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食品表示行政の現状に関する若干の考察 岡 部 昭 二
121 食品表示行政の現状に関する若干の考察 岡 部 昭 二 は じ め に 昭和30年代は「物を造れば売れた時代」,40年代は「質が問われた時代」,50 年代は聴入とは違ったものを求める「個性派時代」,60年代は物が売れない「レ ス時代」であるといわれる。 たしかに,カラーテレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫,あるいはコンビニエン スフーズで象徴される高度経済成長期と異なり,ヒット商品が生じにくくなっ ている今日,‘‘不透明な時代”と称せられている所以でもある。しかし,不透 明な時代といわれ,また,物離れが進むなかでもヒット商品は確実に存在する。 ヒット商品を造出する秘訣は,先ず消費者の立場で考えることである。消費老. ニーズを把握することである。特に重要なことは,顧客の苦情を積極的に採り 入れ,商品改良,新商品開発などの製品計画ヘフィードバックさせることであ る。 さて,技術革新によって市場に溢出する商品は,いつ,誰が,どのようにし て造ったものであるか,品質はどのようなものかについて消費者はほとんど知 らないし,また,知らされてもいない。いわば消費者にとっても“:不透明な時 代”になっているのである。しかし,以前よりは賢くなった消費者は,自己の 購買した商品について,品質・機能等を知る欲求を強め,行政・企業に対し, 権利要求を行っている。この対応の重要なものに「表示」がある。小論におい ては,食品表示行政に関する最近の動向及び消費者ニーズ,企業の表示上の問 題点を整理し,フレームワーク作りを意図するものである。 122 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 1 食品表示に関する法令 消費者は多品種少量の商品を購入することにより消費生活を営む。その際, 商品の内容を,事業者の表示に依存して判断せざるを得ないことが前提になり, 事業者の表示義務が生じる。この消費者の知る権利の確保により,はじめて市 場の競争が成立し,一部の商品においては「見えざる危険」を防止し,生命・ 健康の権利を確保することがで.きる。したがって消費者は「商贔を正しく表示 させる権利」を有するといえよう。特に消費生活において普遍性,重要性を有 する商品にあっては,事業者団体にのみ依存することなく,政府の管理・指導 に侯つところが大である。 法律において,表示だけを扱うものはないが,その条項として記載されてい るものは,次のとおりである。 (1)食品衛生法(昭和22年12月24日制定 法233号) この法律は,飲食に起因する衛生上の危害を防止し,公衆衛生の向上及び増 進に寄与することを目的として制定されたものであるが,表示に関しては,第 四脚半11条の「表示の基準」において,表示基準が定められた食品,添加物は, その基準に合う表示がなければ,これを販売し,販売の用に供するために陳列 し,又は営業上使用してはならないと規定されている。ここで添加物とは,食 品に添加する物質であり,本来,食品とは区別されなければならないものであ るが,一般的には,使用後は食品と渾然一体となるので本論では広く食品に含 めて論議を展開することにする。第十二条の「虚偽表示等の禁止」においては, 食晶,添加物に関して,公衆衛生に危害を及ぼす虞がある虚偽の又は誇大な表 示を行ってはならないと謳っている。後述のJAS法や景表法とも通じるとこ ろがあるが,食品衛生法の目的から「公衆衛生に危害を及ぼす虞がある」と限 定しているところに注目しなければならない。 (2)農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法) この法律が昭和25年5月11日,法第175号として制定された当時は,「農林物 資規格法」という名称で,適正かつ合理的な農林物資の規格を制定し,これを 食品表示行政の現状に関する若干の考察 123 普及させることによって,農林物資の改善,生産の合理化,取引の単純公正化 及び使用又は消費の合理化を図る目的で制定されたものである。つまり,生産 物が一定の品質以上を確保するようにとの要請から制定されたものであり,消 費者は反射的利益を受けるに過ぎなかったのである。それが,昭和35年7月末, 一消費者の保健所に「三幌のロース大和煮」かん詰中にハエが入っていたとの 届出が発端となり,牛の絵が描かれ,ビーフスタイルとの表示で牛かんとして 販売もされていた実態は,東京と大阪各1社を除き,すべて鯨肉か馬肉が使用 されていたことが判明し,しかもそれにはJASマークが記されていた。農林 省は,JAS規格は中身と表示の相違をみるためのものではなく,製品が規格 に適合するものにマークをつけるものであると弁明した。もとよりこれは法的 には全く正しいが,消費者一般は,JASマークがついていれば国家によって 保証されたもので全く問題のない商品であると思い込むのが現実であった。こ の件をとりあげた主婦連合会は,日本缶詰協会をはじめ,農林,厚生,通産, 公取委,都庁を招集し,対策懇談会を開いた。この頃には,消費者運動も活発 化し,マスコミも大きく報道するところとなった。また,外観だけでは内容を 知る術もない新たな加工食品が市場に溢出した背景もあって,遂に,昭和45年 5月15日,消費者保護が,社会問題として成熟してきたことにより,農林物資 規格法はここに「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」と大 改正されるに至ったのである。 従来の目的に加えて「農林物資の晶質に関する適正な表示を行なわせること によって,一般消費者の選択に資し,もって公共の増進に寄与することを目的 とする。」というものである。 (3)不当景品類及び不当表示防止法(景表法) との法律は,懸賞付販売などによる過大な景品の提供及び虚偽表示,誇大広 告など不当な表示を防止することによって競争手段を公正なものとするという 1) 面と,一般消費者の商品選択権を保護するという面とをあわせてもっている。 1)吉田文剛,『景品表示法の実務』p・iii,ダイヤモンド社,昭和45年。 ’ 124 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) また,同法は,公正競争の確保の見地から一般消費者に誤認を与えるような表 示を規制しようとするもので,農林物資について必要かつ適正な表示を事業者 に積極的に行わせようとする品質表示制度とは,やはり,見地を異にするもの う といえよう,換言すれば,JAS法が品質内容を的確に表現するための表示で あるのに対し,景表法は,JAS法の網の外にある表示に対して,消費者に誤 認を与える表示の排除と適正化をねらいとするもので,消費者保護の立場を一 層鮮明にしたものといえよう。 なお,施行(昭和37年8月15日)当初は,不動産広告における不当表示の規制 がもっぱらであったが,昭和40年代に入り,合成レモン飲料について排除命令 を出して以来,食品を中心として,この法律の適用の幅は拡大しつつある。比 較的最近においては「かに風かまぼこ」といわれるコピー商品の一種について, 「かに」の文言を含む商品名,又はかにの絵,写真若しくは図案の表示に警告 を与えることが主調の「かに肉使用と誤認されるかまぼこの表示について‘適 正表示広告基準’」が,昭和50年7月16日,公取指第418号として通達が出され ている。 (4)栄養改善法 昭和27年7月31日,法律第248号として制定されたもので,その目的は次の 2つである。第一は食品加工に際して失われる栄養素を補充するか,当該食品 のみでは不足する栄養成分を補給することであり,そのようにして強化された 食品は強化食品(enriched−food又はfortified−food)といわれる。なお,食品強 化は,1936年,American Medical Associationに, The Council on Food and Nutritionが設立され,主要食糧の栄養価改善についての指導的事業を開始し たことに始まる。我が国では当初は,強化食品が多数あり,強化食品成分と してV.Cや鉄があったが,戦後間もない頃にくらべ,栄養状態も格段に向上 した現在,その価値は薄らぎ,現在は第1表に示すように10食品群に,V. A, V・ B,,V.B2,カルシウム, L一リジンの強化が認められるに過ぎなくなった。 2)農林水産省食品流通局監修『JAS則度の解説』P.29,日本規格協会,昭和55年。 食品表示行政の現状に関する若干の考察 125 第1表強化食品の栄養成分強化基準 栄養成分標示基準(100g中) 対象食 品 ノ・e で め め 席 め ・一一 麦粉ンんんんそン 押小食ゆ乾即みマ 米 し 麦 V・・(IU小・・(・・)1・…(・・)1・・(・・)IL濁ン @ガ リ 魚肉ハム。ソーセージ 100一・150 50−100 1. 2一一1. 8 1. 2−1. 8 0. 5−1. 8 0.3−O, 5 150−300 150 0. 3−O. 5 0. 2−O. 4 100−200 100 0. 5−O. 8 e. s−o. s 150−300 150 0. 5−O. 8 O. 5−O, 8 150一一300 150 1. 2−1. 8 1. 5−2. 3 300−600 50 0. 2−O. 4 1, 500−3, OOO 4, 500−6, OOO 2, OOO−4, OOO 200−400 食品強化については,本法第12条1項の「販売に供する食品につき,栄養成分 の補給ができる旨の標示又は乳児用,幼児用,妊産婦用,病者男望の特別の用 途に適する旨の標示をしょうとする者は,厚:生大臣の許可を受けなければなら ない。」という規定の前段の部分を占める。後段は特別の用途標示食品といわ れるもので,この2者を合わせて特殊栄養食品と称し,標示許可を得た食品に は「特殊栄養食品マーク」が付せられる。最も身近にみられる食品に,V. A を強化したマーガリンがある。 (5)計量法 計量単位による取引においては,正確に計量してこれを行わなければならな いのが原則であるが,大量生産の状況下においては,計量:の安全を阻害しない 限り,迅速簡便に行うことが必要とされ,これには2つの方法がある。1つは, 「液体商品を透明又は半透明の容器に詰めて取引を行う場合には,その容器の 形式が一定の容積を有するものとして規格化されており,かつ,その高さが一 定であれば,いったん,つめこまれた商品の販売の各段階においていちいち計 3) 量する必要がない」との考に拠るもので「表示容器の使用」である。他の1つ 3) 通商産業省消費経済課監修『産業と消費者保護』,P.380通産資料調査会,昭和46 年。 ユ26 乗田幸三教授退宮記念論文集(第246・247号) 5. 5 241 181 60 171 334 5. 5 241 181 60 171 334 5.5 190. 5 140. 5 50 130. 5 334 5. 5 164. 5 122 42. 5 112 500 7 255 190 65 179 633 8 284 219 75 207 633 8 284 218 76 207 mm 335 390 260 250 470 580 備 考 型型型型型型型 張肩 肩張網 肩撫新新撫肩転 334 考量 さ(B)mm 参重 mm 法律上詰 商品の詰 めるべき 込誤差 商品の高 囚一(B} 01 01 01 011 21 2 1 mrn 空 寸 9 曝高 基入囚m 量︵︶m 耐 同線線 量差 血 量 容公 容 準味 第2表 ビールの特殊容器の基準 580 注特殊容器とは㊧のマークが付された容器のことである。 計量法施行規則に拠り作成 名 ,な 塩ど 食 肉 端一 食ス 野ジ ハ野 か菜 ㌣ 〃 品 食 第3表正味量表記食品の例 表記、正味球 磨目公差 100g以下のもの 十4g一一一2g 1009より多く1kgまでのもの 十 4 O/o ・N・一 2 e/a 1kgより多いもの 十 3 a/o A一一 1 O/o 計量法施行規則に拠り作成 は,「一定の商品をあらかじめ計量したうえで容器に入れ又は包装し,その正 味急落は品質を表記して販売する場合には,この容器又は包装が破棄されない 限り,その後の段階においては,これを再びいちいち計量する必要がない(第 75条第4項,第76条第3項),というもので,「正味量表記商品」と称される。若 干例を第:2・3表に掲げる。 以上5つが,食品表示に関わる表示である。 2 地方行政による規制 国家の法律を補完する目的で,地方自治体が,基準を作成し指導する制度が ある。その1つに地域食品認証制度(通称ミニJAS)がある。本制度は,目的, 仕組ともおおむねJAS制度に準じている。即ち,適正な表示を通して消費者 食品表示行政の現状に関する若干の考察 127 第1図 地域食品認証制度事業実施状況 昭和62年4月現在 も し 笹 揚 包 あめ 団子 ち よりつゆ豆 装 もち げか まぼこ類 抜きか ま冨類 にやく ゆ でか まぼこ類 焼 ん まぼこ類 腐 担 当 課 こ 実施 揚げ 乙名 政 ケ県名 納 豆 蒸 しか 1121314 i516i718 19110【11肛2 油 実施 品 目 農 豆 2青 森 生活福祉部消費流通課 ⑫ ㊥ 3岩手 農政部農業経済課 ⑩ ⑳ ⑩ ⑫ ⑫ ⑫ ⑫ 生活環境部県民生活課 ⑱ ⑱ ・5新潟1蠕環獺消難副⑱團働i㊥晦総⑱1 1 福祉生活部消費生活課 ⑫ ⑫ 企画部県民生活課 ⑲ ⑲ ⑲ ⑲ 生活福祉部総務福祉課 ⑭ 福祉生活部生活婦人課 ⑪ ⑭ @ ⑭ ⑭ ⑪ ⑰ ⑯ ㊥ ⑳ ⑳ ⑪ ⑪ 隔目別実獺 ⑳ ⑭ ・・熊刺福姓瀞賑蠕纏⑭⑳⑳⑳1⑳國 注 ○内は実施年度 ︸ ︸ 国 企画振興部県民課 ⑫ ⑫ ⑫ ⑪ ⑮ ⑲ ⑫ 地域振興部県民生活課 ⑲ ⑲ ⑤ t 圓⑱ ⑲ ⑮ ⑫ ⑭ ⑪ ⑪ 中 国 九州 目 ⑬ ⑮ 近畿1・8滋劃蠕糊部県貼醐⑱⑳t 19岡 山 20広 島 21徳 島 22香 川 23愛 媛 24高 知 ⑮ 生活環境部消費生活課 ⑫ ⑫ @ ⑫ ⑯ 16岐阜 農政部流通特産課 17三 重 四 ⑲ ⑲ ⑲ ⑱ i⑲ 農政部農業経済課 ⑳ ⑳ ⑳ ⑲ ⑲ ⑲ ⑲ ⑲ 13神奈川 14静 岡 ⑤ ⑭ ⑭ ⑭ 曾 海 東 農務部園芸特産課 10群馬 農政部流通園芸課 11埼玉 農林部食品流通課 12千葉 企画部消費生活課 ⑫ 北陸 農林水産部流通園芸課 ⑳ ⑭ ⑪ ⑳ 東 ⑫ ⑫ ⑭ ⑭ 9栃 木 ⑱ ⑫ 関 8茨城 ⑭ ⑭ ⑭ ⑩ ⑫ 6山形 7福 島 生活福祉部県民生活課 ⑫ ⑫ ⑫ 生活環境部県民生活課 ⑳ ⑳ ⑳ ⑱ 生活福祉出生活文化課 ⑱ ⑫ ⑫ 生活福祉部県民生活課 ⑱ 北 4宮 城 5秋 田 ⑫ ⑩ ⑳ ⑩ ⑭ 東 ⑫ ⑩ ⑫ 1 ・北闘鶏環境部嘉事課陣1⑳陣陣回 1 1 1 ⑳ ⑭ 125図・・1・・巨41・21・}・i・1・i・i・ 128 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) の購買選択に資するとともに,品質の改善を目的とするもので,昭和48年度か ら実施された。