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血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII

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血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII
Original Article − Full Translation
血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII 因子インヒビターの
ドメイン特異性
Domain specificity of factor VIII inhibitors during immune tolerance induction in
patients with haemophilia A
P. M. W. van Helden,1 P. H. P. Kaijen, E. P. Mauser-Bunschoten, K. Fischer, H. M. van den Berg and
J. Voorberg
Department of Plasma Proteins, Van Creveld Laboratorium at Sanquin Research, Amsterdam; Van Creveldkliniek, University
Medical Centre, Utrecht; Julius Center for Health Sciences and Primary Care, University Medical Centre, Utrecht; and
Department of Laboratory and Pharmacy, University Medical Centre, Utrecht, The Netherlands
要 約
の 1 例では,FVIII 軽鎖特異的インヒビターの増加
背 景:第 VIII 因子(FVIII)製剤の高用量頻回投与,
に伴い,A2 ドメイン特異的インヒビターが相対的
いわゆる免疫寛容導入療法(ITI)は,血友病 A 患
に減少した。ITI が不成功であった 5 例では,ITI
者のインヒビター根絶のための有効な治療戦略であ
開始時に 4 例で A2 ドメイン特異的インヒビターを
る。ITI 施行下の患者におけるインヒビターの特性
認めた。この 4 例中の 2 例では ITI 施行期間中に
に関する現時点での我々の知識は非常に限られてい
結 果:ITI 成功患者 6 例中の 3 例では,インヒビ
A2 ドメイン特異的インヒビターの割合が増加した
が,他の 2 例では一定であった。残りの 1 例では,
FVIII 軽鎖特異的インヒビターが常に優位であった。
結 論:全体として,11 例中 5 例で FVIII インヒ
ビターのドメイン特異性の変化を認めた。特に ITI
成功例では,
FVIII 軽鎖のみに特異的なインヒビター
ターが主に FVIII 軽鎖に特異的であった。他の 2
が優位であった。
例では A2 ドメイン特異的なインヒビターが有意に
Key words:エピトープマッピング,第 VIII 因子,
多く,ITI 施行期間を通じて変化はなかった。残り
第 VIII 因子インヒビター,血友病,免疫寛容
緒 言
は出血予防および止血治療のために, 血漿由来
る。
目 的:本研究では血友病 A 患者 11 例を対象に,
ITI 施行下における FVIII インヒビターのドメイン
特異性について検討した。
X 連鎖劣性遺伝性疾患である血友病 A では,第
VIII 因子(FVIII)の機能が失われる。この疾患で
FVIII(pdFVIII)製剤または遺伝子組換え型 FVIII
(rFVIII)製剤の静脈内反復投与が行われる(1)。さ
らに,重症患者の 25%以上では,投与された FVIII
に対する抗体が発生し,補充療法が困難になる(2)。
1
Present address: Department of Immunology, Baxter Bioscience,
Vienna, Austria.
Correspondence: Dr Jan Voorberg, Department of Plasma Proteins, Sanquin Research, Plesmanlaan 125, 1066 CX Amsterdam,
The Netherlands.
Tel.: +31 20 512 3120; fax: +31 20 512 3310;
e-mail: [email protected]
Haemophilia (2010), 16, 892–901
©Blackwell Publishing Ltd.
この抗体(FVIII インヒビター)は,FVIII と他の凝
固因子[FVIII の輸送蛋白質であるフォンヴィレブラ
ンド因子(VWF)など]との相互作用,および FVIII
のリン脂質への結合を妨げる(3,4)。したがって,イ
ンヒビターの発生した患者では補充療法の効果が
著しく低下する。FVIII は,A1-a1-A2-a2-B-a3-A3-
25
Full Translation: P. M. W. van Helden, et al.
