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(2) 食品産業の今後の発展に向けた取組
第3節 食品産業の発展に向けた取組 (2) 食品産業の今後の発展に向けた取組 (消費動向に対応したものづくりやサービスの提供の取組) 食品産業は、これまで国内外の状況変化に対応し、国民への食料の安定供給や国産農産 物の最大の需要先として重要な役割を果たしてきました。しかし、既にみたように食品産 業の市場規模は全体として横ばいないし縮小傾向にあります。このような状況等にかんが みて、今後、食品産業は、市場規模の維持・拡大等のために、これまでの取組に加えて、 経済社会、消費動向等の変化に的確に対応していく必要があります。このようななか、近 年、朝食市場や高齢者向け食品の市場等の新たな需要の掘り起こし、食の健康志向等に対 応した新商品・メニューの開発等、様々な新しい取組がみられるようになっています。 朝食市場への対応としては、外食産業では、朝食を家以外でとる人向けにモーニング時 間帯の設定や朝食メニューの充実を行う動きが出てきています。食品製造業では、朝食に カレーを食べる人がふえていることに着目し、ヨーグルト等を加えた通常よりも量の少な い朝食用レトルトカレーを開発するなどの動きもみられます。 高齢者向け食品の市場への対応としては、一般食品の宅配を充実したり、一般のメニュ ー以外にも介護食の宅配サービスを始めたりするなどの動きもみられます。 外食では、 高齢者を意識した小さめのそば・うどん等や箸で食べることのできる洋食のメニューの提 供、ゆっくり食事をすることができる個室の導入等の動きもみられます。 さらに、健康志向の消費者への対応としては、分煙に取り組む店舗、ダイエットや低カ ロリーを意識した料理を提供するレストラン等もみられるようになりました。 また、手作り志向等消費者の多様なニーズに合わせた新製品の開発をしたり、商品を利 用した料理レシピをパッケージ上やホームページ上に掲載することにより商品の販売促進 を図ったりするなど、新たな動きも出てきています。 コラム ふえつつある少量個包装 平成 22(2010)年の国勢調査によると、我が国の世帯数は約 5,200 万となっています。 人 数 別 の 世 帯 の 割 合 は、 平 成 17(2005) 年 に は 1 人 世 帯 が 30%、2 人 世 帯 が 25%、3 人世帯が 20%弱と、 少人数の世帯が全体の 4 分の 3 近くを占めていましたが、1 世帯当 たりの人員は平成 22(2010) 年ではさらに少なくなっていると考えられます。 また、 大 人数の世帯でも、仕事や学校、習い事等で時間が合わず、家族そろって食事をとる機会が 減ってきているといわれています。 このような事情のなかで、食事の際に一度に消費される量が減ってきていることから、 例えば、2 枚ずつ包装されたハムやベーコン、つくりたい皿数だけつくれるよう包装され たカレールウ、1 人前ずつパックされた冷凍食品等、一度で食べきれる量にするために少 量個包装化された商品が店頭に数多くみられるようになりました。 少量個包装化された食品は、製造コストがかかり、同じ 量を購入する場合、多少割高になるケースが多いようです が、利用者にとっては料理をつくりすぎたり、食材が食べ きれずに廃棄物になったりする可能性を小さくすることが でき、結果的に食費を安くすることができることにもつな が り ま す。「節 約」、「簡 便 化」、「環 境 配 慮」 等 消 費 者 の 志 向が多様化するなかで、このような包装形態も消費者の志 向を反映したものの一つといえるのではないでしょうか。 1 皿分に個装されたカレールウ 148 食料品店の減少、大型ショッピングモールの増加による店舗の郊外化等に伴い、過疎地 第1部 (過疎化・高齢化による食料品アクセス機会の減少に対応する取組) 域のみならず、都市部においても、高齢者を中心に食料品購入や飲食のアクセスの機会が 確保できず、日常の買い物に不便を感じる者の割合が高まっているといわれています。 このため、国では、高齢化等の進展のもとでの消費者の食料品のアクセス状況やその改 善のあり方に関する分析を行い、課題と対応方向を明らかにすることとしています。また、 この問題に対応する取組としては、身近な場所で生活に必要な物やサービスを提供できる 店をつくること、移動販売車や仮設店舗、宅配等で物やサービスを届けること、乗合タク シーやコミュニティバスを運営し外出をしやすくすること等が必要ですが、これらの取組 を開始・継続するため、 平成 22(2010) 年 12 月、 利用者のニーズの把握、 運営基盤づ くり等の工夫ポイントをまとめた「買い物弱者応援マニュアル」を公表しており、事業と してのサービス提供を支援していくこととしています。 (技術研究開発の推進) ためにも重要です。