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発達障害者支援に関する行政評価・監視 結果に基づく勧告 平成 29 年 1

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発達障害者支援に関する行政評価・監視 結果に基づく勧告 平成 29 年 1
発達障害者支援に関する行政評価・監視
結果に基づく勧告
平成 29 年 1 月
総
務
省
前書き
発 達 障 害 は 、発 達 障 害 者 支 援 法( 平 成 16 年 法 律 第 167 号 )に
お い て 、自 閉 症 、ア ス ペ ル ガ ー 症 候 群 そ の 他 の 広 汎 性 発 達 障 害 、
学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障
害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとさ
れている。
発達障害者支援法が制定されるまで、発達障害は、身体、知
的及び精神の各障害者制度の谷間に置かれ、必要な支援が届き
に く い 状 態 と な っ て い た が 、平 成 17 年 4 月 の 同 法 の 施 行 に よ り 、
早 期 の 発 見 、発 達 支 援( 医 療 的 、福 祉 的 及 び 教 育 的 援 助 )、学 校
教育における支援、就労の支援、発達障害者支援センターの設
置などが進んでいる。
ま た 、施 行 後 約 10 年 が 経 過 し た 発 達 障 害 者 支 援 法 に つ い て は 、
障 害 者 基 本 法 ( 昭 和 45 年 法 律 第 84 号 ) の 改 正 や 障 害 者 の 権 利
に関する条約の締結等を踏まえ、発達障害者に対する支援のよ
り一層の充実を図るため、法律の全般にわたって所要の改正が
行われたところである。
一方、発達障害者支援については、①乳幼児健診でアセスメ
ントツール(発達障害を発見するための評価シート)を導入し
ている市町村が全体の 1 割にも満たない、②保育所、幼稚園、
小学校、中学校及び高等学校に進学する過程で支援が途切れた
り、サービスが低下する場合がある、③他の障害者と比べて発
達障害者の就職率が低いといった状況から、各ライフステージ
を通じた継続した支援の在り方に課題があるとの指摘もある。
適切な支援が行われない場合、発達障害者に、社会生活への不
適応、不登校、鬱病等の二次障害が発現することも有り得ると
されており、早期の発見及び発達支援の実施が重要である。
この行政評価・監視は、以上のような状況を踏まえ、発達障
害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進を図る
観点から、発達障害者への各ライフステージにおける支援の実
施状況等を調査し、関係行政の改善に資するために実施したも
のである。
発 達 障 害 者 が「 生 き づ ら さ 」を 、そ の 保 護 者 が「 育 て に く さ 」
をそれぞれ感じることなく、日常生活や社会生活を営むことが
できるようにするためには、改正発達障害者支援法の成立を踏
まえ、乳幼児期からの各ライフステージを通じた切れ目のない
関係者による支援の充実のほか、発達障害に対する国民の理解
の浸透を図っていくことが重要である。本行政評価・監視が、
こうした支援の充実や国民の理解の一助になれば幸いである。
目
次
1
発 達 障 害 者 支 援 施 策 の 概 要 ····························· 1
2
各 ラ イ フ ス テ ー ジ に お け る 支 援 の 実 施 状 況 ··············· 7
(1) 発 達 障 害 児 の 早 期 発 見 ······························· 7
(2) 発 達 障 害 児 に 関 す る 支 援 計 画 及 び 指 導 計 画 の 作 成 の 推 進
···················································· 21
(3) 発 達 障 害 児 に 関 す る 情 報 の 共 有 ・ 引 継 ぎ の 推 進 ········ 28
3
専 門 的 医 療 機 関 の 確 保 状 況 ···························· 36
1
発達障害者支援施策の概要
(1)
発達障害と発達障害者支援法の制定
自閉症、アスペルガー症候群などの発達障害は、生まれつ
きの特性で、子どもの発達の早い時期から症状が現れ、その
発 達 過 程 に 大 き な 影 響 を 与 え る( そ の 意 味 で 、
「 発 達 障 害 」と
呼 ば れ て い る 。) が 、「 病 気 」 と は 異 な る 。 生 ま れ つ き 脳 の 発
達が通常と違っているために、日常生活や他人との関わり、
学業などに影響が出て、本人は「生きづらさ」を感じ、親は
「育てにくさ」を感じることがあるとされている。
他方で、発達障害は、優れた能力が発揮されている場合も
あり、周りから見てアンバランスな様子が理解されにくい障
害とも言われている。
こうした発達障害は、従来、身体障害、知的障害及び精神
障 害 の 各 制 度 の 谷 間 に 置 か れ 、ま た 、一 般 の 理 解 が 得 ら れ ず 、
その発見が遅れ、必要な支援が届きにくい状態となっていた
ことから、発達障害者が乳幼児期から成人期までの各ライフ
ステージに合った適切な支援が受けられるよう、発達障害者
支 援 法 ( 平 成 16 年 法 律 第 167 号 ) が 制 定 さ れ 、 平 成 17 年 4
月から施行された。
発達障害者支援法の成立に伴い、障害者関連の各制度にお
いても、発達障害が位置付けられ、必要な支援サービスが提
供される仕組みが整備されている。
(2)
発達障害者の数
身体障害者、知的障害者及び精神障害者と異なり、固有の
手帳制度がない発達障害者の正確な数は分かっていないが、
文 部 科 学 省 が 平 成 24 年 2 月 か ら 3 月 ま で に か け て 全 国( 岩 手 、
宮 城 及 び 福 島 の 3 県 を 除 く 。)の 公 立 の 小 学 校 及 び 中 学 校 の 通
常の学級に在籍する児童生徒を対象として実施した「通常の
学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を
- 1 -
必要とする児童生徒に関する調査」
( 平 成 24 年 12 月 文 部 科 学
省)の結果では、学習面又は行動面で著しい困難を示すとさ
れ た 児 童 生 徒 の 割 合 は 6.5% ( 推 定 値 ) ( 注 1 ) と な っ て い る 。
ま た 、同 省 が 平 成 27 年 5 月 に 公 立 の 小 学 校 、中 学 校 及 び 中
等教育学校(前期課程)を対象として実施した「通級による
指 導 実 施 状 況 調 査 」( 平 成 28 年 5 月 公 表 ) の 結 果 で は 、 通 級
による指導
( 注 2)
を 受 け て い る 発 達 障 害( 自 閉 症 、学 習 障 害 及
び 注 意 欠 陥 多 動 性 障 害 )の あ る 児 童 生 徒 数 は 、平 成 27 年 度( 5
月 1 日 時 点 ) で は 4 万 1,986 人 ( 自 閉 症 1 万 4,189 人 、 学 習
障 害 1 万 3,188 人 、 注 意 欠 陥 多 動 性 障 害 1 万 4,609 人 ) と な
っ て い る ( 平 成 18 年 度 の 約 6.1 倍 )。
( 注 1)
6.5% ( 推 定 値 ) は 、 文 部 科 学 省 が 行 っ た 調 査 に お い て 、 担 任 教 員
が記入し、特別支援教育コーディネーター(学校における特別支援
教育の推進のため、主に、校内委員会・校内研修の企画・運営、関
係機関・学校との連絡・調整、保護者の相談窓口等の役割を担う教
員)又は教頭(副校長)による確認を経て提出した回答に基づくも
ので、発達障害の専門家等による判断や、医師による診断によるも
のではない。
( 注 2)
小・中 学 校 の 通 常 の 学 級 に 在 籍 し て い る 言 語 障 害 、自 閉 症 、情 緒
障害、弱視、難聴、学 習障害、注意欠陥多動 性障害等の比較的軽度
の 障 害 の あ る 児 童 生 徒 に 対 し て 、主 と し て 各 教 科 等 の 指 導 を 通 常 の
学 級 で 行 い な が ら 、当 該 児 童 生 徒 の 障 害 に 応 じ た 特 別 の 指 導 を 特 別
の指導の場(通級指導教室)で行う教育形態である。
一 方 、厚 生 労 働 省 が 平 成 26年 10月 に 全 国 の 病 院 及 び 診 療 所
を 利 用 し た 患 者 を 対 象 と し て 実 施 し た 「 患 者 調 査 」( 平 成 27
年 12月 公 表 )の 結 果 で は 、医 療 機 関 に 通 院 又 は 入 院 し て い る
自 閉 症 、ア ス ペ ル ガ ー 症 候 群 、学 習 障 害 、注 意 欠 陥 多 動 性 障
害 等 の 患 者 の 総 数 ( 推 計 値 ) は 、 19万 5,000人 ( 自 閉 症 、 ア
ス ペ ル ガ ー 症 候 群 、学 習 障 害 等 ( 注 3 ) は 14万 4,000人 、注 意 欠
陥 多 動 性 障 害 等 ( 注 4) は 5万 1,000人 ) と な っ て い る 。
ま た 、 同 省 が 平 成 25年 6月 に 全 国 の 精 神 科 病 院 、 精 神 科 診
療 所 等 を 利 用 し た 患 者 を 対 象 と し て 実 施 し た「 精 神 保 健 福 祉
資 料 調 査 」の 結 果 で は 、精 神 障 害 者 保 健 福 祉 手 帳 交 付 者 数( 平
- 2 -
成 25年 6月 の 1か 月 間 )の う ち 発 達 障 害 者 は 1,418人( 自 閉 症 、
ア ス ペ ル ガ ー 症 候 群 、学 習 障 害 等 ( 注 3 ) は 1,259人 、注 意 欠 陥
多 動 性 障 害 等 ( 注 4 ) は 159人 ) と な っ て い る 。
( 注 3)
ICD-10( 疾 病 及 び 関 連 保 健 問 題 の 国 際 統 計 分 類 ) に お け る 「 心 理
的 発 達 の 障 害 ( F80-F89)」 に 含 ま れ る 障 害 で あ る 。
( 注 4) ICD-10に お け る 「 小 児 <児 童 >期 及 び 青 年 期 に お け る 通 常 発 症 す る
行 動 及 び 情 緒 の 障 害 ( F90-F98)」 に 含 ま れ る 障 害 で あ る 。
(3)
発達障害者支援法の概要
平 成 17 年 4 月 に 施 行 さ れ た 発 達 障 害 者 支 援 法 は 、障 害 者 の
権 利 に 関 す る 条 約( 以 下「 障 害 者 権 利 条 約 」と い う 。)の 署 名
( 平 成 19 年 )・ 批 准( 平 成 26 年 ) ( 注
5)
、障 害 者 基 本 法( 昭
和 45 年 法 律 第 84 号 )の 改 正( 平 成 23 年 ) ( 注
6)
を 経 て 、施
行 後 約 10 年 が 経 過 し た こ と を 踏 ま え 、発 達 障 害 者 の 支 援 の 一
層の充実を図るため、法律の全般にわたって所要の改正が行
わ れ た ( 平 成 28 年 8 月 1 日 施 行 )。
今般の改正内容を含め、発達障害者支援法の概要は、次の
とおりである。
( 注 5)
障害者の人権や基本的自由の享有の確保など障害者の権利を実現
するための措置等を規定した障害者に関する初めての国際条約であ
る。
( 注 6) 改 正 前 の 障 害 者 基 本 法 で は 、
「 障 害 」の 範 囲 に つ い て 、
「身体障害、
知 的 障 害 又 は 精 神 障 害 」と 規 定 さ れ て い た が 、改 正 後 は 、
「身体障害、
知 的 障 害 、精 神 障 害( 発 達 障 害 を 含 む 。)そ の 他 の 心 身 の 機 能 の 障 害 」
と規定されている。
ア
趣旨・目的
○発達障害者の自立及び社会参加のためのその生活全般に
わ た る 支 援 の 促 進 ( 第 1条 )
○発達障害者支援を担当する関係機関等の緊密な連携の確
保、協力体制の整備
イ
等 ( 第 2条 の 2及 び 第 3条 )
発達障害の定義
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、
学習障害、注意欠陥多動性障害などの脳機能の障害で、通
- 3 -
常低年齢で発現する障害
ウ
等 ( 第 2条 )
ライフステージに応じた支援
( 就 学 前 ( 乳 幼 児 期 ))
○ 乳 幼 児 健 診 、 就 学 時 健 診 等 に よ る 早 期 発 見 ( 第 5条 )
○ 早 期 の 発 達 支 援 ( 第 6条 )
( 就 学 中 ( 学 童 期 等 ))
○ 専 門 的 発 達 支 援 ( 第 6条 )
