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製品設計プロセスにおける手戻り削減に関する研究
Reduction of the reworks in the design engineering process
経営システム工学専攻
趙 美英
1. はじめに
近年、従来無かった機能や形状の製品が市場に
出回っており、又それらのモデルチェンジのサイ
クルも短くなっており、製品の多様化、開発・設
計のリードタイムの短縮が従来以上に求められ
ている。
短納期化の要求に応えるべく、設計現場ではフ
ロントローディングや IT 技術の導入が図られて
きたが、未だに後工程から大きな手戻りが発生し、
設計効率が進んでないのが現状である。
本研究では、製品設計プロセスに潜んでいる手
戻りを可視化し、後工程を考慮した製品設計を行
うためのガイドラインを提示することにより、製
品設計の早い段階で手戻りの発見・削減する方法
について検討した。
み込んだ作業のことをいう。計画した手戻りは、
業務間の連携がやりやすく、相互依存関係が強い
ため、繰り返しのサイクルも短期間で回すことが
できる。このような適度な手戻りは、すり合わせ
によって設計結果の品質を高める結果をもたら
すことができる。
2.製品設計プロセスにおける手戻り
2.1 製品設計プロセス
製品設計とは、製品全体の構想に従って、製品
を構成する個々の部品とそれらの相互関係を決
定し、部品図などとして表現することである。製
品設計プロセスは大きく、
“機能設計”と“生産
設計”に分けられる。
機能設計は、制約条件を満たし顧客要件を実現
するための設計諸元を策定するプロセスのこと
である。生産設計は、機能設計から渡された図面
を参考にし、最も経済的且つ、容易に生産できる
ようアレンジし直すことである。
製品設計プロセスにおいては、この2大要素の
両方を同時に満足させる設計プロセスを構築す
ることが最も重要である。もし、
“機能設計”に
重点を置いて“生産設計”を軽視すると、予測外
の製品の不具合が発生した場合、生産設計段階か
ら機能設計段階まで遡り、設計変更を行わなけれ
ばならなくなる。
3. 製品設計プロセスにおける問題点
3.1 情報の流れの可視化
製品設計プロセスにおける様々な問題を解決
するために、プロセスを構成する複雑な業務間の
依存関係を把握し、プロセスに存在する問題点を
可視化する必要がある。そこで、DSM を用いて
業務間の依存関係を網羅的に、且つ、簡潔に記述
し、その問題点を明らかにする。
2.2 手戻り発生のメカニズム
製品設計プロセスにおける手戻りは、下流段階
の要素が上流段階の要素に影響を与えるフィー
ドバックの発生によって、繰り返しとなる設計変
更のことをいう。本研究では、以下の二種類に分
類して検討する。
2.2.1 計画した手戻り
相互に依存関係があり、あらかじめ連携作業と
して繰り返し処理するように、設計プロセスに組
2.2.2 計画外の手戻り
「計画した手戻り」と反対に、発生すべきでな
いにも拘わらず発生してしまう場合の手戻りを
計画外の手戻りと考える。このような、仕事はか
なり下流段階の作業まで流れてから、上流の作業
に戻ってくるので、繰り返しのサイクルが非常に
長く、全体的な設計プロセスの進行に大きく影響
を与える。
3.1.1 DSM とその特徴
DSM は、開発製品や開発組織などをシステム
の観点から捉え、システムを構成する要素間の依
存関係を簡潔に示す行列であり、複雑に絡み合っ
た設計作業間の依存関係を整理して記述するこ
とによって、設計プロセス内に存在する手戻りを
一目瞭然に可視化させることができる。
3.1.2 DSM の記述方法
工程間の依存関係を DSM で記述する際には、
2×2の行列で示す。行及び列は、タスクを表し、
行列とも同じ順序で配列する。マトリクスは上か
ら下へと読んでいき、工程 A が工程 B に影響する
場合、A 列と B 行の交点をマーク(X)する。列
方向に読むと、その工程がどの工程へ影響してい
るかがわかる。行方向に読むと、その工程がどの
工程から影響を受けているかがわかる。
マトリクス上の対角線の下側にあるマークは、
