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小児 - KKR札幌医療センター

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小児 - KKR札幌医療センター
278 小児
小 児
Ⅰ.ウイルムス腫瘍
1.放射線療法の目的・意義
ウイルムス腫瘍は,年間約50例が小児がん全国登録に報告されている。この腫瘍は
National Wilms’Tumor Study Group(NWTSG)のランダム化比較試験により,現在
では治癒可能な疾患となった。化学療法の強化とともに,放射線治療線量は減量され,
注意深く配慮した放射線療法を行えば,ほとんど合併症を問題にしなくてすむように
なった。
NWTSの従来の治療方針は外科手術(一期的切除)が主体であったのに対して,
1,
2)
NWTS−5 ではInternational Society of Pediatric Oncology
(SIOP)
の方針を採用し,
巨大なstageⅢ症例に対して生検後の術前化学療法,遅延一期的切除を認めるように
なった3)。
2.病期分類による放射線療法の適応
国際的にはNWTS病期分類が用いられているが,NWTS−5 にのっとって共同研究
表1.ウイルムス腫瘍治療方針(NWTS−5プロトコール)
病期と年齢・予後因子
治療法
24ヵ月以下,腫瘍550g以下 手術 放射線療法なし 化療なし
stageⅠ/
予後良好群 24ヵ月以上,腫瘍550g以上
stageⅠ/未分化型(focal of diffuse)
stageⅡ/予後良好群
手術 放射線療法なし
EE−4A:AMD+VCR(18 weeks)
stageⅢ/予後良好群
stageⅡ〜Ⅲ/未分化型(focal)
stageⅣ/予後良好群
手術 10.8Gy
DD−4A:AMD+VCR+ADR(24 weeks)
stageⅣ/未分化型(focal)
stageⅠ〜Ⅲ/腎臓明細胞肉腫
stageⅡ〜Ⅳ/未分化型(diffuse)
stageⅠ〜Ⅳ/横紋筋肉腫様腫瘍
手術 10.8Gy
I:AMD+VCR+CPM+VP−16(24 weeks)
手術 10.8Gy
RTK:CBDCA+VP−16+CPM(24 weeks)
AMD=actinomycin D(アクチノマイシンD) VCR=vincristine(ビンクリスチン)
ADR=doxorubicin(アドリアマイシン) CPM=cyclophosphamide(シクロホスファミド)
VP−16=etoposide(エトポシド) CBDCA=carboplatin(カルボプラチン)
小児 279
を開始した日本ウイルムス腫瘍スタディグループではNWTS病期分類を用いる。
Favorable Histology(予後良好群)のstageⅢ〜Ⅳ,anaplastic tumor(退形成腫瘍)
のstageⅡ〜Ⅳ,clear cell sarcoma of the kidney(CCSK,腎明細胞肉腫)の全病期,
rhabdoid tumor(横紋筋肉腫様腫瘍)のstageⅢ〜Ⅳに,術後照射10.8Gy/6 回/8 日
が必要である。手術日を術後 0 日とすると,化学療法は術後 5 日から開始し,術後照
射開始も術後 9 日より遅れてはならない3,4)
(表1)。stageⅢとなるような腹腔全体の
腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは,全腹部照射を行う。転移病巣に対する放射
線治療は有効であり,化学療法と併用となる。
3.放射線治療計画
1)標的体積
GTV:手術前(初診時)CTにて認められた原発巣,リンパ節転移巣。
CTV:NWTSでは原発腫瘍,リンパ節転移であるGTVを充分に含み,外側は側腹壁
を照射野に入れることとしている。また腫瘍の頭側,尾側は 1 ㎝のマージンをとるこ
とが必要である。リンパ節転移は,頭側は横隔膜脚部,尾側は腸骨動脈領域まで達す
ることが多い。内側は対側傍大動脈リンパ節領域を含むように,椎体全幅が照射野に
入るように設定する。側弯症予防のためにも,椎体全幅を含めることは重要である。
腹腔全体の腫瘍漏出や腫瘍播種が認められたときは,全腹部照射(横隔膜ドームか
ら閉鎖孔まで。大腿骨頭は遮蔽)とする。
肝転移では,切除不能例には 2 ㎝マージンをとる照射野とする。多発肝転移,瀰漫
性肝転移の場合,全肝とする。
診断時から判明している肺転移では両全肺・肺尖部と肺背部下縁を含み,両肩(上
腕骨頭)を遮蔽すること。
PTV:CTVに呼吸による変動などを考慮し設定する。
a)大動脈造影
b)造影CTスキャン
c)シミュレーション写真
図1.ウイルムス腫瘍 3 歳女児,StageⅢ(C1n1v1M0U0)の術後照射野
280 小児
2)二次元治療計画
術後照射であるので,術者の見解が重要である。小児では腹部照射では脊椎への影
響を考慮し,椎体全幅を照射野に入れる前後二門照射が基本である(図1)
。
4.放射線治療
1)照射法
X 線 は 6 MV以 上 を 用
いることが望ましい。前
後対向二門照射が多く用
いられる。肺転移症例の
全肺照射を行うときに,
腹部照射の適応があれば
同時に照射するが,骨髄
抑制が起これば肺照射を
先に行う。患児の固定に
図2.照射時固定法の 1 例
頭部シェルと真空バッグによる体幹部固定
はテープによる固定と真
空バッグなどによる固定法がある(図2)。
2)線量分割
総線量10.8Gyとし,1 日線量1.8Gyで週 5 日間照射を原則とする。照射野が全腹腔
照射などと大きくなるときは,1 日線量1.5Gyとし,総線量10.5Gyとする。しかし残
存腫瘍が大きく局所再発をきたす可能性の高いときには,追加照射10.8Gyを考慮する。
残存腎は鉛ブロックで遮蔽するか1/3以上は14.4Gy/8 回/10日を越えないようにし,
肝臓の1/2以上は19.8Gy/11回/2 〜 3 週を越えないようにする。
肝 転 移では,切 除 不 能 例 には局 所 照 射とし,全 肝 が 侵されてい れ ば 全 肝 照 射
19.8Gy/ 11回/2 〜 3 週とする。照射野を縮小して5.4〜10.8Gy/11回/2 〜 3 週追
加照射することもある。
