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ブラジル出張報告①:政局の整理と経済改革の行方

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ブラジル出張報告①:政局の整理と経済改革の行方
2017年1月10日
ブラジル出張報告①:政局の整理と経済改革の行方
レッグ・メイソン・アセット・マネジメントは2016年12月にブラジルを訪問し、政府機関や民間企業等と現地の政治・経済動向に
ついて意見交換を行ってきました。本レターでは、足元の政局の整理とテメル政権の経済改革の行方について報告します。

テメル政権は発足直後は順調な政権運営が続いたものの、11月中旬以降は政局混乱が不透明感を高める要因に。

政局混乱の中でも、テメル政権は歳出上限法案の議会承認や年金改革の提案など、着実な経済改革を推進。

2017年は2月の議会再開後に年金改革法案の審議が注目される。2017年はインフラ運営権入札も本格的に始動。

ペトロブラス社に端を発したブラジルの汚職問題は最終局面へ。2018年の大統領選挙が経済改革推進のカギとなる。
テメル政権発足直後は順調な政権運営が続いた
ブラジリア全景
テメル政権発足後の政局の変遷を振り返ると(図1)、11
月上旬頃まではテメル大統領の政権運営は概ね順調な
ものでした。10月の地方選挙では連立与党のブラジル民
主運動党(PMDB)とブラジル社会民主党(PSDB)が勢力
を大きく拡大させたほか、憲法改正が必要となる歳出上
限法案も議会で迅速な審議・承認が進みました。
11月中旬以降、政局混乱が不透明感を高める
しかし、11月中旬以降になると、①文化相の辞任問題
中央奥に議会があり、左右に官庁の建物が並ぶ。
や、②政治家の汚職に厳しい厳罰を課す汚職防止法案
を巡る議会工作、③大手建設会社オデブレヒト社幹部の
大統領府
司法取引とその後の政治家の汚職疑惑に関する一連の
新聞報道、④レナン上院議長の職務停止を巡る最高裁
の混乱(最終的には判事投票により上院議長の職務継続
を承認)など、刻々と変わる政局の混乱がテメル政権の先
行きへの不透明感を高める要因となってきました。
政局混乱の中でも政権の議会運営は安定を維持
もっとも、政局が混乱する中でも、テメル政権は12月13
三権広場(立法・行政・司法)の一角を占める大統領府(行政府)。
日に上院で歳出上限法案の最終承認を実現させたほか、
年金改革法案の議会提出や通信セクターの規制緩和、
最高裁判所
2017年の政府予算案の議会承認、労働法改正案の公
表など、着実な経済改革を推進してきました。
政局の混乱でもテメル政権による議会運営が安定を維
持している背景には、①メイレレス財務相やゴールドファイ
ン中銀総裁が進める財政・金融政策に対する金融市場や
産業界からの評価、②財政健全化策の審議に対する議
会からの支持(議会との良好な関係)、③野党・労働者党
(PT)の影響力の急低下(ルセフ前大統領の失職とルーラ
元大統領の汚職問題)、などがあると考えられます(図2)。
最高裁判事(11名)は上院の承認を経て、大統領が任命する。
(出所)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント撮影
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。●当資料は情報提供を目的としてのみ作
成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
1
2017年は年金改革やインフラ入札が注目材料
ブラジル議会は2016年12月下旬から2017年1月まで
休会となることから、2017年のテメル政権の財政改革が
議会と議会前広場
動き始めるのは2月の議会再開以降ということになります。
特に2017年上半期は年金改革法案の議会審議が注目
材料となそうです(図3)。
年金改革法案は、年金支給開始年齢を男女ともに65
大統領府
上院
下院
歳とし、中長期的に政府の年金支出を抑制することを意
図しています。社会保障支出は中央政府の歳出全体の
約4割を占め、ブラジル財務省の試算では、仮に社会保
障改革を行わなかった場合、社会保障支出は2015年の
GDP比7.2%から2026年にはGDP比9.6%へ増大すると
左の円形ドーム(下向き)が上院、右の円形ドーム(上向き)が下院。
見込まれています(改革実施の場合、2026年の社会保
障支出はGDP比7.6%へ低下する見込み)。
また、2017年はテメル政権が計画するインフラ運営権
入札や民営化が本格的に始動する年となります。政府は
上院議場
2017年第1四半期に4空港の運営権入札を予定している
ほか、2017年下半期には電力・鉄道・港湾・道路セクター
