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第 8 章、第 9 章まとめ

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第 8 章、第 9 章まとめ
藤原ゼミナール 7 月 9 日発表
文責 佐野草太
J.M.ケインズ著、塩野谷祐一訳、『雇用利子および貨幣の一般理論』
第 8 章、第 9 章まとめ
司会 経済学科 4 年 余川梨子
発表 経済学科 2 年 三光佑樹
まとめ 経済学科 2 年 佐野草太
第 8 章「消費性向―(Ⅰ)客観的要因」
第1節
ケインズの分析の究極的目的→何が雇用量を決定するかを明らかにすること。
第三編と第四編において総需要関数について触れる。
総需要関数は任意の雇用水準と、その雇用水準から実現できると期待できる売上金額(消
費支出と投資支出の総額)を関連付けるものである。
しかしながら消費支出と投資支出を決定する要因は異なっている。したがって第三編で
前者を、第四編で後者を取り扱う。
雇用が一定の時の消費支出を決定するために、消費(C)を雇用量(N)に関係づける関数を考察
する必要がある。
この時、同様の目的のため賃金単位表示の消費(𝐶𝑤 )を雇用水準(N)に対応する賃金単位表示
の所得(𝑌𝑤 )に関係づける関数によって議論した方が便利である。
だがこのやり方には反対論が提起される。
※反対論とは?
異なる産業に N を分配するとき、産業により雇用関数が異なる。これにより雇用と所得
は 1 対 1 の関係ではなくなるため、𝑌𝑤 は N の一義的な関数ではないという理論。
しかしながら複数の産業間で平均をとることにより、𝑌𝑤 が N によって一義的に決定され
るということは可能である。
この時賃金単位表示の任意の所得水準を𝑌𝑤 、その所得水準からの消費支出を𝐶𝑤 ,
𝑌𝑤 と𝐶𝑤 ,の間の関数関係を x と規定すると
𝐶𝑤 =x(𝑌𝑤 )または C=W・x(𝑌𝑤 ) と表すことができる。
社会が消費のために支出する額は以下の 3 つに依存する。
(一)一部分はその所得額
(二)一部分はほかの客観的な付随条件
(三)一部分は社会を構成する個々人の主観的な必要、心理的な性向、習慣、および所得
が個々人の間に分配される仕方を支配する原理(社会的、制度的要因)
これらの要因は相互に作用しているが、理解するために主観的、客観的要因に 2 分するこ
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文責 佐野草太
とができる。
以降、主観的要因を所与とみなし、消費性向は客観的要因の変化にのみ依存するものとす
る。
第2節
消費性向に影響を与える主要な客観的要因は以下の 6 つである。
(一)賃金単位の変化
※(一)の詳細
産出量が変化するとき、実質所得は賃金単位によって測られた所得にくらべて小
さな割合の変化を示す。
これはなぜかというと古典派経済学の第一公準より実質賃金は雇用の限界生産量
𝑤 𝑑𝑥
𝑤
𝑝
𝑝
に等しいので = 、収穫逓減の法則により は減少する。このことから p は w よ
𝑑𝑙
𝑌
りも変化の割合が大きいことがわかる。よって実質所得 は賃金単位によって測ら
𝑝
𝑌
れた所得𝑤にくらべて小さな割合の変化を示す、ということが言える。
(二)所得と純所得の間の差異の変化
(三)純所得の計算において考慮に入れられない資本価値の意外の変化
(四)時差割引率、すなわち現在財と将来財の間の交換比率の変化
利子率と全く同一のものではない。将来財を受け取る前に寿命を迎えたり、没収に
近い重税が課せられたりするなどあらゆる危険を考慮に入れる必要があるため。
※ケインズは(四)について消費への影響に疑問を抱いてる。
古典派経済学において消費支出は利子率に対して負の反応を示し、したがって利
子率の増加は消費支出の減少を引き起こすと考えられてきた。
しかしながら利子率の変化による消費支出への影響は確かなものではない。長期
的な観点から見れば利子率の変化により消費支出が変化することはあるだろうが、
それが増加なのか減少なのかは現実を見る以外に確かめる方法はない。よって短
期的な要因は第二義的であり、あまり重要ではない。
(五)財政政策の変化、特に所得税、資本利得税、相続税は利子率同様重要な要因である。
また公債を償還するために政府が減債基金を設ける場合、一種の法人貯蓄となり、
消費性向を減少させると推定される。
(六)現在の所得水準と将来の所得水準との間の関係についての期待の変化。
ただしこの要因は個人の消費性向には大きな影響を与えるだろうが、集団で見ると
平均化されてしまう。また通常あまりにも多くの不確実性が存在するため、消費支
出の変化にこの要因が大きな影響を与えることはない。
以上の要因より、消費性向は貨幣によって測られた賃金単位の変動を除去するならかな
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藤原ゼミナール 7 月 9 日発表
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り安定的な関数とみなすことができる。
一般的経済状況を一定とした場合、産出量と雇用量以外の要因を合成関数「消費性向」に
含めてもよい。
第3節
人々は通常所得が増加するにつれて消費を増加させる傾向があるが、消費の増加は所得
の
増加ほど大きくない。
𝐶𝑤 を消費額、𝑌𝑤 を所得とすると
𝑑𝐶𝑤
⊿𝐶𝑤 <⊿𝑌𝑤 であり、0<
𝑑𝑌𝑤
<1 である。
このことは短期においてより顕著にみられる。なぜならば一般に人々は所得額が増えて
