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WFH 2000 …p…fi…t
WFH Highlights
監 修
吉 岡 章
(奈良県立医科大学小児科)
2000 年 7月16日から21日まで,国際血友病連合学会(WFH)第 24 回
国際会議が,本部の置かれているカナダ,モントリオールで開催された。
オープニングセレモニーは 7月16日夕,議長をつとめるCarol K. Kasper
WFH 副会長の開会宣言で開幕。Brian O’Mahony WFH 会長が,
約 100 か国を代表する約 3,500 人の会議参加者,ならびに現在加入し
ている88 か国の血友病組織,今年加入予定の 7 組織に対し,歓迎の
挨拶を述べた。
Brian O’Mahony 会長は,翌朝の基調講演にて,メンバー国間の引き続きの連帯構築を求
め,血友病治療の持続可能な発展を同学会の究極的な目標とすることを強調した。現在,全
血友病患者(約 50 万人)の 75 %は不十分な治療しか受けておらず,先進国では過去 20 年間
は特に HIVとC 型肝炎の感染が問題であり,対照的に,途上国では供給とコストの増大が主
な関心事となっている。しかし,患者と家族を主体とした確固たる組織と持続可能な基本的
治療を提供する政府のコミットメントがあれば,血友病は治療可能な病気である。治療によっ
て血友病患者は社会に完全に参加し,職につき,家庭を築くことができるようになるであろう。
実際,インドとマレーシアでは,一人あたりの収入に比例しているといわれる成人生存率を 5
倍に高めている。同会長は,出血性疾患を患う女性も対象に含めようと提案し,医薬業界に
は新たな治療手段の開発を促し,臨床医,社会,血友病患者には協力を求めた。
「これ以上,
血友病ゆえに不自由な思いをしている子供達を黙って見ているわけにはいかない」と,同会
長は締めくくった。
2
PLENARY SESSION, CONCURRENT SESSIONS
4
SATELLITE SYMPOSIA
6
POSTER SESSIONS
Published by Blackwell Science Japan, Blackwell Science K.K.
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HEMOPHILIA 2000
WORLD CONGRESS
July 16 - 21, 2000
Montréal
WFH Highlights
PLENARY SESSION, CONCURRENT SESSIONS
感染リスク
12 週目にインターフェロン単独投与患者が PCR 試験で HCV 陽性
のままであれば,併用療法へ切り替えた。12 週目および 24 週目
に中間分析したところ,HCV 陰性は併用群では 43 例中 14 例
(33 %)であったが,インターフェロン単独群では 40 例中 6 例
(15 %)
に過ぎなかった
(p=0.078)
。24 週目には,併用切り替え
群 24 例中 5 例(21 %)
が HCV 陰性となり,併用療法継続群 19 例
中例 6(32 %)
も同様であった。全体として,24 週目までには患者
の 44 %が反応した。
血漿製剤による感染リスクの現状
William H. Drohan(Clearant Inc., Rockville, MD, USA)
現在,感染の危険性が懸念されているものに非脂質エンベロー
プを持たないウイルスとプリオンがある。ウイルス除去に用いられて
いる手法について,数多くある手法のなかでも最良とみなされてい
るのは不活化(溶媒界面活性剤,熱,critical fluids,ソラーレン+
UV,UVC+ルチン,
メチレンブルー+光,inactine,
ヨウ素,γ線照射
などを使用)
である。特にヨウ素セファデックス法,γ線照射法など
は有望であるが,最終的な製剤において問題を引き起こさないこ
とを確認しなくてはいけない。
プリオン蛋白質の感染リスクに関して言えば,米国には,血友
病患者の治療に使用された血液製剤からクロイツフェルト-ヤコブ
病(CJD)
が生じたデータはいまのところ存在しない。しかし英国
では,新変種 CJD(nvCJD)が出現しており,現時点では,この
nvCJD の感染性が通常の CJDより高いのか低いのか不明であ
るため,
また異なった問題が生じるおそれを否定することはでき
ない。しかし CJD 動物モデルを用いた実験から,感染レベル以
下であることがわかり,凝固因子製剤の製造に用いられる血液
分離プロセスもプリオンを除去する防壁となっている。したがって
血液製剤によりCJD が感染する危険があると信じる理由はほと
んどないと言えよう。
感染性肝炎
HIV に複合感染した C 型肝炎患者における
インターフェロン/リバビリン併用療法
S. Salueda(Centre de Transfusio de Teixits, Hospital Vall d’
Hebron,
Barcelona, Spain)
慢性 HCV 患者が HIV にも感染して高活性抗レトロウィルス治
療(HAART)
を受けている場合,インターフェロン/リバビリン併用
療法の有効性および効果は,ほとんど知られていない。HCVと
HIV の複合感染のために HAART 療法を受け,かつ 3×106U の
インターフェロンを週 3 回,800 ∼ 1,200 mg / day のリバビリンによ
る併用治療を24 週間以上受けた 19 例に関するデータを報告す
る。治療から6 か月後の奏効持続率は 29 %であり,HIV 陰性群
で見られるのとほぼ同じであった。併用療法は忍容性が優れて
おり,HIV 複製や CD4 値に対する影響はないように思われる。
感染性肝炎
The Charibdis Trial 予備データ―
高用量誘導インターフェロン+リバビリン
インヒビター
K. Meijer(University Hospital Groningen, Groningen,
The Netherlands)
J. Teitel(St. Michael’
s Hospital, Toronto, Canada)
治療に使用できる薬剤
インヒビター陽性患者の治療に利用できる各種薬剤(FVIII,バ
イパス薬を含む)
について考えた場合,インヒビター力価が低い
場合は高用量 FVIII を使用することができ,高い場合はブタ
FVIII が使用可能である。薬剤抵抗性例には,Immunosorption
と高用量 FVIII が使用できる。患者が FVIII 療法に対して反応
しない場合はバイパス薬が有効である。プロトロンビン複合体濃
縮製剤(PCC)
や活性化 PCC(aPCC)
