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日中関係における日本側の問題意識

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日中関係における日本側の問題意識
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
日中関係における日本側の問題意識
―朝日新聞・毎日新聞・読売新聞の社説の内容分析から― 1)
信 太 謙 三
小 川 祐喜子
Kenzou SHIDA
Yukiko OGAWA2)
大 谷 奈緒子
島 崎 哲 彦
Naoko OTANI
Akihiko SHIMAZAKI
1.研究の目的
戦後の日中関係は実質的に1972年の日中国交回復からスタートした。当初は、日中友好ムードが
高まり良好な関係が続いた。しかし、1970年代末からスタートした改革開放政策により中国が高度
経済成長を実現し、政治だけでなく、経済的にも力を増したことによって、日本と中国との間には
さまざまな問題が浮上してきた。中国のナショナリズムが高揚し、この中で資本・技術を導入する
うえでの対日依存度も低下し、さらには中国に対して比較的強い態度で臨んだ小泉政権が登場した
ことにより、大規模な反日デモも起きるようになった。しかし、その一方で、中国経済の拡大に伴
い、日中間の経済関係はますます緊密化し、こうした状況はメディアで「政冷経熱」と表現されて
現在に至っている。日中関係のこのような変化は報道にも確実に反映していると考えられる。
そこで、本研究では、日中関係をテーマに社説の内容分析から、各社の報道傾向の相違と送り手
の意図について明らかにし、日中関係における日本の問題意識について考察したものである。
2.研究の方法
本研究では、大手新聞社が「日本と日本国民にとって極めて重要だ」という認識のもとで書かれ
ている社説の日中関係をテーマにしたものを取り上げ、日本の主要日刊紙である「朝日新聞」、「毎
日新聞」、「読売新聞」の社説を対象に、時代による報道傾向の変遷や各社の報道傾向の相違などの
1)
本調査は、2007年度「社会調査および実習⑬」でのデータを基に行った研究である
2)
東洋大学社会学部非常勤講師
13
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
分析を試みた。分析期間は、中国の民主化運動を武力弾圧し、流血の大惨事となった天安門事件が
あった1989年1月1日から2007年4月30日までの約18年間とした。この18年間を6期に分け、コン
テンツ・アナリシス(contents analysis:内容分析)によって、社説のメッセージを量的に分析した。
また、中国を動かす指導者および日本の首相の在任期間で以下の時期区分で分析をおこなった。
第1期 鄧小平・趙紫陽時代・竹下・宇野時代(1989年1月1日~ 1989年6月23日)
第2期 鄧小平・江沢民時代・宇野・海部・宮澤・細川・羽田・村山・橋本時代(1989年6月24日
~ 1997年2月19日)
第3期 江沢民時代第Ⅰ期・橋本・小渕・森時代(1997年2月20日~ 2001年4月25日)
第4期 江沢民時代第Ⅱ期・小泉首相時代第1期(2001年4月26日~ 2002年11月24日)
第5期 胡錦濤時代第Ⅰ期・小泉首相時代第2期(2002年11月25日~ 2006年9月25日)
第6期 胡錦濤時代第Ⅱ期・安倍首相時代(2006年9月26日~ 2007年4月30日)
まず、「朝日新聞」、「毎日新聞」、「読売新聞」各社のデータベースを用いて対象期間に該当する
社説から「中国」、「中華人民共和国」で検索した。その結果、「社説・中国・中華人民共和国」は、
「朝日新聞」が19件、「毎日新聞」が11件、「読売新聞」が8件となり、「社説・中国」の検索結果は、
「朝日新聞」が2576件、「毎日新聞」が1852件、「読売新聞」が1836件となった。これらの検索結果
のうち日本の「中国地方」など明らかに社会主義国の中国とは関係のない社説は除外した。その結
果2336件の有効件数が得られ、「朝日新聞」は686件、「毎日新聞」は815件、「読売新聞」は835件の
社説を対象に内容分析を行った。
分析の項目は、「新聞名」、「年」、「月」、「日」、「日中関係の記事テーマ」、「日中関係を除く国、
地域問題」、「日本の登場人物」、「日中を除く登場人物」、「社説の性格」、「日中友好の登場回数」で
ある。さらに、「社説の性格」では、「批判」、「提言」、「状況と経過紹介」、「その他」に分類した。
「批判」は、
「批判の対象」と「中国批判の内容」について、
「提言内容」は、
「日中友好の強化」、
「平
和的解決の必要性」、「対中硬姿勢の必要性」、「問題の棚上げの必要性」についてのコーディングを
行なった。
3.日中関係における時期別傾向
(1)第1期 鄧小平・趙紫陽時代・竹下・宇野時代(1989年1月1日~ 1989年6月23日)
第1期では、「中国の民主化問題(言論の自由問題や天安門事件含む)」が50.0%と最も多く、次
いで、
「反日問題(デモ、反日教育問題含む)」が12.5%、
「中国の人権問題(少数民族、死刑問題含む)」、
「中国の改革開放問題(市場経済問題含む)」が8.3%、
「日中首脳の相互訪問問題」、
「日中の経済問題」、
「残留孤児・婦人問題」、「日中の外交問題」が4.2%の順で続く結果が示された。この時期の中国関
連社説の本数は、合計24本で全6期の中で最も少ない結果となっている。しかし、記事テーマ別に
14
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
おいては、第1期の最後に天安門事件が発生したことにより「中国の民主化問題」(50%)が半数
を占め、民主化問題が特徴的であることがわかる。また、「反日問題」(12.5%)が2番目に多く、
これは昭和天皇がこの年の1月7日に崩御されことが要因と考えられる。そして、全体的にみると、
日中関係ではなく中国国内問題に関する社説が多く書かれたこである。これは、天安門事件の勃発
が関係していると考えられる(図3-1参照)。
図 3-1 第 1 期 記事テーマ件数
図3-1 第1期 記事テーマ件数
4.2%
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
反日問題(デモ、反日教育問題含む)