○ 保 育 に お け る 適 切 な 配 慮 ( 第 7条 )
○ 適 切 な 教 育 的 支 援 ・ 支 援 体 制 の 整 備 ( 第 8条 )
○ 放 課 後 児 童 健 全 育 成 事 業 の 利 用 ( 第 9条 )
○ 福 祉・教 育 関 係 機 関 等 に お け る 発 達 障 害 者 の 支 援 に 資 す
る 情 報 共 有 の 促 進 ( 第 9条 の 2)
( 学 校 卒 業 後 ( 青 壮 年 期 ))
○ 発 達 障 害 者 の 特 性 に 応 じ た 適 切 な 就 労 の 機 会 の 確 保( 第
10条 )
○ 地 域 で の 生 活 支 援 ( 第 11条 )
○ 発 達 障 害 者 の 権 利 利 益 の 擁 護 ( 第 12条 )
エ
国、地方公共団体の役割
○ 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー( 相 談 支 援・情 報 提 供・研 修 等 )、
専門的な医療機関の確保
等 ( 第 14条 、 第 19条 等 )
○ 専 門 的 知 識 を 有 す る 人 材 確 保 ( 研 修 等 )、 調 査 研 究
等
( 第 23条 、 第 24条 等 )
(4)
発達障害者支援法と障害者総合支援法の関係
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための
法 律( 平 成 17 年 法 律 第 123 号 。以 下「 障 害 者 総 合 支 援 法 」と
い う 。)で は 、障 害 者 及 び 障 害 児 が 基 本 的 人 権 を 享 有 す る 個 人
としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むこと
- 4 -
ができるよう、発達障害者を含む障害者等を対象として、必
要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他
の支援を総合的に行うこととされている。
上 記 の 支 援 の う ち 障 害 者 総 合 支 援 法 第 77 条 及 び 第 78 条 に
基づき実施することとされている地域生活支援事業は、
「地域
生 活 支 援 事 業 実 施 要 綱 」( 平 成 18 年 8 月 1 日 付 け 障 発 第
0801002 号 厚 生 労 働 省 社 会 ・ 援 護 局 障 害 保 健 福 祉 部 長 通 知 )
により、都道府県が実施主体として行う都道府県地域生活支
援事業と市町村が実施主体として行う市町村地域生活支援事
業をその主な内容としており、それぞれ必須事業と任意事業
がある。
発達障害者支援法に基づく施策に関係する主な地域生活支
援 事 業 と し て は 、① 巡 回 支 援 専 門 員 整 備( 市 町 村 の 任 意 事 業 )、
②発達障害者支援体制整備(都道府県の任意事業) (注
7)
及
び ③ 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 運 営 事 業( 都 道 府 県 の 必 須 事 業 )
が あ り 、こ れ ら に 対 応 す る 発 達 障 害 者 支 援 法 に 基 づ く 施 策 は 、
上記①については、児童の発達障害の早期発見等、早期の発
達支援、保育、教育及び放課後児童健全育成事業の利用(第
5 条 か ら 第 9 条 ま で )、上 記 ② に つ い て は 、発 達 障 害 者 の 家 族
等 へ の 支 援 及 び 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 等 ( 第 13 条 及 び 第
14 条 )、 上 記 ③ に つ い て は 、 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 等 ( 第
14 条 ) と な っ て い る 。
( 注 7)
(5)
「 発 達 障 害 者 支 援 体 制 整 備 ( 都 道 府 県 の 任 意 事 業 )」 の 中 に は 、 家
族支援体制整備、地域支援体制サポート等が含まれる。
行政評価・監視の対象とした施策
発 達 障 害 者 支 援 法 の 施 行 に よ り 、発 達 障 害 の 定 義 が 確 立 し 、
児童の発達障害の早期発見から保育、教育、就労等、発達障
害者のライフステージにおける一貫した支援の流れが示さ
れ、それに伴う国や地方公共団体の責務も明らかになった。
一 方 、各 ラ イ フ ス テ ー ジ を 通 じ た 継 続 し た 支 援 に 課 題 が あ
- 5 -
るとの指摘があることから、本行政評価・監視では、発達障
害者の心理機能の適正な発達及び円滑な社会生活の促進を
図 る 観 点 か ら 、 発 達 障 害 者 支 援 法 に 基 づ く 施 策 の う ち 、「 児
童 の 発 達 障 害 の 早 期 発 見 等( 第 5 条 )」、
「 早 期 の 発 達 支 援( 第
6 条 )」、
「 保 育( 第 7 条 )」、
「 教 育( 第 8 条 )」、
「放課後児童健
全 育 成 事 業 の 利 用 ( 第 9 条 )」、「 情 報 の 共 有 の 促 進 ( 第 9 条
の 2)」、
「 就 労 の 支 援( 第 10 条 )」及 び「 発 達 障 害 者 の 家 族 等
へ の 支 援 ( 第 13 条 )」 の 各 ラ イ フ ス テ ー ジ に お け る 支 援 並 び
に 「 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 等 (第 14 条 )」 及 び 「 専 門 的 な
医 療 機 関 の 確 保 等( 第 19 条 )」を 調 査 対 象 と し て 取 り 上 げ た 。
な お 、本 行 政 評 価・監 視 で は 、主 に 、各 ラ イ フ ス テ ー ジ で 、
発 達 障 害 者( 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 者 を 含 む 。)に 対 す る 支 援 が
比較的届きにくいと考えられる層を対象とした。学童期等で
は、比較的個別の配慮を受けられる可能性が高い特別支援学
校の発達障害児並びに小学校及び中学校の特別支援学級及び
通級による指導を受けている発達障害児については対象から
除き、就労期においては、手帳を所持していないため必要な
支援が届きにくい発達障害者を対象とした。
- 6 -
2
各ライフステージにおける支援の実施状況
(1)
発達障害児の早期発見
発達障害者に対する適切な支援がなされない場合、その特
性により生じる問題に周囲が気付かずに無理強い、叱責など
を繰り返すことで失敗やつまずきの経験が積み重なり自尊感
情の低下等を招き、更なる適応困難、不登校や引きこもり、
反社会的行動等、二次的な問題としての問題行動(以下「二
次 障 害 」 と い う 。) が 生 じ る こ と が あ る と さ れ て い る (「 生 徒
指 導 提 要 」( 平 成 22 年 3 月 文 部 科 学 省 ))。
こうした二次障害を未然に防止する上で、発達障害者を早
期に発見し、早期に適切な発達支援につなげていくことが特
に重要であることから、国及び地方公共団体は、発達障害の
早期発見のため必要な措置を講ずるものとされている(発達
障 害 者 支 援 法 第 3 条 第 1 項 )。
ま た 、市 町 村 は 、母 子 保 健 法( 昭 和 40 年 法 律 第 141 号 )第
12 条 及 び 第 13 条 に 規 定 す る 健 康 診 査 ( 以 下 「 乳 幼 児 健 診 」
と い う 。) を 、 市 町 村 教 育 委 員 会 は 学 校 保 健 安 全 法 ( 昭 和 33
年 法 律 第 56 号 ) 第 11 条 に 規 定 す る 就 学 時 の 健 康 診 断 ( 以 下
「 就 学 時 健 診 」と い う 。)を 行 う に 当 た り 、発 達 障 害 の 早 期 発
見に十分留意しなければならないものとされている(発達障
害 者 支 援 法 第 5 条 第 1 項 及 び 第 2 項 )。
(乳幼児健診)
発達障害、特に広汎性発達障害は、1 歳前後でその特徴が
目立ち始めるとされており、その発見の場が、母子保健法第
12 条 の 規 定 に 基 づ き 市 町 村 が 実 施 す る 満 1 歳 6 か 月 を 超 え 満
2 歳 に 達 し な い 幼 児 に 対 す る 健 康 診 査( 以 下「 1 歳 6 か 月 児 健
診 」と い う 。)及 び 満 3 歳 を 超 え 満 4 歳 に 達 し な い 幼 児 に 対 す
る 健 康 診 査 ( 以 下 「 3 歳 児 健 診 」 と い う 。) で あ る 。
また、注意欠陥多動性障害などの発達障害は、多くの児童
- 7 -
が保育所又は幼稚園で集団生活に慣れ始める 5 歳頃までには、
そ の 特 性 が 現 れ る と さ れ て お り 、母 子 保 健 法 第 13 条 の 規 定 に
基づき市町村が任意で実施している 5 歳児を対象とする健康
診 査( 以 下「 5 歳 児 健 診 」と い う 。)も 発 達 障 害 を 発 見 す る 上
で重要な役割を果たすものと考えられる。
乳幼児健診において、厚生労働省は、広汎性発達障害を早
期に発見するためのツールとして、M-CHAT及びPAR
S (注
1)
の 活 用・普 及 を 図 っ て い る が 、同 省 が 平 成 26 年 度 に
行った調査では、乳幼児健診等における両ツールの活用は低
調
( 注 2)
で、普及は進んでいない。
( 注 1)
いずれも発達障害が疑われる児童生徒の特徴に関するチェックリ
ストであり、該当する項目数で疑いを判断するもので、M-CHA
T は 生 後 18 か 月 か ら 36 か 月 ま で の 児 童 を 対 象 に 23 項 目 ( 簡 易 版 は 10
項 目 )、P A R S は 3歳 以 上 の 児 童 等 を 対 象 に 33又 は 34項 目 (簡 易 版 は
11又 は 12項 目 )を チ ェ ッ ク す る も の で あ る 。
M-CHATは「乳幼児健康診査における高機能広汎性発達障害
の 早 期 評 価 」( 平 成 19年 厚 生 労 働 科 学 研 究 ) 等 に お い て 、 ま た 、 P A
R S は「 広 汎 性 発 達 障 害 評 定 尺 度 第 二 版 (P A R S -Ⅱ )妥 当 性 ・ 信 頼
性 の 検 討 」( 平 成 21年 厚 生 労 働 科 学 研 究 ) 等 に お い て 、 ツ ー ル の 体 系
的な妥当性、各質問項目の妥当性について検証が行われ、いずれも
信頼できるものとの結論が得られている。例えば、M-CHATの
検 証 で は 、1歳 6か 月 児 健 診 を 受 診 し た 児 童 1,400人 に 対 し て 同 ツ ー ル
を 活 用 し 、 不 通 過 と な っ た 児 童 24人 に 医 師 の 臨 床 診 断 等 を 実 施 し 、
19人 ( 79% ) が 広 汎 性 発 達 障 害 と 同 定 さ れ て い る 。
( 注 2 ) M - C H A T は 全 市 町 村 の 7% ( 1 24 市 町 村 )、 P A R S は 3% ( 49
市町村)の利用にとどまっている。
(就学時健診)
文部科学省は、
「発達障害のある児童生徒等への支援につい
て ( 通 知 )」( 平 成 17 年 4 月 1 日 付 け 17 文 科 初 第 211 号 文 部
科学省初等中等教育局長、高等教育局長、スポーツ・青少年
局長連名通知)において、市町村教育委員会に対し、就学時
健診を行うに当た り、発達障害の早 期発見に十分留意 するよ
う求めているが、具体的な方法は特に示していない。
(保育所、学校在籍時)
- 8 -
厚生労働省は、保育所入所後の発達障害の発見の取組方法
に つ い て 、市 町 村 に 対 し 特 段 の 通 知 等 は 行 っ て い な い が 、障
害者総合支援法に基づく地域生活支援事業のメニューの一
つとして、巡回支援専門員整備事業
( 注 3)
(市町村の任意事
業)の促進を図っている。
( 注 3)
発達障害等に関する知識を有する専門員が、保育所や放課後児童
クラブ等の子どもやその親が集まる施設・場を巡回し、施設のスタ
ッフや親に対し、障害の早期発見・早期対応のための助言等の支援
を行うもの。
ま た 、 文 部 科 学 省 は 、「 特 別 支 援 教 育 の 推 進 に つ い て ( 通
知 )」
( 平 成 19 年 4 月 1 日 付 け 19 文 科 初 第 125 号 文 部 科 学 省
初 等 中 等 教 育 局 長 通 知 )に お い て 、都 道 府 県 教 育 委 員 会 及 び
市 町 村 教 育 委 員 会 に 対 し 、各 学 校 に お い て 、在 籍 す る 幼 児 児
童 生 徒 の 実 態 の 把 握 に 努 め 、特 別 な 支 援 を 必 要 と す る 幼 児 児