は,投与量と投与時期に応
じて約 65 ∼ 85 %の効力を示す
(この作用機序は明らかでない)
。
しかし,これらは血栓形成の危険性と比較考量して使用する必
要がある。代替薬としては FVIIa があり,およそ 70 ∼ 90 %の効
力を示す
(この作用機序も明確にはされていない)
。FVIIa はクー
ルが短ければ比較的コストが低くなるが,FVIIaとaPCCを直接
比較したデータはない。多くの代替療法(安静,低温,デスモプレ
ッシン,ステロイド,血小板製剤など)
もある程度成功している。イ
ンヒビター力価が低く発生直後であれば,
奏効性が高いことから,
有意値のインヒビターが生じた際には可能な限り早く治療するこ
とが重要である。免疫寛容導入(ITI)
は約 70 %の患者で成功
しているが,そのメカニズムは未だ完全に明らかではない。免疫
寛容導入では静脈アクセス関連合併症が生じることがあり,免疫
抑制剤の使用が必要である。ITI が成功しなかった場合に何を
すべきかについてのコンセンサスは得られていない。
(Haemophilia
6, Suppl. 1: 52-59, 2000に治療アルゴリズムに基づくFVIIIインヒ
ビター対処法についての提案が収載されている)
。
慢性 HCV ではインターフェロン療法の開始時から高用量誘導
療法を用いると,奏効率が向上することが予備研究で示されて
いる。しかし,2 ∼ 4 週間の投与とはいえ,高用量のインターフェ
の安全性は大きな懸念とな
ロン
(10×10 6U の皮下注射を毎日)
っている。そこで慢性 HCVを伴う血友病患者に対して,
リバビリ
ンとの併用による高用量インターフェロン誘導治療を用いた場合
の安全性に関する予備的データを報告する。この無作為化二重
盲検臨床試験では,はじめの 4 週間にリバビリン+インターフェロン
5×10 6Uを1日おきに投与した場合と5×10 6Uを毎日2 回投与し
た場合とを比較。42 例が最初の 4 週間を終え,4 例で好中球減
少ないし血小板減少のために用量変更が生じたものの,治療中
止例はない。
感染性肝炎
インターフェロン単独投与と
インターフェロンとリバビリンの併用投与
T. Abshire(Emory University, Atlanta, GA, USA)
慢性 HCV で 13 歳以上の血友病 Aまたは B の患者 97 例(HIV
感染は陰性)
を対象とした無作為化臨床試験について報告する。
12 か月間,インターフェロン
(3×10 6U の皮下注射を週 3 回)
+リバ
ビリン
(1,000 mg / day)
を投与した場合としなかった場合を比較。
2
WFH 2000 速報版
インヒビター
血友病の予防的治療
FVIII に対する免疫応答のクローン分析結果
カナダにおける用量漸増的予防研究
M. Jacquemin(Center for Molecular and Vascular Biology,
University of Leuven, Leuven, Belgium)
Brian Feldman(Hospital for Sick Children, Toronto, ON, Canada)
費 用 効 果 が 高 いと考えられるや や 集 中 的 な( less than
intensive)予防療法について,年齢 1 ∼ 2.5 歳でインヒビターを有
さず,関節が正常な重症血友病(FVIII ≦ 2 %)男児 24 例を対象
とした多施設プロスペクティブ試験を施行。まず,予防投与の開
始時には 1 週間あたり50 U / kg のリコンビナントFVIII(B 社)
を
使用し,その後 30 U / kgを週 2 回に増加,出血頻度または標的
関節出血の成績が良好でない場合は,最終的に 25 U / kgを1
日おきにまで段階的に投与量を増量。出血が生じた場合,治療
を積極的に施行。
これまでの平均フォローアップは 20か月である。
これまでに 24 例中 7 例が第 2 段階に進んでいる。前述の米国に
おける研究とは異なり,ポート使用に関連した感染合併症は発
生していない。1 例で標的関節出血が発生し,別の 2 例で 3 か
月間に 4 回以上出血が生じた。一過性の低力価インヒビター発
生が 1 例見られた。全例で正常な関節スコアと機能が認められ
た。
主エンドポイントである成績と費用対効果の決定のためには,
さらなるフォローアップが必要である。
患者自身の変異 FVIII(Arg2150His 変異)
には反応しないが,
正常な FVIII には反応する高力価インヒビターを有する軽症血友
病 A 患者を対象とし,FVIII に対する免疫応答をクローン分析し
た結果,T 細胞クローンは正常な FVIII 分子に対応するリコンビ
ナントFVIII 断片を認識したが,Arg2150His 変異を有する断片
には反応しなかった。データから,C1ドメインが Bリンパ球とTリ
ンパ球の両方に対して重要な抗原決定基を有しており,それが
正常 FVIII に対する免疫反応の発生に寄与している可能性が高
く,Arg2150 残基に変異が生じることによって特定の B および T
細胞のエピトープが除去されることが示唆された。
血友病の予防的治療
血友病の予防的治療:その到達水準
Blanchette(The Hospital for Sick Children, Toronto, ON, Canada)
予防投与を行わない場合,重症血友病では 15 歳以下の年齢
で身体障害が生じる。しかし,重症血友病患者に対して早期か
ら予防投与を行った研究によると,関節出血の予防が関節障害
の予防ないし発生の遅延につながることが示されている。重症
血友病に対して十分に早い時期から予防投与を開始すれば,
WFH 承認の Orthopedic and Radiologic Joint Score Scale でスコ
ア0を保つことができる。しかし,低年齢の小児で予防治療を効
果的に維持するには,経静脈アクセスが必要である。一方,静脈
アクセスは感染性合併症をかなり高率(12 ∼ 44 %)
で誘発し,除
去が必要となることが多い。また,中心静脈ライン関連血栓症に
よる問題が生じるおそれもある。
血友病の予防的治療
ESPRIT 試験(Evaluation Study on
Prophylaxis: a Randomized Italian Study)
Alessandro Gringeri(Institute of International Medicine/IRCCS
Maggiore Hospital, Milan, Italy)
プロスペクティブ無作為化試験である本試験では,インヒビタ
ーを有さず,試験 6 か月前から複数回の出血を呈した 7 歳未満
