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詩および小説の創作と性格傾向との関連

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詩および小説の創作と性格傾向との関連
 詩および小説の創作と性格傾向との関連
一自己や他者を深く見つめる姿勢という観点から一
学校教育学専攻
臨床心理学コース
M08066J
西田知加
【はじめに】
②自己不一致測定票(小平,2002)
近年,インターネットメディアの普及を背景に,個人
③自意識尺度目本語版(菅原,1984)
のホームページやプログと呼ばれる目記の中で自作の
④対人恐怖心性一自己愛傾向2次元モデル尺度(清
詩や小説を公開する人々が増加している。また,メディ
水・川邊・貝塚,2006)
アの普及以前から,中学校,高校,大学には詩や小説
⑤創作意識尺度(西田,2007)
を書くことを活動日的とする文芸部の存在が見られ,文
章を書くという行為が一部の学生の間に浸透しているこ
【結果と考察】
とがうかがえる。こうした人々は詩や小説を書こうとする
まず,創作意識尺度の再構成を行い,【空想表現
のだろうか。詩や小説の創作を自己表現の手段として
性】【自己投影性】【他者評価性】の3因子を抽出した
選択する人々には,何らかの共通する性格傾向が存
(主因子法,Promax回転)。次に,創作経験のある被調
在するのではないかと考えられる。
査者を,より詳細に分類するため,創作意識尺度の各
また,村田(2003)は,作品には書き手の内面が投影
下位尺度得点を投入変数とし,クラスター分析を試み
され,創作のプロセスには体験過程(eXperienCi㎎)的な
た。その結果,3つのクラスターを抽出し,それぞれを
要素が付与され,気づきが生じるとした。
《創作意識低群》,《創作意識高群》,《自己投影重視一
本研究においては,詩や小説の創作を行う者に共
他者評価軽視群》と名づけた。《創作意識高群》は,【空
通するであろう性格傾向を,これまでの臨床的考察な
想表現性】,【自己投影性】,【他者評価性】のすべての
どから自己愛と自意識と仮定し,これを実証的に検討
得点が高い群であり,ふと思いついた空想や,自分自
することを第一の目的とした。第二に,創作過程におけ
身の考えなど,自己の内外に深く注意を向けて作品を
る心的プロセスを,面接調査から明らかにすることを目
書き,かつ,そうした作品を他者に評価してもらいたい
的とした。
とする群である。対して,《創作意識低群》は,作品は書
くものの,自己の内外に注意を向けることがあまりなく,
【研究1】
他者からの評価も重視しない群であり,創作に対する
1)目的 創作行為を,自意識,自己愛,理想自己と
動機付けが低い群と考えられた。そして,《自己投影重
現実自己の不一致といった側面から検討する。
視一他者評価軽視群》は,詩や小説の創作において,
2)調査対象 大学生および大学院生239名(男性70
自身の思考や自己を取り巻く環境,及びそれに対して
名,女性169名),そのうち,創作経験のある者は
抱く感情などを書き表すことを重視し,他者からの評価
109名,ない者は130名であった。対象者の年齢は
は気にかけない群と特徴付けられた。
20.19±2.19歳。
創作経験の有無および創作の類型によって,各尺
3)質問紙の構成
度の得点の差異が見られるかどうかを検討するため,
①フェイスシート
性差を含めた2要因の分散分析を試みた。その結果,
年齢・性別・所属・創作経験の有無と期間・重要度
自己愛傾向,および公的・私的自意識は,創作に対す
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る意識が低い者より高い者の方が高く,自己不一致度
筆作業が進む中で【整理】される。【整理】の際には,<
は創作に対する意識が低い者の方がズレが大きい傾
出来事や感情と距離をとる〉作業と<出来事や感情を
向があることが示された。Emmons(1984)によれば,自
深める作業>が交互に繰り返され,徐々に【表現する
己愛傾向の高い者の理想自己と現実自己は,現実自
材料】が推敲され,全体像が明らかになっていく。さら
己が誇大的であるがゆえに解離しないとされている。こ
に,【表現する材料】を作品にするために必要なものと
れは,他者からの賞賛が,自己愛的な現実自己を肥大
して,【技術的要素】が挙げられる。【整理】や【技術的
化させ,また,肥大化した現実自己を維持させるために
要素】がうまく機能しないと【停滞】,すなわち,<執筆
他者からの賞賛を求めるという傾向が,《創作意識高
作業の行き詰まり>が生じる。創り上げられた作品には,
群》の創作行動の背景にあることを示唆すると思われ
<記録〉という役割があり,<作品は自分自身>との
た。
認識も生まれる。【表現する材料】が【整理】された結果,
【内的に得るもの】が現れる。また,【表現する材料】を
【研究2】
作品として他者に見せることで,【外的に得るもの】が与
1)目的 詩や小説の創作における心的プロセスを明ら
えられる。そして,【内的に得るもの】や【外的に得るも
かにし,体験過程にまつわる気づきのプロセスとの比
の】が獲得された結果,【ポジティブな力】が得られる。
較検討する。加えて,自己愛および自意識との関連に
こうした心理プロセスは,村田(2003)が示した7つの
ついても検討する。
気づきの内容と対応していることが示され,詩や小説の
2)調査対象 研究1の調査対象のうち,詩や小説の
創作には,気づきの過程が見られることが明らかになっ
創作を行ったことのある者7名(男性1名,女性6名)。
た。
年齢は19∼23歳(平均21.6歳)であった。
3)手続き 対象者の語りを妨げないようにしつつ,
詩や小説の創作に関する質問項目について尋ねると
【総合考察】
詩や小説の創作では,空想の対象や理想となる人物,
いう形で,半構造化面接を行った。
あるいは仲間への同一化が生じる。また,作品を創る
4)分析方法 木下(2003)の修正版クラウンデッド・セオ
過程では,文章表現へのこだわりなど,誇大的な自己
リーを用いた。
を維持するための努力がなされ,他者からの賞賛を求
める態度も見られた。一方で,詩や小説などの作品を
【結果と考察】
他者に見せることを巡っては,自己顕示欲求と傷つき
分析の結果,9つのカテゴリーと19の概念が生成さ
の回避とのアンビバレンスな葛藤が存在することが示
れた。以下,文章中では,カテゴリーを【】,概念を<
唆された。
>で示す。
本研究では,詩や小説を書く者の素因としての自
【作品を書く動機】には,<周囲からの影響>や<自
意識の高さが,自己への気づきを促し,現実自己と
分の欲求を満たす>や<他者からの反応を期待する〉
理想自己を近づける可能性が示された。また,こう
があり,これが詩や小説を書こうとする素因となる。実際
した理想自己と現実自己の関係性は,自己愛傾向の
に執筆作業が始まる際には,書き手の頭の中に【表現
一特性として理解された。
する材料】が浮かび,【作品を書く動機】が,これを作品
主任指導教員 岩井 圭司
として形にする作業を促進する。【表現する材料】は執
指導教員 細澤 仁
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