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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
山口市中心市街地の実態と活性化政策
*
是 川 晴 彦
(人文学部 法経政策学科)
はじめに
本稿では,山口市の中心市街地の実態と活性化政策について,現地での調査やヒアリングの
内容にもとづきながら概説し,あわせて,山口市中心市街地の特徴や課題について検討を加え
る。
山口市は人口約19万人の都市である。県庁所在地であるが,人口は下関市に次いで山口県で
第2位となっており,県庁所在地への人口の集中という現象は生じていない。また,山口市の
中心市街地の最寄り駅であるJR山口駅は山陽新幹線沿線に存在しない。さらに,山口市は人口
100万人クラスの都市,例えば広島,北九州,福岡とも一定の距離を保っている。このように,
人口や地理的条件において特徴を有する山口市であるが,新しいまちづくり三法のもとでの中
心市街地活性化基本計画が早期(平成19年5月)に認定されている。今回の調査,検討は,山
口市のような比較的人口規模の小さい県庁所在地における中心市街地の実態および活性化政策
にどのような固有の特徴や課題があるのかという問題意識にもとづくものである。
本稿は,山口市における調査,山口市中心市街地活性化担当の方々からのヒアリング,その
際に配布された資料,および山口市ホームページ上で公開された資料などにもとづいて記述さ
れている。本稿の構成は以下の通りである。第1節では山口市の概要を述べる。第2節では山
口市中心市街地の特徴について,中心市街地の範囲,居住人口,構造の特色に注目しながら説
明する。第3節において,山口中心市街地の商業活動を示す諸数値について,山口市全体の数
値と比較しながら検討する。第4節では山口市中心市街地の通行量の変化を時系列的に検討し,
第5節では山口市の商圏や大型店の進出状況について概説する。そして,第6節において,新
しいまちづくり三法下における山口市中心市街地活性化基本計画の特徴や意義,課題について
考察を行う。第6節までの考察結果をふまえて,第7節では,山口市中心市街地が一定の活力
を維持している要因について検討を加える。
なお,本稿では中心市街地活性化基本計画について,しばしば基本計画と略して表記するが,
特に断りのない限り,基本計画は中心市街地活性化基本計画を意味している。
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
1.山口市の概要
(1)位置および人口
山口市は山口県の中央に位置している。平成17年10月に周囲の小郡町,秋穂町,阿知須町そ
して徳地町と合併し,新しい山口市が誕生している。山口市は南北に約44キロメートル,東西
に約43キロメートルであり,面積は730平方キロメートルである。北東の端は島根県と接し,ま
た,南東の端は周防灘に面している。平成17年における人口は19.1万人,世帯数は7.7万,人口
密度は1平方キロメートルあたり約260人となっている。
ここで,人口からみた山口市の特色をみてみよう 1)。山口市は県庁所在地であるが,人口で
は19.1万人で,山口県において下関市(約29万人)に次いで第2位になっている。県内におけ
る人口の順位が第2位以下である県庁所在地の例は,山口市のほかに福島市(いわき市,郡山
市に次いで第3位),静岡市(浜松市に次いで第2位),津市(四日市市に次いで第2位)があ
る。しかし,これら3市の人口は山口市よりも多く,19.1万人という山口市の人口は県庁所在
地の人口としては全国で最小である。ちなみに,人口が20万人前後およびそれ以下の県庁所在
地としては,甲府市,鳥取市,松江市,佐賀市があるが,いずれも各県において人口第1位の
市である。このように,山口市は県庁所在地である一方で人口は県内で第2位であり,また,
全国の県庁所在地のなかで最小の人口であるという特色を有している。われわれは,このよう
な都市の中心市街地がどのような特色を有するかという問題意識をもつに至ったのである。
なお,山口県において,人口規模では人口29万人の下関市が突出しているが,山口県内には
人口10万人以上の都市として下関市,山口市のほかに,宇部市,周南市,防府市,岩国市が存
在する。山口市の人口の山口県全体の人口に占める割合は12.8パーセントである。同様の割合
を東北6県の県庁所在地と比較すると,仙台市が43.4パーセント,秋田市が29パーセント,山
形,盛岡,青森の各市が約21パーセントであるから,山口市の場合,県庁所在地である都市へ
の人口の一極集中という現象は生じていないといえる 2)。
(2)交通
交通面から山口市の特色をみてみよう。山口市の中心市街地の最寄り駅であるJR山口駅は山
陽新幹線および山陽本線の新山口駅からJR山口線に乗り換えて13キロほど北に進んだ地点に存
在する。新山口駅は合併前の旧小郡町に位置していたので,合併前は県庁所在地の中心駅が新
幹線上に存在していなかった。県庁所在地が新幹線上にない例は大津,岐阜,前橋などにもみ
られる。ただし,大津と岐阜は東海道本線上の駅であり,京都,大阪,および名古屋とのアク
セスは非常によい。前橋は上越線から分岐する両毛線上の駅であり,この点において山口市と
類似しているが,鉄道の運行本数では,高崎・前橋間の方が新山口・山口間よりも多い。
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
高速道路についてみてみると,中国自動車道が山口市を東西に通過している。山口市中心部
から南東方向に直線距離で約5キロの地点に山口インターチェンジがある。中国自動車道を西
方面に進むと九州自動車道に直結し,北九州,福岡方面に通じている。また,広島方面には中
国自動車道のほか,湯田ジャンクションから分岐する山陽自動車道が通じている。
