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ケニアの湿地

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ケニアの湿地
ケニアの湿地について
ケニアの国土の大部分は、乾燥地および半乾燥地であり、降水量が極端に少ない。その
ため、ケニアの湿地帯は、北部の Lotagipi 湿地、西部のビクトリア湖、大地溝帯「グレート
リフトバレー」に沿って南北に点在する湖沼群1、北西部のエチオピア国境のトゥルカナ湖
(Lake Turkana)、アンボセリ国立公園の湿地帯、中央部の MWEA 湿地、南部タンザニア国境
に位置するジペ湖(Lake Jipe)、中央部のケニア山からインド洋に流れ込むタナ川流域(Tana
river)、北東部の Lorian 湿地およびインド洋沿岸部のマングローブ林帯に大きく分けられる。
国内の内水域の合計面積はおよそ 10,700 平方キロメートルで、この大半はビクトリア湖お
よびトゥルカナ湖が占めている。なお、ケニアの古代湖は、約 1000 万から 500 万前年の大
地溝帯の形成期に誕生したビクトリア湖のみが知られている。
ケニアは 1990 年 10 月 5 日にラムサール条約(Ramsar Convention)を批准2しており、現在、
バリンゴ湖(Lake Baringo)、ボゴリア湖(Lake Bogoria)、エレメンタイタ湖(Lake Elementeita)、
ナイバシャ湖(Lake Naibasha)およびナクル湖(Lake Nakuru)の 5 つの湖が登録されている。ケ
ニアで生息が確認されている鳥類 1,060 種3のうち、44 科 255 種は、湿地に依存している種
である。国内でパッチ状に分布する上記の湿地群は、これらの鳥類種にとって重要な自然
環境であり、特にタンザニアに向け南方へ移動する渡り鳥の移動経路の中継地点として、
大地溝帯の湖沼群は重要な役割を果たしている。一方で、魚類については現在までケニア
で 43 科4が記載されている。
ビクトリア湖(Lake Victoria)およびヤ
ラ湿地(Yala Swamp)
ビクトリア湖は、ケニア、ウガンダ、
タンザニアに囲まれたアフリカ最大
(68,800 km2)の湖である。大地溝帯に
分布する塩湖の一つであるが、多くの流
入河川があるため、塩分濃度は低く抑え
られている。ナイル川の主流の一つ、白
ナイル川の源流5となっている。湖の中
1
湖岸で水浴びをする子供たち(Mfangano Island)
大地溝帯には、複数の内部集水域があり、タンザニア国境のナトロン湖から、マガディ湖、ナイバシャ湖、トゥルカナ
湖、エルメンテイタ湖、ナクル湖、ボゴリア湖、バリンゴ湖と連なる内水湖チェーンを形成している。これらの湖のア
ルカリ度はそれぞれに異なり、ナイバシャ湖は淡水であるが、マガディ湖は強度のアルカリ性を示す。
2
日本は、1980 年に条約批准し、釧路湿原(北海道)が最初の登録地になった。COP9(2005 年)までに国内 33 カ所の湿地
が登録されている。
3
日本鳥類目録改訂第 6 版(日本鳥学会 2000 )に収録されている鳥類は,18 目 74 科 542 種に外来種の 26 種を加え
た 568 種である。
4
日本産魚類は、353 科 3863 種が記載されている(2002 年)
。
5
植民地時代の 1929 年には、ナイル川の水利権に関する条約「ナイル条約」が締結された。本条約は当時のエジプトと
ナイル川中上流域を植民地としていたイギリスとの間で、ナイル川の水利権を全面的にエジプトに与える内容で結ばれ
おり、エジプトに年間 480 億立方メートルの取水権、スーダンに 40 億立方メートルの取水権を与え、エジプトの同意を
©Koji Nakagawa
にはウガンダ領のセセ諸島 (Ssese Islands) をはじめとする約 3,000 の島々がある。ビクトリ
ア湖は代表的な古代湖であり、およそ 100 万年の歴史をもち、多くの固有種が適応放散し、
生物多様性は非常に高いが、近年ナイルパーチ(スズキ亜目アカメ科)6が食用として放流され