の重症血友病(FVIII < 2 %)男児 45 例を対象として実施。全
例,WFH スコアは 0/0 であった。5 例が途中で脱落した。21 例
には 25 U / kg のリコンビナントFVIII(Recombinate™,Baxter)週
3 回の予防的療法,19 例には 25 U / kg を必要に応じて繰り返
血友病の予防的治療
す応需型の治療を無作為に割り当てた。40 例中 3 例
米国における予防治療研究
(3 例とも,中心静脈経由の予防投与)で
(US Prophylaxis Study)―中間成績
インヒビターの発生が見られた。1 か月間
Marilyn Manco-Johnson(University of Colorado Health Sciences
に 1 人の患者で生じる出血の平均回数は,
Center, Aurora, CO, USA)
応需型療法群に比べ,予防療法群が有意
この多施設無作為化プロスペクティブ試験は 2.5 歳未満の重
に少なかった(1.5 対 0.2,p < 0.0001)。
症血友病(FVIII ≦ 2 %)男児を対象とし,25 U / kgリコンビナン
したがって,FVIII 予防療法は年間 1 人あたり
トFVIII(Baxter 社)
による予防療法+発展治療(breakthrough
13.9 回の出血を防いだことになる。すなわち,
treatment)
と一時的強化治療(関節出血時に各回最低 40,20, 年間 1 人あたり1 回の出血を防
20 U / kg 投与)が比較された。これまでの登録期間中央値は
ぐのに,約 3,000 米ドル要した
約 2 ∼ 2.5 年。初回出血までの時間に群間差はなかった。現在
ことになる。予防投与を受け
までの治療期間では,主エンドポイント
(MRI および X 線検査で
た 21 例中 11 例では中心静脈
明らかな関節障害が確認されるまでの時間)
を分析するのには
ラインの 使 用 が 必 要 であっ
不十分である。中心静脈からの投与に関連して生じる感染発症
た。なお,動静脈フィステル
率は,一時的予防群に比べ,ルーチン予防群で低くなる傾向が
については,検討された結
見られたが
(37 %:10 %)
,
この差は統計的に有意ではなかった。 果,中心静脈ラインを効率よ
しかし少なくとも米国では,ポートを一時的に用いる場合,ルー
く問題なく使用することが
チン使用時より高率で感染が生じることが窺える。
できない患者では将来有
望であることが判明した。
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HEMOPHILIA 2000
WORLD CONGRESS
July 16 - 21, 2000
Montréal
WFH Highlights
SATELLITE SYMPOSIA
血友病 A およびインヒビターの管理における予防的アプローチ
Prophylactic Approaches in Hemophilia A and Inhibitor Management
「血友病 A およびインヒビターの管理に向けての予防的アプローチ」と題したサテライトシンポジウムは,
テキサス大学ダラス校サウスウェスタンメディカルセンター主催,バクスターハイランドイムノ教育助成金
の後援により,7 月19 日早朝に開催された。座長は Cynthia J. Rutherford 教授(University of Texas
Southwestern Medical Center at Dallas)が務めた。
当シンポジウムの主旨は活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤の予防的使用を探索し,病院での治療,在
宅治療,手術,免疫寛容誘導(ITI)などの成績,血友病 A の患児の学業成績も合わせて発表することであった。
血友病 A の患児の学業成績の調査
Haematology and Transfusion Medicine, University of Bonn)
は,
静脈アクセスが困難な若年者でインヒビター力価を低下させる
ために,NovoSeven ® を応需的に使っていると発表した。14
BU 未満の NovoSeven® 使用症例 4 例のデータが示され,数か
月でインヒビターが検出不能まで低下した。また,当初高力価
でも治療 12 か月後に激減した症例もある。FEIBA® はごく微量
の FVIII を含んでいるので力価を高める可能性があることを考
慮しなくてはいけない。
重症血友病患児にとって,学業成績や知能は極めて重要な
治療成果である。これまでの調査では,複数の評価法で期待
値より低い。そこで Amy D. Shapiro 博士(Indiana Hemophilia
and Thrombosis Center, Indianapolis)
は,重症 FVIII 欠損(FVIII
< 2 %)患者の小学生 131 人を対象とした新たなコホート研究
を行い,学業成績,QOL,行動に関係する因子を検討した。血
友病と治療の各指標の他,各種知能検査(WISC-III,WIAT,
HOME など)の成績,ならびに両親(一次ケア提供者)の教育,
職業,家族構成なども調査した。現在データ分析中である。
FEIBA® の市販後調査
インヒビターの発生は従来の凝固因子補充療法に完全ない
し相当な不応性を惹起し,治療費を高めるばかりか関連疾患
罹患率や死亡率まで高めてしまう。特に重症出血,外傷,手術
時の処置ではインヒビター対策が重要であり,20 年以上も
FEIBA® が主に使われてきた。多くの臨床試験・研究が行われ
ており,最近も出血予防を含めた適応症での日常的な臨床経
験について世界的調査が行われた。その内の欧州の一部の
データについて,Claude Négrier 博士(Centre de Traitement de
l’Hémophilie, Hôpital Edourad Herriot, Lyon)が発表した。対象
は平均 32 歳,インヒビター検出歴が平均 17 年の患者 64 例(大
半が重症血友病 A)であった。FEIBA® 治療で平均最大力価が
603 BU から 61 BU に低下した。一様に,特に手術時および二
次的な出血予防に極めて良好ないし良好な反応が得られた。
インヒビター陽性患者における
活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤の
予防的使用
血友病ケアで最も手強い合併症は,FVIII 濃縮製剤による補
充療法中に FVIII インヒビターが発生することである。発生率
は 20 ∼ 30 %で,おおむね投与 25日以内に,特に若年者に発
生する。対処法は,出血に対する応需型治療か,組織的なイン