C1-C2 という一連の相同性反復ドメインで構成され
ている(5)。FVIII は,循環血液中において重鎖と軽
ことが示されている(20)。ほとんどの患者のサンプ
鎖が非共有結合によって連結したヘテロダイマーと
ルでは,インヒビターは複数のエピトープを認識し
して存在する。A1-a1-A2-a2-B ドメインで構成さ
ていた。インヒビター保有例において,エピトープ
れる重鎖は,B ドメイン内における蛋白質分解プロ
に対する特異性に変化が起こるかについて検討した
セスの結果として大きさが不均一である。軽鎖は,
研究は非常に限られている。Fulcher らの研究では,
a3-A3-C1-C2 ドメインで構成される。免疫沈降法,
インヒビター保有患者 15 例中 6 例で時間経過に伴
イムノブロット法,中和試験を使用したエピトープ
う FVIII インヒビタードメイン特異性の変化を認め
マッピングにより A2 ドメイン,a3-A3-C1 ドメイン
ている(21)。
および C2 ドメイン内の主なインヒビターエピトー
(6)
インヒビター保有例の治療では,出血に対して
位として,2181 ∼ 2243 番および 2248 ∼ 2312 番
FVIII インヒビターバイパス製剤が一般的に使用さ
れる。それと同時に,FVIII に対する免疫寛容を再
アミノ酸残基が報告されている(7,8)。ヒトモノクロー
構築しインヒビターを根絶するプロトコール,すな
ナル抗体 BO2C11 と C2 ドメインの複合体の構造分
わち,免疫寛容導入療法(ITI)が開始される。ITI
析では,リン脂質と結合する C2 ドメインの残基が
では高用量∼中間用量の FVIII 製剤を頻回投与し,
プが明らかにされている
。C2 ドメインの結合部
析では,FVIII に対する液性免疫応答が複雑である
(9,10)
成功率は最大 80%である(22 ∼ 24)。しかし,ITI 施行
。
BO2C11 と相互作用することが示されている
生化学的研究では,これらの残基が VWF との結合
下の血友病 A 患者におけるインヒビターの特性に
にも関与することが明らかにされており,このこと
ついては,未だ十分に知られていない。さらに,ITI
は C2 ドメインのこの部位に結合する抗体が二重の阻
施行中にインヒビターのドメイン特異性に変化があ
害作用をもつことを説明するものである(11)。ファー
るかについても明らかではない。今回我々は,ITI
ジディスプレイを使用してさまざまなヒトモノクロー
施行下の血友病 A 患者コホートから定期的に採取
ナル抗体を作製した研究では,FVIII の C2 ドメイ
した血漿サンプルを使用し,インヒビターのドメイ
ンにリン脂質膜との相互作用部位とは重複しない第
ン特異性の変化について検討した。また,インヒビ
二のエピトープが存在することが示されている
(12)
。
また,最近の研究では,C2 ドメイン特異的抗体に
ターのドメイン特異性と ITI の結果との間に関連性
があるかについても考察した。
は 2 つのクラスがあることを示すさらなるエビデン
スが示されている(13,14)。C2 ドメインとリン脂質お
材料および方法
よび VWF との結合を阻害する「古典的」C2 ドメ
イン特異的抗体に加え,2 つ目のクラスのいわゆる
患 者
「非古典的」C2 ドメイン特異的抗体は,トロンビン
インヒビター保有重症血友病 A 患者 11 例の血漿
および活性型第 X 因子(FXa)による FVIII の活
サンプルを使用した。 これらの患者は,1985 ∼
(12 ∼ 14)
活性型 FVIII(FVIIIa)と活性型第 IX 因子(FIXa)
2005 年にかけて ITI を施行した患者であり,ITI に
関係する以前の研究で対象となった 20 例の中か
ら選択した患者である(25)。以前の研究の患者 1 ∼
6 は,血漿サンプルを 1 回しか採取できなかったた
の相互作用を妨げる(16,17)。A2 ドメインおよび C2
めに除外した(25)。今回報告する患者は,すべて
ドメインのほか,A3 ドメイン 1778 ∼ 1823 番アミ
Van Creveldkliniek[University Medical Center(ユ
ノ酸残基にも FVIII インヒビターの主要エピトープ
トレヒト)内にある大規模血友病治療センター]で
性化を妨げる
。A2 ドメインの FVIII インヒ
ビター主要エピトープは,484 ∼ 508 番アミノ酸残
基に存在する(15)。このエピトープを認識する抗体は,
(18,19)
。この部位に
治療を受けた症例である。インヒビター発生前およ
結合する抗体は,FVIII 軽鎖と FIXa との相互作用
び ITI 施行中の治療に関する詳細情報は,10 例に
を妨げる。インヒビター保有例の血漿サンプルの分
ついて入手できた。患者の特徴を Table 1 にまとめ
が存在することが示されている
26
血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII 因子インヒビターのドメイン特異性
Table 1. Clinical and laboratory features of patients with severe haemophilia A treated with ITI.
