでくる奴ってのは、こん
な感じで強引に娘の絵姿持ってくるのか。確かに偉い人にこう紹介
されると断りにくいなぁ﹂
﹁大抵は親書を持った使者ですから、軽くあしらって帰らせており
ますわ﹂
なんだかんだと、当主クラスが直接縁談を持ってくるのは、ほぼ
決まった婚姻を法的にまとめる時だけで、打診の段階では手紙のや
り取りが普通だそうだ。爺さんは⋮⋮まぁ他国人だし。
なんとなく疲れたので、カフェでそのまま昼食を済ませ、以前一
緒に入った湯屋に向かう。かなり盛況のようだけど事前に予約して
いたので、貸し切りの一室にディアーネの腰を抱きつつ入る。
∼∼∼∼∼
さて、一緒に汗を流した後は予約していた個室でエッチだ。二人
で色々見て回ったり買い物するだけでも楽しいが、デートした時は
二人っきりでエッチするのが、なんとなく暗黙の了解になってたり
する。
﹁あっ! そこは⋮⋮ンンッもっと強くして頂いても⋮⋮はぁん!﹂
870
ベッドに腰かけた俺の膝の上に全裸のディアーネが背を向けたま
ま座り、秘所を貫いたまま、背後からその豊満なおっぱいの感触を
存分に楽しんでいる。所謂背面座位の格好だ。
﹁このくらいが良いかな?﹂
﹁いぃ! ご主人様の指が気持ちいいですわ。ああぁん﹂
背後から抱きしめるようにおっぱいを愛撫していると、背中越し
にディアーネの鼓動が伝わってくる。こうしてるだけで幸せな気分
になるのは、ディアーネをこの手の内に独占してるからだろうか?
より強く抱き締めると、ディアーネの心臓の音が聞こえてくる。
ドキドキと、普段よりも早い鼓動が背中越しに伝わって来る。
﹁ご主人様⋮⋮こうしてるだけで、幸せですわ。押し掛けるように
妻にしていただいた身ですが、手を繋いで歩くだけで、一緒に食事
をするだけで、こうして抱きしめて頂くだけで⋮⋮胸が熱くなるん
です﹂
﹁俺もだよ、結婚して夫婦になって一緒に暮らしてるうちに、ディ
アーネの事がどんどん好きになっていくのが分かるんだ﹂
ゆっくりと挿入したチンポを動かしながら、お喋りしながらのセ
ックス。体勢の関係でそんなに激しく動けない。けど、どうもディ
アーネは二人っきりの場合は、快感を貪り合うような激しいセック
スよりも、こうしたイチャイチャしながらのセックスが好きらしい。
俺もこうしてると、彼女の細やかな息遣いから、仄かに鼻に残る
871
髪の香りを感じられて。全身で彼女を感じてるかのような感覚が堪
らなく気持ち良く、ドキドキさせられる。
激しくオマンコにチンポを突き立てて、快感で愛する女を蕩かす
のも男冥利に尽きるし、征服欲も満たされる。俺がそうしたいと言
えば、彼女も喜んで付き合ってくれるだろうが、こういう優しいセ
ックスもお互いの愛情を感じ合えるような気がする。
とは言え、彼女の膣は締まりが良いし、ゆっくり動かしていても
油断してるとイってしまいそうになるので、こちらも愛撫する手は
止めない。
腰を揺する度に感じるお尻の柔らかい感触も素晴らしい。大きい
だけじゃなく肌触りも弾力も申し分ない、嫁の中でも随一の美尻が
チンポを動かす度にフルフルと震えてるのが実にエロイ。つい手が
伸びるのも仕方がないと言うものだ。
﹁ちょっと無粋かもしれないけど⋮⋮﹂
ディアーネの美尻を撫でている最中に、不意打ちのように膝の裏
を掴んで立ち上がる。そしてベッドの中央に運び後背位の体勢をと
る。
﹁あっ! ん⋮⋮もうご主人様ったら﹂
﹁ごめん、俺がディアーネを抱いてて我慢できるわけが無い﹂
﹁良いのですよ、私の身体はご主人様の好きになさって⋮⋮あぁん
!﹂
872
さっきとは一変して激しくバックから犯すと、ディアーネの秘所
から愛液が溢れ、太股を伝う。
﹁ああぁぁん! は、はげし⋮⋮あっあっ! こ、こんなにされた
らすぐにイってしまいますわ!﹂
俺の腰の動きに合わせて、ディアーネもまたお尻を突き出してく
る。一回セックスする毎に段々とお互いが気持ち良くなれるよう、
息が合っていくのが分かる。
彼女から溢れ出る愛液がより挿入をスムーズに、しかしオマンコ
のヒダがチンポに絡み、締まりが良いのもあって俺もすぐにイって
しまいそうだ。
﹁ご主人様、いつでも、いつでも膣内に射精してくださいませ。デ
ィアーネがご主人様だけのモノだと分かるようにしてください﹂
﹁そうだ! ディアーネを抱いて良いのは俺だけ、エロいディアー
ネの姿を見れるのは俺だけだ!﹂
らしくもなく、乱暴にディアーネを求めてしまう。元とは言え彼
女の婚約者の存在を聞いてからなんとなくモヤモヤしたせいか、い
つもより独占したくなっていた。
﹁あぁぁ! はい、ご主人様だけです! ディアーネの唇もオマン
コもおっぱいも、お尻も⋮⋮全部ご主人様のモノです!﹂
﹁くぅぅ! ディアーネ、そろそろ出るぞ!﹂
﹁わ、私も⋮⋮イクッ! ご主人様に膣内射精していただいてイッ
873
ちゃいます!﹂
我慢するのも限界に近づき、彼女の腰を掴んで膣の一番奥までチ
ンポを押し込むと、同時にディアーネの膣も、一滴残らずザーメン
が欲しいとでも言いたげに締め付けてきた。
﹁あっあっんぁぁぁぁ! 熱いのが出てるのぉぉぉ﹂
射精と同時に絶頂したディアーネを背後から抱きしめ、イッた余
韻に浸るディアーネにキスをする。
俺たちは無言だった、お互いに最高に気持ち良かった時の感覚。
快楽の熱で溶けて混じりあうような心地よさに、暫くの間身を委ね
ていた。
874
逢引︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
875
祖母︵前書き︶
今回エロなしです
876
祖母
式典まであと一週間、つまり俺とルーフェイ、アルチーナの結婚
式もあと一週間に迫ったある日の朝。我が家は異様な緊張に包まれ
ていた、便りが届いた日から妙にそわそわしてたが、今朝になって
緊張の度合いが桁違いだ。
﹁ディアーネ、髪型変じゃないかしら?﹂
﹁問題ないわ、オリヴィアは自分の事より皆の心配なさい⋮⋮ヴィ
ヴィアン、服とアクセサリーの組み合わせが悪いわ、普段は良いけ
ど今日のお客様には拙いわよ。私のを貸してあげるから部屋まで来
なさい﹂
﹁わふぅぅ⋮⋮き、緊張してきました。そ、そうだ中庭の花壇にお
水をあげてこないと﹂
﹁ルーフェイ、一時間前に水やりしたばかりですよ。こ、こういう
時は女神様にお祈りを⋮⋮﹂
嫁さん全員こんな感じである。一応落ち着いてるのはディアーネ、
後はメリッサくらいかな? 微妙に疎外感を感じてしまい一人でお
茶を飲んでいる俺。
もうすぐ催される式典に合わせて、数日前から国中の貴族や商人
がこの街に集まりだしてきた。来客も日々増えているので、俺も一
応屋敷にいないといけないのだ。
877
ただ、今日はルーフェイとアルチーナが結婚式で纏うドレスの仮
縫いに付き合って、その後二人とデートする約束をしている。これ
からやって来るお客さんに挨拶したら、アルチーナを迎えに行く予
定だけど、皆大丈夫かな?
﹁他の皆はともかく⋮⋮なんでオリヴィアまでそんなに緊張してる
んだ? お母さんとお祖母さんだろ?﹂
そう、これからやって来るのはオリヴィアの生母であるヘルトー
ル公爵夫人と、祖母である現当主の母親だ。身分の上ではルーフェ
イ、ティータニアの方が上なんだろうけど、相手は歴史ある名家の
内証を仕切っている貴婦人だ、緊張するのも無理はない。
ちなみにヴィヴィアン、ティータニア、ルーフェイは、オリヴィ
アから聞かされた人物像にビビってる感じで。アルテナとユングフ
ィアは身分差を気にしてるように見える。
﹁旦那様は知らないから言えるのですよ。お母様はおっとりしてて
優しいのですけど。お祖母様はとっても、とっても礼儀作法に厳し
い方なんです﹂
うーん、オリヴィアがここまで言うとは、俺もなんだかヒステリ
ックな婆さんを想像して不安になってきたかも。﹁貴様のような山
猿に孫娘はやらんわぁぁ!﹂とか言われたらどうしよう。男親なら
問題なく実力行使するけど、義理のお母さんとお祖母さん相手に手
荒な事は出来ないからな。
とりあえずオリヴィアをハグして、緊張を解しつつ気持ちを落ち
着ける。何時の間にかルーフェイとティータニアにも、抱き付かれ
たりしているうちに、来客を告げる呼び鈴が鳴り響いた。
878
男性恐怖症のオリヴィアがいるから、門番とか雇ってないので、
基本俺の屋敷の門は自由に潜れる。但し悪意の類に反応して立ち入
れないようにする結界が張られてるし、魔術的な防護は要塞並みに
張り巡らされている。
いつもなら来客には、そのまま入って貰う事になってる。しかし
オリヴィアのお母さんとお祖母さんの場合だと、門まで出迎える人
がいないと駄目らしい。
オリヴィアの指示で、メリッサが今門の近くで出迎えてくれてい
る。今のうちに俺とオリヴィアは玄関で待ってないといけない。貴
人を迎える時の作法は、多岐に渡っていて俺には良く分からないが、
オリヴィアが念入りに確認してたから大丈夫だろう。
緊張に手を震わせるオリヴィアの手を握りながら待っていると、
メリッサが正面玄関の扉を開ける。やってきたのは、柔和な笑みを
浮かべる老婦人。その少し後ろに付いて来ているのは、オリヴィア
にそっくりな妙齢の女性だった。
こういう目上の人を出迎える時は、礼儀として俺から挨拶するん
だよな? 今更になって俺まで緊張して来たけど、オリヴィアの手
前無様は晒せない。
﹁ようこそ、我がアストライア家までお越しいただき、ありがとう
ございます。お、私がアストライア侯爵家当主、クリス・アストラ
イアと申し上げ⋮⋮奉る﹂
﹁勇者たるアストライア卿にお出迎え頂けるとは、このフローリパ・
ヘルトール、光栄の極みにございます。そしてこちらは娘のオード、
879
お見知りおきくださいませ﹂
流れるような綺麗な一礼を見せるフローリパさんと、オードさん。
フローリパさんは色々オリヴィアが緊張してたから身構えてたけど、
優しそうで上品なお婆さんだな。
歩く、一礼する、人を紹介する。ただそれだけの動作が、素人目
にも綺麗だと分かるくらい洗練されている。うーん、これが歴史あ
る名家の貴婦人か、雰囲気からしてお手伝いのオバちゃんとは比較
にもならない。
オードさんは現当主の正妻で、オリヴィアのお母さんだ。顔立ち
や髪の色がオリヴィアと母娘だとすぐ分かるくらい似てる。ただ年
齢を重ねてる分、包容力と言うか母性と言うべきか、会う人を和ま
せるような温かみを感じる。
おっと、お客さんを玄関に立ちっぱなしにしちゃ駄目だよな。王
都から辺境までの長旅で疲れてるだろうから、応接間に案内してそ
こでお茶と軽食、お菓子を振る舞い、その時に嫁さん達を紹介する。
やっぱり大事な娘さんを正妻にしておいて、側室が沢山いると女
好きのダメ人間だと思われるのだろうか? そんな不安があったけ
どフローリパさんもオードさんも、特に気にした様子もなく、普通
に談笑する。
ちょっと行儀が悪いけどオリヴィアの肩を抱きながら、妊娠の報
告をしたら二人は満面の笑みでオリヴィアを祝ってくれた。特にオ
ードさんなんて、嬉しさのあまり涙を流しながら抱き付いて頬にキ
スをしてくれた。
880
オリヴィアだけでなく、俺にもな。そのせいでオードさんはフリ
ーリパさんに注意されたけど、良い具合に緊張が解れたから良かっ
た。二人とも話し上手だし、自然体で義理の祖母、母親とお喋りで
きた。
なんだ皆は緊張してたけど朗らかで良い人達じゃないか、オリヴ
ィアもちょっと大袈裟だなぁ。厳しいって言われてたフローリパさ
んが、相好を崩して生まれてくる子供の事で会話が弾んでるじゃな
いか。
義理の息子にして孫だから、この機会に親交を深めたい所だけど、
アルチーナの仮縫いに付き合うのに、カロリング邸まで迎えに行く
時間になった。
名残惜しいけど、中座する失礼をお詫びしてからルーフェイと一
緒に部屋を出る⋮⋮と、そうだ折角お義母さんがいるんだし、丁度
良い機会だから話すとするか。
﹁実はちょっと無理を言って、オリヴィアの分も結婚式用のドレス
を仕立てて貰ってるんだ。式典の三日後くらいに出来上がる予定だ
から⋮⋮順序が逆かも知れないけど、俺とオリヴィアの結婚式を挙
げよう﹂
﹁だ、旦那様?! え? でもドレスって⋮⋮採寸などしておりま
せんが﹂
﹁外歩き用の服を仕立てた時にマーサさんにお願いしたんだよ。あ
の人の旦那は仕立て屋さんだから、女性の採寸するのはマーサさん
の仕事だからね、勿論皆のドレスも頼んでるよ﹂
881
当たり前の話だがそんな頼んですぐ出来る物じゃない。色々な事
情が絡んでルーフェイとアルチーナのドレスを、式典に併せて無理
して作ることになったので、後回しになってしまったのだ。
﹁ドレスが出来る直前に話してビックリさせたかったけど。折角フ
ローリパさんとオードさんがこの街にやって来てくれたんだ、オリ
ヴィアとの結婚式に参加してもらいたくてね﹂
﹁旦那様⋮⋮わたくし⋮⋮嬉しいです﹂
﹁勇者様⋮⋮いえクリス様、オリヴィアをそこまで想っていただけ
るなんて⋮⋮あぁ孫が出来るだけでなく、娘の﹃髪結い﹄ができる
なんて夢のようですわ﹂
あっと、なんかオードさんがオリヴィアより感激してるな。﹃髪
結い﹄ってのは結婚式では花嫁の髪を整えたり、衣装の着付けをす
ることで、基本的に親族がするものと決まってる。大体は母親がこ
の﹃髪結い﹄をする場合が多い。
﹁オード、感情を抑えきれずに屋敷の主に要らぬ心配をかけるとは
何事ですか﹂
﹁申し訳⋮⋮申し訳ございませんお義母様⋮⋮嬉しくて、嬉しくて
涙が止まりません⋮⋮まさか娘がまともな結婚式を挙げる事が出来
るなんて⋮⋮﹂
そうか、オリヴィアの呪いのせいで、オードさん気に病んでたん
だな。
﹁急な話で申し訳ありませんが、式典が終わってもドレスが出来上
882
がる三日後、そして俺たちの結婚式まで帰るのを待ってもらえませ
んか?﹂
﹁とんでもございませんクリス様。娘共々、是非参列させていただ
きます﹂
さて、後は家族でゆっくり話すと良いよ。父親から勘当されたっ
て言っても、血の繋がったお母さんやお祖母さんとは、積もる話も
あるだろう。
少し急がないとアルチーナとの約束の時間に遅れてしまうので、
今度こそ部屋を出る。オリヴィアの喜んでる顔が目に浮かび、なん
とも良い気分だ。ついルーフェイをお姫様だっこしてしまうが、気
分が良いのだから仕方ない。
∼∼∼∼∼
旦那様が出かけてしまいました。いえ、最初から今日は、アルチ
ーナ殿下のドレスの仮縫いに付き合う予定でしたから、仕方ないん
ですが。
ううう、旦那様とイチャイチャしたいです。あんな嬉しい話を聞
かせておいて、お出かけなんて旦那様は焦らし上手です。頬が緩む
のを抑えきれません。
しかし、浮ついた気分もそこまででした。旦那様が部屋を出た瞬
間、お祖母様は柔和な笑みはそのままに、雰囲気ががらりと変貌し
ます。ひぃぃ、表情は優し気ですが目が笑ってません。
883
﹁オリヴィア、なんですかそのだらしのない表情は。侯爵家の正妻
である以上、常に毅然とした態度でなくてはなりませんよ﹂
﹁も、申し訳ございません! 旦那様の愛情が嬉しくて⋮⋮﹂
﹁言い訳無用、指摘された事はすぐさま実践なさい﹂
口調は穏やかで、決して威圧的でもないのですが、それでも有無
を言わせぬ雰囲気に、応接間の空気が凍えていくような錯覚に陥り
ます。
﹁アストライア卿⋮⋮我が孫の夫であるからには、クリス様と呼ば
せていただきますが。成程、勇者と言うだけでなく、殿方としても
実に好ましい方です、オリヴィアの良縁は実に喜ばしい﹂
ですよね! 旦那様はお祖母様の目から見ても素敵で格好良いで
すよね。ちょっとエッチですけど、求められて嬉しいから欠点じゃ
ありませんし。
﹁しかし、貴女方の立ち居振る舞いには、どうにもぎこちなさを感
じてしまいます。勇者たるクリス様の夫人として相応しくなれるよ
う、この機会に指導して差し上げましょう﹂
⋮⋮あ、お祖母様が随分とやる気になってます。そう言えばお祖
母様は気に入った人ほど、熱心にマナーの指導をしたがる人でした。
間違いなくお祖母様は善意です、旦那様を気に入ってくださった
から、その夫人であるわたくし達のぎこちない立ち居振る舞いを正
したいのでしょう。そしてお祖母様の熱意に比例するかのように、
884
場の圧迫感が高まり続けます。
﹁そ、それでは! お、お茶とお菓子の代わりをご用意して⋮⋮ま
いります﹂
雰囲気に耐えかねたヴィヴィアンが、自分のホームである厨房に
逃げようとしましたが、甘いです、それを許すお祖母様ではありま
せん。
﹁ヴィヴィアンさんと仰いましたね? 席を立つ時にそのような大
きい動作をしてはなりません。見るにどうも所作が付け焼刃ですね、
基本からみっちり指導して差し上げましょう﹂
﹁あ、あはは⋮⋮よ、よろしくお願いします⋮⋮﹂
お母様は、まだ感激して泣きながらお祈りしてます。こうなって
しまうとお母様の助けは無理ですね。
﹁アルテナさん、陶磁器のカップでお茶を飲む場合、人差し指、中
指の二本指を取っ手に当てて、親指で押さえて持つようにすると所
作が美しく見えます。ああ薬指と小指は揃えなさい、小指を立てて
はなりません﹂
﹁はっはい! ご指摘ありがとうございます﹂
﹁ユングフィアさん、背筋が曲がってます。そのような姿勢では卑
屈に見えてしまい、クリス様の夫人として侮られますよ。人に見ら
れていない時でも常に背筋を伸ばすように心掛けなさい﹂
﹁し、失礼しました!﹂
885
﹁ティータニアさん、翼を背負う方の作法なのかもしれませんが、
ここはマーニュ王国です。椅子には深く、お尻が背もたれに触れる
ように座りなさい﹂
﹁ぐぬ⋮⋮深く座ると翼を傷めるから羽が抜けてしまうの、ぶつか
らないような形状の椅子を作って貰ってる最中ですから﹂
ティータニアは流石に一国の姫なので所作は綺麗なのですが、住
んでる人間の体型そのものが全く違うクレイターとの差異に困る事
が頻繁にあります。そもそもクレイター製の椅子には背もたれが一
切ないですからね。
旦那様は職人街の人に頼んで色々作って貰ってますが、流石にす
ぐとはいかず、彼女には不便を強いてしまってます。
ちなみにルーフェイも深く座るとしっぽが邪魔になるので、浅く
座りますがだらしなくは感じません。しかし一応我が国のマナーに
合わせる為に、彼女用にも同様にしっぽが邪魔にならない椅子を特
注しています。
﹁それは大変失礼をしました。私もまだまだ不勉強でしたね﹂
その辺りの事情を察したらしいお祖母様は、それ以上何も言わず
に小さく頭を下げます。厳しい人ですが、決して身体的な理由で不
可能なマナーを、無理に強いるような人ではありません。
ディアーネとメリッサはマナー的な指摘は受けずにお茶を飲んで
ますが、かなり緊張した様子です。
886
﹁ディアーネさん、メリッサさん。お二人の作法は確かに美しいで
すが、所々で流れが滞ってるように見えます。作法とは意識して守
るものではなく、自然体として日常の一部とするものなのです﹂
本当お祖母様はどういう目をしてるのでしょう? この部屋には
ルーフェイを除く夫人が七人もいるのに全員の微かな挙動すら見逃
してくれません。
実家に居る時はお父様を始め、異性全員に嫌われていた為か、お
祖母様も優しくしてくれてました。しかしこうして旦那様に嫁いだ
からには容赦のない指摘が続きます。
﹁オリヴィア、話している相手から目を逸らすとは何事ですか。家
を守るべき正妻としての気概が足りませんよ。貴女はクリス様の一
番傍で支えなくてはならないのですから﹂
﹁は、はい! 申し訳ございません!﹂
﹁クリス様は職人の家の出自であり、最近まで魔術の修業に明け暮
れていたと聞き及んでおります。故に作法を守ろうとしているだけ
好感が持てますし、荒い所作も若者らしいと言えるので、多少の不
調法は問題視する者もいないでしょう⋮⋮しかし﹂
優しい笑顔はそのままに、お祖母様から放たれる重圧は増してい
き、わたくしたち全員が気圧されてしまいます。
﹁貴女達は今のままでは、中央と関わり合う時に困る事になるでし
ょう。クリス様の威を地に落とす事が無いように、少々厳しく指導
して差し上げます﹂
887
公的にはわたくしはヘルトール家とは縁が切れていても、旦那様
はお祖母様達に滞在するように勧めたのですが、お祖母様たちは新
婚家庭だからと遠慮してます。式典までカール様が幾つか所有する
屋敷の一つを借りて滞在するそうです。
その屋敷は意外とすぐ近くな事もあって、お祖母様によるマナー
指導は、旦那様がお帰りになる日暮れまで続きました。お祖母様は
明日も指導にやって来ると意気込んでます⋮⋮助けて旦那様。妊娠
中といってもお腹が目立たない時期では手加減して貰えません。
お祖母様のシゴキで精根尽き果てたわたくしたちは、早々に休む
事にしました。ううう、旦那様とイチャイチャして癒して貰いたか
ったけど、途中で寝ちゃっては申し訳ないですから。
旦那様に心配をお掛けする訳にもいかないので、何とか普段通り
に振舞い。今日の閨は泊まりに来たアルチーナ殿下と、ルーフェイ
にお任せする事にしました。
結婚するまで処女を守ると言っていたアルチーナ殿下ですが、誘
拐事件の際に旦那様と肌を合わせてからは、純潔を守りつつ旦那様
に好んでご奉仕をしたがると聞いているので、旦那様の閨をお願い
しました。
ふむ、結婚式まで旦那様を相手に一線を守り切れる確率は半々と
見ていましたが、果たして式を挙げるまで処女でいられるのでしょ
うか? 多分旦那様に求められたら抵抗しないどころか、喜んで受
け入れそうですが⋮⋮頑張ってください殿下。
しかしお祖母様のシゴキは疲れました、主に精神的に⋮⋮お風呂
で寝てしまわないか気を付けないと⋮⋮あ、帰り際にお母様に手紙
888
を渡されたけど⋮⋮明日にしましょう、眠いです。
∼∼∼∼∼
ババア
何かと口煩いお祖母様が留守にしていると聞き、暫くぶりにヘル
トール邸に帰ると、兄と弟が忠犬の様に出迎えくれた。
本来なら屋敷の男たち総出で出迎えがあるところだけど、煩わし
いだろうからと兄が止めさせたらしい。それにしたって屋敷に帰る
度に、そこら中から感じてた視線が少なくなってるような?
﹁お兄様、どうも以前に帰ってきた時よりも屋敷の人間が少なくな
ってるように思えるけど、なにかあったの?﹂
﹁凄いなアンジェリカは、一目でそこまで見抜ける細やかな気配り
は流石に時期王妃といったところだね。美しさと聡明さを併せ持っ
た⋮⋮﹂
質問しただけなのに流れるように美辞麗句を並べる兄。何時もの
事ではあるけど、質問してるのだから早く答えて欲しい。
﹁お祖母様とオード母様が辺境で催される式典に参加する為、護衛
と身の回りの世話の為に同行させたそうです、お姉様﹂
﹁あっ! 貴様何を勝手に答えている、私がアンジェリカに質問さ
れたのだぞ!﹂
兄と弟が私を挟んで睨みあってるけど、どっちが質問に答えよう
889
が途轍もなくどうでも良い。はぁ男の使用人がいないとなると、今
晩どうしましょうか? 一人で寝るなんてしたくないし。
適当に呼び寄せても良いのだけど、どうせ兄と弟がなんだかんだ
と理由をつけて止めるだろうし。
オルランドだけでも連れてくれば良かったかな? 一応婚約者の
立場だから⋮⋮あ、そうだ婚約者と言えば、シャルローの件があっ
たっけ。
﹁ねぇ暫く前にディアーネが夜会で晒し者になった後、どうなった
か知ってる?﹂
余り期待せずに二人に聞いてみる。この二人は私以外に興味が薄
いから、多分知らないだろうけど、私が質問したからには勝手に調
べてくれるでしょ。
﹁ディアーネ?⋮⋮ディアーネ・メイティアですか、お姉様?﹂
﹁確かその女であれば辺境の田舎に嫁に行かされたそうだ、どうせ
王都に居場所が無くなったのだろうさ。至高の美を持つアンジェリ
カと、常に比べられるのも哀れと言えば哀れと⋮⋮﹂
呪い
田舎か⋮⋮確かあの女は金持ちだから私の嫉妬から逃れるのも不
可能じゃない。愛の女神の加護に由来する能力だから、別の神の神
聖魔法なら消し去るのも不可能じゃないからね。
呪った
けど気に入らない、私が嫉妬したと言うのに、誰かに愛されるな
んて気に入らない。王都にいればあの女の旦那を私の虜にして、目
の前で奪ってやるのだけど、辺境となると面倒臭い。
890
どうせ田舎のオジサンとかだったら私が出向く価値無いし。地方
都市で良い男がいれば、摘まみ食いするのは楽しそうね、旅行も悪
くはないだろうけど。うーんどうしようかな?
﹁所詮うすら寒い田舎だ、繊細なアンジェリカの肌を冷たい風に晒
す訳にはいかないよ。お祖母様と母上もその田舎に出掛けていてな、
確かカール王子の領地だったな﹂
カール王子⋮⋮むふ、オルランドの弟で私よりも一つ年上だった
わね。私に侍る男どもは、他の男の事を話題にしないから良く知ら
ないけど、兄弟で﹃味比べ﹄も悪くない。
ババア
けどお祖母様もいるとなると見つかるとウザそう。あぁでも、辺
境だと粗暴な冒険者とか居そうだし、そういうタイプを味見するも
の楽しそう⋮⋮うん、野獣の様な奴とか良いわね。
﹁たまには旅行も良いわね、今すぐ準備しなさい﹂
891
祖母︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
今回のお話を作ってから気が付いたのですが⋮⋮悪役にザマァは必
須でも流石に召喚獣に丸飲みされるのはいかんなぁと思いつつ、上
手な展開を考え中。
892
嫁入り前のお姫様︵前書き︶
お待たせしました
893
嫁入り前のお姫様
﹁オリヴィア達大丈夫かな? 元気そうにしてたけど、かなり無理
してたよな?﹂
結婚式で纏うドレスは神殿所属の職人たちが必死に仕立ててくれ
たお陰か。まだ未完成ながら急ぎ仕事とは思えないくらいの出来栄
えで、ルーフェイもアルチーナもデート中終始ご機嫌だった。
両手に花でアクセサリーを見て回ったり、ちょっとはしたないけ
ど公園の屋台街で買ったお菓子を食べ歩きしたりと、エッチはしな
かったけど充実した時間を過ごし屋敷に帰ったら、何故か皆疲れ切
っていた。
オリヴィア達頑張って普段通りに振舞ってるので、気付かないふ
りをしたけど大丈夫かな? 一応お土産に買ってきたお菓子を食堂
に置いてきたけど。
﹁クリス様、フローリパ様と言えば、現王妃様のマナーの先生を務
め、国中の名家から指導を乞われる程の方ですの。ただ、かなり厳
しい事で有名でして⋮⋮ううう、思い出したくないですわ﹂
優しそうな人なんだけど、指導は厳しいのか。アルチーナも数日
だけ指導を受けた事があるそうで、真面目なアルチーナでさえ、何
度も逃げようとしたくらいのスパルタだったそうだ。
別にできないからと言って鞭で叩いたり、肉体の限界まで追い込
むような苦行を科す訳では無く。悪い所はちゃんと理路整然と分か
894
り易く指導してくれるのだけど、反論できない正論を延々と叩き付
けられるせいで、精神的にキツイらしい。
ただちゃんと指導を受け堪え切れた人は、誰からも文句の言えな
い所作を身に付けられる。そのため、生徒たちからは慕われていて、
王妃様ですら頭が上がらないらしい。それって慕われてるってか畏
れられてると言わないか?
﹁わふ⋮⋮国が違うと作法も変わりますから。オリヴィア姉様の御
指導はお優しいですが、それでも慣れない動きをしますから、とっ
ても疲れちゃいます﹂
﹁他国どころか、山を一つ越えた場所ですら違う場合もありますし。
嫁ぐとなるとその辺が大変らしいわ、実際に中央と辺境だと細かい
所が結構違いますの﹂
そうなのか、気が付かなかったが彼女たちには違いが分かるのか。
俺も嫁たちの努力が分かるくらいにはならないといけないな。
と、マナーの大変さについてお風呂に入りながらお喋りしていた
が、疲れてるオリヴィア達が待ってるので早めに上がろう。
俺がフローリパさんとオードさんを、お屋敷まで送ってる間に入
って貰っても良かったが、皆でお土産を食べるから先にどうぞと言
われたので、今日泊まる予定のアルチーナとルーフェイを連れてお
風呂に入ったのだ。
二人を連れて寝室に入り、バスローブに手を掛けると、肌蹴けて
火照った白い肌が実にそそる。二人を抱き寄せ何度もキスしている
と、うっとりと陶酔したような表情に変わっていき最高に色っぽい。
895
胡坐をかいた俺の膝の上に、ルーフェイとアルチーナを向き合う
形で乗せると。二人は垂れかかり俺の頬に舌を這わせて、キスして
くる。
くすぐったさと、柔らかいお尻の感触と、心地の良い体温を感じ
ながら、それぞれの秘所に手を伸ばす。
﹁ひぁ! やぁ⋮⋮﹂
アルチーナは結婚まで処女を守る約束だから、秘所に指を入れな
いようにぴったりと閉じた処女孔を指で愛撫する。
﹁触った途端に濡れてきたじゃないか、アルチーナは処女なのにい
やらしいな﹂
﹁ひぅ⋮⋮あ、アルチーナは⋮⋮いやらしい娘です。クリス様に触
られると⋮⋮すぐに感じちゃうんです﹂
顔を真っ赤にし告白してくるアルチーナが可愛いので、クリトリ
スを不意討ちで摘まんでみると、面白いように反応を返してくれる。
﹁あぁぁl! あっあっあっ⋮⋮んはぁぁ! だ、だめぇ耐えられ
ないの、クリス様の指だけですぐにイカされちゃうのぉぉ!﹂
勿論アルチーナだけでなく、左手で愛撫しているお姫様はと言う
と。アルチーナの前で喘ぎ声を出すのが恥ずかしいのか、二本の指
で膣内を刺激されて、明らかに感じてるのに必死に口を閉じている。
﹁ルーフェイの可愛い声が聞こえないのは残念だな。ほらほら、我
896
慢しないで素直になるんだ﹂
﹁くぅぅん! くぅぅぅん! わ、私の方がエッチに慣れてるから、
お手本にならないと⋮⋮﹂
ふむ、どうもルーフェイはエッチの先輩として振る舞いたい感じ
かな? いつもは受け身がちなルーフェイが俺のチンポに手を伸ば
し手コキしてくれる。
いつもは快感に翻弄されるルーフェイだが、今日は何とか俺を感
じさせようと頑張ってる姿がいじらしい。
ただ、膣内の指で感じる個所を撫でてあげるだけで、身体を震わ
せるくらい感じてしまうので、俺をイカせる程ではない。ふふ、本
当にルーフェイは可愛いなまったく。それじゃアルチーナより先に
イって貰おうかな。
﹁わ、わふっ! んきゅぅぅぅ! あっ! そ、そこは⋮⋮くぅぅ
ぅん!﹂
ルーフェイの弱い部分なんて全部知ってる、挿入した二本の指を
縦横に動かし、親指でクリトリスをグリグリと刺激してあげると、
ただでさえ感じやすいルーフェイはあっさり絶頂に達する。
﹁はっはっはっ⋮⋮私⋮⋮私お手本に⋮⋮わふぅ⋮⋮﹂
アクメの直後で後ろに倒れそうになったルーフェイを慌てて抱き
寄せキスすると、幸せそうな表情でしっぽを振っている。
﹁凄い⋮⋮ルーフェイ気持ち良さそう﹂
897
﹁ふふっベッドで嫁を満足させるのが男の生き甲斐ってもんだ。ア
ルチーナもな、結婚したらセックスに溺れさせてやる﹂
絶頂の余韻で少し朦朧としてるルーフェイをゆっくりと、優しく
仰向けに寝かせ、そこにアルチーナを覆い被さる形で四つん這いに
させる。
十分に俺を受け入れるくらいに濡れたルーフェイのオマンコに、
勃起したチンポを押し込む。相変わらず狭いルーフェイの膣内だが、
愛撫で先にイかせるくらい感じさせたので、殆ど抵抗なく俺のチン
ポを受け入れてくれた。
﹁んきゅぅぅ! あぁぁ! クリス様のオチンチンが奥までっ! 奥まで入っちゃいました﹂
﹁アルチーナ、ほら、チンポが出入りするところにオマンコをくっ
つけろ﹂
俺とルーフェイの結合部分にくっつけたアルチーナの処女孔に、
チンポを擦りつけるようにピストン運動を繰り返すとまるで二人同
時に抱いてるかのようで実に良い。
﹁は、はい⋮⋮はぁ! 熱いですわ、クリス様のオチンチンが!﹂
ルーフェイの膣に出し入れするたびに、ルーフェイの喘ぎ声が響
き。オマンコがチンポで擦られた、アルチーナが嬌声をあげる。
﹁はっ! あっあっルーフェイ!﹂
898
﹁あぁぁぁ! クリス様ぁぁぁ! 凄いです、オマンコだけじゃな
くて、おっぱいも⋮⋮んきゅぅぅぅ!﹂
重なり合ってセックスしてるせいで、ルーフェイとアルチーナの
控えめなおっぱいが擦れあい、さらに快感を生んでる。腰を打ち付
ける度に身体を震わせそれがお互いのおっぱいを刺激している。
﹁だ、だめぇ⋮⋮クリス様がまだ満足してないのにまたイッちゃい
ますぅぅぅ!﹂
﹁我慢するな、可愛いルーフェイの蕩けた顔を見せるんだ﹂
﹁ふぁ⋮⋮あぁ! だめぇぇぇ!﹂
恥ずかしがって顔を両手で隠そうとするルーフェイだが、そんな
もの俺が許さん。両手を抑えつけ、更に腰の動きを激しくする。
恥ずかしさと快感で潤んだ瞳に、幼く見える愛妻が俺のチンポで
喘いでる姿に興奮して、彼女の絶頂と同時に我慢することなく膣の
奥に射精した。
﹁んきゅぅぅ! あぁ⋮⋮クリス様の熱いのが奥まで奥まで届いて
ますぅ⋮⋮わふぅ⋮⋮だめっていったのにぃ﹂
拗ねたような声色だけど、蕩けきった表情で言われても可愛いだ
けだ。一回射精した程度じゃまだまだ猛りが鎮まらないが、持久力
の無いルーフェイを連続で攻めるのはしたくない。
体勢は変えずにアルチーナの秘所に勃起したチンポをあてがい、
処女孔に擦りつける。
899
﹁熱い⋮⋮クリス様の熱いオチンチンが⋮⋮﹂
愛液に溢れるアルチーナの処女孔をチンポで愛撫しつつ、彼女の
柔らかい太股でのスマタは結構気持ち良い。
﹁ひぅ! 熱いのが擦れて⋮⋮あっあっ⋮⋮ンンンンッッッ!﹂
おっと、アルチーナばっかり可愛がらないでルーフェイも構って
あげないとな、二人の性器をぴったりくっつける貝合わせの状態に
して、その間にチンポを挿入すると二人から嬌声が上がる。
﹁わふぅぅぅぅ! なんですか、なんですかこれ! 気持ち良い、
気持ち良いですぅぅぅ﹂
﹁んはぁぁぁ! クリス様のオチンチンが! 当たってます、クリ
トリスに当たって気持ちが良いのぉぉぉぉ﹂
オマンコとはまた違う快感に自然と腰の動きも速くなる。二人の
オマンコから溢れ出る淫液がローションになり、淫らな水音が寝室
に響く。
﹁あっあっあっ! だめぇ! イッちゃいますぅぅぅ! はあぁぁ
ぁぁぁん!﹂
﹁わふぅぅぅ! イッたばかりなのにぃぃ﹂
為すがままにされる二人のお姫様は絶頂の余韻で脱力してるので、
寝転がった俺の胸に抱き寄せてそのまま寝る事にした。
900
正直まだまだイケると言うか、臨戦態勢のままなんだが。このま
まだと勢いでアルチーナの処女を奪ってしまいそうなので、今日は
自制。ルーフェイもなんかヘトヘトだし。
﹁クリス様⋮⋮その、まだご満足されてないのでしたら⋮⋮私の処
女を⋮⋮﹂
上目遣いでそういう事言われると本気で襲いそうになるが我慢だ
我慢。昂ったチンポが痛いくらいだが、嫁を体力の限界までセック
スに付き合わせられない。
﹁初夜まで楽しみにしてるよ、今の内はこうしてエッチに慣れてい
こう﹂
﹁はい、クリス様﹂
︵ううう、私の馬鹿なんであんな事言っちゃたのよぉ。切ないよぉ、
クリス様に組み伏せられて犯されたい。身も心もこの人のモノにさ
れたいのに⋮⋮︶
物足りなそうに裸体を俺に擦りつけるアルチーナに、ちょっと約
束を破って襲いそうになるが、大して強くない理性を総動員してキ
スだけに留めてその晩は眠りについた。
︵あぁ待ち遠しい、早く結婚してクリス様に抱かれたい。ルーフェ
イやアルテナの様に為すがままにされたい︶
アルチーナが胸を、太股を、オマンコを押し付けてくるせいか、
どうもムラムラして眠れないんだが無理して寝る⋮⋮アルチーナの
喘ぎ声で寝れない。くっ! 約束を破るわけにはいかない我慢我慢
901
我慢!
なんとか獣欲を抑え切った翌朝は、どうにも寝不足気味になって
しまったが、俺はやりきった。約束を守ってアルチーナを襲わなか
ったぞ! 寝れなかったのはアルチーナも同様らしくて、初めて会
った時みたいに目の下に隈が出来てた。
疲れてはいても達成感で良い気分の朝食の席で、ヴィヴィアンが
﹁賭けはアタシの勝ちですね﹂とか言ってて、アルテナとティータ
ニアが残念そうにしてたが、一体何の話だろうか?
まさかとは思うけどお前たち? 旦那である俺の事を信じてない
って事は無いよね? え? 下半身に関しては信用無いって? は
い、スケベ男でごめんなさい。
∼∼∼∼∼
式典が明後日に迫ったカロリング邸では、殆どの準備を終えてい
るので、のんびりとした空気が漂っていた。
そうそう、これだよ、こういうのが良いんだよ。細かいチェック
とかはあるけど、十分部下に任せられる仕事だ。
こうして身重のデシデラータとジャンヌの二人と一緒に、ゆっく
りお茶を飲んでる今こそが、ボクの望んだ生活なんだよ。
デシデラータの背後にはメイド服のモルガノが控えていて、椅子
に座るように勧めてもメイドだからと固辞された。
902
最近アルチーナがクリス殿の屋敷に入り浸ってるので、どうも手
持無沙汰らしい。たまに帰って来ても惚気ばっかり聞かされるそう
だ。
アルチーナの専属侍女であるモルガノは基本王家に雇われてる。
そのため嫁入りし臣籍に降ると一旦解雇される形になるので、アル
チーナの結婚後はボクが彼女を雇い入れる事になってる。
幼い頃からアルチーナの傍仕えをしていた彼女とは、ボクが辺境
に行くまでよく遊んだ仲だしね、身元もしっかりしてるし特に問題
は無かった。
そんな幼馴染のメイド、モルガノが作ってくれたお菓子を摘まみ
つつ、妻たちとのお喋りを楽しむ。あぁ平和だ、こんな時間がずっ
と続けば良いのに。
なにしろ無理難題を言ってくる大神殿の長老連中も祭事で忙しい
勇者
し、厄介事を毎日のように起こす一部の問題児な冒険者たちも物理
的に黙らせた、そしてなによりノリと思い付きで色々やらかす人は、
結婚式を控えてるので大人しい。
折角の休日だしこれからどうしようかな? 一緒に運動して汗を
流すのは身重のデシデラータを除け者にしてしまうし、街を散策⋮
⋮も立場的に控えるか。
ゆっくり読書しても良いけど、ジャンヌはじっと黙ってるの苦手
だからな、折角のんびり出来るんだから夫婦の時間を大事に⋮⋮
﹁たったっ大変です! カール様に報告、報告いたします!﹂
903
くっ! ボクには一時の安らぎすら許されないのか?! 報告に
来た家臣を睨みつけると、涙目になりながらも報告を始めてくれる。
うむ、八つ当たりしてすまんね。
﹁落ち着け、何があった?﹂
﹁そ、それが街周辺を監視していたイザベラ様が⋮⋮﹂
部下が何か言おうとした瞬間、突然周囲が暗くなった。いやこれ
は⋮⋮
咄嗟に上空に目を向けると、そこには、なんか巨大なモノが飛ん
でいた。
∼∼∼∼∼
結婚式を明後日に控えた我が家では、アルチーナも夫人として恥
ずかしくないようになりたいと、意気込んでフローリパさんの指導
を受けている。
オー
連日やって来るフローリパさんも、毎日楽しそうで何よりだ。た
ド
だ若干俺が除け者にされてるっぽいが、付き添いでやって来るお義
母さんと、お話ししてるうちに仲良くなれた。
俺の事を呼び捨てにするようにお願いすると、最初困った様子だ
ったけど、こっちもお義母さんって呼ぶことにすると言うと、照れ
たように了承してくれた。
904
さて、オリヴィア達が指導を受けてる間、お義母さんと色々話す
のだけど、どうしても避けられないのがオリヴィアの話題だ。もっ
と言うと実家の話になる。
﹁オリヴィア宛の公爵の手紙、俺も読ませてもらいましたが、今更
謝られてもオリヴィアの男性恐怖症の原因ですからね。年単位で時
間を空けて、恐怖症を克服するまで会わせられないです﹂
﹁やはり⋮⋮クリス以外の男性は無理ですか?﹂
精神を操る闇魔法使いの俺だから﹃忘れさせる﹄事は今すぐでも
出来る。出来るんだがオリヴィアの精神の奥深くまで巣食った、根
本的な恐怖まで干渉しようとすると、それは人格そのものへの干渉
となってしまう。
そしてそこまでの干渉は彼女の﹃今﹄の否定に他ならない、人の
心は本じゃないんだ、都合の悪い部分を書き換えるなんてしたらそ
れはもはや別人だ。
何とかしたいのだけど、こればっかりは今すぐどうこうできる事
じゃない。時間をかけてゆっくりと心を安定させるしかないのだ。
﹁俺が傍に居れば少なくとも挨拶くらいは出来ますけど、目は合わ
せられないですね。それに余り近寄られると身体が若干震えますか
ら﹂
﹁分かりました、夫へはわたくしからお伝えいたします。家同士の
話がある場合は、わたくしかお義母様が間に立ちますので﹂
905
多分ヘルトール公爵と会っても、俺はオリヴィアを傷つけた奴に
心を許す気はないし、向こうも気まずいだろう。何よりついうっか
り殴ったりしたら色々拙いし、腐ってもオリヴィアの父親は公爵だ
からなぁ。
﹁あと⋮⋮モンドバン伯爵が俺宛に陛下の手紙を持って来てくれた
んですが。要約すると﹃大抵の要求には応えるけど他国に住むとか
は止めてね﹄って内容なんだけど⋮⋮空手形? って言うのかな?
これってなんか裏の意図とかあったりします?﹂
﹁政治を担う貴族宛の書状であれば多少はあるかと思いますが、ク
リス宛であれば下手に勘違いされるような内容は書かないと思いま
すよ? クリスは素直な子ですからね﹂
つまり単純だと思われてるんだろうか? アルチーナを急いで嫁
に出してきた事から察するにそうなんだろうな。まぁ事実だが。
﹁くすくす⋮⋮思ってることが顔に書いてありますよ? まぁクリ
スに腹芸は出来そうにないのはわたくしも同意ですが﹂
揶揄われて少し気恥ずかしくなり顔を逸らすと、お義母さんに頭
を撫でられる。なんか凄く恥ずかしいぞ、鏡を見なくても顔が赤く
なってるのが分かる。拙い、こんな顔を嫁に見られる訳にはいかん、
旦那としての威厳的に考えて。
とりあえず精神を落ち着けないと。深呼吸しようとすると⋮⋮窓
の外のティータニアと目が合った。待て誤解だ、その微笑ましい物
を見る目は止めてくれ。
﹁ティータニア何時の間に? マナー指導を受けてたんじゃ﹂
906
﹁たった今ですよクリス様、休憩の為に食堂まできたら⋮⋮くすっ
照れるクリス様も可愛いですね﹂
中庭でマナー指導を受けてた筈だけど休憩時間になったから、空
を飛べるティータニアは池を飛び越えて一足先にやってきたっぽい。
それってマナー的にどうなのかと思ったが、翼持ってる人が空飛
ぶって普通じゃね? という至極真っ当な考えから、作法的に問題
なしと言うのがフローリパさんの見解だそうだ。
そして王妃様すらも頭が上がらない、礼儀作法の大先生がそう判
断した以上、誰も文句は言えないのである。
男の俺が可愛いと言われてもあまり嬉しくはないが、見られてし
まったものは仕方がない。出入り口を開けてやってティータニアを
室内に招くと、とりあえず小脇に抱えて部屋の隅に連れて行く。
﹁ティア︱タニア、今晩はお前が部屋に来るんだったよな﹂
﹁そうですね、楽しみですクリス様。ルーちゃんとヴィヴィアン共
々可愛がってくださいね﹂
あぁ照れて頬を染める嫁は最高だな、今晩は存分に可愛がろうじ
ゃないか。しかしその前に口止めしとかんとな。
﹁勿論だ、それはそれとして。とりあえずさっき見たモノは秘密に
しといてくれ、今晩なんでもリクエストに応えるからさ﹂
﹁でもクリス様、特に何も無くてもリクエストに応えてくれますよ
907
ね?﹂
うむ、嫁のおねだりなら全力で応えるのが男の甲斐性だからな。
﹁だからあまり交換条件になってませんよ? でもクリス様のお願
いなので、黙ってますからご安心ください﹂
ありがとう、愛してるよティータニア! サラサラの白い髪を撫
で、頬に手を添えてキス。控えめに俺の口内に舌を差し出してくる
ので、お互いに舌を絡め合う。
﹁コホンッ、あのね夫婦の仲が良いのは、ここ数日で嫌と言うほど
分かってるけど。義理の息子が目の前でキスしてる場面って凄く居
心地悪いのだけど⋮⋮﹂
﹁のわっ! ご、ごめんなさい! 照れるティータニアが可愛いの
でつい⋮⋮﹂
オード
食堂の隅っこに移動したけど同じ部屋なんだからお義母さんから
は丸見えだった。
呆れたような目線に言い訳を考えてると、池を迂回してたオリヴ
ィア達も食堂にやって来た。
﹁お、お疲れさま、皆で休憩か?﹂
﹁はい、もうすぐお昼ですので⋮⋮あの? 旦那様どうかなされま
したか?﹂
﹁良い子良い子してあげたらクリスったら照れちゃってね。それを
908
ティータニアさんに見られたから、キスで誤魔化してる最中だった
の﹂
ちょっ! よりによって嫁たち全員の前で言っちゃうの! なん
か全員が妙に興味深そうにしてるんだけど!
﹁まぁ! ねぇ旦那様わたくしからちょっとお願いが⋮⋮﹂
悪戯っぽい顔でオリヴィアが何か言おうとした瞬間だった。ティ
ータニアが嫁入りした時に渡された遠距離通話も魔法道具から声が
聞こえた。一応いつでも連絡が付くようにと腰にぶら下げてたんだ。
﹁カ、カール王子から急ぎの連絡だから、ちょっと待ってな!﹂
良いタイミングでの連絡だ、これで話を逸らせるぞ。魔法道具を
起動させると、石板から音声とカール王子の顔が映る⋮⋮なんか妙
に切羽詰まってる表情?
﹁クゥゥリィィスゥゥゥゥ殿ぉぉぉ! ちょっと南! 南の空を見
て!﹂
南の空? なんか鳥の魔物でも出たのかな? 庭に出て言われた
とおりに南を見ると⋮⋮羽の生えた巨大カエルが南に向かって飛ん
でいた。
﹁あの巨大カエル止めて! お願い、別に死んでも良心は痛まない
相手だけど、イザベラを罰する訳にはいかないから!﹂
909
嫁入り前のお姫様︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます
アレとの遭遇まで書きたかったのですがちょっと長くなったので次
回までお待ちください
910
嫌な邂逅︵前書き︶
書籍版の加筆とか修正でちょっと時間がかかってしまい申し訳ござ
いません。
ちなみにイザベラさん、リアル会話だと口下手ですが、テレパシー
とかだと結構饒舌な模様
6/7 22:00 加筆、少々主人公らしくないかもしれません
が、会話が成立しない相手は怖いから仕方ないと言う事で。逃げて
も追ってきそうだから実力行使は仕方ない。
911
嫌な邂逅
縛った対象を浮かせる魔法道具﹃荷運びの紐﹄。やや割高ながら
誰でも購入できる魔法道具で、このアイテムは生き物にも有効であ
り、馬の鞍に結んだこの紐で自分を縛って、馬に全力疾走させる姿
をたまに見かける。
曲がった拍子に障害物に激突する事故が多く、一部のスリルを求
める人間しかやらない。以前岩山に住む山羊で同じ事をやって、身
体中を岩に打ち付けられ、ボロボロになった男の話を聞いたことが
ある。度胸試しの試みだったらしいが、何処にでも馬鹿はいるもの
だ。
たまに悪ノリした若い冒険者とかが﹁風を切るようで最高に気持
ちが良い﹂などと自慢げに話すが俺には理解できない。したくない、
なぜなら全然風を切っても気持ち良くない、むしろ怖い! 速いか
らと馬鹿な事を思いつくんじゃなかった。
うおぉぉぉ! ふわふわ浮く紐だけが支えで空飛ぶのめっちゃ怖
いぃぃぃぃ! 身体強化したティータニアの飛行速度めっちゃ速い
ぃぃぃぃ!
﹁あの、クリス様、もっとゆっくり飛びますか?﹂
﹁だ、大丈夫! お、俺は大丈夫だからもっと速くていいぞぉぉぉ
! は、ははは⋮⋮ティータニアと空の散歩は最高だなぁ﹂
しかし怖いからと嫁の前で情けない姿は見せたく無い一心で必死
912
に耐える。感情封印したいところだけど、反動がもっと怖いから耐
える! 下を見ると怖いので追跡中の巨大蛙に意識を向け、話をし
て何とか恐怖を誤魔化すのだ!
ゴッデストード
﹁あの蛙、まさかとは思うけど、殆どお伽話レベルの文献しかない
神秘蛙か?﹂
外見は羽の生えた蛙としか表現できない外見で、全体的に丸っこ
くて結構愛嬌がある。しかしデカい、カロリングの街が一時騒然と
なるくらいデカい。
具体的には全長30メートル以上で赤やら黄色やらその他諸々、
やたらと派手な色彩の蛙が飛んでりゃ、そりゃ一般人は怖いだろう
よ。拘束された状態で空を飛ぶよりはマシだがな!
ゴッデス
﹁女神の名を冠する魔物、まして蛙なんて聞いたこともありません
けど、ご存じなんですか?﹂
﹁うん、本物だとしたらあの羽の生えた蛙な⋮⋮雲の上に存在する
神々の住まう大地に棲み、嵐を巻き起こし海原に現れると、瞬く間
に海魚を食い尽くすとか言われてるんだ﹂
﹁大丈夫なんですか近づいて? そんな災害を起こすなんて、神話
の怪物や魔王種級ではないですか﹂
﹁俺が見る限り、あの蛙は召喚術で使役されてるんだけど、そんな
怪物は俺が召喚術の専門家でも無理だ。多分脚色されてて海が荒れ
てる時だけ姿を現すんじゃないかな? 後、目撃情報の少なさから、
雲の上に棲んでるってのはあり得るかもしれない﹂
913
遠目で見るとゆっくり飛んでるように見えるけど、巨体なだけに
飛ぶ速度はかなりのもので、ティータニアに身体強化の魔術を掛け
て何とか追えてる感じだ。
﹁一応認識を阻害する術もかけるけど、強力な魔物だと万が一があ
るから基本頭の後ろ飛ぶんだぞ。雲の上に棲んでるのが本当なら﹃
自分の頭上﹄には一切警戒が無いはずだからな、あの派手な体色か
ら見て天敵の居ない環境に棲んでるんだと思うし﹂
ティータニアを護る加護の話を聞いてなければ、いやいくら頑丈
になる加護があったとしても、嫁を魔物退治には連れて行きたくな
いのだが、誰かは知らないが人命が危うい以上仕方がない。
﹁しかしどうなさるんですか? あの蛙を殺してしまうのですか﹂
ティータニアに危害が及びそうなら、躊躇なく一瞬で始末するけ
ど、召喚術で使役されただけの魔物なら、無暗に殺したくはない。
もつ
﹁王子から軽く事情を聞いた限りじゃ、痴情の縺れっぽいから、あ
まり手荒な事はしたくないな。レベル高い召喚術師だと魔物と精神
的に繋がってて、魔物が死ぬと術者が致命的なダメージを受ける事
があるからな﹂
なんか知らんがカール王子お抱えの凄腕召喚術師で、女性冒険者
のイザベラさんって人が居るらしい。そのイザベラさんの彼氏が、
以前に振られた貴族の御令嬢に未練があるらしいのを知ってしまい。
しかもその令嬢がこの街に向かってるのをイザベラさんが見つけた
途端に、魔物を差し向けたらしい。あまり関わり合いたくない話だ。
予定としてはあの蛙を行動不能にした後で、魔物とのリンクを辿
914
ってイザベラさんを何とか説得する。自覚は無いが俺の言葉は、問
答無用で信用されるって能力があるそうなので、逆上してても何と
か会話は出来るだろう。
そしてその令嬢とやらは、多分式典に参加する予定なんだろう。
あちらも仕事で来てるんだろうけど、帰ってもらうしかないか。街
にいたら元彼氏の恋人に襲われかねないのだから、説得も容易だろ
う。
﹁クリス様! あの蛙が高度を下げ始めました、多分目標が近いで
す!﹂
﹁ティータニア、俺をあのカエルの頭上に降ろすんだ。万が一にも
巻き込まれないように上空に一旦逃げるんだぞ﹂
ゴッデストード
俺の指示に頷いたティータニアが加速し、神秘蛙の頭上で﹃荷運
びの紐﹄を解くと身体に重さが戻る。正直浮いた状態で空を飛ぶよ
りも、巨大蛙の頭の上に乗ってる方が⋮⋮絶賛急降下中だからもっ
と怖かった!
﹁ひぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! があぁぁぁぁぁぁぁ!!﹂
ゴッデストード
随分長時間落下してる気がしたが、実際には頭の飛び乗ってすぐ
に神秘蛙は地面に音もたてずに着地する。
巨体の割に着地が軽いと思ったが、常に飛んでる生態だからか、
浮力を得るために、全身が風船のように膨らんでるみたいだ。だか
ら丸っこいシルエットなんだなこの蛙。
目の前には、随分と大人数を引き連れた一行が居た。蛙ってのは
915
ゴッデストード
素早い物を捉える能力は高いけど、細かい識別は出来ないから。多
分、準魔王種ともいえるレベルの神秘蛙も同じな筈。
召喚術師に使役されてる以上、あの一行全員を有無を言わさずペ
ロッと食べる事は無い⋮⋮と、思う。
上空から巨大蛙に襲われるなんて想定してないようで、全員慌て
ふためいてるが、先頭を進む豪華な馬車を守ろうと動いてるから、
随分と忠誠心の篤い武官たちなのかな? 身のこなしは素人臭いが。
ゴッデストード
緊張の眼差しで神秘蛙を、と言うか頭上の俺を睨む一行。待て、
俺は助けに来た人間だからな? 誤解を解こうと声を掛ける前に、
蛙が舌を伸ばして先頭の馬車を飲み込もうとするので、予め準備し
ていた術を発動させる。
﹁問答無用で食おうとすんな馬鹿ァァァァ!﹂
オラクルハンマー
気合一閃、余り印象の良くない闇魔法を衆目に晒したくないので、
神聖魔法の︻神判鉄槌︼を放つ。怖かったのを発散する意味で、か
なり威力高めにして。
この術は上空から光弾が降り、対象に必中かつ発動の早い強力な
攻撃魔法だ。攻撃の種類に乏しい神聖魔法の中では最上位とされる。
法の女神トライアを力の源泉とする場合の特性として、術者主観
による罪の重さに比例して威力が増大し。対象を選んで、痛みだけ
与えて傷つけないようにすることもできる。勿論普通にダメージを
与える事もできる。
余談だがこれが仮に太陽神に仕える神官が使えば、超威力の火の
916
玉が降ってきて。豊穣の女神の神官だと、撃たれたダメージは地面
の養分に変換されてしまう等、力の源泉である神々の個性が見える
魔法である。
要するに俺が悪いと判断した奴ほど、高い威力を持つ必中攻撃だ。
ダメージを与えず、痛いだけの場合は﹃女神様のデコピン﹄と法の
女神神殿では冗談めかして呼ばれている。
かなり威力高めにして撃ったとは言っても、別に召喚されて使役
ゴッデストード
されてる魔物が悪いとは思ってないので、魔力を多めに籠めても大
した威力ではない。ただ突然の痛みに驚いたようで神秘蛙は伸ばそ
うとした舌を引っ込める。
都合よく少し混乱してるみたいだから、その隙に蛙の精神に触れ、
精神的にリンクしてる術者に語り掛ける。可能な限りフレンドリー
に、刺激しないような言葉遣いでな。
﹁待って、ちょっと待ってくれよ、軽く事情は聞いたけど問答無用
でパックンは拙いよ。犯罪だよ、彼氏が悲しむよ﹂
召喚獣越しではあるが、流石に高位の術者は、念話で話しかけら
れる事には驚いた様子はない。少し間をおいて蛙に繋いだ精神のリ
ンク越しに、術者の思念が返って来た。
﹁その女がいると、シャルローを盗られちゃう。大丈夫証拠は残さ
ないで消すから﹂
念話は基本自分の意思を直接伝えるから嘘は一切つけない。この
人後ろめたさとか一切なく、本音で恋敵を消そうとしてるよ。落ち
着け、落ち着けよ彼女を刺激しないように、強い言葉は使わないで
917
説得するのだ。
﹁いや、巨大蛙が空飛んでる時点で証拠を残さないって無理だから
ね? 目撃者多すぎるから消したら君は捕まるから、彼氏とも離さ
れるかもしれないぞ?﹂
勇者としての能力なんだろうけど、頭に血が上ってるであろうイ
ザベラさんに、俺の意思は届いたようで動揺する気配が見えた。
﹁別れるのは嫌。でも盗られるはもっと嫌﹂
良し、何とか殺人犯になる可能性に思い至ったようだ。ここで魔
物で襲うのを諦めて貰えば成功だ。
もっと
﹁イザベラさんの気持ちも尤もだ。けど殺人犯になるのも嫌だろう
? だから提案があるんだけど、ここで退いてくれるなら、そこの
女の人には帰って貰う、もしくはカロリング邸に近寄らないように、
この街にいるとき限定で精神的に呪縛をかけようじゃないか﹂
要するに彼氏に近寄らなければイザベラさんは安心なんだから、
十分妥協できる条件の筈。どうだ? なんとしても排除したいとか
言い出さなければ有難いけど。
﹁退くのは構わないわ、けどそれに加えてシャルローから、その女
の記憶を消して、出来るでしょ?﹂
本人の同意が無いと基本的には駄目なんだが、この人は勇者にな
る前の俺じゃ逆立ちしても勝てないレベルの召喚術師だ、間違いな
い。それに加えて束縛したがるタイプっぽいから、安心させてやら
んと同じ事繰り返しそう。
918
﹁出来る。けど同意が無いのは、彼氏さんの意思を無視する事にな
るんじゃないか?﹂
﹁忘れた方がシャルローは幸せよ? うふふ、叶うなら私以外の全
てを忘れさせたいけど⋮⋮ふふふ、今からでも闇魔法究めようかな
?﹂
怖いよ、本気で言ってるよこの人! うーん、人の記憶弄るって
ゴッデス
あんまりやりたくないんだけどなぁ。俺の躊躇が伝わったのか、イ
・・
ザベラさんから一つ提案が来た。
ゴッデストード
﹁対価は払うわ、神秘蛙の聖油を譲ってあげるから。この蛙が女神
の名前を冠する理由は知ってる?﹂
﹁神々が住む雲の上に棲んでるからと聞いたけど?﹂
特徴的な外見だから名前だけは分かったけど、文献が殆どない魔
物なんだから、流石に由来までは知らない。
ゴッデストード
﹁女神の様に美しいまま衰えないようにできるから神秘の蛙、かつ
て偶然一匹の蛙が、人の手に捕らわれた時は3つの国が滅んだのよ
? ふふふ、その身から分泌する油を肌に塗れば外見が若返り、飲
めばあらゆる病が癒え寿命すら延びるの。奪い合いになって当然、
この事実を知ってるのは私だけ。だって文献を抹消したの私だし、
ふふっ﹂
ちょっと待て、アンタ歳いくつだ? 尋ねようとした瞬間に恐ろ
しいまでの殺気を叩き付けられ、思い止まる。じょ、女性に歳を尋
ねるのはマナー違反だな、うん。
919
﹁冗談よ?﹂
念話で嘘は付けねぇよ。勿論冗談も言えねぇよ。
﹁ふふっ、勇者様もまだまだ未熟ね。知能の高い魔物を相手にね、
常に精神を繋げてると念話で冗談くらい言えるようになるの、私だ
と嘘だってつけるわよ? この蛙の効能は本物だけど誇張されてる
わ。若返りはしないけど、肌に塗れば赤ちゃんみたいな肌になるし、
飲めば多少の病気はあっさり快癒し、凄まじい活力を得られる、そ
れこそ一日中セックスできるくらいね﹂
﹁つまり誇張された効能を信じた結果、蛙一匹の奪い合いに発展し
て国が亡ぶような事態になったと?﹂
﹁そこらの魔法薬なんて目じゃない効果があるから、そのくらいの
価値があるわ。あまり効果を広めたくはないからコップ一杯分だけ
だけど、どうかしら?﹂
⋮⋮ここは彼女の存在を発動の起点にして、一時的に忘れるって
形はどうだろうか? 要するに彼女の前でだけ元彼女を忘れる感じ
で、これなら角は立たないだろう。仮に彼女と別れた場合記憶は元
通りになるわけだ。
﹁アンタと別れた場合に限り記憶が戻ると言うのは大丈夫か? 流
石に本人に頼まれる以外で記憶を完全に消すのは可哀そうだ﹂
﹁シャルローと私が離れるなんてありえないわ。ふふふ、そうよね
シャルロー?﹂
920
蛙越しの念話だが、どうもそのシャルローさんとやらは、イザベ
ラさんのすぐ近くにいるのか。まぁ本人が近くで話を聞いて納得し
たのなら、大丈夫か?
﹁分かった、その条件を飲む。街に帰ったらすぐにカロリング邸を
訪ねるから、カール王子とかに話を通しておいてくれ、シャルロー
さんの記憶を消すのを請け負おうじゃないか﹂
﹁うふふ⋮⋮聖油はシャルローの記憶が消えてからね⋮⋮﹂
不気味な笑い声と共に、巨大蛙の姿が徐々に消えていく。魔物越
しの念話はかなり疲れるが、納得してれたようでなにより、信用さ
れる能力も多少は影響が有ったのかもしれない。
さて、馬車に乗ってるお嬢さんが、このまま帰って貰えば、女の
子に呪いを掛けないで済むので、俺としても気が楽なんだが。式典
にどうしても参加しなきゃダメって話なら、約束通りカロリング邸
に近寄れないようにするしかない。
領主に挨拶できないのは困るのかもしれないけど、その辺はカー
ル王子も考慮してくれるだろう。なによりヤンデレから身を護る為
だからと割り切ってもらうしかない。
さて、どうするか話を聞くか、事情を話して帰るなら良し。駄目
ならバレないように術を掛けて、カール王子に頼まれた仕事は終わ
りだ。
馬車に目を向けると何やら周囲の男たちが、囲むように俺を睨ん
でる。いやまぁ確かに蛙の頭の上で、なにやらブツブツ言ってれば
怪しいのは分かるけど。
921
睨まれても俺に後ろ暗い事は無いので、馬車の中のお嬢様とやら
に声を掛けようとすると、馬車の扉が開き、妙に甘ったるい、ねっ
とりとした声が聞こえた。
﹁いきなり魔物に襲われて驚いたけど、まぁどうでも良いわ。ねぇ
貴方気に入ったわ、私の馬車で楽しみましょう﹂
﹁なっ!﹂
馬車の中から出てきた令嬢の姿に一瞬訳が分からなくなった。化
粧は派手だし、露出の多い色っぽいドレスを纏ってるのだが、その
顔はオリヴィアと瓜二つの美少女だった。
∼∼∼∼∼
あら? あらあらあら? なんだか良く分からないけど、魔物が
襲ってきたのを、あの男が追い払ったって事かしら? 馬車の窓か
ら巨大な蛙の姿が、徐々に消えていくのが見えたからもう大丈夫で
しょう。
取り巻き共は焦って辺りを見渡してるけど、魔物は去ったのなら
気にしても仕方ないでしょうに。
そんな事よりこちらを見るあの男⋮⋮良いわね、その気になった
ら強引にセックスを迫ってきそうで、結構好みのタイプだわ。オチ
ンチンの具合が良ければハーレムの一軍に咥えて、おっと加えてあ
げましょう。
922
私の取り巻きは多いから、婚約者のオルランド王太子は別格とし
ても、常時侍らせて、名前とセックスの好みを把握した上でセック
スする一軍。その他に声を掛けた時に部屋の壁際で数合わせに待機
させる用の、余り名前は覚えてない二軍がいるの。ああでも一度楽
しんだオチンチンは全員覚えてるわよ?
カロリングの街に着く前に、早速一軍候補になる良い男が見つか
るなんて幸先が良いわ。やっぱり辺境に足を運んで正解ね。ふふっ、
楽しみで濡れてきちゃった。
﹁いきなり魔物に襲われて驚いたけど、まぁどうでも良いわ。ねぇ
貴方気に入ったわ、私の馬車で楽しみましょう﹂
馬車を降り顔を見せると、彼は目を見開き放心したように私を見
る。あら、私の美しさに見惚れちゃった? 年上なのに素直で可愛
い反応なのは好評価ね。
直接近くで見た限りでは、着てる服は上等なものだし、髪、肌、
爪などはキチンと清潔に手入れされているのが更に良い。これで体
臭や口臭が臭ったりしなければ最高ね。オチンチンが大きければ一
軍の中でもお気に入りに入れてあげようかしら。
﹁私はアンジェリカ・ヘルトールよ、ほら馬車にいらっしゃいな。
二人っきりで夢のような時間を過ごさせてあげる﹂
機嫌よく誘ったのだけど、その前になぜか兄と弟が間に立ち塞が
って邪魔してきた。
﹁待てアンジェリカ! そんな得体の知れない男と二人きりなんて
923
駄目だ。いやさっきの巨大蛙もこの男の自演かも知れないんだぞ﹂
﹁そうです! お姉様の目に留まろうと、派手な事をしただけの下
郎にお姉様のお声を聴かせるなんて勿体ない!﹂
兄弟を始め、取り巻き共が敵愾心に満ちた目で彼を見るがどうで
も良い。私は彼を気に入ったのだからセックスするのは決定事項。
流し目で彼を見ると⋮⋮あら? 驚いた様子だったのになんで私を
睨むの?
あ、でも彼の冷たい眼差しにはちょっとゾクッと来ちゃった。今
濡れて
までにない反応、あの目が快楽に蕩けて私に愛を捧げる様を想像す
ると、余計に燃えてきちゃった。
視界を防ぐ邪魔な兄弟二人を退かせ、改めて彼を見る⋮⋮良い、
すっごい好み。私を睨みつけるその瞳に惹き込まれて目が離せない。
決めた絶対私のモノにする。
近寄ろうとすると、兄が身体ごと割り込んできて邪魔をする。な
によ? 私は早くセックスがしたいのよ。
﹁貴様、即刻立ち去れ! 世界の至宝たる我が姉の姿を運良く仰げ
ただけでも幸運と思っピギャァァァ!﹂
﹁そうだ! 勘違いしてアンジェリカに近寄るんじゃない、心清い
妹が優しくしたからっヴァァァァァ!﹂
あら綺麗ね、空から無数の光が降ってきて、兄と弟が一瞬でボロ
雑巾の様になっちゃったわ。まぁどうでも良いか。
924
ついでに取り巻き共も倒れるように眠ってしまったわ、つまり他
の奴の目に入らないように、じっくり楽しみたいのね? 良いわ!
じっくりたっぷりねっとりぐっちょりしっぽり後ろから前から上
下のお口で気持ち良くしてあげる!
﹁さぁ! 馬車の中にはちゃんとベッドがあるから好きにして良い
のよ! 安心して、既に濡れてるしパンツは最初から履いてなんほ
ぉぉぉぉぉぉ!﹂
なんか目の前が光ったと思ったら⋮⋮急に⋮⋮暗⋮⋮く⋮⋮
∼∼∼∼∼
ヤバい⋮⋮あの女はヤバい。事前情報なしで出会ってたら、フラ
フラ誘われるがままに一線超えてしまいそうなレベルの色気を振り
まいてる。
オード
あのお義母さんそっくりな顔を見れば、オリヴィアと近しい人間
なのは分かる。アンジェリカ・ヘルトールと名乗ったからには確定
か、アレがオリヴィアを呪ったビッチだな。
オリヴィアをかつて蝕んだ﹃嫌われる呪い﹄を解呪して、ある程
度どんなモノかは予測がついていたが⋮⋮﹃愛される呪い﹄の大本
だけあって、もはや無差別に魅了の術を垂れ流してるようなもの。
俺だからまだ不意討ちでも抵抗できたけど、魔法防御力の低い人は
見るだけで魅了されかねない。
オリヴィアと瓜二つなだけに、顔だけは好みのど真ん中だし、年
925
下なのに物凄くエロい身体も好みなのが猶更腹立つ。うん、コイツ
を街に入れたら駄目だ、どんな混乱が起きるか分からん。
でもなんか目をつけられたっぽい。このまま王都に帰しても、気
紛れにまたこの街に来たらどうなるか分からんし⋮⋮始末は⋮⋮お
義母さん悲しむだろうし、他にも面倒が起きそうだから却下。
どうしたもんかなこの女、一応義理の妹だが、絶対に仲良くした
くないし。ビッチをどうしようか悩んでると、やたらと偉そうな連
中が俺に向かって怒鳴り散らしてきた。
﹁貴様、即刻立ち去れ! 世界の至宝たる我が姉の姿を運良く仰げ
ただけでも幸運と思っピギャァァァ!﹂
﹁そうだ! 勘違いしてアンジェリカに近寄るんじゃない、心清い
妹が優しくしたからっヴァァァァァ!﹂
オラクルハンマー
ただの取り巻きじゃなくて、ビッチの身内と聞いた時点でとりあ
えず︻神判鉄槌︼を百発ほど叩き込む。つまりオリヴィアを虐待し
た兄と弟だな、お義母さんに免じて、特別に怪我はさせないでやる
から、邪魔しないで黙ってろ。
連射性を重視して威力は最低だが、俺視点による罪の重さ分、威
力が相当増えたようで、死なないだけで相当痛そうだが、まぁどう
でもいい。
﹁きっ貴様! こんな事をしてタダで済むと思うなオピュォォォォ
!﹂
まだ喋る元気があったか意外と頑丈だな、それじゃ﹃女神様のデ
926
コピン﹄二百発追加な。大丈夫、痛いだけで怪我はしないから。義
理の兄による折檻としてありがたく受け取れ。
﹁⋮⋮良く聞け⋮⋮我らはマーニュ王国⋮⋮三大公爵家が一つ⋮⋮
ヘルアピャァァァァ!!﹂
ふぅ合計五百発叩き込んだら、兄弟揃ってやっと静かになった。
こいつらがオリヴィアを虐待してたのは許せんが、呪いによる情状
酌量の余地を多少差っ引いて、死なない程度にボコるだけで勘弁し
てやる。
フローリパ
男は多少痛めつけても気にしないけど、こっちのビッチ妹は元凶
とは言え女の子だからな⋮⋮うーん、能力を封じて義祖母さんに任
せるか?
まだ十四と聞いたし、矯正の余地はあるかな? 駄目だったら駄
目だったらで別の手段を考えるか、嫁たちに相談すればいい案が浮
かぶかもしれないしな。
とりあえず、まだ俺を睨む取り巻き共を眠らせて、ビッチに封印
を施すべく近寄ると⋮⋮なんでか知らんが熱っぽい目線で俺を見て
る。
﹁さぁ! 馬車の中にはちゃんとベッドがあるから好きにして良い
のよ!﹂
⋮⋮おい、兄弟をぶちのめして取り巻き眠らせた人間に、何言っ
てんだこのビッチは? まぁオリヴィアそっくりな女の子に攻撃魔
法を撃ち込みたくはないし、眠らせて連れ帰るか。
927
﹁安心して、既に濡れてるしパンツは最初から履いてなんほぉぉぉ
ぉぉぉ!﹂
満面の笑みで俺に抱き付こうと駆け寄って来たビッチは、崩れ落
ちるかのように倒れ⋮⋮。
﹁おぉぉぉぉ! 良い男の前で寝てられないわぁぁぁぁ!﹂
﹁おいぃぃ! なんでお前が俺の魔法に抵抗できんだよ!﹂
歴戦の騎士ですら抵抗できないくらい強力な術だぞ! なんで貴
族のお嬢さんにそんな強靭な意志力があるんだよ!
﹁うふっ! うふふふふふ! なぁに? 意識の無い私を、思うが
ままに犯したり汚したり嬲ったりするのが貴方の趣味? 良いわよ
性癖はそれぞれだもの、良い男だから許すわ! でも私も楽しみた
いから、せめて縛るくらいで!﹂
﹁そんな趣味ねぇよ馬鹿!﹂
﹁って事は拉致して監禁して縛って飼われて⋮⋮オマンコの乾く間
もないくらい犯し続けるつもり! 大歓迎よ! ああ、でも一人だ
けだと大変でしょ? 野獣のような連中を沢山連れて来ても⋮⋮﹂
﹁いい加減にエロ方面から離れろ! 連れ帰りはするけどそういう
つもりは無いって言ってんだよ!﹂
﹁つまり調教! 貴方好みに私を染めようだなんて⋮⋮なんて独占
欲の強い人なのっ! 最高よ! 濡れてきちゃうじゃない!﹂
928
もうやだこの女、本気で言ってやがる。しかも俺の魔法に抵抗で
きるくらいの意志力を、エロの欲望で生み出してるよこのビッチ。
爛々とした目で俺を見据えてくるのが怖ぇよ!