ヒビター除去を目標とした免疫寛容療法(ITT)か,のいずれか
である。ITT では,初回施行時のインヒビター力価が 10 BU 未
満,静脈アクセスが容易,FVIII バイパス剤である NovoSeven®
や FEIBA® などを予防的に用いると好成績が得られる。Lothar
Hess 博士(Haemophilia Center, Institute for Experimental
表 1 Recommendations and Conclusions
Prior to start of ITT to reduce inhibitor titer: rFVIIa for acute bleeding episodes ⇒ no booster effect
During ITT to reduce bleeding tendency: FEIBA® > rFVIIa
Failure of ITT bleeding tendency reduced by prophylactic use of FVII and FEIBA®
Haemophilia Centre, Institute for Exp. Haematology and Transfusion Medicine, University Bonn
4
WFH 2000 速報版
血友病治療課題への新規アプローチ
Novel Approaches to Hemophilia Therapeutic Challenges
このサテライトシンポジウムも,同じくテキサス大学ダラス校サウスウェスタンメディカルセンター主催,
バクスターハイランドイムノ教育助成金の後援の下,Cynthia J. Rutherford 教授(University of Texas
Southwestern Medical Center at Dallas)を座長とし,同日昼に開催された。主旨は,組換え FVIII の
新側面,インヒビター発生の免疫機構,遺伝子療法の安全性を検討することであった。
組み換えヒト FVIII 製剤の生産
表 2 FDA Approved Phase I Clinical Trials May 2000
ヒト・動物由来の原料を使う場合のウイルスやプリオンの伝
播を医師・患者双方がおそれていたことから,新薬 rAHF-PFM
(recombinant anti-hemophilic factor, protein-free manufactured)
が開発された経緯を Marc Besman 博士(Baxter Healthcare,
Hyland Immuno, Duarte, California, USA)が発表した。開発理
念は生産・製造の全過程でヒト・動物由来の原料を使用しな
いこと,同時に遺伝子構成,プロセッシング,物理化学特性を現
在用いられている Recombinate™ rAHF などに最大限近寄せる
ことであった。rAHF-PFM の有効成分は,外来蛋白を必要とし
ない細胞株を用いた細胞培養により生産される。最終製品は,
ヒトアルブミンを用いず製剤化・安定化されている。構造,コン
フォメーション,完全性,機能は Recombinate™ rAHFと等しいこ
とが証明された。
Vector
Gene
Route
Company
AAV
FIX
i.m.
Avigen
Retrovirus
FVIII
i.v.
Chiron
BDD plasmid
FVIII
Mini Ad Virus
FVIII
fibroblasts/omentum Trans Karyotic Therapies
i.v.
Baxter
と比較した。患者全例で CD4 + T 細胞は FVIII に応答したが,
応 答 強 度 は 時 間と共 に 変 動した 。一 方 ,健 常 者 で は 全 て
CD4 + T 細胞の FVIII 応答は一過性で,強度は患者より有意に
低く,頻度も少なく,期間も短かかった。患者,健常者共に複
数の FVIIIドメインおよびエピトープを認識したが,最も強く多
かったのは A3ドメインであった。ここに CD4 +エピトープが存
在するのかも知れない。また,血清蛋白が炎症反応推定部位
で CD4 +細胞を感作することも実証された。抗原提示細胞は,
クローン性削除を受けないようCD4 +細胞を刺激して,血清蛋
白由来のエピトープ配列を提示するのであろう。
FVIII インヒビター形成の免疫機構
血友病 A 患者や後天的 FVIII 欠損症(後天性血友病)患者で
は,FVIII 機能を抑制する抗体 IgG が発生する可能性がある。
抗体合成には CD4 +ヘルパー T 細胞が必要であり,健常者で
は,凝固に影響しない抗 FVIII 抗体が生成されるため,FVIII
特異的な CD4 + T 細胞が多くなる。そこで,Bianca M. ContiFine 教授(University of Minnesota, Minneapolis-St. Paul)
は,先
天性・後天性血友病患者における CD4 + T 細胞の FVIII(組み
換え製剤および合成ペプチド)に対する免疫応答性を健常者
遺伝子療法の安全性
かっては死亡率・慢性化率が高かった血友病 A,B ともに,
昨今の治療により臨床経過が大きく変貌し,今や十分管理可能
な状態である。しかし,応需型療法を受けている患者での関
節症・重症出血,予防療法を受けている患者での頻回の点滴,
インヒビターの発生,ライフスタイルの転換など,現在の治療法
で応じきれない問題は若干残っている。このような問題の一部
を,遺伝子治療で安全に解決しなくてはいけない。Herbert H.
Watzke 教授(Division of Hematology and Hemostasis, University
of Vienna)
は遺伝子治療のリスクとして,突然変異の可能性,ウ
イルスの放出,非標的細胞の導入などをあげた。これらを動物
モデルで検討したうえで,最適なベクターや導入方法を選択す
べきある。
5
HEMOPHILIA 2000
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Montréal
WFH Highlights
POSTER SESSIONS
予防措置を開始した年齢,関節出血回数の年間平均,およ
び予防措置に使用される 1 週間あたりの用量/ kg は,有害作
用を生じることなく予防措置を中断できることを示す独立予測
因子であった(表 3 を参照)。これらの因子を組合わせると,重
大な有害効果を生じることなく予防措置を恒久的に停止でき
る患者を決定するのに使用可能な予測スコアを作成できると
推測される。
重症血友病患者に対する予防措置:
成人期での停止は可能か?