中小企業が主体で一般的に経営基盤がぜい弱な食品産業では、研究を 行う企業数の割合は 6%と他産業の 7%と同程度であるものの、従業員 1 万人当たりの研 究者数は少なく、社内使用研究費についても、1 企業当たりの額、売上高に占める比率と もに低くなっています(表 1 − 20)。 食品産業の研究開発をさらに進めていくためには、産学官・農商工連携による共同研究 の取組が重要であるとともに、研究開発とその実用化による新商品開発、知的財産の保護 に配慮した特許等の技術移転、ベンチャー企業の創出支援等の取組を推進していくことも 重要となります。 表1−20 食品産業の技術開発の体制 全製造業 研究者数 食品製造業 429,738 人 12,964 人 1,050 人 353 人 99,302 万円 23,614 万円 4.09 % 1.03 % 10,512 社 1,025 社 7.4 % 6.3 % 社内使用研究費総額 10兆4,386 億円 2,420 億円 社外支出研究費総額 1兆5,705 億円 150 億円 3,779 億円 25 億円 従業員1万人当たりの研究者数 1企業等当たり社内使用研究費 社内使用研究費(売上高比率) 研究を行っている会社総数 研究を行っている会社の割合 受入研究費総額 資料:総務省「科学技術研究調査報告」 (平成22 (2010) 年)を基に農林水産省で作成 (コンプライアンスの遵守等により、安全・信頼等の確保に取り組む動き) 食品産業事業者による事件・事故発生の背景には、消費者視点の意識の欠如や危機管理 体制の整備の遅れ、安全や品質の確保のためのシステムの未整備等の問題があります。これ らの問題は、他業種に比べて中小企業比率が高く、人員や経費等を危機管理体制の整備等に 充てるだけの十分な経営基盤を有していない企業が多数という実態にも起因しています。 中小食品関係事業者における企業行動規範の策定割合は、 平成 22(2010) 年で 70% 149 第1章 食品産業において、技術研究開発を進めていくことは、グローバル社会で競争力をもつ 第3節 食品産業の発展に向けた取組 となっていますが、今後は、規範の策定割合を高めるとともに、それらをもとにしてコン プライアンスの確立につなげていくことが重要です。また、事故情報が効果的に消費者等 に開示されるシステムの構築といった情報収集提供の推進も必要となります。 なお、食品産業ほか一般企業では、「ブランド」が自社やその製品・サービスの質や信 頼性等を PR する大きな要素となっています。ブランドを守るため、商品の安全性・品質 の確保以外にも、社会的責任(CSR)活動において、消費者とのコミュニケーションを強 化する取組を行っている企業も多数みられます。 また、意欲的な企業のなかには、食品製造、卸売、小売等の業種を越えた協働のネット ワークである「フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)」 に参画し、 食品の 品質管理や消費者対応等の強化に取り組む動きがあります。FCP には、平成 23(2011) 年 3 月末現在、950 程 度の企 業・ 団体等 が参加 してい ますが、 食 品の品 質管理 や消費 者 への情報提供等、消費者の信頼向上のために重要な課題を共通の項目「協働の着眼点」と して取りまとめ、業種を越えて共有しています。 (農業との連携や農業への参入の動き) 食品産業において、原材料として、国産農畜水産物を使用する割合は、食品製造、流通、 外食等業態により若干差はありますが、おおむね 6 〜 7 割程度 1 で推移しています。 しかし、近年、国産農産物の供給力が低下していること等を背景として、国内農産業者 との連携強化を図ったり、食品産業が農業へ実際に参入したりする動きが出てきています。 このうち、農業者との連携については、原材料の安定供給のための産地との直接取引、 地場産食材を利用した加工品の販売等の取組が多くなっています。 また、 農業への参入 に関しては、平成 22(2010)年 7 月時点で、参入企業は食品産業全体の 9%、参入に関 心がある企業(参入を検討中の企業、 未検討の企業を含む) は 33%となっています(図 1 − 73)。農業への参入理由については、「商品の高付加価値・差別化」42%、「原材料の 安定的な確保」35%が多くなっていますが、このほか「トレーサビリティの確保」、農地 の保全等「地域・社会への貢献」を理由にあげる企業も多く、消費者を強く意識している 傾向がうかがえます。 