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第3章 光ファイバーの選択エッチングとファイバーガラスの溶解速度

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第3章 光ファイバーの選択エッチングとファイバーガラスの溶解速度
第 3 章 光ファイバーの選択エッチングとファイ
バーガラスの溶解速度
本章では,緩衝弗化水素酸中に浸漬された光ファイバーの選択エッチングによるコアのテーパー化工程,陥
没工程プロセス,およびそれらの組み合わせを理解するために,シリコンの等方性エッチングを記述するス
トリングモデル 1 と同様な原理に基づいて,溶解速度の異なる 2 つの領域(コアとクラッド)からなる物
体(ファイバー)のエッチング工程の幾何学的モデルを開発する.第 4 章から第 6 章で詳述されるような
複雑なファイバーのテーパー化工程はこのモデルの応用問題として解かれるので,この幾何学的モデルは
本論文で詳述されるテーパー化技術全体の根幹を成すものである.3.1 節においては 2 つの領域からなる物
体のエッチングのモデル化について詳述し,3.2 節においてはコアとクラッドからなる光ファイバーのテー
パー化工程と陥没工程について議論する.また 3.3 節と 3.4 節においてはそれぞれドーピング種がフッ素と
二酸化ゲルマニウムであるファイバーのテーパー化形状と溶解速度の関係について詳述する.さらに 3.5 節
においては Vapor–Phase Axial Deposition (VAD) 法 [55] によって近赤外域での光通信のために製造されたい
くつかの通信用光ファイバーについて議論し,3.6 節でまとめる.また,以下においては不純物添加石英ガ
ラスを比屈折率差 ∆n 2 を純粋石英ガラスを基準として表記している.すなわち,純粋石英コアを持つファ
イバーの比屈折率差は (n22 − n21 )/2n22 ,純粋石英クラッドを持つファイバーのそれは (n21 − n22 )/2n21 と定義
される.
3.1
二つの領域からなる物体の選択エッチング
光ファイバーの各層はそれぞれ設計された屈折率を持つように適当な濃度の不純物添加石英ガラスで構成
される.各層のファイバーガラスが均一であればその弗化水素酸あるいは緩衝弗化水素水溶液 3 中でのエッ
チングはシリコンの弗化ガスを用いたプラズマエッチングと同様に等方性であるので,各領域内における
溶解速度は空間的に一定である.また不純物添加ガラスの溶解速度は不純物添加濃度に依存して変化する
ので,領域と領域の境界では溶解速度が変化する.それゆえファイバー端面のコアのように周りを別のガラ
スで囲まれた領域は選択的にエッチングされる.
図 3.1 はそれぞれ異なる溶解速度を持つ2つの領域からなる物体のエッチングに関する幾何学的モデルで
ある.破線は領域 I と領域 II の境界であり,明るい部分と暗い部分はそれぞれエッチング前後の物体の断
面図を表す.R,R はそれぞれ領域 I と領域 II の溶解速度,∆T はエッチング時間,ξ は初期平面に垂直な
ベクトルと二つの領域の境界平面とのなす角度,ζ は初期平面に垂直なベクトルと領域 II の傾斜面とのな
す角度である.今,領域 I と領域 II のそれぞれにおいて等方性エッチングが行われかつ R > R とすると,
−−→
−−→
物体表面にある二つの領域の境界近傍においては,∆T −1 PP1 と ∆T −1 PQ2 の2つの溶解速度ベクトルが
それぞれその領域 I 側と領域 II 側に存在すると考えられる.また境界以外の領域では,ストリングモデル
と同様に線素がその領域の溶解速度でそれぞれ近接 2 点の垂直二等分線方向に前進する.それゆえ幾何学
的関係から ∆T 後の表面形状は図に示されるような P1 ,
P2 の節を持つ折れ線とならなければならない.こ
のとき,領域 II の傾斜面が初期平面となす角度 ζ は
−−→
1 R
|PP1 |
sin(ζ) ≡ −−→ =
cos(ξ) R
|PQ2 |
1
2
3
(3.1)
このモデルにおいては 2 次元表面形状を折れ線として表現される.このモデルに基づいて折れ線の各節点の微小時間後の移動ベク
トルを計算することによりエッチングや堆積などの半導体素子製造プロセスにおける複雑な表面形状の変化をシミュレートするこ
とができる.Si の湿式エッチングにおいては,その溶解反応は等方的に進行するので,単位時間あたりの各点の表面法線方向の移
動速度は一定であり,溶解速度に一致する.
光ファイバーに関する教科書では光ファイバーの比屈折率差はクラッドに対するコアの値として定義されることが多いが,本論文
では様々な材料構成の光ファイバーを取り扱うため,クラッドに代えて純粋石英を基準にしている.
石英ガラスと緩衝弗化水素酸との反応については付録 D を参照せよ.
(II)
(I)
P1
ζ
P2
Q1
Q2
ξ
R ∆T
R’ ∆T
P
図 3.1. 二つの領域からなる平坦な物体のエッチング工程の幾何学的モデル.ここで明るい部分と暗い部分
はそれぞれエッチング前後の物体の断面図である.R,R はそれぞれ領域 I と領域 II の溶解速度であり,
R > R の関係を持つ.∆T はエッチング時間,ξ は初期平面に垂直なベクトルと二つの領域の境界平面と
のなす角度,ζ は初期平面に垂直なベクトルと領域 II の傾斜面とのなす角度である.領域 II 内においては
−−→
−−→
溶解速度 R の等方性エッチングであるから |PQ1 | = |PQ2 | (= R ∆T ) である.
REFRACTIVE
n1
φ
INDEX
Core
Cladding
R2
r2
r1 0
(a)
R 1T
R 2T
n2
r2
R 2τ
DISSOLUTION
R1
RATE
θ
LTC
R 1τ
DISSOLUTION
R2
RATE
R1
r1 0
r2
(b)
r1 0
(c)
図 3.2. (a) 石英系光ファイバーの屈折率分布.(b) コア陥没工程の幾何学的モデルと溶解速度分布.(c) コア
テーパー化工程と溶解速度分布.
によって表される.
さらに,この2つの溶解速度を持つ物体のモデルにおいて節点の移動に注目すると,初期平面内の境界
点 P が二つに分かれて点 P1 ,P2 に移動したことが分かる.二つの領域の境界面が平面すなわち ξ が一定で
あれば ζ は時間的に一定であるので,エッチング時間を増加に伴い節点 P1 は図の破線で表される境界線上
を,節点 P2 は領域 II 内の直線 PP2 上を移動する.
