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ISTH Congress HoT news 2007
21 第 回 国際血栓止血学会 XXIst Congress of the International Society on Thrombosis and Haemostasis Congress aemostasis hrombosis news 第21回国際血栓止血学会(21st ISTH)は,スイスのジュネーブにおいて,7月6日(金)から12日 (木)まで7日間開催された。会期中には104カ国より7800名の研究者の参会を得て,出血性疾 患や血栓性疾患の基礎と臨床に関する多数の報告が行われるとともに,活発な意見交換や討 議が繰り広げられた。ISTHは2年ごとに開催され,スイスでは1974年のモントルー以来 2回目 の開催となったが,最近の研究の集大成ともいえる多数の報告は,本領域関連疾患克服へ大い なる道筋を示すといえよう。 血栓止血学の中の止血分野は血友病に代表される凝固因子障害の診断と治療、検査法の 確立を目指す学問領域として確立した分野であり,本領域の研究の進歩が難治性出血性疾患 公立大学法人 奈良県立医科大学 小児科教授 吉岡 章 先生 の克服に貢献してきたという歴史的経緯がある。近年,血友病領域では,さまざまな治療法の 進歩と新たな製剤の開発によって病態の良好な管理が得られつつあるが,一方において先天 性・後天性のインヒビターを保有する患者の出血の管理など,課題も残されているのが実情で ある。今回,世界をリードするエキスパートによる最新の報告をダイジェストとしてまとめた。 Report・1 血友病A患者における第VIII因子-特異的メモリーB細胞の動態 FVIII-specific memory B-cells in patients with hemophilia A S.D. van Haren 先生 (オランダ) 監修: 松下 正 先生 (名古屋大学医学部附属病院 血液内科講師) Report・2 異なる出血症状を有する重症型血友病におけるトロンビン生成の特徴 Thrombin generation in severe hemophiliacs with different clinical phenotype E. Santagostino 先生 (イタリア) 監修: 花房 秀次 先生 (荻窪病院 血液科部長) Report・3 第VIII因子ノックアウトマウスにおいて遺伝子組換え型第VIII因子(rFVIII)の血 中半減 期を延 長させるPEG結合遺伝 子 組 換え型フォンヴィレブランド因子 (PEG-rVWF)の生化学的および機能的特徴 Biochemical and functional characterization of chemically modified recombinant von Willebrand factor (rVWF) as a carrier prolonging survival of rFVIII in hemophilia A knock-out mice P.L. Turecek 先生 (オーストリア) 監修: 白幡 聡 先生 (産業医科大学 小児科教授) Report・4 第VIII因子活性に対する蛍光発生トロンビン生成試験(FTGT)を用いた血友 病Aマウスに対する肝類洞内皮細胞(LSEC)移植の評価 A Fluorogenic Thrombin Generation Test (FTGT) for factor VIII activity demonstrated success of cell therapy with liver sinusoidal endothelial cells (LSEC) in haemophilia A mice S. Raut 先生 (イギリス) 監修: 福武 勝幸 先生 (東京医科大学 臨床検査医学講座主任教授) Report・5 重症血友病A患者における出血の回避―FVIIIトラフと関係があるか? P. Collins 先生 (イギリス) Breakthrough bleeding in severe haemophilia A. Does the FVIII trough level matter? 監修:嶋 緑倫 先生 2007 Geneva (公立大学法人 奈良県立医科大学 小児科准教授) Congress HoT News Report・1 血友病A患者における第VIII因子-特異的メモリーB細胞の動態 FVIII-specific memory B-cells in patients with hemophilia A S. D. van Haren Sanquin Research, Sanquin Blood Supply Foundation (オランダ, アムステルダム) 監修: 松下 正 先生 名古屋大学医学部附属病院 血液内科講師 重 症 血 友 病A患 者 の 約 の上清とともに96-ウェルプレート中で9~10日間培養した。