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ともに科学概念を構築する子を育む理科学習

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ともに科学概念を構築する子を育む理科学習
●理
科
ともに科学概念を構築する子を育む理科学習
1
本校理科部の考える理科学習のあり方
本校理科部では,これまでの研究において,自ら科学概念を構築する子を育むためのカリキュラムを開
発してきた。そこでは,カリキュラムの基本的な考え方として,子どもたちの科学的な見方・考え方を育
てるために,学習対象を「生命とその環境」「物質とエネルギー」「地球と宇宙」の三つに区分し,それぞ
れ自然事象のバランスやつながりを考えて設定してきている。そして,子どもたちがこれらの学習対象に
連続的にかかわり,科学的な見方や考え方を高めていけるように,子どもの学びを見取る観点を「科学的
な見方・考え方につながる考え」として,図1のように設定した。また,学習対象のつながりについては,
「身近な自然から広げていく」「具体からより抽象へ深める」「操作の発達をふまえる」の三つを基本とし
ている。
単元の開発に際しては,「学びをひらく」「科学概念を構築する」といった言葉をキーワードとし,子ど
もの学びの文脈に即した学習過程の開発を試み,実践的に検討してきた。学びの過程において,教師は常
に子どもの学びの文脈に即した適切な指導を行っていく必要がある。また,同時に教師は,子どもの学び
を価値付け,子どもの科学に対する認識の構成を援助し,意図的に評価していかなくてはならない。特に,
評価活動は,学習過
程に沿って診断的評
価−形成的評価−総
括的評価を適切に行
い,子どもの文脈に
寄り添う形で学びを
促進する指導を行わ
なければならないと
考えている。そのた
めに,本校理科部で
は「( 理科において)
培いたい力」および
図1 科学的な見方・考え方を育てるカリキュラムの構想
「目標の観点」において基準を設けた
評価の枠組みを用いて,学習過程にお
ける指導と評価を明確にした実践を行
ってきた(図2)。
「培いたい力」とは,
図1に示すように ,「発達段階に即して
子どもが自然事象に働きかける視点で
ある力(「 比較しながら調べる力 」「変
化に関わる要因を関係付けながら調べ
る力」「計画的に追究し,規則性につい
ての考えをもつ力 」「多面的に追究し,
因果関係を捉える力」)」や,「条件を統
図2
培いたい力と目標の観点に対する評価の枠組み
一する力 」「推論・類推する力 」「数値
処理する力」「他者と協同思考する力」
などといった力のことである。これら
が実際の授業のどの場面で発揮されて
いるかをはっきりと意識して指導する
ためにも,教師は評価計画を綿密に考
え整理しておく必要があると考えるの
である。特に,「目標の観点」に対する
図3 指導と評価の一体化を意識した学習過程
枠組みは,単元の学びゆきに即して作成してある。学習過程とセットでつくることで,教師はより単元に
おける子どもの学びのイメージを深めることができ,適切な評価活動が行えるのである。さらに,昨年度
より「指導と評価の一体化」を意識して,学習過程における教師の指導と評価を対応させて表記すること
とした(図3)。評価は,教師の指導したことに対して行うべきものである。しかし,現実には指導案に
おいて指導と評価の関連が薄れがちになる。教師が意識して指導と評価を一体化させた学習過程を組むこ
とで,指導の質もさらに高まるのではないかと考えている。
さらに,こうした計画段階でのカリキュラム以外にも,実践を通して形成される「子どもの学びの総体
としてのカリキュラム」という考え方も必要であると考えている。実際の指導では,当然ではあるが教師
が計画した学習過程を越えて子どもの学びが進行していく場合があるからである。カリキュラムを実践し
ていく上で重要なことは,子どもの学びの文脈を教師が見極め,子ども自身に見通しを持った学びをさせ
ることである。レイブ氏とウエンガー氏は,カリキュラムについて,
『子どもにとってカリキュラムとは,
全体の構図がどういうことについてなのか,またそこでどんなことを学ぶべきなのかについて自分の考え