記事テーマ
4.2%
日中の経済問題
12.5%
4.2%
日中首脳の相互訪問問題
中国の民主化問題
50.0%
8.3%
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含
む)
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
8.3%
4.2%
残留孤児・婦人問題
日中の外交問題
0.0%
4.2%
10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0%
N=24
n=24
(2)第2期 鄧小平・江沢民時代・宇野・海部・宮澤・細川・羽田・村山・橋本時代(1989年6
図
3-2 第 1997年2月19日)
2 期 記事テーマ件数
月24日~
第2期では、「中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
」が10.9%と最も多く、次いで、「中国
2.2%
尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題
4.8%
教科書・歴史認識問題 の民主化問題(言論の自由問題や天安門事件含む)
」が8.9%、「中国の軍事的脅威問題(核実験問
0.3%
石油資源開発問題
2.6%
靖国参拝問題
題含む)」が8.3%、
「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
」が6.1%、
「天皇問題(訪中も含む)」
1.0%
従軍慰安婦問題
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
4.2%
日中の経済問題
4.2%
0.3%
日本の安保理加盟問題
が5.1%と続いている。この時期の該当社説は313本であった。
1.0%
円借問題
この時期は、天安門事件で趙紫陽氏が失脚し、江沢民氏が総書記に大抜擢された1989年6月24日
天皇問題(訪中も含む) 日中首脳の相互訪問問題
2.9%
5.1%
から1997年2月19日までの約7年8カ月と長い時期である。
このため、中国関連社説も313本と多く、
1.6%
中国人の不法入国・滞在問題
0.3%
中国人の研修生問題
記
テーマもその他を含め全39項目中30項目と多岐に及んでいる。
1.9%
日本での中国人犯罪問題
ー
事
8.9%
テ 中国の民主化問題(言論の自由問題や天安門事件含む)
1.3%
最も多かったのは「中国の改革開放問題」
(10.9%)であるが、これは1992年に最高実力者だっ
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含む)
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
10.9%
マ
1.3%
中国のWTO加盟問題
た鄧小平氏が上海や広州などを視察して改革開放のスピードアップを指示し、中国経済が急速に発
1.3%
中国の貧富差問題
8.3%
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
展した時期であたったからである。次いで「中国の民主化問題」が多かったが、これは天安門事件
1.6%
中国の環境問題
0.6%
知的所有権問題
の影響によるものである。3番目に多かった「中国の軍事的脅威問題」は、中国が急速に拡大する
日中文化・スポーツ交流問題
4.8%
0.6%
北京五輪問題
経済力を背景に、毎年、軍事予算を2桁のペースで増やしており、日本としても脅威を感じ始めた
4.2%
日中の漁業問題
1.6%
残留孤児・婦人問題
からといえる。
6.1%
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
4.2%
日中の外交問題
0.6%
遺棄化学兵器問題
そして、第2期で特に多かったテーマは
「天皇問題」
であるが、これは1992年10月に天皇訪中があっ
11.5%
その他
0.0%
15
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
14.0%
n=313
4.2%
事テーマ
日中首脳の相互訪問問題
中国の民主化問題
50.0%
8.3%
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含
む)
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
残留孤児・婦人問題
8.3%
4.2%
4.2%
日中の外交問題
0.0%「天皇問題」は0本であった。この時期に特徴的な
10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0%
たからだといえる。その他の時期においては、
n=24
ことは、「中国の改革開放問題」と「日中の経済問題」を合わせると15.1%になったところである。
それは経済問題が数多く取り上げられるようになったからと考えられる(図3-2参照)。
図 3-2 第 2 期 記事テーマ件数
図3-2 第2期 記事テーマ件数
0.3%
マ
4.8%
2.6%
1.0%
4.2%
0.3%
4.2%
1.0%
1.6%
0.3%
5.1%
2.9%
1.9%
8.9%
1.3%
ー
記
事
テ
2.2%
尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題
教科書・歴史認識問題 石油資源開発問題
靖国参拝問題
従軍慰安婦問題
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
日本の安保理加盟問題
日中の経済問題
円借問題
天皇問題(訪中も含む) 日中首脳の相互訪問問題
中国人の不法入国・滞在問題
中国人の研修生問題
日本での中国人犯罪問題
中国の民主化問題(言論の自由問題や天安門事件含む)
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含む)
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
中国のWTO加盟問題
中国の貧富差問題
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