培 25% は, 第 VIII 因 子(FVIII ) 養期間中にメモリー B細胞はさらに分化増殖する一方, IgG を インヒビターの発現によっ 産生し続けた。培養後に, 分泌された抗体を含むウェルの上清 てFVIII 補 充 療 法 が 困 難 と をFVIII を固相化したELISAにてIgG とFVIII- 特異的IgG を定量 なる。FVIIIインヒビターは し, 一方ELISPOT を用いて各ウェルのIgG 抗体分泌細胞(ASC) 末梢B細胞の活性化によっ 数を測定した。 て産生されるIgG抗体で, 主 これらの検討の結果, インヒビター患者5例のいずれもFVIII- にIgG1ま た は IgG4 の サ ブ 特異的メモリー B細胞の存在が認められた。インヒビターの力 グループに属する。しかし, 価が200 BU/mL であったインヒビター患者の1例では, 高濃度 血友病 A 患者における抗原 のFVIII- 特異的IgGが検出され, ELISA と ELISPOT の結果の一 - 特 異 的メモリー B 細 胞 が 致が認められた。 循環血液中にどれくらい存在するのかについてはほとんど知 イン ヒビター 患 者5例 (A1~A5) に 対して, ELISPOTに て も られておらず, 免疫寛容療法 (ITI) 中にメモリー B細胞が持続 FVIII- 特 異 的ASCが 認 められ, そ の 発 現 頻 度 は10∼244/106 する期間についてもほとんど知られていない。そこでオラン CD19+細胞であった(図) 。またFVIII- 特異的ASC数は分泌され ダSanquin Blood Supply FoundationのS.D. van Harenらは たFVIII- 特異的IgG量とある程度相関していた。一方, ITIにより インヒビター陽性血友病 A 患者5例においてFVIII- 特異的メモ インヒビターの消失した血友病 A 患者6例においては, FVIII- 特 リー B細胞のポピュレーションとインヒビター濃度を測定し, 異的IgG並びにFVIII- 特異的ASCのいずれも認められなかった。 メモリー B細胞の動態について検討を行った。インヒビター患 van Harenらはワクチン接種等により誘導される特異的ASC 者と非インヒビター患者の各5例 , および高用量のFVIIIを長期 と同程度の量が認められたと述べ(表), インヒビター患者にお 間投与してインヒビターの力価を低下させるITI施行の患者6例 ける抗体産生およびメモリー B細胞の動態についての検討の意 を比較した。 義を強調した。ITI成功の免疫学的機序についてはこれまでに詳 分 離 され た 末 梢 血 単 核 細 胞 (PBMC)よりCD19+B細 胞を 細が解明されておらず, 一部に抗イディタイプ抗体の関与も指摘 sortingにより取り、放射線照射を加えたCD40リガンドを発現 されているが, 今回の検討により, 少数例ではあるが免疫学的寛 しているEL4.B5胸腺腫細胞上にてマイトジェン刺激ヒトT細胞 容が, メモリー B細胞のレベルで証明されたことの意義は大きい。 図 血友病Aインヒビター患者,非インヒビター患者および ITI治療患者におけるFVIII- 特異的メモリー B細胞の 発現頻度(N=16) 表 他疾患で認められた抗原- 特異的メモリーB細胞の 発現頻度と本試験との比較 30 文献中に認められたメモリーB細胞の発現頻度 参照文献 A2 Tuaillonら, 2006 B型肝炎ワクチン接種 5~830 HB 特異的ASC/ 1×106 CD19+ 細胞 A3 Fondereら, 2004 HIV感染患者 10~190 HIV-1イソ型 ASC/ 1×106 CD19+ 細胞 10 A4 Bernasconiら,2002 破傷風トキソイド 167~2000 TT特異的ASC/ 1×106 IgG ASC 5 A5 Crottyら,2003 天然痘ワクチン接種 10~10000 VV特異的ASC/ 1×106 IgG ASC 本試験 血友病 Aにおける インヒビター 10~244 FVIII特異的ウェル/ 1×106 CD19+ 細胞 25 20 15 0.0 0 インヒビター 非インヒビター 2007 Geneva ITI 0.5 1.0 1.5 抗 FVIII/ウェル ( 吸光度 ) 疾患 特異的メモリーB 細胞の 発現頻度 A1 P<0.05 患者 抗 FVIII 産生ウェル/10 5 CD19+ 細胞 ELISAを用いて計算したFVIII- 特異的メモリーB細胞の発現頻度 Congress HoT News Report・2 異なる出血症状を有する重症型血友病におけるトロンビン生成の特徴 Thrombin generation in severe hemophiliacs with different clinical