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温暖化が大型淡水湖の循環と生態系に及ぼす影響評価

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温暖化が大型淡水湖の循環と生態系に及ぼす影響評価
D-0804-i
課題名
D-0804 温 暖 化 が 大 型 淡 水 湖 の 循 環 と 生 態 系 に 及 ぼ す 影 響 評 価 に 関 す る 研 究
課題代表者名
永田
研究実施期間
平 成 20~ 22年 度
累計予算額
俊(東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門 生元素動態分野)
116,870千 円 ( う ち 22年 度 36,270千 円 )
予算額は、間接経費を含む。
研究体制
(1)琵琶湖の全循環と生態系モデリングに関する研究
東京大学生産技術研究所
(2)乱流・混合過程に伴う酸素フラックス量の定量化に関する研究
東京海洋大学海洋科学部
(3)温暖化が物質循環と水質に及ぼす影響評価に関する研究
東京大学大気海洋研究所
(4)温暖化が底生動物と魚類に及ぼす影響評価に関する研究
滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
研究協力機関
滋賀大学教育学部、滋賀県立大学環境科学部、お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科
(5)温暖化が浮遊性生物相互作用に及ぼす影響評価に関する研究
滋賀県立大学環境科学部
(6)安定同位体比を用いた生態系変動評価と予測に関する研究
京都大学生態学研究センター
研究概要
1.はじめに
我 が 国 最 大 の 淡 水 湖 で あ る 琵 琶 湖 は 、 世 界 有 数 の 古 代 型 湖 沼 で あ り 、 そ の 形 成 時 期 は 約 400万 年
前 と 推 定 さ れ て い る 。 大 き く 発 達 し た 沖 合 や 深 底 部 ( 最 大 水 深 104 m) と 、 そ れ を 取 り 囲 む 複 雑 な
湖 岸 は 、広 大 で 豊 か な 生 息 環 境 を 提 供 し 、 多 様 な 生 物 の 共 存 を 可 能 に し て い る 。 58種 の 固 有 種 を 含
め 、 1200種 も の 動 植 物 種 が 記 載 さ れ て い る 湖 は 、 我 が 国 は い う に お よ ば ず 世 界 的 に も 貴 重 で あ り 、
ま さ に 、淡 水 生 物 多 様 性 の ホ ッ ト ス ポ ッ ト と い う こ と が で き る 。 近 年 、 こ の 多 様 な 生 物 群 集 に と っ
ての「生命維持装置」ともいうべき、冬季「全循環」が、温暖化の影響によって不活性化し始めて
い る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る 。全 循 環 と は 、冬 季 に 湖 面 や 湖 岸 の 冷 却 に よ っ て 冷 や さ れ た 高 密 度 の
表層水が沈み込むことで湖水の上下混合(対流)が起こり、それによって湖の全深度に溶存酸素が
供給される物理現象である。温暖化(冷却不足)による全循環の欠損や不全は、深底部の低酸素化
や 無 酸 素 化 を ひ き お こ し 、 そ こ に 生 息 す る 生 物 の 絶 滅 に つ な が る 危 険 が あ る 。 ま た 、還 元 化 し た 湖
底堆積物からの栄養塩類の溶出を介して急激な水質悪化や有毒藻類の発生 の引き金となる可能性
も あ る 。1400万 人 の 飲 料 水 を 供 給 し 、わ が 国 の 全 淡 水 資 源 の 34% も の 水 量 を 湛 え る 巨 大 な 水 が め で
ある琵琶湖の将来を、科学的な根拠に基づいて予測することは喫緊の課題である。
温 暖 化 が 生 態 系 や 水 質 に 与 え る 悪 影 響 は 、 世 界 の 湖 に お い て 顕 在 化 し て い る ( IPCC第 四 次 報 告
書)。中央ヨーロッパの大型湖沼では、気候変動と関連した水温上昇や、全循環パターンの変動が
観 測 さ れ て い る 。 ま た 、 2003年 の 熱 波 襲 来 に 際 し て 湖 の 循 環 が 停 滞 し 、 低 酸 素 化 が 引 き 起 こ さ れ た
と い う 報 告 が あ る 。 中 国 の 雲 单 省 に あ る 深 湖 フ ー シ ェ ン 湖 で は 、近 年 に な っ て 底 層 の 無 酸 素 化 が 進
ん で い る こ と が 懸 念 さ れ て い る 。 ま た 、ア フ リ カ の タ ン ガ ニ ー カ 湖 で は 、 温 暖 化 に よ る 水 温 成 層 の
強 化 が 、鉛 直 混 合 に よ る 深 層 か ら 表 層 へ の 栄 養 塩 の 供 給 を 低 下 さ せ 、 そ れ が 、一 次 生 産 と 魚 類 の 生
産 の 著 し い 低 下 に つ な が っ て い る と 報 告 さ れ て い る 。つ ま り 、 異 常 気 象 や 温 暖 化 が 大 型 湖 の 生 態 系
に深刻な打撃を与え、水質悪化がおこる可能性は、世界的に大きな懸念事項になりはじめており、
こ れ は 深刻 な 地球 規 模の 環 境 問題 と して と らえ る 必 要が あ る。琵琶湖 に 出 現す る 問題 群 と適 応 策の
可能性を整理・一般化し、その成果を発信することは、水資源管理に係る政策実現のうえで重要な
意義を有する。
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2.研究目的
本 研 究 で は 、6 研 究 機 関 に 所 属 す る 物 理 、化 学 、生 物 の 専 門 家 が 学 際 的 な 連 携 体 制 を 組 む こ と で 、