3.2
テーパー化工程と陥没工程の幾何学的モデル
図 3.1(a) は二酸化ゲルマニウム添加石英 (GeO2 –SiO2 ) コアと純粋石英 (SiO2 ) クラッドからなる光ファイ
バーの断面屈折率分布を示す.ここで n1 と n2 はそれぞれコアとクラッドの屈折率であり,r1 と r2 はコア
とクラッドの半径である.この光ファイバーを [40 重量%ふっ化アンモニウム水溶液 (NH4 F sol.)]: [50 重量
%弗化水素酸 (HF acid)]: [純水 (H2 O)] = X:1:1(室温:25 ◦ C)の体積比を持つ緩衝弗化水素水溶液 (BHF) に
浸漬すると,コアは X=0 のとき陥没し X=10 のときテーパー化する.図 3.1(b) の上下図はそれぞれ陥没工
程の幾何学的モデルの模式図(上図)と光ファイバーの断面溶解速度分布図(下図)に相当し,図 3.1(c) の
上下部はそれぞれテーパー化工程の模式図と溶解速度分布を表す.図 3.1(b), (c) の上部の薄い部分と濃い部
分はそれぞれエッチング前とエッチング後のファイバー断面図を表す.ここで φ は陥没部位の陥没角度,τ
24
は先端径を零とするのに必要なエッチング時間,θ はテーパー化コアの先鋭角である.陥没工程とテーパー
化工程のエッチング時間はそれぞれ T と τ で表現される.図 3.1(b), (c) の下部はコア溶解速度 R1 とクラッ
ド溶解速度 R2 を示し,(b) では R1 > R2 ,(c) では R1 < R2 である.この陥没工程は,図 3.1 において,
領域 I と領域 II をそれぞれコアとクラッドであり,かつ ξ = 0◦ である場合に相当するので,陥没角度 φ は
(3.1) 式より次式で与えられる.
sin(φ/2) = R2 /R1
(3.2)
テーパー化工程においては,領域 I と領域 II がそれぞれクラッドとコアの場合に相当し,また線分 PP2 の初
期平面への射影がコア半径 r1 に一致するとき,コアが完全にテーパー化される(すなわちテーパー終端面
の直径である先端径 d がゼロになる)ので,幾何学的関係から先鋭角 θ,テーパー化コアの長さ LTC ,テー
パー化コアの先端径 d はそれぞれ次のように表される.
sin(θ/2) = R1 /R2
(3.3)
LTC = (r1 − d/2)/ tan(θ/2)
(T < τ )
2r1 (1 − T /τ )
d(T ) =
0
(T ≥τ )
(3.4)
(3.5)
ここで先端径 d が零になるエッチング時間 τ はコア径 r1 ,コア溶解速度 R1 ,クラッド溶解速度 R2 によっ
て次式で与えられる.
τ = (r1 /R1 ) [(R1 + R2 )/(R2 − R1 )]1/2
3.3
(3.6)
フッ素添加石英クラッドを持つ光ファイバーの溶解速度
フッ素添加石英クラッドと純粋石英コアから構成される光ファイバーを緩衝弗化水素水溶液 (BHF) で選
択エッチングすると, ある一定の先鋭角でコア領域がテーパー化されたファイバーが実現される.このよう
な場合,(3.2) 式の左辺に相当する溶解速度比 [R1 /R2 ] は BHF の濃度に依存せず一定の値を取ることにな
る.[43]
図 3.2(a) は ∆n=−0.7%の純粋石英コアを持つファイバーの劈開端面を [40 重量% NH4 F 水溶液]: [50 重量
% 弗化水素酸]: [H2 O]= X:1:1 の体積比を持つ BHF の中に浸漬して選択エッチングを行った場合の純粋石英
コアの溶解速度 R1 ,ふっ素添加石英クラッドの溶解速度 R2 ,先鋭角 θ の NH4 F 水溶液の体積混合比 X に
対する依存性である.また図 3.2(b) は NH4 F 水溶液の体積混合比 X が 10 のときの比屈折率差 ∆n に対す
る先鋭角 θ の依存性を示す.これより先鋭角 θ が ∆n あるいはクラッドの石英中におけるフッ素 (F) 添加率
によって制御されることがわかる.ただし,Vapor–Phase Axial Deposition (VAD) 法においてフッ素添加ク
ラッドと純粋石英コアを持つファイバーの比屈折率差を −0.7%以下にすることは困難である.
3.4
二酸化ゲルマニウム添加コアを持つ光ファイバーの溶解速度
二酸化ゲルマニウム (GeO2 ) 添加石英コアと純粋石英クラッドから構成される光ファイバーを 40 重量%ふっ
化アンモニウムと 50 重量%弗化水素酸と水の体積混合比が X:1:1 の緩衝弗化水素水溶液 (BHF) に浸漬する
とき,光ファイバーは X < 1.7 ときコア領域から陥没し,X > 1.7 のときコア領域においてテーパー化す
る. 図 3.3(a) はコア溶解速度 R1 ,クラッド溶解速度 R2 ,先鋭角 θ のふっ化アンモニウムの体積混合比 X
に対する依存性を示す.ここで,光ファイバーの比屈折率差 ∆n は 2.5%である.X を増加すると溶解速度
比 R1 /R2 は減少し,X=10–30 の領域である値に到達する.溶解速度比 R1 /R2 によって決定される先鋭角
θ は X=10 で最小値を取る.
今,X が固定されたとするとテーパー化コアの先鋭角は比屈折率差 ∆n によって決定される.二酸化ゲ
ルマニウム(GeO2 )の添加率を増加すると ∆n (> 0) の値もほぼ比例して増加する.3.0%までの比屈折率
差 ∆n を持つ GeO2 添加石英製ファイバーを製造するのには VAD 法が効果的に適用できる.図 3.3(b) は
X=10 のときの比屈折率差 ∆n に対する先鋭角 θ の依存性を示す.さらに,高濃度二酸化ゲルマニウム添加
石英コアとフッ素添加石英クラッドを持つファイバーを選択エッチングすることにより 14◦ のより小さい先
鋭角を持つテーパー化ファイバーを実現することができる.
25
120
30
10
120
θ
1
(degree)
60
(degree)
150
90
10
0.1
1
180
θ
R1, R2 (µm h -1)
100
90
60
30
0
0
100
-1
X
(a)
∆n (%)
0
(b)
図 3.3. (a) 純粋石英コアの溶解速度 R1 (点線),フッ素添加石英クラッド R2 (波線),先鋭角 θ (実線)
のふっ化アンモニウム水溶液の体積混合比 X に対する関係.ここで比屈折率差 ∆n (= [n22 − n21 ]/2n22 ) は
−0.7%である.(b) 比屈折率差 ∆n に対する先鋭角 θ の依存性.ここでふっ化アンモニウム水溶液の体積比
X は 10 である.