意志力だけで肉体的には脆弱だから、無力化だけなら出来るけど
女の子に怪我させるのは主義に反するし。おいビッチにじり寄って
来るな、近寄るな、俺の股間を凝視するな。
﹁ふふふふ⋮⋮今は萎えていても私には分かるわ。貴方のオチンチ
んぴょうぅ!﹂
言うな、ビッチの評価とか聞きたくないから! ﹃女神様のデコ
法の女神
ピン﹄をちょっと本気で撃ち込んで黙らせる。気のせいかもしれな
いが力の源泉から、威力の上乗せがされたような気がするが⋮⋮ま
ぁ死ななきゃそれで良いか。
オラクルハンマー
怪我はさせずに痛いだけとは言え、神聖魔法系最上位の攻撃魔法
︻神判鉄槌︼を脳天に直撃すれば流石のビッチも⋮⋮。
濡れて
﹁うふっ⋮⋮うふふふ! スパンキング? 良いわよちょっとくら
い乱暴な方が燃えてくるかおほぉぉ!﹂
とりあえず十発追加、天から降り注ぐ光弾が全てビッチに直撃。
あ、やっぱ気のせいじゃなくて、このビッチに対しては威力が上乗
せされてる。
﹁ま、負けな⋮⋮いわ⋮⋮貴方の⋮⋮愛も⋮⋮私が⋮⋮どくせ⋮⋮﹂
流石のエロい意志力があっても意識が朦朧として、足元がふらつ
いてる。はぁいくらビッチでも、女の子に痛い目見せるとかしたく
929
ないってのに。でも捕まったら理屈抜きで喰われそうだから身を守
る為には仕方ない。自己弁護が終わったところで、とどめの一発を
放つと、さしものビッチも動かなくなった。
あぁ怖かった! 魔王種と対峙した時より怖かったよ! 上空か
ら様子を見てたらしいティータニアが俺の傍に降り立ったので、事
情を話すついでに抱きしめて精神を落ち着けないと。
﹁怖かったですねクリス様、遠くから見てる私でも逃げたかったで
すよ﹂
全くだ、正直﹃愛される呪い﹄よりも、このエロに全精力を費や
せる意志力こそ脅威なんではなかろうか?
気絶したビッチに完全ではないが能力の封印を施すと、ティータ
ニアに﹃荷運びの紐﹄で連れ帰るように頼んだ。俺はこれ以上関わ
りたくないので義祖母さんにお任せする。
ティータニアを見送り、俺も誰一人として動かない取り巻き共を
放って帰るとするか。
930
嫌な邂逅︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました
クリス﹁孫の男二人をちょっと死なない程度にボコっちゃってすい
ません﹂
フローリパ﹁死ななきゃ好きにして良いですよ、私が許しますので
オホホ﹂
クリス﹁あとこっちの孫は自分ちょっと関わりたくないんっすけど﹂
フローリパ﹁ご安心を、私にお任せくださいな︵暗黒微笑︶﹂
非公式と言うか無断でやって来たのでボコってもあまり問題視され
ない模様
931
調教開始
急いで屋敷に飛び帰った私を出迎えてくれたのは、オード様だっ
た。どうやら他の皆はマナー教室の真っ最中みたい。
﹁お帰りなさいティータニアさん、クリスは置いてきちゃったの?﹂
﹁あはは、実は浮かんだ状態で空を飛ぶのって怖かったみたいで、
﹃コレ﹄を置いたらゴーレム馬車でお迎えに行くつもりです﹂
私の鼻は特別製で人の感情を嗅ぎ分けられるのはクリス様もご存
じだから、隠したって仕方ないのに。ホント男の人って馬鹿なんだ
から。でも強がって格好つけたがるのを見ると、そこが可愛いと思
ってしまうのが惚れた弱みなのかしら?
アイテムボックス
上空は寒いのと、クリス様が﹃コレ﹄が男性の目に付くと面倒な
事になるからと、︻収納空間︼から取り出したマントで、グルグル
巻きにして包み。荷運びの紐で縛って運んで来た﹃コレ﹄。
すぐにオード様とフローリパ様に﹃コレ﹄を任せて、早くクリス
様をお迎えに行かないと。帰り道馬車の中でイチャイチャする時間
が無くなっちゃうわ。
﹁荷運びの紐は分かるけど、何を持ってきたのティータニアさん?﹂
アンジェリカ
ソファの上で魔法の紐を解き、マントを解くと、何やら妙に幸せ
そうな笑顔で気絶してるビッチの姿。
932
オード様が実の娘の顔を見た途端、呆気にとられた表情で固まっ
てしまった。まぁ娘が荷物みたいに運ばれて来たらそりゃ驚くわよ
ね、でも仕方ないのよ、放置すると何するか分からないし。
﹁なっなっ! 何故アンジェリカがここに?﹂
﹁実は先程見た巨大蛙が⋮⋮いえ、あの蛙を召喚した術者が襲おう
としてたのが彼女らしいんです。一緒にフローリパ様にも事情を説
明しようと思うんですが﹂
﹁わ、分かりましたわ、お義母様をこの部屋に連れてまいります﹂
オード様が急いでマナー教室を開いてる食堂に向かう。私はと言
うと変な寝言を垂れ流しながら、気絶してるアンジェリカを見張っ
てる。暫くするとフローリパ様が駆け付けてきた。
私はクリス様から聞いた事情をお二人に話す⋮⋮怖い、話してる
間に段々と部屋が凍えていくような錯覚すら覚える。怒りの対象が
私じゃないのは分かっていても怖いです、このお婆さん。
﹁ふっ⋮⋮ふふふふふ⋮⋮愛の女神ディア様の加護を受けてるから
と、息子が散々甘やかした結果がコレですか⋮⋮なんと情けない﹂
目を覆い、肩を震わせる姿は確かに悲しんでるように見えるのだ
けど。感情を嗅ぎ分けると、フローリパ様の心情は半分が怒り、し
かも自分の不甲斐無さに怒ってるわね。もう半分は後悔の感情、自
責の念がフローリパ様を包み込んでる。
﹁ああっ私は恥ずかしい! 私の孫が、こんな醜態を晒すなんて、
なんとクリス様にお詫びすれば良いのでしょう! 馬鹿な息子がな
933
んと言おうと、断固として私が教育していれば!﹂
結構フローリパ様は大声で嘆いてるけど、まだ起きないアンジェ
リカってある意味大物かしらね? 怒れるフローリパ様に声を掛け
られないでいるオード様に、こっそり話しかけてみる。
﹁オード様、やっぱり彼女って甘やかされてたんですか?﹂
﹁ええ、それはもう。わたくしやお義母様が色々注意しても、必ず
複数の男性に庇われてね。叱ってもまったく堪えないし﹂
うーん﹃愛される呪い﹄とクリス様は評してたけど、人格がアレ
になるのも当然の結果よね。むしろ嫌われてたオリヴィアが良く男
性恐怖症で済んだわね、私も白い羽を持って生まれた鴉の一族だか
ら、周囲に嫌われる怖さは良く分かるわ。
﹁ティータニアさん! この上は貴族として恥ずかしくない最期を
遂げる為、これ以上の醜態を晒す前にこの私自らケジメを⋮⋮﹂
﹁待ってください、最期とか物騒な事は無しにしましょう。それに
クリス様は自分は関わりたくないから、フローリパ様にお任せした
いと仰ってました﹂
クリス様、彼女に物凄く苦手意識を持っちゃったみたいなのよね。
上空から見てた私でも、あの話の通じなさは怖かったわ。それこそ
女の子に優しいクリス様が実力行使で黙らせるくらい。
﹁ならば決めました! オード、オリヴィアの結婚式の後も、暫く
この街に滞在します。このフローリパ・ヘルトールの誇りに懸けて
! なんとしてもこのバカ娘の性根を叩き直すまで王都の土は踏み
934
ません!﹂
﹁は、はい⋮⋮ではそのように、ジェノバさんに伝えますわ﹂
ジェノバさんはヘルトール家お抱えの魔法使いで、不測の事態が
起こった時に鳥形使い魔で連絡する為に連れてきた、分家出身の女
性でお二人の護衛も兼ねており、毎朝お供として我が家にやって来
るので、気楽に挨拶する仲になってる。
嫌われる呪いを受けていた時のオリヴィアを、何かと助けていた
女性で、オリヴィアが姉のように慕ってるのだから、当然クリス様
の心象も良い。まぁ既婚者らしいから新たに嫁入りする心配はして
ない。
﹁そうだわ、ジェノバをこのアストライア邸に呼びなさい、彼女に
頼みたい事があります。それとティータニアさん﹂
﹁はいっ! 如何なされました?﹂
﹁一度は滞在を断っておいて厚顔な頼みかと存じますが。男性の使
用人の多いヘルトール家が借りてる屋敷に連れて行くことは出来な
いので、この屋敷の離れをお借りします﹂
なにやら気炎を上げているフローリパ様は、私が頷くと。再び魔
法の紐でアンジェリカを縛って屋敷の離れに連れて行ってしまった。
家主不在で勝手に決められちゃったけど、まぁ⋮⋮クリス様もフ
ローリパ様の頼みなら大丈夫⋮⋮かな? 嫌がる可能性も考えて空
き家の手配お願いしておこうかしら?
935
気を取り直してクリス様のお迎えに行きましょう。場所を知って
る私が案内するとして、ゴーレム馬車の操作は誰にお願いしようか
な? マナー教室が中断したのでオリヴィアに相談すると、公平に
クジ引きで決める事になった。
∼∼∼∼∼
あら? ここはどこかしら? いつも取り巻きを侍らせる私の部
屋ではないし、ヘルトール家の屋敷ではないわね?
そう言えば、良い男との出会いを求めて辺境に来たんだっけ、あ
れ? あれあれ? あそこにいるのは私を冷たい蔑んだ目で見た彼
じゃない。あぁっ! あの目で見られてる、冷え切った眼差しで私
を見てるわ。
何時の間にか傍に来た彼は私を睨みながら手を向けた途端、私は
金縛りに掛けられた様に全身の自由が利かなくなり、その場に倒れ
てしまう。
﹁あの、何をしたの? ね、ねぇ? ねぇったら⋮⋮﹂
問いかけても彼は無言だ、そしておもむろに私のドレスを破り捨
て、彼もいつの間にか裸になっていた。
︱︱︱ゴクリッ!
思わず息を飲む! な、なんて太くて長いオチンチン。凶悪なま
でに勃起したソレを、倒れた私の正面から見せつけるように仁王立
936
ちしている。
あんな大きな凶器で乱暴にされたらと思うと⋮⋮だめ、もう濡れ
てくるのが止められないわ、早く、早く私を犯して! ソレをくれ
るなら貴方だけのモノになっても良いから!
身体が動かないまま名前も知らない男に蹂躙され、彼でなくては
満足できない身体にされてしまう。その期待に私は今までない程の
興奮に包まれる。
そして嗜虐的な笑みを浮かべた彼は、とうとうドレスを全て剥ぎ
取り。生まれたままの姿にされると、露わになったおっぱいを乱暴
に鷲掴みにする。
﹁はっあっあぁぁぁ!﹂
凄いっ! 乳首を擦るように摘ままれた瞬間、全身に甘い痺れが
走り、ただでさえ受け入れる準備の出来ていたオマンコが更に濡れ
ちゃう!
﹁あぁ素敵⋮⋮もっと、おっぱいだけじゃなく⋮⋮んむぅ! んっ
ンンンンッ!﹂
もはや為すがままに唇を奪われる。絡みつく様に口の中を蹂躙す
る彼の舌に、混じり合う唾液に、屈してしまう。名前も知らない彼
とのセックスに溺れて、身体も心も屈服していくのが分かってしま
う。
このままじゃ⋮⋮あのオチンチンで犯されたら、絶対に彼の言い
なりになってしまう。しかし身体の動かない私には抗う術はない。
937
抵抗する気など欠片も存在しない。
﹁んっんっ⋮⋮はぁ⋮⋮き、て⋮⋮お願いアンジェリカのオマンコ
を、そのおっきなオチンチンでぶち抜いてぇぇ!﹂
逞しい腕に足を掴まれ、乱暴にオマンコを彼の目の前に晒される。
そして彼の逸物の先端が触れた瞬間、期待と興奮にもう溢れる愛液
を止められない。
﹁ふん、マン汁をこんなに垂らすとは、呆れるほど淫乱な女だな。
ほら俺のモノが欲しければ浅ましく囀ってみろ﹂
﹁欲しいっ、欲しいの! 貴方のおっきくて逞しくて、これまでの
男なんて比べ物にならないオチンチンを頂戴! その代わりに私の
オマンコもおっぱいもお口もお尻も全部、全部あげるから!﹂
私を嘲るようなその目線のまま、彼は軽く腰を引き⋮⋮一瞬で膣の
奥まで、子宮の入り口までぶち込まれる。あぁ! 私を犯すその巨
大な欲棒のあまりの快楽に涙が出てきた。
﹁あっあっあぁぁぁぁ! 凄すぎるのぉぉ! こんな凄いオチンチ
ン味わったら、もう他の奴とセックスできないのぉぉぉ!﹂
涙で視界がぼやけていく。周囲がぼやけた白一色に染まっていき
⋮⋮
﹁目が覚めましたかアンジェリカ﹂
嫌ァァァなんか彼がババアと変わってるぅぅ! あまりのショッ
クに私の意識は急激に覚醒した。
938
﹁ふぇ? ⋮⋮ゆ、夢?﹂
な、なんて事、挿入して終わりだなんて生殺しじゃない! あぁ
なんで良い所で夢が終わるのよぉ! そうだわ、二度寝しましょう、
上手くすれば夢の続きが⋮⋮あれ? 夢と一緒で動けない?
辺りを見渡しても覚えのない部屋ね、いつも煩い取り巻き共がい
ないけど、どうしたのかしら? それに兄と弟が私の傍に居ないな
んて珍しい⋮⋮ん? 妙に目線がいつもより高い? っていうか浮
いてる? 縛られてる!
﹁さて、気絶するほどの仕置きを受けたと聞いてます。頭痛、吐き
気、目の霞み等、自覚できる範囲で異常はありますか?﹂
﹁⋮⋮なんでババアがいるのほぉぉぉぉぉ!﹂
ババアに食って掛かった瞬間、頭を締め付けるような痛みに襲わ
れる。痛い痛い痛い! 頭が割れちゃう! 触れてみるといつも身
に付けれてる額のサークレットが妙な熱を放ってる。
﹁貴女が愛用してるそのサークレット、黄金のチェーンと額の部分
のサファイアが、貴女の銀の髪をより映えさせる。職人の確かな技
術と情熱が垣間見れる、正に芸術品と言って良い逸品です。婚約の
際に王太子から贈られた品でしたね﹂
﹁な、何をしたのよババア! 私にこんな事してタダで済むと思っ
てるの!﹂
近くにオルランドがいないからっていい気になってるわね! 見
939
てなさいよババア、後でお父様に言いつけてやるわ!
﹁そのサークレットには貴女が気絶してる間に、ある付与魔法を施
してます。効果は貴女が体験した通り﹂
ババアの指に嵌ってる、あまりセンスの良くない指輪が光ったか
と思うと⋮⋮痛ぁぁぁぁぁ! んほぉぉぉぉぉぉ!
ゆ、許せないわ! 私にこんな痛い思いをさせるなんて! 良い
男からのスパンキングならともかく、ババアにされても痛いだけじ
ゃない!
﹁このっ⋮⋮私に﹃嫌われる﹄のがどういう事か分かってるの!﹂
やった事は無いけど嫉妬以外でも私が誰かを嫌うと、周囲の男に
呪い
嫌われるようになるのは感覚的に分かってる。泣いて謝るまで許し
てあげないんだから! 私はババアを睨みつけ﹃嫌い﹄の感情をバ
バアに叩きつける⋮⋮が、どうにも手応えが無い?
﹁オリヴィアにしたように異性に嫌われる呪いですか? まったく
⋮⋮やはりその性根を私の手で叩き直さなくては、あの方に顔向け
できませんね﹂
﹁え? え? なんで?﹂
﹁流石に神より賜った加護は完全に封じる事は出来なかったようで、
まだ﹃愛される呪い﹄は有効だそうです。しかし他者に﹃嫌われる
呪い﹄を掛ける事は封じられてます﹂
特に堪えた様子が無くて混乱してると、ババアは縛られて浮いて
940
る私の腰を小脇に抱えるように掴み⋮⋮ドレスを捲り上げた! な、
なにするのよ、私のお尻を見て良いのは良い男だけよ!
﹁⋮⋮アンジェリカ、貴女下着は?﹂
﹁いつも穿いてないはぎゃぁぁぁ!﹂
︱︱︱バシィィィ!
こ、このババア! 私のお尻を叩くなんて! 完璧な美しさを誇
る私のお尻に痕が残ったのほぉぉぉ!
﹁躾の為にそのサークレットに付与魔法を掛けましたが⋮⋮これは
尻叩き
もっと基本的なところから矯正しないといけませんね。やはり悪い
子への仕置きはこれでしょう﹂
﹁ひぎぃ! ほぎゃあ! あひぃ! ま、待ってんぎゃ! 嫌ぁ!
許してぇ!﹂
﹁お黙りなさい! 立ち居振る舞い、言葉遣い、そもそもの常識!
全て論外です。不本意ながら、非常に不本意ながら貴女は王太子
の婚約者です。ならばせめて恥ずかしくない程度なるまで教育しま
す﹂
だ、誰か! 誰か助けてぇぇぇぇ!
∼∼∼∼∼
941
どんな状態でも男を魅了するのでマントで見えないように包み、
荷運びの紐でグルグル巻きにしたビッチを屋敷に持って、先に帰る
ようにティータニアに頼んだ。流石に急いでない帰り道で怖い思い
をしたくないからな。
ティータニアを見送った後。いざ帰ろうとすると、なんか寝なが
らビッチの名前を連呼する、不気味な連中を見て足を止めた。
眠らせた連中を放置して帰ったんじゃ、街道を使う人たちが迷惑
するんじゃないか? いや間違いなく迷惑だろうな。仕方なく連中
を街道の脇に退かす事にする。
人数が多かったので一時間くらいかけて寝てる連中を片づけた。
ついでに昂った感情を鎮める術を施した。要するに魅了状態を解除
したんだが大丈夫かな? これでビッチが攫われたとか言って、街
に突撃してこない事を祈る。
馬鹿兄弟はどうだろう? 年季が入ったシスコンみたいだから、
目が覚めたら暴走しそうだが、まぁフローリパさんに話しを通して
おけば大丈夫か。いざとなったら実力で黙らせるし。
大の男を大勢運んで疲れた腕を揉み解しつつ、かつて歩いた街道
を少し懐かしく思いながら歩く。オリヴィアの呪いを解呪する為に
カロリングの街を目指し、あの時二人っきりで寄り添い歩いた少女
は、俺の妻になり新しい命を宿している。
あ、でもこの辺を通った時は、別に二人っきりじゃなかったっけ。
カロリングの街に着く前にツイガメと名乗る商人の荷馬車に乗せて
貰ってこの道を通ったんだ。
942
俺が勇者になった後で彼の店を訪ねたら、随分と歓迎されたなぁ。
なんでも俺のお陰で大繁盛過ぎて、毎日嬉しい悲鳴を上げてたそう
だ。別になにもしてないんだが。
商売繁盛は実に結構な事だが、何故か﹃オリヴィア様が使った食
器﹄とか﹃女神の花嫁が眠った毛布﹄とか売りに出されていたのを
見て、ツイガメさんに笑顔で質問したら、土下座して商品を差し出
してきた。
なんでも金貨を山の様に積んでも欲しがる人がいたので、つい魔
が差したそうだ。はっはっは知るかボケ。ちょっと売った客の家に
案内して貰おうか? と、可能な限り優しい笑顔と声色で言ってあ
げたら、すぐさま顧客リストを差し出し、同行を申し出てきた。
その後は彼を連れて返金させてきた、ただの食器や毛布で金貨を
巻き上げるなんて暴利だからね。俺の目の前で新品と交換してあげ
たので、買った人間も泣いて喜んでたよ。喜んでたんだ、俺がそう
決めたから文句は言わせん。
そんな喜劇的な一幕があったが、ツイガメさんのお店は概ね良心
的な経営で、我が家も日用品などは彼の店で購入する事にしてる。
屋敷で働くオバちゃん達も、御用聞きの女の子にお願いすると、安
く色々な品物が買えるからと、今ではすっかり我が家御用達の商会
になってる。
何でも揃うしサービスも行き届いてるが、すべて任せる訳にもい
かない。例えばゴミ回収とか申し出てきたけど、断固として断った。
ゴミの類は屋敷の裏手に備え付けてある焼却炉で、俺が責任をも
って燃やす事にしている。俺が使った歯ブラシが売りに出されてた
943
のは忘れんぞツイガメさん。
なんで俺の歯ブラシを売った相手が脂ぎったオッサンなんだよ?
ちょっと想像すると怖くなってきた、イカン、ビッチの例もある
し勇者になると変な奴が寄って来るんだろうか? 来るんだろうな、
美少女と美女だけ寄って来いと言いたいが無理だろうな、はぁ。
そんな暗い考え事をしながら、必死に沈んだ気分を紛らわせるべ
く歩いてると、前方から見覚えのある馬車が走って来た。
﹁お迎えに上がりましたクリス様、ティータニア様から事情を聞い
て、徒歩でお帰りなってしまうと聞きましたので﹂
馬車の手綱を握ってやって来たのはユングフィアだった。俺は彼
女の姿を見た途端に駆け寄り、その豊満な膨らみに顔を埋める。
﹁きゃっ! ク、クリス様﹂
﹁何も言うな、ちょっとこのままで⋮⋮あぁ落ち着く﹂
程よい弾力と柔らかさを兼ね備えた、嫁の中でも随一の巨乳の感
触を堪能しながら、服越しでも分かる双丘の突起を抓み、恥ずかし
がる愛妻の喘ぎ声を聞き入る。
﹁あっ⋮⋮んっ⋮⋮クリス様ぁ⋮⋮あ、あんっ!﹂
おっぱいに顔を埋めていても、ユングフィアの真っ赤になった羞
恥の表情が簡単に思い浮かぶ。乳首を弄る手はそのままに顔を上げ
てユングフィアの唇を奪うと、身体から力が抜け為すがままになる。
944
﹁ズルいですよクリス様、私にもキスしてください﹂
と、馬車の中からちょっと拗ねた感じのティータニアが出てきた
ので、同じく抱きしめて、その小さな口を塞ぐ。
ふぅ、ビッチの事とか、他にも色々と嫌な事を思い出したせいで、
荒んでいた気分が癒される。それと同時に抱き締めた時に仄かに漂
う香水の香り、女の子の体温にちょっと、いやかなりムラッときた
ので、馬車の中に二人を連れ込む。
丁度馬車を停めた場所は街道から少し離れた場所だ。人払いを施
せば見られる心配はないだろう。二人も期待してたみたいで、結界
を張っている間に服を脱いで下着姿で待っていてくれていた。
945
調教開始︵後書き︶
読んでくださった皆様ありがとうございました。
書籍化の話も進み、どうやら発売は夏ごろになるそうです。
また編集さんとイラストレーターさんにお許しを貰いラフ画の一部
をちょっと公開します。
<i197642|16606>
946
再会︵前書き︶
今回エッチメイン
947
再会
俺の嫁さん達は基本的に、近所の仕立て屋さんが作った下着を身
に付けてる。お手伝いのオバちゃんが採寸して、専用の下着を仕立
てて貰う。
なんか悪い気もするが優先的に仕立てて貰ってるので、丁寧な仕
事ながら仕上がりが早い。あと仕立て下着の便利な点は胸とか成長
しても、すぐ仕立て直せるトコだろうな。成長中な嫁さんが多数い
るし。
デザインは本人の好みだったり、主にディアーネが考案したエロ
い下着だったり、俺好みのエッチな下着だったりと、かなリの数を
注文している。まぁ専門の針子さんを大勢雇ってるそうで、余所の
注文も受けれるくらいには余裕があるみたいだ。それでも結構待つ
必要があるみたいだけど。
なんでもオリヴィアが愛用してると言う評判があるので、時間が
かかっても欲しがる女性が大勢いるらしい。そして近所の仕立て屋
さんは、徐々に女性下着のブランドと化してきている。後ディアー
ネがデザイン料をかなり貰ってるそうだ。まぁそれはともかく。
﹁ちゅっ⋮⋮んむ、んっんっんっ⋮⋮あぁ良い匂い⋮⋮クリス様気
持ち良いですか? ちゅむ⋮⋮んっ、んっ﹂
下着ってエッチのスパイスとして、お手軽かつ非常にイイと思う。
例えば真っ白な肌のティータニアが、本人好みの清楚なイメージの
奴を纏いながら、俺の前に跪いて懸命にフェラしてる姿は最高だ。
948
・・・
エッチなエロ下着も興奮するが、大人し目なデザインの下着姿で懸
命に奉仕されるのは実にそそる。
﹁あぁ、最高に気持ち良いよティータニア。俺の為に練習してくれ
て嬉しいよ﹂
ティータニアも最近フェラが上手になってきたな、最初はぎこち
なく、ただ舐めてるだけだったけど。今ではカリ首に舌先を這わせ
たり、緩急をつけたりと、油断したら、あっさりイってしまいそう
なくらい気持ちが良い。
どうも彼女はセックスよりも俺に奉仕するのが好きみたいだ。エ
ッチする時、俺からリクエストが無い場合、積極的にこうしてフェ
ラチオをしてくれる。
右手でティータニアの真っ白な髪を撫でると、嬉しそうな上目遣
いで俺を見つめて来る。
玲瓏と呼ぶに相応しい美貌の、気の強そうなお姫様が、熱心に俺
に尽くしてくれるだけでも興奮するのに、こういう可愛い反応を返
してくれるものだから、夢中になってしまうのも当然だ。
そして、俺の隣に座って、胸の谷間を強調するエロい下着姿のユ
ングフィアが、おっぱいを揉まれて恥ずかしそうに、声を抑えても
抑えきれてないのは実に昂る。
ユングフィアの下着をずらし、乳首を口に含む。既に充血しピン
っと張った突起を唇で甘噛みし、左手の指で軽く抓んだり引っ張っ
たりしてる内に、彼女の喘ぎ声が徐々に大きくなっていく。
949
﹁はぅ! や、やぁ⋮⋮ひぐっ! んむぅぅ⋮⋮んあぁぁぁぁ!﹂
﹁あむっ、ちゅ、ちゅむ⋮⋮あぁ凄く大きくなってきました、んっ
んっ⋮⋮いつでも、出してください、クリス様﹂
人形のように端正な美貌が、俺のチンポをしゃぶりながら蕩けた
表情をしてる。おっぱいを攻められ必死に声を抑えているユングフ
ィアは、堪らなくなったのか指先が自分の秘所に伸びていく。
折角エッチしてるのにユングフィアを自慰でイカせるのも悪いし、
ティータニアも気持ち良く感じさせてやりたい。
﹁んっ! ティータニアのフェラが気持ち良いから、もう出るぞ!﹂
ここは我慢しない、髪を撫でていた右手でティータニアの頭を引
き寄せ⋮⋮彼女の口に中に射精する。
出
大量に射精した俺のザーメンは、ティータニアの小さな口には収
まりきらず、零れてしまった。しかし零れて彼女の身体を汚した精
液が、まるで芸術品を汚してしまったかのような背徳感を感じさせ
る。
﹁んっ! んくんく⋮⋮あぁクリス様の子種⋮⋮おいしい⋮⋮﹂
蕩けた表情のまま、うっとりと俺の精を飲み込むティータニア。
大量に射精してもまだまだ衰えないチンポの先端に、舌を這わせて
丹念に精液を舐めとってる。
﹁気持ち良かったぞティータニア、次は体勢を変えてエッチしよう
か。ほらユングフィアの上で四つん這いになるんだ﹂
950
ソファに仰向けになったユングフィアの上に乗り、手を繋いだ俺
とユングフィアに挟まれたティータニア。身長差のせいか愛液で濡
れたお尻がすぐ目の前にあり、フェラのお返しに、彼女のオマンコ
を舌で愛撫すると同時に、ユングフィアの膣内に欲棒を押し込んだ。
﹁んはぁ! あぁ! いきなりなんてぇ! 来てるぅ! クリス様
の逞しいのが奥まで、奥まで来てますぅぅぅ!﹂
﹁あぁぁん! 凄いのぉ、だめぇこんな事されたら気持ち良すぎて
ぇ! すぐイッちゃうのぉぉ!﹂
チンポと舌で二人の嫁さんを同時に感じさせるのは、かなり疲れ
る。しかし二人の美少女を同時に、自分の手で蕩かせる快感の前に
些細な事だ。
﹁あっあっあっ! オマンコの奥、突かれてます! クリス様のオ
チンチン、いつもと違う場所に当たって気持ち良いですぅぅ!﹂
確かにちょっと変則的な体勢だから挿入する角度が違う。考えて
みればユングフィアとエッチするのは、後ろから激しくするのが多
かったな。良い機会だし角度を変えてみると、肉ヒダが予想外のポ
イントを擦ってかなり気持ち良い。
愛液のお陰で、締まりの良いユングフィアの膣への挿入もスムー
ズだし、角度を変えながら腰を動かす。その度に快感でユングフィ
アの肢体は大きく震える。
﹁ユングフィア⋮⋮羨ましいわ、背も高くてこんなに胸が大きいな
んて。んっ、ちゅ⋮⋮んむ﹂
951
﹁ひぁ! ティータニア様ぁ、だ、だめぇそんなおっぱい吸わない
でぇ⋮⋮﹂
目の前で大きく揺れる爆乳を、ティータニアが舌を這わせ、乳首
を甘噛みする。
オマンコとおっぱいを同時に攻められたせいか、膣がキュッと締
まり、早く精液を注いで欲しいとばかりに、肉ヒダが俺のチンポに
絡みつき、さっき射精したばかりだと言うのに、段々と射精感が込
み上げてくる。
﹁くぅぅ! 気持ち良いぞユングフィア。もっとだ、もっと腰を振
るんだ﹂
﹁は、はいクリス様ぁ! はぁ! あんっ! あっあっンンンンッ
!﹂
俺の動きに合わせて腰を上下に振ると、より奥までチンポが届く。
ユングフィアも感じてるのか段々と動きが大きく、激しくなってい
く。
リズムに合わせるようにティータニアへの愛撫も激しくなってい
き、彼女もまた、ユングフィアの胸を強く攻める。
﹁ひぃ! あっあっすごい。こ、こんなの耐えきれませんイッちゃ
う! すぐにイカされちゃいますぅぅ!﹂
﹁あぁ本当に羨ましい。綺麗、感じて蕩けたユングフィアって本当
に綺麗⋮⋮んっ!﹂
952
﹁んむぅ! んっんっ⋮⋮﹂
胸を愛撫していたティータニアが身を伸ばし、その小さな唇でユ
ングフィアの唇を塞ぐ。いきなりのキスに驚いたユングフィアは堪
らず全身を震わせ⋮⋮
﹁んむぅぅ! ひぁ⋮⋮んあぁぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
﹁ぐぅぅ! ユングフィア! 膣内に出すぞ!﹂
絶頂と同時にユングフィアの膣が射精を促すかのように締め付け
てくる、そのまま膣奥に射精。何度もノックした子宮の入り口に、
二度目とは思えないくらい大量に注ぎ込んだ。
﹁あぁクリス様の熱いモノが⋮⋮妊娠しちゃう。こんなに出された
ら⋮⋮﹂
﹁ふぅ⋮⋮ふぅ⋮⋮あぁ、俺の嫁になったからには最低でも三人は
孕ませるからな﹂
﹁クリス様との子供⋮⋮嬉しい⋮⋮どうか私を何度でも孕ませてく
ださい⋮⋮﹂
絶頂したユングフィアは幸せそうな表情のまま、力が抜けたかの
ようにソファに身を沈め、荒い息をつく。チンポを引き抜くと膣内
に収まりきらなかった精液が愛液と混じり零れ落ちた。
実際結婚の際に受ける祝福って、妊娠しやすくなる上に母体を護
る効果がある。なんで嫁入りして何度もセックスしてるから、とっ
953
くに妊娠してる可能性が高いんだよな。
単に受精して3週間くらいしないと、占い師でも分からないだけ
で。もうちょっとしたら、全員のお腹が大きくなっても不思議じゃ
ない。
ってかその可能性が高い、何故かと言うと魔法は基本的に、術者
が高位であればあるだけ効果も高い。んで勇者の俺は神聖魔法の術
者として最上位だ、つまり妊娠のしやすさに関して、かなり効果が
あると見て良い。
オリヴィアを始め嫁たち全員のお腹が、大きくなってるのを想像
し⋮⋮もっと稼がなければと決意を新たにする。決めた、結婚式の
後は、とりあえず近場の大物を全滅させよう。
なんとなく頭を抱えるカール王子の姿が脳裏に浮かんだが、気の
せいと言う事で。おっとエッチの途中だと言うのに、目の前の嫁以
外の事を考えるのは駄目だな。二人に目を向けると、豊満なおっぱ
いを揉まれながらティータニアにキスされてるユングフィアの姿が
あった。
﹁あん⋮⋮んっんっ⋮⋮あぁティータニア様の口からクリス様の子
種の味がします⋮⋮﹂
その絶頂の余韻で無防備な彼女にティータニアはキスを繰り返し
てる。
﹁んっ⋮⋮ユングフィアの唇柔らかい⋮⋮﹂
﹁あむっ⋮⋮ティータニア様こそ、輝くような白い肌とその美貌を
954
羨ましく思います⋮⋮それに小柄な方がクリス様に可愛がっていた
だけるのに﹂
﹁そんな事ないわ、種族的に肉が付きにくいのよ。私がユングフィ
アくらい恵まれた身体なら、もっとご奉仕できるのに⋮⋮ちゅっ﹂
美少女同士のキスシーンは実に眼福だが、ティータニアの小さな
お尻が俺を誘うようにフルフルと揺れているので、俺はその誘惑に
抗わなかった。
∼∼∼∼∼
馬車の中で存分にイチャイチャエッチしたので、怖い思いをした
せいでダメージを受けた俺の精神は癒された。別にダメージ受けて
なくてもエッチはしただろうが、それはそれとして。
色々な体液で汚れた身体を濡れタオルで拭いて、のんびり馬車を
走らせる。自分で思ってるよりも激しくエッチしてしまったようで、
俺が馬車を操作し二人は休ませてる。
かなりの速度で空を飛んで来たから、ゴーレム馬車を使っても街
までかなり遠い。途中にカロリングの街の周囲に点在する農村が見
えたので、一休みする事にした。
体力のある俺とユングフィアは兎も角、ティータニアはちょっと
へばってるからな。甘いお菓子でも食べれば回復するだろう。
﹁お茶でも飲んでいこうか、なんか通りかかる人が多くて屋台街み
955
たいになってるし﹂
以前通りかかった時は長閑な景色の小さな農村だったんだけど。
式典に参加する人が休憩に訪れるので、目敏い商人が場所代を払い、
村の広場に仮設の店舗を作って商売してる。
実際に貴族の護衛やら、噂を聞き付けた商人たちが集まり、素通
りするのはちょっと勿体ないと思うくらいには賑わってるな。
村の入り口にある、柵で囲まれた野原は多分、普段は家畜を放し
飼いにしてるんだろう。今は沢山の馬車が停めてあり、柵の入り口
にいる村人にお金を払えば見張っていて貰えるそうだ。
馬車を預け、村に入ると、お祭りじみた雰囲気と熱気があって、
屋台街を眺めてるだけでも結構楽しい。
こういう場所で必ずある客寄せの大道芸を、村の子供達が好奇心
いっぱいの様子で見て、貰ったお菓子を美味しそうに頬張る姿とか
な。
ティータニアは人混みが苦手なのだが、一時的に嗅覚を鈍らせる
事でなんとかなった。それでも俺の腕にしがみ付き極力人混みを避
けて歩く。
ただでさえ白い翼が目立つティータニアに抱き付かれながら歩き。
美人のユングフィアが隣を歩いてるのだ、目立つなぁコレ。目立つ
ので当然ガラの悪いのが何人も話しかけてきた。
﹁よぉ兄ちゃん、良いご身分だ⋮⋮ぐごーぐごー﹂
956
﹁お嬢さん、そんな奴より俺と⋮⋮すぴーすぴー﹂
﹁お、お、お嬢さん、是非僕を罵っ⋮⋮あばばばばば!﹂
イカン、カロリングの街だと、殆どの人が俺の事を知ってるから、
嫁がナンパなんてされない。しかし俺の事を知らない上に、この開
放的な雰囲気じゃ男連れでも声かける奴がいるよな。
どこかの建物の中で休もうかと、辺りを見渡すがどこも満席っぽ
い。困った、これじゃ休めない。
五分に一回はナンパ目的で声を掛けられ、その度に追い返すのを
繰り返しながら、二人を連れて歩いてると。精一杯おめかしした感
のある、7∼8歳くらいの女の子が俺の前にやって来た。
﹁え∼と⋮⋮むっむらのゆうしがひりゃいた、その⋮⋮かふぇはい
かがでしゅか? おいしくてやすい⋮⋮で、ですっ!﹂
威勢のいい客引きも祭の醍醐味だが、こういう途中何度も噛みな
がら、必死に教わったセリフを言ってる姿が実に可愛いので、付い
て行くことにする。
お店に着いたら女の子の頭を撫でて、銀貨を一枚チップであげた。
にっこり笑ってお礼を言ってきたので、また頭を撫でる。忙しいか
も知れないけど頑張ってな、チップで美味しいモノでも食べなさい。
案内された店は村の農家の納屋を片付けて、臨時の軽食店にして
るらしく、近所で採れる山葡萄や木苺などで作ったお菓子とかを出
してるようだ。
957
ただ店の内装は素人が急いで作った感じがするので、あまり人が
入って無い。だけどゆっくり休みたい俺たちとしては好都合だ。
ふぅ、やっと落ち着いて休める。案内してくれた女の子に、ちょ
っと目元が似てる感じの女性が注文を受けに来たので、三人分のお
茶とお菓子を多めに頼み、やっと一息つく。
﹁俺に抱き付いてたティータニアは兎も角、やっぱりナンパも殆ど
ユングフィア目当てだったな﹂
背が高くて尚且つ凛々しい印象で、スタイルがちょっと犯罪的な
美少女のユングフィアは目立つ。歩いていて男女問わず何人も振り
返るくらいには目立つ。
なんか店の片隅で鼻の下を伸ばしてこっちを、っていうかユング
フィアを見てるオジサンが、恰幅の良いオバサンに殴られ連れて行
かれたが、まぁ俺には関わり合いの無い事だ。
﹁クリス様とティータニア様が恋人同士に見えて、私は余りモノだ
と思われたからでは? でなければ普通は、私のような大女に声を
掛けないでしょう﹂
﹁ユングフィアは自分の事分かってないのね、ちゃんと自分が綺麗
だって自覚した方が良いわよ?﹂
﹁そんな、私なんて背が高いだけですよぉ﹂
ユングフィアは謙遜⋮⋮ってかやっぱ無自覚か。なんていうか神
殿で生活してた頃でも十分目を引く美少女だが、法の女神神殿所属
の神官服はお堅いイメージがあるし、化粧ッ気は殆ど無かったから
958
な。
結婚した今はバッチリとヴィヴィアンから教わった化粧をして、
ディアーネから肌や髪の手入れの手解きを受け。それで魅力を引き
立たせる仕立服を着こなしてるのだ、男の目を惹かないわけが無い。
女は化粧で化けると言うが、素材が良いんで一層魅力を引き立た
せている。そして自覚が無いせいで、やたらと無防備だから余計に
男の目を惹くのだ。
その証拠に段々と人が集まりだしてきて、お店が混雑してきた。
案内してくれた女の子はこの家の子らしく、混みだした状況を見て、
ちょこまかと注文を聞いたりしてる。
お菓子を作ってる農村の主婦の皆さんも忙しそうで、なにやら﹃
ちょっとお客さん達に手伝って貰うように言ってきて﹄とか聞こえ
たが近所の人かな?
ティータニアとユングフィアが不躾な注目を浴びてるし、なんか
嫉妬の目線が飛んでるので、お茶飲んだら別の場所に行こうかな?
﹁なんか落ち着いて休めないなこりゃ、お茶だけ飲んだら退散しよ
うか?﹂
﹁そうですね、何故か注目されてますし﹂
注目の半分はお前だってば、嫁が美人で嬉しいが、あんまりモテ
るとちょっとモヤッとするのは男の性か。見せつけてやろうかと思
ったが、俺が逆の立場だったら、かなりムカつく行為なので止めて
おこう。
959
﹁まぁなんにせよお茶を飲んで、屋台街をちょっと見渡したら街に
早く戻ろう。汗かいたし湯屋に行こうか?﹂
タオルで拭いただけでは、どうもさっぱりしないので早く湯屋に
行きたくなってきた。
﹁はい、お背中流しますね﹂
﹁貸し切りの石室でエッチすると怒られますから注意してください
ね﹂
二人も期待したのか頬を染めて頷く、そして二人のセリフが聞こ
えたのかは不明だけど、なんか周囲から壁を殴る音が聞こえたが俺
は知らん。
話している内にいつの間にか案内してくれた女の子だけじゃなく、
妙に華奢な少女が給仕をしている。はて? 人混みで顔が見えない
けど、なんか見覚えがあるような?
それとは別に、なんか微妙に見覚えのあるような気がする女の子
が、テーブルを回って注文を受けてる。こっちもなんとなく見覚え
がある?
なんとか思い出そうとしているうちに、華奢な少女が俺たちのテ
ーブルに、独特な香気を放つハーブティーと果物でいっぱいのお菓
子を持って来て⋮⋮あれ? コイツ⋮⋮まさか。
﹁お前? ノワールか?﹂
960
﹁え? ⋮⋮まさかクリス兄ちゃん?﹂
少女かと思ったが、うん、間違いない、俺が魔法の修業を始めて
から、あんまり会ってないけど。男なのは間違いないんだけど、こ
のどっからどう見ても女にしか見えない顔は間違いない。二歳年下
の弟がなんでここにいるんだ? しかし少女趣味な柄のエプロンが
妙に似合うなお前。
﹁なに? お前冒険者になったって兄貴に聞いたけど、冒険者引退
してこの村で堅気になったのか?﹂
﹁ち、違うよ! ここの村長さんの家に休ませて貰ってたんだけど、
ほら忙しくなったから手伝ってって頼まれてさ﹂
事情を聞こうかとしたが、この混雑ぶりでのんびり話してる訳に
もいかない。とりあえず嫁さんを紹介だけして後でゆっくり話すか。
﹁お前、カロリングの街に来るんだろ? 暇が出来たらアストライ
ア家の屋敷を訪ねて来い。街の人は殆ど知ってるからすぐ分かる。
あとこの二人俺の嫁さんだから﹂
﹁えぇぇぇ! 兄ちゃんがこんな美人をっ! しかも二人も!﹂
簡単に紹介するとノワールは目を剥いて固まってしまう。失礼な
奴だな、それとお前ユングフィアのおっぱいを凝視するな殴るぞ。
﹁ご紹介に預かりました。クリスが妻ティータニアと申します﹂
﹁同じくユングフィアと申します﹂
961
混雑した店の中で長々た紹介すると迷惑なので、椅子に座ったま
ま、簡単に頭を下げるだけで紹介を終わらせる。ノワールの奴はま
だ衝撃から立ち直ってないが、仕事に戻らせる。大丈夫かアイツ?
﹁まさかクリス様の弟君と、偶然お会いできるなんて思いもしませ
んでした﹂
﹁うん、俺も驚いてる。王都に向かって冒険者になったって、兄貴
に聞いただけなんだよな﹂
﹁さっきのご様子ですと、最近は会っておられなかったのですか?﹂
魔術の修業が終わって下山したら、家から出て冒険者になったと
教えられただけなんだ、と手短に伝える。たまに山に入って来て、
日用品とか持って来てくれたんだけど、接点はそれくらいだなぁ。
忙しそうに動き回ってるノワールの方を見ると⋮⋮なんかいかに
もチンピラだと、全身で主張してるような連中に絡まれてた。男だ
と言っても信じて貰えず、手を握られ尻を触られる始末⋮⋮ちょっ
と可哀そうなので助ける事にした。
とりあえず不意討ちでチンピラどもを眠らせ、床に倒れた連中を
運ぼうと近寄ると、同じく助けに来たらしい給仕の女性は⋮⋮
﹁ちょっとノワール! アンタは毎度毎度懲りもせずナンパされて
⋮⋮げっ!﹂
﹁⋮⋮イレーネ、お前の家、遂に没落したのか?﹂
最期に会った8歳の頃とは比べ物にならないくらい綺麗に成長し
962
た、幼馴染だった。そうか⋮⋮ノワールと一緒に働いてる、つまり
は実家が没落して冒険者になったんだな。
﹁ちょっと! アンタ何か勘違いしてるでしょ! 休ませて貰って
る間のお手伝いなんだからね!﹂
﹁何も言うな、俺もかなり稼いでるから安心しろ。ノワールのつい
でにお前の生活を面倒見るくらい⋮⋮良い事考えた。お前、メイド
になって俺の事をご主人様と呼べ﹂
﹁その憐みの目で見るんじゃないわよ山猿ぅぅぅぅ!﹂
俺の生まれ育った村の領主、フォズ男爵の娘であるイレーネ・フ
ォズの、幼い頃からあまり変わらない罵声が響き渡った。
963
再会︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
結婚式が終わるまでは日常話の予定です。
964
仲良し兄弟︵前書き︶
今回エロなし
6/26 00:30
感想を見て思いついたエピソードを加筆、幼馴染の微妙な気安さと
距離感、ほんと描写が難しい。
965
仲良し兄弟
僕の名前はノワール、鍛冶職人に家に三男として生まれ、14歳
になると、幼い頃からの友人と一緒に村を出て、冒険者になった。
別に生活が苦しいとか、未来に希望が無いとかそういう切実な理
由じゃなく、成り上がりを夢見る親友ディムナに、熱心に誘われた
のが切っ掛けだった。
彼の家は農家で、長男ではないから畑を継げない、山間の村なの
で拡張も難しいからだ。そういう理由はあったけど、夢を語る親友
の熱意に負け一緒に行くことを決めた。
両親と兄を説得し、鍛冶職人として働いている父さんとディーン
兄さんは、心配しつつも、餞別代りに僕たちの防具や武器を作って
くれた。そして母さんは動きやすく頑丈な服を何着か縫ってくれた。
ありがとう、父さん母さん、そして兄さん。僕はきっと偉くなっ
て見せるよ。恰好だけは如何にも冒険者らしく、勇ましい⋮⋮よう
に見える、中身の僕が女の子みたいに華奢だけど。
僕は初見の人には殆ど女と間違われる、男らしく無い女顔が子供
の頃から悩みだった。だから冒険者になれば少しは男らしくなれる
かもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、もう一人の親友オルシンと王都へ
向い、そして冒険者となった。
966
ディムナは僕の同年代では一番体格に恵まれ腕力があったし、オ
ルシンは学があり頭の回転が速く、薬草とかにとても詳しい。僕も
腕力は無いけど弓の扱いには自信があった。男らしくなるために剣
とか習った事があるけど、体格に恵まれないので諦めた。
僕たちは若手の冒険者の中でそれなりに稼ぎ、たまに損して。そ
れなりに評価を受け、たまに失敗し。冒険者として経験を積みなが
ら、二年ほど経ったある日の事、王都は勇者の誕生に沸き立った。
稼ぎ時と見た腕利き冒険者は、ラーロン地方に向かってしまい、
王都の冒険者は減っていた。それで忙しくて姿絵とか見てないけど、
どんな人なんだろうな勇者って。奥さんはとんでもなく美人だって
噂だが。
人手が無いなりになんとか落ち着いてきたある日、僕たち指名で
護衛依頼が来た。
依頼人は生まれ故郷を治める領主、フォズ男爵様。ラーロン地方
まで遠出すると言う事で、顔見知りの僕たちに白羽の矢が立った訳
だ。
普通貴族の護衛なんかはその家が雇った武官が任される。冒険者
に声がかかるなんて、余程信用され実績のある人じゃないと、いく
ら人手が足りなくても普通はまず無い。
しかしフォズ男爵様の娘イレーネお嬢様と、我が家の長男である
ディーン兄さんが結婚したので、親戚関係になった僕に声がかかっ
たのだ。まぁ男爵様の家は規模が小さいから、雇える武官が少ない
って理由もあるけどね。
967
護衛対象は男爵様と、イレーネ義姉さん、兄さんの三人。そして
僕たち三人の合計六人で、マーニュ王国の東の端であるフォズ村か
ら、北端の街カロリングへと向かう。王都に寄れれば勇者の姿絵と
か買うんだけど、寄り道できるほど時間に余裕が無いから仕方ない、
現地で直接見るのを楽しみにしておこう。
街道は広く歩きやすい、大きな催しが開かれるらしく、大勢の貴
族が集まる関係上、道中は旅行気分になるほど平和だった⋮⋮なん
か派手な色の巨大蛙が頭上を飛んで行くまでは。
いきなり現れた巨大な魔物の出現に馬が驚いて暴れてしまい、運
悪く溝に嵌ったせいで車軸が折れてしまった。ついでに馬車から投
げ出された男爵様が腰を打って、まともに動けなくなってしまった
のだ。
体格の良いディムナが、恰幅が良くて体重が並みの男の倍はある
男爵様を背負い、なんとかこの村に到着した時には、ディムナは疲
れ果て倒れた。壊れた馬車を運んだ僕たちもヘトヘトだった。
小さな村だから宿屋はあっても満室で、途方に暮れた僕たちだっ
たけど、困ってるのを見かねた村長さんが家で休ませてくれて、ご
厚意に甘える事になった。
神聖魔法で男爵様の腰を治して貰いたかったが、村に駐在してる
神官様は運悪く明日にならないと村に戻らないそうで、男爵様の腰
に薬草を煎じた軟膏を塗って痛みを抑えるのが精々だ。回復の魔法
薬? 高いから僕たちは持ってません。
村は式典に参加する貴族や護衛の人が休憩するのを見込んで、殆
どお祭り騒ぎだ。僕たちも見に行きたかったけど、痛みで唸ってる
968
男爵様を放って遊びに行くのも躊躇われる。
男爵様は貴族らしからぬ人柄で︱︱︱悪い言い方をすれば、単な
る田舎の人の良いオジサンだ︱︱︱気にせず楽しんできなさいと言
ってくれたが、護衛である以上そう言う訳にもいかない。
ただ村長さんの家も、村の有志が集まってカフェを営業していた。
いきなりお客さんが大量に入ったらしく、見目が良いと言う理由で
僕とイレーネ義姉さんが接客する事になった。
疲労で倒れてるディムナ、薬草の調達に出掛けてるオルシンは当
てにならない。そこで馬車の修理をしていた兄さんに男爵様の世話
を任せ、エプロンを着てお店に入る、そして今⋮⋮
﹁なんでアンタがここにいるのよ山猿! あと没落してない! フ
ォズ男爵領は平穏無事だってば!﹂
﹁はぁ? お前給仕が客に言ってんの? ほれほれご主人様に対す
るメイドのように恭しく追加注文持ってこい﹂
何故か僕たちがお手伝いをしてる店に、僕のもう一人の兄である
クリス兄ちゃんがいた。イレーネ義姉さんと幼い頃と変わらない、
低レベルな口喧嘩を繰り広げている。
クリス兄ちゃんは僕が6歳の頃に魔法使いになると言って、修業
で山に籠っちゃったから、日用品を届けに行く時しか会わないくら
い疎遠だったけど。その前は毎日のようにこんな言い合いしてたな
ぁ、懐かしい。
イレーネ義姉さんは兄ちゃんが修業に行ってからも、頻繁に僕の
969
家に遊びに来ていた。そして仕事で忙しい両親や兄さんの代わりに、
僕と遊んでくれたり、勉強を教えてくれたりしてくれたんだけど、
時々寂しそうな顔してたのをよく覚えてる。
﹁ぐっ! ぐぬぬぬぅぅぅ! お、お兄ちゃんに言いつけるわよ!﹂
﹁はっ! 俺なんも間違った事言ってないよなぁ? お前は店員で、
俺は客だぞ? 注文したものを持って来いって言ってなんか悪いの
?﹂
兄ちゃんが物凄く悪そうな笑顔で義姉さんを煽る。顔を真っ赤に
じゃれあい
して兄ちゃんを睨むイレーネ義姉さんは、お店に迷惑を掛けまいと
してるのか、口喧嘩の勢いが足りない。まぁ口喧嘩してる時点で割
と迷惑かけてる気がするけど。
﹁あ、あのノワールさん、お二人は一体?﹂
不意に服の袖を引かれて振り向くと、とっても背の高い綺麗な女
性。さっき紹介された兄ちゃんの奥さんユングフィアさんだった。
クリス兄ちゃんより頭一つ分背が高くて、平均よりも小柄な僕と
相対するとその立派過ぎる胸が、丁度目の前に来るから目のやり場
に困る人だ。
僕が王都で生活してた頃は、男に言い寄られるのが日常だったと
言うのに。気になる女の子がいても、この女顔のせいでフラれてば
かりだと言うのに。兄ちゃんはこんな美人を捕まえるとは世の中不
公平だ。僕だって恋人が欲しいんだよ!
真っ白な翼の鳥人族の女性も、ちょっと気が強そうだけど物凄く
970
綺麗だし⋮⋮偶然を装って一発くらい殴っても、きっと誰もが許し
てくれるだろう。いや兄ちゃんが大嫌いなサンマロ︱の根を擦りお
ろして、こっそりお茶に混ぜるか。
サンマロ︱の根は薬味としても毒消しとしても使えるから、どこ
でも安価で手に入る。どこの家庭でも出される食材だけど、これが
兄ちゃん無理やり食わされて泣くくらい嫌いだからね、ククク⋮⋮
美人さんの前で無様を晒すが良い。
いや、兄ちゃんの性格的に、女の子の前ではやせ我慢するかな?
必死に平気な振りをして嫌いなモノを飲み込む姿を想像すると、
ちょっと楽しくなってきた。
でも、バレたら魔法で叩きのめされるような気が、8歳の頃から
魔法の修業してるだけあって、僕より間違いなく強いよね兄ちゃん
⋮⋮可愛い女の子を紹介してくれたら許してあげよう、そうしよう。
﹁あの? ノワールさん?﹂
おっと、ちょっと黒い考えに気を取られてた。
﹁兄ちゃんと言い合ってる人は、僕たち三兄弟の長男、ディーン兄
さんの奥さんのイレーネ義姉さん。子供の頃からクリス兄ちゃんと
は、顔を合わせる度にあんな感じに喧嘩する仲です﹂
暢気に会話してる内に口喧嘩もヒートアップしてきたが、イレー
ネ義姉さんの一言により呆気なく終わる事になる。
﹁⋮⋮アンタが過去にやらかした馬鹿話、隣の女性に暴露するわよ
?﹂
971
﹁申し訳ございませんイレーネお嬢様、それだけは何卒お許しくだ
さい﹂
さっきまでの威勢は何処に行ったのか、流れるように頭を下げて
降参する兄ちゃん。兄ちゃん、僕の知らないとこでナニやったのさ。
﹁兄ちゃん立場弱っ! さっきまでの強気はどうしたのさ﹂
﹁煩いノワール、子供の頃の話とは言え、嫁に知られるとちょっと
冷たい目線で見られかねないからな。ガキの頃のアレとかアノ件と
か、そう言えばアレもあったっけ。間違っても知られるわけにはい
かんのだ﹂
⋮⋮本当にナニやってんの兄ちゃん、流石に犯罪はしてないだろ
うけど。ティータニアさんがなんか興味津々だよ?
﹁お馬鹿、頭上げなさいよ。こんな混んでる店で止めなさい、黙っ
てるから安心なさいな﹂
﹁本当だな? 陰でこっそり話すとかも無しだぞ? 言ったら泣く
ぞお前の枕元で﹂
﹁そういう地味にキツイ仕返しは止めてよね、ちょっと周囲の目が
あるから、アンタちょっと外で待ってて。ああ、そうだ魔法使いな
ら治癒の術使える?﹂
﹁怪我人か? 使えるから大丈夫だ、口止め料の代わりに治してや
るよ﹂
972
﹁お願いね、お父様が腰を痛めちゃってね、村長さんの家で休んで
るから﹂
﹁それじゃお前の名前出して、おっちゃんの所に行ってる。ティー
タニア、ユングフィア、場所移すぞ。ノワール、お前はお菓子運ん
で来いよ﹂
﹁アンタが運びなさいっての、お店混んでるんだからさっさと出な
さい。私とノワールはお手伝い頼まれたんだから、途中で抜け出す
訳にいかないのよ﹂
﹁お前ガキの頃から、変わらず真面目だなホント。んじゃ支払い済
ませて村長さんの家に行ってるから﹂
﹁宜しく、お兄ちゃんも来てるよ﹂
﹁なんだ兄貴もいたのか、んじゃ手伝いがんばれよ﹂
さっきまでの罵り合いは何だったのか、あっさり普通の会話に戻
るこの二人は、やっぱり仲が良いんじゃなかろうか?
﹁むぅ∼結婚して間もないけど、クリス様⋮⋮妻である私よりも、
あの方に気安いような﹂
人形みたいに整った顔のティータニアさんだけど、頬を膨らませ
て拗ねてる。やっべ、ギャップで物凄く可愛い。やはりクリス兄ち
ゃんには、モテない男代表として天誅を喰らわせるべきか? 返り
討ちが怖いからバレないように。
﹁う∼ん⋮⋮ティータニア様? 髪の色や口調はかなり違いますが
973
⋮⋮イレーネ様ってなんとなく雰囲気がオリヴィア様に似てません
か?﹂
﹁あっ! 確かに言われて見ると⋮⋮﹂
オリヴィアって誰? まさかとは思うんだけどお二人ほどの美人
捕まえといて、他にも居るなんて言いませんよね? え、居る? しかも合計8人? しかも明後日にまた一人? 非モテの怨念を込
めてサンマロ︱の根を直接食わせよう、そうしよう。
兄ちゃん達を見送りながら、バレないようにぎゃふんと言わせる
方法を考えるのだった⋮⋮おい、そこの貴族っぽいの、潤んだ目で
見るな。冒険者っぽいのは注文と一緒に誘うな。畜生この怒りは兄
ちゃんにぶつけてやる!
∼∼∼∼∼
このカフェ自体が村長さんの家の納屋を利用したものだから、目
的地は店を出てすぐだった。なんか村の子供が集まってて騒がしか
ったが、世話役の女性にイレーネの名前を出すと、おっちゃんの休
んでる部屋まで案内してくれた。
なんで子供ばっかりなのか聞いたら、村の大人は皆忙しいので、
まとめて面倒見てるそうだ。ちびっ子がたくさん集まると賑やかだ
なぁ。なんか俺たちに目を付けたのか取り囲まれたぞ?
﹁こら、お客さんの邪魔しちゃダメよ﹂
974
世話役の女性がなんとか追い散らそうとしてるが、大人の注意よ
り好奇心が勝ったのか聞こうともしない。キラキラした目で囃し立
ててくる。
﹁おぉぉ! スゲェ羽生えてる! 本物? ねぇ本物?﹂ ﹁でけ
ぇ! この姉ちゃんでけぇ⋮⋮なぁなぁ肩車してよ﹂ ﹁おにいさ
∼∼ん? うっふ∼ん。ひとばんぎんかごまいでど∼かしら∼﹂ ﹁おい! お前に変な事教えたの誰だ!﹂ ﹁ママだよ! 将来必
要になるって﹂ ﹁そんな事より、えぃえぃ! おっきなお尻ぃ﹂
子供たちは白い翼のティータニアと、背の高いユングフィアが珍
しいのか、無遠慮に触って来る。一先ずティータニアは羽を引っ張
られると痛がるので、肩車して子供の魔の手から守る。
﹁ちょ、ちょっと、君たち危ないですよ、きゃ! 誰ですか私のお
尻を触るのは﹂
間一髪ティータニアは肩車で避難させたが、ユングフィアが子供
に囲まれてしまった。ん? こらガキんちょ、俺の服にハナクソ付
けるな。飛び上がってティータニアの翼に触ろうとするな。ユング
フィアのお尻を揉むな俺のだぞ。
アイテムボックス
小さな子供がすることだから叱るわけにもいかない。仕方ないの
で︻収納空間︼から小腹が空いたときに食べるお菓子とか、荷物を
整理するときに、うっかり入れっぱなしになってた玩具とか、色々
と子供が興味を持ちそうなのを、片っ端から取り出して、俺たちへ
の興味を逸らす。
現金なモノでお菓子とか玩具とか、価値の低い魔核とかくれてや
ると、さっさと別の場所に行ってしまった。はぁ、ちょっと疲れた。
975
﹁ご、ごめんなさい聞き分けが無くて⋮⋮﹂
まだ残ってユングフィアのお尻を揉んでる女の子を引き剥がし、
世話役の女性に任せる。
﹁いや、元気で良いと思うよ、おっちゃんが休んでるのはこの部屋
だね?﹂
﹁ええ、フォズ男爵様、お客様です。開けますね﹂
おっちゃんの休んでる部屋に着くと、そこにはベッドで唸ってる
おっちゃんと、兄貴がいた。
﹁クリス? なんでここに?﹂
﹁おっす兄貴、詳しい話はイレーネとノワールが来たら話すわ。そ
の前におっちゃんの治療すっから﹂
とりあえず腰を痛めたおっちゃんを治癒する。土魔法だと俺の腕
じゃ外傷を治すくらいしか出来ないので、神聖魔法を使い一瞬で快
癒させた。
﹁お? おぉ! 凄いなクリス君、ありがとう、腰の痛みがもうな
いよ﹂
﹁おっちゃんもお大事にな。それより後ろの二人は俺の嫁さんでな
⋮⋮﹂
ティータニアとユングフィアを兄貴とおっちゃんに紹介して、少
976
し話してるとイレーネが戻って来た。なんでも俺たちが店を出た途
端に客が帰ったそうだ。
ただノワールの奴が目当ての客が何人かいて、まだ手伝ってるら
しい。アイツモテるなぁ、男にだけど。
﹁お父様動けるようなったのね、ありがとうクリス﹂
﹁口止め料だって事忘れんなよ。特に嫁さん達に知られたら、延々
とお前の背後で泣き続けるからな﹂
﹁なんか仕返しの陰険さ増してるけど、黙ってるから信用しなさい。
あっそうだお嫁さんと言えば、私ねディーンお兄ちゃんと結婚した
から﹂
﹁え? お前兄貴と結婚したってマジで?! どっかの貴族の家に
嫁ぐって聞いたぞ﹂
俺が山から下りて今までの間に何があったんだ? 兄貴の方を見
ると照れた様子で頷いたから、片想い拗らせたイレーネの脳内結婚
じゃないのか。
﹁なんか知らないけど結婚式当日に破談になってね、それで理由は
分からないけど、ディーンお兄ちゃんと結婚することに決まったの
⋮⋮まっ昔からお兄ちゃんの事好きだから大歓迎だったけどね﹂
いやまぁ昔から兄貴に懐いてた⋮⋮ってか兄貴が好きだったのは
知ってたけどさ。
コイツが身内になるのはちょっと複雑だ。まぁ兄貴が幸せそうだ
977
ことほ
し⋮⋮弟として寿ごう。そうだ俺が祝福をかけてやれるのも良いな
⋮⋮うん、俺が二人を夫婦として祝福するんだ。
﹁なんか理由はお父様も良く分かって無いみたいだけど﹂
﹁わ、分かってない訳じゃないよ。クリス君が偉くなったから、縁
を結ぶようにパルティア伯爵に命令されたんだよ﹂
一瞬俺の所に連れて来れば良いのにとか考えたが、即座に頭から
追い出す。こんな口煩いのと結婚とか有り得ねぇ! 第一コイツは
兄貴が好きなんだし。
﹁お父様も肝心な事は聞かされてないのよ、中央の情報とか村には
殆ど入ってこないから、良く分からないんだけど。アンタなんかや
った? 重要人物っぽいのは分かるけど﹂
﹁やったと言うか勇者になった、それで魔王種倒した。名前は知っ
てるだろうけど月狼王クルトって狼の魔王。後デカい蟻の魔王な。
その功績で貴族になった。侯爵だぞ侯爵、ほら敬え﹂
とりあえず一番の理由はこれだろうから、細かい経緯を省いて言
う。そっか俺の兄弟ってだけで、決まった婚姻を無理やり破談にし
て、兄貴に嫁がせるくらい勇者の肩書は重いのか。
﹁はは∼∼いままでのごぶれいをおゆるしくださ∼い﹂
棒読みでおざなりな礼を返すイレーネからは、敬意の欠片も感じ
ねぇなぁおい。だけどいざイレーネが恭しい態度で俺に接する姿を
想像すると⋮⋮無いな、うん、なんか気分悪い。
978
﹁お前が態度変えると気持ち悪いから、やっぱそのままでいいや﹂
﹁敬えって言うからそれらしい振りしただけよ、公の場では身分相
応に振舞うからね。勇者も貴族も似合わないわねアンタは﹂
﹁ほっとけ、自覚してるっての﹂
﹁⋮⋮冗談は兎も角だけど、そうかクリスが勇者になったの、勇者
様の身内となれば伯爵様の考えも納得できるわ⋮⋮ねぇクリス、私
の結婚が破談になったのは、アンタと縁を結びたいパルティア伯爵
様の独断でね。そのおかげでお兄ちゃんと結婚できた⋮⋮本当なら
頭を下げて感謝したい、ありがとうと言いたい、だけど⋮⋮﹂
﹁イレーネ、僕は席を外そうか?﹂
兄貴がイレーネを気遣うように肩を抱き、イレーネも兄貴の手を
握る。あまりに自然に寄り添う二人に、あぁ夫婦なんだなと、納得
してしまった。
﹁ねぇクリス、︻告解︼の神聖魔法って使える?﹂
﹁一応、使った事は無いけどな﹂
︻告解︼とはかなり位の高い神官だけが使える神聖魔法で、これ
を使うと術者とその対象以外を遮断する空間を形成し、そこで交わ
された会話は絶対に他者に漏れる事は無い。何故なら術者にはかな
り強力な守秘の制約が課せられるからだ。また一説には術者の仕え
る神にその声が届くと言われている。
﹁⋮⋮お願い﹂
979
﹁分かった、何を悩んでるのかは知らないけど、話して楽になれよ﹂
即座に︻告解︼の神聖魔法を発動し、俺とイレーネだけしか存在
しない、空間を作り上げる。
﹁私ね、納得してたんだ。結婚する予定だったディマ男爵家の跡取
り息子ゴードンさんは、私の事を気に入ってくれてたし。ご両親も
とても良い人よ、少なくとも不満は無かったの。⋮⋮ただ私の初恋
が破れるだけ、いつか心の整理がつく些細な問題﹂
淡々と、出来る限り感情を露わにせず、心情を吐き出していく。
この魔法には思った事が口に出ると言うか、本人も気付いてない感
情すら気付かせる効果がある。
﹁当然破談になると聞いて彼は怒ったわ、ねぇ信じられる? この
国の東の地方アクサラ地方を統べる一門の長、パルティア伯爵を殴
ったのよ。武官が剣を抜いたけど、伯爵が﹃この件で彼に害意を抱
くは、私の誇りを踏み躙るに等しいと知れ!﹄ってお咎めは無かっ
たけどね﹂
﹁ゴードンさん⋮⋮良い男じゃないか﹂
﹁そうね、多分結婚して、初恋の痛みが薄まる頃には、深く愛して
たでしょうね﹂
世事に疎い俺でもパルティア伯爵は知ってる。炎を纏った矢で三
里離れた敵陣の将を射抜いたとか、千人の敵兵を一瞬で壊滅させた
とか。武勇伝だけでも枚挙に暇がない。
980
そのうえ政治家としても有能で、国王が事ある毎に相談を持ち掛
けると言う。一言で言えば物凄く偉くて権力のある人だ。
﹁私ね⋮⋮破談の話を聞いて伯爵を殴った彼を見て⋮⋮嬉しかった
の⋮⋮私との結婚の為に、一門の長を相手に怒った事と⋮⋮お兄ち
ゃんと結婚できる可能性に⋮⋮なんて卑しい! 嬉しいと思ってし
まった自分が情けなくてその場で泣き崩れたわ﹂
﹁⋮⋮兄貴には?﹂
﹁話したわ、幻滅されるのが怖かったけど⋮⋮黙ってるのは辛いの﹂
十年は長いな、ガキの頃からコイツとは何も悩まず本音を言い合
えたけど。真っすぐに相手の事を想うコイツに対し、告解の効果で
自覚した僅かな、ほんの小さな想いを必死に黙秘する事しかできな
い。
﹁だから⋮⋮ごめんなさいクリス。貴方のお陰でお兄ちゃんと結婚
できたなんて⋮⋮貴方のお陰で初恋の相手と結婚できて良かった、
なんて⋮⋮それを口にするほど恥知らずにはなれない﹂
﹁ホント、真面目で優しい奴だな。お前こそ謝る必要ねぇよ﹂
俯き肩を震わせるイレーネを抱きしめたい衝動に駆られるが⋮⋮
駄目、それは兄貴の役目だ。俺はただ︻告解︼により形成された空
間を解除し、二人だけの世界を消し去る。
﹁話⋮⋮聞いてくれてありがとう。ごめんね嫌な話だったでしょ﹂
﹁バーカ、ダチなんだから悩みとか愚痴くらい、聞いてやるのは普
981
通だっての。まぁ俺からは割り切れとしか言えねぇよ。ほらおっち
ゃんの腰治したし、早くカロリングの街に行くぞ﹂
なんとなく、イレーネの顔を見るのが気恥ずかしくて、つい部屋
アイテムボックス
から出てしまう。今から屋台街を見て回る気にもなれないので、壊
れた馬車を︻収納空間︼に収め街に戻る事にした。
982
仲良し兄弟︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
ちなみにサンマロ︱の根は山葵っぽいもの。子供の頃嫌いでも10
年もたてば問題なく食えるのをノワール君は知らない。
今は不憫っぽいけどもうすぐ育ちの良いお嬢さんたちの争奪戦に巻
き込まれるから頑張れ。
983
受難の予兆︵前書き︶
お知らせがあるので、出来てる分だけ投稿します、いつもより短い
です。
984
受難の予兆
唐突だが、﹃風呂屋﹄と﹃湯屋﹄は似てるようで別物だったりす
る。
風呂屋は大きな浴室にお湯を溜めて浸かるものを指し。水の確保
の面から川の近くに建てられることが多く、またお湯を沸かすにも
値が張るので、人口の多い都会にしかない。
湯屋は密封した部屋を蒸気で満たすことで、身体を温める施設を
指す。お風呂に比べて設営が簡単だが、やっぱり安くも無いので田
舎では見ない。
カロリングの街にほど近いこの村なら、小さめの湯屋があるかも
しれないと思って、村長さんに聞いたが無いそうだ。その代わりに
近くに綺麗な川があって、水浴びできると教えて貰ったが、出来れ
ば温まりたいのでカロリングの街まで我慢する事にした。
風呂なら我が家にもあるので、帰って入るのも良いかも知れない。
しかし毎日入れる風呂よりも、俺としては湯屋の方が好きだったす
る。ついでにユングフィアとティータニアの二人と一緒に貸し切り
の石室でイチャイチャする気満々なので、急いでノワールの仲間二
人を探して馬車に押し込み出発した。
街へと帰る馬車の中、最初は高価なゴーレム馬車にビビってたノ
ワール達三人。やはり冒険者やってると図太くなるのか、すぐに慣
れたのかソファで跳ねたり、棚の中にしまっておいた小物とか物色
してる。
985
銀細工の施された手鏡を物珍しそうに手に取ってるけど、アレは
確かディアーネの化粧道具だな。詳しい値段は知らないけど、高級
品だって教えるとビビッて元の場所に戻すあたり、素直で宜しい。
一方兄貴はイレーネの肩を抱き、窓から景色を眺めてる。ちょっ
とイラッとしたので、御者台の隣に座ってるユングフィアの腰を抱
いて、その豊満なふくらみをに頬ずりする。
﹁きゃん! クリス様ぁ前を見てないと危ないですよ﹂
﹁平気だって、道は広いし通行人も近くにはいないから﹂
このゴーレム馬車は流石に高級品で、使う人の事を考えた様々な
便利な機能がついてる。その機能の一つに、人間が進行方向にいる
と減速するというものがあるんだが、これのおかげで余所見をして
いても、事故の危険は格段に減るのだ。
一応前は見てるが、走りながらおっぱいの感触を楽しむのも悪く
は無いだろう。背後からイレーネの冷たい視線を感じるが無視だ。
ふっお前は色々と慎ましいからな、何処がとは言わんが。
﹁クリス、馬車を走らせてる時に、そういう事を言ってると事故に
遭うぞ﹂
﹁ん、ゴメン悪かったよ。ほら、お前らも走ってる時に動くと危な
いぞ﹂
どうもガキの頃から毎日のように叱られてたせいか、兄貴に注意
されると反射的に謝る癖がまだ直ってなかった。俺だけ兄貴に怒ら
986
しゃく
れるのも癪なので、ノワールたち三人が馬車の中をうろちょろして
るので注意しとく。
﹁大丈夫大丈夫! このくらい平気だっうわっ!﹂
丁度曲道だったので注意する意味で、わざと勢い良く曲がると、
はしゃいでいた三人はバランスを崩して、床に転がる。ったくちゃ
んと座ってろ。
﹁痛ってぇぇ! 兄ちゃんもっと丁寧に操作してよ﹂
﹁走ってる時は座ってろって言っただろ。兄貴も⋮⋮やっぱいいや﹂
チラッと見ると、兄貴には曲がった拍子にイレーネが抱き着いた
みたいで、さっき以上に甘い雰囲気を漂わせてる。なお、そのイチ
ャついてる夫婦の父親であるおっちゃんは、持ち帰った果物たっぷ
りのお菓子を幸せそうに食べてる。
なんでも腰が痛かったときは碌に食事が出来なかったからと言っ
てるけど。おっちゃん腰を痛めたのは巨大蛙が飛んでった時だから、
俺が治すまで二時間も経ってないと思うんだけど?
﹁兄ちゃんさ、新婚夫婦には目を向けにくいんだから、内装見るく
らい良いじゃんかよ﹂
そうだそうだと、俺に文句を言ってくる年下三人。こいつら俺が
勇者だと知った時は畏まってた癖に、今は妙に噛み付いてくるな、
反抗期か?