その仕組としては,国が全国的な見地から準則を作り,その中 において,対象品目について,一定の品質基準及び表示基準を定め,道・県の 定める認証基準は,これをみたすものとしている。また,JASマークに準じ た認証マークを設けている。対象食品は,流通形態・流通範囲が地域的に限ら れる点が特徴:であり,本制度がミニJASとも称せられる所以でもある。これ は地域食品認証制度実施要領,昭和48年6,月27日の農林水産省の通達に基づく ものでJASと異なり実施主体は各県であり,政令都市は含まれない。昭和62 年8月現在,1道24県が実施している。第1図に示すとおりである。最近では, 保冷車の使用,店舗における冷蔵設備の完備により,地域商品も広域流通化し, 当初の目的からの乖離傾向が認められること,昭和60年度からミニJASへの 補助金が打ち切られたこと。また,指導調査費を地方行政が負担しなければな らないこともあり,昭和50年にすでにミニJAS制度を導入していた兵庫県は, 昭和59年に至り離脱した。これに代替するものとして同様な表示が,兵庫県 の消費者保護条例に基づいて定められた「包装食品の品質表示基準(昭和59年 3月30日告示)によって定められ同年9月から実施している。地方自治体の条 例の場合は業界団体の自主規制を地方行政が育成する形で進められるものであ る。具体的には消費老,企業,学識経験者から成る消費者保護に関する審議会 の答申を受けて策定するものである。条例化された場合,兵庫県のように強制 表示となる場合と,愛知県のように業界の自主性に委任する場合とがある。何 れにしても地方自治体の十分な指導・育成が必要とされるが,特に食品の種類 により,製造年月日表示については売れ残り品の問題等もあって,一部事業者 の抵抗があり完全実施は難しい傾向が認められる。しかし,大型小売店等にお いては店のイメージアップにもつながるため,仕入基準を厳格にし,規定の表 示を要求する店が多い。業界の自主規制適用の1例として,愛知県こんにゃく 工業協同組合が,昭和50年11月に決定・実施した「こんにゃく」の表示事項を 第2図に示す。なお豆腐類とは異なり,内容量及び製造年月日については,で きるだけ早めに表示するよう努力する,と付記されているが,表示発足時には 食品表示行政の現状に関する若干の考察 129 第2図表示に関する自主規制 愛知県こんにゃく工業協同組合 (昭和50年11月決定,実施) (1)表示事項(一括表示) 品 名 原材料名 こんにゃく こんにゃくいもこ 海草粉末(但し白は含まず) 水酸化カルシウム 内 容 量 製造年月日 グラム単位で表示 次の例の中,いずれも可 (イ}昭和50年11月1日 (ロ) 50. 11. 1 質間者 調造 品保製 を’う 1975. 11. 1 3ケ,月 氏名又は名称及び住所 ◎ この様式は,たて書でも可 (2)禁止事項 まぎらわしい用語,内容物を誤認させるような文字,絵,その 他の表示 (注)① 品 名 角こんにゃく,糸ごんにゃく,突きこんにゃく等各 種あるが,「こんにゃく」の表示だけでも可 ②襲葦譜・イ}記温血又はち・う附箇所・明記があれば他の箇 所でも可 回 出来るだけ速めに表示するよう努力する (参 考) すべての包装こんにゃくに適用 付記された。愛知県においては,①豆腐(充てん豆腐,普通豆腐)②こんにゃく ③納豆 ④食パン ⑤食肉 ⑥油菓子の6品目がその対象になっている。一一ma に,油菓子については,流通機構が複雑で,メーカーは製造年月日表示の必要 性を認めているが,流通業界の抵抗が大きい。 3 ニュータイプ加工食品生産・流通等実態調査 ニュータイプ加工食品生産・流通等実態調査は,農林水産省において,昭和 58年度から実施された。ニュータイプ加工食品の市場浸透要因としては,①全 般的にみて,需要の停滞と供給過烈及び人件費の高騰による利潤の低下を主因 とする食品産業界の低迷 ②消費者の食品に対する安全性・内容表示・価格へ 130 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) の関心に加えて,食物摂取を通しての健康志向の2点を指摘することができよ う。 このような背景のもと,最近,特に顕在化した消費者の健康志向ニーズをと らえ,加工食品業界は.,競って健康志向イメージ商品を生産・販売し,本業界 の活性化を図っている。また,加工食品工業技術の高度化により,原料の入手 困難な商品及び高価格の商品については,代替商品を市場に送り出し,新たな 市場を開拓しているものがある。これが,いわゆる‘‘コピー食品”である。し たがって“ニュータイプ加工食品,’の主流は,‘‘健康食品,’と“コピー食品” であるといえよう。 本実態調査事業は,こうした新たな加工食品(ニュータイプ加工食品)につい て,企業から開発意図等を,消費者から利用意図等についてアンケート調査を 実施するとともに,市場にある商品の表示及び内容について調査・分析し,こ れに基づいて適正な表示を行わせることにより食品産業の健全な発展に資する とともに消費者の適正な購買選択にも資することを目的としているものである。 その対象品目は,第3図に示すとおりである。草中の分類とあるのは,目的別 分類のことで筆者の見解に基づくものである。本表から,如何に健康志向イメ ージをアピ㌧ルした品目が多いかが読み取れる。 初年度に調査が実施された品目を概略説明すると,次のとおりである。①植 物性チーズ:乳製品であるチーズのコピー食品である。製菓用(ケーキ,サンド タリー一一ム等),調理食品用(ピザ等)などの業務用が主体である。淡白な風味と その経済性などを特色とする。②植物性クリーム:生クリームのコピー食品で ある。コーヒー用,ホイップ用及び粉末クリームとして業務用の外,家庭でも 使用されている。③胚芽油など:V.Eを豊富に含有する植物胚芽油などをゼ ラチンで包んだカプセル状の食品である。④スポーツドリンク:スポーツ時に 失われる水分とミネラルを補給するもので,清涼飲料が主体であるが,粉末状 のものもある。⑤小びん入りドリンク:各種ビタミン,アミノ酸等の栄養素を 添加した一種の“健康飲料”である。⑥豆乳類:豆乳,調整豆乳,豆乳飲料, はっ酵豆乳があり,健康イメージをセールスポイントにしている。 食品表示行政の現状に関する若二Fの考察 131 第3図 ニュータイプ加工食品生産・流通等実態調査及び 新食品等品質表示適正化推進事業 目 昭和58年度 対 象 品 i分類 植物性チーズ 植物性クリーム 胚芽油など スポーツドリンク 小びん入りドリン.ク 豆乳類 昭和59年度 特殊食酢類 みりん風調味料 ふりかけ類 ミネラルウォーター類 昭和60年度 特殊錠菓子類 ミキサーードリンク 特殊精製魚油 野菜入り菓子類 低丁丁の表示のある塩辛・明太子 コーヒー用フレッシュ 昭和61年度 うす塩等の表示のある味噌 スポーツドリンク 塩分を控えた漬物 塩分を控えた魚介加工品 小びん入りドリンク類 あまちゃずる茶 昭和62年度 カルシウム添加の菓子類 チルド食品 山ぶどう 乾燥肉 酵素飲料 梅干・梅漬 すだち加工酢 ダイエット食品 ミ矛ラルウォーター 自然食品(風味めん・いわしかまぼこ) カット野菜 (注)C:コピー食品 H:健康志向食品 0:その他 昭和58年度・59年度は,ニュータイプ加工食品生産・流通等 実態調査,昭和60年度以降は新食品等晶質表示適正化推進事 業による。 