肺転移では原則的に両全肺12Gy/8 回/2 週照射を行う。照射終了後 2 週間たって
も残存する場合は切除するか7.5Gy/5 回追加照射を考慮する。18ヵ月以下の乳幼児
に対しては化学療法を用い,放射線治療は控える。但し,胸部単純写真で肺転移が認
められず,CTでのみ認められたもの(“CT only”metastases)に対しては,全肺照射
の適応ではない5,6)。
脳転移では全脳に30.6Gy/17回/3 〜 4 週照射し,骨転移局所にも30.6Gy/17回/
3 〜 4 週照射する。
3)併用療法
放射線治療開始時には,
NWTSプロトコールに準じた化学療法が同時併用されている。
小児 281
5.標準的な治療成績
NWTS−Ⅳ(stageⅡ〜Ⅳ)では,pulse−intensive(single−dose)regimen(パルス強化
療法)による 2 年無病生存率は89.4%であり,standard(divided−dose)regimen(標準
療法)による90.5%と変わりがなく良い成績であった7)。日本小児外科学会悪性腫瘍委
員会の1986〜1990年登録症例の予後追跡調査では,全例の 5 年生存率は84.7%,病
期Ⅰ・Ⅱでは91.9%,病期Ⅲ80%,病期Ⅴ66.7%,病期Ⅳ18.1%であった8)。
6.合併症
現在のNWTSに従って放射線治療を行えば,放射線照射による重篤な副作用は避け
得る。しかし前述の配慮を怠ると側弯症や腎・肝・肺の有害反応を生じる。ウイルム
ス腫瘍の治療15年後には1.6%の二次がん発生の累積危険率があり,NWTSの治療全
体では期待値に対して8.4倍(標準化発生率比率)の二次がんの発生が認められた。初
期治療としての放射線治療は15Gy以下であれば期待値に対して5.5倍の二次がんの発
生であった9)。
7.参考文献
1)Tournade MF, Com-Nougue C, de Kraker J, et al. Optimal duration of
preoperative therapy in unilateral and nonmetastatic Wilms’
tumor in children older
than 6 months : results of the Ninth International Society of Pediatric Oncology
Wilms’Tumor Trial and Study. J Clin Oncol 19 : 488-500, 2001.
2)Boccon-Gibod L, Rey A, Sandstedt B, et al. Complete necrosis induced by
preoperative chemotherapy in Wilms tumor as an indicator of low risk : report of
the international society of paediatric oncology (SIOP) nephroblastoma trial and
study 9. Med Pediatr Oncol 34 : 183 -190, 2000.
3)INT-0150 / POG 9440 / CCG 4941 : National Wilms’Tumor Study - 5 :
Therapeutic Trial and Biology Study.
4)D’Angio GJ, Tefft M, Breslow N, et al. Radiation therapy of Wilms’tumor :
results according to dose, field, post-operative timing and histology. Int J Radiation
Oncology Biol Phys 4 : 769 -780, 1978.
5)Green DM, Fernbach DJ, Norkool P, et al. The treatment of Wilms’
tumor patients
with pulmonary metastases detected only with computed tomography: a report from
the National Wilms’Tumor Study. J Clin Oncol 9 : 1776-1781, 1991.
6)Meisel JA, Guthrie KA, Breslow NE, et al. Significance and management of
computed tomography detected pulmonary nodules : a report from the National
Wilms Tumor Study Group. Int J Radiat Oncol Biol Phys 44 : 579-585, 1999.
7)Green DM, Breslow NE, Beckwith JB, et al. Comparison between single-dose and
282 小児
divided-dose administration of dactinomycin and doxorubicin for patients with
Wilms’tumor : a report from the National Wilms’Tumor Study Group. J Clin Oncol
16 : 237 - 245, 1998.
8)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会:小児悪性固形腫瘍 5 腫瘍の予後調査結果の報
告−1986〜90年登録症例について−. 日小外会誌 35 : 716-738, 1999.
9)Breslow NE, Takashima JR, Whitton JA, et al. Second malignant neoplasms
following treatment for Wilm’
s tumor : a report from the National Wilms’
Tumor
Study Group. J Clin Oncol 13 : 1851 -1859, 1995.