Patient
no.
FVIII gene
mutation
Successful ITI
9
Inversion intron 22
10
–
11
Arg1696 stop
12
Inversion intron 22
13
Trp1942Arg
14
Leu972 stop
Failure
16
Inversion intron 22
17
–
18
Variant inversion intron 1
19
del exon 25
20
Inversion intron 22
FVIII
product
before
inhibitor
formation
FVIII product
during ITI
Age at
first
positive
titre
(months)
Age at
start
ITI
(months)
Highest
titre
before
ITI
(BU mL)1)
Highest
titre
during
ITI
(BU mL)1)
Duration
ITI
(months)
rFVIII
Cryo
Cryo
IP pdFVIII
Cryo
rFVIII
rFVIII
IP pdFVIII
rFVIII
rFVIII
IP pdFVIII
rFVIII
8
62
95
6
21
13
8
218
495
12
123
18
44
94
144
37
83
–
44
34
7.6
753
73
67
rFVIII
Cryo
–
Cryo
IP pdFVIII
Cryo IP
pdFVIII M
pdFVIII
rFVIII
IP pdFVIII M pdFVIII
M pdFVIII
IP pdFVIII M pdFVIII
8
99
–
60
10
325
379
61
137
33
296
170
207
450
900
220
>24
>24
>24
>24
319
325
90
900
>24
M pdFVIII rFVIII
4
5
6
7
9
9
In a previous study we have analysed IgG subclasses of anti-FVIII antibodies of 20 haemophilia A patients during ITI [25]. Plasma samples
of 11 patients were analysed in this study. Patients were divided into two groups. The first group comprised six patients with high-titre
inhibitors (>5 BU mL)1) who responded successfully to therapy. The second group consisted of five patients that failed treatment or only
responded after more that 2 years of treatment.
rFVIII, recombinant FVIII; M pdFVIII, monoclonally purified plasma derived FVIII; IP pdFVIII, plasma derived FVIII of intermediate
purity; cryo, crypreciptiate; ITI, immune tolerance induction.
Patients 11 and 17 received plasma prior to inhibitor development and patient 11 also whole blood. For patient 20, cyclosporine was added
to FVIII treatment 38 weeks after onset of ITI.
た。患者 14 と 18 は,Van Creveldkliniek を受診す
製剤のいずれもが使用されていた。FVIII 製剤投与
る以前にインヒビターが発生した患者である。した
量は,25 IU/kg 週 2 回から 200 IU/kg 1 日 1 回ま
がって,患者 14 については,ITI 開始以前のイン
でさまざまであった。ITI の臨床的成否は,以前報
ヒビター力価ピーク値に関する情報を入手できな
告された基準に従って判定した(24)。分析には ITI
かった。患者 18 については,インヒビター発生以
開始前の血漿サンプル(インヒビター力価が過去の
前に使用した FVIII 製剤に関する情報を入手できな
ピーク値に近いサンプルを選択した)と,可能であ
かった。患者 20 は,インヒビターが検出される以
る限り,ITI 施行下の複数時点で採取した血漿サン
前の FVIII 製剤総投与回数が 1,000 回を超えてい
プルを使用した。一部の患者については,採取でき
た。患者 10 と 17 については,FVIII 遺伝子型を確
たサンプルの数が限られていたため,適切なサンプ
定できなかった。インヒビター発生前に使用されて
ルの選択という点では限界があった。ドメイン特異
いた凝固因子製剤は,次の 4 つのタイプであった
性の分析に使用した中和試験の検出限界が 5 BU/
― rFVIII 製剤,モノクローナル抗体精製血漿由来
mL であったため,インヒビター力価がこの値未満
FVIII(M pdFVIII)製剤,中間純度血漿由来 FVIII(IP
pdFVIII)製剤およびクリオプレシピテート(Cryo)。
患者 11 と 17 はインヒビター発生以前に血漿製剤を
投与しており,患者 11 は全血製剤も投与していた。
患者 20 の ITI では,開始から 38 週後にシクロスポ
リンが追加された。ITI では rFVIII 製剤と pdFVIII
のサンプルを分析へ組み入れることはできなかった。
このため,ITI 施行期間中に採取した一部のサンプ
ルについては,ドメイン特異性を決定できなかった。
これらの検査を行うに当たっては,ヘルシンキ宣言
に基づき全例からインフォームドコンセントを得た。
27
Full Translation: P. M. W. van Helden, et al.