以下の3つの全体目標を達成することを目的とした。
目 標 1 : 琵 琶 湖 に お け る 総 合 的 な 観 測 や 実 験 的 な 解 析 を 実 施 す る こ と で 、 温 暖 化 が 、生 態 系 や 水 質
に 及 ぼ す 影 響 を 評 価 す る の に 必 要 な 新 た な 科 学 的 知 見 を 得 る 。 具 体 的 に は 、琵 琶 湖 の 流 動 場 や 乱 流
の詳細な把握と酸素の鉛直混合フラックスの評価(サブテーマ2)、琵琶湖堆積物からの栄養塩フ
ラックスと深水層における溶存酸素消費過程の解明(サブテーマ3)、琵琶湖底生動物群集の生息
環境の把握と低酸素耐性の実験的検証(サブテーマ4)、沖合一次生産速度と 琵琶湖深層への粒子
状物質の沈降フラックスの季節変動の詳細な解析(サブテーマ5)、各種安定同位体を用いた酸素
と 窒 素 の 動 態 解 析 及 び イ サ ザ 個 体 群 の 経 年 変 動 の 要 因 解 析 と 温 暖 化 影 響 評 価( サ ブ テ ー マ 6 )を 行
う。
目 標 2 : 目 標 1 で 得 ら れ た 知 見 を 統 合 化 す る こ と で 、高 精 度 な 3 次 元 流 れ 場 - 生 態 系 結 合 数 値 モ デ
ルを構築する(サブテーマ1)。数値実験を行い、モデルの再現性を検証するとともに、琵琶湖の
生 態 系 と 水 質 が 今 後 100年 間 に ど の よ う な 変 化 を す る の か に つ い て の 評 価 を 行 う 。
目 標 3 : 以 上 の 知 見 に 基 づ き 、予 想 さ れ る 被 害 の 緩 和 策 や 適 応 策 の 構 築 に 資 す る 基 盤 情 報 を 整 備 す
る。
3.研究の方法
(1)琵琶湖の全循環と生態系モデリングに関する研究
深 水 湖 を 対 象 と し た 3次 元 流 れ 場 - 生 態 系 結 合 数 値 モ デ ル を 開 発 し た 。 流 れ 場 サ ブ モ デ ル は 、 静
水 圧 近 似 と ブ ジ ネ ス ク 近 似 を 仮 定 し 、 デ カ ル ト 座 標 系 の 3軸 方 向 の 運 動 方 程 式 、 連 続 の 式 、 水 温 の
移 流 ・ 拡 散 方 程 式 、 状 態 方 程 式 か ら 構 成 さ れ 、 3方 向 の 流 速 、 圧 力 、 水 温 、 密 度 の 時 空 間 変 化 を 解
いた。生態系サブモデルでは、植物プランクトン、リン、窒素のセルクオタ、動物プランクトン、
懸濁態有機物、溶存態有機物、無機態リン 、無機態窒素、溶存酸素を状態変数とし、状態変数間の
フ ラ ッ ク ス を い く つ か の 数 式 と パ ラ メ ー タ を 用 い て 定 式 化 し た 。こ れ ら の 物 質 の 時 空 間 変 化 は 、化
学・生物学的な変化を組み込んだ後、流れ場サブモデルにより得られる物理パラメータによる移
流・拡散方程式を用いて解いた。数値モデルを琵琶湖に適用し、過去の観測結果や他のサブテーマ
で 実 施 さ れ た 観 測 の 結 果 を 用 い て 、数 値 モ デ ル の 校 正 と 検 証 を 行 っ た 。ま た 、比 較 研 究 と し て 、1980
年 代 に 全 循 環 が 停 止 し た 池 田 湖 を 取 り 上 げ 、数 値 モ デ ル を 池 田 湖 に 適 用 し た 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン
も 実 施 し た 。 さ ら に 、 今 後 100年 間 の IPCCの 気 候 変 動 シ ナ リ オ に 基 づ き 、 琵 琶 湖 の 将 来 の 水 質 、 生
態系を予測した。また、気候変動が琵琶湖の水質、生態系に及ぼす影響を緩和するための方策を提
示し、その効果を数値シミュレーションによって予測した。
(2)乱流・混合過程に伴う酸素フラックス量の定量化に関する研究
琵 琶 湖 北 湖 を 対 象 と し 、 夏 季 の 成 層 状 態 に お い て 、 微 細 構 造 観 測 プ ロ フ ァ イ ラ ー 、多 周 波 音 響 測
定 装 置 、レ ー ザ ー 式 粒 径 計 測 装 置 、 及 び ホ ロ グ ラ フ ィ ッ ク イ メ ー ジ カ メ ラ な ど を 用 い た 24時 間 観 測
を 実 施 し 、 表 層 及 び 亜 表 層 に お け る 水 塊 構 造 及 び 混 合 状 態 と 生 物 指 標 (溶 存 酸 素 、 蛍 光 強 度 及 び 音
響 の 体 積 散 乱 強 度 )な ど を 測 定 し た 。 ま た 、 冬 季 に お い て は 、 係 留 系 観 測 を 実 施 し 、 水 温 、 溶 存 酸
素 、 流 速 の 時 系 列 デ ー タ を 得 た 。 湖 底 の 低 酸 素 状 態 の 解 消 策 と し て 、 冷 水 を 80 m深 層 か ら 注 入 す る
方法の有効性を、数値モデルを用いて検討した。
(3)温暖化が物質循環と水質に及ぼす影響評価に関する研究
琵 琶 湖 堆 積 物 コ ア を 用 い た 培 養 実 験 を 行 い 、堆 積 物 か ら 直 上 水 へ の リ ン 及 び そ の 他 の 各 種 栄 養 塩
類の溶出フラックスを測定した。実験は、直上水が有酸素の条件下(現在の琵琶湖の状態を模す)
と 無 酸 素 の 条 件 下( 温 暖 化 が 進 行 し た 状 態 を 模 す )で 行 っ た 。有 酸 素 条 件 の 実 験 で 得 ら れ た 結 果 を 、
成 層 期 の 琵 琶 湖 深 水 層 に お け る リ ン 蓄 積 速 度 と 比 較 し 、現 場 で の リ ン の 溶 出 が 実 験 的 に 再 現 さ れ て
い る か ど う か の 検 証 を 行 っ た 。無 酸 素 条 件 下 に お け る リ ン 溶 出 フ ラ ッ ク ス の デ ー タ を 用 い 、琵 琶 湖