童 生 徒 の 存 在 や 状 態 を 確 か め る こ と 、特 に 幼 稚 園 及 び 小 学 校
に お い て は 、発 達 障 害 等 の 障 害 は 早 期 発 見 ・ 早 期 支 援 が 重 要
で あ る こ と に 留 意 し 、実 態 把 握 や 必 要 な 支 援 を 着 実 に 行 う こ
となどを求めている。
実態の把握方法について、文部科学省は、都道府県教育委
員 会 等 に 対 し 、「 小 ・ 中 学 校 に お け る L D ( 学 習 障 害 )、 A D
H D ( 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 )、 高 機 能 自 閉 症 の 児 童 生 徒 へ
の 教 育 支 援 体 制 の 整 備 の た め の ガ イ ド ラ イ ン( 試 案 )」( 平 成
16 年 1 月 文 部 科 学 省 )( 注
4)
のほか、
「通常の学級に在籍する
発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児
童生徒に関する調査」の質問項目
( 注 5)
を参考として示して
いる。
( 注 4)
ガイドラインは、
「障害者基本計画」
( 平 成 14 年 12 月 24 日 閣 議 決
定 )に 基 づ く「 重 点 施 策 実 施 5 か 年 計 画 」に お い て 、
「 小・中 学 校 に
お け る 学 習 障 害( L D )、注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害( A D H D )等 の 児
童生徒への教育支援を行う体制を整備するためのガイドラインを平
成 16 年 度 ま で に 策 定 す る 。」と さ れ た こ と を 受 け て 策 定 さ れ て お り 、
各地域や各小・中学校での実践を通しての意見等を踏まえ、随時改
善するものとして「試案」とされている。
- 9 -
( 注 5)
実態調査の質問項目は、文部科学省が設置した協力者会議(医師
や専門家等により構成)において検討されたものであり、ⅰ)学習
面 に つ い て は 、「 L D I - R - L D 診 断 の た め の 調 査 票 - 」( 日 本 文
化 科 学 社 )を 参 考 と し て 作 成 さ れ た も の 、ⅱ )行 動 面(「 不 注 意 」
「多
動 性 - 衝 動 性 」)に つ い て は 、
「ADHD評価スケール」
(株式会社明
石 書 店 ) を 使 用 し た も の 、 ⅲ ) 行 動 面 (「 対 人 関 係 や こ だ わ り 等 」)
については、スウェーデンの研究者によって作成された高機能自閉
症に関するスクリーニング質問紙(ASSQ)を参考として作成さ
れたものである。
今 回 、 都 道 府 県 19、 都 道 府 県 教 育 委 員 会 19、 市 町 村 31、
市 町 村 教 育 委 員 会 31、保 育 所 23、学 校 93( 幼 稚 園 23、小 学
校 23、中 学 校 23、高 等 学 校 24)を 対 象 と し て 、乳 幼 児 健 診 、
就学時健診並びに保育所及び学校在籍時における発達障害
が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 の 発 見 の 取 組 状 況 を 調 査 し た 結 果 、以 下
のような状況がみられた。
ア
乳幼児健診及び就学時健診における発達障害の発見の
取組状況
(ア)
乳幼児健診における発達障害の発見の取組状況
調 査 し た 31 市 町 村 で は 、乳 幼 児 健 診 に お い て 、発 達
障害が疑われる児童を発見するため、総じて、保健師
による行動観察、医師による問診などを行っており、
それらに加え、M-CHATやPARSを活用してい
るものは 5 市町村(1 歳 6 か月児健診でM-CHAT
を導入しているものは 5 市町村、3 歳児健診でPAR
Sを導入しているものは 3 市町村)となっている。
調査した市町村における発達障害が疑われる児童の
発 見 割 合 は 、 平 成 26 年 度 に お い て 、 1 歳 6 か 月 児 健 診
で 14.2% ( 当 省 調 査 で 確 認 で き た 23 市 町 村 の 平 均 )、
3 歳 児 健 診 で 8.2% ( 当 省 調 査 で 確 認 で き た 24 市 町 村
の平均)となっている。
また、市町村ごとの発見割合をみると、1 歳 6 か月
- 10 -
児 健 診 で 0.2% か ら 48.0% ま で 、3 歳 児 健 診 で 0.5% か
ら 36.7% ま で と か な り の 幅 が み ら れ 、発 達 障 害 が 疑 わ
れる児童の発見割合は、市町村ごとにかなりのばらつ
きがある状況がみられた。
さらに、M-CHATやPARSを導入している市
町 村 と 導 入 し て い な い 市 町 村 と の 間 で 比 較 す る と 、ⅰ )
M - C H A T や P A R S を 導 入 し て い る 市 町 村 で は 、1
歳 6 か 月 児 健 診 で 0.9% か ら 33.3% ま で 、 3 歳 児 健 診
で 1.3% か ら 14.5% ま で 、ⅱ )M - C H A T や P A R S
を導入していない市町村では、 1 歳 6 か月児健診で
0.2% か ら 48.0% ま で 、3 歳 児 健 診 で 0.5% か ら 36.7%
までとなっていた。このように、M-CHATやPA
RSを導入している市町村と導入していない市町村と
の間では多少の差はあるものの、発達障害が疑われる
児童の発見割合が市町村ごとに相当ばらついていると
いう状況は、M-CHATやPARSの導入の有無に
かかわらず、共通していた。
厚生労働省の研究
(注 6)
において、幼児期の広汎性発
達 障 害 の 有 病 率 が 1.6% と 推 計 さ れ て い る こ と か ら み
て、1 歳 6 か月児健診で発達障害が疑われる児童の発
見 割 合 が 1.6% を 下 回 る 4 市 町 村 、 同 じ く 3 歳 児 健 診
で 1.6% を 下 回 る 3 市 町 村 に つ い て は 、 発 達 障 害 が 疑
われる児童の発見が漏れている可能性が高いと考えら
れ る 。ま た 、1 歳 6 か 月 児 健 診 で 1.6% を 下 回 る 4 市 町
村 の う ち 、1 市 町 村 で は M - C H A T を 活 用 し て い た 。
(注 6)
厚生労働省の「1 歳からの広汎性発達障害の出現とその発
達 的 変 化 : 地 域 ベ ー ス の 横 断 的 お よ び 縦 断 的 研 究 」( 平 成 20
年 度 ~ 22 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 )に お い て 、国 際 的 な 診 断 基
準 (DSM- Ⅳ -TR) に 従 っ て 顕 著 な 広 汎 性 発 達 障 害 の 特 性 を 示 す
層 の 割 合 ( 有 病 率 ) は 0.9% か ら 1.6% ま で と さ れ て お り 、
幼 児 期 の 割 合 は 1.6% と 推 計 さ れ て い る 。 ま た 、 同 科 学 研 究
で は 、顕 著 で は な い が 広 汎 性 発 達 障 害 の 特 性 を 示 す 児 童 は 約
15% 存 在 す る と し て い る 。
- 11 -
乳幼児健診において発達障害が疑われる児童の発見
割 合 が 、市 町 村 ご と に か な り の ば ら つ き が あ り 、か つ 、
一部には、発見漏れが疑われるような状況が生じてい
る点について、発達障害児の診断を行っている有識者
か ら も 、 発 見 割 合 が 1.6% を 下 回 る 市 町 村 は 発 達 障 害
が疑われる児童の発見が漏れている可能性が高いとの
見解が示され、また、その要因について、発達障害が
疑われる児童の把握の仕方が市町村によって異なるこ
と 、保 健 師 の 経 験 や 専 門 性 の 違 い が 指 摘 さ れ た 。更 に 、
1 歳 6 か 月 児 健 診 で 1.6% を 下 回 り 、M - C H A T を 活
用している 1 市町村については、同ツールが正しく使
用されていない可能性があるとの指摘があった。
また、意見を聴取した有識者からは、経験の不足す
る保健師の専門性を補うため、更には保健師の力量ア
ップやスキルの維持を図る上でM-CHAT及びPA
RSの活用は有効であるとの見解が聴かれた。また、
調査した市町村のうちM-CHAT又はPARSを導
入している市町村では、ⅰ) 評価者の経験値に左右さ
れ な い 、ⅱ )発 達 障 害 の 特 徴 に つ い て の 保 健 師 の 理 解 が
深まった、ⅲ)保護者と課題が共有しやすくなったな
ど、同ツールを肯定的に捉えていた。
一方、M-CHAT及びPARSを導入していない
市 町 村 の 中 に は 、ⅰ )項 目 数 を 限 定 し た 簡 易 版 が あ る こ
とを知らず、導入による健診時間の確保を課題として
挙げるものなど、M-CHATやPARSに対する理
解 が 必 ず し も 十 分 で な い 状 況 や 、ⅱ )導 入 に よ っ て 支 援
が必要な児童が増加し、療育の受皿が不十分な現状で
は対応できないのではないか、保護者の不安感を醸成
してしまうのではないかとの懸念を挙げるものなど、
発達障害を早期に発見する重要性への理解不足がみら
- 12 -
れた。
ま た 、 調 査 し た 19 都 道 府 県 の う ち 、 市 町 村 に 対 し 、
研修等を通じ、M-CHATやPARSの普及の取組
を行っているものは 6 都道府県にとどまり、普及させ
るに当たっては、同ツールを用いることによる判断の
優位性を示す情報の提供が必要とする意見があった。
発達障害を早期に発見することはその後の適切な支
援のために重要であり、ライフステージの初期段階に
当たる乳幼児健診の場は、早期発見のためのスクリー
ニ ン グ の 機 会 と し て 極 め て 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、
前述のとおり、乳幼児健診における発見割合は、同ツ
ールの活用も含め市町村ごとに区々であり、発見漏れ
が疑われる事態もみられる。乳幼児健診における発見
漏れは、本来必要であるはずの支援の着手が遅れるこ
とを意味するため、有効な発見手法とその適切な利用
によって、乳幼児健診の場を発達障害が疑われる児童
のスクリーニングの場として十分に機能させる必要が
ある。
(イ)
5 歳児健診における発達障害の発見の取組状況
今回、5 歳児健診と 1 歳 6 か月児健診及び 3 歳児健
診との比較のため、3 市町村を抽出し、5 歳児健診時
における発達障害の発見の取組状況を試みに調査し
た結果、次のような状況がみられた。
調査した 3 市町村では、いずれも児童が通う保育所
及 び 幼 稚 園 の 保 育 士 、教 諭 等 か ら 児 童 の 集 団 生 活 に お
ける態様を把握した上で、医師による問診、保健師に
よる行動観察などを行っていた。
これらの市町村における、5 歳児健診で発達障害が
疑 わ れ た 児 童 の 平 成 26 年 度 の 割 合 は 、平 均 9.6% で あ
- 13 -
り 、24 年 度 の 3 歳 児 健 診 時 に 発 達 障 害 が 疑 わ れ た 児 童
の 割 合 と 比 較 す る と 、 1.8 ポ イ ン ト 増 加 し て お り 、 単
純に比較はできないが、3 歳児健診では発見されなか
った発達障害児が疑われる児童が新たに発見されて
いる可能性があると考えられる。
後述する就学時健診を実施する市町村教育委員会か
ら は 、小 学 校 入 学 の お よ そ 4 か 月 前 に 行 わ れ る 就 学 時
健 診 で は 、発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 を 発 見 し て も 入 学
までに十分な療育の機会が確保できないため、5 歳児
健 診・相 談 の 整 備 が 必 要 で あ る と の 意 見 が み ら れ た( 4
教育委員会)ところであり、注意欠陥多動性障害など
の発達障害を発見する上では、5 歳児健診は市町村の
任意の取組であり財政面への配慮は必要であるもの
の、今後も、取組が増加していくことが期待される。
(ウ)
就学時健診における発達障害の発見の取組状況
調 査 し た 31 市 町 村 教 育 委 員 会 の う ち 、 就 学 時 健 診
に お い て 、知 能 検 査 、発 達 検 査 、医 師 に よ る 問 診 、就
学 先 の 小 学 校 の 教 員 に よ る 行 動 観 察 等 を 通 じ 、発 達 障
害が疑われる児童を発見する取組を行っているもの
は 20 市 町 村 教 育 委 員 会 ( 64.5% ) と な っ て お り 、 残
る 11 市 町 村 教 育 委 員 会 ( 35.5% ) は 発 達 障 害 が 疑 わ