山口市に近い人口100万人規模の都市は広島,北九州,福岡である。これらの都市への移動は
新山口からの新幹線,もしくは高速道路の利用になる。山口駅と新山口駅を結ぶ鉄道の本数は
1 時間に1,2本程度と,あまり多くはないので,新山口までは自家用車を利用する人もいる
という。なお,山口と広島,福岡を結ぶ高速バスも運行されている。
山口市の最寄りの空港は山口宇部空港である。山口宇部空港からの空港連絡バスは新山口駅
までしか行かないため,山口市の中心部へ行くためには新山口でJRに乗り換える必要がある。
なお,山口駅と空港を直接結ぶ交通手段として乗り合いタクシーが運行されている。
2.山口市の中心市街地
(1)中心市街地の範囲
山口駅から北西方向に伸びる駅前通り(県道194号線)を500メートルほど進んだ地点で,東
西に伸びる歩行者用のアーケード街と直角に交差する 3)。このアーケード街は直線構造であり,
駅前通りを挟んで総延長は800メートル弱ほどである。このアーケード街にデパート,スーパー
を含めた多くの商業施設や銀行などが密集して存在している。後述するように,新しい中心市
街地活性化基本計画におけるほとんどの事業が,アーケード街またはアーケード街に結びつく
エリアに存在する諸施設を対象とするものになっている。アーケード街は山口市の中心市街地
活性化基本計画において中核をなすエリアとして位置づけられているのである。
中心市街地活性化に取り組む場合,中心市街地の範囲をどのように捉えるかが課題となる。
新しいまちづくり三法のもとでの中心市街地活性化基本計画が認定された諸都市をみても,中
心市街地の範囲の設定に地域的特性がみられる。合併前の旧山口市では,平成11年3月に旧法
にもとづく中心市街地活性化基本計画を策定した。この計画では,駅前通りやアーケード街を
中心とする区域のほかに,山口駅から西に3キロほど離れた地域に位置する湯田温泉を核とす
る区域,および,これら2つの区域の中間に位置する山口情報芸術センターを中心とした区域
を合わせた約163ヘクタールを中心市街地区域として定めていた。改正されたまちづくり三法で
は,選択と集中が求められている。山口市においても,平成19年に認定された新しい中心市街
地活性化基本計画では,前述の駅前通りやアーケード街を中心とする75ヘクタールの区域のみ
を中心市街地として定めている。観光地としての位置づけの強い湯田温泉は新しい中心市街地
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
活性化基本計画における中心市街地区域に含まれないことになった。市役所の方の話では,新
しい中心市街地活性化基本計画は商業をベースとする要素が強いので,湯田温泉地区に対して
は観光の視点から対応していくとのことである。
なお,新幹線の駅である新山口駅の周囲は,旧山口地区よりも開発の度合いが高くなってい
ると市役所の方は話していた。先に述べたように,新山口地区は鉄道交通や空港アクセスの結
節点としての機能をもち,大きなマンションも建設されている。新山口地区についてはターミ
ナルパーク推進事業というかたちで,中心市街地活性化と分けた事業で対応している。
(2)中心市街地の居住人口
住民基本台帳にもとづく調査によると,平成18年における山口市の中心市街地の居住人口は
3968人であり,世帯数は1848となっている。市全体の人口に占める中心市街地居住人口の割合
は2.1パーセントとなっている。平成7年の数値と比較すると平成18年の中心市街地における数
値は人口で約3.6パーセント減少し,世帯数では約4.5パーセント増加している。時系列的にみた
特徴として,人口,世帯数ともに市全体の数値が平成7年から18年にかけてゆるやかな増加傾
向にあるのに対して,中心市街地の数値は人口,世帯数ともに平成7年から12年にかけて減少
したものの,平成13年に増加に転じ,その後,人口は横ばい,世帯数はほぼ増加の傾向にある
ことが挙げられる。平成7年から12年にかけて中心市街地の居住人口と世帯数の減少率はそれ
ぞれ7.8パーセント,5.1パーセントであり,1世帯あたりの人数も減少傾向にあった。この間,
市全体の人口と世帯数はともに増加傾向にあったので,中心部から郊外への居住者の移動など
が要因にあったといえよう。平成13年における中心市街地居住人口の増加については,中心市
街地周囲のマンション立地が一要因であることが新基本計画において指摘されている。平成13
年から18年にかけて中心市街地において人口がほぼ不変であるのに対して,世帯数の増加率は
4パーセントであり,新たなマンション建設にともなう世帯数の増加による人口の増加が旧来
から中心市街地に居住する世帯の人口の減少を補っていると考えられる。新基本計画によると
平成13年から18年にかけて210戸のマンションが中心市街地内に供給されている。市役所の方
の話では,これらのマンションに居住する人たちの年齢層はあまり偏ってなく,まちなかのマ
ンションを選択する理由として,郊外に居住する高齢の人が戸建て住宅を維持するのが困難に
なってくることや,若い世代の人でも利便性を重視することなどが考えられるとのことである。
後述するように,山口市の場合,中心市街地の区域内および周囲に行政機関等が存在し,この
ような職場が近くにあることが,中心市街地におけるマンション建設の増加の要因といえよ
う。
なお,郊外の宅地開発については,一時期,大内御堀や宮野,平川地区において水田を埋め
て住宅地を造成したが,大規模なニュータウンの開発はなかったという。この点も,一定の人
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
口が中心市街地に居住し続けていることの要因であると考えられる。
(3)中心市街地の特色
ここで,山口市の中心市街地の構造上の特徴的な点について述べることにしよう。第1の特