phenotype E. Santagostino Angelo Bianchi Bonomi Hemophilia and Thrombosis Center, Maggiore Hospital Foundation, University of Milan (イタリア, ミラノ) 第 VIII 因 子(FVIII )ま た IU/kg/年以上), 軽度出血者22例(mild bleeders[MB ]: 出 は第 IX 因子が1% 未満の重 血エピソードが 2回 /年以下, 凝固因子製剤消費量500 IU/kg/ 症 型 血 友 病 患 者でも出 血 年未満)または中等度出血者28例(intermediate bleeders の重度と頻度 , 製剤の必要 [IB ]: 出血エピソードと凝固因子製剤消費量が SB 基準とMB 量および 関 節 症 の 合 併 な 基準の中間)に分類された。 どが, それぞれ異なること 初回出血時の年齢はSB(1歳)に比べ MB(3歳)で有意に が明らかとなっている。既 高く, 発症時年齢中央値はSBが1歳 , MBが 3歳であった(表)。 報では, 血 友 病 A 患者にお 1年間の出血回数はMBに比べ SBが有意に多かった。凝固因 けるFVIII 値と内因性トロン 子製 剤消 費 量もMBに比べ SBで 有 意に多かった。FVIII/IX ヌ ビン生 成 能(ETP )値間に ル突然変異の頻度は, MBに比べ SBとIB患者が有意に高かっ 有 意 な 相 関 が 明らかにさ た。血栓症を発現する突然変異(PTG20210A )はMB の5%, れている一方, 相関は軽症型血友病 Aに比べ重症型で差異は IB の7%, FV LeidenはIB の7%, SB の5% に認められたが有 大きいことが示されている。 意 差はなかった。ETP 値はMB 群の850nMと比 較すると、IB 監修: 花房 秀次 先生 荻窪病院 血液科部長 そこでイタリアのミラノ大学Maggiore Hospital Foundation のE. Santagostinoらは, 重症型血友病A 患者においてそれぞれ 異なる臨床症状を識別できる予測因子や方法を探すために、ト ロンビン生成アッセイ(TGA )などを検討した。 群 は475nM(P<0.05 ), SB 群 は414nM(P<0.05 )で あり、 MB 群が有意に高かった(図)。 これらの検討の結果から、従来の機能分析とは異なり, 重 症型血友病患者においてトロンビン産生能が高いと出血症 本試験ではFVIIIインヒビターを認めない重症型血友病 A 患 状が軽度であると予測できることが示唆された。 者のうち、18歳以上で予防投与を行っていない72例を対象 Santagostinoは,「これらの 検 討で得られたデータからト とした。患 者 は 重 度 出 血 者22例(severe bleeders[SB ]: ロンビン生成における血小板の役割が注目される」と述べ, 出 出血エピソードが 25回 /年以上 , 凝固因子製剤消費量 2000 血の表現型における血小板の役割の重要性について強調した。 図 軽度(MB),中等度(IB)および重度出血者(SB)の PRPにおけるETP 表 患者の特性および遺伝子変異の発現頻度 患者の特性 SB(22) IB(28) MB(22) 38 (21-76) 38 (23-62) 32 (22-73) 1 (0-4) 2 (0-6) 3 (1-10) <0.005* 出血発生回数 /年 36 (25-60) 10 (3-20) 0 (0-2) <0.0005* 凝固因子製剤消費量 (IU/kg/年) 2207 (20408696) 1068 (207-2400) 60 (25-487) <0.0005* ヌル突然変異 (%) 59 70 6 <0.005* PTG20210A(%) 0 7 5 NS FV Leiden(%) 5 7 0 NS 初回出血時年齢 (歳) * P for trend<0.05 2007 Geneva 1500 NS 1000 PRP150 年齢 (歳) P 500 0 軽度出血者 中等度出血者 重度出血者 *P<0.05 P for trend<0.05 Congress HoT News Report・3 第VIII因子ノックアウトマウスにおいて遺伝子組換え型第VIII因子(rFVIII)の 血中半減期を延長させるPEG結合遺伝子組換え型フォンヴィレブランド因子 (PEG-rVWF)の生化学的および機能的特徴 Biochemical and functional characterization of chemically modified recombinant von Willebrand factor (rVWF) as a carrier prolonging survival of rFVIII in hemophilia A knock-out mice P. L. Turecek Research and Development, Baxter BioScience(オーストリア, ウィーン) Baxter BioScience 社 研 20k-SG )の結合により, コラーゲンへのVWF を介した 血小 究 開 発 部 門 のP.L.Turecek 板へ の 結合が, rVWFに比べ わずかに減 少したが,PEG-rVWF らは, 2種類のポリエチレン グリコール(PEG )誘 導 体 (5k-SS, 20k-SG )は, FVIII結合能と親和性を維持した。 