(国立成育医療センター放射線治療科 正木英一)
小児 283
Ⅱ.神経芽腫
1.放射線療法の目的・意義
神経芽腫は小児固形腫瘍の中で最も発生頻度の高い腫瘍で年間150~200例発生
するとされてきたが, 6 ヵ月乳児検診時の尿中カテコールアミン代謝産物である
vanillylmandelic acid(VMA:バニリルマンデル酸),homovanillic acid(HVA:ホ
モバニリン酸)定量によるマススクリーニングにてその発生頻度も高まってきた。
早期診断がマススクリーニングにて可能となり, 1 歳以下のマススクリーニング症
例では殆ど治癒するようになったが,進行症例の治療成績は相変わらず悪い。化学
療法の強化と遅延一期的切除あるいは二期手術により腫瘍全摘術が行われるように
なったが,術後照射あるいは術中照射により初めて局所コントロールが確実なもの
となる1〜3)。
2.病期分類による放射線療法の適応
日本での病期分類は日本小児外科学会悪性腫瘍委員会分類が用いられているが,国
際的にはInternational Neuroblastoma Staging System(INSS)が認知されている(表1)
。
間質増生量,神経芽細胞の成熟度および神経芽細胞の核分裂−核崩壊指数の組織学
的パラメーターと患者の年齢に基づいて,予後良好か予後不良かを明らかにしている
臨床病理学的な嶋田分類が用いられている4)。腫瘍細胞の染色体数が 2 倍体,MYC−
N遺伝子の増幅,trkA遺伝子の低発現,血清NSE(neuron specific enolase)の高値が
予後不良因子として知られている。これらの予後因子をもとに低リスク群,中間リス
表1.神経芽腫国際分類(INSS)
完全巨視的切除された限局した腫瘍,顕微鏡的腫瘍残存は問わない;同側リ
Stage 1 ンパ節に顕微鏡的転移を認めない(原発巣に所属し摘出されたリンパ節は転
移を認めても良い)。
Stage
2A
不完全巨視的切除された限局した腫瘍;同側の癒着していないリンパ節に顕
微鏡的転移を認めない。
Stage
2B
完全または不完全巨視的切除された限局した腫瘍,同側の癒着していないリ
ンパ節に転移あり。腫大している対側のリンパ節は顕微鏡的転移があっては
ならない。
摘出不能な正中線を超える一側性の腫瘍,局所リンパ節転移はありまたはな
Stage 3 し;または対側の局所リンパ節転移がある片側性腫瘍;または(摘出不能な)
浸潤あるいはリンパ節転移によって両側に進展する正中部腫瘍。
Stage 4
遠隔リンパ節,骨,骨髄,肝,皮膚または/あるいは他臓器転移(4Sと確定
されたものは除外する)を有する腫瘍で原発部位は問わない。
Stage
4S
原発は(stage 1,2Aあるいは2Bと確定された)限局性腫瘍,転移は皮膚,肝
または/あるいは骨髄に限局している( 1 歳以下の乳児に限る)。
284 小児
ク群,高リスク群に分類された治療法が開発されようとしている。
INSS stage 1と,stage 2でリンパ節転移がなく全摘されたものには術後放射線療法
は必要ない。また,これらの早期症例やstage 4Sなどの低リスク群に関しては,補助
療法を控える方が治療成績が良い5)。しかし,予後不良因子であるMYC−N遺伝子の
増幅が認められる血行転移のあるstage 4の高リスク群には術後放射線療法が必要で
ある。近年,進行病期であっても予後不良因子のない中間リスク群には,局所療法と
しての手術・放射線治療の軽減化が考えられ始めている。
予後不良因子を持つ進行神経芽腫高リスク群の本邦での標準的な治療法は,初診時
に生検(開腹生検を含む)を施行し,組織診を行う。これにより嶋田病理組織分類 4),
MYC−N遺伝子などの予後因子が調べられる。シスプラチンを含む強力な化学療法を
行うことにより腫瘍の縮小を図る。導入化学療法 3 ~ 4 回にて全摘可能となることが
多く,原発巣の遅延一期的切除あるいは二期手術がリンパ節郭清術とともに行われる。
術中照射あるいは術後照射を局所療法として採用することにより局所制御率が高まっ
ている。最終治療として,幹細胞移植を前提とした骨髄破壊的化学療法を行うことに
より,骨転移部も術前・術後化学療法に併せての20Gy照射にて制御可能となり,治
療成績が悲惨であった進行神経芽腫でも治癒を得るようになった6,7)。
3.放射線治療計画
1)標的体積
GTV:手術前(初診時)CTにて認められた原発巣,リンパ節転移巣。骨髄破壊的化学
療法においては導入化学療法後の縮小した原発巣と初診時より認められている
リンパ節転移領域。
CTV:GTVにマージンをとってCTVとする。このマージンは,化学療法後の遅延一
期的切除あるいは二期手術が主流である現在,術者による腫瘍浸潤範囲の情報
に基づく必要がある。リンパ節転移には注意が必要である。腹腔内原発の時,
横隔膜脚を越えて連続的に後縦隔リンパ節転移を来すことが多く,腹部大動脈
分岐部以下の総腸骨動脈周囲リンパ節転移も起こる。初診時所見,手術所見を
参考に,リンパ節転移領域が全て照射野に含まれるようにする。
PTV:CTVに呼吸移動(インターナルマージン)や固定精度などを考慮して設定する。
2)二次元治療計画
術後照射あるいは術中照射では術者の見解が重要である。小児では脊椎への影響を
考慮し,椎体全幅を照射野に入れる前後二門照射が適応となる。
4.放射線治療
1)照射法
術後照射においては,照射野はリンパ節転移範囲とともに局所再発を来す危険性の
小児 285
ある腫瘍床を充分に含み,側弯症予防のため脊椎の全幅を十分に含む。
2)線量分割
1 日線量1.8~2Gyで週 5 日間照射を原則とする。術後放射線治療として 1 歳以下
は 極 力 放 射 線 治 療 を 避 け た い が,20Gy/ 2 ~ 3 週 間 は 必 要 と な る。 2 歳 ま で は
24Gy/ 3 週間, 2 歳以上は30Gy/ 3 ~ 4 週間の外照射が必要となる1)。骨髄破壊的
化学療法と幹細胞移植においては年齢にかかわらず 20Gy/ 2 ~ 3 週間(肉眼的残存
腫瘍には10Gyブースト照射)となる7)。化学療法を術直後から実施でき,腫瘍巣にの
み照射することが可能な術中照射を年長児で適応とすることがあり,電子線エネルギ
ー6MeV10~12Gyにて顕微鏡的残存腫瘍は制御されている2,3)。
新生児期に腹部膨満で見つかるstage 4Sは予後良好ではあるが,肝転移が巨大で肝