HH HHHH HO HOOHOHHHHO CCHHH HO HOH HOHHH 実施年度 132 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 第4図 企業のselling point,消費者のbuying Point 味の良さ 企業の selling point @@@@ @ 消費者の buying point 消費者のマイ ナスイメージ @ 健康性 廉価性 ファッシ ョン性 オリジナ @@@@ @@ @ @@ @@@@ @ リティ @ 品質・ 安全性 @@@ 調査の結果,品目ごとに,企業のセリングポイントは若干異なり,また消費 者のバイイングポイントも異にしている。なお企業の思い入れと消費者の思い 入れとが全く異なる場合も認められる。例えば,豆乳については,味の良さを selling pointとしているが,消費者は味が悪いとみている。つまり,消費者 は豆乳を‘頭で飲む’のである。また,胚芽油,スポーツドリンク,小びん入 りドリンクについては,消費者の評価は分かれており,健康イメージを有す る者と,その品質・安全性に疑問を抱く者との二極化現象が認められる(第4 図)。なお,消費者は,これらニュータイプ加工食品の購買時点において,製 造年月日,原材料,食品添加物,銘柄等に注意するとしており,多様な商品の なかから,それぞれの商品特性に応じて慎重な商品選択をしていることが明ら かにされた。 これらニュータイプ加工食品の調査方法は,①企業調査,②商品分析調査, ③消費者調査に3区分されるが,表示の調査は,多くの場合,食品の各種成分 含量等が,表示内容と一致するとみなし得るかを点検するため,商品分析調査 といわれている。 なお,本実態調査は,(財)経済調査会にまとめを依頼している。 4 新食品等品質表示適正化推進事業 本推進事業は,①品質表示適正化推進事業と②品質表示ガイドラインの推進 事業の2つから成る。ここで新食品の定義は特になされていない。しかし, 食品表示行政の現状に関する若干の考察 133 「事業の趣旨」のところで「いわゆる健康食品・自然食品・低カロリー食品, 地域特産物を利用した新しい加工食品等」を新食品等としていることが読み取 れる。本事業は,さきのニュータイプ加工食品・流通等実態調査に引継がれた 形で昭和60年度から実施されている。 つぎに①品質表示適正化推進事業について考察する。本事業は・地方自治体 が市場から対象食品を収集し,分析試験,時には消費者モニターを対象に使用 テスト,官能テストを行い,表示上の問題点を検討するものである。したがっ て,従来のニュータイプ加工食品生産・流通等実態調査にくらべ,より消費者 サイドに立ち,既述の②商品分析調査,換言するならば,食品表示及び内容等 の調査分析に焦点を絞ったものと考えてよいであろう。筆者は,本事業に,愛 知県の学識経験者の委員として関わった。対象品目が定まると,テスト前には テスト方法はもとより,どのようなテスト項目について点検する必要があるか を,消費者,企業者,行政者及び学識経験者の四者構成で審議し,テスト等の 終了後においては,テスト結果の報告と,それに基づく消費者のための啓発資 料の内容について愚者懇談が行われる。 愛知県においては,昭和60年度に,低上等の表示のある塩辛・明太子及びコ ーヒー用フレッシュを,昭和61年度に,うす離間の表示のある味噌及びスポー ツドリンクを実施した。また,昭和62年度には,カルシウム添加の菓子類及び チルド食品を選定し,現在実施中である。なお,テスト機関は県の4消費生活 センターである。 次に昨年度実施した「うす等等の表示のある味噌」及び「スポーツドリン ク」について,表示上の問題点を指摘してみよう。 (1)うす賢愚の表示のある味噌 ①塩分量:豆味噌,調合味噌,米味噌共にうす塩表示晶(第5図)は,表示 のないものより,塩分の平均値は低かった。しかし,銘柄間格差が大きく,個 別的には低塩表示品が対象にくらべ,塩分量が多いものが3種類とも認められ た(第6図)。 ②義務表示 食品衛生法の表示義務に違反する例は皆無であった。なお,味 134 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 第5図テスト対象品の表示 「食塩%カット」「(食)塩ひかえめ」 一塩に関する表示 「うす塩(仕立)」 「省・塩分」「あま塩」等 41銘柄 塩分量表示 27銘柄(うす塩等表示品41銘柄中) 5銘柄(対照品28銘柄中) , 第6図みその塩分量の比較 職 A麓熱] [豆==亟=璽コ [巫コ [ヨ亙=亜コ 塩 塩 塩 食 分 四 輪熱箒戦鯵豊 。一 o一 olZ一一m一一一 第7図望ましい表示例 品 名 ○○○豆みそ 原材料名 大豆,食塩,砂糖,化学 調味料,○○○……… 内容量 ooog 製造年月日 61. 11. 28 製造者 000株式会社 愛知県名古屋市○○○ 栄養成分表(Og当たり) エネルギー たんぱく質 脂 質 炭水化物 食 塩 OO kcal oog oog oog oog ●煮出し汁 ○Omlを煮立てたところに味噌○Ogを入れさっと煮立てて ●賞味期聞 冬 製造年月日から○か月間 夏 製造年年日から○か月間 ●開封後は 冷蔵庫に保管して下さい。 お召し上り下さい。 食品表示行政の現状に関する若干の考察 135 噌はJAS法の指定品目ではなく,また,ミニJASや県条例による規制もな い。 ③自主表示,テスト対象品69検体中,栄養成分表示13銘柄,保存方法36銘柄 味噌汁の作り方31銘柄,賞味期間1銘柄があった。これら親切表示は望ましい といえる。特に味噌汁の作り方などは,単身赴任者及び高齢男性にとって,今 や必要表示事項となっている感がある。望ましい表示例を第7図に示す。 (2)スポーツドリンク ①義務表示:食品衛生法の表示義務は,遵守されていた。 ②自主表示:スポーツドリンクは,新しいタイプの清涼飲料であり,一般に 周知させる目的や,時には販売促進のためとも思われる商品特性を示す説明文 が多く認められた。 サブタイトルとして,かつて0社の有名銘柄品は「アルカリ飲料」と表示さ れていたが,消費者に,健康に良いと誤認されるとして認められなくなった経 緯があり,現在では「イオンサプライドリンク」に変更している。他に,スポ ーツドリンク,アイソトニックドリンク,イオンバランス飲料などがある。 説明文として,①スポーツ時又は,後に飲むのに適していることを強調する ものがあるが,これはスポーツドリンクのサブタイトルに対応する。②体液の 浸透圧と同じ又は近いとし,体内への吸収の早いことを強調するものがあるが, アイソトニッタ飲料の意である。③体液組成に近い電解質溶液であり,体内へ の吸収が速いことを強調するものは,イオンバランス飲料に対応する。 電解質濃度(イオン濃度)の表示のあるものは,対象12銘柄中8銘柄であっ た。このなかでO社の有名銘柄の含有成分量の単位はme・q/1であり,消費者 には難解なため,mg/1にすべきであるとの意見もあったが, Na+23 meq/1を, たとえNa+0.0539/1と表示したところで,真の理解が果たして可能であるか と疑念を抱かざるを得ない。0社は医家向けに輸液を製造する会社で,この表 現は理に叶うものであり,敢て表示を変更することもないと思われる。 電解質濃度に関しては,表示値と分析値の相違はK+を除き,対象12銘柄中 6銘柄に認められた。更に,「体液の組成に近い電解質溶液のためすばやく吸 136 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 収されます」との表示のある銘柄についての分析結果では,体液のイオン組成 とは異なっていた。