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コラム 「刑事弁護人の役割」③ 疑われている犯罪事実を認めている場合

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コラム 「刑事弁護人の役割」③ 疑われている犯罪事実を認めている場合
コラム
「刑事弁護人の役割」③
疑われている犯罪事実を認めている場合
弁護士の前に現れる被疑者・被告人が,仮に,重たい罪を犯していたとしても,他の側面も検討
する必要がある,という点について述べたいと思います。
一般市民と交流をもつと,「仮に,被疑者・被告人に良い面があるとしても,それはそれ。犯
した罪は罪であって,その人は被害者の人格を否定したわけだから,裁判になって被告人の人格
を尊重するのはおかしい」という意見をよく耳にします。
私自身も,そのように考えていた時期もありました。しかし,やはり上記の考えは誤りだと思
っています。なぜでしょうか。
刑罰は,国家が正義の名のもとに行います。いわば,国家が,被害者の人格を否定した被告人
に対して,正義を振りかざすわけです。その際,振りかざされる側(被告人)の人格を否定する
ことは,果たして正義でしょうか。正義とは,相手方の人格を尊重した上ではじめて成立するの
ではないでしょうか。もっと言えば,裁かれる相手方の人格を尊重しない刑罰制度は,正義の名
に値せず,単なる暴力なのではないでしょうか。
「目には目を,歯には歯を」というのはハンムラビ法典の有名な文句です。しかし,近代の流
れを受け継ぐ現在の刑罰制度は,ハンムラビ法典とは一線を画しており,暴力的な行いに対して,
純粋な報復を許すわけではなく,その過程で,必ず,裁かれる側の良い側面も考慮しなければな
らないのです。だからこそ,裁判所の判断は,正義の名に値するし,司法制度として正当性を保
てているともいえます。
検察官は,もちろん,被疑者・被告人の良い面を前面に主張することはありません。したがっ
て,弁護士が被疑者・被告人の良い面を,きちんと整理して,理屈立てて,法的に主張していく
のです。このことは,事件が重大になればなるほど,残虐非道であればあるほど,重要になって
いくのです。
大きな事件で,弁護士会をあげて多数の弁護人を付けて活動をすることがありますが,それは
実際的に事務が沢山あるという他に,こうした点が考慮されているのだと思います。
これまで3回に分けて,刑事弁護人の役割についてお話ししましたが,ご理解いただけたでし
ょうか。刑事弁護人の活動は,場合によっては世間の非難を受けることはあるのですが,今まで
述べたことを念頭に置いていただけると,違った見方ができるかもしれません。
スタッフ弁護士は,刑事国選弁護の一翼を担っております。私自身も,こうした気持ちを忘れ
ないように,刑事事件に取り組んでいきたいと思っています。
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