徴として,中心市街地の核となる商店街の集積が一直線上に,かつ,連続して存在することが
挙げられる。核となるアーケード街は,駅前通を挟んで西側に位置する道場門前,西門前の2
つの商店街と,東側に位置する米屋町,中市の2つの商店街の合計4つの商店街から構成され
ている 4)。さらに,中心市街地の範囲には,アーケード街の西端から伸びる荒高,東端から伸
びる大市の2つの商店街も含まれるが,この2つの商店街にはアーケードが設置されていない。
アーケード街の商店街およびその両端に接続する商店街の合計6つの商店街は約1100メートル
の直線上に存在している。一方で,アーケード街から脇に入ると商店は少なくなる。アーケー
ド街と交差する道路には「・・小路」という名称が与えられたものもあるが,駅前通りを除く
とアーケード街と交差する道路に商店街が形成されている状況ではない。このように,山口市
の場合,核となる商業集積は面的ではなく,直線的にかつ連続的に構築されており,活性化政
策の核となる区域が明確にされていると考えることができよう。新基本計画では中心市街地区
域を北東方向に貫く駅前通りをシンボル軸として位置づけている。駅前通りには,駅前からア
ーケード街の交差点の間に駅通り商店街が,そして,アーケード街の交差点から中心市街地区
域の境界となる県道204号線にかけて新町商店街が存在する。駅通りについては,近年,若い人
の経営するセレクトショップ系の店が増えてきており,若い人の人通りが増えているという。
第2の特徴は,中心市街地の区域およびその周辺に,行政機関,高校,病院などの集客性の
高い施設が存在することである。われわれはこれまでの調査研究を通じて,中心市街地の活性
化において,中心市街地の区域内および周囲に県庁や市役所,高校,病院,そして大きな書店
が存在することの果たす役割の大きさに注目している。そのような施設の存在は中心市街地に
対して高い集客性を与える。山口市においても,中心市街地区域内に地方裁判所,地方検察庁,
中村女子高が存在し,中心市街地区域に隣接する位置に市役所,市民会館,地方合同庁舎など
が存在する。このほか,中心市街地区域の周辺といえる範囲には,山口高校,山口県庁,済生
会山口総合病院,山口赤十字病院などが存在する。山口市の場合,行政機関などが郊外に移転
することなく,中心市街地周辺に存在する状況にある。
第3の特徴は,駅前に大きな商業集積が存在しないことである。旧来から存在する中心市街
地と鉄道の駅が離れている都市の場合,駅前周辺を再開発して商業集積を高めることが,旧来
から存在する中心市街地における来街者数や商品販売額を減少させることにつながる可能性が
存在する。先に述べたように,新基本計画では駅前通りをシンボル軸として位置づけているが,
現在のところ,駅前に核となるような大型商業集積が存在しない。よって,駅前周辺とアーケ
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
ード街の2地点に来街者が分散してしまって互いの区域の商業売上額が減少するといった状況
は生じていない。新基本計画においても,やみくもに開発拠点を拡張するのではなく,既存の
商業集積の活用を基本にした堅実的な事業計画が策定されている。なお,山口駅とアーケード
街の距離は500メートルほどであり,駅から中心市街地の核となるエリアへの導線はわかりやす
くなっている。
第4の特徴として,山口市は戦災にあっていないため,昔ながらの通りや家並み,そして歴
史的資源が残されていることが挙げられる。特に中心市街地区域の北東に位置する地域には,
龍福寺や菜香亭が存在し,それらの周囲にも昔ながらの民家が存在する。新基本計画では基本
方針の一つとして「自然と文化の薫るまち」を掲げている。これらの資源は歴史,文化といっ
たまちづくりのテーマを創出するうえで役立っているのである。
3.山口市中心市街地の商業の実態・・店舗数,売り場面積,年間商品販売額
この節では,山口市の中心市街地における商店数,売り場面積,年間商品販売額の変化を市
全体の数値と比較しながらみてみることにする。これらの数値については表1に示されている。
2
商 店 数
H3
H 16
年間商品販売額(百万円)
H3
H9
H 16
H3
H9
H 16
中心市街地
550
466
414
56,889
58,275
53,492
51,607
46,736
29,300
山口市全体
2,497
2,227
2,100
171,572
243,098
292,118
197,383
232,572
223,972
22
20.9
19.7
33.2
24
18.3
26.1
20.1
13.1
比 率
H9
売り場面積( m )
表1:山口市の中心市街地および市全体の商店数,売り場面積,年間商品販売額の変化
(山口市中心市街地活性化基本計画に掲載されたデータをもとに作成。Hは平成を表す。
また,比率は,中心市街地の値/山口市全体の値,を表す。)
商店数については,中心市街地および市全体ともに平成3年以降,減少傾向にある。また,
中心市街地の数値の市全体の数値に占める比率も減少傾向にあり,平成16年には20パーセント
を下回っている。
小売業の売り場面積の変化については,中心市街地の数値と市全体の数値の変化が対称的で
ある。中心市街地の数値が平成3年から平成6年にかけて増加したのち,減少傾向にあるのに
対して,市全体の数値は平成3年以降,増加を続けている。よって,中心市街地の数値の市全
体の数値に占める比率も,平成3年の33.2パーセントから減少を続け,平成16年には18.3パーセ
ントまで減少している。
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
小売業の年間商品販売額では,中心市街地の数値は平成3年以降,減少傾向にある。特に,
平成9年から平成14年にかけて減少の割合が顕著であり,約30パーセントの減少となっている。
