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薬物性肝障害について

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薬物性肝障害について
病薬アワー
2013 年 2 月 18 日放送
企画協力:社団法人 日本病院薬剤師会
協
賛:MSD 株式会社
薬物性肝障害について
慶應義塾大学薬学部
教授
齋藤 英胤
●薬物性肝障害の診断基準は検討中●
今日は、薬物性肝障害についてお話します。
経口薬は、消化管から吸収され、門脈を介して高濃度に肝臓へ集積します。肝臓は、酸
化、還元、水酸化、脱メチル化、抱合などの反応を通して、薬物を代謝する重要な臓器で
すが、それゆえに薬物の影響を受けやすいのも事実です。
薬物性肝障害は、血清AST、ALTなどが上昇する肝細胞障害型と、ALP、γGTなど胆道系
酵素の上昇や黄疸を主とする胆汁うっ滞型、それらの混合型の3つに分類されます。また、
障害の機序から、アセトアミノフェンに代表される容量依存性の直接障害型と、アレルギ
ー機序による障害に分けられますが、わが国の現状では、それぞれ、肝細胞傷害型、アレ
ルギー機序型が多く報告されています。直接障害では、多くの場合、薬物代謝過程で生ず
る中間代謝産物が、活性酸素などを発生して細胞障害を来します。アレルギー機序では、
多くの場合、薬物の一部がからだの蛋白などと結合してハプテンとして免疫反応が生じ、
サイトカインなどにより細胞のミトコンドリア障害を来す過程が想定されています。
薬物性肝障害が疑われる症例は、日常多く見受けられますが、それが本当に薬物による
ものかを証明する方法は、残念ながらいまのところこれぞというものがありません。診断
には、古くは1978年「薬物と肝研究会」から提案された診断基準に始まります。1993年に
なりますと、海外で国際コンセンサス会議が開かれ、急性薬物性肝障害の診断基準が提唱
されました。これには、発病までの投与期間や経過、危険因子などに0から2点をつけて、
その点の合計点で診断するスコアリングシステムが採用されており、現在わが国で主に使
われている2004年DDW-Jワークショップで滝田らにより提唱されたスコアリング作成のも
ととなりました。わが国のスコアリングには皮疹の項目がなく、薬剤に免疫学的に感作さ
れたリンパ球の存在を調べるリンパ球薬物刺激試験(DLST)が点数に含まれていますが、
漢方薬ではDLSTの擬陽性が出やすいなど問題点もあり、今後診断基準をどうするかは未解
決の課題であります。国際的にも診断ガイドラインなどはいまだになく、薬物性肝障害の
理解はまだ不十分であるのが現状です。そこで、アメリカではNIHが主導を取り、全国で発
症した症例を集めて今後の解析をするためにdrug-induced liver injury network(DILIN)が2004
年からスタートしています。
●薬剤師は肝障害頻度の高い薬剤が処方された際には注意を促す●
さて、わが国の現状を見てみましょう。1990年代後半に為田らのまとめた全国集計をみ
ますと、薬物性肝障害の報告は1年間におよそ200~300例でした。しかし今日、日常、肝
障害で他科から肝臓内科に紹介される患者には、既に相当長いことALT値が上昇していたに
もかかわらず、何の対策もとられていなかった患者に遭遇することも少なくありません。
特に抗がん剤に多く認められますが、医師側では、
「この薬ではこの程度の肝障害は出て当
然」と考え軽視するケースもあり、数字に表されない肝障害の母集団は大変大きいと想像
されます。
昨年、日本肝臓学会東部会で「薬物性肝障害の特別ポスターセッション」が開催され、
全国23施設から患者集計など報告されましたので、わが国の最新の状況と考え、私なりに
発表をまとめました。施設間でだいぶ異なりますが起因薬物が判明しているものが346例で、
原因薬物としては、多い順に抗菌・抗生物質、循環器用薬、精神科用薬がそれぞれ15%程
度、漢方薬、NSAIDs、健康食品・OTC薬がそれぞれ10%前後、それに続いて消化器病薬、
代謝疾患薬、抗腫瘍薬でした。すなわち、どの薬も肝障害を来すことがわかります。
薬物性肝障害は血液データ以外、特定の症状がございませんので、患者や医師が気付く
まで相当長い期間かかる例もあり、重症になってから気付く例もあります。日常診療では、
発症頻度の高い薬物や、添付文書に特に肝障害の注意があるものは、投与後、数週間した
ところで、採血して肝障害の有無をチェックすることが必要でしょう。発症までの投与期
間は30日以内が50%と報告されていますので、薬剤師としては肝障害頻度の高い薬が処方
