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アルコール性肝障害(100706)
ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html アルコール性肝障害(100706) 患者のスクリーニング検査で明らかに肝障害を認めた。AST 57、ALT 86、ALP 499、γ-GTP 539、Plt 109。アルコールを毎日大量に飲んでいる。もちろん、直ぐにアルコール性肝障害と決め つけるわけではないが、アルコールが全く関連しないと言い切る方が無理がある・・・。肝障害に関 して一般的なチェックは行うが、おそらくアルコール性肝障害についての対応は必要になるだろう。 「アルコールを控えましょうね」なんて意味のあるようで無いような指導を繰り返すのにもちょっと無 力感を感じてしまう・・・。アルコールに対する介入は本当に難しいと感じているが、ここでアルコー ル性肝障害に関して、ある程度基本的事項を勉強しておく。 無関心な人にも、関心のある人にも、正確な情報とメリット、デメリットの説明は治療の第一歩に なると思う。(アルコール中毒患者のような、より重症患者への治療は別として) 診断 アルコール性肝障害の診断は、飲酒歴の確認をはじめとして、身体所見、血液生化学的検 査、画像検査肝生検などの結果をもとに、ウイルス性、自己免疫性、薬剤性などの他の肝疾 患を除外したうえで総合的に行われる。4) アルコール多飲者は飲酒期間、飲酒量とも過小に申告することが多い。4) アルコール性肝障害の診断には、飲酒量が日本酒に換算して平均毎日 3 合以上で、5 年間 以上が 1 つの目安となる。日本酒 1 合のアルコール量はビール大瓶 1 本、ウイスキーシング ル 2 杯、焼酎 0.6 合に相当するので、それぞれ換算してアルコール量を評価する必要がある。 4) アルコール量の換算に関しては以前勉強 した。「NASH と NAFLD」の部分で紹介されて いた図も分かりやすいと思う。 http://rockymuku.sakura.ne.jp/syoukakinaika /NASH.pdf (参考文献 6 より引用) ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html (参考文献 4 より引用) ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html (参考文献 5 より引用) 危険因子 肥満などの生活習慣が成因に深く関与していると考えられる。1) アルコール性肝障害の進展の危険因子についての分析では、脂肪肝、肝炎、肝硬変のそれ ぞれの段階で、肥満が挙げられている。2) アルコール性肝障害が食餌性脂肪により進展:^しやすいことが示されている。2) アルコール性肝障害における肝細胞癌の発生には、肝炎ウイルス、特に HCV の強い関与が うかがえる。4) 予後 初期病変である脂肪肝より始まり、炎症と線維化が進行し、肝炎、肝線維症、肝硬変へと進 展する。2) ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 一般に毎日エタノール 60g 以上(清酒換算 3 合以上、ビール大瓶 3 本以上またはウイスキー・ ブランデーなど高濃度蒸留酒ならシングル 6 杯以上)を少なくとも 5 年以上続けている常習飲 酒家の場合にアルコールによる肝障害が生じる。1) 日本酒換算で約 5 合/日以上を 20 年以上続けていると肝硬変に進展する。ただし、女性の場 合は約 12 年程度で肝硬変に至るとされている。3) 日本酒換算 1 日 5 合程度の飲酒を約 1 週間続けると脂肪肝を発症するが、2~3 週間の禁 酒で肝細胞内の脂肪沈着は消失する。3) 既存のアルコール性脂肪肝患者が連日アルコールの過飲を続けると 10~ 20%にアルコール 性肝炎を発症する。3) アルコール性脂肪肝で飲酒量が急に増加することに伴って、黄疸や発熱、肝腫大を併発す る「アルコール性肝炎」を発症することがある。この場合には、末梢血白血球数の増加や CRP 上昇、γ‐GTP のみならず AST の上昇が顕著であり、黄疸や肝性脳症を併発する場合 には生命の危険を伴う重篤な状態になり得る。1) アルコール性肝炎のなかで、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血などの合併やエンド トキン血症などを伴い、断酒にもかかわらず肝腫大が持続し、多くは 1 ヵ月以内で死亡する重 症型アルコール性肝炎が認められ、わが国では増加傾向にある。3) 典型的なアルコール性肝炎を発症すると肝硬変に移行するのが 5 年から 10 年ときわめて速 いと考えられる。しかし、肝線維症の場合でも 20~30 年で肝硬変に至る例が多い。1) 常習飲酒家がすべて肝硬変に至るのではなく、何らかの負荷的要因が加わった場合に進行 性となる。1) 臨床例において大量飲酒者で肝硬変へ進行するのは 8~25%程度であるとされ、アルコー ル依存症の患者であっても全員が肝硬変に進むわけではない。2) わが国では、アルコール性肝炎という顕著な症状を経ないで肝硬変に至る症例が多いと考 えられる。1) アルコールそのものが肝硬変を引き起こすことが知られている。1) 近年アルコール性肝硬変から肝細胞癌を発症する例が増加してきている。1) 検査 一般には大量飲酒発作がないことが多く、飲酒の継続によって軽度の AST、ALT、γ-GTP 上昇の肝障害が認められる場合が多い。