﹁ああもう! ディーン兄さんは身内の前だと遠慮なくバカップル
987
だし。クリス兄ちゃんは堂々と見せつけるし。男爵様は食ってばか
りだし!﹂
﹁馬車の中が二重の意味で甘ったるいんだよ!﹂
﹁彼女いない俺らの前で見せびらかしてんの! ねぇ!﹂
何を言ってるんだコイツらは、新婚夫婦なんだから、このくらい
普通だぞ? おっと、ユングフィアに構ったから、反対側に座って
たティータニアも抱き付いてきた。
﹁クリス様ユングフィアばっかりズルいですよ﹂
髪を撫でてあげると嬉しそうに甘えてくるのが可愛いなぁ。さっ
き余所見をしちゃ駄目だと言われたばかりだけど、我慢できず唇を
奪う。
﹁ん⋮⋮んっ、ちゅ、ちゅむ⋮⋮もう、クリス様ったら﹂
﹁ゴメンゴメン、前を見てるように言われたばかりだけど、ティー
タニアが可愛くて⋮⋮つい﹂
﹁もう、夜まで我慢して下さらないと⋮⋮でも夫人のルールで昼間
にエッチしたら、夜の閨には他の夫人に順番を譲る決まりになって
ますから⋮⋮約束通り湯屋で可愛がってくださいね﹂
俺も初めて知ったルールだな、やっぱ人数が多いと決まりが出来
るのか。後でオリヴィアに聞いてみよう。
﹁言われるまでも無いよ、ティータニアの綺麗な肌を隅々まで磨い
988
てあげるよ。勿論ユングフィアもな﹂
﹁は、はい⋮⋮でも、石室の中でエッチしたら怒られちゃいますよ﹂
うん、頑張るよ。でもな汗まみれのユングフィアとか、真っ白な
肌が赤く上気してるティータニアの姿を思い浮かべると⋮⋮ま、ま
ぁ頑張って理性を保つとしよう。さっきエッチしたばかりなのにま
たムラムラきてしまった。
﹁頑張って休憩室まで手を出さない⋮⋮ように頑張る﹂
﹁くすくす、クリス様のエッチ。頑張ってくださいね? 尤も、私
はいつでも受け入れますが﹂
﹁わ、私だって望まれればいつでもこの身を捧げます。けど湯屋で
は事故が多いから⋮⋮﹂
両隣の二人の腰を抱きつつ、他愛もない夫婦の会話をしてると、
なんかノワールから恨みがましい視線を感じる。
﹁ははは⋮⋮やっぱ後で殴る! 今まで彼女いなかった僕の前でっ
! よくそんな会話できるね馬鹿兄ちゃん! このスケベ馬鹿!﹂
なんか拳を握りしめて文句を言ってくるノワール。そして仲間二
人も頷いてる⋮⋮うーん、確かにちょっと無神経だったかな?
﹁はいはい、悪かったよ。ムカついたのなら、街に着いた後で喧嘩
くらい受けて立ってやるよ﹂
そうだ、忘れてたけどオリヴィア達に、俺の兄弟とイレーネを紹
989
介しないと。他にもカール王子とかに伝えておくべきだ。確か俺の
兄弟ってだけで面倒事が起こるそうだし。
﹁言うの忘れてたんだけど。俺の嫁たちとか街のお偉いさんに、俺
の兄弟だって紹介するつもりだけどさ。変な奴が寄ってくるかもし
れないから気をつけろよ。既婚者の兄貴は多分平気だろうけど﹂
﹁ん? なに、勇者の弟だから兄ちゃんとの縁目当てで、変なのが
来るって事? ふんっ! そんなのに引っかからないよ﹂
﹁悪い、変な奴って言い方はアレだッた⋮⋮まぁいいか。どうしよ
うも無くなったらフォローすっから好きにしろ﹂
オリヴィア曰く、俺の縁者にはお偉いさんから婚姻の申し入れが
殺到するらしい。冒険者は勿論、一般の人達とは比べ物にならない
くらい、美容と化粧と服装に金と時間を費やしてる、貴族の子女相
手に大丈夫かな?
きっちり教育受けた貴族の話術って半端じゃないらしいし、女慣
れしてないノワールとかカモっぽい、って言うかお手軽な獲物?
ちなみに、なんでそんな事知ってるのかと言うと。俺には兄と弟
がいるってディアーネに話したら、実家のメイティア伯爵にその話
が伝わり。
更に数日の間に、王都の貴族たち全員が知り。彼らの間で俺の兄
弟を誰が取り込むかで、大真面目に議論が始まった。と、つい先日
お義母さんから聞いた。
なんでも中央の貴族からすれば、既に兄貴もノワールもアストラ
990
イア侯爵家家臣と見做されてて、誰もが娘と結婚させて俺と縁を繋
ぎたいんだとか。成り上がりを果たした以上は仕方ない。人脈って
大事だから俺としては仕方のないものと割り切ってる。まぁ多分美
人だから兄貴とノワールには幸せになって欲しい。
そう思ってた矢先に、兄貴がとっくに結婚してたのは予想外だっ
たな。抜け駆けでパルティア伯爵が抱え込んだので、兄貴は現状対
象外として、弟のノワール争奪戦が水面下で起こってるんだろうな
ぁ。俺は聞かされてないが。
娘の結婚相手の多くが、ビッチに魅了されてるせいで、上級貴族
の面々が本気を出してるらしいからな⋮⋮頑張れノワール、間違い
なく美人にモテモテだぞ。
﹁ふんっ! 僕は心と心が通じ合った恋人が欲しいんだ、そんな打
算まみれな結婚なんて真っ平だよ﹂
﹁お前なに乙女みたいな事言ってんの? 似合ってるけどさ﹂
正直オリヴィア以外の嫁たちは、まず打算と思惑が最初にあり。
そこから出会い、結婚して、セックスやら生活の中で愛情を育んで
るんだが。
身も蓋もない事言うと兄貴とイレーネが結婚できたのは、二人が
好き合ってたのもある。だけど大部分が周囲の打算だぞ? それを
口に出すのは粋じゃないから言わないけど。
﹁乙女みたいとか言わないでよ! 僕は男だぞ﹂
﹁じゃ、童貞みたいな事言うな﹂
991
﹁どどど、童貞じゃないし! 王都に二年もいれば娼館くらい何度
も行ってるし!﹂
なんか童貞丸出しな反応だな? 仲間のディムナに目を向けてみ
ると、首を横に振ってるので、多分見栄を張ってるだけか。俺もオ
リヴィアと出会う前は童貞だったわけだが、まぁそこは棚に上げて
だな。
﹁さっきも言ったが、俺の兄弟ってだけで色々寄って来るらしいん
だ。ヤバくなったら助けるけど、基本はお前の好きにしろよ。ディ
ムナ、オルシン。お前らもノワールの事を助けてやってくれ﹂
﹁むしろノワールの場合、娘より息子を送り込んで来るんじゃね?﹂
﹁うん、クリスさんの妹だと、勘違いする奴は必ずいると思う﹂
﹁大丈夫、必ず弟って紹介させる! 兄弟って紹介すると高確率で
兄妹って思われるから。実際何度も間違われたし﹂
多分兄貴に紹介されて勘違いした奴いるんだろうな。兄貴に目線
を向けると頷いたし、コイツも女顔で苦労してるんだろうな。
実際碌に手入れしてない筈の髪は、艶々で光を反射して輪っかが
出来るし。普通野外活動の多い冒険者の肌は、ガサガサでシミとか
多いんだけど、コイツは日焼けしにくい体質なのか白磁のように真
っ白だ。
しかも沢山飯を食っても、殆ど贅肉が付かないとか、世の女性の
大半を敵に回してるんじゃないか? 我が家の嫁たちも体型の維持
992
の為に、ほぼ毎日中庭で運動してるんだぞ。
ついでに、人妻オーラが出てるが、文句なしの美少女であるイレ
ーネと並べても、ノワールを誘う男が多い事から分かるように。容
姿の方もそこらの女性よりも遥かに美人なのである。男なのに。
流石に男に誘われるのは可哀そうなので、ちゃんと弟と紹介する
から。そう言うとノワールは少しは安心したようだ。ホッとした表
情で座る。あと微妙にニヤついてるのは、多分期待かな? 分から
んでもないけど。
∼∼∼∼∼
街に到着すると、カロリング邸にすぐ向かう。本当は湯屋でユン
グフィアとティータニアの二人と、一緒にさっぱりする予定だった
のだが。おっちゃん達を連れてるからには後回しだ。
﹁俺はこの後カロリング邸に寄るけど、そう言えばおっちゃん達っ
て何処に泊まるんだ?﹂
﹁式典に参加する貴族の為に確保した宿があるはずだから、そこに
泊まる予定だよ。知り合いがいるなら、そっちに泊めて貰う人も多
いみたいだね﹂
ふむ、宿の名前を聞いたら、俺が勇者になった日に泊まったあの
宿か。ちょうど通り道の近くだし、おっちゃん達を宿に送ってあげ
るとするか。
993
﹁その宿なら場所知ってるから送るよ。そうだ兄貴、明日行くから
メシでも⋮⋮﹂
﹁お待ちくださいクリス様。この馬車にはアストライア家の家紋が
入ってるんです、目立つなんてものじゃありませんよ﹂
宿の方向に向かった俺をティータニアが止めた。この馬車にはア
ストライア家の家紋である、﹃天秤と杖を持った乙女﹄の意匠が施
されている。ちなみに国王陛下がデザインしたのだそうだ。
中央の貴族は間違いなく知ってるだろうし、地元の人も大勢知っ
てる。この馬車で街の入り口に行くと、門番が頭を下げて通してく
れるくらいには、知名度がある家紋だ。
そんな意匠の馬車で送迎されてきた人なんて、注目されるのは目
に見えてる。好奇の目線に晒されるならともかく、悪意を持って近
寄られると、人の良いおっちゃんとか絶好の獲物だよな。
﹁それじゃ俺の家は⋮⋮ちょっと事情があって兄貴たちを入れると
拙いからな。なぁおっちゃん、来客用の家を用意してあるから、そ
っちに泊まるか? 滞在費浮くよ?﹂
﹁助かるけど良いのかい?﹂
﹁平気だって身内だし、おっちゃんが気にすることないよ﹂
オリヴィアの男性恐怖症があるから、俺の屋敷には男の来客があ
った場合を考えて、離れを用意してる。
でも今その離れにビッチがいると、ティータニアから聞いてるか
994
らな。ノワールは魅了されても一夜の過ちで済みそうだけど、新婚
の兄貴に会わせる訳にはいかない。
幸いティータニアが気を利かせて、空き家を手配してくれたので、
そっちに滞在して貰おう。場所を聞いたら神殿に近いそうだし、俺
の結婚式に出席して貰うのに丁度良い。
﹁私たちは正直中央の貴族とは話が合わないから助かるけど、良い
の? 用意してたって事は他に泊まる予定の人いるんじゃない?﹂
﹁大丈夫よ、他の夫人の親戚が訪ねてきた時の為に用意した家だけ
ど、多分使わないから﹂
ビッチ
実際に空き家を用意したティータニアが無難に説明する。まぁ屋
敷の敷地に入れたくない客を離すための家とは流石に言わなかった。
フローリパさんが滞在する可能性を考えて小さいが、相応に立派な
家なので不便はないだろう。
おっちゃん達を空き家に案内し。予定通りに湯屋で汗を流した後
は、二人と存分に愛情を確かめ合った。
湯屋を出ると日没まであと一時間くらいか。今日中に用事を済ま
せたいので、急いでカロリング邸に向かう。
995
受難の予兆︵後書き︶
<i199485|16606>
8月1日に本作の書籍版が発売される予定です。これも読んでくだ
さった皆様のお陰です。
この場を借りて御礼申し上げます、これからも本作をよろしくお願
いいたします。
しかしAmazonに自分の作品のページがあると、ついニヤつい
てしまうのは形になってきたのを実感できるからですかね?ww
996
小さな胸の痛み︵前書き︶
お待たせして申し訳ございません。
997
小さな胸の痛み
巨大蛙がボクの屋敷から飛び立ってから約一時間。二つ名持ちの
四人の奮闘もあって、カロリング邸の地下、イザベラが引き籠る部
屋の前に到着した。
流石にクリス殿に頼るだけで、ボクが何もしない訳にはいかない
からね。問題はもう一時間も経っていて、クリス殿がいなかったら
間違いなく手遅れだったが。
クレイター王に貰った遠距離通話の魔法道具﹃囁きの石板﹄で、
クリス殿から巨大蛙を退けたと報告を受けた。ビッチも無事らしく
ホッと一安心、これで心置きなくイザベラに説教が出来るぞ。
あの巨大蛙はイザベラにとって、最大級の切り札らしい。あのデ
カいだけで愛嬌のある外見の癖に、地味にドラゴンよりも格の高い
魔物で、いくらなんでもあれ以上の召喚獣は従えられない。これが
一流魔法使いであるジョニーとジャックの見解だ。
召喚魔法は原則として強力な魔物ほど、呼び出し、使役するのに
能力のリソースを割かねばならないらしい。その為イザベラは現在
非常に消耗している。
その証拠に道を阻む召喚獣は、イザベラにしては弱い。加えて僕
たちに対して殺意を持っていないので、邪魔するだけで攻撃はして
こない。それでも多彩な生態を持つ魔物を相手にすると、突破に時
間がかかってしまったのだ。
998
アメーバ状のスライムに服を溶かされたり。巨大蛾の幻覚作用の
ある鱗粉で、危うく男相手に発情しそうになったり。感覚を狂わせ
る異形の蝙蝠のせいでジェイソンが⋮⋮いやよそう、彼の名誉の為
には黙秘するしかない。
襲い来る魔物たちとの激闘が、我がカロリング邸の地下室に通じ
る廊下で繰り広げられる。一人、また一人と倒れ、ボクが進む道を
切り開いてくれたのだ。
﹁四天王たちよ。ありがとう安らかに眠れ﹂
﹁いや死んでませんが⋮⋮﹂
﹁ってか四天王ってなんっすか?﹂
お約束にツッコミを入れるとは無粋な奴らめ。
﹁なんとなく言ってみたかっただけだよ。それに君ら四人は我が家
の武官とは扱いが違うから、なんか称号とかあったら分かり易いと
思ってね﹂
武官たちはカロリング家の戦力ではあるけど、普段警護の仕事と
か見回りとか色々とやる事があって、すぐさま動かせる彼らは実に
便利だ。
ちなみに四天王の呼称は、ついうっかりデシデラータとジャンヌ
に冗談で言った結果。メイドに伝わり使用人に周知されてしまって
いて、イザベラも含め五人が四天王と呼ばれている。
まぁそれはともかく。彼らのお陰でなんとかイザベラの引き籠る
999
部屋、地下の一番奥まで到達したのだ。
奥の部屋のカギはかかってるが、屋敷の主人であるボクは当然合
鍵を持ってる。これで溶接でもしてたら、壁ごと扉を破壊したけど
そんなこともなく、あっけなく扉は開く。
部屋は暗いが、ジョニーが火魔法で灯りをつける。そこにはシャ
ルローの背に隠れたイザベラの姿があった。
﹁女なのは知ってたが意外と若いな?﹂
﹁あ⋮⋮うう⋮⋮イ、イザベラは⋮⋮その⋮⋮﹂
⋮⋮人見知りってか、これはもう対人恐怖症ではなかろうか? 魔物越しに会話するときの強気な姿をイメージしてたけど、少し予
定変更。強面の四天王が囲んだら暴発するかもしれない。
﹁イザベラとはボクが話しを付ける。君たちは部屋の外で待機して
いてくれ﹂
﹁カール様なら、この距離でイザベラが何をしようと、なんとかな
ると思いますが。せめて誰か一人くらいは⋮⋮﹂
ロバートが心配そうに忠告するが、多分無理。絶望しきって心が
弱ってる時に、自分に依存させた︱︱︱多分夢魔とか淫魔とかその
辺の魔物の術を使ってると思う︱︱︱シャルロー以外が近くにいた
ら、多分会話にならない。
﹁ありがとうロバート、だがイザベラは味方。彼女も四天王の一人
だ、ここは腹を割って話すよ﹂
1000
渋々と言った感じで四天王は部屋から出ていき、ボクもイザベラ
から見えない範囲まで下がる。これで無理だったら、例のオウムの
魔物越しの会話しかないか。
﹁さて⋮⋮イザベラ最初に言っておくが、次は無い。君以上の召喚
術師はいないと思ってるし、その力を貸してくれてるからには、報
いるのは当然だと思ってる⋮⋮けどね!﹂
﹁ひぃ! あ、あの⋮⋮その⋮⋮﹂
語気を強めたボクの言葉に、イザベラが震えているのが分かる。
暗いから見えにくいけど、シャルローがイザベラを抱きしめて慰め
てるように見えるな。表情は見えないけど手つきは意外と優しそう
だ。
フードを目深に被った状態だけど、ボクの方を向いて弁解するの
その姿は、まるで幼い子供めいている。今の彼女を見て世界一の召
喚術師と信じる人はいないだろう。
﹁勇者殿が君の凶行を止めたと連絡を受けている。だけど万が一間
に合わなかったら、どうなってると思う? いくら傍迷惑なビッチ
でも、公爵家の令嬢でしかも王太子の婚約者だ。殺害した者がどう
なるかなんて分かるだろ?﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮国を相手に⋮⋮逃げられるとは⋮⋮その、思ってな
い﹂
彼女は正真正銘、召喚術師として最強だと思う。多分勇者は別格
として、この国で三指に入る強さだ。だがそれだけ、国という巨大
1001
人の群れ
すぎる組織にはどうしたって抗えない。逃げる事は出来ても、決し
て逃げ切れることは無い。
震える手でシャルローに縋りつくイザベラを見て⋮⋮今回はここ
タガ
までにしよう。正直彼女が自棄になったら、ボクなんてあっさり死
ぬだろう。巻き添えでシャルローも死ぬからこそ箍になっていて、
それが彼女を人の世に留めている。
﹁⋮⋮ご⋮⋮ごめん⋮⋮なさい﹂
﹁カロリング卿、私からもお詫びをいたします。イザベラの暴走は、
止める事の出来なかった私の責でございます﹂
おや? 意外だなシャルローがイザベラを庇うとは。ボクに頭を
下げて謝るなんて、正直洗脳された操り人形かと思ってたよ。最初
にこの街で拾った時の身勝手さは無くなり、普通の好青年に見える。
﹁安心してくれ、幸い死者はいないから今回は不問にするよ。けど
次は無い事を覚えておいてくれ﹂
二人が頷いたのを見て、ボクは地下室を後にした⋮⋮話を聞いて
いたらしい四天王は甘いと言っていたが、今回は未遂だったからね。
四天王たちは自室に戻らせ、ボクは一人執務室で誰もいない事を
確認。そして⋮⋮。
﹁た、助かったぁぁぁぁ! セーフ! 超セーフ! 内部崩壊フラ
グが折れたぜ、ヒャッハー! 厄介事はもう来るな! ド畜生ぉぉ
ぉぉ!﹂
1002
イザベラの暴走から頭痛と胃痛が止まらなかったけど、もう大丈
夫だ! とりあえずストレス発散に大声で叫び、仮眠用のベッドに
飛び込む。ふぅ安心したら眠くなってきた。
別にビッチが死んでも心は痛まない。しかしアレはその辺をふら
ふら歩くだけで異性を魅了して騒動を起こす。しかも危害を加えら
れた瞬間、王都の有力な家の若者たちから、凄まじいヘイトが集ま
る、っていうか敵視されるとかなんの罰ゲームだよ。ボクは真面目
に領地運営してるだけなんだぞ!
取り巻きも怪我させないで気絶させたと報告を受けたし、ビッチ
を祖母に預けて隔離したのも良い。肉親に預けたのならボクに矛先
は向かわないからね。
まったく、馬鹿兄貴は婚約者の手綱を握ってろよ、せめてこっち
にビッチが来るなら連絡くらい寄こすとかさ。そうすれば女性冒険
者を派遣して帰らせたのに。鳥形使い魔を召喚できる術者くらいい
るだろ直情馬鹿め。
心の中で兄貴に悪態をついてると、窓の外に見慣れたオウムが滞
空していた。微妙にノックするかどうか迷ってるように見えるのは、
召喚者の心情故なのだろうか?
﹁イザベラか? さっきの事なら反省してくれたのなら、それでい
いんだぞ?﹂
﹁⋮⋮言い忘れた事ある。勇者が来るから、私の所まで案内してほ
しい﹂
﹁別に構わないけど、何かあったのかい? 今度はクリス殿に怒ら
1003
れるの?﹂
﹃囁きの石板﹄による報告で蛙は何とかしたので、帰ったら訪ね
るとは言ってたけど、イザベラと何かあったのかな? トラブルだ
ったら困るから聞いてみると、イザベラが近くにいる状況限定で、
シャルローのビッチに関する記憶を消すように交渉したそうだ。
﹁対価として貴重な魔物から採れる素材を渡すことになってる⋮⋮
特に誰かを害するモノではないから安心して﹂
どんなものか聞いてみると、﹃肌が凄く綺麗になる聖なる油﹄だ
そうだ。確かに愛妻家の彼なら、こういう素材欲しがりそうだなぁ
と思いつつ、イザベラの伝言をメイドに話しておく。
クリス殿が来るなら、蛙を止めてくれたお礼とか渡したいところ
だけど⋮⋮張り詰めた緊張の糸が切れたせいか凄く眠い。
一応いつ頃街に帰るのかを﹃囁きの石板﹄で尋ねたら、ゆっくり
帰る予定らしい。折角空いた時間が出来たのに、面会の予定入れた
くないので、出掛ける事にして明日謝礼を渡すと伝え、魔法道具を
遮断する。
式典の当日と前日は忙しいから、今日は骨休めだ。どうか明日も
面倒事とか起こらず、平穏無事に式典を迎えられますように⋮⋮。
∼∼∼∼∼
湯屋で身も心もさっぱりとしたので、約束通りに例の彼氏さんの
1004
条件付き記憶消去をするのにカロリング邸を訪ねた。俺が訪ねるの
は聞かされていたらしく、すぐさまイザベラさんの住む地下室まで
案内された。
記憶を消される当事者のシャルローさんは、嫌がるかと思ったが、
大人しく術を受け入れたので、何事もなく頼まれ事は済んだ。幾つ
か質問したら完全にビッチの事は忘れているのを確認し、報酬とし
て﹃聖油﹄をコップ一杯分だけ貰った。
ゴッデス
この﹃聖油﹄は肌に塗れば、若返ったかのように艶を取り戻し。
トード
飲めば多少の病気は快癒し、身体中に活力が巡るらしい。あの神秘
蛙が分泌した油を巡って国が滅んだって話は、流石に冗談だと信じ
たい。
﹁⋮⋮で、そんな薬効があるらしいけど試しに使ってみるか?﹂
﹁本当に薬なんですか? 毒じゃないですよね?﹂
﹁クリス様、この臭いはちょっと⋮⋮駄目! 我慢できない!﹂
﹃聖油﹄を馬車の中で取り出し、付いてきた二人に見せると、ユ
ングフィアその臭気に眉を顰め。ティータニアは空を飛んで逃げた。
貰った時点でこの反応は予想できた。ただ女性の美容に関する情
熱は、多少の悪臭くらい気にしないので確認しただけなんだが⋮⋮
まぁ確かに紫色で異臭を発する油を、肌に塗ったり飲んだりするの
はちょっと勇気が必要だろうな。
アイテムボックス
急いで︻収納空間︼に収める。正直鼻を抑えて俺から逃げるティ
ータニアに地味に傷ついたが、焦ったように謝るティータニアに性
1005
的な悪戯をするだけで許した。
悪戯されて嬉しそうにしてたので、あんまりお仕置きになってな
いような気がしたが⋮⋮まぁティータニアが可愛いから問題ない。
カール王子は出掛けているらしいので、明日兄貴たち紹介するつ
いでに、今日の報告をしよう。明日の面会時間だけ確認したので帰
るとするか。
・
我が家の離れにはビッチが棲息してるので、遭遇しないように気
・
を付けなくては、見つかったら捕食されかねない。ぶっちゃけ顔だ
けは好みなのが腹立つ。顔だけだぞ、後は体型。遊び慣れた女の子
とか俺は普通に好きだけど、何事も限度ってもんがあるのだ。
やれやれ、今日は色々あったな。兄貴たちと再会できたのは嬉し
かったけど、面倒臭いのに目をつけられたし疲れた、早く帰ろう。
そして嫁たちに癒して貰おう。
∼∼∼∼∼
さて、俺は毎晩嫁とセックスしてる。オリヴィア達が決めたルー
ルがあるらしく、その一つに昼に俺とセックスした娘は夜の順番を
譲る事になってるらしい。
そのルールに従い、今晩俺の寝室にやって来たのはルーフェイ、
ヴィヴィアン、メリッサだった。元々はティータニアの予定だった
が、昼にたっぷりセックスしたんでメリッサと交代したそうだ。
1006
誰が今夜エッチするのかは、寝室に来るまで俺は教えられないが、
そわそわしてたり機嫌が良かったりと、態度で分かったり。朝食の
席で教えて貰う時もある。
ルーフェイとかは特に分かり易いな、しっぽを振って﹁今晩楽し
み﹂だと全身で主張するから。
明日は結婚式前日。伝統的にセックスはしない決まりになってる。
その辺り、流石に法の神殿は厳しくて前日は神殿で一夜を過ごす事
になってる。
花嫁であるルーフェイとアルチーナも同様に神殿に泊まり︱︱︱
当然俺とは別々の部屋で︱︱︱作法に則った手順で身を清めなくて
はならない。
一般の人間だったら普通に一夜を過ごすだけだが、これが貴族と
かの場合世話をする人間が必要だったりする。その場合は必ず同性
の親戚でなくてはならないとされている。親戚がいない場合は神殿
の人間が付くことになる。
俺の場合は別に一人で大丈夫だが、体裁があるので、神殿から世
話役をつけさせてくれとトラバントさんに言われてるので、まぁ兄
貴に頼めばいいか。ノワールは駄目だ、絶対に勘違いする奴がいる
から。
ルーフェイとアルチーナは、姉妹である他の嫁が一緒に泊まる事
になってる。結婚式の時まで基本外に出られないからお祭りの一番
盛り上がる時に参加できないのはちょっと残念だな。まぁお祭り自
体は数日続くからお祭りデートは問題なく出来るから安心だ。
1007
ふふっ仰向けになった俺の上に跨り、頑張って腰を振ってるルー
フェイが、お祭りの喧騒の中で可愛いしっぽを振りながらはしゃぐ
姿が目に浮かぶようだ。
﹁わふぅ! くぅんくぅん⋮⋮クリス様気持ちいいですか? んき
ゅぅぅ!﹂
﹁ああ、気持ちいいよ。それにエッチな顔で頑張ってるルーフェイ
の事を増々好きになっちゃたよ﹂
ただでさえ狭い膣を、声を上げながらリズミカルに締めつけてく
るから俺が動かなくても十分気持ちが良い。そうでなくても幼い顔
立ちのルーフェイが蕩けた表情で奉仕してれている姿に興奮しない
わけが無い。
身を起こしてキスしたいところだが、もうすぐ結婚式を挙げると
いうことで張り切ってるのか、俺に動かないで奉仕させてくれとお
願いしてきたので、勿論ルーフェイの可愛い我儘は受け入れた。
﹁えへへ⋮⋮私もクリス様の事とっても、とっても大好きです!﹂
頬を染めながら嬉しそうに微笑むルーフェイは⋮⋮なんというか
破壊力抜群だ、動かないようにお願いされてなければ、もう激しく
突き上げてルーフェイの幼げな肢体を貪っているだろう。
﹁クリス様はお仕事でお疲れなんですから⋮⋮くぅん。私が、頑張
って気持ち良くしてさしあげるのです。きゅうん﹂
年下なのにちゃんと気遣いのできる良いお嫁さんだなぁルーフェ
イは。こうやって健気に奉仕してくれるだけでも疲れなんて吹き飛
1008
ぶのに。
腰を上下に動かすルーフェイの膣からはシーツを濡らす程愛液が
垂れて、彼女の嬌声と淫らな水音がベッドの上に響く。
自分の自由に動ける体勢だからどうしても快感を感じてしまい、
俺より先にイクまいと必死に耐えてる姿がいじらしい。
﹁あぁもう! ルーフェイったら可愛い! えぃ! ちゅっ、んち
ゅ⋮⋮﹂
﹁ルーフェイちゃん、クリス君以外の前でそんな顔しちゃダメよ?
攫われちゃうかもしれないからね﹂
俺の左右から抱き付いてその豊満な感触で楽しませていたメリッ
サとヴィヴィアンも、ルーフェイの笑顔に陥落したのか、彼女を挟
んで二人がかりで愛撫を始めた。
﹁やっ! わふぅん! メリッサ姉様、女同士でそんな事⋮⋮あぁ
! ヴィヴィアン姉様ぁおっぱい吸わないでぇぇ! きゅふぅぅぅ
ぅ!﹂
いきなりの事に驚いたのか、限界まで昂っていたルーフェイは、
大きく仰け反り絶頂する。同時に膣が痛いくらいに締め付けて来て、
我慢することなく俺も射精する。
﹁わふぅ⋮⋮姉様たちひどいですぅ⋮⋮きゃん!﹂
不意打ちでイカされたのが面白くないのか、頬を膨らませるルー
フェイ。身を起こして抱きしめて唇を塞ぐ。ルーフェイはご機嫌斜
1009
めでも可愛いが、やっぱり笑ってる方が良い。つまり存分に可愛が
って機嫌を直さないとな。
﹁ちゅっ、んくっ⋮⋮愛してるよルーフェイ﹂
﹁くぅん⋮⋮私も愛してます⋮⋮きゃん! はぁ、あん! クリス
様ぁ私イッたばかり⋮⋮はぁぁん!﹂
対面座位の格好で、繋がったまま抱き締め合う俺たち。まだルー
フェイを可愛がりたいのかメリッサとヴィヴィアンもルーフェイの
左右から彼女を愛撫する。
﹁はっ、あぁぁ! わふぅぅん!﹂
ナカダシ
一度膣内射精しても、抜かずにそのまま下から突き上げる。狭い
ルーフェイのオマンコだが滑りが良くなったので先程よりも強く膣
奥を何度も叩く。
﹁あっあっあぁぁぁ! すごい⋮⋮すごいのぉ! き、気持ち良す
ぎますぅぅ!﹂
そしてヴィヴィアンにしっぽを、メリッサにおっぱいを弄られ、
もうなすがままにされるルーフェイ。快楽に蕩けきった牝の表情に
興奮し腰の動きが早くなる。
﹁ふふっ初めての時からは、考えられないくらいエッチになったな
ルーフェイ?﹂
﹁わ、わふぅ⋮⋮私がエッチになったのは、きゃん! あっあっん
はぁぁぁ! はぅ⋮⋮クリス様のせいですぅ⋮⋮クリス様がエッチ
1010
大好きにさせたんじゃないですかぁ⋮⋮﹂
責めるような口調だが、そんなエロい表情で、そんな潤んだ目で
見つめながら言われたら⋮⋮つまりもっとエッチにしてくれって事
だな? 勿論俺は可愛いルーフェイのお願いならなんでもするぞ。
ルーフェイの細い腰を掴み、さらに速く、さらに大きな動きで挿
入する。ギリギリまで引き抜き思い切り奥まで突っ込む快感は、我
慢しないとすぐにイってしまいそうだ。
﹁きゅぅぅぅん! んはぁぁぁ、だ、だめぇ! こんなに気持ち良
くされたら⋮⋮﹂
﹁いつでもイッっていいぞ。俺も出すぞ、抜かずに二発目をルーフ
ェイの膣内に!﹂
﹁あっあっあぁぁぁ! わっふぅぅぅ!﹂
俺が射精するのと同時に、最初に絶頂した時よりも激しく身を震
わせるルーフェイ。今まで気が付かなかったけど、イッた時しっぽ
の毛が逆立つのが見えた。
仰け反ったルーフェイはそのまま後ろに倒れるので慌てて抱き止
めると。荒い息を吐きながら気持ち良さそうに眠っていた。ちょっ
とやり過ぎたかな?
﹁クリスさんったら激しいんだから。えへへ⋮⋮アタシも、期待し
て良いかな?﹂
期待に満ちた表情で俺の腕に抱き付くヴィヴィアン。そして背後
1011
から抱きしめてくるメリッサ。当然だまだまだできる。二人には並
んでお尻を向けさせ、疲れ果てるまで美人姉妹の豊満な肢体を貪っ
た。
∼∼∼∼∼
﹁今夜はちょっと乱暴だったわね? クリス君﹂
途中でヴィヴィアンがダウンし。メリッサに翻弄されながら、な
んとか一回だけイカせたところで俺の体力も限界を迎えた。今メリ
ッサに頭を抱きかかえられている。
﹁三人とも魅力的だったから興奮しすぎたんだよ。それにメリッサ
を俺にしか目が向かないように、エッチでメロメロにするって目標
があるからな﹂
﹁ふふっそう言われると女冥利に尽きるわね、けどとっくにお姉さ
ん、クリス君に夢中なのよ﹂
たお
おでこにキスされ、嫋やかな指で髪を梳かれると、ただでさえ体
力の限界までセックスしたせいで、段々と眠くなってきた。
・・・・・・・・・・
﹁けど⋮⋮今日はそれだけじゃないわね? なにか悲しい事があっ
たの?﹂
﹁⋮⋮分からない。けど無性にセックスしたかった。昼間にティー
タニアとユングフィアを何度も抱いたけど、まだまだ足りなかった。
夜は夜で気絶させるまで激しくするつもりは無かったんだ⋮⋮ごめ
1012
ん﹂
他の嫁だったら、心配かけさせないように虚勢を張っていたかも
しれない⋮⋮でも、メリッサに抱きしめられてると、つい甘えてし
まう。眠気で頭が回らないけど、今寝てしまったら。多分これから
も、今日みたいな衝動に突き動かされるような気がする。
﹁良いのよ、私たちもクリス君に抱かれるのが嬉しいもの。だって
愛する人に求められればね、優しくても、乱暴でも喜んで受け入れ
るの﹂
﹁メリッサ⋮⋮参った、俺はどうやらメリッサには勝てないみたい
だ﹂
﹁あら? 私だってクリス君にはすっかり参ってるわよ。身も心も、
これからの人生を貴方に捧げたいと願うほどに﹂
メリッサが俺を撫でる手は何処までも優しい。嫁には頼られたい
と常に思っているのに、彼女には俺が頼って甘えてしまう。
﹁ゆっくり、寝ちゃうまで今日の事お話してくれる?﹂
メリッサに抱きしめられ、ゆりかごのような心地の良い感覚の中。
必死に眠気に耐えつつ、今日巨大蛙を追うために飛び立ってからの
事を話していく。頭を抱きかかえられてるので、メリッサの顔は見
えないが、多分。微笑んでるんだとなんとなく感じた。
半分眠った頭では分かり易い説明は出来なかったが、メリッサに
は分かったみたいだ。話が終わると、メリッサは一呼吸間をおいて
断定する様に言う。
1013
﹁そっか⋮⋮クリス君の初恋ってお兄さんのお嫁さんなんだ﹂
反射的に否定しようとしたが、メリッサのおっぱいを押し付けら
れ言葉が出ない。振り解いて誤解を解こうとしても、疲れと眠気で
どうにもできない。
﹁自覚⋮⋮あったんでしょ?﹂
イレーネに使った﹃告解﹄は自分の全てを曝け出し、神に言葉を
届ける神聖魔法。その効果は使用者である俺にまで及んだ。そして
魔法の修業に励んだ一番の理由を否応なしに自覚させられた。
︱︱︱貴族の女の子と結婚するには偉くならないといけない。
所詮は八歳の頃の話だ。当の俺ですら再会まで気付かなかった気
持ちを自覚させられ⋮⋮妻を愛し求める事で誤魔化してた⋮⋮情け
ない、俺って情けないな、何が勇者だ情けなくて涙が出てきた。
眠りに落ちる直前、滲んだ視界であっても。メリッサが優しい笑
顔で俺の頭を撫でてくれているのが見えた。
1014
小さな胸の痛み︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
原稿チェックは強敵でしたwどんなに注意しても誤字ってあるんで
すよねw
1015
決別の光︵前書き︶
お待たせしました
1016
決別の光
カーテンの隙間から差し込む日の光で目を覚ます。昨夜は安定期
とは言えデシデラータは妊娠中なので、セックスは控えめにして、
二人きりでイチャイチャして夜更かししたせいか、まだちょっと眠
いな。
外の明るさからみて、いつもよりは寝坊したけど、別に仕事が果
てしなく詰まってる訳でもないから焦る必要もない。否、果てしな
く詰まってた仕事を何とか終わらせたので、今のボクは朝ゆっくり
休めるのだ。
ふっ執務室で夜を明かすのはもう嫌だよ⋮⋮おかしいな領地が豊
かになって人口が増えると、比例するかのように仕事が増えるって
どういうことだ? 責任者呼んで来いよ! ボクだがなっ!
まぁ終わった事だ、ボクはもう同じ轍は踏まないぞ! うむ、睡
眠時間を削って仕事なんて不健全だからね。
今日のように、軽く寝汗を流してから着替えて、のんびり妻たち
とお喋りしながら朝食を食べられる。そんなゆとりある朝を毎日迎
えたいものだ。今までみたいな激務を毎日していたら、ボクの目指
した幸せな生活なんて夢のまた夢だからね。
さて、幸せな生活の第一歩として、妻と一緒に朝風呂でも入ろう
かと思い、すぐ隣のデシデラータを起こそうとした。けど穏やかな
寝息を立てているので、手が止まってしまう。
1017
うーん、起こすのも可哀そうだし、もうちょっとのんびりしよう
かな? 寝過ごしても最近ボクの秘書的な立場になった、メイドの
モルガノが起こしに来るだろうし。
無防備な寝顔を眺めてると、髪を撫でてあげたくなった。艶のあ
る髪を手櫛で梳くと、くすぐったそうに身動ぎする。ふふっ安心し
きった寝顔は年齢よりも幼く見えて、守ってあげたいと自然と思え
るな。
大きくなったお腹を、圧迫しないよう気を付けて抱きしめると、
ボクの体温が気持ちいいのか、甘えるように身を寄せてくる。
あぁもう、可愛すぎる! いっそ今日の予定は全部キャンセルし
て夫婦で過ごしたい。まったく、こんな妊娠中の妻と休日を過ごせ
ないくらい、仕事を増やしまくった馬鹿は誰だ? ボクなんだが。
ともあれ明日は何年もかけて準備した、一大事業の開始を周知す
るための式典だ。段取りはほぼ終えていて、今日は式典に参加する
有力者と、面会とか茶会とか会食とか、色々と予定が詰まってる。
キャンセルしたりすると、今後余計な仕事が増えるので起きなき
ゃな、サボりたいけどサボれない立場が恨めしい。
考え事をしながら抱きしめてると、うっすらとデシデラータの瞼
が開いてきた。
﹁んっ⋮⋮むにゅ⋮⋮カール様?﹂
﹁起きたのかい? おはようデシデラータ﹂
1018
ためし
毎朝の事だが、起きた直後のデシデラータは可愛いなぁ。彼女は
朝が弱いのでボクより先に目を覚ました例はない、この寝惚けたデ
シデラータは、忙しい毎日のちょっとした楽しみだ。
﹁⋮⋮ふにゃ⋮⋮おはようごじゃいましゅ﹂
普段はボクの正妻として、恥ずかしくないようにしっかりしてる
彼女。けど半分寝てるこのポケ∼っとした表情はギャップが堪らな
い。
抱きしめたままなので、そのままキスして舌を絡める。そうして
る内に目が覚めてきたようだ。日が差してるとは言え寝室はまだ薄
暗い。それでも分かるくらいに紅潮したデシデラータは、恥ずかし
いのか背を向けて毛布を被ってしまう。
照れ屋さんだなぁ、可愛い妻の姿に俄然やる気が湧いてくる。良
しっ! やるぞ! 今日がボクの幸せを掴み取るための第一歩だ。
ベッドから降り、カーテンと窓を開けて、背伸びしながら爽やか
な朝の空気をいっぱいに吸いこむ。デシデラータを連れて寝汗を流
そうと振り返ろうとした瞬間⋮⋮なんか高級住宅街の一角からもの
すっごい光を放たれた。
ボクは確信した、あぁまた何か思い付きで余計な事やりやがった
な⋮⋮。
∼∼∼∼∼
1019
翌朝、兄貴たちに貸した家を訪ねた。おっちゃんはまだ朝食を食
べてる最中で、同じテーブルでは兄貴とイレーネがのんびりお茶を
飲んでた。
﹁おーっす、おはよう。ちょっと兄貴とイレーネに話あんだけど良
いか?﹂
﹁おはよう、どうした改まって?﹂
﹁おはよう。意外と朝早いのね? 話する前にアンタのお茶も淹れ
るからちょっと待っててね﹂
ノワール達三人を見かけないので出かけたのかと思ったが、昨夜
遅くまで家の中を探検したりしてたそうでまだ寝てるらしい。アイ
ツらって、一応おっちゃんの護衛じゃないのか?
とりあえずイレーネが淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。隣で
はおっちゃんが山のよう積み上がったパンを、幸せそうに頬張って
るが放っておこう。
手土産代わりにヴィヴィアンが作ってくれたケーキを渡しといた
けど、兄貴たちの分まで食わないよな? おっちゃん良い人なんだ
けど食い意地張ってるからなぁ。
﹁道中話したと思うんだけど、明日は俺の結婚式なんだよ。今晩は
身を清める意味で神殿に泊まる決まりなんだ、それで立場上世話役
いないと駄目とかでさ、兄貴にお願いできるか? ノワールだと勘
違いする奴が必ずいるし﹂
﹁良いよ、ふふっ本当に偉くなったんだなぁ。スカートめくりして
1020
遊んでたお前が、二人のお姫様と結婚式なんて想像もしなかったよ﹂
当時は恥ずかしがる姿が可愛いと思って、近所の女の子は全員ス
カートめくりしてたなぁ。イレーネを狙って返り討ちにされたのも
良い思い出だ。ムキになって次の日に、奴のビンタを掻い潜りスカ
ートめくってやったりもした、その後は当然の如く反撃で殴られた
が。
﹁結婚式と言えば、兄貴たちは? 村の教会で式挙げたのか?﹂
﹁ええ、村中の人が集まって祝ってくれたわ﹂
結婚式そのものは、正装をしたうえで神の前でこれから夫婦にな
ると、誓いを立てるだけで終わるものだ。しかしそれだけだと味気
ないというか、一生の記念にならないので参加者全員で盛大に祝う
のが通例となってる。
一般の人なら別に普段よりちょっと豪華な食事を振る舞う感じで
良いのだが、仮にも貴族となると見栄もあって下手な宴席にはでき
ない。俺の場合には大神殿が張り切って準備してるんだがどうなる
んだろうか?
なにか手伝えることはないかと聞いても、曖昧にはぐらかすだけ
で教えてくれないんだよなぁ。国のメンツがかかってるとかで、ト
ラバントさんが特に力を入れてるとアルテナが言ってたが。
二人の結婚式の話を聞いてる内にお茶を飲み干した。お代わりを
用意しようとするイレーネを止めて、二人を連れて庭に出る。
理由も言わずに強引に引っ張り出したが、兄貴が何も言わずに付
1021
いてきたのでイレーネも何も言わない。
さて、普段俺の護衛をしてくれるユングフィアを屋敷に残して、
一人で来た目的を果たすか。
ある一つの魔術を行使するために、周囲の全てが見えず、聞こえ
ず、感じないほどに意識を深く己に埋没させる。何も感じない中で
まだちょっと胸が痛むのを無視して、自分の器いっぱいの魔力を一
つの術に注ぎ発動させる。
詠唱は無い、術の発動に必要なのは意思だ。全ての魔法は精神の
力に左右される。例えば憎んでる相手に治癒を施そうとしても碌に
効果は無く、愛する相手に攻撃魔法を放ってもその威力は激減する。
神聖魔法︻祝福︼。己の力の源泉である神に、夫婦となる二人の
ことほ
幸せを祈り、明るい未来を願う神聖魔法。祈る、兄とその伴侶の幸
福を。二人が寄り添い穏やかに微笑み合う姿を寿ぐ。碌に信仰して
ないけど、この時だけは全身全霊で祈る。
俺も自分の嫁に祝福をかけてるがここまで魔力は注いでない。決
して手を抜いてる訳ではないが、あくまで対象は一人だけ。この場
合は母体の保護と言う側面が大きい。
もたら
しかし夫婦に祝福の魔法を掛ける場合、単純に消費が二倍になる
だけでなく。夫婦の結びつきを強め、幸運を齎す効果があり、魔力
を注げば注いだだけ効果は絶大なモノとなる。決して二人の絆が途
切れないように、断じて二人に不幸など寄せ付けないように。
祝福が発動した瞬間。カロリングの街の全ての場所から分かるほ
どの膨大な輝きが天から降り注ぐ。女神の代理人である勇者が扱う
1022
神聖魔法は最上格、この瞬間史上類を見ないほどの祝福の輝きが、
カロリングの街を包み込んだ。
ちなみにオリヴィアは女神が直接祝福したから例外中の例外。神
殿の深部で祝福を受けたから街には届いてないけど、祝福の光の膨
大さはたった今俺が全力で発動した術を遥かに上回り比較にもなら
ない。
﹁こ、これは⋮⋮﹂
﹁祝福⋮⋮なの? こんな巨大な規模の魔法なんて⋮⋮﹂
光の量は街そのものを覆うほど。しかし決して目を傷めない優し
い光に包まれた二人は、いきなりの事に呆然としている。
そうして光が収まりいつもの庭の風景に戻る。なんか家の外が騒
がしいが俺は知らん、そんな事を気にしてるような気分じゃないし。
﹁ありがとうクリス。お前に祝福をかけて貰うなんてちょっと予想
外⋮⋮クリス?﹂
﹁おっおっ⋮⋮おめでどう! ぐすっ! ふっふっ二人とも! じ
⋮⋮じあわぜに⋮⋮ふぐっ、うぐぐ⋮⋮﹂
ううう⋮⋮涙が止まらない、兄貴が幸せで嬉しいけど、割り切っ
たはずなのにまだ胸が痛い⋮⋮けど、うん、なんか⋮⋮ケジメがつ
いたというか、気持ちに整理が付いたような気がする。
からか
普段だったら俺が泣いたりすると揶揄ってるだろうイレーネだが。
こいつは祝ってくれた人間を茶化すような奴じゃない、俺の涙に言
1023
及はしないで、ただ頭を下げて一言。
﹁ありがとうクリス﹂
﹁ぐすっ! ふん⋮⋮バーカバーカ勇者の俺が祝福かけてやったん
だから、もっと感謝して敬えバーカ!﹂
﹁うん、ありがとうクリス。嬉しい、とっても嬉しいわ﹂
幸せそうに笑ってお礼言うんじゃねぇよ。また泣きたくなってき
ただろうが⋮⋮。
﹁と、とにかく兄貴! 昼にカール王子と面会の予定なんだ。兄貴
とノワールを紹介するから屋敷に迎えに行くまで待っててな﹂
﹁クリス、ノワール達と話していかないのか?﹂
﹁もう行っちゃうの? お礼ってほどのモノじゃないけど、アンタ
の好きな干しリンゴ入りのマフィン作ってあげるのに﹂
﹁新婚夫婦の隣で泣きっ面でいられねぇよ。昼飯は俺の嫁さん紹介
するついでに用意すっからな!﹂
それだけ言い残すと、返事も聞かずに、とにかく走る。正直泣き
顔は誰かに見られたくない。なので認識阻害の術で姿を誤魔化して、
なんか家の周囲に集まって騒がしい人達を避け。こっそり誰に目に
も止まらないように屋敷に帰る。
厨房にはヴィヴィアン、風呂にはディアーネとメリッサがいるだ
ろうから、洗濯場にある井戸で泣き顔を洗う。
1024
あーなんか泣いたらスゲェスッキリした。我ながら単純な性格し
てると思うが切り替えできた。うん、俺の初恋は終わり。これから
は俺の事を好いてくれている嫁さん達を今までより大事にするのだ。
今朝までのモヤモヤした状態で結婚式なんて、ルーフェイとアル
チーナに申し訳ないからな。
﹁あら? クリス様いつの間に戻られたのですか?﹂
水桶から顔を上げると、そこには体操服姿のアルチーナがいた。
昨日は結婚式の段取り確認の為に泊まったんだった。
それはそうと真っ白な太股が眩しい﹃ぶるま﹄を穿いてるので、
つい物陰に連れ込んでしまいそうだが、なんとか平静を装う。
﹁い、いや⋮⋮その、兄貴とその嫁さんのイレーネに祝福をかけて
来てさ。昼まで街を案内しようとしたんだけど、なんか俺がお邪魔
っぽかったから帰って来たんだ﹂
﹁そうでしたの、うふふ。夫婦仲が良いのはご兄弟で一緒なんです
ね﹂
とりあえず泣いていたのを知られなくないので、ジャバジャバと
顔を洗い続ける。
とは言ってもいつまでもやってたら変に思われる。タオルを取り
出し顔を拭きながら、なんで体操服姿なのか聞いてみると、結婚式
の前だと運動できないので軽く汗を流しておこうと思ったそうだ。
1025
結婚式の前日でなければ、二人で生産的な運動で一緒に汗を流そ
うとか言ってるのだが、自重。女の子の一生の思い出を欲棒⋮⋮も
とい欲望でケチをつけるのは旦那として失格だろうからな。
会話してる間に涙の痕が見えないように誤魔化して⋮⋮よし、俺
が大事にするべきは、目の前のアルチーナは勿論、オリヴィアを始
めとした嫁達だ。
﹁カール王子に会うのは今日の昼だから、その時に兄弟二人を紹介
しようと思うんだ。それまで時間あるから運動するなら一緒にしよ
うか?﹂
﹁はい! それでは一緒にハゴータで遊びましょう﹂
一緒に運動というのがアルチーナ的に嬉しいのだろう。取っ手の
付いた木の板で、羽根付の小玉を打ち合う。このハゴータをやるの
は初めてだけど、暫く二人で楽しんだ⋮⋮が、さっき限界まで魔力
を放出したせいかすぐにへばってしまった。
ううう、嫁の前で情けない姿を晒すなんて不覚。さっきの光が俺
の仕業だと分かってるのか、ヘトヘトの俺をアルチーナは、井戸の
近くの芝生に座り膝枕してくれる。
何も言わずに膝を貸してくれるアルチーナは良い子だなぁ。腰に
手を回してお腹に頬ずりすると、ちょっとくすぐったそうに身動ぎ
しただけで、あとはポンポンと頭を撫でたり髪を梳いたりと、気持
ちいい。
限界まで魔力を放出したから少し眠くなってきた⋮⋮あぁアルチ
ーナの太股は良い匂い⋮⋮それに柔らかくて、温かくて。けど寝て
1026
しまうのは勿体ない⋮⋮眠い。
なんとか睡魔に抗うべく、他愛もないお喋りをする。起き上がれ
ば良いと思うんだが﹃ぶるま﹄姿の美少女に膝枕してもらってると
離れ難い。
そうして芝生に寝転がりつつアルチーナと過ごしてると、不意に、
ちょっと気恥ずかし気に顔を赤くして質問してきた。
﹁そうだ、クリス様⋮⋮結婚したらクリス様の事を、あなた様って
呼んで良いですか?﹂
﹁勿論好きに呼んでくれて構わないよ。いっそ呼び捨てとかどうだ
?﹂
﹁駄目ですよ、他の夫人がそうお呼びするのは気にしませんが、私
にとっては生涯お仕えする主人ですもの。末永くよろしくお願いし
ます。あ・な・た・様?﹂
うむ、なんかちょっと俺まで気恥ずかしいな。自分の顔が赤いく
なってるのが分かる。それで妙な空気が漂いお互いなんとなく無言
になってると、何処からともなく妙に溌溂とした声で話しかけられ
た。
﹁にょほほほ! み∼つ∼け∼ま∼し∼た∼わぁぁぁぁ! おはよ
うカッコいい人! 朝日が爽やかだから気持ち良い事しませんか!
具体的にはセックス!﹂
なんかバカが現れた。おかしいな、なんでコイツが中庭に出没す
るんだ?
1027
﹁なんでお前離れから脱出してんの? 閉じ込めるような結界は張
ってないけど、部屋とか廊下に鍵掛かってただろ?﹂
﹁ババアが朝起きたらいなかったので二階から飛び降りました! それよりも良い所で会いましたね! さぁイキましょう、ババアか
ら逃げてめくるめく快楽と愛欲の世界に!﹂
確かに離れにあるベランダから庭に出れるけど、まさか仮にも公
爵家の令嬢が飛び降りるとは思わなかった。こいつには精神に作用
する闇属性の結界が何故か効かないから、念入りに外側から鍵かけ
てるんだけど、ベランダはノーチェックだったな。
﹁分かった。今後ベランダには支配した魔物置いとくから希望はあ
るか? ある程度好みに合わせてやる。お勧めは水蛇竜だ、結構見
慣れると可愛いぞ。逃げようとしたら跡形もなく喰ってくれるのが
最高だ﹂
﹁あなた様、街中で水蛇竜なんて飼えません﹂
そう言えばそうだった、それに水蛇竜って臭うからみんな嫌がる
だろうしな。
濡れて
﹁ふっその冷たい反応、照れ隠しと思えば更に燃えてきますね﹂
﹁相変わらず間違った方向に前向きですねアンジェリカ﹂
・
﹁ふっ! 誰かと思えば殿下ではないですか。胸が小さいから気が
・・・
付きませんでしたわ。それはそうとその人を膝枕とは⋮⋮つまりそ
ういう関係なんですね? 分りました良い男に女が群がるのは仕方
1028
がないので、殿下も交えて3Pを認めましょう﹂
そう言って胸元を寄せて、おっぱいを強調するポーズをとりなが
アンジェリカ
ら、﹁まっ私と並んだら見向きもされないでしょうけどね、そのお
っぱいじゃねぇ﹂とか言い出すバカ。王女相手にもこんな調子なの
うつ
か。あぁアルチーナ抑えろ、殴りたい気持ちは察するけど触ったら
バカが伝染るぞ。
﹁こ、これから! これから大きくなるわ! 結婚して子供が出来
れば大きくなるって聞いたもの!﹂
アンジェリカ
ちょっとムキになって言い返すアルチーナ。安心しろ二人並んで
も俺はお前を選ぶから。なんというかこのバカは身体はエロいし顔
は好みだけど、言動その他が残念過ぎてそういう気になりそうもな
い。
﹁おほほほ! 私より年上でその平べったいおっぱのひょぉぉぉぉ
!﹂
アンジェリカ
うむ、何処からともなく飛んで来た扇子が、バカの後頭部に良い
音を立てて直撃したな。頑丈だけど軽い素材で出来た扇子だから、
ダメージは無いだろうけど、勢いよく飛んで来たから痛そうだな。
﹁のぉぉぉ! し、しまった! ババアに見つかったわ! た、助
けて、お礼に私の身体に好きなだけ劣情をほぉぉぉぉぉ!﹂
アンジェリカ
間髪入れず飛んできた扇子はバカの脳天に綺麗に直撃する。見覚
えがある扇子だから多分投げたのは、離れの二階のベランダに立っ
てるフローリパさんなんだろう。
1029
結構距離あるのに良く当てられるな、礼法だけじゃなく武術も達
人級なのだろうか? あ、二階から飛び降りて何事も無いように着
地した。それで年齢を感じさせない躍動感あふれる走りでこっちに
向かってくる。
フローリパさんに捕まるのは確定として、コイツは身体能力は普
通の令嬢と言うか、むしろ鈍い方だ。二階から飛び降りたら時転ん
だのか、見れば膝とか擦りむいてる。
バカ
仕方ないな、この根性の使い道を激しく間違ってる義妹がちょっ
と可哀そうになったので、一応傷を治してやる。本人は頭の痛みに
呻いてるので気付いてないっぽいが。
擦り傷を治し終わるのとほぼ同時に、フローリパさんがやって来
て、俺とアルチーナに一礼する。こっちも年長者に挨拶されたから
には寝てる訳にはいかず、急いで立ち上がる。
﹁おはようございますフローリパさん。今朝早くに出掛けてたよう
ですけど、何かありました?﹂
あつら
﹁ええ、実はお譲り頂いた素材で鉄扇を一つ誂えまして、受け取る
ためにヘルトールの屋敷まで。当家お抱え職人達の最高傑作と言え
る出来栄えでございます﹂
﹁あの素材で作った鉄扇ですか! 凄いです、後で拝見させていた
だいても?﹂
﹁勿論でございます殿下。後ほど皆が集まる食堂でお披露目をいた
します。それと当主様、今朝の光なのですが⋮⋮﹂
1030
アンジェリカ
挨拶の後談笑する俺たちを尻目に、コソコソといった感じで離れ
るバカだが、世間話をしていてもフローリパさんが見逃すはずもな
く、あっさりと捕まる。
﹁アンジェリカ⋮⋮貴女と言う人はまったく! 何を考えてるので
すか!﹂
﹁エロい事に決まっておほぉぉぉ!﹂
そして脳天に直撃する扇子。そう言えば貴婦人の護身術として鉄
扇を自在に操る﹃演扇舞﹄って武術があったな。師匠の死別した奥
さんがコレの達人で、何度も叩きのめされたって言ってたっけ。
畳めばこん棒。広げれば盾。投げれば軌跡は変幻自在。と、この
﹃演扇舞﹄の達人が舞を披露してるとき、剣の達人が一切切り込む
隙が無かったと言われてるが、フローリパさんもその領域なんだろ
うか? あの素材で鉄扇を作らせるくらいだし相当な腕なんだろう
な。まぁそれはともかく。
﹁いぃぃぃやぁぁぁ⋮⋮もう勉強嫌ぁぁぁ! お願い助けて良い男、
お礼に私の身体をのほぉぉぉぉ!﹂
﹁申し訳ございません当主様。朝から見苦しいモノをお見せしてし
まいました。コレには厳重に教育を施しますので﹂
襟首掴まれ離れに引き摺られていくアンジェリカ。額の魔法道具
は、聞いた話じゃ頭に巻いたチェーンが締め付けるそうだ。鈍い光
を放ちながらギリギリと締め上げる音が聞こえる。
﹁にょぉぉ! 私は良い男を諦めたりはしないわよぉぉ! ってい
1031
うかお願いだからせめて名前教えてぇぇぇ﹂
とりあえず連行されるバカな義妹には﹁フローリパさんが認める
くらいまともになったらな∼﹂とだけ言って、手を振って見送る。
はぁ。なんかアレと遭遇すると精神的にも疲れる。とりあえず何
事も無かったと自分に言い聞かせ、アルチーナと風呂でイチャイチ
ャしよう。そこで疲労した心と体を癒そう、そうしよう。
∼∼∼∼∼
今朝は凄い光が街を包んだとお義母様から伺いましたが、わたく
しはちょっと朝に弱いので気が付くことができず、注意されてしま
いました。あうう⋮⋮申し訳ございません。
日の出とともに起きて、所用があったため、ヘルトールの屋敷か
ら戻る最中に、優しい祝福の光に包まれ、一瞬だけ我を失うほど感
動したとの事。
その光で普段起こすまで起きないアンジェリカが目を覚まし、お
義母様がおられないからと逃げ出したのですが、すぐに捕まったよ
うです。今はお義母様からさらに厳しい指導を受けてます。ううう、
母親のわたくしがもっとしっかりしていれば!
ここは一つ、何かお手伝いさせていただきたいと、お義母様にお
願いしても、わたくしは甘すぎて指導に向かいないと断られました。
はぅぅ⋮⋮このままでは役立たずです、そうだわ頼れる義理の息子
にお願いしてみましょう。
1032
お昼前にカロリング卿との面会の予定があると聞いてます。それ
までは時間があるのでクリスは食堂でオリヴィア達とお喋りしてま
した。あら? アルチーナ殿下がクリスに膝枕してもらってます。
あらあら仲良しですわね。
食堂に入るとすぐに気づいてくれたようで、膝枕してもらってい
た殿下が身を起こし、朝の挨拶を交わします。石鹸の良い香りがす
るので、お風呂上りなのかしら?
クリスの近くに腰を下ろしたわたくしにヴィヴィアンさんが、お
茶を淹れてくれます。ヴィヴィアンさんってお料理だけでなく、お
茶を淹れるのもお上手ね。
﹁ありがとう、とっても良い香りのお茶ね﹂
﹁ケーキもありますよ、殿下も美味しいって褒めてくれた自信作で
す﹂
﹁わぁ美味しそう、早速いただきますね⋮⋮って、そうじゃありま
せん。クリス、わたくしも何かアンジェリカの躾で手伝えることは
ないでしょうか?﹂
でもせっかく作ってくれたケーキを食べないのは、ヴィヴィアン
さんに悪いのでいただきます。モグモグ、はぅ! 真っ赤なベリー
の酸味とクリームの甘みがとっても合いますわ。
﹁え? あのバカ⋮⋮じゃなくてアンジェリカの指導はフローリパ
さんがやる気になってるし、邪魔しちゃ悪いと思うよ。ここで妊娠
してるオリヴィアとのんびりしてくれれば十分だよ﹂
1033
差し出されるお菓子は美味しいですし、オリヴィアを始め夫人た
ちとのお喋りは楽しいです。ですが腹を痛めて産んだ娘を真っ当な
道に戻すために、わたくしもなにかしたいのです。
わたくしが力いっぱい意気込みを伝えたところ、クリスやオリヴ
ィアはちょっと困った顔で相談を始めます。オリヴィアは頭がいい
ので、きっと何か良い案が出るに違いありません。
﹁なぁオリヴィア。あのバカの躾がお義母さんにできると思うか?
俺は無理だと思うぞ、性格的に優しすぎる。勉強とかは教えられ
そうか?﹂
﹁アンジェリカもお母様の性格は知ってますから、多分これ幸いと
逃げると思います。例えばお手洗いに行くといえば疑わずに何時間
でも待ちますし、逃げたと思うより体調の心配をします、お母様は﹂
クリスとオリヴィアはどんな相談してるのでしょう? 勉強とか
聞こえましたが、学問の指導でしょうか?
﹁俺もそう思う。フローリパさんの助けになるような仕事はどうだ
ろう? 見本になるならできるだろ。礼法とか完璧だし﹂
﹁無理です、のんびりした気質なせいか、お祖母様の指導とは歩調
が合いません。あと本人が厳しいつもりでも、凄く甘いです。簡単
にサボれます﹂
お勉強なら教えられそうですね、わたくしも心を鬼にして厳しく
指導しますよ。問題が解けるまでお茶なんて出してあげませんし、
お菓子なんてお勉強が終わるまでお預けです。
1034
﹁確かに、必要だったら俺たちに相談に来ないよな。そもそもお義
母さんって、なにか得意なものはあるのか? 楽器とか裁縫とか﹂
﹁えーと⋮⋮教養は間違いなく王都の貴婦人たちの中でも上位なの
ですけど⋮⋮お母様は、その、おっちょこちょいと申しますか、不
器用と申しますか⋮⋮﹂
﹁オリヴィア、はっきりドジって言った方が良いわよ。楽器演奏の
類は音程がズレますし、裁縫すれば指を刺します。簡単な家事です
ら使用人が全力で止めるほどですわ﹂
ディアーネさんまで相談に加わって真剣に考えてくれてるのね。
母親として出来ることはなんでもいたしますわ。
﹁得意と言って良いのかは分かりかねますが、お母様は動物には好
かれやすいので、ペットの世話などは好きです。躾は駄目ですけど﹂
﹁うーん、バカをペット扱いで躾けるのは無理か⋮⋮ん? ペット
? そうだ良い事思い付いた﹂
なにやら話が纏まったようで、クリスはすぐ戻ると言い残して出
かけてしまいました。えっと⋮⋮わたくしはなにをすればよろしい
の?
﹁旦那様がお母様にできることを思いついたので、準備ができるま
でお待ちください。お茶のお代わりを淹れますね﹂
ありがとうオリヴィア。ダメっ子なアンジェリカをまともな令嬢
にするために、わたくし頑張ります。
1035
∼∼∼∼∼
﹁ただいま。いい感じの奴をすぐ見つけられて運が良かったよ﹂
一時間くらいしてクリスは、いつの間にか帰ってきてまして、離
れの庭に来るように伝えられました。やる気に溢れたわたくしは、
すぐさま離れの庭に向かいます。一緒にヴィヴィアンさんも付いて
きてくれました。
そして向かった先にいたのは⋮⋮ニワトリさんでした。ふかふか
してて可愛いですわ、後でなでなでさせて貰いましょう。お馬さん
より大きいので背中に乗せていただけるかしら?
グレートクラウン
﹁クリスさんそれ魔物! 腕利き冒険者が十人がかりでやっと捕ま
えられる王冠鶏じゃないですか! しかも二羽!﹂
﹁ん? もっと欲しかったか? 十羽くらいまとめて眠らせたけど、
馬車に乗せられないし、多いと世話するの大変だろ?﹂
クリスは優しい子ですね、確かに身体が大きいので、沢山いると
ゴハンを食べさせてあげるのが大変です。それに沢山食べる子です
と、食べ物を管理してるヴィヴィアンさんが困ってしまいますね。
﹁卵が一個金貨で取引される超高級食材なんで、後で捕まえて来て
くださいね⋮⋮じゃなくて、魔物の世話なんてオード様には無理じ
ゃないですか?﹂
1036
﹁一応人間に攻撃しないようにしてあるから大丈夫。バカが逃げた
らすぐに捕まえるように命令してあるんだ。勿論両方メスだぞ﹂
グレートクラウン
上質の絹のような光沢の、綺麗な羽毛も立派ですが、お顔もよく
見ると可愛いです。王冠鶏と呼ばれるだけあって、色違いの鶏冠も
格好いいです。鶏冠が白っぽい子をシロちゃん、黒っぽい子をクロ
ちゃんと名付けましょう。
﹁大丈夫ですか? 嘴で突っついたら、金属鎧が壊されたって聞い
た事ありますよ? オリヴィアの妹が危ないんじゃ? 捕まえよう
とした拍子にグシャっとか?﹂
﹁その辺りは特に注意して精神支配かけてる、ニワトリの割に知能
が高いから、怪我させないで捕まえるくらい簡単だよ﹂
近寄ってシロちゃんのお腹をモフモフ。手触りも良いですね。あ
らクロちゃんが頭をスリスリしてきました。うふふ、くすぐったい
ですよ、後でゴハンあげますからね。ニワトリさんって何がお好き
なのかしら?
﹁ところで攻撃しないように、としか精神を縛ってないんだが、な
んであの人懐かれてんだ?﹂
﹁動物に好かれやすいそうですよ﹂
この子たちはアンジェリカが逃げないように見張っていてくれる
騎士ですね。ん? ちょっと違う気がしますがまぁ良いでしょう。
わたくしも淑女として、騎士様が万全で働けるように頑張ってお世
話いたします!
1037
あらクロちゃんいきなり走り出してどうしたの? どこからとも
なく﹁のほぉぉぉらめぇぇぇ﹂とか変な叫びが聞こえましたが。す
ぐに戻ってきて、スリスリしてきます。ふふっ甘えん坊な騎士様で
すね。
頑張りますよ、アンジェリカをまともな道に戻すためにも、シロ
ちゃんとクロちゃんのお世話がわたくしの仕事です。
1038
決別の光︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
うーん、初期段階で淫乱悪女だったはずが、どうしてこんな愉快系
アホの子になったんだろうか?
1039
書籍一巻発売記念短編︵前書き︶
パラダイム出版さんから届いた本作一巻を見てテンション上がった
結果一話分書きました。
なんか本になってるのを手にとるとやる気が湧いてくる感じですw
w
1040
書籍一巻発売記念短編
後宮⋮⋮そこは陛下の寵愛を得ようと、国中の美姫たちが集う女
の園。色鮮やかな花が咲き乱れ、美しい小鳥たちが歌い、絢爛な衣
装に身を包んだ女性たちが国王陛下の無聊を慰める。
⋮⋮と、言うのが世間一般に広がる後宮のイメージ。もしくは愛
憎が入り混じり、女同士の仁義無き争いが繰り返される魔窟とか?
です。私が後宮に住む可能性はないので想像でしかないのですが。
なんでそんな後宮の一画にカール様の護衛騎士にして、第二夫人
の私がいるんでしょう? 農村出身の私でも後宮は部外者は立ち入
り禁止なのは常識なのに。
おかしいですね? こうなった理由を思い出してみましょう。先
ず第一に、カール様が陛下と面会なされてる間は、護衛としての仕
事が無いのです。
そこでカール様が気を利かせてくださり、部屋で待ってるだけな
のも退屈だろうと、妹君のアルチーナ殿下を紹介していただきまし
た。
アルチーナ殿下は、生まれた身分の低い私を見下すような方では
なく。むしろ朗らかに微笑みながら、義理の姉妹として親睦を深め
ようと誘われ、付いて行ったのです。畏れ多いですがこの辺りは理
解できる事態です。
﹁凄いじゃないジャンヌ義姉さん! ここまで凌ぐ人なんて近衛騎
1041
士でも数人しかいないわよ﹂
﹁ひょぁ! わちゃ! 姫様ぁぁぁぁ! ちょ、ちょっと待ってぇ
ぇぇぇ!﹂
ひぃぃ! なんで後宮の中庭で私は殿下と模擬戦やってるんです
かぁぁぁ! 殿下が動きやすそうな運動着に着替えたあたりまでは、
ちょっとした運動するのかと思ったんですが、訓練用の木剣を持ち
出すから変だと思ったんですよぉぉ! いや、ちょっと! 待って
ください殿下、心の準備がぁぁぁ!
迫りくる殿下の剣技は軽いが鋭く、そして何よりも速い。無駄な
挙動を一切削ぎ落とし、的確に急所を狙ってくる⋮⋮正直お姫様の
護身術なんてレベルを遥かに超えてて、凌ぐだけでも精一杯です。
上半身が軽く揺れたかと思えば、死角から首を狙った一撃が飛ん
でくる。勘でなんとか凌いでも反動を利用し、逆方向から超速の斬
撃。辛うじて後ろに跳躍して躱しても、引き絞った矢のような勢い
で刺突を放ってくる。
軽くてしなる細い木の棒を、スライムの外皮で包んだ練習用の木
剣ですが、身体に当たれば当然痛いです。いや剣の稽古で痛いのは
別に気にしないのですが、相手が我が国の王女であるアルチーナ殿
下では、どうしても剣を振るうのを躊躇ってしまいます。
結局、私に戦意が無いのが分かった殿下は、溜息をつきながら剣
を収めてくれました。
﹁むぅ、私は貴女の義理の妹なのよ? 遠慮なんていらないのに﹂
1042
﹁ううう⋮⋮申し訳ございません。ですが騎士として王族の方々に
剣を向けるわけには⋮⋮﹂
私との模擬戦を楽しみにしてたそうで、私のやる気の無さに、唇
を尖らせちょっと拗ねてしまいました。
・・・・・
﹁ジャンヌ義姉さんはお兄様より強いと聞いたから、本気で試合で
きると思ってたのに﹂
・・
﹁それはカール様の謙遜ですよ。私なんてただちょっと速く剣を振
れるだけですから﹂
まだ納得なされてない様子ですが、どうやら剣の試合は諦めてく
れたようです。
﹁仕方ないわね、それじゃ一緒に運動しましょ? お兄様が考案さ
れた玉蹴りはどう?﹂
﹁それならば是非。神官戦士の方々と余暇でよく遊んでました﹂
カール様から教えていただいた通り、殿下は身体を動かすのが好
きな方のようですね。私としても偉い方々とのお喋りは気後れして
しまうので、一緒に汗を流す方が楽しいです。
﹁良かった! 侍女たちはあんまり運動が得意じゃないから、ハン
デをつけないと勝負にならないのよね﹂
いや⋮⋮運動が得意か否かは姫様基準ですよね? 心の中をツッ
コミはついうっかり口に出ていたらしく、試合を見ていた侍女の皆
さんが全員頷いていました。
1043
﹁コホンッ! と、とにかく準備なさい。ジャンヌ義姉さんの分の
運動着も持ってきなさい﹂
侍女の方が持って来てくれたのは、殿下とお揃いの白い半袖の服。
そして伸縮性のある紺色のパンツのような穿き物です。太股が丸見
えなのでちょっと恥ずかしいですが、ここは後宮。女性しかいない
ですし、唯一男性で立ち入れる国王陛下も、カール様とお仕事の話
をしてますから大丈夫でしょう。
伸縮性のある素材の服とはいえ、ちょっとお尻と胸が締め付けら
れる感じですが、普通の服より動きやすいですね。⋮⋮あの? 殿
下、何故ジト目で私を見るのですか?
﹁姫様、成長の見込みは無いからといって、兄君の夫人に嫉妬の目
線を送るのは如何なものかと⋮⋮﹂
﹁ま、まだ望みはあるわ!﹂
﹁大丈夫ですよ。まな板でも殿方によっては好まれる場合が無きに
しも非ず⋮⋮まぁ探せばいるんじゃないでしょうか?﹂
﹁むぃぃ! その運動服で胸を強調するポーズ止めなさい!﹂
﹁いやはや、重くて肩が凝りますから。知ってます? 姫様程度だ
と手のひらに乗るリンゴほどの重さも無いんですよ。あ、ちなみに
私は片方だけで一キログラム以上あるので、姿勢が崩れないように
するだけで大変で大変で⋮⋮あ、姫様には無縁の悩みでしたね、申
し訳ございません﹂
1044
﹁だったらその無駄な脂肪を私に寄越しなさい﹂
専属侍女のモルガノさんと軽口を叩き合う殿下。気さくな人柄の
殿下は、やっぱり家臣たちにも慕われてるんですね。
同じくブルマ姿なのが気安い空気を作るのかな? お揃いの服だ
となんか連帯感が湧きますからね。
殿下とモルガノさんのお喋りを聞いてる内に玉蹴りの準備が整い。
私のチームとアルチーナ殿下のチームに分かれて玉蹴りの試合が始
まった。
試合が始まると後宮の女性たちが見物にやって来て、かなり盛り
上がりました。ふふっ声援を受けるとやる気が湧いてきます。
よーし本気でいきますよ、カロリングの街の玉蹴り冒険者ルール
で鍛えた実力見せて差し上げます⋮⋮あれ、武器持っちゃダメなん
ですか? え? 剣から衝撃波は反則? そんな音速剣の衝撃波で
薙ぎ払ってから、敵陣に切り込むいつもの戦術が使えないなんて。
最近出禁になったから張り切ったのに。
しかし、それが王都のルールなら従うしかありません。その日の
試合は、私とアルチーナ殿下の玉蹴りの腕前はほぼ互角のようで、
後宮の中庭では陛下のご側室の皆様が、大いに盛り上がる白熱の試
合にとなりました。
試合が終わり、侍女の方から渡された冷たいジュースで喉を潤し
ます。ふぅ良い汗かきました。運動して喉が渇いてたのと、ジュー
スが美味しいので五杯もお代わりしてしまいました。
1045
お借りした運動服が汗でびっしょりで、風が吹くとちょっと寒い
です。この服は洗ってお返ししないといけませんから、客室に備え
付けのお風呂でお洗濯しようかしら?
﹁ジャンヌ義姉さん、その運動服は差し上げますよ。また今度王都
を訪れたらまた一緒に遊びましょう﹂
﹁はい、ありがとうございます殿下﹂
もうちょっと殿下とご一緒したかったですが。そろそろ面会が終
わる時間なので、私はアルチーナ殿下にご挨拶をして後宮を後にし
ます。勿論ブルマ姿ではありませんよ? 体操服の上にいつもの服
を重ね着して部屋に戻ります。
用意された私とカール様の部屋に着いたら、急いで服を脱いで汗
を流しませんと。カール様をお迎えするのに、夫人として汗をかい
たままではいけません。殿下から頂いた運動着を、洗濯するついで
に身綺麗にしましょう。
∼∼∼∼∼カールside
オヤジとの面会は話がスムーズだったので、予定よりも早く終わ
った。休憩用に割り振られた部屋で、ジャンヌと二人っきりで過ご
したかったけど、後宮の中庭で妹と遊んでるらしいから、まだ部屋
には帰ってないだろう。
仕方ないな、少し昼寝でもしようかな? 部屋には確かお風呂も
あったし、軽く汗を流してから横になろう。
1046
部屋に戻ったボクは、服を脱ぎ捨て浴室に入る。ちょっと温めの
お湯を頭から被り、髪を洗おうとすると扉が開く音がした。ジャン
ヌが帰って来たのかな?