での運営権入札と民営化が実施される計画です。
政界を巻き込んだ汚職問題は最終局面へ
政局のリスク要因としては、オデブレヒト社幹部の司法取
引による政治家への汚職捜査の行方(最高裁の判断)が
注目されます。もっとも、現地政治アナリストによれば、ペト
ロブラス社に端を発し、政界を巻き込んだ汚職問題は既に
上院議員は定数81名、任期8年。中央が議長席。
最終局面に差し掛かっているとの見方もあります。ペトロブ
ラス社の汚職捜査は概ね一巡し、同社は新経営陣のもと
で資産売却などによる経営再建を進めています。ペトロブ
ラス社の建設受注業者であったオデブレヒト社の汚職関
下院議場
与の実態が2017年上半期にも明らかになれば、テメル政
権の改革の方向性がよりはっきりすると考えられます。
2018年の大統領選挙が経済改革推進のカギ
2018年には10月の大統領選挙が最大の注目イベントと
なります。左派陣営(労働者党)の求心力低下を背景に、
2018年の大統領選挙では改革路線を継承する中道右
派政権(PSDBやPMDBが主導)が誕生する可能性が高い
とみられています。テメル政権が進める歳出抑制策や年
金改革以外にも、ブラジルには税制改革や労働市場改革
下院議員は定数513名(任期4年)。投票は電子投票で行われる。
など多くの課題が残されており、大統領選挙の行方が中
長期的な経済改革推進のカギを握ると言えそうです。
(出所)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント撮影
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。●当資料は情報提供を目的としてのみ作
成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
2
図1:テメル政権発足後の政治情勢の変遷
日付
出来事
詳細
2016年5月12日 テメル暫定政権発足 テメル暫定政権の発足(ブラジル上院がルセフ大統領に対する弾劾法廷の設置を可決)。
テメル氏が大統領へ
上院弾劾裁判でルセフ大統領の失職が決定。テメル暫定大統領が正式に大統領へ昇格。
正式に昇格
地方選挙
地方選挙(市長・市議会議員選挙)の第一回投票でテメル政権の連立与党であるブラジル民主運動党(PMDB)
10月2日
(第一回投票)
とブラジル社会民主党(PSDB)が躍進。
歳出上限法案
10月10日
下院が歳出上限法案を可決(第一回投票)。賛成366票、反対111票。
下院第一回投票
8月31日
10月19日 ブラジル中銀利下げ ブラジル中央銀行が4年ぶりに利下げを決定(0.25%)。
10月25日
10月30日
11月9日
歳出上限法案
下院第二回投票
地方選挙
(決選投票)
深海油田開発の
規制緩和
下院が歳出上限法案を可決(第二回投票)。賛成359票、反対116票。法案を上院へ送付。
地方選挙の決選投票で、PSDBとPMDBが勢力を拡大。
議会がブラジルの深海油田(プレサル)開発に関わるペトロブラスの資本参加を義務付けた規制を緩和。
マルセロ・カレロ文化相が辞任。ジェデル・リマ大統領府総務室長官がバイア州サルバドールの歴史地区に計
画中の高層ビルの建築許可を出すよう圧力をかけたことが理由とされる。11月25日にはリマ長官が辞任。
テメル大統領が汚職 テメル大統領が緊急会見を開き、汚職防止法の修正案に関して政治家による過去の選挙時の二重帳簿への恩
11月27日
への厳格な姿勢を表明 赦を認めない方針を表明。
歳出上限法案
11月29日
上院が歳出上限法案を可決(第一回投票)。賛成61票、反対14票。
上院第一回投票
11月18日
閣僚辞任
11月30日 ブラジル中銀利下げ ブラジル中央銀行が2会合連続で0.25%の利下げを決定。
11月30日
12月1日
12月2日
12月5日
12月6日
12月6日
12月7日
12月9日
12月10日
12月13日
下院が汚職防止法
の修正案を可決
最高裁が上院議長
への告発を受理
オデブレヒト社幹部
が司法取引で合意
レナン上院議長への
停職暫定令
年金改革法案
議会提出
上院が通信規制
の緩和を承認
最高裁が上院議長
の職務継続を承認
サンパウロ州知事
汚職疑惑
テメル政権主要閣僚
の汚職疑惑
歳出上限法案
上院が最終承認
12月15日
景気刺激策
12月15日
2017年予算承認
検察がルーラ前大統領
に対し4件目の起訴
2014年大統領選挙
12月19日
での不正献金疑惑
退職金引き出し容認
12月22日
労働法改正案
PT政権の元財務相
12月24日
に汚職疑惑
12月15日
下院が汚職防止法を骨抜きにする修正案を可決。同日、上院は修正案の即日採択を否決。
最高裁がレナン上院議長に対する連邦検察庁の告発を受理。