3.5
種々の通信用光ファイバーのテーパー化
光通信システムのために製造された以下5つのタイプのファイバーを [40 重量% NH4 F 水溶液]: [50 重量
% 弗化水素酸]: [H2 O]= 10:1:1 の緩衝弗化水素水溶液 (BHF) で選択エッチングを行うとき,表 3.1 にまとめ
られた構造パラメーターを持つテーパー化ファイバーが得られる.これらの光ファイバーはそれぞれ
(1) 純粋石英コアとフッ素添加石英クラッドで構成される 1.3µm 単一モードファイバー (1.3 µm–PSF)
(2) 二酸化ゲルマニウム添加石英コアと純粋石英クラッドで構成される 1.3–µm 用単一モードファイバー
(1.3 µm–SF)
(3) 二酸化ゲルマニウム添加コアを持つ 0.6µm 用単一モードファイバー (0.6 µm–SF)
(4) 二酸化ゲルマニウム添加コア 4 を持つ 1.55µm 用分散シフトファイバー (DSF)
(5) 高濃度二酸化ゲルマニウム添加コアを持つ分散補償ファイバー (DCF)
5
である.先鋭角は比屈折率差 ∆n によって決定されるが,先端径は光ファイバーのコア半径 r1 の大きさに
影響される.最小先端径と小さい先鋭角を持つプローブを作製するためには, 分散補償ファイバーのように
大きな比屈折率差と小さいコア半径を有する二酸化ゲルマニウム添加ファイバーを用いなければならない.
比屈折率差 ∆n=2.5%とコア半径 r1 =1 µm の分散補償ファイバーを用いたとき,20◦ (±1◦ ) の先鋭角と 10 nm
以下の先端径を持つテーパー化プローブをほぼ 100%の再現性を持って作製することができる.
さらに図 3.3(a) に示されるように,緩衝弗化水素水溶液の濃度(ふっ化アンモニウムの体積混合比 X )を
変化させることによって,先鋭角は 10 nm 以下の先端径に対して 20◦ から 180◦ の範囲で制御することがで
きる.このような先鋭角の高度の制御性は高分解能プローブと高透過プローブの両方を作製するのに必要
不可欠である.本論文においては平坦なファイバー端とテーパー化コアを持つプローブのすべてを Shoulder
形ファイバープローブの名称で呼んでいる.
4
5
実際には単純コアではなく,二重コア構造となっており,直径 4µm のコアと純粋石英クラッドの間に直径 12µm で比屈折率差
0.2%の第2のコアが設けられている.(2) のファイバーに比べモードフィールド径が大きく,光ファイバーの非線形性が抑制される.
現在の光通信ネットワークリンクの大部分は 1.3µm 用の単一モードファイバーを用いて形成されているが,最近は損失が最小とな
る 1.5µm 帯で駆動することが試みられており,その場合にパルス信号が光ファイバーの正分散のために変化することが問題とされ
ている.分散補償ファイバーは 1.5µm 帯で負の分散を持つように製造されており,分散補償を行うために中継部品としてネット
ワークに組み込まれる.カットオフ波長は 800 nm 前後になる.
26
120
1
(degree)
60
120
θ
10
150
(degree)
90
180
θ
R1, R2 (µm h -1)
100
30
90
60
30
0.1
1
0
100
10
0
0
X
(a)
1
2
∆n (%)
3
(b)
図 3.4. (a) 二酸化ゲルマニウム (GeO2 ) 添加石英コアの溶解速度 R1 (波線),純粋石英クラッド R2 (点
線),先鋭角 θ (実線)のふっ化アンモニウム水溶液の体積比 X に対する依存性.ここで比屈折率差 ∆n
(= [n21 − n22 ]/2n21 ) は 2.5%である.(b) X=10 のときの θ の ∆n に対する依存性.
表 3.1. テーパー化された光通信システム用ファイバーの構造パラメーター
ファイバータイプ
∆n (%)
r1 (µm)
θ (at X=10)
先端径 d (nm)
1.3 µm–PSF
−0.35
5
120◦
<200
5
105
◦
<180
◦
<60
<20
1.3 µm–SF
0.3
0.6 µm–SF
DSF
0.3
0.9
2
2
105
60◦
DCF
2.5
1
20◦
<10
PSF, 純粋石英コアを持つ単一モードファイバー; SF, GeO2 添加石英コアを持つ単一モードファイバー; DSF, 分散シフ
トファイバー; DCF, 分散補償ファイバー.
3.6
まとめ
• コアとクラッドの2つの領域からなる最も簡単な構造を持つ光ファイバーの選択エッチングについて,
テーパー化工程と陥没工程の両方の幾何学的モデルを提示した.
• 幾何学的モデルに基づいて純粋石英コアとフッ素添加石英クラッドからなるファイバーではテーパー
化工程のみ実現し,テーパー化工程によって得られるテーパー化コアはエッチング液である緩衝弗化
水素水溶液の組成に関わらず一定の先鋭角を持つ.またその先鋭角はフッ素のドープ量すなわち光ファ
イバーの比屈折率差によって決定されることを示した.
• 二酸化ゲルマニウム添加石英コアと純粋石英クラッドは,緩衝弗化水素水溶液の組成を変えることに
より,テーパー化工程と陥没工程を実現でき,またテーパー化工程では先鋭角が変化する現象が経験
的に知られているが,実際にコアとクラッドの溶解速度を測定することにより,この現象を検証した.
• 通信用に製造された各種光ファイバーの選択エッチングによりテーパー化を行い,最小先端径がコア
径の大きさに影響されることを示した.
27
第 4 章 分散補償ファイバーのテーパー化法とその
幾何学的モデル
分散補償ファイバーの選択エッチングに基づいて (1) 調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブ [51],(2) 平
坦な先端を持つ Shoulder 形プローブ [56],(3) 二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブ,(4) 短縮テー
パー化コア長を持つ Shoulder 形プローブ [43],(5) 二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブ(二重テー
パー化プローブ) [50] が作製される.これらの Shouler 形プローブを作製するためのテーパー化法はいず
れも第 3 章で示した幾何学的モデルの応用問題として解くことができる.また,筆者はコアとクラッドの
両方がテーパー化された Pencil 形プローブを作製するために,筆者はメニスカス・エッチングと選択エッ
チングに基づく2つのテーパー化法とこれらのテーパー化法のための幾何学的モデルを開発した.4.1 節と
4.2 節ではそれぞれ種々の Shoulder 形プローブと Pencil 形プローブを作製するための分散補償ファイバーの
テーパー化技術を幾何学的モデルに基づいて詳述する.