前工程から後工程への情報の流れを示しており、
フィードフォワードと呼ばれる。一方、対角線の
上側にあるマークは、後工程から前工程への逆方
1
向の情報の流れを示しており、フィードバックと
呼ばれる。
3.1.3 DSM による設計プロセスの可視化
DSM を用いて工程を設計するには、まず、現
状のプロセスを DSM で記述する。(表3.1.3)
表 3.1.3 現状の設計プロセス
作
業
フィード
バック
の
流
れ
フィード
金型が成立しないような不具合を事前にチェッ
ク・修正し、それ以降の生産設計段階からの手戻
りを防止しなければならない。
4.製品設計プロセスにおける手戻り削減方法
4.1 製品のライフサイクルマネジメント
製品のライフサイクルを俯瞰した上で最適な
製品開発を行えるよう管理することが製品ライ
フサイクルマネジメントである。
製品ライフサイクルマネジメントをスムーズ
に行うためには、設計段階で、製品のライフサイ
クル全般について考えておかなくてはならない。
その理由はサイクルの後半で大きな問題が顕在
化すれば大きな手戻りが発生することもあるか
らである。
フォーワード
3.2 製品設計プロセスにおける問題点
表 3.1.3 からは以下のようなことがわかる。
(1)タスク E(モデル化・シミュレーション)、
タスク H(故障解析)から手戻りが発生するリスク
が高い。
その手戻りが発生する原因は、モデル化・シミ
ュレーションの結果から、機能設計における検討
不足や設計ミスなどが発見された場合や、シミュ
レーション・試験・検査における漏れが当時に発
見できず、後工程にある故障解析段階で不具合が
検出された場合は、手戻りを余儀なくされる。
(2)タスク K(金型構想設計)
、タスク L(金型
概略構造設計)
、タスク M(金型細部構造設計)、
タスク N(金型設計全体の確認・修正)から大き
な手戻りが発生するリスクが高い。
このような大きな手戻りの発生は、製品開発に
携わる個々の設計者は、担当とする範囲内の設計
プロセスは把握しているが、担当外の業務を完全
に把握していない場合があり、手戻りが発生する
と考える。
3.2.1 金型設計による手戻り
表 3.1.3 に示した表から、金型設計から大きな
手戻りが発生するリスクが高いことがわかる。そ
の原因について、製品設計側と金型設計側、両方
から分析してみる。製品設計側は、設計の上流段
階で手戻りを発見・削減したいが、金型について
は知識・経験不足でよく知らないので、具体的な
対策が取りにくく、金型設計側も手戻りを削減し
たいが、製品設計と金型の関係がよく分からない
ので、製品設計者にどう助言すればよいかわから
ないという現状である。
上述した手戻りが発生する原因から、手戻りは
製品設計側と金型設計側の連携不十分により、発
生すると考えられる。また、製品設計の段階で、
4.1.1 コンカレントエンジニアリングによる
改善
コンカレントエンジニアリング(CE)とは、直訳
すると同時並行開発であるが、その領域はより広
く、製品ライフサイクル全般にかかわる概念とし
て確立されている。その方法は、以下の三点に集
約することができる。
(1)同時並行進行
コンカレントエンジニアリングの狙いは、開発
作業を同時並行的に進行させ、製品開発のリード
タイムを短縮すると同時に、上流作業の完了前に、
下流作業のフィードバックに対応することによ
り、低コスト化、設計品質向上を図ることにある。
同時並行作業の実現のためには、各作業の状況を
互いに理解し合い、進めることが重要で、個々の
作業間の高度な相互連携が必要とされる。
(2)情報の共有化
独立した作業の同時並行化を実現するには、設
計プロセスに関わる設計者間の情報伝達・共有化
の仕組みができていることが前提となる。
また、手戻りの発生を防止するために設計支援
ツール、3次元CAE/CADシミュレーション、バ
ーチャルプロトタイピングシステム等を活用し、
製品設計プロセスにおける様々な課題をコンカ
レントに削減できるようにする必要がある。
(3)DFX の活用
DFX(Design for X)とは、製品開発において
企画から設計に移行する際、論理的にプロジェク
トの性質を解析し、それを踏まえて焦点を定め、