破裂あるいは呼吸不全で致命的になることが知られている。この肝転移に対し,緊急
放射線治療が適応となる。 1 日 1 回 1 Gyを照射し,総線量 5 Gyで肝は縮小し,緊急
事態を脱することがある。stage 4S肝転移は 6 ヵ月後には自然消退するといわれてい
るので,全ての肝転移が照射野内に入る必要はなく,一時的な救命処置で良い。
3)併用療法
放射線治療の適応となる進行神経芽腫には,化学療法が必ず併用されている。術前
化学療法が行われ,遅延一期的切除あるいは二期手術にて腫瘍全摘が行われ,更に術
直後からの化学療法も重要とされている。そこで,術後照射を施行する際には化学療
法の軽減を考慮すると腫瘍コントロールが難しいと考えられているので,骨髄抑制の
コントロールに注意が必要となる。また,高リスク群では化学療法の強化が必要で,
幹細胞移植を前提とした骨髄破壊的化学療法を最終治療手段とする。
5.標準的な治療成績
日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の1986~1990年登録症例の予後追跡調査では,
累積 5 年生存率 74.7%で,マススクリーニング症例 97.4%,マススクリーニング症例
以外60.9%である8)。
6.合併症
骨の発育障害は年齢が低いほど強く現れる。年齢による線量と障害の関係は, 1 歳
以下ではNSD800ret以下(分割線量16Gy/ 8 回に相当), 1 歳から 2 歳までは900ret
以下(20Gy/10回に相当), 2 歳以上では1000ret以下(24Gy/12回に相当)で軽度の
障害が認められるのみとされている9)。また,骨発育障害は6~10Gyで現れ20Gyで明
らかとなり,40Gyで障害が飽和状態になる10,11)。このため,照射野設定の際,なる
べく骨端線を含まないようにする。
女性において,卵母細胞の多い小児は成人に比べて不妊線量は高いが,永久不妊線
量でホルモン産生能も消失するので,手術にて卵巣位置を照射野外に移動させること
を考慮する。
286 小児
7.参考文献
1)Castleberry RP, Kun LE, Shuster JJ, et al. Radiotherapy improves the outlool for
patients older than 1 year with Pediatric Oncology Group Stage C Neuroblastoma.
J Clin Oncol 9 : 789-795, 1991.
2)正木英一. 特集 神経芽腫治療の進歩と問題点-症例から学んだ教訓を中心とし
て- 進行神経芽腫における術中照射療法.小児外科 27 : 557-563, 1995.
3)Haas-Kogan DA, Fisch BM, Wara WM, et al. Intraoperative radiation therapy for
high-risk pediatric neuroblastoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 47 : 985-992,
2000.
4)Shimada H, Ambros IM, Dehner LP, et al. The International Neuroblastoma
Pathology Classification(the Shimada system)
. Cancer 86 : 364-372, 1999.
5)Evans AE, Silber JH, Shpilsky A, et al. Successful management of low-stage
neuroblastoma without adjuvant therapies : a comparison of two decades, 1972
through 1981 and 1982 through 1992, in a single institution. J Clin Oncol 14 :
2504-2510, 1996.
6) Matthay KK, Villablanca JG, Seeger RC, et al. Treatment of high-risk
neuroblastoma with intensive chemotherapy, radiotherapy, autologous bone marrow
transplantation, and 13-cis-retinoic acid. Children's Cancer Group. N Engl J Med
341 : 1165-1173, 1999.
7)Bradfield SM, Douglas JG, Hawkins DS, et al. Fractionated low-dose radiotherapy
after myeloablative stem cell transplantation for local control in patients with highrisk neuroblastoma. Cancer 100 : 1268-1275, 2004.
8)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会. 小児悪性固形腫瘍 5 腫瘍の予後調査結果の報告
-1986~90年登録症例について-. 日小外会誌 35 : 716-738, 1999.
9)Tefft M. Radiation effect on growing bone and cartilage. Front Radiat Ther Oncl 6
(Radiation effect and tolerance, normal tissue): 289-311, 1972.
10)Mayfield JK. Postradiation spinal deformity. Orthopedic Clin N Am 10 : 829-844,
1979.
11)Gonzalez DG, Breur K. Clinical data from irradiated growing long bones in
children. Int J Radiation Oncol Biol Phys 9 : 841-846, 1983.
