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予算原則
財政学Ⅰ
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第2回
予算(1)予算と財政民主主義
2014年4月18日(金)
担当:天羽正継(経済学部経済学科専任講師)
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予算と財政民主主義
 予算:「予(あらかじ)め算定する」ということ。
 一定期間における収入・支出の予定あるいは計画。
 家計や企業も予算を作成するが、必ずしも拘束力はなく、適宜変更が加えられる。
 これに対して政府の予算は、一定期間の財政をコントロールする、拘束力のある文書。
 国民は予算を通じて、財政を民主主義的にコントロールする(財政民主主義)。
 無産国家である現代の国家(統治者)は、国民(被統治者)から租税を強制的に調達する必要。予算とは、そのた
めに国民から国家に与えられた「許可書」あるいは「権限付与書」。
 財政を民主主義的にコントロールするためには、予算が議会の承認を得なければならない。
 イギリスにおける財政民主主義の成立
 1628年の清教徒革命における「権利の請願」によって、議会は課税承認権を獲得。
 課税承認権:課税には議会の承認を必要とする。
 1665年に国王チャールズ2世が、オランダ戦争の戦費調達のために「経費許容条項」を認めたことで、議会は財政
支出への承認権を獲得。
 1860年代に蔵相グラッドストーンのイニシアティブのもと、収入と支出を統合した予算制度が確立。
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予算原則(1)
 予算原則:予算が依拠すべき基準。国民が財政をコントロールするために必要。
 古典的予算原則:19世紀中頃のイギリスで成立
 大きく「内容・形式の原則」と「予算過程の原則」からなる。
 多くの国の法律が、この原則に基づいて予算に関する規定を設けている。
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予算原則(2)
完全性の原則
総計予算主義の原則
内容・形式の原則
統一性の原則
ノン・アフェクタシオン
の原則
古
典
的
予
算
原
則
明瞭性の原則
厳密性の原則
事前性の原則
会計年度独立の原則
拘束性の原則
超過支出禁止の原則
公開性の原則
流用禁止の原則
予算過程の原則
神野直彦『財政学 改訂版』92ページ
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予算原則(3)
 完全性の原則:すべての収入と支出は漏れなく予算に計上されなければならない。
 財政法第14条「歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない」
 総計予算主義の原則:収入と支出の差額のみを計上すること(純計主義)を禁止する。
 利益追求を目的とする民間企業では純計主義が認められる。
 統一性の原則:収入と支出が計上される予算は一つでなければならない。
 複数の予算が存在すれば、財政のコントロールが困難になってしまう。
 日本では中心的な予算である一般会計の他、多くの特別会計が存在。
 ノン・アフェクタシオン(non-affectation)の原則:特定の収入と特定の支出を結び付けてはならない。
 この原則が満たされない場合、不必要な支出でも収入がある限りは続けなければならない。
 かつての道路特定財源。
 明瞭性の原則:予算の内容が国民に明瞭に理解されるような形式でなければならない。
 このため予算は一般的に、所管部門を明確にした上で、目的別に「款」と「項」に分類する形式を採用している。
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予算原則(4)
 厳密性の原則:予算編成にあたっては、予定収入と予定支出を可能な限り正確に見積もらなければならな
い。
 意図的に過小な収入を見込んだり、過大な支出を見込むことを許せば、議会による財政のコントロールが有効に機
能しなくなる。
 しかし実際には、収入や支出を正確に見積もることは不可能に近い。そのため、収入を控えめに見積もり、支出を多目に見積
もる慎重主義が採用される。
 事前性の原則:予算は会計年度が始まるまでに編成を終え、議会によって承認されなければならない。
 会計年度開始までに議会が予算を承認しない場合、政府の活動が停止する「予算の空白」が生じる。
 2013年10月、アメリカの連邦予算が議会で成立しなかったため、一部の政府機関が閉鎖。
 「予算の空白」が生じた場合の対処方法
 施行予算:前年度予算をそのまま新年度に施行する。
 大日本帝国憲法で採用。
 暫定予算:前年度ないし新年度予算の12分の1に相当する支出を毎月執行する。
 現在の日本で採用。
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予算原則(5)
 拘束性の原則
 会計年度独立の原則:それぞれの会計年度の支出は、その会計年度の収入によって賄わなければならない。
 ある年度に生じた財源不足を次年度の収入で賄うというように、複数年度間で収入と支出を融通することを禁止。
 超過支出禁止の原則:予算計上額を上回って支出することを禁止。
 超過支出だけでなく、予算に費目が計上されていないにもかかわらず支出する予算外支出も認めない。
 流用禁止の原則:財源を予算に計上された費目から、他の費目に移し替えて支出することを禁止。
 たとえ全体の予算規模が増加しなくとも、議会が決めた使用目的以外に支出することを禁止。
 公開性の原則:予算あるいは財政に関する情報は、議会や国民に対して公開されていなければならない。
 財政民主主義の基本となる原則。
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予算の形式
 多くの国々で予算は「法律」という形式が採用されている。
 しかし、日本では例外的に、法律とは区別された「予算」という形式。
 法律形式の下では、予算は「歳出法」と「歳入法」として成立。
 この場合、歳入法が成立しない限り、その年度の租税の徴収はできない(一年税主義)。
 しかし、日本では予算は法律ではないため、租税法が成立している限り納税義務が永久に続く(永久税主義)。
 予算は会計年度ごとに、議会が承認し確定(単年度主義の原則)。
 「会計年度独立の原則」との混同に注意。ただし、両者は密接に関係。
 会計年度の期間は国によって相違。
 日本、イギリス:4月~3月
 フランス、ドイツ:1月~12月
 アメリカ:10月~9月
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財政民主主義と日本国憲法
 第60条:予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
 下院優先の原則:より民意を反映する下院に優先的に提出しなければならない。
 第83条:国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
 第84条:あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によること
を必要とする。
 租税法律主義
 第85条:国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
 第86条:内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければなら
ない。
 単年度主義の原則
 第90条:国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検
査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
 第91条:内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなけ
ればならない。
 公開性の原則
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