て定着したため、湖の在来魚の個体数が激減している。これまでにハプロクロミス亜科の
シクリッド数百種が姿を消し、そのうちの多くは絶滅したと考えられている。
湖周辺部の民族構成は、漁労民族として有名なルオ族7が多数を占めている。湖に隣接す
るケニア第3の人口を有する西ニヤンザ地方の中心都市キスム(Kisum)では、そこが 1903 年
に運行を開始したウガンダ鉄道の最終目的地であったことから、当時労働力として使用さ
れたインド人移民が多く居住し、現在でも多くのインド系住民が暮らしている。ウガンダ
との領土問題が論議されているミギンゴ島(Migingo Island)や同じく国境に近いレンバ島
(Remba Island)などの沖合の島々には、ウガンダ、タンザニア、ケニアの住民が混住し、
ソマリ系ケニア人が漁船を所有し、従業員を雇い、漁業を取り仕切っている。
湖の環境問題として、ナイルパーチによる生態系の破壊に加え、ウガンダ側から侵入し
たホテイアオイの異常繁殖の問題がある。一部の地域では、湖面を覆い尽くすように繁殖
した植物により、漁船も出漁できず、運行が困難な状態である。
市場に積まれたナイルパーチと港に停泊する漁船
(Remba Island)
湖岸でナイルパーチをさばく女性(Remba Island)
シアヤ県のヤラ湿地(Yala Swamp)は、ビクトリア湖の北東部に位置する面 17km2(8,000ha)
の湿地で、湖に流れ込むヤラ川の河口付近に位置する。湿地の北部にブンヤラ族(Bunyala)、
南部にはルオ族が居住する。1956 年に干拓事業が始まり、現在も進行中であるが、さらな
る開発の是非に関して常に論争がある。さらに、2004 年には、アメリカの外資系農業会社
ドミニオンファーム(Dominion Farm LTD)が、干拓農地 3,000ha を政府からリース契約で借り
得ない限り、上流での灌漑計画あるいは水力発電用ダムの建設は認められない。現在でも、タンザニア、ウガンダ、ケ
ニア、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ、エチオピア、エリトリア、スーダン、エジプトという 10 カ国の利害を縛ってい
る。
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ナイルパーチによる生態系の破壊とその輸出で支えられている近郊の社会の貧困と荒廃は、ドキュメンタリー映画『ダ
ーウィンの悪夢』にも取り上げられた。
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ルオ族(Luo)は、ケニアを中心に、スーダンからタンザニアにかけて居住するナイル語系諸族の一民族。言語はナイ
ル諸語に属するルオ語を話す。人口は 350 万人をこえると推定されている。漁業、牧畜、農耕を行うが、現在ではかつ
ての牧畜に代わって農耕が最も重要である。
©Koji Nakagawa
受け、トウモロコシ、綿花、米などを大規模栽培を始めたことから、湿地生態系の消失が
深刻化している。
湖岸には、東アフリカ原産の多年草パピルス(Cyperus papyrus)が優占し、繁茂しており、
魚類では、1920 年代および 1960 年代に、Oreochromis leucostictus, ティラピア(Tilapia zilli)、
オオクチバス(Micropterus salmoides)などの外来魚が商業用に移入され、在来魚類の減少が進
んでいる。
原生湿原はほとんど消失し、広大な農地が広がって
いる。
ドミニオンファームの事務所前には、賃金の支払い
を待つ地元の労働者が集まっている。
地溝湖/大地溝帯の湖群(Rift Valley lakes)
ケニア国内においては、マラウィ湖(Lake Malawi)やタンガニーカ湖(Lake Tanganyika)のよ
うに、水深が極端に深くなることはなく、最も深い湖は、オルボロサット湖8(Lake Ol Bolossat
最大水深 53 m、平均水深 10.4 m)である。塩分濃度は、最も高いマガディ湖(Lake Magadi)か
ら淡水のナイバシャ湖(Lake Naivasha)まで、湖によりさまざまである。また、これらの湖の