また,スポーツドリンクの浸透圧は,3330sm∼6710sm であり,その平均424 mOsmは体液(約290 mOsm)の約1.5倍であり,体液の それに近いものは3銘柄のみであった。以上のように,自主表示は,分析結果 と照合すると,かなり問題があるものであった。 つぎに②の新食品等品質表示ガイドラインの推進事業について若干の考察を する。 すでに見てきたように,近年,健康食品・自然食品及びいわゆるコピー食品 が市場に溢出しているが,品質特性が定着していない。換言すれば,品質の良 し悪しの基準を設定することが困難である状況にある。とするならば,品質表 示の基準を定め,健康食品を謳うもののうち偽賢宰を排除するとともに,消費 者の適正な選択に資する必要性が増大してきている。品質基準を定めることが できない以上JAS規格に取り込むことはできないが, JAS法に定める表示基 準に準拠して,適切な表示を行うよう,農林水産省食品流通局長から関係団体 宛,62食流下1321号として,昭和62年3月31日に通達したところである。 昭和62年9月現在,設定をみた品目は,魚卵成形加工品,はとむぎ食品及び ビタミンC含有菓子の3品目である。現在,鳥竜茶について設定するべく作 業中であるが,ビタミンE,カルシウムを含む食品等についても早急に表示す べきであろう。 5 不当表示の場合 昭和35年の「にせ牛缶事件」が契機となって,昭和37年5,月15日,法律第 134号として制定をみた不当景品類及び不当表示防止法は,その第十条に,:不 当な表示等によって,不当に顧客を誘引することを防止し,公正な競争を行う ことを盛り込んだ「公正取引規約」がある。事業者が,不当表示を行う根底に は,競争者間の対抗意識を基盤とし,自己が自粛しても他はするであろうとの 相互不信があるので,業界団体の話し合いで自主規制し,相互監視をすること も有効な方法である。そこで適正表示カルテルを公正取引委員会の監視の下で 食品表示行政の現状に関する若干の考察 137 認めようというものである。表示規約については,排除命令又は指定告示によ って,不当表示基準が明確になっている場合は問題が少ないが,不当表示基準 を決める場合は,事業者団体の「売れなくなるような表示はしない」という自 主規制による制約が強く現れることがあり,消費者の批判を受けることになる。 果汁飲料の公正競争規約の認定に対し,消費者団体から不服申立てがなされた のは著名な一例である(この結果,前記無果汁飲料にづいての指定告示がなされたが, 公正取引委員会は,消費者ないしは消費者団体には不服申立の原告適格がないとして,こ れを却下している)。 不当表示の件で社会問題化した例として,レモンから滴り落ちる図柄のラベ ルを貼りながらその実,V.Cのない合成レモンであったポッカレモン事件を はじめとして幾つかある。つぎに,その代表例を示す。()内は告示年月日で ある。①合成レモン(42.11.1) ②食品かん詰(43.9.2) ③はちみつ類 (44.11.13)④果実飲料(46.3.5最:終改正49.1.11)である。なお,昭和 60年度・61年度については第8図,第9図に示すとおりである。即ち,昭和60 年度は,排除命令に該当するものはなく,主要な警告事件は5件,主要な要望 は3件(第8図)であり,昭和61年度は,排除命令該当はなく,主要な警告は 6件,主要な要望は4件である(第9図)。ここで,法的措置は,排除命令だけ で,警告は事業者,要望は事業者団体向けの指導措置である。速やかに改善措 置をとるよう指導された事業者は,改善措置を文書で答える仕組みになってい るが,要望の場合は,必ずしもそのようになっていないようである。かに肉使 用と誤認されるかまぼこの表示について「適正表示広告基準」は,昭和49年12 月19日,全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会を通じて業界に対し,表示を是正 するよう要望したが,まだ改善が十分に認められないとして,再度,昭和50年 7,月16日に要望が出されている。更に昭和59年にも要望が出されている状況で ある。このような要望・警告・排除命令のきっかけとしては,消費者の苦情が 多くを占めると思われる。たとえば,ソーセージの手作り表示もその例であり, 現在,公取モニターを対象とし,手作りのイメージ調査を行い,公正競争規約 を定めるべく作業を進めている。公正取引を確保するため,事業者が公正取引 138 病田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 第8図 昭和60年度における主要な警告・要望 主要な警告事件 蓼警舗・事件名 峰 件 概 要 違反法条 ミネラル麦茶と称する水出し麦茶の 販売に当たり,あたかも当該商品に 添加された「ミネラル石」と称する 石粒の作用によって,水道水中の残 留塩素が消失するとともに,「ミネ 食品製造業者 ラル石」と称する石粒からミネラル 1 昭60.5。10 ・対す・件錬隻藷聖書解織無毒菱第4条第1号 茶とは異なった麦茶ができるかのよ うに表示しているが,実際には,「ミ ネラル石」と称する石粒の作用によ って水道水がミネラル下滝は自然水 に変わるとはいえないものである。 ブランデーの販売に当たり,包装箱 に馬上のナポレオンの図案を表示す るとともに,「Monde NAPOLEON 酒類製造業者 Brandy」等と表示し,あたかも当 2 昭60.7.29 に対する件 該商品の原産国が外国(フランス) であるかめように表示しているが, 実際には,国内において製造された ものである。 第4条第3号 原産国告示 (昭48告示第 34号) 健康食品の販売に当たり,広告に 3 4 昭60.9.11 食品販売業者 に対する件 「減量が簡単に,確実に1」,「…… 1週間もすると,ウエストの脂肪が, 突然うそのように落ちているのに気 テきます。」等と表示しているが, 実際には当該商品を摂取しても痩せ るとは言えないものである。 第4条第1号 氷果ブドウを原料として醸造したワ インであるかのように表示していな がら,実際には皇尊ブドウを原料と ワイン製造業 するものは少量含まれているにすぎ 昭60.11.20 ず,1978年の貴腐ブドウを原料とし 第4条第1号 者に対する件 て醸造したワインであるかのように 表示していながら,実際には1978年 のブドウを原料とするものは含まれ ていなかった。 人工甘味料の販売に当たり,「ノン カロリー健康甘味料」等と表示して 8 昭61.1.9 食品販売業者 に対する件 いるが,実際には,当該商品はサッ カリンを主成分とするものであり, 商品の内容について誤認される表示 である。 第4条第1号 食品表示行政の現状に関する若干の考察 139 番号 主要な要望 要望年月日 要望先名称 概 要 「アルカリ飲料」等の表示について,容器等に, 2 3 (社)全国清涼 昭60.4.22 昭60.5.10 「アルカリ性」,「アルカリ性の食品です」などと記 飲料工業会 載すると,あたかも人の健康に有益であるかのよう な印象を与え,不当志野となるおそれがあるので, 適正な表示を行うことにすること。 全国麦茶工業 水出し麦茶に,「ミネラル石」等と称する石粒食を 添加し,又は同麦茶の製造過程で石粒を煮出した液 を麦茶に振り掛けた商品を「ミネラル麦茶」等と称 し,包装箱等に,あたかも,水道水がミネラル水や 天然に近い水などに変わって通常の麦茶とは異なっ た麦茶ができるかのような印象を一般消費者に与え る表示を行っているが,実際には,そのような事 実はないので,表示が適正に行われるようにするこ 協同組合 と。 