れる児童を発見する取組を行っていなかった。
未 実 施 の 市 町 村 教 育 委 員 会 で は 、そ の 理 由 に つ い て 、
ⅰ )相 談 を 希 望 す る 保 護 者 に は 就 学 相 談 を 別 途 行 っ て
い る 、ⅱ )小 学 校 に 在 籍 す る 発 達 障 害 児 等 に 関 す る 実
態調査を独自に実施しており同調査を通じて把握で
き る 、ⅲ )就 学 時 健 診 は 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 を 発
見 す る 場 で は な い な ど と し て お り 、発 達 障 害 の 早 期 発
見の重要性が十分認識されていないと考えられる状
- 14 -
況 が み ら れ た 。ま た 、こ の ほ か 、ⅳ )短 い 健 診 時 間 内
で は 対 応 で き な い 、ⅴ )学 校 医 は 発 達 障 害 の 専 門 医 と
は 限 ら な い な ど 、取 組 方 法 に 課 題 が あ る と の 意 見 も み
られた。
イ
保育所及び学校在籍時における発達障害の発見の取組
状況等
(ア)
保育所在籍時における発達障害の発見の取組状況等
(保育所における取組状況)
調 査 し た 23 保 育 所 で は 、保 育 士 等 に よ る 日 々 の 行 動
観察を通じて発達障害が疑われる児童の発見に努めて
いた。このうち、4 保育所では、行動観察に当たって、
着眼点や項目を共通化し、できるだけ客観的に判断で
きるよう、所内共通のチェックリストを用いていた。
このほか、都道府県、市町村等が行う専門家の巡回
相 談 を 活 用 し て い る も の( 5 保 育 所 )も み ら れ た が 、派
遣回数の制限もあり、対象となる児童を絞ってからの
活用が主となっている。
チェックリストを活用している保育所からは、チェ
ックリストが保育士の共通の指標となり、関わり方の
改善につながったという意見がある一方、活用してい
ない保育所からは、保育士の中にも発達障害に対する
理解度に差があり、発達障害の疑いに「気付く」かが
課題とする意見があり、専門家の巡回相談の活用状況
か ら み て 、各 保 育 士 の 経 験 値 の 影 響 を 最 小 限 に と ど め 、
発達障害児に「気付く」一次的なスクリーニング手段
として、共通のチェックリストの活用は、効果的なも
のと考えられる。
(都道府県、市町村における支援の実施状況)
- 15 -
調 査 し た 19 都 道 府 県 に お け る 管 内 市 町 村 に 対 す る 支
援 の 実 施 状 況 を み る と 、3 都 道 府 県 が 実 施 し て お り 、そ
の内容は、ⅰ)発達障害の特徴やM-CHAT及びP
A R S に 係 る 研 修 を 市 町 村 職 員 に 実 施 ( 2 都 道 府 県 )、
ⅱ)発達障害の気付きや支援方法を記載した手引を市
町村に配布(1 都道府県)となっていた。
ま た 、調 査 し た 31 市 町 村 の う ち 15 市 町 村 に お い て 、
保育所に対する支援を行っており、その内容は、巡回
相 談 事 業 に よ る 専 門 家 の 派 遣 ( 5 市 町 村 )、 チ ェ ッ ク リ
ス ト の 作 成 ・ 普 及 ( 4 市 町 村 )、 発 達 障 害 の 特 徴 な ど の
研修を保育士等に実施(4 市町村)などとなっていた。
(イ)
学校在籍時における発達障害の発見の取組状況等
(学 校 に お け る 取 組 状 況 )
調 査 し た 23 幼 稚 園 、23 小 学 校 、23 中 学 校 及 び 24 高
等 学 校 の 計 93 校 の う ち 、 91 校 に お い て は 、 教 諭 ・ 教
員による日々の行動観察を通じて発達障害が疑われる
児 童 生 徒 の 発 見 に 努 め て い た 。 こ の う ち 、 35 校 ( 4 幼
稚 園 、 14 小 学 校 、 11 中 学 校 、 6 高 等 学 校 ) で は 、 行 動
観察に当たって、校内共通のチェックリストを用いて
いた。また、学校心理士の資格を持つ教員等がいる学
校では、行動観察で気になる児童生徒がいた場合に、
必要に応じて、標準化された知能検査等
( 注 7)
を活用
しているものもみられた。
( 注 7)
調 査 し た 学 校 で は 、児 童 生 徒 の 認 知 特 性 を 把 握 で き 、発 達
障害に対しても適応ニーズが高いとされるウェクスラー式
知 能 検 査 「 W I S C - Ⅳ 」、 学 習 障 害 の 主 な 困 難 領 域 で あ る
学 習 面 の 特 徴 を 把 握 す る こ と が で き る「 L D I - R 」な ど が
活用されていた。
これらの学校では、校内共通のチェックリスト、知
能検査等の活用により、ⅰ)教諭・教員が行う行動観
- 16 -
察の習熟度が向上する、ⅱ)発達障害児の特性が把握
でき、その後の支援方法の検討に参考となる、ⅲ)客
観的な尺度であるため、保護者の理解が得られやすい
などの意見がみられた。
これに対し、チェックリスト、知能検査等を活用し
ていない学校では、ⅰ)各教諭・教員により児童生徒
の見方に差が生ずる、ⅱ)問題行動が発達障害による
ものか、別の要因によるものか判然としない場合があ
るなどの意見がみられ、各教諭・教員の主観の差を減
じ、共通の理解の下で発達障害が疑われる児童生徒を
発見する上で、共通のチェックリスト等を用いること
は効果的と考えられる。
なお、このほか、教育委員会が行う巡回相談などを
活用している例もみられたが、保育所と同様、対象と
なる児童生徒を絞ってからの活用が主となっていた。
また、在籍する生徒の発達障害の疑いを発見する取
組を特段行っていない 2 校(高等学校)は、その理由
について、ⅰ)高等学校は発達障害の疑いを発見する
立場にはない、ⅱ)著しい成績不振又は不登校といっ
た二次障害が発現するまで発見が困難であるとしてい
る。
しかしながら、これら 2 校のうち 1 校では、二次障
害が発現した生徒が勉強のつらさを訴えて転校してい
る例がみられ、同校は、高校生を対象とする効果的な
発見方法があれば周知してほしいとしている。
(都 道 府 県 教 育 委 員 会 及 び 市 町 村 教 育 委 員 会 に お け る
支援の実施状況)
調 査 し た 50 教 育 委 員 会( 19 都 道 府 県 教 育 委 員 会 、31
市町村教育委員会)における学校に対する支援の実施
- 17 -
状 況 を み る と 、36 教 育 委 員 会( 19 都 道 府 県 教 育 委 員 会 、
17 市 町 村 教 育 委 員 会 )に お い て 、
「 小・中 学 校 に お け る
L D( 学 習 障 害 )、A D H D( 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 )、
高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のた
め の ガ イ ド ラ イ ン( 試 案 )」や「 通 常 の 学 級 に 在 籍 す る
発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とす
る児童生徒に関する調査」
( 平 成 24 年 12 月 )に お け る
質問項目を活用するなどし、学校に対し、チェックリ
ストを示していた。
しかしながら、文部科学省の上記ガイドライン(試
案)は、小学校及び中学校を対象としたものであり、
また、上記調査の質問項目は、学習面に関しては小学
校 3、4 年 生 ま で に 表 面 化 す る 困 難 や 障 害 を 意 識 し て 作
成されたものとされ、元々の調査対象も小学校及び中
学 校 と な っ て い る こ と か ら 、幼 児 や 高 校 生 に 関 し て は 、
そのまま用いることは必ずしも効果的ではない。
このため、調査した教育委員会の中には、幼稚園又
は高等学校向けに質問項目を修正するなどし、幼児、
高 校 生 向 け の チ ェ ッ ク リ ス ト を 作 成 し て い る も の が 13
教 育 委 員 会( 7 都 道 府 県 教 育 委 員 会 、6 市 町 村 教 育 委 員
会 )み ら れ た が 、23 教 育 委 員 会( 12 都 道 府 県 教 育 委 員
会 、 11 市 町 村 教 育 委 員 会 ) で は 、 こ う し た 措 置 を 講 じ
ないまま学校に活用を呼びかけていた。
ウ
発達障害の発見の遅れによる支障
調 査 し た 23 保 育 所 、 23 幼 稚 園 、 23 小 学 校 、 23 中 学 校
及 び 24 高 等 学 校 に お い て 、 入 所 ・ 入 園 ・ 入 学 後 に 発 達 障
害が疑われる児童生徒が発見された状況をみると、平成
26 年 度 に お い て 、 当 省 調 査 で 確 認 で き た 106 保 育 所 ・ 学
校 の う ち 83 保 育 所・学 校 で 593 人( 保 育 所 67 人 、幼 稚 園
- 18 -
60 人 、小 学 校 205 人 、中 学 校 196 人 、高 等 学 校 65 人 )み
ら れ た 。 平 成 22 年 度 か ら の 累 計 で は 、 延 べ 2,033 人 ( 保
育 所 250 人 、幼 稚 園 176 人 、小 学 校 812 人 、中 学 校 578 人 、
高 等 学 校 217 人 ) と な っ て い た 。
こ う し た 入 所・入 園・入 学 後 に 発 見 さ れ た 発 達 障 害 が 疑
わ れ る 児 童 生 徒 に つ い て は 、発 達 障 害 の 症 状 が 通 常 低 年 齢
で 発 現 す る こ と か ら 、ⅰ )乳 幼 児 健 診 、就 学 時 健 診 、保 育
所・幼 稚 園・小 学 校・中 学 校 等 の 各 段 階 で 発 達 障 害 が 見 過
ご さ れ た 、ⅱ )進 学 時 に 前 段 階 の 保 育 所・学 校 か ら 情 報 の
引 継 ぎ が 十 分 行 わ れ な か っ た な ど が 原 因 と な り 、発 達 障 害
の発見が遅れた例も含まれているものと考えられる。
発達障害の発見の遅れは二次障害の発現につながる場
合 も あ り 、調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 等 に お い て 、次 の よ う
な二次障害とみられる事例があった。
①
発 達 障 害 の 発 見 が 遅 れ 、鬱 病 、不 登 校 、暴 力 行 為 等 が
生 じ る な ど 対 応 が 困 難 と な っ て い る も の( 15 事 例 )。こ
れ ら の 中 に は 、発 達 障 害 の 見 過 ご し 又 は 情 報 の 引 継 ぎ 漏
れ に よ り 発 見 が 遅 れ 、就 学 後 に 不 登 校 と な っ た 後 に 発 達
障害が発見されたものもみられた。
②
調 査 し た 70 校( 23 小 学 校 、23 中 学 校 、24 高 等 学 校 )
における発達障害が疑われる児童生徒が不登校となっ
た 割 合 は 、平 成 26 年 度 で 3.7%( 小 学 校 2.9% 、中 学 校
3.3% 、高 等 学 校 7.0% )で あ り 、こ れ は 全 国 の 小 学 校 、
中学校及び高等学校における不登校児童生徒の割合
1.3% ( 小 学 校 0.4% 、 中 学 校 2.8% 、 高 等 学 校 1.6% )
と 比 較 し 、全 て の 学 校 種 に お い て 高 く な っ て お り 、特 に
高等学校では約 4 倍となっている。
ま た 、 調 査 し た 24 高 等 学 校 に お け る 発 達 障 害 が 疑 わ れ
る 生 徒 で 中 途 退 学 を し た 生 徒 の 割 合 は 、 平 成 26 年 度 で
9.2% で あ り 、 全 国 の 高 等 学 校 に お け る 中 途 退 学 率 1.5%
- 19 -
と比較すると約 6 倍となっている。
ま た 、調 査 し た 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 及 び 医 療 機 関 が
把 握 し て い る と こ ろ に よ る と 、発 達 障 害 の 発 見 が 遅 れ 、二
次 障 害 が 発 現 す る な ど 対 応 が 困 難 と な っ て い る も の が 39
事 例( 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 22 事 例 、医 療 機 関 17 事 例 )
みられた。
こ う し た 事 例 を 踏 ま え る と 、発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生
徒 に 対 す る 適 切 な 支 援 に つ な げ て い く た め 、乳 幼 児 健 診 以
降の各段階で発達障害の早期発見に取り組んでいく必要
