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タンパク質の「品質管理」も担う 分子シ介 ャペロンとは?

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タンパク質の「品質管理」も担う 分子シ介 ャペロンとは?
Special Features 1
細胞を防御する「ストレスタンパク質」
巻頭インタビュー
構成◉飯塚りえ composition by Rie Iizuka
京都産業大学総合生命科学部教授
永田和宏
タンパク質の「品質管理」
も担う
分子シャペロンとは?
介
添
人
私たちの体の中には、60 兆もの細胞があり、それを構成するのがタンパク質。タンパク質は「設計図た
る遺伝子が正しければ、必要なタンパク質は正しく作られ、機能を果たす」と考えられていたが、それほ
ど単純なものではなさそうだ。タンパク質がそれぞれの役割を果たすためには、変化が起きた際に修復す
るなど、正しい構造を維持するためのメンテナンスが欠かせない。その役割を担うのがストレスタンパク
質、あるいは分子シャペロン
(分子の介添え役)
と呼ばれるタンパク質である。
熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein;HSP)
ているということが分かって研究が加速し、
「熱ショッ
というものの存在がはっきりと分かったのは、1962 年、
クタンパク質」が発見されたのです。リトッサがショ
イタリアの研究者、フェルチョ・リトッサによってで
ウジョウバエにおける熱ショック応答を発見して 50
した。1930 年代から、ショウジョウバエは蛹の時に、
年目にあたるということで、過日式典があり、発見者
気候、あるいは人工的に熱が加わったりすることに
であるリトッサを交えてシンポジウムが開かれ、私も
よって羽が 4 枚になるなど、表現型が異なる個体が生
招待されました。
まれることが、経験的に知られており、リトッサは、
タンパク質が凝集すると細胞は死ぬ
熱を受けたショウジョウバエの唾液腺染色体の一部に
膨らみ
(パフ)
ができることを観察しました。その後、
最初に見つかったのが、熱によって発現するタンパ
その膨らみの部位では、非常に強いタンパク質の合成
ク質だったために熱ショックタンパク質と呼ばれるよ
が進んでいる、ある特定のタンパク質がそこで作られ
うになりましたが、研究が進むにつれ、熱だけでなく、
ヒ素、水銀、カドミウムなどの重金属や低酸素、さら
永田和宏
(ながた・かずひろ)
1947 年滋賀県生まれ。71 年京
都大学理学部物理学科卒業。森
永乳業中央研究所、米国国立癌
研究所、京都大学胸部疾患研究
所、同大学再生医科学研究所を
経て、京都産業大学総合生命科
学部初代学部長。歌人としては、
高安国世に師事し、宮中歌会始
詠進歌選者、朝日歌壇選者を務
めるなど現代歌壇の中心的存在。
著書に
『タンパク質の一生』
(岩
波新書)
、
『ストレス蛋白質−基
礎と臨床』
(中外医学社)
、
『歌
に私は泣くだらう』
(新潮社)
、
『近代秀歌』
(岩波新書)
、共編
著に『分子シャペロンによる細
胞機能制御』
(シュプリンガー・
フェアラーク東京)
など。
2
にアミノ酸類似体を取り込んだりタンパク質への糖付
加が阻害されたりといった、細胞がダメージを受ける
ようなストレス下でさまざまなタンパク質が発現する
ことが分かり、それらをストレスタンパク質と呼ぶよ
うになりました。では、熱ショックタンパク質、つま
りストレスタンパク質は具体的にどのようなふるまい
をしているのでしょうか?