(国立成育医療センター放射線治療科 正木英一)
小児 287
Ⅲ.横紋筋肉腫
1.放射線療法の目的・意義
横紋筋肉腫は局所的に浸潤し,筋膜に沿って進展する腫瘍であり,手術のみでは局
所再発を来し易い。そして,早期に遠隔転移を起こすので化学療法を含んだ強力な集
学的治療が必要である。Intergroup Rhabdomyosarcoma Study(IRS)により手術後の
化学療法と放射線療法の有効性が示された1)。
現在の標準治療であるVAC療法(ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホス
ファミド)にて完全寛解に入りやすい腫瘍であることから,ヨーロッパの治療研究は
局所療法(手術または照射)を避ける方法をとっている。彼らは化学療法にての完全
寛解症例には局所治療を省くこととしているが,生存率は局所療法を取り入れている
IRSと変わりはないが,局所再発率が高くなっており2,3),現状では局所療法が必要
と思われる。組織分類では胎児型(embryonal type),組織型では胎児型に属するぶど
う状肉腫型(botryoid type)は予後良好であり,胞巣型(alveolar type)は予後不良であ
る。
2.病期分類による放射線療法の適応
1)原発巣への放射線療法
放射線治療に用いる病期分類は従来IRS Group分類(表1)が用いられてきたが,最
近術前診断によるTNM病期分類と術後診断によるGroup分類を併せて用いるようにな
り,両者を併せたリスク分類が行われるようになった。
臓器温存の可能性が最も高いclinical groupⅠには局所療法としての放射線治療を不
要としてきたが,clinical groupⅠでも胞巣型からの局所再発が多いことが明らかにな
り,
この症例には放射線治療が適応となった4,5)。術後顕微鏡的残存(clinical groupⅡ)
には術後照射が必要である6)。
肉眼的残存腫瘍(clinical groupⅢ)であれば術後照射50.4Gyという大線量が必要と
されたIRS−Ⅳから,なるべく放射線線量を減量しようとする試みがIRS−Ⅴにより試
みられることとなった。化学療法により腫瘍縮小をはかり,適切な時期の二期的手術
により腫瘍全摘ができれば,術後照射線量を低減化することが可能となる。このこと
により,局所療法が臓器機能温存を計れる有効な手段となる(表2)。
2)転移に対する放射線療法
思春期(10歳以上)の傍精巣原発において後腹膜リンパ節転移が再発をもたらすこと
が判明した。clinical groupⅠ傍精巣横紋筋肉腫の思春期症例全てに後腹膜リンパ節の
外科的サンプリングが必要となり5),リンパ節転移陽性であれば放射線治療が必要と
される。傍髄膜領域で髄膜浸潤が認められたものに対してのみ全頭蓋照射24〜30Gy/
3 〜 4 週が必要とされている7)。
288 小児
表1.横紋筋肉腫Group分類(IRS clinical grouping classification)
*初回手術後(化学療法、放射線療法未施行)の病期分類
*初回の術中所見および病理所見により分類され,
以後の二期手術の結果には影響されない。
Cinical
Group
Ⅰ
組織学的に全摘除された限局性腫瘍
a.原発臓器または筋に限局
b.原発臓器または筋を越えて(筋膜を越えて)周囲に浸潤
ただし,いずれの場合も領域リンパ節に転移は認めない(頭頸部を除いてサン
プリングまたは郭清により組織学的確認を必要とする)
Ⅱ
肉眼的に全摘除された領域内進展腫瘍
a.切除断端に顕微鏡的腫瘍遺残あり,ただし領域リンパ節に転移を認めない
b.
領域リンパ節に転移を認めるが完全摘除を行った。即ち,最も遠位の
郭清リンパ節に転移を認めない
c.領域リンパ節に転移を認め,しかも,切除断端に顕微鏡的腫瘍遺残を認める
が,最も遠位の郭清リンパ節に転移を認める
Ⅲ
肉眼的な腫瘍遺残
a.生検のみ施行
b.亜全摘除または50%以上の部分摘除を施行
Ⅳ
a.遠隔転移(肺,肝,骨,骨髄,脳,遠隔筋組織,遠隔リンパ節など)を認める
b.脳脊髄液,胸水,腹水中に腫瘍細胞が存在
c.胸膜播種,腹膜(大網)播種をともなう
注)Group分類は化学療法,放射線療法を施行していない初回手術後の病期分類であり,初
回手術の術中所見及び病理所見により分類される。したがって,以後の二期手術の結果に
は影響されない。治療前再切除は,初回手術との間に化学療法,放射線療法を施行しな
い場合を指すが,その場合のGroup分類については,初回手術の場合と同様に取り扱う。
表2.Clinical Group別放射線治療線量概要
clinical group 組織型・部位 線量
(Gy)
groupⅠ
groupⅡ
groupⅢ
胎児型
照射不要
胞巣型
41.4
全
41.4
眼窩・眼瞼
45
その他
50.4
clinical group 二期的手術後の評価 線量
(Gy)
groupⅡ,Ⅲ
完全切除
0 〜41.4
顕微鏡的残存
41.4
肉眼的残存
50.4
*この二期的手術後の評価による放射線治療線量はIRS−Ⅴ放射線ガイドラインの考え方が
入っているため,これを参考になさる方はご自身あるいは施設の治療方針として患者家
族にご説明願います。
3.放射線治療計画
1)標的体積
GTV:切除術前に,理学的所見やCT・MRI所見 により定められる肉眼的または触知
小児 289
しうる病変により決定される。この領域には切除しなかったが腫大していた領域リン
パ節も含まれる。
CTV:潜在的腫瘍が存在する可能性のある部位がない場合には,CTVはGTV+1.5㎝
で,患者の体外にまでは延長しない。この領域には病理学的に転移の認められたリン
パ節だけでなく,摘出されたすべての腫大したリンパ節領域が含まれる。腹腔内原発
で腹膜播種の危険性が認められる場合,CTVは全腹部となる。
PTV:PTVはCTVにインターナルマージンおよびセットアップマージンを加えたもの。
正常組織耐容線量などを考慮し,総線量50.4Gyの患者ではPTVの途中縮小を行う。