があると考えられる。
【所見】
し た が っ て 、文 部 科 学 省 及 び 厚 生 労 働 省 は 、発 達 障 害 が 疑
わ れ る 児 童 生 徒 の 早 期 発 見 を 推 進 す る 観 点 か ら 、次 の 措 置 を
講ずる必要がある。
①
厚 生 労 働 省 は 、乳 幼 児 健 診 に お け る 発 達 障 害 が 疑 わ れ る
児童の発見のための市町村の取組実態を把握するととも
に 、発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 の 早 期 発 見 に 資 す る よ う 、有
効な措置を講ずること。
ま た 、都 道 府 県 及 び 市 町 村 に 対 し 、保 育 所 在 籍 時 に お け
る日々の行動観察に当たっての着眼点や項目を共通化し
た 標 準 的 な チ ェ ッ ク リ ス ト を 、活 用 方 法 と 併 せ て 示 す こ と 。
②
文 部 科 学 省 は 、市 町 村 教 育 委 員 会 に 対 し 、就 学 時 健 診 時
における発達障害の発見の重要性を改めて周知徹底する
と と も に 、就 学 時 健 診 に お け る 具 体 的 な 取 組 方 法 を 示 す こ
と。
ま た 、都 道 府 県 教 育 委 員 会 及 び 市 町 村 教 育 委 員 会 に 対 し 、
幼稚園から高等学校までの発達段階における日々の行動
観察に当たっての着眼点や項目を共通化した標準的なチ
ェックリストを、活用方法と併せて示すこと。
- 20 -
(2)
発達障害児に関する支援計画及び指導計画の作成の推進
幼 稚 園 、小 学 校 、中 学 校 及 び 高 等 学 校 に お け る 障 害 の あ る
児 童 生 徒 の 指 導 に つ い て 、「 幼 稚 園 教 育 要 領 」( 平 成 20 年 文
部 科 学 省 告 示 第 26 号 )、「 小 学 校 学 習 指 導 要 領 」( 平 成 20 年
文 部 科 学 省 告 示 第 27 号 )、「 中 学 校 学 習 指 導 要 領 」( 平 成 20
年 文 部 科 学 省 告 示 第 28 号 、 22 年 文 部 科 学 省 告 示 第 161 号 ・
一 部 改 正 )及 び「 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 」( 平 成 21 年 文 部 科
学 省 告 示 第 34 号 ) 並 び に 各 要 領 解 説 で は 、 例 え ば 、 障 害 の
あ る 幼 児 児 童 生 徒 一 人 一 人 に 、指 導 の 目 標 や 内 容 、配 慮 事 項
な ど を 示 し た「 個 別 の 指 導 計 画 」を 、長 期 的 な 視 点 に 立 っ て
幼 児 期 か ら 学 校 卒 業 後 ま で の 一 貫 し た 支 援 を 行 う た め 、家 庭
や 医 療 機 関 、福 祉 施 設 な ど の 関 係 機 関 と 連 携 し 、様 々 な 側 面
か ら の 取 組 を 示 し た「 個 別 の 教 育 支 援 計 画 」を 作 成 す る こ と
な ど に よ り 、個 々 の 幼 児 児 童 生 徒 の 障 害 の 状 態 等 に 応 じ た 指
導 内 容 や 指 導 方 法 の 工 夫 を 計 画 的 、組 織 的 に 行 う こ と と さ れ
ている。
ま た 、 保 育 所 に 通 所 す る 児 童 に 対 し て も 、「 保 育 所 保 育 指
針 」 (平 成 20 年 厚 生 労 働 省 告 示 第 141 号 )及 び 同 指 針 解 説 書
に お い て 、必 要 に 応 じ 、個 別 の 指 導 計 画 及 び 個 別 の 支 援 計 画
( 注 1)
を作成する旨が記載されている。
( 注 1)
「障害のある子どものための地域における相談支援体制整備ガイ
ド ラ イ ン ( 試 案 )」( 平 成 20 年 3 月 文 部 科 学 省 及 び 厚 生 労 働 省 ) で
は 、「 個 別 の 教 育 支 援 計 画 」 は 、「 個 別 の 支 援 計 画 」 を 教 育 機 関 が 中
心となって策定する場 合の呼称であり、個別 の教育支援計画は個別
の支援計画に含まれるものであるとしている。
な お 、こ れ ら 個 別 の 支 援 計 画( 以 下「 支 援 計 画 」と い う 。)
及 び 個 別 の 指 導 計 画 ( 以 下 「 指 導 計 画 」 と い う 。) に つ い て
は 、発 達 障 害 児 に 対 す る 一 貫 し た 支 援 を 図 る 観 点 か ら 、平 成
28 年 の 改 正 発 達 障 害 者 支 援 法 に お い て 、国 及 び 地 方 公 共 団 体
は 、発 達 障 害 児 が 、年 齢 及 び 能 力 に 応 じ 、か つ そ の 特 性 を 踏
ま え た 十 分 な 教 育 を 受 け ら れ る よ う に す る た め 、必 要 な 措 置
- 21 -
と し て 、支 援 計 画 の 作 成 及 び 指 導 計 画 の 作 成 を 推 進 す る こ と
が 具 体 的 に 明 示 さ れ た と こ ろ で あ る ( 平 成 28 年 8 月 1 日 施
行 )。
(支援計画及び指導計画の作成状況)
保 育 所 に つ い て の デ ー タ は な い が 、 学 校 に つ い て は 、「 平
成 27 年 度 特 別 支 援 教 育 体 制 整 備 状 況 調 査 結 果 」
( 平 成 28 年 4
月 文 部 科 学 省 )に よ る と 、学 校 に お け る 支 援 計 画 及 び 指 導 計
画 の 作 成 率 は 年 々 増 加 傾 向 に あ る も の の 、小 学 校 及 び 中 学 校
に 比 べ 、幼 稚 園 及 び 高 等 学 校 に お け る 作 成 率 が 低 く な っ て い
る。
(支援計画及び指導計画の作成対象)
保 育 所 に 通 所 す る 障 害 の あ る 児 童 に つ い て は 、保 育 所 保 育
指針において、支援計画は必要のある児童に対し、指導計画
は 3 歳未満の児童は全て、3 歳以上の児童は必要に応じ、作
成することとされている。
また、幼稚園 、小 学校、中学校及び 高等学校に通う障 害の
あ る 児 童 生 徒 に つ い て は 、「 発 達 障 害 の あ る 児 童 生 徒 等 へ の
支 援 に つ い て ( 通 知 )」 及 び 「 特 別 支 援 教 育 の 推 進 に つ い て
( 通 知 )」に お い て 、必 要 に 応 じ 作 成 す る こ と と さ れ て い る 。
(支援計画及び指導計画の作成方法)
支 援 計 画 に 関 し て は 、「 障 害 の あ る 子 ど も の た め の 地 域 に
お け る 相 談 支 援 体 制 整 備 ガ イ ド ラ イ ン ( 試 案 )」 に お い て 、
具体例を含め作成方法が示されている。
ま た 、指 導 計 画 に 関 し て は 、
「 小・中 学 校 に お け る L D( 学
習 障 害 )、 A D H D ( 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 )、 高 機 能 自 閉 症
の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン
( 試 案 )」 に お い て 、 具 体 例 を 含 め 小 学 校 及 び 中 学 校 に お け
- 22 -
る 作 成 方 法 が 示 さ れ て い る が 、幼 稚 園 及 び 高 等 学 校 に つ い て
は示されていない。
今 回 、 都 道 府 県 19、 都 道 府 県 教 育 委 員 会 19、 市 町 村 31、
市 町 村 教 育 委 員 会 31、保 育 所
( 注 2)
23、学 校 93( 幼 稚 園 23、
小 学 校 23、 中 学 校 23、 高 等 学 校 24) を 対 象 と し て 、 発 達 障
害 児 ( 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 を 含 む 。) に 対 す る 支 援
計 画 及 び 指 導 計 画 の 作 成 状 況 を 調 査 し た 結 果 、以 下 の よ う な
状況がみられた。
( 注 2)
ア
保育所については、必要に応じ作成することとされている 3 歳児
以上を対象とした。
支援計画及び指導計画の作成状況
(計画の作成状況)
調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 に お け る 平 成 26 年 度 の 支 援 計
画 及 び 指 導 計 画 の 作 成 状 況 を み る と 、例 え ば 、支 援 計 画 で
は 、 22 保 育 所 及 び 89 校 ( 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 数
が 確 認 で き な か っ た 1 保 育 所 及 び 4 校 を 除 く 。) に 在 籍 す
る 発 達 障 害 児( 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 を 含 む )は 計
2,431 人 で 、 こ の う ち 、 保 育 所 及 び 学 校 に お い て 計 画 作 成
が 必 要 と 判 断 さ れ た 児 童 生 徒 は 829 人 と な っ て い た 。こ の
う ち 、支 援 計 画 が 作 成 済 み の 児 童 生 徒 は 690 人( 支 援 計 画
の 作 成 が 必 要 と 判 断 さ れ た 児 童 生 徒 の 83.2% )、 残 る 139
人 ( 同 16.8% ) は 未 作 成 と な っ て い た 。
保 育 所 及 び 学 校 種 別 で み る と 、 保 育 所 98.3% 、 幼 稚 園
65.4% 、 小 学 校 79.3% 、 中 学 校 81.6% 、 高 等 学 校 92.4%
で 、幼 稚 園 が 若 干 低 い 状 況 と な っ て お り 、こ う し た 状 況 は 、
指導計画についても同様となっている。
保 育 所 及 び 学 校 で は 、未 作 成 と な っ て い る 理 由 に つ い て 、
ⅰ )業 務 が 多 忙 で 支 援 計 画 又 は 指 導 計 画 を 作 成 す る 時 間 の
確 保 が 困 難 で あ る た め 、ⅱ )保 護 者 の 同 意 が 得 ら れ な い た
- 23 -
めなどとしている。
(計画の作成対象)
調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 に お け る 平 成 26 年 度 の 支 援 計
画 及 び 指 導 計 画 の 作 成 対 象 を み る と 、例 え ば 、支 援 計 画 で
は 、在 籍 す る 発 達 障 害 児( 発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 を 含 む )
を 対 象 に 作 成 す る こ と と し て い る 例 が あ る 一 方 で 、ⅰ )医
師 の 診 断 が あ る 児 童 生 徒 の み( 1 幼 稚 園 、2 小 学 校 、3 中 学
校 、1 高 等 学 校 )、ⅱ )障 害 児 保 育 の 対 象 と な る 児 童 の み
3)
(注
( 4 保 育 所 )、 ⅲ ) 巡 回 相 談 の 対 象 と な っ て い る 児 童 の み
(1 保育所)など、両計画の作成対象をかなり限定した範
囲 に と ど め て い る 例 が み ら れ 、中 に は 、通 常 学 級 の 児 童 生
徒に関しては作成する必要がないとするものもみられた。
( 注 3)
発達障害児等の特別な支援が必要な児童が保育所に入所する際
に、市町村が必要な支援を講ずる対象となる児童。対象児童に対
しては、各市町村が規定する実施要綱等に基づき、加配保育士の
配置、専門家による巡回指導の実施等による支援が行われる。障
害児保育の認定基準は各市町村で異なる。
調 査 し た 市 町 村 に お い て も 、ⅰ ) 支 援 計 画 及 び 指 導 計 画
の 作 成 対 象 を「 障 害 児 保 育 の 対 象 児 童 」と し て い る ケ ー ス
で は 、障 害 児 保 育 の 認 定 基 準 か ら 外 れ た 軽 度 の 発 達 障 害 児
に つ い て 作 成 さ れ ず 、個 別 の 配 慮 が 不 十 分 と な り が ち で あ
る と い っ た 意 見 や 、ⅱ ) 両 計 画 の 作 成 対 象 を「 加 配 保 育 士
が作成の必要があるとした児童」としているケースでは、
加配保育士が配置されていないクラスに在籍する発達障
害が疑われる児童は作成対象とならないといった例
( 注 4)
がみられており、両計画の作成が必要な児童であっても、
作成されないケースがあることを認めていた。