水位の変化は顕著であり、1万年前の推定水位は、ナクル湖、ナイバシャ湖およびトゥル
カナ湖で、それぞれ約 180m、120m および 80m となり、地球温暖化および土地利用の変化
などの理由で現在より水深が深かったと考えられている。
トゥルカナ湖(Lake Turkana)
1997年、トゥルカナ湖を含む
「トゥルカナ湖国立公園群」はユネ
スコ世界遺産(自然遺産)に登録さ
れた。湖は大地溝帯に分布する湖の
中では最も面積が大きい(7,200km2)。
水鳥、ナイルワニ、カバなどの一大
生息地として有名で、フラミンゴ、
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中央州(Central Province)の唯一の自然湖である。湖の水はウアソナイロ川(Uaso Nyiro River)に注ぎ、北東州
(North-Eastern Province)にあるロリアン湿原(Lorian Swamp)を潤している。この湿原は、半乾燥地の広がる北東州
および隣国ソマリアの西部の環境にとって重要な資源であるが、面積は、1913 年の 150km2 から、1960 年の 39km2、1990
年の 8km2 へと急激に減少している。
©Koji Nakagawa
ペリカン、サギを中心とする多種の渡り鳥の中継地点、350種もの水鳥の生息地として
重要な湿地生態系である。
本湖は、文化人類学的見地からも重要な地域であり、ヒト族(Hominini)の種であるホモ・
ハビリスやそれより一般に大型で生息年代の新しいホモ・エレクトゥスの人骨の化石が発
見された場所として世界的に有名である。
湖周辺には、人口の 2%を占めるトゥルカナ族の人々が、伝統的な生活様式を守りながら
生活している。僻地にあるため観光客の人数もそれほど多くなく、手つかずの自然、文化
がありのままの姿で存在する場所である。
ナクル湖(Lake Nakuru)
面積は 18,800ha、最大水深は 2.8 m(平均水深 2.3 m)と浅く、強アルカリ性の湖である。
4本の季節河川(seasonal rivers)と永久河川 Ngosur 川が流入しているが、湖からの流出河川
は存在せず、このことが高い塩分濃度が保たれる原因となっている。ナクル湖は国立公園
に指定されており、100 万羽を超えるレッサーフラミンゴの飛来地として世界的に有名で、
毎年 30 万人以上の観光客が訪れる。
1986 年度から、日本の有償資金協力プロジェクト・大ナクル水供給計画が開始された。
本事業では、ナクル市及びギルギル市の水不足を改善し生活水準の向上および経済発展を
図るため、マレワ水系タラシャ川を水源とする浄水場をギルギル市郊外に建設し、ナクル
市を中心とする大ナクル地域東部地区の上水道を整備した。しかし、ナクル市の既存下水
処理施設のみでは本事業の運転開始後の下水増加の対処が困難であることが判明し、同下
水処理施設の拡張を本件上水道後工事と同時に行うといった緊急措置を講じたが、現在、
ナクル湖の水質汚濁やフラミンゴ生息数の減少等の問題が生じているという。
ナイバシャ湖(Lake Naivasha)
ナイバシャとは、マサイ族の言葉で「波の立つ水たまり」(e-naiposha)を意味する。本
湖の標高は 1,887m で大地溝帯の湖群の中では最も高い位置にある。島に浮かぶ三日月島
(Crescent Island)は、映画「アウト・オブ・アフリカ」9の撮影舞台として知られる。
全体で 241km2 に広さを誇り、
本湖に加え、Crescent Island Lagoon(2.1km2)、
Oloidien(5.5km2)、
Sonachi(0.6km2)の 3 つの内湖から構成されている。水深は本湖で最大 8m、Crescent Island
Lagoon で 18m と比較的浅く、水位の年次変動が比較的大きいことから、季節的に広大な干
潟が出現し、渉禽(渉水鳥)にとって重要な餌場を提供しており、ケニアで最も多くの水
鳥(400 種)の生息する湿地となっている。
大地溝帯の湖群の大部分がアルカリ湖であり、炭酸ナトリウムを主成分とする湖水の塩
分濃度は非常に高い。ナイバシャ湖はその例外であり、流入総量の 9 割を占める Gilgil およ