中国の環境問題
知的所有権問題
日中文化・スポーツ交流問題
北京五輪問題
日中の漁業問題
残留孤児・婦人問題
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
日中の外交問題
遺棄化学兵器問題
その他
10.9%
1.3%
1.3%
0.6%
4.8%
0.6%
1.6%
0.6%
0.0%
8.3%
1.6%
2.0%
4.2%
4.2%
6.1%
11.5%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
14.0%
N=313
n=313
(3)第3期 江沢民時代第Ⅰ期・橋本・小渕・森時代(1997年2月20日~ 2001年4月25日)
第3期では、「日中の外交問題」が10.8%と最も多く、次いで、「日本の内政問題(ガイドライン
問題含む)」が9.1%、「中国のWTO加盟問題」が8.5%、「日中の経済問題」が8.0%、「中国改革開
放問題(市場経済問題含む)」が7.4%、
「日中の漁業問題」が6.3%、
「教科書・歴史認識問題」が5.7%
と続いている。この時期の該当社説176本だった。
第3期は、鄧小平氏が死去して江沢民総書記が名実共に最高実力者となり、他方、日本は中国と
のパイプが太かった旧田中派の橋本・小淵政権と中国との関係を重視した森政権の時期で、中国は
急速な経済発展によって自信を付け、WTO加盟に向けて努力を重ねていた時期である。記事テー
マ別では、「日中の外交問題」と「日本の内政問題」が上位を占めている。また、中国経済の発展
に伴い、「中国のWTO加盟問題」や「日中の経済問題」などの経済関連社説が、第1期、第2期
に比べて大幅に増えている(図3-3参照)。
16
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
図 3-3 第 3 期 記事テーマ件数
図3-3 第3期 記事テーマ件数
ー
記
事
テ
その他
遺棄化学兵器問題
日中の外交問題
日中のナショナリズム問題
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
残留孤児・婦人問題
日中の漁業問題
中国の宇宙開発問題
中国の環境問題
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
中国の貧富差問題
中国のWTO加盟問題
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含む)
中国の民主化問題(言論の自由問題や天安門
日本での中国人犯罪問題
中国人の研修生問題
中国人の不法入国・滞在問題
日中首脳の相互訪問問題
円借問題
日中の経済問題
日本の憲法改正問題
反日問題(デモ、反日教育問題含む)
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
強制労働問題
従軍慰安婦問題
靖国参拝問題
石油資源開発問題
教科書・歴史認識問題 尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題
マ
11.4%
0.6%
10.8%
1.1%
9.1%
2.3%
6.3%
0.6%
1.1%
4.0%
1.1%
7.4%
0.6%
8.5%
4.0%
0.6%
0.6%
1.7%
3.4%
0.6%
8.0%
0.6%
0.6%
2.3%
0.6%
1.1%
1.7%
2.8%
5.7%
1.1%
0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
n=176
N=176
(4)第4期 江沢民時代第Ⅱ期・小泉首相時代第1期(2001年4月26日~ 2002年11月24日)
図 3-4 第 4 期 記事テーマ件数
第4期では、「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)」が13.8%と最も多く、次いで「靖国参
4.1%
11.7%
靖国参拝問題
拝問題」と「日中の外交問題」が11.7%、
「日中の経済問題」が8.3%、「日本での中国人犯罪問題」
教科書・歴史認識問題 2.1%
1.4%
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
が6.9%、「中国のWTO加盟問題」が5.5%と続いている。この時期の該当社説145本だった。
強制労働問題
2.1%
8.3%
日中の経済問題
第4期の中国では、江沢民政権下において中国のナショナリズムが高揚し、反日的な気運が強ま
日本の憲法改正問題
1.4%
1.4%
日中首脳の相互訪問問題
り、日本においても中国に対して比較的強硬な小泉政権が誕生し、日中関係が徐々に悪化していっ
円借問題
6.9%
2.8%
事 中国の民主化問題(言論の自由問題や天安
た時期である。このような社会情勢下で「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
」、「靖国参拝
記
日本での中国人犯罪問題
ー
2.1%
テ 中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
5.5%
中国のWTO加盟問題
問題」、「日中の外交問題」などの社説が多く取り上げられている。
1.4%
中国の貧富差問題
マ
0.7%
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
この時期の日中関係は、政治的にぎくしゃくした関係であったが、日中の経済関係はますます緊
日中文化・スポーツ交流問題
2.1%
北京五輪問題
0.7%
密していった。それゆえに、中国絡みの問題が社説で取り上げられる頻度が大幅に増加した時期で
4.1%
日中の漁業問題
残留孤児・婦人問題
0.7%
ある(図3-4参照)
。
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
13.8%
11.7%
日中の外交問題
その他
15.2%
0.0%
17
2.0%
4.0%
6.0%
8.0% 10.0% 12.0% 14.0% 16.0%
n=145
靖国参拝問題
石油資源開発問題
教科書・歴史認識問題 尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題