これに対して,市全体の数値では,平成3年から平成9年にかけて増加したのち平成14年にか
けて減少するが,平成16年にかけては再び増加に転じている。このように,年間商品販売額で
は中心市街地の数値と市全体の数値の時系列的変化に相違がある。なお,中心市街地の数値の
市全体の数値に占める比率は,平成13年以降,減少傾向にあり,販売額の数値と同様に,平成
9年から平成14年にかけて大きく減少している。
中心市街地においては,平成10年から平成12年にかけてダイエー,ニチイ,アルビが撤退し
ている。一方で,郊外の大規模商業施設については,平成9年にゆめタウン山口が,そして,
平成12年にフジグラン山口およびハイパーモールメルクス山口が開店している。このような環
境変化は,中心市街地の売り場面積が平成9年から平成14年にかけて約8.7パーセントと比較的
大きな比率で減少しているのに対して,山口市全体の売り場面積が増加傾向にあることの要因
であろう。また,年間商品販売額において中心市街地の数値が平成9年から平成14年にかけて
大きく減少し,その後も減少傾向が続いているのに対して,山口市全体の値は近年,増加傾向
にあることは,消費者の購入先が中心市街地から郊外型商業集積に推移していることをうかが
わせる。
4.中心市街地における通行量の変化
山口市の中心市街地における通行量は調査地点の合計値でみた場合,各調査年とも平日より
も休日の数値が大きく,中心市街地が買い回り品の購入など非日常性を求める来街者に対して
一定の役割を有していることがわかる(表2)
。ただし,平成6年以降,平日,休日ともに各調
査地点の通行量は減少傾向にある。平成2年以降の合計値をみると,平成18年の通行量は平日
の場合,ピークである平成2年の通行量の49パーセント,休日の場合,ピークである平成6年
の通行量の55パーセントとなっている。調査地点別にみてみると,休日の通行量では,中市
(JTB前)と米屋町の通行量がほかの調査地点よりも多い数値になっている。中市(JTB前)の
地点にはデパートがあり,このデパートと駅前通りを結ぶ地点が米屋町であるから,デパート
の集客力もこれらの2地点の数値が高くなっている要因であろう。休日の場合,前述の2地点
に続いて,道場門前のいさみや前とコーヒーボーイ前が多い数値となっている。この2地点も
駅前通りの交差点に近い位置となっている。他方,中市や道場門前の駅前通りから離れた地点
および西門前では通行量は少なくなっており,駅前通りの交差点を中心にして東西方向に人の
流れが生じていることがわかる。
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
平成 2 年
平成 6 年
平成 10 年
平成 12 年
平成 14 年
平成 16 年
平成 18 年
平日合計
82,994
77,582
63,248
53,124
52,470
37,765
40,818
休日合計
92,022
98,966
74,058
64,346
55,742
54,413
54,252
表2:山口市中心市街地の通行量
(10調査地点の合計値:山口市中心市街地活性化基本計画のデータをもとに作成)
5.商圏と大型店の進出状況
新基本計画では,合併前の平成14年山口県買物動向調査による旧山口市の商勢力圏が示され
ており,それによると,旧山口市の第一次商圏は小郡町,美東町,旭村,阿東町であり山口市
の東部から北部にかけて隣接する町村である。第二次商圏は隣接する徳地町や秋穂町をはじめ
秋吉町,川上村,むつみ村となっている。南東側に隣接する防府市や,新山口市となった南東
の端の阿知須町については商圏としての結びつきは強くなく,影響圏となっている。防府市は
人口が10万人を超えており,防府市に大型の商業施設が存在するなど,防府市の商業集積の充
実が影響圏となっていることの一因であると考えられる。
大型店の進出状況については,表3の通りである。中心市街地に存在する大型店は,ちまき
やであるが,現在,井筒屋に経営主体が移行している。②,③,④,⑤は旧山口市の郊外型大
型店として位置づけられる。⑥の阿知須ショッピングセンターは旧阿知須町の中心部に位置し
ている。山口市の郊外型大型店の特徴として,阿知須地区を除くと店舗面積が2万平方メート
ルを超える規模の店舗はないこと,そして,近年は進出がみられないことが特徴として挙げら
れる。
店 舗 名
開 店 日
建物の面積(平方メートル)
①ちまきや
昭和 8 年 6 月
19,439
②ザ・ビッグ大内店
平成 6年11月
10,682
③ゆめタウン山口
平成 9 年 3 月
19,210
④フジグラン山口
平成12年 9月
12,283
⑤ハイパーモールメルクス山口
平成12年 9月
11,263
⑥阿知須ショッピングセンター
平成 8 年 3 月
20,152
表3:山口市における大型店舗(出典:山口市中心市街地活性化基本計画:資料編)
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
6.山口市の中心市街地活性化基本計画
(1)概要と基本方針
山口市の新しい中心市街地活性化基本計画は平成19年5月に認定されている。計画を策定す
るにあたって,中心市街地活性化協議会を設立している。この協議会は22団体から構成されて
いて,中心となるのは商工会議所および株式会社街づくり山口である。山口市は旧法のもとで
も平成11年に中心市街地活性化基本計画を策定している。2節でも述べたように,旧計画では
中心市街地の区域が163ヘクタールと広範であった。そのため,事業の具体化が必ずしも十分で
はなかった。まちづくり三法が改正されたことにより,より具体的で現実的な事業計画を作成
していかなければならないので,旧計画が土台になっているものの,中心市街地区域を75ヘク