Fischer K et al.(van Creveldkliniek, University Center, Utrecht,
The Netherlands)
1970 年代以降,オランダの重症血友病患者(FVIII/IX < 1 %)
の大半は低年齢時から予防的治療を受けるようになっている。
これに伴い現実に起こってきた問題は,多くの患者が一時的あ
るいは恒久的に予防措置を中断しようとする現象である。今
回の研究では予防的治療が中断される割合を調査し,また,
有害作用を生じることなく予防中断が可能な患者を特定する
ための予測スコアの開発を目標として,予防中断と患者の特性
および転帰との関連性を評価した。1970 ∼ 1980 年までの間に
出生し,当センターに来院した重症血友病 A(n = 43)
または B
(n = 6)の患者 49 例すべてについて,遡及的研究(平均フォロ
ーアップ:17 年)
を施行した。2 例は,長期にわたりインヒビター
が発生したため除外した。
予防措置を一度も中断しなかった患者は 15 例,1 回以上予
防を中断した患者は 23 例であり,残りの 11 例は平均 4.1 年に
わたって予防的治療を中断していた。予防を恒久的に止めた
時点の平均年齢は 20.1 歳であった。したがって患者の大半
(70 %)はある程度の期間予防を中断していたこととなる。
22 %の患者は予防措置を受けることを恒久的に止めていた
が,予防的治療を継続している患者よりも多くの関節出血を経
験する,または,より高い Petterson スコアを示す,ということは
なかった。
表 3 重大な有害作用の発生なく予防を恒久的に停止することと患者特性
との関連を一変量ロジスティック回帰分析により分析した結果
患者特性
オッズ比
95% CI
p値
予防の開始年齢
1.22
0.99-1.51
0.06
予防継続中に生じた
関節出血の年間回数
0.74
0.55-0.98
0.04
予防に使用された週あたりの
投与量(IU / kg)
0.74
0.59-0.93
0.01
重症血友病の小児患者に対する
予防的治療の経験
Yee TT et al.(Haemophilia Centre and Haemostasis Unit,
Royal Free NHS Trust, London, UK)
現在,先進国においては血友病の予防的治療がこれまでよ
り頻繁に行われている。スウェーデンでは 1950 年代から行わ
れていたが,当初は他の国ではなかなか施行されなかった。
今回我々は,当センターで凝固因子濃縮製剤による予防療法
を受けている 20 歳未満の重症血友病患者について遡及的に
データを集め,整形外科的成績(国際血友病学会[WFH]の推
奨どおりに計算した整形外科的ジョイントスコア),QOL,コンプ
ライアンス,患者とその親のトレーニング,中心静脈カテーテル
の使用,関連罹患率,インヒビター発生率に関して,予防の影
響とその価値について調査した。
現在予防措置を受けているのは,血友病 A の重症患者 22 例
と血友病 B の重症患者 7 例。調査時点における患者年齢の中
央値(範囲)は 8(2.1 ∼ 19.1)歳,予防開始時には 3.7(0.4 ∼
12.7)歳であった。予防措置継続期間の中央値は 4.3( 範囲:
0.4 ∼ 11.5)年であった。39 例中 8 例(20 %)
は埋込み型静脈ア
クセス装置を必要とし,このうち 7 例(87 %)はこれに関連した
疾患に罹患していた。現在,5 例が中心静脈(port-A-caths),残
り34 例は末梢静脈を用いている。11 例は,凝固因子濃縮製剤
を自己投与している(調査時点での年齢中央値は 12.3 歳)。
3 例は予防療法を開始する前から低力価のインヒビターを有し
6
WFH 2000 速報版
ており
(予防中に高力価への変化は観察されていない),1 例は
一過性の低力価インヒビターが予防中に発生した。通常我々
は,小児に対して,末梢静脈からの投与が困難でない限り,あ
るいは中心静脈からの投与時には特別な治療措置をとること
から,末梢静脈穿刺により予防療法を施行している。幼い血
友病患者を対象とした予防療法の臨床的,心理的,整形外科
的ならびに経済的結果は前向きに評価する必要があり,それ
を目的とした研究を現在進めている。
FEIBA® VH はどのようにして
止血を開始するのか?