大手建設会社オデブレヒト社の幹部77名が当局との司法取引を承諾。
最高裁のマルコ・メロ判事がレナン上院議長の停職暫定令を単独判断で下す。
テメル政権が年金改革法案を議会へ提出。
上院が通信セクターの規制緩和を承認。
最高裁がレナン上院議長の停職処分を巡る判事の投票を行い、6対3でレナン上院議長の職務継続を承認。
オデブレヒト社の司法取引に関連し、アウキミン・サンパウロ州知事(PSDB)の不正献金疑惑が報じられる。
オデブレヒト社の司法取引に関連し、テメル大統領ほか主要閣僚の汚職疑惑が報じられる。
上院が歳出上限法案を最終承認。賛成53票、反対16票。
テメル政権が景気刺激策を公表。
上下両院が2017年の政府予算案を承認。
連邦検察庁がルーラ前大統領を起訴。
パラナ連邦地裁のセルジオ・モロ判事は12月19日にルーラ前大統領に対する4件目の起訴を受理。
オデブレヒト社の司法取引に関連し、同社が2014年の大統領選挙キャンペーンでルセフ前大統領とテメル大統
領へ不正献金を行ったとの疑惑が報じられる。
テメル大統領は自己都合退職などの理由から凍結中の積み立て型退職基金からの資金引き出しを認める判断
を下す。また、テメル政権は労働時間規制の緩和を含む労働法改正案を公表。
オデブレヒト社の司法取引に関連し、労働者党(PT)政権下の2名の元財務相(マンテガ元財務相、パロッシ元
財務相)の汚職疑惑が報じられる。
(出所)各種報道
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将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
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図2:ブラジルの政局関係図(2016年末時点)
労働組合
金融市場
支持
民間産業界
野党:労働者党(PT)
テメル大統領(PMDB)
政治的影響力が急低下
(2016年10月地方選挙での大敗)
メイレレス財務相
ル セフ前大統領
財政・社会保障改革を主導
弾劾裁判で失職
ゴ ールドファイン中銀総裁
ル ーラ元大統領
金融緩和を推進
汚職容疑で起訴中
連立与党:PSDB
連立
関係
ネベス党首(上院議員)
ア ウキミン・サンパウロ州知事
支持
下院議員513名
建設工事
受注
レナン上院議長(PMDB)
立法府
(議会)
上院議員81名
閣僚・議員の不逮捕特権
(最高裁の判断を除く)
政治家との
汚職疑惑
司法府
政治家への汚職捜査
大手建設会社
オデブレヒト社
汚職捜査は概ね一巡
新経営陣のもと経営再建中
ドリア・サンパウロ市長
カルドーゾ元大統領
財政健全化策の議会審議で協力
(歳出上限法案を大差で可決)
マイア下院議長(DEM)
国営石油会社
ペトロブラス社
支持
経済改革への評価
行政府
警察・検察当局
司法取引
で合意
供述内容
を送付
最高裁判所
最高裁はレナン上院議長
の職務継続を支持
(2016年12月7日)
供述内容の精査・認証
→政治家への捜査
開始の是非判断
新聞・メディア
汚職情報をリーク?
(出所)レッグ・メイソン・アセット・マネジメント作成
(注)PMDBはブラジル民主運動党、PSDBはブラジル社会民主党、DEMは民主党。
図3:ブラジルの政治・経済政策に関わる主要スケジュール
議会運営・選挙
2016年
金融政策
委員会
汚職捜査・裁判
12月
1月
議会休会(12月下旬~1月)
2月2日:上院・下院議長選挙
2月
2月24日~3月4日:カーニバル
2017年
インフラ
運営権入札・民営化
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
2018年
1月10-11日
4空港の運営権入札
(2017年第1四半期)
年金改革法案
の審議・承認
(2017年7月末まで)
2月21-22日
オデブレヒト社の
司法取引供述を受けて
最高裁が政治家への
捜査開始の是非を判断
4月11-12日
5月30-31日
電力・鉄道・港湾・
道路セクター
の運営権入札・民営化
(2017年下半期)
7月25-26日
9月5-6日
10月24-25日
選挙高等裁判所が
2014年大統領選挙
でのルセフ/テメル陣営
の不正資金使用疑惑で
最終判断を下す見込み
→当選無効の場合は
議会が新大統領を選出
12月5-6日
10月:大統領・議会選挙
(出所)各種資料
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。●当資料は情報提供を目的としてのみ作
成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
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