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今年度より、 本学部のスペイン語並びに地域文化論 担当の専任講師として着任さ
担当の専任講師として着任された、林みどり先生を紹 今年度より、本学部のスペイン語並びに地域文化論 才質と資格とをお持ちの方です。 に、研究歴、教育歴からも、専任教員として、十全の 座を担当されています。以上の経歴からお解りのよう ら、東京大学において、︿ラテンアメリカ文化論Vの講 林みどり先生 介させて戴きます。ちなみに、林先生は本学における ばなりませんが、林さんは、すでに﹃一九世紀民衆の さて、その研究歴、つまり業績について述べなけれ 最初のスペイン語専任教員でもあります。 林さんは東京のお生まれです。清泉女子大学文学部 世界﹄︵共著、青木書店、一九九三年︶、﹃文化の未来− スペイン文学スペイン語学科を御卒業後、東京外国語 大学院地域文化研究科博士後期課程を終えられて、一 七年︶を刊行されています。さらには、和文西文によ 開発と地球化のなかで考える﹄︵共著、未来社、一九九 る数多くの論文、翻訳、学会発表を行っておられます。 九九八年十月、同大学にて、博士︵学術︶号を取得さ アイレス大学付属歴史学研究所に、二年間留学してお アルゼンチンの近代化課程における言説の政治﹄に言 それでも、ここでは、博士号請求論文﹃接触と領有ー れました。大学院在籍中、アルゼンチン国立ブエノス られます。 本論はほぼ四百枚に及ぶ労作であり、恐らく、林さ 及しないわけにはいかないと思われます。 林先生はその後、京都外国語大学、フェリス女学院 大学、東京外国語大学等でスペイン語教育に携わって こられました。また、日本学術振興会特別研究員の傍 一71一 M・L噛プラット﹃帝国の眼差しー旅行記とトラン 表題の︿接触﹀と︿領有﹀ですが、前者について、 しく御寛恕願います。 誤解の面が多々あるかとは思いますが、その点はよろ 以下、何分にも門外漢のことにて、当方の不明による んの研究歴における最初の里程標となるものでしょう。 しかるに、林さんはその二として、以下のようなき 判的に鋭く検証されています。 風景を案出したり、表象の意味を改変したことが、批 分だけを選択的に取込み、しかも、旅行記とは異なる サルミエントは、国民的同一性の表象に都合のよい部 ッパ人旅行者によるテクストからの自己領有であり、 の自己領有とトランスカルチュレーションの過程にお いて、作者の物語統一化の意向に反して、それとなく、 わめて独自の論考を展開しておられます。つまり、そ 関係の内部で遭遇し、相衝突する文化的な場所︵トポ てられていますーが生じてくるのであり、それは草 テクストの内部で裂け目1σq霊コαQ①なる服飾用語が充 スカルチュレーション﹄︵一九九二年︶における異文化 ス︶と把促されています。また、後者については、自 間の︿接触領域﹀として、それが植民地主義的な支配 己の文化的な表象が構成されていく場合に、他己の表 内部の撹乱作用が浮彫りにされます。それは︿従属的 記における現地人との何気ない応答により、テクスト 原の吟遊詩人カントールの語りや、ヨーロッパ人旅行 ルゼンチンの近代化課程において、国民的同一性を確 讐δ昌﹀の訳語でもって規定されています。そして、ア 眩くような様相を、テクスト自体に即して、具体的か 行為性﹀が齎す破砕的な読解作業に他ならず、その眼 象を取込みつつ自己を表象する営為として、︿巷嘆o嘆凶・ 立するテクストとして、ラプラタの接触領域を背景と つ詳細に折出しておられます。さらにはそのような論 する、国民的作家D・F・サルミエント﹃文明と野蛮 ーファン・ファクンド・キローガの生涯ーアルゼン ブエノスアイレスの貧困層に関する衛生学、精神病理 学、犯罪学の種々のテクストの分析がなされています。 述を補強するものとして、十九世紀末から顕在化する、 本論はその主題がわが国では殆ど未聞の領域である チン共和国の自然的相視と風俗習慣﹄︵一八四五年初 本論によれば、﹃ファクンド﹄における自己領有には、 版︶が考察の対象となっています。 次のような様相が指摘されています。その一はヨーロ 一72一 にも拘らず、まことに刺激的な内容を成していて、近 その歴史叙述の興趣と脱構築的解読によって、一般読 く未来社より公刊される予定と伺っておりますので、 林さんは留学の間、空巣の被害にもめげず研究に専 者にもひろく関心を促すものと思われます。 心され、とてもタンゴに興じている暇などなかったそ うですが、今後、御研究の集大成に通進される傍ら、 あの大草原のガウチョのことなど、御教示戴けるので は、と思っている次第です。 小 副 川 明 一73一