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「原因裁定嘱託制度」に関する裁判所への 広報活動について
「原因裁定嘱託制度」に関する裁判所への 広報活動について 公害等調整委員会事務局 1 はじめに 公害紛争処理制度においては、公害に係る被害に関する民事訴訟の受訴裁判所が必要と 認めるときは、公害等調整委員会(以下「公調委」)に原因裁定を嘱託することができる とされてい ます(公害 紛争処理法 第42条の 32)。この原 因裁定嘱託 制度は公害 をめぐる裁 判の進行上有効なツールとなり得ることから、公調委では、同制度に関する裁判所への広 報活動に取り組んでいます。本稿では、同制度の概要を説明した上で、これまで公調委が 裁判所に対して行ってきた広報活動をご紹介します。 2 原因裁定嘱託制度について (手続 の流れにつき、図1参照) 公害事件を民事訴訟で争う場合、被害とその原因とされる行為との間の因果関係の立証 が困難なため、当事者主義(事案の解明や証拠の提出を当事者に委ねる原則)によっては、 被害者と加害者の実質的公平が図れず、因果関係の究明に長い年月と多額の費用を要する ことがあります。例えば、民事訴訟において専門的知見を活用するため鑑定嘱託を利用し た場合、鑑定は個々の論点の科学的判断に止まり、因果関係についての法律的判断に踏み 込むことはありません。また、鑑定に必要な費用は、訴訟当事者の負担となります(最終 的には敗訴側が負担しますが、鑑定の申立てを行った側が裁判所に予納金を支払うことが 求められます。)。さらに、裁判所が必要と認める場合、争点に関する有識者である専門 委員が訴訟に関与することがありますが、専門委員に求められるのは「専門的な知見に基 づく説明」であり、その説明は裁判上の資料とはなり得ません。そのため、専門委員の説 明を判決の基礎としたい場合は、当事者においてその説明を基礎に主張を組み立てる必要 があります(一方、公調委の原因裁定手続の中で専門委員が作成した意見書は、裁定委員 会の判断により、証拠(職号証)として活用されます。)。 平成 16年に 富山 地 方裁 判所 か ら「 富山 県 黒部 川河 口 海域 にお け る出 し平 ダ ム排 砂漁 業 被 害原 因 裁 定 嘱託 事 件 」 の嘱 託 が な され た の を 皮切 り に、 平成 20年 以 降は 、 裁判 所へ の 広 報 を積極的に行い始めたこともあり、「加須市における地下水汲上げによる地盤沈下被害原 因裁定嘱託事件」等3件が嘱託されています(表1参照)。次節では、これまで公調委が 行ってきた、本制度に関する裁判所への広報活動を具体的にご紹介します。 3 裁判所への広報活動 公 調委 では 、原 因 裁定 嘱託 制 度の 周知 を 図る ため 、 平成 19年 度 以来 、4 回 にわ たっ て 裁 判所に対し通知文を発出し、現場裁判官の本制度に対する認識の拡大に努めています。そ のほか、平成24年度からは、委員長及び審査官が東京(平成24年11月)、名古屋(同25年 4月 ) 、大 阪( 同 25年 6月 ) の各 地裁 に 赴き 、所 属 の民 事系 裁 判官 に対 し て本 制度 を 説 明 するとともに、意見交換を行いました。 意見交換の席上、原因裁定の嘱託が行われた訴訟を担当した裁判官から、判決を書く上 で公調委の原因裁定書が有益であったとの肯定的な意見を頂いたほか、活発な質疑応答も 見られました。以下、やり取りの一部をご紹介させていただきます。 【嘱託の事前相談について】 裁判所)嘱託の相談に当たって、争点はどの程度絞られていることが望ましいか。 公調委)争点は整理されていることが望ましいが、どのような段階であっても相談はお受 けしている。最近は、事件記録を事前に頂き、こちらでも一読した上で、相談させ ていただいている。 【裁定期間について】 裁判所)嘱託後、裁定までどれくらいかかるのか。 公調委)事件の類型によるため一概には言えないが、目安として二年を超えないように努 めている。 【裁定の方法について】 裁判所)裁定の結果はどのように示されるのか。 公調委)公調委の判断は、裁定書(判決書に類似)としてお返ししている。調査や専門委 員の知見を活用した場合は、調査結果、専門委員の意見書の内容を盛り込んだもの となる。 4 結びに 公害紛争の解決に当たっては、加害行為と被害との間の因果関係の判断が迅速かつ適正 に行われることが重要です。前述のとおり、公調委への原因裁定嘱託制度は、当事者主義 が原則である民事訴訟に職権主義を採り入れることで、被害者と加害者の実質的公平を図 ろうというものです。同制度の裁判所への広報を開始して以降、公調委への嘱託は着実に 増加していますが、引き続き、原因裁定嘱託制度の認知の拡大に努め、司法制度利用者の 期待に応えてまいりたいと考えております。 ① 【図1】 受訴裁判所 公調委 ③ ② 判決 ① ※ ② 受訴裁判所が必要と認めた場合、公調委へ原因裁定を嘱託します。 因果関係部分についての訴訟手続は、中断されます。 民事訴訟手続を基礎としつつ、職権での調査等の手法を活用して手続を進行。「裁定 書」として判断を示し、受訴裁判所へ送付します。 ③ 「裁定書」を証拠として用いながら、訴訟手続が再開されます。 【表1】 嘱託受付 事件番号 事 件 終 原 告 被 告 年 月 日 16. 8. 4 結 嘱託の趣旨 終結区分 年月日 平 成 16年 富山県黒部川河口海 富山県 電力会社 ダムの排砂と漁 (ゲ )第 3 号 域における出し平ダ 漁 民 13人 業被害との因果 ム排砂漁業被害原因 栽培組合 関係の有無 19. 3.28 因果関係を一部 認める 裁定嘱託事件 平 成 23年 加須市における地 (ゲ )第 7 号 下水汲上げによる 23. 9. 7 埼玉県 埼玉県 原告所有地の 住民1人 住民2人 境界線付近に 地盤沈下被害原因 設置した井戸 裁定嘱託事件 からの地下水 (係 属 中 ) (係 属 中 ) (係 属 中 ) (係 属 中 ) (係 属 中 ) (係 属 中 ) の汲み上げと 原告が所有す る土地の地盤 沈下等との因 果関係の有無 石川県 撚糸工場 被告の工場の機 住民3人 操業者 械から発生した 被害原因裁定嘱託 (補 助 参 加 ) 低周波音と原告 事件 機械製造 らに生じた心身 会社 の障害との因果 平 成 25年 七尾市における低 (ゲ )第 3 号 周波音による健康 25. 2.19 関係の有無 平 成 25年 泉大津市における アスファ 石油事業 被告らによる油 (ゲ )第11号 土壌汚染被害原因 25. 7. 2 ルト事業 会社2社 の漏洩と原告が 裁定嘱託事件 会社 所有する土地の 土壌汚染との因 果関係の有無