6 昭61.3.14 全日本漬物協 同組合連合会 たくあんの「無添加」等の表示について, ①化学的合成品である添加物を使用している場合に は,それが食品衛生法上表示義務のないものであ っても,化学的合成品である添加物を使用してい ないと認識される表示は行わないこと。 ②たくあんの製造に本来使用され,一般消費者に十 分知られているもの以外のものが添加されている 場合には,それが化学的合成品であるか天然の添 加物であるかを問わず,「無添加」又はこれと同 様の表示を行わないこと。 第9図 昭和61年度における主要な警告・要望 主要な警告事件 番号 警告年月日 事 件 名 事 件 概 要 違反法条 中国茶の販売に当たり,「食事制限 不要の中国痩身法」,「飲むだけでシ ェイプアップに役立つ」等痩身,減 量効果があるかのように衷示してい 2 昭61.4.26 中国茶販売業 −s一 4 . 30 者に対する嘉 るが,実際には今日の医学,薬学, 栄養学においては,中国茶に痩身, 減量という特別の効果は期待できな いとの見解が支配的な状況にあり, このような表示は客観的,合理的な 根拠があるとは認められないもので ある。 第4条第1号 140 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 番号 3 警告年月日 昭61.5,28 事件 名 事 件 概 要 小麦粉販売業 小麦粉の販売に当たり,「信州小麦 地粉」と表示し,原料小麦の産地を 強調しているが実際には,長野県産 の小麦は少量使用されているにすぎ 者に対する件 違反法条 第4条第1号 ないものであった。 プァール茶に花粉を混合した茶の販 売に当たり「タバコと縁が切れる」, 4 昭61.9.2 通信販売業者 に対する件 「禁煙茶老舗謹製「三皇」」等とあ たかも禁煙,馬煙できるかのように 表示しているが,実際には当該茶に 禁煙又は減煙効果がある旨の表示は, 客観的,合理的な根拠があるとは認 められないものである。 第4条第1号 玄米酢の販売に当たり「酢であれば なんでも良い,という訳ではありま せん」,「玄米に含まれる豊富なアミ 5 昭61.9.3 食酢販売業者 に対する件 ノ酸,ビタミン,ミネラルがそのま ま残っています」等と記載し,あた かも当該食酢が他の食酢と比較して アミノ酸,ビタミン,ミネラルが豊 富に含まれており,摂取すれば持久 力の保持・増進に役立つかのような 表示や疲労,肩こり等を防止するか のような衰示をしているが,このよ うな表示は客観的,合理的な根拠が あるとは認められないものである。 第4条第1号 かに爪を使った冷凍食品の販売に当 たり「GOURMET SELECTかに 昭61.12.15 件 6 冷凍食品販売 業者に対する 爪フライ」,「新鮮な身をいっぱいつ けたかに爪をサックリしたころもで 包みました」等と表示しているが, 第4条第1号 実際には,当該商品はかに肉35%か ら42%のものに,たらのすり身を加 えて作ったフライ用食品である。 家庭用密封包装器について,「家庭 用真空パック器」,「‘’真空パック” 召召62,2.16 件 8 家庭用品販売 業者に対する にしておけば,鮮度栄養価など失わ ず,採りたて,作りたてのまま長期 保存が可能になります」等と表示し ているが,実際には真空にするよう な脱気性能はなくまた,表示のよう な長期の食品保存効果は認められな いものである。 第4条第1号 食品表示行政の現状に関する若干の考察 141 摘 番号 主要な要望 要望年月日 要望先名称 要 中国茶(烏竜茶及びプァール茶)に,「やせたい方 の美容茶」,「太る心配がない」,「肥満をふせぐ」等 1 (財)日本健康 昭61.4.30 食品協会 痩身,減量効果があるかのように表示しているもの があるが今日の医学,薬学,栄養学においては,中 国茶に痩身,減量という特別の効果は期待できない との見解が支配的な状況にあり,このような表示は 客観的,合理的な根拠に基づくものと認められない ので,このような表示が行われることのないよう傘 下会員を指導すること。 2 3 5 昭61.8.6 カビ防止剤のすべて又は大部分を使用しているレモ ンであるにもかかわらず,それらカビ防止剤を一切 日本チェーン 使用していないかのような表示又はその一部のみを ストア協会及’ 使用しているかの表示をしているものがあったが, このような表示はレモンの品質について実際のもの び近畿百貨店 より著しく優良であると一般消費老に誤認されるの 協会 で,このような表示が行われることのないよう傘下 会員を指導すること。 (社)日本冷凍 昭61.11.13 食品協会 (社)日本電機 昭62.2.16 工業会 かに兜虫に魚肉すり身心は魚肉ねり製品等を加え て,昏昏部分を大きく見せたフライ用食品を,「か に爪フライ」,「かにッ白骨フライ」等と称し,あた かも,可食部分についてのかに肉のみを衣で包んで 作ったフライ用食品であるかのように表示している ものがあるが,このような表示は当該食品の品質・ 内容について実際のものより著しく優良であると一 般消費者に誤認されるので,このような表示が行わ れることのないよう傘下会員を指導すること。 家庭用密封包装器について,真空にするような脱気 性能がないにもかかわらず,商品名に「真空パック 器」等と表示しているものや,通常の食品保存法と 比較して特に長期保存の効果があると言えないにも かかわらず,「ぐったりとなったり,カラカラにな る野菜も,新鮮保存」,「果物や野菜類の新鮮さを長 もちさせます」等と表示しているものがあったが, このような表示は,当該製品の性能等について実際 のものより著しく優良であると一般消費者に誤認さ れるので,このような表示が行われることのないよ う傘下会員を指導するとともに,当該製品の性能に ついて表示基準を作成し,これに基づいて表示の適 正化を図ること。 委員会に,表示の是正を申し立てることは,考えられないことではないが,実 際上,ほとんどないようである。 142 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 6 観光土産品の場合 次に,観光土産品の場合について考察したい。観光土産品の表示に関する公 正競争規約は,昭和41年2月15日に告示された。必要な表示事項は,①商品 名 ②商品名,絵等で内容物又は原材料を誤認されるおそれのある場合の内容 物又は原材料名 ③重量又は個数 ④製造又は保存期限の年月日 ⑤賞・特許 等を表示する場合の客観的根拠 ⑥製造業者又は販売業者の氏名及び住所,で ある。また,表示基準としては,過大包装の基準があり,不当表示とみなされ る禁止事項としては ①賞,推奨等について誤認されるおそれがある表示 ② 過大包装がある,となっている。 これを受けて,愛知県では観光土産品業界(製造又は販売する者)も昭和43年 7月に「愛知県観光土産品公正取引協議会」を設立し,自主規制により「良い 土産品を観光客に」をモットーに発足した。その間,協議会では,毎年1回試 買検査により自己チェックを実施している。最近の例では,昭和60年に「観光 土産品試買検査会」を実施している。試買地は,名古屋市,岡崎市,豊川市, 美浜町,南知多町の5市町,検査員は,消費者,関係行政機関,関係団体,関 係業界から選定された16名を以て構成する。検査会においては,検査対象商品 となった50点について,各検査員が,表示・包装についての判断結果を検査票 に記入する。次にこの検査結果に基づき,意見交換を行い,事業者に対する改 善措置内容を取りまとめる。検査の結果,不当表示等と認められる事項及び, 改善を要する事項があれば,本協議会から関係事業者あて改善を依頼(本協議 会工員以外の事業者に対しては愛知県消費生活課から)し,表示・包装等の適正化を 図っている。 