FVIII ドメインの作製と精製
(a)
(b)
遺伝子組換えバキュロウイルスを使用して,High
Five™[Invitrogen 社製(オランダ)] 昆虫細胞で
FVIII 組換え A2 ドメインおよび C2 ドメインおよび
FVIII 軽鎖(A3-C1-C2 ドメイン)を発現させた(18,26)。
感染 2 ∼ 3 日後に上清を回収し,−30℃で保管した。
以前報告された手法に従って,モノクローナル抗体
CLB-CAg 9 および CLB-CAg 117 を使用して A2
ドメイン,C2 ドメイン,FVIII 軽鎖をアフィニティー
精製した(27)。精製したドメインを 10%グリセロール
含有リン酸緩衝生理食塩水で透析し,使用時まで
−30℃で保管した。SDS-PAGE では A2 ドメインと
C2 ドメインは,それぞれ約 40 kDa,17 kDa の単一
バンドを,FVIII 軽鎖は 80 kDa の二重バンドを示し
。ELISA により C2,A2,A3-C1 ドメ
た(Fig. 1a)
インの各エピトープとマウスモノクローナル抗体
(CLB-CAg 117,CLB-CAg 9 お よ び CLB-CAg
12)とを反応させ,精製 FVIII ドメインの応答性を
評価した。以前に検査され,A2,C2 または A3-C1
ドメインに特異的なインヒビターを含有する血漿サ
ンプルを分析し,既に知られた FVIII インヒビター
免疫優性エピトープがこれらの精製 FVIII ドメイン
(12,
に正しく反映されているかを検証した。
(Fig. 1b)
18,28)
。
ベセスダ法
ベセスダ法により採取した血漿サンプルを分析し
(29)
た
。1996 年以降に採取したサンプルについては,
Nijmegen 法を使用した(30)。
Fig. 1. Characterization of purified FVIII fragments. (a) SDS
Polyacrylamide gelelectrophoreses of purified FVIII fragments.
Purified FVIII light chain (LC), A2 and C2 domain (2 lg per lane)
were subjected to electrophoresis on a 12.5% (w/v) SDS-polyacrylamide gel. Proteins were visualized by staining with
coomassie brilliant blue. The apparent molecular weights of the
standards are indicated on the right. (b) Neutralization of
previously characterized inhibitor samples with purified FVIII
fragments. Neutralization of plasma samples containing predominantly anti-A2, anti-C2 or anti-A3-C1 inhibitors [12,18,28].
Data obtained indicate that the purified, recombinant
fragments are capable of neutralizing the binding of inhibitory
antibodies directed towards the A2, A3-C1 and C2 domain to
FVIII.