タンパク質を構成するアミノ酸は、水になじみにく
い疎水性のものと、なじみやすい親水性のものがあり、
可溶性のタンパク質では親水性のアミノ酸が分子の表
面に露出しています(図 2 参照)
。正しく合成されたタ
新たに合成されたポリペプチドには分子シャペロンが結合し、正しいフォールディングに導く。正しくフォールドされたタンパク質も、熱ショッ
クなどのストレスによってタンパク質の変性が起こる。これは放置しておくと凝集体を作り、細胞死に導く。熱ショックなどによりストレスタン
パク質が誘導され、これが変性タンパク質に結合して凝集を防ぎ、シャペロン機能によって、変性したタンパク質の再生を誘導する。このように、
細胞内にはさまざまな状態のタンパク質が存在する。
図1 タンパク質の合成とフォールディング、
細胞内の品質管理
ポリペプチド
転写
DNA
翻訳
タンパク質
フォールディング
mRNA
ストレス
分子シャペロン
品質管理
分子シャペロン
フォールディング
再生
変性
秩序ある凝集体
変性タンパク質
フォールディング中間体
分子シャペロン
分子シャペロン
アミロイド
凝集体
分解途上のポリペプチド
ンパク質は安定していますが、例えば、熱が加わると
の中には、必ずしもストレス下でなくとも発現し、ス
運動エネルギーが生じ、タンパク質の結合が崩れ、疎
トレスタンパク質のようなふるまいをするものがある
水性のアミノ酸が露出してしまいます。疎水性は水を
ことが分かってきました。後述しますが、これは「分
嫌うことですから、水から離れようと、ほどけたタン
子シャペロン」
と呼ばれるタンパク質です。
「シャペロ
パク質の疎水性アミノ酸同士が結合してしまうことが
ン」とは、フランス語で、社交界デビューをする女性
あります。こうしてタンパク質の凝集体ができてしま
に付き添う介添人の意味があります。この分子シャペ
います。
ロンも、タンパク質に対して介添え役をしているとい
この現象は卵に例えられます。生卵は正しい構造を
うことなのです。
とってタンパク質が水に溶けている状態ですが、熱を
まずはタンパク質の合成から説明しましょう。
加えるとゆで卵になります。これが、タンパク質が凝
タンパク質は、遺伝子の設計図に従ってアミノ酸を
集している状態です。細胞の中でタンパク質が凝集し
配列すれば自然にその形ができあがると思われている
てしまうと、細胞は死んでしまいます。それでは困り
かもしれません。事実、1963 年アンフィンゼンが、
「ア
ますから、この凝集を防ぐため、 HSP が疎水性のア
ミノ酸の配列が決定すればタンパク質の立体構造も決
ミノ酸にマスクをして、他と結合しないようにするの
まる」という論文を記し、1972 年にはノーベル化学賞
です。
を受賞しています。ところが実際の細胞の中では、そ
さらに、研究を進めると、そのストレスタンパク質
うではありませんでした。
3
タンパク質のフォールディングの基本は、疎水性のアミノ酸を分子の
内側に折り畳み、親水性のアミノ酸を分子の表面に露出すること。そ
うすることによって、可溶性タンパク質は安定する。
図2 疎水性アミノ酸は分子の内側へ
というタンパク質のサブユニットがアッセンブルされ
親水性
フォールディング
疎水性
ポリペプチド
アミノ酸の鎖
タンパク質
疎水性アミノ酸は分子の
内部に折り畳まれる
タンパク質は、まず疎水性と親水性のアミノ酸がバ
て一つの機能を持つタンパク質がありますが、そのサ
ブユニットのアッセンブルに必要なシャペロンがあり
ます。
また、シグナル伝達に必要なシャペロンというのも
あります。例えばある種のレセプターでは適当なホル
モンが来ると、遺伝子を発現させますが、その時その
ホルモンが来るまでシャペロンがレセプターに
「蓋」
を
して、核に行かないようにするという役割もあります。
ラバラに存在する 1 本のポリペプチドとして作られま
もう一つは、タンパク質の細胞内の輸送にも大きな
す。それが、疎水性の部分がなるべく水に接すること
役割を果たしています。例えばミトコンドリアの中に
のないよう折り畳まれながら、それぞれしかるべき構
タンパク質が輸送されるためには、ミトコンドリアの
造に折り畳まれます。
「フォールディング」
と呼ばれる
膜を通るのですが、ここでも HSP70 などのシャペロ
もので、こうして初めてタンパク質の構造ができあが
ンが仕事をしています。膜を通った後、ミトコンドリ
ります。しかし先述の熱ストレスの時と同様、できた
アの中にどう入るのか、この点にはいろいろな論争が
ばかりのポリペプチドもまた疎水性の部分が露出した
ありましたが、要は分子運動で少しずつ行き来してい
不安定な状態なので、安定しようと、例えば隣のポリ
るポリペプチドの端をミトコンドリアの中にいるシャ