を発展させることができるものでなければならない』といった指摘をしている。まず全体的な見通しを与
え,その後に,学習者が意味を感じながら個別的な内容について学ぶことが大切であるという主張である。
このような学習過程においては,子どもの学びが「前段階が現段階に貢献している」という文脈が存在す
る。こうした文脈こそ,子ども自身の学びに依拠したカリキュラムを創造する上で欠かせないものなので
ある。
今年度は,これらの考え方を踏襲するとともに,最近教育界でよく話題となっている「学力」について
も視野に入れ,理科の授業の中でどのように子どもが科学概念を形成していくべきなのかを実践を通して
検討していきたい。
2
理科における確かな学力
国際教育到達度評価学会(IEA)の国際数学・理科教育調査(平成7年,11 年,15 年)によると,わが
国の中学2年生の成績は,シンガポールや韓国などとともにトップクラスであるということが明らかにな
った。しかし,同時に行われたアンケートから,理科の学習が「好き」と答える生徒の割合は,国際的に
みて最低のレベルにあることは依然改善されていないとの報告がある。
周知のように,学力は,態度,能力,知識・理解の3要素からなるとされている。これらのバランスを
しっかりと保ちながら実践を進めていくためには,まずは教師自身が自ら実践している授業における指
導を問い直してみる必要があるであろう。教師は,これまでの授業の中で子どもが「楽しい」と感じる
情意的側面を教材の工夫ばかりに頼ってしまっていたり,「わかること」などの認知的側面を「知識を覚
えること」と誤ったとらえ方をして指導したりしているということはなかったであろうか。
近年,構成主義の考え方によって,子どもたちは彼らの日常の生活の中において様々な日常知を獲得し
ていることが明らかになってきた。その中には,思いこみや先入観により科学的には正しいとは言えない
彼ら独特の素朴な概念が形成されている。「わかること」を目指した授業を考えるとき,教師がこのよう
な子どもたちの素朴概念を考慮せず,一方的に学校知を教えていたのでは,知の再構成が行われることに
より「わかる」といった学びは成立しないであろう。これからの理科学習は,教師が一方的に教え込むの
ではなく,子どもの内面に存在している素朴概念や彼らが知を再構成していくプロセスを見取り,それに
寄り添う形で授業を展開することが重要なのである。
では,確かな学力を理科における自然の探究活動でいかに形成していくかということについて,本校理
科部が考える問題解決の過程に即して考えてみたい。子どもは,まずはじめに自然の事物・現象と出会い,
自分が持っている見方や考え方と照らし合わせて矛盾や不足を感じ,
「なぜだろう」
「調べてみたい」と「関
心・意欲・態度」を示す(態度)。次に,「おそらくこうだからではないか」「このようにすれば,調べる
ことができそうだ」などと「科学的思考」を働かせ,「これを使って調べよう」「こんな結果が出た」とい
うように「実験・観察の技能・表現」を用いて,追究していく(能力)。そしてその結果,「自然のしくみ
がわかった」という「知識・理解」に至る(知識・理解)。すると,さらに「今度はあれも調べてみよう」
と新しい疑問(態度)が誘発され,
探究活動は続いていく。こうした
探究活動によってこそ,子どもは
本物の知識・理解を得ることがで
きる。したがって,子どもが問題
解決活動を通して自然認識を深め
ることによって,学力は,態度,
能力,そして知識・理解の統一と
して,総合的に獲得されるのであ
る。
こうした子どもにおける自然の
探究活動は,態度,能力,知識・
理解という確かな学力を獲得させ
ていくだけにとどまらないであろ
う。自然の探究を繰り返し,繰り
図4 子どもが主体的に問題解決を図る道筋と教師の働きかけ・評価
返し,粘り強く問題解決にチャレンジしていく体験は,未来に迎えるであろうさまざまな人類として解決
しなければならない環境やエネルギーの問題,先行き不透明な時代にあって個人としても未来にふりかか
るであろう困難な問題を解決していく力の基礎にもなると考える。また,科学に裏付けられた確かな知識
・理解に基づいて,科学的な見方・考え方,すなわち科学的自然観,さらには科学的世界観の育成も期待
