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栄養成分表示について
第 17 回 栄養成分表示について 食品の安全性や品質を科学 的な視点で解説し、食品表 示の見方や課題、「食品表 示法」などを紹介します。 板倉 ゆか子 Itakura Yukako 消費生活アナリスト 元国民生活センター商品テスト部調査役。放送大学非常勤講師、 公益社団法人全国消費生活相談員協会関東支部食の研究会顧問。 ム (㎎) 」 は 「食塩相当量 (g) 」 で表示されるように 栄養成分表示の義務化 なり、 「飽和脂肪酸」 「食物繊維」が推奨表示とし て加わり、表示様式にも変更がありました (図) 。 食品表示法では、原則として、容器包装に入 れられたすべての一般用加工食品および一般用 また、栄養強調表示の相対表示 (表) や無添加表 の添加物に食品表示基準に基づく栄養成分表示 示のルール変更があり、 「高〇〇」 など栄養強調 を義務づけることになりました。それは、栄養 表示の基準値が変更になりました。栄養機能食 成分表示により、健康で栄養バランスがとれた 品にも、対象成分の増加等がありました。ただ 食生活を営むことの重要性を意識し、商品選択 し、事業者の規模や対象食品*1 によって、栄 に役立てることができると考えられるからで 養成分表示が義務にならない場合があります。 す。また、国際的にも、栄養成分表示を義務と 改正の内容 する方向にあります。 上記改正点を詳しく説明します。 栄養成分表示の改正点 日本食は健康に良いといわれますが、その欠 と 食品表示法の食品表示基準で定められた義務 点に食塩の摂り過ぎが挙げられます。 「平成 26 対象項目は、栄養成分(たんぱく質、脂質、炭 年国民健康・栄養調査結果の概要」 によれば、成 水化物、ナトリウム) の量および熱量です。これ 人の1日の食塩摂取量の平均値は、男性10.9g、 らは、従来は健康増進法に基づいて定められた 女性 9.2g で、日本人の食事摂取基準 (2015 年 栄養表示基準に従って任意で表示されていまし 版) における食塩摂取の目標量 (18 歳以上男性1 た。その基準が見直され、義務表示の 「ナトリウ 日 8.0g 未満、18 歳以上女性1日 7.0g未満) を 栄養成分表示 補給ができる旨の表示 食品単位あたり 熱量 たんぱく質 脂質 -飽和脂肪酸 コレステロール 炭水化物 -糖質 -糖類 -食物繊維 食塩相当量 その他の栄養成分 (ミネラル、ビタミン) 図 kcal g g g ㎎ g g g g g ㎎、µg 栄養成分表示の例 栄養強調 表示の種類 絶対表示 高い旨 相対表示 含む旨 高○○ 強調表現 ○○多 ○○豊富 の例 ○○リッチ 適切な摂取ができる旨の表示 ○○源 ○○供給 ○○含有 ○○使用 強化された旨 ○○g強化 ○○増 ○○%アップ ○○倍 絶対表示 含まない旨 無○○ ○○ゼロ ノン○○ ○○フリー 低い旨 低○○ ○○控えめ ○○ライト ダイエット 相対表示 低減された旨 ○○%カット ○○%減 ○○gオフ ○○ハーフ 該当する たんぱく質、食物繊維、ミネラル類 ( ナトリ 熱量、脂質、飽和脂肪酸、コレステロール、 糖類、ナトリウム 栄養成分 ウムを除く )、ビタミン類 表 食品表示法における栄養強調表示の種類と表現例 義務表示となっている栄養成分以外で表示しない ものについては、この様式中該当成分を省略する。 *1 食品表示基準第3条3項 2016.2 国民生活 21 食品の安全・品質と表示を考える 大きく超える状況です。さらに、アンケート*2 た、糖類とナトリウム塩 (食塩を含む)を添加し によって消費者がナトリウムから食塩相当量を ていない旨を強調する無添加強調表示について 求める計算*3のできない人が多いことが明白に は、 「いかなるナトリウム塩も添加されていな なり、国際的に主流のナトリウム表示から食塩 い」など、それぞれの要件が定められ、すべて 相当量の表示への変更が実現しました。