Turecek PL et al.(Baxter Hyland Immuno, Vienna, Austria)
血液凝固因子に対するインヒビターを有する患者を対象とし
た出血の治療では,活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤
(aPCCs)の有効性が十分確立されているが,その作用の根底
にある治療原理の詳細は判明していない。aPCC FEIBA® VH
は,従来の PCC と等価な割合でプロトロンビン複合体酵素の
前駆体(proform)
を含んでいる
(大量の FVIIa,若干の FXa,ご
く微量の FIIaとFIXa)。我々は FEIBA® VH の作用機序が FXa
とFII(プロトロンビン)から成る酵素−基質複合体に基づいて
いると仮定し,いくつかの動物出血モデルを用い,in vitroとin
vivo の両方でこの複合体が及ぼす影響を調べた。
FXa/FII は in vitro において,高力価の FVIII インヒビターを示
す血漿で異常に延長された凝固時間を是正する効果を示し
た。FXa 誘導によるトロンビン生成は用量依存的であり,FII の
添加によって増強し,また,コファクターとして FV を要求した。
さらに,FXa / FII はウサギのインヒビター陽性血友病モデル
(ウサギの FVIII を一過性に免疫枯渇させ,出血体質を誘導す
る)では,異常に延長した表皮出血時間を短縮し,出血強度を
正常化させ,血流量を 81 から 5 μ L / min に低下させた(正常
なウサギでは 4 ± 7 μ L / min)。FXa のみでは出血に影響せ
ず,FII のみでは血流量を 12 ± 20 μ L / min(p < 0.01)へと有
意に低下させたものの,血流量を正常化することはできなかっ
た(図)。同モデルにブタおよびヒトの FVIII を投与すると,異常
出血が部分的に是正できたが,FVIIa は血漿由来製剤もリコン
ビナント製剤も有効でなかった。
インヒビター陽性血友病を呈したウサギに ex vivo で FXa /
FII を投与し,その血漿サンプルを分析したところ,自発的なト
ロンビン生成能の改善が見られた。健康なチンパンジーとヒヒ
に FXa / FII を注入したところ,血栓症を生じることなく,
トロン
ビン生成速度が増大した。すべての動物モデルで,FEIBA ®
VH 処置後に同様な効果が観察された。結論として,FXaとFII
はインヒビター陽性血友病における異常を矯正する上で重要
な役割を担っており,プロトロンビナーゼ複合体のレベルで直
接的に血栓形成を誘発するだけでなく,内因性および外因性
の凝固経路のフィードバック活性化をも誘導するといえよう。
図 ウサギのインヒビターモデルにおいて,FXa と FII(プロトロンビン)の酵素-基質複合体は
治療用量の FEIBA® VH とほぼ等しい効率で出血を抑制した。FII のみでも出血時間にいくら
かの影響が生じた。
rate of blood flow (µl blood/min)
150
100
50
**
**
0
normal
rabbits
untreated
buffer
control
FXa
prothrombin
FXa/pro
FEIBA®
thrombin (∼75 U/kg)
Factor VIII-inhibitor rabbits (**p ≦ 0.01)
7
**
HEMOPHILIA 2000
WORLD CONGRESS
July 16 - 21, 2000
Montréal
WFH Highlights
血友病 A の治療における
リコンビナントFVIII 製剤の安全性と効力:
データの統合
B ドメイン欠失リコンビナント第 VIII 因子
濃縮製剤の連続注入を採用した,
第 VIII 因子インヒビターを有する
男児の手術について
Aledort LM et al.(Mt. Sinai Medical Center, New York, NY, USA)
Bolton-Maggs PHB et al.(Department of Haematology,
Royal Liverpool Children’s Hospital, Liverpool, UK)
現在までに,血友病 A 患者の治療に使用された遺伝子組換
え型血液凝固第 VIII 因子製剤(rFVIII)の安全性と有効性に関
する臨床データが大量に蓄積している。これらの臨床研究で
は,原型的な 2 つの完全長 rFVIII 製剤(Recombinate ™ と
Kogenate)
と,Bドメイン欠失 rFVIII( ReFacto)やショ糖配合
rFVIII(sucrose-formulated rFVIII,Kogenate FS)などいわゆる
第 二 世 代 製 剤 が 用 いられて いる 。そこで 我 々は ,これら
rFVIII 製剤の安全性と臨床有効性を総合評価するため,これ
らの情報を要約した。今回のデータ統合では,治療未経験の
患者群(PUPs)
と治療経験のある患者群(PTPs),重症血友病
A 患者群(FVIII:C < 2 %)における関節出血等あらゆる出血
に対する応需型治療の有効性に関するデータを選んで利用し
た。要約の対象にした rFVIII 製剤は Recombinate™,Kogenate,
Kogenate FS および ReFacto である。臨床試験の結果は以下の
表 4 にまとめた。
第 VIII 因子インヒビターを有する小児で手術を行う必要が生
じた場合,その対処は難しいと言える。ボーラス投与への反応
は予測不可能であり,循環血中の半減期が短いために頻繁な
モニタリングが不可欠となる。今回我々は,手術に十分な第
VIII 因子濃度を確保するため,
トップアップボーラスと第 VIII 因
子濃縮製剤連続注入(CI)の併用について検討した。6 歳の重
症血友病患者(25 kg)で,通常の予防治療中に第 VIII 因子イン
ヒビター(1.8 BU / mL)が発生し,血管ポートの挿入が必要と
なった。手術前日に 3,000 IU の第 VIII 因子濃縮製剤をボーラ
ス投与したところ,30 IU / dL の FVIII:C が得られた。その後,
CI を 5 IU / kg(50 mL のブドウ糖食塩水で希釈した 500 IU の
第 VIII 因子濃縮製剤と20 U のヘパリン)で行った。2 時間後,
FVIII:C は 16 IU / dLとなっていた。5000 IU のボーラスにより,
190 IU / dL が得られた。20 U のヘパリンを含む 50 mL の 5 %
ブドウ糖で希釈した 2000 IU を用いて,CI を続行した。16 時
間後の FVIII:C 濃度は 60 IU / dL であった。術前の 3000 IU ボ
ーラス投与により159 IU / dLとなった。術中に問題は特に生
じなかった。ボーラス投与後,2.5 hr の時点で FVIII:C は 88
IU / dL,4.5 hr の時点では 77 IU / dLと低下した。計 5日間継
続して,FVIII:C を 50 IU / dL 以上に保つため,CI(末梢静脈
経由)
を 8 IU / kg / hr まで増やし,必要に応じて,CI 速度の
調節をしつつ,さらにボーラス投与を行った。CI は 4日間にわ
たって末梢ラインを通して行ったため,血栓性静脈炎の徴候を
きたさなかった。測定値は一貫して(シリンジ中のヘパリンの
有無に関係なく),用いたバイアルの表示量から予想されるよ
りも低い値(70 ∼ 80 %)であったが,FVIII:C 回収率を測定す
るために各投与量の投与開始時と終了時に CI ラインから採取
したサンプルは,最大 10 hr の注入時間にわたり有意な活性低
下を示さなかった。我々は,この方法による CI は安定性が高
く,受け入れることができると結論する。
表 4 臨床成績
平均投与量
(IU / kg)
(患者数)
最初の投薬で
消退した出血
有害事象の
生じた患者
インヒビターが
生じた患者
29(n = 113)
71 %
0.19 %
0.9 %
Kogenate FS 27.5(n = 71)
83 %
0.19 %
0%
25.1(n = 54)
82 %
0.23 %
0%
Recombinate 27.5(n = 67)
79 %
0.07 %
0%
53(n = 99)
65 %
0.14 %
30.0 %
N/A
(n =64)
84 %
N/A
28.1 %
Recombinate 38.0(n = 69)
75 %
0.09 %
30.5 %
製品名
(参考文献)
PTPs
ReFacto
Kogenate
™
PUPs
ReFacto
Kogenate
™
PUPs におけるインヒビターの発生では,各 rFVIII 製剤は同
等な値を示している。薬剤に関連した有害事象の発生頻度は,
すべての rFVIII 製剤が非常に低い値を示している
(注入全体
の 0.2 ∼ 0.3 %)。このことから,これらの薬剤は比較的安全で
あることが示唆される。しかし,1 回の注入で消退した出血の
割合は,完全長 rFVIII に比べ Bドメイン欠失 rFVIII(ReFacto)
の方が低値を示しており,出血発症の解決には,より多量か,
より頻繁な投薬,もしくはより多量かつ頻繁な投薬が必要とな
り得ることを示唆している。これら rFVIII 製剤の臨床上の真の
等価性を評価するには,さらなる研究が必要である。現在,デ
ータの正式のメタ分析を進めている段階である。
血漿由来第 VIII 因子から
リコンビナント第 VIII 因子への切り替え:
治療に必要な第 VIII 因子の量は
増大するのか?