タールに集約して新計画を策定したという。現在,中心市街地はいわゆるシャッター街にはな
っていないが,商品販売額や通行量などの諸数値が少しずつ低下していることに対して街の人
たちも危機感をもつようになり,また,旧基本計画では実現できない事業もあったので,それ
らを盛り込んで新基本計画を作成したのであると市役所の方は話されていた。
新しい基本計画は以下に示す3つの基本方針にもとづいている。第1の基本方針は「にぎわ
いのあるまち」であり,第2,第3の基本方針はそれぞれ,
「暮らしやすいまち」,「自然と文化
の薫るまち」である。第1の基本方針は,まちに存在する商業,文化,歴史の資源を充実させ,
それらを活用することによって,
「多様な目的を持って訪れる人々に満足感を与え,交流の活発
なまちの創出」を実現しようとするものである。蓑原ほか(2000)は街の特徴として,あらゆ
る世代の人々を広域から呼び込み,高い密度で交流が実現される「開かれた重層的な空間構造」
であることを指摘しているが,山口市の第1の基本方針も,蓑原ほかが指摘した特徴に合致す
る。第2の基本方針は,新しい基本計画がコンパクトなまちづくりを重視していることにも対
応する。中心市街地の賑わいを取り戻すための手段の一つとして,中心市街地の居住人口を増
やして最寄り性を高めていくことが考えられる。居住人口を増加させるためには暮らしやすさ
の水準を上昇させることが求められるのである。第3の基本方針は,山口市の歴史的および文
化的資源を活用したまちの創出を目指すとともに,中心市街地を流れる一の坂川を再生して,
個性的なまちづくりを目指すものである。
われわれは,郊外型商業集積では代替が困難な中心市街地の差別化された機能や役割として,
特に,非日常性が存在すること,そして,地域の独自性を表していることの2点が重要である
ことを提示した(是川(2005))。非日常性の重要な要素として,街に回遊性が存在し,来街者
が街を楽しめることが挙げられる。新基本計画の第1の基本方針のなかで来街者が満足感を得
ることが目指されているが,このことは,来街者が街を楽しむことができる中心市街地を実現
することとして捉えることができる。一方,地域の独自性は,地域あるいは地域の中心市街地
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
が保有する資源の相違によって生じると考えられる。山口市に存在する大内氏に関する史跡,
そして中心市街地を流れる一の坂川などは地域の独自性を表現する資源であり,新基本計画の
第3の基本方針は,これらの資源を活用して,どのように街の個性を創出していくかという観
点から捉えることができよう。
新基本計画における3つの基本方針に共通することは,地域住民の暮らしやすさの向上や来
街者の効用の増加を追求することに主眼が置かれていることである。第3の基本方針において,
歴史的,文化的資源を活用することが目指されているが,これらの資源の活用は地域住民や来
街者に対して歴史的,文化的な雰囲気を与えることであり,中心市街地に観光客を呼び込むこ
とを直接的に目指すものではない。山口市の新基本計画の数値目標においても,観光客入り込
み数は選択されていない。山口市と同様に新法にもとづく中心市街地活性化基本計画が早期に
認定された岩手県久慈市や大分県豊後高田市では,中心市街地の活性化を観光客の増加によっ
て実現させることを目指している。これらの市の場合,中心市街地の核となる部分に観光資源
が存在することが特徴である。久慈市の場合は,撤退したダイエーの跡地に観光交流センター
と物産館(やませ土風館)を建設し,この施設を広域観光や街なか回遊の核とするものである。
豊後高田市の場合には,中心市街地のメインストリートそのものが昭和30年代の歴史を感じさ
せる商店街から構築されている。山口市には,歴史的な資源,および観光資源として国宝・瑠
璃光寺五重塔をはじめ,雲谷庵跡,菜香亭などが存在するが,中心市街地から徒歩で移動する
には遠い距離にあり,これらの資源を生かしながら観光客を中心市街地に誘導させるような回
遊性を高めることはやや困難といえる。山口市の場合,これらの観光資源を街の個性を創出す
る資源として活用し,住民の効用を高めていくことに重点をおいているのである。一般に歴史
的な資源は移設不可能であるから,山口市の手法は資源の保有状況に応じた適切かつ堅実な手
法といえよう。一方で,中心市街地のアーケード街のすぐそばを流れる一の坂川については親
水性を高めて中心市街地との回遊性を高めるために活用しようとするものである。これまでは
アーケード街を中心とした直線的な構造であった中心市街地に,あらたに面的な回遊性を持た
せようとする点において資源活用の意味があると考えられる。この川の両岸に親水空間を設け
てどのように回遊性を高めていけるかが今後の課題であろう。
新法にもとづく中心市街地活性化基本計画を策定するにあたっては,諸事業の達成の度合い
を示す明確な数値目標の設定が求められている。山口市の場合,休日における商店街通行量,
小売業年間商品販売額,そして,居住人口が数値目標として設定されている。市役所の方によ
ると,山口市の中心市街地で賑わいが出たということを何をもって捉えたらよいかについて活
性化協議会や商工会議所の方々と話し合い,最終的に前述の3つの指標が選択されたという。
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
(2)主たる事業
ここでは具体的な活性化事業のうち,アーケード街に沿った区域が対象となる8つの事業に
ついて,聞き取り調査の内容にもとづいて説明する。これらの事業を下に示すが,空き店舗の
活用や大型店撤退後の跡地利用が主たる内容になっている。
a.総合・循環型福祉サービス推進モデル事業
b.子育て支援者のための支援拠点施設運営事業「てとてと」
c.どうもんパーク事業
d.市民活動支援センター「さぽらんて」事業