ペプチドと容易に結合しようとします。そこでポリペ
ペロンがピッと捕まえる。そしてまた動いているポリ
プチドが凝集などを起こさず正しくフォールディング
ペプチドを別のシャペロンが捕まえて、逆戻りしない
するように導く役目を分子シャペロンが担っているの
ようにしながら、結果的に中に取り込むようです。こ
です
(図 2 参照)
。
の働きがないとミトコンドリアの中にポリペプチドが
さまざまな役割を演じる分子シャペロン
入っていきません。
さらに分子シャペロンは、タンパク質の分解にも関
分子シャペロンは、疎水性のアミノ酸に特異的に結
わっています。例えば p97 というシャペロンは、変異
合する性質があり、疎水的なアミノ酸が露出してし
などを起こして、どうしても修正できない小胞体内の
まったような変性したタンパク質と結合して、ATP
変性タンパク質を、小胞体の孔からサイトゾルへ引き
(アデノシン三リン酸)
のエネルギーを使いながら、変
出して分解に導くといった働きをします。
性したタンパク質をもう一度再生させる能力も持って
タンパク質の構造を保持するのに、重要な役割を担
います。ある分子シャペロンなどは凝集したタンパク
うシャペロンですが、シャペロンのふるまいはさまざ
質を再生させる能力も持つ、これはすなわちゆで卵を
まです。
生卵に戻すことができるというわけです。
4
まずタンパク質の中には、A というタンパク質と B
例えばフォールディングをとっても、大きく分けて
新生タンパク質のフォールディングを助ける役割を
3 種類ほどの方法があります。まず HSP70 のように
持ったタンパク質を分子シャペロンと呼び、一度作ら
くっついたり離れたりしながら、ポリペプチドが構造
れたタンパク質がストレスなどによってミスフォール
を作っていくのを助ける方法。2 つ目に GroEL などは、
ドしたものを正しくフォールドし直すものをストレス
複数の分子が集まって、空洞を作り、その中にポリペ
タンパク質、あるいは熱ショックタンパク質( HSP)
プチドを入れて、これが つき機のようにポリペプチ
と分類されますが、基本的にはどちらも同じものと考
ドをフォールディングさせていく方法があります。凝
えていいでしょう。分子シャペロンの役割は、この他
集したタンパク質をほぐして再生する時に登場するリ
にもいくつかあります。
ング型のシャペロンは、絡んで凝集したポリペプチド
Special Features 1
細胞を防御する「ストレスタンパク質」
図3 HSP47遺伝子を軟骨で破壊したマウスの骨格標本
それを基に作られたタンパク質が
a
きちんと機能を果たさなくては生
b
体が成り立たないことが分かりま
す。そしてタンパク質が正しく働
くためには、合成の時にフォール
ディングを助けたり、細胞の中で
ひっきりなしに起きているタンパ
WT
HSP47 cKO
HSP47(コラーゲン特異的分子シャペロン)の遺伝子を、軟骨組織でだけ破壊すると、マウ
スはⅡ型コラーゲンを作れず、結果的に骨無しマウスになって死んでしまう。左が正常マウ
ス、右がノックアウトマウス。
ク質の変性・凝集を修理したり、
さらには、寿命がきたりして変性
が進んだタンパク質は分解したり
といった作業が必要なのです。で
すからタンパク質というのは作る
の端をつまんで、自身の孔に通しながら凝集をほぐし
だけではなくて、その品質管理をしていかなくてはい
絡んだ糸を元の 1 本の糸にもどすようなふるまいをし
けないということが、非常に重要なテーマになってい
ます。
るのです。
シャペロンはバクテリアにも見られるので、ふるま
従来は、DNA 情報がメッセンジャー RNA に行って、
いの違いに進化的な差異が影響しているわけではなさ
それがポリペプチドに翻訳されれば、自動的にフォー
そうですが、私が発見した HSP47 は、コラーゲンに
ルディングされてタンパク質が機能すると考えられて
特異的に働く、比較的新しいシャペロンで、バクテリ
いました。タンパク質は何百という種類がありますが、
アにはありません。これはシャペロンの中でも、かな
医療関係者の中にも、タンパク質は皆それぞれきちん
り高度な機能を持ったものと思われます。
とした構造を持ち、機能を持っていると思っておられ
HSP47 の発見当時は、一般にシャペロンはどんな
る方が多いでしょう。ところが、細胞の中にあるタン
タンパク質にも結合して、フォールディングを助ける
パク質というのは、本当にさまざまな状態で存在して
ものだと考えられていました。そのためある特殊な基
いるのです。合成途上のものから、フォールディング
質だけを認識するシャペロンという概念がなかったの
しつつあるもの、正しい構造を獲得したものや、変性
で、世界中のいろいろな学会に招かれて講演をしたも
したもの、あるいは凝集を作ってしまったもの、そし