﹁良かった、まだカール様はお戻りじゃないですね。早くお洗濯を
⋮⋮﹂
声を掛けようと、浴室のドアを開けようとする前に。何故かブル
マ姿のジャンヌがお風呂に乱入してきた。
﹁きゃ! きゃぁぁぁカール様!﹂
﹁何をしてるんだよジャンヌ。まさかその格好でこの部屋まで来た
のか?﹂
﹁ちち、違います! 体操着の上にいつもの服を着てました!﹂
察するに、汗をかいたからお風呂に入ろうとしたんだろうな。だ
からと言ってボクの脱ぎ捨てた服に、気付かないのはどうかと思う
が。
﹁ももも⋮⋮申し訳ございません! すぐ出ていきます﹂
しかし、ブルマ姿のジャンヌって⋮⋮物凄くエロ可愛いな。日焼
けした褐色の肌が白い体操服に良く似合ってるし。メリハリの効い
たスタイルだから小さ目なサイズのブルマがお尻に食い込んでる。
考えるよりも先に、ボクは浴室から出ようとするジャンヌの腕を
掴み、引き寄せ唇を奪う。仄かに香る汗の匂いがボクを余計に興奮
1047
させる。
﹁んむっ! んっんっんっ! やぁ⋮⋮カール様せめてお風呂の後
で⋮⋮﹂
﹁駄目、我慢できない。大丈夫良い匂いだよジャンヌ﹂
汗のせいでぴったりと身体に張り付いた運動着越しにジャンヌの
おっぱいを揉みしだく。
﹁ひぁ⋮⋮あっ、んはぁ⋮⋮カール様ぁ⋮⋮﹂
もう反抗は口だけだ、秘所に伸ばした手から逃げようともせず、
なすがままにボクに身を委ねる。
床に座り対面座位の体勢で、ずらしたブルマから覗くジャンヌの
濡れた蜜穴にボクのペニスを埋没させていく。くぅ、やっぱりジャ
ンヌのオマンコは、ボクのペニスにぴったりだ。
﹁あっはぁぁぁ! くるぅ!入って来るのぉ! カール様の大きい
のが私の中に入ってきますぅぅ!﹂
我慢なんて出来るわけもなく、激しく打ち込む。一突きごとにジ
ャンヌの快楽の声が漏れ出す。もう淫液は太股を伝い零れ床に落ち
る。
勿論突き出すだけじゃなく、体操服を捲り上げ、抱き締めたまま、
おっぱいを愛撫する。下からすくうように持ち上げ、指先を小刻み
に動かす。
1048
﹁あぁ⋮⋮はぁっ! んはぁぁぁ! もっと、もっとぉぉ!﹂
甘えるように愛撫を受け入れるジャンヌの声に応えるよう、指先
で乳首を抓み転がすように可愛がる。
﹁あぁ! あぁ! ンッンッッ! 気持ちいい⋮⋮気持ちいいのぉ
!﹂
﹁ふふっジャンヌはおっぱいが気持ちいいんだね? それじゃこっ
ちは止めちゃおうか?﹂
打ち込んでいた腰を止めて、クリトリスを指でグリグリと押し潰
すように刺激すると、ジャンヌは全身を震わせ嬌声を上げる。
﹁はぁ! や、やぁ止めないでくださいぃぃ! おっぱいだけじゃ
なくてオチンチンで突かれるのも気持ちいいんですぅぅぅ!﹂
ジャンヌが腰を振り出すのでそれに合わせるように、お互いに腰
を打ち付け合うボク達。
﹁んはぁぁぁ! 奥まで、奥まで来るのぉ! カール様のオチンチ
ンが奥までガンガンってくるのぉぉ!﹂
激しく大きな動きで何往復も繰り返していると、否応なしに射精
感が込み上げてくる。それはジャンヌも同様のようで膣孔から零れ
る愛液はもう洪水のように溢れていた。
﹁あっあっあっ! カール様イキます! ジャンヌはもうカール様
のオチンチンでイカされちゃいますぅぅぅ﹂
1049
﹁くぅぅ! ボクも出すぞ!﹂
ジャンヌの膣がキュッと締まった瞬間、ボクも限界を迎え彼女の
膣の奥に欲望を吐き出した。
﹁はぁはぁはぁ⋮⋮﹂
﹁ふにゅぅぅカール様ぁぁ﹂
脱力したジャンヌがもたれ掛かってくる。勢いでエッチしちゃっ
たけど⋮⋮まぁジャンヌのブルマ姿がエロいから悪いんだ。まった
く、こんなけしからん衣装を作らせたのは誰だ? ボクだ。いや量
産させたのは妹だからボクは悪くない。
﹁うぅぅぅ⋮⋮カール様のばかぁぁ。汗くさいままでエッチなんて
乙女心が分かって無いです!﹂
とっくに乙女じゃないだろう? とか言ったら多分拗ねるので口
には出さず。キスで文句を言う口を塞ぐ。
﹁ごめん、ジャンヌの汗の匂いボク結構好きかも﹂
﹁ううう⋮⋮あんまり嬉しくないけどカール様がお望みなら⋮⋮っ
て駄目です一度お風呂に入って綺麗になってからエッチしましょう﹂
物わかりの良いジャンヌは可愛いなぁ、後半の言葉は当然の如く
無視だ。一回射精しただけじゃまだまだ昂ぶりが鎮まらない。挿入
したまま身体をひっくり返し、四つん這いにさせたジャンヌの胸を
両手で揉む。
1050
﹁あぁジャンヌの髪、良い匂い﹂
﹁ひぅ! あっあん⋮⋮恥ずかしい⋮⋮カール様ぁ、待ってぇ、せ
めて汗を流してからエッチしましょうよぉ﹂
ジャンヌのお願いなら大抵叶えてあげるつもりだけど、金髪の褐
色肌美少女騎士を四つん這いにさせ。上から覆い被さり、豊満なお
っぱいを鷲掴みにして。トロトロのオマンコに逸物を挿入した状態
で、お預けなんて出来ると思ってるのか? ましてお前はブルマ姿
なんだぞ我慢なんて無理。
ボクにお尻を向けながら、もじもじと股間の部分を抑えて身体を
震わせる姿は、どう見ても誘ってるとしか思えないからね。嫌がる
振りして誘うのは男心が分かってると言いたいが、多分天然なんだ
ろうなぁ。
﹁はぁん! 私の中でカール様のが大きくなってるぅぅ! あっ!
あぁぁ! は、激しい⋮⋮あぁ待ってください、あぅん! カー
ル様ぁ⋮⋮まって⋮⋮おねがいですぅ﹂
﹁何がお願いなんだ? そうか早く孕ませて欲しいんだね。ジャン
ヌのエッチなオマンコの奥ににボクのザーメンを注いで、ボクの子
を妊娠させて欲しいんだね﹂
少し涙目になってるジャンヌが、喘ぎ声と一緒に何か言ってるけ
どよく聞こえないな。興奮しきったボクの耳は、もうジャンヌの口
から零れる嬌声しか聞こえない。
汗でドロドロの体操着はジャンヌの肌に張り付き、その豊満なス
タイルを強調している。ずり降ろしたブルマはボクの精液が汗と愛
1051
液に混じり、かつて無い程興奮する淫臭を放ってる。
﹁はぁぁぁん! だめぇ! あぁぁもうだめぇ⋮⋮見ないでカール
様ぁぁぁ!﹂
﹁イクのか? さっきイッたばかりなのにそんなに感じてくれてる
んだね﹂
背後からジャンヌの膣奥に何度も突きつける。ジャンヌがイクな
ら一緒にボクも射精したい。狭く締め付けるが愛液と精液が混じり
ナカ
合った膣内は挿入がスムーズで腰を振る速度を限界まで高める。
﹁あっあっあっあぁぁぁ! んはぁぁ! らめぇぇぇぇ!﹂
ダシ
ジャンヌの腰を掴んで膣の奥に押し込んだまま今日二度目の膣内
射精。うぅぅ二回目だというのに大量に出たな、それに凄く気持ち
良かったぁ。やっぱりボクとジャンヌの身体の相性はバッチリだな。
﹁最高だったよジャンヌ。こんなに膣内に射精しちゃったら確実に
妊娠しちゃうんじゃないか?﹂
﹁ううう⋮⋮うぐっ⋮⋮ひっく、うわぁぁぁぁぁぁぁん! カール
様のばかぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
へ? な、なんでジャンヌが泣いて⋮⋮ん? なんかチンポの辺
りが生温かい。愛液とも違う液体がお風呂場に滴り落ちてるような
⋮⋮。
﹁お漏らししちゃった?﹂
1052
言った瞬間後悔した。肩を震わせ泣いていたジャンヌの身体がピ
タリと止まり⋮⋮あ、ヤバい普段温厚なジャンヌが、キレた時にだ
け見せる無表情でボクを見据えてる。
﹁カール様⋮⋮カール様の⋮⋮﹂
無表情のジャンヌを見た瞬間、ボクの行動は一つ。土下座で全面
降伏しかない。
﹁ごめんなさい! 悪気は無かったんだ、ジャンヌが魅力的過ぎて
暴走しちゃったというか⋮⋮愛してるジャンヌ! だから⋮⋮命だ
けは勘弁してください﹂
﹁馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
その後の事は覚えてない。破壊された浴室の壁から察するに、多
分ジャンヌの音速拳の衝撃波を喰らい、裸のまま壁を突き破って浴
室の外に放り出されたんだろうな。
目を覚ますと別の部屋のベッドに寝てたから、余波で客室もボロ
ボロなんだろうなぁ。ボクが泊まってた部屋は防音が完璧だったか
ら、人が駆け付けて来なかったのは不幸中の幸いと言うべきか。
起きたら周囲には疲労で倒れたと説明して、予定をすべてキャン
セル。そして拗ねたジャンヌのご機嫌取りに終始する事になった。
1053
書籍一巻発売記念短編︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
ちなみにおっぱいの重さ云々はどっかのサイトで書かれてたことを
参考にさせていただきました。
余談ですがこんな感じらしいです
Aカップ:142グラム<アルチーナはこれ以下
Bカップ:280グラム
Cカップ:480グラム
Dカップ:760グラム
Eカップ:1140グラム
Fカップ:1620グラム
Gカップ:2200グラム<メイドのモルガノさんがこのくらい︵
片方1㎏以上︶
Hカップ:3000グラム
Iカップ:3800グラム
Jカップ:5000グラム
Kカップ:6200グラム
本編のヒロインたちは明確にはしません、イラストから大体察する
くらいですね。
1054
駄目人間たち︵前書き︶
遅れて申し訳ございません。
申し訳ないついでにお伝えしますが8月中︵夏休み期間︶は仕事が
m︶
忙しくて、いつもより投稿が遅れますのでご了承ください。m︵︳
︳
1055
駄目人間たち
﹁や、やっとカロリングの街に着いた⋮⋮急ぎヘルトール家の家臣
たちにアンジェリカを探すように命じなければ﹂
あぁこの世で一番美しい我が妹が、悪漢に攫われたというのに気
絶していたとは、このリカーネ・ヘルトール一生の不覚。
道中アンジェリカの美貌に魅了された者達も、いつの間にか消え
ており、目が覚めた時は弟のリノンと二人だけだった。しかも馬車
は残されていたが馬がおらず、この街まで徒歩だ。
こけおどし
誘拐犯に無数の光弾で撃たれたが、幸いリノン共々怪我は無かっ
た。ふんっ察するに派手な虚仮威しはできても、それほど強力な術
は使えないと見た。次に相対した時は必ずや報いをくれてやる!
ヘルトール公爵家の嫡男たる私を、敵に回したことを後悔するが
良い。必ずや我が剣で報いをくれてやる! こんな長距離を歩き続
けたのは初めてで、足がまるで鉛のように重いが、愛する妹を救う
ためには泣き言は言っていられない、途中の村で休む間も惜しみ、
一晩中歩いて、日の出の頃に、ようやくカロリングの街に到着した
のだ。
幸いこの街は大きな式典を明日に控え、知り合いが多くやって来
ているし、式典に参加する予定の母と祖母もいる。そして何よりも
アンジェリカに心酔する家臣たちもいるのだ、彼らの力を借りれば
アンジェリカを探し出せる。
1056
﹁兄さん、この街の領主はカール様だ。オルランド様の実弟だし力
を貸して貰えるに違いない。何よりこれは誘拐事件だカール様に話
を通すのが筋だろう﹂
﹁ふっアンジェリカに群がる有象無象がまた増える羽目になるが仕
方がない。私はヘルトール家に向かい家臣たちに話を通してくる。
お前はカール様を訪問せよ﹂
確かカール様は八歳でこの辺境に婿入りしたのだったな。彼も不
幸な境遇だな、女神すらも霞む可憐さと、太陽の如く遍く恵みを齎
す慈愛を持つ我が妹の姿を見ることなく生きてきたなんて、なんと
憐れな。アンジェリカを探すのに役に立てば会わせてやっても良い
な。無論二人だけにする気など微塵も無いが。
﹁分かった。お姉様を救うために、なんとしても辺境伯家を動かす
よ﹂
私同様に重い足を引き摺るように走るリノンを見送り、私も急ぐ。
知らない街ではあるが貴族が集う場所と言うのは大体見当がつく。
その上で三大公爵家であるヘルトール家が借りている屋敷であれば、
恐らく大半の者が知ってるだろう。
知り合いがいれば楽だったが早朝なので生憎と見当たらず、そこ
らの暇そうな平民に道を尋ね、なんとかヘルトール家の旗が立った
屋敷を見つけた。
ふぅこれで一息つける、攫われた妹を探すためにのんびりはして
いられないが、流石に一晩中歩き続けてはいざという時に動けない
からな。家臣たちに命じて⋮⋮むっ! あの馬車は。
1057
﹁待て! 停まるのだ。私はリカーネ・ヘルトールだ﹂
﹁リカーネ? 何故お前がここに? お前がいるということは、ま
さかリノンまでこの街に来ているのですか?﹂
屋敷の門から我が家の家紋が入った馬車が出てきたので、声を掛
けて停めると中からお祖母様が顔を出した。なんという僥倖! 幅
広い人脈を持つお祖母様なら、アンジェリカの捜索に大きな力とな
ってくださる。
﹁おぉ! お祖母様、一大事です。アンジェリカの美貌に狂った愚
か者の手で、我らヘルトールの至宝が奪われてしまったのです! 下手人は一人。顔は覚えておりますので家臣たちに命じ大々的に捜
索をさせましょう!﹂
私は昨日あった出来事を事細かにお伝えした。どれほど疲労して
ようとも一刻も早くアンジェリカを救い出さねば! お祖母様は眉
間に皺を寄せ何か考え込んだ後、御者をしているジェノバに目線を
送る。
﹁まさかとは思いますが、お前の言う下手人とはこの方ですか?﹂
お祖母様の付き人兼護衛である女魔法使いジェノバが鞄から取り
出した姿絵は⋮⋮正しくあの時の男、このいかにも女好きそうな悪
党面は間違えようもない!
﹁コイツです! コイツが公爵家の嫡男たる私と、弟に向かって魔
法を撃ち。アンジェリカを連れ去った極悪人! 一族郎党縛り首に
しても飽き足らぬ大罪人です! 奴は何処にいるのですか! 昨日
は不覚を取りましたが今度こそ我が剣の錆にしてやります!﹂
1058
﹁⋮⋮はぁ。お前はそもそも勘違いしています。まずアンジェリカ
は攫われてなどおりません、ある場所で私が寝食を共にし、王太子
妃に相応しくなるよう教育しているのです﹂
﹁なっ! アンジェリカは何処へ?﹂
﹁所用あって一旦屋敷に戻ったのですが、これからアンジェリカの
所に行きます。しかしお前に場所を教えたら先方に迷惑がかかりま
すので、ヘルトールの屋敷で休んでいなさい﹂
﹁で、ではせめて無事な姿を確認させてください﹂
﹁なりません、躾が終わるまで王都には帰らず、殿方の目に触れる
事は禁じてます。リノンがどこにいるのかはともかく、お前たちは
早く王都に帰りなさい。馬と路銀は用意してあげましょう﹂
﹁なっ! ふざけないでいただきたい! アンジェリカを置いて帰
るなどできません!﹂
お祖母様のあまりに的外れな言葉に、一瞬激昂し剣の柄に手が伸
びた。同時にジェノバが私に殺気の籠った目線を叩き付けてきて、
その瞬間あまりの恐怖に硬直してしまう。ぐっ! ジェノバめ。こ
の女は危険だ、恐らく私が跡取り⋮⋮いやお祖母様の孫でなければ、
剣に触れた時点で殺されていただろう。
﹁うっ⋮⋮す、すまない⋮⋮﹂
言葉もまともに紡げない。まるで猛禽類に見降ろされるネズミに
でもなったような錯覚に陥り、疲労と相まって尻餅をついてしまう。
1059
瞬間的にジェノバが手にした杖から発動しかけた魔力は、魔術の
素養の無い私ですらはっきり感じ取れる程強大な、圧倒的なまでに
破壊的なプレッシャーとなり、ただ座って私を睨んでるだけの女相
手に身動き一つできない。
ジェノバは我が家の分家というにも烏滸がましい下級の家の出身
で、冒険者などという下賤な生業で日銭を稼いでいたところを、お
祖母様が引き立ててくれたことに恩を感じてるらしく、家よりもお
祖母様にに忠誠を誓ってる。
その関係か元冒険者の下賤な身でありながらお母様ともかなり親
しい⋮⋮が、人を殺した経験は一人や二人ではないと今確信した。
なんでこんな危険すぎる女と、お母様は親友ともいえる間柄なのだ
ろうか?
無様に地面に縫い止められた私を、呆れたように見下すお祖母様。
しかし勇気を振り絞り訴えなくては! 兄が妹に会いたいと願うの
は当然。
危害を加える素振りが無ければ、ジェノバも恐らく私に手出しは
しない筈。そうだ! 土下座してればお祖母様の孫である私に攻撃
はしないだろう。この女はお祖母様とお母様からの不興を、なによ
りも避けるからな。石畳に身を投げ出し必死さをお祖母様にお伝え
するのだ!
﹁申し上げます! お祖母様にアンジェリカの楽しい時間を奪う権
利があるのですか! そのような、ただ不自由で息の詰まるような
環境では碌な人間になりません! もっと自由にさせてあげてくだ
さい!﹂
1060
﹁権利? あるに決まってます、娘の教育は母親と祖母が務めるの
が習わしです。教育されずに我儘放題ではもっと碌な人間になりま
せん。それとリカーネ、その惨めな姿は私まで恥ずかしくなるので
早々に立ちなさい﹂
くっこれだから年寄りは! 私がどれほど必死なのかを理解して
くれないとは。そんな頭の固さでこの国に輝かしい未来を齎せると
お祖母様
でも思ってるのか? この旧態依然の懐古主義者め。言われたとお
りに立ち上がり頑固婆を見据え訴える。
﹁そんな意味のない習わしなど従うつもりはございません! さぁ
早くアンジェリカの所まで案内してください! そして考え直して
ください! アンジェリカは我が国の太陽なのです、王都を照らす
輝かしい笑みが無くなれば人々は嘆きの闇に包まれるでしょう﹂
﹁お前たちにとってはそうなんでしょうね⋮⋮お前たちだけにとっ
ては⋮⋮﹂
﹁太陽と言うか誘蛾灯と表現した方が正しそうですがね﹂
むっ? ジェノバが何やらボソボソ言ってるが、お祖母様が額に
手を当て険しい表情をしてらっしゃる。そうか私の熱意を認め、己
の頑迷さを悔やんで⋮⋮。
﹁ぬあぁぁぁぁぁぁ!﹂
唐突に視界が暗転し私は地面に倒れた。な、なにが起きた? お
祖母様が私に歩み寄ったと思ったら⋮⋮この痛みは⋮⋮側頭部を殴
られたのか?
1061
なぜ! 痛みで意識が朦朧とする⋮⋮そして何か大切なモノが心
の中から抜だしたような? あれ? 私はなにを必死に訴えてたの
だろう?
﹁危ない危ない、魔王種の素材で作った魔鋼の鉄扇は威力が高すぎ
ますね、危うく孫を始末するところでした﹂
﹁しかも扇面は月狼王の体毛を編んだもの、素材からして国宝級の
逸品です。あぁ、一週間足らずで仕上げたとは思えないこの神々し
い威厳と美麗さ。フローリパ様程の舞の名手でなくては、威に竦み
手に取る事すら躊躇うでしょう﹂
なんだ? なんだお祖母様が持つ鉄扇は、ただソレがソコにある
だけで、ジェノバに睨まれた以上の恐怖が私を縛る。痛みと疲労で
意識を保つだけで精一杯だ。
親骨と仲骨は黄金の輝きを放つ金属。扇面は虹色の輝きを放つ不
思議な布が張られている。
私も何度か目にしたが、国宝級の武具はそれ自体の存在感で見る
者に威を示す。一見装飾過多な扇子だが、今まで私が目にした国宝
とも言われる聖剣や魔剣の類とは、比較にならないなんと恐ろしい
存在感。なんという威厳だ。
アンチマジック
﹁聞こえてるかは知りませんが、これこそ︻破魔︼の概念を付与し
た銘扇﹃月蝕﹄です。魔力を打ち消す鎧蟻の魔鋼と、付与魔法の素
材として最上とされる、魔獣の体毛を編んだ布を組み合わせた鉄扇。
しかも魔王種の素材をふんだんに使った、当家お抱え職人たちの最
高傑作。この﹃月蝕﹄の前では、あらゆる魔法が春の日の淡雪が如
1062
く霧散するのです、これで魅了が解ければ良いのですが⋮⋮﹂
﹁むっこのボンクラ、もう気絶しておりますね。破魔の効果は確か
に作用したと思われます﹂
もはや二人の会話は聞こえない。胸を焦がす程にアンジェリカを
救う意思が徐々に失われ、意識が闇に落ちた。
﹁式典が終わるまで屋敷の物置にでも放り込んでおきなさい。古今
聞き分けの無い子供の仕置きは、暗い場所に反省するまで閉じ込め
るのが常でしょう﹂
∼∼∼∼∼
腹黒王子
その日カロリング家筆頭武官である私、ランゴ・バルの朝は気持
ち良く寝ていたところを、主君に叩き起こされることから始まった。
寝ていて気が付かなかったが、本日早朝にカロリングの街は、全
てを覆いつくす程の輝きに包まれたらしい。これだけ聞くと何のこ
とだか分からないし、多分カール様も分かってない。
私も何が何だか分からないし、住民たちも当然いきなりの事に混
悪魔王子
乱して、様々な憶測が飛び交ってるらしい。よって我らが主君たる
カール様の命で、朝食も食べる時間も許さずに、我ら武官全員を街
の混乱を治めるべく、空きっ腹を抱えて駆けずり回された。
性悪王子
おのれカール様め、街の人達は迅速な対応が流石とか褒めてたけ
ど、騙されるな街の衆。綺麗なのは見た目だけで、あの人中身は悪
1063
魔も逃げ出す程真っ黒だぞ。結構長く仕えてる私が言うのだから間
違いない。
理不尽大王
こうやって人を人とも思わないような主君のせいで、私には彼女
外道領主
を作る時間も無いのだ。くっ辺境伯家の筆頭武官ともなればモテモ
テの筈なのに、これまでの人生で彼女がいないのは全てカール様の
せいだ!
本人には怖くてとても言えないような文句を胸に収めつつ、我ら
武官が苦労して街を宥めて回ったので、なんとか大騒ぎする住民を
落ち着かせる事が出来た。ついでに話を聞いてみると、光が発生し
たのは本日早朝、話を聞くために訪ねたいので、先ず件の屋敷の借
主を調べる事にした。
調べた結果、光の発生源はアストライア家が一時的に借りている
借家。つまり勇者様が借りた家だったと言う事で、住民たちも﹁勇
者様のなされた事なら⋮⋮﹂と無理やり納得したようだ。
暗黒王子
なんとか混乱を治め、同僚たちと主君への愚痴で盛り上がりなが
ら、カロリング邸に戻る。食堂には湯気を立て、食欲を刺激する芳
醇な香りを漂わせる朝食が用意されていて、全員我先にとがっつく。
いやぁカール様は無茶は言うけど、ちゃんと埋め合わせしてくれ
る良い主君だなぁ。同僚の武官がカール様を腹黒とか言ってたから
後でチクっておこう。
香ばしい焼きたてのパンに、たっぷりバターをつけてモグモグ。
厨房で揚げたてのコロッケに塩を振ってパクパク。野菜は嫌いだか
ら脇に寄せて、焼きたてで脂の滴るベーコンをパンに挟んでガツガ
ツ。う∼ん貧乏な実家では考えられない豪華な朝食、これだけでも
1064
カール様に仕えた甲斐があるというものだ。
と、そんな人生の幸せを噛みしめてるところに、いつの間にか食
堂にカール様が入ってきて一言。
﹁ランゴ、ちょっとさっきの光の発生源まで行って事情聞いて来て。
誰がやったのは分かったけど、なんでやったのか確認しときたい﹂
と、無慈悲な主の命令が下されたのだ。くっこの外面だけは良い
陰険王子め。こうして人生の潤いを奪っていくんだな。畜生彼女出
来たら辞めてやる!
﹁あの、せめてパンだけでも食べてからでいいですか?﹂
﹁歩きながら食え、ちなみに一時間以内じゃないと、来客が多くて
報告を受けてる暇がないから急ぐように﹂
くっ! なんという無道、私にはゆっくり食事をとる権利も無い
のか? なんとか別の人間に押し付けようと周囲を見渡しても、カ
ール様の姿を見た瞬間に他の連中は逃げていた。
残酷悪魔
おのれぇ! 朝飯に意識が向いていてカール様の接近に気が付か
ないとは不覚!
悪逆王子
しかしここで抗ってもカール様が命令を撤回する訳もない。大人
しく復命して、光の発生源である、勇者様が借りたとされる屋敷に
向かう。
あの屋敷を借りた相手が相手なので、文句は言えても怒れない。
住民たちも遠慮して押しかけて事情を聞くなんてしてない。畜生、
1065
勇者様の女運をちょっと私にも分けて欲しい。
そう言えば勇者様の背中を拝んだら、意中の女性をデートに誘っ
て成功したって噂があるな。試しに見かけたら手を合わせてみよう
⋮⋮けどその前に朝飯だな。さっさと事情を聞いて、帰ったらご飯
食べよう。
﹁私はカロリング家筆頭武官ランゴ・バルと申します。今朝の件に
ついてお話を伺うよう、主君カール・カロリング様から仰せつかり
参上した次第です﹂
屋敷の呼び鈴を鳴らし、声をかける。カール様の名前を出したか
ら大人しく話は聞かせて貰えると思う。
﹁は、はーい。すいませんすぐに門を開けます﹂
少年とも少女ともつかない、やや高めの声。門の内側から閂を外
す音が聞こえ、同時に門が開く。そこで⋮⋮私は天使に出会った。
∼∼∼∼∼
﹁遅い⋮⋮なにやってんだランゴは?﹂
今日の昼はクリス殿と面会の予定だ。昨日の巨大蛙のお礼と幾つ
かの連絡事項があるだけ。だけど今朝の光についてちょっと注意し
たいから、予め事情を確認しておくために、筆頭武官のランゴに話
を聞いてくるように命じたのだけどまだ帰ってこない。
1066
これはアレかな? 遅めの朝御飯を食べてる最中に送り出したか
ら、途中で買い食いでもしてるとか? いやまさか二十三にもなっ
てそれは流石に無いか。なにかトラブルでもあったのかな?
朝からやって来る来客が多く、面会の約束が詰まってるので、ラ
ンゴを探すように他の者に指示しようにも式典の前日は皆忙しい。
ホント話を聞いてくるだけでどれだけ時間がかかってるんだ? や
っぱりトラブルかな、外から来る人が多いし、少し心配になってき
たな。
﹁カール様、次は王都で宰相補佐を務めるフリック・アブニール卿
とそのご嫡男です。面会の約束をされる際に送られてきた手紙がこ
ちらに。五分ほど余裕がありますので、軽食を食べながらでも目を
通してください﹂
おっと、ランゴの事は気になるけど、仕事を放ってはおけない。
トラブルだったら後で報告が来るだろうから、こっちに意識を切り
替えないと。モルガノの渡してくれた手紙には、五分後に面会予定
のアブニール卿から持ち掛けられた商取引に関する取り決めの、具
体的な落しどころについて書かれていた。
﹁ありがとうモルガノ。あ、このサンドイッチは君が作ったの? 美味しいね﹂
﹁フフッ、お褒めに預かり光栄です﹂
軽いドヤ顔をするモルガノ。この子って言葉遣いそのものは丁寧
だけど、幼馴染だからか、ボクとかアルチーナに遠慮がないんだよ
ね。まぁ子供の頃よく遊んだ女の子に畏まられても、微妙な気分に
なるから咎める気は一切無いけどね。それが分かってるから軽口を
1067
叩いたりするんだろう。
彼女がボクの秘書的ポジションに就いてからというもの、忙しい
のは変わらないけどボクの負担がかなり減った。こうして仕事の合
間に資料を用意してくれるとか、休憩する時間を捻出してくれたり
と気分的に物凄く楽だ。
有能な美人メイド秘書万歳、しかも幼馴染で巨乳とか最高! ん
? なんかジャンヌがジト目になってるけど、護衛と秘書じゃ役割
違うから気にすることないぞ。
﹁ジャンヌさんも宜しければどうぞ、護衛の任は一時も気の抜けな
い激務ですもの、甘い物を用意しましたので召し上がってください﹂
﹁ふぇ? そそ、そんな! 違いますよカール様ばっかり美味しそ
うなサンドイッチ食べてて羨ましいとか思ってましたけど、私まで
食べたいなんて⋮⋮﹂
あ、やきもちじゃなくて単にご飯が欲しかっただけか。欲しいな
らサンドイッチの最後の一個をジャンヌに上げると、美味しそうに
食べる。その姿はまるで小動物だな、可愛いから今晩もデシデラー
タと二人がかりで、たっぷりベッドの中でイジメよう。
今夜の予定はともかく⋮⋮さて、面会の時間だ。ランゴの事は心
配だけど予定通りに仕事をする。
途中公爵家の人間を名乗る子供がやって来たけど面倒なんで無視
する。領主がアポなし訪問ですぐ会えるわけないだろうが。クリス
殿ですら段取り踏むんだぞ。
1068
昼になり、時間通りにクリス殿はやって来た。この人約束は守る
し、遅刻とかしないし、ある程度こっちに配慮して不利益が無いよ
うに動いてくれる。そこだけ見ると物凄く良い人に見えるけど、常
識がズレ気味なのと、アホみたいな戦闘力と、それに伴う影響を一
切考慮しないから、そのしわ寄せが全部ボクに来るだけで⋮⋮くそ
ぉこの人何様だよ! 勇者様だよ畜生!
お礼に関しては、アレは自分の義妹になるから気にしないで良い
と⋮⋮物凄く不本意そうに言うけど、こっちも助かったから、とり
あえず美術品を数点受け取ってもらった。
﹁そうだ、カール王子に俺の兄弟を紹介しとこうと思うけど良いか
な?﹂
彼には伝えないといけない事がそれなりにあるし、今朝の光につ
いても注意するつもりだから時間は多めに予定してある。頷くと隣
の部屋に待機してたらしい二人がモルガノの先導でやって来た。
良く日焼けした温和そうな青年は兄のディーン殿。もう一人は一
瞬クリス殿から妹を紹介されるのかと身構えたら、実は男だった弟
のノワール殿。ふぅ、焦った。
当主から直接親類の女性を紹介されるのは、強制力のあるお見合
いと同義なのがこの国の習慣。当然侯爵家の当主になるクリス殿か
ら妹を紹介されるのって、ほぼ断れない縁談になる⋮⋮ごめんデシ
デラータ、ジャンヌ。ちょっと期待したボクを許してくれ。
ぶっちゃけノワール殿を初めて見た時、ものすっごい可愛い女の
子だと思った、それで妹さんを紹介されるかもと期待してしまった
んだ。くそぉあの見た目で男ってないだろ。
1069
﹁弟だからね、弟。初見で間違える奴が殆どだけど、なんかオリヴ
ィアからノワールには縁談が殺到するとか警告されたから、王子に
も伝えておこうと思って﹂
﹁分かりました、ボクの方からややこしい事にならないよう、各方
面に釘を刺しておきますので﹂
未婚でクリス殿の弟とか、狙われるだろうなぁ。特に相手の居な
い王都のご令嬢とか、あの手この手で篭絡しようとするに違いない。
見目が悪いならともかく女顔とは言え美少年だから余計に。
後で話を通しておくとは言え、クリス殿には色々と話しておかな
いといけない事があるから後回しだ。
﹁それとクリス殿。少々機密に関わる話がありますので⋮⋮﹂
ボクがチラリとディーン殿とノワール殿に目線を向けると、なん
となく察したようだ。
﹁紹介終わったし兄貴とノワールは馬車の所で待っててくれ、帰っ
たら俺の嫁さん達紹介するから﹂
礼儀正しく退室する二人を見送り。軍関係とか、アルチーナの嫁
入り後の細々とした注意点などを伝える。特に地位を与える訳だか
ら独断で勝手に動かないようにと釘を刺す、これは重要だ。むしろ
コレが伝われば他はどうでも良いレベル。
そうして伝えるべきことは全部伝えて、面会の時間が終わり彼も
帰った。この後は兄弟と一緒に屋敷で昼食だったかな? 兄弟仲が
1070
良くて羨ましいな。ボクの場合に兄貴には避けられてるからな。全
く、なんでこんな事に? まぁボクが騎士団の訓練に内緒で参加し
て、兄貴を笑顔で殴り倒したせいなんだが。
兄弟と言えば⋮⋮公爵家のリノンとかいう子供どうしたっけ? 無視してたから忘れてたけど未だ屋敷にいるのかな?
∼∼∼∼∼
なんでこんな事になってるんだろうなぁ⋮⋮領主様に弟だって紹
介が終わったし、クリス兄ちゃんが大事な話をしてるから、終わる
まで馬車で待ってろ。ただそれだけだったはず。道にも迷ってない
し、ちゃんと警備されてる屋敷で泥棒が出るわけもない。
﹁お嬢さん! また会えましたね。今朝は碌に挨拶もできず申し訳
ありません。私はカロリング家筆頭武官のランゴ・バルと申します、
宜しければお嬢さんのお名前を⋮⋮﹂
﹁おい、先ほどは助かった、礼を言うぞ。俺はヘルトール公爵家次
男のリノン・ヘルトールだ。身なりからして冒険者だろう? 当家
で召し抱えてやるから喜べ﹂
⋮⋮なんでこんな事になってるんだろうなぁ。ディーン兄さんと
同年代っぽい騎士さんと。さっき強面の冒険者に絡まれて涙目にな
ってた、僕と同い年くらいのお坊ちゃんが、なんか熱の籠った目で
迫って来るんだけど⋮⋮。
男に声をかけられるのは、不本意ながら何時もの事だけど、なん
1071
でか知らないけどこの二人は熱心だなぁ、すぐ隣にいる人間の事す
ら気付いてないっぽいし。
﹁僕の名前はノワールですけど⋮⋮お嬢さんじゃなくて男ですから
ね? あと仕官は当てがあるので結構です﹂
僕って既にクリス兄ちゃんの家臣扱いされてるって聞いてるし、
余所に行っちゃ流石に拙いよね? 仕官するにしても兄弟の方が気
楽だし、待遇も良いと思うし。
﹁成程、女性だと侮られるから男性の振りをしてるんですね。冒険
者の女性にはよくある事です。ノワールさんのように可憐な方は身
を護るにも一苦労でしょう﹂
﹁なんだと! ヘルトール家はマーニュ王国三大公爵家だぞ。ヘル
トール家の武官となれば何処よりも待遇は良い、他の誘いなど蹴っ
てしまえ!﹂
ディーン兄さんがトイレに行って、離れた途端にコレだよ! 畜
生、僕が男だって言っても信じやしねぇ! 頼むから話聞けよ、自
分勝手な男はモテないってイレーネ義姉さんが言ってたぞ!
やじり
これが場末の酒場とかだったら鏃を潰した矢で手足を撃って、さ
っさと逃げるんだけど、流石に辺境伯様に会うのに武器なんて持っ
てるはずもなく馬車の中に置いたままだ。
男二人が無遠慮に近寄る。僕は離れる。何やら頬を染めながらま
たにじり寄ってくる。僕は後ずさる。接近、後退。接近、後退⋮⋮
壁際まで追い詰められた。畜生だから僕は男だって言ってるんだよ
! っていうかなんでアンタらほぼ同時に動くの? 仲良しか?
1072
﹁ノワールさん宜しければこのまま一緒に昼食は如何ですか? こ
の街の事なら何でも聞いてください、ノワールさん好みのお店に案
内しますよ﹂
ランゴと名乗る騎士さんは、口調は丁寧だけど血走った目で全身
を舐めまわすように見据えながら、僕の右側の壁に手を付く、所謂
壁ドンか、男にされても嬉しくねぇよ。
﹁お前の言う仕官の当てとはどこだ? 俺が直々に話をつけて来て
やる。お前は当家の武官として必要なのだ。お姉様を害虫から護る
者は、ある程度以上の容姿を持ってないと、引き立て役にもならな
いからな﹂
リノンとか言うお坊ちゃんは、さっきまで強面の冒険者に絡まれ
てたときのビビってたのは、一体なんだったのかと言いたいくらい
強気に迫ってきて、僕の左側に壁ドン。僕より背が低いから怖くな
いけど、両側から迫ってこられるとぶっちゃけキモい。
おい、やっぱりこいつ等すぐ隣にいる奴にも気付いてないのか?
や、やめろそれ以上近寄るな! 顔を寄せてくるな僕は男なんだ
よ! 迫って来るなら可愛い女の子が良いのにぃぃぃ!
﹁お待ちなさい! 男二人がかりで一体何をなさっておいでですの
!﹂
凛とした声が響く。それはなんか危ない目つきで僕を見てた二人
でさえ、振り向くほど活力に満ちた人を惹きつける声だった。その
声の持ち主は⋮⋮綺麗な金髪をいかにもお嬢様といった感じの縦ロ
ール。一目で高級品だと分かる上品なドレスを纏い、勝気そうな瞳
1073
が印象的な美少女だった。
﹁彼女は嫌がっているではありませんか! それを二人がかりで追
い詰めるなど⋮⋮恥を知りなさい下郎が!﹂
か、カッコいい! ビシッと扇子を突きつける姿は実に凛々しい。
ヤバい惚れそう。
﹁な、なんだと貴様! 俺を誰だと思ってる!﹂
﹁ふっヘルトール家の⋮⋮あぁ興味が欠片も無いから知りませんわ。
でも呼び名が無いのは不便だからゴミムシと呼んで差し上げましょ
う。足りない知能で理解したのなら彼女から離れなさいゴミムシ﹂
ヒト
おぉ。なんか見下しながら命令するのに慣れてるっぽい。やっぱ
あの女性は偉い人の娘さんとかなのかな? 僕の方に目を向けると、
凛々しさはそのままに柔らかく笑いかけてくる。
﹁貴女はこっちへ、怖かったでしょう? 大丈夫よ守ってあげるわ﹂
いかにも貴族って感じだなぁ、僕は彼女の言葉に逆らわずに駆け
寄り彼女の手を取った。すごい、女の子の手ってこんなに柔らかく
てすべすべしてるんだ。
﹁あ、ありがとうございます。僕はノワールと申します﹂
﹁ノワールさんですか、良い名前ね。私はヒルダ。ヒルダ・フィラ
クロウよ﹂
近くで見ると凄く綺麗だなぁ、見ず知らずの僕を助けてくれるく
1074
らい優しくて、その上頼りになるなんて。こんな人と恋人になれた
ら人生幸せなのに。一番の問題はこの人も僕の事を女だと思ってる
ことだが。
﹁フフッじっと見つめられたら照れてしまいますわ、ノワールさん﹂
﹁ご、ごめんなさい! ヒルダさんが綺麗で⋮⋮つい見惚れちゃっ
て⋮⋮﹂
不意にヒルダさんの僕の手を掴む力が強くなったような? あと
なんか顔が赤くなってるような?
﹁か、可愛い⋮⋮くふふ⋮⋮家の命令で婚活なんてさせられてるけ
ど。やっぱり男なんかより可愛い女の子と白百合の咲き乱れる花園
でイチャイチャラブラブギシギシアンアン⋮⋮くふっ! 実家の監
視もないしこの街に私の美少女パラダイス計画を⋮⋮﹂
あれ? さっきまで凛々しい令嬢って感じだったのに。なんか急
にダメ人間の顔になって、碌でもない事をブツブツ言ってるような
⋮⋮身の危険を感じたので手を振り解いて逃げようにも、予想外に
力が強くて逃げられない!
﹁ヒ、ヒルダさん? あの⋮⋮僕は兄と待ち合わせしてるのでこれ
で失礼を⋮⋮﹂
﹁しかもパクリと美味しく頂いても何処からも文句の出ない冒険者。
こんな可愛い子が汚らしい野獣の世界にいつまでもいたら餌食にな
るのは時間の問題ね。これは保護⋮⋮そう不幸になる美少女を救う
高貴なる者の義務!﹂
1075
⋮⋮畜生、この人も話を聞かないマイルール最優先のダメ人間だ
! さっきのときめきを返せ! クリス兄ちゃんといい僕の周囲に
は人生楽しんでる馬鹿ばっかりか!
1076
駄目人間たち︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
サブキャラの話が好きなのでちょっと長引いてしまいましたが、そ
ろそろ本筋を進めます。
︵昔書いてた作品を見直してて﹁最初は良いけど段々脇道に逸れて
きて面白くなくなる﹂と指摘されてるのを見て反省中︶
追記
お休みの日に税務署行った足で大きめの本屋数店回っても
本作の書籍が何故か見当たらない不具合onz
1077
魂の兄妹︵前書き︶
まず、大変お待たせしたことをお詫び申し上げます。
理由としましては、8月中書籍2巻の書下ろしとして、自分の趣味
丸出しなものを100ページ分ほど書いてまして⋮⋮ふふふ夏休み
期間でお客さんの入れ込みが2倍近いのと、猛暑の中妄想を詰め込
んだぜヒャッハー!
︳
m︶
何が言いたいのかと言うと⋮⋮投稿遅れて申し訳ございませんm︵
︳
1078
魂の兄妹
﹁なぁノワール、お前なんでそんなにボロボロになってんだ? 喧
嘩?﹂
カール王子との面会が終わり、俺の家でご馳走が食べれる! と、
楽しみにしてた筈のノワールはなにやらボロボロになってた。具体
的には猛獣に追われて必死に逃げ回ってたかのようなありさまだ。
﹁喧嘩の方がまだマシだよ! 僕が男だって言っても誰も信じない
し。ディーン兄さんが来なかったらどうなっていた事か⋮⋮﹂
涙目になりつつ不貞腐れて、馬車の奥で丸まってるノワールは放
っておいて、兄貴に目線を向けると﹁聞かないでやってくれ﹂とで
も言いたげに首を横に振った。まぁいつもの通りに女と間違われて
ナンパされたんだろうな。
﹁カール王子には話を通したし、あの人なら上手く仕切ってくれる
から大丈夫だって。俺の結婚式が終わった後のパーティーとか楽し
みにしてろよ、モテモテだからさ﹂
バカ
聞いた話だと義妹のせいで、結婚に関して割と危機感を抱いてる
令嬢が多いらしく、自分で言うのもアレだが俺の実弟で独身ってだ
けで優良物件なので、顔も名前も知られてないけど、とっくに標的、
いや獲物にされてるそうだ。
俺としてはノワール本人を好いてくれる娘なら、特に問題ないと
思ってる。しかしオリヴィア達が言うには、ある程度の地位と実力
1079
がある家の娘じゃないと、やっかみに晒されて危険だって話だし、
カール王子に仕切ってもらうのが一番面倒がないだろう。
﹁ううう⋮⋮怖い。大貴族のお嬢さんってマジ怖い⋮⋮あの金髪バ
カを止めてくれたメイドさんは天使⋮⋮﹂
なんかブツブツ言ってるけど大丈夫かな? まぁノワールは踏み
潰されてもすぐに復活する、雑草メンタルだし気にすることないか。
﹁イレーネや男爵様が家で待ってるし急ごうか、ノワールを探すの
に少し時間がかかったから待ってるだろう﹂
﹁あいよ、そう言えば今朝のアレ、結構目立ったっぽいけど兄貴は
なにか言われたか?﹂
カール王子にも注意されたけど、兄貴とイレーネに祝福をかける
ためとはいえ、いきなり凄い光を放ったから、街の人達が結構混乱
したそうだ。近所から苦情とかきてたらなんか申し訳ない気がする。
﹁立派な身なりの武官とか、神殿の司祭様が事情を聞きに来たくら
いだよ。ディムナたちが近所の人たちに聞いてきてくれたんだけど、
お前が借りてる家だったからって、直接聞きに行くのは遠慮したん
だってさ﹂
﹁割と勢いだけで発動させたから周囲の事気にしてなかったな。今
度からは気を付ける﹂
驚かせちまったのは反省する。神殿の人に事情話したんなら、近
所の人たちに伝えてるだろうし大丈夫か。忙しいのに手間かけさせ
ちゃったのは後で謝っとこう。
1080
話してるうちにおっちゃん達が泊まってる家に到着。待っていた
のはイレーネだけで、予定より遅れた理由を話したら、馬車の隅で
いじけてるノワールを見て納得したみたいだ。
ちなみにおっちゃんとノワールの仲間二人は、﹁自分たちは場違
いだから﹂と、街を観光しに行ったらしい。
そんなの気にすることないと思ったけど、イレーネが言うにはこ
のカロリングの街は珍しい料理が多いので、最初から食べ歩きをす
る気だったらしい。
普通だったら他地方の貴族や商人とかと誼を結んだりして、結構
忙しいはずなんだけど、おっちゃんは食道楽を優先するあたり大概
である。そんなだから太るんだよ。
バカ
あ、でも離れに隔離してる義妹と、万が一遭遇したら面倒になり
そうだし丁度良いか。あのバカの場合気合だけで俺の張った結界を
突破しかねないからな。
借りた家はほど近いので、少し話しただけで我がアストライア家
の屋敷に着く。門を潜るとディアーネが出迎えてくれた。
﹁お帰りなさいませご主人様﹂
﹁ただいま、ディアーネ﹂
馬車を降りて出迎えてくれた愛妻にキス。そして肩を抱いて兄弟
たちを紹介すると、兄貴とイレーネはちょっと赤くなったくらいで
普通なんだけど、ノワールは⋮⋮なんか黒いオーラを発していた。
1081
﹁クリス兄ちゃん! 昨日のティータニアさんとユングフィアさん
みたいな美人捕まえといて、まだそんな綺麗な人を奥さんにしてる
とか⋮⋮その女運こっちに分けて!﹂
﹁大丈夫だって、明日の結婚式の後はモテモテだから。ちゃんと弟
だって紹介するから﹂
﹁ううう⋮⋮やだよぉあの金髪野獣みたいなのに、迫ってこられた
らと思うと⋮⋮﹂
金髪野獣ってのが誰かは知らないが、相当怖い目に遭ったんだな
ぁ。金髪の熊みたいな大男が求愛してくるのを想像して⋮⋮うん、
怖いな。俺だったら気絶させた後、自分に関する記憶を抹消するか
もしれん。
﹁元気出せって、ちゃんとした家のお嬢さんって、男を立てる教育
されてるんだよ。だからお前の嫌がる事はしないし、お互い歩み寄
って付き合うと居心地良いぞ﹂
﹁そ、そう? あの野獣は例外なの? 優しくて、可愛くて、僕の
事をちゃんと男として見てくれる娘とかいるかな?﹂
さっきからノワールの言ってる金髪野獣って、ナンパしてきた男
じゃなくてお嬢さん? ノワールのことを知ってアプローチかけた
って事かな? まぁ積極的な子はいるだろうな。
﹁最初は俺の弟って先入観があるかもしれないけどさ、付き合って
るうちにお互いに理解し合えば大丈夫。なにも会ってすぐ結婚なん
て話じゃないんだから﹂
1082
﹁ホント? 物陰に連れ込まれて捕食されない?﹂
われる
喰
自分をノワールの立場に置き換えて⋮⋮可愛い女の子に性的に襲
われるなら、多分喜んでお嬢さんの食卓に上がるな。経験豊富な子
にリードされるのも良し。もしくは経験ない子が頑張って慣れてる
ように振舞うとか⋮⋮最高に興奮するな、うん。
﹁可愛い女の子に捕食されるなら役得じゃね? それとも金髪の子
って好みじゃないのか?﹂
﹁クリス兄ちゃんのエロバカ! ド畜生、アレと同じタイプのバカ
だった! 知ってたけど!﹂
失礼な奴だな、俺はただ自分に正直なだけなのに。しかし俺と同
じタイプで女の子ってどんな子だ?
﹁まぁ話は後で聞くとして。お前、走り回ったせいで服に泥とかの
汚れが付いてるし、とりあえず着替えろ。俺の替えの服やるから﹂
俺の方が大分背が高いけど、裾とか詰めれば大丈夫だろ。ディア
ーネが申し出てノワールを連れて行ったので、俺たちは先に食堂に
向かう⋮⋮気のせいか? ディアーネはなんか食堂に行きたくなさ
そうに見えたんだが⋮⋮。
そしてオリヴィア達が待ってる食堂に、足を踏み入れた俺達が目
にしたものは⋮⋮。
﹁あっはぁぁぁん! お姉様! お姉様! オリヴィアお姉様ぁぁ
ぁ! 何も言わずに王都からいなくなったと聞いた時はこのヒルダ、
1083
胸が張り裂ける思いでしたわ! さぁお姉様お確かめになって私の
胸の鼓動を! お姉様の手で優しく、撫でるように! この胸を確
かめてくださいませ! 邪魔な服は今すぐ脱ぎますので﹂
﹁ヒ、ヒルダ落ち着いて。心配かけてしまってごめんなさい、けど
こうして無事に再会できたのだからそれで良いでしょう?﹂
﹁あぁお姉様⋮⋮そうして微笑みかけてくださるだけでこのヒルダ
は⋮⋮あふぅん!﹂
なんか残念な人がオリヴィアに抱きついて、ついでになにやら手
つきがいやらしいので襟首掴んで引き剥がした。
窓から差し込む日の光を反射して、輝いて見えるくらい綺麗な金
髪の少女。勝気そうな瞳が印象的だけど、顔立ちそのものは幼げで、
美人というよりは可愛いとか可憐といった少女だ。あとスタイルが
めっちゃ良い。胸デカいし腰からお尻のラインが実にエロい。
﹁な、なにをするの! 私のオリヴィアお姉様が! わ・た・し・
のっ! オリヴィアお姉様が無事であった喜びを邪魔するのは誰!﹂
と、見た目だけなら極上の美少女であるんだけど。オリヴィアへ
の視線と手つきがいやらしいのと、言動から漂う駄目人間臭が凄ま
じいので愛するオリヴィアを護らなくてはならない。
﹁色々言いたいことがあるが一番重要な事だけ答えよう。オリヴィ
アは俺のだ!﹂
オリヴィアの肩を抱き、金髪縦ロールのお嬢さんから庇いながら
宣言する。ちょっと恥ずかしそうだけど、俺のセリフが嬉しかった
1084
らしく身を寄せてくるオリヴィア。
﹁な、なんですって! わ、私のオリヴィアお姉様が⋮⋮そ、そん
な⋮⋮これが寝取られ﹂
がっくりと項垂れる縦ロールのお嬢さん。まぁ悪意が無いのは察
せるし、オリヴィアの事が好きなのは伝わった。そしてディアーネ
が食堂に近寄りたくなさそうだった理由も分かった。
まぁ悪い子じゃなさそうだ。とりあえずショックを受けて蹲って
る間に、食堂に集まってる嫁たち全員に俺の兄貴と、その妻である
イレーネを紹介する。
男性恐怖症のオリヴィアだが、兄貴に対して傍目には普通に振舞
う。ただ俺の目には大分無理をしてるのが分かったので、挨拶が終
わったら後ろから抱きしめて、震える手を握る。とりあえず気を紛
らわせるのになんか会話⋮⋮あ、丁度良いのがいた。
﹁そう言えば聞きそびれたけど⋮⋮あの子誰?﹂
﹁あ、はい⋮⋮旦那様。彼女は王都にいた頃のお友達でして⋮⋮﹂
オリヴィアの声が聞こえた瞬間、すぐに元気なった金髪の彼女は
オリヴィアに抱き付いて、うっとりとした表情を浮かべる、ちなみ
に俺も抱き付いたままなのだが、彼女の視界に入ってはいないらし
い。
﹁お友達だなんて⋮⋮あぁオリヴィアお姉様なんてお優しい⋮⋮そ
うお友達ですので一緒にお風呂に入ったり、洗いっこしたり、一緒
のベットで⋮⋮ごふっ﹂
1085
﹁はぁい、お嬢様ぁ。駄目ですよぉ? 屋敷の主人がぁ、お帰りに
なったのにぃ、ご挨拶もしないなんてぇ﹂
うずくま
やや間延びした声が聞こえたと思ったら、お嬢さんが頭を押さえ
て蹲る。オリヴィアがなにやら心配そうにしてるが、助けようとし
ないあたり何時もの事なのだろうか?
声の主であるメイドさんは、縦ロールお嬢さんのお供らしいけど、
壁際から動かずにお嬢さんの動きを止めるとは、中々の手練れだ。
多分風魔法使いで、空気操作で拳骨したんだと思うけど、初動が一
切読めないレベルだから間違いなく達人級の使い手だ。
﹁カ、カミラ⋮⋮貴女⋮⋮このヒルダ・フィラクロウに⋮⋮﹂
﹁大旦那様からぁは許可貰ってますぅ。ですから問題ありませんよ
ぉ?﹂
オリヴィアに目線で問いかけると、俺の言いたいことが分かった
のか彼女について教えてくれる。
なんでもヒルダさんの生家フィラクロウ家は、オリヴィアの生家
である、ヘルトール家と同格。三大公爵家の一つでこの国の南部一
帯を纏める一族だそうだ。風魔法の達人がメイドになってお供する
のも納得の大貴族だ。
このフィラクロウ卿、大変艶福家として有名で、夫人が三十人以
上いる上に、子宝にも恵まれている。
そしてこのヒルダ嬢は、そのフィラクロウ卿の末の娘として大切
1086
に育てられた⋮⋮大切にされた結果バカ⋮⋮もとい、大変に自由闊
達な少女に育ったのだ。
﹁ふっ⋮⋮ふふふっ! 良いでしょう⋮⋮お初にお目にかかります、
ヒルダ・フィラクロウと申し上げます。女神様の地上代行者たるア
ストライア卿にお会いできて光栄ですわ﹂
自己紹介に始まり、スカートの端を掴んでお辞儀する様は、さっ
きまでの残念さは無く、流石名家の令嬢と思わせるだけの教養が感
じられた。感じられたんだが、お互いに挨拶が終わったら、ルーフ
ェイにケダモノのような目線を送るの止めろ、良い子のルーフェイ
が軽く引いてるぞ。
﹁しかし⋮⋮勇者様となるとオリヴィアお姉様の伴侶として、分不
相応とは申せませんが⋮⋮えぇい! お姉様の何処が好きですか!﹂
﹁勿論⋮⋮すべてだ!﹂
﹁私もですわ!﹂
指を突き付け、詰問してきたヒルダ嬢に、俺は躊躇なく答える。
そして打てば響くかのように彼女も答える。うむ、このヒルダ嬢は
分かってるな。今度はこちらから問おうじゃないか!
﹁グッとくる仕草は?﹂
﹁遠慮がちな上目遣いですわ!﹂
﹁確かに! しかし俺としては、あーんしてあげた時の目を閉じて
口を開いて待ってる時だ!﹂
1087
﹁なんて羨ましい! 後で﹃心写しの木板﹄を持って参りますので、
その表情の姿絵を百枚くださいませ!﹂
﹁良いだろう! その代わり王都にいた頃のオリヴィアの姿絵を寄
越せ! 持ってるんだろう?﹂
﹁勿論ですわ! 王都の別荘にある分全てを差し上げます、ですか
ら⋮⋮分かっておられると信じますわ﹂
﹁あぁ⋮⋮分かってる。楽しみにしていろ⋮⋮ベッドの中のオリヴ
ィアは⋮⋮最高だぞ﹂
﹁ふっ私がお姉様に出会った頃のお姿も⋮⋮至高ですわ﹂
互いに理解しあってると確信し、頷き合い、固い握手を交わす。
この瞬間俺たちは魂の兄妹となった。ちなみにこの会話はお互いに
オリヴィアを抱きしめたまま行われている。なんかプルプル震えて
る気がするが気のせいだろう。
﹁悔しいですが勇者様ならオリヴィアお姉様をお任せできますわ。
私の事はヒルダとお呼びください﹂
﹁分かったよヒルダ、俺の事はアニキと呼べ﹂
﹁分かりましたわアニキ様﹂
俺たちはオリヴィアを挟んで朗らかに笑い合う。嫁たちはなんか
微笑ましそうに見てるけど、イレーネは呆れたような表情だ。
1088
﹁旦那様⋮⋮姿絵を写すのはご自由ですが、ベッドの中のわたくし
の何を写す気なのか、詳しくお聞かせくださいね?﹂
そして俺はオリヴィアに頬を抓られ。魂の妹と引き剥がされた。
オリヴィアを止めようとしたヒルダだが、メイドさんが放つ空気の
拳骨が見舞われ轟沈。
﹁何をするんですのカミラ! アニキ様がオリヴィアお姉様に怒ら
れたら、姿絵が手に入らないじゃない﹂
﹁そんなものはどうでも良いですぅ⋮⋮それはそれとしてぇ、勇者
様となんか仲良い感じですしぃ、嫁入りお願いしたらぁ、良いんじ
ゃないですかぁ?﹂
﹁はぁ? 何を言ってますのカミラ。アニキ様は魂の兄なんですの
よ﹂
﹁意味わかりませんよぉ。大旦那様の命令忘れた訳じゃないですよ
ねぇ? ﹁誰でも良いから結婚しろ、もしくは交際しろ。勿論男と
だぞ、出来なかったら勘当だ!﹂と大旦那様に言われてますよねぇ
?﹂
﹁忘れてはおりませんわ、大丈夫既に心に決めた方がいますの!﹂
﹁え? 嘘ですよね?﹂
オリヴィアは驚きのあまり俺の頬を抓っていた手を離す。そんな
に意外なのか。意外なんだろうな、メイドのカミラさんなんて、理
解不能なモノを見る目でヒルダの熱を測りだし、脈や瞳孔を診察し
だす始末だ。
1089
﹁お嬢様にそんな方が? 一体どこの人ですか、今すぐ確保して婚
約を⋮⋮﹂
﹁とっても可愛い冒険者の子と出会いまして! あの子を男装させ
て結婚を⋮⋮キャンッ!﹂
再び振り下ろされる空気の拳骨。容赦ないなあのメイドさん。
﹁一瞬だけ期待しましたがぁ、所詮お嬢様⋮⋮っていうか、オリヴ
ィア様がお好きなのにぃ、その冒険者の子まで好きになったんです
かぁ?﹂
﹁ふっ、そんなだから二十にもなってカミラは処女なんですわ! 可愛い女の子に注ぐ愛情は⋮⋮無限で、むぐぅぅぅ!﹂
メイドさんの空気操作で締め上げられる魂の妹。うむ、分かるぞ、
俺だってオリヴィアを心から愛してる。だがそれはそれとしてディ
アーネを始め、嫁たち全員に注ぐ愛情は間違いなく本物だと胸を張
って言える。
﹁あぁもうぅぅ! 礼儀作法も教養も完璧で容姿にも恵まれてるの
にぃ、このお嬢様はぁ! アンタの世話があるからぁ殿方のと出会
いは無いんですよぉ!﹂
﹁ふっふふふ⋮⋮大丈夫私はカミラの事も大好きですので。照れ隠
しと思えば、こ、このくらいご褒美ですわ⋮⋮﹂
うむ、尤もだ、メイドさんもかなりの美人だし、やきもち妬いて
くれると、愛されてる実感があってお仕置きもご褒美だと思える。
1090
本当に魂の妹とは気が合うな。
脇で兄貴がクリスが女になったら、多分あんな感じじゃないか?
とか言ってるが俺はあそこまで残念じゃないと思うぞ? おいイ
レーネ頷いてるんじゃない。
﹁あの、旦那様。ヒルダはちょっと変わった子ですけど、優しくて
良い子なんです。気が合うみたいですし⋮⋮﹂
﹁クリス兄ちゃんお待たせ。服ありがと⋮⋮あっあぁぁぁぁ! な
んでここにいるんだよぉぉ!﹂
オリヴィアが言いかけたところで食堂のドアが開き、俺の服に着
替えたノワールが入って来た。案内してた筈のディアーネがいない
あたり、やっぱりヒルダに近寄りたくないんだろうなディアーネは。
﹁はっ! この声はノワールさん!﹂
拳骨の痛みを忘れたかのように立ち上がるヒルダの瞳は、ノワー
ルだけに向けられていた。なんとなく事情を察したので、咄嗟に逃
げようとしたノワールを魔法で足止めする。
﹁だぁぁ! クリス兄ちゃん離してよ! 金髪野獣に襲われるぅぅ
ぅ!﹂
だがノワールもそれなりに経験を積んだ冒険者らしく、俺の術に
抵抗し窓から脱出しようとする⋮⋮が、ヒルダの方が速かった。
﹁あぁぁん! 一目見た時から身体に雷が落ちたような衝撃でした
けど、近くで見るともっと可愛いぃぃ! ノワールさぁぁぁぁん﹂
1091
﹁離せぇぇぇ! なんでアンタが兄ちゃんの家にいるんだよぉぉぉ﹂
元気よく抱き付こうとするヒルダ。必死に逃げるノワールをどう
したものかと眺めてると、メイドさんに声をかけられた。
﹁あのぉ⋮⋮ノワールさんがこの屋敷におられましてぇ、尚且つ先
程のやり取りからするとぉ、ひょっとして勇者様の妹君でしょうか
ぁ?﹂
﹁いや、弟だよ。いつも女と間違われて、何度も男にナンパされる
けど、れっきとした男だぞアイツは﹂
あ、ノワールが捕まって抱き付かれて頬ずりされてる。引き剥が
そうとしてるけど俺には分かる、アイツおっぱいの感触が気持ち良
くて、本気で突き放そうとしてないな。
﹁弟君⋮⋮噂でしか知られてない弟君ですか⋮⋮﹂
﹁クックリス兄ちゃん助けて! メイドさんも助けてぇぇ!﹂
仕方ない、ノワールの事は美少女の抱擁とかご褒美以外の何物で
もないから、放っておいて良いんだけど、ヒルダにはノワールの事
を女だと思ってるなら早めに教えておかないとな。
一先ず興奮しまくってるヒルダを闇魔法で精神を平静にさせて⋮
⋮。
﹁ヒルダ、そのノワールは俺の弟だぞ。女だと思ってるみたいだけ
どソイツは男だぞ﹂
1092
﹁えぇぇぇ! そ、そんなノワールさんが⋮⋮男? ⋮⋮うーん⋮
⋮これだけ可愛ければ性別なんて些細なものですわ。大丈夫ですわ
私、性別なんて関係なくノワールさんが大好きですから﹂
﹁そっか、分かったなら良いや﹂
﹁よくなぁぁぁい! ひっ! んっんぅぅ! ば、馬鹿どこ触って
るんだ! や、やめ⋮⋮﹂
必死に助けを求める仕草をするノワールだが、メイドのカミラさ
んが巻き起こした風の壁に遮られその声は聞こえない。ついでに彼
女がポケットから取り出した粉末が、風に紛れ視界まで遮断される。
最後に風の壁の隙間から見えたのは、絶望的な表情をしつつ、押
し付けられるおっぱいの柔らかさにデレッとしてる、なんとも締ま
らないノワールの顔だった。
﹁ところで勇者様、弟君のご結婚についてですが⋮⋮﹂
﹁ノワールに無理強いしなけりゃ好きにして良いよ。アイツも綺麗
な恋人欲しがってたし、ヒルダなら文句なしだろ﹂
その言葉を聞いたメイドさんは俺に一礼すると、風の結界に自ら
踏み込む。それと同時に視界を遮っていた粉末が徐々に消えていき、
風の結界が消えるとそこには、メイドさんだけではなく、ノワール
とヒルダの姿も消えていた。
﹁消えた? 旦那様ヒルダたちは一体?﹂
1093
﹁ああ、簡単。メイドさんの風魔法で運ばれていった。達人なら空
気操作で家一軒運べるって話だし、自分含めて人間三人くらい問題
ないだろう。ついでに窓も閉めるだけじゃなく、ガラスをピカピカ
に磨いていけるなんて、とんでもなく緻密な操作能力だな﹂
ノワール達が消える前に比べて、明らかに窓ガラスが綺麗になっ
てるし、装飾品の銀細工も輝いてる。多分目晦ましに使ったアレ、
金属磨き用の粉末なんだろうな。
ヒルダに捕まったノワールは⋮⋮まぁヒルダほどの美少女に好か
れて嫌な筈はないから、連れ去られるのを黙って見送った。貴族の
屋敷が集まってる区画に飛んでったから、多分フィラクロウ家の借
家に行ったんだろうな。
魂の妹だし、まぁ悪いようにはしないだろう。さて、お昼ご飯食
べよう。兄貴とイレーネも特に問題ないと思ったようで心配するそ
ぶりはなく、皆でヴィヴィアンの作った昼食を美味しく頂いた。
1094
魂の兄妹︵後書き︶
一巻発売後の編集さんとのやり取り
編集﹁二巻はこのエピソードで区切れば展開として丁度良いですね。
けどちょっと文章はみ出るから少し削りましょう﹂
自分﹁いやぁ削るくらいなら足しましょう、このエピソードで区切
りましょうよ﹂
編集﹁え、ここだと大分短い⋮⋮100ページくらい書き足す必要
がありますよ﹂
自分﹁やってやらぁ新展開追加じゃぁ︵初書籍化で有頂天︶﹂
大体こんなやりとりがあって、9月の初めごろに書き上げて、後は
書下ろし短編くらいですね。
ちょっとペースは落ちるかもしれませんが、徐々に元のペースに戻
していこうと思います。
1095
式典前日・1︵前書き︶
エッチシーンまで書こうと思ったら、いつの間にかいつもの倍の分
量になっていたので、分割して二話投稿します。
また59話﹁決別の光﹂にてオリヴィアのお母さん、オードさんの
エピソード追加しました。
1096
式典前日・1
ノワールが攫われたが、まぁ誘拐犯は美少女だし。きっとノワー
ルも内心嬉しいに違いないので気にしないことにして。昼食後、家
族全員でお茶を飲んでると、アルチーナが妙に周囲を警戒しながら
食堂にやって来た。
﹁アルチーナ、いったいどうしたんだ? 探したけど見当たらない
し﹂
﹁ううう⋮⋮申し訳ございません。ヒルダは帰りましたよね?﹂
カール王子の所屋敷から帰ってきたら、見当たらないと思ったら、
ヒルダが屋敷にやって来たと聞いた瞬間今まで隠れていたそうだ。
ヒルダには王都で見つかるたびに抱き付かれ、不敬罪にならない
ギリギリのラインでスキンシップと称したセクハラを何度もされ続
け、メイドのカミラさんに引き剥がされるまでが、恒例行事だった
そうだ。
抱き付く前に止めてやれよと思ったが、なんでも王城では魔法の
使用に大幅な制限をかける決まりがあるので、地味に身体能力の高
いヒルダを止めるのは厳しいそうだ。
運動能力で勝っていても、飢えた野獣が如き勘の鋭さでじわじわ
追い詰められて、結局逃げられずにセクハラされてしまうそうだ。
今ではすっかりアルチーナのある意味天敵となっている。アイツ王
族相手にもブレないなぁ。
1097
なるほど、昨日から俺の家に泊まったのは、打ち合わせの為だけ
じゃなくて、ヒルダがカール王子に挨拶に来るからか。それで神殿
に泊まるまで俺の家に隠れるつもりだったらしい。
しかし今度はオリヴィアに会いに、唐突にやってきたので、彼女
が帰ったのを確認できるまで部屋に隠れてたらしい。
﹁嫌いじゃないんですよ? 打算抜きで好意を向けられるのは嬉し
いですし、悪気が無いのは分かってます⋮⋮ただ、まぁ⋮⋮分かり
ますよね?﹂
アルチーナの言葉に頷くディアーネ。オリヴィアは一応擁護する
けど、明らかに言葉を選んでる。はっきり言って良いぞ、打算は無
くても下心はあるって。
ノワール
まぁ好きな相手と触れ合いたいと願うのは、健全だから問題はな
い。俺がそうだから全く問題ない。同性は問題だって? 今は異性
に意識が向いてるから問題ないだろう。
ちなみに俺が﹁好きにして良いぞ﹂とか言ったので、フィラクロ
ウ公爵家は本気出してノワールとヒルダの二人を婚約⋮⋮とまでは
いかなくても交際はさせるだろうと、オリヴィアとディアーネは断
言した。
今まで男に見向きもしなかった末娘が、異性に興味を持ったから
には、娘が結婚できないんじゃないか? と、危機感を持っていた
フィラクロウ公爵が手段を選ぶなと、カミラさんに命令するのは間
違いない。
1098
ついでに俺の弟だけに出自は一切問題にならないし、家にとって
も有益となると、この国の権力の頂点付近にいる公爵様を止める手
段はあんまりない。
ノワールとヒルダの話題で盛り上がったりしながら、チラリとイ
レーネを見ると、歳が近いのもあって嫁さん達と打ち解けてるみた
いで一安心。兄貴は会話に混ざれず、微妙に居心地悪そうだからち
ょっと助けてやるか。
﹁神殿に泊まりに行くのにはまだ時間に余裕あるし。兄貴も観光し
てくるか? なんだったらゴーレム馬車で街を案内するけど?﹂
﹁お前の馬車は目立つだろ。観光はお祭りの後にでもゆっくりする
よ。男爵様の馬車が直るまで滞在するし﹂
そういえばおっちゃんの馬車壊れてたっけ、修理はお願いしたけ
ど時間がかかるそうだ。
﹁いっその事さ、兄貴もこの街に住む? あの借家買い取って夫婦
で暮らすとかさ﹂
﹁遠慮しておくよ、僕にはフォズ村での暮らしが性に合ってるさ﹂
残念。兄貴が近くに住んでれば気軽に遊びに行けるのに。ノワー
ルはどうなんだろうな? 仲間と一緒に家臣って名目で生活の面倒
・・・・
見るつもりだけど、あいつはヒルダの実家に婿として連れ帰られ⋮
⋮連れ攫われる可能性が高いんだよな。
ヒルダがノワールに嫁入りする場合は⋮⋮まぁ魂の妹だし屋敷に
住むのは歓迎だけど、俺の嫁にセクハラされるのはちょっと困る。
1099
嫌ってる訳ではないにせよ、ディアーネとアルチーナは苦手意識持
ってるし。
女同士だけにセクハラを止める理由があんまりないからなぁ、眼
福な気もするが、助けないで見てたら、嫁に嫌われかねん。俺の嫁
たちを守る意味でも、あの借家やっぱり買い取っておこうかな?