4.1
4.1.1
Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化技術とその幾何学
的モデル
調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化法
近接場光学顕微鏡においては試料とプローブ間の距離を一定に保つために使用される Shear–force 顕微鏡 1
においては,ファイバープローブのクラッド径は共振するプローブの振動数を決定する重要なパラメーター
の一つである.Shoulder 形プローブのクラッド径はエッチング時間を増加することにより減じることができ
るが,エッチング時間の増加よりもずっと効率的な Shoulder 径プローブの径を調整する手段がある.図 4.1
は調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブを作製するための工程図である.ここで r2 はエッチング前の
クラッド半径, D はプローブの直径(クラッド径), θ は先鋭角, d は先端径, and LTC はテーパー化コア長で
ある.この方法は (A) クラッド厚みの減少と (B) コアテーパー化という2つのエッチング工程からなる.
A 工程においてはファイバーは [40 重量%ふっ化アンモニウム]: [50 重量%弗化水素酸]: [H2 O]=1.7:1:1 の
体積比で混合された緩衝弗化水素水溶液にエッチング時間 TA の間浸漬される.これによりクラッド径は
[2r2 − 2R2A TA ] まで減じられる.またコアとクラッドの溶解速度 R1A と R2A は等しいためコア終端は平坦
なまま維持される.
B 工程においてはファイバーは XB :1:1 (ここで XB >1.7) の緩衝弗化水素水溶液によりエッチング時間 TB
の間選択エッチングされる.コアはある先鋭角をもってテーパー化され,その先鋭角 θ は次式で表される.
sin(θ/2) = R1B /R2B
(4.1)
先端径を零にするためには B 工程のエッチング時間 TB は次式で表される臨界時間 τ より長くなければな
らない.
τ = (r1 /R1B ) [(R1B + R2B )/(R2B − R1B )]1/2
(4.2)
またテーパー化プローブのクラッド径 D は次式で表され,TB に比例する.
D = 2r2 − 2(R2A TA + R2B TB )
(4.3)
r1 =1 µm,r2 =62.5 µm,∆n=2.5%の分散補償ファイバーを用いた場合には θ=20◦ の先鋭角,D=20 µm のク
ラッド径,10 nm 以下の先端径を持つプローブが得られる.図 4.2(a)(b) はテーパー化プローブとその先端領域
1
付録 B.2.2.1 を参照せよ.
(A)
(B)
1.7:1:1
X B:1:1
θ
LTC
(X B>1.7)
d
D
2r1
2r2
図 4.1. 調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化法. r1 , r2 , コアとクラッドの
半径. D, 調整クラッド径. θ, テーパー化コアの先鋭角. LTC , テーパー化コアの長さ.
(a)
(b)
5µm
50nm
図 4.2. (a) 調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブと (b) 拡大された先端領域の電子顕微鏡写真. D=20 µm;
θ=20◦ ; d < 10 nm.
の電子顕微鏡写真を示す.エッチング条件は表 4.1 にまとめる.r1 =1 µm,R1B =1.1 µm h−1 ,R2B =6.5 µm h−1
を (4.2) 式に代入すると,計算値 τ =64 min が得られる.B 工程エッチング時間を TB =75 min (> τ ) とすると
クラッド径 D は D = −60TA + 106 [µm] で表され,先鋭角 θ は B 工程のふっ化アンモニウムの体積混合比
XB を変化することにより制御される.先鋭角 θ の XB に対する依存性は図 3.3(a) と同様である.
4.1.2
平坦な先端を持つ Shoulder 形プローブと短縮テーパー化コア長を持つ Shoulder 形
プローブを作製するためのテーパー化法
ナノメーターサイズの開口径を持つ開口プローブを作製するためにはナノメーターサイズの平坦な先端
を持つテーパー化プローブが必要とされる.(3.4) 式を見れば,先端径 d の平坦な先端を持つ Shoulder 形
プローブを作製するためには,エッチング時間を (3.5) 式の τ より短い時間にすればよいことがわかるが,
表 4.1. 図 4.2 に示されるプローブを作製するための条件
工程
BHF の体積比
エッチング時間 (min)
溶解速度 (µm h−1 )
A
1.7:1:1
86
R1A =R2A =30
B
10:1:1
75
R1B =1.1, R2B =6.5
30
(B)
θ
X B:1:1
(C)
(C)
10:1:120
10:1:30
θ
LTC
(X B>1.7)
D
d~20nm
d<10nm
(a)
(b)
図 4.3. (a) 平坦な先端を持つ Shoulder 形プローブと (b) テーパー化の長さが短縮された Shouler 形プローブ
を作製するためのテーパー化法.
50nm
Contamination
図 4.4. 平坦な先端を持つ Shoulder 形プローブの電子顕微鏡写真. d=20 nm; θ=20◦ .
例えば先端径 20 nm の平坦な先端を再現するのは容易ではない.20 nm 程度の先端径で平坦な先端を持つ
Shoulder 形プローブ作製のためには (A) クラッド厚の減少,(B) コアのテーパー化,(C) 先端の平坦化の3
工程のエッチングである.A 工程と B 工程は図 4.1 のそれらと同じであり,C 工程はそれは図 4.3(a) に示さ
れる.
C 工程においては, 10 nm 以下の先端径を持つ Shoulder 形プローブを XC :1:YC =10:1:120 の希薄緩衝弗化
水素水溶液に浸漬する.表 4.2 に示される条件のとき,直径 20 nm の平坦化された先端と先鋭角 θ=20◦ の
Shoulder 形プローブが得られる.図 4.4 は作製されたテーパー化プローブ先端の電子顕微鏡写真を示す.こ
のようなメゾスコピックな平坦化は R2C < R1C (1) の条件下で短い時間(数分)の間だけ見られるが,そ
の物理的メカニズムについてはまだよく分かっていない.
ところで,体積混合比 XC :1:YC を 10:1:30 (ここで R1C =R2C ) とした緩衝弗化水素水溶液をもって C 工程
を行ったとすると,ファイバー端から突出したテーパー化コアの長さが短縮され,図 4.5(a) に示されるよ
うな Shoulder 形プローブが得られる.ここで,LTC はテーパー化コア長,θ はテーパー化コアの先端領域
における先鋭角である.図 4.5(a) は C 工程のエッチング時間 TC を 15 min としたときに得られたプローブ
のテーパー化コア部分の拡大電子顕微鏡写真である.ここでプローブのテーパー化コア長は LTC =2.2 µm,
先鋭角は 28◦ ,先端径 d は 10 nm 以下となっている.このテーパー化長 LTC は先鋭角 28◦ の通常 Shoulder
形プローブが持つテーパー化コア長さに比べ 0.6 倍に短縮されている.図 4.5(b) は先鋭角 θ とテーパー化コ
表 4.2. 図 4.4 に示されるプローブを作製するための条件
工程
BHF の体積比
エッチング時間 (min)
A
1.7:1:1
60
B
C
10:1:1
10:1:120
75
2
31
Core
90
5
60
3
2
30
L TC (µm)
θ (degree)
4
1
0
0
0.5µm
0
10
20
30
TC (min)
(a)
(b)
図 4.5. (a) テーパー化コア長 LTC が 2.2 µm に短縮された Shoulder 形プローブの電子顕微鏡写真. (b) 先鋭
角 θ (実線) とテーパー化コア長 LTC (破線) の C 工程でのエッチング時間 TC に対する依存性.