のの、理解してもらうのにはずいぶん時間がかかりま
て分解されようとしているものまで、さまざまです。
した。最終的には、この HSP47 をノックアウトすると、
ですから、正しい状態のタンパク質だけを見ているの
コラーゲンができなくなるという実験結果を報告して、
では、生体を理解したことになりません。そしてこの
ようやくコラーゲンに特異的な分子シャペロンの存在
さまざまな状態を、シャペロンが監視し、管理してい
が認められるようになりました。基質特異的なシャペ
るのです
(図 1 参照)
。
ロンの第 1 号だと思います。そうやっていったん認め
シャペロンの品質管理破綻による疾病
られると、そうしたシャペロンの存在もあるのだ、と
いうことで、いろいろな基質特異的なシャペロンの発
こうしたシャペロンの品質管理が破綻すると、アル
見が続いたというわけです(図 3 参照)
。現在、コシャ
ツハイマー病やプリオン病、ハンチントン病などのポ
ペロンを含むと分子シャペロンとしては 100 種類は超
リグルタミン病などが起きてくるのです。プリオン病
えているでしょうし、メジャーなシャペロンでも数十
は遺伝病とは言えませんが、ハンチントン病やパーキ
種類が発見されています。
ンソン病、他にも家族性の遺伝病と言われるものも多
私が今、最も注目しているのが、タンパク質の品質
管理です。先に見たように、遺伝子は設計図であって、
くあります。
遺伝病の従来の概念は、ある特定の遺伝子に変異が
5
図4 ラット脳虚血とストレスタンパク質誘導に
よる虚血耐性
A
かってきて、遺伝病の概念が変わってきたのです。
ハンチントン病では、ハンチンチンという遺伝子に
変異が起こるのですが、この遺伝子の機能自体とは関
係なく、ハンチンチンのタンパク質が凝集体を作って
しまい、その結果、細胞死が起こって神経細胞が脱落
し、ハンチントン病という病気を発症するのです。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病、アル
ツハイマー病などとともに、こうした神経変性疾患は
ほとんど、タンパク質が凝集することによって起こる
B
疾患だということが分かってきました。つまり機能が
失われるのが遺伝病だと考えられていたものが、凝集
体を作り、新たに毒性を獲得するという形の遺伝病も
あることが分かってきたわけで、だからこそ、タンパ
ク質の品質管理が非常に重要になってくるのです。
ストレスタンパク質としての挙動にも興味深いもの
があります。例えば虚血における耐性にはストレスタ
ンパク質が関与しています。ラットで、人工的に脳梗
塞を起こす実験を行いました。 30 分ほど血流を止め
C
る
(虚血)
だけで、ラットの海馬領域の神経細胞は再還
流後 7 日後にはほとんどなくなってしまいました。と
ころが 30 分の虚血の 2 日前に、5 分ほど虚血を起こし、
2 日後に 30 分の虚血をしたラットの 7 日後の脳には、
ほとんど梗塞が起こらず、正常な海馬と同じ状態が保
たれていました。
この違いは、5 分間という穏やかな虚血を経験した
ことでストレスタンパク質が大量に作られたことに
A:正常ラットの海馬領域。B:30 分虚血後、再還流し、7 日後の
脱落が見られる。C:
海馬領域。A に比べて明らかな神経細胞の死滅、
B の処理の 2 日前に 5 分だけ虚血し、再還流 2 日。その後は B と同
じ処理。30 分虚血しているにもかかわらず、B のような神経細胞
の脱落は見られない。これは 5 分虚血によってストレスタンパク質
が誘導され、強いストレスに対する耐性を獲得したためである。
よって生じたものです。いきなり強いストレスのか
かった細胞は死んでしまいますが、一度弱いストレス
を経験すると、その際にストレスタンパク質が大量に
作られて、いわば細胞がストレスを受け止められる状
態になるということなのです。これを
「虚血耐性」
とい
います
(図 4 参照)
。
6
起こって、その遺伝子が働けなくなることが原因とさ
またプロテオスタシス
(タンパク質の恒常性)
が乱れ
れていました。例えばフェニルケトン尿症はフェニル
ることが、老化の原因の一つであるという研究が、今、
アラニンからチロシンを作る遺伝子に欠損がある、つ
盛んに行われています。変性したタンパク質が蓄積さ
まり当該のタンパク質が機能を失っているため、フェ
れ、それを分解処理する能力が衰えてくる、またスト
ニルアラニンが蓄積していく病気です。ところが、そ
レスタンパク質の誘導が減弱していくことによって細
うしたタンパク質本来の機能には関係なく、タンパク
胞死が進み、老化につながるとされています。その機
質がミスフォールドし、その結果、有害な機能を獲得
能を回復させるためにストレスタンパク質を誘導し、