次に, 血友病 Aモデルマウス(FVIIIノックアウトマウス:N=5 ) をリジ ン残 基 に 結 合 さ せ に 対 し て,rFVIII 300 IU/kg に 加 え てPEG-rVWF 5k-SSま た た 遺 伝 子 組 換 え 型フォン はrVWF の いず れ かを200 U/kg 併用 投与した。他 のマウス ヴィレブランド因子(PEG- (N=5 )には, rFVIII 200 IU/kgとPEG-rVWF 20k-SGを併用投 rVWF )をin vitro で検 討し 与した。FVIIIおよびrVWFの血中濃度は, 投与5分後と3, 9, 24 た成績を報告した。ついで, および32時間後に測定するとともにVWF多量体を高性能アガ FVIII あるいはFVIII/VWFダ ロースゲル電気泳動法にて解析した。FVIII/VWFダブルノック ブルノックアウトマウスにPEG-rVWFを投与した時の血中rFVIII アウトマウスには, rFVIII 100 IU/kg単独もしくはPEG-rVWF 濃度に及ぼす効果をin vivoで検討した結果を示した。 5k-SSまたは非修飾rVWF 100 U/kgと併用投与した。rVWFお 監修: 白幡 聡 先生 産業医科大学 小児科教授 本 試 験 で 用 い ら れ た 2 種 類 の PEG- rVWF(PEG-rVWF よびFVIIIの血中濃度は投与5分後と3, 9および24時間後に測 5k-SS, PEG-rVWF 20k-SG )をSDS-ポリアクリルアミドゲル 定した。FVIIIノックアウトマウスでは, PEG-rVWF 5k-SS(図1) 電気泳動法(SDS-PAGE )およびアガロースゲル電気泳動法 およびPEG-rVWF 20k-SGのいずれの投与によってもrFVIIIの にて解析し, さらに抗PEGポリクローナル抗体を用いた免疫 血中半減期が延長した。 ブロット法を実施したところ, 分子量が増加した以外に血漿 FVIII/VWFダ ブルノックアウトマウスで は, 単 独 注 入した 由来のVWFとの間に生化学的差量は認められなかった。また rFVIIIは急 速に血中から消失した。rFVIIIとrVWF の 併用投与 -1 860s ズリ応力下で0 ∼2.0IU/mLの非 修飾rVWF, PEG-rVWF により, rFVIIIの血中半減期が延長したが, rFVIIIとPEG-rVWF (5k-SS, 20k-SG )のコラーゲンコートへの血小板の接着に対 5k-SSの併用投与ではさらに著明な効果が生じ, rVWFに比べ する影響と第 VIII因子の結合能に対する影響を比較したが,い 血中rFVIIIの血中半減期の延長効果が認められた(図2 )。 ずれもほとんど影響は認められなかった。rVWF とPEGの結 これらの 結果 からTurecek は,「PEG-rVWF 投与によりFVIII 合は, rVWF 分 子量の増加と修飾されたrVWF への抗PEG ポ ノックアウトマウスにおけるrFVIIIの薬物動態の改善が得られ リクロナール抗体 の 結合とで 示された。PEG-rVWF(5k-SS, た」と結論付けた。 図1 FVIIIノックアウトマウスにおける非修飾のrVWFある いはPEG-rVWF5k-SS を rFVIIIとともに投与した時 のrFVIIIの 血中半減期の推移 図2 F VIII/VWF ダブルノックアウトマウスに rF VIII、 rFVIII+rVWF あるいはrFVIII+PEG-rVWF を投与 した時の血中rFVIIIの推移 100 10 AUC=120* 1 0.1 PEG-rVWF+rFVIII rVWF+rFVIII 0 10 20 注入後の経過時間 *血中濃度曲線下面積 [AUC](0-32):(mLU/mLh)/(IU/kg) 2007 Geneva AUC=80* N=5 30 40 (h) rFVIII( 最高値の %) rFVIII( 最高値の %) 100 PEG-rVWF+rFVIII rVWF+rFVIII 10 rFVIII 1 0.1 AUC= -6* AUC=51* AUC=89* N=5 0 10 20 注入後の経過時間 *血中濃度曲線下面積 [AUC](0-24):(mLU/mLh)/(IU/kg) 30 40 (h) Congress HoT News Report・4 