その場合,腫瘍線量が36Gy
(リンパ節転移陰性例)
または41.6Gy
(リンパ節転移陽性例)
となった後にPTVをGTV+ 5 ㎜に縮小する。正常組織を弯入させるような突出した
腫瘍,例えば肺,消化管,膀胱が正常な解剖学的位置に戻るような突出した腫瘍の場
合にはPTVがGTVより小さくなることがある。傍髄膜原発の腫瘍で頭蓋底に沿って
硬膜を上方に圧排している場合は,PTV縮小は突出した辺縁側を最初のGTVより小
さくしたPTVになることが許される。
2)二次元治療計画
小児では骨格系への配慮が必要で,前後対向二門照射,左右対向二門照射が適応と
なることが多い。
3)三次元治療計画
傍髄膜原発頭頸部腫瘍などではCTシミュレーションにてPTVへの線量を減らすこ
となく脳・脊髄線量を下げることが可能となる。しかし,顔面骨への線量集中を考え
ると,顔面変形を残さないようにある程度健側への線量付加も考慮すべきである。
4.放射線治療
1)照射法
小児には 6 MV X 線が多く用いられ,骨格系の変形を避けるため均等に線量付加を
行う事が多く,前後対向二門照射,左右対向二門照射が適応となることが多い(図1)。
術後照射50.4Gyが必要な残存腫瘍が大きい場合,照射野内に含まれる正常組織およ
び臓器の耐容線量を考慮し,36Gyあるいは41Gyから,腫瘍の縮小に併せて照射野を
縮小するshrinking field法により正常組織の障害を最小限にすることが可能である。
また,頭頸部,膀胱,前立腺,腟,四肢などへの放射線治療においては組織内照射療
法を考慮することにより,正常組織の障害を避けることが可能となることがある。
照射時期として,二期的手術を考慮していなければ,臓器温存を図るにはなるべく
早い時期,できれば術後化学療法施行 3 週目から放射線治療を開始する方が良い8,9)。
傍髄膜領域あるいは髄膜進展が認められたものに対しては,診断がつき次第放射線治
療を始めなければならない7)。いわゆるゴールデンタイム(72時間以内の脊髄機能障
害であれば回復の望みが高い)を超えなければ,緊急放射線治療にて不可逆的変化を
290 小児
図1.横紋筋肉腫 6 歳女児 groupⅢの術後照射野
左:初診時造影CT。
右:シミュレーション写真。右大腿骨頭をブロックし,左卵巣(矢印は金属マーカー)も
照射野に入らない様に移動してある。
来さずにすむ。傍髄膜領域である副鼻腔
原発腫瘍が頭蓋内進展し,視神経圧迫を
表3.正常組織耐容線量
(IRS−Vプロトコールによる)
起こし視力障害を来した症例に対し,緊
急照射にて視機能温存が可能である。こ
のような症例に対し,化学療法の効果を
待つ時間的な余裕がないことは容易に理
解されるであろう。
2)線量分割
顕微鏡的残存腫瘍においては41.4Gy/
Organ
Age
Dose Limit
(conventional)
Bilateral Kidneys
14.4Gy
Whole Liver
23.4Gy
Bilateral Lungs
14.4Gy
Whole Brain
> 3 yrs
30.6Gy
< 3 yrs
23.4Gy
Optic Nerve and Chiasm
46.8Gy
Spinal Cord
45.0Gy
GI Tract(partial)
45.0Gy
線量を1.5Gyと低くする6)。正常組織耐
Whole Abdomen 〜
Pelvis
30.0Gy at
1.5Gy/fraction
容線量を越えないように注意する
(表3)。
Whole Heart
30.6Gy
3)併用療法
Lens
14.4Gy
照射中にはアクチノマイシンD,アド
Lacrimal gland/cornea
41.4Gy
23回/5 週を照射する。肉眼的残存腫瘍
において総計50.4Gy/28回/6 週照射が
標準であるが,照射野が大きい時は 1 回
リアマイシンなど放射線増感効果の強い
化学療法は併用しない。一期的切除を無
注:この耐容線量は化学療法と併用した場合
に毒性が増強することを考慮していない。
理に行うのではなく,化学療法後の二期
的手術にて臓器温存を図りながら腫瘍全摘を行うことの重要性が認識されてきた。従
来のIRS術後照射の大線量を避けるために,二期的手術による腫瘍全摘であれば照射
線量を下げることができるのではないかという研究が現在行われている9)。
小児 291
5.標準的な治療成績
表 4.IRS −Ⅲの治療成績 7)
Clinical 無病生存率
Group
( 3 年)
部 位
無病生存率
( 3 年)
リスク群
Ⅰ
84%
頭頸部
71%
低
Ⅱ
78%
眼窩
80%
中間
Ⅲ
69%
傍脊髄
70%
高
Ⅳ
31%
四肢
66%
泌尿生殖器
(膀胱・前立腺以外)
85%
膀胱・前立腺
76%
無病生存率
3 年
5 年
88%
76% 55%
30%
IRS−Ⅲの治療成績7)を表4に示す。日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の1986〜1990
年登録症例の予後追跡調査では 2 年生存率59.2%,5 年生存率43.1%で,前期間(1981
〜1985年)59.7%,46.7%から改善が認められていない10)。
6.合併症
横紋筋肉腫の局所治療として放射線治療を施行する限りにおいて,小児正常組織へ
の影響は免れないものであり,常に合併症を念頭におかねばならない。IRS−Ⅱ,Ⅲ
での頭頸部腫瘍(眼窩を除く)では77%に晩期有害事象が発生していた11)。
7.参考文献
1)Tefft M, Wharam M, Ruymann F, et al. Radiotherapy (RT) for Rhabdomyosarcoma
(RMS) in Children : A Report from The Intergroup Rhabdomyosarcoma Study #2
(IRS-2). Proc Am Soc Clin Onc 4 : 234, 1985.