(注 4)
加 配 保 育 士 の 配 置 基 準 は 、調 査 し た 市 町 村 の 障 害 児 保 育 実 施 要 綱
に よ れ ば 、障 害 児 保 育 の 対 象 児 童 1 人 に 対 し て 、必 ず し も 保 育 士 が
1 人配置することとされていない。
- 24 -
調査した高等学校 では、こうした作 成対象の限定の結 果、
支 援 計 画 や 指 導 計 画 が 作 成 さ れ て い な い も の の 中 に は 、不
登 校 等 の 二 次 障 害 が 生 じ て い る 例 が 、次 の と お り み ら れ た 。
( 事 例 1)
問題行動の度合いが高くない生徒には支援計画及び指
導 計 画 を 作 成 す る こ と と し て い な い た め 、発 達 障 害 の 診 断
を 受 け て い る に も か か わ ら ず 、両 計 画 と も 作 成 さ れ ず 、結
果 と し て 、 学 習 障 害 等 で 授 業 に つ い て い け ず に 、 平 成 22
年 度 か ら 26 年 度 ま で の 間 に 、 不 登 校 4 人 、 休 学 1 人 、 退
学 1 人が発生した。
( 事 例 2)
支 援 計 画 及 び 指 導 計 画 の 作 成 対 象 を「 医 師 の 診 断 が あ る
生 徒 の う ち 、学 校 が 必 要 と 判 断 し た 生 徒 」と し て い る た め 、
学 習 障 害 の お そ れ の あ る 生 徒 に つ い て 、医 師 の 診 断 が な い
こ と な ど か ら 、支 援 計 画 又 は 指 導 計 画 が 作 成 さ れ ず 、結 果
として、学習の遅れから退学してしまった。
こ う し た 事 例 か ら み る と 、調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 に お
いて支援計画及び指導計画の作成は不要と判断された児
童 生 徒( 例 え ば 、支 援 計 画 で は 、発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童
生 徒 2,431 人 か ら 作 成 が 必 要 と 判 断 さ れ た 829 人 を 差 し 引
い た 1,602 人 )の 中 に は 、本 来 で あ れ ば 両 計 画 を 作 成 す る
必 要 が あ る 児 童 生 徒 が 含 ま れ て い る 可 能 性 が あ る 。支 援 が
必 要 な 児 童 生 徒 に 対 し て 、適 切 な 支 援 、指 導 が 行 わ れ る よ
う に す る た め に は 、医 師 の 診 断 や 障 害 児 保 育 の 対 象 と い っ
た一律の基準によって作成対象を限定するのではなく、
個々の児童生徒の特性や状態を踏まえる必要がある。
一 方 、調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 で は 、支 援 計 画 又 は 指 導
計 画 を 作 成 し た こ と に よ り 、特 別 支 援 学 校 な ど 関 係 機 関 に
- 25 -
よ る 助 言 や 保 護 者 と の 連 携 等 が 図 ら れ 、状 態 が 改 善 す る な
ど 効 果 的 な 支 援 が 行 わ れ て い る 次 の よ う な 例 が 30 事 例 み
られた。
( 事 例 1)
集 団 行 動 が 苦 手 で 、集 中 す る こ と が 難 し い な ど の 特 性 が
み ら れ る 保 育 所 の 児 童 に つ い て 、支 援 計 画 の 作 成 に 際 し て
保 護 者 と 面 談 を 行 い 、児 童 の 様 子 を 共 有 し て 目 標 や 支 援 方
法 を 共 に 考 え る な ど の 連 携 が 図 ら れ 、医 療 機 関 の 受 診 に つ
な が っ た ほ か 、親 子 で 小 学 校 の 見 学 に 行 く な ど 就 学 に 向 け
ての支援も進んだ。
( 事 例 2)
授 業 中 に 大 声 を 出 す 、席 に 座 っ て い ら れ な い な ど の 状 況
が み ら れ た 高 等 学 校 の 生 徒 に つ い て 、巡 回 相 談 員( 臨 床 心
理 士 )の 助 言 を 受 け て 支 援 計 画 を 作 成 し 、見 通 し を も っ た
指 示 や 声 か け を 行 う 、興 奮 し た 時 に 落 ち 着 く た め の 決 ま り
を 作 る な ど し て 1 年 間 継 続 し て 支 援 を 行 っ た 結 果 、落 ち 着
い て 着 席 し て 授 業 に 参 加 で き る よ う に な り 、進 級 す る こ と
ができた。
な お 、独 立 行 政 法 人 大 学 入 試 セ ン タ ー 及 び 独 立 行 政 法 人
日 本 学 生 支 援 機 構 で は 、支 援 計 画 や 指 導 計 画 は 、大 学 入 試
セ ン タ ー 試 験 等 受 験 時 の 配 慮 申 請 や 、大 学 で 合 理 的 配 慮 の
申 請 を 行 う 際 な ど に 、こ れ ま で 受 け て 来 た 支 援 に 係 る 根 拠
資 料 と し て も 活 用 さ れ る こ と も あ り 、作 成 の 必 要 性 を 認 識
している。
【所見】
したがって、文部科学省及び厚生労働省は、発達障害児に
対する適切な支援、指導が行われるようにする観点から、保
育所及び学校において、一律の基準によって支援計画及び指
- 26 -
導計画の作成対象を限定するのではなく、個々の児童生徒の
特性や状態を踏まえ、支援が必要な児童生徒に対して着実に
作成されるよう、作成対象とすべき児童生徒についての考え
方を示すこと。
- 27 -
(3)
発達障害児に関する情報の共有・引継ぎの推進
発達障害児(医師の診断がある児童生徒に限らず、発達障
害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 を 含 む 。以 下 、こ の 細 目 に お い て 同 じ 。)
に対する支援が各ライフステージに応じて適切に行われるた
めには、例えば、乳幼児健診の結果を就学時健診に引き継ぐ
など情報の共有・引継ぎを的確に行っていく必要がある。
障害のある児童生徒等に関する情報の引継ぎについて、文
部 科 学 省 は 、都 道 府 県 及 び 都 道 府 県 教 育 委 員 会 等 に 対 し 、
「障
害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援につい
て( 通 知 )」
( 平 成 25 年 10 月 4 日 付 け 25 文 科 初 第 756 号 文 部
科学省初等中等教育局長通知)により、早期からの一貫した
支援のためには、障害のある児童生徒等の成長記録や指導内
容 等 に 関 す る 情 報 に つ い て 、本 人・保 護 者 の 了 解 を 得 た 上 で 、
その扱いに留意しつつ、必要に応じて関係機関が共有し活用
し て い く こ と が 求 め ら れ る こ と 、ま た 、市 町 村 教 育 委 員 会 は 、
幼稚園・保育所において作成された支援計画等を有効に活用
しつつ、適宜資料の追加等を行った上で、障害のある児童生
徒 等 に 関 す る 情 報 を 一 元 化 し 、当 該 市 町 村 に お け る 支 援 計 画 、
相談支援ファイル
( 注 1)
( 以 下「 支 援 フ ァ イ ル 」と い う 。)等
として小・中学校等に引き継ぐなどの取組を進めていくこと
が適当であることを通知している。
( 注 1) 「 相 談 支 援 フ ァ イ ル 」 と は 、 医 療 、 保 健 、 福 祉 、 教 育 、 労 働 等 の 各
機 関 が 、一 貫 し て つ な が っ た 支 援 を 行 う た め に 、子 ど も の 障 害 や 発 達
に関する総合的な評価、各種の相談・支援の内容とそれによる効果、
子 ど も や 保 護 者 の ニ ー ズ 等 を 記 録 し 、保 護 者 と と も に 必 要 な 情 報 を 共
有 化 す る た め の フ ァ イ ル で あ る 。な お 、厚 生 労 働 省 に お い て も 、同 様
の取組を推進している。
な お 、平 成 28 年 の 改 正 発 達 障 害 者 支 援 法 に お い て 、発 達 障
害 者 へ の 支 援 の 一 層 の 充 実 を 図 る た め 、国 及 び 地 方 公 共 団 体
は 、個 人 情 報 の 保 護 に 十 分 配 慮 し つ つ 、関 係 機 関 に お い て 発
達障害者の支援に資する情報の共有を促進するため必要な
- 28 -
措 置 を 講 ず る こ と が 新 た に 追 加 さ れ て い る( 平 成 28 年 8 月 1
日 施 行 )。
今 回 、 都 道 府 県 19、 都 道 府 県 教 育 委 員 会 19、 市 町 村 31、
市 町 村 教 育 委 員 会 31、保 育 所 23、学 校 93( 幼 稚 園 23、小 学
校 23、 中 学 校 23、 高 等 学 校 24) を 対 象 と し て 、 発 達 障 害 児
に 関 す る 情 報 の 共 有・引 継 状 況 を 調 査 し た 結 果 、以 下 の よ う
な状況がみられた。
ア
乳幼児健診結果の引継状況
調 査 し た 31 市 町 村 が 平 成 26 年 度 に 実 施 し た 乳 幼 児 健 診
の 結 果 の 進 学 先( 保 育 所 、幼 稚 園 等 )へ の 引 継 状 況 を み る
と 、30 市 町 村 で 引 継 ぎ を 行 う こ と と し て い た が 、そ の 内 容
を み る と 、個 人 情 報 保 護 の 観 点 か ら 、保 護 者 の 同 意 が 得 ら
れ た 場 合 で あ っ て 、保 育 所 等 か ら 情 報 提 供 の 依 頼 が あ っ た
児 童 の み 引 き 継 ぐ と す る も の が 14 市 町 村 と な っ て お り 、
半数近くの市町村で保育所等からの働きかけがなければ
引 継 ぎ が 行 わ れ な い 状 況 と な っ て い た 。ま た 、引 継 ぎ を 行
う こ と と し て い な い 1 市 町 村 に お い て も 、そ の 理 由 と し て 、
個人情報に配慮した情報共有の仕組みが構築されていな
い た め と す る な ど 、 調 査 し た 31 市 町 村 の う ち 、 15 市 町 村
に お い て 、積 極 的 に 引 き 継 ぐ こ と の 重 要 性 に つ い て の 意 識
が必ずしも十分でない状況がみられた。
調 査 し た 保 育 所 等 で は 、乳 幼 児 健 診 の 結 果 等 が 進 学 先 の
幼稚園や小学校に引き継がれなかったことが一因となっ
て 、発 達 障 害 児 に 対 す る 対 応 が 困 難 に な っ た 例 も あ る と し
て お り 、発 達 障 害 児 の 乳 幼 児 健 診 結 果 を 積 極 的 に 引 き 継 ぐ
ことが必要である。
な お 、調 査 し た 市 町 村 の 中 に は 、乳 幼 児 健 診 の 結 果 の 進
学先への引継ぎ時における保護者の同意取得については、
- 29 -
次のような取組を行っている例がみられた。
①
乳 幼 児 健 診 の 問 診 票 の 中 に 、 健 診 結 果 等 に つ い て 、保
育所等の関係機関と連絡を取り合う場合がある旨をあ
らかじめ記載し、これに同意するか同意しないかを選択
させることとしている。
②
児 童 が 幼 稚 園 に 入 園 す る 前 に 、心 配 事 の あ る 保 護 者 に
「保護者との連携シート」の記載を依頼しており、同シ
ー ト に よ り 、幼 稚 園 が 保 健 師 等 の 関 係 機 関 等 か ら 情 報 を
入手する旨の同意を得ている。
イ
保 育 所・幼 稚 園 か ら 大 学・就 労 先 ま で の 情 報 の 引 継 状 況
(引継ぎの実施状況)
平 成 26 年 度 に 卒 業 し た 発 達 障 害 児 に 関 す る 情 報 の 進 学
先 又 は 就 労 先 に 対 す る 引 継 状 況 を み る と 、当 省 調 査 で 該 当
児 童 生 徒 の 在 籍 が 確 認 で き た 18 保 育 所 及 び 79 校( 18 幼 稚
園 、 21 小 学 校 、 20 中 学 校 、 20 高 等 学 校 ) の う ち 20 校 ( 7
中 学 校 、13 高 等 学 校 )は 、該 当 児 童 生 徒 の 進 学 先 等 に 情 報
を引き継いでいなかった。
情 報 を 引 き 継 い で い な い 学 校 で は 、そ の 理 由 と し て 、進
学 先 等 か ら の 求 め が な い こ と な ど を 挙 げ て い る が 、発 達 障
害児に対する支援を関係機関の連携の下に切れ目なく行
う上で改善が求められる。