が 無 酸 素 化 し た 場 合 に 、内 部 負 荷 が 外 部 負 荷 と 比 較 し て ど の 程 度 の 規 模 に な る の か を 定 量 的 に 評 価
し た 。ま た 、深 水 層 に お け る 溶 存 酸 素 の 消 費 過 程 に 関 す る 鉛 直 1次 元 モ デ ル で あ る リ ビ ン グ ス ト ン ・
インボデン・モデルを温暖化影響評価の汎用ツールとして用いる方法論を検討した。具体 的には、
木 崎 湖 の 長 期 デ ー タ を 用 い て 、 深 水 層 水 温 、 平 均 ク ロ ロ フ ィ ル a量 、 水 塊 の 安 定 性 の 指 標 で あ る シ
ュ ミ ッ ト 指 数 と 、水 中 お よ び 湖 底 酸 素 消 費 と の 関 連 を 調 べ 、温 暖 化 と 富 栄 養 化 が 深 水 層 で の 酸 素 消
費 に 与 え る 影 響 を 評 価 し た 。得 ら れ た 関 係 式 か ら 、深 水 層 に お け る 溶 存 酸 素 動 態 に 関 す る 汎 用 モ デ
ルの構築を行った。
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(4)温暖化が底生動物と魚類に及ぼす影響評価に関する研究
自 律 型 潜 水 ロ ボ ッ ト 「淡 探 」を 用 い て 、琵 琶 湖 深 底 部 に 生 息 す る 生 物 の 分 布 状 況 と 水 温 お よ び 溶 存
酸 素 ( DO) 濃 度 と の 関 連 を 調 べ た 。 主 な 調 査 対 象 は 、 琵 琶 湖 固 有 種 で あ る イ サ ザ と し た 。 イ サ ザ は
ハ ゼ 科 の 魚 で 、絶 滅 危 惧 IA類 に 指 定 さ れ て お り 、 近 年 急 激 に 漁 獲 量 が 減 少 し て い る 。 自 律 型 潜 水 ロ
ボ ッ ト 「淡 探 」に 内 蔵 し た デ ジ タ ル カ メ ラ で 浅 い 水 域 か ら 90 mを 超 え る 水 域 の 湖 底 の 写 真 を 撮 り 、 得
ら れ た 画 像 か ら イ サ ザ の 生 死 の 判 別 を 行 っ た 。ま た 、同 時 に 計 測 し た 水 温 お よ び DO濃 度 と の 比 較 を
行った。また、湖底に生息する底生生物(イサザおよびアナンデールヨコエビ )を採取し、低溶存
酸 素 濃 度 に 対 す る 応 答 を 実 験 的 に 調 べ た 。具 体 的 に は 、底 生 生 物 の 活 動 に 影 響 を 及 ぼ す 溶 存 酸 素 濃
度 の 閾 値 ( Pc値 ) を 求 め た 。
(5)温暖化が浮遊性生物相互作用に及ぼす影響評価に関する研究
琵琶湖における沈降フラックスと植物プランクトン一次生産が湖水の流動および気象の変化に
ど の よ う に 応 答 し て い る の か を 明 ら か に す る た め に 、 2008年 6月 か ら 2009年 11月 ま で の お よ そ 18ヶ
月 間 に 渡 っ て 、 琵 琶 湖 北 湖 第 1湖 盆 に 係 留 系 を 設 置 し 、 有 機 物 の 沈 降 フ ラ ッ ク ス と 光 環 境 お よ び 植
物 プ ラ ン ク ト ン 生 物 量 の 変 動 に つ い て 詳 細 に 調 査 し た 。 こ れ と 平 行 し て 、 月 に 一 度 、 光 合 成 -光 曲
線を求めることにより、植物プランクトンの一次生産量を見積もった。またセストン(懸濁物質)
の 生 元 素 比 お よ び 炭 素 同 位 体 比 の 鉛 直 構 造 を 調 べ た 。更 に 、湖 底 へ 沈 降 す る 有 機 物 の 水 平 分 布 を 詳
細 に 把 握 す る た め に 、 湖 底 表 層 堆 積 物 ( 0~ 1 cm) 中 の 有 機 物 含 有 量 に つ い て 調 べ た 。
(6)安定同位体比を用いた生態系変動評価と予測に関する研究
安 定 同 位 体 比 を 用 い 、琵 琶 湖 に お け る 溶 存 酸 素 の 消 費 過 程 を 推 定 す る た め の 新 た な 方 法 を 検 討 し
た 。 具 体 的 に は 、琵 琶 湖 湖 水 お よ び 湖 底 堆 積 物 を 培 養 す る こ と に よ り 、 水 柱 の 酸 素 消 費 に お け る 同
位 体 分 別 係 数 と 堆 積 物 の 酸 素 消 費 に お け る 同 位 体 分 別 係 数 を 実 測 し た 。得 ら れ た パ ラ メ ー タ を 用 い
て 、 琵 琶 湖 に お け る 溶 存 酸 素 の 消 失 機 構 に つ い て 検 討 し た 。ま た 、 堆 積 物 コ ア を 用 い た 実 験 的 解 析
と 安 定 同 位 体 比 の 測 定 を 組 み 合 わ せ る こ と で 、琵 琶 湖 の 堆 積 物 ― 湖 水 境 界 層 に お け る 窒 素 動 態 と そ
の 支 配 要 因 を 詳 細 に 解 析 し た 。 さ ら に 、底 層 の 貧 酸 素 化 が 深 刻 化 し つ つ あ る 琵 琶 湖 沖 合 生 態 系 の キ
ー ス ト ン 種 で あ る イ サ ザ の 長 期 個 体 群 変 動 メ カ ニ ズ ム の 解 明 を 進 め 、気 候 変 動 に よ る 固 有 種 イ サ ザ
の個体群絶滅リスクの評価を行った。
4.結果及び考察
(1)琵琶湖の全循環と生態系モデリングに関する研究
全 循 環 の 発 生 に 関 わ る 表 層 と 底 層 の 水 温 変 動 の 再 現 性 向 上 に 焦 点 を 当 て 、境 界 条 件 の 精 緻 化 等 を
進 め た 結 果 、温 暖 化 シ ナ リ オ の も と で 、 1)琵 琶 湖 で は 成 層 期 の 底 層 の 水 温 上 昇 率 が 表 層 の 水 温 上 昇