θ2 2
dB
λ (=λ air/n 1)
θ1
L loss
Metallic film
Fiber (Core)
d
df
図 4.6. 二重テーパー化構造と Protrusion 構造を持つ Shoulder 形プローブの模式断面図. θ1 , θ2 , 第1先鋭角
と第2先鋭角; d, 先端径; df , 根本径; dB , 第1テーパーの根本径; λ, コア内での光の波長; Lloss , 断面直径が λ
と df に相当する断面間の距離.
ア長 LTC の C 工程のエッチング時間 TC に対する依存性である.このようにテーパー化コア長を減じた上
で金属化を実行すれば,透過効率は改善され発生型プローブとしての応用範囲の拡大につながるものと期
待される.ただし,凹凸の多い複雑な表面構造や傾いた面をを走査する場合にはプローブのアスペクト比
[LTC /D] が減じられているために,クラッドのエッジが試料表面に接触して,異常なプローブ動作を引き
起こす可能性がある.
4.1.3
二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化法
傾いた試料表面を走査するためには二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブ(二重テーパー化プロー
ブ)が開発されている.図 4.6 は先端が金属膜から突出する Protrusion 構造を持つ二重テーパー化プローブ
の模式断面図である.ここで θ1 と θ2 (< θ1 ) はそれぞれ第1テーパーと第2テーパーの先鋭角である.LTC
二重テーパー化コア長さ,λair は真空中での光の波長,n1 はファイバーコアの屈折率である.dB は第1
テーパーの底面直径で,ファイバー中での波長 λ に相当よりも大きく設計される.d と df はそれぞれ金属
から突出した部分の先端径と根本径である.2.1.1.1 節で述べたようにテーパー化コアに入射した光は波長
以下の断面直径を持つ部分で金属吸収によって激しく減衰するので,θ1 を例えば 20◦ に固定し先鋭角 θ1 の
50–90◦ の大きな値をもって作製すれば,二重テーパー化プローブの高透過モデルを仕立てることができる.
二重テーパー化プローブを作製するためのテーパー化法はクラッド径調整と第1テーパー形成を行う A
32
θ2
(A)
(B)
X A:1:1
10:1:1
θ1
(X A>1.7)
2
dB
θ1
LTC
D
2r1
2r2
図 4.7. 二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブ(二重テーパー化プローブ)を作製するためのテーパー
化法.
1µ m
図 4.8. 二重テーパー化プローブの電子顕微鏡写真. θ1 =90◦ ; θ2 =20◦ ; dB =500 nm.
工程と第2テーパー形成の B 工程からなる.図 4.7 はテーパー化法の模式図である.ここで,A 工程にお
いては XA :1:1 (ここで XA > 1.7) の緩衝弗化水素水溶液に分散補償ファイバーを浸漬することにより次式
で表される先鋭角 θ1 をもってコアがテーパー化される
sin(θ1 /2) = R1A /R2A
(4.4)
B 工程では 10:1:1 の緩衝弗化水素水溶液への浸漬により,コアは θ1 と次式で表される θ2 の二つの先鋭角
をもってテーパー化される.
sin(θ2 /2) = R1B /R2B
(4.5)
このとき底面直径 dB は
dB = 2r1 (1 − TB /τ )
(TB < τ )
(4.6)
のように表され,これは dB が波長以下とならないように TB を決定する.ここで τ は (3.5) 式によって定
義され,クラッド径 D は (4.3) 式と同様に表される.
表 4.3 に示す条件のもとでは θ1 =90◦ の第1テーパー先鋭角,θ2 =20◦ の第2テーパー先鋭角,dB =500 nm
の底円直径を持つ二重テーパー化プローブが作製された.図 4.8 は作製された二重テーパー化プローブの先
鋭部分を拡大した電子顕微鏡写真である.
33
表 4.3. 図 4.8 に示されるプローブの作製条件
工程
BHF の体積比
エッチング時間 (min)
A
B
1.8:1:1
10:1:1
70
40
(A)
(B)
θ2
2
Oil/HF
acid
θ2
X B:1:1
θ1
d
2r1
2r2
図 4.9. 極小先鋭角を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法. θ1 , θ2 , テーパー化されたコアと
クラッドの先鋭角.
4.2
Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化技術とその幾何学的モ
デル
複雑な表面構造上を走査するためには平坦なクラッド端を持つ Shoulder 形の議論をするよりもむしろテー
パー化コアとテーパー化クラッドを持つ Pencil 形プローブを作製することを考えるべきであろう.しかし,
選択エッチングのテーパー化技術のみによってテーパー化クラッドを形成することはできず,Pencil 形を作
製することは不可能である.この問題を克服するため筆者は以下に記す2つの方法を開発した.
4.2.1
極小先鋭角を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法
一つのテーパー化法は図 4.9 に示すような (A) クラッドのテーパー化と (B) コアのテーパー化の2つの
エッチング工程からなり,メニスカス・エッチングと選択エッチングに基づく.この図において Oil/HF acid
はシリコンオイルなどの有機溶媒の表面層を持つ弗化水素酸のエッチング液を表す.θ1 と θ2 はそれぞれコ
ア領域とクラッド領域の先鋭角であり,r1 and r2 はコアとクラッドの半径である.コアとクラッドの溶解
速度は例えば A 工程においてはそれぞれ R1A と R2A のように定義する.この方法により 3–20◦ の極小先
鋭角を持つ Pencil 形プローブが得られる.
A 工程においては,Oil/弗化水素酸に浸漬することにより二酸化ゲルマニウム添加ファイバーのクラッド
がテーパー化される.そして Oil/弗化水素酸から引き上げる時間 TA 2 は次式で表される.
TA = [r2 − r1 ]/R2A + r1 /R1A
(4.7)
このクラッドのテーパ化においては,エッチングが進行してクラッド径が減じると Oil と弗化水素酸の境界
によってファイバーの周りに形成されるメニスカスの高さも減少する.弗化水素酸より軽い有機溶媒の Oil
で弗化水素酸の表面を被覆し弗化水素酸蒸気の飛翔を防いでいる.0.935 g cm−3 のジメチルシリコーンオ
2
Turner によって開発された以前のメニスカス・エッチング(付録 C.2 を参照せよ.
)においてはファイバーは (4.7) 式で表される TA
のときではなく,メニスカス高さが零になった後に引き上げられた.しかし仮に分散補償ファイバーのような高濃度に二酸化ゲルマ
ニウムが添加されたファイバーが TA よりも長い時間エッチングされているなら,コアの溶解速度 R1A がクラッド溶解速度 R2A
に比べ十分大きいためコアの陥没が生じているだろう.それゆえ分散補償ファイバーに Turner の技術を適用することができない.