2)Benk V, Rodary C, Donaldson SS, et al. Parameningeal rhabdomyosarcoma : results
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3)Oberlin O, Rey A, Anderson J, et al. Treatment of orbital rhabdomyosarcoma :
survival and late effects of treatment-results of an international workshop. J Clin
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chemotherapy after complete resection in rhabdomyosarcoma : a report from the
Intergroup Rhabdomyosarcoma studies I to III. J Clin Oncol 17 : 3468-3475, 1999.
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292 小児
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select group III patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys 31 : 485-491, 1995.
7)Crist W, Gehan AE, Ragab AH, et al. The Third Intergroup Rhabdomyosarcoma
Study. J Clin Oncol 13 : 610 -630, 1995.
8)Lobe TE, Wiener E, Andrassy RJ, et al. The argument for conservative, delayed
surgery in the management of prostatic rhabdomyosarcoma. J Pediatr Surg 31 :
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9)Raney RB, Anderson JR, Barr FG, et al. Rhabdomyosarcoma and undifferentiated
sarcoma in the first two decades of life : a selective review of intergroup
rhabdomyosarcoma study group experience and rationale for Intergroup
Rhabdomyosarcoma Study V. J Pediatr Hematol Oncol 23 : 215-220, 2001.
10)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会. 小児悪性固形腫瘍 5 腫瘍の予後調査結果の報
告−1986〜90年登録症例について−. 日小外会誌 35 : 716-738, 1999.
11)Raney RB, Asmar L, Vassilopoulou-Sellin R, et al. Late complications of therapy
in 213 children with localized, nonorbital soft-tissue sarcoma of the head and neck :
A descriptive report from the Intergroup Rhabdomyosarcoma Studies (IRS)-II and
- III. IRS Group of the Children's Cancer Group and the Pediatric Oncology
Group. Med Pediatr Oncol 33 : 362 -3 71, 1999.
(国立成育医療センター放射線治療科 正木英一)
小児 293
Ⅳ.白血病
1.放射線療法の目的・意義
小児白血病における放射線治療の役割は,近年強力な化学療法が導入されたため,
中枢神経予防照射,骨髄移植の前処置としての全身照射(TBI),髄外再発に対する放
射線治療などに限定されてきた
1)急性リンパ性白血病
急性リンパ性白血病(ALL)の化学療法による初期の臨床試験では,中枢神経白血
病の発現が多く,その中枢神経再発後の予後はきわめて不良であった。St. Jude
Children's Research Hospitalのランダム化臨床試験により,頭蓋・脊髄照射による中
枢神経予防治療の必要性が明らかとなった。近年,三者髄注(メソトレキセート, シ
タラビン, プレドニン)により頭蓋・脊髄照射を外す試みがなされているが,T細胞性−
ALLとB前駆細胞性−ALLともに,治療開始前の白血球数10万以上の高リスク群に
は頭蓋照射が必要とされている 。
2)急性骨髄性白血病
急性非リンパ球性白血病(ANLL)の大半が急性骨髄性白血病(AML)である。強
力な化学療法により無病生存率の向上が得られるようになった1)。
2.病態による放射線療法の適応
一次治療の中では(A)予防的全頭蓋照射,
(B)骨髄移植の前処置としての全身照射,
(C)髄外再発病変(中枢神経・睾丸・卵巣・眼球・腎臓など)への照射がある。
(A)予防的全頭蓋照射は,寛解導入療法直後の中枢神経予防相において三者髄注と
併用して行われる。
(B)ALL二次寛解時とANLL初回寛解時にはTBIを含む強力な化学療法による前処
置後の造血幹細胞移植が有効である。
(C)初診時や再燃時に髄外病変が認められる場合,腫瘍量減量や症状緩和を目的と
して病巣に限局した放射線治療が行われる。
3.放射線治療計画
(A)予防的全頭蓋照射
1)標的体積
GTV:予防的照射であるのでGTVはない。
CTV:全頭蓋内の髄液が存在するくも膜下腔。
PTV:CTVにセットアップマージンをつけてPTVとする。中枢神経予防照射野と