されたら、患者側だけでなく、医師側へも注意喚起ができるとよいでしょう。なかなか処
方医へ「採血してみてください」とまで要求しにくいと思いますが、そのためにも、日頃
から良好な信頼関係を築いておくことが必要だと思います。
薬物性肝障害で最も怖いのが劇症化であります。劇症肝炎は、急激に肝機能が低下して
1週間ほどで、肝性脳症などの意識障害を来す致命率の高い肝障害です。持田らによる厚
労省班会議の報告では、最近6年間の劇症肝炎600例のうち薬物性と考えられるのが80例
(13%)で、原因薬物としては、多い順に抗結核薬、抗生物質、抗腫瘍薬、漢方薬でした。
80例のうち40例が劇症肝炎のなかでも重症である亜急性型、6例がさらに重症なLOHFとい
う病型でした。これらの病型は救命率が低く、肝移植も考慮しなければなりませんので、
早めに肝臓専門医のいる高度医療機関へ紹介されるべきです。
近年、話題になりましたように、健康食品や漢方製剤、さらにサプリメント、OTC薬な
ど薬局で市販されている薬剤の報告が増えています。私どもが経験したのは肥満解消のた
めの漢方製剤でした。インターネットなどで購入し数カ月服用したところで、黄疸に気付
くのですが、当時、重症肝障害が多数発症しました。劇症型の経過をとることも多く、一
部は救命のために移植が必要でした。薬物性肝障害の約半数は、薬物の中止だけで改善し
ますが、漢方製剤や健康食品などでは、投与開始から発症までの期間も長く、さらに中止
しても改善しない症例が比較的多く認められます。さらに一度軽快したかに見えても、油
断するとまた悪化するものもあり、長期にわたる経過観察が必要です。
厚生労働省のホームページには、いわゆる健康食品による健康被害情報が出ています。
時々チェックすべきでしょう。現在、アマメシバ、D-ソルビトール、コンフリーなどが挙
げられています。また、うこん、アガリスク、ミツバチ花粉、カヴァ、ブルーベリーなど
の報告も出ていますので、薬局での販売に注意が必要ですし、このような食品を食べてい
ないか聞いてみる必要があります。
●薬物性肝障害の治療と高齢者への服薬指導のポイント●
薬物性肝障害の治療には通常、ウルソデオキシコール酸の投与、さらに重症になればス
テロイド投与が基本となります。劇症型となれば、血液濾過透析や血漿交換などの人工肝
補助療法を行いますが、先ほどのケースのように最終的に肝移植が必要な症例もあります。
先ほど述べたようにアメリカではDILINというネットワークを作り、症例を国家的に集積
しています。同じ薬物を投与されても肝障害を起こす人と起こさない人に分けられますが、
障害を起こす人と起こさない人で遺伝子に差がないかを次世代遺伝子解析装置GWASを用
いて解析が進んでいます。その結果、CYPやGlutathione S-transferaseなどの薬物代謝酵素遺
伝子、HLA-DR、DQ遺伝子、Interleukin遺伝子、胆汁排泄にかかわるトランスポーターMRP2、
BSEP遺伝子などが見つかっています。肝障害が薬物代謝、免疫反応、胆汁排泄と深いかか
わりがあることがこの結果からもわかります。報告ではフルクロキサシリンという抗生剤
では、HLA-B*5701の変異により、驚くことにオッズ比80.6倍という結果が計算されていま
す。よって将来、薬物投与の際にはあらかじめ遺伝子診断をして、肝障害の危険性を確か
めてから治療に取りかかる時代がくることが理想ですが、まだまだ実現には遠いと思われ
ます。
近年、高齢化に伴い、多疾患に罹患し、極めて多くの処方をされる傾向にあります。多
剤の使用により、薬物相互反応も生じやすく、肝障害を起こしやすい環境にあります。本
来は、1人の処方薬情報が一つに統合されて呈示されるべきで、そのためにいわゆる「お
薬手帳」はたいへん良いのですが、高齢者では多数の医療機関にかかっていることも多く、
院内処方をされていたりして、
「お薬手帳」に記載されていない投薬もあることに気を付け
なければなりません。また、
「何々の症状にはこの薬がいいから」と友人から言われて、自
分の疾患に適合しないにもかかわらず、簡単にもらって服薬してしまうのも問題です。ま
た、友人に勧められて医療機関を簡単に渡り歩く方も見受けられます。こうなると、薬歴、
副作用歴も分断してしまいます。さらに漢方薬には副作用はないという迷信をお持ちの方
もいますし、多くのサプリメントを同時に飲んでいる人もいます。このような高齢者のラ
イフスタイルには特に気を付けて、服薬指導をすべきでしょう。
本日は、わが国における薬物性肝障害の最近の状況をご紹介し、薬剤師の注意すべき点
についてもお話しました。
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