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最新 ハイブリッド証券の仕組みがよ~くわかる本
Book Review 最新 ハイブリッド証券の仕組みがよ~くわかる本 ハイブリッド証券とは、概略すれば普通株式と負債の中間的なもの、 両者の特徴を織り交ぜた証券のことであり、日本においては、80 年代 に普及した転換社債(CB)や新株予約権付社債などが初期の代表例 とみることができるが、実質的には、優先株や MSCB 等に代表される 種類株、優先劣後構造に基づく劣後ローン・劣後債など、2000 年代 前半における資金調達手段の多様化の過程にその本格的な登場をみる ことができる。当然、不動産証券化における SPC を活用した優先出 資証券等もこの系譜の一群に位置づけられるものといえよう。 本書では、普通株式と負債の中間であるハイブリッド証券について、 満期償還や元本返済の条件、利息配当や残余財産請求権の優先劣後 設定、株主総会議決権や有限責任性等の特徴を踏まえ、その利用目 的や登場の背景の要点について分り易い説明がなされている。 金融・資本市場のグローバル化や金融技術の革新、投資家の利回り や安全性追求の高度化、複雑化する企業経営における資金調達ニー ズの多様化などを背景に、ハイブリッド証券は、普通株式発行と負債 編 著 発行所 発行年 定 価 伊藤信雄 秀和システム 2010 年 12 月 本体 2,100 円(税込) 調達のそれぞれの短所を回避した資金調達対応をその利用目的として、 株主価値の希薄化回避や新旧株主の権利保全に留意した資本調達、 格付維持や財務健全性に留意した自己資本計上可能な資金調達、DE レシオに留意した負債調達、企業再生・M & A・事業承継等における ファイナンススキーム、買収防衛プラン等の様々な場面において活用されている。具体的には、優先株や劣後債・劣後ローン、 期限前償還条項付無担保社債、海外 SPC を活用した優先出資証券、全部取得条項付種類株式などがそれである。 ハイブリッド証券における投資家のリスク・リターンとしては、一般的な社債・ローン債権よりも信用リスク・価格変動リスク ・ 流動性リスクが高いことが通常であり、高利息や優先配当の場合に残余財産等の弁済順位は低くデフォルト時の影響が高 いほか、財務コベナンツ抵触に伴う利払停止の可能性もある。また発行体が上場企業で普通株式への転換権が付与され る場合に、株価上昇時の転換権行使で投資家利益を高める可能性がある一方、株価によってはオプション価値がほぼゼロ となる可能性もある。企業再生でのハイブリッド証券(メザニン)において多く付与される新株予約権も上場時売却益の獲 得の可能性がある一方、市場が無いことから流動性が低く、商品の複雑性と個別性から転売困難もしくは売却できても大 幅ディスカウントとなる可能性がある。 これらのハイブリッド証券は、2000 年代前半における資金調達手段の多様化の過程にその本格的な登場をみるのであ るが、その前提としては、本書での説明にもあるように、バブル崩壊後の 90 年代後半の日本の金融・資本市場の機能不 全期において、不振企業のハイイールド債や LBO ファイナンスなど米国発のハイブリッド証券を活用した不良債権投資や企 業再生手法が外資系ファンドや投資銀行から持ち込まれ、加えて、日本版金融ビッグバン、SPC 法やファンド法制等の証 券化の普及、DES 活用や倒産法制の改革、上場企業の増加、商法改正と新会社法施行等により、種類株や多様な社債 発行など複雑なハイブリッド証券の普及を後押ししてきた側面が大きいといえよう。 世界的に資産運用の利回りが低下する中では、魅力的な収益率を目指したり、ポートフォリオの多様化の過程でハイブリッ ド証券が投資対象の一部に組み込まれている状況にはあるものの、リーマンショックと世界金融危機の経験を踏まえた金 融・資本市場、及び企業の資金調達姿勢においてディレバレッジが論議される昨今、ハイブリッド証券の進化と展開にど のような影響を及ぼしてくるのか、今後の気になるところではある。 岸 礼光 (ARES マスター M0700883) 105 ARES53.indb 105 11.12.5 5:28:28 PM