34
Oil
Level
shift
(A-a)
(A-b)
2r2(TAa/TA)
2r2
HF acid
図 4.10. Pencil 形プローブのクラッド径を調整するためのレベルシフト法.TAa , 副ステップ A-a のエッチン
グ時間; TA , A-a と A-b の副工程の総エッチング時間.
表 4.4. 図 4.11 の Pencil 形プローブを作製するための条件
工程
エッチング液
エッチング時間 (min)
溶解速度 (µm h−1 )
A
シリコーンオイル/弗化水素酸
22
R1A =1950, R2A =170
B
10:1:1
120
R1B =1.1, R2B =6.5
イルをを用いた場合には先鋭角 θ2 の平均値は 20◦ である.石英が溶解すると反応生成物によってオイルと
弗化水素酸の境界が汚染されるので同じエッチング液を反復使用することはできない.
B 工程においては,40 重量%ふっ化アンモニウム: 50 重量%弗化水素酸: 水= XB :1:1 への浸漬することに
よりコアがテーパー化される.先鋭角 θ1 は次式で表される.
sin(θ1 /2) = [R1B /R2B ] sin(θ2 /2)
(4.8)
先鋭角 θ1 を (3.2) 式における θ と X=XB の同じ混合体積比で比較すると θ1 は θ よりも小さい.
さらに,Pencil 形プローブのクラッド径を調整するために筆者は Oil/弗化水素酸のメニスカス・エッチ
ングに基づくレベルシフト法を開発した.この方法は図 4.10 に示されるように A-a と A-b の副工程から
なり,図 4.9 の A 工程と置換される.ここで,r2 はクラッド半径であり,A-a と A-b の副工程のエッチ
ング時間はそれぞれ TAa と TAb (= TA − TAa ) で表される.この方法においては,エッチング時間 TAa
(0 < TAa < TA ) のときにファイバーを Oil/弗化水素酸の中に沈めるだけである.Pencil 形プローブのクラッ
ド径 D は D = 2r2 (TAa /TA ) − 2R2B TB で表されるエッチング時間 TAa に比例する.
Pencil 形プローブのテーパー化法は比屈折率差 ∆n=2.5%とコア半径 r1 =1 µm の分散補償ファイバー用い
て表 4.4 にエッチング条件で実行され,先鋭角 θ1 =3.5◦ ,θ2 =20◦ ,先端径 d < 30 nm の Pencil 形プローブが
得られた.図 4.11(a)(b) は Pencil 形プローブとテーパー化コア部分の電子顕微鏡写真である.先鋭角図 4.9
における混合体積比 XB を減じることにより増加する.
4.2.2
最小先端径を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法
もう一つの Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法を図 4.12 に示す.この方法もメニスカスエッ
チングと選択エッチングの組み合わせに基づいている.この方法によって最小先端径 (<10 nm) を持つ Pencil
形テーパー化プローブが作製される.
35
(a)
(b)
50µm
10µm
図 4.11. (a) 極小先鋭角を持つ Pencil 形プローブの電子顕微鏡写真と (b) そのテーパー化コア部分の拡大写
真.θ1 =4◦ ; θ2 =20◦ .
(A)
(B)
(C)
φ
Oil/HF
acid
θ2
HF acid
θ2
2
X C:1:1
(X C>1.7)
θ1
d
図 4.12. 最小先端径を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法.θ1 , θ2 , テーパー化コアとテー
パー化クラッドの先鋭角; φ, 陥没部分の角度.
4.2.2.1 メニスカスエッチングと選択エッチングに基づくテーパー化法
このテーパー化法は図に示されるように A–C の3つのエッチング工程からなる.ここで,図 4.9 と同様
に Oil/HF acid はシリコーンオイルのような有機溶媒層で覆われた弗化水素酸を意味する.A 工程において
は高濃度二酸化ゲルマニウム添加ファイバーのクラッドは有機溶媒と弗化水素酸の境界においてテーパー
化される.B 工程ではテーパー化ファイバーを弗化水素酸の中に浸漬すると,終端部に陥没が生じる.この
B 工程のためには,Oil/HF acid の液を再び使用してもよい.ただし,このエッチングは境界ではなく弗化
水素酸の中で行われなければならない.C 工程ではテーパ終端の頂が平坦化され,かつコアが次式で表され
る先鋭角 θ1 をもってテーパー化される.
sin(θ1 /2) = R1C /R2C .
(4.9)
比屈折率差 2.5%の分散補償ファイバーを用いて表 4.5 に示される条件のエッチングを実行することによ
り,10 nm 以下の先端径と θ1 =20◦ ,θ2 =20◦ の先鋭角持つ Pencil 形プローブが作製された.図 4.13(a)(b) は
作製された Pencil 形プローブの電子顕微鏡写真とその先端領域の拡大写真を示す.プローブのクラッド径は
図 4.10 に示されるレベルシフト法をこの作製法に組み込むことで行うことができる.この Pencil 形プロー
ブは Shoulder 形プローブと同様にふっ化アンモニウムの混合体積比 XC を変化することにより θ1 ≥20◦ の
範囲において先鋭角 θ1 を制御することができる.先鋭角 θ1 のふっ化アンモニウム水溶液の混合体積比 XC
に対する依存性は図 3.3(a) における θ の X に対する依存性と同じである.
36
(a)
(b)
50µm
50nm
Contamination
図 4.13. (a) 最小先端径を持つ Pencil 形プローブの電子顕微鏡写真と (b) その先端領域の拡大写真.θ1 =20◦ ;
d < 10 nm.
表 4.5. 図 4.13 のプローブを作製するためのエッチング条件
工程
エッチング液
エッチング時間 (min)
溶解速度 (µm h−1 )
A
B
シリコーンオイル/弗化水素酸
弗化水素酸
22
2
R1A =1950, R2A =170
R1B =1950, R2B =170
C
10:1:1
90
R1C =1.1, R2C =6.5
4.2.2.2 幾何学的モデルとエッチング時間
図 4.14 に示される幾何学的モデルに基づいて,最小先端径(零先端径)を持つ Pencil 形プローブを作製
するための総エッチング時間を決定することができる.このモデルでは最小先端径を達成するのに必要な
パラメーターである最小エッチング時間 TBmin を導入する.A 工程のエッチング時間 TA は (4.7) 式で与え
られる.B 工程と C 工程のエッチング時間である TB と TC はそれぞれ次のように与えられる.