も習慣的な消費量を消費しようとするので、現実の所得額と習慣的な消費量との差額は貯
蓄されるからである。
われわれは社会の実質所得が増加したとき、社会の消費は実質所得の増加分ほどには増加
せず、より大きな貯蓄がなされるということを当然とみなすようになる。
このことは社会の所得あるいは雇用が増えた時、その増加分がすべて消費に回されるわけ
ではないということを意味している。
また雇用が低い水準に低下したときは、総消費額は実質所得の減少分より低い低下を示す。
第4節
雇用量は期待された消費と期待された投資の関数である。
ほかの事情に変化がない限り、消費は純所得、純投資の関数である。
つまり純所得を計算する際に控除される金融準備金が大きければ大きいほど、一定の投資
水準が雇用を生み出す程度はますます小さくなる。
金融準備金のすべてが現存の資本設備の維持のために当期中に支出される場合にはさほど
の問題はない。ただしこの金融準備金が経常的維持のための現実の支出額を超過する場合
には問題が生じる。なぜならばこの金融準備金は投資にも所得にも使われることがなく、
したがって雇用を生み出すためにはより多くの新投資が必要だからである。
この問題は定常的な経済においては大きな問題とは言えない。なぜならば毎年の古い住宅
に対する減価償却引当金はその年に建築される新しい住宅によって相殺されるからである。
しかしながら実際はこうはならない。非静態的な経済においては、新投資の多くが現存資
本設備に対する金融準備金に吸収されてしまうからである。その結果所得の増加は抑制さ
れてしまう。これが意味することは金融準備金はその役割を果たす年まで有効需要を減少
させてしまうということだ。
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社会が有する資本ストックが大きくなればなるほど、純所得を計算する際に控除すべき控
除額がますます大きくなることは注視されねばならない。
※豊富の中の貧困について
経済規模が大きくなるにつれて消費性向が小さくなるため、有効需要を確保するために
は大量の新投資が必要とされる。投資をするためには貯蓄を増やし消費を控えなければ
ならないが、消費を控えるとさらに多くの投資が必要となってしまうというジレンマが
発生する。
消費性向が減少したときにそれを上回るだけの投資を行うためには、投資をすれば将来
必ず消費が増える、という期待が必要とされる。
しかし現実はそうはならないため、豊富の中の貧困が生まれ、経済規模が大きい社会に
なればなるほど失業者の救済が困難になる。
第 9 章「消費性向―(Ⅱ)主観的要因」
第1節
第 8 章においては、消費性向に影響を与える客観的な要因について述べた。この章では
所得から消費額を決定する主観的要因について述べている。
しかしながらケインズは、主観的要因は真新しいものではないので、一覧を作り上げれば
それについて詳しく論じる必要はないと述べている。
個人の消費性向に影響を与える要因
(一)不測の出来事に備えて準備をするため(用心)
(二)所得と個人あるいは家族が必要とする額の関係が将来変化することに備えるため
(深慮)
例:所得がなくなった後の老後、子供の学費など。
(三)利子と元本の総額が増えることを期待するため(打算)
(四)支出の逓増を享受しようとするため(向上)
今すぐ消費を増やすよりも将来に向けて消費を少しずつ増やしていくことのほうが
一般の人の本能を満足させるため
(五)独立の意識と実行力を享受しようとするため(独立)
(六)投機的、経営的計画を実行するための資金を確保するため(企業)
(七)財産を遺贈しようとするため(自尊)
(八)消費を抑制しようとする本能を満足させるため(貪慾)
企業や政府の消費性向に影響を与える要因
(一)企業の動機:借金や市場での資金調達なしに、自社が有する資本のみで資本投資を
行おうとするため
(二)流動性の動機:緊急事態や景気が悪くなった時のために自社内に流動性資産を保持
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しておこうとするため
(三)向上の動機:所得の逓増を確保しようとするため
(四)顕実金融の動機および「安全第一」の配慮:もしもの時のために金融準備金を用意
すること。
以上の動機はさまざまな制度、組織、習慣、経験、資本設備の規模と技術、富の分配、生
活水準によって強さが異なる。
ただし主観的要因の背景は所与とする。
第2節
以上の節より、消費性向に影響を与える主観的要因の背景は緩慢にしか変化せず、また
短期の利子率その他の客観的要因は第二次的な重要性しか持たないため、消費の短期的変
化は消費性向ではなく所得の規模の変化に依存している。
ただし前文は利子率の変化が消費性向に与える影響は比較的小さいという意味であって、
利子率の変化が現実の貯蓄額及び消費額に与える影響が小さいという意味ではない。
たとえば利子率が高い場合、大きな収益を求めて消費性向が小さくなり貯蓄性向が大きく
なったとしよう。
しかし利子率の上昇は投資の低下をもたらすため、貯蓄が低下した投資と等しくなるま
で所得の水準を下げなければならない。
このようにして利子率の上昇が総貯蓄額と総所得を減少させてしまう。
すなわち我々の所得が不変であるならば利子率の増加は貯蓄の増加をもたらすだろうが、
実際にはそういうことにはならない。したがって利子率が上昇すればするほど、ますます
我々の所得は減少するのである。
以上の事から、現実の総貯蓄額と総消費支出額は主観的要因ではなく利子率がどの程度投
資に対して有利であるかに大きく依存しているのである。
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