﹁あの、旦那様、明日の結婚式なのですが。お義兄様も出席なされ
るのに、お召し物の用意はされてますか?﹂
オリヴィアの言葉に兄弟揃って今気づいた。確かに、村の結婚式
じゃないんだから、兄貴の普段着なんて周囲から浮くなんてもんじ
ゃない。俺や兄貴だけが笑われるだけならまだマシで、メンツ重視
の貴族社会だと最悪おっちゃんの家が潰れる可能性がある。
﹁そうだよな、お前の結婚式に出るんだから、ちゃんとした服を用
意しないとな。元々は男爵様が式典に参加している間、イレーネと
観光するだけのつもりだったし﹂
つまり兄貴は礼服とか用意してないと。アルテナに目線を向ける
と、俺の言いたいことが分かったみたいで、大神殿では礼服の貸し
出しとかもやってると教えてくれた。
﹁ですけど⋮⋮神殿お抱えの仕立て職人たちは今日は休んでると聞
いてます。礼服を保管しているのが、職人たちの工房でして、勝手
に入ると怒られてしまいます﹂
まぁ職人が自分たちの仕事場に勝手に入られたらそりゃ怒るな。
俺の親父は鍛冶職人で、ガキの頃勝手に工房に入ったら殴られた事
ある。その辺の事情は、同じ職人である兄貴も心得てるみたいだ。
1100
まぁ今にして思えば、下手に触っちゃ怪我するようなモンが、工
房にゴロゴロしてたからなんだろうけど。
こういう時、仕立て屋の奥さんのマーサさんがいれば話が早いん
だけど、生憎とお手伝いのオバちゃん達は、全員お祭りの準備に忙
しくてお休みである。
﹁うーん⋮⋮ちょっと早いけど、俺と兄貴は大神殿に早めに行こう。
ここで悩んだって仕方ない、偉い人に相談するのが手っ取り早い﹂
﹁クリス様、私もご一緒したいです。明日が待ち遠しくてお屋敷に
いても落ち着きません﹂
元気よく立ち上がったルーフェイが、しっぽを振りながら俺に抱
き付いてきた。確かに今朝から妙に落ち着かない様子だったな。頭
を撫でてあげると更にしっぽの速度が上がる。
﹁よしよし、明日が楽しみなのは俺も一緒だよ﹂
﹁では私もご一緒させてくださいませ﹂
ルーフェイの反対側に抱き付いてきたアルチーナの提案に、反対
する理由もない。同じように頭を撫でると含羞む⋮⋮というか、明
らかにエッチを期待してる表情で、身体を摺り寄せて甘えてくる。
うむ、頑張って我慢した甲斐あって、処女だけどエッチな俺好みの
娘になったもんだ。
花嫁二人が早めに神殿に向かうことになったので、身を清める花
嫁の世話をする髪結い役も、急いで準備をして一緒に向かうことに
1101
なる。髪結い役とは本来は母親や祖母、姉妹などの親族の女性が務
める者。
俺みたいに複数の嫁さんを娶ってる場合、嫁さん同士は姉妹とし
て扱われる。そのため今回アルチーナの髪結い役はアルテナとユン
グフィア。ルーフェイにはティータニアとメリッサが務める。
トラ
男の俺にも一応親族が世話役として付くのが習わしなので、兄貴
バントさん
が一緒に泊まる。これで兄貴がカロリングの街に来なかったら、大
神官に頼むことになってたな。ノワール? 身を清めないといけな
い前日に女を連れ込んだとか、悪評が立ちそうだから選択肢に入っ
て無いぞ。
まっ単に神殿に泊まるだけの習慣だ。結婚式に必要なものは全部
神殿に用意してあるし、それほど準備には時間もかからず俺たちは
神殿に向かった。
∼∼∼∼∼
大神殿の近くは大勢の人で賑わっている。威勢の良い客引きの声、
まるでケンカかと勘違いしかねない白熱の値引き交渉、近所の子供
の楽し気な笑い声も、道を歩く人たちの全てが一体となった喧騒は、
ちょっと圧倒されてしまう。
﹁お祭り前日でこれなんだから、当日はどうなるんだろうな?﹂
﹁田舎者の僕には想像もつかないな。それよりこの人混みで馬車だ
と危なくないか?﹂
1102
確かに歩くにも不自由しそうな人混みの中、馬車で進むのはちょ
っと悪い気がするし、ゆっくり進んでるとは言え巻き込む可能性も
有る。
﹁注意はしてるよ。それに徒歩だと万が一逸れたりすると危ないと
思うんだ、特にルーフェイとティータニアはお姫様だし﹂
更に言うとティータニアの嗅覚は特別製で、俺以外の男だと近寄
るのも躊躇うくらい臭うらしいからな。魔法で嗅覚を鈍くした上で、
馬車の奥でお香を焚いていても、この人混みは辛そうだ。
まぁ兄貴に詳しくは言う気はない、流石に﹁臭いから離れて﹂と
か肉親に言えないからな。
下手に歩かせたら注目を浴びて、面倒事になりそうだと兄貴も納
得したようだ。幸い街の住民達は、御者席にいる俺を見ると道を譲
ってくれるので、ゆっくりながら順調に進み、神殿に到着した。
門番が連絡したようで、ゴーレム馬車を馬車置き場に預けてすぐ
に、トラバントさんがやってきた。
﹁おぉクリス様、出迎えもせず申し訳ございません。身を清める為
の浄室は既に準備が整っておりますので、ご案内仕る﹂
﹁ありがとう、予定よりも早く来ちゃって申し訳ない。案内の前に
ちょっと相談があるんだけど⋮⋮﹂
トラバントさんに兄貴を紹介して、礼服の件を伝えたら、工房に
留守番してる人がいるので、すぐ用意できるそうだ。
1103
なんでも大きな式典とかだと、前日どころか当日になるまで礼服
の事を忘れてたりとか、準備はしていても体型が変わったことに気
が付かないとかで、困る人が必ず出るので、全員休むって事はない
そうだ。
さて、兄貴はこれで良し。ついでに寸法を測って簡単に調節する
ので、俺は先に仕立て屋の工房から出る。終わったら泊まる部屋で
合流するとだけ伝えて⋮⋮この後どうすっかな? 早めに出てきた
のは良いけど時間が余ってしまった。本当は夕方に来る予定だった
んだよな。
とりあえず嫁たちと合流しようと控室に行ったら、ルーフェイと
アルチーナは女性神官に案内されて浄室に入ってしまってた。この
浄室ってのは、不浄な世俗と切り離された部屋とされ、一旦入ると
結婚式まで部屋から出てはいけない決まりになってる。
別に魔術的に隔離されてるわけではないが、身を清める為に泊ま
ってる部屋から出たり入ったりして良いわけが無い。地方や宗派に
よってはこの決まりも有名無実になってる場合があるが、流石に法
の女神大神殿ではこの辺厳しい。
とは言え結婚式まで飲まず食わずでいるわけにもいかないので、
食事とか持って来たり、身体を拭く為の水桶とか持って来たりする
のに、例外として浄室に出入りできるのが世話役なのだ。
﹁うーん、俺が兄貴に付き合ってるうちに、ルーフェイたちはもう
浄室に入っちゃったか﹂
﹁元々予定だった夕方まで時間があると伝えたのですが、ドレスは
1104
浄室に用意されてるので、早く完成したドレスの試着がしたいと仰
いまして﹂
トラバントさんと一緒に、馬車置き場の近くにある控室で待って
いたのは、アルテナとメリッサだけだった。ティータニアとユング
フィアは二人に付き合って、一緒に浄室に入ってしまったらしい。
こうなると浄室に出入りできるからと言って、花嫁を放っておいて
髪結い役が遊びに行くのは流石に憚られる。
あまり早い時間に浄室に入ると手持ち無沙汰だからなぁ⋮⋮本と
か読んでても別に良いんだけど、折角のお祭りだからなぁ。
二人を連れてちょっと街でも見てこようかな? どうしようかと
アルテナたちと話してると、トラバントさんが声をかけてきた。
﹁クリス様、実は神殿の長老たちから﹁早く月狼王の亡骸を広場に
晒してくれ﹂と催促が来ておりまして。申し訳ございませんが⋮⋮﹂
アイテムボックス
浄室に入る前に俺の︻収納空間︼に入ってる魔王種を、広場で取
り出す約束になってる。まぁどこにも気の早い人はいるもんだな。
同じく魔王種のパラポネスの死体も、トラバントさんが頑張って
場所を確保した空き地に取り出すことになってる。
﹁時間はあるし構わないよ、二人も一緒に付いて来てくれ。用事が
済んだらその辺ぶらつこうか﹂
﹁はい、お供いたします﹂
﹁結婚式の前にエッチは駄目よ、クリス君?﹂
1105
﹁うん、メリッサが俺の事どう思ってるのか良く分かった。後でベ
ッドの中で泣かせてやるから覚えてろ﹂
半分本気ではあるが、メリッサは余裕の表情で笑ってる。くそぉ
笑顔が見惚れるくらい綺麗で惚れ直したぞ。でもなんか悔しいので
アルテナの肩を抱いてそっぽ向いてやる。
﹁ふふっ拗ねちゃって可愛い﹂
トラバントさんもなにやら微笑ましそうに見てるし、ここは男の
メンツを守る為にさっさと頼まれ事を済ませてしまおう。おいアル
テナも何を笑ってるんだ。
﹁ああ、それとなにやら誤解があるようですが、浄室に入るまでは
いつも通りしていただいて結構ですぞ? 式の前日は身を清めると
は、浄室で過ごす事を指すのであって、別に夫婦の営みを禁じてお
りません﹂
﹁へ? そうなのか? てっきりエッチは禁止されてるのかと思っ
てたぞ﹂
﹁複数の女性と婚姻を結んでる方の場合。婚姻を結ぶ女性としては、
夫が式の前日に別の女性と関係を持つのは、良い気がしないのは当
然です。なので慣習としてそうなってますな。男性側の気遣いです
⋮⋮が、法的には何の問題もございませんぞ﹂
アルテナ
そして良い笑顔で自分の孫娘にガッツポーズするおっさん。若干
アルテナの目線が冷たいのは気のせいじゃないだろう。
1106
﹁とにかく、魔王種二体を広場に置いたらデートするから、さっさ
と行くぞ。トラバントさんも案内早くしてくれ﹂
アルテナとメリッサの手を引いてゴーレム馬車に乗り込み、トラ
バントさんの案内で走り出した、トラバントさんが神殿に帰るのに
楽だからと、遠い場所から先に向かう。
パラポネスを置く予定の広場は、街中ほど人が溢れてはいないけ
ど、それでも田舎の祭りとは比べ物にならないくらい人が多い。主
に魔王種の素材が盗まれないように警備の神官戦士達と、何やら商
人風の人や、いかにも職人と言った風体の男たちばかり。
﹁正直巨大な女王蟻が街の中心部に鎮座してますと⋮⋮その、女子
供が怖がるのではと意見がありまして。パラポネスの亡骸はカロリ
ング家主催のオークションで、部位ごとに販売されることになりま
す﹂
とは言え魔王種の素材の貴重さは言うまでもない。なのでオーク
ションに参加できるのは国内の大物貴族や、騎士団の関係者だけ、
それすら売るのは一部だけで、大半はカール王子と国王陛下が所有
することになってるらしい。
もっと言えば鎧蟻の魔王種が倒され、素材が流通してるのだと喧
伝する為のオークションで、値段も誰が買うのかも、既に決まって
る、茶番だそうだ。
広場の中央にパラポネスを取り出すと、周囲の人たちの目の色が
変わったのがはっきりと分かる。﹁魔鋼の鎧を作れる分は必ず確保﹂
とか﹁このために親族から借金したのだ⋮⋮﹂とか聞こえるんだが、
すまない、買う人が決まってるんだ。
1107
一部は抜け駆けで譲ってもらえるように、警護の神官戦士に交渉
を持ち掛けて無視されてる。 中には俺に話しかけようとしてくる
人もいたが、取り押さえられて広場から追い出されたりもしてる。
﹁クリス様、ここは警備の者達に任せ、次の場所へ向かいましょう。
カロリング家の兵士も警備に加わりますのでご安心ください﹂
﹁そうだな、早く終わらせてアルテナたちとデートしたいからな﹂
次に向かった神殿近くの広場では、大勢の神官戦士が整列して俺
たちを迎えてくれた。あ、あれ? さっきの広場の人達と違って妙
に殺気立ってないか?
トラバントさんに目線で問いかけると、このカロリングの街には、
月狼王クルトの出現によって故郷を追われたり、家族を亡くした人
が大勢いるからだそうだ。そういえば俺がこの魔王種を預かったの
も、倉庫に置いていて燃やされそうになったからなんだよな。
人は恨みを抱き続ける事は難しい。だがその元凶の亡骸を前にど
ういう行動に出るのかは予測できない。気分が晴れて憎しみに区切
りがつくのか、復讐心が再び燃え上がるのか、または何も感じない
のか。
アイテムボッ
どうなろうとも、周囲の空気に不安がってるアルテナとメリッサ
に危害が及ばないよう、しっかりと手を握り馬車を降りる。
クス
居心地の悪い広場の中央で、大きな幕に囲まれた場所に︻収納空
間︼から狼の魔王種クルトの亡骸を取り出した。
1108
﹁手前も若い頃に何度か討伐に参加しましたが、あの猛威を覚えて
いると、亡骸と分かっていても少々足が竦みます。いったい何人が
この牙の餌食になった事か⋮⋮﹂
取り出した月狼王を眺めながら、トラバントさんが当時の事を思
い出したのか、声が少し震えてる。この街に昔から住んでる人には
やっぱり色々あるんだな。
周囲を囲む神官戦士たちの反応も様々で、興味深げに眺める人、
巨大さに驚いてる人、かつてを思い出したのか、嗚咽する人もいる。
そして⋮⋮。
﹁おっ⋮⋮うおおおおおお! 息子の仇ぃぃぃぃ!﹂
列の先頭にいた年配の神官戦士が、いきなり腰から剣を引き抜き
突っ込んできた! 周りの人は止めようとしてるけど、声で止まる
ような精神状態ではない。
俺はアルテナとメリッサを背中に庇いながら少し退く。別に俺と
か嫁さん狙ってる訳じゃないしな。トラバントさんは止めようとし
てるけど、興奮しきってて万が一があると大事だから、手を引いて
一緒に退く。
﹁少し素材が傷つくかもしれないけど、どうせ明日槍で刺すんだろ
? 好きにさせてやろう﹂
俺はこの魔王に特に恨みがあるわけじゃないから、悪趣味だと思
うんだけどな。先代のカロリング領主様が強引に推し進めてるから、
カール王子ですら止めようがない。普段は温厚な人らしいけど、事
が魔王種クルトに絡むとなると人が変わるそうだからな。
1109
トラバントさんも心情を理解してるので、眉を顰めつつも一緒に
下がる。年配の神官戦士が周囲が見えない程興奮して、涙を流しな
がら、月狼王の喉元に何度も斬りつけるその姿は⋮⋮痛ましい。恨
みを抱き続けるのは難しいが、憎悪を抱き続けた人の姿はただ悲し
くて、精神を平静にする術を使えば良いだけなのに躊躇ってしまう。
斬るというより、憎しみをぶつけるかのように。剣を叩きつけ、
傷口を抉る。涙を流す悪鬼のような形相に、憎しみの深さを垣間見
れた。
アイテムボックス
血も魔法薬の素材になるので、魔核を取り出した後は止血して、
一日くらい放置はしたけど、後は︻収納空間︼に入れていたから、
言い方は悪いが死体はまだ新鮮で、深く切りつけた分血が飛び散る。
数歩下がった俺たちの所まで飛んでくるほどで、嫁さん達を庇いな
がら更に退く。
﹁あっああああああ! 思い知れぇぇぇ! 息子を⋮⋮息子を返せ
化け物ぉぉぉ!﹂
﹁お、おい、やめるんだ! 勇者様と大神官様の御前だぞ!﹂
同僚の戦士たちが止めようとする⋮⋮が、駄目。熱狂が普段以上
の怪力を生んでるのか、数人がかりで抑え込んでも振り解き、何度
も、何度も剣を叩きつけ、突き刺す、返り血で神官戦士の象徴であ
る白い鎧を染めている。
抑えようとした同僚に向かって、血に染まった剣を振り回す。辛
うじて剣を受けても、その凄まじい剣の威力に弾き飛ばされる。あ
あ、駄目だこれは、彼の気が済むまで放っておいたら下手すれば死
1110
人が出るかもしれない。
﹁クリス様! いけませんお下がりを! この者は我らが⋮⋮﹂
﹁俺が止めるよ、全員下がってくれ﹂
周囲の戦士たちを下がらせて、暴れる彼の前に出る。同時に眠ら
せる術をかけるのだが、狂熱に染まった彼の精神は心を休めるべき
眠りを拒絶し、俺を邪魔者と認識したのか滅茶苦茶に剣を振って突
進して来た。
﹁クリス様!﹂
アルテナが悲鳴を上げるが、心配ないぞ。精神に干渉する術は効
き難くても、怒り狂って暴れてるだけなら、いくらでも対処できる。
彼には怪我をさせたくはないので、殺傷力のある魔法は使わない
として⋮⋮突っ込んでくる彼に水魔法で創り出した真水を浴びせ、
同時に氷魔法で凍結させる。
氷魔法はこうして凍らせるのを基本として、熟練していけばあら
ゆるモノを﹃止める﹄事ができる。俺は基本である水を凍らせるの
が精々だが、熟練者は暴走する馬を﹃止め﹄、自らの致命傷を﹃止
め﹄て延命し、果ては時間すらも﹃止め﹄ると言われる。
停滞魔法の別名があり、かなり習得難易度の高い系統だったりす
る。
鎧の関節部分や足元が凍結し動けなくなった所で、捕縛用の投げ
縄を投げられ、拘束された。流石に両端に石を括りつけた一メート
1111
ルくらいの縄で、雁字搦めにされてはどうしようもない。
彼は神官戦士たちに神殿に連れて行かれる。まだ息子さんの名前
を叫び涙を流す姿を見て、俺に何か出来ないかと考えて⋮⋮権力を
使うことにした。
﹁なぁトラバントさん。さっきの人、厳しい罰は与えないようにし
てくれないか?﹂
横紙破りなのは分かってるけどな。法の神殿は戒律が厳しいから、
彼の行動はどう考えても厳罰に処されてしまう。
﹁はっ、勇者様の仰せとあらば是非はございませぬ﹂
多分トラバントさんも俺と同じような心境なんだろうな。﹃俺が
そう言った﹄って免罪符があれば、軽い罰で済ませるのは簡単だろ
う。
﹁では手前はこれにて失礼いたします⋮⋮それとクリス様、お召し
物が血で汚れておりますぞ。身を清めてこられては如何でしょう?﹂
ん? 確かによく見れば服とかに飛び散った血が付いていて、結
構目立つな。かなり派手に飛び散ったからな。庇ったけどアルテナ
とメリッサも少し汚れてる。
﹁服に血が付いてたら、ルーフェイたちも心配するだろうから、新
しい服を買ってから風呂屋に行こうか﹂
﹁幸いこの広場からほど近い場所に風呂屋ができたそうですぞ。神
聖な結婚式の前に魔王の血で汚れていては不吉にございます﹂
1112
トラバントさんに新しくできた風呂屋の場所を聞き、言ってみる
ことにする。なにやらトラバントさんが、アルテナにジェスチャー
を送ってるみたいだが、人差し指と中指の間から親指を突き出すの
は何かのサインだろうか? まぁ祖父と孫娘の間で通じる何かがあ
るんだろう。
メリッサも楽しそうに笑ってるから、彼女にもジェスチャーの意
味が分かったのかな? 後でこっそり聞いてみよう。
1113
式典前日・2︵前書き︶
遅れて申し訳ございません。
いつもの倍の分量になったので、分割して2話投稿します。また5
9話﹁決別の光﹂にエピソードを追加しました
1114
式典前日・2
旦那様とお義兄様。そして明日の新婦二人とその髪結い役は、予
定より大分早めに神殿へ泊まりに行きました。
義弟となるノワールさんを紹介していただく前に、ヒルダに連れ
せいちゅう
て行かれてしまうトラブルはありましたが、ヒルダは優しい子なの
で大丈夫でしょう。
ノワールさん
水面下で動いているであろう勇者の弟を巡る争奪戦の掣肘をカー
ル様にお願いしたそうなので、詳細を纏めて、お手紙を送りました。
こういう事は早めに連絡しないと拗れますからね。旦那様は忘れて
いたようですので、わたくしがフォローしなくてはなりません。
屋敷に残ったのは、わたくしとディアーネ、ヴィヴィアン。そし
て今日屋敷に泊まるイレーネ様。お父上のお世話があるので最初は
泊まるのを固辞されましたが、折角なのでとお願いしたら頷いて頂
けました。
わたくしたちも結婚式には出席しますが、明日の主役はルーフェ
イとアルチーナです。目立たない場所でお祝いの言葉を述べて、結
婚式が終わった後のパーティーにちょっと顔を出すくらい。
そしてその三日後は⋮⋮ふふっ明日の結婚式も重要ですけど、ど
うしても旦那様が用意して下さったドレスを纏い、愛する方の手を
取って結婚式を挙げる自分を想像し、にやけてしまいます。
﹁オリヴィア、考えてることが顔に書いてあるわよ。ちゃんとして
1115
ないとフローリパ様に叱られるわよ? まっ楽しみなのは私も同じ
よ。次の次だしね﹂
基本的に結婚した順に式を挙げると決めてるので、わたくしの次
はディアーネです。彼女は自分でドレスのデザインを考えて、既に
仕立て屋さんとも色々と相談してるみたいです。
﹁ディアーネこそ、ドレスのデザインしてる時の表情を鏡で見たら
驚くわよ。多分旦那様に見られたらその場で寝室に連れ込まれるく
らい、幸せそうな笑顔なんですもの﹂
﹁そうですよ、女のアタシですらドキッとするくらいですもん﹂
﹁恋は火の如き、心に宿り花を照らし、艶やかに咲く⋮⋮有名な詩
文の一節だから、﹃そういうもの﹄だと思ってたけど、今は﹃こう
いうこと﹄なのだと実感してるわ。気付いてないかもしれないけど
オリヴィアもヴィヴィアンも同じ表情してるわよ。勿論皆も、イレ
ーネ様もね﹂
話を振られてキョトンとするイレーネ様。確かに、お義兄様とお
食事してる時の穏やかな笑顔は、とても美しいと思えます。
﹁要するに恋をすれば女は綺麗になるって事よ。ご主人様との結婚
式を想い、夢見て、ドレスのデザイン画を描いてる時はとっても幸
せな気分ですもの﹂
そう言って笑うディアーネは⋮⋮女同士だというのにドキドキす
るくらい綺麗です。
﹁分かりますよ、私もディーンお兄⋮⋮じゃなて。夫との結婚式の
1116
前、ドレスにレースを縫い付けてる時とても幸せな気分でした﹂
田舎だから大したことは出来なかったと、微笑みながら語るイレ
ーネお姉様。あぁなんで素敵なんでしょう⋮⋮はっ! わたくしは
なにを? いけませんヒルダの影響かしら?
いえ、お義兄様の妻なのですから義理の姉には違いありません。
そうに決まってます、なんとなくこのまま話を続けると、なにかイ
ケナイ側面が目覚めそうな気がするので、話題を変えましょう。
﹁コホンッ、あの旦那様がお出かけになったので、伺いたいことが
あるのですが、宜しいでしょうかイレーネ様﹂
﹁聞きたい事? 良いですよ﹂
﹁はい、わたくしは旦那様を愛しております。そして愛する殿方の
事であれば、何であれ知りたいと思うのは当然の事⋮⋮つまり、旦
那様の幼少の頃のお話を聞かせて頂ければと思いまして﹂
﹁それは是非とも聞きたいですね。今すぐお菓子とお茶のお代わり
持ってきます﹂
﹁それとも話しやすくなるように、お酒など召し上がられますか?﹂
皆旦那様の事が好きですからね、わたくしの話にディアーネもヴ
ィヴィアンも目を輝かせてます。イレーネお義姉様はちょっと困っ
たように苦笑されてます。そしてお義姉様の口から語られる、旦那
様の子供の頃のお話で大いに盛り上がりました。
途中で、なにやら馬より大きなニワトリさんの嘴で襟首を抓まれ
1117
﹁のほぉぉらめぇぇ﹂とか、叫びながら妹が空を飛んでるのが見え
ましたが、旦那様の子供の頃の話の方が重要なので、見なかった事
にしましょう。
ニワトリさんの着地地点に、黄金に輝く扇を構えたお祖母様がい
るような気がしますが、わたくしには関わり合いのない事と信じま
す。それよりも旦那様が幼少の頃に好んだ﹃すかーとめくり﹄なる
悪戯を、何時されても良いように、エッチな下着かそれとも可愛い
下着か? どちらにするべきか購入を検討しましょう。
∼∼∼∼∼
大神殿近くの最近開店した風呂屋は、井戸水を汲み上げてから沸
かす方式の為に、燃料費の分だけ結構値が張る。だけど旅塵を落と
ディアーネの実家
してから、綺麗な身で礼拝をしたいという人が多く、繁盛してるよ
うだ。っていうかメイティア伯爵家の傘下のお店だった。
お店の人も俺の事を知ってるようで、特に予約が無くても貸切風
呂を使わせてくれた。まぁ服を洗濯してくれるサービスは、貸し切
りじゃないとやってもらえないんだから仕方ない。血は早く洗わな
いと落ちないからな。
風呂屋に来るまでに服屋も見て回ったが、服とは基本的に本人用
に仕立てるもので、出来合いの服を売ってるのは、殆ど古着だ。洗
濯してあるとはいえ、侯爵家の夫人が古着ってのはどうなんだ? って事になり、女性用の神官服なら新品で出来合いがあるので、こ
ちらを買うことにした。
1118
アイテムボックス
下着? 勿論俺の︻収納空間︼に嫁たち全員の予備があるから心
配ない、なぜかって? 野外でエッチした時の為に決まってるだろ
う。まぁ服に関しては兎も角。
風呂屋の貸し切り浴室は、我が家の風呂よりは大分狭い。しかし
文句を言う気は毛頭ない。なぜならば⋮⋮。
﹁んっ⋮⋮どう? クリス君、こうされると気持ちいいでしょ?﹂
﹁あ、あぁ最高だよメリッサ﹂
﹁こ、こうですかメリッサさん。はぁ⋮⋮んっ。クリス様のお身体
を綺麗にして差し上げます﹂
狭い洗い場に座り、左から清楚な美少女のアルテナが羞恥に染ま
った表情で。右からは妖艶な美女であるメリッサが潤んだ瞳で見つ
めながら。それぞれ石鹸を泡立てた肢体を擦り付けて、俺の身体を
洗ってくれてるのだ。むしろ狭い方が良いに決まってる。
それだけでなく、嫋やかな手が脚とか首を撫でるたびに、浴室に
入った瞬間から、昂る節操のないムスコが反応してしまう。
余裕のないっぽいアルテナは真面目に身体を洗ってくれてるんだ
が、メリッサが俺のチンポを見逃してるわけが無い、わざと焦らす
ような動きで俺の反応を楽しんでる。
﹁ふふっ、ルーフェイはもう身も心もクリス君に染められてるけど。
明日はアルチーナの初めてですものね。ここは念入りに綺麗にして
あげる﹂
1119
泡に塗れた指先がチンポを満遍なく撫でると、早く目の前の彼女
の膣奥に、劣情を吐き出したいと言わんばかりに先走りが滲み出る。
﹁ううっ⋮⋮一緒に入ると背中を洗って貰ったりするけど⋮⋮これ
はヤバい癖になりそう﹂
女の子の柔らかい身体を、擦りつけられるのは、物凄く気持ちい
い。しかもこうして左右から奉仕されると、興奮も半端じゃない。
メリッサのおっぱいの谷間で腕を洗われ、感触を堪能したり。ア
ルテナが背中を洗ってくれてる時に、その控えめなおっぱいの膨ら
みを感じれたり。
﹁クリス様ぁ⋮⋮あらかた洗い終わりましたし⋮⋮その、クリス様
も⋮⋮我慢できませんよね?﹂
アルテナの控えめなおねだりに頷いて、泡を洗い流すと、アルテ
ナは犬のようなポーズで俺にお尻を向ける。ふむ、アルテナは正常
位が好みだったと思うけど、今日はバックから犯して欲しい気分な
のかな?
まぁ後背位は俺が好きだから、俺に合わせてるのかな? スレン
ダーなアルテナの小ぶりながらも柔らかそうなお尻の誘惑に、細か
い事はどうでも良くなった。メリッサもアルテナに合わせるように、
大きくて張りのあるお尻を俺に向け誘うように揺らす。
﹁メリッサはさっきエッチは駄目とか言ったから、アルテナから挿
れるぞ﹂
﹁は、はい⋮⋮クリス様ぁお願いです。アルテナを孕ませてぇ﹂
1120
﹁あぁん、ごめんなさいクリス君。お姉さんの事も構って﹂
お互いに身体を密着させて、擦りつけてたから、二人ともとっく
に受け入れる準備が出来ていた。洗い流してもはっきりと分かる、
粘性のある液体が、オマンコから太股を伝っている。
焦らして反応を楽しみような余裕は、昂りきった俺にはない。愛
液で濡れたアルテナのオマンコはゆっくりと挿入した俺のチンポを
抵抗なく受け入れれてくれた。
﹁あっんんっ! はぁん、クリス様のおっきなオチンチンがきてる
のぉ! んっんっ⋮⋮あぁん!﹂
片手はメリッサのお尻に手を這わせつつ、もう片手はアルテナの
乳首を抓む。絡みつくような膣壁にチンポを擦りつけながらアルテ
ナの膣奥に届かせる。
より深く繋がろうと、四つん這いのまま腰を振るアルテナに合わ
せ腰を打ち付け、狭い浴室にお尻を叩く音が響く。エッチな子はお
尻ペンペンして、もっとエッチにしてあげないとな。
﹁ふわぁぁ、すごいのぉ! 気持ちいいですぅ⋮⋮あぁぁんクリス
様ぁ好きです、もっと、もっと強くしてぇ﹂
腰を振りながらの、おねだりに応え。愛撫していた両手でアルテ
ナの腰を掴み、もっと強く、さらに強く、乱暴に。俺の目の前で、
チンポの快感に蕩けきったエッチな美少女の膣内を蹂躙する。
勢いよく膣奥まで押し込んで、カリ首がギリギリオマンコから出
1121
ないくらいまで引き、また奥まで。繰り返すたびにアルテナの愛液
が溢れ、浴室の床には水溜りができている。
﹁あぁぁ! ア、アルテナは、クリス様好みのエッチなお嫁さんに
⋮⋮あぁぁん! んくぅ⋮⋮エッチになりますぅ。だからもっと⋮
⋮もっとアルテナをエッチにして﹂
﹁ああ、勿論だ。俺とのセックスなしじゃ耐えられないくらい夢中
にさせてやるよ!﹂
腰の動きはそのままに、控えめながら感度の良いおっぱいにも手
を伸ばすと、アルテナの嬌声が更に大きくなる。
﹁あっあっいいのぉ! 好き、オマンコとおっぱいを一緒に気持ち
良くしてもらえるの大好きですぅ﹂
普段清楚で控えめなアルテナの、蕩けた表情でおねだりする姿が
淫らで、愛おしい。
﹁ふああああ! んっあっあっ! イキます、クリス様のオチンチ
ンが気持ち良くて、もうイッちゃそうです!﹂
﹁んっ俺もそろそろだ。出すぞ、アルテナの子宮に俺のを出して孕
ませるぞ!﹂
﹁嬉しい! あぁアルテナを孕ませて! あっあっあふあぁぁぁぁ
ぁぁ!﹂
アルテナが身を仰け反らせると、膣内の締め付けが強くなり、子
宮の入り口に向かって射精する。良く締まっている膣壁は精液の一
1122
滴も逃さないようにしてるかのようだ。
﹁ふぅ⋮⋮なぁアルテナは男の子と女の子どっちが欲しい?﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮どちらでも⋮⋮いえ、どちらも欲しいですわ。産ま
せてくださるのは疑ってません﹂
確かに、嫁さん一人に最低でも三人以上が目標だからな。特にア
ルテナは積極的だしもっと子沢山になりそうだ。オマンコからチン
ポを引き抜くと、名残惜しそうな吐息を漏らすアルテナにキスをし
て。
今度はメリッサに向き合う。正確には俺に向けたむっちりしたお
尻に手を添え、軽く噛んでやると驚いたように身体を震わせる。
﹁きゃっ! クリス君ダメよぉ、跡が付いてるのを見られたら恥ず
かしいわ﹂
ふふふっ、今こそエッチでメリッサを泣かす時だ。エッチする気
満々なのに、さっきから焦らされてるので、オマンコが、早くチン
ポが欲しいと言いたげに淫蜜を垂らして俺を誘っている。
今日こそは主導権を握って、成す術なく俺のチンポでイカせまく
ってやる。
﹁俺以外の男に見られる訳じゃないんだから良いだろ? んっ、ち
ゅっ﹂
﹁やぁん、ダメよぉ。それよりもクリス君ってばまだまだ元気でし
ょ? 私の身体好きにして良いのよ?﹂
1123
﹁ふふん、メリッサの身体は俺の好きにして良いんだろ? 好きに
させて貰ってるよ﹂
そう言ってさっきよりも強めに歯を立てたり、お尻にキスして強
く吸ったりする。新雪のように真っ白な美尻に俺の付けた跡が残る。
まぁ後で魔法で治すしメリッサも分かってるんだろうけどな。
﹁だけどメリッサが俺のチンポが欲しいって、おねだりするなら考
えるけど?﹂
﹁あん、クリス君ズルいわ⋮⋮うぅぅ⋮⋮きゃん!﹂
ふふふ、おねだりを躊躇ってるうちに、お尻だけじゃなく太股に
もキスマークを付けてやる。メリッサは体の向きを変えようとして
るが、体力の差は歴然。俺にがっちり腰を掴まれてるから、精々お
尻を振るくらいだ。
﹁クリス君もうゆるしてぇ、お姉さん焦らされて、もう我慢できな
いのぉ。クリス君のおっきなオチンチンが欲しいの﹂
﹁へぇ? 俺のがどこに欲しいんだ?﹂
四つん這いから身体を反転させ、メリッサの目の前にアルテナの
愛液と混じって鈍く光を反射する逸物を突き出す。
入れ
﹁ううっいじわるぅ。クリス君のオチンチンを、私にいやらしいオ
マンコに挿入してぇ! もう我慢できないのぉ﹂
初めてメリッサからおねだりされた瞬間、勢いよく奥までチンポ
1124
入れ
を押し込んだ。挿入した瞬間メリッサの両足が腰に絡まり、両手で
俺を強く抱きしめられ。キスで口を塞がれる。
﹁むぐっ! んんんんっ!﹂
あ、あれ? メリッサにこんなに密着されたら腰を激しく動かせ
ないぞ? けど波打つように蠢くメリッサの膣内は動かさなくても
気持ちがいい。
﹁んっ、ちゅっ⋮⋮ふふっクリス君ってば本当に可愛いわね、焦ら
すのもエッチのスパイスだけど、もうちょっと我慢できないとね?﹂
絡みつくメリッサの両手足が振り解けない! いや強引に振り解
くことは出来るけど、メリッサに包まれてる感じが気持ち良くて抵
抗できない。
いつの間にか上下逆転されて、メリッサに押し倒されてしまって
る。ま、拙いぞこのままじゃまたメリッサにリードされてしまう。
ううう、メリッサの腰遣いが巧みで反撃できない。
﹁うふっクリス君が気持ち良さそうな顔を見るだけでも私は十分幸
せよ⋮⋮えいっ﹂
﹁うわっ! くっくぅぅぅぅ!﹂
射精
必死に我慢しててもあっさりと敗北した俺に優しくキスするメリ
ッサ。くっ悔しい、いつかメリッサを俺のチンポで言いなりにさせ
てやる。
まだまだチンポは猛っているのだが、メリッサは大丈夫としても、
1125
アルテナを限界まで付き合わせては、明日に障る。
セックスの余韻を洗い流し、二人の腰に手を回しつつ、やや温め
の湯船に浸かり、時間までイチャイチャして。身も心もさっぱりし
たところで神殿に戻るとするか。
1126
式典前日・2︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
予定としては次はノワール&ヒルダにスポットを当てた後、クリス
の結婚式になります。
1127
式典前日・裏その1︵前書き︶
本編とはあまり関わりのない、外伝的な話です。
色々とご指摘を受けて加筆の上で分割しました。
1128
式典前日・裏その1
﹁宜しいですかお嬢様ぁ、ノワールさんの方からぁ、押し倒してく
るようにですねぇ、攻めまくるのですよぉ! 世間一般で言うとこ
ろの誘い受けですねぇ﹂
﹁誘い受けで通じる世間って大分狭い範囲だと思うのだけど⋮⋮﹂
﹁そんな事はどうでもよろしいのですぅ、些細な事ですよぉ。重要
なのはぁ、勇者様から﹃無理強いでなければ好きにして良いよ﹄と
言質を貰ってますのでぇ、我ら家臣一同ですねぇ、全力で囲い込み
をしますのでぇ、お嬢様もぉそのつもりでお願いしますねぇ﹂
﹁は、はぁ⋮⋮良く分からないけど、ノワールさんと仲良くしなさ
いってことよね? 異性を好きになったのは初めてだけど、頑張る
わ﹂
﹁頑張ってくださいねぇ、大旦那様は娘を嫌がる相手にぃ、無理や
り嫁がせる方ではありませんがぁ、良縁に恵まれるのが女性の幸せ
って持論ですからねぇ⋮⋮ぶっちゃけアンタがせめて婚約しないと、
目付役のアタシは彼氏を作る時間もないのよ﹂
おぉう! カミラが本気モードになってます! 若干二十歳にし
てフィラクロウ家の幹部武官に選ばれるだけあって、普段の間延び
した擬態を解いた姿は凛々しいですね。抱き付こうとして⋮⋮避け
られた、くすん。
ノワールさんと一緒に帰って来てから、カミラは私とノワールさ
1129
んが仲良くなるように本気になってますし。使用人たちも色々と騒
がしいです。私が﹃大好きなお友達﹄を連れてきたりするのはいつ
もの事でしょうに。
ああ、それともノワールさんは男性だから対応に困ってるのかし
ら? 確かに﹃大好きなお友達﹄で男性はノワールさんが初めてで
すから、いつものように女の子と同じく扱ったら大変失礼ですから
ね。
予めカミラを通じて連絡して、時間を置いてから帰れば良かった
かしら? でもアニキ様に幸せそうに寄り添う、オリヴィアお姉様
のお傍は流石に居れません。大好きなお姉様がアニキ様とイチャイ
チャしてるのは少々辛いです。
クスンッ、私泣きません! オリヴィアお姉様の事を好きになっ
てくれる殿方が現れたのですから、身を引くのが良い女なのです。
でも⋮⋮はぁぁぁ! さらば私の初恋。
優しくて綺麗で素敵で賢くお美しいオリヴィアお姉様を邪険にす
るような、十把一絡げの低能な男どもでしたら、全力で離縁させる
ように動きますが。勇者であり、お姉様を愛しているアニキ様と結
ばれたのなら、胸が苦しいですが納得できます。
失恋のショックを誤魔化すように、ノワールさんに過剰なスキン
シップをしてまいましたが、ちょっとお困りの様子でした。申し訳
ございませんノワールさん、ご兄弟の団欒を邪魔してしまって。
それでカミラが何か勘違いしたのか、フィラクロウの屋敷まで連
れて来てしまったので、せめてお食事をご一緒しまして。その後は
殿方を女性扱いした無礼をお詫びしてから、お友達になりたいと思
1130
っていたのですが、なにやらノワールさんと婚約する話になってき
ました。
ノワールさんに触れてると、今までの﹃大好きなお友達﹄とは違
って、胸がドキドキして、とっても幸せな気分に包まれます。多分
私は初めて異性を、ノワールさんを好きになりました。
だから食事ができるまでノワールさんとお喋りしていたかったの
に、いきなり着替えなさいだなんてカミラは強引ね。はっ! まさ
か私とノワールさんを仲良くさせたいけど、実は内心ヤキモチ?
﹁大丈夫。ノワールさんの事は好きですけど、勿論カミラの事も大
好きよ﹂
﹁何が大丈夫なのかぁ物凄くどうでも良いですよぉ。そんな事より
良いですかぁ? 重要なのはですねぇ﹃ノワールさんからお嬢様に
手を出す﹄これですぅ。もう細かい手順すっ飛ばしてですねぇ、さ
っさとお嬢様を結婚させるにはぁまず既成事実、そしてぇ勇者様を
言いくるめて祝福。これで誰からも文句は出ませんよぉ﹂
は、はぁ⋮⋮カミラったらまた擬態してるけど、婚約じゃなくて
いきなり結婚なの? ノワールさんの事は勿論好きですけど、いき
なり結婚はノワールさんも困るんじゃ? そもそもまだお友達にな
ってませんよ?
確かに女性だと思ってた時は、男装させて結婚するとか言いまし
たけど。それって結婚しないための方便ですし。
ただカミラは、私とノワールさんが結婚するものと思ってる気が
します。あの、勇者であるアニキ様の弟君とは言え、今日出会った
1131
ばかりですよ? 使用人達もカミラの言葉を真に受けたのか、ノワ
ールさんを婚約者みたいな扱いをする人がいます。
アイテムボックス
例えばこの街までついてきた料理長のガランは﹁お嬢様の婿をな
んとしても繋ぎ止めるのだ!﹂とか言って自分の︻収納空間︼から
取り出した超高級食材を取り出して昼食を作ってます。
同じく調合師のヒューゴは﹁超自信作っす! これ付ければ若い
男なんていちころっす﹂と言って新作の香水を渡してくれました。
仕立て職人のクラリッサは﹁デュフフ! お嬢様のワガママボデ
ィィィに! ロリフェェェイスと! このドレスが合わされば悩・
殺・確・定♪﹂とか変なテンションで露出の多いドレスを見せてき
ます⋮⋮あの流石の私もこれを着るのは恥ずかしいのですけど。つ
いでに帰って来てから作れるわけが無いので、予め用意してたの?
ちょっと怖くて聞けないけど。
女性執事のルネは手早く私にお化粧を施したり髪を整えたり。ノ
ワールさんを待たせるわけにはいかないと、おっぱい触っても無視
されます。そしてあっという間にクラリッサの作ったドレスを着せ
られ貴賓室に連行されました。
あの? 本当にこの娼婦でも人前では躊躇うようなドレスでノワ
ールさんとお食事? ちょ、ちょっと待ってください! 万が一は
したない女だと思われたら私泣きますよ? 他の使用人たちは本気
になってるカミラやガランたちの勢いの前に見てるだけ。誰かこの
ドレスは拙いでしょうと言って下さい。
貴賓室に入ると緊張のせいか、落ち着かない様子でお茶を飲むノ
ワールさん。私を見ると⋮⋮一瞬でお顔が真っ赤になって、何か言
1132
いたげに口を動かしてます。ううう、やっぱりこのドレスははした
ないですよね?
﹁え、えっと⋮⋮ノワールさん申し訳ございません。いきなり招待
しておいてお構いもせず﹂
﹁い、いや、その⋮⋮うん⋮⋮えぇと。な、なんで僕を連れてきた
のさ﹂
ううう、ノワールさんに見られてると思うと恥ずかしい。布地が
薄くて素肌と下着がうっすら見えるし、胸とお尻が強調されるよう
に密着して動きにくいですし。あぁ恥ずかしい! あっ、でもノワ
ールさんに質問されたから早く答えないと!
﹁あわわ⋮⋮ご、ごめんなさい! ノワールさんが好きになったの
でお友達になりたくて⋮⋮﹂
﹁へ? す、好きって⋮⋮君は僕の事女だと思ったからじゃ?﹂
鏡を見るまでもなく自分の顔が赤くなってるのが分かります。そ
してノワールさんもさっきよりも真っ赤です。
後ろでカミラが﹁うわぁ、あのお嬢様が男の子が相手だとこんな
に初心だなんてぇ﹂とか、なにやら失礼なことを言って、ルネに耳
を引っ張られてますが、正直それどころじゃないです!
﹁わ、私はノワールさんが男性だと分かっても好きです! 勿論女
の子も好きですが!﹂
﹁そこで正直にぃ余計な事を口走るのがぁ、お嬢様ですよねぇ⋮⋮
1133
とりあえず座りましょう﹂
カミラの操る風で身体を押され、混乱していた私は足を引っかけ
てしまい⋮⋮。
﹁あっ危ない!﹂
つまず
ちょっと躓いた私を、ノワールさんが抱き止めてくれた。男性と
意識してこうして触れ合うと⋮⋮あ、あら? 胸の動悸が激しくな
っていきます。ドキドキして何も考えられない。
﹁と、と⋮⋮とにかく! 座ろうか!﹂
﹁は、はひ!﹂
﹁それでは我々は失礼させていただきます。ノワール様、ヒルダお
嬢様がなにか悪さをしてお困りでしたら卓上の鈴を鳴らしてくださ
い、すぐに駆け付けます﹂
むっ、なんですかルネ、まるで私がノワールさんにご迷惑をかけ
るみたいじゃありませんか。軽く睨んでも楽しそうに笑ってるだけ
で全然気にした様子もありません。
﹁ふふっ昼食を用意しておりますので、しばしご歓談を。食堂で使
用人の目があるとマナーなど気になってしまうでしょう? お二人
で気を楽にして召し上がってくださいね﹂
∼∼∼∼∼
1134
クリス兄ちゃんの屋敷も立派だったけど、今僕がいる屋敷と比べ
るとちょっと見劣りする。建物そのものは同じくらいでも、内装が
豪華と言うか、上品な感じがするのが冒険者の僕でも分かるくらい
だ。
そんな屋敷の一室。高級そうな大きなテーブルに、所狭しと並べ
られた見たことも無い豪華な料理。食べ方が分からないと言うと、
隣で丁寧に見本を見せてくれたり。使い慣れない食器に苦戦してる
と、食べやすい大きさに切り分けてくれたり。スープが美味しいと
言うと、お代わりを持って来てくれたり。何故か甲斐甲斐しく僕の
世話をする金髪縦ロールのエロ野獣め、ナニを企んでる!
ううう、顔を真っ赤にしながら、笑いかけてくる彼女は物凄く可
愛い! ふとした拍子に漂う女の子の香りにドキドキする。僕と違
ってパンを食べる動作一つですら綺麗で、見蕩れてしまう。
それにすっごいエッチなドレス着てるから目のやり場に困る! けどどうしてもおっぱいに目が行ってしまう! しかも二人っきり
だから違いなく美味しいはずのゴハンの味が緊張で分からない。
そして、あっという間に食べ終わると、こっちの方は寛げるから
と別の部屋に移り。身が沈むくらいふかふかのソファに並んで座る。
予め用意してたらしいお菓子を食べたり、エロ野獣が淹れてくれた
お茶を飲んだり。お互いに顔が赤いまま、暫く二人で無言のままだ、
何か話そうと思うけど頭の中がグチャグチャして言葉が出ない。そ
うしてそわそわしてると、不意に声をかけられた。
﹁ノ、ノワールさん⋮⋮その如何でしたでしょうか?﹂
1135
﹁えっ! あ、あの⋮⋮その⋮⋮き、綺麗だよ﹂
﹁ふぇ? 盛り付けがですが? あのお口に合いませんでしたか﹂
﹁そ、そんなことない! 凄く美味しかった!﹂
ううう、何を企んでるんだ金髪エロ野獣め。これ見よがしにエッ
チなドレスなんか着て⋮⋮そうかクリス兄ちゃんが言ってた兄ちゃ
ん目当て⋮⋮って普通に兄ちゃんと仲良いから、僕に構う意味はあ
んまりないよね。
それとも顔が可愛ければ誰でも良いのか? でも女の子好きなの
に、男だって分かっても変わらないどころかさらに積極的だし。
なんだか分からなくなってきた。ううう可愛い。辺境伯様の屋敷
で初めて会った時もそうだけど、可愛いだけじゃなくて、見ず知ら
ずの僕を助けてくれるくらい優しいし⋮⋮なんか、頭がぼぉっとし
てきた⋮⋮。
﹁あ、あれ? ノワールさん目の焦点が? お酒なんて飲んでない
のに⋮⋮ヒック﹂
なんだか体の奥から熱くなってきた。ヒルダ可愛いな。こんな服
着て世話してくれるんだから彼女も誘ってるんだろうな。ヒルダを
恋人にしたい。あぁ良い匂いだ、僕の事好きって言ったんだし良い
よね?
さっきの部屋だと、廊下に声が聞こえるかもしれなかったけど、
こっちの部屋は余程大声を出さなければ、誰にも気付かれないだろ
う。きっと彼女も僕とのエッチを期待して案内してくれたんだと思
1136
う。
思わず抱きしめると、顔を赤くして僕を見つめるヒルダの柔らか
さにもう我慢できない。僕はソファにヒルダを押し倒し、唇を奪っ
た。あぁ女の子の唇ってこんなに柔らかいんだ⋮⋮気持ちいい、も
っと、もっとヒルダに触れたい。
﹁んむっ! んっん⋮⋮あぁん! ノワールさん⋮⋮﹂
いきなりキスしたのも関わらず、怒るどころか微笑みかけてくる
ヒルダ。もう⋮⋮駄目だ、ヒルダの全部が欲しくて堪らない!
薄い生地のドレスを強引に脱がそうと少し力を籠めると、生地が
脆いのかあっさりと破れて、芸術品のような肢体を僕に魅せつけて
くれる。ヒルダが抵抗しないのを良い事に、キスするだけでなく、
大きなおっぱいや、張りのあるお尻とかに手を伸ばし、初めて触る
女の子の感触に酔いしれる。
乱暴な手つきではあっても、ヒルダは微笑みながら僕のすること
を受け入れてくれる。僕もサイズが合わない邪魔な服を脱ぎ捨て、
ヒルダの肌を全身で感じるべく強く抱きしめる。
∼∼∼∼∼
緊張のあまり、自分でも何をしているのか分からないまま、いつ
の間にかドレスを脱がされた私は、ノワールさんに押し倒され、抱
きしめられている。
1137
﹁んっ⋮⋮あぁ⋮⋮んんん﹂
華奢なノワールさんですが、私に触れるその手は、女の子の手と
は全く違う。冒険者らしい硬くて、ザラザラした手の感触に強く男
性を意識してしまいます。
撫でるように、私の身体の隅々まで確かめるかのように、ノワー
ルさんの手が私を撫でる。あぁ私こんなの知らない、可愛い女の子
に触ってもらった時より気持ちいい。
﹁んっ、んふぅ⋮⋮あっあっううう⋮⋮あぁノワールさん⋮⋮﹂
ノワールさんの手が、私の胸に触れると、今度はおっぱいを揉ま
れ、つい声を上げてしまう。形が変わるくらい強く掴まれ、大きく
なった乳首にノワールさんが吸い付く。
﹁ひぅ! んんんんっ! すごい、すごいのぉ! あぁぁんノワー
ルさぁぁぁん!﹂
はしたないとは思いつつも、もっとノワールさんに触れて貰いた
くて、身体全体を押し付けるように縋り付く。可愛らしい容姿から
は想像もできなかった、細くてもしっかりと鍛えられたノワールさ
んの身体。
女の子とのエッチは経験あるけど、男の子に抱きしめられ、触れ
られていると、すべてを委ねてしまいたくなるような、心地よさに
包まれる。
﹁ん⋮⋮あぁ⋮⋮もっと、もっと触って﹂
1138
﹁ヒルダ⋮⋮ごめん、もう我慢できない!﹂
不意に、私を撫でる手が離れたと思ったら、両脚を掴まれ、大き
く広げさせられる。そしてドレス同様にエッチなデザインの下着を
ノワールさんは、口で脱がそうと噛んだ瞬間下着の紐が切れてしま
う。えぇ! なんですかコレ! ドレスもそうですけど、クラリッ
サはなんでこんな脆い生地の下着を作ったの?
あぁそんな事より男の子の前で性器を曝け出してしまうなんてぇ。
恥ずかしくて目を瞑っていると、ノワールさんの唇が私の恥ずかし
い部分に触れる。
﹁はぅ! ノワールさん、は、恥ずかしい! あぁぁん!﹂
あぁ! ノワールさんのお口が、私のクリトリスに吸い付くと、
舌先が触れた瞬間全身に甘い痺れが走り、もうなにも考えられませ
ん。ただ閨の作法で教わった通りに、殿方の求める全てを笑顔で受
け入れるよう、微笑んでされるがままに身体を委ねます。
﹁はぁはぁ⋮⋮濡れてきた、気持ち良いのヒルダ?﹂
﹁は、はい⋮⋮ノワールさんに触れて貰えるだけで⋮⋮んむっ!﹂
ノワールさんは不意に身を起こし、今度は私のおっぱいに舌を這
わせる。そして秘所に触れる熱くて硬いモノ⋮⋮。
﹁ヒルダ⋮⋮いいよね?﹂
ノワールさんが何を求めてるのかなんて分かりきっている。本当
は怖いです、今まで男の子には興味なかったですけど、性教育は受
1139
けているのだから知らないわけが無い。ノワールさんは、私を孕ま
せようとしている。
お父様は側室が多い方なので出産の体験談などよく聞かされまし
た。私もいつかは子供を産むのだと漠然と考えてましたが、流石に
心の準備ができてません⋮⋮けど、あぁ駄目ノワールさんに求めら
れたら断れない。笑顔で頷くしか私にはできません。
﹁い、いくよ! 痛かったら僕の事殴っていいかから!﹂
私の腰を掴んで、少しずつ、けど確実に私の膣内に埋没していく
のが分かる。ノワールさんのオチンチンが入って来る! あぁ痛い
よぉ! けど、けど笑って受け入れないと。
直接見るのは怖くて、固く目を瞑る。痛みに耐えていても涙が零
れてしまいます。
﹁あぁん! んんん! ノワールさん⋮⋮ノワールさぁぁん!﹂
泣き顔を見せたくなくて、痛みを誤魔化すように強く抱きしめる。
ノワールさんもまた私を抱き寄せ一気に奥まで侵入した。あぁ私の
アソコに、ノワールさんのオチンチンが入っちゃった。私の初めて
は、初めて好きになった男の子に捧げたのだ。嬉しいと感じる反面、
身を裂かれるような痛みに涙が零れる。
﹁うっ、くっ! うわぁぁぁ﹂
痛みに耐えながらノワールさんに抱き付いていると、今度はオマ
ンコの中に何か熱いモノで満たされる。繋がった部分に目を向ける
と、根本まで私の性器に埋まったオチンチン。流れる血。そして何
1140
か白い粘性のモノ。
﹁ひぐっ! ごめん⋮⋮ごめんよヒルダ。僕、僕⋮⋮﹂
﹁ノワールさん! どうなさったのですか、ひょっとして殿方も痛
かったとか?﹂
閨の作法については教えて貰いましたが、子供の頃ですし、男性
と結婚する気が無かったのでうろ覚えでしたが、セックスで男性が
痛がることはなかった筈なのに。
私は涙を流すノワールさんの頭を抱きしめますが、ノワールさん
から零れるのは嗚咽。
﹁だって僕、入れてすぐに出しちゃうなんて⋮⋮ごめんよ﹂
﹁な、泣かないでくださいノワールさん。大丈夫ですよ、私はノワ
ールさんが好きですから﹂
ノワールさんの頭を撫でながら胸元で抱き締め、優しく語りかけ
る。正直うろ覚えの閨の知識は役に立たないので、もうベッドの中
で泣いてる女の子と同じように対処するしかありません。
﹁初めてはちょっと失敗したかもしれませんが、これから練習すれ
ばいいんですよ。ほら、初めてで何でもできる人なんて滅多にいま
せんから、ね? 私が毎日練習に付き合いますから﹂
あれ? 毎日練習に付きうあうって、つまり毎日セックスしまし
ょうって言ってるのも同然。ううう、女性からセックスを求めるな
んて恥ずかしい。恥ずかしいので顔を見られたくなくて、ノワール
1141
さんのお顔を胸に押し付ける。
﹁むぐっ⋮⋮苦しいよヒルダ﹂
﹁あぅ! 申し訳ありませんノワールさん。と、とにかく失敗は誰
にでもありますから⋮⋮あら、また大きく﹂
繋がったまま抱き合っていたので、私の膣内でノワールさんのオ
チンチンが徐々に大きくなっていくのが分かる。
﹁ごめん、僕も頑張ってヒルダの事を気持ち良くしてあげたい。だ
からもっと﹃練習﹄に付き合ってくれる?﹂
﹁くすっ、勿論です。私もノワールさんに好きになってもらう為に、
頑張りますわ﹂
ノワールさんは繋がったまま、数回深呼吸を繰り返した後、私の
上に覆いかぶさり、唇を塞がれる。最初のキスと違い、ノワールさ
んと舌を絡める、エッチなキス。あぁノワールさんのモノだと思う
と、唾液ですら美味しいと感じてしまいます。
そしてキスをしながら、ゆっくりと、私の膣内を動く。最初はピ
リピリして痛かったですが、少しずつ痛みが薄れるごとに、段々と
気持ち良くなっていく。
﹁あっ、はぁ⋮⋮んんっ⋮⋮んっ﹂
﹁ヒルダ、痛くない?﹂
一旦動かすのを止めて、私を気遣ってくれるノワールさん。確か
1142
にまだちょっと痛いですが、今はもっと気持ち良くなりたい欲求の
方が強く、思わず両脚を彼の腰に絡ませる。
﹁大丈夫⋮⋮です。私の事をノワールさんの好きにしてください﹂
無言で頷いたノワールさんはさっきよりも少し早く、けどまだま
だゆっくりと律動を始める。あぁ膣の中を擦るたびに痛みがぶり返
してきます。けど、もっとノワールさんに気持ち良くなってもらい
たくて、自分から腰を動かしてしまう。
﹁はぅ! んっんっんんん! はぁん!﹂
﹁んっ! 気持ちいいよヒルダ﹂
そして腰を動かしながら、私のおっぱいに手を伸ばすノワールさ
ん。あぁ触れられた場所からじんわりと、甘い快感が生まれます。
気持ちいい、ノワールさんにおっぱいを触られるのって気持ち良く
て大好き。
﹁あぁん、ノワールさんの手素敵です。もっと触ってぇ。ノワール
さんに撫でられるの好きなのぉ﹂
一定のリズムで腰を動かしながら。おっぱいに、腰に、お尻にノ
ワールさんの手が伸びてくる。あぁ男性の全てを心も身体も差し出
し、全部を彼のモノにされるような錯覚に陥り⋮⋮そして。
﹁あっあっ! んあぁぁぁぁぁ!﹂
﹁あぁヒルダ、急に締め付けたら⋮⋮んんっ﹂
1143
全身を貫くような快感と、同時に私の膣内を満たす熱いモノ。イ
ッた。女の子とのエッチで何度か経験はありますが、こんな幸せな
気持ちになったのは初めて。
絶頂の余韻が残る中、私たちは何度もキスを繰り返し。少しした
らまたノワールさんのオチンチンは大きくなる。
﹁ごめん、ヒルダとのエッチが気持ち良すぎて⋮⋮止められない﹂
﹁私も⋮⋮私もです。ノワール⋮⋮様。ヒルダをノワール様で染め
てください﹂
そして⋮⋮私たちは貪り合うようにセックスを繰り返す。肌が触
れ合うごとにセックスが気持ち良くなり、私たちは夢中でお互いを
求め、そして溶け合うような感覚の中、抱き締めあいながら眠りに
ついた。
1144
式典前日・裏その1︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
1145
式典前日・裏その2︵前書き︶
前話を加筆の上分割したものです、基本ギャグメイン回
1146
式典前日・裏その2
﹁⋮⋮と、予想外の出来事が起こりまして。こちらから申し込んだ
話ではありますが、白紙撤回をお願いいたします。またフィラクロ
ウ家家臣の代表として謝罪いたします。勿論持参金として用意した
宝物はそのままお納めください﹂
﹁ああ、謝罪を受け取ろう、ただ宝物はお返しするよ。アストライ
ア家から届いた手紙で事情は予め知っていたし、ボクとしても⋮⋮
初対面でボクの妻にセクハラする子はちょっとね﹂
うちのお嬢様が本当に申し訳ございません。公爵家なんて高い身
分の上に可愛がられてる末娘ですから、基本的に遠慮がないんです。
お嬢様には内緒でしたが、実は大旦那様から目の前のカロリング
卿に、お嬢様の輿入れを打診をしていたのです。基本的に大旦那様
は息子は政略結婚させても、娘には無理強いしない方ですが、流石
に十六にもなって異性にまったく興味がないのに危機感を持ってい
たのでしょう。多額の手土産を渡し話を進めていたのです。
しかしまさか勇者様の弟君に、お嬢様が異性として興味を持つと
は思いませんでした。勇者様と縁を結べるのはカロリング卿にも勝
ことわざ
るとも劣らぬ良縁となれば是非は有りません。まぁ主君の妾より家
臣の正妻って諺もありますし、私の判断で半分進んだ縁談を白紙に
させていただきました。
はっ! 多額の持参金が無駄になる? そんなものお嬢様の幸せ
に比べればゴミです。ただ相手に面子を潰しては今後よろしくない
1147
ので、平身低頭謝って許して貰います。
話を進めるために面会の予定があったのも助かりました。これで
手紙だけで半分ほど進んだ婚姻話を一方的に白紙にしたら、当家は
傲慢な礼儀知らずの誹りは免れないでしょう。
﹁こちらが非礼を働きながら宝物まで返して頂いては、私ども家臣
が主に罰せられてしまいます。宝物を受け取っていただくか、もし
くは何らかの対価を支払わせてくださいませ﹂
﹁君には山のように積まれた金貨よりも価値がある、だから僕に仕
えて欲しい⋮⋮と、言ったらどうする? ルネ殿いや、﹃流星﹄の
シェーラ﹂
﹁おや? 仕官話が面倒ゆえに隠した二つ名をご存じとは、流石天
才様でいらっしゃる。しかしすでに仕える主を定めておりますので、
この話は聞かなかったことにいたします﹂
残念、とだけ言って肩をすくめるカロリング卿。お嬢様がこの方
と結婚すれば、フィラクロウ家を出奔し、仕えるのも悪くはない気
がしますがね。
﹁話を戻すけど、ヒルダ嬢は恐らくノワール殿に嫁入りする形でこ
の街に住むんだろう? 正式に決まれば、婚姻祝いに今の屋敷を差
し上げるから、有事の際は君とメイドのカミラさんの助力をお願い
できるかな?﹂
﹁それをカロリング卿が対価としてお望みであれば喜んで﹂
その後は幾つかの取り決めを話し合い、カロリング卿との面会を
1148
終える。ふむ、予想よりも早く話が纏まったから、折角だしノワー
ル様の着替えでも買っていこうかな? 見た感じサイズの大きな服
を着てるから余計に小柄に見えるのだ。
似合いそうな古着でも幾つか見繕ってプレゼントでもしよう、お
嬢様とデートするときにあまり頼りない格好だと可哀そうだ。それ
に父親が違うとはいえ、可愛い妹の想い人には色々世話を焼いてあ
げたくなります。
妹
ただそこらの女性より可愛い顔立ちなので、血迷って手を出す奴
は殺そう、可愛い主君の想い人は私の弟も同然だからね。何人か身
内に危ないのがいるが、まぁカミラがいれば大丈夫だろう。
∼∼∼∼∼
貴賓室に面した庭の一画で、万が一の邪魔を防ぐ風の結界を構築
し終えた私は、二人の様子を確認する、なんというか実に初々しい
ですねぇ。
ノワールさんは必死にぶっきらぼうな態度をとろうとしてますが、
お嬢様を意識しまくってるのが丸分かりです。お嬢様はお嬢様で距
離感が分からないで、女の子相手と同じようにスキンシップ。ぶっ
ちゃけあれって年頃の男の子相手だと、誘ってるようにしか見えな
いので問題なし。早く押し倒されてください。
ふふふ、これでお嬢様が婿を捕まえて帰っても、嫁入りしてノワ
ールさんと一緒にアストライア家の分家を興しても。私はお目付け
役から解放されて、自由な時間ができます。領地内の有力者が主催
1149
するパーティーとかに参加して彼氏を作るチャンスです!
ふっ青春時代を魔法の修業に明け暮れ、フィラクロウ家に仕官し
たのは良いけど、女なのでお嬢様の護衛とか任されてるうちに、ど
うしてこうなった? おかしい、フィラクロウ家の武官ともなれば、
社会的地位と高収入が合わさりモテモテの筈なのに。なぜ男どもは
私を避ける?
容姿には自信ありますし、スタイル良いし、風魔法は天才と称さ
れるレベルですし、収入は並みの騎士の数倍もあり、男性が好むで
あろうおっとりしてあざとい感じに振舞ってるのに、なぜ私がモテ
ない? 解せぬ。
あれですか? 百合百合オーラを放ってるお嬢様の傍に居るから
同じ目で見られてる? おのれお嬢様め、私の幸せを邪魔しますか、
さっさと結婚して私をお役御免にしてください。
いやねぇ、私だって無邪気に懐いてくるお嬢様は可愛いですよ。
仕官当初に護衛を任された頃は妹みたいに可愛がりましたよ? だ
がしかし百合百合空間に引きずり込まれちゃ堪ったもんじゃありま
せん。私ノーマルです! だから私の事を好きだと公言しないでお
嬢様! あとセクハラするな! 私までそういう趣味に見られるか
ら!
しかし、そんな護衛対象のせいで、男性に避けられる日々からも
うすぐおさらばです。頑張ってノワールさん。お嬢様を手籠めにし
てくれるよう、我ら家臣一同お二人を応援します。
二人の応援をしながら見守っていると、食事を終え、貴賓室の中
にある歓談室に移る二人。ゆったり座れるソファとお菓子を用意し
1150
てる部屋ですね、あの部屋密室だから目視で見守るのは無理か。で
も気になるので空気の流れを読み大雑把な動き見る。
そうしてるうちに、ノワールさんはお嬢様を押し倒し、キス! やったね。案外早い気もしますが、十六歳の男の子がお嬢様ほどの
美少女、しかもあんな露出の多いドレスを着てる相手に我慢なんて
出来るわけが無いですよね。
ついでにガランの作った昼食、見事なまでに精の付く高級食材ば
っかり。ついでに火酒をベースに作ったソースは、お酒の匂いは極
力消していても、酒精はたっぷりな我が家の料理長渾身の作。うむ、
若いお二人は火酒ソースのステーキをガツガツ食べましたからね。
とりあえず密室で押し倒して貰えれば既成事実としては十分。後
は若いお二人でごゆっくり♪ あとはお嬢様の初体験に余計な邪魔
がはいらないように、貴賓室を囲む風の結界に魔力を注いで、お二
人を守りましょう。
馬鹿
具体的には覗き防止です。そうら、そこの窓から侵入しようと、
私の結界を突破しようとしてる料理長から、お嬢様とノワールさん
を守るのです。
風の鞭でハエを叩き落すように、覗き魔に一撃を加えると、その
まま空気操作で庭まで引きよせる。そして覗き魔は私がお嬢様を守
ってることを知っているので、必死に頼み込んできた。
﹁頼むカミラ、俺を通してくれ⋮⋮俺とお嬢様は身分違いの恋をし、
ひっそりと想いを通じ合っていたのだ。それを⋮⋮ううう、今日出
会ったばかりの男に組み敷かれ純潔を奪われると思うと⋮⋮﹂
1151
﹁⋮⋮本音はぁ?﹂
﹁⋮⋮と、そういう脳内設定でちょっと寝取られプレイがシテみた
いと思った。二人の邪魔はしないから覗かせてくれ﹂
うわぁ、変態だとは思ってましたが、予想より遥かに手遅れです
ねこのバカ。
﹁馬鹿な事を仰いますねぇ。初体験は女の子にとってぇ、一生の思
い出ですよぉ⋮⋮それを不埒な目で覗こうなど死にたいようだな変
態﹂
﹁くっ、口調を素に戻してるって事は本気か。だが邪魔するなら押
し通るのみ! お嬢様と男の娘のギシギシアンアンを覗かず後悔す
るより。俺は覗いて罰を受ける!﹂
はっはっは、無駄に意志の強い目で睨んでも、言ってることが最
低だから、怯むとでも思ってるのか変態が。
﹁死ね変態! 貴賓室へは一歩も立ち入らせません。お嬢様は私が
守る!﹂
一触即発。私の風の結界の向こう側では、お嬢様は今まさにノワ
ールさんに押し倒され、大人の階段を登ろうとしている。お嬢様の
あられもない姿を覗こうとする変態を前に、私は﹃荒ぶるガルーダ
の構え﹄をとる。
﹁ここで諦めて退くなど出来ん! 俺は、俺は浪漫に命を懸ける!
ルネが帰って来るまで時間がないのだ!﹂
1152
アイテムボックス
変態、もとい料理長のガランは、希少な︻収納空間︼の使い手で、
フィラクロウ公爵家が行軍した時は食糧管理を担うくらい信用はさ
れてるのだが、アホな浪漫とエロスに命を懸ける変態である。
ガランは﹃怒れるタイガーの構え﹄をとり、私を倒そうと睨みつ
けてくる。が、現状この屋敷で使用人全員を指揮している執事のル
ネが所用で出かけた途端に、コソコソと覗こうとするあたりセコイ
な。まぁこの屋敷の中で、ダントツにお嬢様本人への忠誠心篤いル
ネがいて、覗きがバレたら冗談抜きで殺されかねんからな。
﹁そんな浪漫はドブに捨てろ! 退かないならならば手加減はしな
い。私が﹃荒ぶるガルーダの構え﹄をとった以上、それ以上進めば
怪我では済まさんぞ﹂
魔法使いは基本的に自分の得意な属性に特化する。複数の属性を
使いこなせる人もいるが、大体は基本を抑えるだけ。私の場合は風
属性に特化しつつ、水属性もそれなりに使える。
﹁受けなさい我が秘術、神殿の診療所で己の愚かさを悔やむが良い
!﹂
水魔法で創り出した無数の﹃氷柱﹄。水魔法は自分の魔力で飲み
水を創るのを基本として、様々な物質を望む形で創る術を指す。複
雑化すればそれだけ消費も大きく、簡単に壊れるくらい脆くなるが、
氷柱くらいなら消費も少なく、際限なく硬く鋭く創れる。
創り出した氷柱は氷の爪。そして私の巻き起こす風は神鳥ガルー
ダの羽ばたき! さぁ血の花を咲かせ、せめてその命を彩るが良い
変態!
1153
﹁秘術﹃氷爪百連華﹄!﹂
﹁むぅぅ! 舐めるなぁ﹃水龍波﹄ぁぁぁぁぁ!﹂
アイテムボックス
アイテムボックス
なにぃ! ガランの︻収納空間︼から凄まじい濁流が溢れ出す。
そうか! ガランは︻収納空間︼の内部に数十トンもの飲み水を収
納している。それを超圧縮して射出したのか!
あらゆるモノを引き裂くガルーダの爪と、水龍波が激突した衝撃
アイテムボックス
で、私は自ら構築した風の結界に叩き付けられる。ガランはとっさ
に氷の爪を︻収納空間︼に取り込み裂傷はない、風までは完全に取
り込めずに、吹き飛ばされ庭木に激突したが軽傷だ。
﹁ぐっ! 私の百連華を貫くなんて、水龍波がまさかここまでの威
力とは⋮⋮﹂
水龍波の予想外の威力に氷爪百連華を跳ね返され、氷の爪で引き
裂かれた屋敷の壁は一瞬で廃墟めいた有様だ。やってくれたなガラ
ン、執事のルネに言いつけて修理費はコイツの給金から出させてや
る。ついでに破れたメイド服の弁償代もな。
﹁さぁそこを退けカミラ。大丈夫だ二人の邪魔は決してしない、た
だロリ巨乳と男の娘のイチャエロを覗きつつ、寝取られプレイがし
たいだけなんだ! そのために精の付くものを大量に作ったんだか
らな!﹂
﹁堂々と最低の事を口走るな! お嬢様の思い出を下種な欲望で穢
させない!﹂
痛む身体に鞭打って立ち上がり、再び﹃荒ぶるガルーダの構え﹄
1154
をとり、徹底抗戦の意思を漲る魔力で示す。
﹁馬鹿め氷爪百連華は既に見切った、それ以上メイド服を破かれた
くなかったら大人しく⋮⋮なっなにぃぃぃ!﹂
いつの間にか周囲には極細の糸が張り巡らされガランの動きを封
じていた。まさかこれはクラリッサの!
﹁くふっ﹃デビルマリオネーション﹄でガランの動きは封じたわ。
全く甘いわねカミラ、風の結界の無い天井裏からヒューゴが覗こう
としてたわよ。まっアタシが叩きのめしてやったけどね﹂
クラリッサは先端に金属製のボタンを縫い付けたシルクの糸を自
在に操る。そして仕立て職人として人体の構造を知り尽くしたクラ
リッサの手にかかれば、数本の糸で如何なる達人も容易く拘束可能
なのだ。
ましてクラリッサの扱うシルクは、特殊なエサを与え、通常より
も遥かに強靭な強化シルク。刃物でも持たない限り引き千切るのは
不可能な上に、護身用の魔法の短杖から放たれる雷を伝播する強力
な武器だ。
﹁ま、まさか同士ヒューゴが! おのれクラリッサ、かくなる上は
貴様も倒す。ヒューゴに姿絵を見せてやらねば⋮⋮﹂
﹁そんな機会は永遠に無い! 先ほどは結界の維持に魔力を割いて
いたが、クラリッサが防衛してくれるのなら必要はない。見せてや
ろう私の最大の奥義を⋮⋮﹂
風の結界を構築していた魔力を回収し、周囲の風に自らの魔力を
1155
溶かし一体化する。そして没入し紡ぎあげる。このカミラの最大最
強の奥義を。
﹁くっ! これ以上邪魔するならばクラリッサ諸共覚悟しろ! 奥
義﹃千龍波﹄!﹂
糸に絡めとられ動けないが魔法は使える。ガランの周囲の空間が
歪み、放たれる超圧縮された無数の水の弾丸が私とクラリッサを襲
う。だが構えられないガランより、既に﹃荒ぶるガルーダの構え﹄
をとっていた私の方が一瞬早い!
﹁奥義﹃氷爪百連旋嵐﹄!﹂
氷爪百連華をガルーダの羽ばたきとすれば、氷爪百連旋嵐はガル
ーダの突進、神の鳥が自ら爪を振るい龍の群れなど食い散らすのだ!
﹁ば、馬鹿な! 千龍波が押され⋮⋮う、うおおおおおお!﹂
勝敗は決した。外壁を突き破り、屋敷の外に放り出された変態は
もう動けまい。だが⋮⋮くっ流石はガランの奥義だ、なんとか押し
返したが千龍波の余波で相当のダメージを負い、メイド服はもはや
ズタボロで殆ど裸同然の有様だ。
早く着替えたいが、まだ不埒者が現れるかもしれないから、先に
風の結界を再構築しなくては。しかし結界を張ろうとした私に、ク
ラリッサの糸が絡みつき、動きを封じられる。
﹁なっ! クラリッサどういうつもりだ!﹂
﹁くふっ! 魔法の使えないアタシじゃ貴女の結界を抜けられない
1156
からね。デュフフフ! プリティィィフェェェイスのボォォォイと
か大好物なんで、ちょっと混ざって3Pするだけよ﹂
﹁き、貴様! 単なる嫁ぎ遅れじゃなくて、そういう趣味だったの
か!﹂
﹁デュフフフ! 大丈夫よぉぉ、ちゃぁぁんと、ボォォイの童貞は
お嬢様にあげる﹂
おのれ隠れ変態め! 拘束はされていても魔法は使える。風の鞭
でこのショタコンを叩きのめそうとするが、魔法を使うよりもクラ
リッサの短杖の発動が速い。伝播した雷を喰らい私の意識は暗闇に
⋮⋮不意に薔薇の香りが⋮⋮。
﹁けっけっけ! 御苦労だったっすねぇクラリッサ。予想通りにカ
ミラを無力化させてくれて礼を言うっすよ﹂
﹁馬鹿な! 貴様は確実に気絶させたのに⋮⋮﹃デビルマリオネー
ション﹄!﹂
﹁無駄っすよぉ、俺の香気を吸った以上手遅れっす。ケケ、自慢の
糸も上手く狙えなければどうってこたぁないっすねぇ﹂
﹁くっ、この眠気は貴様の香水の効果か⋮⋮ま、待てヒューゴ手を
組もう。私はプリティィィボォォォイとエッチできればそれで⋮⋮﹂
﹁はっ! 話にならねぇっすねぇ。良いかよく聞け、ノワールさん
みたいに可愛い子だったら、性別とかもう関係ねぇっす! むしろ
男の娘とか、萌えるっす!﹂
1157
くそぉ! この屋敷の連中に碌な奴がいない! 確かにノワール
さんは男にナンパされるくらい可愛いけど、お前は男だって知って
るだろうが! 奴だけはなんとしても倒さねば、必死に意識を繋ぎ
止め、奴に氷爪百連華を⋮⋮。
﹁おっと! カミラ、アンタだけは完全に無力化させてもらうっす
よ。﹃エンジェル・ローズ﹄!﹂
調合師ヒューゴは様々な効果のある魔法の香水を作り出せる。風
で香気を防ごうにも、既に薔薇の香気に包まれ、猛烈な睡魔に襲わ
れた状態ではそよ風すら操れない⋮⋮クラリッサはなんとか抵抗し
ようとしてるようだが、もうほとんど意識を失いかけてる。あぁ申
し訳ございませんお嬢⋮⋮さ⋮⋮ま。
﹁ケーッケッケッケ! さぁ邪魔者は片付いたっす。待っててくれ
よノワールちゅわぁぁゲピャ!﹂
﹁とりあえず碌でもないことを口走っていたから殴ったが。ふむ、
とりあえずお嬢様の幸せを邪魔する者は殺す﹂
眠気で朦朧としてて気が付かなかったが、ルネが帰ってきたのか。
ヒューゴが殴り飛ばされ、香気が薄まったので微かに思考を取り戻
す⋮⋮。
拙い、物凄く拙い! 屋敷の壁に、氷柱が突き刺さって破壊され
てるこの状況。屋敷を壊したのは私の仕業と思われたら、給金の没
収もありうる。な、なんとか釈明しなくては、ルネならお嬢様を守
る為に戦ったと言えば決して咎めない筈。ガランにヒューゴやクラ
リッサ? 殺されなければ儲けものだと思う。
1158
﹁ゲェェ! ルネ! ちぃ聞くっすよクラリッサ! エンジェル・
ローズを解除するっす! ここでルネを何とかしないと殺されるっ
すよ﹂
﹁ル、ルネ。ヒューゴとガランは、お嬢様とノワールさんを邪魔し
ようとしてたのぉぉぉ! だから私とカミラは必死に戦ったのよ!﹂
﹁クラリッサてめぇ! 裏切りやがったか!﹂
﹁アンタこそアタシを巻き込まないでよ!﹂
目の前で醜い争いを始めた二人を見るルネの目は冷たい。彼女は
愛用してる片眼鏡を外し、抑揚のない声で宣言した。
﹁借家とは言え、お嬢様が滞在なされる屋敷を破壊しておいて、下
らん言い訳など聞く耳もたぬ。事情は後で聞いてやるが、先ずは仕
置きだ﹂
﹁くっ! 黙って殺られはしないっすよ! ﹃エンジェル・ローズ﹄
﹂
﹁ちっ! 二人がかりなら流石のルネだって! ﹃デビルマリオネ
ーション﹄!﹂
だが、二人の技はルネから放たれる闘気の圧力だけで阻まれる。
あの二人は相当焦ってたのだろうな、ルネが最初から闘気で身を守
っていたのに気が付かないとは。
﹁ふん、お前たちの趣味は分かってる、どうせノワール様に手を出
そうと考えたのだろう。まぁ未遂のようだから特別に半殺しで許し
1159
てやろう⋮⋮﹃スターゲイザー・エヴォリューション﹄!﹂
﹁ぎゃぴぃぃぃぃ!﹂
﹁ンアァァァァァ!﹂
ルネの手から超高速で放たれる闘気は、まるで満天の星空から流
星が降り注いだかのようだ。頑張って意識を保っていたが、そろそ
ろ限界だ。薄れゆく意識の中見えたのは、ルネの最大奥義でヒュー
ゴとクラリッサは一瞬でズタボロにされ。ついでに隠れるように、
這いずって覗こうとするガランも吹き飛ぶ姿が見えた⋮⋮。
﹁少しは頭を冷やせ馬鹿どもめ。カミラも後で事情は聞くが、その
ざまではお嬢様が悲しまれる、後で神官を呼んでくるから部屋で寝
てろ﹂
よ、良かった。どうやら給金没収は免れそう⋮⋮ガクッ。
∼∼∼∼∼
柔らかいモノで包み込まれるような、かつてない幸せな感覚に僕
は自分を包む柔らかいモノを強く抱き寄せる。すると女の子の声が
したので、薄く目を開けてみると一面肌色だった。
良い匂いがするので顔を押し付けると、頭を撫でられる感触がす
る。あぁ、あったかくて気持ち良い。もっと柔らかさを堪能したく
て頬ずりしてみる。
1160
﹁うふふ、ノワール様ったら甘えん坊で可愛い﹂
⋮⋮ん? この声は? 段々と意識が覚めてきて眠る前の状況を
思い出してきた。僕はどうやらヒルダのおっぱいに顔を埋め、抱き
合ったまま眠っていたみたいだ。
﹁おはよう⋮⋮﹂
﹁おはようございますノワール様⋮⋮ちゅっ﹂
目を覚ますと、ヒルダが頬にキスしてくれたので、僕もヒルダの
頬にキス。なんとなく物足りなく感じたので、どちらからともなく
唇にキスをしてそのまま舌を絡め合う。
あぁ、うん。もう駄目だ、僕はヒルダが可愛くして仕方がない。
我ながら単純だけど初めてのセックスの相手を、どうしようもなく
好きになっちゃった。
﹁ヒルダ⋮⋮好きだよ、んっ﹂
﹁んむっ⋮⋮ちゅ。私も、ノワール様が大好きです﹂
それからどれだけキスしていただろうか? お互いに裸のまま向
かい合ってるのに気が付いたので、服を⋮⋮あ、ヒルダのドレスも
下着もセックスの途中で全部破れちゃったんだ。
﹁ど、どうしようヒルダ? 着替えはある?﹂
﹁ううう、歓談室どころか貴賓室にもありません。ベ、ベッドのシ
ーツ⋮⋮お客様が泊まる予定が無かったのでシーツがありません﹂
1161
ど、どうしよう。流石にずっと裸でいてもらう訳にはいかないの
で、兄ちゃんに貰ったシャツだけでも着て貰う⋮⋮おぉう! 裾丈
の余ったダボダボのシャツ一枚だけとか、正直全裸よりエロい。
﹁とりあえずそれで、ヒルダの着替えがある部屋に行こう。他の人
に見られないようにゆっくりとね﹂
﹁はい、私の私室はこの貴賓室から近いので、そのくらいでしたら
⋮⋮﹂
と、手を繋いで部屋から出ようとしたら、ドアがノックされた。
﹁お嬢様、お目覚めになられましたか? お着替えをお持ちいたし
ましたが、入室しても宜しいですか?﹂
﹁ルネ! い、今は入っちゃ駄目。着替えだけ置いて誰も近付けな
いで﹂
﹁承知いたしました。ではドアの前にお嬢様とノワール様のお召し
物を置き、私は人払いをさせていただきます。あとは浴室の用意が
出来ておりますので﹂
ドアの前にいるルネさんって人、凄くタイミングが良かったけど、
まさか部屋の中監視してないよね? い、いや近くに待機してて人
が動いた気配を察したんだろう、きっとそうだろう。そうでないと
怖すぎる。
ドアの前に置いてあったのは僕とヒルダの着替えに下着、それと
バスローブだった。とりあえずエロすぎる全裸にシャツだけ姿から、
1162
バスローブを着て貰ってお風呂に行くことにした。
﹁それではお風呂に参りましょう、汗とか色々なもので身体中ベト
ベトですし⋮⋮﹂
﹁うん。汚してごめん、ヒルダ﹂
ルネさんが人払いをしてくれたので、誰にも会わずにお風呂に二
人で入り、セックスの余韻を洗い流して、やっと人前に出れるよう
になった。ルネさんが用意してくれた服、サイズがぴったりなだけ
じゃなく、なんかカッコいいと言うかセンスがいいぞ。
曰く、﹁本来のサイズより大きな服を着ていると、余計に小柄に
見える﹂だそうだ。うぐっ! 今まで見栄張ってサイズが大きな服
ばっかり買ってたのは逆効果だったのか。
﹁僭越ながら、のちほど服選びのコツをお教えしますよ。仕立服が
一番間違いないのは確かですが、古着選びも中々楽しいですからね﹂
一分の隙もなく執事服を着こなした、片眼鏡の女性はヒルダに同
行した家臣たちの纏め役でルネさん。彼女は朗らかに笑いながらお
茶を淹れてくれる。
﹁むぅ⋮⋮ルネ、それはノワール様と一緒にお買い物ですか?﹂
﹁ふふっヤキモチですかお嬢様? ふむ、確かに男女で古着屋を回
るのは市井の者なら定番のデートですね。服選びの後は甘味を食べ
に行ったり、お芝居を見に行ったり⋮⋮楽しそうだと思いませんか
ノワール様?﹂
1163
﹁むむむっ! ノワール様がお出かけするときは私も一緒です!﹂
冗談めかして誘ってくるルネさんから、僕を庇うようにヒルダは
抱き付いてきた。本気にしちゃ駄目だよ、多分からかってるだけだ
よこの人。
﹁おや? このルネは一言も二人っきりなど申しておりませんが?