中和試験
採取したインヒビター含有血漿を Tris-HCl 50 mmol/
これらの濃度でインヒビターの中和がプラトーに達
L(pH 7.3)と 0.2%ヒト血清アルブミン[Sanquin 社
(アムステルダム)
]からなる緩衝液でほぼ 2 BU/mL
まで希釈した。精製 FVIII ドメインを同じ緩衝液で
10 nM または 20 nM になるまで希釈した。希釈し
したことが判明した(Fig. 1b)。次に,Sysmex™
たインヒビター含有血漿を同量の正常プール血漿お
700[Sysmex 社(ドイツ)]を使用した 1 段法により
FVIII 活性を測定した。この定量法では,精製 FVIII
ドメイン最大 50 nM を添加してもヒト正常血漿の凝
固時間に影響はなかった。各分析では,精製 FVIII
よび同量の精製 FVIII ドメインと 37 ℃ 2 時間イン
ドメインを添加しないインヒビター含有血漿をコン
キュベートした。精製 FVIII ドメインの最終濃度は,
トロールとしてインキュベートした。インヒビター
5 nM と 10 nM であった。インヒビターのドメイン特
が 中 和 さ れ た 割 合( 中 和 パ ー セ ン ト )は, 精 製
異性が既に判明している血漿を使用した分析では,
FVIII ドメインの添加による FVIII 活性の増加分を
28
血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII 因子インヒビターのドメイン特異性
FVIII 活性の最大増加分で除した値として算出した。
結 果
後者の値は,インヒビター含有血漿を加えず精製
FVIII ドメインを添加したサンプルを同時にインキュ
重症血友病 A 患者 11 例を対象に,FVIII インヒ
ベートし,インヒビター含有血漿を含むが競合する精
ビターのドメイン特異性について検討した。6 例が
製 FVIII ドメインを含まないサンプルを分析するこ
の残存 FVIII 活性からインヒビター含有血漿を加え
1 年以内に治療反応を示し,残りの 5 例は不成功ま
たは 2 年以上治療を継続した後に反応を示した
(Table 1)。血漿サンプルは,20 年以上にわたって
採取された。Fig. 2 の左側のパネルは,ITI 成功例
とによって得た。FVIII 活性の最大増加分は,インヒ
ビター含有血漿を加えずにインキュベートした場合
た場合の残存 FVIII 活性を差し引いた値とした。サ
における時間経過に伴うインヒビター力価の変化と
ンプル採取時には毎回両精製 FVIII ドメイン濃度(5
治療強度を表わしたものである。ITI 施行期間中の
および 10 nM)について,中和試験を行った。平均
異なる時点(矢印で示した)で採取した血漿サンプ
値を求め,前述のパーセントを算出した。いずれの
ルを使用して,それぞれのサンプルにおける FVIII
濃度においても各精製 FVIII ドメインで報告された
インヒビターのドメイン特異性を,A2,C2,およ
すべての中和の値のバラツキは 10%未満であった。
び A3-C1-C2(軽鎖)ドメインで観察された中和パー
セントとして分析した。C2 ドメインは FVIII 軽鎖
(a)
(b)
Fig. 2. Inhibitor titre and epitope distribution in patients successfully treated with immune tolerance induction (ITI). Inhibitor titre and epitope distribution of patients with predominantly light chain antibodies (panel a) and anti-A2 antibodies (panel b) is shown. In the left panel
changes in inhibitor titre (BU mL–1) are depicted against time in weeks. The grey background indicates FVIII treatment depicted in UFVIII kg–1
week–1 during ITI. More intense treatment is indicated by a darker background colour. The arrows indicate the samples denoted A, B, C and D
that were used for determining the domain specificity as depicted in the right panels. In the right panels the contribution of inhibitors directed
at FVIII A2 (hatched bar), C2 (black bar) and light chain (LC, open bar) domains is depicted as percentage of inhibitor neutralization.
29
Full Translation: P. M. W. van Helden, et al.