第VIII因子活性に対する蛍光発生トロンビン生成試験(FTGT)を用い た血友病Aマウスに対する肝類洞内皮細胞(LSEC)移植の評価 A Fluorogenic Thrombin Generation Test (FTGT) for factor VIII activity demonstrated success of cell therapy with liver sinusoidal endothelial cells (LSEC) in haemophilia A mice S. Raut Haemostasis Section, Biotherapeutics Group, National Institute for Biological Standards and Control (イギリス, ポッターズバー) イギリスのNational Insti- このFVB/N-tie-2-GFP LSECは, in vitro においてFVIIIの生成が tute for Biological Stand- 判明している。FVB/N-tie-2-GFP LSECを注入・移植したNOD/ ards and Controlの Rautら SCID血友病 Aマウス肝において, GFP蛍光発光およびDil-Ac- は, 血友病 A(FVIII欠乏)マ LDL の観察により, 移植細胞はLSEC総数の約25%を占めてい ウスに対する肝類洞内皮細 た。FVB/N-tie-2-GFP LSECを移植した血友病 Aマウス12匹を 胞(LSEC )移植の治療的効 対象に, RT-PCRを用いFVIII mRNAの有無を分析したところ, マ 果について検 討を行った。 ウス12匹中9匹にRT-PCR からFVIIIの発現が検出され, そのう 血 漿 中 の FVIII 活 性 は, ト ち2匹では正常陽性対照と相当の強度を示す, mRNA バンドが 福武 勝幸 先生 ロンビン生成の測定によっ 検出された。 東京医科大学 臨床検査医学講座 主任教授 て分析が可能である。高感 FVB/N-tie-2-GFP LSECを移植した血友病Aマウスでは, 血漿 度の蛍光発生トロンビン生 のFTGTを実施してFVIII活性レベルを評価した。15匹中13匹に 成試験(FTGT; 検出レベル <0.001 IU/mL )の検量線におい 10%以上にあたるFVIII活性が認められた(図2 )。対照マウス1 ては, 正常な血漿濃度に対し強い用量依存性反応が示された。 例では, FVIII活性はほとんど検出されなかったのに対し, 移植 内因性トロンビン生成能(ETP )値は, 曲線下面積の増加率と マウスではFVIII活性が約25%まで増加していた。 監修: して測定した。FVIII欠乏血漿に関しては, トロンビン生成はほ これらの結果からRautは,「血友病Aマウスに移植したLSEC とんど認められなかった(図1)。本研究では, FTGTの有用性が, は, FVIII欠乏症を改善した。出血症状を改善するには3% の置 LSEC移植の成功を評価することにより確認された。 換で十分であると考えられる」と結論付け, さらにこうした効果 6 FVB/N-tie-2-GFPマウスから得たLSEC(2×10 )を, 肝細胞 のコラゲナーゼ分解法により分離した後, 遠心分離および免疫 はFTGTによって判明したことから「FTGTは高感度であり, 少量 検体でFVIII活性を測定する試験として適している」と述べた。 選択を行い, NOD/SCID 血友病 Aマウスの門脈から注入した。 図1 トロンビン非存在率にて測定した正常血漿濃度に 対するFTGTの用量依存性反応 図2 FVB/N-tie-2-GFP LSECを移植した血友病 Aモデル マウスの第 VIII因子活性 トロンビン生成: Tie-2-GFP LSEC移植後の NOD/SCID血友病AマウスにおけるFVIII活性 正常血漿濃度に対する第 VIII因子FTGT:用量依存性反応 3000 2000 1500 平均血漿中 FVIII 活性 (ヒト正常血漿に対する比率 ) 10% NP 1% NP 0.1% NP 0.01% NP FVIII 欠乏血漿 2500 トロンビン非存在 (RFU) 30 正常血漿 (NP) 1000 500 0 2 7 -500 2007 Geneva 12 17 22 27 32 時間 (分) 37 42 47 52 57 62 25 20 治療的 補正レベル 15 10 5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 正常 LSEC 移植の血友病 Aマウス 対照 マウス Congress HoT News Report・5 重症血友病A患者における出血の回避―FVIIIトラフと関係があるか? Breakthrough bleeding in severe haemophilia A. Does the FVIII trough level matter? P. Collins Haematology, University Hospital of Wales (イギリス, カーディフ) 監修: 嶋 緑倫 先生 公立大学法人 奈良県立医科大学 小児科准教授 イギリスのウェールズ大 ソン分布より負の二項分布に密接に適合することから, 出血率 学病院血液科のP. Collins に関する負の二項分布の多変量回帰分析を行った。