できる。このような自然の探究によって得られた確かな学力は,総体的な人間形成を促し,たくましく,
よりよく生き抜く力を獲得していくことにつながると考えるのである。
3
ともに科学概念を構築する子を育む理科学習
子どもは,自らの問いを軸に追究を開始し,観察,実験を通して検証していくが,必ずしも確証を得ら
れるとは限らない。むしろ,自分が立てた予想と逆の結果を得ることも少なくはない。当然,自分の問い
と実験結果に不整合が生じれば,活動は停滞し,子どもの戸惑いやつまずきが生起することが予想される。
そこで,友だちや教師との意見交流が大切になってくる。オースベルは,外部から取り込んだものが既
に持っている知識体系のいずれかに結びつき、意味あるものとなる学習を有意味学習と名付けたが,
子どもが「わかった」という状態は、まさに有意味学習ができたときであると考える。意見交流にお
いて有意味学習を成立させるためには、子ども自身の知識体系を教師が把握しておき,外から入って
くる他者の考えや実験結果をそこに適切に関連づけていくことが必要であろう。本校では,そのため
の一方法として,「概念地図法(Concept Mapping)」を用いている。概念地図法とは,ノヴァックら
が開発したもので,有意味学習で関連あるものが結びついている頭の中の概念構造をコンセプトマッ
プにより視覚化しようとしたものである。子どもがコンセプトマップを作成するとき、まず概念ラベ
ル相互の関係の有無を考え、「わかった」と「わからない」に振り分ける作業を行う必要がある。そ
の上で、概念ラベルの階層性を考え、それぞれの概念ラベルの位置を確認する。このことは、子ども
が頭の中で概念を構築したり再構築したりすることになる。したがって,教師は子どもが授業前につ
くったコンセプトマップを見ることにより,その子の知識体系を知ることができる。すなわち、子ど
もの素朴概念を把握して、診断的評価に役立てることができるのである。また,単元の節目でコンセ
プトマップをつくると形成的評価、単元実施後につくると総括的評価として活用することができる。
これにより,どのように、どれくらい学習内容を構造化して捉えることができたのか,その学びゆき
を知ることができる。つくったコンセプトマップを時系列で比較することにより,概念の変容を評価
することも可能なのである。コンセプトマップは,教師による評価だけでなく,子ども自身の自己評
価や他の子どもとの比較を通しての相互評価にも活用することができる。このような方法を用いて意
見交流を行い,自己や 他者との対話が十分に促進されることで,学びは新たな局面を迎えるのである。
しかし,ただ交流すればよいというものではない。自分の考えを紹介したり,友だちの考えを聞いたりす
るだけでなく,その意見に価値付けたり,新たな視点を付加したりするということも積極的に行われるべ
きである。主観ではなく,客観的な事実に基づいて交流する意味でも,再度,条件を統一しながら,協同
的に観察,実験を行い,他者と対話することも一つの方法である。そのような他者とのかかわりや対話を
連続的に繰り返し,自然に対する自分の考えを修正させたり,発展させたりすることで,自分の学びに対
する自信や確信が内面化されていくのではないかと考える。
ただ,協同で思考・交流する問題解決の場は,子ども同士の交流だけを意味するだけではない。子ども
たちの学びの文脈に即しながらも,子どもたちの考えに価値付けを図ったり,視点を明確にしたり,新た
な情報を供給したりするなど,教師が子どもの議論に積極的に介入し,子どもの問題解決にかかわる活動
を教師も協同的に行うことをめざしていきたい。学習者にとって,このような交流を位置づけた学びの積
み重ねは,確かな学力の形成に大いに寄与することであろう。理科授業において,問題解決を通しての「学
び」と「教え」の姿が表裏一体となるとき,子どもの科学概念は効果的に構築されていくのである。
(寺倉邦明・樋口剛史)
〈参考文献〉
森本信也『理科授業のデザイン』東洋館出版社,1999
レイブ,ウエンガー『状況に埋め込まれた学習』佐伯胖訳,産業図書,1993
堀
哲夫『学びの意味を育てる理科の教育評価』東洋館出版社,2003
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