率 を 上 回 り 、全 循 環 が 継 続 し て 発 生 す る こ と 、 2)池 田 湖 で は 表 層 の 水 温 上 昇 率 が 底 層 の 水 温 上 昇 率
を 上 回 り 、全 循 環 が 停 止 す る こ と を 示 し た 。琵 琶 湖 と 池 田 湖 の 予 測 結 果 の 比 較 か ら 以 下 の 考 察 が な
さ れ た 。琵 琶 湖 で は 、今 後 の 気 温 上 昇 に よ り 表 層 平 均 水 温 が 底 層 平 均 水 温 よ り 上 昇 し て も 、 成 層 期
に底層水温が上昇し、循環期に下降する季節変動を示すため、全循環が継続して発生する。一方、
湖 底 の 勾 配 が 大 き い 池 田 湖 で は 、吹 送 流 、密 度 流 、内 部 波 な ど の 3 次 元 的 物 理 現 象 が 発 達 し に く く 、
底層への熱伝達率が減少し、底層の水温上昇率が抑制される。次に、 生態系サブモデルでは、無機
態リン濃度が著しく低いにもかかわらず植物プランクトンのブルームが発生する琵琶湖の特性を
考 慮 し 、栄 養 塩 の セ ル ク オ タ を モ デ ル に 組 み 込 ん だ 。ま た 、 他 の サ ブ テ ー マ に よ る 観 測 結 果 を 用 い
て 、 有 機 物 の 沈 降 速 度 、 栄 養 塩 の 溶 出 速 度 、酸 素 消 費 速 度 な ど の 主 要 な 速 度 変 数 を 直 接 的 に 定 式 化
し、観測、実験で得られたパラメータを与えた。その結果、深水湖の季節変動および経年変動を想
定 し た 予 測 精 度 の 範 囲 内 で 再 現 で き た 。 今 後 100年 間 で 気 温 が 上 昇 す る と 仮 定 し た 場 合 は 、 水 温 の
上昇により酸素の溶解度が減少し、年最低溶存酸素濃度が低下した。また、底層での溶存酸素濃度
の 低 下 に よ り 栄 養 塩 が 溶 出 し 、富 栄 養 化 に よ っ て 湖 底 の 溶 存 酸 素 濃 度 が さ ら に 低 下 し た 。 溶 存 酸 素
濃 度 の 低 下 を 緩 和 す る 有 効 な 手 法 と し て 、汚 濁 物 質 負 荷 量 の 削 減 に よ る 酸 素 消 費 の 低 減 、 や 酸 素 供
給 を 取 り 上 げ 、そ の 効 果 を 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 評 価 し た 。 そ の 結 果 、 汚 濁 物 質 負 荷 量 の
削 減 に よ り 溶 存 酸 素 濃 度 の 低 下 を 緩 和 で き る こ と 、酸 素 を 供 給 す る 場 合 は 成 層 期 に 集 中 し て 行 う の
が効果的であることが示された。
(2)乱流・混合過程に伴う酸素フラックス量の定量化に関する研究
琵琶湖の夏季の成層期には、表層及び亜表層に強い乱流層があることが確認できた。また、これ
ら の 層 の 間 に は 乱 流 混 合 が ほ と ん ど 発 生 し な い 成 層 の 強 い 層 が 存 在 す る こ と が 示 さ れ た 。こ の 乱 流
の 弱 い 層 は 鉛 直 フ ラ ッ ク ス を 伴 っ て お ら ず 、観 測 期 間 中 の 気 象 条 件 の も と で は 表 層 を 通 し て 中 ・ 底
層 へ の 酸 素 の 供 給 は な い こ と が 明 ら か と な っ た 。こ の 混 合 が 弱 い 層 の 中 に は 、酸 素 の 局 所 極 大 層 と
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局 所 極 小 層 が 存 在 し て い た 。ま た 、ク ロ ロ フ ィ ル の 極 大 層 は 水 温 勾 配 が 急 激 に 変 化 す る 躍 層 内 に 存
在 す る こ と が 観 測 に よ り 確 認 さ れ た 。 更 に 、 同 一 層 に お い て 等 価 球 半 径 0.31 mmの 動 物 プ ラ ン ク ト
ン や 粒 径 0.3 mmの 粒 子 が 大 量 に 存 在 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 冬 季 の 係 留 系 デ ー タ を 基 に 、 湖 が
冷 却 し て い く 状 態 を 解 析 し た 結 果 、表 面 冷 却 に よ る 対 流 現 象 と 湖 底 面 に 沿 っ て 流 下 す る 密 度 流 を 捉
え る こ と が で き た 。湖 は 全 体 が 一 挙 に 冷 や さ れ る の で は な く て 、対 流 と 密 度 流 が 間 欠 的 に 発 生 す る
こ と を 繰 り 返 し な が ら 冷 却 し て い く こ と が 明 ら か に な っ た 。さ ら に 、北 湖 東 岸 の 緩 斜 面 か ら 得 ら れ
たデータによれば、冷却の過程で冷水・低酸素・低クロロフィル の層が波動の状態で存在すること
も 確 認 で き た 。温 暖 化 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 可 能 性 が あ る 湖 底 の 低 酸 素 状 態 の 解 消 策 と し て 、冷
水 を 注 入 す る 方 法 を 数 値 モ デ ル に よ り 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 10 m 3 s -1 の 河 川 水 を 水 深 80 mで 放 流 す
ることが有効な手段のひとつになりうると結論付けた。
(3)温暖化が物質循環と水質に及ぼす影響評価に関する研究
堆 積 物 直 上 水 が 有 酸 素 の 条 件 の も と で は 、可 溶 性 反 応 リ ン( SRP)の 溶 出 フ ラ ッ ク ス が 40.5 µmole
-2