1) 胆道系酵素である ALP の上昇はアルコール性肝障害では軽度なことが多く、γ-GTP と ALP の上昇程度に乖離がみられることが、他の胆道系疾患との鑑別にヒントとなることがある。4) 大赤血球症は大酒家に高頻度に認められ、平均的赤血球容積(MCV)は 100fl 以上となるが、 必ずしも貧血を認めるわけではない。4) アルコール性肝炎の一亜型として知られる Zieve 症候群では、赤血球膜の構成脂質の異常 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html によって溶血性貧血を認める。4) 血小板系に対するアルコールの直接的影響として、血小板産生能の低下と寿命の短縮によ って減少を認めることがある。4) アルコール性肝障害では血中 IgA の上昇がしばしばみられ、他の肝疾患との鑑別に有用。4) 肝細胞癌の腫瘍マーカーである血清 PIVKA-II の陽性率が高く、このことが肝癌合併を必ず しも意味しないことを認識しておく必要がある。4) 貯蔵鉄の増加によって、血清フェリチン値上昇を認めることがある。4) γ-GTP 高値のみならず赤血球 MCV が高い人は飲酒過多である。1) 血小板数が 10 万/mm3 以下の場合には肝硬変の可能性が高い。1) IV 型コラーゲン 7S や P-Ⅲ-P、ヒアルロン酸が高値の場合には肝線維症になっている場合が 多い。1) 治療 治療は第一には禁酒。1) 厳格な禁酒を行えば 4 週までには、トランスアミナーゼ値はほぼ正常値にまで下降し、組織 学的にも肝細胞の壊死や炎症細胞浸潤などは著しく改善する。4) 脂肪分の多い食事を避け、摂取カロリーを制限して肝への負担を軽減する。1) 従来、アルコール性肝障害患者に対して高蛋白・高エネルギー食を指導してきたが、Rotily ら は高脂肪食はアルコール性肝障害の進展の危険因子であると報告している。3) 肝に蓄積した脂肪を燃焼させるため、有酸素運動を毎日行うように励行する。1) 薬物療法としては、脂肪分解に必要なビタミン B の投与を行う。アンギオテンシン変換酵素阻 害薬が肝線維化改善に有効という報告があるが、ヒトでの十分な成績はない。1) いろいろな情報の伝え方があると思うが、患者によって、その情報の重要度は全然違うと思う。 いろいろな情報を引き出しにストックしておきたい。うちの母親は父親に「もっと飲んだ方がいい。 そんなんじゃプロの酒飲みにはなれないよ。」なんて言っていたなぁ・・・。これはこれで効果がある みたいだけど。 (前述の通り、指導だけでアルコールが減量できるかは不明であり、効果は未確定。特にアルコー ル中毒患者には別のアプローチが必要な可能性が大きい。) 「談笑しながら楽しく飲むのが基本です。」 「だらだらと長時間飲むのはやめましょう。」 「今後も長く楽しくお酒を飲むためにはコツが必要と思います。」 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 「適正飲酒(日本酒換算1合程度)にして、休肝日を作りましょう。」 「脂っこい物を減らして、やせると肝臓を守れます。」 「2~3 週間禁酒すると、肝臓の脂肪が消えてなくなるみたいです。」 「毎日有酸素運動をすると、肝臓にいいです。」 「アルコール以外に肝臓の病気が無いか一度検査をお勧めします。」 「肝硬変から癌になる方もいます。」 「アルコールが過ぎると、肝炎や肝硬変になって、治療が必要になる場合もあります。」 「重症の肝炎になると亡くなる方もいます。」 「最近、ちょっと体が黄色くないですか。」(実際は違っても、3人ぐらいに言われると本当に自分の 皮膚が黄色く見えてくる。) 参考文献 7 では、問題飲酒者へのアプローチとして、直面化(問題点がアルコールに原因してい ることをはっきりと述べる。)、抗酒薬、自助グループへの導入、社会資源との連携、職場の産業 医・健康管理部署との連携などを挙げている。自助グループ、社会資源はなかなか見つけるのが 大変かもしれないが、少なくとも以下のホームページに紹介されているような各都道府県の機関 やネットワークにはアクセスできた方がいいかもしれない。 アルコール依存症の相談機関、専門治療機関一覧 http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/inshu/ichiran/index.html また、断酒が必要なアルコール問題を有する患者は、家族のサポートが無ければゴール達成が 難しいことが指摘されており、家族には①アルコール依存症患者は病気で、本人が一番苦しいこ と、②“本人の意志薄弱”と家族が本人に非難の言葉を投げつけてはアルコールからの離脱は絶 対成功しないことなどを説明することが必要と指摘している。 参考文献 1. 泉並木.アルコール性肝炎 .Modern Physician, 29(6) : 855-857, 2009. 2. 山岸由幸ら.アルコール性肝障害.肝胆膵, 56(1) : 89-94, 2008. 3. 土島睦ら.アルコール性肝障害.綜合臨牀, 56(11) : 3062-3067, 2007. 4. 川原弘.アルコール性肝障害の診断と臨床像.肝胆膵, 54(5) : 669-675, 2007. 5. 石井邦英.重症型アルコール性肝炎の病態と治療.肝胆膵, 54(5) : 677-688, 2007. 6. 大須賀勝.プライマリ・ケアにおける NAFLD.治療, 89(4) : 1586-1591, 2007. 7. 伴信太郎.21 世紀プライマリ・ケア序説.大阪,プリメド社.2009. 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