以降の開発活動に有効な個々の設計手法を選択
し、投入計画を立てる活動である。
DFX のX は評価する項目を意味する。金型の
設計の場合、樹脂の流れやすさを考慮した形状設
計ではDFM(Design for manufacturability)、金型部
品の組み立て上の設計問題を考慮しDFA(Design
for assembly)等を用いて、設計の妥当性・適合性
2
計、詳細構造設計までの後工程タスクを製品設計
の前工程にフロントローティングし、製品設計の
初期段階から、詳細設計段階まで、金型設計者が
関与することで、金型設計の全体を考慮した製品
設計を行うことができると考える。
表4.1.3:金型設計と製品設計をパラレルに進め
る場合
の向上を図ることができる。
4.1.2フロントローディング適用の考え方
フロントローディングはコンカレントエンジ
ニアリングを進めるための一つの手法で、機能設
計、生産設計など次の段階へ情報を流し、必要な
準備を開始できるようにすることである。
(1)金型設計の一部をフロントローディングし
た場合
現在、殆どのメーカーは金型の設計や製造を外
部に依存しているため、設計・生産情報の共有が
できず、設計変更の繰り返しや金型試作の状況の
確認を頻繁に行わなければならなくなった。
そのため、製品設計段階で金型を考慮し、金型
設計側からの制約条件を取り入れ、後工程の検討
すべき要素だけ、フロントローディングし、製品
形状を決定することにより、効率よく手戻りの発
生を防ぐことができると考える。
表 4.1.2 では、
「アンダーカットの形状設計や成
形品の肉厚設計を製品設計段階で考慮すること」
という金型設計からの制約条件を取り入れ、タス
ク K、L をフロントローディングした。
表4.1.2:金型設計の一部をフロントローディン
グした場合
作
フィード
業
バック
の
流
れ
フィード
フォーワード
作
フィード
業
バック
の
流
れ
フィード
フォーワード
複数のタスクが緊密な依存関係を持ち、パラレ
ルに設計作業を行い、後工程からの手戻り作業を
大きく減すことができると考える。一方、無理に
並行的に作業を進め、却って効率下がってしまう
可能性もあるので、前工程に負荷を掛け過ぎない
ように注意する必要がある。
前述した内容を纏めると、製品設計をする際に
は、設計制約条件や各工程からの要求を検討し、
既存の設計プロセスに基づいて、柔軟に設計プロ
セスを改善すべきである。また、二つのフロント
ローディングによるプロセスの改善から、両方の
プロセスで、後工程を考慮した設計を行う必要が
あり、そのためには、後工程からの情報を知識化、
蓄積、再利用できるようにすることが重要である。
そのために、ガイドラインを導入し、後工程での
情報を示す。
金型構想設計と概略構想設計をフロントロー
ディングすることにより、製品設計段階で、金型
構造などを金型設計部署と交渉しながら決めて
いくことができる・それにより、アンダーカット
部分や成形部品の構造等、基本設計ポイントを前
もって読み取り、細かい設計に入る前に、制約条
件を取り入れ製品設計を行うことで、後工程から
の大きな手戻りを削減することができると考え
られる。
しかし、対角線の近くにグループがされた(クラ
スタリング)タスクの塊は小さいことから、連携作
業が尐なく、各設計者間のコミュニケーションは
十分に取れていない可能性があり、後工程の金型
構想設計段階や金型製作段階から、手戻りが発生
するリスクも高いと考える。
4.2 設計ガイドラインによる手戻りの削減
4.2.1 設計ガイドライン
設計ガイドラインの重要な役割は、スキルや経
験の浅い設計者に対して、設計レビューの効果と
設計効率を向上させることである。
(2)金型設計と製品設計をパラレルに進める場
合
表4.1.3 では、金型の構想設計から概略構造設
成形
不良
4.2.2 設計ガイドライン適用の考え方
製品設計者と金型設計者がコンカレントに設
計作業を実行させるための、金型を考慮した設計
ガイドラインを作成することにより、後工程での
金型設計から手戻りを削減する方法を検討する。
製品設計段階で、樹脂流動解析を事前に検討す
る観点から、ガイドラインを表 4.2.2 のように作
成した。