m day -1 と 見 積 も ら れ た 。こ の 値 は 、琵 琶 湖 の 深 水 層 に お け る SRP濃 度 の 季 節 変 動 か ら 推 定 さ れ る SRP
の 溶 出 フ ラ ッ ク ス と 整 合 的 で あ っ た 。 一 方 、 堆 積 物 直 上 水 を 無 酸 素 条 件 に し た 場 合 は 、 約 7日 間 の
培 養 で 堆 積 物 上 部 の 酸 化 還 元 電 位 が 大 き く 減 少 し 、 そ れ に 伴 い 、 SRPや 二 価 鉄 の 溶 出 が 顕 著 に み ら
れ た 。 こ の 条 件 下 で の SRPの 溶 出 フ ラ ッ ク ス は 79 µmole m -2 day -1 と 推 定 さ れ 、 有 酸 素 条 件 で 得 ら れ
た 値 の 約 2倍 で あ っ た 。 深 水 層 の 無 酸 素 化 に 伴 う リ ン の 内 部 負 荷 が 生 態 系 に 及 ぼ す 影 響 を 評 価 す る
た め に 、 50~ 90 m以 深 の 水 層 が 無 酸 素 化 し た 場 合 に 、 リ ン の 溶 出 フ ラ ッ ク ス が ど の 程 度 上 昇 す る の
か を 試 算 し た 。 そ の 結 果 、 深 水 層 が 1カ 月 間 に わ た っ て 無 酸 素 化 し た 場 合 の リ ン の 溶 出 量 は 1.1~
10.9ト ン 、 一 方 、 12カ 月 間 に わ た っ て 無 酸 素 化 し た 場 合 に は 、 こ の 値 は 3.1~ 29 ト ン と 見 積 も ら れ
た 。無 酸 素 化 が 12カ 月 間 続 い た 場 合 に 増 加 す る リ ン の 内 部 負 荷 量 は 、外 部 負 荷 量 の 3~ 29%に 相 当 し
た。このことから、温暖化に伴う深水層の無酸素化が、リンの内部負荷の増大を通して、富栄養化
を促進する可能性が示唆された。一方、リビングストン・インボデン・モデルを用いて 、琵琶湖と
木 崎 湖 に お け る 深 水 層 の 溶 存 酸 素 デ ー タ を 解 析 し た 結 果 、水 中 と 湖 底 に お け る 酸 素 消 費 が 、そ れ ぞ
れ 異 な る 要 因 に 支 配 さ れ て い る こ と が 示 さ れ た 。木 崎 湖 デ ー タ の 解 析 結 果 で は 、水 中 に お け る 酸 素
消 費 は 当 年 の 深 水 層 の 水 温 と 湖 の 生 産 性 と 強 く 関 連 し た 。汎 用 モ デ ル に よ る 予 測 の 結 果 、琵 琶 湖 に
お い て 深 水 層 の 水 温 が 上 昇 す る と 、貧 酸 素 水 塊 の 占 め る 割 合 が 大 き く 増 加 す る と い う 結 果 が 得 ら れ
た 。 こ の 予 測 結 果 は 、サ ブ テ ー マ 1 に よ る 3 次 元 数 値 モ デ ル の 予 測 結 果 と 整 合 的 で あ り 、本 研 究 で
検討を進めた汎用モデルが温暖化影響評価において有用であることが示 された。
(4)温暖化が底生動物と魚類に及ぼす影響評価に 関する研究
2008年 12月 、 2009年 12月 、 2010年 4月 の 水 中 ロ ボ ッ ト に よ る 湖 底 調 査 に 2002年 12月 以 降 の 調 査 の
結 果 を 加 え て 、イ サ ザ の 生 存 条 件 を 制 限 す る 水 温 と 溶 存 酸 素 濃 度 を 調 べ た 。そ の 結 果 、 生 き て い る
イ サ ザ が 確 認 さ れ る の は 溶 存 酸 素 濃 度 が 3 mg L -1 以 上 で 、 2~ 3 mg L - 1 の 濃 度 で は 生 き た イ サ ザ と 死
ん だ イ サ ザ が 混 在 し 、 2 mg L -1 以 下 で は 、 死 ん だ イ サ ザ し か 確 認 で き な い こ と が 明 ら か に な っ た 。
琵 琶 湖 で 採 集 さ れ た イ サ ザ を 用 い た 飼 育 実 験 の 結 果 、活 動 に 影 響 を 及 ぼ す 溶 存 酸 素 濃 度 の 閾 値( Pc
値 ) は 、 最 低 で 1.06 mg L - 1 、 最 高 で 2.66 mg L - 1 で あ り 、 平 均 値 は 1.72 mg L -1 、 そ の 分 散 は 0.49で あ
っ た 。 一 方 、 ア ナ ン デ ー ル ヨ コ エ ビ に つ い て は 、 Pc値 は 1.03 mg L -1 と 推 定 さ れ た 。 以 上 か ら 、 イ サ
ザ は ア ナ ン デ ー ル ヨ コ エ ビ に 比 べ て よ り 低 酸 素 化 の 影 響 を 受 け や す い も の と 推 察 さ れ た 。ま た 、 湖
底 の 中 程 度 の 低 酸 素 化 は 、イ サ ザ の 減 少 と ア ナ ン デ ー ル ヨ コ エ ビ の 増 加 を 引 き 起 こ す 要 因 の ひ と つ
となることが示唆された。
(5)温暖化が浮遊性生物相互作用に及ぼす影響評価に関する研究
乾 燥 重 量 で 表 し た 全 沈 降 フ ラ ッ ク ス は 、 実 験 期 間 を 通 し て 大 き く 変 動 し 、 30 m で 0.1~ 5 g m - 2
day -1 、 85 m で 0.1~ 4 g m -2 day -1 だ っ た 。 多 く の 場 合 、 85 m で の 値 が 30 m の 値 を 2〜 3 倍 上 回 り 、
湖 底 に お い て 水 平 方 向 の 物 質 供 給 過 程 が 存 在 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。こ れ に 対 し て 炭 素 フ ラ ッ ク
ス は 、30 m で も 85 m で も 全 フ ラ ッ ク ス の 3.8~ 10% 程 度 で あ り 、実 験 期 間 を 通 し て 10~ 400 mg C m -2