1.7%
2.8%
5.7%
1.1%
0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
n=176
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
図3-4 第4期 記事テーマ件数
図 3-4 第 4 期 記事テーマ件数
2.1%
1.4%
2.1%
4.1%
11.7%
8.3%
1.4%
1.4%
6.9%
2.8%
2.1%
1.4%
0.7%
2.1%
0.7%
ー
教科書・歴史認識問題 靖国参拝問題
強制労働問題
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
日本の憲法改正問題
日中の経済問題
円借問題
日中首脳の相互訪問問題
日本での中国人犯罪問題
記
事 中国の民主化問題(言論の自由問題や天安
テ 中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
中国のWTO加盟問題
中国の貧富差問題
マ
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
日中文化・スポーツ交流問題
北京五輪問題
日中の漁業問題
残留孤児・婦人問題
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
日中の外交問題
その他
0.7%
0.0%
2.0%
5.5%
4.1%
11.7%
4.0%
6.0%
13.8%
15.2%
8.0% 10.0% 12.0% 14.0% 16.0%
N=145
n=145
(5)第5期 胡錦濤時代第Ⅰ期・小泉首相時代第2期(2002年11月25日~ 2006年9月25日)
第5期では、「靖国参拝問題」が14.0%と最も多く、次いで、「日本の内政問題(ガイドライン問
題含む)」が12.1%、「反日問題(デモ、反日教育問題含む)」が6.7%、「日中の経済問題」が5.9%、
「石油資源開発問題」が5.7%と続いている。この時期の該当社説は371本だった。第5期は、中国絡
み問題の社説で取り上げられる頻度が比較的高かった時期である。テーマ別では、前期に引き続き
「靖国参拝問題」と「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)が突出した結果となった。それは、
江沢民政権から続く反日的気運が収まらず、さらに小泉首相の靖国参拝が日中関係を左右する象徴
的な問題であったために、日中外交に多くの関心が寄せられていたからである(図3-5参照)。
18
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
図 3-5 第 5 期 記事テーマ件数
図3-5 第5期 記事テーマ件数
ー
記
事
テ
尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題
教科書・歴史認識問題 石油資源開発問題
靖国参拝問題
従軍慰安婦問題
強制労働問題
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
反日問題(デモ、反日教育問題含む)
日本の安保理加盟問題
日本の憲法改正問題
日中の経済問題
円借問題
人民元問題
日中首脳の相互訪問問題
中国人の不法入国・滞在問題
中国人の研修生問題
日本での中国人犯罪問題
中国の民主化問題(言論の自由問題や天安門事
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含む)
中国の改革開放問題(市場経済問題含む)
中国のWTO加盟問題
中国の貧富差問題
中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)
中国の環境問題
鳥インフルエンザ問題
中国の宇宙開発問題
中国の株式問題 知的所有権問題
日中文化・スポーツ交流問題
北京五輪問題
日中の漁業問題
残留孤児・婦人問題
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
日中のナショナリズム問題
日中の外交問題
遺棄化学兵器問題
その他
マ
1.6%
3.0%
5.7%
0.3%
0.3%
0.5%
6.7%
3.0%
0.5%
5.9%
2.7%
0.3%
0.3%
0.8%
0.5%
0.3%
14.0%
4.9%
2.4%
2.2%
2.7%
1.3%
1.1%
4.3%
2.4%
1.3%
0.3%
0.8%
1.9%
0.5%
1.1%
1.3%
0.3%
0.3%
0.0%
12.1%
4.3%
8.1%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
14.0%
16.0%
N=371
n=371
(6)第6期 胡錦濤時代第Ⅱ期・安倍首相時代(2006年9月26日~ 2007年4月30日)
第6期では、「日本の内政問題(ガイドライン問題を含む)」が18.3%と最も多く、次いで「日中
首脳の相互訪問問題」が15.0%、
「日中の外交問題」が10.0%、
「教科書・歴史認識問題」が6.7%、
「中
国の宇宙開発問題」・「残留孤児・婦人問題」がそれぞれ5.0%と続いている。この時期の該当社説
は60本であった。
第6期は、小泉首相が退陣し、対中問題では保守的であるが比較的柔軟な安倍政権が登場し、日
中間の首脳相互訪問が再開された時期である。それゆえに、「日本の内政問題(ガイドライン問題
を含む)」、「日中首脳の相互訪問問題」、「日中の外交問題」が多い結果となった。そして、日中間
のぎくしゃくした関係が幾分、改善されたことによって、第5期で最も多かった「靖国問題」が姿
を消している。さらに、この時期に入って「中国の宇宙開発問題」(5.0%)、「中国の対日スパイ問
題」
(3.3%)、
「中国の軍事的脅威問題(核実験問題含む)」
(3.3%)や「中国の株式問題」
(3.3%)、
「知
的所有権問題」(3.3%)などが急に増加している。それは、中国が経済力をつけて政治的に強大化
してきたことや日中の経済関係が一段と緊密化してきたことが関係している(図3-6参照)。
19
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
図3-6 第6期 記事テーマ件数
N=60