e.米屋町商店街北地区整備事業
f.一の坂川総合流域防災事業(再生)・一の坂川周辺地区整備事業
g.「まちのえき」事業
h.アルビ跡地事業計画
上記の事業うち,a,b,cの3つの事業はアーケード街の西の核づくりとして位置づけら
れるものである。aは空き家となった民家を利用して高齢者向けのデイサービス等を行う事業
である。県や市から補助金が出されているが,実施主体の中心は,さんコープである。bは,
空き店舗を活用し,NPOが子育て支援に関する事業を行うものである。これら2つの事業は暮
らしやすさを目指すものである。cのどうもんパーク事業は,平成10年に撤退したダイエーの
跡地利用に関する事業である。ダイエーの撤退後に土地と旧ダイエービルを市が取得したが,
その後ビルは解体され,平成19年12月に2階建ての新ビル,どうもんパークが完成している。
この建物は道場門前の商店街振興組合が経済産業省の戦略的補助金を使って建設したものであ
り,テナントとして1階にはコープどうもん店が入居し,2階にはNHK文化センターと歯科医
院が入居しているほか,まちづくり会社の事務局がある。現在の建物は振興組合の所有であり,
土地を市が貸している状況である。旧ダイエービルにもダイエー撤退後にコープどうもん店が
入居したが,中心市街地における最寄り性の維持のために継続してコープに入居してもらえる
ように振興組合側が強く要望したという。
dとeはアーケード街の中央よりの部分に位置する施設や区域を対象とする事業である。d
は空き店舗を活用した事業であり,NPOが市民活動を支援する事業を行っている。建物は市が
借り上げて,運営を指定管理者のような形態で行っている。eの米屋町商店街北地区整備事業
は米屋町の商店街がfの一の坂川整備に関する事業と連動した形で取り組む事業である。すで
に述べたように,この事業は中心市街地のアーケード街のそばを流れる一の坂川を親水性を持
たせるように整備し,川から商店街への回遊性を高めていくことを目指す事業である。一の坂
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
川は中心市街地の核となる部分に沿って流れている点において,中心市街地の独自性を表現さ
せる重要な資源といえる。また,2節で述べたように,アーケード街から脇に入った部分の商
業集積はほとんどなく,中心市街地における回遊性は直線的なものといえる。一の坂川と商店
街を結びつける部分に店舗等を設置することで,新たに,安らぎの空間と同時に面的な回遊性
を創出することが期待できよう。
gも空き店舗を活用した事業であり,NPOが高齢者,障がい者向けの福祉交流拠点として活
動を行う事業である。hのアルビ跡地事業計画は,アーケード街の東の核づくりの中心として
位置づけられる事業である。アルビ跡地についてもダイエー跡地と同様に,中心市街地のなか
でこれから活用していく土地であるという認識のもとで,市が取得している。アルビ跡地事業
計画は,中心市街地区域の北東の境目に存在する公設・川端市場が老朽化したために,これら
の市場の移転を中心的な目標として大型の商業施設や市場を建設していこうという計画である。
アルビ跡地は現在,更地になっているが,ここに2階建て程度の建物を建設することを計画し
ており,1階に生鮮品を中心とした市場を,2階に飲食店を入居させることを考えているとい
う。また,隣接する井筒屋と取扱商品が重複しないように,補完性を持たせるようにして,両
施設の棲み分けを図るようにしたいとのことである。なお,アルビ跡地の横には歴史的価値を
もつ民家が存在し,庭や倉も残されている。この民家と一体となった歴史的な雰囲気で全体の
建物を構築できないかという視点でアルビ跡地計画が進められているという。
(3)今後の課題
中心市街地の経済学的特徴の1つとして,個別に意志決定を行う個店や施設の集合体として
中心市街地が構成されていることが挙げられる。個店や諸施設の行動にともなって生じる外部
性,とりわけ外部不経済の問題を解決するためには,個店や諸施設の意志決定をコーディネー
トしていく機能が求められる。市役所の方の話によると,アーケード街の中の道場門前,米屋
町,中市の各商店街については理事長が諸事業に主体的に関わっているが,全体のまとめ役に
ついては,新基本計画を作成する段階からタウンマネージャーのような全体を見通すことので
きる人材が必要であろうという話があったという。今のところ,そのようなポジションの人は
いないので,今後の課題になるであろうとのことである。
7.山口市中心市街地の現状および活性化政策に関する考察
山口市の中心市街地は商品販売額や通行量などの諸数値は減少傾向にあるものの,現在のと
ころ,空き店舗が目立つことはなく,核となるアーケード街に商業集積が密集し,一定の活力
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
を維持できているといえる。その要因としてどのようなものが考えられるかについて本節では
検討する。
(1)構造上の特徴からの要因
山口市の場合,中心市街地の核となる部分が道場門前,米屋町,中市の各商店街から構成さ
れるアーケード街に集約されており,地域住民はもとより来街者に対してもわかりやすく,か
つ,利用しやすい構造となっている。このため,新基本計画における主要な事業もアーケード
街およびアーケード街に隣接する諸施設を対象としており,予算等を集中的に投下することが
可能となっている。特に,山口市では駅前に大きな商業集積が存在せず,中心市街地の核が分
散してしまう問題点が存在しない。山口駅前は中心市街地区域に含まれているが,新基本計画
においても駅前の商業集積を重点的に高める方針ではないので,既存の集積を充実させていく
という点において適切な方針であるといえる。なお,駅と旧来から存在する中心市街地が離れ
ている都市の場合,駅を訪れた来街者をどのようにして中心市街地に誘導するかが課題となる。