しては前頭蓋窩の篩板から,網膜後部,視神経に沿うくも膜下腔を十分に含む全頭
294 小児
図1.“stepped”field(ヘルメット型)
(Yoshio Arai, MD.University of Pittsburgh Physicians 提供)
図2.矩形照射野
(両目尻にマーキングし,同部で水平ビームになることを確認)
蓋内くも膜下腔,尾側は第 2 頚椎下縁までを含む範囲とする。60Coで照射する場合
は,線量の均一性を保つため,頭蓋骨の外側 1 ㎝のマージンは取る必要がある。
2)二次元治療計画
上記のPTVを含むようにマルチリーフコリメーターもしくは低融点鉛ブロック
2)
を用いた"stepped" field(ヘルメット型)が望ましい(図1)
。こうした装置のない
施設では,簡便な矩形照射野でも注意深くシミュレーションを行えば,中枢神経再
発は 5 %以下と従来の報告と変わらない(図2)。水晶体保護の為に,眼球面で左右
水平ビームとなるように,
ガントリーを後頭部方向に約 4 ~ 5 度振ることも考慮する。
(B)TBI:TBIについては成人白血病の項目を参照すること
小児 295
(C)髄外浸潤・再発病変への照射
1)標的体積
GTV:画像診断で認められる髄外再発病巣。
CTV:進展予測範囲をとる方が良いとのエビデンスはない。
PTV: CTVにセットアップマージンをつけてPTVとする。
2)治療計画
他の小児がんの照射法に準じる。髄外白血病病変(中枢神経,睾丸,卵巣,眼球,
腎臓など)への照射時に,三次元治療計画法が有用な場合がある。
4.放射線治療
1)照射法
再現性を確保するために,シェルなどの固定具をできるだけ使用する。頭蓋照射で
は,左右対向二門照射が基本である。
2)線量分割
(A)予防的全頭蓋照射
東京小児がん治療研究委員会では,ALLの 6 歳を越える高リスク群の患児に対
しては,総線量18Gy/10〜12回/2〜3週間(1回線量は1.5~1.8Gy), 6 歳以下に
は12Gy/ 8 回/ 2 週間で治療される 。
(B)TBIは成人白血病を参照すること。
(C)髄外浸潤・再発病変への照射
ALL中枢神経再発時の二次寛解時には造血幹細胞移植療法を施行する。その際
に,中枢神経白血病をコントロールするために,TBIの前に7.5~10.5Gy/ 5 ~10
回/ 1 ~ 2 週間(1.5Gy/回)の頭蓋照射を追加する必要がある。予防的頭蓋照射後
の中枢神経再発では総線量を7.5Gyとする。
睾丸再発では,両側睾丸・副睾丸を照射野に含み,総線量24~25Gy/12~18回/
3 ~ 4 週を前方一門で照射する3)。電子線あるいは高エネルギーX線(必要なボー
ラスを使用すること)を用い,陰茎は照射野から外す。
腎臓再発の場合は15Gy/ 8 ~10回/ 2 ~ 4 週を照射し,また両側であれば腎臓
の耐容線量を考慮して6〜10Gy/ 4 ~ 7 回とし化学療法と併用する4)。
AML初診時に中枢神経白血病が認められた場合の治療線量は, 2 歳未満の患児
では20Gy/10~14回/ 2 ~ 3 週間, 2 歳以上 3 歳未満では24Gy/12~16回/ 2 ~
3 週間, 3 歳以上では30Gy/15~20回/ 3 ~ 4 週間である1)。
3)併用療法
ALLは寛解導入療法→中枢神経予防療法→初期強化療法→定期強化療法→維持療
法としての化学療法が行われる。その中枢神経予防相において,予防的全頭蓋照射が
行われる。
296 小児
5.標準的な治療成績
国立小児病院におけるALL予防照射野は矩形照射野を用いたが,中枢神経単独再
発例は 5 %であり,59例中 42例(71%)に寛解が維持されている。
欧米では,ALLは全身治療として化学療法と中枢神経再発予防治療(髄注化学療法,
または全頭蓋照射)にて60~70% が 治癒する 。
6.合併症
予防的頭蓋照射の合併症としては,成長障害と性的成熟障害,知能障害などが見ら
れており,頭蓋照射線量を24Gyから18Gyに減らすことにより成長ホルモン分泌障害
や知能障害が認められなくなってきている5)。放射線照射による脳内微小循環系の血
管内皮細胞障害が発現する前に,髄鞘(myelin)を維持する乏枝神経膠(oligoden­
drocyte)が小線量の放射線により障害を受けるので6),髄鞘化(myelinization)が急
速に進む乳幼児には特に注意せねばならない。分割線量を1.5~1.8Gyに下げたり, 1
日 2 回照射(照射間隔を 6 時間以上あける)の過分割照射法にすることにより有害反
応の発生頻度を低く抑制することができる。しかし,従来放射線治療の合併症と言わ
れていた成長障害が,化学療法やステロイド剤による有害反応でもあるとされてきて
いる。知能障害においても,18Gy頭蓋照射・メソトレキセート髄注併用群とメソト
レキセート髄注単独群とのランダム化比較試験の検討では有為差がなく,両者ともに
知能障害を半数以上に認めている7)。
予防的頭蓋照射による二次がん累積リスクは導入化学療法寛解30年後では20.9±
3.9%とされ,頭蓋照射を行わない群の0.95±0.9%よりも高いリスクである。しかし,
予後不良とされる発がんは初期の10年に認められており,遅い時期の二次がんは良性
腫瘍とされている8)。
骨髄移植療法の前処置として通常行われている分割照射のTBI(線量・分割・期間
などは成人に準じる)は 1 回照射のTBIと比べて成長障害などの障害が少なく,成長
ホルモン分泌にも影響を与えていない9)。TBIを含む強力な化学療法により溶血性尿
毒症症候群の危険性があり,TBI照射時に腎臓の遮蔽(線量を約50%に減ずる)を考
慮する。
7.参考文献
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risk for bone marrow relapse in acute myelogenous leukemia? Unexpected results of
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(国立成育医療センター放射線治療科 正木英一)
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