昭和58年に実施したときは,40点景33点に何らかの問題があり不良率は,80 %にも達した。これは問題のありそうなものについての試再検査であるが,消 費者としては,購買時点において,表示等に十分注意する必要があるといえよ う。 最近,名古屋駅構内の土産品売場で,愛知県観光土産品公正取引協議会の認 食品表示行政の現状に関する若千の考察 143 定証マークの貼付状況を調査したところ,1件を認めるに過ぎなかった。 推奨商品の有効期間は2年であり,その後は:更新の手続きを要する。昭和60 年度の実績では,菓子の部が60品目,食品の部は40品目である。なお,公正競 争規約第2条には「観光土産品」とは食品類と定義されているが,民・工芸品 の部は17品目である。昭和61年度の推奨品は,菓子の部が52品目,食品の部が 31品目,民・工芸の部が10品目,総計210点である。これに対し,名古屋市の 場合,昭和62年9月15日現在,「名古屋市推奨みやげ品」は223点にのぼり,.当 然のことながら,同一品目が愛知県観光土産品となっているものが多い。名古 屋市の場合のシールは「昏昏マーク」といわれるが,貼付されているのを未だ 見掛けたことがないという者も多く形骸化している。愛知県の審査要領は,新 製品は,包装,表示,風味,品質,価格,意匠及び郷土色の6区分とし,それ ぞれについて評価する。名古屋市の判定基準は,①旅行に携帯便利なこと ② 風味,品質共に佳良であること ③価格,意匠が土産品として適切であること ④郷土を象徴すること ⑤量産が可能であること ⑥食品にあっては,食品衛 生法の諸規定に違反しないこと ⑦食品類にあっては,観光土産品の表示に関 する公正競争規約の諸事項に違反しないこと,とし,推奨の判定は原則として 「採点制」によるものとし,予め委員会の定めた合格点以上のものを合格,未 満のものを不合格としている。両者表現は異るが,内容的には大同小異であり 実質上相違点は,わずかに名古屋市が携帯便利を掲げているに過ぎない。 前述したように,愛知県の観光土産品のシールを土産品に貼付する例は,ほ とんど見掛けることがないが,富山県では年間1,200万枚∼1,300万枚のシール の需要があり,愛知県の10倍以上に達するといわれる。外には,鹿児島県,熊 本県,宮崎県が多い。逆に宮城県,福島県,大阪府は制度化されていない。ま た,今夏,京都駅構内及び2・3の県の観光地で調査の結果,観光土産品シー ルを全く認めることができなかった。貼付しない理由としては,貼らなくても 売れる,貼るのが面倒である,の2点が主要であるといわれる。とするならば, 存続の根拠は何かと問うと,知事,市長等の推薦状の取得であるとの声が聞か れる。 144 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 7 健康食品の場合 薬事法が制定された当初から薬事法の規制を免れ,食品の名目で医薬品を販 売する者は少なくなかった。しかし,これが顕在化したのは,健康志向が顕著 になった昭和40年前になってからのことである。当然厚生省は,これを取締ま るため,「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46.6.1各都道府 県知事あて厚生省薬務局長通知)を示し,医薬品に該当するか否かの解釈の基準 を明らかにした。即ち,「人が経ロ的に服用する物が,薬事法第二条第一項第 二号又は第三号に規定するか否かは,その物の成分本質,形状(轡型,容器,包 装,意匠等をいう)及びその物に表示された使用目的・効能効果・用法用量並び に販売方法,販売の際の演述等を総合的に判断して,通常人が同法同条項第二 号又は第三号に掲げる目的を有するものであるという認識を得るかどうかによ の って判断すべきものである」というものである。このことは健康食品そのもの の存在を否定するものとみなし,事業者の反発を招き,裁判で争われる事例が 増加した。しかし例えば「高血圧,糖尿病等に効くとして販売した‘高麗人参 茶’(東京高栽昭53・12・25判決)など薬効を標ぼうするもの」はすべて有罪判決 となった。 公正取引委員会においても,「健康食品」の広告等の虚偽誇大表示が社会問 題化したため,「いわゆる健康食品等の効能効果表示に関する景品表示法違反 関係事務処理細則」を定め,昭和59年5月24日付でこれを各地方事務所長及び 都道府県景品表示法主管部長に対し通知した。これによると薬事法違反の疑の あるものについては,厚生省へ内容を通知し,同法に委ねることとし,解釈通 知,即ち処理細則の解釈に関する通知を行った。次のとおりである。 (1)合理的な根拠の有無 ア 表示の根拠となる成分,物質が全く入っていないか又はほとんど入っていないとみ られる場合一(誇大表示) イ 表示の根拠となる含有成分又は機能が,通常のものと比べて優良であるかのように 4)中井一士『消費と生活』,No.138, P.14,消費と生活社,昭59。 食品表示行政の現状に関する若干の考察 145 表示しているが,実際には,ほとんど変わらないとみられる場合一(誇大表示等) ウ 他人が作成した論文等から自己に都合のよい部分のみを引用して表示しているとみ られる場合一(不表示による誇大表示) エ 専門家の推せん,購入者の体験談等を事実に反して表示しているとみられる場合 一虚偽表示等 オ 効能効果がきわめて短時間に容易に達成できるかのように表示しているとみられる 場合一虚偽表示 (2)消費者誤認の有無 当該効能効果表示の内容が当該表示に接する消費者の相当部分に誤認されると考えられ ることをいうのである。 (3)競争事業者への影響の有無 これは,当該表示が競争事業者の商品を直接又は間接に中傷して,その事業活動に悪影 5) 響を与えるおそれがある場合をいうのである。 この解釈通知は,従来の効能効果表示事件の処理上の経験を一般化させ,今 後の事件処理に生かすべく判断基準をまとめたものであり,事業者に対して は,根拠となる資料を持たずに効能効果をうたうことへの警告ともなるもので ある。 現在,健康食品市場は4,000億円であり,その60%以上が無店舗販売によるもので,虚 偽・誇大なセールストークによりクレームは一層増大してきている。既にみたように,ク レームに対処するため,昭和59年3月,経済企画庁が厚生省,公E取引委員会,農林水産 省の協力で「健康食品の販売等に関する実態調査を行った。その結果として,③経済企画 庁は国民生活センターの活動の活発化②公正取引委員会は,表示,広告に関する指導規 制の強化 ③農林水産省は,健康食品を含む新しい食品に対する調査研究と制度化に対す る検討の開始 ④厚生省は,保健医療局が食生活の改善指導,薬務局は薬まがい食品の取 締り強化,生活衛生局は,食品衛生規範の指導強化と,健康食品対策室の設置(昭和59年 10月)などの措置をとった。また,健康食品封策室の指導によって,昭和60年4月,財団 6︶ 法人日本健康食品協会が設立され,昭和62年3月現在,参加企業社は,632社となってい る。 5) 「「健康食品」等の効能効果表示に関する景品表示法違反事件処理細則の概要」『生 活行政情報」1984年7月25日号により作成。 6)野沢正一『食品衛生研究』,37,34(1987)その後8月現在635社許可件数は532件 に達した。 