なお、 が満たされた場合のみに行うことができるよう 食塩等のナトリウム塩を添加していない食品な になりました。 栄養機能食品の対象成分には、ビタミン K、 どでは、食塩を使っていると消費者が勘違いし カリウム*7、n-3 系脂肪酸が加わりました。 ないように「ナトリウム (食塩相当量) 」 と表示す ることができるようになりました。 栄養成分表示は活用できるか 推奨表示や任意表示の成分がどの義務表示の 栄養成分に含まれるのかが分かる表示方法に変 栄養成分の含有量表示が義務化されても、そ わりました。その結果、従来は、糖質または食 の栄養成分が 1 日の食事にどの程度の影響があ 物繊維の量を一方だけ表示すればよかったこと るのか、消費者に分かるものでなければ、有効 が、新基準では、いずれも炭水化物の内訳*4 な利用はできません。含有量が多い商品を積極 として表示しなければなりません (図) 。消費者 的に利用することで、かえって栄養成分の過剰 サイドに希望のあったトランス脂肪酸の推奨表 摂取につながる可能性もあります。しかも、栄 示については見送られました。 養成分表示は 100g 当たりで表示される場合も 栄養強調表示については (表) 、従来から「高 あれば、1食当たりや1包装当たりで表示され ○○」などの“高い旨” や 「○○源」 等の “含む旨” 、 ている場合もあるので、銘柄間を比べたり摂取 「無○○」等の“含まない旨” 「低○○」 、 などの “低 量を知るには、計算をしなければなりません。 い旨” を強調する絶対表示や、他の食品に比べて 「1食分」 についての定義がないので、 「1食分」 栄養成分の量を “強化された旨” 、 “低減された は事業者が定めた量でよいうえ、表示の最小表 旨”を強調する相対表示をする際には、栄養成 示の単位が日本食品標準成分表より大きいもの 分の含有量がそれぞれ基準値の範囲に当ては があります。また、天然の食材に含まれる成分 まっていることが必要でした。その基準値の算 値には、ばらつきが大きいので、表示値に、 「推 出に、改正された 「日本人の食事摂取基準 (2015 定値」や 「目安」という文言を加えれば、誤差の 年版) 」 が取り入れられ、栄養成分の数値が見直 許容範囲 (± 20%以内)に収める必要はありま されました。 せん。しかも、栄養成分の栄養素等表示基準値 相対表示については、従来は、対象食品と比較 に占める割合を表示する義務*8 がないものが して差の割合が小さくても“強化された旨” “低 ほとんどなので、自分の摂った量が不足してい 減された旨”の表示が可能だったので、期待す るのか、過剰なのかは、分かりにくいままです。 るほど摂取量に差が生じないことがありまし 栄養成分表示を実際の生活に役立てるために た。しかし、国際的な見直しもあり、基準値に は、さらに表示方法の改善が求められます。 加えて、比較する食品と比べて 25%以上の相 *6 “低減された旨”の相対差(25%以上)の場合、ナトリウムについ ては、その含有量を 25%以上低減することにより保存性や品質 等を保つことが困難な食品として、みそが 15%以上、しょうゆ が 20%以上とする例外が認められている。 対差*5 を必要とすることになりました*6。ま *2 「栄養表示に関する消費者読み取り等調査事業ー調査結果報告 書ー」http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1282.pdf *7 錠剤、カプセル剤等の形状の加工食品に当たっては、カリウム を除く。 *3 ナトリウム (㎎) × 2.54 ÷ 1,000 =食塩相当量(g) *4 上位の表示より1字下げるなど、内訳が分かるような表示をする。 *8 栄養機能食品の含まれる機能の表示を行う栄養成分の量の栄養 素等表示基準値に占める割合については、表示が義務化されて いる。 *5 “強化された旨”の相対差 (25%以上)は、たんぱく質および食物 繊維のみに適用。 2016.2 国民生活 22