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コラム「刑事弁護人の役割」② 疑われている犯罪事実を否定している場合
コラム「刑事弁護人の役割」② 疑われている犯罪事実を否定している場合 私たち弁護士の前にあらわれる被疑者・被告人が,疑われている犯罪事実を否定している場 合,弁護士は,それを前提にして検察官に証拠の開示を求めたり,弁護士自身が証拠を集め たり,証人になる人にお話を聞きに行ったりします。 しかし,色々活動しても,被疑者・被告人の主張を裏付けできないことは多くあります。 そもそも,被疑者・被告人の主張は,いかにも荒唐無稽で,弁護士自身も信用しがたいとい う場面も相当数あります。 では,なぜ,この場合でも,被疑者・被告人の主張を前提にするのでしょうか。 答えは簡単です。弁護士は第三者で,事実を体験していないからです。 『事実は小説より奇なり』という言葉をご存知でしょうか。事件に携わるようになると, 『事実は小説より奇なり』という言葉どおりの展開になることがしばしばあります。被疑 者・被告人の主張を,はじめて聞いて,「いかにも荒唐無稽だなぁ」と思えても,色々活動 して被疑者・被告人とは異なる思いを抱いても,それは所詮事実を体験していない第三者の 意見でしかないのです。 報道等で有名になった足利事件では,最高裁判所まで争って有罪判決となった方が,当時 のDNA鑑定が誤りだったことが判明し,後の再審裁判では無罪となりました。おそらく, 前の裁判では,警察官も,検察官も,裁判所も,彼が犯人であることについて,合理的な疑 問を抱かなかったでしょう。むしろ,被疑者・被告人の立場の彼の方が,いかにも荒唐無稽 の主張をしているように思えたはずです。 足利事件のように大々的な報道がなされない事件でも,似たような事件は皆さんが思って いるより多く存在しています。 捜査にしろ,裁判にしろ,判断するのは神様ではなく人間です。人間が行う以上,間違い は必ずあります。その間違いを極力なくすために,弁護士は,極端な話,たとえ,日本国中 の人を敵に回すことになったとしても,被告人の言い分を信用しなければならない時がある のです。