TB = B[A(C + 1)]−1 [r1 /R2B ]
cos(θ1 /2)
r1
TC =
sin(θ1 /2){1 − sin(θ1 /2)}
R2D
(4.10)
(4.11)
ここで
sin (θ2 /2) − sin (φ/2)
tan (θ2 /2)
sin (θ2 /2) sin (φ/2)
tan (θ2 /2) + tan (φ/2)
tan (φ/2) + tan (θ2 − φ)/4
×
tan (π − φ)/4 − tan (θ2 − φ)/4
A =
(4.12)
−1 π−φ
{cos(θ2 /2)}−1 − tan(θ2 /2)
B = tan
4
tan(θ1 /2){1 − sin(θ1 /2)}
−1
−1 θ2
θ2
π−φ
− tan
cos
C = tan
4
2
2
37
(4.13)
(4.14)
(B)
(C)
Core (GeO2-SiO2)
Cladding (SiO2)
θ1
R 1CTC
θ1
π-φ
4
φ
θ 2- φ
4
θ2 2
φ
[A]
2
R 1BTB
R 2BTB
θ2 2
2r1
2r2
図 4.14. (左図)図 4.12 に示されるエッチング法の幾何学的モデル.
(右図)左図の中央部分の拡大図.R1i ,
R2i , i 工程におけるコアとクラッドの溶解速度.
これらの式の導出の詳細については次節を参照せよ.A 工程によってテーパー化されたファイバー終端を
B 工程において陥没するためには,R1B が [R2B / sin(θ2 /2)] に比して大きくなければならない.それゆえこ
の方法を実行するためには,高濃度二酸化ゲルマニウム添加ファイバーが必要とされる.
先鋭角 θ1 = 20◦ ,θ2 = 20◦ の Pencil 形プローブは表 4.5 に示される条件によってコア径 2µm,比屈折率
差 2.5%の分散補償ファイバーを用いて実際に作製されており,先端径 d を 10 nm 以下にするためのに必要
な B 工程の最小エッチング時間 TBmin は 2 min であることが分かっている.幾何学的モデルに基づく最小
エッチング時間は (4.10) 式に r1 = 1 µm,R2B = 170 µm/h,R2C = 6 µm/h,θ2 = 20◦ ,θ1 = 20◦ ,φ = 10◦
を代入することにより TBmin =2.1 min となる.この理論値が実験値である 2 min とよく一致しいることか
ら,上述の幾何学的モデルが Pencil 形プローブの設計のために有用であることが分かる.C 工程において
40wt.%NH4 F 水溶液: 50wt.%HF acid: H2 O= X:1:1 (X > 1.7) の体積比を持つ BHF を用いる場合,先鋭角 θ1
は図 3.3(a) に示されるように X によって決定される.このとき,C 工程における純粋石英クラッドの溶解
速度 R2C は次式によって近似することができる.
R2C = 58X −0.94 [µm/h]
(4.15)
先鋭角 θ1 と (4.15) 式によって与えられる溶解速度 R2C を用いることにより,(4.10) 式,(4.11) 式からそ
れぞれ最小エッチング時間 TBmin と TC が得られた.図 4.15 は C 工程において用いられる BHF の X に対
する最小エッチング時間 TBmin ,C 工程のエッチング時間 TC ,先鋭角 θ1 の依存性を示す.ここで,破線
と実線は最小エッチング時間 TBmin と TC をそれぞれ示し,点線は先鋭角を表す.三角印と丸印はそれぞ
れ TBmin と TC の実験結果を示す.これらの実験結果は理論結果とよく一致している.これにより分散補償
ファイバーを用いて 20–120 ◦ の範囲の先鋭角を持つ Pencil 形プローブの作製するための全エッチング時間
が得られる.
Pencil 形テーパー化法を含む豊富なバリエーションを持つ多段屈折率型ファイバーの複合選択エッチング
が既に開発されているので,現在では Pencil 形プローブを作製するためにメニスカスエッチングを必要と
38
TBmin (Theory)
TBmin (Experiment)
TC (Theory)
TC (Experiment)
Cone angle θ1
TBmin ,TC (min)
90
100
60
10
30
1
1
θ (deg.)
120
1000
0
100
10
X
図 4.15. C 工程において用いられる BHF の X に対する最小エッチング時間 TBmin ,C 工程のエッチング時
間 TC ,先鋭角 θ1 の依存性.ここで,破線と実線は TBmin と TC であり,点線は先鋭角を示す.三角印と丸
印はそれぞれ TBmin と TC の実験結果である.
するこの方法が使用されることは少ないが,第 5 章で詳述する多段屈折率型ファイバーは上述の幾何学的
モデルを基にして構築されているので,幾何学的モデルの理解を深めるために次節でエッチング時間に関
する式の導出を記述しておく.
4.2.2.3 エッチング時間に関する式の導出
A 工程のエッチングは最小先鋭角を持つ Pencil 形プローブの A 工程と同様にして行われるので、本文で
述べたように A 工程のエッチング時間は (4.7) 式と同様に
TA = [r2 − r1 ]/R2A + r1 /R1A
(4.16)
と表される.ここでは、B 工程と C 工程のエッチング時間を表す (4.10) 式と (4.11) 式を導出するために、
図 4.14 に示される幾何学的モデルについて考察する.図 4.14 のグレーの領域で表されるテーパー化ファイ
バは B 工程により白い領域で示されるように陥没を生じ,クラッド領域において [θ/2 + φ/2] の角度を持っ
てその終端の両側に二つのピークを持つ.この工程を実行するため,コア溶解速度 R1B は次式で表される
R2Bv の値よりも大きくなければなければならない.
R2Bv = [sin(θ2 /2)]−1 R2B
(4.17)
ここで陥没部分は次式で表される角度を持つ円錐状の形状と半径 r1 の切断平面を持つと仮定している.
sin(φ/2) = R2B /R1B
(4.18)
その陥没部分の深さを hH とすると,次式が容易に得られる.
hH +
hH tan(φ/2)
= (R1B − R2Bv )TB
tan(θ2 /2)
(4.17),(4.18),(4.19) 式から,次式が得られる.
sin (θ2 /2) − sin (φ/2)
tan (θ2 /2)
hH =
R2B TB
sin (θ2 /2) sin (φ/2)
tan (θ2 /2) + tan (φ/2)
39
(4.19)
(4.20)
C 工程では [θ/2 + φ/2] の角度の二つのピークが平坦化され,さらにコアが先鋭化される.今,C 工程の
代わりに二つのピークを平坦化する Ca 工程 3 とコアの先鋭化を行う Cb 工程 4 の2つを行うと仮定すると,
Ca 工程によってファイバーは半径 [r1 + δ0 ] の平坦な終端を持つ.ここで δ0 は平坦部分のクラッドの厚さ
である.コア溶解速度 R1Ca (= R2Ca ) が陥没部内およびエッチング液に接触するそのどの表面部位におい
ても一定であると仮定すると,次の関係式を得られる.