4.日中関係における新聞別傾向
(1)社説件数の推移
図4-1は1989年1月から2007年4月までの「朝日新聞」、
「毎日新聞」、
「読売新聞」の「日中関係」
に関する社説件数の推移を示している。3紙の社説総数は2,336件で、特に2001年と2005年の社説
の件数が多いことがわかる。2001年は4月に小泉政権が誕生し、8月に小泉首相が首相就任後初め
て靖国神社を参拝したことから、中国側の猛反発が起こった。また、2005年は日本の国連常任理事
国入りを巡って、中国各地で大規模な反日デモが起こった年である。したがって、2001年、 2005年
ともに、中国において反日感情が高まる出来事があった年であったといえる。
各紙の社説件数は「朝日新聞」が686件、「毎日新聞」が815件、「読売新聞」が835件となり、「朝
日新聞」の社説件数は他紙に比べて少ない。各紙の推移をみると、1991年から1994年および2001年
から2002年は「毎日新聞」で、1998年から1999年は「朝日新聞」で、1995年から1997年までと2003
20
1.7%
鳥インフルエンザ問題
3.3%
中国の株式問題 1.7%
知的所有権問題
3.3%
石油資源開発問題
マ
5.0%
従軍慰安婦問題
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
3.3%
戦争責任問題(戦時賠償問題を含む)
3.3%
反日問題(デモ、反日教育問題含む)
1.7%
日中の経済問題
5.0%
中国の人権問題(少数民族、死刑問題を含む)
年から2007年にかけては「読売新聞」で、それぞれ社説の件数が最も多くなっている。全体的に社
18.3%
中国の環境問題
10.0%
日中文化・スポーツ交流問題
説件数が多かった2001年の内訳は、
「毎日新聞」が112件で最も多く、
以下、
「朝日新聞」が73件、
「読
1.7%
遺棄化学兵器問題
売新聞」が47件と続く。「毎日新聞」の件数に対し
「読売新聞」の件数はかなり少ないことがわかる。
8.3%
その他
ー
記
事
テ
0.0% 2.0% 「毎日新聞」が108件、
4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 「朝日新聞」が76件であ
14.0% 16.0% 18.0% 20.0%
2005年は「読売新聞」が122件で最多となり、以下、
n=60
る。社説件数は各紙とも増減を繰り返す傾向にあるが、各紙とも日中関係が社説として継続的に扱
われる問題(争点)であることがわかる。
図 4-1 新聞別 社説件数の推移
図4-1 新聞別 社説件数の推移
140
350
全体(n=2,336)
全体
(N=2,336)
朝日(n=686)
朝日
(N=686)
毎日(n=815)
毎日
(N=815)
読売
(N=835)
読売(n=835)
120
社 100
300
250
体
説 80
200
件
数
全
社
60
150 説
40
100
20
50
件
0
数
0
1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
(2)記事テーマ
図4-2は分析した40の記事テーマのうち多かった記事テーマを抽出し、新聞別に集計したもの
である。「朝日新聞」は「靖国参拝問題」が12.3%で最も多く、以下、「日中の漁業問題」と「日中
の経済問題」がともに6.9%、
「中国の改革開放問題(市場経済問題含む)」が6.0%と続く。「毎日新聞」
は「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)」が9.7%、「中国の民主化問題(言論の自由問題や
天安門事件含む)」が8.6%、
「日中の外交問題」が7.8%、
「靖国参拝問題」と「中国の改革開放問題(市
場経済問題含む)」がともに6.1%である。「読売新聞」は「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)」
が15.9%で他を圧倒しており、以下、「日中の外交問題」が7.1%、「中国の軍事的脅威問題(核実験
問題含む)」が6.8%、「日中の経済問題」が6.6%となっている。
したがって、「朝日新聞」は日中関係に関連する記事テーマが多く、「毎日新聞」と「読売新聞」
は日本の内政問題、日中関係、中国の問題など、記事テーマが多岐に渡っているといえる。
21
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
図 4-2 新聞別 記事テーマ 図4-2 新聞別 記事テーマ
3.9
日本の内政問題
(ガイドライン問題含む)
6.1
4.8
靖国参拝問題
日中の外交問題
6.6
7.8
7.1
5.8
3.9
日中の経済問題
7.5
5.7
10.2
9.7
15.9
4.8
6.9
6.6
5.1
5.4
中国の民主化問題
(言論の自由問題や天安門事件含む)
2.3
3.3
中国の軍事的脅威問題
(核実験問題含む)
4.2
6.8
3.3
4.0
3.3
教科書・歴史認識問題 2.3
日中首脳の相互訪問問題
1.1
1.8
日中の漁業問題
3.1
0
朝日
(N=333)
朝日(n=333)
毎日
(N=360)
毎日(n=360)
5.7
8.6
4.8
全体
(N=1089)
全体(n=1089)
6.0
6.1
中国の改革開放問題
(市場経済問題含む)
12.3
読売
(N=396)
読売(n=396)
3.9
5.4
3.6
4.2
6.9
2
4
6
8
10
12
14
16 %
(3)社説の性格
図 4-3 新聞別 社説の性格
社説の性格では、
「批判」、
「提言」、
「状況・経過紹介」、
「その他」の4つに分類を行った。その結果、
「朝
日新聞」は「批判」が32.0%、「提言」が36.3%、「状況・経過紹介」が31.4%となり、3つの項目が
全体(n=1,075)
26.0
38.6
35.0
0.4
ほぼ同じ割合で社説が構成されていることがわかる。
「毎日新聞」は「提言」が最も多く40.6%を占め、
以下、
「状況・経過紹介」が32.5%、
「批判」が26.3%と続く。「読売新聞」は「状況・経過紹介」
(40.3%)
0.3
朝日(n=328)
32.0
36.3
31.4
と「提言」(39.0%)が多くなっている(図4-3参照)。
毎日(n=357)
26.3
読売(n=390)
40.6
20.5
0
39.0