お嬢様とノワール様のデートの際は、私が護衛となる場合も多い
ので、アドバイスでも⋮⋮と、考えた次第ですが?﹂
案の定、からかわれたことに気付いたヒルダの顔は真っ赤になる。
けど文句を言うと泥沼になりそうなのでルネさんから顔を逸らして、
誤魔化すようにお菓子を抓む。
﹁えーと⋮⋮えーと、そうです! ノワール様を強引に招待してし
まいましたが、ご予定などはございますか?﹂
﹁冒険者仲間と合流してお祭り見物に行くつもりだったけど⋮⋮﹂
うっ! いかにも残念そうな表情をしないでよヒルダ。普通に考
えて女の子とエッチしておいて、その後すぐに、男友達と遊びに行
くのは自分でもどうかと思うから、あいつ等と遊びに行くのはなし。
﹁⋮⋮つもりだったけど。土地勘が無い上に、あの街の人混み具合
だと合流は多分無理だから、明日の兄ちゃんの結婚式の準備くらい
?﹂
ルネさんは﹁では礼服など必要なものは、こちらで用意しておき
ますのでごゆっくり﹂とだけ言い残して去っていく。そして二人き
りになった途端ヒルダは、猫のようにじゃれついてきた。
1164
﹁ではノワール様、私たちの今後について色々と決めておきましょ
う。先ず私の希望ですがノワール様に嫁入りしたいと思ってます﹂
﹁でも僕って兄ちゃんの家臣扱いって聞いたけど、現状はただの冒
険者だよ?﹂
﹁いえいえ、アニキ様の功績を考えますと、領地が下賜されないわ
けが無いです。侯爵位で領地が無いなんてありえませんから。そし
て領地運営には家臣は必須です、実弟であるノワール様は家臣の筆
頭格ですよ﹂
ちなみにヒルダの家に婿入りの場合、大勢の子供がいる公爵領に
おいて、末娘の婿なんて邪険にはされないだけの扱いなのだとか。
辛うじて兄ちゃん相手のコネとして使われるくらい? 後はちょっ
とした仕事を割り振られるだけらしい。
﹁貴族としての考えで申し上げますと、アニキ様は新興の家なので、
存命の内に子供を沢山作って、一門の家を多く興さないといけませ
んから。必然ノワール様も子沢山の必要があります。領地は一族で
運営するのが基本ですからね﹂
一門の家ってのが良く分からなかったけど、話の流れからすると
親戚の家って考えれば間違いはないだろう。その為に良く分からな
いけど、子供を沢山作らないといけないらしい。ヒルダがそう言う
ならそうなんだろう。
﹁アニキ様ほど側室を多く抱える必要はありませんが、ノワール様
も側室は必須です。生臭い言い方ですが﹃引っ張ればすぐに実家と
交渉できる紐が付いてる妻﹄は何人いても困りません。中には﹃引
1165
っ張ったら面倒を引き寄せる紐﹄がいますが、その辺りは私がなん
とかします﹂
﹁う、うーんエロ兄ちゃんみたいに、沢山の美人に囲まれるよりも。
僕はヒルダ一人いれば満足なんだけど⋮⋮﹂
僕の答えが嬉しかったのか、満面の笑みで抱き付いてキスしてく
れる。そのまま暫くキスして、ヒルダは話を続ける。
﹁んふっ、もうノワール様大好き! 愛してます。けど現実問題と
して、ちゃんと教育を施した血縁の家臣達がいませんと、勇者であ
るアニキ様の没後のアストライア家に、色々と問題噴出するのが確
実なんです、歴史を紐解いてほぼ例外はありません。それを避ける
ために血縁や地縁できっちりと地盤を固めませんと。まぁ賢いオリ
ヴィアお姉様がいれば大丈夫かと思いますが﹂
どんな問題なのかは色々としか言いようがないそうだが、次代の
事も考えないといけないなんて大変なんだなぁ。
﹁そんな訳でして、勇者様の実弟なんて優良物件のノワール様は、
明日の結婚式の後のパーティーで、確実に大勢の女性に声をかけら
れるでしょう。けど私に押し付けてください。上手くやりますので﹂
﹁ありがとうヒルダ⋮⋮女の子の扱いに慣れてない僕の為に苦労か
けてごめんよ。ますます好きになっちゃったよ﹂
﹁ふふっノワール様の側室になる女性は、私の目で確かめたいだけ
ですよ⋮⋮だって﹂
ん? なんか嫌な予感が⋮⋮。
1166
﹁くふふふ! ノワール様の側室となれば、堂々と女の子とイチャ
イチャギシギシアンアン! ラブラブチュッチュッ! あぁんらめ
ぇっ! ってできますね! ぐふふ私好みの女の子が選り取り見取
り。現実味の無い構想でしかなかった美少女パラダイス計画が、一
気に現実的になりました! あ、勿論パラダイスの中心はノワール
様ですし、好みも考慮しますのでご安心ください﹂
畜生! この屋敷に来てからまともだったけど、やっぱり馬鹿だ
った! でも知ってた! 無駄にやる気に満ちてるこの残念っぷり
でも、ヒルダは可愛いんだよ、くそぉ!
1167
式典前日・裏その2︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
ちなみに本編に関わらないルネの裏設定。
幼い頃に父親と死別したルネは母親と二人で貧乏暮らし。母親を助
けるために冒険者まがいの真似をして日銭を稼いでいるうちに、戦
いの才能に目覚め本格的に冒険者になる︵このころ10代前半︶
ルネが冒険者を始めた頃、隠れて娼婦をしようかと悩んでいた母親、
公爵様の目に留まりお屋敷で働き出す。
この頃にヒルダ受精。ルネは知らずに冒険者を続け二つ名持ちにな
る。
母親の勧めで公爵家に仕官、二つ名持ちだと本家の武官になってし
まうので、名前を変えて妹専属をお願いする。
こんな感じ。
1168
結婚式︵前書き︶
︳
m︶
投稿が遅れまして申し訳ございませんでした。
m︵︳
重ねて電子書籍の方も中々の売り上げらしく、この場を借りて御礼
申し上げます。
1169
結婚式
あいまい
窓から差し込む光を浴びて、ぼんやりと夢か現か曖昧な意識で思
った事は、んー? いつものベッドじゃないな。それになにか物足
りない⋮⋮寒い? そうだ、いつも起きる時に感じる柔らかい温も
りがない。
目を瞑ったまま手を伸ばしてみても何もない⋮⋮おっと何かが肩
に触れてきたので、とりあえず抱き付く。なんか硬いけどまぁ良い
か。可愛い俺の嫁さんにお寝起きの挨拶をするのだ。
﹁おはよ∼早速寝起きのキスを、んちゅぅぅ⋮⋮﹂
﹁おいバカ! 寝惚けるなバカ!﹂
そしてズゴンッ! と、快音が響く⋮⋮っ痛ってぇぇぇ! 思わ
ず頭を抑えると今度は突き飛ばされた。
そ、そんな。まさか嫁さんにキスするのを拒絶されるなんて! 何か怒らせる様なことをしたんなら、急いで謝らないと! まさか
エッチの時やり過ぎてしまったからだろうか?
﹁って、俺の部屋じゃない? ついでに頭が痛いのはなんでだ?﹂
﹁寝惚けてるんじゃないぞクリス。目を覚ませバカ﹂
﹁あれ? 兄貴? なんで俺、兄貴に拳骨くらってんだ﹂
1170
﹁お前が寝惚けて抱き付いてきたからだよ。ほら、朝飯作ったから、
早く食うぞ。今日はお前の結婚式なんだからちゃんとしろよ﹂
あー思い出してきたぞ、神殿に兄貴と泊ったんだった。結婚式ま
で浄室から出ないで身を清める決まりだから、メシとかは世話役と
して同行した兄貴が用意してくれるのだ。
兄貴とボードゲームでもして時間を潰そうかと思ってたんだけど、
この部屋には﹃父親の心得指南書﹄とか﹃百組に聞いた新婚生活体
験談﹄等々。そういう系統の本が揃ってて、暇はしなかった。
ちなみに何故か﹃男娼歴三十年のプロが教えるセックス指南書﹄
なんてものが置いてあって、兄貴が熱心に書き写してた。浄室は身
を清める部屋じゃないのかってツッコミは野暮なのだろうか?
随分と兄貴が熱心なので、聞いてみたら真面目で潔癖なイレーネ
がいると、この手の本が買えないからだそうだ。俺も興味はあった
けど後で借りればいいやと思い、邪魔しちゃ悪いので黙って本を読
んでた。
結局晩飯を作りに炊事場に行く時以外はずっと写本してたし、俺
がベッドに入ってもまだ部屋が明るかったから、多分兄貴寝てない
な。目の下に隈が出来てるし。
それでも俺のメシとか用意してくれるのはありがたい。ちなみに
世話役が使う炊事場は、一つだけなので、今朝行ったらアルテナた
ちがいたので一緒に料理したらしく、兄貴が作った麦粥の他に色々
副菜があるのはそのせいか。
その時にアルテナたちから聞いた話では、女性が泊まる浄室にも、
1171
同じような本が揃ってたらしく、昨夜はみんなで本を読んでたそう
だ。
また、女性用の浄室では、予め頼んでおけば出産経験のある女性
が窓越しに、色々と語り聞かせてくれたりするそうだ。そうして男
女ともに結婚した後の生活を意識させる訳だな。
﹁それはそうと⋮⋮兄貴。俺がガキの頃の話とか聞かれた? みん
な興味津々だったけど﹂
おい、なんで目を逸らすんだよ。お願いしてたよな? 俺が計画
してた幼馴染ハーレム計画を始め、色々と嫁に知られたら、旦那の
威厳的に拙い話は内緒って頼んだよな?
﹁⋮⋮悪い﹂
﹁な、なんで謝るんだよ! 誰に? どこまで話したんだよ?﹂
﹁えーと⋮⋮メリッサさんだったかな? あの優しそうな人がさ⋮
⋮すごく話し上手で、ずっと写本してて疲れてたから、つい⋮⋮ご
めん﹂
﹁そ、それはメリッサだけか? アルテナとかユングフィアは? 特に興味深そうだったティータニアは?﹂
﹁彼女だけだよ、他の人はお湯の用意してたらしくて、炊事場にい
なかったから﹂
そ、そうか助かった。メリッサならガキの頃の黒歴史くらい笑っ
て流してくれるだろう。それに俺が知られたくない話を言い触らし
1172
たりはしない筈。他の嫁さんに知られて万が一にも幻滅されたくな
いからな。
﹁別にお前ってさ、子供の頃と行動が大して変わってないから、知
られても大丈夫なんじゃないか?﹂
﹁そんな事はない⋮⋮筈! 俺は愛する妻の前ではいつだって頼れ
る男でいたいんだ。黒歴史なんて知られるわけにはいかない!﹂
この時の俺は知る由もなかった。メリッサと兄貴の会話をティー
タニアが聞き耳を立てていたなんて。屋敷に泊ったイレーネが巧み
な話術の前に、俺の黒歴史を全て暴露していただなんて。俺が知っ
たのは兄貴たちが帰ってからのことだった。
﹁お前が思ってる以上に、奥さんたちはお前の事を見てると思うけ
どな⋮⋮僕はこれからまた本を書き写してるけど、お前は何するん
だ?﹂
何って、結婚式は式典が終わってからだからなぁ⋮⋮使い魔飛ば
して外の様子を見ても良いけど、見てるだけだとすぐ飽きそうだし。
﹁メシ食い終わったら寝る。部屋にある本は昨日の夜に全部読み終
わったし﹂
﹁普通は緊張で寝れないって聞くけどな。お前って大物なのかバカ
なのか良く分からないな﹂
徹夜でセックス指南書を書き写してた兄貴に言われたくないぞ。
指摘したらまた拳骨くらいそうだから口にしないけど。
1173
﹁目の下に隈が出来てる兄貴こそ寝なよ。写本なんて慣れてないと
疲れるだろうに⋮⋮っていうか欲しい本があるんなら俺に言ってく
れれば用意するぞ﹂
﹁いや本って高いだろ? ⋮⋮それにちゃんと装丁した本ってイレ
ーネの目に入るかもしれないし⋮⋮﹂
地味に尻に敷かれてたか兄貴。家庭の事とか色々話しつつ、一緒
に朝飯を食う。ただの麦粥なんだけど、色々野菜とか肉が入ってい
て、味が染み込んでて美味い。
適当に刻んだ余りものの食材を、鍋で煮込んだだけのまさに男の
手料理。忙しい両親が家にいない時よく兄貴がこれ作ってくれたも
んだ、懐かしいな。
﹁ん? そういえばいつもの調子で、摩り下ろしたサンマロ︱の根
を入れたけど、お前大丈夫なのか? 確か凄い嫌いだっただろ﹂
﹁十年も経てば普通に食えるって、山籠もりしてて好き嫌いとか言
ってらないしな﹂
サンマロ︱の根はすり下ろすと独特の辛みを持つ薬味になる。ど
こでも採れる上に毒消しや匂い消しにもなる。これが嫌いとか言っ
てると、修業してた山で獲れる魔物の肉なんて、煮ても焼いても生
臭くて、とても食えたものじゃなかったからな。
メシを食い終わった後も修業してた頃の話をしたり、反対に俺が
山で修業してる間に村での出来事とか話してると。兄貴が思い出し
かのように荷物から手紙を出してきた。
1174
﹁昨日渡そうと思ってたけど、書き写すのに夢中で渡しそびれてた
から今渡すよ。これパルティア伯爵からお前宛の手紙なんだ。誰に
も見られないように渡してくれって頼まれてさ﹂
重要そうな手紙なのに扱い軽いな。昨日浄室に入ったら、そこで
待っているはずの兄貴は、熱心に本を書き写してたからな。晩飯を
作りに炊事場に行くまでテーブルから動かなかったくらいだし。伯
爵の手紙とかすっかり頭から抜け落ちてたのだろう。
それはそうと、兄貴に持たせて誰にも見られないように渡せとは、
随分と念が入ってるな。後ろ暗い内容なのかとちょっと警戒して手
紙を読む。
﹁重要な手紙らしいけど、なんて書いてあるんだ? あ、勿論僕に
話せない内容なら言わなくていいけど﹂
﹁正直重要なのかどうか分かんねぇ。なんか人間が内部に入って操
作する巨大ゴーレムについて、延々と書いてあるんだけど、これは
なんか裏の意味があるのかな? あ、やけに手紙が分厚いと思った
らイラストまで入ってた﹂
﹁あぁゴーレム鉄騎兵の事か、パルティア伯爵家の軍だけに配備さ
れてる兵器でな、僕もゴーレム用の鎧を造るのを手伝った事あるん
だ。十メートルを超える人型ゴーレムで、パーツの一部だけでも、
職人が十人くらい協力しないと造れないんだ﹂
王国東部の実力者パルティア伯爵が考案し、権力に任せたゴリ押
しで開発させたらしいゴーレム鉄騎兵。白兵戦では恐ろしく強いが
魔法には弱いので、正直アホほど高いコストの割に役に立たないら
しいが、伯爵がこのゴーレム鉄騎兵に並々ならぬ情熱を傾けていて、
1175
日々研究を続けてるそうだ。
この手紙からは、採算度外視した趣味人特有の暑苦しいまでの熱
意、いや浪漫が感じられた。浪漫なら仕方がない、馬鹿なことに全
力を費やす人は嫌いじゃないし。
とりあえず賛成なら書類に拇印を押してくれと書いてあるので、
同封されてた同意書にサインと拇印を押して兄貴に渡す。パルティ
ア伯爵と言えばおっちゃんの主君だし、話を合わせておけば兄貴た
ちにも得になるだろうからな。
うーん、メシ食って、手紙読んだら目が覚めちゃったな。兄貴も
片づけ終わったらまた写本し始めたし、どうしたものか。そういえ
アイテムボックス
ば昨日は寝る前に濡れタオルで身体拭いただけだし、寝汗でも流そ
う。野営用の簡易風呂を︻収納空間︼から取り出してのんびりお湯
に浸かって結婚式を楽しみに待つとするか。
∼∼∼∼∼
午後になり、そろそろ結婚式の時間が近づいてきた。着替えして
浄室で待ってると、立派な法衣に身を包んだトラバントさんがやっ
てきて、新郎新婦用の控室まで案内してくれる。
新郎が着る真っ白い儀礼服は、飾り気のない簡素なものだけど、
重厚な雰囲気があり身が引き締まるようだ。控室で一人で待ってる
と今更ながらに緊張してきた。
兄貴は親族用の控室があるので、そこで式が始まるまで待ってい
1176
る。その部屋には俺の嫁さん達とノワール、あとは何故かヒルダま
でいるらしい。
トラバントさんが言うには、いかにも交際したてのカップルらし
くラブラブな雰囲気とのこと。そうか、おめでとうノワール、後で
俺が祝福をかけてあげよう。
広い控室で緊張を紛らわせるべく物思いに耽ってると、扉を叩く
音と一緒にルーフェイとアルチーナの声が聞こえてきて、急いでに
ドアを開けると、そこには⋮⋮純白のドレスを纏った二人の花嫁。
﹁わふぅ、クリス様の儀礼服姿とってもカッコいいです﹂
﹁お、お! おひゃようごじゃいまひゅ! ほほ、本日は! よろ
しくお願いいたしましゅ!﹂
ドアを開けるなりしっぽを振って抱き付いてきたルーフェイと、
案内してきた女性神官が心配そうにしてるくらい、ガチガチに緊張
してるアルチーナだった。
とりあえずルーフェイの頭を撫でつつキスして、まだドアの前で
固まってるアルチーナの腰に手を回し、抱き寄せて部屋に連れ込む。
案内してくれた女性神官は一礼して去っていったので、この部屋に
は俺たち三人だけだ。
さて、アルチーナの緊張をほぐしてやりたいところだが、ルーフ
ェイだって今日の主役なのだ。アルチーナばかりに構ってちゃ面白
くないだろうから、先ずはルーフェイにキス。
セックスの前にするような舌を絡めるエッチなキスに、ルーフェ
1177
イの瞳が潤み、舌を絡めて応えてくれる。
﹁わぅん、んっ、ちゅむ⋮⋮クリス様ぁ結婚式の前なのにエッチは
駄目ですよぉ⋮⋮んむ﹂
そう言いつつ更に身を寄せてくるルーフェイの唇を塞ぎ。今度は
緊張のあまり全身を強張らせてるアルチーナのお尻を、ドレス越し
に揉む。ふむ全身カチカチだな、これは結婚式の前に解してやらね
ば。
﹁ひゃ! あわわわ⋮⋮ど、どうぞ! アルチーナの処女をっ! あなた様に捧げま⋮⋮んむぅ!﹂
うん、多分自分が何を言ってるのか分かって無いな。結婚式でや
らかしたらショックだろうから、魔法で平静にしてあげても良いん
だけど⋮⋮魔法に頼る前に一先ずルーフェイと同じくキスする。
誘拐事件以降、こうしてアルチーナとキスを繰り返し、処女を散
らさない代わりに何度も指と舌で絶頂に導いてきた。清い身体のま
ま俺好みのエッチな女の子になったアルチーナは、俺にキスされた
途端、段々と瞳に熱を帯びて、エッチな表情になってきた。
﹁んっんっ⋮⋮クリス様ぁ⋮⋮もっと、もっとキスして﹂
﹁わふぅん、私にもキスしてください﹂
そうして二人にキスを繰り返してるうちに、アルチーナも緊張が
ほぐれてきたようなので、そっと離れて改めて花嫁姿の二人を見る。
はにか
純白のドレスに身を包み、幸せそうに含羞む二人は普段とは全く
1178
違う。見惚れて言葉が出ないくらい綺麗だ。
﹁二人とも綺麗だ⋮⋮綺麗だよ⋮⋮﹂
もう気の利いたセリフなんて浮かばずにこれしか言葉が無い。そ
んな気の利かない旦那であっても、ルーフェイは微笑みながら抱き
付いて、頬にキスしてくる。ついでに小さな舌で舐めてくるのがく
すぐったいけど気持ちいい。
﹁くぅん、昨日は楽しみで全然眠れなかったのです。何度もこのド
レスを着てお姉様に注意されてしまいました﹂
さまよ
アルチーナは、俺と同じように上手く言葉が出ないようだ。目線
を彷徨わせながら、口をパクパクさせてるのが可愛い。結局はルー
フェイと同じように抱き付いて、暫くすると落ち着いたのか、ゆっ
くりと耳元で囁いてくる。
かんばせ
﹁クリス様、クリス様も素敵です。まるで顔が輝いているかのよう
ですわ⋮⋮私が生涯仕えるあなた様、アルチーナは幸せです﹂
そうして再び二人とキスを繰り返して、控室のドアがノックされ
るまでイチャイチャしていた。ふぅ危なかった、迎えにやって来た
女性神官が、もう少し遅かったら二人を押し倒していたかもしれな
い。ギリギリ理性が働いて、エッチまではしないかもしれないけど、
ムラムラしたまま結婚式ってのもどうかと思うしな。
いよいよ結婚式が始まる。年配の女性神官に先導され、二人と腕
を組んで式場に向かう。式場は大神殿の奥にある祭儀場。この部屋
は普段大勢の信者に説法したり、重要な催事の際に大勢が集まる大
神殿で一番広い部屋だ。普段飾り気がない祭儀場だけど、今日だけ
1179
は荘厳さをそのままに煌びやかな装飾が施されている。
そして式場を埋め尽くす大勢の人々。この日の式典に参加した貴
族や街の有力者。神殿に関係者に一部見知った冒険者もいた。兄貴
やノワールもいるし、オリヴィア達も手を振っている。
そしてひたすら目立つ濃茶色の翼を背負った巨漢も大仰に腕を組
んでなんか泣いてる。おい、いつの間にやって来たんだ王様。家臣
らしい立派な身なりの人狼族のお爺さんも号泣してけど誰だ? 後
で聞いたらルーフェイのお祖父さんだった。
式場に足を踏み入れると同時に、楽士隊が演奏を始める。音楽に
合わせるように人の海の真ん中を二人の姫の手を引いて進む。
人の海から俺たちを祝う声が聞こえる、ルーフェイの可憐さを称
える囁きがある、アルチーナの美しさに感嘆する気配がある。人狼
族のお祖父さんの泣き声が式場全体に響き、何故かアルチーナに黄
色い声を送るヒルダはノワールに口を塞がれてる。
結婚式そのものは祭壇の前で、愛を誓い夫婦となる事を宣言し、
聖職者から祝福を授かる。コレが終わったら祝宴ってなるのが一般
的な結婚式だ。
俺
だが、生憎と我がマーニュ王国の王女アルチーナと。クレイター
諸島連合王国の王女ルーフェイの両名が同時に勇者と結婚するって
一大イベントなので、国と大神殿の威信を懸けた壮大なものとする
ために、今日まで大神殿では上から下まで大忙しだったのだ。
ミュー
式次第によると俺たちが控室で待ってる間に、この大講堂では、
ジカル
俺がパラポネスを倒してルーフェイを嫁にした経緯を演題にした歌
1180
劇が上演された。
また大神殿の広場では、式場に入れなかった人たちのために、俺
とオリヴィアの出会いから結婚までを、かなり脚色してある冒険活
劇を披露しているらしい。
なお、この結婚式に合わせてヒロインは、オリヴィアからアルチ
ーナに代わってるが、明日以降に上演される舞台ではちゃんとオリ
ヴィアがヒロインになる。
俺はなんとなく恥ずかしいので見てないけど、予行練習を見学し
た嫁たちからは結構評判が良かった。本番となれば演出も凝ってい
て見応えもあるんだろうな。恥ずかしいから見ないけど。
それだけではなく、そこかしこで、ルーフェイの母国であるクレ
イター風の歌や踊りが披露されていたり。豪華賞品の出るハゴータ
の大会等々、神殿の奥にいても聞こえてくる程に賑わいだ。
そしてそれらの催しが一段落し、いよいよメインイベントである
俺たちが夫婦の誓いを立てる時が来た。二人の手を引いて祭儀場の
奥にある祭壇までゆっくりと歩く。控室にいても聞こえていた盛り
上がりは息を潜め、誰もが無言で俺たちを見ている。
祭壇の前にはトラバントさんを始め、大神殿のお偉いさんたちが
勢揃いだ。慣例として複数の女性と結婚式を挙げる場合。順番で揉
めないように、基本的に年下からと決まっているので、打ち合わせ
通りにアルチーナは祭壇の前で俺から離れる。
まずルーフェイの手を取り祭壇に登る、二人で女神の神像の前に
跪き、そしてトラバントさんの祝辞、そして⋮⋮。
1181
﹁クリス・アストライアが法の女神トライアに願い奉る。ルーフェ
イ・ルーガンを我が妻と認め給う﹂
﹁ルーフェイ・ルーガンが法の女神トライアに誓いを奉じる。クリ
ス・アストライアが妻として生涯愛し寄り添う事を宣誓する﹂
良かった間違わないで言えた。定型文ではあるけどこれで噛んだ
りすると恥ずかしいからな。俺たちは誓いの言葉の後、見つめ合い
軽くキスして、すぐに祝福の神聖魔法を発動させる。
インパクト重視で祭儀場を包む込むくらい祝福の光を発現させる
と、参列者から感嘆の声が聞こえてくる。光が収まるとルーフェイ
と共に神像に一礼する。
これで正式にルーフェイと夫婦になったのだ。手を繋いで祭壇か
ら降りると、万雷の拍手が響く、そしてそれすら上回る人狼の爺さ
んの雄叫び。なんか周囲の人が耳を抑えて迷惑そうにしてるけど、
他国の王様がいる手前文句が言えないっぽい。
そして次はアルチーナなのだが、会場の雰囲気に呑まれたのかま
たガチガチになってた。仕方ない、一旦祭壇から降りて、緊張のあ
まり足が震えてるアルチーナをお姫様だっこで抱える。
﹁きゃ! あ、あわわ⋮⋮クックリス様!﹂
﹁が、頑張ってくださいです、アルチーナ姉様﹂
ルーフェイの応援も聞こえてなさそうだ。目を白黒させて何か言
いたげだが、そのまま祭壇に登る。作法としてはあまり褒められた
1182
事じゃないんだけど、非礼って程のものじゃない。トラバントさん
も苦笑しながら頷いてるし、参列者達もちょっとしたサプライズと
思ったのか、非難するような視線は感じない。
しかしどうも頭の中が真っ白になってるみたいので、祝辞を受け
取った後、お姫様だっこのままキス、そして同時に精神を平静にす
る術をかける。
流石にここまでガチガチになってると、一生に一度の結婚式で失
敗しかねないからな。術の効果で落ち着いたようで、段々と目の焦
点が合ってきた。
冷静になったアルチーナを降ろして、さっきと同じように神像の
前に跪いて夫婦の誓いをする。
﹁クリス・アストライアが法の女神トライアに願い奉る。アルチー
ナ・マーニュを我が妻と認め給う﹂
精神を落ち着かせる術が効いてるので、緊張した様子を見せずに
アルチーナもまた、何度も練習した言葉を口にする。
﹁アルチーナ・マーニュが法の女神トライアに誓いを奉じる。クリ
ス・アストライアが妻として生涯愛し寄り添う事を宣誓する﹂
間違わずに言えてホッとした様子のアルチーナにキスをして。祝
福の神聖魔法を発動させる。そしてまたお姫様だっこして祭壇を降
りる。これで、儀式としての結婚式は終わりだ。
次は参列者にとってメインとも言える、祝賀パーティーだ。俺た
ちが祭壇を降りると、楽士隊が軽快な曲を演奏し始めるとほぼ同時
1183
に、祭儀場に料理や酒が運び込まれてくる。
主賓の俺たちも始めのうちだけでもパーティーには出る決まりだ
けど、流石に真っ白の儀礼服やドレスのまま飲み食いは出来ないの
で、控室に戻って着替えてこないといけない。
凄まじい拍手の嵐と、大勢の人達から祝いの言葉をかけられなが
ら、俺たちは式場をあとにする。アルチーナがお姫様だっこされた
のが羨ましかったらしく、ルーフェイが期待に満ちた目で俺を見る
ので、今度はルーフェイをお姫様だっこだ。
勿論アルチーナを蔑ろにはできないから、右腕だけでルーフェイ
を抱きかかえ、左手でアルチーナと手を繋いで控室に戻る。時間に
すれば短いけど俺もかなり緊張して疲れたから控室でちょっと休ん
でからパーティーに参加しようっと。
1184
結婚式︵後書き︶
次回は、長らく書きたくても、中々辿り着かなかったウェディング
ドレスエッチ︵3P︶の予定。
それ+新展開の﹁起﹂に入れれば良いなぁと思いつつ、もう一件連
絡があります。
パラダイム出版さんからお許しを頂きまして、書籍二巻で登場の新
ヒロインのラフ画を公開させていただきます。この子が出てきた事
で、二巻ではなろう版とは少々話の流れが異なります。
<i216970|16606>
1185
初夜︵前書き︶
お待たせしました、今回エッチメイン
1186
初夜
結婚式も無事終わり、大勢に祝われながら家族全員で屋敷に帰っ
かがりび
てきた。日が暮れて薄暗いはずの空も、窓から大神殿の方向を見れ
ば、大量の篝火に明るく照らされている。
まだまだパーティは盛り上がってるのだろう。ちょっと聴覚を強
化してみれば、楽し気な笑い声や楽師隊の演奏が聞こえる。あとノ
ワールの悲鳴が聞こえた気がするが気のせいだと信じる。
結婚式後のパーティーは、勿論新郎と新婦が主役だけど、実は一
通り挨拶したら、好きなタイミングで帰って良い、というか早く帰
るのが通例だ。むしろ主役が帰ってからが本番とばかりに盛り上が
るのだ。
何故って? 新婚相手に遅くまで酒に付き合わせるのは、野暮で
無粋な空気の読めない馬鹿呼ばわりされるからな。冷やかしながら
見送るのがマナーってもんだ。要するに﹁さっさと帰って子作り頑
張れ﹂って事だな。ついでに酔っぱらった状態で初夜なんて誰だっ
て嫌だし。
俺がルーフェイとアルチーナを連れて挨拶して回ってる間、可愛
い子たちに囲まれてたノワールがどうなったかちょっと気になるが、
まぁあとで祝福をかけてあげる約束したし、その時にでもヒルダに
聞けば良いか。
あの時はルーフェイのお祖父さんに、鎖骨を握り潰してやるとで
1187
も言いたげな握力で、肩を握られながらルーフェイの事をお願いさ
れてたから、それどころじゃなかったからな。
まぁ嫁さんを大事にするのは言われるまでもない事だ。うん、熱
心にお願いされただけだと信じよう。鎖骨にひびが入ってこっそり
治癒したけど。お願いされたからって訳じゃないが、寝室で待つ新
妻二人にとことん愛情を注ぐことに集中だ。
いつもなら一緒に食事した後、お風呂でイチャイチャして、お互
いにエッチする気分を高めてから、寝室で激しく愛し合うのだけど、
今夜はアルチーナの希望により俺が寝室に訪ねるのだ。つまり夜這
いして欲しいらしい。
アルチーナ曰く、後宮における﹃お渡り﹄、つまり夫が妻の部屋
を訪ねるまで待ち。そして部屋にやって来た瞬間こそ、最高に幸せ
な気分になる⋮⋮と、実際に後宮にお住いの皆さんから聞いたから
らしい。
そういうモンなのかな? なんかルーフェイも納得してたから、
そうなのかもしれない。男としては俺に抱かれてる時こそ幸せを、
ついでに快感を感じて欲しいモンだけど、この辺が男女の違いなの
かな?
そして二人が待ってるであろう、アルチーナの寝室のドアをノッ
クする。少しだけドタバタしてる気配がして、その後暫くすると小
さく﹁どうぞ﹂と聞こえた。
そういえば、暗くなってから嫁さんの部屋に入るのって初めてだ
な。基本セックスは俺の部屋だし。ちょっとドキドキしつつ部屋に
入ると、揺らめくランプの光のみで室内は薄暗い。
1188
仄かな灯りに照らされた部屋の中で、待っていてくれていたのは
花嫁姿の二人。彼女たちの纏う白いドレスがまるで光ってるかのよ
うだ。
﹁二人とも、式は終わったのにドレスを着たままだったのか? 汚
しちゃったら拙いんじゃないか?﹂
なにせこれからエッチするのだ、汗やらなにやらであっという間
に汚れてしまう。そう思ったがルーフェイとアルチーナは、そのま
まドレスのスカートを捲り上げ⋮⋮自らの秘所を俺に晒す。
﹁わふっ⋮⋮今日、やっと祝福を授かり正真正銘の夫婦となりまし
た﹂
﹁どうか⋮⋮穢れ無きこの姿を、あなた様の色で染めてくださいま
せ﹂
二人のお姫様が、自ら秘所を晒してここまで言ってるんだ、当然
我慢なんて出来はしない、するつもりは無い。可憐なルーフェイも、
凛々しいアルチーナも、俺のものだ。返事をする暇も惜しくて、二
人を抱きしめ交互に、何度もキスを繰り返す。
﹁ルーフェイ、アルチーナ⋮⋮愛してるよ。もう放さないから覚悟
しろよ﹂
﹁はい、アルチーナは身も心も、もう全てあなた様のものです﹂
﹁私も、クリス様を愛してます、だから⋮⋮えへへ、いっぱい愛し
てください﹂
1189
純白のドレスを着た二人のオマンコに手を伸ばす。最初から期待
してたのだろう、二人のオマンコからは既に蜜が溢れ太股を伝って
いる。
﹁んんっ! ああん、あなた様の指⋮⋮気持ちいい﹂
﹁もう濡れてるんだ、そんなに俺とセックスするの楽しみだった?﹂
﹁んっ、は、はい⋮⋮アルチーナは、あなた様に身を捧げる日が待
ち遠しかったです﹂
アルチーナとの約束通り今日まで処女は守ったけど、その代わり
に処女のままエッチな子になるように開発したからな。俺の指が秘
所に触れた途端に、いつでも挿れてくださいとばかりに淫蜜が溢れ
出す。
﹁くぅん⋮⋮クリス様の指が奥まで! わふぅ、そんなにクチュク
チュされてら⋮⋮わふ、立ってられないです﹂
ルーフェイは感じやすいのに、頑張って耐えてる表情が堪らない。
俺の指で快感に喘ぐ二人の王女。その事実にまだ触れてもいないの
に俺のチンポは痛いくらい勃起している。
﹁す、すごい⋮⋮こんな大きなものが私の膣内に⋮⋮﹂
二人もただ立ったままじゃない。ドレスの裾を口で咥え、自由に
なった手で俺のチンポに手を伸ばしたら、ズボン越しとはいえいつ
もより凶悪に勃起してるのに気が付いたようだ。
1190
﹁わふ、このままじゃアルチーナ姉様はとっても痛いです。クリス
様どうかこのままで⋮⋮﹂
ルーフェイとアルチーナはそのまま俺の足元に膝をつき。ズボン
の中からチンポを取り出す。遮る物の無くなった俺の節操のないム
スコは、早く目の前の少女たちが欲しいと言わんばかりにそそり勃
っている。
﹁ご奉仕します⋮⋮わふぅいつもより熱いです﹂
﹁ごくっ⋮⋮あぁ。あなた様の足元に跪いて奉仕するなんて⋮⋮ま
るであなた様への服従を示せるようですわ﹂
いつもより大きいのに驚いてるルーフェイと、目を潤ませてうっ
とりしてるアルチーナ。穢れなき純白のドレス姿の二人のお姫様が
俺のチンポに触れ、ルーフェイは竿の部分に舌を伸ばし、アルチー
ナは先端を口に含み、カリ首や鈴口に舌を這わせる。
裏筋からゆっくりと舐めてくるルーフェイの舌に、快感が込み上
げてくる。積極的に気持ち良くしてくれるような今までとは違い、
今みたいな焦らすような動きは初めてだ。
﹁クリス様、オチンチンがぴくぴく震えてます。わふぅ、気持ち良
くなって頂いてますか?﹂
あぁ上目遣いのルーフェイが可愛い! 幼妻に奉仕される背徳感
に余計に昂って来る。そして更に大きくなったせいで口に含んでる
アルチーナはちょっと苦しそうだ。だけどさらに熱の籠ったフェラ
チオを続けてくれる。
1191
﹁んっんっ⋮⋮ちゅ、んむっ⋮⋮﹂
上目づかいで俺の反応を見ながら、健気に俺に奉仕してくれるア
ルチーナ。生まれ育った国の王女が俺のチンポを咥えてるんだ興奮
しないわけが無い。まして頑張って練習したんだろう、初めの頃に
比べて段違いに気持ち良くて、つい声が漏れてしまう。
﹁ああ、すげぇ気持ちいい。二人とも最高だよ﹂
はにか
褒められて嬉しそうに含羞む二人が愛おしい。神聖なドレスを纏
った花嫁が、俺に奉仕してる姿が堪らなくいやらしい。早く挿れた
い、ルーフェイの小柄な肢体を思うがままに抱きたいし、アルチー
ナの柔らかくも引き締まった身体を俺の色に染め上げたい。
﹁んっ、ちゅ⋮⋮ちゅむ﹂
﹁あむっ⋮⋮クリス様、我慢しないでいつでも出してください﹂
言われるまでもなく我慢なんて出来るわけ気もない。俺のチンポ
を咥えるアルチーナの髪に手を添えると、心得たように俺の腰に抱
き付いて強く吸い出す。
﹁くっ、出る。アルチーナの口の中に出すぞ﹂
そのままアルチーナの口の中に射精した。興奮のせいかいつもよ
り大量だが、アルチーナはそのまま飲み込んでくれた。
﹁はぁはぁ⋮⋮んぅ⋮⋮あぁこんなに出しても、まだまだ逞しい⋮
⋮﹂
1192
﹁最高にエッチだよアルチーナ。今度は俺が二人を気持ち良くする
から﹂
二人をベッドに押し倒すと、花嫁姿の二人のお姫様が、期待に満
ちた目で俺を見る、早く抱いてほしいと、早く俺のものになりたい
と。口にしないで態度でおねだりしてくれる。
﹁クリス様⋮⋮今夜はアルチーナ姉様を優先してください。初めて
は⋮⋮大切ですから﹂
﹁ルーフェイ。分かったよ、でもルーフェイの事を蔑ろにしないか
らな﹂
自分だって甘えたいだろうに、アルチーナを気遣うルーフェイの
頭を撫でる。最初はアルチーナとエッチするにしても、勿論ルーフ
ェイだってたっぷりと気持ち良くさせてやるがな。まぁ言うまでも
ない事なので言葉にせずキスする。
﹁んっ⋮⋮ルーフェイは気遣いができて優しいね。愛してるよ﹂
﹁わふぅ⋮⋮クリス様ならその後でも、たくさん愛して下さるのは
分かってますから﹂
ルーフェイの小さくて柔らかい唇を堪能した後。アルチーナと向
き合い、キスをする。今まで我慢してたけど今日はアルチーナの処
女を貰うんだ。約束通りに結婚した初夜にアルチーナを俺のものに
する。
﹁ドレス⋮⋮血が付かないようにするから﹂
1193
血がついても落とすことは出来るけど、大切なドレスなのであま
り汚したくはない。正常位でセックスすると長いスカートに血が付
きそうなので、胡坐をかいた俺の膝の上に座らせ対面座位の体勢を
とる。
アルチーナを愛撫しつつスカートの位置を調整し、余程激しくな
ければドレスは汚れないだろう、まぁ汗はかくけどな。
﹁アルチーナ、分かるか? お前が欲しくて俺のチンポが昂ってる
のが﹂
﹁は、はい⋮⋮あなた様の逞しいオチンチンが⋮⋮あぁ私の、私の
アソコに当たってます﹂
耳まで紅潮したアルチーナの表情は、不安や恐れよりも期待が勝
ってるように見える。挿入するまえに何度もキス、首筋や耳を甘噛
みを繰り返して、手はお尻や胸に伸ばし優しく愛撫する。
結婚する前から俺の手で何度も快感を味わった若い肢体は、もう
既に俺好みのエッチな女の子になってる。乳首を軽く抓めば身体を
震わせ、オマンコの入り口やクリトリスにチンポを擦りつければ、
押し殺した喘ぎ声をあげる。
﹁はぁぅ! あっあん⋮⋮あぁん、あなた様ぁ焦らさないでくださ
い。アルチーナの初めてを貰ってぇ﹂
俺の愛撫に感じながら、切なそうな瞳でセックスをおねだりされ
るのは男冥利に尽きるな。まして出会った頃は初心だったお姫様を、
俺がここまで淫らにしたからには、責任もって満足するまで蕩けさ
せてやらないとな。
1194
﹁ああ⋮⋮貰うぞ﹂
﹁はい⋮⋮私を、貰ってください﹂
アルチーナの腰を掴み、一瞬の抵抗の後一気に膣奥まで挿入する。
チンポは愛液まみれだったけど、処女孔は初めて受け入れる異物を
締め付けてかなりキツイ。
﹁んあぁぁぁ! あっあっ凄いのぉぉ!﹂
膣の奥に俺のチンポが到達すると同時に、アルチーナは身体を仰
け反らせ、全身を硬直させる。
﹁挿れただけでイッちゃったんだ?﹂
﹁は、はひぃぃ。嬉しくて、アルチーナはあなた様のモノにされて
嬉しくて気持ちいいですぅ! ずっと、ずっとこうされたかったの。
あなた様⋮⋮愛してます﹂
挿入したまま動かないで、ドレスに血が付かないように気を付け
ながら、膝の上で快感に身体を震わせるアルチーナにキスを繰り返
す。あまり痛そうにはしてないから、腰を動かしても良いんだけど、
アルチーナは絶頂した余韻が残ってる時にキスされるのが好きだか
らな。
﹁ちゅ⋮⋮んっんっ。あむ、あなた様どうぞ動いてくださいませ。
そ、それで⋮⋮アルチーナを孕ませて﹂
破瓜の血が流れて、ベッドシーツに染み込んでいる。少しづつ腰
1195
を突き上げてもあまり痛そうにしてないのは、身体の相性が良いの
か? それともエッチになるように開発したせいか?
唇に触れるキスをしながら腰を揺らすと、アルチーナから零れる
快感の声。本当に痛くないみたいなので、腰を掴み徐々に強く打ち
付けていく。
﹁あっあっ! 気持ち良いのぉ! あなた様のが奥まで届いてます
ぅ⋮⋮んっんちゅ、んむぅぅぅ!﹂
日常的に運動してるアルチーナの膣内は痛いくらいに締め付けて、
一突きごとに痺れるような快感が全身を駆け巡る。
さらに結婚まで我慢してた分、こうして俺の腕の中で喘がせてい
る達成感。王女を抱いている独占欲。彼女に尽くされている多幸感。
何よりも俺を好きだと言ってくれるアルチーナへの愛情が溢れてく
るようだ。
溢れる愛情と情欲が腰の動きをさらに激しくし、激しくした分ア
ルチーナの嬌声も大きくなる。対面座位で向かい合う彼女の蕩けき
った表情は更に俺を昂らせる。
﹁くぅ! 気持ち良すぎてもう出る! アルチーナの奥に出すぞ!﹂
﹁あぁ! 来てぇ、私もぉ。私もイッちゃいます。あっあっあぁぁ
ぁぁ!﹂
どくんっ! と、さっき出したばかりなのに、また大量に吐き出
した欲望は、アルチーナの子宮の入り口を抉じ開けるかのように、
勢いよく彼女の膣内に飲み込まれていく。
1196
﹁んんんっ! あぁ熱いのぉ! あなた様の熱いのが入っていくの
が分かります!﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮最高だったよアルチーナ﹂
射精と同時に絶頂したアルチーナをそのままベッドに寝かせて、
今度は舌を絡めるようにキス。唇が離れると、快感の余韻が残って
いるのか、脱力して荒い息を吐いてるけど愉悦に蕩けきった表情を
見せてくれる。
﹁はぁはぁ⋮⋮これで、身も心もあなた様のもの⋮⋮はぁ⋮⋮幸せ
ですわ﹂
はにか
うっとりと潤んだ瞳で、含羞みながら俺を見つめるアルチーナに
キスをして。今度はルーフェイを抱き寄せる。
﹁きゅぅん⋮⋮アルチーナ姉様とのエッチを見てたら切なくなっち
ゃいました﹂
仰向けに寝ているアルチーナに、覆いかぶさる形で四つん這いに
させたルーフェイのドレスのスカートを捲り上げると、これからさ
れる事に期待してるのかしっぽが振れている。
﹁ルーフェイは抱きしめられながらエッチが好きだろ? ほら、ア
ルチーナと手を繋いで、お尻を高く掲げるんだ﹂
﹁わふ⋮⋮は、はいです。きゅぅぅん、お尻見られるの恥ずかしい
ですぅ﹂
1197
﹁ふふっ恥ずかしがってても、オマンコからどんどん蜜が出てるよ
? 見られるのが気持ちいいのかルーフェイは﹂
ルーフェイは笑顔や拗ねてる顔も、なんだって可愛いけど、個人
的に恥ずかしがってる表情が最高だと思ってる。多分アルチーナも
同じだと思う。なんかルーフェイを見る目が怪しいし。
﹁ルーフェイは抱きしめられるのが好きなの? それじゃ⋮⋮一緒
に気持ち良くなりましょ?﹂
アルチーナは繋いだ手を引き寄せて、お尻を弄られて恥ずかしが
ってるルーフェイにキスをする。いきなりの事にびっくりしたのか、
しっぽが逆立つのが面白い。
﹁わきゅん! わふ⋮⋮アルチーナ姉様だめぇ﹂
﹁ルーフェイにとっても大事な日なのに待たせちゃったから。たっ
ぷり気持ち良くしてあげるよ﹂
背後から抱きしめて、まだまだ衰えない怒張をトロトロのオマン
コにあてがい、一気に幼いオマンコの奥まで挿入する。
﹁わふぅぅぅ! あぁぁクリス様のおっきいオチンチンが入ってき
ますぅ!﹂
ルーフェイはアルチーナと手を繋ぎ重なってるので、俺から見る
と二人の花嫁を組み敷いてるようだ。自然と腰を振る勢いが増して
いく。
小さなお尻に強く腰を突き付けると、ぶつかり合う音が寝室に響
1198
く、そして、粘性の淫蜜が混じり合う水音と、俺たち三人の荒い息。
﹁凄い、ルーフェイったら、激しくされて気持ち良さそう⋮⋮﹂
﹁んっんっん! きゅぅぅ! だって、だってクリス様は私の気持
ち良い所ばっかり⋮⋮んきゅぅぅ!﹂
さて、余り激しくしすぎると、たまに体力のないルーフェイを気
絶させちゃうからな。折角の初夜なのだからそれは避けたい。アル
チーナも初めてだし、イカせまくるよりは優しくした方が良い。
とりあえず一回ルーフェイをイカせたら、イチャイチャしながら
エッチするようにしよう。
﹁はぁぁん! らめぇ。イッちゃう、挿れて頂いてすぐなのにイッ
ちゃいますぅぅ﹂
﹁いいよ、いつでもイキな。俺も我慢しないですぐに出すからな﹂
﹁わふぅぅ! あぁオマンコのナカでぇ! あっあっ、クリス様の
が⋮⋮あぁぁぁぁん!﹂
ナカダシ
ルーフェイの絶頂と同時にオマンコがキュッと締まりこみ上がっ
ている射精を、我慢しないでそのままルーフェイに膣内射精。オマ
アイテムボックス
ンコから精液が零れてドレスが汚れてしまうので、二人のドレスを
︻収納空間︼に放り込んで二人を全裸にしする。
まだまだ夜は長い。裸になった二人と激しくない優しいセックス
しつつ、今夜はずっとイチャイチャすることにした。
1199
∼∼∼∼∼
﹁おはようございます旦那様。アルチーナにルーフェイもゆっくり
休めた?﹂
昨夜は遅くまでエッチしてたせいか、いつもより遅い時間に目が
つぼみ
覚めた。三人で寝汗を流してから食堂に入ると、オリヴィア達は朝
食を済ませてのんびりお茶を飲んでた。
﹁おはよう、起きるの遅くなってごめんな﹂
さえず
﹁私が明け方近くに起床しましたら、アルチーナの寝室から蕾が花
開いたような囀りが聞こえましたもので。私は昼まで起きないもの
と思っておりましたよ?﹂
そういえば寝る直前なんか窓の外が明るかったっけ? つまり早
起きのディアーネが起きる時間に寝たって事か。
セックスに夢中になってたとはいえ、盛り過ぎだろ俺。言われて
みれば妙に頭が重いような⋮⋮単に寝不足なだけか。
ルーフェイも半分寝てるような感じで、風呂からあがっても寝惚
け眼だ。反対にアルチーナは肌がつやつやしてる感じで元気だけど
な、ヴィヴィアンが用意してくれた朝食を前にして、﹁早く食べま
しょう﹂と言わんばかりにこっちを見てるし。
﹁わふぅ⋮⋮クリス様とアルチーナ姉様ってば寝ようとしても、エ
ッチな悪戯をして寝かせてくださらないんですもの⋮⋮ふみゅぅ﹂
1200
﹁調子に乗っちゃってごめんよ。俺も眠いし、一緒に昼寝でもしよ
うか?﹂
頭を撫でながら誘うと、ちょっと拗ねた表情が一変し、嬉しそう
な笑顔を見せてくれる。勿論しっぽも分かり易く振れてる。
機嫌を直してくれたので食堂の席について⋮⋮唐突に焦ったよう
な声が食堂に、いや屋敷全体に響く。この声は⋮⋮皇帝の爺さん?
≪申し訳ない勇者殿! 私の目を盗んで愚か者どもが⋮⋮≫
﹁爺さん、謝るより要件が先だ﹂
部屋全体に響くこの声は多分時空魔法で声だけ送って来てるのか。
嫁たちは突然の異常事態に驚いたみたいだけど、俺が会話しだした
のを見て黙っている。
≪実は⋮⋮≫
爺さんの焦りようからして大事のようだ。まさか例のブ男が宣戦
布告なしに侵攻か? 固唾を飲んで爺さんの言葉に集中してると⋮
⋮。
﹁ぬぉぉぉl 婿殿ぉぉぉぉ! 一大事であぁぁぁる!﹂
いきなり窓から登場した王様に首根っこ掴まれ、そのまま上空に
拉致られた。
﹁ちょっ! オべローン王、待って、ちょっと待ってぇぇぇぇ!﹂
1201
﹁両国にとって一大事なのである! ゆくぞ婿殿ぉぉぉ! 否ぁぁ
息子よぉぉぉぉ!﹂
一瞬で嫁さん達の声も聞こえないくらい上空まで運ばれた俺は⋮
⋮とりあえず抵抗を諦め遠距離念話の石板で、カール王子に連絡を
することにした。
王様直々に誘拐犯とかにされちゃ、ルーフェイとティータニアが
困るだろうからな。義父に付き合ってちょっと遠出すると伝えてお
こう。
⋮⋮しかし、三日後のオリヴィアとの結婚式までに帰れるんだろ
うか?
1202
初夜︵後書き︶
読んでくださった皆様ありがとうございます。
次回から新展開、早く帰りたいクリス君、︵王様には文句が言い難
いので︶八つ当たり気味の無双開始。
1203
敵襲︵前書き︶
読者の皆さんにお知らせ。
12/16 ﹁団欒﹂と﹁完全敗北﹂の間に差し込み投稿いたしま
す。
感想欄で話の設計ミスをご指摘いただき、修正する形となります。
また、本作書籍2巻の発売日は12/28ではなく、12/27と
なります。
1204
敵襲
魔法の名家であるモンドバン家にアタシの居場所はなかった。
・・・・
アタシは父がどこの誰とも知れない女に遊びで産ませた母なし子。
一応認知はされて伯爵家の一員にはしてもらってるけど、腫物扱い
は仕方がない。
若い頃従軍してた時に出会った女性がアタシの母で、よく似てる
と父は言う。聞かされたのは十歳くらいかな? 先ず思った事は未
練タラタラだなこの親父。
想い人と同じ
だからって娘の髪型を強制的にポニーテールにするのはキモいよ
? それを言うと落ち込むので、当たり障りのない質問だけしたア
タシは空気読んでると思う。正直髪の毛が引っ張られる感じで痛い
から嫌だったんだけど、唯一家での味方だから仕方なく、父がいる
時はポニーテールだ。
マルフィーザ・モンドバンは簡単に言えば大きな屋敷の中でひと
りぼっちだ、あぁなんて不幸。兄弟たちとは不仲で、使用人にも煙
たがれ、当然友達もいない。味方である父は仕事で忙しい。まぁそ
の分自由に屋敷抜け出して、ついでに小遣いちょろまかして遊んで
たけど。
え? 犯罪? しっかりしてるわねぇ、けど大丈夫だって、その
お金って親父がアタシ用に用意した予算を、ネコババしてた奴の財
布から盗った分だし。証拠もあるし弱み握ってる奴がいると色々楽
よ? 覚えておきなさい。
1205
アタシの不幸な境遇はともかく。我がモンドバン家は典医にして
魔法使いの家系なので、幸いにも魔法の才能があったアタシは教育
だけはきちんとされたのよ。多分将来はどこぞに政略結婚だから、
恥ずかしくない程度にはする必要があったみたいだし。
魔法の修業は上達が分かり易くて楽しいし、勉強も別に苦じゃな
いけど、家にいるとネチネチ嫌味とか言われるからねぇ。修業の名
目で日中は外に出掛けて薬草の採取してたわ。そのおかげで貴族の
令嬢らしからぬこんがり褐色のお肌、人間やはりお日様の下で生き
るべきね、おかげでアタシは今まで病気とは無縁の健康優良児だし。
兄弟姉妹
ちょっと、貴族らしくないってところで頷かないで。そりゃ会え
ば嫌味しか言わない色白モヤシどもとは会話しないせいか、お上品
な言葉遣いは苦手で会話してるとうっかり素が出るからって気を付
けてたら、いつの間にか周りから無口キャラ扱いされてるけどさ。
さて、屋敷に居場所がなくても仮にも伯爵家の令嬢⋮⋮と、辛う
じて言って良いのか悩むレベルのアタシだけど、まぁ法的には貴族
なのでやっぱり政略結婚することになったの。その将来の結婚相手
を紹介されたのは十二歳の頃。
隠棲した大叔父様、つまりお祖父さんの弟さんよ、そのお弟子さ
んで、希少な闇属性の適性がある同い年の男の子。精神に関わるこ
の属性の使い手は、多かれ少なかれ人格が破綻することが多いから
会うまで不安だったわ。すぐ消し飛んだけど、なぜなら奴の第一声
は⋮⋮。
﹁ピンクか! それに太股は肌白い⋮⋮ぐふっ!﹂
1206
なんか会って早々にスカートめくりしてきたバカがいたから、反
撃でアッパーカットを放ったわ。綺麗に顎に直撃したにも拘らず、
崩れ落ちながらアタシのスカートを覗くあたり、根性の使い道が迷
子になってるような奴よ。
とは言えスカートめくりくらい軽い悪戯よね? それで殴るのは
流石にやり過ぎたと思ったわ、仮にも将来の婿だし仲良くしたいじ
ゃない? 目が覚めたら謝るつもりだったの。
用心のためにズボンに穿き替えて、謝った後自己紹介しようと近
寄ったら⋮⋮あのバカにズボンどころかパンツまで一緒にずり降ろ
されたのよ。
アイツとしてはズボンだけのつもりだったらしく、二人で暫く動
かないで無言だったわ。下半身丸出しで、恥ずかしい所をガン見さ
れたわ⋮⋮ううう思い出したくもない。そうしてあのバカなんて言
ったと思う?
﹁い、犬に咬まれたと思って⋮⋮許し⋮⋮あ、いや、その⋮⋮どう
ぞ﹂
アタシが殴りやすい位置に顔面を差し出してきたからさ、魔力で
強化した右フックを叩き込んで、バカはきりもみしながら空を舞っ
たわ。
まぁそんな出会いだったの。その後どうしたって? アイツが目
を覚ましたら土下座して来たから許してやったわよ。ふふっバカと
の間に明確な上下関係ができた瞬間だったわ。
とりあえず調子に乗りそうだったので婿入り予定の事は伏せて、
1207
クリス
単純に同門の魔法使いとして一緒に修業してるうちに、なんだかん
だと将来の婿に会うのが楽しみになるくらいには仲良くなったわ。
上下関係はどうしたって? 山での修業は基本自給自足だけど、
アタシの世話を全部クリスにやらせてやったわ、水汲みも洗濯も薪
拾いも全部よ。勿論お風呂も用意させて、大叔父様の次にアタシが
入ったの。いい気味ね、アイツったらお風呂上がりのアタシを見て
真っ赤になって顔を背けるくらい悔しがってたわ。
ん? 覗かれてたんじゃないかって? ⋮⋮アレ、えーと、アイ
ツあの頃には幻術とか使いこなしてたような⋮⋮っていうかアイツ
毎年最後にお風呂だったし、もしかして毎年覗かれてた? よーし、
あのバカ誰にも見られてないところでビンタの一つもくれてやるわ。
婚約者ってのは黙ったまま、毎年数日だけ一緒に修業して、十五
歳くらいの時かな? 村の女の子相手にハーレム作るとか馬鹿な事
を計画してるのを知ってさ、なんだか腹が立ったの。
婚約者っての抜きにしても、聞いた瞬間イラッとしたのは、友達
じゃなくて、まぁそういう感情になってたって事かしらね?
希少な闇属性の才能はどうでも良いとして。バカだけど暗さはな
いし、顔もまぁどちらかと言えば好みと言えなくもないと言うか、
アタシの大分高い及第点には達してると言うか⋮⋮まぁバカだけど。
アタシが手綱握って逆らわないようにすれば問題ないし。
地方では結婚するのが早いらしいので、とりあえず大叔父様に頼
んで、クリスが十八歳になるまで、いや、村の子が結婚するまで修
業を終わらせないように頼んでおいたの。それでも待ってる娘がい
たら仕方ないから、第二夫人くらいは認めてあげよう、バカの上に
1208
スケベだからね、あのバカは。
﹁⋮⋮と、まぁそんな感じだったのよ。あんまり面白くなかったん
じゃない?﹂
﹁そんな事ないよマル姉ちゃん! 凄い凄い勇者様と結婚するんだ。
ミーシャも勇者様と結婚したい!﹂
この街にやってきて初めて会った妹のミーシャは身を乗り出し、
目をキラキラと輝かせながらアタシの話を聞きたがる。
最初は初めて会う妹には、貴族らしい上品な姿を見せつつも、優
しいお姉さんを目指していたというのに。市場でばったりバカと再
会したせいで気が緩んだのか、つい素を晒してしまったのだ。不覚、
まぁ猫被ってるの面倒だし、こっちの方が話しやすいからいいけど
ね。
そして気軽に話せるようになったら。ミーシャはバカの話には良
エロ本
く食い付いてくる⋮⋮不安だ。流石に九歳児には手を出さないと思
うし、王都から買ってるように頼まれた春画本の内容から、クリス
の女の好みはある程度把握してるから、極端に年下好きってわけで
もないのは知ってる。
しかしクレイターのお姫様たちを見る限りあと五年、いや下手し
たら三年くらいしたらバカの毒牙にかかるかもしれない。ミーシャ
は将来美人確定の顔立ちしてるし。アタシが守らねば。
ここはカロリングの街から馬車で一週間の場所にある西の海岸。
アタシにそっくりの母親が率いる﹃熱砂の龍傭兵団﹄の先遣隊、約
千人はこの海岸に建設する貿易港の警備としてやってきている。
1209
アタシは傭兵じゃないけど、飲み水を創りだせる水魔法が使える
から親父に同行する様に言われたのよね。まぁ母親が同じ兄弟達と
仲良くしとけって事だろうけど。それともう一つ親父はアタシの結
婚をできるだけ引き伸ばしたがってるからな。
結婚にも反対してたけど、お祖父さんと大叔父様に押し切られて、
渋々、本当に嫌そうな顔で、具体的にはクッソ苦い薬草茶を間違っ
て飲んじゃった時のような表情で、クリスとの婚約を了解したんだ
よね。
そんなに母さんそっくりのアタシの結婚が嫌か? 嫌なんだろう
な、あの未練タラタラの様子からして。母さんってば傭兵団を率い
てたから正式に結婚はしてないけど、父親の違う子供を何人産んで
ると思ってんだか。
なんというか⋮⋮話には聞いてたけどサリーマ母さん半端ないな。
父親の違う子供を二十三人も産んでるんだよね。娘だと紹介されて
あっさりと受け入れられたのもそのせいだろう。初めて会った兄た
ちになにかと気にかけて貰うし、妹のミーシャには懐かれてすぐに
仲良くなった、こういう家族的な触れ合いってのは生まれて初めて
でちょっと照れくさい。
﹁あ、そろそろ見張り番を交代する時間だから、朝ご飯の用意しな
いと。マル姉ちゃん水用意して、そこの樽をあるだけ全部満杯にし
てね。そのあと当番の人呼んできて﹂
⋮⋮受け入れられたと言うより、既に一団員のしかも新入り扱い
な気がしてきた。いや別に良いけどさ。
1210
九歳にして台所を仕切ってるミーシャに言われるがままに、水魔
法で飲み水を創った後、炊事当番の人達と一緒に朝食の用意。水魔
法の使い手なので、アタシは基本見回りや見張りとかはしないで、
陣地で物資の管理や炊き出しとかやってる。
初日は別々に作ってたけど、無駄が多いと言う事で、クレイター
からやってきた作業員達の分も一緒に作る。勿論食料とか人手は出
して貰っている。
一緒に食事してるせいか、護衛対象であるクレイターの人達とも
特に問題なく付き合えてる。何事も無ければサリーマ母さん達率い
る本隊が到着したら、カロリングに帰って⋮⋮なんか出世したバカ
の秘書っぽい立場に就く。奴のスケベっぷりは周知されてるので、
実質嫁入りである。
クリス
おのれバカ、奴が婿入りしたらアタシに頭が上がらないように、
まず基本として胃袋を掴むべく必死に料理の練習を始めたのが、奴
を紹介された十二歳の頃。
それ以外にも見た目がダサいと、アタシまで変な目で見られるか
ら服飾の勉強もした。仕事で疲れたら家でゆっくりできるようにと、
旦那がどんな趣味でも寛げるようガーデニングやインテリアの研究
も頑張った。そしてなによりわざわざ娼婦を招いてセックスの修業
にも、とんでもなく恥ずかしかったけど耐えたのに。
アタシの努力を返せバカ、法の女神神殿でお祈りついでに女神様
に文句を言ったけど、届いたかどうかは知らない、多分届いてない
けど。
﹁マル姉ちゃんってば尽くす系だねぇ♪﹂
1211
ご飯を食べつつ変な事を言い出す我が妹。違うんだ、アタシの為
にガッツリと稼ぐように、ちゃんと管理してやる必要があったから
だぞ、だってあいつバカだし。
﹁働く旦那様の為に甲斐甲斐しく家事する気満々なのって、尽くす
系と言わずになんて言うのよ?﹂
くっ何故九歳児に微笑ましいモノのように見られるんだ。
﹁大体ねぇ、魔法使いの世界では序列がしっかりしてるし、あいつ
は所詮同門の弟弟子。つまり姉弟子であるアタシの下僕も同然、つ
まりちゃんと生活の面倒を見てやるのが姉弟子の義務なのよ﹂
﹁まぁそれでいいんじゃない? 男なんてケツひっぱたいて働かせ
て、その後ベッドで甘やかしてやれば十分だって母さん言ってたし﹂
どう反論しても言い負かされそうなので、とりあえずご飯を食べ
るのに集中しよう。﹁マル姉ちゃん顔赤いのはなんで♪﹂とか言っ
てくる妹は無視だ。
くそぉ、こんな事になるのもバカのせいだ。アイツが勇者なんて
ものになってなければ、今頃王都の案内でもしてやってただろうに。
手を繋いだり腕組んだり、あとあのバカの事だから強引に物陰に連
れ込まれたりして⋮⋮じゃなくて! 折角アイツの好きそうなデー
トプランを調べた時間を返せバカ。
﹁あ、そっか勇者様には他に奥さんがいるから不安なんだね? 大
丈夫だってマル姉ちゃんってば、母さんそっくりな美人だし⋮⋮胸
ないけど﹂
1212
﹁違う、その辺は心配してない、だってあいつスケベだし。自分で
言うのもなんだけど好かれてるのは間違いない、次会ったら口説く
とか言ってたし、多分アイツの副官になったらその晩か、またはそ
の場で押し倒されてヤられる、アイツはそういう奴だ⋮⋮けど胸の
事はいうな﹂
奴は巨乳好きだが、クレイターのお姫様を見る限り小さくても問
題は無い⋮⋮と信じよう。アルチーナ殿下よりは大きいし。
多くの傭兵や作業員たちで賑わう中、アタシは九歳児にナニを話
してるんだろうと思いつつ、やや際どい会話をしてる時だった。見
張りをしていた人が血相を変えてやって来た。
﹁野郎ども敵襲だ! クレイターから来た物資船が沈められた。デ
カい船が一つ、その周りに小型の船が十以上だ!﹂
∼∼∼∼∼
﹁うぅぅ⋮⋮頭痛い⋮⋮これが二日酔いか⋮⋮﹂
昨夜のパーティーは、普段お堅い法の女神神殿では珍しく、羽目
を外して楽しめる場だった。そして式典を無事に終わらせ、忙しさ
に一区切りついたこともあって、随分気が抜けてたせいかもしれな
い。
ついでに異様なまでのハイテンションになってた義父を始め、ご
年配の有力者たちがお酒を勧めて来るせいで、相当飲んだっぽい?
1213
疑問形なのはパーティーの後半から記憶がないからだ。
何度かトイレで吐いたのは覚えてるんだけどなぁ、普段のパーテ
ィーとかではあんまり飲まないから、限界を見誤ってしまったのだ。
酔っ払いの年寄り連中がガンガン飲ませてくるから、さっさと逃げ
ればよかった。
﹁大丈夫ですかカール様? 体調が悪いのでしたら、麦粥だけでも
召し上がりますか?﹂
ボクの呻き声で気が付いたらしいデシデラータが、身を起こして
頭を撫でてくれるが、二日酔いの痛みは撫でたって意味ないんだよ。
﹁ゴメン無理。水だけくれないか﹂
﹁はい、少々お待ちください。それと昨夜のありさまを見たお医者
様が、二日酔いのお薬を渡してくださったので、飲んでくださいね﹂
ちょっと温くなった水を飲んだ後、渡された瓶の中身は異臭を発
する、真っ赤なドロッとした液体だった。 え? これ薬なの? 正直飲みたくないが、デシデラータの前でわがままも言えず覚悟を
決めて飲み干した。
うっげ! クッソ不味い! ドロドロが喉に張り付くし、飲んだ
途端に鼻の奥に刺すような痛みが走る。ぐぅぅ! 二日酔いの薬く
らいもうちょっと飲みやすく出来ないのか!
﹁う∼∼∼ッッ! み、水! もっと水持って来て!﹂
﹁⋮⋮あ、申し訳ございませんカール様! そのお薬は、こっちの
1214
白い薬と混ぜてから水で薄めて飲むんです!﹂
ぬぉぉぉ! そういえば寝起きのデシデラータは天然ボケ気味だ
った! とりあえず水差しから直接飲んで刺激物を洗い流す! こ
の赤い薬単品だとあんまり薬効が無いらしく。不味さも相まって余
計気分が悪くなってきた。
慌ててデシデラータが適量を混ぜた薬を渡してくれたので飲み干
すと、今度こそまともな効果があったらしく、少しはマシになった。
﹁ううう⋮⋮ひどい目に遭った﹂
﹁ぐすっ申し訳ございませんカール様。私ったらちゃんとお医者様
から説明を受けてたのに⋮⋮﹂
﹁いいんだよ、失敗は誰にでもあるからね。悪いのはボクに無理や
り飲ませた年寄り連中だからね﹂
さっきとは逆にボクが落ち込んでるデシデラータの頭を撫でてあ
げる。流石に飲んですぐ治るような都合のいい薬ではないので、ま
だ気分が悪いけど、デシデラータを慰めてる間に、頭痛だけは鎮ま
ってきた。
﹁気持ち悪い⋮⋮今何か食ったら吐く⋮⋮くそぉみんなしてボクに
飲ませやがって﹂
義父たちがはしゃいでた理由は分かる。五十年前に住んでた場所
と、そこに暮らしていた人たちの命を奪った魔王種クルトが討たれ、
その死骸に槍を突き立てたのだ。当時被害を受けた人たちの心情は
察して余りある。
1215
そしてその魔王種を倒した勇者の結婚式だ。そりゃ飲むだろう、
楽しく飲むだろう、楽しいから身内にも飲ませたがるだろうよ。娘
婿なんて真っ先に酒を勧めるのも分かるさ。
だけどそれを見たせいでみんな遠慮なくお酒を飲ませやがって。
くそぉ! こんなになるまで飲ませたのは誰だ! 主に義父だから
文句言えねぇよド畜生。あ、興奮したらまた頭が痛くなってきた⋮
⋮。
﹁お父様があんな陽気にはしゃいでるの初めて見ました。ごめんな
さい、私がしっかり注意していれば⋮⋮﹂
あぁ落ち込まないで! 酒の席に妊婦の君がボクの傍に居るのは
難しいんだから。ボクが自分で歩けないくらい酔い潰れて帰ってき
たから、昨夜は随分慌てたそうだ。
ちなみにボクの護衛をしていたジャンヌも、当然義父に飲まされ
てた。ボクよりお酒に弱いので、早々に潰れてしまい、知り合いの
女性神官戦士の部屋に泊めて貰ってる。寝言で変な事を言ってない
ことを祈るばかりだ。
﹁お母様が言うには、途中から皆さん気を利かせてくれて、ワイン
を果汁で割ってから杯を渡してたそうです。最後にはただの水だっ
たそうですわ﹂
そういう気遣いが出来るなら潰れるまで飲ませないで欲しかった
よ。周囲はハイテンションの酔っ払いばっかりだったから無理だろ
うけどさ。
1216
何度かトイレで吐いたのは覚えてるんだけど、パーティーの途中
から記憶が消えてる。デシデラータの様子からして別に拙い事はし
てないっぽいのは幸いか?
﹁会場には神聖魔法の使い手が沢山いたんだから治してくれても良
かったのに⋮⋮﹂
﹁カール様、ただの二日酔いで神の奇跡に頼るのは如何かと﹂
﹁分かってるけどこんなに頭が痛いと言いたくもなるよ。折角仕事
を後回しにしてるのに二日酔いで寝てるだけなのは嫌だなぁ⋮⋮う
っぷ﹂
心配そうなデシデラータはボクの頭を撫でると、﹁お水を持って
参ります﹂と言って寝室から出て行った。ううう情けないなぁ。
とりあえず寝室で吐きたくないので、水だけ飲んでトイレに向か
う。はぁ⋮⋮今日は夫婦でゆっくり過ごす予定だったのに⋮⋮ん?
廊下を走る音が聞こえる。
﹁失礼しますカール様! 緊急の報告がっ!﹂
﹁∼∼ッ! 大きい声出すな、吐きそうなんだから﹂
いきなり寝室のドアを蹴破る勢いで入ってきたランゴの大声で耳
が痛い。頭が痛い。うっぷまた吐き気が⋮⋮。
﹁そ、それが⋮⋮西の海岸に建設中の港が敵に襲われたと! 使い
魔の手紙によると大型船を中心に多くの小型船が⋮⋮﹂
1217
﹁ああもう! 二日酔いで神聖魔法に頼れないとか言ってる場合じ
ゃない! ちょっと常駐してる神官呼んで来い!﹂
後はボクの屋敷に泊まってる王様にも話し通さないと⋮⋮ええと
他に情報を共有しないといけない人たちに話を通して⋮⋮くそぉ!
二日酔いとは別の意味で頭が痛くなってきた!