表:4.2.2 金型を考慮した設計ガイドライン(一部)
概要
発生原因
製品設計者側
の基本対策
3
フ ロ
ー マ
ー ク
す り
傷
ゲー ト
中心に、
樹脂 が
流れ た
跡に 縞
模様 が
残る 現
象
金型温度の低すぎ
スプルー、ランナー
で冷やされ高粘度
になった樹脂が、キ
ャビティ内でさら
に冷やされ、高粘度
化する。その樹脂が
金型に触れ急激に
固化する。そこに更
に樹脂が注入され
縞模様が現れる。
肉厚の違いを
無くす(肉厚の
厚、薄が顕著に
あるとこの現
象がおこりや
すい)
離型
向に
行に
生す
すり
跡で
る。
抜き勾配が小さい
成形品に発生する。
製品図面に指
定される場合
と、公差内でと
る場合がある
が、大きめにと
ることが望ま
しい。抜き勾配
詳細設計(図
4.2.3 ①)
方
平
発
る
傷
あ
肉厚詳細設計
(図4.2.3 ②)
図 4.2.3 金型を考慮した詳細設計ガイドライン
(一部)
上述の設計ガイドラインに基づいて、事例を挙
げ、説明する。
(1) 金型設計の一部をフロントローディング
した場合
製品設計段階でアンダーカット等の形状設計、
成形品の肉厚設計など、基本設計ポイントだけ、
考慮し、設計を行う。例えば、成形不良のすり傷
を防ぐために、ガイドラインに示した「抜き勾配
は大きめにとることが望ましい」という情報に基
づいて、設計を行う。抜き勾配は、製品を離型さ
せるときの摩擦抵抗を尐なくするため、その製品
自体に付けた傾斜のことで、成形品が金型からス
ムーズに取り出せるようにする。(図 4.2.4)
改善後
金型
形状設計まで考慮すれば良いが、金型設計と製品
設計をパラレルに進める場合は、詳細設計まで金
型を考慮しなければならない。そこで、図 4.2.3
に示した「金型を考慮した詳細設計ガイドライ
ン」に基づいて、基本設計ポイントの以外にも、
下記の項目について考慮し、製品設計を行う必要
がある。
・材料の特性(成形収縮率、剛性および潤滑性)
・成形品の形状・構造(型開き方向の成形品の高さ、
成形品の肉厚)
・金型の構造(突き出しの方向)
・金型の精度(成形品の抜き方向の金型キャビテ
ィ面の仕上げの程度)
・成形条件(型内樹脂圧)
このように、設計ガイドラインを活用すること
により、製品設計と金型設計部門の連携を深め、
製品設計の初期段階から部品構造や形状に対し、
金型設計で起こり得る問題を減尐させ、後工程か
らの手戻りを削減することができると考える。
5.結論と今後の課題
5.1 結論
本研究では、製品設計プロセスにおける手戻り
を削減するために、DSM を用いて手戻りを可視
化し、後工程での金型設計要素を考慮した設計ガ
イドラインを前工程の製品設計に提示すること
により、二つの設計作業をコンカレントに実行さ
せることを提案した。それにより、効率的な設計
プロセスを構築し、設計の早い段階で手戻りを発
見・削減する方法を試みた。
5.2 今後の課題
具体的な製品の設計プロセスの適用を通して
その有効性を確認することが残されている。また、
研究した方法についても、シミュレーションを通
じて、その有効性を実証し、他の手法を導入し、
具体化する必要がある。
参考文献
[1] 宮村鐵夫:
「新製品・技術の開発と信頼性工学
―信頼性のコンセプトによるマネジメント
金型
[2]
金型
こすれる
製品
こすれない
金型
[3]
抜き勾配
抜き勾配が
図 4.2.4 すり傷を考慮した成形品形状
がない
(2)金型設計と製品設計をパラレルに進める場
ある
合
製品設計段階で金型詳細設計部分まで考慮す
る必要がある。例えば、図 4.2.4 に示した「すり
傷」の例では、製品を金型から離型できるような
[4]
[5]
の進め方」日科技連出版社 (2011)
久米 均:「設計開発の品質マネジメント」
日科技連出版社 (1999)
有泉 徹:「射出成形金型入門」日刊工業新
聞社 (2007)
目代 武史:「製品開発マネジメントの分析
ツールとしての設計マトリクスに関する考
察」(2006)
斉藤 実:「実践コンカレントエンジニアリ
ング」工業調査会(1993)
4
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