図1−73 食品産業の農業参入への取組 参入を検討または計画している 参入に関心はあるが、検討していない 参入を断念した、または撤退した 既に参入している 平成19(2007)年 上半期 7.7 3.5 21(2009) 上半期 8.6 21(2009) 下半期 10.5 22(2010) 上半期 9.4 0 26.3 参入に関心がない 61.7 0.8 7.5 30.6 51.8 1.5 5.6 27.8 54.4 1.7 5.5 27.9 54.6 2.6 10 20 30 40 50 60 70 80 90 % 100 資料:(株)日本政策金融公庫「食品産業動向調査」 全国の食品関連企業(製造業、卸売業、小売業、飲食店)6,824 社を調査対象としたもので有効回答数 2,568 1(株)日本政策金融公庫「食品産業動向調査」 150 第1部 事 例 食品事業者による地元農業者等との連携のもとでの加工食品の製造・販売の取組 かな ざわ し (アジアを中心とした海外進出の動き) 中国等新興国で経済発展、食料消費の増大・多様化等がみられるなかで、食品産業にお いてもアジアを中心とした海外市場でのビジネスチャンスが拡大しています。 アジアに立地する食品製造業の現地法人数は、平成 9(1997)年の 178 件から平成 20 (2008)年には 267 件までふえています(図 1 − 74)。現地法人数の推移を国別にみると、 中 国 で 年 々 増 加 し、 平 成 20(2008) 年 で は 156 件 と ア ジ ア 全 体 の 6 割 を 占 め る 一 方、 ASEAN41 では横ばいで推移し、NIEs32 では減少しています。 食品産業のアジア地域に対する投資目的については、食品製造業、流通業、外食等どの 業種でも「市場の確保」が多数となっており、「日本への逆輸入」を目的にする企業は少 なくなっています。また、海外直接投資をしている企業は、今後も投資を続ける見込みの ものが多い一方で、現在未投資の企業は「今後も投資する予定はない」とするものが多数 となっており、海外進出の意向は二極化している状況といえます。 我が国の企業は、欧米企業によるアジアへの進出や、我が国以外のアジア企業による回 転寿司等外食産業への進出等により、アジア諸国において競争激化にさらされ、成長する 市場の開拓に後れをとっている状況にあります。今後、我が国の食品関連企業の事業基盤 を強化するため、新たな市場を開拓していくことが大きな課題となっています。このため、 食品製造業、流通業、外食産業は、市場調査、知的財産の保護等の共通する課題について、 互いに連携して解決を図っていくことが重要です。また、販路の確保を確かなものにし、 効果的な事業展開を図るため、フードシステム全体として海外展開を進めていくことも必 要です。 1 タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの 4 か国 2 台湾、韓国、シンガポールの 3 か国 151 第1章 石川県金 沢 市 のオハラ(株) は、 地域でとれる農産物の規 格外品や地元で水揚げされる未利用海産物を原材料として、 ৗ ৵ ؽષࠅ 米菓製品、 洋菓子、 パン等の製造・販売を行っています。 形 ۀ മߤۀ ସ のうえでは規格外でも味は抜群の地元産の原材料を利用して ۀ ֓ുۀ 付加価値の高い製品をつくることで、 農業者、 加工業者、 販 売者、 消費者のそれぞれが満足できることから、 同社ではこ の取組を「4 つの笑顔プロジェクト」と名付けています。 社長が農家を訪れた際、 形が悪く規格外となり廃棄されて いるかんしょ(金沢五郎島金時) があることを知り、 何とか 利用できないかと考え、 一つ一つペーストしてスイートポテ トに加工し、販売したことから取組は始まりました。その後、 サイズが小さい等の理由で流通しにくかった甘えび、 わかめ 規格外の原材料を練り込んだ の茎、 かんしょ等を利用したおかきや、 精米した過程で出る おかき 破米や少し小さな粒の中米をおかゆに炊き、 パンに練り込ん だ商品を開発しました。 おかきは金沢駅構内や、小松空港、高速道路のサービスエリア等で販売され、売上は平 成 21(2009) 年 度 で 約 1,500 万 円、 平 成 22(2010) 年 度 は 約 2,500 万 円(見 込) と 順 調に伸びています。 平成 22(2010) 年 10 月からは、 従来はミンチとなっていた能登牛 の首の部分の肉を練り込んだおかきを販売しています。 今後は、年間をとおしてさらに安定した原材料の仕入ルートの確立を目指し、新たな原 材料での商品開発も進めていくこととしています。 第3節 食品産業の発展に向けた取組 図1−74 アジアにおける食品製造業の現地法人数の推移 社 300 250 200 197 178 4 150 100 49 63 8 26 74 8 23 73 71 50 54 0 28 235 220 98 112 130 9 21 10 21 12 23 16 17 21 その他 NIEs3 ASEAN4 78 76 71 73 137 144 149 156 平成 9 年 14 15 16 17 18 19 20 (1997) (2002) (2003) (2004) (2005) (2006) (2007) (2008) 資料:経済産業省 「海外事業活動基本調査」 を基に農林水産省で作成 注:中国は香港を含む。 152 267 259 253 246 中国