1218
敵襲︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
1219
天を駆けて︵前書き︶
お待たせいたしました。本作第二巻が明日12/27に発売いたし
ます。
<i222856|16606>
このイラストが目に入ったら、良かったら手に取ってみてください。
1220
天を駆けて
﹁はーっはっはっは! 我と婿殿が力を合わせれば万軍とて恐れる
に足らぁぁぬ!﹂
式を挙げたばかりの新妻と、イチャイチャする幸せ空間に乱入し
てきた王様に首根っこ掴まれ、抗議する暇もなく西に向かって運ば
れてる俺。人生ままならないもんだ、ってか朝飯も食ってないから
腹減った。
普通なら叩き落した後放置して、急いで帰るところだけど、可愛
いティータニアとルーフェイの父親だからなぁ。超可愛い俺の嫁さ
んにまったく似てないマッチョオヤジでも、一応義理の父で他国の
王様なので攻撃は出来ない。
﹁おっおぉぉッ♪ 偉大なるクレイター♪ 猛き威容よ鷲の羽ぇぇ
♪ おっおぉぉッ我こそ無敵の王なるぞぉぉぉ♪﹂
ついでになんか緊急事態っぽいんだが、オッサンよ、頼むから拉
致る前に事情くらい話してくれよ。機嫌良さそうに大声で歌いなが
ら飛んでるから俺の話を聞きやしねぇ。
おっさん
後でややこしくなるのは嫌なので、服のベルトに括り付けて持ち
歩いてる遠距離通話の魔法道具で、一応王様に連れられて出かける
とカール王子に連絡した。オッサンから事情を聞くのを諦めたとも
いう。
すると緊急の連絡を受けたのがカール王子らしく、常識人の王子
1221
は詳しい話を聞かせてくれた。首根っこ掴まれて高速飛行しつつ、
すぐ近くでオッサンが大声で歌ってるから聞き取りにくいけど。
﹁えーと、つまり王様の言う緊急事態ってのは、建設中の港が襲わ
れたってこと?﹂
﹁ええ、連絡を受け取ったのが今朝。鳥形使い魔がやって来て知ら
せてくれました。召喚主のマルフィーザ嬢の手紙によると、規模は
大型船が一隻、その周囲に小型船多数で攻めてきたそうです。襲撃
を受けてすぐに手紙を送ったらしいので、飛行速度からして、まだ
襲撃からそれほど時間は経ってない筈です﹂
千人もの傭兵に護衛された建設現場に、襲撃をかける海賊っての
は考えてみればおかしな話だ。反撃のリスクばかり高くて、工事現
場に金目の物がある見込みは少ないからな。
ついでに先遣隊には俺が贈った水蛇竜が、海に放し飼いにされて
る筈だから、賊なら攻めるのは躊躇うだろう。
明らかに人に飼い慣らされてる水棲の魔物がいたら、船底を攻撃
されるってのは子供でも分かる。だから魔物の襲撃に備え金属など
で補強するのが普通だけど、大型船の船底を魔物の攻撃に耐えられ
るくらいの補強なんて、そんな大規模な改造が海賊にできるわけが
ない。
つまりは海賊じゃなくて、リーテンブ帝国の海軍が海賊を装って
いる。少なくともカール王子とオべローン王はそう判断した。
更に言えば帝国軍の動きを、重点的に監視していたカール王子に
察知できなかったって事は、貿易関係で利権握ってた帝国貴族の暴
1222
走の可能性が高いそうだ。
皇帝の爺さんが言いかけてたのはこの事かな? あんまり戦争前
にヘイトを高めると﹃お願い﹄された事も難しくなるし。爺さんに
は死活問題だろうけど、帝国としては止めにくい感じかな?
﹁ボクとしては召喚術師のイザベラに頼んで、二つ名持ちの四人を
始めとして、少数の精鋭を送るつもりでした。けど屋敷に泊まって
たオべローン王に事情を話したら⋮⋮窓ブチ破ってアストライア邸
に飛んで行きました。新婚なのに申し訳ありません、ボクからアル
チーナには謝っておきます﹂
﹁いや謝る必要はないよ、家族の時間も大事だけど人命には代えら
れないし。事情さえ話してくれれば助けに行くよ⋮⋮それに知り合
いもいるしな﹂
流石に人命に関わるような事態を無視して、嫁さん達とイチャイ
チャしても気分良くないからな。それにマルフィーザがいる以上助
けに行かない選択はない。
﹁⋮⋮ああ、マルフィーザ嬢は同門で親しい間柄でしたね﹂
カール王子にこのことを話したことはないんだが、マルフィーザ
かモンドバン伯爵が話したのかな? この様子だとカール王子も俺
とマルフィーザが婚約してたの知ってそうだなぁ、ほんと知らない
の俺だけか。
使い魔を送ったのはマルフィーザって事は、手紙を書けるような
安全地帯にいるのだろう。水魔法が得意な魔法使いなんだから前線
には出ないだろうし、サリーマさんの部下が千人もいるんだ、きっ
1223
と無事だと信じてる。
バーサーク
信じてはいるが心配なのでオべローン王に身体強化の術をかける。
闇の高位身体強化魔法︻限界突破︼これは精神に働きかけて肉体の
限界を超えさせる術で、非常に強力な反面、反動で明日か明後日く
らいに地獄の筋肉痛に襲われるが⋮⋮まぁ王様は頑丈だし大丈夫だ
ろう、第一痛いのは俺や嫁じゃないし。
新婚生活を邪魔された意趣返しもなくはないけど、普通の身体強
化よりも効果が高いんだから文句言われる筋合いもないよな。
みなぎ
﹁ぬぅぅ! この漲るような活力! 素晴らしいのである! 行く
ぞ婿殿この溢れるパワァァァで! 賊どもを殲滅であぁぁぁぁぁる
!﹂
緊急事態なんだし一番速く飛べる術をかけただけだし⋮⋮そして
術をかけた次の瞬間後悔した。
﹁え? あ、やべ! ちょっと王様ぁぁぁ! 速すぎて息苦しいん
だけどぉぉぉ!﹂
ヤバい! 予想よりも速すぎる! 下手したら身体強化した時の
バーサーク
ティータニアの倍近い速度が出てるぞ。こ、このオッサンの肉体ス
ペックどんだけ高いんだ! ︻限界突破︼の影響でテンション上が
り過ぎてて俺の声が聞こえてねぇし!
けど術は解除しない、なぜなら帝国兵って個々の実力高いし、ヤ
バい実力者もゴロゴロいるから。アルチーナとアルテナが誘拐され
たとき帝国に侵入したけど、素で俺の術に抵抗できるようなのが一
兵卒にすら混じってるからな。
1224
急がないと⋮⋮サリーマさんの部下は精鋭だし、マルフィーザの
魔法使いとしての実力も良く知ってる。けど万が一があったら後悔
してもしきれないから、最速で駆け付けるしかない。
海岸まで普通の馬車で一週間かかる距離だけど、曲がりくねった
道を無視して、真っすぐ海岸に飛べば意外と近い。ましてオべロー
ン王の翼を俺の魔術で強化すれば短時間で目的地に到着だ。
その間俺は寒風に晒され続けてたがな! ってか上空でこのスピ
ードだと予想以上に寒ぃ! このオッサン俺より薄着なのに寒くな
いの? 筋肉か? 筋肉があれば何でもできるのか?
アイテムボックス
︻収納空間︼から毛布を取りだし羽織ろうとしても、猛スピード
の風に煽られ取り出した拍子に吹き飛んでしまったし。ううう、目
的地に着く前に風邪ひくかも。
﹁むぅぅ! 婿殿一大事である、陣地から火の手が上がってるので
ある!﹂
寒さに震えながらしばらく我慢してると、唐突にオッサンの大声
が響く。俺の目ではまだ見えないが、目を凝らしてみると微かに進
行方向に黒煙が上がってるように見える。まさか⋮⋮マルフィーザ!
﹁オッサンとにかく陣地まで急げェェェェ!﹂
﹁了解であぁぁぁる! ただオッサンではなぁぁい! 父上とかパ
パと呼んでも良いのだぞ婿殿ぉぉぉ!﹂
オッサンが何か言ってるが、まぁ戦いの前に気炎を上げてるだけ
1225
だろうから無視。そんな事よりもマルフィーザに万が一があったら
と思うと気が気じゃない。
話してる間に俺の肉眼でも見えるほど陣地に近づくと戦闘の最中
だった。宿舎や倉庫に火を放たれ、大勢の人間が血を流し倒れてい
る。その混沌とした戦場に⋮⋮。
﹁ぬぅぅ! 許さんぞ海賊ども! 我こそはオべローン・ルーガン
であぁぁぁる!﹂
アイテムボックス
暴風の塊が落ちてきたかのような轟音と共に、クレイター国王の
怒声が響き渡った。︻収納空間︼の効果があるらしい小さな袋から
長大な槍を取り出し、戦場へと羽ばたく姿はまるで意思を持つ竜巻
のよう。
個人でありながら災害のような武威の前に、当たるを幸いに敵を
吹き飛ばしていく。
たまに味方らしい傭兵も吹き飛ぶが、槍を当ててはいないような
ので多分余波だろう。大丈夫そうなので俺は味方の救助しつつマル
フィーザを探すか。
∼∼∼∼∼
戦闘そのものはあっさり終わった。まず神聖魔法で戦場の全ての
範囲に治癒の術を発動、範囲が広い代わりに止血程度の効果しかな
いけど十分だ。
1226
勿論敵味方の識別なんてしてる暇はないので、混沌とした戦場は
治癒の光で満たされる。その後、とりあえず海賊っぽい装備の連中
が固まってる辺りを狙って闇魔法をぶち込む。
ちなみにあまり知られてないけど、回復魔法に抵抗する人間は滅
多にいないので、治癒を受けてる最中って魔法に対する抵抗力がガ
タ落ちする瞬間だったりする。魔法抵抗力を高める防具とかも、回
復魔法や支援魔法に対しては魔術防御術式が動かないので、無防備
になるのだ。まぁ達人級は対策してる場合が多いけどそれはともか
く。
回復魔法を受け入れつつ別の魔法に抵抗することは出来ないから
な。つまり普通だったら抵抗できる︻麻痺︼の術がよく効くので無
力化が楽でいい。
神経を痺れさせる術でかなりの激痛を伴うが、まぁ軍人らしいし
死にはしないだろう。範囲の割に消耗少ないし、とりあえず殺さず
情報を絞らないといけないからな。
乱戦状態だったけど、なんだかんだと味方同士で固まってる。小
集団をいくつか無力化させ、辺りを見渡してもマルフィーザの姿が
見えないのが気になるな。女だから非戦闘員と一緒に逃げてるんだ
ろうか?
バーサーク
残りは︻限界突破︼で絶好調のオべローン王が、物凄いスピード
で薙ぎ倒してるし、態勢を立て直した傭兵団が優位に立ちまわって
るから、あとは出来ればマルフィーザの無事を確認に行きたい。広
範囲の回復魔法じゃ治癒しきれない重傷者の治療をしながらマルフ
ィーザの行方を聞こう。
1227
﹃熱砂の龍傭兵団﹄はお揃いの鎧を着てるし、クレイターの作業
員は全員獣人だから敵との見分けが簡単でいい。とにかく動けない
味方を回復して回りつつ、女魔法使いの行方を聞くと、揃って非戦
闘員と後方に下がったはずだけど、少数の別動隊が宿舎や倉庫に火
を放ったので、どうなってるかは分からないと答えた。
マルフィーザがいれば消火くらい簡単な筈なのに、それが無いっ
て事は⋮⋮くっ嫌な予感がする、広範囲の回復で止血だけは出来て
るし、回復した人も負傷者を助けに回ってるから俺は急いで宿舎の
方へと走る。
非戦闘員の脱出経路は宿舎の裏手にある、森に入る道らしい。通
り過ぎるついでに黒煙を上げる宿舎の消火をして脱出路に急ぐと、
血を流して倒れ伏す男を見つけたので回復させるとすぐに目を覚ま
した。
﹁アンタはっ! 勇者様頼む! 早く船に﹂
意識を覚ました途端、男に頭を下げて頼まれた。着てる鎧はマヘ
ンドラさんと同じものだから、恐らく傭兵団の幹部だ。
﹁お、俺はお袋の六男ラズマードでさぁ! 頼む、妹が、ミーシャ
とマルフィーザ、それに女衆が連れて行かれちまったんだ! お袋
を恨んでる奴がいて⋮⋮くぅ! 手も足も出ずにやられちまった﹂
マルフィーザが攫われただと! アイツが⋮⋮事情を聞く時間も
惜しくて、ラズマードさんから襲撃があってからの記憶を奪って、
即座に海岸に走る! ついでにもう一回広範囲に回復魔法を使って、
あとは傭兵団に任せる。
1228
﹁残りの怪我人は任せた! あと麻痺させた連中から知ってること
全部吐かせろ!﹂
﹁へぃ! お任せくだせぇ! だから勇者様お願いしやす、妹や女
衆を助けてやってくだせぇ!﹂
船に急ぎたいから王様に運んで貰いたいけど、戦ってる最中だか
ら話聞きそうにない。全力で走ってると、俺が贈った水蛇竜の一頭
がいたので飛び乗って海岸に急ぐ。待ってろよマルフィーザ!
操った水蛇竜に乗って、全速力で海に飛び込み一番大きな船へと
駆ける。ラズマードさんの記憶によると、手練れとやらはあの船か
ら降りてきてる筈。
窓をぶち破り乗り込み、休憩していたらしい兵士を眠らせ記憶を
奪う⋮⋮どうやら捕まった女たちは船倉に連れて行かれたみたいだ。
一先ず無事だったのに安堵したけど、安全じゃないんだ、とにかく
駆け付けないと。
混乱させるために船底に穴を開けようにも、この船は鎧蟻を加工
した魔鋼が張り付けられてて、魔法で破壊は出来ないし、船を沈め
たら捕まった人たちが危ない。
広範囲を巻き込む︻誘眠︼の術なり︻麻痺︼の術を仕掛けように
も誰か一人にでも抵抗されて、侵入に気付かれると捕らわれた人た
ちが危ないからな。
先ずマルフィーザ達の安全を確保するまでは、侵入に気付かれて
はいけない。待ってろよ必ず助けるぞマルフィーザ。
1229
∼∼∼∼∼
その男は帝国八傑衆の一人シャトランと名乗った。元はスラム出
身の冒険者で、﹃城壁砕き﹄の二つ名を持つほどの実力者だ、その
剣技を皇帝に見込まれ、帝国軍の将となった。
もう一人は帝国に併合された小部族の長だった男でクレストとい
うらしい、﹃蟲使い﹄と呼ばれ、昆虫型の魔物を専門に操る召喚術
師。彼は皇帝から一族の優遇を約束され将となった男で、八傑衆の
一人。
興味はないが、自慢げに話してくるのだから仕方ない。武術しか
能のない単純な男は煽てればペラペラなんでも喋るから、情報収集
ついでに、捕まった女衆の安全の為だ。将の自慢話の間は部下共も
動かないからね。
倉庫らしい広いが薄暗い船室に閉じ込められたアタシやミーシャ
を始め、傭兵団の女衆や、クレイター人の女性が合わせて十数人。
周囲を囲む兵士共の視線が気持ち悪くて仕方ない。
﹁⋮⋮シャトランはともかくだが、お前たちが帝国に着くまでの間
の安全は保障しよう。私の召喚獣を監視に置いておくから兵どもに
無体な真似はさせん﹂
ちっ、頭の悪そうな﹃城壁砕き﹄と兵士だけならどうにかなりそ
うだけど、﹃蟲使い﹄を出し抜くのは難しそうだ。宣言通りに無数
の虫を召喚して、さっさと指揮に戻ってしまう⋮⋮だが扉に手をか
けたところで、﹃城壁砕き﹄に呼び止められる。
1230
﹁待てよクレスト、この帝国最強の八傑衆である俺が、こんなつま
んねぇ仕事に来たのはこの女が、いやこの女の母親がいるかもしれ
ねぇからだったんだよ﹂
アタシの母親⋮⋮こいつは母さんと何か因縁があるのか? そう
いえばアタシを見た途端に目の色変えて襲ってきたような。
﹁だからなんだ? 私はさっさと港を破壊し帰りたいんだが﹂
﹁後で奢ってやるからよぉ⋮⋮魔痕虫を召喚して俺に預けろよ﹂
魔痕虫? 聞いたことも無いけど、いかにも面倒くさそうな表情
の﹃蟲使い﹄の手が光った瞬間、怖気がするような羽音と共に拳大
の黒いモノが﹃蟲使い﹄の周囲を飛び回り、﹃城壁砕き﹄の足元に
集まる。
﹁ひひひ⋮⋮知ってるか? この魔痕虫はなぁ、ある部族において
成人の証の為に利用される⋮⋮激痛と共に消えない刺し痕を身体に
刻む為にな﹂
﹁おいシャトラン、女を捕まえたら全員奴に差し出すって約束でカ
ネと兵を借りてるんだぞ、勝手な事するな﹂
﹁一人くれぇバレやしねぇよ。だいたいあの野郎は処女以外見向き
もしねぇんだ、男がいたって言えばいいのさ。ひひひ⋮⋮﹂
﹃蟲使い﹄の召喚した魔痕虫を見せつけるように目の前に持って
くる。蜂のような羽音だったけど、ハエに近い姿で、昆虫の魔物ら
しく愛嬌の欠片もなく気持ち悪い。
1231
﹁刺されて痛いだけならクレストの召喚魔法を借りるまでもねぇ、
単に毒を塗った短剣でも十分さ⋮⋮だがこの魔痕虫には他にはない
特徴があってな、傷が消えねぇんだ、どんなに高位の神聖魔法でも、
土魔法の達人でも魔痕虫の刺し痕は消えねぇんだよ﹂
魔痕虫がアタシの周囲を飛び回る、不快な羽音に身体が震え、怯
えるアタシの表情の何が楽しいのか下卑た笑い声を上げる﹃城壁砕
き﹄。﹃蟲使い﹄は興味なさげに船倉から出て行ってしまう。
ただ
﹁コイツはな、上手く使えば刺し痕が綺麗な色合いの文様みたいに
なるんだが。刺されてすぐに薬草を塗らないと皮膚は爛れて肉は腐
臭を発するんだよ。当然薬草なんてないがな﹂
捕まった女達には見向きもしないで、アタシだけに目線を向ける
﹃城壁砕き﹄。身体中を舐めまわすように見られて気持ち悪い。
﹁くひひ、この八傑衆の俺を、袖にしやがった生意気なサリーマに
そっくりなその顔をよぉ! グチャグチャにしてやるよ! 泣き叫
んで喚いた挙句、女として死ぬんだよ⋮⋮だがお前が俺を愛すると
言えば許してやるぞ? 顔に癒えない傷を負うのは嫌だろう? 誰
にも見向きもされない醜い顔になるのは嫌だろう?﹂
要するにコイツは母さんに振られた腹いせしてるだけか、ここは
嘘でも愛すると言って隙を見て逃げるのが良いのかもしれない。
コイツは帝国の将、地位がある以上は、四六時中監視はされない
筈だ、逃げる隙は必ずある。
神聖魔法でも消えない魔痕虫の毒で顔が爛れるのに比べたら、数
1232
うかが
回犯されるかも知れないけど、従順な振りをして逃げる機会を窺っ
た方が遥かに賢く安全だ⋮⋮が。
﹁⋮⋮よ﹂
﹁んん? 聞こえないぞ、ほらはっきりと他の連中にも聞こえるよ
うに俺を愛すると言え﹂
﹁⋮⋮よ。死ねよブ男! お前みたいな奴の言いなりなんて死んだ
ほうがマシさ!﹂
啖呵を切ったと同時に視界が真っ白になった。どうやら殴られた
みたいだね、ふんっ縛られて手も足も出ない女相手にみみっちいね
ぇ。
﹁てめぇ⋮⋮優しくしてやればいい気になりやがって! ﹂
魔痕虫の一匹が顔に張り付き⋮⋮針で刺されたと分かったと同時
に激痛に襲われる。激高した﹃城壁砕き﹄に腹を蹴られたようだが
そんなもの気にならない! 焼けるような痛みに声も出せない!
痛い痛い痛い! 想像を絶する激痛に頭の中は真っ白になり、気
絶しようにもあまり痛みに意識は鮮明になる。
﹁はははは! どうだ痛ぇか? ほら詫びろよ、無様に助けてくれ
と言え! 一生俺のものになると言えば薬草をやるよ、実は用意し
てたんだよ少しだけ、一匹分だけ。これ以上刺されたらもう薬草は
ないんだぞ? 皮膚が爛れて肉が腐るんだぞ?﹂
﹁あっあぁぁぁぁぁ! た、助け⋮⋮﹂
1233
﹁ほら言え、誓え、俺のものになるってよぉぉ!﹂
﹁助けて! 助けてよクリスッ!﹂
次の瞬間、焼けるような痛みが消えたと思ったら、﹃城壁砕き﹄
が壁際まで吹っ飛んだ。そして⋮⋮縛られたアタシを抱きかかえた
のは、決して見間違えようのない、想い続けた婚約者の姿。
﹁ちっ侵入者か、クレストの奴なにやってやがる﹂
何事もなく立ち上がる﹃城壁砕き﹄の目には先ほどまでの狂気は
なく、冷徹でどこまでも現実的な戦士の顔をしていた。帝国の将と
なるまでに凄まじい修羅場を何度も潜り抜けてきたのだろう。
そして散々自慢げに語ってきた﹃城壁砕き﹄の由来である、剣か
ら放たれる極大の衝撃波が⋮⋮アタシとクリスだけでなく攫われた
皆を巻き込んで身体が粉々に⋮⋮。
∼∼∼∼∼
奇声を上げながら壁に向かって剣を振るい続ける男は放っておい
て。マルフィーザを何とかしないと。咄嗟に痛みは消したけど、マ
ルフィーザを刺した虫の毒は何故か神聖魔法でも消せない。
帝国の将軍らしい男から奪った記憶によれば、決して消えない毒
で永遠に傷跡の残す魔物らしい。男の持っていた薬草を煎じたらし
い軟膏を傷口に塗ると、ドス黒く爛れていた皮膚が、みるみる落ち
1234
着いていく⋮⋮ただ、大きな痣のようなものが残ってしまっている。
俺は痣くらい気にしないけど、女の顔にこんなものあったらコイ
ツは気にしそうだし。さっき叩きのめした召喚術師ならなんとかな
るかな?
﹁クリス⋮⋮ありがとう⋮⋮アタシ、アタシ⋮⋮﹂
﹁遅くなってごめん、もう大丈夫だぞ﹂
震えるマルフィーザを抱きしめて落ち着かせていると、幻覚でひ
たすら壁を殴ってた男が、自力で目を覚ましたようだ。大体四十歳
くらいかな? 憎々しげに俺を睨みつけてくる。
﹁小僧ぉ⋮⋮こんなちゃっちな幻覚で俺から逃げられるつもりか?
もう同じ手は通用しねぇぞ﹂
まぁコイツの事はもう放っておいて、もう一回さっきよりも魔力
を込めて神聖魔法で回復させてみても、痣は一向に消える気配がな
い。
﹁いいかよく聞け、俺の名はシャトラン。帝国八傑衆の一人で﹃城
壁砕き﹄の二つ名を持ってるんだ。さっきの不意討ちで殺さなかっ
たことを後悔するんだな!﹂
うーん、ダメ元でイザベラから貰ったあの聖油とやらを試してみ
るか? 確か若返ったかのような肌になるって言ってたし。
﹁死ねよ! てめぇの目の前でサリーマの娘が、俺に媚びて腰を振
って喘ぐさまを見せつけてやらぁ!﹂
1235
アイテムボックス
︻収納空間︼から取り出した聖油を、痣のあるあたりに塗りつけ
てみると⋮⋮おっ、なんか聖油が肌に染み込んだら垢っぽいモノが
ポロポロ落ちだした。
﹁てめぇ程度の魔法の護りなんざ俺の前には紙も同然よ! 喰らえ
﹃ファントムブレード﹄!﹂
流石準魔王種の魔物から分泌する素材だな、聖油を塗った場所の
痣が消えるだけじゃなく、まるで絹みたいな光沢だ。ついでだ、顔
全体に塗ってやれ、マルフィーザは臭いに顔を顰めてるけど、鏡で
顔を見せてやったらなんか嬉しそうだ。
﹁なにっ! ﹃ファントムブレード﹄がかすりもしないとは⋮⋮ま
た幻覚か、少しはやるようだな﹂
コイツも口は悪いしガサツだけど肌が綺麗になるなら、多少臭く
ても我慢するくらいには女なんだなぁ。濡れタオルで顔を拭いてや
ると、肌が綺麗になったせいか、なんか三割増しで美人になった気
がする。元々マルフィーザは美人だけど、今はまるで輝いてるよう
に見える。
﹁後でコレ全身に塗ってやるよ、身体の隅々まで俺の手でな﹂
﹁ばか、スケベなんだから。す、好きにしなよ⋮⋮ってか部屋の隅
で喚いてるアイツ何してんの?﹂
﹁なんか強そうだったから、最初の不意打ちで全身の神経ズタボロ
にしただけ。多分なんか都合のいい夢でも見てんじゃね?﹂
1236
それより今気付いたんだが、抱き合ったままだと、一緒に捕らわ
れた人たちの温かい目線にちょっと恥ずかしくなってきた。
1237
天を駆けて︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
前話辺りで早く帰りたいから無双するとは言いましたが、マルフィ
ーザと再会してる以上は彼女の為に全力を出す感じになりました。
ちなみに、イザベラに貰った聖油、一応マルフィーザに使うための
アイテムだったのですが、あんまりヒロインボロボロにするのが今
年最後の投稿だとアレなので、ちょっとマイルドに。
1238
病気
帝国八傑衆とかいう連中を始め、船に乗ってた兵士を拘束して外
に出てみたら、周りの小型船は殆どオべローン王に沈められてた。
おい、オッサンこういうのって国とか戦った人らの資産になるん
じゃないの? 俺は詳しい事は知らないけどさ、マルフィーザが勿
体無いとか言って頭抱えてるぞ。
﹁はーっはっはっは! 溢れ出るパワァァに、つい加減を誤ってし
まったのである! はーっはっはっは!﹂
これが一国の王様の言葉である。上機嫌で槍を担ぐ姿に、そうい
うものかと納得したけど、後でクレイターの重臣たちに怒られたそ
うだ。そりゃ資材乗せた船を沈められたんだから当然だわな。
速く飛ぶようにと、軽くバーサクさせた俺にも多少責任がある気
がしないでもないけど、俺は悪くねぇ! よし自己暗示は済んだの
で、気にしないことにした。
まぁそれはともかく。捕まった人たちを解放し、傭兵団の仲間た
ちと一緒に敵兵全員を船の船倉に閉じ込めて、やっと一安心。と思
ったところでなんか足元がふらつき、眩暈がしてきた⋮⋮。
なんだ? まさかあの召喚術師が小さな毒虫でも召喚してて、気
付かれずに刺されていたのか?
﹁ハックション! ゲホゲホッ! くっ、やっぱり毒か? 眩暈だ
1239
けじゃない、頭痛もするし身体に力が入らない! だがこの程度神
聖魔法で⋮⋮﹂
﹁いやアンタ、毒よりも普通風邪だと思わないの? 医者の家系で
なくても風邪の症状だってわかるわよ﹂
ノワール
なに? 風邪だと⋮⋮そういえば子供の頃に弟が似たような感じ
で苦しんでるのを見た事があるような気がする。確かに神聖魔法の
︻解毒︼の術が効果ないな。
潮風に当たると体が冷えるからと、大型船の中に入り、マルフィ
ーザの質問にいくつか答えたらやっぱり風邪だと断言された。
﹁これが風邪か⋮⋮ひいたことないから分からなかった﹂
﹁そうか、困ったわね。バカは風邪ひかないって定説がたった今崩
れたわ﹂
なんか失礼なことを言いつつ、俺のデコに額を当てるマルフィー
ザ。おぉ冷たくて気持ちいい⋮⋮あと顔が近いのでついキスしたら
耳を引っ張られた、何故だ?
﹁キスはもうちょっとムードとか考えてよバカ⋮⋮んで、やっぱり
熱あるじゃないの。体調悪いのに来てくれたのは嬉しいけど、終わ
った後まで平気な振りする事ないじゃない﹂
﹁いや、王様に捕まって飛んでくるまでは普通⋮⋮ちょっと疲れが
残ってた感じがしたかな?﹂
結婚式の後。初々しいお姫様二人との初夜なのでいつも以上に張
1240
り切ってエッチしたのだ。それにアルチーナは体力あるから遅くま
でセックスしてたし、お互いに疲れたから、そのまま裸で寝てたせ
いかな? かなり冷えたし。
朝起きて汗を流すのに風呂に入ったけどかなり温くなってて、逆
に冷えたし。朝飯も食わずに王様に捕まって普段着のまま寒い上空
を数時間休み無しで飛んで⋮⋮あ、やべなんか頭がボーっとしてき
た。
﹁はぁ⋮⋮王様相手じゃ文句も言い難いか。ちょうど良いからこの
船で休むわよ、宿舎は焼けちゃったから、テントよりはゆっくり⋮
⋮ってクリス、風邪ひいてる時に抱き付いてきちゃ⋮⋮クリスっ!﹂
無事にマルフィーザを助けられたと思ったら、なんか急に身体の
力が抜けて⋮⋮すごく眠い。
﹁クリスっ! しっかりしてよ、あぁもう、このバカは風邪だって
気づかないで無茶するから⋮⋮あっ、ラズマード兄さんお願い。ク
リスをベッドのある部屋まで運んで!﹂
﹁どうしたんだい勇者様! こいつぁひでぇ熱だ! くぅ! こん
な身体でお前を助けに駆け付けてくるなんざ、マルは良い男に巡り
合えたもんだぜ﹂
﹁いや、このバカは風邪だって気付いてなかっただけだから⋮⋮﹂
マルフィーザがいれば、まぁ大丈夫だろうと妙な安心感があるせ
いか、ゆっくりと俺の意識は沈んでいった⋮⋮。
1241
∼∼∼∼∼
さざ波の音が聞こえ、目を覚ますといつもの俺の寝室じゃなくて、
豪華だけど妙に成金趣味な部屋だった。
身を起こしてみると額から湿ったタオルが落ちる。ん? なんで
濡れタオルなんてあるんだ? まだ頭がボーっとするので、なんで
この部屋で寝てるのか分からずに周囲を見渡すと、ベッドの脇でマ
ルフィーザが座って眠っていた。
思い出した、捕まったマルフィーザを助けた後に意識無くしたん
だった。今まで風邪なんてひいたことなかったから気付かなかった
が、結構辛いもんだな。
今後気を付けよう、俺が風邪ひくならともかく嫁さん達にうつっ
たら大変だからな。看病してくれてたマルフィーザも敵に捕まって
疲労してるんだから、ベッドで寝て貰うのに起こそうとしたら動い
た気配で目が覚めたみたいだ。
﹁⋮⋮ん。あぁ目が覚めたのね、調子はどう? ゴハン温めなおす
からちょっと待っててね﹂
窓から差し込む月の位置を見ると深夜、いやもう少しすれば夜が
明ける頃か。ランプの灯りだけの暗い部屋だけど、俺の額に手を当
て、優しく笑いかけてくるマルフィーザは⋮⋮なんというか凄く綺
麗でドキドキする。
マルフィーザの持って来てくれた雑炊を食べたら、やたらと苦い
薬を飲まされる。その後汗で濡れた服を着替えるついでに身体を拭
1242
かれる。自分でやると言っても﹁病人は大人しくしてろ﹂と言われ
なすがままだ。
修業中身の回りの事は全部俺にやらせていたマルフィーザに世話
されるのは、ちょっと恥ずかしいが、妙に嬉しそうに世話してくれ
るなコイツ。
コイツは人が体調悪いのを喜ぶような奴じゃないんだが⋮⋮うー
ん、女心は難しい。どうでもいい事で悩んでるうちに着替えも終わ
り、またベッドに寝かされ、冷たい濡れタオルをまた額に置かれた。
﹁そういえば、ここどこだ?﹂
﹁ん? 宿舎が燃えちまったから船の中だよ。あのアンタがぶちの
めした八傑衆の⋮⋮名前忘れたけど、将軍の部屋みたい。アンタを
寝かせるんだからって一番良い部屋にしてもらったけど、正直趣味
悪いね﹂
﹁だな、あんまり落ち着けないな、まぁベッドの寝心地は良いけど﹂
﹁まぁ寝てれば内装なんて関係ないだろ﹂
病人はさっさと寝ろと言わんばかりに︻誘眠︼の術を使ってくる
が、甘いな俺の魔法防御力を舐めるな。
﹁待て待て、強引に寝かそうとすんな。風邪くらい神聖魔法で治せ
るんだよ﹂
﹁寝てれば治るのに、魔法に頼るのは身体に良くないって知ってる
でしょ﹂
1243
確かにちょっとした体調不良くらいを魔法で治してたら、段々病
気への抵抗力も無くなっていくんだが、今はそうも言ってられない
事情があるのだ。
﹁悪い、寝てる暇はないんだ、早くカロリングの街に戻らないと﹂
﹁用事があるのかもしれないけど、風邪ひいた時くらい休みなさい﹂
修業中によく聞いた命令口調ではあるが、俺の事を心配してくれ
てるのは良く分かる。良く分かるんだがここは譲れない。オリヴィ
アとの結婚式の事を伝えると、デカい溜息をついた。
﹁分かった、連れてってあげる⋮⋮けど夜明けまでは寝てなさいよ。
さっき飲んだ薬は体力を回復させる魔法薬だからひと眠りすれば大
分マシになるはずよ﹂
アイテムボックス
﹁連れて行くって言っても、お前風魔法は苦手だろ? ああゴーレ
ム馬車が︻収納空間︼に入ってるとか?﹂
水蛇竜は贈ったものだから使わせて欲しいとは言い難いし。最悪
鳥人族の人に頼んで、運んで貰うことも考えたけど良かった。俺の
家にあるゴーレム馬車はいきなり連れてこられたせいで持って来て
ないから、移動手段があるならありがたい。
﹁ううん、アタシが持ってるのはゴーレム馬車じゃなくて、馬型ゴ
ーレムよ。それならアタシとアンタが交代で操作すれば明日中には
着くでしょ﹂
アイテムボックス
そう言って手をかざしたマルフィーザの︻収納空間︼から取り出
1244
ひ
し見せてくれたのは、ゴーレム馬車を牽く為の馬型ゴーレムだった。
﹁納得したなら早く寝なさい。朝になって傭兵団の皆に事情を説明
しないといけないのは分かるでしょ? 今から出ていったら心配か
けちゃうからね﹂
そう言ってベッドに寝かしつけてくる。確かに不眠番はいるだろ
サリーマさん
うけど伝言だけして帰っちゃうのは非常識か、マルフィーザだって
傭兵団の人間じゃないにしても、母親から頼まれた仕事として来て
るんだし。
﹁アンタに大事な用事があるから一緒に帰ると言えば、皆分かって
くれるよ、だから夜が明けるまでの少しの間だけでもこうしてまし
ょ﹂
ベッドに寝た俺の手を握って微笑みかけてくるマルフィーザ。彼
女の温かさを感じながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
∼∼∼∼∼
マルフィーザは今まで病気なんてした事ない。とは本人の談だが、
それって典医の家系モンドバン伯爵家で生活してたから、体調管理
が完璧だったからじゃないかなぁと思う。
ほら父親の伯爵には大事にされてたし、少し体調不良なんて高価
な体力回復ポーションとか飲めばすぐ治る。普通はどんなに金持ち
でも予備で数本ある程度で風邪くらいには使わないんだけど、魔法
薬の元締め的存在な伯爵家なら話は別だろう。
1245
モンドバン家の他の兄弟は普通に風邪をひいてたらしいけど、俺
の予想だと体力がないのに加えて、魔法の修業で魔力を消費してる
からだと思う。魔力は生命力、消耗してればそりゃ風邪くらいひく。
その点俺やマルフィーザは師の指導が良かったんだろう。それはと
もかく⋮⋮。
﹁ゲホゲホっ! バ、バカな⋮⋮アタシは今まで風邪ひいたことな
いのに⋮⋮﹂
朝日が昇り目を覚ますと、なんか昨日の俺と全く同じような症状
のマルフィーザがいた。すぐにベッドに寝かせて話を聞いたら、昨
日の夜から少し寒気がしてたそうだ。なんでお前まで風邪ひいてる
のに気付かないんだよ。
﹁お前俺の事バカ呼ばわりしておいて、自分も同じじゃねーか﹂
﹁うるさいバカ、風邪ひいたことないから知らないわよ⋮⋮クシュ
ン!﹂
どうしたもんかな? オリヴィアとの結婚式はもちろん大事だけ
ど、看病してくれたマルフィーザを置いて帰るのも悪い気がする。
傭兵団の人を呼ぼうにも、この船室の近くには一切人の気配がな
い。俺とマルフィーザが一緒の部屋にいるから気を利かせてくれた
のか? いくら俺でも体調悪い時にエッチしないよ! そこまでケ
ダモノじゃないよ!
活力を与える術とか、神聖魔法でも治せるけど。ここからカロリ
ングの街まで強行軍で帰ると余計に悪化してぶり返しそうだからな、
1246
やっぱり馬型ゴーレムだけ借りて一人で帰るか?
﹁ケホケホ⋮⋮アンタまさか一人で帰る気じゃないでしょうね? 病み上がりで強行軍したら悪化してぶり返すわよ﹂
なんか俺が思ったのと全く同じ事言うなコイツは。そもそもこん
な状態で帰るとか言っても止められるだろうし⋮⋮やっぱ﹃荷運び
の紐﹄で浮かんで鳥人族の人に連れてってもらおうかな?
巨大蛙を追ってティータニアに連れられて飛んだときは怖かった
が⋮⋮ん? 巨大蛙? そういえば聖油って肌に塗れば綺麗になる
以外にも、飲めば一日中セックスできるくらい活力が湧き出るとか
イザベラが言ってたな。
貰ったのはコップ一杯分程度、三分の一はマルフィーザが魔痕虫
に刺された部分に塗ったけど、残りの三分の二は、俺たちで分けて
飲んでみるか。寿命が延びるって与太話が信じられて、戦争になる
くらい効果があるらしいからダメ元で試してみよう。
ただ問題は一つ、この聖油ってめっちゃ臭いのだ。ついでに不味
そうだしなんか毒っぽい色合いだ⋮⋮よしオリヴィアとの結婚式の
為に道連れになれマルフィーザ。
﹁ところでアンタ、その手の中にある物凄く臭いそれって、アタシ
の顔に塗ったヤツよね? なんで今取り出してるの﹂
なんか嫌な予感がしたらしいマルフィーザは少し俺から遠ざかる
が、所詮ベッドの上、逃げられる訳もない。
﹁実はコレな、飲めば寿命が延びるって信じられたせいで奪い合い
1247
で国が滅んだらしい魔物の油なんだ﹂
﹁へ、へぇ⋮⋮凄いわね⋮⋮で?﹂
とりあえず嗅覚を封じてだなコップの中身半分を飲む⋮⋮あ、駄
目だこれ、喉越し最悪だし、なんか胃の中に不快感があるし口の中
が痺れる⋮⋮けどヤバいと思った次の瞬間、腹の底から燃えるよう
な活力が湧いてくる。
﹁うっ⋮⋮うぉぉぉぉ! なんだこれスゲェ!﹂
凄まじい活力が身体中を駆け巡り、病み上がりで少し残っていた
疲れが消し飛びじっとしていられない! よしマルフィーザに飲ま
せても問題ないな。残りの聖油を全部口に含み⋮⋮逃げようとした
マルフィーザを押し倒し口移し!
﹁ン∼∼ッッ! ンンッ!﹂
ジタバタするマルフィーザを抱きしめて抑え込み、聖油を嚥下さ
せる。なにやら涙目なのは多分臭いのせいだろう、勢いで飲ませた
からコイツの嗅覚を封じるの忘れてた。
そうして、暴れるマルフィーザを抱きしめたままでいると⋮⋮冷
え切った身体に熱が籠ったように赤みが増す。そして⋮⋮俺の腕か
ら脱出したマルフィーザは俺の背後に回り込み、腕を首に回り締め
上げるっ!
﹁アッンッタって人はぁぁぁぁ! 先に言いなさいよ! 普通にコ
ップを渡しなさいよ! そもそも嗅覚とか味覚を封じれたでしょア
ンタはぁぁぁぁ!﹂
1248
﹁のぉぉぉ待て、待ってくれ! 極まってる、首に極まってるから
ぁぁぁ!﹂
スゲェぞ聖油、一瞬で風邪が治った! 背中に当たるささやかな
胸のふくらみの感触は嬉しいけど、早く帰るために気絶するには⋮
⋮。
﹁マル姉ちゃん勇者様の具合は⋮⋮﹂
いきなり扉を開けて入ってきたミーシャちゃん。背後から抱きし
められてるように見える上に、湧き出る活力のせいで汗だくの俺た
ち。ついでに昨日は二人っきり。ミーシャちゃん視点での結論は一
つ。
﹁お邪魔しました。マル姉ちゃんお幸せに♪﹂
﹁待ってミーシャ! 誤解、誤解よぉぉぉ!﹂
その後、俺の風邪が治ったから街に帰るのに、マルフィーザも連
れて帰ると言ったら、傭兵団の皆さん諸手を上げて賛成してくれた。
多分彼らが思ってるような関係には⋮⋮間違いなくなるのでまぁち
ょっと順番が前後するだけだから問題ないだろう。
女性陣に質問攻めにされてるマルフィーザを強引に連れ出し、急
ぎカロリングの街へ向かう。なお王様は筋肉痛で苦しんでるそうだ
が、結婚式が優先だから放っておいて帰ろう。
1249
病気︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
1250
野宿︵前書き︶
お待たせしました
1251
野宿
マーニュ王国が生まれる前のそのまた前の前、数百年前に興った
ある王朝。そこでは鍛えた犬同士を戦わせて金銭を賭ける遊びが、
身分の上下を問わずに流行っていたと書物に書かれていた。
闘犬たちの白熱した死闘は、貧しい庶民の不満を逸らすための娯
楽として始まったものだ。しかし興行を繰り返すうちに、権力者た
ちまで夢中になり、闘犬では飽き足らず次第にエスカレートしてし
まい、牛や馬など大きな動物になり、果ては魔物同士を戦わせてい
た。
モンスターテイマー
この遊技が昨今の召喚術師や魔物使い達の源流とするのが、現在
の魔法史では定説となっているが、まぁそれはともかく。
その王国があった頃の実話をアレンジしたある昔話がある。ある
ところに闘犬を鍛える事を生業とする、調教師の女性がいた。彼女
が鍛えた闘犬は非常に強いと評判で、その秘訣は闘犬を家族も同然
に愛情を注いだかららしい。
ある日彼女の鍛えた闘犬が戦いには勝ったが、深く傷つきその日
の晩に死んでしまう。調教師であればよくある事ではあるのだけど、
情の深い彼女は嘆き、悲しみのあまり己が犬になってしまった。
女性に想いを寄せる男性がいた。彼の名はモントレー、彼は犬に
なってしまった想い人の痛ましい姿を見て、彼女の闘犬にそっくり
な人形を作り慰めた。やがて彼女はモントレーの献身的な愛情を受
け人に戻ったとされる。
1252
この逸話は﹁動物をイジメちゃいけません﹂とか﹁ペットは大事
にしましょう﹂って教訓を教えるための昔話ではある。それを別と
しても、モントレーこそが動物型ゴーレムの祖であり、現在の付与
魔法の原型を作った創始者であるのは、歴史的な事実である。
ちなみに彼の末裔モントレー家はマーニュ貴族として残っており。
なんとオリヴィアの母親、オードさんの実家らしい。オードさんの
あの妙に動物に懐かれる体質は、調教師の女性の血なんだろうか?
末裔が貴族になってる事から分かるように、我が国では動物型の
みならずゴーレム全般において、他国よりも性能や見た目のリアル
さが、頭一つ抜きん出ている。
今王都で流行ってるのは、同一規格で作られた巨猿型ゴーレムを
操り、リング上での殴り合いで勝敗を決する見世物で、優れたゴー
レム使いは大きな商家や貴族が競って召し抱えてると聞く。
ただし辺境ではあまり流行ってない。動物型ゴーレムがあるのな
らゴーレム使いは輸送や採掘で忙しく、見世物をやってる暇はない。
特に馬型のゴーレムなんて、いくらあっても足りないくらい需要が
あるのだ。
今俺が駆ってる馬型ゴーレムも、まるで生きているような躍動感
だけじゃなく、魔力を注げば注ぐほど速く走る事のできるモンドバ
ン家謹製の高性能ゴーレムだ。急いで街に帰る必要のある俺には、
この上もなくありがたい。滾る魔力をゴーレムに注ぎ風のように地
を駆ける。
そして、俺の背後から抱き付くマルフィーザの温もりと、女の子
1253
特有の柔らかさに、犯る気⋮⋮じゃなくてやる気も倍増だ。あぁゴ
ーレムが地面を蹴った振動で、小ぶりなおっぱいが背中に擦りつけ
られる感触が堪らん。
﹁ちょ、ちょっとアンタ、そんなに魔力注いで大丈夫なの? こん
なバカみたいな速度出さなくなって、明日の朝には着くってば。ア
タシが交代して操作するよ﹂
俺の操るゴーレムの速度にビビってるのか、それとも過剰な魔力
を使ってるのを心配してるのか⋮⋮まぁ両方かな? マルフィーザ
が焦ったように交代を申し出るけど、とりあえず無視して走り続け
る。
風邪を一瞬で治した聖油の効果のせいか、全然疲れない、むしろ
活力が溢れすぎてるからな。背中の感触のお陰で、股間が臨戦態勢
に入ってるのをバレるわけにはいかない。
今の状況でゴーレムの操作を交代すると、無節操に昂った俺の愚
息がマルフィーザにバレるからな。想像してほしい、ビンビンに勃
起した男に後ろから抱き付かれ、馬に二人乗りしてる女性の心情を
⋮⋮うん、ちょっと考えなくても交代は拙い。マルフィーザが今更
その程度で俺を嫌ったりはしないだろうけど、道中気まずいし。
﹁大丈夫だ、あの聖油のお陰なのか全然疲れない、むしろ絶好調だ。
しっかり掴まってろよマルフィーザ﹂
﹁速すぎて怖いのよバカァァァ!﹂
﹁男に向かって﹃早い﹄とか言うんじゃねぇ!﹂
1254
﹁ンな意味で言ってないわよドバカ⋮⋮って、キャァァ!﹂
速度を上げると増々強くしがみ付くマルフィーザ。本当に嫌なら
首絞めてくるだろうから、なんだかんだで楽しんでるのかな?
出発前に遠距離通話の魔法道具で、明日の朝には帰れると嫁たち
には伝えてあるし、当然カール王子にも港の一件を含めて説明済み
だ。
直接報告には行くけど、これはオリヴィアとの結婚式の後でも良
いと言われてるし⋮⋮大した距離じゃなくても折角マルフィーザと
二人旅だ、道中楽しみつつ、早く帰ってイチャイチャしたい。なの
で日が暮れる前にできるだけ進んでおかないとな。
﹁あ、そうだ。暗くなったら危ないから野宿するけど、お前は大丈
夫か?﹂
﹁へ? そんなの山で修業してたんだから楽勝よ。テントが無いな
らアタシが創ってあげるし﹂
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよなぁ。野宿が平気
なのは百も承知。むしろ野宿中にヤル事が大丈夫なのか聞きたいの
だ。
﹁いや、テントは持ってるから別に良いんだけど。俺はお前に手を
出すの我慢する気はないけど良いか? 嫌なら無理して我慢するぞ﹂
俺のセリフに何を思ったのか、表情が見えないから分からないけ
ど。ただ黙ってマルフィーザは強く俺に抱き付いてきた。
1255
﹁ばか⋮⋮好きにしなさいよ﹂
﹁おっしゃ! 言質取ったぞ。もう嫌だって言っても今晩押し倒す
からな! もう泣いても好きにするから覚悟決めとけよ﹂
犯る気⋮⋮もとい、やる気がガンガン沸いてきた! やる気が魔
力に変換され、馬型ゴーレムの速度は更に上昇。下心を燃料に際限
なく加速する。
﹁ひぃぃやぁぁぁ! バカァァァ! 夜は好きにして良いけど、そ
のためには温存しなさいよぉぉぉ!﹂
フハハハハ! 犯る気満々の今、温存なんて言葉は俺の脳内に存
在しない! 今晩エッチしたら次の日は街でマルフィーザとデート
しよう、コイツの望み通りにイチャイチャ恋人らしいデートをする
のだ。そうと決まればさらに加速だ。
∼∼∼∼∼
出発した時は早く帰るべく気が急いてたけど⋮⋮あれだな、マル
フィーザの丸一日休まず走れば着くって目算は、普通の魔法使い基
準だったみたいだ。俺が本気出した結果半日でカロリングの街に到
着した。
ここまでくればオリヴィアとの結婚式には余裕で間に合うな。必
死に馬型ゴーレムを操り、馬車で一週間かかる道を半日で走破した
甲斐はあったけど、もう日が落ちているので街の城門は閉まってい
る。
1256
門番の兵士は俺の顔を知ってるだろうから、その気になれば勇者
の権力で押し通れるけど、他に待ってる人がいるのに俺たちだけ入
るのも悪い気がするからな。明日の早朝に城門が開くまで城門前で
待つことにする。
城壁の外で今日は予定通り野宿だ。あとは意外な事に城門前で待
ってる人たち用の屋台が並び、ちょっと楽しそうだ。
日が暮れたから街に入れない人は、到着が遅れてしまった行商人
や、討伐に夢中で引き際を間違えた冒険者なんかが多い。そのせい
か道端には商品が並び、威勢のいい客引きの声が響き、新鮮な魔物
の肉を焼く匂いが立ち籠める。
ついでに街の商人が城門前で野宿する人向けに、お酒とか提供す
る屋台を出すものだから、鎧を着たままの冒険者が酒を飲んで騒い
でいる。他にも情報交換をする行商人たち、美声を披露する吟遊詩
人たちが一ヶ所に集まっていて、さながら飲み屋街のような賑やか
さだ。
﹁急いで帰ってきて正解だったな、なんかこういう場所ってワクワ
クしないか?﹂
﹁アタシも屋敷とかよく抜け出してたけど、夜には帰ってたからね。
うん、楽しそうね﹂
半日馬に乗ってたせいか、野宿で夕食作るのも億劫だから屋台が
あるのはありがたい。ただ座って食べれる店は無くて、屋台で買っ
てその辺の地面に腰かけて飲み食いしなくてはいけない。
1257
伯爵令嬢のマルフィーザは勿論、俺もこういう場所は初めてだけ
ど、山での修業中は殆ど野宿みたいなものだったから特に気になら
ない。とりあえず炙ったチーズを乗せたパンと、魔物の肉の串焼き
も数本買う。焼き方は雑だけど、それもまた屋台の醍醐味、新鮮な
魔物の肉はそれだけでも美味いから問題ない。
他にもそこら辺の雑草を煮込んだ塩スープを買う。やたらと高い
と思ったけどあとでお椀を返せばいくらか返ってくるらしい。おっ
? この雑草の塩スープ見た目は悪いけど意外とイケるな。マルフ
ィーザに聞いたら、そこら中に自生してるものだけど、ちゃんと火
を通せば食用になる草なのだとか。
物珍しさもあって、色々と目についたモノを買い、歩きながら食
べる。行儀悪いけど、こういう場所で気にしたって仕方ないからな。
﹁人間どこでも商売が成立するもんだなぁ。見ろよ、馬車を使った
宿屋まであるし、あそこの街路樹に吊るしてある奴ってハンモック
ひぐれいち
か? 何人か寝てるし、あれって貸しベッドみたいなもんか﹂
へきがいち
﹁地方によって壁外市とか、日暮市とかって言うのよ。王都に限ら
ず大きい城塞都市の城門前じゃ似たようなものらしいわ。王都だと
城門の外に店舗が何件も建ってるわよ﹂
アイテムボックス
︻収納空間︼があるからどれだけ買っても嵩張らないのをいいこ
とに、マルフィーザと二人で手を繋ぎ食べ歩く。
街の中と変わらず人が集まれば騒がしくなる。冒険者が魔物の素
材を行商人に売りつけようと交渉していたり、街に着いたのに野宿
は嫌だと、わがままを言うお嬢さんと口喧嘩をする男性。
1258
夜鷹
草を編んだカーペットを持って、客引きをする色っぽい娼婦のお
姉さんをどっちか買うかで、喧嘩する男どもの怒号も聞こえる。
そんな中、なにかが光ったような気がしたので目を向けると、ア
クセサリー類を並べてる行商人がいた。いくらなんでも危ないんじ
ゃないかと思ったけど、街の外にも見回りの兵士がいるから詰め所
の近くなら安全なのか。
俺はアクセサリーの目利きとかはできないけど、気になったので
マルフィーザの手を引いて、行商人さんに声をかける。良い物があ
ればマルフィーザにプレゼントしようかな?
﹁見せて貰っていいかな?﹂
﹁ああ、構わんぞ。この指輪はどうだ? 一個銀貨十枚、ペアで銀
貨二十二枚に勉強してやろう﹂
少し不愛想な行商人さんは、お揃いのデザインの指輪を勧めてき
た。へぇ、素人目にもセンスが良いし、マルフィーザに似合いそう
だ。
﹁ペアのリングか、良いね。はいそれじゃ銀貨二十二枚で⋮⋮ふが
っ!﹂
﹁言われるままに払わないの! なんでセット販売で高くなるのよ
!﹂
つね
買おうとしたらマルフィーザに鼻を抓られた。うん、指輪をした
マルフィーザの事を考えてたら値段とか気にならず、つい払おうと
してしまった。
1259
﹁なんでって⋮⋮堂々と手を繋いできたから、独り身の嫉妬分値上
げしただけだぞ?﹂
﹁さも当たり前みたいに言うな! そこは包装分とか、リングに名
前を彫るとかの手間賃でしょう﹂
﹁馬鹿め、包装用の箱なんて余分な荷物はない! それに俺は職人
じゃないから名前を彫るなんて出来ん! ただカップルを見ると値
上げがしたくなるだけだ﹂
マルフィーザのツッコミに、胸を張って堂々と碌でもない本音を
言い放つ行商人さん。正直なのは良い事だと思うけど、もうちょっ
と隠そうよ。
﹁ふっ! このクリー・ボッターは嘘が嫌いなのだ。隠すような秘
密はない! 騙すような卑劣な真似はない! ついでに彼女もいた
ことない! 常に本音でぶつかるのが漢の商売よ!﹂
﹁言わなくても良いことを暴露するのは、本音でぶつかるとは言わ
ないと思うんだ﹂
まぁ扱ってる商品はマルフィーザの目から見ても値段相応らしい
ので、勧められたペアの指輪を銀貨二十枚で買う。ついでにこのク
リーさんとやらは指の太さも見抜いて勧めたみたいで、マルフィー
ザの指に指輪を嵌めるとぴったりだ。
﹁似合ってるぞ﹂
﹁う、うん⋮⋮ありがとう﹂
1260
喜んでくれたなら何より、朝早くから付き合わせてしまったのも
あるけど、頬を染めて嬉しそうなマルフィーザが見れたから大満足
だ。少しは王都で待たせてしまった埋め合わせになったかな?
アイテムボックス
クリーと名乗る行商人さんの商品の中には、野宿グッズもあるか
らついでに買っておこうかな? ︻収納空間︼の内部には毛布とか
あるけど洗濯するの忘れてたし。あとランプとか普段使いにしたい
くらいお洒落なデザインしてる。
アイテムボックス
︻収納空間︼の内部には野宿用の道具はあるけど、修業時代に猟
師のおじさんに貰ったものだから、無骨というか実用第一なものば
っかりだしな。
﹁後はこの毛布くれ。それと⋮⋮なぁ、マルフィーザこのランプ綺
麗じゃないか。買っていいかな?﹂
﹁一晩明かすだけなんだから、無駄使いはダメよ﹂
﹁でもほら部屋に飾るのに良くないか?﹂
﹁うーん、部屋で使うなら別に良いけど、アンタそういう感じの好
きなの? 他の家具とかと合わせる感じでないと、成金に見られる
わよ﹂
マルフィーザの言う事ももっともか、オリヴィア達も日用品とか
買うのに部屋の内装に合うかどうか真剣に考えてるし、衝動買いは
良くないな。
﹁それじゃやっぱ毛布だけくれ。一枚でいいよ、二人で包まって寝
1261
るから﹂
﹁ばか、他人の前でそういう事言わないでよ、恥ずかしい﹂
一つの毛布で寄り添って眠る姿を想像したのか、真っ赤になった。
恥ずかしがってても決して嫌がってない。ここが人前でなければ抱
き付いてキスしてたところだ。
﹁くそぉ! 独り身の前でいちゃつきやがって! 毛布一枚銀貨一
枚だけどムカつくから金貨一枚!﹂
﹁良し買っ⋮⋮へぶっ!﹂
﹁ノリで無駄使いすんな! 値上がりしすぎだから他で買うわよ、
売ってなくてもアタシが水魔法で創るわよ﹂
マルフィーザに足を踏まれた後、襟首掴まれ帰ろうとすると、ク
リーさんは﹁分かったよ、銀貨二枚にしてやるから﹂とか言ってき
たので、結局買うことにした。
なんだかんだと品質が良い毛布で、マルフィーザも実物を見て銀
貨二枚ならと納得してくれた。さて、何処で野宿しようかな?
俺たちは人目に付かない場所で今夜寝る場所を見繕っていると⋮
⋮先客がいた、声が漏れるのもお構いなしにヤッてるカップルが数
組。
声に出してないけど、かなり焦った様子のマルフィーザに手を引
かれ、さらに茂みの奥に入る。ここまでくればカップルは流石にい
ない。あまり離れると魔物に襲われる可能性があるからな。
1262
その点俺は魔物払いのみならず、生き物全般寄せ付けない結界が
張れるから安全だ。そして⋮⋮ふふふ、人目に付かない場所で二人
きり、覚悟しろよマルフィーザ。
∼∼∼∼∼
城門前の喧騒から離れた茂みの中、生き物の侵入を完全に防ぐ結
アイテムボックス
界に包まれた空き地には、テントと大理石の大きな風呂。テントは
俺の︻収納空間︼に入ってたもの。風呂はマルフィーザが水魔法で
創った。
自分の魔力で好きなものを創れる水魔法はホント便利だな。俺だ
と飲み水しか創れないけど、マルフィーザは何もない空き地に、実
家の伯爵家にあるものと全く同じ風呂を用意してのけた。
とは言え、あまり長時間は大きなものや、複雑な創造物を維持す
るのは結構消耗するので、入浴したら消せる便利な使い捨てだ。魔
法使いが二人だと野宿も楽でいい。
さて、俺って奴はスケベである。自覚はある、エロい事が大好き
で女の子とイチャイチャしてる時が一番幸せだったりする。金を稼
ぐのも、成り上がって偉くなろうと頑張ったのも、所詮は嫁とエロ
エロな性活をする為の手段に過ぎない。
そしてそんな俺が、気心の知れた美少女と二人きり、しかもゴー
レムとは言え馬に二人乗りで密着して約半日。何もおきない訳もな
い⋮⋮訂正、俺が我慢できるわけが無いというか、﹁好きにして良
1263
い﹂って言質がある以上我慢する気が無かった。
俺がテント設置してる間、風呂を用意したマルフィーザが、先に
汗を流すと言って風呂に入った。覗くなと念を押してきたけど、勿
論覗かない。堂々と一緒に風呂に入るだけだ。
俺のスケベさをある意味信用してるマルフィーザは、何を言って
も無駄だと悟ったらしい、堂々と風呂の脇で服を脱ぐ俺に何も言わ
ない。
手桶で汗を流し、風呂に入り、マルフィーザの隣に座る。それで
もまだ何も言わずに、何故かそっぽを向いてる。ふむ、これは⋮⋮。
﹁愛してるよマルフィーザ﹂
耳元で囁くと、日焼けしたマルフィーザの裸体は一瞬だけ強張る。
華奢なその身体を抱きしめてキス。唇を離し見つめ合うとその瞳は
潤み熱を帯びて俺を見ていた。
﹁アタシも⋮⋮愛してる。一緒に修業してて、ずっとクリスの事を
見てたから﹂
今度はマルフィーザからキス、お互いに生まれたままの姿で更に
強く抱き合う。唇が触れるだけではもう我慢できず口内に舌を侵入
させると、マルフィーザもまた舌を絡め、俺の唾液を飲み込む。
﹁もう一度聞くけど大丈夫か? お前が嫌なら我慢するぞ﹂
﹁ばか。ここまでしてヘタレないでよ⋮⋮嫌じゃ⋮⋮ないよ? 好
きだから。クリスが欲しいなら⋮⋮アタシをあげる﹂
1264
あ、もう駄目だ。たった今、はっきりと理性の糸が切れたのを自
覚した。マルフィーザを湯船に座らせ、誰も触れた事のない処女孔
にキスをする。
マルフィーザ
思い出すのは初めて会った日。修業仲間とだけ紹介された可愛い
女の子のスカートめくりをした十二歳の俺は、反撃を喰らって気絶。
目が覚めたらズボンに穿き替えてたので、なんか意地になって、ズ
ボンをずり降ろしパンツ拝もうと一緒に全部下ろしてしまい、初め
て女の子のアソコを見てしまった。
我ながら最低の事をしたもんである。顔面を差し出し殴られて、
その後も土下座で謝ってなんとか許して貰ったのだが、頭が上がら
なくなっちまった。ついでにマルフィーザが近くにいると思い出し
ちまって、気になって仕方がなかった。
﹁クリスのへんたい⋮⋮修業中だっていつ襲われるのかドキドキし
てたんだから⋮⋮ひゃぁぁん!﹂
﹁俺だってお前が婚約者だって知ってたら我慢なんてしなかったよ。
初めて見た女の子のオマンコを、ずっとこうしたかったんだ﹂
初めて見た女の子のアソコ。何度も夢に見るほど気になって、毎
晩理由の分からない興奮に悶々とした日々。そのマルフィーザのオ
マンコを今こうして俺の自由にできる。
微かに淫蜜の垂れるマルフィーザのオマンコを、丹念に舌で愛撫
する。これから俺のチンポで処女を貰うんだ、せめて痛くないよう
にしておかないとな。
1265
﹁好きだよマルフィーザ。お前が欲しくて堪らないんだ、俺だけの
ものにしたくて、もう我慢できないんだよ﹂
﹁ひぅ! あ、あぁ⋮⋮ク、クリスのばか。恥ずかしい⋮⋮よ﹂
クンニしてるとマルフィーザの恥ずかしがってる声だけでも興奮
してくる。舌だけじゃない、細くてすべすべの太股にも手を這わゼ、
ぴったりと閉じた脚を開かせる。そして更にオマンコの奥まで愛撫
する。
﹁あうぅぅ⋮⋮ばかぁ。そんなにされたら気持ち良くなっちゃうよ
ぉ。初めてなのに⋮⋮ひゃうん!﹂
抵抗は口だけで、俺の頭にそっと添えられた手は一切俺の動きを
邪魔しない。頭の上がらない姉弟子が、俺の舌でなすがままに身悶
えている。
﹁嫌なら殴っても良いんだぞ?﹂
﹁ううう⋮⋮クリスのばかぁ。嫌じゃないって言ってるでしょ⋮⋮
アタシの身体はクリスの好きに⋮⋮あぁぁん!﹂
添えられるだけの手は、俺を拒まない。それどころかオマンコを
突き出し俺を引き寄せる。求められたのなら仕方ない、膣口とクリ
トリスだけ愛撫していた舌を、ぴったりと閉じた処女孔に侵入させ
る。
﹁んんっ! やっやぁぁ⋮⋮ナカに這入ってくるのぉぉ! あっあ
っあぁぁぁ!﹂
1266
一瞬身体を強張らせ、脱力したように俺に抱き付いてくる。
﹁可愛い⋮⋮愛してるよマルフィーザ﹂
﹁クリス⋮⋮んっ、ちゅ⋮⋮アタシを、クリスのモノにして⋮⋮﹂
蕩けた表情で、重ねてくる唇。クンニしてる時から俺のチンポは、
早く可愛いマルフィーザを、頭の上がらない姉弟子を、俺を好いて
くれる婚約者を求めている。
早く処女マンコを俺だけのものにして、蕩けるくらい俺のチンポ
で喘がせたいと言いたげに、そそり勃っている。
風呂の中、胡坐をかいた俺の膝の上に座るマルフィーザ。ゆっく
りとチンポの先端を処女孔に狙いを定め⋮⋮マルフィーザが笑顔で
頷いたのを見て、一気に処女を奪う。
﹁ンッ! ンンンッ! あぁぁ⋮⋮おっ大きすぎよ、ばか⋮⋮好き。
大好きよクリス!﹂
一瞬の抵抗の後、膣奥まで俺を受け入れたマルフィーザの膣は強
く締め付けながら、俺のチンポを包み込むようだ。
昂りきったチンポを挿入してすぐ動かしたいけど、まだ痛みが残
ってるうちに激しくしては痛いだけ。破瓜の痛みが治まるまで華奢
な肢体を抱きしめ、小ぶりなおっぱいを口に含む。
﹁乳首が立ってるぞ? 口では嫌がってたのに、こんなにして、期
待してたのか?﹂
1267
﹁ばか⋮⋮ばか。アンタと野宿なんて、こうなるって分かってたか
らよ﹂
対面座位で抱き合いながら、セックスしてるというのに、いつも
のように軽口を言い合う俺たち。
﹁はっあぅ⋮⋮クリス、動いて良いんだよ?﹂
男の逸物を受け入れたばかりの処女孔からは、血だけでなく粘性
のある愛液も溢れている。少しくらいなら動いても大丈夫かな?
﹁ゆっくり動かすぞ。初めてなんだから、痛いならちゃんと言うん
だぞ﹂
﹁ばか⋮⋮アタシが動いて良いって言ってるんだから遠慮しないの。
アタシはもうクリスだけのモノなんだよ?﹂
目尻に涙を浮かべながら、こんな事言われて応えなけりゃ男じゃ
ない。下から突き上げチンポの先端が膣の奥を叩くと、マルフィー
ザは苦悶のそれとは少し違う声を上げる。
﹁ひぁあ! 奥に、オマンコの奥に来てるよ。あぁアタシ初めてな
のにぃ、子宮がクリスの事を欲しがってるよぉ﹂
マルフィーザと唇を重ねながら、処女孔に俺のチンポの形を覚え
させるように、ゆっくりと膣壁に擦りつける。マルフィーザの狭い
膣内は俺だけのものだと刻み付けるかのように。
何者も入り込めない二人だけの空間。マルフィーザの用意した風
呂の中で、俺たちのセックスは段々と激しいものになっていく。
1268
頭の上がらない姉弟子。修業の毎日でたまに会うのが楽しみだっ
た友達。気心の知れた女の子。そんなマルフィーザを俺のチンポで
喘がせている事実に、逸物は昂ぶり射精感が込み上げてくる。
早くマルフィーザの全てを、膣の奥の子宮まで俺のもので染め上
げたい。愛情は勿論あるけど、浅ましい独占欲なのは分かっていて
も止められない。
﹁あっあっあぁぁ! 出そうなの? 良いんだよいつでも膣内に出
して⋮⋮あぁぁん、アタシの子宮がクリスの子供を孕みたいって言
ってるのぉぉぉ!﹂
ナカ
﹁くぅ! 出る。マルフィーザの膣内に出すぞ!﹂
まだ我慢は出来るけど、初めてのマルフィーザに無理はさせたく
ない。お尻を掴んで強く引き寄せると同時に、半日以上我慢した性
欲を意地っ張りで可愛い婚約者の膣奥に吐き出す。
﹁熱いのぉ! 来てる、クリスの熱いのがアタシの子宮に来てる。
出来ちゃう、こんなに出されたらクリスの子供孕んじゃうよぉ﹂
一発出しただけじゃまだまだチンポは猛ったままだ。まして今朝
飲んだ聖油の効果がまだ残ってるのか、一切疲れはない。それはマ
ルフィーザも同じのようで、少しい息が荒いだけで疲れた様子はな
い。
﹁まだ⋮⋮大きいのね﹂
﹁マルフィーザを抱いてて、一発だけで済むわけないだろ?﹂
1269
射精した後、抱き合ったままの俺たち。どちらからともなく、ま
た腰を動かしながら舌を絡め合う。
﹁もう、ばか⋮⋮好きよ﹂
まだ日が暮れてそんなに時間は経っていない。夜が明けるまで俺
たち二人だけの時間は終わらない。
1270
野宿︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございました。
1271
寝てる暇は無い︵前書き︶
お待たせしてしまって申し訳ございません
1272
寝てる暇は無い
﹁あっあっあぁぁ! 凄いのぉアタシのオマンコ、もうクリスのオ
チンチンの形にされちゃってるよぉ﹂
さっきお風呂でクリスに処女を捧げても、テントに入った途端に
またお互いに求めあう。今朝飲まされたあのやたらと臭い油のせい
なのか、疲れなんて全くなく、身体の底から活力が湧いてくるかの
よう。
それはクリスも同様で、いくらセックスしてもまったく衰えない。
大好きな婚約者に女として求められれば嬉しくて、もっとエッチが
したくなる。
ナカダシ
さっきまで正常位で三度も膣内射精されても、まだまだ欲しい。
今は背後から組み伏せられ獣のように犯されている。あぁ凄いよぉ
この体勢だとクリスのおっきなオチンチンで気持ち良い所全部擦ら
れちゃう。
﹁ひぁぁ気持ち良いのぉ、バックからされるのが気持ちいい!﹂
アタシの声にクリスの腰が動く。あぁ悔しいけどコイツ上手い、
アタシの反応を覚えてるのか、緩急をつけて的確に気持ち良いとこ
ろを刺激してくる。
﹁さっきまで処女だったのに、もうすっかりセックスで感じるなん
て、マルフィーザもスケベだなぁ﹂
1273
﹁ば、ばかぁ。クリス以外じゃこんなに気持ちいいわけないでしょ。
んっ、くぅっ! はっあぁぁん!﹂
一突きされる毎に甘い痺れが身体中を駆け巡る、クリスの荒い息
づかいにアタシに夢中になってくれてるのが分かって、蕩けるよう
な幸せを感じる。もう駄目だ、子供の頃から好きだった婚約者に、
アタシはもうすっかり参ってしまってる。
セックスを繰り返すたびに気持ち良くなる。アタシの身体がクリ
スのモノに馴染んでいく。あぁ、これって開発されちゃってるって
事? 後輩のクリスのなすがままにされて悔しい気持ちもあるけど、
それ以上に嬉しい。アタシの身体が少しずつクリス専用になってい
ってるって事だから。
﹁アンタこそ⋮⋮はぅ、んふぅ! 何度も何度もアタシに出して⋮
⋮あっあぅん、このどスケベ⋮⋮あっあっひぃあぁぁ!﹂
返事の代わりにこれまでよりも早く、深くアタシを攻める肉棒。
ううう、アタシのバカ、もっと素直にクリスに甘えたいのに、口か
ら出るのは憎まれ口ばっかり。あぁ、もっと、もっと激しくして。
クリスの手で気持ち良くさせられ、為すがままにされてたアタシ
だけど、段々ともっと深く、もっと激しくオチンチンが欲しくてい
つの間にか、お尻をクリスに押し付けるかのように腰を振っていた。
﹁自分から尻振って、そんなに欲しいのか?﹂
﹁ち、違う⋮⋮あぁ、なんで止めるのよぉ﹂
不意打ちのように膣内に挿れたまま、挿入を止めたクリスは、両
1274
手でアタシの腰を掴みこれ以上動けなくしてしまう。あぁ止めない
で、クリスのオチンチン欲しいのぉ。
﹁なぁマルフィーザ、このままで聞いてくれよ﹂
﹁ふぇ? な、なによぉ、後で良いじゃない﹂
﹁いやなに、俺ってさ、修業時代からお前に頭が上がらなかったよ
な﹂
クリスが何を言いたいのか良く分からないけど⋮⋮まぁそうね、
山で一緒に修業してた時は下僕扱いだったわね。そんな事より動い
てよぉ、逞しいオチンチンが挿ったままだと切ないのよぉ。
﹁んで、そんなお前をこうして喘がせてるこの状況さ、スゲェ興奮
するんだよ⋮⋮なぁちょっとエッチのおねだりしてくれね? なん
か弱々しい感じで﹂
﹁ううう⋮⋮ばか、へんたい、スケベ⋮⋮クリス、お願いもっと⋮
⋮ちょうだい。アタシの全部、クリスの好きに⋮⋮して﹂
普段だったら言わないような、媚びた声色に、クリスが異様に興
奮しだして、さっきまでとは比べ物にならないくらい激しくアタシ
を攻め立てる。
﹁はぁはぁ⋮⋮ヤベェ、ヤバいくらい興奮する。お前とのセックス
にハマっちまいそうだ﹂
﹁んんっ、あはぁぁ! だめぇこんなにされたらまたイッちゃう!