Pollman H. et al.(Children’s Hospital, Hemophilia Centre,
University of Muenster, Germany)
ここ数年間の血友病治療で,遺伝子組換え型血液凝固第
VIII 因子製剤(rFVIII)の使用は確立されたと言えよう。この薬
剤を用いることの主な利点は,ウイルス感染を受けない安全性
8
WFH 2000 速報版
と血液ドナーに依存しない点である。ヨーロッパでは,rFVIII
活性の測定には発色合成基質法が用いられているが,多くの
病院では今でも一段法(one-stage assay)が用いられている。一
段法では,rFVIII 製剤は血漿由来 FVIII 製剤より活性が低くで
るため,rFVIII 製剤に切り換えた後,FVIII の量を増やす必要
が あるとみ なされ る 可 能 性 が ある 。そこで 今 回 我 々は ,
10 例の患者群を対象とし,rFVIII 製剤への切換え前後 6 か月
間における出血と補充治療の回数を調べた。この患者群の年
齢は 8.4 ± 3.4 歳(3 ∼ 14 歳)であった。治療の詳細については
表 5 にまとめた。
止血が成功しない場合はその後も補充が必要になると考え
られるため,
「1 回の出血あたりの注入回数」
というパラメーター
を FVIII 製剤の有効性を決定するための客観的な基準とみな
した。rFVIII 製剤への切替え前後における出血 1 回あたりの
注入回数を統計的に分析したところ,Student の t 検定(p =
0.6338)および Wilcoxon ログランク検定(p > 0.2)の両方とも有
意 差 を 示さな かった 。以 上 の 結 果 は ,血 漿 由 来 製 剤 から
rFVIII 製剤に転換した際,FVIII 製剤の投与量を増やさなけれ
ばならない理由はないことを示唆している。
表 5 治療の詳細
パラメーター
血漿由来 FVIII 製剤
リコンビナント FVIII 製剤
出血発症回数
45
61
注入回数
109
124
1.94 ± 1.27
1.83 ± 1.27
1.87
1.5
130,500
162,000
体重 1kg あたりの
出血量
51.82
55.98
予防的注入(回)
384
382
出血 1 回あたりの
平均注入回数(± SD)
出血 1 回あたりの
注入回数の中央値
応需型治療量
9
HEMOPHILIA 2000
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WFH Highlights
蛋白質非含有培地中で培養した
CHO 細胞から単離した 3 種類の
リコンビナント抗血友病因子製剤の
前臨床分析
れなかった。また,ウサギに対し,0.2 mL の単回血管周囲投与
および 10 mL の血管内投与を行い,血管/血管周囲に対する
急性刺激性についても検討したところ,対応する溶媒および食
塩水の対照に比べ,いずれの場合も刺激性はないことが判明
した。その後,FVIII ノックアウトマウスにおいて,rAHF / PFM
の効力を測定した。このノックアウトマウスに rAHF / PFM お
よび Recombinate™ rAHF を投与(150 IU / kg IV)
したところ,
尾部切除モデルにおいて止血の回復が見られた。各製剤と現
在承認を受けている製品の止血有効性に有意差は見られな
かった。最後に,各製剤の in vivo 薬物動態をラットを用いて調
べた(表 6)。予備分析からは,各製剤の半減期は互いにほぼ
等しく,また,現在承認を受けている製品とも同等であること
が示された。
表 6 に示すデータは,rAHF / PFM が Recombinate™ rAHFと
同様な安全性,有効性および薬物動態特性を有することを示
している。以上の結果は,今回試験した rAHF / PFM 製剤を
用いた臨床試験の実施開始を正当化するものと言えよう。
Landsperger WJ et al.(Baxter Hyland Immuno, Duarte, CA, USA)
蛋白質を含まない培地中で培養したチャイニーズハムスター
卵巣(CHO)細胞株から,
リコンビナント第 VIII 因子(rAHF)
を単
離した。単離した rAHF には安定化剤として蛋白質を加えず,
A,
B,Cと名付けた 3 種類の製剤化を行い,凍結乾燥した。その
後,雌・雄性 SDラットおよびニュージーランドウサギにおける単
回投与毒性について,これら3 種類の製剤と現在承認を受けて
いるRecombinate™ rAHFとを比較した。各動物に投与した用量
は標準的な臨床用量である50 IU / kg に基づき,標準用量(50
IU / kg)
の 10 倍,40 倍,100 倍とした。対照動物には等量の対
応する溶媒を与えた。各製剤とも,両動物種において評価した
すべての用量で急性毒性をまったく示さなかった。
同様に,予備的な亜慢性毒性試験(動物に対
し,投与量と等量の各溶媒と食塩水を 30日
間繰り返し投与)からも,rAHF / PFM
( protein-free medium)製 剤 と
Recombinate™ rAHF の溶媒との
間に違いはまったく認めら
表 6 マウスへの IV ボーラス投与(400 IU / kg)後の,