φ
θ2 − φ
π−φ
hH tan
+ (hH + R2Ca TCa ) tan
= R2Ca TCa tan
(= δ0 )
2
4
4
(4.21)
それゆえ,Ca 工程のエッチング時間 TCa は次式で表される.
TCa = A(R1B /R1C )TB
(4.22)
ここで
A =
sin (θ2 /2) − sin (φ/2)
tan (θ2 /2)
sin (θ2 /2) sin (φ/2)
tan (θ2 /2) + tan (φ/2)
tan (φ/2) + tan (θ2 − φ)/4
×
tan (π − φ)/4 − tan (θ2 − φ)/4
であり,δ0 は次式のように書ける.
δ0 = A tan
π−φ
4
(4.23)
R2B TB
(4.24)
これらの式は TCa と δ0 が TB に比例することを示す.
Cb 工程においては,先鋭角 θ1 でコアがテーパー化され,その先鋭角は (3.2) 式と同様に次式によって表
される.
sin(θ1 /2) = R1Cb /R2Cb
(4.25)
平坦クラッド厚さ δ は次式で表される溶解速度 R2Cbh で減少する.
−1
R2Cbh = [cos (θ2 /2)] − tan (θ2 /2) R2Cb
(4.26)
次の2つの関係式
δ0 = R2Cbh τ1
と
cos (θ1 /2)
τ1 =
sin(θ1 /2){1 − sin(θ1 /2)}
(4.27)
r1
R2Cb
(4.28)
が満たされるとすると,T2Cb = τ1 で表される時間の間エッチングを行うことにより図 4.14 の斜線領域で
示されるようなファイバーは先鋭角 θ1 ,先端径零の Pencil 形プローブになる.ここで,(4.28) 式は (3.1) 式
と (3.5) 式から導かれた.このとき,Pencil 形プローブを得るための B 工程の最小エッチング時間 TBmin を
定義できる.TBmin は (4.24)(4.26)(4.27)(4.28) 式から導かれ次式のように書ける.
ここで
TBmin = A−1 B(r1 /R2B )
(4.29)
−1 π−φ
{cos(θ2 /2)}−1 − tan(θ2 /2)
B = tan
4
tan(θ1 /2){1 − sin(θ1 /2)}
(4.30)
であり A は式 (4.23) 式によって与えられている.(4.29) 式の TBmin を式 (4.22) 式に代入することにより,Ca
工程のエッチング時間 TCa は TCa = B(r1 /R2Ca ) 与えられる.さらに,(4.28) 式の τ1 を用いると TCa を次
式のように表すことができる.
TCa = C(R2Cb /R2a )τ1
3
4
(4.31)
R1Ca = R2Ca となる BHF(例えば体積比 40wt.%NH4 F 水溶液 :50wt.%HF acid: H2 O= 1.7:1:1)中でのエッチングに相当する.こ
こで R1Cb < R2Cb である.
C 工程と同じ体積比 40wt%NH4 F 水溶液 :50wt%HF acid: H2 O= X:1:1(X > 1.7)の BHF 中でのエッチングに相当する.
40
ここで
C = tan
π−φ
4
−1
−1 θ2
θ2
− tan
cos
2
2
(4.32)
Ca 工程と Cb 工程において同じエッチング液 5 が使用されたとき,
R2Ca = R2Cb
(4.33)
と R1Ca = R1Cb sin(θ1 /2) の2つの関係式が満足される.このとき2つの工程は本文で記した C 工程によっ
て置き換えることができ,このエッチングを実行することにより,クラッド領域とコア領域のそれぞれにお
いて2つのピークの平坦化とテーパー化が行われる.コアのテーパー化はエッチング時間
TC = τ1
(4.34)
のときに完了する.ここで τ1 は (4.28) 式で与えられる.仮に Ca 工程と Cb 工程に関して R1Ca と R2Ca が
R2Cb (= sin(θ1 /2)/R1Cb ) に等しかったと仮定すると,TB = TBmin ,TCa = Cτ1 6 ,TCb = τ1 のエッチング
時間が Pencil 形プローブを作製するために必要とされたであろう.C 工程におけるエッチング時間は Ca 工
程と Cb 工程において同じエッチング液を用いる場合の両工程のエッチング時間の和に相当する.それゆえ
図 4.12 に示される A–C 工程からなる Pencil 形作製法の B 工程の最小エッチング時間 TBmin は (4.29) 式に
よって与えられるそれの [τ1 /(TCa + TCb )] 倍であり次式によって表される.
r1
B
TBmin =
A(C + 1) R2B
(4.35)
(4.10) 式は TBmin を TB に置き換えた (4.35) 式に相当し,(4.11) 式は (4.34) 式に (4.28) 式を代入することに
より得られる.
4.3
まとめ
本章では 2 章で述べた単純テーパーの設計要素と関連する分散補償ファイバーの選択エッチングに基づく 6
つのテーパー化法 (1) 調整クラッド径を持つ Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化法,(2) 平坦な
先端を持つ Shoulder 形プローブを作製するためのテーパー化法,(3) 短縮テーパー化コア長を持つ Shoulder
形プローブを作製するためのテーパー化法,(4) 二重テーパー構造を持つ Shoulder 形プローブを作製するた
めのテーパー化法,(5) 極小先鋭角を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法,(6) 最小先端
径を持つ Pencil 形プローブを作製するためのテーパー化法 について詳述し,以下の結論を得た.
• 調整クラッド径を持つ Shoulder 形テーパー化ファイバープローブを作製するためのテーパー化法を幾
何学的モデルに基づいて解析し,第 2 章で述べたコアとクラッドの溶解速度データーと幾何学的モデ
ルに基づいてプローブのクラッド径と先鋭角を設計できることが分かった.
• 上記の調整クラッド形を持つ Shoulder 形ファイバープローブを [コア溶解速度]>[クラッド溶解速度]
なる緩衝弗化水素水溶液中でエッチングすることにより,直径 15 nm の平坦な先端を持つ Shoulder 形
ファイバープローブと短縮テーパー化長を持つ Shoulder 形ファイバープローブが作製されることが分
かった.
• 二重テーパー構造を持つ Shoudler 形プローブを作製するためのテーパー化法を提示し,コアとクラッ
ドの溶解速度データーと幾何学的モデルに基づいてプローブの2つの先鋭角を設計できることを示
した.
• メニスカスエッチングと選択エッチングに基づく2つの Pencil 形ファイバープローブの作製法とその
幾何学的モデルを提示し,幾何学的モデルに基づいてプローブパラメーターの設計とエッチング時間
の最適化ができることを示した.
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体積比 40wt%NH4 F 水溶液 :50wt%HF acid: H2 O= X:1:1(X >1.7)の緩衝弗化水素水溶液.
(4.33) 式を (4.31) 式に代入することにより得られる.
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