いずれの群 ら は , 第 VIII 因 子(FVIII ) も, 年に1回以上出血する確率はFVIII<1 IU/dL の時間数増加に のトラフが 定 期 補 充 療 法 伴い上昇し, 1週間のFVIII<1 IU/dL の時間数と出血率との間 中 の 血 友 病A患 者 の 出 血 に正の相関が認められた。関節内出血, 外傷性出血または非外 の 予 測 因 子となりえる の 傷性出血とも正の相関が認められた。1週間のFVIII <1 IU/dL かを 明らかにするために, の 時間数に従い, 1~6歳群(図-A )と10~65歳群(図-B )の軟 ADAPT(Analysis of Data 部組織出血および関節内出血の予測発生数を計算した。 from ADVATE Prospec- ADVATE 治療中の患者では, FVIIIのトラフと出血率が相関す tive Trials )共同研究グルー ることが示唆された。すなわち1週間のFVIII<1 IU/dLの 時間 プによる試 験 の成 績につ 数が1時間増すごとに出血率は1~6歳群で2.1%, 10~65歳群 で1.3%上昇することが示された。したがって, ADVATEの補充 いて報告した。 FVIIIインヒビター非保有の患者を1~6歳(N=48 )と10~65 頻度を増加することにより出血リスクは減少できると推測され 歳(N=100 )の2群に分けて個別に解析した。ADVATEの定期 た。これらの結果からCollinsは,「FVIIIのトラフと出血率の関 補充療法を行い, 10~65歳群は1週間に25~40 IU/kgを3~4 係は重症血友病 Aの治療レジメンの最適化に重要であり, これ 回, 75 日間投与し, その後は変更可能とした。1~6歳群の投与 には患者ごとのトラフの測定または出血率のより厳密なモニタ レジメンは終始固定せず, 変更可能であった。患者の年間出血 リングが必要である」と述べ, さらに本試験のレジメン遵守率 率の中央値は両群とも3.15回であった。1週間のFVIII <1 IU/ が1~6歳群 85%, 10~65歳群80%であったことから,「治療 dL の時間数の中央値は, 1~6歳群が20時間, 10~65歳群が17 レジメンの完全なコンプライアンス遵守により, 1年に約1回出 時間であった。追跡期間中に出血した患者と出血しなかった患 血を減少させることが可能であり, 患者のQOLは向上する」と 者間で, 年齢や治療期間の中央値に有意差は認められなかっ コンプライアンスの重要性を強調した。 た (表) 。1~6歳群と10~65歳群の出血した患者と出血しなかっ た患者との間で, 1週間のFVIII <1 IU/dLの時間数の中央値を 検討した結果, 10~65歳群の出血しなかった患者で有意に少 図 FVIII<1 IU/dL の時間増加に従った軟部組織出血 および関節内出血の年間発生数の増加 なかった。年間出血率中央値のデータは正規分布またはポア 10 患者の比較:少なくとも1回出血した患者と 出血のなかった患者 年齢 (歳) 治療レジメン 実施期間 (日) FVIII<1 IU/dLの 時間 (1週間あたりの時間数) 無出血 N=37 N=11 3.3 (1.7-5.7) 3.2 (2.0-5.7) NS 出血 無出血 N=84 N=16 17 (11-43) 23 (12-51) 6 5 軟部組織出血 4 3 関節内出血 0 0 24 P 29 12.3 0.11 17.7 8.1 0.04 (2.9-72.9) (4.4-21.6) (2.1-45.0) (1.46-31.1) 48 72 96 120 FVIII<1 IU/dL の時間 ( 時間 /週 ) NS 396 364 NS 387 464 NS (194-685) (165-504) (258-1024) (277-988) 中央値 (10~90パーセンタイル) 7 1 10~65歳 P 非外傷性出血 8 2 10 B. 出血率とFVIII<1 IU/dL の時間との関係 : 10~65歳群 9 非外傷性出血 8 年間予測出血数 1~6歳 出血 年間予測出血数 表 年齢,治療期間および1週間のFVIII <1 IU/dLの時間 数に基づいた出血のある患者とない患者の比較 A. 出血率とFVIII<1 IU/dL の時間との関係 : 1~6 歳群 9 7 関節内出血 6 5 4 軟部組織出血 3 2 1 0 0 24 48 72 FVIII<1 IU/dL の時間 ( 時間 /週 ) 2007 Geneva 96 120