Comments
Description
Transcript
都市化指標生物の分布とその動態に関する調査
都 市 化 指 標 生 物 の 分 布 とその 動 態 に 関 す る調 査 平成11年度(県単) 佐野 明 近年、里山を伐開して大規模な住宅・工業団地等の造成が相次いでいる。本県四日市市桜町の鈴鹿山麓リサ ーチパーク(以下、パーク)もそのひとつであり、ここでは開発前のアセスメント調査および影響評価は行われて いるものの、開発後の野生生物相調査は行われていない。そこで、特に、都市化の指標生物の進出状況を中心 に調査した。主な調査地であるパークは 1991 年よりアカマツの優占する里山を伐開して、造成されており、 1992 年11月に竣工、建築物の棟数は増加し続けている。調査項目及び結果の概要は以下のとおりである。 1 鈴 鹿 山 麓 リサ ー チ パ ー クに お け るネ ズ ミ相 目的:1988-89年における環境現況調査(財団法人三重県環境保全事業団 1989)では調査地内ではアカネズミ およびヒメネズミの2種が確認されているが、いわゆるイエネズミ類(クマネズミ、ドブネズミおよびハツカネズミ) は確認されていない。開発にともなってこれらがすでに進出しているかどうかを確認する。 調査地および方法:調査は1999年9月20-22日 (第1回調査、2夜)および2000年3月1-3日 (第2回調査、2夜)にパ ークで行われた。2回の調査時には、パーク内の国際環境技術移転研究センター (以下、センター、1992年竣工) の厨房にカゴ罠7基および粘着トラップ8基を、センター周辺の草地にスナップトラップ15基を設置した。餌はハン ペンを用い、朝にトラップを見回った。 結果と考察:2回の調査ともセンター内厨房ではネズミ類は捕獲されず、フンなどの生活痕跡も確認できなかっ た。また、従業員への聞き取りによっても過去、食材への食害はなかったという。また、草地周辺では第1回調査 時にハツカネズミ1頭が捕獲された。第2回調査ではネズミ類は捕獲されなかった。 すなわち、イエネズミ類の中でもヒトの生活圏への依存度が最も高いクマネズミは確認されなかった。また、ハ ツカネズミはヒトの生活圏を離れて生きる個体群も知られ、開発を機に進出してきたものかどうかは不明であっ た。以上のようにネズミ相から、パークの都市化を示す根拠は得られなかった。 2 鈴 鹿 山 麓 リサ ー チ パ ー クお よび その 周 辺 地 域 にお け るアブラコウモ リの 分 布 目的:アブラコウモリは別名「イエコウモリ」とも呼ばれ、家屋など人工建築物をねぐら(日中の休息場所)とする。 本種はヒトの生活圏に顕著に適応し、過去に洞穴や樹洞内で確認された例はほとんどない。野生動物がヒトの 生活圏に適応し、繁栄する例はイエネズミ類でも知られ、ムササビやタヌキなども人家に住みつく例はまれでは ない。しかし、これらの種ではヒトの生活圏を離れて生きる個体群も知られ、種全体がヒトに依存するのは野生 哺乳類としてユニークであると言えよう。森林を伐開しての大規模な宅地開発は多くの野生動物にとっては、そ の住みかが奪われることを意味するが、アブラコウモリにとっては、新たな生息場所が提供されるという特異な 一面を持つ。従って、森林の宅地開発がアブラコウモリの分布にどのような影響を及ぼすかは興味深い問題で あるが、これまで検討されていない。そこで、四日市市および菰野町においてアブラコウモリの分布調査を行い、 特にパーク内への進出状況を把握する。 調査地および方法:調査は1999年7 月6-25日に四日市市および菰野町の45か所で行われた。各調査地点で は、夜間、ゆっくりと歩行しながら飛翔するコウモリの目撃およびエコロケーションの際に発せられる超音波の探 知に努めた。超音波の探知にはバット・ディテクター(Ultra Sound Advice Mini -3 Bat Detector 、以下、ディテクタ ーと略す)を用い、アブラコウモリのピーク周波数約 45 kHz にあわせたまま、原則として3 分間、観察者の周囲を ゆっくりと廻した。目撃されたアブラコウモリの頭数あるいはディテクターの反応回数についても記録した。また、 出巣時あるいは帰巣時にねぐらが特定された場合には、建物内におけるねぐらの位置も記録した。 結果と考察:アブラコウモリは四日市市内では調査した38か所のうち36か所で確認されたが、パークでは確認さ れなかった(図−1)。菰野町では7か所のうち2か所で確認されたのみであった。本種は四日市市の市街地には 広く分布し、家屋の密集する東部では単位時間内に確認される延べ頭数が特に多かった。菰野町では確認され た延べ頭数は少なかった。すなわち、アブラコウモリは、周囲に森林の残る山間の小規模集落より市街地に集 中して見られ、ねぐらだけでなく、採食場所としても森林に依存しない都市型の野生動物であることが改めて示 唆された。 以上のようにネズミ相およびアブラコウモリの生息状況からはパーク造成にともなう都市化の影響はうかがわ れなかった。 図−1.四日市市および菰野町におけるアブラコウモリの確認地点 ●,生息が確認された地点 ; ○,生息が確認されなかった地点