day -1 で 変 動 し た 。 一 次 生 産 は 、 25~ 930 mg C m - 2 day - 1 で あ り 、 4 月 以 降 、 急 激 に 上 昇 し た 後 、 8 月
ま で は 何 度 か 増 減 を 繰 り 返 す が 、 以 後 は 減 少 傾 向 を 示 し た 。 30 m で の 炭 素 フ ラ ッ ク ス は 11 月 ま で
一 次 生 産 の 4〜 30% 程 度 だ っ た が 、 12 月 以 降 は 100% を 上 回 っ た 。 こ れ は 、 湖 水 の 鉛 直 混 合 が 30 m
以 深 に 達 し た た め と 考 え ら れ た 。観 測 期 間 の 8 割 以 上 の 日 に お い て 西 北 西 か ら 北 北 西 の 風 が 卓 越 し
ており、これらの風速と全沈降フラックスの関係をみると、大きなピークは強風の後に認められ、
30 m に お け る フ ラ ッ ク ス で 特 に 顕 著 だ っ た 。 年 間 純 一 次 生 産 量 は 、 96 g C m -2 y -1 で あ り 、 こ れ ま
で に 得 ら れ た 値 に 比 べ る と 3〜 7 割 程 度 低 か っ た 。 一 方 、 30 m で 計 算 し た 年 間 炭 素 フ ラ ッ ク ス は 、
30 g m - 2 y - 1 で あ り 、 こ れ は 一 次 生 産 の お よ そ 3 割 で あ っ た 。 沈 降 粒 子 の 炭 素 同 位 体 比 は 、 30 m で
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も 85 m で も 6 月 下 旬 か ら 7 月 上 旬 に か け て 最 も 高 く な り 、-20‰ を 上 回 っ た 。し か し 以 後 は 減 少 し 、
10 月 か ら 翌 年 3 月 ま で の 期 間 は -27〜 -25‰ で 安 定 し た 。 4 月 か ら 5 月 に か け て -30‰ 以 下 に 減 少 す
る も の の 以 後 は -20‰ ま で 急 激 に 増 加 し た 。 ま た 、 30 m で も 85 m で も ほ ぼ 同 じ 値 で あ り 、 両 深 度 へ
沈 降 し た 有 機 炭 素 の 起 源 が ほ ぼ 同 じ で あ る こ と を 示 唆 し た 。 こ れ が 7.5 m で の セ ス ト ン の 炭 素 同 位
体 比 に ほ ぼ 等 し い こ と か ら 考 え て 、湖 底 へ の 有 機 物 の 沈 降 フ ラ ッ ク ス の ほ と ん ど が 自 生 性 有 機 炭 素
と考えられた。
(6)安定同位体比を用いた生態系変動評価と予測に関する研究
実 験 の 結 果 、水 中 お よ び 堆 積 物 中 で の 呼 吸 に よ る 酸 素 の 同 位 体 分 別 係 数 と し て 、そ れ ぞ れ 、0.982、
お よ び 0.997と い う 値 が 得 ら れ た 。こ の 値 を 用 い て 琵 琶 湖 深 水 層 の 酸 素 消 費 過 程 を 解 析 し た と こ ろ 、
全 体 の 酸 素 消 費 に 対 し て 、水 柱 に お け る 酸 素 消 費 が 約 40% 、湖 底 堆 積 物 に よ る 酸 素 消 費 が 約 60% 寄
与 し て い る も の と 計 算 さ れ た 。つ ま り 、琵 琶 湖 に お い て 湖 底 堆 積 物 の 酸 素 消 費 が 、琵 琶 湖 全 体 の 溶
存 酸 素 消 費 の 大 き な 部 分 を 占 め る と 推 察 さ れ た 。堆 積 物 コ ア を 用 い た 窒 素 動 態 の 解 析 の 結 果 、 無 酸
素 環 境 下 で は 実 験 開 始 7日 間 で 硝 酸 イ オ ン は ほ ぼ 枯 渇 し た が 、 ア ン モ ニ ウ ム イ オ ン は 培 養 35日 間 の
平 均 で 354〜 448 µmole m -2 day -1 の 溶 出 が 認 め ら れ た 。 湖 底 が 無 酸 素 に な る と 、 ア ン モ ニ ウ ム の 活 発
な 溶 出 が 起 こ る 一 方 で 、硝 化 — 脱 窒 系 が 機 能 し に く く な る た め 、堆 積 物 に よ る 窒 素 除 去 能 が 低 下 し 、
窒 素 の 内 部 負 荷 が 加 速 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、イ サ ザ 個 体 群 お よ び 環 境 変 数 に つ い て の 長 期
デ ー タ を 統 計 解 析 し た 結 果 、湖 底 酸 素 濃 度 の 低 下 、卵 成 熟 開 始 タ イ ミ ン グ の シ グ ナ ル と な る 秋 季 の
沖 帯 表 層 水 温 の 低 下 時 期 の 遅 延 、繁 殖 資 源 を め ぐ る 水 温 特 異 的 な 競 争 に よ る 近 縁 種 か ら の 繁 殖 干 渉
などの生理・生態的影響により、イサザの個体群減少が引き起こされることが示唆された。各種温
暖 化 シ ナ リ オ の 下 で イ サ ザ 個 体 群 の 絶 滅 リ ス ク の 予 備 的 な 評 価 を 行 っ た 結 果 、温 暖 化 が イ サ ザ 個 体
群に悪影響を及ぼす可能性が高いことが示された。
5.本研究により得られた成果
(1)科学的意義
1 )湖 の 温 暖 化 影 響 評 価 に 関 し て は 、こ れ ま で 主 に 1 次 元 モ デ ル に よ る 数 値 計 算 が 手 法 と し て 用 い
ら れ て きた の に対 し 、本 研 究 では 、観測 研 究と の 連 携の も とに 高 精度 な 3 次元 流 れ場・生態 系 結合
数 値 モ デ ル を 開 発 し 、底 層 の 溶 存 酸 素 濃 度 な ど 、生 物 の 生 息 に と っ て 重 要 な 環 境 変 数 の 空 間 分 布 や
