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琵琶湖生物多様性画像データベース

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琵琶湖生物多様性画像データベース
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びわ湖のウズムシ類
ウズムシ類は扁形動物門の中の大きい群で、海生・汽水生・淡水生・陸生の自由生活
者(一部は外寄生、あるいは共生を含む)です。この動物群は生活圏が広く、種類数も
多 い の で 、 18 世 紀 後 半 以 降 、 12 あ ま り の 目 、 多 数 の 属 ・ 種 に 分 類 さ れ て き ま し た 。 日
本 産 の 淡 水 生( 産 )の 群 に 限 っ て い え ば 、三 岐 腸 目 の 分 類 学 的 研 究 だ け は 進 ん で い ま す 。
し か し 、そ の 他 の 小 型 の 種 類( 小 型 ウ ズ ム シ 類 “microturbellarians”
に 分 け ら れ る )の 研 究 は 非 常 に 遅 れ て い て 、Okugawa
(1930)
と 呼 ば れ 、数 目
以 降 、ま と ま っ た 研 究
成 果 は 発 表 さ れ て い ま せ ん で し た ( Kawakatsu, 1991 参 照 )。
び わ 湖 産 の ウ ズ ム シ 類 に つ い て は 、 Mori (1970) 、 Mori and Miura (1980, 1990) が
整 理 し た "琵 琶 湖 産 生 物 種 目 録 "が 発 表 さ れ て い ま す 。 Kawakatsu and Nishino (1993,
1994) は 上 記 論 文 中 の ウ ズ ム シ 類 の 項 を 整 理 し て 、解 説 を 加 え ま し た 。ま た 、川 勝( 1998)
は 日 本 産 の ウ ズ ム シ 類 の 既 知 種 を 整 理 し 、8 目 20 科 42 属 95 種 を あ げ て い ま す 。
( 海 生・
汽 水 生・淡 水 生 ・陸 生 を 含 む )。う ち 、淡 水 生 の も の は 、8 目 20 科 31 属 64 種 で す( 淡
水 生 三 岐 腸 目 は 3 科 9 属 27 種 )。
上 に あ げ た デ ー タ の う ち 、 び わ 湖 産 の ウ ズ ム シ 類 は 、 7 目 ( 6 亜 目 を 含 む )、 12 科 ( 4
亜 科 を 含 む )、 17 属 23 種 で 、 う ち 三 岐 腸 目 は 1 目 ( 1 亜 目 を 含 む )、 2 科 2 属 2 種 で す
(Kawakatsu and Nishino,1993, 1994)。 な お 、 こ こ に 引 用 し た デ ー タ は や や 古 く 、 び
わ 湖 産 の 三 岐 腸 類 は 2 種 増 え て お り( 川 勝 ・西 野 ・大 高 、2007; Sluys, Kawakatsu and
Yamamoto, 2010; Kawakatsu and Nisino, 2012)、 ま た 、 こ の 動 物 群 の 高 次 分 類 体 系 の
改 変 に 伴 う 科 群 の 変 更 ( Sluys, Kawakatsu, Riutort and Baguñà, 2009) も あ り ま す 。
さ ら に 、 び わ 湖 の ‘小 型 ウ ズ ム シ 類 ’の 新 し い 分 類 学 的 研 究 も 始 ま り ま し た ( Timoshkim,
Grygier, Kawakatsu, Faubel and Gamo, 2011)。
ごくおおまかな数値ですが、びわ湖産のウズムシ類の種数は、日本産の淡水生ウズム
シ 類 の 40% 弱 に あ た り ま す 。研 究 が 最 も 進 ん で い る 三 岐 腸 目 で は 、湖 岸 部 に は ナ ミ ウ ズ
ム シ Dugesia japonica Ichikawa et Kawakatsu, 1964 だ け が 散 発 的 に 生 息 し て い ま す 。
日本産の普通種である本種はもともと流水生の種類で止水域には少ないのです。
こ こ 10 年 ほ ど 前 か ら 、 北 ア メ リ カ 原 産 の ア メ リ カ ナ ミ ウ ズ ム シ
Girardia tigrina
(Girard, 1850) が 湖 岸 部 や 南 湖 の 浅 い 湖 底 か ら 見 つ か る よ う に な り ま し た( 川 勝・西
野・大 高 、2007; Sluys, Kawakatsu and Yamamoto, 2010)。な お 、こ の 種 は 、現 在 で は
汎 世 界 的 に 分 布 域 が 広 が っ て い る ‘コ ス モ ポ リ タ ン 種 ’で す 。
1989 年 以 降 、北 湖 の 水 深 3~ 70m の 湖 底 か ら コ ガ タ ウ ズ ム シ
Phagocata kawakatsui
Okugawa, 1956 が 採 集 さ れ て い ま す 。 本 種 は 地 上 の 湧 泉 流 や 浅 い 地 下 水 に 生 息 す る 種
類で、香川県・岡山県・兵庫県・石川県・長野県・福島県から記録されていました。湖