(LC)の一部であるため,C2 ドメイン特異的イン
ヒビターの中和パーセントは FVIII 軽鎖特異的イン
(a)
ヒビタ ー の中和パ ー セントの一部として表した
。ITI 成功患者 6
(Fig. 2 右側棒グラフの白色バー)
例中の 3 例(患者 10,11,13)では,FVIII インヒ
ビターは主に FVIII 軽鎖のエピトープに特異的で
インヒビター
あった(Fig. 2a)。患者 10 と 11 では,
は C2 および他の FVIII 軽鎖エピトープに特異的で
あったが,患者 13 では C2 ドメインに特異的なイ
ンヒビターの割合が限定的であった(< 20%)。ま
た,患者 10 と 11 では,異なる時点で採取した血
漿サンプル間で C2 ドメインによる中和パーセント
に 35 % 程 度 の 違 い が み ら れ た( 患 者 10:20 ∼
55 %,患者 11:20 ∼ 60 %)。患者 10,11,13 は
(b)
いずれもプール血漿由来の少量クリオプレシピテー
トの投与後に FVIII インヒビターが発生していた。
患者 12 では FVIII 軽鎖に特異的なインヒビター
の割合が高く,A2 ドメイン特異的インヒビターの
。ITI 開始以前に患者 12
割合は低かった(Fig. 2b)
から採取したサンプルへ A2 ドメインを添加したと
ころ,
インヒビターの 30%の中和を認めた。しかし,
ITI 開始時のサンプルでは,10 %にすぎなかった。
A2 ドメインの中和パーセントは,時間経過に伴う
インヒビター力価の低下とともにさらに減少した一
方で,FVIII 軽鎖特異的インヒビターの中和パーセ
。患者 14 でも時
ントは次第に増加した(Fig. 2b)
間経過に伴う A2 ドメイン特異的インヒビター中和
パーセントのいくぶんの減少がみられ,FVIII 軽鎖
特異的インヒビター中和パーセントの増加を伴って
いた。患者 9 では,FVIII 軽鎖特異的インヒビター
の中和パーセントが時間経過とともに 10 %から
30%へ増加した。患者 9 および 14 の血漿サンプル
の分析では,A2 ドメインと FVIII 軽鎖の添加によっ
てすべてのインヒビターが中和されたわけではない
ことが示された。このデータは,これらの患者では
A2 ドメインおよび FVIII 軽鎖以外のエピトープに
結合するインヒビターがインヒビター力価に有意に
寄与していることを示すものである。
ITI が不成功であった患者 16 ∼ 20 についても,
ITI 施行下におけるインヒビターのエピトープ特異性
。患者 17 の血漿サンプル中の
を分析した(Fig. 3)
30
Fig. 3. Inhibitor titre and epitope distribution in patients who failed
immune tolerance induction (ITI). Inhibitor titre and epitope distribution of patients with predominantly light chain antibodies (panel
a) and predominantly anti-A2 antibodies (panel b) is shown. In the
left panel changes in inhibitor titre (BU mL–1) are depicted against
time in weeks. The grey background indicates FVIII treatment during ITI. More intense treatment is indicated by a darker background
colour depicted in UFVIII kg–1 week–1. The arrows indicate the samples denoted A, B, C and D that were used for determining the epitope specificity as shown in the right panels. In the right panels the
contribution of inhibitors directed at FVIII A2 (hatched bar), C2
(black bar) and light chain (LC, open bar) domains is depicted as
percentage of inhibitor neutralization.
血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII 因子インヒビターのドメイン特異性
インヒビターは,FVIII 軽鎖に特異的であった。C2
ヒビター力価が 7 BU/mL まで低下した。この患者
ドメイン特異的インヒビターの割合は,5 ∼ 45%で
では,ITI 開始前のインヒビター力価が 5.4 BU/mL
あった(Fig. 3a)
。この患者の所見は,ITI が成功
であったが,開始直後に 450 BU/mL まで増加した
し血漿中に FVIII 軽鎖特異的インヒビターを主に含
(Fig. 3a)。 患者 19 では,ITI 施行期間中に FVIII
有していた患者 10 および 11 と類似していた。患者
軽鎖特異的インヒビターが相対的に増加した(Fig.
19 では,ITI 施行期間中に FVIII 軽鎖および C2 ド
メイン特異的インヒビターの割合が増加した(FVIII
軽鎖:10%→ 85%,C2 ドメイン:0%→ 55%)(Fig.
3a)。インヒビターのエピトープ特異性が FVIII 軽
鎖へシフトしていく中で,A2 ドメイン特異的イン
ヒビターは 10 ∼ 30%の割合で存在していた。患者
16 と 18 では ITI 施行期間中,A2 ドメイン特異的
。患者 16
インヒビターの割合が増加した(Fig. 3b)
では,A2 ドメイン特異的インヒビターの割合が
10 %から 55 %へ増加したが,FVIII 軽鎖特異的イ
。患者 18 では ITI 施行期間中,A2
た(10 ∼ 15%)
3a)。A2 ドメイン特異的インヒビター保有患者では,
数例でエピトープ特異性の変化を認めた。ITI が不
成功であった患者 16 と 18 では,A2 ドメイン特異
的インヒビターが相対的に増加した一方で(Fig.