146 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) 昭和62年2月 第4表食品(群)別作業部会名 備考(該当する食品) 食品(群)別作業部会名 はい芽油部会 1小麦はい芽油1,綿実はい芽油,1米はい二二i,大豆はい二二, 汰麦はい芽油1,}はとむぎはい芽油 藻類加工食品部会 ビタミンC含有食品部会 1クロレラ1,1スピルリナi ア二二ラ,ローズヒップ,レモン等果実加工食品, 1アスコルビン酸含有食品1 植物油部会 二二ビタミンE含有植物油加工食副 酵母食品部会 [ビール酵母,パン酵母加工食品1 精製魚油加工食品部会 IEPA, DHA含有食酬,八つ目うなぎ精製魚油食品 食物繊維加工食品部会 食物繊維,二物繊維含有食丁 ローヤルゼリー部会 霊ーヤノレーゼリー 動物加工食品部会 牡蠣,嘉滋ミ。,鯉,スッポン加工食品,緑イ貝加工食:品 月見草油加工食品部会 月見草油 緑葉植物加工食品部会 まこも葉,麦類若葉加工品,アルファルファ加工食品 高麗人参加工食品部会 1オタネニンジン根加工食副 生薬類似植物加工食品部会 霊芝,あまちゃづる, ショウガ加工食品 大豆レシチン加工食品部会 茶類部会 ハーブ,エゾウコギ,サンゴ草, 豆レシチン加工食品 中国;茶,タンポポ茶,キンモクセイ茶,健康茶:,野草茶 にんにく加工食品部会 にんにく加工食品 酵素・発酵晶晶部会 轍品納豆菌・酵母辮食品驚霧些些酵飲料 シイタケ加工食品部会 シイタケ加工食品 梅・プルーン加工食品部会 梅加工食品,プルーン加工食品 カルシウム加工食品部会 カルシウム含有食品 タンパク加工食品部会 タンパク食品 乳酸菌利用食:品部会 乳酸菌(生菌)利用食品 糖類加工食品部会 オリゴ糖類加工食品,その他 (注)□は61.8.1,〔コは62.1.24, 一一…一は62.5.20, 一は62。8.1に規格基準として公表された品目 『食:品衛生研究』37,38(1987)に筆者が加筆修正 ”・r・・’■・tt ネま62.6.25, 食品表示行政の現状に関する若干の考察 147 本協会の主な事業は自主規格基準作成とその適正な運用であり,チェックは 第三者の有識者による審査委員会による。また,厚生省指導のもとに設定した 品目別規格基準に基づき,審査委員会により合格とされた商品については, JHFA(Japan Health Foods Associationの略号)の入った審査済証票(認定マーク) を設定,昭和61年11月から実施し,消費者の購買選択のよりどころとなってい る。 同協会の規格基準については,昭和61年8月,はじめて小麦胚芽油,クロレ ラなど12品目(第4表)に設定されて以来,昭和62年8月の9品目を加えると 26品目となっている。その必須表示事項の一つに摂取量がある。かつては医薬 品ではないから摂取量の表示は不適切であるとされていたが,健康食品は通常 の食品と異なり,特定成分を多量に含むものがあり,健康食品の多量摂取によ る健康被害も考えられるので,必要な表示といえよう。 8 栄養成分表示の場合 栄養成分表示については,農林水産省と厚生省とが競合した形で進められて いるように見受けられる。 昭和61年3月,食料消費モニター(全国の主婦1020人)}こ対するアンケート調 査結果においても,栄養成分表示の要望が強く,このため,農林水産省では, 食生活向上のための情報提供の一環としての必要性を認め,昭和61年9月5日 付食品流通局長名で関係業界団体に,その推進について通知し,その早期実現 の に努めた。本問題は,貿易の自由化のこともあり,自己認証を基本とし,業界 に対して,①自主的に栄養成分表示を推i進ずること。②表示事項,表示方法等 について,商品特性に配慮しつつ統一的な基本事項を定めること等を指導して いる。現在,マーガリン工業会など10団体が自主基準作成を終えている。いず れも栄養成分表示の枠外に「農林水産省指導による栄養成分表示」と訳し,そ の後に各業界に即したJAS登録格付機関名を入れている。たとえば日本マー 7) 日本農林規格協会『JAS情報』1987年1月号。 148 乗田幸三教授退官記念論文集(第246・247号) ガリン工業会及び田本豆乳協会では,それぞれ(財)日本食品油脂検査協会及 び(財)日本炭酸飲料検査協会に分析を依頼することとしている。他方,厚生 省関係の加工食品栄養成分表示はつぎのようである。 昭和50年から社団法人日本栄養食品協会が自主的に行ってきたところである が,昭和61年11,月1日から新たに加工食品栄養成分表示制度(JSD= Japanese の Standard of Dietetic Information,日本栄養成分基準)として実施した。栄養成分表 示は2つに区分される。第一は,必須表示栄養成分であり,①エネルギー ② たん白質③脂質④糖質(粗繊維を除いた単糖類二糖類及び多糖類等の総量)⑤ 食塩(ナトリウムからの換算値)をいう。第二は,その他の栄養成分でカルシウ ム,鉄,ビタミンA効力,ビタミンBl,ビタミンB2,ビタミンCのごとき任 意栄養成分である。また,栄養成分表示の下には,JSDマークと共に「厚生 省指導による栄養成分表示マーク」と記すことになっている。 9 食品添加物の表示 近年,我が国は,食品産業の発展により,多様な加工食品を製造し,また, 輸入食品の利用も増大している。このような状況のもとで,消費者が購買選択 する際の情報源として食品添加物表示の果たす役割が増大してきた。 食品添加物検討会は,厚生省衛生局長の求めにより,昭和59年2月に設置さ れて以来,多角的な検討を経,今年度末までには告示の予定である。つぎに従 来の表示との相違点をみると,③物質名による表示(従来は,物質名か用途名の 何れかで良い) ②簡略名の採用(従来は簡略名は認められなかった。) ③用途名の 併記一従来から食品衛生法に基づく表示が義務づけられている保存料,酸化 防止剤,着色料,発色剤,漂白剤,甘味料,糊料が該当する,などを挙げるこ とができる。 なお,巷間,化学的合成品である食品添加物347品目中78品目に,食品衛生 法による表示の義務があり,天然添加物は野放しであると表現されているが, 8) 小田嶋俊『食品衛生研究』,37,23(1987)。 食品表示行政の現状に関する若干の考察 149 たとえば,食用黄色4号と食用黄色4号アルミニウムレーキを別品目とみなし たための誤であり,これは,別表第2に示されるように同一品目とみなすのが 正しく,結局,現在は化学的合成品は71品目,天然添加物2品目(グァヤク脂 及びノルジヒドログァヤレチック酸)が表示の義務があり,計73品目になっている。 ほぼ化学的合成品については,2割であるが,来たるべき改正時には約8割に なると考えられている。 お わ り に 以上,食品表示行政について概観した。食品表示については,公衆衛生,栄 養,公正競争の確保,計量等種々の観点から,それぞれ食品衛生法,栄養改善 法,農林物資の規格化及び品質の適正化に関する法律,不当景品類及び不当表 示防止法,計量法に基づいて行われてきた。しかし,近年,消費生活に急速に とり入れられるに至った加工食品については,縦割行政の歪みから,食品添加 物表示の不統一性,栄養成分の競合性が見られ,そのため,統一的な食品法を 望む声が相変わらず聞かれる。 食品表示は,十分遅商品知識を有していない消費者に対する重要な情報伝達 手段である。にもかかわらず,食品表示の実態を見るに,十分置表示がなされ ていない,分かりやすい表示になっていない,業者により表示の仕方がまちま ちである,消費者に品質を誤認させるなど問題点が多い。このため,消費者等 から,品質表示の適正化を図るよう強く要望されているところであるが,これ に対する国及び地方行政の最近の現状を概観するとともに,内包する若干の問 題点について考察を行った。