季 節 変 動 を 、想 定 し た 予 測 精 度 の 範 囲 内 で 再 現 す る こ と に 成 功 し た 。こ の よ う な 研 究 は 国 際 的 に も
ほとんど例が無く、科学的な意義は高い。
2 )今 後 100年 間 で 気 温 が 上 昇 す る と 仮 定 し た 場 合 、水 温 の 上 昇 は 酸 素 の 溶 解 度 を 減 少 さ せ る た め 、
湖 内 の 溶 存 酸 素 濃 度 が 全 体 的 に 低 く な り 、 年 最 低 溶 存 酸 素 濃 度 も 低 下 す る こ と 、 さ ら に 、底 層 で の
溶存酸素濃度の低下により栄養塩が溶出し、冬季の全循環とともに溶出した栄養塩が表層に運ば
れ 、 一 次 生 産 量 が 増 大 す る こ と な ど 、水 質 と 生 態 系 の 間 の フ ィ ー ド バ ッ ク を 明 ら か に し た 点 は 、本
研 究 の 独 創 的 な 点 で あ る 。こ の よ う な 成 果 は 、物 理 モ デ ル と 生 態 系 モ デ ル を 複 数 の 分 野 の 専 門 家 の
密接な協力のもとに検討・開発したことにより初めて得られたものである 。
3 )従 来 の 研 究 で は 観 測 が 困 難 で あ っ た 、成 層 期 の 水 温 躍 層 の 微 細 物 理 構 造 と 生 態 系 環 境 の 空 間 異
質 性 を 、新 た に 開 発 し た 乱 流 プ ロ フ ァ イ ラ ― 、 高 解 像 度 蛍 光 光 度 計 、 ホ ロ グ ラ フ な ど を 駆 使 す る こ
と で 追 及 し 、表 層 か ら 深 層 へ の 酸 素 フ ラ ッ ク ス の 評 価 と 生 物 過 程 の 関 与 に つ い て の 新 た な 知 見 を 得
ることに成功した。
4 )こ れ ま で 知 見 が 極 め て 乏 し い 、大 型 湖 沼 に お け る 堆 積 物 と 湖 水 の 境 界 層 に お け る 栄 養 物 質 の 動
態 に つ い て 、 堆 積 物 コ ア を 用 い た 培 養 実 験 と 精 密 安 定 同 位 体 測 定 を 総 合 的 に 実 施 す る こ と で 、詳 細
に明らかにすることに成功した。
5)水中ロボットを用いた 先端的な湖底観測と、室内実験の結果から、琵琶湖の固有種であるイサ
ザ の 低 酸 素 耐 性 に つ い て の 新 た な 知 見 を 得 た 。ま た こ の 情 報 を も と に し て 、イ サ ザ へ の 温 暖 化 影 響
の評価を行った。
6)従来の観測では解析が困難であった、大型湖沼における気象条件と一次生産・有機物鉛直フラ
ックスの関係について、高時間分解能の係留系観測の実施により、解析することが可能となった。
(2)環境政策への貢献
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1 ) 本 研 究 の 代 表 者 は 、 滋 賀 県 総 合 保 全 学 術 委 員 会 の 委 員 と し て 、 滋 賀 県 の 「 新 マ ザ ー レ ー ク 21
計 画 」 の 策 定 の た め の 議 論 に お い て 、温 暖 化 影 響 の 可 能 性 を 踏 ま え た 琵 琶 湖 の 水 質 ・ 生 態 系 監 視 の
強化の必要性を提言し、計画の作成に貢献した。
2)全サブテーマの協力のもとに、本研究の成果を 統合化し、①世界および我 が国の湖沼における
温 暖 化 影 響 の 現 状 、 ② 湖 沼 物 理 過 程 の 変 動 メ カ ニ ズ ム 、③ 湖 沼 生 態 系 と 物 質 循 環 シ ス テ ム の 変 動 メ
カニズム、④数値モデルによる将来予測と湖沼管理、という4つのテーマに即して、研究の現状、
課 題 、 将 来 展 望 を ま と め た ( 京 都 大 学 学 術 出 版 会 よ り 平 成 24 年 2 月 に 出 版 予 定 ) 。 本 書 は 、 湖 沼
に 対 す る 温 暖 化 影 響 の 可 能 性 を 物 理 的 、化 学 的 、生 物 学 的 な 根 拠 に 基 づ い て 総 合 的 に 議 論 し た 初 め
て の 成 書 で あ り 、今 後 の 、環 境 政 策 の 検 討 や 研 究 の 推 進 の た め の 基 礎 的 な 資 料 と し て 広 く 活 用 さ れ
ることが期待される。
3 )日 本 陸 水 学 会 や 日 本 魚 類 学 会 の 公 開 シ ン ポ ジ ウ ム に お い て 本 研 究 の 成 果 を 発 表 し 、一 般 国 民 へ
の普及に努めた。
4)本研究では、温暖化影響のうち、特に、底層における溶存酸素濃度の低下を緩和する手法とし
て 、① 汚 濁 物 質 負 荷 量 の 削 減 に よ る 酸 素 消 費 の 低 減( サ ブ テ ー マ 1 )、② 酸 素 供 給( サ ブ テ ー マ 1 )、
③冷水の注入(サブテーマ2)を取り上げ、その効果を数値シミュレーションによって調査した。
これらの結果は、緩和策の検討における基礎資料としての活用が期待される。
6.研究者略歴
課題代表者:永田 俊
1958年 生 ま れ 、 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、 理 学 博 士 、 現 在 、 東 京 大 学 大 気 海
洋研究所教授
研究参画者
(1):北澤大輔
1974年 生 ま れ 、 東 京 大 学 大 学 院 工 学 系 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、 博 士 ( 工 学 )
現在、東京大学生産技術研究所准教授
(2):山崎秀勝
1955年 生 ま れ 、 テ キ サ ス A & M 大 学 大 学 院 工 学 専 攻 博 士 課 程 修 了 、 Ph D.