9
邦題は「愛と哀しみの果て」。アフリカの大地に魅せられてコーヒー園を経営する 1 人の女性カレン・ディネーセンの
恋と仕事の波乱の半生を描く。製作・監督は「トッツィー」のシドニー・ポラック、エグゼクティヴ・プロデューサー
はキム・ジョーゲンセン。
©Koji Nakagawa
び Malewa の2本の流入河川
の水量が多いため、塩分濃度
が低く抑えられている。しか
し、これらの河川の源流に位
置する Kinangop 平原の
Malewa-Turasha 水系において、
上述の大ナクル上水道事業に
おける取水により河川の水量
が激減したため、下流にある
本湖の水質の変動が懸念され
映画「アウト・オブ・アフリカ」の撮影現場。島のなだらかな斜
面にアカシアの木立が並ぶ。
ている。
湖には、在来種のパピルス
(Cyperus papyrus)に加え、アマゾン原産のサルビニア(Salvinia molesta)10、ヒヤシンス
(Eichhornia crassopes)11、Pristia stratiotes といった外来種の浮遊植物が繁殖しており、それら
による景観悪化や漁業被害が深刻化している。特に最優占種のサルビニアは湖面の約 25%
を覆い、喫緊の対策が求められている。魚類においては、ビクトリア湖と同様に外来種の
ブラックバスが導入され、生態系に被害を及ぼしている。
湖周辺では無数のビニールハウスが立ち並び、その中で切り花の生産のため雇用された
地元住民が働いている姿を見ることができる。ナイバシャ湖周辺の切り花産業は、1990 年
代後半にオランダとイギリスの民間農園が進出し始めてから急激な発展を遂げ、切り花産
業は 1990 年代の初頭から毎年 20%の成長率を維持し、1995 年には初めて野菜類の輸出量
を上回り、翌年には 35,200 トン(8
千万 US ドル相当)の輸出量を記録
した。輸出切り花の約 75%はナイバ
シャ湖周辺で生産されたものであり、
輸出先は欧州、特にイギリスが多い。
農家は生産で使用する水を湖から取
水するため湖の水位が低下し、農薬
を散布した後の排水を湖に垂れ流す
ため水質が極端に悪化しており、魚
の大量死のニュースが新聞やテレビ
で頻繁に報道されている。
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サボテンの生垣に囲まれた広大な敷地にビニールハウス
が立ち並ぶ。
ブラジル南東部原産で世界中の熱帯地方に分布を広げている。ケニアには、1900 年代前半に帰化し、ナイロビで鑑賞
用植物として養殖され、1936 年頃からアティ川(Athi)に進出した後、全土に分布を拡大した。1962 年に初めてナイバシ
ャ湖で繁殖を確認している。
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アマゾン原産。1879 年から 1892 年までにエジプトに帰化し、その後、南アフリカ(1910 年)、ザイール(1952 年)など
の国で分布を広げ、ケニアには 1957 年からナイロビで鑑賞用として養殖が始まった。1988 年にはナイバシャ湖で確認
された。
©Koji Nakagawa
スラムに隣接した低地に広がるナイロビダム。乾季には住
民が歩いて対岸まで移動することができる。
湿地の中央部を流れるナイロビ川。汚水や廃棄物により悪
臭が漂う。
ナイロビダム(Nairobi dum)
東アフリカ最大のスラム・キベラスラムに隣接する湿地で、ナイロビ川が流れ込む。乾季
と雨季で水位の変動が激しく、乾季には水がほとんどなくなり、スラムに出入りする抜け
道として、草地の中を住民が往来する姿が見られる。湿地には、ナイロビ住民の生活排水
が流入するだけではなく、スラムの住民が家庭ごみや汚物を廃棄するため、極端に汚染が
進んでいる。ケニアでは、他の途上国と同様に、下水設備の普及・整備が遅れており、特
にナイロビ市内では、急激な人口増、経済発展が進むなか、人々の基本的衛生面向上にお
いて不可欠な下水インフラの整備が遅れている。
©Koji Nakagawa
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