20
批判
32.5
40
提言
40.3
60
状況・経過紹介
22
80
その他
0.6
0.3
100 %
日中首脳の相互訪問問題
日中の漁業問題
2.3
1.1
1.8
3.1
4.2
6.9
0
2
4
6
8
10
12
14
16 %
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
図4-3 新聞別 社説の性格
図 4-3 新聞別 社説の性格
全体
(N=1,075)
全体(n=1,075)
26.0
朝日
(N=328)
朝日(n=328)
38.6
32.0
毎日
(N=357)
毎日(n=357)
36.3
26.3
読売
(N=390)
読売(n=390)
0
20
0.6
32.5
39.0
批判
0.3
31.4
40.6
20.5
0.4
35.0
0.3
40.3
40
60
提言
100 %
80
状況・経過紹介
その他
4つの分類のうち「批判」に分類された社説について、批判の対象を分析したところ、3紙とも
主な批判対象は中国と日本であることがわかった。「読売新聞」は中国への批判が多く、他方、「朝
日新聞」と「毎日新聞」では日本が主な批判の対象となっている(図4-4参照)。
図 4-4 新聞別 批判の対象
図4-4 新聞別 批判の対象
0.7
全体(N=291)
全体(n=291)
0.3
10.7
52.9
35.4
0.9
朝日(N=111)
朝日(n=111)
15.3
60.4
23.4
1.1
毎日(N=94)
毎日(n=94)
7.4
57.4
34.0
1.2
読売(N=86)
読売(n=86)
0
8.1
38.4
52.3
20
40
中国
60
日本
アメリカ
朝鮮
80
100 %
その他
さらに、「中国」を批判する社説を対象に、中国批判の内容を分析したところ、3紙とも「中国
共産党・政府」への批判が最も多く、なかでも「朝日新聞」は「中国共産党・政府」に対する批判
図 4-5 新聞別 中国批判の内容
が全体の6割を占める。次いで、各紙とも「軍事力の拡大」が多く、2割程度を占めている。3紙
教育
朝日(n=27)
毎日(n=29)
読売(n=43)
3.7%
その他
その他
とも「中国共産党・政府」と「軍事力の拡大」への批判が多いという点は共通している(図4-5
輸入の規制
その他
7.4%
6.9%
参照)。
民主化弾圧
3.7%
軍事力の拡
大
18.5%
ナショナリ
ズム・中華
思想層
7.4%
人権弾圧
13.8%
中国共産
党・政府
59.3%
問題
2.3%
中国共産
党・政府
37.9%
民主化弾圧
13.8%
軍事力の拡
大
20.7%
23
ナショナリズ
ム・中華思
想層
6.9%
16.3%
宗教弾圧
2.3%
人権弾圧
2.3%
民主化弾圧
7.0%
軍事力の拡
大
20.9%
中国共産
党・政府
48.8%
全体(n=291)
0
20
40
23.4 中国
朝日(n=111)
10.7
52.9
35.4
60
日本
アメリカ
80
朝鮮
100 %
0.9
その他
60.4
15.3
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
毎日(n=94)
1.1
7.4
57.4
34.0
図4-5 新聞別 中国批判の内容
図 4-5 新聞別
中国批判の内容
52.3
読売(n=86)
朝日(n=27)
朝日
(N=27)
教育
3.7%
20
40
その他
7.4%
その他
中国
6.9%
民主化弾圧
3.7%
中国共産
党・政府
59.3%
60
日本
アメリカ
朝鮮
輸入の規制
その他
問題
人権弾圧
2.3%
民主化弾圧
13.8%
軍事力の拡
大
20.7%
朝日(n=27)
教育
3.7%
ナショナリズ
ム・中華思
想層
6.9%
その他
7.4%
中国共産
党・政府
48.8%
民主化弾圧
7.0%
軍事力の拡
大
20.9%
毎日(n=29)
その他
6.9%
民主化弾圧
3.7%
輸入の規制
問題
2.3%
人権弾圧
13.8%
100 %
その他
16.3%
宗教弾圧
2.3%
中国共産
党・政府
37.9%
図 4-5 新聞別 中国批判の内容
読売
(N=43)
読売(n=43)
80
2.3%
人権弾圧
13.8%
ナショナリ
ズム・中華
思想層
7.4%
8.1
毎日
(N=29)
毎日(n=29)
0
軍事力の拡
大
18.5%
1.2
38.4
読売(n=43)
その他
16.3%
宗教弾圧
2.3%
中国共産
党・政府
中国共産
軍事力の拡
37.9%
図 次に、
4-6 新聞別
提言内容
人権弾圧
党・政府
中国共産
「提言」に分類された社説の提言の内容をみると、
「朝日新聞」と「毎日新聞」はほぼ同じ
大
2.3%
民主化弾圧
13.8%
党・政府
59.3%
18.5%
民主化弾圧
7.0%
48.8%
傾向にあり、
「平和的解決の必要性」が約3割で最も多く、
次いで「日中友好の強化」が続いている。
ナショナリズ
ナショナリ
ズム・中華
35.1
思想層
7.4%
全体(n=422)
18.5
10.7
5.5
軍事力の拡
大
20.7%
ム・中華思
想層
6.9%
軍事力の拡
大
20.9%
30.3
他方、
「読売新聞」は「平和的解決の必要性」が4割を超えて多く、次いで、
「対中硬姿勢の必要性」
が2割弱を占める(図4-6参照)。
29.2
朝日(n=120)
25.8
7.5
5.8
31.7
図 4-6 新聞別 提言内容
図4-6 新聞別 提言内容
29.7
23.0
5.4 5.4
36.5
毎日(n=148)
全体
(N=422)
全体(n=422)
読売(n=154)
0
44.8
朝日
(N=120) 20
朝日(n=120)
平和的解決の必要性
35.1
29.2
40
日中友好の強化
毎日(n=148)
毎日
(N=148)
読売(n=154)
読売
(N=154)
0
平和的解決の必要性
18.5
8.4
7.5
5.4
44.8
20
31.7
100 %
5.8
80
5.4
8.4
40
18.2
60
対中硬姿勢の必要性
30.3
23.4
問題の棚上げの必要性
23.0
日中友好の強化
5.5
5.2
25.8
60
対中硬姿勢の必要性
29.7
10.7
18.2
その他
36.5
5.2
23.4
80
問題の棚上げの必要性
100 %
その他
さらに、「状況・経過紹介」に分類された社説を対象に、日中友好について分析したところ、日中