2節で述べたように,山口市の場合,駅前通りをそのまま直進した位置に,そして徒歩で移動
できる位置にアーケード街が存在するため,中心市街地への導線に関する大きな問題点はない
といえる。
もう一点,構造上の要因として挙げられる点は,アーケード街に存在する大型の店舗として
西の端にコープどうもん店が,東の端に井筒屋が存在することである。コープどうもん店は最
寄り性の,井筒屋は買い回り性の核となる店舗として位置づけられる。中心市街地区域に大型
の店舗はほかになく,中心市街地において核となるべき大型の類似店同士が競合して共倒れに
なるという問題が生じていない。商圏人口に見合った店舗構成になっているといえる。アルビ
跡地事業計画は市場の移転をメインとした事業であり,最寄り性を高め,井筒屋との補完性を
高めようとしている。新しい施設は生鮮品等を扱う点でコープどうもん店と類似性を有するが,
それぞれがアーケード街の東と西の核として位置づけられるので,棲み分けが可能であろう。
最寄り性の高い2店舗がアーケード街の東と西の核になることは,中心市街地の居住者の利便
性を高めることに大きく貢献するといえる。
(2)各店舗の入れ替わりが実現したこと
ダイエーが撤退したあとにコープどうもん店が入居し,ちまきやが閉店したのち2ヶ月で井
筒屋が店舗を引き継ぐ形で開店するといったように,核となる集客力の高い店舗の入れ替わり
がスムーズに行われている点,そして,同様の業種での入れ替わりが実現している点に大きな
特徴がある。非日常性という機能を果たすデパート,そして,暮らしやすさを高めるために必
要な最寄り性の高い店舗の双方の存在が維持できたことは中心市街地の活力を保つうえで大き
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
な意味をもつ。地域住民にとっては経営主体が変わっても,従来通りの商品が購入できるので
あれば,生活のしやすさに大きな変化は生じない。また,同業種の店舗の入れ替わりであれば,
従業員についても従来通りの雇用が継続する可能性が高い。このような店舗の入れ替わりがス
ムーズに実現した要因として,現状の中心市街地が一定の賑わいをみせていること,核となる
商業集積が分散せずに集中しており,かつ,競合する大型店が存在しないことが考えられよう。
市役所の方の話によると,井筒屋が進出するに際して,多くの街の中心市街地が衰退している
中で山口市の中心市街地はある程度活気があること,そして,活性化基本計画についても市が
実施し,商店街もやる気をもっていることを評価し,この街はこれから面白くなると判断して
出店を決定したという。
(3)核となる店舗の再開発と活用方法
スーパーやデパートなどの大型店が撤退した跡の建物をどのように活用していくかは各都市
における課題の一つであろう。建物が数階建てである場合,撤退後のスペースに新たにスーパ
ーマーケットなどが入居したとしても,2階もしくは3階以上の部分にテナントがなかなか入
らず,建物全体を十分に活用できないままの状態が続いてしまうことが見受けられる。6節で
述べたように,久慈市の場合は,旧ダイエーの建物を解体して観光交流センターや物産館を建
設することによって,跡地を広域観光や街なか回遊の核とするという新たな目的で活用するこ
とを基本としている。山口市の場合は,旧ダイエーの建物を解体し,2階建ての建物,どうも
んパークを建設し,この建物の1階にコープどうもん店を入居させて最寄り性を維持し,2階
にはNHKなどの文化施設等を入居させている。一定の集客性を有する施設を入居させていると
同時に,無理なく効率的に建物の活用をはかっている点が注目される。同様の活用方法はアル
ビ跡地事業計画についてもあてはまる。1階に市場,2階に飲食店を入居させることによって
最寄り性を実現すると同時に,隣接するデパートとの補完性を高めようとしている。中心市街
地の暮らしやすさを高め,居住人口を増やし,中心市街地を活性化するためには,最寄り性を
高めなければならない。どうもんパーク事業やアルビ跡地事業計画は,現状の中心市街地に何
が求められているかを考慮した再開発になっている。巨額な資金を投入して大規模な高層の建
物を建設したものの,集客性の高いテナントが入らなければ,中心市街地の来街者を増加させ
ることにつながらず,一方で,建物の建設費や維持管理費の回収が困難になってしまう問題が
生じる。
ダイエーやアルビの撤退後の跡地については市が買い取りを行っている。空き店舗が起点と
なって街がさびれていくことを阻止しなければならないという強い要望が地元から生じ,市に
も街の衰退は何としても防ぎたいという強い意志があり,跡地を買い取ることに至ったという。
中心市街地に広い空き店舗または空き地が生じることは,集客性の低下,回遊性の低下,およ
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び雰囲気の悪化などの外部不経済が生じる。一方で,テナントミックスの視点からは,空き店
舗や空き地には街に求められる業種の店舗や施設が入居することが求められる。商店街組織が
空き店舗や空き地を買い取って,より望ましい業種の店舗等が入居しやすくしていく方法も考
えられるが,規模の大きくない都市の場合は資金的に困難な場合が多い。よって,山口市のよ
うに行政機関が資金を出して跡地を買い取り,中心市街地の活性化に必要な業種を入居させて
いく手法は中心市街地の機能を維持する上で意味をもつといえよう。
(4)大都市との関係および郊外型大型店との関係
地方都市の中心市街地が衰退する要因の一つとして,人気ブランド品や高級ブランド品など
の買い回り品を購入する客を近隣の大都市に吸収され,一般的な買い回り品,最寄り品,およ
び日用雑貨品を購入する客を郊外型大型店に吸収されてしまうことが挙げられる。山口市の場