RecombinateTM rAHF と 3 種類の rAHF / PFM 製剤の薬物動態
サンプル
平均値 *
AUC
(mIU / mL / hr)
t1/2 (hr)
MRT (hr)
Cl
(mL / hr/kg)
RecombinateTM
rAHF (n = 17)
5,900
1.54
1.85
71.9
rAHF / PFM A
(n = 16)
6,510
1.50
1.77
66.0
rAHF / PFM B
(n = 17)
5,807
1.64
1.98
76.3
rAHF / PFM C
(n = 15)
6,748
1.55
2.44
63.2
* 各サンプル間に統計的な有意差は認められなかった。
AUC =血中濃度-時間曲線下面積; Cl =クリアランス速度;
MRT =平均維持時間; t1/2 =血中濃度半減期
10
WFH 2000 速報版
成人および青年期の血友病患者で生じた
頭蓋内出血:
14 年間に生じた 18 症例についての報告
1 型ヒト免疫不全ウイルスの感染は,
血友病患者における C 型肝炎ウイルス関連
肝疾患の進行を亢進する
Amano K et al.(Department of Clinical Pathology,
Tokyo Medical University, Tokyo, Japan)
Taki M et al.(Department of Pediatrics, St. Marianna University School
of Medicine, Kawasaki, Japan)
補充療法は過去 10 年間に大きく進歩したが,頭蓋内出血
(intracranial hemorrhage; ICH)は今でも血友病患者の命をお
びやかしている。今回,我々は当病院において 10 歳以上の血
友病患者 319 例に認められた ICH の発症率とその治療と転帰
について報告する。過去 14 年間(1986 ∼ 99)に,14 例が 18 件
の ICH を経験した。ICH 発症率は年間 1 人あたり0.71 %であ
った。この 14 例中 12 例は血友病 A,2 例は血友病 B であった。
病状は残存血漿凝固因子の活性に基づき,7 例が重症,5 例が
中等症,2 例が軽症であった。3 例でインヒビターが発生,7 例
は,ICH が発症する前に凝固因子濃縮製剤を自己投与してい
た。血友病 A と血友病 B,自己投与群と非自己投与群,および
残留凝固因子活性による重症度別で,ICH 発症率に有意差は
見られなかった。出血発症の平均年齢は 39.3 歳(11 ∼ 75 歳),
出血箇所は 9 例が脳内,4 例が硬膜外腔,4 例が硬膜下腔,1 例
は硬膜外腔とくも膜下腔の両方であった。最好発症状は頭痛
であった(16 件)。7 件では頭部外傷が既存していたが,残り
12 件(67 %)は自然発生していた。この 12 件の自発的 ICH の
うち,7 件(58 %)は初期症状の発現から 2 ∼ 6日後まで診断さ
れなかった。少なくとも数日間 100 %の血漿因子活性を維持
するため,16 件で補充療法を施行した(8 件は連続注入,この
うち 2 例はインヒビターの中和を含む)。1例のインヒビター患
者(2 件)はバイパス療法により治療,補充療法は平均 30.4日
間継続(5 ∼ 87日間)
した。CT 診断では,平均 30.6日
(1 ∼ 64
日)で出血が消失,死亡例はなかったが,16 件で神経性後遺
症が残った(89 %)。以上の観察から,血友病患者に頭痛が生
じた場合は,可能な限り早急に十分な凝固因子を投与すべき
であると提唱する。
1985 年以前に日本国内で,汚染血液凝固製剤により1 型ヒト
免疫不全ウイルス
(HIV-1)に感染した血友病患者の大半は,C
型肝炎ウイルス
(HCV)にも感染している。慢性 HCV 感染の主
な転帰は,肝硬変および肝細胞癌への進行である。抗レトロウ
イルス療法の改善により,HIV-1 感染患者の寿命が延長される
ようになったため,HCV に関係した肝疾患を効果的に治療す
ることの重要性が増している。そこで我々は,HIV-1 感染が
HCV 関連肝疾患の進行に与える影響を検討した。今回行っ
た血友病患者の調査では,
日本国内の 1,446 か所の病院,診療
所,その他のヘルスケア施設を対象とした。陽性の HCV-II 抗
体を有する登録患者の総数は,1998 年 5 月31日の時点で 2,049
人であった。このうち,HCVとHIV-1 の両方に同時感染してい
たのは 674 人であり,このうち 33 人(4.9 %)は,肝硬変か肝細
胞癌への進行を示していた。HIV-1 に感染していない HCV 感
染患者の数は 1,375 人であり,これらのうち 36 人(2.6 %)が肝
硬変か肝細胞癌へと進行していた。HCV のみに感染した患者
に比べ,HCVとHIV-1 の両方に同時感染した患者では慢性肝
疾患への進行に有意差が見られた(p < 0.05)。1998 年 5 月31
日以前に肝不全により死亡した患者を含めた場合,この差はよ
り明らかになる。結論として,血友病患者において HIV-1 感染
は HCV 関連肝疾患の進行を亢進すると言えよう。
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