友好について触れていない社説が多く、「毎日新聞」と「読売新聞」では7割、「朝日新聞」でも7
割弱を占めている。他方、
「日中友好の必要性」についての言及は「朝日新聞」が3紙の中で最も多く、
約2割を占めている(図4-7参照)。
24
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
図 4-7 新聞別 状況・経過紹介
図4-7 新聞別 状況・経過紹介
全体
(N=422)
全体(n=422)
35.1
朝日
(N=120)
朝日(n=120)
29.2
毎日
(N=148)
毎日(n=148)
29.7
読売
(N=154)
読売(n=154)
18.5
25.8
0
7.5
23.0
44.8
5.4
30.3
5.8
31.7
36.5
18.2
40
日中友好の強化
5.5
5.4
8.4
20
平和的解決の必要性
10.7
5.2
60
対中硬姿勢の必要性
23.4
100 %
80
問題の棚上げの必要性
その他
(4)各紙の姿勢
社説の件数が多かった2001年と2005年に注目してみると、
2001年は「日本の内政問題(ガイドライ
表 4-1 新聞別 2001 年、2005 年 記事テーマ
教科書・歴「日中の外交問題」が12.6%、
靖国参拝 日中の経 日本の内政問題
(ガイド 日中の外交
ン問題含む)」が15.3%で最も多く、以下、
「靖国参拝問題」が11.7%、
2001 年
史認識問題 問題
済問題
ライン問題含む)
問題
「教科書・歴史認識問題」と「日中の経済問題」がともに10.8%と続く。これらの記事テーマにつ
朝日
(n=36)
11.1%
19.4
8.3
2.8
11.1
毎日
(n=44)
6.8
6.8
9.1
29.5
6.8
読売
(n=31)
16.1
9.7
16.1
9.7
22.6
いて新聞別にみると、3紙とも取り上げる主要な記事テーマは異なる。「朝日新聞」は「靖国参拝
問題」、「毎日新聞」は「日本の内政問題(ガイドライン問題含む)」、「読売新聞」は「日中の外交
問題」となる(表4-1参照)。2005年は、「靖国参拝問題」が14.1%で最も多く、「日本の内政問
反日問題(デモ、反日教
日本の内政問題(ガイド
育問題含む)
ライン問題含む)
2005 年
靖国参拝問題
題(ガイドライン問題含む)
」が12.4%、
「反日問題(デモ、反日教育問題含む)」が11.4%と続いて
いる。これらの記事テーマを新聞別にみると、
「朝日新聞」は「靖国参拝問題」、
「読売新聞」は「日
朝日
(n=58)
27.6%
19.0
1.7
読売
(n=80)
6.3
7.5
21.3
本の内政問題(ガイドライン問題含む)
」を取り上げることが多い傾向にある(表4-1参照)
毎日
(n=47)
10.6
8.5
10.6。
注)記事テーマ
40 テーマの内、各年で記事件数が多かった記事テーマのみ抽出し、集計を行った。
表4-1 新聞別 2001年、2005年 記事テーマ
教科書・ 歴史認識問題
靖国参拝問題
日中の 経済問題
日本の内政問題
(ガイドライン問題含む)
日中の 外交問題
全体 (N=111)
10.8%
11.7
10.8
15.3
12.6
朝日 (N= 36)
11.1
19.4
8.3
2.8
11.1
毎日 (N= 44)
6.8
6.8
9.1
29.5
6.8
読売 (N= 31)
16.1
9.7
16.1
9.7
22.6
2001年
2005年
靖国参拝問題
反日問題
日本の内政問題
(デモ、反日教育問題含む) (ガイドライン問題含む)
全体 (N=185)
14.1%
11.4
12.4
朝日 (N= 58)
27.6
19.0
1.7
毎日 (N= 47)
10.6
8.5
10.6
読売 (N= 80)
6.3
7.5
21.3
注)記事テーマ40テーマの内、各年で記事件数が多かった記事テーマのみ抽出し、集計を行った。
25
東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
次に、これらの記事テーマの社説の性格を分析したところ、「朝日新聞」は「批判」が多く、特
に「靖国参拝問題」は批判的な内容が多く約7割を占める。「毎日新聞」は「靖国参拝問題」と「日
本の内政問題(ガイドライン問題含む)」では批判的内容が多くなっているが、全体的には「提言」
が多い。他方、「読売新聞」は「批判」は少なく、「提言」と「状況・経過紹介」が多くなっている
(表4-2参照)。
表4-2 新聞別 記事テーマの社説の性格
教科書・歴史認識問題 批判
提言
状況・経過紹介
全体
(N= 45)
31.1%
40.0
28.9
朝日
(N= 18)
44.4 27.8
27.8
毎日
(N= 12)
33.3 50.0
16.7
読売
(N= 15)
13.3 46.7
40.0
その他
靖国参拝問題
全体
(N= 78)
57.7%
28.2
14.1
朝日
(N= 37)
73.0 21.6
5.4
毎日
(N= 22)
59.1 31.8
9.1
読売
(N= 19)
26.3 36.8
36.8
反日問題(デモ、反日教育問題含む)
全体
(N= 30)
30.0%
36.7
33.3
朝日
(N= 13)
46.2 30.8
23.1
毎日
(N= 7)
- 71.4
28.6
読売
(N= 10)
30.0 20.0
50.0
日中の経済問題
全体
(N= 63)
17.5%
42.9
39.7
朝日
(N= 23)
13.0 39.1
47.8
毎日
(N= 14)
28.6 57.1
14.3
読売
(N= 26) 15.4 38.5
46.2
日本の内政問題(ガイドライン問題含む)
全体
(N=109)
24.8%
33.9
39.4
1.8
朝日
(N= 13)
38.5 30.8
30.8
-
毎日
(N= 34)
44.1 29.4
23.5
2.9
読売
(N= 62)
11.3 37.1
50.0
1.6
日中の外交問題
全体
(N= 70)
21.4%
54.3
24.3
朝日
(N= 16)
31.3 37.5
31.3
毎日
(N= 26)
15.4 57.7
26.9
読売
(N= 28)
21.4 60.7
17.9
26
日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
高橋直之は現代日本の新聞ジャーナリズムのイデオロギー的基本構図について「原則的にいうな