合,100万人規模の都市と距離が離れていること,そして,大規模な郊外型店が進出していない
ことが特徴として挙げられる。
大都市との距離については,高速道路を利用した場合,山口・広島間が約150キロ,山口・福
岡間が約140キロである。広島や福岡へは高速バスが運行されているし,高速道路を使って自家
用車で移動すればバスよりも短時間で移動できよう。市役所の方の話では,ブランド品などの
買い回り品を購入するために福岡や広島に行く人は増えているという。高速バスの利用の場合,
山口・広島間は片道約3時間で2750円,山口・福岡間は片道約3時間半で3000円である。新幹
線利用の場合,新山口・広島間が片道約30分で4620円,新山口・博多間が片道約40分で4930円
である。高速バス利用の場合は所要時間が,新幹線利用の場合は運賃がややネックになる。こ
のように,移動の時間や料金を考えると,山形・福島と仙台,あるいは岐阜と名古屋の関係と
は異なり,気軽に頻繁に広島や福岡に買い物に行くわけにはいかず,山口市の場合,一定量の
買い回り品を地元で購入する傾向は残されているといえよう。
郊外型大型店の進出状況については5節で述べたが,店舗面積が大きいものでも2万平方メ
ートル弱であり,進出店舗数も限定されている。3節や4節で述べたように,これらの大型店
の存在は,中心市街地の商業的な数値や通行量の減少の要因にはなっているが,中心市街地に
おける最寄り品を中心とした客を著しく吸収するには至っていないといえる。
(5)暮らしやすさを目標とした堅実な計画
山口市の中心市街地が一定の賑わいをみせていることの要因について,上記(1)∼(4)
で説明した。今後も中心市街地が活力を維持していくためには,中心市街地に何が求められる
かを把握し,求められるものを補うような適切な取り組みが求められる。中心市街地の機能の
一つとして非日常性が存在することを指摘した。ブランド品,高級品を取り扱う店舗を充実さ
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山形大学紀要(社会科学)第40巻第1号
せることも非日常性を実現する要素ではあるが,人口,あるいは商圏人口があまり大きくない
都市の場合は,ブランド品や高級品を扱う店舗自体を誘致することが困難な場合も少なくない。
また,そのような店舗を誘致できたとしても,商品の性質上,同一の顧客が日常的に店舗を訪
れる可能性は少なく,より品揃えの多い大都市の店舗での購入を顧客が好むこともありうるの
で,集客性に限界がある。よって,人口や商圏人口があまり大きくない都市では,むしろ最寄
り性を高めて街なかの暮らしやすさを重視し,居住人口の増加による賑わいの創出を目指す方
法が考えられる。山口市の中心市街地活性化基本計画は,既存の商業集積を生かしつつ,どう
もんパーク事業やアルビ跡地事業計画によって最寄り性を高めて,暮らしやすい,あるいは使
いやすい中心市街地を実現しようとするものである。よって,やみくもに大型店を拡張するよ
うなものではなく,空き店舗を活用し,堅実,かつ,適切な計画であるといえよう。一方で,
アルビ跡地の建物の2階に飲食店を入居させることや,一の坂川を生かした面としての空間を
創り出すことは中心市街地における回遊性を高めることにつながり,これらの事業は街を楽し
むという非日常性を実現するうえで重要な役割を果たすものとなっている。
今後,経済事情の変化や大型店の進出状況によって,山口市の中心市街地がどのように変化
するかを継続して調査,検討していくことは意義があるといえる。とりわけ,事業規模の大き
なアルビ跡地事業計画や面的な回遊性を創出する米屋町の事業の今後の展開は,中心市街地活
性化を実現する上で重要な役割を果たすといえるので,さらなる調査を実施したい。また,中
心市街地活性化の取り組みをコーディネートしていく人材の育成やしくみの構築は今後の重要
な課題である。この点については中心市街地活性化に携わる多くの関係者からヒアリングを重
ね,検討していくことが要請されるが,このような調査,検討については稿を改めて提示して
いきたい。
最後になりましたが,ヒアリングに協力して下さった山口市中心市街地活性化推進室の2名
の方に対して心より御礼申し上げます。
注
*
本研究は科研費(基盤研究(C),19530230)の助成を受けたものである。
1)以下で示す各都市の人口数は『2007 地域経済総覧』(東洋経済新報社)にもとづく平成17年の値を基
本としている。このデータでは,合併が行われた都市については,調査時点が合併期日以前であっても,
合算処理などによって遡及修正がなされている。
2)福島市の場合は13.9パーセントであり,山口市と類似した状況にあるといえる。
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山口市中心市街地の実態と活性化政策−是川
3)正確にはアーケード街は北東から南西にかけて位置している。しかし,新基本計画などにおいてもア
ーケード街の両端を東,西と呼んでいるので,本稿でも,特に断りのない限り,アーケード街は東西に
延びていると捉え,それに対応した表記をする。
4)西門前の商店街については,アーケードには「西門前」と表記されているが,商店街組織の名称は本
町商店街である。
参考文献・資料
是川晴彦(2005),「中心市街地の機能と活性化」
,『山形大学大学院社会文化システム研究科紀要』,創刊号
東洋経済新報社(2006),『2007 地域経済総覧』
土肥健夫(2006),『改正・まちづくり三法下の中心市街地活性化マニュアル』,同友館
蓑原敬,河合良樹,今枝忠彦(2000),『街は,要る』,学芸出版社
山口市(2007),『山口市中心市街地活性化基本計画』
山口市(2007),『山口市中心市街地活性化基本計画
資料編』
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