他 方 、 18 保 育 所 及 び 59 校 ( 18 幼 稚 園 、 21 小 学 校 、 13
中学校、7 高等学校)は発達障害が疑われる児童生徒に関
す る 情 報 を 進 学 先 等 に 引 き 継 い で お り 、こ の う ち 、14 保 育
所 及 び 34 校 ( 11 幼 稚 園 、 15 小 学 校 、 4 中 学 校 、 4 高 等 学
校)では、その手段として、支援計画、指導計画、保育所
児 童 保 育 要 録 ( 以 下 「 保 育 要 録 」 と い う 。)、 幼 稚 園 幼 児 指
導 要 録 ( 以 下 「 指 導 要 録 」 と い う 。)、 独 自 の 引 継 ぎ シ ー ト
- 30 -
等 、支 援 フ ァ イ ル を 用 い て 行 っ て い る が 、4 保 育 所 及 び 25
校(7 幼稚園、6 小学校、9 中学校、3 高等学校)において
は 、 こ れ ら の 書 類 ( 写 し を 含 む 。) を 渡 さ ず 、 口 頭 の み で
引き継いでいた。
口 頭 の み で 引 き 継 い で い る 保 育 所 及 び 学 校 で は 、そ の 理
由 に つ い て 、口 頭 に よ る 引 継 ぎ は 正 式 な 記 録 に 残 ら な い こ
と な ど か ら 、文 字 で 伝 え る こ と が 難 し い 内 容 も 伝 え ら れ る 、
担 当 者 同 士 の 面 識 が で き る の で 後 日 連 絡・照 会 が 行 い や す
い な ど を 挙 げ て い た が 、他 方 で 、調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校
か ら は 、情 報 が 正 確 に 伝 わ ら な い 、引 継 ぎ を 行 っ た 担 当 者
が異動した場合に情報が散逸するおそれがあるなどの意
見 が 挙 げ ら れ て い た 。発 達 障 害 児 に 適 切 な 支 援 を 行 う 上 で
必 要 な 情 報 を 確 実 に 引 き 継 ぐ た め に は 、口 頭 に よ る 説 明 は
否 定 さ れ な い が 、記 録 に 残 る 形 で 行 う 必 要 が あ る と 考 え ら
れる。
な お 、調 査 し た 学 校 の 中 に は 、引 継 ぎ を 的 確 に 行 う た め 、
次のような工夫を行っている例がみられた。
①
障害の有無にかかわらず全入学生について引継ぎシ
ートを作成するよう、高等学校から中学校に働きかけ、
保 護 者 に 対 し て も 、当 該 シ ー ト の 提 出 と 情 報 提 供 に 関 す
る承諾書への署名を依頼することにより引継ぎを確実
に行っているもの。
②
高 等 学 校 を 卒 業 し て 就 職 す る 生 徒 に つ い て 、支 援 計 画
に基づき「職場定 着支援シート」を 作成し、就労先に 当
該シートを、障害者就業・生活支援センター (注
2)
に支
援計画及び当該シートを引き継いでいるもの。
( 注 2)
障 害 者 就 業 ・ 生 活 支 援 セ ン タ ー は 、障 害 者 の 雇 用 等 の 促 進 に 関 す る
法 律 ( 昭 和 3 5 年 法 律 第 1 23 号 ) 第 27 条 の 規 定 に 基 づ き 、 都 道 府 県 知
事が指定した一般社団(財団)法人、社会福祉法人、特定非営利活動
法人等が運営し、障害者の身近な地域において、雇用、保健福祉、教
育 等 の 関 係 機 関 の 連 携 拠 点 と な る も の で あ る 。 平 成 26 年 度 時 点 で 全
国 に 325 か 所 設 置 さ れ て い る 。
- 31 -
(支援計画及び指導計画の引継ぎ)
発 達 障 害 児 に 対 す る 支 援 を 切 れ 目 な く 行 う 上 で 、支 援 計
画 及 び 指 導 計 画 の 引 継 ぎ は 特 に 重 要 と 考 え ら れ 、取 り 分 け
支 援 計 画 は 、長 期 的 な 視 点 に 立 っ て 幼 児 期 か ら 学 校 卒 業 後
までの一貫した支援を行うための計画と位置付けられて
いることからも、積極的に引き継いでいく必要がある。
平 成 26 年 度 に 卒 業 し た 発 達 障 害 児 の 支 援 計 画 及 び 指 導
計 画 の 進 学 先 等 に 対 す る 引 継 状 況 を み る と 、例 え ば 、支 援
計画では、当省調査で当該児童生徒の在籍数と計画の作
成 ・ 引 継 状 況 が 確 認 で き た 8 保 育 所 及 び 34 校 ( 8 幼 稚 園 、
11 小 学 校 、 7 中 学 校 、 8 高 等 学 校 ) で 支 援 計 画 が 作 成 さ れ
て い た 児 童 生 徒 計 201 人 の う ち 、83 人 分( 41.3% )は 進 学
先 等 に 引 き 継 が れ て い た が 、 118 人 分 ( 58.7% ) は 引 き 継
がれていなかった。
この引継率を保育所及び学校種別でみると、保育所
34.8% 、 幼 稚 園 46.7% 、 小 学 校 79.1% 、 中 学 校 14.7% 、
高 等 学 校 6.4% と な っ て お り 、 中 学 校 及 び 高 等 学 校 で 特 に
低い傾向にある。
な お 、作 成 し て い る 支 援 計 画 を 児 童 生 徒 の 進 学 先 等 に 全
て 引 き 継 い で い る も の は 、 3 保 育 所 及 び 15 校 ( 4 幼 稚 園 、
9 小 学 校 、1 中 学 校 、1 高 等 学 校 )に と ど ま っ て お り 、こ う
した状況は、指導計画についてもほぼ同様となっている。
支援計画や指導計画を引き継いでいない保育所及び学
校 で は 、そ の 理 由 に つ い て 、ⅰ )現 状 の 引 継 方 法 で 対 応 が
可 能 で あ る た め 、ⅱ )引 き 継 ぐ こ と に つ い て 市 町 村 教 育 委
員 会 か ら 指 示 が な い た め 、ⅲ )保 護 者 の 同 意 が 得 ら れ な い
た め な ど を 挙 げ て お り 、特 に 、中 学 校 か ら 高 等 学 校 、高 等
学 校 か ら 大 学 等 へ の 引 継 ぎ に つ い て は 、ⅰ )引 継 ぎ の 仕 組
み が 確 立 さ れ て お ら ず 引 継 方 法 が 分 か ら な い 、ⅱ )合 格 発
- 32 -
表から 3 月末までの短期間で引継ぎを行うことは難しいな
どの意見が聴かれた。
ま た 、都 道 府 県 及 び 市 町 村 の 保 育 所 に 対 す る 指 導 状 況 並
びに都道府県教育委員会及び市町村教育委員会の学校に
対 す る 指 導 状 況 を み る と 、支 援 計 画 の 例 で は 、引 き 継 ぐ よ
う 指 導 を 行 っ て い る も の は 、都 道 府 県 で 19 の う ち 2、市 町
村 で 31 の う ち 8、 都 道 府 県 教 育 委 員 会 で 19 の う ち 8、 市
町 村 教 育 委 員 会 で 31 の う ち 11 と 必 ず し も 十 分 な 指 導 が な
さ れ て い る と は 言 え な い 状 況 に あ り 、支 援 計 画 及 び 指 導 計
画の引継ぎが進んでいない一因になっているものと考え
られる。
一 方 、調 査 し た 都 道 府 県 教 育 委 員 会 の 中 に は 、中 学 校 か
ら 高 等 学 校 へ の 引 継 ぎ を 推 進 す る た め 、次 の よ う な 取 組 を
行っている例がみられた。
①
都 道 府 県 教 育 委 員 会 が 、中 学 校 及 び 高 等 学 校 間 の 引 継
ぎを行うための連絡会を開催しているもの
②
都 道 府 県 教 育 委 員 会 が 、中 学 校 及 び 高 等 学 校 間 の 引 継
ぎ を 推 進 す る た め 、引 継 ぎ の 留 意 点 等 を 示 し 、中 学 校 か
ら 引 継 ぎ が な い 場 合 で あ っ て も 、高 等 学 校 か ら 積 極 的 に
情報収集するよう周知しているもの
(支援計画及び指導計画の保存・管理)
支 援 計 画 や 指 導 計 画 を 進 学 先 等 に 引 き 継 ぐ た め に は 、引
継ぎまでの間、保育所及び学校内で組織として適切に保
存・管 理 さ れ る 必 要 が あ り 、支 援 計 画 等 の 保 存・管 理 に つ
い て は 、「 障 害 の あ る 子 ど も の た め の 地 域 に お け る 相 談 支
援 体 制 整 備 ガ イ ド ラ イ ン ( 試 案 )」 に お い て 、 学 校 等 は 、
個人情報が漏えいしたり滅失したりすることのないよう、
適切な管理を行うことが必要であるとされている。
し か し な が ら 、調 査 し た 学 校 に お け る 支 援 計 画 及 び 指 導
- 33 -
計 画 の 保 存・管 理 の 状 況 を み る と 、次 の と お り 、適 切 に 保
存・管 理 が な さ れ て お ら ず 、そ の 結 果 、引 継 ぎ が 適 切 に 行
われないおそれのある例がみられた。
①
担 当 教 員 の 資 料 保 管 の 不 手 際 や 、異 動 時 に 業 務 の 引 継
ぎ が 十 分 に 行 わ れ な か っ た こ と を 理 由 と し て 、支 援 計 画
や指導計画を含む発達障害児に関する資料が所在不明
となっているもの(2 例)
②
担当教員の異動時に業務の引継ぎが行われず、平成
25 年 度 に 作 成 し た と み ら れ る 支 援 計 画( 1 件 )は 作 成 し
た 痕 跡 は あ る も の の 、過 去 の 支 援 計 画 及 び 指 導 計 画 の 作
成状況等が不明となっているもの(1 例)
な お 、発 達 障 害 児 の 情 報 の 引 継 ぎ に つ い て は 、多 く は 保
育所及び学校が主体となって行っているところであるが、
調 査 し た 市 町 村 教 育 委 員 会 の 中 に は 、保 護 者 の 同 意 を 得 て
支 援 計 画 を 教 育 委 員 会 が 管 理 し 、引 継 ぎ の 中 心 的 な 役 割 を
担 う こ と に よ り 、的 確 な 管 理 体 制 及 び そ れ に よ る 着 実 な 引
継体制を構築している例がみられた。
ウ
引継ぎが行われないことによる支障
調 査 し た 保 育 所 及 び 学 校 に お い て 、引 継 ぎ が 行 わ れ な か
っ た こ と に よ る 支 障 例 を 調 査 し た と こ ろ 、適 切 な 対 応 が 早
期 に な さ れ な か っ た 結 果 、身 体 の 不 調 や 集 団 に な じ め な い
な ど 対 応 が 困 難 と な っ た も の な ど 計 7 事 例 み ら れ た 。中 に
は 、市 町 村 を ま た い だ 転 校・転 居 時 に 、引 継 ぎ が 行 わ れ な
かった例(2 事例)が含まれていた。
こ の ほ か 、調 査 し た 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 及 び 医 療 機
関 が 把 握 し て い る 例 で も 、学 校 間 で の 情 報 の 引 継 ぎ が 行 わ
れなかったことなどから対応が困難となっているものが 6
事例(発達障害者支援センター3 事例、医療機関 3 事例)
- 34 -
みられた。
こ う し た 事 例 を 踏 ま え る と 、発 達 障 害 児 に 対 し て 切 れ 目
の な い 適 切 な 支 援 を 行 っ て い く た め に は 、該 当 児 童 生 徒 の
情報を的確に進学先に引き継いでいく必要があると考え
られる。
こ の 点 に つ い て は 、教 育 再 生 実 行 会 議 に お い て も 、平 成
28 年 5 月 の 第 9 次 提 言(「 全 て の 子 供 た ち の 能 力 を 伸 ば し
可 能 性 を 開 花 さ せ る 教 育 へ 」) に お い て 、 発 達 障 害 を 早 期
に 発 見 し 適 切 な 支 援 に つ な げ る た め 、国 、地 方 公 共 団 体 が
1 歳 6 か月児健診及び 3 歳児健診の結果が就学時健診や就
学中の健診にも引き継がれ活用されるよう促す旨提言さ
れている。
【所見】
し た が っ て 、文 部 科 学 省 及 び 厚 生 労 働 省 は 、発 達 障 害 児 に
対 す る 一 貫 し た 、切 れ 目 の な い 支 援 を 推 進 す る 観 点 か ら 、次
の措置を講ずる必要がある。
①
厚 生 労 働 省 は 、市 町 村 に 対 し 、乳 幼 児 健 診 の 結 果 等 の 進
学 先 へ の 引 継 ぎ の 重 要 性 を 周 知 し 、積 極 的 な 引 継 ぎ を 促 進
すること。
②
文部科学省及び厚生労働省は、保育所・幼稚園から大
学・就 労 先 ま で の 各 段 階 に お い て 、発 達 障 害 児 に 対 す る 必
要 な 支 援 内 容 等 が 文 書 に よ り 適 切 に 引 き 継 が れ る よ う 、都