ら、『読売』『産経』の保守主義ブロックと『朝日』『毎日』の市民主義ブロックを両極に、『日経』
は全体として保守主義ブロック寄りであるものの、経済合理主義の立場から是々非々の政府批判の
姿勢をとるという三極構造として素描できるだろう」(高橋,1995:338)と指摘している。今回の
分析により、日中関係について重要視する問題(争点)は新聞社によって異なること明らかとなった。
社説の姿勢も各社で異なり、
「朝日新聞」は批判的内容が、
「毎日新聞」は批判的・提言的内容が多く、
批判の対象が日本であることから、政府や権力主義的ではない市民主義的な姿勢をとっているとい
えよう。他方、「読売新聞」は提言と状況・経過紹介が多く保守的な姿勢を確認することができた。
5.まとめ
小泉首相時代において日本と中国との政治関係は、首相の靖国神社参拝などによって悪化し、経
済関係が緊密化していった。日中の相互訪問は2001年の小泉首相の訪中を最後に中断したが、安倍
首相が2006年に訪中し2007年には温家宝首相の訪日で日中の相互訪問は再開された。そして、安倍
首相の突然の辞任後も福田首相が2007年12月に訪中したことによって日中の「政冷経熱」状態が
解消されたかにみられるが、日中関係は簡単に解決できない問題を多く抱えている(信太,2008:
43-44)。
それらの問題は、日中関係の時期別の傾向にみられる。第1期では天安門事件が勃発したことも
あり日中関係よりも中国国内の問題に焦点を当てられた社説が多く、第2期では最高実力者である
鄧小平の改革開放によって中国経済が急速に発展したこともあり「中国の改革開放問題」の記事が
多く掲載されている。また、第2期は、天皇の中国訪問により「天皇問題」が他の時期と比較して
一番多かったことも特徴的であり、さらに経済問題が数多く取り上げられていることも特徴的であ
る。この傾向は第3期においてもみられている。そして、日中関係が一変するのが第4期に入って
からである。日本では小泉首相の時代に入り、中国では江沢民政権下で中国のナショナリズムが高
揚をみせ反日の構造が徐々に高まっていった。さらに、第5期では小泉首相の「靖国参拝」といっ
た象徴的な問題が起こり、中国では反日感情が高まり、日中の外交に多くの関心が寄せられている。
その後、小泉首相が退陣した第6期に入ってからは、比較的柔軟な安倍政権のもと一時高揚をみせ
た反日感情がおさまり、日中関係は経済関係において緊密化していくことになる。
このように歴史的、政治的背景のもと、日本における日中関係のイメージは変容している。この
変容に大きな影響をもたらしているものがマス・メディアである。最近では、新聞よりもテレビの
ほうが世論への影響力が強いと一般的に考えられる傾向にあるが、新聞は他のメディアと比べて固
有の役割を担い、世論を反映し代弁するものである。高橋によると、1980年代に入り日本のジャー
ナリズムは、各紙が独自の主張を追及、展開するようになり、オピニオン・ジャーナリズムのルネ
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東洋大学社会学部紀要 第 46-2 号(2008 年度)
サンスと形容できる段階を迎えている(高橋,1995:338)。すなわち、新聞はジャーナリスティク
な価値判断に基づいたアジェンダ設定機能をクローズアップしていると考えられる。
それは、今回の日中関係の新聞別傾向においても顕著といえよう。「朝日新聞」は日中関係に関
する記事テーマを多く取扱い、「毎日新聞」、「読売新聞」は多岐に渡る記事テーマを取り扱い、継
続的に日中関係への関心を示している。そして、各紙がもつ市民主義と保守主義の立場から日中関
係の日本側の問題意識を明確化し、世論形成に重要な役割を果たしている。現代日本の新聞ジャー
ナリズムの三極構造は、人々の政治的判断を明示的、暗示的方向づけ世論形成を行っているのであ
る。
(参考文献)
信太謙三,2008,『巨竜のかたち――甦る大中華の遺伝子』,時事通信社
高橋直之,1995,「新聞と世論」稲葉三千男,新井直之,桂敬一編,『新聞学 第3版』,日本評論社
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日中関係における日本側の問題意識/信太謙三・小川祐喜子・大谷奈緒子・島崎哲彦
【Abstract】
日中関係における日本側の問題意識
――朝日新聞・毎日新聞・読売新聞の社説の内容分析から――
信 太 謙 三 小 川 祐喜子
大 谷 奈緒子 島 崎 哲 彦
戦後の日中関係は、友好ムードが極めて高まった時期もあったものの、中国が高度経済成長を実
現し、国力を増してきたことに伴い、日中間にはさまざまな問題が浮上している。反日問題はその
ひとつであるが、他方では、日中の経済関係はますます緊密化している。こうした日中関係の変化
に多大な影響をもたらしているものがマス・メディアである。昨今、新聞よりもテレビのほうが世
論形成に大きな役割を果たしていると言われるが、新聞は固有の役割を担い、世論を反映し代弁す
るものであるがゆえに、世論形成に重要な役割を果たしているものと考えられる。
そこで本論では、各新聞社の見解を担っている社説を研究対象にして日中関係をテーマに、「日
中関係における時期別傾向」と「日中関係における新聞別傾向」から現代日本の新聞ジャーナリズ
ムの三極構造における各社の報道傾向の相違と送り手の意図の相違を明らかにしようと試みてお
り、これが研究目的となっている。
有关日中关系上的日方意识问题
――朝日新闻・每日新闻・读卖新闻的社论内容分析――
战后的日中友好关系发展有时非常顺利,但是,伴随着中国高度经济发展的实现和国力的增长,日
中之间也出现了各种各样的问题。反日问题就是其中之一。但另一方面,日中间的经济关系却日渐密
切。给这些日中关系的变化带来极大影响的应该说是传闻媒体。最近,都说电视报道在公众舆论形成
中发挥的作用已经远超过报纸,但报纸有它独特的作用,以反映并代言舆论,可以说这对公众舆论的
形成起着重要作用。
所以,这里,把代表各个报社见解的社论作为研究对象,以有关日中关系作为主题,从“日中关系
在不同时期的不同倾向”和“在日中关系上的不同报纸的不同倾向”到现代日本报纸上的新闻报道三
极构造方面上,试尝搞清各个报社的报道倾向不同性和提供者的意图不同性,这是研究的目的。
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