底 か ら の 記 録 は 、 び わ 湖 が 初 め て で す ( Oki, Tamura, Nishino, Takai, Kuznedelov,
Timoshkin and Kawakatsu, 1998; Kawakatsu, Nishino, Tamura, Takai, Oki,
Kuznedelov and Timoshkin, 2000; Kawakatsu and Ohtaka, 2008)。
ビワオオウズムシ
Bdellocephala annandalei
Ijima et Kaburaki, 1916 は 北 湖 の
深 底 部( 水 深 30m 以 上 )に 生 息 す る 大 型 種 で び わ 湖 の 固 有 種 と し て 知 ら れ て お り 、環 境
省 の 絶 滅 危 惧 Ⅰ 類( CR+EN)、滋 賀 県 の 絶 滅 危 機 増 大 種 に 指 定 さ れ て い ま す( 川 勝 、2010;
西 野 、 2011)。 こ の 種 に 関 す る 文 献 は 多 い の で す が 、 主 要 な も の は 西 野 ( 1993)、 Oki,
Tamura, Nishino and Takai (1998) 、 Kawakatsu, Sluys, Timoshkin, Naumova,
Nishino and Takai(2001)で す 。
日本産のオオウズムシ属
Bdellocephala
De Man, 1875 の 既 知 種 は 3 種 で 、ほ か の
2 種は地上の湧泉流や、湖沼の落ち口に生息しています:
Bdellocephala brunnea
イズミオオウズムシ
Ijima et Kaburaki, 1916 (京 都 府 と 滋 賀 県 、そ れ に 中 部 地 方 か
ら 関 東 ~ 東 北 地 方 の 低 地 部 、北 海 道 西 南 部 の 限 ら れ た 場 所 に 分 布 )
;
シ
Bdellocephala borealis
リシリオオウズム
Kawakatsu,1978( 利 尻 島 の 姫 沼 の 落 ち 口 に 生 息 )。 汎 世
界 的 に 見 る と 、Bdellocephala 属 の 種 類 は ヨ ー ロ ッ パ( 英 国 を 含 む )・シ ベ リ ア・カ ム チ
ャッカ半島から多数の種が知られており、特にバイカル湖では種分化が著しいのです。
Kuznedelov, Timoshkin and Goldman (1997) お よ び Kuznedelov, Timoshkin and
Kumarev (1996) の 18S r RNA を 用 い た 分 析 に よ る と 、 カ ム チ ャ ッ カ 半 島 産 の
Bdellocephala
sp.
(Bd. parva
系 統 的 に 近 く 、 Bd. brunnea
Zabusova, 1936) と び わ 湖 産 の Bd. annandalei は
と は や や 遠 い と い う 結 果 で し た ( Oki, Tamura, Nishino,
Takai, Kuznedelov, Timoshkin and Kawakatsu, 1998 を 参 照 )。
門 田( 1973)は 古 琵 琶 湖 層 か ら ウ ズ ム シ 類 の 卵 殻 化 石 を 報 告 し て い ま す (Kawakatstu
and Nishino, 1993, p. 99, pl.Ⅱ , fig. を 参 照 )。 そ の 大 き さ と 形 態 か ら 見 て 、 小 型 ウ ズ ム
シ類のものと考えられます。
参考文献
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and M. Kawakatsu (1998) Chromosomes of Phagocata kawakatsui and
Bdellocephala annandalei from Lake Biwa-ko in Honshû, central Japan.
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recorded from Lake Biwa-ko, Honsyû, Japan. Addendum I. A suplemental list of
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ビワオオウズムシ. 滋賀県で大切にすべき野
滋 賀 県 レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク 2010 年 版 , pp.565, 571. 滋 賀 県 自 然 環 境 保 護
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(1990) List of plant and animal species living in Lake
Biwa (Corrected third edition). Mem. Fac. Sci., Kyoto. Univ., Ser. Biol.,14:
13-32.
*執筆
西野麻知子・川勝正治
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