クリスのが気持ち良すぎるのぉぉぉ!﹂
1275
﹁俺もイクぞ! 一緒に、一緒にイクぞマルフィーザ﹂
﹁きて、きてぇぇ! 好きなのぉ、クリスの精子、子宮にドピュド
ピュされるの大好き! あっ、はぅ! んはぁぁぁぁ!﹂
ナ
目の前が真っ白になるほどの絶頂と同時に、身体の奥まで届くか
カダシ
のような熱がアタシの心も満たしてくれる。あぁ好き、クリスに膣
内射精される瞬間、とっても幸せ。
﹁あぁ⋮⋮好き。愛してるわ﹂
﹁俺もだよ。幸せにしてやるからなマルフィーザ﹂
お互いに絶頂に達した余韻の中、交わす口付け。婚約者と知らさ
れた日からずっと夢想してた恋人同士のようなキスは甘く。全て捧
げたと思っていた愛情が溢れてまだまだ捧げ足りない。
もっとアタシの愛を捧げたくて、クリスに身を寄せると。テント
の内部は優しい純白の光に包まれる。あぁこれ祝福の光⋮⋮アタシ
はクリスのお嫁さんになったんだ。
﹁ばか⋮⋮いきなり祝福なんて卑怯よ﹂
﹁結婚式の時が良かったか?﹂
﹁違うわ⋮⋮ただでさえアンタに夢中なのに、もっと好きになっち
ゃったじゃない。ばか﹂
クリスはまだまだ元気だし、セックスしてる時間が幸せすぎて眠
1276
ってしまうのが勿体無い。次はアタシが上になって騎乗位を試して
みようっと。
∼∼∼∼∼
夜が明けて、城門が開くと、賑やかだった城外市の片づけが始ま
る。如何にも眠そうな顔をした行商人たちは、真っ先に宿屋を目指
している。街の商人も分かってるのか城門の近くでは、貸しベッド
の看板を掲げた宿の従業員がいたりする。
城門が混雑してるのを尻目に、道端でのんびり朝食を食べてる俺
たち。今行くと多分俺の顔を知ってる門番の人が色々と困りそうだ
しな。俺としては普通に受付して入っても良いんだけど、門番さん
は立場的に俺の顔見たらそのまま通すわけだ。で、普通に待ってる
人に文句を言われてしまう。
なので並んだりしないで混雑が収まるまで待ってるのだ、それに
マルフィーザと二人でいれば待つのも苦じゃないからな。
﹁はぁ⋮⋮結局明け方までエッチしちゃったわね﹂
﹁あの聖油本当に凄いもんなんだな﹂
ナカダシ
身体の相性が良いのか、お互いに夢中で相手を求めたせいか、気
が付いたらもう外が明るかったからな。マルフィーザは膣内射精さ
れる瞬間が好きになったらしくて、もう何度出したか覚えてない。
聖油の効果は勿論だけど、身体の、というかセックスの相性が良
1277
すぎて全然萎えないからな。こんな長時間セックスしたの初めてだ、
普通だったら嫁さんがへとへとになってそこで終わるんだけど、聖
油を飲んだマルフィーザは元気いっぱいというか、活力が漲ってた
からな。
体調は良いんだけど、寝てないせいか、少し体が重い。いや寝て
ないせいじゃなくて明け方までセックスしてたせいなのは分かって
るけど。
﹁屋敷に帰ったら寝よう⋮⋮あ、でも皆心配させたからフォローし
ないと⋮⋮特にもうすぐ結婚式のオリヴィアは不安だっただろうか
ら安心させてあげないと﹂
ドレスの受け取りと同時に浄室に泊まるから今日と明日しか、時
間がないんだよな。式を挙げたばかりのルーフェイとアルチーナと
も時間を作りたいし⋮⋮寝てる暇はなさそうだ、幸せだから別に良
いけど。
﹁結婚式かぁ⋮⋮アタシとも挙げてくれるんだよね?﹂
﹁当たり前だ、ただ結婚した順番って決まってるから、待ってても
らうことになるぞ﹂
﹁良いよ、ドレス注文して完成するまで待つ楽しみがあるからね⋮
⋮ただ妊娠して体型が変わったらどうしようね?﹂
ナカダシ
ドレスが完成する頃にはお腹が膨らんでるなんてありそうだな。
って言うか、昨晩何度も膣内射精したから今日から十月十日後出産
でもおかしくない。
1278
﹁多分お前と式挙げる頃には産まれてるかもなぁ﹂
隣に腰かけパンを食べてるマルフィーザのお腹を撫でると、少し
身を寄せ甘えてくる。普段口が悪い奴がこうして甘えてくるのって
ギャップもあって、可愛さが半端じゃない。街に入る受付を待って
る人たちの目が無かったら、押し倒してるのは間違いないくらい。
時折舌打ちや何かを殴る音が聞こえるが、まぁ受付が混んでて苛
立ってる人がいるのだろう。俺たちは焦る必要もないので、受付が
空くまで、こうしてマルフィーザとイチャイチャしながら幸せな時
間を過ごすのだ。
時折指にはめたお揃いの指輪を見ては、幸せそうに相好を崩すマ
ルフィーザ。この表情は反則だろ、思わずまた茂みに連れ込もうか
と真剣に悩みだした頃。不意に上空から声をかけられた。
﹁クリス様! 良かったご無事で⋮⋮えいっ!﹂
いきなり背後から抱き付いてきたのはティータニアだ。今日の朝
に着くって手紙出したから城門近くで待っててくれたのか。
﹁ただいま、ティータニア。心配かけてごめんよ﹂
﹁いえ、謝るのは私です、私の父が本当に申し訳ございません。罰
として孫が生まれても抱かせてあげない事にします﹂
流石にそれは可哀想じゃないかな? でも確かにあの王様だと、
赤ん坊を抱いて雲の上まで飛びそうだからなぁ。
﹁マルフィーザさんもお帰りなさい。いえ、クリス様と一晩過ごし
1279
たと言う事は、貴女も既に姉妹になったと思って良いかしら?﹂
﹁⋮⋮そ、その⋮⋮仰る通り、です。昨晩⋮⋮﹂
ティータニアの前だからか、また無口な令嬢モードになるが、ど
うせすぐボロが出るんだから早いうちに普通に接する様に言ってお
くとする。
﹁マルフィーザ普通に話せって、大体ティータニアはあのオべロー
ン王の娘だぞ、言葉遣いくらい気にしないって﹂
﹁⋮⋮あぁ、あの王様の﹂
﹁本当に申し訳ございません、私の父が⋮⋮﹂
マルフィーザが港に向かう前。オリヴィアの妊娠を祝うパーティ
ーで、嫁たち全員と顔を合わせてるので、普通に会話するようにな
ると二人は打ち解けた感じになる。しかし昨晩どんなエッチしたの
かって話題になってきたので、慌てて話題を変える。
﹁そ、そうだ昨日はみんなどうしてた?﹂
﹁ルーちゃんとアルチーナは残念そうでしたよ。結婚式の次の日で
すからイチャイチャしたかったみたいで、待ちきれず迎えに⋮⋮﹂
ティータニアのセリフが言い終わらないうちに、城門から出てき
た我が家の馬車から聞き覚えのある声が聞こえた。
﹁あなた様ぁぁぁぁ! おかえりなさいませ﹂
1280
ゴーレム馬車から飛び出してきたアルチーナを抱き止め、少し遅
れてルーフェイも馬車から飛び出て抱き付いてきた。うん、美少女
四人に囲まれてると、流石に目立つし、この馬車にはアストライア
家の家紋があるから、多分門番やってる兵士さん俺に気付いたな。
仕方ないからさっさと街に入ろう。俺を待たせたって神殿とかに
知られると、罰則はないにせよ多分兵士さん達が怒られるからな。
俺が勝手に受付が空くまで待ってただけなんだけど、気にする人は
気にするからなぁ、貴族やら勇者って立場は便利だけどこのへん面
倒臭い。
マルフィーザが御者をしてくれるので、馬車の中で三人のお姫様
に囲まれ屋敷に帰った。イチャイチャスキンシップしたかったけど、
マルフィーザを除け者にしたくないから、馬車の中ではお茶を飲ん
でただけだとは言っておく。
屋敷に帰ったら、ルーフェイとアルチーナは俺を気遣って休むよ
うに言ってくれたけど、式を挙げたばかりの新妻を放って寝るなん
て出来ん! あとオリヴィアとも結婚式の打ち合わせしとかないと
⋮⋮うーん、聖油を飲んでなかったら途中で倒れそうなくらい忙し
いな。幸せだから気にならないけどな。
∼∼∼∼∼
荒い息づかい。肢体を伝う汗。身体中が熱に侵され、もう限界だ
と泣いてお願いしても聞き届けて貰えずに激しく攻めたてられる。
﹁あぁ⋮⋮もう許してぇ。はぁはぁ⋮⋮んくぅ。もうだめぇ﹂
1281
﹁くっ! もうやめろ! 私の愛しいアンジェリカをこれ以上イジ
メるんじゃない! おのれ、おのれぇぇぇ﹂
﹁はぁはぁ⋮⋮お姉様⋮⋮くっ、身体が動きさえすれば﹂
私が攻めたてられるのに、何もできずただ言葉だけしか発する事
の出来ない兄と弟。その表情には絶望しかない。
﹁ひぃ⋮⋮ひぃ⋮⋮もうやだぁ、私は⋮⋮はぁはぁ、アンジェリカ
は良い子になりますからもう許してぇ﹂
﹁そうだやめろ! アンジェリカの代わりに私を攻めるが良い!﹂
﹁そうですリカーネ兄さんに全てを押し付けて、俺とお姉様は王都
に帰りましょう﹂
兄と弟の言葉なんて勿論無視される。今まで泣けばなんでも許し
て貰えた、お願いすればなんでも叶えて貰えた⋮⋮なのに、なのに
⋮⋮。
脚はもう震えるばかり、今まで食器よりも重い物を持ったことの
ない私の腕は、全部金属でできてるかのように重くて動かない。そ
れでもなお動けと攻めたてられる。
﹁もうだめなのぉ⋮⋮ふぅふぅ⋮⋮もうこれ以上されたら死んじゃ
うよぉ﹂
﹁くそっくそっ! アンジェリカが酷い目に遭ってるのに何もでき
ないなんて!﹂
1282
嘆く私たちを嘲るかのように、さらに激しく攻めたててくる。少
し動きが鈍ればお尻を叩かれ、無理でも動けと言わんばかりだ。こ
んな⋮⋮こんなのってないよ、もう許して⋮⋮。
﹁中庭を一周した程度で馬鹿なことを言ってるんじゃありません!﹂
煩いババア! どうせ汗を流すなら良い男とギシギシアンアン、
舐めて咥えて生産的な運動がしたいのよ! なんでこんな朝から中
庭を走らせられなきゃイケないの!
﹁お祖母様! お姉様が苦しんでるというのに、憐れむ気持ちはな
いのですか!﹂
﹁そうです! アンジェリカは精緻な絵画のように繊細なのですよ、
珠玉の肌が日に焼けたらどうするのですか!﹂
そうよ! もっと言ってやって二人とも、この私に中庭を走り回
るなんて苦行を強要するババアを何とかして! 昨日から姿の見え
ないお母さまは役に立たないから、アンタたちが犠牲になって私を
助けなさい!
﹁ええい、魅了を解除しても、会ったらすぐに元に戻るとは。やは
り根本から何とかしないと駄目ですね﹂
この屋敷にあった﹃ぶるま﹄とか言う運動服に着替えさせられ、
広い中庭を走れとか言われたのが今朝。中庭には二羽の巨大ニワト
リがいるから行きたくなかったけど、ババアに無理やりイカされ⋮
⋮おっと行かされた。
1283
いつもお母様と一緒にいる巨大ニワトリの姿はなかったけど、代
わりに兄と弟がいたので、助けに来たのかと期待したけど⋮⋮考え
てみればババア相手に役に立つわけなかったわよね。助けようとは
したみたいだけどあっさりボコボコにされたし。
私が走らされるってシゴキを受けてる間、喚くだけで役に立たな
いったらありゃしない。何しに来たのあいつ等は。あぁ早く私を助
けて名前も知らないカッコいい人。助けてくれたらお礼に私の身体
を好きにして良いから⋮⋮って、いたぁぁ! 廊下の窓からあの人
が私を見てる!
ひゃっほい♪ この私のスタイルが良く分かる﹃ぶるま﹄、しか
も汗だくの扇情的な姿なら悩殺確定ね♪ 今イクわ! とにかくあ
の人に向かってダァァァァッシュ!
﹁やっぱりまだまだ元気じゃないですか馬鹿孫め。シロさんクロさ
ん、捕まえてください﹂
﹁のほぉぉぉぉ! いつの間にニワトリが! いぃぃやぁぁ⋮⋮助
けてぇカッコいいお兄さぁぁん﹂
私の声が届いたのか、彼は中庭にやって来てくれた。私の襟首を
咥えてるニワトリが、広げた羽がまるでスカートを抓んでるかのよ
うに、まるでカーテシーのように身体を沈めて彼を迎える。ちょっ
と上下運動しないでよニワトリ、首が締まるじゃないのよ。
﹁おはようございますフローリパさん。今朝無事に戻ってきました﹂
﹁お帰りなさいませ。ご無事でなによりでございます﹂
1284
助けに来てくれたはずの彼は私を無視してババアに挨拶する。あ
ぁぁん、そっけなくされるのもイイけど、とりあえず私をニワトリ
から解放してほしいなぁ。目線を向けてもこっちを見てない。くっ、
放置プレイなの!
﹁貴様! よくも堂々と顔を出せたな!﹂
﹁お姉様を連れ去った罪を贖わせてやる!﹂
ボロボロの身体なのに何とか立ち上がっても、ババアの振るう鉄
扇で折檻される役に立たない兄弟。まぁどうでもいいか。役立たず
どもを視界にも入れず、普通に会話を続ける二人。あの私は? 下
着を穿かないでいつでも挿入オッケーな美少女を無視するとか酷く
ない?
﹁しかし、知能が高いとはいえ良く躾けましたね、まさかニワトリ
にお辞儀されるとは思わなかった﹂
﹁私も不思議なのですが、オードが世話をしてるうちに、いつの間
にかあのようになりまして⋮⋮﹂
﹁モントレーの血筋なんですかね? お伽話じみた話だと思ってま
したけど﹂
﹁初代モントレーの妻の⋮⋮妙に動物に好かれるとは思ってました
が、流石当主様は博識でいらっしゃる﹂
チラッ、チラッ。ババアがコワイから声は出さないけど、必死に
助けを求める視線に気付いてお願い。ニワトリの嘴で襟を抓まれ吊
るされたまま放置はちょっと可哀想と思って欲しいなぁ。この十四
1285
歳にしてスタイル抜群のピッチピッチの超美少女は思うのよ。
このまま無視されたままだとお兄さんは屋敷に戻ってしまう。く
っ、もうババアがコワイなんて言ってられない⋮⋮ん? まさかア
ソコに、おっと発音が悪かったわね、あそこにいるのは私が顔を覚
えてる数少ない女!
﹁ちょっと! 名前忘れたけど、そこのポーション持ってくる業者
の女。このニワトリなんとかなさい!﹂
﹁⋮⋮無理、です﹂
こ、この無口な無愛想女、私の命令に逆らうとは実家がどうなっ
ても良いの! って、なんで彼と腕組んでるの⋮⋮クンクン、この
女香水で誤魔化してるけどセックスしてお風呂に入って無いわね、
しかもそれほど時間が経ってない⋮⋮そして見せつけるようにお兄
さんと腕を組んでるって事は⋮⋮。
嫉妬
今までで一番激しい﹃嫉妬﹄が燃え上がり不愛想女を向けるけど、
何の手応えもない。ぐぬぬ⋮⋮彼の手による封印のせいで、呪いそ
のものが発動しない。
﹁むきぃぃ! なんで無愛想女に手を出して私は無視なのぉぉ! 貧乳なの、お兄さんは貧乳好きだったの! そういえば殿下も、の
ほぉぉぉぉ!﹂
額のアクセサリーが光った瞬間いつもの痛みに襲われる! ちょ
っとババア、今重要なんだから後にしなさいよ!
ひとえ
﹁申し訳ございません、偏に私の力不足にございます﹂
1286
﹁謝らないでください、そんな短期間で躾けられる訳ないですし。
それよりも明日は昼過ぎにドレスの受け取りと一緒に浄室に⋮⋮﹂
お、お兄さぁぁぁん! 何事もないかのように会話してないで助
けてぇぇぇ! あぁイッちゃう! お兄さんが私を無視してイッち
ゃうのほぉぉ!
﹁さて、お前たち⋮⋮なぜお前たちは屋敷の主人に挨拶もまともに
できないのですか。ニワトリにすらできると言うのに⋮⋮私の孫は
オリヴィア以外はニワトリ未満ですか!﹂
この後、無茶苦茶しごかれた⋮⋮。う、うふふ、明日の昼から明
後日までババアは留守なのよね。な、なにがなんでも自由を掴んで
見せるわよぉぉ。その為にも準備しなきゃ! ほらアンタたち寝て
ないで作戦考えなさい、ババアが留守の間に逃げるために寝てる暇
はないわよ! あ、私は美容のために寝るけど。
1287
寝てる暇は無い︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
1288
隠れ里︵前書き︶
3月10日に本作2巻の電子書籍が配信を開始します。
1289
隠れ里
石畳を馬蹄で断続的に叩く音と、アルチーナとルーフェイの楽し
そうな話声を聞きながら、今朝通過した城壁の門にやって来た。
本来城門の出入りはきちんと受付する必要があるのだけど、俺は
そのまま通過できる。門番を務める兵士が妙に緊張した様子だけど、
もっと気を楽にして良いんだよ? 単にピックニックに行くだけな
んだから。
﹁お疲れ様、頑張ってね﹂
﹁きょ、きょ! 恐縮であります!﹂
う、う∼ん⋮⋮軽い感じで声をかけても余計緊張させるだけか。
兵士の皆さん最敬礼のまま微動だにしないよ。俺はちょっと気まず
いんだけど、お姫様のアルチーナとルーフェイは気にした様子はな
いな。これも王族の教育の成果なんだろうか? まぁともかくさっ
さと城壁の外に出て馬を走らせ、森へと向かう。
今日はアルチーナとルーフェイとデートだ。オッサンに連れ去ら
れても急いで帰ってきたのは、まず第一にオリヴィアとの結婚式の
準備の為だったんだけど⋮⋮終わってた。
義理の祖母
屋敷に帰って急いでオリヴィアに確認したら、大変頼りになるフ
ローリパさんが精力的に動いたので、俺が口出しする必要がないく
らい段取りが整ってたのだ。
1290
元々は身内だけで結婚式を挙げる予定だったんだけど、フローリ
パさんの人脈の凄まじさを垣間見たと言うか、大貴族が本気出すと
スゲェなと言うべきか⋮⋮アルチーナ達との結婚式の後だから準備
が早いってのを差し引いても、予定よりも遥かに規模の大きい結婚
式になりそうだ。
バカ
そのことを聞いてお礼しに行ったときはアンジェリカを指導⋮⋮
いや矯正? ⋮⋮って言うか調教してる最中だった。ほんと元気な
人だなぁ、なんか余計なのが二人ほど居たけど一瞬で黙らせるし。
この兄弟はオリヴィアの男性恐怖症になった原因の何割かを占め
てるから、本邸には近付けさせないようにとだけお願いしておく。
バカ
まぁ何重にも魔術的な守りで本邸には立ち入れないようにしてるけ
くわ
ど、気合と煩悩だけで俺の術を打ち破るアンジェリカを見るとどう
にも安心できないからな。
アンジェリカ
ちなみに肝心のバカはニワトリに首根っこ銜えられて、なんかチ
ラチラ見てくるが無視。更生したら義妹として扱うからフローリパ
さんの言うことちゃんと聞けよ。
第二に元帥なんて地位に就くなら、この街へやって来ている国軍
の騎士達と会う必要があるんじゃないかと思ってた。
特に実際に軍隊を取り仕切る将軍には、挨拶に行った方が良いん
じゃないかと確認してみたら、なんでも式典が始まってからずっと、
軍幹部たちは色々挨拶回りをしてるそうで忙しいらしい。オリヴィ
アとの結婚式に顔を出す予定だから、そこで顔を合わせる段取りに
なってるらしい。
なんにせよ正妻であるオリヴィアと式を挙げる事は知らされてる
1291
から、正式な元帥就任は式の後になってる。
第三に西の海岸で建設中の港を襲った帝国軍の件も、魔法道具に
よる短い連絡や使い魔を使った手紙ではなく、ちゃんと顔を合わせ
て報告する必要がある。こういう重要な事は急いで伝えるべきなん
だけど、肝心のカール王子は対応に追われてて面会の時間が取れな
い。
勿論重要な事は遠距離念話の魔法道具で伝えてはいるから焦る必
要はない。忙しいのなら仕方がないのでこちらも結婚式の後で時間
の都合をつけてくれるそうだ。
つまり忙しくなると思って急いで帰ってきたけど、予想外に自由
な時間が出来たので、今日はルーフェイとアルチーナの二人とピク
ニックに行くことにしたのだ。
オリヴィア達も一緒が良いんじゃないかと思ったけど、今日は二
人の為に時間を使うのだと嫁さん達の中で話は付いてて、ルーフェ
イとアルチーナを除く嫁さん全員は結婚式の為の話し合いをするそ
うだ。
元帥就任後に結婚する予定だったマルフィーザが、予定より早く
嫁入りしたので段取りを修正するらしく、皆真剣な表情をしている。
やはり一生に一度の晴れ舞台に失敗は許されない。夫である俺が何
故か仲間外れだけどな、良いんだ、こういうのは女性側の意見を全
て受け入れるのが男の甲斐性だもの。
マルフィーザの肩をディアーネとメリッサが優しく抱いて、話し
合いをする食堂に向かう。なにやら﹁そのお肌の事でお話が⋮⋮﹂
とか﹁近くで見るとなんてきめ細かさ⋮⋮﹂とか聞こえたけど化粧
1292
の話かな? マルフィーザは何故かビビってるように見えるけど、
緊張してるだけだろう、アイツ丁寧な言葉遣いとか苦手だからな。
オードさん
あとお義母さんは、オリヴィアの為に髪型を整える練習をしている。
今まで髪型セットされたことはあっても、逆は一切経験がないので
頑張ってる。
﹁それでは旦那様、わたくしたちは屋敷で過ごしておりますので、
アルチーナとルーフェイの事をよろしくお願いします﹂
急な予定変更にも嫌な顔一つ見せずに気遣ってくれるなんて、や
はにか
っぱりオリヴィアは美人で可愛くて優しい最高の嫁さんだ。まだま
だ目立たないお腹を撫でつつキス。唇を離すと輝くような含羞みの
微笑みを見せてくれる。
﹁それじゃ軽く汗を流したら出かけてくるよ﹂
﹁はい、お気をつけていってらっしゃいませ﹂
もう一度キスをしたら、風呂に向かい汗を流す。今日の予定は既
にルーフェイの希望で森にピクニックへ行くことは決定していて、
ついでにアルチーナの希望で馬を借りてきていた。ゴーレム馬車も
悪くはないけど、折角出かけるのなら馬の方が彼女の好みらしい。
借りてきた馬は二頭、一頭は俺でもう一頭にルーフェイとアルチ
ーナが二人乗りだ、ルーフェイは一人で馬に乗ったことが無いそう
だから仕方がない。一見して凛々しい少年に見えるアルチーナの後
ろで横乗りしてるルーフェイの姿は、ちょっとヤキモチ焼いてしま
うくらい絵になっていて、なんか通行人の注目を集めてる。悔しく
なんてないもんね、二人とも俺の嫁なんだし!
1293
そんな感じで目立つ二人と一緒に街の外へ出ると、アルチーナは
なにやら地図を広げて先導してくれる。森にピクニックに行くのは
ルーフェイの希望だけど、行先はアルチーナがカール王子に相談し
て決めたらしい。
﹁それでカール王子がくれた地図の場所に行ってみるんだよな﹂
﹁はい、お兄様が仰るには、このカロリングの街のすぐ近くの森に
は、勇者以外には入り口を見つけられない隠れ里の伝承があるのだ
とか。まぁ古い文献の上にうろ覚えらしいので真偽のほどは怪しい
そうです、カク=シマップ遺跡とやらは﹂
カロリング家に伝わる伝承なんだろうけど、アルチーナの口ぶり
からすると結構眉唾みたいだな。その地図を見せて貰ったけど、カ
ール王子が描いたらしい地図は⋮⋮ぶっちゃけ下手で良く分からん。
注釈があるから辛うじて街道の場所と目印が分かるくらい。
カール王子がピクニックの場所としてアルチーナに場所を教える
くらいだし、多分危険はない、というか隠れ里があるなんて思って
ないだろう。そもそもピクニックのついでで見つかるような隠れ里
があってたまるか。
極々稀に見つかる隠れ里と言うのは、現在とは全く異なる失伝し
た魔術体系による不可思議な魔法によって隠蔽された遺跡の事で、
数十年にも及ぶ地道な調査と、微かな文献からあるかどうかも分か
らないヒントを探し続けるような、狂気じみた執念が無くては発見
は不可能。故に見つけたりすれば大偉業として歴史に名前を残すの
だ。
1294
元々散歩したり、のんびり弁当を食べたり、水辺で遊んだりする
程度しか考えてない。ピクニックのついでに、ちょっとした宝探し
の気分を味わう程度だ。そもそもこれから行く森は大勢の冒険者に
よって、ほとんど魔物が狩り尽くされ、探索され尽くしてるような
安全な場所だしな。
馬に揺られながら、地図に描かれたカク=シマップ遺跡とやらを
目指す。まぁどうせこんな街の近くに隠れ里なんてあるわけない。
この手の文献は九割は創作だし、残り一割の正しい文献でもとっく
に風化してるなんてのが殆どだ。
∼∼∼∼∼
式典も無事終わり、本格的に始まる開拓事業に向けて、一時期ほ
どではないけど忙しくなってきた。特に西の海岸に帝国軍がちょっ
かいをかけてくるのは予想外で、その対応の為余計に忙しい。
最初の予定だと集めた冒険者や傭兵を中心にした軍団を率いて、
五十年前にこの地に発生した魔王種﹃月狼王クルト﹄を打倒する計
画だった⋮⋮勇者がやって来てあっさり倒したけどな、畜生、ボク
が計画実現のために費やした時間と苦労を返せ。
そんな贅沢な文句が頭に浮かぶくらいに今はちょっと手が足りな
い。いや分かってるんだよ、魔王種なんて討伐しようとしたらどん
なに綿密な計画を練っても、どれだけ幸運に恵まれようとも犠牲者
が四桁を下回ることはない、むしろ五桁の犠牲すら想定の範囲内だ。
それが犠牲者ゼロなんて文句を言ったら罰が当たるってもんだ。
1295
計画は大幅に前倒しになって、先ず五十年前まで人の住んでいた
かつての町や村を人が住めるように復興する。魔物の心配が殆ど無
くなったので、ボクの子供が大人になる頃にはきっとかつての賑わ
いを取り戻せるだろう。ただ計画の前倒しが大幅過ぎて資材が足り
ない、金はあってもモノが無いので急いで調達しないといけない。
式典で国中の貴族が集まってるのは不幸中の幸いだ、領地が近い
人に頼んで物資の調達はなんとかなりそう。ただその分開拓事業に
一枚噛みたい人もいて、後継ぎになれない次男以下を家臣にしてく
しがらみ
れって話を持ちかけられる。
つて
これを伝手と見るか柵と見るかは人それぞれかな? 普通だった
らあまり親しくない家の子供を家臣にするのはリスクが高いので、
暗黒の労働環境
慎重になる必要があるんだけど⋮⋮まぁ数回修羅場にぶち込めばカ
ロリング家の家風に染まるだろ。
親父
義父の代まではのんびりしてた筈なんだけどな? まったく誰が
悪いんだろう家臣たちの嘆きを聞かせてやりたいよ。多分国王のせ
いだな、もしくは時代が悪い。ボクは悪くないと自分を信じてる。
後はボクに縁談を持ってくる人がたまにいるけど丁重に断ってる。
ボクはどこぞの種馬勇者と違って一晩で何人も相手に出来ないから
ね。
さて、今ボクの目の前にいる人は先に言ったどの要件とも違う。
なんでもカロリング家に伝わる文献を見せて欲しいそうだ。
﹁私どもの要求を快く受け入れてくださり、賢古会を代表してカロ
リング卿に感謝いたします﹂
1296
﹁いえいえ書庫を開けるくらい大した事はありませんよ、グッラザ
卿﹂
このグッラザ卿は王城にある美術品の管理を任されている法衣子
爵で、歴史的な価値のある美術品に関してとても造詣が深く、我が
国の美術界の重鎮であり歴史研究の第一人者と言える人物だ。
彼が主催するサロン﹃賢古会﹄は美術、音楽、文学等、各分野の
権威と言える人物たちの集まりで、このサロンのメンバーは一言で
表せばこの国トップクラスのインテリ集団。賢古会に名を連ねるの
は教養人として認められるのと同義なのだ。当然入会したがる人は
大勢いるが、身分など一切関係なく、能力を示さないとならず、し
かも会員数名の推薦が必要と、かなり狭き門なのだそうだ。
そんな権威のある人だから、最初は気難しい人かもしれないと思
ってたら、実際に顔を合わせてみると知的で穏やかな老紳士であり
好感が持てる人物だった。既に七十歳近いのに国中を歩き回って、
地方に伝わる文献などを写本したりと精力的に歴史の研究をしてい
る。なんというか年齢を感じさせない元気なお爺さんだな。長くて
白い髭が無ければ多分五十歳くらいに見えるかもしれない。
﹁宜しければ大神殿にも紹介状を書きましょうか? 法の女神大神
殿の歴史はこの街よりも古い。マーニュ王国以前のシャーフル王朝、
その前のホルス=カーナ王朝時代の文献も残ってる筈ですよ﹂
﹁おぉ! ありがとうございますカロリング卿。ホルス=カーナ王
朝時代の書物などは、シャーフル朝時代の初期に行われた焚書のせ
いで貴重ですからな﹂
ホルス=カーナ王朝は相当豊かな時代で絢爛な文化が花開き綺羅
1297
星のように芸術家たちの傑作が生まれた時代だ。ただ芸術に傾倒す
るあまり政治が疎かになったせいで、シャーフル王朝の台頭を許し
てしまった。そして容赦のない前王朝の破壊と否定により、余計に
ホルス=カーナ時代の美術品や書物は希少となった。
流石に神殿にまで手は出なかったので、各地の大神殿にはそれな
りの文献が残ってる。このグッラザ卿は大神殿の記録を見せて貰う
のがこの街に来た主な目的みたいだし、紹介状くらいで感謝して貰
えるなら安いもんだね。
おっと? 話してる間に遠距離念話の魔法道具が点滅しだした。
クレイターの王様がやって来た時に貰ったもので、遠く離れた場所
でも対となった石板を通じて念じれば会話できる便利なものだ。念
話と言えばテレパシー的なものと思えるけど、実際は﹃石板に念じ
ると片割れの石板が音声を再生する﹄ものだから使用者以外にも声
が漏れたりする。
オヤジ
ボクが持ってる念話の石板は二つ。一つは国王で、もう一つはク
リス殿が対となる石板を持ってる。えーとこっちはクリス殿からか
な?
グッラザ卿に一言断ってから魔法道具を起動させると、アルチー
ナの声が聞こえてきた。
﹃ザザッ⋮⋮お兄様、いきなり申し訳⋮⋮ザザッ⋮⋮ご報告したい
事が⋮⋮ザザッ﹄
魔法道具なのになんか聞き取りにくいな? なんか混線してる感
じだ。故障かな?
1298
﹁ああ、聞こえてるよアルチーナ。いきなりどうしたんだい? お
前はクリス殿とデートじゃなかったか?﹂
﹃⋮⋮ザザッ⋮⋮実はお兄様から貰った⋮⋮ザザッ⋮⋮地図なんで
すが⋮⋮ザザッ⋮⋮見つけました﹄
﹁見つけたって⋮⋮なにを? まさかまた魔王種とでも遭遇したの
かい?﹂
素材が希少な魔物でも見つけたのかな? でもそれなら報告の必
要はないし⋮⋮帝国の密偵がいたとか? 密偵なら急いで報告して
くるのも当然だな、その場合なんでアルチーナが報告してくるのか
が分からないけど⋮⋮。
﹃ザザッ⋮⋮あ、クリス様が認識阻害の魔法陣壊しました。雑音が
消えましたけどお兄様はどうですか?﹄
なんだか嫌な予感がするけど、聞かないと後で余計に苦労するの
は経験則で知ってる。聞きたくないけど、凄く嫌な予感するけど、
とりあえず雑音が消えたとだけ返事しとく。
﹃カク=シマップ遺跡を見つけました﹄
﹁ゴメンお前が嘘言ってるとは思わないけど、本当にあったの? 冒険者たちが使うベースキャンプ跡地じゃなくて?﹂
﹃ベースキャンプにしては立派すぎますね、クリス様は壁に掛けら
れた絵画を見てホルス=カーナ王朝中興期のものだと仰ってます。
私にはさっぱりですけど⋮⋮﹄
1299
あぁ、うん。お前歴史が苦手だったよな。しかし忙しくなってき
た時期に隠し里とは面倒な、壁に刻まれた落書きですら歴史的な資
料になる場合もあるから、調査の為に下手な人物を選べないし、宝
物とか見つかったら所有権とか面倒なんだよな。
見つけた人の物になるのが基本だけど、研究資料にしたいから買
い取りたい人と、純粋に芸術品として欲しい人と、転売目的に買い
叩こうとする人とかが集まった上で、カネやらメンツやら色んなモ
ノが絡まって拗れる、ほぼ間違いなく拗れるのだ。そして調整する
のは領主だ、つまりボクだ。面倒くせぇ、でも美術品として価値が
あればあるだけ中間マージンが手に入るから真面目にやらないとな
ぁ⋮⋮はぁ。
﹁さっき魔法陣壊したとか言ったけど、今から人を送って入れるか
? あとボクの描いた地図ってアレ合ってたの?﹂
﹁認識阻害の結界が消えたので大丈夫みたいです。地図は分かりに
くかったですけど位置はほぼ正確でした。あと壊したとは言いまし
たけど、正確には結界を張る祭壇がありまして、維持の為の供給を
止めたので機能停止したんです﹂
オヤジ
それならその遺跡で待っててもらって⋮⋮うーん、武官たちを派
遣して調査の為の人手を⋮⋮あ、でもその前に一応国王に連絡を⋮
⋮どうしようかと考えてると唐突に肩を掴まれた。
﹁カロリング卿、ちょっと変わってください﹂
﹁へ? どうしたんですかグッラザ卿?﹂
あれ? さっきまでの温厚そうな老紳士はどこ行った? なんか
1300
グッラザ卿の目が血走ってて怖いんだけど。
﹁殿下! アルチーナ殿下、壁の絵画と仰いましたが詳細は? 後
は建築の様式は? ホルス=カーナ中興期と断じた根拠は? 雪の
降るラーロン地方ですと、恐らく地下室があるはずですが、そちら
の確認は⋮⋮﹂
﹃へ? い、いや、その⋮⋮遺跡に入ってすぐ肖像画がありまして。
近くの金属板にアスラン・カーナと書いてあるから中興期だろうと
⋮⋮と、クリス様が仰いました﹄
﹁なんと! アスラン王の肖像ですと! 年代は? 彼の在位期間
は二十年ですから何歳くらいですか! 画家は抽象派ですか実写派
ですか? 他の肖像画は?﹂
畳みかけるような質問の嵐に答えようがないアルチーナ。勉強サ
ボって剣を振り回してたアルチーナじゃグッラザ卿とは話がかみ合
わないか、仕方ないフォローしてやろう。
﹁グッラザ卿、数百年前の王朝の遺跡を見て、直ぐにどういうもの
か分かる人は少ないですよ。当時の出来事を学んでいても、実際に
どのような生活をしていたのか知りようがないのですから﹂
﹁むむっ! では今すぐ現地へ向かいますぞ! カロリング卿、申
し訳ございませんが中座を⋮⋮殿下に渡した地図の写しをくだされ、
賢古会のメンバー全員で向かいます!﹂
なんか怖いので逆らえずにアルチーナに渡した地図と同じ地図を
描いて渡す。ボクの下手な絵でも大体の位置関係を理解したらしく、
従者に地図を渡して﹁追い付いてこい﹂とだけ言い残し出て行った。
1301
﹁なぁ、アルチーナ﹂
﹃なんでしょうお兄様﹄
﹁とりあえずグッラザ卿がそっち行くからよろしく。お前顔は知っ
てるよな、城で美術品の管理してるあの白い髭の爺さん﹂
﹃はぁ⋮⋮仕方ないですね、でも隠れ里の発見者には遺跡で見つか
った物品を所有する権利。コレは保証してくださいね、嫁入りした
からにはアストライア家の、いえクリス様の為に働きますからね私﹄
権利に関しては勿論保証すると約束して、どういう状況で隠れ里
を見つけたのか聞いてみると⋮⋮うーん、やっぱり勇者しか立ち入
れないって理由があったんだ、要するにアホみたいな魔法防御力が
無いと駄目な遺跡だったのね。
隠しマップ
あぁ、どうしようかな? 隠れ里発見なんてどうせすぐに知れ渡
るし、この後の予定は全部キャンセルしてボクも現地に行こう、そ
うしよう。決してこの後に待ってる国中の貴族たちとの折衝が面倒
になった訳じゃないよ! 勘違いしないでよね!
嘘です、繰り返すが国中の貴族が集まってる今、隠れ里から見つ
かる宝物とか物凄く扱いに困るから部下に押し付けたいです。畜生、
オヤジ
なんでボクばっかり苦労するんだよ! こうなったら親父にも苦労
を押し付けてやる、とりあえず国王が持ってる魔法道具と対になっ
てる石板を起動させて念を飛ばそう。
1302
隠れ里︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます、次回はルーフェイ&ア
ルチーナのエッチ予定。
1303
遺跡︵前書き︶
お待たせしました、二話連続投稿します。
1/2
1304
遺跡
パカラパカラとカロリングの街から、のんびり馬の足で三十分程
度の場所。賑やかな街を離れ自然の中で静かに過ごしたい人たち向
けのデートスポット、通称﹃憩いの森﹄。
数年前に冒険者たちの手で魔物や大型肉食獣の類は狩りつくされ
てる安全な森で、高低差も少なく馬二頭が並んで走っても余裕があ
るくらいの間隔で伐採されている。
たまに馬車でやって来てキャンプする人がいるって聞いたから、
時間に余裕がある時にでも嫁さん達全員連れてやってみようかな?
ただしカロリング家家臣の管理人さんに要予約らしい、そうしな
いと勝手に住み着く人がいるから仕方ないね。
すぐ横を並走するアルチーナとルーフェイが乗ってる馬に目を向
けると、外を出歩くのが好きなルーフェイのしっぽは機嫌よさげに
揺れてる、ついでに髪と同じ桃色の耳もピコピコと忙しない。
乗馬が趣味のアルチーナも鼻歌を歌いながら森の景色を楽しんで
る。その横顔を見つめていると不意に目が合って、少し恥ずかし気
に含羞むのが最高だ。
少し耳をすませば小鳥の歌声、風が吹けば葉擦れ、川に近づけば
せせらぎが聞こえる。賑やかな街の中も良いけど、こういう警戒す
る必要がない程度に人の手が入った自然の中は落ち着くし楽しいな。
俺が山育ちってのもあるけど、可愛い嫁さん達が機嫌良さそうにし
1305
てれば俺も楽しいのだ。
暫く森の中を進むと、水場の近くに木こり小屋があって、そこに
馬を繋ぎ新妻二人の手を取って森の中を歩く。もう少し進めばアル
チーナが貰った地図に書いてある遺跡の場所だ。ほぼ間違いなく隠
れ里なんてないと思うけど、景色のいい場所でもあればそこで弁当
でも食べようかな?
うっそう
森の中を二人のお姫様と手を繋いでお喋りしながら歩く。そして
目的の場所のほど近くに、不自然に鬱蒼とした場所を見つけた。な
んであのへんだけ木が密集してるんだろ?
怪しいので注視してみると⋮⋮ふむ、なんか生き物全般を避ける
類の術の気配がする、精神に干渉するタイプの結界だから闇属性か。
多分俺でなかったら結界がある事すら気付けないだろう。手を繋い
で隣を歩いてるアルチーナとルーフェイはごく自然に方向転換し、
別々の方向に歩き出そうとしてる。
﹁二人とも止まって﹂
﹁わふっ? あ、あれ? どちらに向かうのですか?﹂
﹁あなた様? まっすぐ北に向かってる筈では⋮⋮あれ?﹂
﹁とりあえず確認なんだけど、二人は精神干渉を無効化する装備を
つけてきたか?﹂
俺の質問に二人は頷いた。いつでも装備してるのが王族の義務と
もいえる精神干渉無効のアクセサリー。必要な素材は希少だし、極
々一部の付与魔術師にしか作れないとあって物凄く高価なものだ。
1306
高価なだけに性能は間違いないが、それでも質には差があって、
アルチーナ達のアクセサリーは王様や王太子が身に付ける物よりは
幾分か劣る。
それでも魅了や幻惑から身を守るには十分以上なのだけど⋮⋮無
効化しきれないって事は、それだけ目の前の結界は強力という事か。
どうしたものかな? この先に結界で生き物の侵入を拒んでる場
所がある。そんな場所にルーフェイとアルチーナを連れて入って万
が一にも危険に晒すわけにはいかない。そもそも目的はピクニック
なんだし、今日は楽しんで後日冒険者の有志を募って探索すればい
い。
⋮⋮が、隠れ里の発見とは大偉業だ、間違いなく歴史に名前が残
る。そんな歴史的な発見の現場に、まして第一発見者になる機会に
何も言わないで除け者にしたくはない。怒らないにせよ残念そうに
する二人を想像したら嫌な気分になるからな、やっぱり嫁には喜ん
で貰いたい。
出来れば二人には安全な場所にいて貰いたいんだけど、一応確認
だけして今日は報告だけにするように説得すれば良いかな?
﹁どうやらこの先に認識を狂わせる結界があるみたいなんだ。地図
が正しいとして多分カク=シマップ遺跡だと思うけど、俺としては
場所だけ報告して⋮⋮﹂
﹁行きましょうあなた様!﹂
﹁凄いです! 凄くワクワクします!﹂
1307
﹁よっしゃ任せろ!﹂
よーし、俺の可愛いお姫様たちが期待してるなら俺頑張るよ! なぁに俺が二人を守れば良いだけだ。万が一にも危険が及びそうな
ら遺跡は粉々にしよう、そうしよう。
オラクルハンマー
俺の嫁に危険を及ぼす存在は俺の中では完全に大罪認定なので、
術者視点の罪の重さで威力が増減する︻神判鉄槌︼は、天から無数
に降り注ぎ、遺跡程度は容易く破壊し尽すだろう。貴重な歴史資料
? 美術品? それは嫁より重要なのか? 断じて否だ。
早速遺跡に侵入するべく生き物の認識を阻害する結界を解除する
が、すぐさま修復される。永続タイプの結界か、ここまで強力だと
逆に内部は安全ともいえるかな? 二人には俺のシャツの裾を掴ま
せて、目を閉じながら慎重に歩かせる。認識阻害の結界がアクセサ
リーの精神防御機能よりも強力な以上、こうしてないと迷子になる
恐れがあるからな。
そして鬱蒼とした茂みを抜けたその先は⋮⋮まるで神域であるか
のように清浄な空気で満たされていて、床一面にむした苔はまるで
深緑の絨毯のよう。石造りの大きな城めいた建物は数百年の時を経
て自然と融和している。
﹁わふぅ⋮⋮綺麗です﹂
﹁凄い⋮⋮本当に遺跡があったのですね﹂
アイテムボックス
どうやら遺跡の内部には結界は無いようで一安心。とりあえず︻
収納空間︼から遠隔操作できる藁人形を取り出して内部へと送るか、
1308
視覚だけ共有して構造だけでも確認しないとな。罠とかあったら困
るし、それでなくても三人で歩いたら老朽化した遺跡の石壁でも崩
れたら危ないからな。
﹁アルチーナ、俺はちょっと内部を見てるから、悪いけどちょっと
カール王子に報告してくれないか﹂
﹁はい、お任せください⋮⋮うーん、あなた様、どうも結界のせい
で声が届きません﹂
ふるい
渡した遠距離念話の魔法道具からは、砂利を篩にかけたような音
ばかりで連絡が出来ないようだ。認識阻害は念話にまで作用するの
か。
﹁この手の結界は内部に﹃要﹄があるはずだから、それを何とかし
ないと駄目か⋮⋮ちょっと待ってろよ﹂
あたりを見渡すと、あまり警戒せずに物珍し気にこちらを眺めて
るリスや小鳥といった小動物が結構いた。この結界内部に住んでる
ってことは、多分数百年も外敵がいない環境で育ったから警戒心が
全く無いんだな、その証拠にルーフェイが近寄っても逃げないし、
差し出したパンくずとか躊躇なく食ってるし。
とりあえず無警戒の小動物たちの記憶を覗かせて貰う、小動物の
思考は人間とはかなり違うけど、遺跡内部に関して分かる範囲では
﹃涼しい﹄﹃暗い﹄﹃ピカピカ﹄とかが殆どで、あまり危険は無さ
そうだ。まぁ見たところ砦とか倉庫ではなく、人が住む為の場所な
んだから、内部に罠とか普通は無いよな、昔の人も不便だろうし。
それに小動物がいて、しかも無警戒となると、捕食する生き物は
1309
結界の内部には恐らく存在しない。つまり魔物は居ない。遺跡の内
部は不明だけど遺跡の外側であればむしろ安全か。一応魔物避けの
術だけは構築しておいてっと。
﹁要を探すのは後にして、少し休もうか。遺跡の外側は安全だとは
思うけど、俺からあまり離れないようにな﹂
﹁はいです。うふふ、ここの子たち人懐っこくて可愛いです﹂
リスや小さな猿がルーフェイの手や肩に乗り身を擦りつけてる。
ルーフェイの体温が高いからか、それともパンくずがもっと欲しい
のかは分からないが、あっという間に懐かれたもんだな、ホント人
間に警戒しないなここの動物たち。野生で生きられるんだろうか?
無理そうだ、ここの結界解除しても動物除けの結界くらいは張っ
ておいてあげよう。
見ればアルチーナの足元にもモコモコの毛玉みたいなウサギが集
まってる。アルチーナも女の子らしく可愛い動物は嫌いじゃないよ
うで、背中や頭を撫でては微笑みを浮かべてる。
アイテムボックス
俺はというと⋮⋮︻収納空間︼から果物とか野菜を取り出して与
えたら、色々と寄ってきて身動きが取れない。小動物だけかと思っ
たら嬉しそうに果物を頬張る大型犬みたいのとか、尻尾がいくつか
枝分かれしてるデカい狐っぽいのとかが、もっと寄越せとばかりに
集って来るのだ。
デカい動物はそれほど多くはいない犬が三頭、狐は二頭だ。小さ
い連中を踏まないように気遣ってるのか、それとも果物を持ってる
のが俺だと分かってるのか全部俺に集まってくる。コラ服を引っ張
るな、舐めるな、重いから圧し掛かってくるな。
1310
﹁わふぅん! だめですよぉ、服の中に入ってきちゃ駄目ですよぉ、
あはは、だ、だめ。舐めちゃだめですよぉ、わふぅん!﹂
﹁こ、こら私の服⋮⋮や、やぁ、くすぐったい! あなた様ぁ助け
てください。服の中に入って、あははは! だ、だめ動かないでぇ﹂
俺が動物たちに囲まれ身動きできない間に、どうもアルチーナ達
もピンチになってる。おのれ小動物ども、俺の嫁を全身舐めまわし
て良いのは俺だけだぞ!
アイテムボックス
取り出した食べ物の中では果物、特にリンゴが人気っぽいので、
︻収納空間︼からあるだけ全部取り出し遠くに放り投げる。現金な
もので俺の周囲の犬や狐は勿論、小動物たちの大半はリンゴを追っ
て俺たちから離れた。
あとはルーフェイたちの服を脱がせて、中に入り込んだけしから
ん小動物どもに餌を与えて遠ざける。そして再び囲まれないように
俺たちの周囲に動物除けの結界を張る。ふぅ、動物との触れ合いは
良いけど限度ってものがあるだろ。唾液でベトベトだし、せめて濡
れタオルで身体拭きたい。それはアルチーナ達も同じなようで、三
人で服を脱いで身体を洗う事にする。
脱がせてから気付いたんだが、人懐っこい動物たちに囲まれたせ
いで服には動物の毛がたっぷりだ。野生動物はノミとかの心配があ
るから殺虫効果のある香を焚きこめて、なおかつちゃんと服にブラ
シをかけないと駄目なんだが、その間下着姿でいさせるわけにもい
くまい。俺の理性が耐えきれず弁当の前にアルチーナ達を性的に食
べちゃうからな。
1311
一先ず着替えを取り出して⋮⋮自分の服はいくつか予備があるけ
どこの二人用のは﹃ぶるま﹄と半袖の体操服しかない。仕方ないの
で﹃ぶるま﹄姿になってもらう。
俺は山での生活での必需品である殺虫香を焚いて、アルチーナ達
は服を焚いた煙に当てながらブラッシング。今まで服のブラッシン
グなんてやった事のないアルチーナだけど、元々器用なので大丈夫
そうだ。
しかし、楽しそうにブラッシングしてる二人を眺めて思う事は、
﹃ぶるま﹄を着てエッチはたまにするけど、アルチーナとルーフェ
イは特に似合ってるなぁ。特にぴっちりと食い込むお尻が素晴らし
い。しかし今は我慢だ、﹃ぶるま﹄を着たままエッチするのは確定
としても、ちゃんとムードを作らないとな。
動物たちは腹が膨れて満足したのか、もっと欲しいけど俺たちに
近寄れないから諦めたのかは分からないが、離れていった。多分結
界解除したらまた寄ってくるだろうから、とりあえず弁当食べよう。
﹃ぶるま﹄姿の二人に挟まれて楽しい昼食。食べさせっこしたり
しながらイチャイチャしつつ、キスしたり、太股に手を這わせたり
しながらエッチする流れを作っていく。そう流れが重要なのだ、弁
当を食べてすぐ押し倒すとかムードも何もないからな。
俺の意図を汲んでくれた二人は、身を寄せて甘えてくる。﹃ぶる
ま﹄になったあたりから期待してたんだろうな、食事が終わる頃に
はエッチする寸前の潤んだ目で俺を見てる。そして俺は妻の期待に
は応える甲斐性のある男なのだ。
﹁二人ともそこの壁に手をついて、お尻を突き出して﹂
1312
言われるままに紺色の﹃ぶるま﹄で包まれたお尻を差し出す二人。
期待がしっぽの振れ具合で分かるルーフェイと、恥ずかしがってい
てもその表情には期待の色が見えるアルチーナ。
小ぶりなお尻に手を伸ばし、﹃ぶるま﹄の感触とお尻の柔らかさ
を楽しみつつも、微かに湿っている秘所にも指を伸ばす。
﹁二人とも、もうこんなに濡れちゃってハイキングなのに期待して
た?﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁だってクリス様とデートしてエッチしなかった事ないで、わふぅ
ん!﹂
とっても正直なルーフェイの反論しようのない答えに、とりあえ
ず﹃ぶるま﹄に指を差し込み、クリトリスを抓んで誤魔化す。確か
にデートしたら何かと理由をつけてエッチするが、これだけは言わ
せて欲しい。だって俺の嫁さん可愛いんだもの、押し倒したくなる
んだから仕方ないよね? 自己弁護終了、心置きなくルーフェイと
アルチーナを可愛がろう。
﹁わふぅ! そ、そこは抓んじゃ駄目ですぅ、きゅぅん!﹂
しっぽをピンッと立たせ、全身を強張らせる可愛い幼妻に有無を
言わせず、ずらした﹃ぶるま﹄の隙間から覗く濡れたオマンコに肉
棒を挿入して反論を封じる。小柄な身体らしい狭い膣内は、締め付
けが相変わらず強いけど、何度も俺のチンポを受け入れているだけ
にスムーズに奥まで届く。
1313
﹁くぅぅん! あぁ、いきなり奥までなんてぇ。んっんんっ、わふ
ぅん!﹂
うーん、結婚してすぐの頃は、念入りに愛撫しても痛がってたの
に。今では挿入してすぐに感じてくれてる姿を見ると感慨深いな。
性的な知識が殆ど無かったルーフェイを、こんなにエッチな娘にし
たのは間違いなく俺だ、責任とってもっとエッチにしてあげないと
な。
﹁いつもより濡れてるな、ルーフェイはこういう開放的な場所の方
が好みなのか?﹂
小刻みに腰を前後しつつ、片手はルーフェイの膨らみかけのおっ
ぱいを、もう片手でアルチーナのお尻を撫でる。
﹁あぁん! わ、分からないですぅ。でもでも動物さん達に見られ
てると思うと、ちょっと変な気持ちです﹂
確かに近付けないにせよ、動物たちの視線は感じるな。視線と言
えばアルチーナも早く挿れて欲しそうにしてるけど、少し焦らした
方が可愛い反応が見れそうだから⋮⋮ちょっと待っててくれよ。
﹁ふふっ、ルーフェイは見られて感じるのか? それじゃ俺たちが
仲良しなところを皆に見て貰うか﹂
﹁わふっ? わ、わうん! クリス様、だ、だめです。きゅぅん、
恥ずかしい!﹂
俺に背を向けお尻を突き出してるルーフェイの、膝の裏側を持っ
1314
て抱きかかえ、動物たちに俺たちが繋がってる部分を見せつける。
恥ずかしいのか膣内の締まりが良くなって、俺のチンポに絡みつい
てくる。
﹁あっあっ! んきゅぅぅぅ! み、見ちゃだめぇ⋮⋮でも、気持
ち良いのぉ!﹂
動物たちの視線に晒されながら、俺の突き上げるチンポを飲み込
むルーフェイのオマンコからは、淫蜜が飛び散り﹃ぶるま﹄を濡ら
す。性器同士がぶつかり合う音が忘れ去られた遺跡に響く。
聞きないれない音に好奇心を刺激されたのか、さっき散っていっ
た動物たちがまた集まりだしてくる。俺とルーフェイの愛の営みに
目を向けてくる。
﹁わふぅ! あぁ恥ずかしい! 見ちゃだめなのぉ﹂
俺に抱きかかえられながらも、必死の抵抗とばかりに手足をジタ
バタさせる。いつもより興奮してるのかそろそろイキそうな感じな
ので、突き上げを激しくする。
﹁だめぇ、だめぇ! あっあっあぁぁ! わふぅぅん!﹂
﹁動物たちが集まったら、またきゅって締まったな。ルーフェイは
見られて興奮するんだな﹂
﹁わ、わふぅ! そんな事⋮⋮ないです。くぅん、んきゅぅぅ!﹂
イキそうなのを必死に耐えてるルーフェイが可愛くて、首筋から
喉元にキスして舌を這わせる。感じやすいルーフェイはここが特に
1315
弱い。
﹁ひゃぁぁん! あっ、あぁぁぁだめぇイク、イッちゃいますぅぅ
ぅ!﹂
ルーフェイの全身が痙攣し、同時に膣壁が俺のチンポを締め付け
る。昂ってきた射精感を我慢することなく、俺もまたルーフェイの
膣奥に⋮⋮。
﹁くぅ、出すぞ。可愛いルーフェイを孕ませるぞ﹂
﹁わうぅぅぅ! きます、クリス様の熱いのが奥まで来てますぅぅ
!﹂
絶頂と同時に脱力したルーフェイを優しく地面に降ろすと、荒い
息を吐いて地面に寝転がり満足げな笑みを浮かべている。ルーフェ
イにキスをしてから⋮⋮我慢できずにもじもじと太股を擦り合わせ
ているアルチーナの背後から覆い被さる。同時に体操服越しにおっ
ぱいを揉みしだき、唇を奪う。
﹁んむっ、んっんっ⋮⋮﹂
﹁オマンコはこんなになってるのに指で慰めなかったのは偉いぞ﹂
﹁それは⋮⋮その、エッチの時はあなた様の手で感じたいので⋮⋮
はぅん!﹂
壁に手をつけてお尻を向けてる体勢のままで焦らされてたせいか、
ちょっとした愛撫だけで身体を震わせ、喘ぎ声を上げるアルチーナ。
1316
﹁本当に俺好みのエッチな子になったね。嬉しいよ﹂
﹁あぁん、だって、だって結婚前からあんなに恥ずかしくて気持ち
の良い事ばかり⋮⋮ひゃぁぁん!﹂
期待してるアルチーナを我慢させるのも可哀そうだし、不意討ち
で﹃ぶるま﹄を膝まで下ろして、ぴったりと閉じた太股の間から挿
入する。
﹁結婚したから、もっと恥ずかしくて気持ち良くさせてあげるよ。
ほら俺のチンポは今どうなってる?﹂
﹁んむぅぅ! はぅ、あ、あなた様の太くて逞しいオチンチンが⋮
⋮わ、私の奥まで入ってます﹂
﹁アルチーナの⋮⋮なに? どこの奥まで入ってるの?﹂
ゆっくりとチンポでアルチーナの膣壁を擦りながら、少し意地悪
な質問でより羞恥を煽る。初夜の時に気付いたんだけど、アルチー
ナは恥ずかしいとより気持ち良くなる傾向がある。
﹁それは⋮⋮ううう、あなた様のが入ってるではないですか⋮⋮﹂
﹁うんうん、アルチーナを孕ませたがってる俺のチンポがどこに入
ってるの?﹂
体操服越しに乳首を抓み、軽く指で押しながら、耳元で囁くよう
に意地悪な質問を繰り返す。真っ赤になって口ごもるアルチーナは
可愛いなぁ、なんか癖になりそう。
1317
﹁は、恥ずかしい⋮⋮わ、私の、その⋮⋮恥ずかしい所です﹂
﹁そうそう、恥ずかしい所はなんて言うんだっけ?﹂
挿入したまま腰を円を描く様に回しながら、もう完全にエッチす
る気分になってるアルチーナを焦らす。結婚前から快感を教え込ま
れた彼女は少し葛藤するそぶりを見せるけど、恥ずかしさと快感の
天秤は、ほどなく快感に傾いていく。
﹁あぅぅ⋮⋮オッ、オマンコ⋮⋮です。私のオマンコにあなた様の
が入ってます﹂
もうちょっと恥ずかしがらせても良いけど、あんまり調子に乗り
過ぎて万が一にも嫌われたくないから、ここまでにしておくか。
﹁あぁん、あなた様⋮⋮ください、アルチーナのオマンコをあなた
様のオチンチンで激しくしてください!﹂
﹁良く出来ました、ご褒美に気持ち良くしてあげるからね﹂
俺のセリフにみるみるアルチーナの頬は赤くなる。愛する妻の期
待に応え彼女の腰を掴んで激しく奥までチンポの先端を叩きつける。
﹁はっあぁぁぁっ!﹂
恥ずかしさに性感が昂っていたアルチーナは、待ち望んだ激しい
挿入に背を仰け反らせる。
﹁ひぃ、あっあっんはぁぁぁぁぁ! いい、気持ち良い!﹂
1318
より快感を得ようと、無意識なのか俺の挿入に合わせて腰を振る
アルチーナ。張りがありつつも柔らかいお尻が俺の腰とぶつかりあ
う。
出
﹁いいぞ、アルチーナ。さっき出したばかりなのに、締まりが良す
ぎてまたすぐに射精しちまいそうだ﹂
﹁んんっ、あなた様、私のナカは気持ち良いですか?﹂
﹁あぁ勿論だ、オマンコがぴったりチンポに絡みついて腰が止まら
ないよ﹂
﹁嬉しい、あなた様もっと、もっと激しくしても良いですよ。受け
とめます。あなた様にされる事全部受け止めますから﹂
健気な新妻の言葉を聞き、さらに激しく腰を振る。媚肉のぶつか
り合う音と、アルチーナの喘ぎ声もさらに大きなくなり、びっくり
したのか動物たちも一斉にこちらを見る。まぁアルチーナにはもう
動物達なんて目に入っていない。
﹁いい、良いのぉ! あなた様の大きくて熱くて硬いオチンチンが
凄く気持ち良いのぉ!﹂
夢中になってお互い腰を振り、身体を求めあい、快感に身を委ね
る。
﹁あっあっあっ! 当たってるのが分かります。子宮の⋮⋮子宮の
入り口が、あなた様の子種を欲しがってるの﹂
﹁欲しいならおねだりするんだ。ほら何が欲しい? アルチーナの
1319
おねだりを聞かせてくれ﹂
腰を激しく叩きつけるだけでなく、充血し勃っている乳首を指の
間で挟みながら、ささやかに膨らんだ乳房を揉む。おっぱいとオマ
ンコを同時にされたアルチーナは、身体を震わせもうすぐイキそう
だ。
﹁はいぃぃ! ください、あなた様の子種! 私の奥にください!
アルチーナを孕ませてぇェェ!﹂
その瞬間、アルチーナの膣内は俺のものを搾り取るかのように締
めつけてくる。俺は我慢することなくそのまま膣奥に射精する。
﹁やあぁぁ! もう、もう駄目、イク、イクゥゥゥゥゥ!﹂
俺の射精と同時にアルチーナは全身を痙攣させ、絶頂を迎えた。
挿入したまま動かないでいると、子宮に入りきらなかった精液が彼
女のオマンコから零れ落る。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮私、幸せです⋮⋮﹂
満ち足りた表情のアルチーナにキスをして。今度はルーフェイを
抱きよせ二回戦に突入だ。温かい陽射しが降り注ぐ遺跡の庭に二人
の王女の嬌声が響き渡った。
1320
覚醒︵前書き︶
二話連続投稿です。
2/2
1321
覚醒
三人とも生まれたままの姿でセックスの余韻に浸るように、柔ら
かい地面に寝転んでアルチーナとルーフェイは満足げな笑みを浮か
べながら、俺の腕枕で寝息を立てている。
幸せだなぁ、こうして愛する妻をセックスでメロメロにした後、
左右から抱き付かれて、こうして腕枕して温もりを感じながら寝転
がってる。こんな幸せが他に在ろうか? いや無い。
二人の寝顔を見てるだけでも、こうしてデートに来た甲斐があっ
たってもんだ。しかしセックスが終わってから遺跡の事を思い出し
たので、どうせ眠くないし確認だけしておくか。
弁当を食べてる時は操作を中断して、セックスが始まったら忘れ
てたけど、もう一回遠隔操作用の藁人形を動かし遺跡内部のうろつ
かせる。なんか小動物に齧られてたけど、不味かったらしく動作に
支障が出るほどでもない。
そうしてると魔術的な障壁で守られた場所を見つけた。見た感じ
ここが要だな。内部全般で老朽化した感じはないし、歩いただけで
崩れる心配はなさそうだ。動物達を操って障壁周辺を歩かせても特
に何もない、油断はしないけど遺跡内部は安全と見て大丈夫か。操
った動物たちよ、偵察御苦労、ご褒美にメロンをあげるから戻って
おいで。
さて、いくら温かいとは言っても、汗をかいて裸で寝てたら風邪
1322
ボックス
アイテム
をひいてしまう。アルチーナとルーフェイを起こしてから、︻収納
空間︼から野外用の風呂を取り出し汗を流して着替える。着てきた
服はまた動物たちに囲まれると毛だらけになるので、新しい長袖の
体操服だ。
俺が遺跡の安全を確認したから内部に入ると言うと、緊張しなが
らも付いてきた。
﹁二人とも俺についてきてくれ。罠とか無いのは確認したけど、魔
法の守りとかあったら俺が何とかするから離れないでくれよ﹂
万が一に備えて障壁を張りながら慎重に進む。遺跡の内部は苔に
覆われた外側とは違い、まるで今でも人が生活しているかのように
清潔に保たれてる。風化を防ぐ魔法だなコレ。時間に干渉する時属
性か、概念的なものすら﹃止める﹄効果のある氷属性かは分からな
いけど、何百年も効果が続くってどんな技術だ?
背後からアルチーナとルーフェイの感嘆のため息が聞こえてくる。
王族として育った彼女たちからしても、この遺跡の内部は荘厳やら
美麗って表現が相応しいくらい立派なものだ。
壁や柱に刻まれた彫刻はまるで生きてるかのような躍動感がある
し。通路のそこかしこに設置された壺やら絵画やらは、素人の俺で
も分かるくらい高価そう、というか価値がありそうだと分かる。
﹁凄い⋮⋮まるで宮殿のようです﹂
﹁多分それに近いんじゃいかな、入ってすぐの場所に爽やか風味な
イケメンの肖像画があっただろ? その下に掛けられた金属板には
﹃アスラン・カーナ、悠久の月を迎えたこの地で星を眺めたり﹄っ
1323
て書いてあったんだ。アスラン・カーナはホルス=カーナ王朝の中
興の祖とされる王様で、﹃悠久の月﹄は奥さんとの初夜とか結婚し
てすぐのイチャイチャして過ごす期間の事、﹃星の眺める﹄っての
は隠居して余生を過ごすって意味だったと思う﹂
古文表現なので合ってるのかは知らないけど、要するにこの遺跡
は偉い王様が隠居して余生を過ごした場所だ。操った藁人形を通じ
て調べても危険と思えるような箇所は全くないし、むしろ随所に快
適に過ごせるような工夫が施されてる。
ついのすみか
流石は芸術家の時代とも言われるホルス=カーナ王朝。しかも中
興の祖とも言われるアスラン王の終の住処だけに宮殿と言うか、美
術館と言った方がしっくりくる内装をしてる。
芸術に傾倒できるだけの豊かな時代だったんだけど、その主な理
由がなぁ⋮⋮まぁ女の子に話す内容じゃないし黙ってよ。
﹁わふぅ! 凄いです、クリス様はまるで学者様みたいです﹂
俺の解説に尊敬のまなざしを向けるルーフェイとアルチーナ。ル
ーフェイはともかくアルチーナはこのくらい分かると思うんだけど
⋮⋮まぁアルチーナは気遣いのできる奥さんだから、俺を立ててく
れてるんだろう。なぜか目を逸らすのは絵画とかを見てるんだと信
じよう。
一応藁人形だけでなく犬や狐のような大きめの動物たちを操って、
周囲に異変があればすぐ分かるように俺たちの周りをウロチョロさ
せてる。ルーフェイは懐いて付いて来てくれてるのだと思ってるみ
たいだし、まぁ余命な事は言わないに限るな。囮にして悪いけど後
でマンゴーやるから許せよ。
1324
慎重に進み、認識阻害の結界の要があると思しき部屋にやって来
た。この部屋だけは認識阻害だけでなく物理的に入れないよう障壁
で守られてるが、打ち消して先に藁人形を部屋に入れる。
かなり強力な障壁に守られていた以上、内部はやっぱり安全だっ
たようだ。先に放り込んだ藁人形が罠で破壊されるようなことも無
く、安全を確認してから俺たちもすんなりと部屋に入る。そこには
祭壇を連想させるような、精緻な装飾の施された石板が中央に鎮座
していた。
こんな大規模な結界を張り続けるとなると、魔力の供給はどうな
ってるんだろうな? ホルス=カーナのアスラン王の居た時代だと
軽く五百年前だ。魔王種の魔核でも使わない限り普通はこんな長続
きはしない筈だし、いくら偉い王様でも隠宅を守らせるのに魔王種
の魔核を使うとも思えないんだけど⋮⋮。
現在進行形で祭壇に魔力を供給してる? どこから? 誰が⋮⋮
ここで生きてるのは動物たちだけ⋮⋮ふと思いついて近くにいた犬
を調べてみると、ふさふさの体毛に隠れて、身体に埋め込まれた宝
石を中心に魔法陣が刻まれていた。
﹁わふっ! な、なんですかコレ、光ってますよ!﹂
﹁この魔法陣な、死なない程度に魔力を奪う為のものみたいだ。な
んで五百年近くも結界が維持されてたかというと、これが答えなん
だろうなぁ﹂
なんにせよ言葉にしなくても、ルーフェイが助けて欲しそうに俺
を見てるからには、身体に埋め込まれた宝石を砕いて魔法陣を破壊
1325
し助ける。俺はいつだって愛する妻の意思が優先なのだ。
﹁わふっ! わんわんわん! きゅぅぅぅん﹂
魔法陣から解放した途端、犬が尻尾を激しく振りながら俺に飛び
かかってきて顔を舐めまわしてくる。コラやめろ汚いだろ! どう
せならルーフェイに顔を舐められたいのであってお前じゃない! だから重いから圧し掛かってくるな!
尻尾を振ってじゃれてくる大型犬がウザったいので、天井近くま
で放り投げるが⋮⋮危なげなく空中で身体を捻って、何事もないか
のように着地する。そしてまた飛びかかってくる、放り投げる。や
たらと楽しそうだな、この畜生なんかの遊びだと思ってやがる!
暫く繰り返してると落ち着いたのか、それとも他の犬達の事を思
い出したのか飛びかかっては来なくなった。ふぅ⋮⋮折角着替えた
のにまた毛だらけだよチクショウめ。
とりあえず同じように他の犬二頭と、狐二頭にも宝石が埋め込ま
れていたので破壊すると、こっちも飛びかかってきた。ふっ、しか
し今の俺は動物除けの術を発動してるのだ、近寄れまい⋮⋮結界を
すり抜けて押し倒された。
しまったこいつら動物じゃなくて魔物だ! って言うか五百年も
この遺跡で生き延びてるんだから動物の訳なかった! 普通は魔物
でも寿命はあるんだけど、まぁそういう種を選んで供給源にしてた
って事なんだろう。そんな魔物魔王種以外聞いたことないけど、実
際目の前にいるんだから納得するしかない。
﹁お前ら! 他にも魔力の供給源にされてる奴がいるだろうから連
1326
れて来い!﹂
犬も狐も知能が高いのか、俺の命令に素直に従って祭壇の部屋か
ら出て行った、多分他にも同じようなのがいるんだろうな。
﹁アルチーナちょっと連絡してみてくれ﹂
﹁はい⋮⋮あ、繋がりました。でもまだちょっと雑音が響いてます
ね﹂
遠距離念話の石板から雑音交じりにアルチーナがカール王子と話
をしてる間に、さっき出て行った犬が別の犬や狐、他にもルーフェ
イよりも大きな兎が五羽に、大型犬と同じサイズの猫を五頭連れて
戻ってきた。
察するに犬、狐、ウサギ、猫の魔物はそれぞれ五匹ずついるのか。
ルーフェイより大きな猫は豹とかトラのような気がするけど、まぁ
﹁ニャー﹂とか鳴いてるから猫で良いだろう。あとルーフェイにあ
ごの下を撫でられて喉を鳴らすところなんて猫そのものだ。
懐かれたら面倒なので魔物避けの術を使ってから、動物たちの魔
法陣を纏めて破壊する。その瞬間一斉に俺に飛びかかってくるが、
魔物避けのお陰か近寄れま⋮⋮犬だけは結界すり抜けてきやがった!
﹁わん! わんわん!﹂
ホーリーウルフ
こ、この犬! 思い出したぞコイツは破魔狼だ! 場所によって
は聖獣とか呼ばれて崇められてる魔法使いの天敵。だってコイツ﹃
魔法を喰う﹄とかいうとんでもない生態してるのだ。くそぉ、わん
わん鳴いてるくせに狼とか呼ばれてんじゃねぇ!
1327
魔力を奪う魔法陣は体内に刻まれた術式だから、食って解除する
ことは出来なかったんだな。
まさかと思って他の狐とか見ると⋮⋮予想通りコイツも破魔の属
性を持ってるらしく、魔物避けの結界が足止めにしかならねぇ! 合計二十頭の大型の動物が飛びかかってきて⋮⋮。
﹁ぬわぁぁぁぁぁ! ま、待てお前ら重いぃぃ潰れるぅぅ!﹂
身の危険を感じて攻撃魔法を撃っても、予想通りに破魔属性の魔
物には餌でしかなく一切効かない。ならばと天井に向かって火球を
複数飛ばすと、餌のついでに遊んでくれてるのだと勘違いしたのか、
跳躍して火球に食らい付く。
これ以上じゃれつかれたらデートの為に仕立てた服が台無しにな
るし、唾液まみれにもなりたくない。一応精神干渉は通用するから、
精神を平静にせてから﹃待て﹄をさせる。尻尾が振れてるから多分
じゃれつきたいのだろうけど、俺の指示に従うくらいには知能が高
いから暫くは大丈夫だろう。
見れば供給を断たれた祭壇は光を失った。恐らく認識阻害の結界
は消え去ったのだろう。ついでとばかりにこの遺跡全体に魔物避け
と動物除けの結界を俺が張ってやる。俺たちの周囲に大人しく待機
してる連中は魔物だから別に大丈夫だろうけど、小動物たちは多分
野生だとすぐ死にそうだし。
話の終わったアルチーナから、ここに歴史の研究をしてる偉い先
エサ
生がやって来るらしい。ついでにカール王子もお仕事キャンセルし
てやって来るとの事で、尻尾振ってる魔物連中に攻撃魔法でも与え
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ながら待ってるか。あと一応使い魔召喚してオリヴィア達にも詳細
を伝えておこうっと。
∼∼∼∼∼
ふむ⋮⋮今まで魔力を奪われ続けていた気怠さが消えた。どうや
ら私がかつて召喚した聖獣が死んだか解放されたみたいね。聖獣は
私が生きて魔力の供給をしてる限り寿命で死ぬことはない。
そのせいで何処か分からない場所に連れ去られ、魔力を奪われ続
けていたのだけど⋮⋮あら? この街の近くなのは見当が付いてた
けど、予想よりも近かったわね。
一応五百年も経ってるとはいえ、私の召喚獣だから五感をリンク
して確認してみると⋮⋮あら? 勇者じゃない、それにあの祭壇は
⋮⋮成程認識阻害ね、だから私の召喚獣なのに居場所が分からなか
ったんだ。と言うよりあの男が、私に居場所を知られないように権
力をフル活用したのね。
遺跡発見の報告が届いたのか、お屋敷の周りは騒がしいけど、こ
の地下室は静かなもの。最愛の恋人とついさっきまで睦みあってい
て、私の可愛いシャルローは穏やかな寝息を立てている。
くふ⋮⋮くふふ! やっぱり恋人にするなら、完全に絶望しきっ
てるところを私に依存させるべきよね。あのクソッタレ似非イケメ
ンのアスランみたいな胡散臭い奴はもうこりごりよ。
騙されて聖獣を奪われて、今まで魔力を奪われ続けた仕返しをし
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たいけど、五百年も経ってたら無理だし。建物に八つ当たりすのも
大人気ないわよね。
アスラン
開放してくれたお礼に、似非イケメンが聖獣と一緒に奪った私の
資産を勇者にあげるとして⋮⋮よし肖像画を描き変えましょう。
なにやらカール様が大勢引き連れて遺跡に向かってるみたいだけ
ど、先に私の召喚獣を送り込んで⋮⋮フフッ、勇者は要の部屋で聖
獣と遊んでるし今のうちに⋮⋮。
﹁︻偶像の悪魔︼よ、主たるイザベラ・アリス・ホルスが命じる。
入り口の肖像以外、アスランの肖像画を全部、奴が引き立て役にと
傍に置いてた、あのチビでデブの不細工に描き変えなさい、ついで
に中途半端に髪の毛残ったハゲにしなさい﹂
くふっ! くふふふふふ! ザマァ見ろ似非イケメンめ、後世の
人間はお前の事をあの不細工だと認識するのよ。しかも遺跡入って
すぐの絵だけそのままだから、見栄を張ってるんだと思われるが良
い。ふんっ、とっくに死んだ人間だからこの程度で許してやるわ。
﹁ん、イザベラ⋮⋮どうかしたのかい?﹂
おっとシャルローを起こしちゃった、ちょっと感情が高ぶってた
みたいね。魔女にあるまじき失敗には反省しましょ、本来の能力を
取り戻したからって冷静にならないと。
﹁ごめんなさい、どうやら隠し里が見つかったみたいでお屋敷が騒
がしくてね﹂
﹁へぇ、凄いじゃないか、歴史的な発見だね。興味があるのなら見
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に行こうか?﹂
﹁シャルローが行きたいのなら付き合うわ。私は特に興味ないから﹂
正直あの似非イケメンの住処なんて近寄りたくもない⋮⋮が、あ
の遺跡に私に関する記述があったら面倒ね。奴は私を騙して利用し
たくせに、最後は私から逃げる為に結界のある遺跡に引き籠ったか
ら、記述を残してない可能性も有る。それにイザベラなんて名前も
召喚術師も珍しくはないけど、﹃アリス﹄と書かれてた場合、私と
関連付けられる人間がいるかもしれない。
具体的には勇者は妙に勘が良いし、知識だけはあるから気付くか
もしれない。少し前に私が不老であることを匂わせたあの会話も失
態だ、﹃アリス﹄とは不老の秘術に到達した魔女を指す。男の術者
が同じく不老を得たら﹃オズ﹄と名乗り魔人と呼ばれるのだが、そ
れはともかく。
得意属性を問わず不老の秘術に到達した者は、多かれ少なかれ精
神に異常を抱える。少しばかり人見知りで口下手なだけの私なんて
可愛いものね。私が知ってる他の﹃アリス﹄や﹃オズ﹄はそりゃヤ
バいのばっかり。断言するけど私よりまともな﹃アリス﹄や﹃オズ﹄
なんていないわ。
﹃叡智の魔女﹄は性癖がヤバいだけで比較的話は通じるけど、﹃
災禍の魔女﹄とか﹃免罪の魔人﹄なんて近くにやって来たら、勇者
を上手く誘導してさっさと討伐させないといけない。他にも﹃偽魂
の魔女﹄とか居るけど、あの女は引き籠りに命を懸けてるようなも
のだから気にすることはないか。
そしてヤバいのばっかりとは言え、不老を得た者は権力者にとっ
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て、この上なく魅力的なのは言うまでもない。実際私もあの似非イ
ケメンに騙されたし⋮⋮忘れましょう黒歴史だし。
折角﹃アリス﹄であることを隠して、冒険者の身分で社会に紛れ
込めたのに万が一バレてしまっては、シャルローを連れて逃げるか
しなくなる。真の能力を取り戻した今、国が相手でもどうにでもな
るけど、今の生活を手放したくはない。
むぅ、今の私は冒険者だから貴重な文献なんて見せて貰えないだ
ろうし⋮⋮どうしたものか悩んでると、私の監視網に妙な一団が引
っかかった。
身分高そうな男が二人、冒険者風の男が四人、男物のマントを羽
織った女が一人で、それだけなら警戒網にはかからないのだけど。
女から漂う強烈な魅了の魔力の前に、私に支配された召喚獣ですら
オス限定で異常をきたす。
メスの魔物なら大丈夫なので確認してみると⋮⋮フフッ、あの女
シャルローの居る屋敷に近寄って来るなんて死にたいようね。あー
でも殺人は流石に拙いし⋮⋮あ、良い事考えた。くふっ、くふふふ
ふ! ゴメンねカール様、現在だと貴重な資料かも知れないけど私
の保身のために文献は消すわ。
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覚醒︵後書き︶
読んでくれた皆さまありがとうございます。
ちなみにイザベラさんは﹃神獣の魔女﹄とか呼ばれてまして、勇者
並みに強いです。
あと不老の魔法使いたちは﹁自分が一番まともで、他の連中はヤバ
い﹂と思ってます。
イザベラさんが一番まとも? そりゃ彼女視点ではそうでしょうよ、
彼女視点では。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n9889cu/
闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまった∼
それはともかく嫁にいい暮らしをさせるために頑張って
成り上がろうと思う∼
2017年3月22日22時26分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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