3b),患者 12 では減少した(Fig. 2b)。他の A2 ド
メイン特異的インヒビタ ー 保有例( 患者 9,14,
19,20)は,A2 ドメイン特異的インヒビターの割
合の変化は限定的であった(Fig. 2b および 3a,b)。
本研究のデータは,FVIII 軽鎖特異的インヒビター
保有例では,A2 ドメイン特異的インヒビターが発
現する可能性が低いことを示している。A2 ドメイ
ン特異的インヒビターと FVIII 軽鎖特異的インヒビ
ドメイン特異的インヒビターの割合が 5%から 45%
ターで観察されたこの動力学的違いの機序について
ンヒビターの割合は観察期間を通じて限定的であっ
,FVIII 軽鎖
へ増加した一方で(サンプル B → D)
は不明である。FVIII 軽鎖特異的インヒビターに偏っ
特異的インヒビターの割合は 25%から 15%へ減少
たインヒビターの発生傾向は,FVIII 軽鎖および
した。患者 20 では,FVIII 軽鎖および C2 ドメイン
の患者でも,A2 ドメインおよび FVIII 軽鎖を使用
C2 ドメインに存在するエピトープを優先的に認識
することが示されている既存の自然抗 FVIII クロー
ンの伸展に起因すると考えられる(31)。ITI 施行期間
中を通じて FVIII 軽鎖ドメインによってインヒビ
ターが 90 %以上中和された 4 例では,全例がイン
したインヒビターの中和は,常に完全というわけで
ヒビター発生前にクリオプレシピテートまたは血漿
はなかった。これらの結果は,この患者集団では
製剤を投与していた(Table 1)。我々のデータと一
A2 および A3-C1-C2 ドメイン以外のエピトープに
致して,Prescott らの研究では C2 ドメインおよび
に特異的なインヒビターの割合が減少したが,A2
ドメイン特異的インヒビターの割合は 35 ∼ 50%で
。ITI が不成功であったこれら
経過した(Fig. 3b)
結合するインヒビターもインヒビター力価に関与し
a3-A3-C1 ドメインのエピトープに特異的なインヒ
ていることを示すものである。
ビターは pdFVIII 製剤投与例の 35 %に発生した一
方で,rFVIII 製剤投与例でこのタイプのインヒビ
考 察
ターが発生した患者はいなかった(20)。後者の患者
集団では,A2 ドメインおよび C2 ドメインに特異
本研究で我々は,ITI 施行下の重症血友病 A 患者
11 例を対象に,FVIII インヒビターのドメイン特異
性について検討した。4 例(患者 10,11,13,17)
では ITI 施行期間中を通じてドメイン特異性に変化
はなく,これらの患者では FVIII 軽鎖特異的インヒ
ビターが優位であった。この 4 例中の 3 例(患者
10,11,13)は,ITI 成功例であった(Fig. 2a)。残
りの 1 例(患者 17)は,ITI を 3 年間施行後にイン
的なインヒビターの頻度が高かった(20)。
驚くべきことに,本研究では対象症例のほとんど
で,FVIII 軽鎖および A2 ドメインの添加ではイン
ヒビターを完全に中和することができなかった
(Fig.
2 および 3)。この観察所見は,主なインヒビター
エピトープが FVIII の A2,C2 および A3-C1 ドメ
インに存在するという見解に疑問を投じるものであ
る(3)。これら以外のインヒビター結合部位が FVIII
31
Full Translation: P. M. W. van Helden, et al.