してしまうことが原因になっている病気もあると分
老化を防いで寿命を延ばせないかということです。線
Special Features 1
細胞を防御する「ストレスタンパク質」
小胞体で合成されたタンパク質は、カルネキシンなどの分子シャペロンによってフォールディングす
るが、もし遺伝子変異などによってタンパク質がうまくフォールディングできない時は、分解しない
と、小胞体で凝集体を作ってしまう。分解のためには、変性タンパク質を見分ける因子(EDEM, 永田
、分子シャ
研究室で発見された分子)
とジスルフィド結合を切断する因子
(ER d j 5、同研究室で発見)
ペロン BiP が共同して、変性タンパク質を 1 本のポリペプチドにまでほぐし、膜にあいた孔からサイ
トゾルへ逆輸送して、タンパク分解機能
(プロテアソーム)
によって分解する。
図5 小胞体におけるタンパク質の品質管理(変性タンパク質の分解)
S S
Glc1Man9
PDI
ジスルフィド
結合の異性化
マンノーストリミング
ものもあるなど、何日から何
「ストレス応答」
。これは何秒
S
進化は、種や属を守るシス
テムであって個は守りません。
SH
SH
SH
免疫は個体を守ろうとして、
ERAD超分子複合体
EDEM
SH
プロテアソーム BiP
ADP
内腔
ER 多くの細胞ネットワークを
使って、一つの個体が死なな
SH
S
S
S
SH
SH
働き始めます。
EDEM
ERdj5
BiP
から何時間というオーダーで
Man8
ジスルフィド結合の還元
ATP
Hosokawa et al.,EMBO Reports 2001
Oda et al.,
Science 2003
Hosokawa et al.,Genes. Cells 2006
Oda et al.,
J. Cell Biol. 2006
Ushioda et al. Science 2008
Hagiwara et al. Mol. Cell 2011
年とか、あるいは一生涯続く
そして一番速く反応するのが
Calnexin
S
S
凝集体形成
何日とか、一度成立したら何
て生体を防御しているのです。
ERp57
S
S
Man9
のが
「免疫」
。成立するまでに
年、何十年のオーダーで働い
S
SH
S
化」です。次にスパンが長い
Dislocon
p97
サイトゾル
い よ う に し ま す。 そ し て
HSP が担うストレス応答は、
1 個 1 個の細胞を死なせない
ように奮闘しているわけです。
それぞれのシステムでは遺
虫を使った研究では、老化と HSP についてはかなり
伝子の使い方も違います。進化においては、基本的に
はっきりとしたデータが出ていて、論文もたくさん出
遺伝子に突然変異が起こって、環境への適応能力が高
ています。
くなったものが生き残っていきます。変異が起こるの
生物は複数の防御システムを用意している
はランダムですが、何万の個体を犠牲にしても、その
中の一つが生き残ればいい、というのが進化なのです。
私自身は、タンパク質の合成に重要な役割を果たす
免疫は、基本的には遺伝子の組み換えがキーになって
小胞体の中で、ミスフォールドしたタンパク質が蓄積
います。つまり、有限の遺伝子の数で無限の外敵因子
した際、どのように分解処理されるか、そのメカニズ
に対応するために、持っている道具を組み合わせて何
ム を 研 究 し て お り、EDEM と い う タ ン パ ク 質 と
万通りもの武器を作り、外敵と闘うのです。
ERdj5 という還元酵素を発見しました。EDEM は変
そして最もミクロな、1 個のレベルでの細胞の生存
性したタンパク質を見分けて、分解へまわすのに重要
を守ろうとしているのがストレスタンパク質やシャペ
な役割を果たしていますし、EDEM によって分解系
ロンです。これは素早い反応によって細胞レベルでの
へまわされた基質のジスルフィド結合を還元、開裂す
防御反応を形成しますので、遺伝子発現のレベルで調
ることによってポリペプチドの構造を壊し、1 本のポリ
節されています。三つの適応防御反応は、時間も、守
ペプチドとして分解されやすくしているのです(図 5
ろうとする対象も、ストラテジーや手段もまったく違
参照)
。
います。細胞の品質管理というのは、こうしたいくつ
私は、大学の講義などでも生体が環境に応答または、
適応する方法には、三つあると言っています。そのう
もの防御システムの中で、1 秒間に数万個生産される
タンパク質一つひとつを守ろうという仕組みなのです。
ち一番スパンの長い、何万年、何億年かかるものが
「進
(図版提供:永田和宏)
7
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