現在、東京海洋大学海洋環境学科教授
(3):永田
俊(同上)
(4):熊谷道夫
1951年 生 ま れ 、 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 修 了 、 理 学 博 士
現在、琵琶湖環境科学研究センター環境情報統括員
(5):伴修平
1959年 生 ま れ 、 北 海 道 大 学 水 産 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 卖 位 取 得 退 学 、 博 士 ( 水 産 学 )
現在、滋賀県立大学環境生態学科教授
(6):陀安一郎
1969年 生 ま れ 、 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、 博 士 ( 理 学 )
現在、京都大学生態学研究センター准教授
7.成果発表状況(本研究課題に係る論文発表状況。)
(1)査 読 付 き 論 文
1)
熊 谷 道 夫 ・ 石 川 俊 之 ・ 田 中 リ ジ ア (2009) 自 律 型 潜 水 ロ ボ ッ ト 淡 探 ( た ん た ん ) に よ る 湖 底
調 査 . 日 本 ロ ボ ッ ト 学 会 誌 . 27: 278-28.
2)
K. Maki, C. Kim, C. Yoshimizu, I. Tayasu, T. Miyajima and T. Nagata (2009) Autochthonous
origin of semi-labile dissolved organic carbon in a large monomictic lake (Lake Biwa):
D-0804-vii
carbon stable isotopic evidence. Limnology. 11: 143-153.
3)
K. Yoshiyama, J.P. Mellard, E. Litchman and C.A. Klausmeier (2009) Phytoplankton
competition for nutrients and light in a strati fied water column. American Naturalist.
174: 190-203.
4)
N. Itoh, S. Tamamura, T. Sato and M. Kumagai (2010) Elucidation of polycyclic aromatic
hydrocarbon sources in the suspended matter in Lake Biwa, Japan. Limnology.
DOI:10.1007/s10201-009-0309-1
5)
C.H. Hsieh, K. Ishikawa, Y. Sakai, T. Ishikawa, S. Ichise, Y. Yamamoto, T.C. Kuo, H.D.
Park, N. Yamamura and M. Kumagai (2010) Phytoplankton community reorganization driven
by eutrophication and warming in Lake Biwa. Aquatic Sciences. 72: 467-483.
6)
D. Kitazawa, M. Kumagai and N. Hasegawa (2010) Effects of internal waves on dynamics
of hypoxic waters in Lake Biwa. Journal of the Korean Society for M arine Environmental
Engineering. 13: 30-42.
7)
A.S. Pradeep Ram, Y. Nishimura, Y. Tomaru, K. Nagasaki and T. Nagata (2010) Seasonal
variation in viral-induced mortality of bacterioplankton in the water column of a
large mesotrophic lake (Lake Biwa, Japan). Aquatic Microbial Ecology. 58 : 249-259.
8)
H. Yamazaki, H. Honma, T. Nagai, M.J. Doubell, K. Amakasu and M. Kumagai (2010)
Multilayer biological structure and mixing in the upper water column of Lake Biwa
during summer 2008. Limnology. 11: 63-70.
9)
C. Yoshimizu, K. Yoshiyama, I. Tayasu, T. Koitabashi and T. Nagata (2010) Vulnerability
of a large monomictic lake (Lake Biwa) to warm winter event. Limnology. 11: 233-239.
10)
J.P. Mellard, K. Yoshiyama, C.A. Klausmeier, and E. Litchman (2011) The vertical
distribution of phytoplankton in stratified water columns. Journal of Theoretical
Biology. 269: 6-30.
(2)査 読 付 論 文 に 準 ず る 成 果 発 表 ( 「 持 続 可 能 な 社 会 ・ 政 策 研 究 分 野 」 の 課 題 の み 記 載 可 )
該当せず
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