分子の他の領域に存在すると考えるのが最も妥当で
にはサンプルサイズが小さい,ITI 開始前のインヒ
ある。本研究は,このようなタイプのインヒビター
ビター力価,年齢,インヒビター開始から ITI 開始
のエピトープを明らかにすることを目的としたもの
までの経過期間,治療レジメンが不均一であるなど
ではない。a1 領域における FVIII インヒビター結
の限界があるため,特定の FVIII 製剤の使用が ITI
合部位の存在は,個々の患者ベースで報告されてい
の成否に影響を与えるか否かを決定することはでき
。以前の研究では,a1 領域特異的インヒビター
(32)
る
(20)
は 55 例中 1 例のみで検出されている
ない。
。興味深い
現時点では,FVIII インヒビターのエピトープ特
ことに,a1 領域特異的インヒビターは,中国系血
異性と ITI の結果との関連性に関するデータが限ら
友病 A 患者でも報告されている
(33)
。また,この研
究では B ドメイン特異的インヒビターも検出された。
れている。特記すべきこととして,ITI の成功した
A 患者の血漿中にもこの新たなタイプのインヒビ
6 例のうち 3 例で FVIII 軽鎖特異的インヒビターが
存在した一方で,不成功であった 5 例で同様のエピ
トーププロフィールをもっていたのは 1 例にすぎな
かった。ITI が不成功であった患者では,成功者集
団と比較して A2 ドメイン特異的インヒビターの割
ターが存在するかは現時点では不明である。今回の
合が持続または増加する頻度が高かった(不成功患
我々のアプローチでは,A1 ドメイン /A3 ドメイン
者:5 例中 4 例,成功患者:6 例中 2 例)。興味深
特異的インヒビター,あるいは A1 ドメインまたは
いことに,最近報告された 1 編では,ITI 不成功と
B ドメインに特異的なインヒビターの存在を検出す
ることはできない。正確なエピトープの位置は不明
A2 ドメイン特異的インヒビターの存在とが関連する
一方で,ITI 成功例は主に C2 ドメインに限定的に
であるが,本研究の結果は,11 例中 7 例において
特異的なインヒビターをもつ患者集団であった(36)。
A2 ドメインおよび A3-C1-C2 ドメイン以外の部位
この研究そして今回の我々の研究の結果は,A2 ド
を標的とするインヒビターが総インヒビター力価に
メイン特異的インヒビター保有患者の免疫寛容導入
有意に寄与していることを示している。
は,FVIII 軽鎖に限定的に特異的なインヒビターを
血友病 A マウスへのヒト FVIII 投与後の A1 ドメイ
ンおよび A3 ドメイン特異的インヒビターの発生が
最近報告されている(34)。インヒビター保有血友病
本研究では,ITI 施行下において非阻害性抗体の
保有する患者より困難であることを示している。投
動力学やエピトープ特異性に変化が起こるかについ
与量の異なる ITI レジメンを比較する前方視的ラン
ては検討しなかった。血友病 A マウスを使用した
ダム化試験が現在進行中である(37)。この大規模コ
研究では,FVIII 静脈内投与に対する液性免疫応答
ホートの FVIII インヒビタードメイン特異性を評価
において非阻害性抗体が発生することが示されてい
することによって,ITI の結果と FVIII インヒビター
る
(34)
。非阻害性抗体は,免疫複合体中の FVIII を
急速に消失させることによって FVIII 製剤の半減期
ドメイン特異性との間に関連性があるかを明らかに
できるであろう。
を短縮し,結果として FVIII インヒビターの病原性
を高めると考えられる(34)。
結 論
本研究の対象患者の ITI ではさまざまな FVIII 製
剤が使用された。最近の研究では,pdFVIII-VWF
本研究では,分析した患者の約半数で ITI 施行下
複合体製剤を使用することによって,高純度 FVIII
において FVIII インヒビタードメイン特異性の変化
製剤や rFVIII 製剤を使用した場合より良好な ITI
を認めた。また,ITI 成功例は,主に FVIII 軽鎖の
(35)
成功率が得られることが示されている
。本研究
みに特異的なインヒビターをもつ症例であった。
の ITI では pdFVIII 製剤と rFVIII 製剤のいずれも
。本研究では,VWF
が使用されていた(Table 1)
開 示
含有 FVIII 製剤を使用することによって ITI 成功率
著者らは,利害の衝突やバイアスの原因となりうる
が高まるという所見は観察されなかった。本研究
利害関係を何らもち合わせていないことを宣言した。
32
血友病 A 患者の免疫寛容導入療法下における第 VIII 因子インヒビターのドメイン特異性
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