道 府 県 、市 町 村 、都 道 府 県 教 育 委 員 会 及 び 市 町 村 教 育 委 員
会 に 対 し 、具 体 例 を 挙 げ て 周 知 す る こ と 。そ の 際 、支 援 計
画 及 び 指 導 計 画 に つ い て は 、引 継 ぎ ま で の 適 切 な 保 存・管
理 を 求 め る と と も に 、具 体 的 な 引 継 方 法 を 提 示 し 、確 実 に
引き継がれるよう徹底を図ること。
- 35 -
3
専門的医療機関の確保状況
都道府県及び指定都市
( 注 1)
は 、専 門 的 に 発 達 障 害 の 診 断 及 び
発達支援を行うことができると認める病院又は診療所を確保し
な け れ ば な ら な い と さ れ て い る ( 発 達 障 害 者 支 援 法 第 19 条 第 1
項 )。
( 注 1)
指定都市は、発達障害者支援法施行令第 3 条において、地方自治法施
行 令 第 174 条 の 36 第 1 項 の 規 定 に 基 づ き 、 都 道 府 県 が 処 理 す る こ と と
されている事務を処理することとされている。
今 回 、19 都 道 府 県 及 び 8 指 定 都 市 の 計 27 団 体 を 対 象 に 、発 達
障害に係る専門的医療機関
( 注 2)
の 確 保 状 況 を 、 ま た 、 27 専 門
的医療機関を対象に、発達障害の診断状況を調査したところ、
以下のような状況がみられた。
( 注 2)
(1)
専門的医療機関は、法令等で明確に定義されていないため、各調査対
象団体が専門的医療機関と位置付けているものを調査した。
専門的医療機関の確保及びその公表状況
(専門的医療機関の確保)
19 都 道 府 県 及 び 8 指 定 都 市 の 計 27 団 体 の う ち 、 専 門 的 医
療 機 関 を 確 保 し て い た も の は 22 団 体 ( 81.5% ) で 、 残 る 5
団 体 ( 18.5% ) は 確 保 で き て い な か っ た
( 注 3)
。
確保済みの専門的医療機関の数が最も少ない団体で 1 機関、
最 も 多 い 団 体 で 281 機 関 と な っ て い た 。
( 注 3)
未 確 保 で あ っ た 5 団 体 は 、当 省 の 調 査 後 、平 成 28 年 4 月 ま で に 専
門的医療機関を確保している。
(専門的医療機関の公表)
発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 が 適 切 な 診 断 を 受 け 、そ の 後
の 適 切 な 支 援 に つ な げ る た め に は 、発 達 障 害 に 関 す る 知 見 の
あ る 医 療 機 関 を 知 る 機 会 が 確 保 さ れ る 必 要 が あ る が 、専 門 的
医 療 機 関 を 確 保 済 み の 22 団 体 の う ち 、 専 門 的 医 療 機 関 の 情
報 を 公 表 し て い る も の は 18 団 体 ( 81.8% ) と な っ て お り 、
こ れ ら の 中 に は 、ホ ー ム ペ ー ジ で 利 用 者 が 閲 覧 し や す い よ う
- 36 -
に 医 療 機 関 ご と に「 医 療 機 関 名 」、
「 所 在 地 」、
「 電 話 番 号 」、
「診
療 に 当 た る 科 」、「 診 療 可 能 な 発 達 障 害 の 種 類 」、「 診 療 可 能 な
年 齢 」、「 行 っ て い る 診 療 」、「 作 成 し て い る 診 断 書 等 」、「 予 約
の 有 無 」、「 紹 介 状 の 有 無 」 等 を 掲 載 し 、 掲 載 内 容 を 工 夫 し て
いるものが 3 団体でみられた。
一方、専門的医療機関の情報を公表していない 4 団体は、
そ の 理 由 に つ い て 、 ⅰ )各 医 療 機 関 で は 、 長 期 の 受 診 待 ち が
発 生 し て お り 、公 表 に 伴 い よ り 多 く の 受 診 予 約 が 殺 到 す る と
業 務 に 支 障 を 来 た す た め 、特 に 、個 人 経 営 の 医 療 機 関 を 中 心
に 同 意 が 得 ら れ て い な い 、ⅱ )発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー が 利
用 者 に 案 内 し て い る 、ⅲ )公 表 さ れ る 医 療 機 関 か ら 公 表 さ れ
る こ と に 対 す る 苦 情 が 、公 表 さ れ な い 医 療 機 関 か ら 未 公 表 に
対 す る 苦 情 が 想 定 さ れ る 及 び ⅳ )公 表 す る こ と に つ い て 医 療
機関と調整を行っていないことを挙げていた。
ま た 、調 査 し た 専 門 的 医 療 機 関 か ら も 、医 療 機 関 名 等 が 公
表 さ れ た 場 合 、受 診 者 が 増 加 し 、受 診 者 の ニ ー ズ に 十 分 に 応
えられなくなるおそれがあるため公表に同意できないとす
る意見(1 医療機関)が聴かれたが、当該医療機関では初診
待 機 日 数 ( 当 省 の 調 査 日 時 点 ) が 47 日 で あ る の に 対 し 、 同
一 県 内 の 他 の 医 療 機 関 で は 初 診 待 機 日 数( 同 )が 148 日 で あ
りながら公表している例がある。
他 方 、こ う し た 専 門 的 医 療 機 関 に お け る 受 診 を 必 要 と す る
発 達 障 害 が 疑 わ れ る 児 童 生 徒 の 保 護 者 の 側 か ら み れ ば 、専 門
的 医 療 機 関 の 情 報 が 容 易 に 入 手 で き る こ と が 望 ま し く 、中 に
は 、学 校 や 発 達 障 害 者 支 援 セ ン タ ー 等 に 知 ら れ ず に 専 門 的 医
療 機 関 の 受 診 を 望 む 者 も い る と 考 え ら れ る 。こ の た め 、適 切
な 受 診 機 会 を 確 保 す る 観 点 か ら 、積 極 的 に 公 表 し て い く 必 要
があると考えられる。
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(2)
専門的医療機関における発達障害の診療状況等
専 門 的 医 療 機 関 を 確 保 済 み の 22 団 体 の 管 内 に 所 在 す る 専
門 的 医 療 機 関 か ら 27 機 関 を 抽 出 し 、 発 達 障 害 に 係 る 初 診 待
機者数(当省の調査日時点)及び初診待機日数(同)を調査
した結果、次のとおり、ⅰ)初診待機者数は、約 4 割の医療
機 関 が 50 人 以 上 と な っ て お り 、 そ の 中 に は 、 最 大 316 人 が
待機している例、ⅱ)初診待機日数は、半数以上の医療機関
が 3 か 月 以 上 と な っ て お り 、 そ の 中 に は 、 最 長 で 約 10 か 月
の 例 も み ら れ る な ど 、専 門 的 医 療 機 関 の 更 な る 確 保 が 必 要 な
状況がみられた。
①
27 医 療 機 関 の 初 診 待 機 者 数 に つ い て は 、 ⅰ ) 10 人 未 満
が 2 機 関( 7.4% )、ⅱ )10 人 以 上 50 人 未 満 が 9 機 関( 33.3% )、
ⅲ ) 50 人 以 上 100 人 未 満 が 4 機 関 ( 14.8% )、 ⅳ ) 100 人
以 上 ( 最 大 で 316 人 ) が 8 機 関 ( 29.6% )、 ⅴ ) 不 明 が 4
機 関 ( 14.8% ) と な っ て い る 。
②
27 医 療 機 関 の 初 診 待 機 日 数 に つ い て は 、 ⅰ )1 か 月 未 満
が 4 機 関 ( 14.8% )、 ⅱ ) 1 か 月 以 上 3 か 月 未 満 が 6 機 関
( 22.2% )、 ⅲ ) 3 か 月 以 上 半 年 未 満 が 12 機 関 ( 44.4% )、
ⅳ )半 年 以 上( 最 長 は 約 10 か 月 )が 2 機 関( 7.4% )、ⅴ )
不 明 が 3 機 関 ( 11.1% ) と な っ て い る 。
また、当省が別途 調査した学校では 、中学校の教員が 保護
者 に 専 門 的 医 療 機 関 の 受 診 を 勧 め た も の の 、医 療 機 関 へ の 予
約から受診までに数箇月を要したこと等から受診につなが
らなかったものが 1 例みられた。
調 査 し た 都 道 府 県 及 び 指 定 都 市 の 中 に は 、専 門 的 医 療 機 関
の 確 保 に 向 け た 取 組 と し て 、 ⅰ )子 ど も の 心 の 診 療 ネ ッ ト ワ
ー ク 事 業 ( 国 庫 補 助 事 業 )に よ る 子 ど も の 心 の 診 療 に 専 門 的
に携わる医師及び関係専門職の育成等(6 団体)、ⅱ)子ど
も の 心 の 相 談 支 援 体 制 強 化 事 業 ( 単 独 事 業 )に よ る 医 師 を 対
- 38 -
象とした研修等の実施(1 団体)、ⅲ)精神医学センターの
設 置 に よ る 医 師 を 対 象 と し た 研 修 等 の 実 施( 1 団 体 )、ⅳ )大
学での精神医学講座の開設による児童精神科医の養成等の
実施(1 団体)等の取組を行っているものがみられるが、上
記 の 専 門 的 医 療 機 関 の 初 診 待 機 日 数 等 を み る と 、依 然 と し て
専 門 医 や 専 門 的 医 療 機 関 が 不 足 し て い る 状 況 が み ら れ 、専 門
的医療機関の確保に向けた更なる取組が必要となっている。
なお、一般的な発 達障害の診察で、精神科医療機関で の処
方を中心とする場合とカウンセリングを中心とする場合と
で は 、カ ウ ン セ リ ン グ の 方 が 一 日 で 診 断 で き る 患 者 数 が 少 な
いため、診療報酬 が低くなることが 指摘されており、調査し
た医療機関の中からも、次のような意見が聴かれた。
①
小 児 科 医 が 発 達 障 害 を 診 断 す る 場 合 、風 邪 等 の 診 察 と 違
って、幼児期の状況や成育歴などを聴き取る必要があり、
手 間 と 時 間 を 要 す る た め 、診 療 報 酬 上 の メ リ ッ ト を 与 え て
ほしい。
②
発 達 障 害 児 に 対 す る 精 神 科 医 に よ る 診 察 は 、そ の 特 性 上 、
1 人 に 対 し 1 時 間 か ら 2 時 間 費 や す こ と が 多 く 、30 分 を 大
幅に超えるため、現行の「通院・在宅精神療法」の時間区
分( 30 分 未 満 の 場 合 は 3,300 円 、30 分 以 上 の 場 合 は 4,000
円 の 2 区 分 の み ) の う ち 30 分 以 上 を 細 分 化 し 、 そ の 時 間
区分に見合った診療報酬にしてほしい。
③
発達障害児に対する小児科医の診察による診療報酬で
は、
「小児特定疾患カウンセリング料」
( 月 の 1 回 目 は 5,000
円 、 月 の 2 回 目 は 4,000 円 ) が 算 定 可 能 で あ る が 、 発 達 障
害 と い う 特 性 上 、長 期 に わ た り 通 院 が 必 要 で あ る に も か か
わらず、2 年を限度にしか算定できないことから、2 年と
いう期限を設けないようにしてほしい。
- 39 -
(3)
初診待機者の不安解消を図るための取組
調査した都道府県及び指定都市の中には、次のとおり初診
待機者の不安解消を図るための取組を実施しているものがみ
られた。
①
医療機関と連携し、小児科の診察優先枠を毎月 1 日(2
ケース)設けており、保護者の了解の下、県職員も医療機
関の診察に同席し、医師、保護者及び県の三者で情報の共
有 を 図 っ て い る ( 1 団 体 )。
②
医療機関の受診前や療育前に臨床心理士等が親子小集団
活動、保護者同士のグループワーク等を実施する事業「に
こにこ教室」を実施している。同市では、医療機関の受診
等を待っている保護者の不安感の解消が図られていること
を メ リ ッ ト と し て 挙 げ て い る ( 1 団 体 )。
【所見】
し た が っ て 、厚 生 労 働 省 は 、発 達 障 害 に 係 る 専 門 的 医 療 機 関 の
確 保 と 発 達 障 害 の 早 期 診 断 の 確 保 を 図 る 観 点 か ら 、次 の 措 置 を 講
ずる必要がある。
①
専門的医療機関の積極的な公表を都道府県等に促すこと。
②
発達障害が疑われる児童生徒が専門的医療機関を早期に受
診 で き る よ う 、専 門 的 医 療 機 関 の 確 保 の た め の 一 層 の 取 組 を 行
うこと。
③
専門的医療機関の受診までの間の保護者の不安解消を図る
取組を都道府県等に例示して推進すること。
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